JP4007892B2 - ガスセンサ素子及びこれを用いたガスセンサ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はガスセンサ素子及びガスセンサに関する。更に詳しくは、新規な構造のガスセンサ素子及びこれを備えるガスセンサに関する。本発明のガスセンサ素子及びガスセンサは、全領域空燃比センサ(内燃機関の空燃比を全領域にわたって測定できるセンサ)、窒素酸化物ガスセンサ、可燃性ガスセンサ(一酸化炭素及び炭化水素ガス等を測定できるセンサ)及び複合ガスセンサ(酸素、窒素酸化物、一酸化炭素及び炭化水素ガス等のうちの複数の気体を測定できるセンサ)等として好適である。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の内燃機関から排出される排気ガス中の有害物質(例えば、炭化水素ガス、一酸化炭素、窒素酸化物等)の排出量には、公害等の問題から厳しい規制が設けられ、その規制は年々厳しくなっている。また、地球温暖化等の問題から二酸化炭素の排出量を削減する必要が生じており、内燃機関で使用される燃料を更に削減できる方法が緊急に必要とされている。
こうした中、排気ガスの有害物質を削減し、燃料効率を向上させる上で欠かせないガスセンサへの要求も更に厳しいものとなり、高性能及び高信頼性に加えて、近年特に早期活性ができ、省電力であるガスセンサが要求されている。また、有害成分自体を直接感知できる一酸化炭素ガスセンサや窒素酸化物ガスセンサ等も注目されている。
【0003】
自動車等の内燃機関の空燃比を全領域にわたって測定でき、内燃機関の省燃費を可能にするガスセンサ素子として、一対の電極を固体電解質上に設けた酸素ポンプセルと、同構造の酸素検出セルとを備える2セル型のガスセンサ素子が下記特許文献1や下記特許文献2等に開示されている。この種のガスセンサ素子では、酸素イオン等のイオンを固体電解質層内で移動させることを要する。このため、固体電解質層を加熱する発熱抵抗体をセルの近傍に配置し、例えば、酸素ポンプセルは700℃以上の温度に正確に加熱保持する必要がある。しかし、固体電解質を構成するセラミック材料は一般に熱伝導性が低く、加熱昇温させ、特に早期活性を行う上では効率的ではない。また、価格の高いジルコニア原料を多く用いる必要があるためガスセンサの価格が高く、優れた性能を発揮できるにも関わらず使用される範囲が限られてしまっている。
尚、下記特許文献3及び4には、ジルコニア質セラミックスとアルミナ質セラミックスとを同時に焼成するための技術が開示されている。更に、下記特許文献5にはマイグレーションを防止するための技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】
特開昭62−148849号公報
【特許文献2】
特開平11−14594号公報
【特許文献3】
特開2001−232420号公報
【特許文献4】
特開2000−292406号公報
【特許文献5】
特開昭62−44971号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記の問題のうち、加熱効率を向上させることができるガスセンサ素子として、発熱抵抗体を熱伝導性に優れるアルミナを主成分とするセラミック体内に埋設した基体を、ガスセンサ素子に配設するという技術が上記特許文献2等で開示されている。しかし、このガスセンサ素子は、基体にアルミナを用いるため、固体電解質層材料として多用されるジルコニアと大きな熱膨張差があり、実際には基体と固体電解質層とを一体に焼成して接合しようとすると、固体電解質層にクラックや割れを生じるという問題がある。このため、市場に展開されるには至っていない。
【0006】
本発明は、上記問題をも解決できるものであり、強度的に優れた形状であり、早期始動性に優れ、正確な測定を行うことができ、更には、低消費電力のガスセンサ素子を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明のガスセンサ素子は、絶縁性セラミック体及び該絶縁性セラミック体の表面又は内部に形成された発熱抵抗体を備える絶縁性基部と、該絶縁性基部上に直接的又は他部材を介して間接的に接合され、且つ固体電解質層及び該固体電解質層の表面に接して形成された一対の電極を備える1つ以上の酸素ポンプセル及び1つ以上の酸素検出セルとを備えるガスセンサ素子において、
上記絶縁性セラミック体はアルミナを主成分とし、被測定ガスを導入するための律速導入部を有する拡散室形成部材により区画形成された拡散室を備え、且つ少なくとも1つの上記酸素ポンプセル及び少なくとも1つの上記酸素検出セルが備える各々の一方の電極は該拡散室内の一内壁面側に配置されており、上記酸素ポンプセルのうちの少なくともいずれかは、該酸素ポンプセルが備える上記一対の電極の両方を、該酸素ポンプセルを構成する上記固体電解質層の一面側に備え、更に、該一対の電極間に、一端側が該固体電解質層の表面に接合され且つアルミナを主成分とする隔壁を備えることを特徴とする。
【0008】
更に、上記拡散室形成部材は、アルミナを主成分とすることができる。また、上記隔壁は、上記拡散室形成部材の一部を構成することができる。更に、一体に焼成されたものとすることができる。また、上記隔壁のうち上記酸素ポンプセルを構成する上記固体電解質層との接合面から該隔壁の内部方向へ20μmまでを隔壁側接合部とした場合に、該隔壁側接合部に含有されるアルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及びケイ素成分は、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素及びケイ素元素の各々を酸化物換算した合計量で該隔壁側接合部全体に対して2質量%以下である。
【0009】
更に、上記隔壁のうち上記隔壁側接合部を除く隔壁側残部に含有されるアルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及びケイ素成分は、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素及びケイ素元素の各々を酸化物換算した合計量で該隔壁側残部全体に対して1質量%以下である。また、上記固体電解質層は、ジルコニア及びアルミナを含有し、該ジルコニアと該アルミナとの合計を100質量%とした場合に、該アルミナは10〜80質量%であり、且つ、該アルミナの平均粒径は1.0μm以下とすることができる。更に、上記絶縁性セラミック体はアルミナを70質量%以上含有することができる。また、上記絶縁性セラミック体はアルミナを99質量%以上含有することができる。更に、上記絶縁性セラミック体はアルミナを70質量%以上且つ99質量%未満含有し、上記発熱抵抗体は、電圧の印加により発熱する発熱部と、該発熱部に接続され該発熱部よりも幅広に形成されたリード部とを備え、且つ、上記絶縁性基部の表面又は内部に該発熱部と該リード部との境界における電位と同じか又は小さい電位に保たれたマイグレーション防止導体を備えることができる。
【0010】
本発明の他のガスセンサ素子は、絶縁性基部(11)と、該絶縁性基部(11)の内部に形成された発熱抵抗体(12)と、該絶縁性基部(11)の片面に併設された複数の固体電解質層(131、141)と、該固体電解質層(131)の同一表面に配置された一対の電極(1321/1322)を備えた酸素ポンプセル(13)と、他の固体電解質層(141)の同一表面に配置された一対の電極(1421/1422)を備えた酸素検出セル(14)と、被測定ガスが通過する律速導入部(163)を有し、各一対の電極(1321/1322、1421/1422)の片方の電極(1321、1421)とで拡散室(16)を形成する拡散室形成部材(163)とを、同時焼成して一体化してなるガスセンサ素子において、
(ア)該絶縁性基部(11)と該拡散室形成部材(163)はアルミナを主成分として構成され、
(イ)該拡散室形成部材(163)を延設してなる隔壁(162)が酸素ポンプセルの一対の電極(1321/1322)間に存在する固体電解質(131)の表面に接合されて配置され、さらに
(ウ)該固体電解質層(131)と該隔壁(162)との接合面から20μmの範囲とする境界部分において測定したアルミナ成分を除いた他の成分の量が、拡散室形成部材(163)を構成するアルミナ成分を除いた他の成分に比べて2質量%以上増大している部分が存在しないことを特徴とする。
また、前記固体電解質層(131、132)はジルコニアセラミックが20〜90質量%、アルミナが10〜80質量%含むことができる。
更に、上記絶縁性基部(11)はアルミナを70質量%以上且つ99質量%未満含有し、上記発熱抵抗体(12)は、電圧の印加により発熱する発熱部(121)と、該発熱部に接続され該発熱部よりも幅広に形成されたリード部(122)とを備え、且つ、上記絶縁性基部(11)の表面又は内部に該発熱部(121)と該リード部(122)との境界における電位と同じか又は小さい電位に保たれたマイグレーション防止導体(152)を備えることができる。
また、本発明のガスセンサは、本発明のガスセンサ素子又は本発明の他のガスセンサ素子を備えることを特徴とする。
【0011】
【発明の効果】
本発明のガスセンサ素子によると、アルミナを主成分とする絶縁性基部上に少なくとも2つのセルを併設した構造(各セルが相互に積層されない構造)にできる。従って、セルが積層されたガスセンサ素子のように拡散室間を隔てる薄い層を備える必要等が無く、より安定した強度的に優れた形状とすることが可能である。また、特に、発熱抵抗体と各固体電解質層との距離を近くすることができる。これにより温度の伝達が速く、各セルを活性化させるための加熱時間を短くでき早期始動性に優れる。更に、固体電解質層の温度を迅速に制御でき、より正確な測定を行うことが可能である。また、これに伴い消費電力を抑えることができる。更に、ガスセンサ素子を得る際にも、各セルが積層された構造のガスセンサ素子に比べて、製造時に要する積層及び印刷回数を少なく抑えることができる。従って、簡便に且つ安定して上記の優れたガスセンサ素子を製造できる。
【0012】
また、酸素のポンピングに伴う大きな電力を要する酸素ポンプセルの一対の電極にアルミナを主成分とする隔壁を備えることにより、セル電極間での電流の固体電解質表面でのリークを防止でき、信頼性の高いガスセンサ素子を得ることができる。
更に、拡散室の少なくとも一面側を構成する拡散室形成部材がアルミナを主成分とすることにより、アルミナを主成分とし発熱抵抗体を備える絶縁性基部とこの拡散室形成部材との間に、各セルや拡散室が配置される構造となる。従って、素子の主要部分での熱伝導が極めてよくなり、特に拡散室内の雰囲気の温度を均一に保持できる。このため、拡散室内に配置される酸素ポンプセル及び酸素検出セルの各々の電極間における各ガス成分の平衡を保持し易く、その結果より正確な測定(例えば、空燃比等の測定)を行うことができる。
また、隔壁が拡散室形成部材の一部であることにより、隔壁を別体に設ける場合に比べて構造が簡易になり、優れた熱伝達を阻害することなく、また、製造も簡便となる。
更に、アルミナを主成分とする絶縁性セラミック体が主要部をなす絶縁性基部、固体電解質層が主要部をなす各セル、アルミナを主成分とする拡散室を区画形成する拡散室構成部材等が一体に焼成されていることにより、各セルを活性化させるための加熱時間を更に短くでき早期始動性に優れる。更には、熱伝達に優れ、固体電解質層の温度を迅速に制御でき、より正確な測定(例えば、空燃比等の測定)が可能となる。
【0013】
また、隔壁側接合部中のアルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及びケイ素成分の含有量が所定換算量で2質量%以下(又は含まれない)であることにより、特にIpセル(第1Ipセル)の一対の電極間での電流のリークをより効果的に防止でき、信頼性の高いガスセンサ素子を得ることができる。
更に、隔壁側残部中のアルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及びケイ素成分の含有量が所定換算量で1質量%以下(又は含まれない)であることにより、より確実に隔壁側接合部及び固体電解質層側接合部の各々に含まれる所定成分の含有量が2質量%以下に保持することができる。
また、固体電解質層が所定量であり且つ所定粒径のアルミナを含有することにより、アルミナを主成分とする絶縁性セラミック体が主要部をなす絶縁性基部と各セルとを一体に焼成する場合に、固体電解質層にクラックや割れを発生させることがない。更に、ガスセンサ素子として使用時には固体電解質がジルコニアを主成分とする場合に、その相転移を極めて効果的に抑制でき、特に信頼性の高いガスセンサを提供できる。
更に、絶縁性セラミック体がアルミナを70質量%含有することにより、発熱抵抗体内での電流のリークを防止し、且つ、絶縁性基部上に形成される各セル間の絶縁をより確実なものとすると共に、ガスセンサ素子全体の機械的強度を十分なものとすることができる。
【0014】
また、絶縁性セラミック体がアルミナを99質量%以上含有することにより、更に、発熱抵抗体内での電流のリークを防止し、且つ、絶縁性基部上に形成される各セル間の絶縁をより確実なものとすると共に、発熱抵抗体から発せされる熱を安定して且つ均一に各セルに伝達でき、特に省電力なものとすることができる。また、これらに加えて発熱抵抗体がマイグレーションにより細線化したり断線したりすることを確実に防止することができる。
更に、本発明のガスセンサは、本発明のガスセンサ素子を備えることにより、上記各効果を有することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明について、以下詳細に説明する。
本発明のガスセンサ素子(以下、単に「素子」ともいう)は、少なくとも以下4つを備える。即ち、絶縁性基部、酸素ポンプセル、酸素検出セル及び拡散室である。
上記「絶縁性基部」は、絶縁性セラミック体と発熱抵抗体とを備える。この絶縁性基部は後述する酸素ポンプセル及び酸素検出セルを支持する基体であり、各セル間を電気的に絶縁する役目を有し、更に、各セルを稼働させるためのヒータとしての役目も有する。
【0016】
上記「絶縁性セラミック体」は、絶縁性基部の主要構成部である。この絶縁性セラミック体は、アルミナを主成分とする。アルミナを主成分とすることにより、従来のヒータ素子の絶縁部分として多く使用されているジルコニア系材料に比べて高温における絶縁性に優れたものとなる。例えば、温度800℃において発熱抵抗体と各セルとの間の電気抵抗値が1MΩ(好ましくは10MΩ)以上とすることができる。更に、絶縁性セラミック体がアルミナを主成分とすることにより熱伝導性を向上させることができ、各セルを加熱するうえで有利である。
絶縁性セラミック体に含まれるアルミナは、絶縁性セラミック体全体を100質量%とした場合に、70質量%以上(より好ましくは90〜100質量%、更に好ましくは95〜100質量%)であることが好ましい。70質量%未満であると十分に絶縁性、耐熱性及び耐熱衝撃性等を並立させることが困難になる場合がある。
【0017】
一方、アルミナを除く残部は、絶縁性セラミック体に直接接して積層される他部を構成する主要構成成分(例えば、各セルの主要構成成分であるジルコニア等)を20質量%以下(より好ましくは0.5〜10質量%、更に好ましくは1〜5質量%)含有することができる。これにより、焼成時にアルミナが過度に粒成長することを防止でき、絶縁性セラミック体とこれに接して積層される他部との熱膨張差を緩和することができる。
また、この絶縁性セラミック体はアルカリ金属成分(特にLi成分、Na成分及びK成分)及びアルカリ土類金属成分(特にMg成分、Ca成分及びBa成分)をほとんど含有しないことが好ましい。これらを過度に多く含有すると後述する発熱抵抗体の作動時にイオン化したアルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンによるマイグレーションにより発熱抵抗体が断線等する場合があるため好ましくない。この絶縁性セラミック体に含有されるアルカリ金属成分及びアルカリ土類金属成分は、絶縁性セラミック体全体を100質量%とした場合に、各元素の酸化物換算合計量で1質量%以下であることが好ましい。
【0018】
また、絶縁性基部は、未焼成の絶縁性セラミック体からなる単層未焼成シートを層状に積層して形成した未焼成積層体を焼成して得ることができる(但し、別途発熱抵抗体となる未焼成発熱抵抗体は表面又は内部に形成されている。)。この場合、各単層未焼成シートは異なる組成比の材料から形成することができる。即ち、例えば、絶縁性基部と直接接して形成される他部(例えば、各セルの固体電解質層)の主構成成分(例えば、固体電解質層を構成するジルコニア系材料)を、未焼成積層体の内層側から外層側へ傾斜的に多く含有する構成とすることができる。これにより絶縁性基部とこれに直接接して形成される他部との同時焼結性を向上させることができる。
【0019】
上記「発熱抵抗体」は、通電により発熱するものであり、絶縁性セラミック体の表面又は内部に形成されている。この絶縁性セラミック体の表面又は内部とは、通常、絶縁性基部の表面又は内部となる。発熱抵抗体の形状は特に限定されず、従来公知の形状とすることができ、より酸素ポンプセル及び酸素検出セルを効率よく十分に加熱できる形状であることが好ましい。例えば、図25の発熱抵抗体(12)として示すように各セルの直下においてより密にパターンが配されるように蛇行した形状とすることができる。また、各セルの固体電解質層の外周部に沿うように配された蛇行しない形状(例えば、略U字形状等)とすることもできる。また、この発熱抵抗体の大きさも特に限定されないが、通常、各セルの大きさに対応するものとすることができる。
【0020】
この発熱抵抗体を構成する材料は特に限定されず、例えば、貴金属、タングステン、モリブデン及びレニウム等を挙げることができる。更に、発熱抵抗体が白金を主成分とする場合には、ロジウムを発熱抵抗体全体の5〜20質量%程度含有することができる。このようなロジウムを含有する発熱抵抗体は、製造時に固体電解質層と一体に焼成し易く好ましい。また、これにより抵抗温度係数が低減され、より早期始動が可能となる。
発熱抵抗体は、上記材料を含有する原料粉末や原料有機金属化合物(液状物)、バインダ、可塑剤、分散剤及び溶剤等の必要な原材料を混合して得られるスラリー又はペーストを成形(印刷等)した後、乾燥させて得られる未焼成発熱抵抗体を焼成して得ることができる。
【0021】
また、本発明の絶縁性基部は、絶縁性セラミック体及び発熱抵抗体以外にも他部を備えることができる。この他部としては、例えば、マイグレーション防止導体や、このマイグレーション防止導体を支持するためのセラミック体等を挙げることができる。
このうち上記「マイグレーション防止導体」は、絶縁性セラミック体の表面(例えば、図4の152)又は内部(例えば、図5の152)に形成された(通常、絶縁性基部の内部又は表面となる)導体である。このマイグレーション防止導体は、発熱抵抗体の発熱部とリード部との境界における電位と同じか又は小さい電位に保たれている。また、マイグレーション防止導体は、絶縁性セラミック体の内部に形成されている場合、発熱抵抗体と同一仮想平面に配置されていてもよく、発熱抵抗体とは異なる仮想平面に配置されていてもよい。
【0022】
このマイグレーション防止導体を備えることにより、絶縁性セラミック体内に含有される主にアルカリ金属及びアルカリ土類金属等がイオン化した場合に、イオンはマイグレーション防止導体に引き寄せられ、発熱抵抗体にはほとんど引き寄せられないものとすることができる。即ち、発熱抵抗体の細線化や断線を防止できる。
このマイグレーション防止導体は、単独で備えていてもよく、発熱抵抗体の一部から分岐して形成されていてもよい。単独で備える場合には、例えば、その導体を接地アース(例えば、1ボルト以下になるように)して、電気導通を行わないことによりマイグレーション防止導体とすることができる。また、発熱抵抗体の一部として備える場合には、例えば、発熱抵抗体の低電位側の端部から分岐させた導体を形成し、高電位側と導通させないことによりマイグレーション防止導体とすることができる。
【0023】
マイグレーション防止導体の形状は特に限定されない。例えば、直線的に伸びる一本のパターンからなってもよく、蛇行する一本のパターンからなっていてもよく、発熱抵抗体と同様な(但し、一端側は発熱抵抗体等と接続されていない)図25の発熱抵抗体(12)に示すよう形状や、略U字形状等であってもよい。また、このマイグレーション防止導体を構成する材料は特に限定されないが、通常、発熱抵抗体と同様な材料である。
【0024】
マイグレーション防止導体は、絶縁性セラミック体の組成には関係なく備えることができる。即ち、例えば、絶縁性セラミック体全体を100質量%とした場合にアルミナを99質量%以上含有する場合にも備えることができるが、特に、アルミナの含有量が70質量%以上且つ99質量%未満である場合に効果的であり、更には、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素を酸化物換算した場合の合計含有量が1質量%以上(更には3質量%以上、特に4質量%以上、通常10質量%以下)である場合により効果的である。尚、酸化物換算とはアルカリ金属元素の場合は、アルカリ金属元素をMとした場合にM2Oとして換算し、アルカリ土類金属元素の場合は、アルカリ土類金属元素をMとした場合にMOとして換算することを意味する。
【0025】
上記「酸素ポンプセル」(以下、単に「Ipセル」という)は、拡散室内への酸素の出し入れと、この際に必要な電流量を出力できるセルである。
上記「酸素検出セル」(以下、単に「Vsセル」という)は、拡散室内の酸素濃度を電位差として出力することで、酸素濃度を検出できるセルである。
これらIpセルとVsセルとは、素子の長手方向に対して直列に配置されていてもよく、並列に配置されていてもよい。この配置は、素子を収納する部位や素子が収納されたセンサの取付場所等に応じて適宜選択することができるが、各固体電解質層をより大きく形成し易い点においては直列が好ましい。
【0026】
これらIpセル及びVsセルは、各々、固体電解質層とこの固体電解質層の表面に形成された一対の電極とを備える。これらの固体電解質層及び電極等は結果的に上記にいうIpセル及びVsセルとして機能していれば、一体物であってもよい。即ち、IpセルとVsセルの備える固体電解質層が1つの兼用された固体電解質層であってもよい。また、電極についても同様である。しかし、Ipセル及びVsセルを構成する固体電解質層は別体であり、更には、固体電解質層同士が離間していることが好ましい。離間していることにより、セル間の絶縁を確実なものとすることができる。
【0027】
また、Ipセル及びVsセルは、各々本発明のセンサ素子中に1つ以上を備えることができる。即ち、例えば、Ipセルを1つ及びVsセルを1つ備える素子とすることができる。この素子は全領域空燃比センサ素子として機能させることができる。また、Ipセルを2つ及びVsセルを1つ備える素子とすることができる。この素子は窒素酸化物センサ素子や可燃性ガス(一酸化炭素及び炭化水素ガス等)センサ素子として機能させることができる。更に、Ipセルを3つ及びVsセルを2つ備える素子とすることができる。この素子は酸素、窒素酸化物及び可燃性ガス等の複数種類(例えば、一酸化炭素と窒素酸化物との同時測定等)の気体の測定を行うことができる複合ガスセンサ素子として機能させることができる。また、更にセルを多く備えることで酸素、窒素酸化物、可燃性ガス及び水蒸気(水分)等の気体のうちの2種以上を同時に測定できるガスセンサとすることもできる。
【0028】
上記「固体電解質層」は、Ipセル及びVsセルを構成する。この固体電解質層を構成する固体電解質材料は特に限定されず、各種の固体電解質材料を用いることができる。この固体電解質材料としては、ジルコニア系材料及びペロブスカイト系材料(例えば、LaGaO3系材料等)などを挙げることができる。このうちジルコニア系材料が好ましく、Y、Mg、Ca、Sc及び希土類元素のうちの少なくとも1種により安定化されたジルコニア(安定化ジルコニア及び部分安定化ジルコニアを含む)であることがより好ましく、更にはYにより安定化されたジルコニア(以下、単に「YSZ」という)が特に好ましい。YSZは優れた酸素イオン導電性と優れた機械的強度とをバランスよく併せ有するためである。また、このYSZに含有されるYはY2O3に換算して、固体電解質層中に含有されるジルコニア全体を100モル%とした場合に2〜9モル%(より好ましくは4〜9モル%)であることが好ましい。Yの含有量がこの範囲内において、焼成工程や冷熱サイクルでの昇降温に伴うジルコニアの相転移が特に起こり難いからである。尚、上記のジルコニア系材料にはハフニウムが含有されていてもよい。
【0029】
更に、この固体電解質層は、絶縁性基部を構成する絶縁性セラミック体の主要構成成分であるアルミナを含有することが好ましい。これにより固体電解質層と絶縁性セラミック体との間の熱膨張差を緩和することができる。
アルミナの含有量は、固体電解質層全体に対して10〜80質量%(より好ましくは15〜60質量%、更に好ましくは15〜50質量%)であることが好ましい。更に、固体電解質層に含有されるアルミナ粒子の平均粒径は1.0μm以下(より好ましくは0.05〜0.8μm、更に好ましくは0.1〜0.6μm)であることが好ましい。アルミナの含有量及びアルミナ粒子の平均粒径が上記の範囲であれば、効果的に熱膨張差が緩和され、特に絶縁性基部と同時焼成した場合には各固体電解質層にクラックや割れを生じることを防止できる。
【0030】
これらアルミナの含有量及び平均粒径は上記各好ましい範囲の組合せとすることができる。即ち、例えば、アルミナの含有量が10〜80質量%であり且つアルミナ粒子の平均粒径が1.0μm以下であることが好ましく、アルミナの含有量が15〜60質量%であり且つアルミナ粒子の平均粒径が0.05〜0.8μmであることがより好ましく、アルミナの含有量が15〜50質量%であり且つアルミナ粒子の平均粒径が0.1〜0.6μmであることが特に好ましい。
【0031】
このようにアルミナを含有することにより、ジルコニア粒子の平均粒径は2.5μm以下(更には0.1〜2.3μm、特に0.3〜2.0μm)に抑えられる。更に、ジルコニア粒子の最大粒径を5μm以下(更には4.2μm以下、特に3.5μm以下、通常0.5μm以上)に抑えられる。このようなYSZにより、焼成工程やガスセンサとして使用した時の環境下における冷熱サイクルでの昇降温に伴う相転移が極めて効果的に抑制され、また、相転移が一部で生じたとしても応力が分散され易く、クラックの発生が防止される。
【0032】
更に、固体電解質層に含まれるジルコニア粒子には、テトラゴナル相(以下、単に「T相」という)の粒子、モノクリニック相(以下、単に「M相」という)の粒子及びキュービック相(以下、単に「C相」という)の粒子が存在し得る。これらの各相の粒子の内、特に、T相の粒子の平均粒径を2.5μm以下(更には0.1〜2.3μm、特に0.3〜2.0μm)に抑えることができる。このT相は、特に、温度雰囲気が200℃付近である場合にM相へと相転移し易く、また、この相転移は多湿ほど進行し易く、且つ体積変化を伴うことが知られている。そこで、このT相の粒子の平均粒径を2.5μm以下に抑えることにより、焼成工程や冷熱サイクルでの昇降温に伴うジルコニアの相転移を大幅に抑制できる。
【0033】
このアルミナ及びジルコニアの含有量は、通常使用される化学分析によって求めることができる他、電子顕微鏡写真の画像解析によっても求めることが可能である。例えば、電子顕微鏡により倍率5000倍で撮影した反射電子像(以下、単に「BEI像」という)を用い、これをスキャナー等により電子情報として取り込み、この電子情報を画像解析装置(例えば、ニレコ社製、型式「ルーゼックスFS」等)により、特定の組成の粒子間の面積率として算出し、この面積率より理論体積率を近似的に算出し、この理論体積率を含有率として置き換えることで算出することが可能である。
【0034】
更に、アルミナの平均粒径は、固体電解質層の表面を、電子顕微鏡により倍率5000倍で撮影した写真(以下、単に「SEM写真」という)において計測する。このSEM写真におけるアルミナ粒子の最大粒径をそのアルミナ粒子の粒径とみなし、5×5cmの単位四方辺りに含まれるアルミナの全粒子より算出される粒径の平均値を第1平均粒径とする。同様な方法により、同じ固体電解質層上の異なる5視野(表面)において撮影した5枚のSEM写真から算出される第1平均粒径を、更に平均し、第2平均粒径を得る。この第2平均粒径を本発明における上記平均粒径というものとする。また、ジルコニアの平均粒径も同様な方法によって測定できる。但し、上記T相の粒子の平均粒径はBEI像を利用して他の相の粒子と判別できる。
【0035】
上記「電極」は、Ipセル及びVsセルにおいて固体電解質層の表面に形成される導体である。この電極は、各セルに対して各々少なくとも一対となるように備える。従って、各セルに対して各々2つずつの電極を備えることにより一対の電極が構成されていてもよく、また、各セルに対して各々1つずつの電極と各セル間で兼用される兼用電極とを備えることにより一対の電極が構成されていてもよい。この兼用電極を備える場合とは、例えば、2セル型素子におけるIpセル用負電極とVsセル用負電極とが1つの兼用負電極として備えられている場合や、3セル以上を備える複セル型素子における第1Ipセル用負電極とVsセル用負電極とが1つの兼用負電極として備えられている場合等である。
【0036】
また、電極は固体電解質層の表面に形成されており、且つIpセルのうちの少なくとも1つ及びVsセルのうちの少なくとも1つが備える電極のうちの一方が拡散室の一内壁面側に配置されている。即ち、例えば、図1におけるIpセル用負電極(1321)とVsセル用負電極(1421)とは拡散室(16)の一内壁面側に配置されている。また、図6におけるIpセル用負電極(1321-1)とVsセル用負電極(1421)とは拡散室(16)の一内壁面側に配置されている。
各電極の位置関係は上記以外、特に限定されない。従って、その他の電極は、例えば、図6のVsセル用正電極(1422)のように拡散室(16)とVsセル用固体電解質層(141)との間に形成されていてもよく、図9の第2Ipセル用正電極(1322-2)のように絶縁性基部(11)と第2Ipセル用固体電解質層(131-2)との間に形成されていてもよい。但し、各電極は、通常、多孔質であるため緻密体に比べると熱伝導が劣りがちである。従って、発熱抵抗体からの熱を早期に固体電解質層へ伝導させる目的においては、絶縁性基部と各固体電解質層と間に電極は配置されないことが好ましい。
上記「一内壁面側」とは、1つの平面からなる一内壁面に形成されている場合のみならず、例えば、1面側の内壁面が凹凸を有するために、複数の平面から構成され、これら複数の内壁面に各電極が形成されている場合等を含む意味である。
【0037】
また、Vsセルが備える電極のうちのいずれかの少なくとも1つの電極は、通常、酸素濃度の基準となる基準電極として機能することを要する。また、Ipセルを2つ以上備える場合にも同様な基準電極として機能する電極を要する場合がある。このような電極を基準電極として機能させるには自己基準生成方式と基準ガス導入方式との2つの方法がある。即ち、自己基準生成方式とは、電極を緻密なセラミック体により気密に保持し、セルの酸素ポンピング作用を利用して電極と緻密なセラミック体との間の空間や電極の多孔質空孔部等、に一定圧力の酸素雰囲気を形成させる方法である(例えば、図1における1422等)。一方、基準ガス導入方式とは、酸素濃度の基準となる基準ガス(例えば、大気や不活性ガス等)を電極まで導くために、素子内を通る経路(例えば、図4の17や図10の17等)を設け、この電極に基準ガスを接触させる方法である。本発明の素子ではいずれの方法を用いてもよいが、素子の大きさが小さい場合や、特に発熱抵抗体からの熱を均一に伝導させる必要がある場合や、素子全体の機械的強度をより大きくする必要がある場合には、自己基準生成法式を用いた形態であることが好ましい。
【0038】
更に、Ipセル及びVsセルは上記一対の電極以外にも他の電極を備えることができる。他の電極としては、電極の導通を補助する補助電極(図5及び図8等における151)や、固体電解質層の抵抗値を測定するための抵抗参照電極等を挙げることができる。このうち補助電極を備える場合は、特に抵抗が低いことが好ましいIpセルの抵抗を効率よく下げることができる。また、抵抗参照電極は備える場合は、この電極を用いて固体電解質層の抵抗値に関するデータをフィードバックし、このデータに基づいて発熱抵抗体への通電量をコントロールし、固体電解質層の温度を常に正確に制御できる。このため、固体電解質層の導電性を目的の状態に常時維持することができる。
【0039】
各セルの備える電極の大きさは特に限定されないが、例えば、Ipセル用(複数セル型素子においては拡散室の最も上流側に配置される第1Ipセル用)電極は1〜20mm2(より好ましくは6〜10mm2、更に好ましくは7〜9mm2)であることが好ましい。この面積が1mm2未満となると十分なポンピングを行うことが困難となる場合がある。一方、20mm2を超えて大きくてもポンピング効率においては有利であるが、素子が過度に大きくなるため好ましくない。また、Vsセル用電極は1〜15mm2であることが好ましい。この面積が1mm2未満となると酸素濃度を正確に測定できない場合がある。一方、15mm2を超えて大きくても酸素濃度の測定効率においては有利であるが、素子が過度に大きくなるため好ましくない。
【0040】
更に、各電極は上記の面積を有することが好ましいが、各電極の作動効率上及び素子の大きさを小さく抑えるためには、素子の幅方向の長さが1〜5mm(より好ましくは2〜4mm、更に好ましくは2.5〜3.5mm)であることが好ましい。この長さが1mm未満となると各電極の作動効率が低下しがちとなり易い。一方、この長さが5mmを超えると素子が過度に大きくなるため好ましくない。
また、IpセルにはVsセルに比べて大きな電流が流れる場合が多い。このため、Ipセルの電極間はより確実に絶縁されることが好ましい。従って、Ipセルの電極間は0.01〜3mm(より好ましくは0.05〜2mm、更に好ましくは0.07〜1.5mm)であることが好ましい。この長さが0.01mm未満となるとIpセル用電極間の絶縁が不十分となる場合がある。一方、この長さが3mmを超えると素子が過度に大きくなるため好ましくない。
【0041】
これらの各電極を構成する材料は特に限定されず、各種の導電材料を用いることができる。この導電材料は、電気抵抗率が10−2Ω・cm以下(Ω・cmとは試料の大きさにおいて1×1×1cm3あたりの抵抗値を示す)であることが好ましい。このような導電材料としては、貴金属や、遷移金属、及びこれらのうちの2種以上を含む合金等を挙げることができる。これらの中でも白金族に含まれる金属を主成分とするものが好ましい。この白金族に含まれる金属を主成分とする電極は耐熱性及び耐食性に優れ、また、固体電解質層との密着性に優れる。更に、電極は、接合されている固体電解質層を構成する主要構成成分を1つの電極全体を100質量%とした場合に20質量%以下含有できる。これにより、更に固体電解質層との密着性が向上されたものとなる。
【0042】
上記「拡散室」は、被測定ガスが律速導入部から律速されて導入され、その内部で拡散される部分である。また、この拡散室は、拡散室形成部材により区画形成されている。即ち、後述する律速導入部を除く部分において、拡散室内と素子外の外雰囲気とを隔てるように区画された部分である。
この拡散室は、1室のみからなってもよく、連通する2室以上からなってもよく、更には、連通経路のみからなってもよい。1室のみからなる拡散室とは、例えば、直方体形状や立方体形状等の形状の部屋のみからなる場合(図1の16等)や、一部の容積が小さく形成された部屋のみからなる場合等である。また、連通する2室以上からなる拡散室とは、各部屋よりも断面が小さく形成された経路(図7の164、図11の164等)を通じて連通された2つの部屋(図6の16-1と16-2、図11の16-1と16-2等)を有する場合や、気体の拡散速度を抑制できる律速部(図13の164)を通じて連通された2つの部屋(例えば、図13の16-1と16-2)を有する場合等である。更に、連通経路のみからなる拡散室とは、この拡散室が略同じ断面積の蛇行する経路のみからなる場合等である。尚、拡散室が連通経路のみからなる場合であって、拡散室内において気体の拡散速度を変化させる必要がある場合は、経路長を調節することにより拡散速度を調節できる。尚、上記拡散室内に設けられる律速部には、律速させる気体が拡散室内の雰囲気(素子外における被測定ガスと異なる場合がある)であること以外は、後述する律速導入部の形態をそのまま適用できる。
【0043】
更に、2つのIpセルと1つのVsセルを備える素子を窒素酸化物センサ素子として機能させる場合には、拡散室に導入された被測定ガスを第1Ipセルにより酸素(一部の窒素酸化物から解離された酸素を含む)を汲み出して拡散室内を低酸素濃度化し、同時に又はその後、Vsセルによりこの低酸素濃度化された被測定ガス中の酸素濃度を測定し、酸素濃度測定の後に低酸素濃度化された被測定ガス中の窒素酸化物の濃度を第2Ipセルにより測定できることが好ましい。このため、拡散室は被測定ガスがこの順に拡散できる形状であることが好ましく、例えば、第1Ipセルによるポンピングを行う第1拡散室部、Vsセルによる測定を行う第2拡散室部、及び第2Ipセルにより窒素酸化物の濃度を測定できる第3拡散室部の3つの部分に分かれており、各部分は経路により連通された形状とすることができる。また、これらを作業を順次行えるような一本の蛇行する経路とすることもできる。
【0044】
また、拡散室内は、空洞であってもよく、空洞でなくてもよく、一部のみが空洞であり他部が空洞でないものであってもよい。空洞でなく被測定ガスを拡散できる場合とは、例えば、連通多孔質材等からなる場合である。尚、拡散室が連通多孔質材からなる場合であって、拡散室内において気体の拡散速度を変化させる必要がある場合は、気孔率を調節することにより拡散速度を調節できる。例えば、より気孔率の低い連通多孔質材を用いることで、気孔率のより高い連通多孔質材を用いた部分に比べて気体の拡散を律速させることができる。
【0045】
上記「律速導入部」とは、被測定ガスを律速させて拡散室内に導入する部分である。この律速導入部は後述する拡散室形成部材に設けられている。律速導入部の形態は特に限定されず、例えば、拡散室と被測定雰囲気との間に律速が可能な気孔率の連通多孔質材を設けた形態や、拡散室と被測定雰囲気との間にスリットや細孔等を設けた形態等とすることができる。また「律速」とは、ガスセンサ素子外における被測定ガスの流速に関係なく、拡散室内に被測定ガスが導入されるときには略一定の速度となるように、被測定ガスの流速を調節することをいう。
【0046】
上記「拡散室形成部材」は、拡散室を区画形成するものである。この拡散室形成部材は、律速導入部を除く部分では、拡散室内の雰囲気と外雰囲気とを物理的に遮断できるものであり、この部分は、通常、緻密なセラミック体からなる。拡散室形成部材のうち律速導入部を除く部分を構成するセラミック材料は特に限定されず、アルミナ質材料及びジルコニア質材料等から形成できるが、特にアルミナ質材料、即ち、アルミナを主成分とするセラミック材料からなることが好ましい。アルミナを主成分とすることにより十分な耐熱性及び機械的強度を備えると共に、特に高い熱伝導性を備えることができるからである。
【0047】
拡散室内に配置されるIpセル用電極とVsセル用電極との間では接触する気体の温度がほぼ同じである必要がある。例えば、自動車の排気ガス中に含まれる酸素の濃度を測定しようとする場合、拡散室内には、通常、少なくとも一酸化炭素、二酸化炭素、水素、酸素及び水蒸気が導入されることとなる。そして各々の気体は相互に平衡を保っており、その平衡は温度に大きく依存している。例えば、温度が上がると平衡状態は酸素がより少ない方へ変化する。従って、拡散室内における温度を十分に均一に保持できないと、測定対象又は測定基準である酸素の濃度がIpセルとVsセルとの間で異なることとなり、測定が不安定になる場合がある。
【0048】
本発明の素子は、少なくとも一つのIpセルと少なくとも一つのVsセルとが拡散室内に横並びに配置された形態である。このため、各セル間における温度を発熱抵抗体の温度制御のみにより保持することは困難な場合がある。この場合、拡散室形成部材がアルミナを主成分とすることで拡散室内の温度を極めて迅速に均一な状態にすることができる。即ち、均熱効果に優れる。
更に、より優れた均熱効果を得るために、拡散室形成部材により形成される拡散室の内壁面の面積はより大きいことが好ましい。本発明の素子では、通常、拡散室の所定の2つの電極が配置される一内壁面側に対向する内壁面は少なくとも拡散室形成部材からなる(図1、図4〜6及び図8〜11参照)。即ち、拡散室は拡散室形成部材により覆われていることとなる。この内壁面は、通常、拡散室内を構成する内壁面のうち最も大きな面積を有している。従って、特に優れた均熱効果を発揮させることができる。また、図12及び図13に示す素子では、第2IpセルをVsセルに対して積層位置に備えるため、拡散室の上記一内壁面側に対向する内壁面は第2Ipセルの部分において拡散室形成部材により形成されていない。しかし、第2Ipセルをも覆うように拡散室形成部材が設けられているため、同様に優れた均熱効果を発揮させることができる。
【0049】
この拡散室形成部材に含有されるアルミナは、拡散室形成部材全体を100質量%とした場合に70質量%以上(より好ましくは95〜100質量%、更に好ましくは99〜100質量%)であることが好ましい。アルミナの含有量が70質量%以上であることにより素子として十分な機械的強度を発揮できると共に、優れた均熱効果を発揮させることができる。
【0050】
上記「隔壁」は、拡散室内に一方の電極が配置された前記Ipセルの備えるIp用負電極とIpセル用正電極とが固体電解質層の一面側に形成されている場合に、これらの電極間に配置され、このIpセルを構成する固体電解質層の表面に接して形成されるアルミナを主成分とする部材である。この隔壁を備えることにより、Ipセル用負電極とIpセル用正電極との間の電流のリークを防止できる。
【0051】
IpセルはVsセルに比べて大きな電流が流れるため、素子内においてIpセルの電極間を十分に絶縁することは非常に重要である。特に、本発明の素子では、このIpセルの電極のうち、素子外の雰囲気と接する電極と拡散室内に配置される他方の電極とを、固体電解質層の異なる面に形成することが困難であるため、通常は、同じ面に形成される。従って、両電極間を十分に絶縁する必要が生じる。この絶縁は電極間の距離を十分にとることで達することもできるが、素子は長く且つ大きくなり易い。これに対して、隔壁を備えることで素子を小型に保ちつつ、十分な絶縁を達することができる。
尚、素子が小型であるとは、素子の全長が60mm以下(更には55mm以下、特に50mm以下、通常30mm以上)であり、幅が6mm以下(更には5mm以下、特に4.5mm以下、通常3mm以上)であり、厚さが3mm以下(更には2.5mm以下、特に2mm以下、通常1mm以上)であることをいう。
【0052】
この隔壁は、拡散室形成部材と別体であってもよいが、拡散室形成部材の一部であって、拡散室形成部材と一体とすることができる。また、上記の所定の電極間を十分に絶縁することができればよく、その形態は特に限定されない。従って、例えば、連通多孔質材料からなる前記律速導入部を隔壁として用いることもできる。更に、隔壁を構成する材料はアルミナを主成分とすること以外に特に限定されない。隔壁に含有されるアルミナは70質量%以上(より好ましくは95〜100質量%、更に好ましくは99〜100質量%)であることが好ましい。これにより隔壁としての十分な絶縁性と機械的強度をバランスよく兼ね備えることができる。また、この隔壁が拡散室形成部材の一部である場合には、拡散室形成部材に優れた熱伝導性を付与することができる。
【0053】
また、隔壁のうち、隔壁と固体電解質層との接合面付近において、アルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及びケイ素成分の含有量が極少ないことが好ましい。アルミナを主成分とする隔壁とジルコニア等を主成分とする固体電解質層とを同時焼成した場合は、アルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及びケイ素成分があると、両材料間では共晶によりガラス成分が析出し易い。この析出したガラス成分は高温において電流のリークの原因となり得るため、隔壁側の接合面付近にはガラス成分の析出がほとんど認められない状態であることが好ましい。
【0054】
このようなガラス成分の析出がほとんど認められない状態とは、即ち、隔壁とIpセル用固体電解質層との接合面から隔壁の内部方向へ20μmまでを隔壁側接合部(図3の1621)とした場合に、この隔壁側接合部に含有されるアルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及びケイ素成分は、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素及びケイ素元素の酸化物換算した合計量が、隔壁側接合部全体に対して2質量%以下(より好ましくは0〜1.5質量%、更に好ましくは0〜1.0質量%)であることである。
更に、このように隔壁側接合部にアルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及びケイ素成分の含有量が極少ない隔壁であるためには、隔壁のうち隔壁側接触部を除く隔壁側残部に含有されるアルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及びケイ素成分は、同様に酸化物換算した合計量で隔壁側残部全体に対して1質量%以下(より好ましくは0〜0.7質量%以下、更に好ましくは0〜0.5質量%)であることが好ましい。
【0055】
また、隔壁側接合部における所定成分の含有の有無程に、電極の絶縁に影響を及ぼさない場合もあるが、例えば、イットリアにより安定化又は部分安定化されたジルコニアを主成分とする固体電解質層においては、固体電解質層側の隔壁と固体電解質層との接合面付近においても、アルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及びケイ素成分の含有量が極少ないことが好ましい。即ち、隔壁が接合されているIpセル用固体電解質層の隔壁との接合面から固体電解質層の内部方向へ20μmまでを固体電解質層側接触部とした場合に、この固体電解質層側接合部に含有されるアルカリ金属成分、アルカリ土類金属及びケイ素成分は、上記と同様に酸化物換算した合計量で固体電解質層側接合部全体に対して2質量%以下(より好ましくは0〜1.0質量%、更に好ましくは0〜0.5質量%)であることが好ましい。これによりIpセル用電極間の電流のリークを更に確実に防止できると共に、固体電解質層のイオン導電性を向上させることができる。
【0056】
更に、このようにイットリアにより安定化又は部分安定化されたジルコニアを主成分とする固体電解質層が、固体電解質層側接合部にアルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及びケイ素成分の含有量が極少ない固体電解質層であるためには、固体電解質層のうち固体電解質層側接触部を除く固体電解質層側残部に含有されるアルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及びケイ素成分は、同様に酸化物換算した合計量で固体電解質層側残部全体に対して1質量%以下(より好ましくは0〜0.5質量%以下、更に好ましくは0〜0.2質量%)であることが好ましい。
【0057】
上記の隔壁側接合部及び固体電解質層側接合部に含まれるアルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及びケイ素成分の合計含有量は、以下の方法で求めるものとする。即ち、素子を樹脂に封入し、隔壁と固体電解質層とこれらの接合面とが全て表出するように、接合面に対して垂直な平面で切断した後、この面を研磨する。その後、得られた研磨面から表出する隔壁側接合部内の異なる3つの範囲、及び固体電解質層側接合部内の異なる3つの範囲を、X線プローブマイクロアナライザ(以下、単に「EPMA」)を用いて、アルカリ金属元素6種、アルカリ土類金属元素6種及びケイ素元素の合計13種について、各々の元素の質量濃度分析を行う。次いで、3つの範囲から得られた各元素の質量濃度を平均し、各元素の質量濃度の平均値を算出する。その後、各元素の質量濃度の平均値を酸化物換算し、更に、その合計量を算出することで得られる。尚、この測定に際しては、真空条件下で、波長分散型X線分光器(WDS)を用い、照射電流を0.25nAとし、加速電圧を20kVとして行うものとする。また、EPMAとしては、例えば、日本電子データダム社製の型式「JXA−8800M」を用いることができる。
【0058】
また、隔壁側残部及び固体電解質層側残部の各々に含まれるアルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及びケイ素成分の合計含有量は、以下の方法で求めるものとする。即ち、隔壁側残部については、隔壁側接合部と隔壁側残部との界面から隔壁内部方向へ100μmにおける異なる3点について、上記隔壁側残部に関する測定と同じ方法を用いて測定するものとする。
【0059】
本発明の素子は、全ての部分を一体に焼成して得た構造することもでき、また、焼成された複数の部分を耐熱セメントや耐熱ガラス等により貼り合わせた構造とすることもできる。複数の部分を貼り合わせた構造とは、即ち、例えば、一体に焼成された絶縁性基部と、一体に焼成されたその他の部分とを貼り合わせた構造等である。しかし、複数の部分を貼り合わせた構造とするには、通常、貼り合わせる以前における各部分が十分な機械的強度を要し、各々が自身を支え得るだけの厚みを有する必要があるため、素子体全体が大きくまた厚くなる場合が多い。このため、より小さい素子を要する場合には、全ての部分を一体に焼成して得た構造であることが好ましい。これにより、各部分は薄く小さく形成することができ、また、貼り合わせに必要な耐熱セメント等を必要としないため、熱伝導がよく各セルを活性化させて測定を開始できるまでに要する時間はより短くなる。従って、例えば、内燃機関の始動後早期に使用を開始でき、排気ガスの浄化率を向上させることができる。特に近年問題となっている自動車等の排気ガスは、始動直後に燃焼効率を最適化することで大幅な浄化が可能であるため、暖気時間を少しでも短くできることは排気ガス浄化においては極めて重要である。
【0060】
[2]2セル型センサ素子
本発明の素子として、Ipセルを1つ備え且つVsセルを1つ備える素子について図1、図2、図4及び図5を用いて詳しく説明する。尚、図1の素子(1a)と図4の素子(1b)と図5の素子(1c)とは各々異なる形態の素子であるが、これらの素子を構成する各部は便宜上同じ符号を用いる。
【0061】
図1に示す素子(1a)は、発熱抵抗体(12)を絶縁性セラミック体内に備える絶縁性基部(11)と、この絶縁性基部(11)に直接的に接合されたIpセルとVsセルとを備える。このIpセルは、Ipセル用固体電解質層(131)とこのIpセル用固体電解質層の一面側に形成された一対の電極(1322と1321)を備える。また、Vsセルは、Vsセル用固体電解質層(141)とこのVsセル用固体電解質層の一面側に形成された一対の電極(1422と1421)を備える。更に、連通多孔質材からなる律速導入部(163)により一部が形成され且つ隔壁(162)を一部に備える拡散室形成部材(161)を備える。この拡散室形成部材は拡散室(16)を区画形成している。
【0062】
また、拡散室内の一内壁面側にはIpセルのIpセル用負電極(1321)とVsセルのVsセル用負電極(1421)と備える。更に、隔壁(162)は一端がIpセルの備えるIpセル用固体電解質層(131)に接合され、Ipセル用負電極(1321)とIpセル用正電極(1322)との間に配置されている。また、Ipセル用正電極(1322)は被測定雰囲気に直接的又は間接的(被毒防止等の目的の保護層を設ける場合等)に被測定雰囲気に晒される電極である。
【0063】
更に、Vsセル用正電極(1422)は拡散室形成部材(161)によって覆われており、Vsセル用固体電解質層(141)とVsセル用正電極(1422)との、Vsセル用正電極(1422)及び/又は拡散室形成部材(161)とVsセル用正電極(1422)との、各々の電極と緻密なセラミック体との間の空間や電極の多孔質空孔部等、に一定圧の酸素を自己的に充填することによって酸素濃度の基準となっている。図2は、図1の素子(1a)のA−A’断面における断面を示す模式図である。図1において点線で示されている律速導入部(163)は図2に示すように素子(1a)の側部に配置されている。
【0064】
尚、この素子(1a)では、例えば、以下のような他の形態とすることが可能である。即ち、Ipセルの備えるIpセル用負電極(1321)とIpセル用正電極(1322)とは、その形成位置が逆であってもよい。また、図4に示すように、Vsセルが備えるVsセル用正電極(1422)は基準ガス導入経路(17)を設けることにより基準ガスにより酸素濃度の基準とすることができる。更に、図5に示すようにIpセル用固体電解質層(131)及びVsセル用固体電解質層(141)の各々に補助電極(151)を備えることができる。
【0065】
また、律速導入部(163)は、図4に示すように隔壁(162)の一部に設けることができる。更に、律速導入部(163)は、図5に示すように拡散室導入部材(161)の一部であって、Ipセル及びVsセルの各々と対向する側に設けることができる。また、律速導入部(163)は小さな貫通孔であってもよい。更に、図4に示すように絶縁性基部(11)の一面側にマイグレーション防止導体(152)を設けることができる。また、このマイグレーション防止導体(152)は図4に示すように直線状に伸びる形状であっても、図5に示すように蛇行する形状であってもよい。更に、このマイグレーション防止導体(152)を図5に示すように絶縁性基部(11)の内部に備えることもできる。
【0066】
図4に示す素子(1b)は、図1及び図2に示す素子(1a)と以下の点において異なる以外は同様である。即ち、律速導入部(163)が隔壁(162)の一部に形成されている。また、Vsセルの備えるVsセル用正電極(1422)が基準ガス導入経路(17)から導入される基準ガス(例えば、大気等)により酸素濃度の基準となっている。更に、絶縁性基部(11)の一面側にマイグレーション防止導体(152)を備えている。
【0067】
図5に示す素子(1c)は、図1及び図2に示す素子(1a)と以下の点において異なる以外は同様である。即ち、律速導入部(163)が拡散室導入部材(161)の一部であって、Ipセル及びVsセルの各々と対向する側に備えられている。また、Ipセル用固体電解質層(131)及びVsセル用固体電解質層(141)の各々に補助電極(151)を備える。更に、絶縁性基部(11)内部に、蛇行した形状のマイグレーション防止導体(152)を備える
【0068】
[3]3セル型ガスセンサ素子
本発明の素子として、Ipセルを2つ備え且つVsセルを1つ備える素子について図6〜13及び図2を用いて詳しく説明する。尚、図6〜図13の各の素子(1d、1e、1f、1g、1h、1i及び1j)は各々異なる形態の素子であるが、これらの素子を構成する各部は便宜上同じ符号を用いる。
【0069】
図6に示す素子(1d)は、発熱抵抗体(12)を絶縁性セラミック体内に備える絶縁性基部(11)と、この絶縁性基部(11)に直接的に接合された第1Ipセル、Vsセル及び第2Ipセルを備える。このうち第1Ipセルは、第1Ipセル用固体電解質層(131-1)とこの第1Ipセル用固体電解質層の一面側に形成された一対の電極(1322-1と1321-1)とを備える。また、Vsセルは、Vsセル用固体電解質層(141)とこのVsセル用固体電解質層の一面側に形成された一対の電極(1422と1421)とを備える。更に、第2Ipセルは、第2Ipセル用固体電解質層(131-2)とこの第2Ipセル用固体電解質層の一面側に形成された一対の電極(1322-2と1321-2)とを備える。
【0070】
また、図6に示す素子(1d)は、連通多孔質材からなる律速導入部(163)により一部が形成され且つ隔壁(162)を一部に備える拡散室形成部材(161)を備える。この拡散室形成部材は拡散室(16-1及び16-2からなる)を区画形成している。また、拡散室内の一内壁面側には第1Ipセルの第1Ipセル用負電極(1321-1)とVsセルのVsセル用負電極(1421)と第2Ipセルの第2Ipセル用負電極(1321-2)とを備える。更に、Vsセル用正電極(1422)を同様に拡散室内の同じ一内壁面側に備えるが、この電極は電極封止部(153)により拡散室(16-1及び16-2からなる)内の雰囲気に接しないように気密に封止されている。また、隔壁(162)は第1Ipセルの備える第1Ipセル用固体電解質層(131-1)に接合され、第1Ipセル用負電極(1321-1)と第1Ipセル用正電極(1322-1)との間に配置されている。
【0071】
更に、第1Ipセル用正電極(1322-1)は被測定雰囲気に直接的又は間接的(被毒防止等の目的の保護層を設ける場合)に晒される電極である。また、Vsセル用正電極(1422)はVsセル用固体電解質層(141)とVsセル用正電極(1422)との界面に一定圧の酸素を自己的に充填することによって酸素濃度の基準となっている。更に、このVsセル用正電極(1422)を封止している電極封止部(153)は拡散室(16-1及び16-2からなる)に突出しており、これにより狭く形成された部分は窒素酸化物用律速部(164)となっている。そして、この窒素酸化物用律速部(164)を境にして第1Ipセル側の拡散室が第1拡散室部(16-1)となり、第2Ipセル側の拡散室が第2拡散室部(16-2)となっている。
図2は、図6の素子(1d)のA−A’断面における断面を示す模式図である。図6において点線で示されている律速導入部(163)は図2に示すように素子(1d)の側部に配置されている。また、図7は、図6の素子(1d)のB−B’断面における断面を示す模式図である。
【0072】
尚、この素子(1d)では、例えば、以下のような他の形態とすることが可能である。即ち、第1Ipセルの備える第1Ipセル用負電極(1321-1)と第1Ipセル用正電極(1322-1)とは、その形成位置が逆であってもよく、第2Ipセルの備える第2Ipセル用負電極(1321-2)と第2Ipセル用正電極(1322-2)とは、その形成位置が逆であってもよい。また、Vsセルが備えるVsセル用正電極(1422)は基準ガス導入経路を設けることにより基準ガスにより酸素濃度の基準とすることができる。更に、図10に示すように第2Ipセル用のいずれか一方の電極(1321-2又は1322-2)は基準ガス導入経路を設けることにより基準ガスにより酸素濃度の基準とすることができる。
【0073】
また、図8に示すように、第1Ipセル用固体電解質層(131-1)、Vsセル用固体電解質層(141)及び第2Ipセル用固体電解質層(131-2)の各々に補助電極(151)を備えることができる。更に、律速導入部(163)は、図4に示すように隔壁(162)の一部に設けることができる。また、律速導入部(163)は、図5に示すように拡散室導入部材(161)の一部であって、Ipセル及びVsセルの各々と対向する側に設けることができる。更に、律速導入部(163)は小さな貫通孔であってもよい。また、図4に示すように絶縁性基部(11)の一面側にマイグレーション防止導体(152)を設けることができる。
【0074】
更に、このマイグレーション防止導体(152)は図4に示すように直線状に伸びる形状であっても、図5に示すように蛇行する形状であってもよい。また、このマイグレーション防止導体(152)を図5に示すように絶縁性基部(11)の内部に備えることもできる。また、窒素酸化物用律速部(164)は、電極封止部(153)を用いることなく、図11に示すように他部材を用いて拡散室の一部を狭く形成することで得ることができ、更には、図13に示すように、連通多孔質材を用いて得ることもできる。また、図12に示すように第2拡散室部は有さず、連通多孔質材からなる窒素酸化物律速部(164)のみを備えていてもよい。更に、第2Ipセルは、図12及び図13に示すように、第1Ipセル及びVsセルとは異なる拡散室の内壁面側に設けることもできる。
【0075】
図8に示す素子(1e)は、図6及び図7に示す素子(1d)と以下の点において異なる以外は同様である。即ち、第1Ipセル用固体電解質層(131-1)、Vsセル用固体電解質層(141)及び第2Ipセル用固体電解質層(131-2)の各々に補助電極(151)を備えている。
【0076】
図9に示す素子(1f)は、図6及び図7に示す素子(1d)と以下の点において異なる以外は同様である。即ち、第2Ipセルの備える第2Ipセル用正電極(1322-2)が絶縁性基部(11)と第2Ipセル用固体電解質層(131-2)との間に形成されている。
【0077】
図10に示す素子(1g)は、図6及び図7に示す素子(1d)と以下の点において異なる以外は同様である。即ち、第2Ipセルの備える第2Ipセル用正電極が基準ガス導入経路(17)を備えることにより、基準ガスによる酸素濃度の基準となっている。
【0078】
図11に示す素子(1h)は、図6及び図7に示す素子(1d)と以下の点において異なる以外は同様である。即ち、Vsセルの備えるVsセル用正電極(1422)が絶縁性基部(11)とVsセル用固体電解質層(141)との間に形成されている。同様に、第2Ipセルの備える第2Ipセル用正電極が絶縁性基部(11)と第2Ipセル用固体電解質層(131-2)との間に形成されている。また、窒素酸化物用律速部(164)が、電極封止部(153)を用いず、他の部材を利用することで形成されている。
【0079】
図12に示す素子(1i)は、図6及び図7に示す素子(1d)と以下の点において異なる以外は同様である。即ち、第2Ipセルが、第1Ipセル及びVsセルとは異なる拡散室の内壁面側に設けられており、Vsセルと第2Ipセルとが積層された位置関係にある。また、第2拡散室部は有さず、連通多孔質材からなる窒素酸化物律速部(164)のみを備えている。この窒素酸化物律速部(164)のみであっても第2Ipセルにおける測定は可能である。
【0080】
図13に示す素子(1j)は、図6及び図7に示す素子(1d)と以下の点において異なる以外は同様である。即ち、第2Ipセルが、第1Ipセル及びVsセルとは異なる拡散室の内壁面側に設けられており、Vsセルと第2Ipセルとが積層された位置関係にある。また、第2拡散室部(16-2)は、連通多孔質材からなる窒素酸化物律速部(164)により区画されている。更に、Vsセルの備えるVsセル用正電極(1422)が絶縁性基部(11)とVsセル用固体電解質層(141)との間に形成されている。
【0081】
このように、3セル型の素子では第1Ipセルと第2Ipセルとを備えることができる。このうち第1Ipセルは拡散室内に導入された被測定ガス中の酸素(一部の窒素酸化物から解離された酸素を含む)を拡散室外へ汲み出し、拡散室内に導入された被測定ガスの酸素濃度を低下させるセルとして機能することができる。また、第2Ipセルは酸素濃度が低下した拡散室内の被測定ガスに、窒素酸化物のみが分解される程度の電圧を印加することにより、窒素酸化物から分解生成された酸素のみを第2Ipセル用固体電解質層を通して拡散室外へ汲み出し、この時の電流値を出力するセルとして機能することができる。
これら第1Ipセルと第2Ipセルとの素子内における位置関係は、拡散室内に流入する被測定ガスの上流側に第1Ipセルが配置され、下流側に第2Ipセルが配置されるものとすることができる。
【0082】
また、3セル型の素子におけるVsセルは、第1Ipセルにより酸素濃度が低下された拡散室内の酸素濃度を測定し、第2Ipセルにおいて汲み出す酸素の量から第1Ipセルにより除去しきれなかった酸素量を差し引く補正を行い、より正確な窒素酸化物濃度を測定することに寄与するセルとして機能させることができる。更に、第2Ipセル近傍に拡散する酸素濃度を監視し、フィードバックすることで第1Ipセルにより低酸素濃度化された被測定ガス中の酸素濃度を一定に保持することに寄与するセルとして機能させることができる。
従って、Vsセルは、被測定ガスの拡散方向において上流側に位置する第1Ipセルと、下流側に位置する第2Ipセルとの間に配置することができる。
【0083】
本発明の他のガスセンサ素子は、各々前述した絶縁性基部(11)、発熱抵抗体(12)、酸素ポンプセル(13)、酸素検出セル(14)、律速導入部(163)、拡散室(16)、拡散室形成部材(161)及び隔壁(162)が、同時焼成により一体化されてなるガスセンサ素子であって、前記(ア)、(イ)及び(ウ)の条件を満たすものである。
尚、(イ)拡散室形成部材(161)を延設してなる隔壁(162)は、拡散室形成部材のうち拡散室を覆う蓋部から延設されている。また、(ウ)固体電解質層(131)と隔壁(162)との接合面から20μmの範囲とする境界部分において測定したアルミナ成分を除いた他の成分の量が、拡散室形成部材(161)を構成するアルミナ成分を除いた他の成分に比べて2質量%以上増大している部分が存在しないとは、即ち、前者の所定の成分量が、後者の同成分量に比べて2質量%以下であることを表す。この成分量の測定は前記と同様にEPMA等を用いて測定を行うことができる。
【0084】
更に、固体電解質層(131、132)は、ジルコニアセラミックが20〜90質量%、アルミナが10〜80質量%含まれるものとすることができる。このジルコニアセラミックとは、前述の固体電解質層中に含有されるジルコニアと同じである。また、マイグレーション防止導体(152)については前述の通りである。
【0085】
[4]ガスセンサ
本発明のガスセンサは、本発明のガスセンサ素子を備える。その他、ガスセンサが備える他の部分は特に限定されない。この他の部分としては、例えば、ガスセンサ素子を外部からの被水や衝撃等から保護するための外装(プロテクタ、外筒及びグロメット等)を備えることができる。また、ガスセンサを排気管等に取り付けるための螺子部等を有する主体金具を備えることができる。更に、この主体金具内にガスセンサ素子を保持固定するためのホルダや緩衝材(熱及び衝撃等の緩衝)等を備えることができる。また、ガスセンサ素子からの電気信号等を取り出し、発熱抵抗体に電圧を印加するためのリード体(リードフレーム、リード線等)を備えることができる。
【0086】
【実施例】
以下、本発明を図14〜30を用いて更に詳しく説明する。
尚、以下では解かり易さのために各部の符号を焼成前後で同じにしているものもある。また、素子1個を製造するかのように説明するが、実際の工程では長さ60mm、幅5mmの未焼成の素子(焼成後は、長さ約47mm、幅約3.9mmとなる。)が10個切り出せる大きさの各未焼成シートに10個分の印刷パターンを形成し、積層後に未焼成センサ素子を切り出している。また、各未焼成シートには周縁部に位置合わせ用の孔を形成し、この孔の各々に固定用ピンと挿通することで各々の未焼成シートの位置合わせを行っている。
更に、図17〜図30には各未焼成体の積層位置関係を平面方向から示すため、図16に示す未焼成絶縁性基部下層(111)の外形を点線で示した。また、図31において、各電極の電極面(リード部を除く部分)の位置関係を側面方向から示すために点線で電極面の位置を示した。
【0087】
[1]全領域空燃比センサ素子の製造
〈1〉5種類の未焼成セラミックシートの作製
(1)未焼成拡散室形成部材(161)の作製
アルミナ粉末(純度99.99%以上)と、バインダであるブチラール樹脂と、可塑剤であるジブチルフタレートと、溶媒であるトルエン及びメチルエチルケトンとを混合し、スラリー状にした。その後、ドクターブレード法により、厚さ0.2mmのシートに成形した。次いで、このシートの一端側の所定位置に3つのスルーホール(1611)を設け図14に示す平面形状の未焼成拡散室形成部材(161)を得た。
【0088】
(2)未焼成絶縁性基部上層(112)の作製
上記(1)と同様にしてスラリーを得、その後、ドクターブレード法により、厚さ0.4mmのシートに成形し、図15に示す平面形状の未焼成絶縁性基部上層(112)を得た。
(3)未焼成絶縁性基部下層(111)の作製
上記(1)と同様にしてスラリーを得、その後、ドクターブレード法により、厚さ0.8mmのシートに成形し、次いで、2つのスルーホール(1111)を設けて、図16に示す平面形状の未焼成絶縁性基部下層(111)を得た。
【0089】
(4)未焼成隔壁(162)の作製
上記(1)と同様にしてスラリーを得、その後、ドクターブレード法により、厚さ150μmのシートに成形し、図29に示す平面形状の未焼成隔壁(162)を得た。この未焼成隔壁(162)は焼成時に未焼成拡散室形成部材(161)と一体化され、焼成後は拡散室形成部材(161)の一部となる。
(5)未焼成第4絶縁層(166)の作製
上記(1)と同様にしてスラリーを得、その後、ドクターブレード法により、厚さ150μmのシートに成形し、次いで、2つのスルーホール(1661)を設けて、図30に示す平面形状の未焼成第4絶縁層(166)を得た。この未焼成第4絶縁層(166)は焼成時に未焼成拡散室形成部材(161)と一体化され、焼成後は拡散室形成部材(161)の一部となる。
【0090】
〈2〉未焼成積層体形成工程
(1)未焼成Ipセル用固体電解質層下部(1311)及び未焼成Vsセル用固体電解質層下部(1411)の形成
質量比においてジルコニア粉末(純度99.99%以上)70質量%とアルミナ粉末(純度99.99%以上、平均粒径0.6μm)30質量%とを配合した混合粉末と分散剤とをアセトン中で混合してスラリーを得た。一方でバインダであるブチラール樹脂及びブチルカルビトール、可塑剤であるジブチルフタレートとアセトンとを混合したバインダ溶液を用意し、このバインダ溶液を先のスラリーに加え、混練しながらアセトンを蒸散させ、固体電解質層用ペーストを得た。得られた固体電解質層用ペーストを上記〈1〉(2)で得た未焼成絶縁性基部上層(112)の表面に図20に示す平面形状となるように、厚さ40μmにスクリーン印刷し、乾燥させて未焼成Ipセル用固体電解質層下部(1311)及び未焼成Vsセル用固体電解質層下部(1411)を形成した。
【0091】
(2)未焼成第1絶縁層(181)の形成
アルミナ粉末(純度99.99%以上)と、バインダであるブチラール樹脂と、可塑剤であるジブチルフタレートと、溶媒であるトルエン及びメチルエチルケトンとを混合したペーストに、更に、所定量のブチルカルビトール及びアセトンを加えて、4時間混合してアセトンを蒸発させ、絶縁層用ペーストを調製した。得られた絶縁層用ペーストを上記(1)で形成した未焼成Ipセル用固体電解質層下部(1311)及び未焼成Vsセル用固体電解質層下部(1411)を除く未焼成絶縁性基部上層(112)上に図21に示す平面形状となるように、厚さ40μmにスクリーン印刷し、未焼成第1絶縁層(181)を形成した。
【0092】
(3)未焼成Ipセル用固体電解質層上層(1312)及び未焼成Vsセル用固体電解質層上層(1412)の形成
上記(1)で用いた固体電解質層用ペーストを未焼成Ipセル用固体電解質層下部(1311)及び未焼成Vsセル用固体電解質層下部(1411)上に図22に示す平面形状となるように、厚さ30μmにスクリーン印刷し、乾燥させて未焼成Ipセル用固体電解質層上層(1312)及び未焼成Vsセル用固体電解質層上層(1412)を形成した。
【0093】
(4)未焼成第2絶縁層(182)の形成
上記(2)で用いた絶縁層用ペーストを未焼成Ipセル用固体電解質層上層(1312)及び未焼成Vsセル用固体電解質層上層(1412)を除く未焼成第1絶縁層(181)上に図23に示す平面形状となるように、厚さ30μmにスクリーン印刷し、乾燥させて未焼成第2絶縁層(182)を形成した。
【0094】
(5)未焼成IpセルVsセル兼用負電極(134)及び未焼成Vsセル用正電極(1422)の形成
ジルコニア粉末(共沈法により得られた安定化剤としてY2O3を5.4mol%含有し、平均粒径が0.3〜0.4μmである粉末)15質量部と白金粉末100質量部とを配合した導電層用ペーストを調製した。
得られた導電層用ペーストを未焼成Ipセル用固体電解質層上層(1312)、未焼成Vsセル用固体電解質層上層(1412)及び未焼成第2絶縁層(182)の上に図19に示す平面形状になるように、厚さ20μmにスクリーン印刷し、乾燥させて未焼成IpセルVsセル兼用負電極(134)及び未焼成Vsセル用正電極(1422)を形成した。このうち未焼成IpセルVsセル兼用負電極(134)は、先端側の分岐した各部分(電極部)において一方が未焼成Ipセル用固体電解質層上層(1312)に接し、他方が未焼成Vsセル用固体電解質層上層(1412)に接している。また、未焼成Vsセル用正電極(1422)は未焼成Vsセル用固体電解質層上層(1412)に接している。
【0095】
(6)未焼成第3絶縁層(183)の形成
上記(2)で用いた絶縁層用ペーストを、上記(5)において形成した未焼成IpセルVsセル兼用負電極(134)及び未焼成Vsセル用正電極(1422)と後に形成する未焼成Ipセル用正電極(1322)とが直接接触しないために、図28に示す平面形状となるように(スルーホール1831を備える)、厚さ30μmにスクリーン印刷し、乾燥させて未焼成第3絶縁層(183)を形成した。
【0096】
(7)未焼成Ipセル用正電極(1322)の形成
上記(5)で用いた導電層用ペーストを未焼成Ipセル用固体電解質層上部(1312)に接し、未焼成Vsセル用固体電解質層上部(1412)には接することなく、図24に示す平面形状となるように、厚さ20μmにスクリーン印刷し、乾燥させて未焼成Ipセル用正電極(1322)を形成した。
【0097】
(8)拡散室用焼失部材(165)の形成
カーボン粉末と、バインダであるブチラール樹脂と、可塑剤であるジブチルフタレートと、溶媒であるトルエン及びメチルエチルケトンとを混合して焼失部ペーストを調製した。この焼失部用ペーストを未焼成IpセルVsセル兼用負電極(134)の電極部(リード部を除く部分)、未焼成Vsセル用正電極(1422)の電極部、未焼成Ipセル用固体電解質層上層(1312)及び未焼成Vsセル用固体電解質層上層(1412)上に図18に示す平面形状になるように、厚さ150μmにスクリーン印刷し、乾燥させて拡散室用焼失部材(165)を形成した。
【0098】
(9)未焼成拡散律速部(163)の形成
アルミナ粉末(純度99.99%以上)と、バインダであるブチラール樹脂と、可塑剤であるジブチルフタレートと、溶媒であるトルエン及びメチルエチルケトンとを混合したペーストに、更に、所定量のブチルカルビトール及びアセトンとを加えて、4時間混合してアセトンを蒸発させて得られたペーストに、平均粒径5μmのカーボン粉末をアルミナとの体積比で45体積%混合した多孔質部用ペーストを調製した。この多孔質部用ペーストを、素子の長さ方向において拡散室用焼失部材(165)と同じ位置であり、且つ、素子の幅方向において拡散室用焼失部材(165)と重ならない位置に図17に示す平面形状となるように、厚さ100μmにスクリーン印刷し、乾燥させて未焼成律速導入部(163)を形成した。尚、拡散室用焼失部材(165)と厚さが異なるが、未焼成拡散室形成部材(161)の積層・圧着時に同じ高さとなる。
【0099】
(10)未焼成隔壁(162)の積層
上記〈1〉(4)で得られた未焼成隔壁(162)を、焼成後にIpセル用正電極(1322)の電極部とIpセル用負電極の電極部との間に配置されるように(図31参照)、上記(9)までに得られた積層体の未焼成Ipセル用正電極(1322)が形成されている側に、第2ブタノールとブチルカルビトールとの混合液を用いて積層し、圧着した。
【0100】
(11)未焼成第4絶縁層(166)の積層
上記〈1〉(5)で得られた未焼成第4絶縁層(166)を、拡散室用焼失部材(165)よりも素子の端子側となる部分を覆うように(図31参照)、上記(10)までに得られた積層体の未焼成Ipセル用正電極(1322)が形成されている側に、第2ブタノールとブチルカルビトールとの混合液を用いて積層し、圧着した。
【0101】
(12)未焼成拡散室形成部材(161)の積層
上記〈1〉(1)で得られた未焼成拡散室形成部材(161)を、未焼成Ipセル用正電極(1322)の電極部は露出するように上記(11)までに得られた積層体の未焼成Ipセル用正電極(1322)が形成されている側に、第2ブタノールとブチルカルビトールとの混合液を用いて積層し、圧着した。
【0102】
(13)未焼成発熱抵抗体(12)の形成
白金粉末94質量部とアルミナ粉末6質量部とを配合した混合粉末と、バインダであるブチラール樹脂と、溶媒であるブチルカルビトールとを混合してスラリー状の未焼成発熱抵抗体用ペーストを調製した。
得られた未焼成発熱抵抗体用ペーストを、上記(12)までに得られた積層体の未焼成絶縁性基部上層(112)上に図25に示す平面形状となるように、厚さ25μmにスクリーン印刷し、乾燥させて未焼成発熱抵抗体(12)を形成した。この未焼成発熱抵抗体(12)は焼成後、リード部よりも幅細に形成された発熱部(121)と発熱部よりも幅広に形成されたリード部(122)とになる。
【0103】
(14)未焼成絶縁性基部下層(111)の積層
上記(13)までに得られた積層体の未焼成発熱抵抗体(12)が形成されている側に、第2ブタノールとブチルカルビトールとの混合液を用いて積層し、未焼成絶縁性基部下層(111)を圧着した。
このようにして、図31に示す順で各層が積層された未焼成積層体を得た。
【0104】
〈3〉脱脂及び焼成
上記〈2〉(14)までに得られた未焼成積層体を、大気雰囲気において、室温から420℃まで昇温速度10℃/時間で昇温させ、420℃で2時間保持し、脱脂処理を行った。その後、大気雰囲気において、1100℃まで昇温速度100℃/時間で昇温させ、更に、1520℃まで昇温速度60℃/時間で昇温させ、1520℃で1時間保持し焼成し全領域空燃比センサ素子(1)を得た。
【0105】
[2]全領域空燃比センサの製造
上記[1]〈3〉までに得られた全領域空燃比センサ素子(1)を用いて図32(紙面上方を素子の上方、紙面下方を素子の下方とする)に示す全領域空燃比センサ(2)を製造した。
この全領域空燃比センサ(2)において、素子(1)は、
ガスセンサを排気管等に取り付けるための螺子部(211)を有する主体金具(21)内に収められたアルミナ質セラミックからなる素子ホルダ(24)、タルク粉末等からなる緩衝材(25)及びセラミックからなるスリーブ(26)に支持されて固定されている。また、センサ素子(1)とスリーブ(26)との間にはリードフレーム(27)を介しており、センサ素子(1)の上端はスリーブ(26)内に配置されている。更に、主体金具(21)の下部には、センサ素子(1)の下部を覆う複数の孔を有する金属製の二重プロテクタ(22)が取設され、主体金具(21)の上部には外筒(23)が取設されている。また、外筒(23)の上部には、センサ素子(1)を外部回路と接続するためのリード線(28)を分岐挿通する貫通孔が設けられたセラミックからなるセパレータ(29)及び耐熱ゴムからなるグロメット(30)を備える。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のガスセンサ素子の一例の横断面を表す模式図である。
【図2】図1及び図6に示すガスセンサ素子のA−A’断面における模式図である。
【図3】隔壁側接触部と固体電解質層側接触部とを説明する説明図である。
【図4】本発明のガスセンサ素子の他例の横断面を表す模式図である。
【図5】本発明のガスセンサ素子の他例の横断面を表す模式図である。
【図6】本発明のガスセンサ素子の他例の横断面を表す模式図である。
【図7】図6に示すガスセンサ素子のB−B’断面における模式図である。
【図8】本発明のガスセンサ素子の他例の横断面を表す模式図である。
【図9】本発明のガスセンサ素子の他例の横断面を表す模式図である。
【図10】本発明のガスセンサ素子の他例の横断面を表す模式図である。
【図11】本発明のガスセンサ素子の他例の横断面を表す模式図である。
【図12】本発明のガスセンサ素子の他例の横断面を表す模式図である。
【図13】本発明のガスセンサ素子の他例の横断面を表す模式図である。
【図14】実施例で用いた未焼成拡散室形成部材の平面形状を示す説明図である。
【図15】実施例で用いた未焼成絶縁性基部上層の平面形状を示す説明図である。
【図16】実施例で用いた未焼成絶縁性基部下層の平面形状を示す説明図である。
【図17】実施例で用いた未焼成律速導入部の平面形状を示す説明図である。
【図18】実施例で用いた拡散室用焼失部材の平面形状を示す説明図である。
【図19】実施例で用いた未焼成IpセルVsセル兼用負電極及び未焼成Vsセル用正電極の平面形状を示す説明図である。
【図20】実施例で用いた未焼成Ipセル用固体電解質層下部及び未焼成Vsセル用固体電解質層下部の平面形状を示す説明図である。
【図21】実施例で用いた未焼成第1絶縁層の平面形状を示す説明図である。
【図22】実施例で用いた未焼成Ipセル用固体電解質層上部及び未焼成Vsセル用固体電解質層上部の平面形状を示す説明図である。
【図23】実施例で用いた未焼成第2絶縁層の平面形状を示す説明図である。
【図24】実施例で用いた未焼成Ipセル用正電極の平面形状を示す説明図である。
【図25】実施例で用いた未焼成発熱抵抗体の平面形状を示す説明図である。
【図26】実施例で用いた発熱抵抗体用未焼成取出電極の平面形状を示す説明図である。
【図27】実施例で用いたIpセルVsセル用未焼成取出電極の平面形状を示す説明図である。
【図28】実施例で用いた未焼成第3絶縁層の平面形状を示す説明図である。
【図29】実施例で用いた未焼成隔壁の平面形状を示す説明図である。
【図30】実施例で用いた未焼成第4絶縁層の平面形状を示す説明図である。
【図31】図14〜図30の各層の積層関係を側面から示す説明図である。
【図32】本発明のガスセンサの一例の断面図である。
【符号の説明】
1、(1a〜1j);ガスセンサ素子、11;絶縁性基部、111;未焼成絶縁性基部下層、112;未焼成絶縁性基部上層、12;発熱抵抗体(未焼成発熱抵抗体)、121;発熱部、122;リード部、13;Ipセル、131;Ipセル用固体電解質層、132;Ipセル用電極、1321;Ipセル用負電極、1322;Ipセル用正電極(未焼成Ipセル用正電極)、13-1;第1Ipセル、131-1;第1Ipセル用固体電解質層、132-1;第1Ipセル用電極、1321-1;第1Ipセル用負電極、1322-1;第1Ipセル用正電極、13-2;第2Ipセル、131-2;第2Ipセル用固体電解質層、132-2;第2Ipセル用電極、1321-2;第2Ipセル用負電極、1322-2;第2Ipセル用正電極、133;固体電解質層側接合部、1311;未焼成Ipセル用固体電解質層下部、1312;未焼成Ipセル用固体電解質層上部、134;未焼成IpセルVsセル兼用負電極、14;Vsセル、141;Vsセル用固体電解質層、142;Vsセル用電極、1421;Vsセル用負電極、1422;Vsセル用正電極(未焼成Vsセル用正電極)、1411;未焼成Vsセル用固体電解質層下部、1412;未焼成Vsセル用固体電解質層上部、151;補助電極、152;マイグレーション防止導体、153;電極封止部、154;発熱抵抗体用未焼成取出電極、155;IpVs用未焼成取出電極、16;拡散室、16-1;第1拡散室部、16-2;第2拡散室部、161;拡散室形成部材(未焼成拡散室形成部材)、162;隔壁(未焼成隔壁)、1621;隔壁側接合部、163;律速導入部(未焼成律速導入部)、164;窒素酸化物用律速部、165;拡散室用焼失部材、166;未焼成第4絶縁層、17;基準ガス導入経路、18;他部材、181;未焼成第1絶縁層、182;未焼成第2絶縁層、183;未焼成第3絶縁層、2;ガスセンサ、21;主体金具、211;取付螺子部、22;二重プロテクタ、23;外筒、24;素子ホルダ、25;緩衝材、26;スリーブ、27;リードフレーム、28;リード線、29;セパレータ、30;グロメット。
Claims (14)
- 絶縁性セラミック体及び該絶縁性セラミック体の表面又は内部に形成された発熱抵抗体を備える絶縁性基部と、該絶縁性基部上に直接的又は他部材を介して間接的に接合され、且つ固体電解質層及び該固体電解質層の表面に接して形成された一対の電極を備える1つ以上の酸素ポンプセル及び1つ以上の酸素検出セルとを備えるガスセンサ素子において、
上記絶縁性セラミック体はアルミナを主成分とし、被測定ガスを導入するための律速導入部を有する拡散室形成部材により区画形成された拡散室を備え、且つ少なくとも1つの上記酸素ポンプセル及び少なくとも1つの上記酸素検出セルが備える各々の一方の電極は該拡散室内の一内壁面側に配置されており、
上記酸素ポンプセルのうちの少なくともいずれかは、該酸素ポンプセルが備える上記一対の電極の両方を、該酸素ポンプセルを構成する上記固体電解質層の一面側に備え、更に、該一対の電極間に、一端側が該固体電解質層の表面に接合され且つアルミナを主成分とする隔壁を備えることを特徴とするガスセンサ素子。 - 上記拡散室形成部材は、アルミナを主成分とする請求項1に記載のガスセンサ素子。
- 上記隔壁は、上記拡散室形成部材の一部を構成する請求項1又は2に記載のガスセンサ素子。
- 一体に焼成されている請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
- 上記隔壁のうち上記酸素ポンプセルを構成する上記固体電解質層との接合面から該隔壁の内部方向へ20μmまでを隔壁側接合部とした場合に、該隔壁側接合部に含有されるアルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及びケイ素成分は、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素及びケイ素元素の各々を酸化物換算した合計量で該隔壁側接合部全体に対して2質量%以下である請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
- 上記隔壁のうち上記隔壁側接合部を除く隔壁側残部に含有されるアルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及びケイ素成分は、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素及びケイ素元素の各々を酸化物換算した合計量で該隔壁側残部全体に対して1質量%以下である請求項5記載のガスセンサ素子。
- 上記固体電解質層は、ジルコニア及びアルミナを含有し、該ジルコニアと該アルミナとの合計を100質量%とした場合に、該アルミナは10〜80質量%であり、且つ、該アルミナの平均粒径は1.0μm以下である請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
- 上記絶縁性セラミック体はアルミナを70質量%以上含有する請求項1乃至7のうちのいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
- 上記絶縁性セラミック体はアルミナを99質量%以上含有する請求項1乃至7のうちのいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
- 上記絶縁性セラミック体はアルミナを70質量%以上且つ99質量%未満含有し、上記発熱抵抗体は、電圧の印加により発熱する発熱部と、該発熱部に接続され該発熱部よりも幅広に形成されたリード部とを備え、且つ、上記絶縁性基部の表面又は内部に該発熱部と該リード部との境界における電位と同じか又は小さい電位に保たれたマイグレーション防止導体を備える請求項1乃至7のうちのいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
- 絶縁性基部(11)と、該絶縁性基部(11)の内部に形成された発熱抵抗体(12)と、該絶縁性基部(11)の片面に併設された複数の固体電解質層(131、141)と、該固体電解質層(131)の同一表面に配置された一対の電極(1321/1322)を備えた酸素ポンプセル(13)と、他の該固体電解質層(141)の同一表面に配置された一対の電極(1421/1422)を備えた酸素検出セル(14)と、被測定ガスが通過する律速導入部(163)を有し、上記各一対の電極(1321/1322、1421/1422)の片方の電極(1321、1421)とで拡散室(16)を形成する拡散室形成部材(161)とが、同時焼成により一体化されてなるガスセンサ素子であって、
(ア)該絶縁性基部(11)と該拡散室形成部材(161)はアルミナを主成分として構成され、
(イ)該拡散室形成部材(161)を延設してなる隔壁(162)が酸素ポンプセルの一対の電極(1321/1322)間に存在する固体電解質(131)の表面に接合されて配置され、さらに
(ウ)該固体電解質層(131)と該隔壁(162)との接合面から20μmの範囲とする境界部分において測定したアルミナ成分を除いた他の成分の量が、拡散室形成部材(161)を構成するアルミナ成分を除いた他の成分に比べて2質量%以上増大している部分が存在しないことを特徴とする同時焼成されたガスセンサ素子。 - 前記固体電解質層(131、132)はジルコニアセラミックが20〜90質量%、アルミナが10〜80質量%含む請求項11記載のガスセンサ素子。
- 上記絶縁性基部(11)はアルミナを70質量%以上且つ99質量%未満含有し、上記発熱抵抗体(12)は、電圧の印加により発熱する発熱部(121)と、該発熱部に接続され該発熱部よりも幅広に形成されたリード部(122)とを備え、且つ、上記絶縁性基部(11)の表面又は内部に該発熱部(121)と該リード部(122)との境界における電位と同じか又は小さい電位に保たれたマイグレーション防止導体(152)を備える請求項11又は12に記載のガスセンサ素子。
- 請求項1乃至13のうちのいずれか1項に記載のガスセンサ素子を備えることを特徴とするガスセンサ。
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