JP4006112B2 - 結晶粒の微細な高張力鋼の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱間圧延によって製造される鋼製品(薄鋼板、厚鋼板、線材、型鋼、棒鋼など)において、その基本特性たる強度・靭性に優れた高張力鋼の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、鋼製品の軽量化、鋼構造物の使用条件の過酷化にともない、より強靭で安全性の高い鋼の開発が求められている。この様な要求に対し、従来、鋼板の製造方法を改善し、金属組織の結晶粒の細粒化を図り、鋼の強度、靭性を改善するための圧延方法が開発されてきた。この様な方法の例としては、いわゆる制御圧延法が上げられ、加速冷却法と組み合わせた製造法として、特開昭63−223124号公報や特開昭63−128117号公報などに示されている。
【0003】
これら従来法に示されている制御圧延法では、比較的高温のオーステナイト(以下、γと略記)の再結晶温度域において圧延パス間で生じる静的再結晶を利用し、γ粒を細粒化する。次いで、鋼板の温度が低下するのを待ち、γの再結晶が生じない温度域(未再結晶温度域)で、再び圧延を行うことによってγの結晶中に転位などの欠陥を導入することが行われている。この様な欠陥は、γがフェライト等に変態するに際して、γ粒界と同様に、フェライト等の変態生成組織の核生成場所となるため、冷却時に多数の結晶粒を一斉に生成させ、金属組織をいっそう微細にすることが可能だからである。
しかし、このような方法で得られるフェライトの粒径は小さいといってもせいぜい5μm程度であり、より結晶粒を微細化する方法が求められている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は制御圧延や加速冷却といった従来の結晶粒微細化手段では得られないような顕著な細粒を得ることができる加工、冷却方法により、強靭な高張力鋼の製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決する手段として、以下の製造方法を創案した。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を解決するものであって、その要旨とするところは、
(1)質量%で、C:0.03〜0.9%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.01〜5.0%、Al:0.001〜0.5%、N:0.001〜0.1%、Nb:0.003〜0.5%、Ti:0.003〜0.5%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、C%+(12/14)N%≧(12/48)Ti%+(12/48)Nb%+0.03%を満たす鋼片を鋳造まま、圧延するかもしくは圧延することなくそのまま一度500℃〜室温までの温度に冷却した後に、Ac3 点−100℃〜Ac3 点未満の温度に加熱し、圧延するかもしくは圧延することなくそのまま500℃〜室温までの温度に冷却速度を0.1〜50℃/秒として冷却し、再び700℃以下550℃以上の温度に加熱し、700℃以下550℃以上の温度で熱間圧延を行うに際して、1パスの圧下率を20%以上として1パスまたはパス間時間を10秒以内とした連続する2パス以上の加工を、歪速度を1〜200/秒、総歪量を0.8以上5以下となる条件で行った後、放冷することを特徴とする、結晶粒の微細な高張力鋼の製造方法。
【0006】
(2)前記Ac3 点−100℃〜Ac3 点未満の温度への加熱に先だって、Ac3 点〜1350℃の温度に加熱して鋼片の均一化処理を行った後圧延するかもしくは圧延することなくそのまま500℃〜室温まで0.1〜50℃/秒の冷却速度で冷却することを特徴とする、前記(1)に記載の結晶粒の微細な高張力鋼の製造方法。
【0007】
(3)質量%で、C:0.03〜0.9%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.01〜5.0%、Al:0.001〜0.5%、N:0.001〜0.1%、Nb:0.003〜0.5%、Ti:0.003〜0.5%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、C%+(12/14)N%≧(12/48)Ti%+(12/48)Nb%+0.03%を満たす鋼片を鋳造まま、圧延するかもしくは圧延することなくそのまま一度500℃〜室温までの温度に冷却した後に、Ac3 点〜1350℃の温度に加熱し、鋼片の均一化処理を行った後、圧延するかもしくは圧延することなくそのまま500℃〜室温まで0.1〜50℃/秒の冷却速度で冷却し、再びAc3 点〜1250℃の温度に加熱して、熱間圧延を行うかもしくは熱間圧延を行うことなくそのまま、放冷時のAr3 点以上の温度から、0.1〜50℃/秒の冷却速度で、700℃以下550℃以上の温度であって、当該冷却速度でのAr3 点+50℃以下Ar3 点−50℃の温度まで冷却を行った後、直ちに1パスの圧下率を20%以上として1パスまたはパス間時間を10秒以内とする連続する2パス以上の加工を、歪速度を1〜200/秒とし、その総歪量を0.8以上5以下となる条件で行った後、放冷することを特徴とする、結晶粒の微細な高張力鋼の製造方法。
【0008】
(4)熱間圧延終了後90秒以内に、室温以上500℃未満の温度まで1〜50℃/秒の冷却速度で強制冷却することを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の結晶粒の非常に微細な高張力鋼の製造方法。
(5)前記強制冷却後に、300℃〜Ac1 の温度で焼き戻しを行うことを特徴とする、前記(4)に記載の結晶粒に微細な高張力鋼の製造方法。
【0009】
(6)前記鋳片が、質量%で、V:0.001〜0.5%を、さらに含有することを特徴とする、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の結晶粒の非常に微細な高張力鋼の製造方法。
(7)前記鋳片が、質量%で、Mo:0.01〜1%、Ni:0.01〜5%、Cr:0.01〜3%、Cu:0.01〜3%、B:0.0001〜0.003%の1種以上を、さらに含有することを特徴とする、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の結晶粒の微細な高張力鋼の製造方法。
(8)前記鋼片が、質量%で、REM:0.002〜0.10%を、さらに含有することを特徴とする、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の結晶粒の微細な高張力鋼の製造方法にある。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、従来の制御圧延による細粒化方法を冶金的な見地から検討してみると前述したように、主に以下の効果によるものであると考えられる。
(1)比較的高温のオーステナイト(以下、γと略記)の再結晶温度域において圧延 パス間で生じる静的再結晶を利用し、γ粒を細粒化する。
(2)さらに、比較的低温であるところのγの再結晶が生じない温度域(未再結晶温度域)で圧延を行うことによって、γの結晶中に転位などの欠陥を多数導入する。
【0011】
(3)上記のようなγ粒界や転位などの欠陥は、γがフェライト等に変態するに際して、変態生成組織の核生成場所となるため、金属組織を微細にする。
これらのうち(1)〜(3)はいずれもフェライト等の変態生成組織の核生成場所を提供するものであって、これにより最終的なフェライトの結晶粒径を微細にするものであり、いずれもオーステナイトからフェライトへの変態時に発生するフェライト粒数を増加させ微細化を図る。しかし、このような変態を利用した微細化では通常の鋼のオーステナイトからフェライトへの変態開始温度は750℃から800℃と比較的高温であり結晶粒成長が速いためにせいぜい5μm程度の結晶粒しか得られない。
【0012】
また、強制冷却によりフェライト変態の温度を強制的に低下させることができるがこのような場合には生成するフェライトが針状であったり、ベイナイトが生成するなど靱性の観点から好ましくない組織となる。
そこで本発明者らは、上記のような変態を利用した細粒化の限界を打破し、著しい細粒のフェライト組織を得る方法として、以下を発明した。
(1)フェライトとパーライト、ベイナイト、マルテンサイトの混合組織を適正な前処理を経て大歪みで加工し、冷却することによって、フェライト粒を圧延途中、ロール下において再結晶(以下、動的再結晶と呼称)を生じせしめることにより、フェライト結晶粒を極めて微細にすることができる
【0013】
(2)適正な前処理を行った鋼材をオーステナイト温度域へ再加熱した後の強制冷却中のAr3 点直上〜直下においては金属組織はオーステナイトもしくはオーステナイトと若干のフェライトを含む混合組織である。これを大歪みで加工することによって、圧延途中にロール下においてオーステナイトを微細なフェライトに変態(以下、動的変態と呼称)させることができる。さらにこのようにして生成した微細フェライトはさらに変態と同時にロール下において動的再結晶するとみられ、フェライト結晶粒を極めて微細とすることができる。動的変態による微細フェライトの生成は、ひきつづいてほぼ同時に起こるフェライトの動的再結晶による微細化を促進する。
(3)上記加工方法に対して、結晶粒成長の抑制等により顕著な効果を有するNbおよびTiを必須元素として添加することによりフェライトの微細化を顕著に促進する。
【0014】
本発明の根幹となる技術の要点は以下の通りである。
(1)フェライトの動的再結晶による微細化
フェライトの動的再結晶により結晶粒は1μm以下に微細化できる。このときの、微細かつ均一なフェライト粒を得るためには以下のような前処理、加工および冷却に関する条件が必要である。
まず、動的再結晶を生じせしめる加工前の組織は、フェライトとパーライト、ベイナイト、マルテンサイトなどの第2相との混合組織が望ましい。これは、第2相とフェライトの間の変形抵抗差のためフェライトがより加工されやすくなることと加工によりフェライトが伸延、再結晶する際に第2相により分断されているために極めて薄く伸び、再結晶後の粒成長、合体も抑えられる為と考えられる。
【0015】
このような前組織としてはフェライトとパーライトに比較してフェライトとベイナイトまたはマルテンサイトとの混合組織が望ましく、この目的でフェライトを再結晶させる為の加工を行う700℃以下550℃以上の温度への再加熱に先だって、鋼片を一度Ac3 点−100℃〜Ac3 点未満の温度に再加熱し、圧延等による熱間加工を行うかあるいはそのまま500℃以下の温度まで0.1〜50℃/秒で冷却する。また、このようなAc3 点近傍の加熱を行うのは、前組織をできるだけ微細な組織とするためで、このとき金属組織は微細なオーステナイトと微細なフェライトを含む組織となっており、これを冷却することにより微細なフェライトと微細なベイナイトまたはマルテンサイトの混合組織が得られる。しかし、このような処理を行った場合、鋼片の含有元素の偏析によって不均一な組織を呈しやすい。これを回避するためさらに、Ac3 点−100℃〜Ac3 点未満の温度への再加熱の前にAc3 点〜1350℃の温度に再加熱し、鋼片の均一化処理を行うことにより均一な微細粒を得ることができる。
【0016】
次に、このようにして得られた前組織(フェライトとベイナイトまたはマルテンサイトとの混合組織)を再加熱して、加工を行いフェライトを微細に再結晶させるのであるが、この時の再加熱温度は、フェライトとベイナイトまたはマルテンサイトといった第2相(正確には、これらの組織中に含有されるセメンタイト)が共存する温度でなければならず、本発明の主眼は第2相が微量に存在するフェライト主体の組織を動的再結晶させることによるのでフェライトの組織分率がある程度(少なくとも60%程度)必要であるが、これを安定的に達成するには加工前の加熱温度は、700℃以下であることが必要である。 また、加工による動的再結晶後の粒成長を抑制する観点からも加工温度は700℃以下であることが望ましい。しかし、加工温度が低すぎると原子の拡散が著しく遅延し安定的に動的再結晶を生じさせられない。このような観点から550℃以上の温度で加工することが必要である。
【0017】
また、加工における歪み量および歪み速度は安定的に動的再結晶を生じさせ、かつ再結晶後の結晶粒径を微細にできるように設定することが必要である。動的再結晶は加工による歪み量がある値以上に大きな場合に限って発生し、歪み速度は遅いほど生成しやすい。しかし、歪み速度が遅い場合には、得られる結晶粒は歪み速度が速い場合に比較して大きい傾向がある。また、歪み速度が大きすぎると動的再結晶が生じず、加工時の荷重も極めて大きくなる。このような特性を鑑み、動的再結晶により均一化と微細な金属組織を得る条件を実験的に検討した結果、本発明の温度範囲では0.8以上の歪みが必要で、適当な歪み速度の範囲は概ね1〜200/秒であった。
【0018】
次に、上記の加工は1パスで行っても2パス以上で行ってもパス間時間を短時間とすればその効果は基本的に変わらない。本発明の温度範囲では加工温度が比較的低くパス間での回復がそれほど速くなくパス間時間を10秒以内とすれば、その間の回復は小さく、多パスでの歪みがほぼ累積するからである。但し、1パス当たりの圧下率を増加させパス数を低減させるほど細粒化効果は大きい。
最後に、上記の加工により加工直後には極めて微細なフェライト組織を得ることができるが、これを加工終了後、速やかに冷却することはフェライトの結晶粒成長の抑制を可能とし、より微細な組織を得ることを可能とする。また、加工時の第2相を調質、軟化させるために加工、冷却後に焼き戻しを行うことで結晶粒の非常に微細な鋼の製造ができる。
【0019】
(2)オーステナイトの動的変態による微細化
(1)ではフェライトの動的再結晶により結晶粒は1μm以下に微細化するための条件について述べた。ここでは、加工中のフェライト変態(動的変態)およびそれに引き続いて生じるフェライトの動的再結晶による微細化の条件について説明する。
まず、加工中の変態(動的変態)とは、鋼片の冷却過程において平衡変態温度Ae3 点以下の温度であって、当該冷却速度での変態温度Ar3 点直上の温度で強度の加工を行うことによって、加工のエネルギーにより変態が誘発され加工中に変態が生じる現象である。この場合、加工によるエネルギーが散逸しないことや何らかの理由により変態が遅延している部分があればその部分のオーステナイトは強度に加工されることによって、変態が促進され、微細かつ均一な変態組織が得られる。また、同時に加工中に変態したフェライト粒は引き続いて加工され、再結晶することによってフェライト粒はいっそう微細化されると考えているところである。
【0020】
このような方法による場合にも、微細かつ均一なフェライト粒を得るためには以下のような前処理、加工および冷却に関する条件が必要である。
まず、動的変態を生じせしめる加工前の組織は、基本的にはオーステナイトであるが、結晶粒径が微細であれば、フェライトは加工により再結晶し十分微細となるので、フェライトとの混合組織であっても良い。この目的で鋼片を動的変態させるための加工を行う温度は、Ar3 点近傍の温度範囲Ar3 +50℃〜Ar3 −50℃とすることが必要である。加工温度が高すぎては動的変態が生じず、低過ぎれば加工前に生成してしまった比較的粗大なフェライト粒が多く生成し、加工を行っても微細化が十分になされない。
【0021】
また、加工前のオーステナイトをできるだけ微細にしておくことは動的変態が生じやすくすることや変態後のフェライトの細粒化の観点から有効である。このような観点から、一連の加工のなかで動的変態を生じさせる加工の以前にオーステナイトの再結晶による結晶粒の微細化を行うための加工を行うことや鋼片の前処理として再加熱の前に鋼片を一度Ac3 点〜1350℃の温度に加熱し、圧延等による熱間加工を行うかあるいは加工を行わずにそのまま500℃以下の温度まで0.1〜50℃/秒で冷却することは前組織の微細化を可能とし最終的フェライト組織の微細化をさらに促進する。
【0022】
次に、このようにして得られた前組織(オーステナイトまたはオーステナイトと若干のフェライトとの混合組織)を強加工してオーステナイトを微細なフェライトに動的変態させるのであるが、この時の加工温度は、加工前の組織をオーステナイトまたはオーステナイトが若干のフェライト含む程度の温度でなければならず、このような観点から、Ar3 点直上あるいは、Ar3 +50℃以下Ar3 −50℃以上の温度とすることが必要である。また、動的変態による微細フェライトが十分な量生成するためには、加工温度が熱力学的平衡温度Ae3 点より100℃程度低い温度(概ね700℃以下)であることが必要である。
【0023】
また、同時に本法では加工中に動的変態が生じた後に変態して生成したフェライトが同じく動的に再結晶すると考えられるので、(1)に述べたと同様に、加工による動的再結晶後の粒成長を抑制する観点から加工温度は700℃以下であることが望ましいが、加工温度が低すぎると原子の拡散が著しく遅延し安定的に動的再結晶を生じさせられない。このような観点から550℃以上の温度で加工することが必要である。以上の観点から、加工温度はAr3 +50℃以下Ar3 −50℃以上であって、700℃以下550℃以上の温度が良い。
【0024】
次に、加工における歪み量および歪み速度は安定的に動的変態および動的再結晶を生じさせ、かつ動的再結晶後の結晶粒径を微細にできるように設定することが必要である。
動的変態に伴って生成する微細粒の量は加工による歪み量にともなって増加し、結晶粒も微細化する。また、動的変態そのものは歪み速度は遅いほど発生しやすいが、歪み速度が遅い場合には、生成したフェライトが比較的に大きくなるとともに変態後に引き続いて加工を受けても再結晶せず扁平粒となり等軸粒が得られない。このような特性を鑑み、動的再結晶により均一かつ微細な金属組織を得る条件を実験的に検討した結果、本発明の温度範囲では、ほぼ、フェライトの動的再結晶の場合と同様な条件であるところの必要歪み量0.8以上、適当な歪み速度の範囲は概ね1〜200/秒であることが判明した。
【0025】
次に、上記の加工は1パスで行っても2パス以上で行ってもパス間時間を短時間とすればその効果は基本的に変わらない。本発明の温度範囲では加工温度が比較的低くパス間での回復がそれほど速くなくパス間時間を10秒以内とすれば、その間の回復は小さく、多パスでの歪みがほぼ累積するからである。但し、1パス当たりの圧下率を増加させパス数を低減させるほど細粒化効果は大きい。
最後に、上記の加工により加工直後には極めて微細なフェライト組織を得ることができるが、これを加工終了後、速やかに冷却することによりフェライトの結晶粒成長を抑制することを可能とし、よりすぐれた特性を得ることを可能とする。また、加工時の第2相を調質、軟化させるために加工、冷却後に焼き戻しを行うことで結晶粒の非常に微細な鋼の製造ができるのである。
【0026】
(3)Nb、Tiによる粒成長抑制
上記の細粒化方法に対して、結晶粒成長の抑制等により顕著な効果を有するNbおよびTiを必須元素として添加する。
以下には、各成分、製造条件の限定の理由について述べる。
Cは鋼の強化を行うのに有効な元素であり0.03%未満では十分な強度が得られない。一方、その含有量が0.9%を越えると、溶接性を劣化させる。
Siは脱酸元素として、また、鋼の強化元素として有効であるが、0.01%未満の含有量ではその効果がない。一方、1.0%を越えると、鋼の表面性状を損なう。
【0027】
Mnは鋼の強化に有効な元素であり、0.01%未満では十分な効果が得られない。一方、その含有量が5.0%を越えると鋼の加工性を劣化させる。
Alは脱酸元素として添加されるが0.001%未満の含有量ではその効果がなく、0.5%を越えると、鋼の表面性状を劣化させる。
Ti、Nbは、いずれも微量の添加で結晶粒の微細化と析出強化の面で有効に機能する。特に、これらによる結晶粒の微細化の効果は顕著なので靭性を劣化させない範囲で使用する。このような観点からその添加量の上限を0.5%とする。また、その添加量の下限を0.003%とするのはこれ未満では効果がないからである。
【0028】
Vは、析出強化の面で有効に機能するので靭性を劣化させない範囲で使用しても良い。このような観点からその添加量の上限を0.5%とする。また、その添加量の下限を0.001%とするのはこれ未満では効果がないからである。
Cu,Ni,Cr,Mo,Bはいずれも鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、本発明の場合、その添加により鋼の強度を高めることができる。しかし、過度の添加は鋼の靭性および溶接性を損なうため、0.01%≦Cu≦3.0%、0.01%≦Ni≦5.0%、0.01%≦Cr≦3.0%、0.01%≦Mo≦1.0%、0.0001%≦B≦0.003%に限定する。Cu,Ni,Cr,Moのそれぞれの下限を0.01%、Bの下限を0.0001%としたのはこれ未満では効果がないからである。
【0029】
REMは、Sの無害化に有効であるが、添加量が少ないとその効果が無く、また、過度の添加は靱性を損なうため、REMは、0.002〜0.10%に限定する。
その他、不可避的不純物であるP、Sの含有量はそれぞれ0.02%以下、0.008%以下が好ましい。
【0030】
次に、本発明における製造条件に付いて述べる。
本発明はいかなる鋳造条件で鋳造された鋼片についても有効であるので、特に鋳造条件を特定する必要はない。また、本発明の根幹となる加工の方法は、一度、変態を完了させた後で550℃〜700℃に加熱し、その温度域でフェライトの動的再結晶を生じさせる加工を行う方法(請求項1および請求項2に関する方法)と一度オーステナイト温度域に加熱し、その冷却過程でオーステナイトを動的に変態させさらに動的に再結晶させる加工を行う方法(請求項3に関する方法)があり、それぞれその処理に先だって、組織微細化のための再加熱・加工処理や均一化のための均熱・加工処理を行うものである。
【0031】
請求項1に示す前者の方法の場合には、鋳片を鋳造後、一度冷却することなく圧延を行った後かあるいはそのまま圧延をせずに一度500℃〜室温の温度まで冷却した後に、さらにAc 3 点−100℃〜Ac 3 点未満の温度に再加熱し、圧延等による熱間加工を行うかあるいはそのまま500℃〜室温の温度まで0.1〜50℃/秒で冷却し、さらに700℃以下550℃以上の温度に再加熱し、700℃以下550℃以上の温度で熱間加工を行うに際して、一連の熱間加工のうち、1パスの圧下率を20%以上として1パスまたはパス間時間を10秒以内とした連続する2パス以上の加工を700℃以下550℃以上の温度かつ圧延の歪速度を1〜200/秒とし、その総歪量を0.8以上5以下となる条件で加工を行い、その後、放冷もしくは請求項4に示す熱間加工終了後90秒以内に室温〜500℃の温度まで1℃/秒〜50℃/秒以下の冷却速度で強制冷却し、必要に応じて請求項5に示す300℃〜Ac1 の温度で焼き戻しを行う。
【0032】
また、前記Ac3 点−100℃〜Ac3 点未満の温度への再加熱に先だって、Ac3 点〜1350℃の温度に再加熱し、請求項2に示す鋼片の均一化処理を行う。
【0033】
まずここで、700℃以下550℃以上の温度で熱間加工を行うに際して、鋳片を鋳造後、一度冷却することなく圧延を行った後かあるいはそのまま圧延をせずに一度500℃以下の温度まで冷却した後に再びAc 3 点−100℃〜Ac 3 点未満の温度に再加熱して熱間圧延を行うか行わずにそのまま500℃〜室温まで冷却して、さらに700℃以下550℃以上の温度に再加熱して行うのは、700℃以下550℃以上の温度での熱間圧延前の金属組織を微細なフェライトとベイナイト、またはマルテンサイトの混合組織となり本発明の基本的な要件を満たすからである。
【0034】
熱間加工を行う700℃以下550℃以上の温度への加熱に先立って実施する処理において、再加熱温度をAc3 点−100℃〜Ac3 点未満としたのは、金属組織を一度微細なオーステナイトまたは微細なオーステナイトと微細なフェライトの混合組織とするためであり、再加熱後の冷却速度を0.1〜50℃/秒としたのはオーステナイトを微細なフェライトと微細に分散したベイナイトの混合組織とするためである。
【0035】
再加熱温度がAc 3 以上の温度では、オーステナイトが無駄に粒成長し、金属組織の微細化が図れないからであり、Ac3 点−100℃未満では、加熱前に存在していた比較的大きなフェライト粒が多く残存するために、加工前の組織として望まれる微細なフェライトとベイナイトの混合組織状態が得られないからである。また、冷却速度が0.1℃/秒未満では冷却時の変態によるフェライトの微細化は期待できず粗大なフェライト組織となってしまう。また、冷却速度が50℃/秒超ではフェライトが生成せず全体がベイナイトやマルテンサイトの金属組織となってしまう。なお、この再加熱の際には、冷却過程で圧延等による熱間加工を行ってもよい。
【0036】
さらに、上記のAc3 点−100℃〜Ac3 点未満への再加熱の前にAc3 点〜1350℃の温度に再加熱し、鋼片の均熱化処理を行うことにより偏析等に起因する金属組織の不均一を回避し、700℃以下550℃以上の温度の加工による金属組織の微細化を鋼片内で均一に生じさせるために有効だからである。ここで、均熱化温度をAc3 点以上としたのは、これ未満の温度では温度が低すぎ十分に元素の拡散が生じないため均一な状態が得られないからである。また、1350℃超に加熱すると金属組織の粗大化が顕著となり、後の金属組織微細化に好ましくないからである。
【0037】
また、均熱化処理後に0.1〜50℃/秒の冷却速度で冷却を行うのは、均熱処理により均一に拡散した原子をできるだけそのままの状態に保持したいからである。冷却速度0.1℃/秒未満では、フェライト変態時に生じる元素の分配(フェライト−オーステナイト間で生じる元素の移動)を回避できないがこれを回避するためには50℃/秒で十分だからである。なお、この均熱化処理の際には、冷却過程で圧延等による熱間加工を行ってもよい。
【0038】
次に、フェライトの動的再結晶を生じさせる加工は、700℃〜550℃で行う必要がある。これは、700℃超の温度では、逆変態によりオーステナイトの体積分率が増加し、フェライト部分を微細化できたとしてもそれが一部分に過ぎず、目的とする組織が得られないからである。それは、同一条件で加工を受けたフェライト部分とオーステナイト部分では結晶粒径はフェライト部分の方がかなり微細だからである。また、動的再結晶したフェライト部分の粒径も加工温度が高くなるに従って大きくなる傾向があり、加工温度はできるだけ低い方が好ましい。しかしながら、加工温度が低すぎると原子の拡散が生じにくくなり、再結晶が起こりにくくなる。このような場合、加工されたフェライト粒は単に扁平するだけとなり、微細な整粒組織が得られない。そこで、安定的にフェライトの動的再結晶が生じるためには550℃以上の温度域で加工を行う必要がある。
【0039】
次に、700℃〜550℃での加工における歪み量は、この温度域で加工中に組織全体に再結晶が生じ、かつ再結晶後の結晶粒径が微細であることが必要である。組織全体に再結晶が生じるためには加工量が一定量以上必要であり、このような観点から一連の加工による総歪み量は0.8以上が必要である。また、歪み量は0.8以上確保されれば、大きければ大きいほど良いが、通常の圧延等の加工においては5を超える歪み量を確保するのは難しい。そこで本発明では与える歪み量の上限を5とした。
【0040】
また、加工時の歪み速度は小さいほど動的再結晶は生じやすく、歪み速度が大きいほど生じにくい。一方、歪み速度が小さいと加工中の転位の減少(動的回復)が大きく、その結果、再結晶後に得られる結晶粒径は大きく、歪み速度が大きいほど結晶粒径は小さい。このような動的再結晶の生じ易さと再結晶後の結晶粒径の両者を考慮すると歪み速度には適正な範囲が存在する。この観点から加工中の歪み速度は1/秒以上200/秒以下と限定した。1/秒未満では加工に要する時間が長すぎこの間に転位の回復が生じてしまい、フェライト中に多数の転位を導入することができず、動的再結晶が生じたとしても微細な結晶粒を得られないからである。
【0041】
また、加工時の歪み速度を200/秒以下としたのは、これを超える歪み速度では、700℃〜550℃の温度域で動的再結晶を生じさせるのが難しいからである。また、上記の圧延は、1パスで行うことが望ましいが、多パスで行う場合には、パス間時間を10秒以内とすることが必要である。これはパス間時間を10秒超とするとパス間でフェライトの回復が生じてしまい歪みの累積効果が得られないからである。
【0042】
次に、動的再結晶を生ぜしめる一連の熱間加工に引き続いて、請求項4に示す強制冷却を行う方法について説明する。まず、強制冷却の効果は、加工後に得られた微細なフェライト組織がその後の放冷の間に結晶粒成長によって成長し、微細組織が損なわれることを抑制するためである。本発明においてはこのような観点から動的変態を生じさせる熱間加工に引き続いて、90秒以内に強制冷却を開始し、室温〜500℃の温度までを1〜50℃/秒で冷却を行うことの有効性を規定している。ここで、冷却開始を加工終了から90秒以内としたのは、加工時に動的再結晶により生成した微細なフェライト組織が粒成長によって粗大化するのを防止するために可及的に速やかに冷却を開始することを意味するもので、これを超えてからの冷却ではその効果が最大限に発揮されず、加工後に放冷した場合とあまり変わらなくなり、強制冷却の効果が顕著に現れないからである。
【0043】
つぎに、冷却の終了温度を室温〜500℃としたのは、500℃超の温度ではまだ温度が高すぎ、原子の拡散が容易に生じ、加工によって得られた微細なフェライト組織の粒成長を抑制できないからであり、室温以上としたのはこれ未満の温度への冷却は通常の水冷等では容易に実施できないからである。
また、請求項5は上記のような強制冷却を行った際にはフェライト中に固溶している炭素原子がセメンタイトとして析出せず室温でもフェライト中に過飽和となって固溶し、著しい靭性の劣化を生じさせる可能性がある。このような場合、300℃〜Ac1 点の温度で焼き戻しを行うことによって、固溶炭素をセメンタイトとして析出させ強度靭性の優れた金属組織とすることができる。焼き戻し処理はこのような目的のために実施するものであり、300℃未満では温度が低すぎ炭素原子が容易に拡散せず焼き戻しが短時間で実施できないからであり、Ac1 点以下としたのはこれを超えると逆変態が生じてしまい、せっかく生成した微細組織を破壊してしまうからである。
【0044】
次に、請求項3に示す後者の方法の場合について説明する。
請求項3に示す方法の場合には、鋼片を鋳造後、冷却すること無くそのまま熱間圧延を開始しても一度500℃〜室温の温度まで冷却した鋼片をAc 3 点〜1350℃の温度に再加熱し、圧延等による熱間加工を行うかあるいはそのまま500℃以下の温度まで0.1〜50℃/秒で冷却する鋼片の均一化処理を行った後、Ac3 点〜1250℃に再加熱した後に圧延を行う。
また、この方法では上記の再加熱の後、熱間加工を行うに際して、一連の熱間加工の最後にAr3 点以上の温度から0.1〜50℃/秒の冷却速度で700℃以下550℃以上の温度であって当該冷却速度でのAr3 点+50℃〜Ar3 点−50℃の温度まで冷却を行い、直ちに1パスの圧下率を20%以上として1パスまたはパス間時間を10秒以内とする連続する2パス以上の加工をかつ圧延の歪速度を1/秒〜200/秒とし、その総歪量を0.8以上5以下となる条件で加工を行い、その後、放冷もしくは請求項4に示す熱間加工終了後90秒以内に室温〜500℃の温度まで0.1℃/秒〜50℃/秒以下の冷却速度で強制冷却し、必要に応じて請求項5に示す300℃〜Ac1 の温度で焼き戻しを行う。
【0045】
ここで再加熱の温度をAc3 点以上としたのはこれ未満では圧延時の鋼の金属組織が加熱前に残存していた粗大なフェライトとオーステナイトの不均一な混合組織となり最終的な鋼の金属組織を微細化できないからである。また再加熱温度の上限を1250℃としたのはこれを超える温度では鋼の金属組織が粗大化し、所望の結晶粒の微細化効果が得られないからである。
【0046】
さらに、上記のAc3 点〜1250℃への再加熱にさきだってAc3 点〜1350℃の温度に再加熱するのは、鋼片の均熱化処理を行うことにより偏析等に起因する金属組織の不均一を回避するとともに金属組織を一度変態させておくことによって初期組織を微細にし、引き続くAc3 点〜1250℃の再加熱時のオーステナイトを微細化することにより最終加工による金属組織の微細化や鋼片内で微細粒を均一に生じさせるために有効だからである。ここで、均熱化温度をAc3 点以上としたのは、これ未満の温度では温度が低すぎ十分に元素の拡散が生じないため均一な状態が得られないからである。また、1350℃超に加熱すると金属組織の粗大化が顕著となり好ましくないからである。また、均熱化処理後に0.1〜50℃/秒の冷却速度で冷却を行うのは、均熱処理により均一に拡散した原子をできるだけそのままの状態に保持したいからである。冷却速度0.1℃/秒未満では、フェライト変態時に生じる元素の分配(フェライト−オーステナイト間で生じる元素の移動)を回避できない。また、これを回避するためには50℃/秒で十分だからである。なお、この均熱化処理の際には、冷却過程で圧延等による熱間加工を行ってもよい。
【0047】
次に、金属組織を微細にする加工について説明する。本発明法が利用する冶金原理は、過冷却されたオーステナイトを強加工することによって生じる加工中に変態する動的変態とそれに引き続くフェライトの動的再結晶である。従って、加工前の金属組織は強制冷却により、過冷却状態にあるオーステナイト組織が好ましい。このような目的で、本発明法では鋼片を鋳造後直接かまたはAc3 点〜1250℃に再加熱した後に熱間加工を行うに際して、一連の熱間加工の最後に放冷時のAr3 点以上の温度から0.5〜50℃/秒の冷却速度で700℃以下550℃以上の温度であって当該冷却速度でのAr3 点+50℃〜Ar3 点−50℃の温度まで冷却を行う。
【0048】
ここで、放冷時のAr3 点以上の温度から0.1〜50℃/秒の冷却速度で冷却するのは、オーステナイトを未変態の状態で過冷却の状態とするためであり、Ar3 点未満の温度から冷却したのでは、冷却開始前に粗大なフェライトが生成してしまっており、その後に冷却を行っても冷却後の加工で動的変態を生じさせることができず、金属組織を微細化することができない。また、この強制冷却の冷却速度を0.1℃/秒以上としたのはこれ未満の冷却速度では、冷却中に生じるフェライトの生成を抑制することができず、上記と同様にオーステナイトを未変態のまま過冷却状態にすることができないからであり、冷却速度の上限を50℃/秒としたのは通常の水冷等により得られる上限の冷却速度だからである。
また、この冷却の終了温度を当該冷却速度におけるAr3 +50℃以下Ar3 −50℃以上であって、700℃以下550℃以上の温度としたのは、以下の理由による。
【0049】
まず、本発明法においては冷却終了直後に実施される熱間加工時に生じる動的変態により鋼片全体に渡って均一な微細粒を得るためには、熱力学的考察から加工温度がAe3 点より100℃以上低い温度(概ね700℃以下)であることが必要があり、また、冷却中に変態が生じてしまわないために当該冷却速度でのAr3 温度直上で冷却を終了することが望ましい。
また、本発明法では加工中に動的変態が生じた後に、変態して生成したフェライトも加工中に動的に再結晶すると考えられるので、加工による動的再結晶後の粒成長を抑制する観点からも加工温度は700℃以下であることが望ましい。しかし、加工温度が低すぎると原子の拡散が著しく遅延し安定的に動的再結晶を生じさせられないため550℃以上の温度が好ましい。
【0050】
以上の観点から、冷却終了温度は、Ar3 +50℃以下Ar3 −50℃以上であって、700℃以下550℃以上の温度と規定した。ここで、冷却終了温度をAr3 +50℃以下Ar3 −50℃以上としたのは、上記した理由から本来Ar3 点直上が冷却終了温度として好ましいが、工業的実現性の見地から若干のオーステナイトの過冷却度の低下と加工前のフェライトの生成を許容して定めた。冷却終了温度がAr3 +50℃を超えると加工時のオーステナイトの過冷却度が低下し、加工により安定的に動的変態を生じさせることができず微細組織を得られない。また、Ar3 −50℃未満では加工前に生成する粗大なフェライトの量が多すぎ、加工により安定的に動的変態を生じさせることができず微細組織を得られない。また、冷却終了温度が700℃超では、加工時のオーステナイトの過冷却度が低下し、加工により安定的に動的変態を生じさせることができないばかりか、加工後の粒成長により微細組織を得られない。また、冷却終了温度が550℃未満では原子の拡散が著しく遅延し安定的に動的変態や動的再結晶が生じにくく、微細整粒のフェライト組織を得られない。
【0051】
次に、冷却後の加工における歪み量および歪み速度について説明する。当該の加工における歪みと歪み速度は、安定的に動的変態を生じさせ、さらにそれに引き続く動的再結晶とにより結晶粒を微細にできるように設定することが必要である。
まず、動的変態に伴って生成する微細粒の量は加工による歪み量にともなって増加し、結晶粒も微細化する。また、動的変態そのものは歪み速度は遅いほど発生しやすいが、歪み速度が遅い場合には、生成したフェライトが大きく、さらに変態後に引き続いて加工を受けても再結晶せず扁平粒となり等軸粒が得られない。また、歪み速度が極度に速すぎる場合には動的変態が生じにくく、適正な歪み速度範囲が存在する。このような特性を鑑み、動的変態とその後の動的再結晶により均一化かつ微細な金属組織を得る条件を実験的に検討した結果、本発明の温度範囲ではほぼ、フェライトの動的再結晶の場合と同様な条件であるところの必要歪み量0.8以上であって、大きければ大きいほど良いが、通常の圧延等の加工においては5を超える歪み量を確保するのは難しいので与える歪み量の上限を5とした。
【0052】
また、同様に適当な歪み速度の範囲は概ね1〜200/秒であり、歪み速度の範囲をこの範囲に規定した。歪み速度1/秒未満では加工に要する時間が長すぎこの間に動的変態によって生じるフェライトが微細とならず、動的再結晶も生じない。また、加工時の歪み速度を200/秒以下としたのは、これを超える歪み速度では、700℃〜500℃の温度域で動的再結晶を生じさせるのが難しいからである。
【0053】
次に、上記の加工は1パスで行っても2パス以上で行ってもパス間時間を短時間とすればその効果は基本的に変わらない。本発明の温度範囲では加工温度が比較的低くパス間での回復がそれほど速くなくパス間時間を10秒以内とすれば、その間の回復は小さく、多パスでの歪みがほぼ累積するからである。但し、1パス当たりの圧下率を増加させパス数を低減させるほど細粒化効果は大きい。
最後に、上記の加工は、1パスで行うことが望ましいが、多パスで行う場合には、パス間時間を10秒以内とすることが必要である。これはパス間時間を10秒超とするとパス間でフェライトの回復が生じてしまい歪みの累積効果が得られないからである。
【0054】
次に、動的再結晶を生ぜしめる一連の熱間加工に引き続いて、請求項4に示す強制冷却を行う方法について説明する。まず、強制冷却の効果は、加工後に得られた微細なフェライト組織がその後の放冷の間に結晶粒成長によって成長し、微細組織が損なわれることを抑制するためである。本発明においてはこのような観点から動的変態を生じさせる熱間加工に引き続いて、90秒以内に強制冷却を開始し、室温〜500℃の温度までを1〜50℃/秒で冷却を行うことの有効性を規定している。ここで、冷却開始を加工終了から90秒以内としたのは、加工時に動的変態により生成した微細なフェライト組織が粒成長によって粗大化するのを防止するために可及的に速やかに冷却を開始することを意味するもので、これを超えてからの冷却ではその効果が最大限に発揮されず、加工後に放冷した場合とあまり変わらなくなり、強制冷却の効果が顕著に現れないからである。つぎに、冷却の終了温度を室温〜500℃としたのは、500℃超の温度ではまだ温度が高すぎ、原子の拡散が容易に生じ、加工によって得られた微細なフェライト組織の粒成長を抑制できないからであり、室温以上としたのはこれ未満の温度への冷却は通常の水冷等では容易に実施できないからである。
【0055】
また、請求項5は上記のような強制冷却を行った際にはフェライト中に固溶している炭素原子がセメンタイトとして析出せず室温でもフェライト中に過飽和となって固溶し、著しい靭性の劣化を生じさせる可能性および加工後に僅かに残留したオーステナイトが高炭素のマルテンサイトやベイナイトに変態し、著しい靭性の劣化を生じさせる可能性がある。このような場合、300℃〜Ac1 点の温度で焼き戻しを行うことによって、固溶炭素をセメンタイトとして析出させ強度靭性の優れた金属組織とすることができる。焼き戻し処理はこのような目的のために実施するものであり、300℃未満では温度が低すぎ炭素原子が容易に拡散せず焼き戻しが短時間で実施できないからであり、Ac1 点以下としたのはこれを超えると逆変態が生じてしまい、せっかく生成した微細組織を破壊してしまうからである。
【0056】
【実施例】
次に、本発明の実施例によって発明の有効性を示す。
表1は実施例の鋼の成分を示すものである。なお、表中で、下線印で示した鋼は比較鋼であることを示しており、本発明に一致しない項目も下線で示してある。
次にこのような成分の鋼を用い種々の製造条件で製造した鋼片について得られた結晶粒径、硬度からTS=Hv/3×9.8(MPa)を用いて推定された引っ張り強度を製造条件とともに表2〜5に示す。
いずれの鋼の場合も、本発明法の要件を満たす鋼は、結晶粒径が非常に微細であり、また、強度特性を有することが推定される。本発明法により、結晶粒径が非常に微細な鋼の製造が可能であり、強度、靭性に優れた高張力鋼を製造することが可能である。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明法によれば結晶粒径が非常に微細な鋼の製造が可能であり、強度、靭性に優れた高張力鋼を安価に提供することができる。
Claims (8)
- 質量%で、
C:0.03〜0.9%、
Si:0.01〜1.0%、
Mn:0.01〜5.0%、
Al:0.001〜0.5%、
N:0.001〜0.1%、
Nb:0.003〜0.5%、
Ti:0.003〜0.5%、
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、C%+(12/14)N%≧(12/48)Ti%+(12/48)Nb%+0.03%を満たす鋼片を鋳造まま、圧延するかもしくは圧延することなくそのまま一度500℃〜室温までの温度に冷却した後に、Ac3 点−100℃〜Ac3 点未満の温度に加熱し、圧延するかもしくは圧延することなくそのまま500℃〜室温までの温度に冷却速度を0.1〜50℃/秒として冷却し、再び700℃以下550℃以上の温度に加熱し、700℃以下550℃以上の温度で熱間圧延を行うに際して、1パスの圧下率を20%以上として1パスまたはパス間時間を10秒以内とした連続する2パス以上の加工を、歪速度を1〜200/秒、総歪量を0.8以上5以下となる条件で行った後、放冷することを特徴とする、結晶粒の微細な高張力鋼の製造方法。 - 前記Ac3 点−100℃〜Ac3 点未満の温度への加熱に先だって、Ac3 点〜1350℃の温度に加熱して鋼片の均一化処理を行った後圧延するかもしくは圧延することなくそのまま500℃〜室温まで0.1〜50℃/秒の冷却速度で冷却することを特徴とする、請求項1に記載の結晶粒の微細な高張力鋼の製造方法。
- 質量%で、
C:0.03〜0.9%、
Si:0.01〜1.0%、
Mn:0.01〜5.0%、
Al:0.001〜0.5%、
N:0.001〜0.1%、
Nb:0.003〜0.5%、
Ti:0.003〜0.5%、
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、C%+(12/14)N%≧(12/48)Ti%+(12/48)Nb%+0.03%を満たす鋼片を鋳造まま、圧延するかもしくは圧延することなくそのまま一度500℃〜室温までの温度に冷却した後に、Ac3 点−1350℃の温度に加熱し、鋼片の均一化処理を行った後、圧延するかもしくは圧延することなくそのまま500℃〜室温まで0.1〜50℃/秒の冷却速度で冷却し、再びAc3 点〜1250℃の温度に加熱して、熱間圧延を行うかもしくは熱間圧延を行うことなくそのまま、放冷時のAr3 点以上の温度から、0.1〜50℃/秒の冷却速度で、700℃以下550℃以上の温度であって、当該冷却速度でのAr3 点+50℃以下Ar3 点−50℃の温度まで冷却を行った後、直ちに1パスの圧下率を20%以上として1パスまたはパス間時間を10秒以内とする連続する2パス以上の加工を、歪速度を1〜200/秒とし、その総歪量を0.8以上5以下となる条件で行った後、放冷することを特徴とする、結晶粒の微細な高張力鋼の製造方法。 - 熱間圧延終了後90秒以内に、室温以上500℃未満の温度まで1〜50℃/秒の冷却速度で強制冷却することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の結晶粒の非常に微細な高張力鋼の製造方法。
- 前記強制冷却後に、300℃〜Ac1 の温度で焼き戻しを行うことを特徴とする、請求項4に記載の結晶粒の微細な高張力鋼の製造方法。
- 前記鋳片が、質量%で、V:0.001〜0.5%を、さらに含有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の結晶粒の非常に微細な高張力鋼の製造方法。
- 前記鋳片が、質量%で、
Mo:0.01〜1%、
Ni:0.01〜5%、
Cr:0.01〜3%、
Cu:0.01〜3%、
B:0.0001〜0.003%
の1種以上を、さらに含有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の結晶粒の微細な高張力鋼の製造方法。 - 前記鋼片が、質量%で、
REM:0.002〜0.10%
を、さらに含有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の結晶粒の微細な高張力鋼の製造方法。
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