JP3997702B2 - 非水電解質二次電池 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、いわゆるオリビン型リチウムリン酸化物を正極活物質を用いた非水電解質二次電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、種々の電子機器の飛躍的進歩とともに、長時間便利に、且つ経済的に使用できる電源として、再充電可能な二次電池の研究が進められている。代表的な二次電池としては、鉛蓄電池、アルカリ蓄電池、非水電解質二次電池等が知られている。
【0003】
上記のような二次電池の中でも特に、非水電解質二次電池であるリチウムイオン二次電池は、高出力、高エネルギー密度などの利点を有している。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、少なくともリチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な活物質を有する正極及び負極と、非水電解質とから構成されており、その充電反応は、正極においてリチウムイオンが電解液中にデインターカレーションし、負極では負極活物質中にリチウムイオンがインターカレーションすることによって進行する。逆に、放電する場合には、上記の逆反応が進行し、正極においては、リチウムイオンがインターカレーションする。すなわち、正極からのリチウムイオンが負極活物質に出入りする反応を繰り返すことによって充放電を繰り返すことができる。
【0005】
現在、リチウムイオン二次電池の正極活物質としては、高エネルギー密度、高電圧を有すること等から、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4等が用いられている。しかし、これらの正極活物質は、クラーク数の低い金属元素をその組成中に有しているため、コストが高くつく他、安定供給が難しいという問題がある。また、これらの正極活物質は、毒性も比較的高く、環境に与える影響も大きいことから、これらに代わる新規正極活物質が求められている。
【0006】
これに対し、オリビン構造を有する化合物(いわゆるオリビン型リチウムリン酸化物)をリチウムイオン二次電池の正極活物質として用いることが提案されている。例えば、オリビン構造を有する化合物であるLiFePO4 は、体積密度が3.6g/cm3 と大きく、3.4Vの高電位を発生し、理論容量も170mAh/gと大きい。また、LiFePO4 は、初期状態で、電気化学的に脱ドープ可能なLiを、Fe原子1個当たりに1個含んでいるので、リチウムイオン二次電池の正極活物質として有望な材料である。しかもLiFePO4 は、資源的に豊富で安価な材料である鉄をその組成中に有しているため、上述のLiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4等と比較して低コストであり、また、毒性も低いため環境に与える影響も小さい。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述のような利点を有するオリビン型リチウムリン酸化物であるが、電池への実使用を考えたときには、乗り越えなくてはならない課題も多い。
【0008】
例えば、オリビン型リチウムリン酸化物は、電子伝導性が乏しいため、正極活物質として用いた場合、十分な負荷特性を得るのが難しいという欠点を有する。
【0009】
負荷特性を上げるには、正極活物質層の厚さを薄くすることが考えられるが、この場合には、相対的に集電体の占める割合が増え、容量の低下が問題になる可能性がある。
【0010】
そこで本発明は、かかる従来の実情に鑑みて提案されたものであって、オリビン構造を有する化合物を正極活物質に使用した場合において、負荷特性と電池容量を両立し、優れた電池特性を有する非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するため、本発明に係る非水電解質電池は、一般式LixFe1−yMyPO4 (ただし、Mは、Mn、Cr、Co、Cu、Ni、V、Mo、Ti、Zn、Al、Ga、Mg、B及びNbからなる群より選ばれた少なくとも1種を表す。また、0.05≦x≦1.2、0≦y≦0.8である。)で表される化合物の炭素複合体からなる正極活物質層を有する正極と、負極と、非水電解質とを備え、上記正極活物質層は、正極集電体の両面にそれぞれ形成されるとともに、これら両面に形成された正極活物質層の膜厚の合計が50〜220μmの範囲内にあることを特徴とする。
【0012】
オリビン型リチウムリン酸化物は、電子伝導性が乏しいため、これを正極活物質層に用いた場合、十分な負荷特性を得ることが難しい。負荷特性を考えた場合、正極活物質層の膜厚を薄くする方が有利である。
【0013】
ただし、正極活物質層の厚さを薄くし過ぎると、電池内容積に占める集電体の割合が相対的に上昇し、電池容量の低下をもたらす。
【0014】
本発明においては、これらを考慮して、正極活物質層の膜厚を25〜110μmに設定している。
【0015】
正極活物質層の厚さが前記範囲内であれば、実用上十分な負荷特性を得ることができ、電池容量も実用上満足し得るレベルとすることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を適用した非水電解質二次電池について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の記述に限定されるものではなく、本発明要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0017】
先ず最初に、非水電解質が液系電解質である非水電解液電池の構成について説明する。
【0018】
非水電解液二次電池1は、図1に示すように、帯状を呈する正極材2と負極材3とが、セパレータ4を介して積層されかつ渦巻き状に複数回巻回された電池素子5が、非水電解液とともに電池缶6内に封入されている。
【0019】
正極材2は、アルミニウム箔等からなる正極集電体7の両面に、リチウムを電気的に放出することが可能であり、かつ吸蔵することも可逆的に可能である正極活物質を含有する正極活物質層8が形成されている。正極材2には、一端近傍に正極リード9が取り付けられている。
【0020】
正極活物質層8に含有される正極活物質として、オリビン型結晶構造を有し、一般式LixFe1−yMyPO4 (ただし、Mは、Mn、Cr、Co、Cu、Ni、V、Mo、Ti、Zn、Al、Ga、Mg、B及びNbからなる群より選ばれた少なくとも1種を表す。また、0.05≦x≦1.2、0≦y≦0.8である。)で表される化合物を他の材料と混合して使用する。
【0021】
本例においては、後述するLiFePO4 と炭素材料との複合体を正極活物質として使用する。
【0022】
以下、LixFe1-yMyPO4としてLiFePO4 を用い、これと炭素材料とからなる複合体を正極活物質として用いる場合について説明する。
【0023】
LiFePO4 炭素複合体は、LiFePO4 粒子の表面に、当該LiFePO4 粒子の粒径に比べて極めて小とされる粒径を有する炭素材料の粒子が多数個、付着してなるものである。炭素材料は導電性を有するので、炭素材料とLiFePO4 とから構成されるLiFePO4 炭素複合体は、例えばLiFePO4 と比較すると電子伝導性に優れている。すなわち、LiFePO4 炭素複合体は、LiFePO4 粒子の表面に付着する炭素粒子により電子伝導性が向上するので、LiFePO4 本来の容量を十分に引き出される。したがって、正極活物質としてLiFePO4 炭素複合体を用いることにより、高容量を有する非水電解液電池1を実現できる。
【0024】
LiFePO4 炭素複合体における単位重量当たりの炭素含有量は、3重量%以上であることが好ましい。LiFePO4 炭素複合体における単位重量当たりの炭素含有量が3重量%未満である場合、LiFePO4 粒子の表面に付着している炭素粒子の量が十分でないため、電子伝導性向上の効果を十分に得ることができない虞がある。
【0025】
LiFePO4 炭素複合体を構成する炭素材料としては、ラマン分光法において、グラファイト(以下、Grと称する。)のラマンスペクトルの波数1340〜1360cm-1に出現する回折線に対する波数1570〜1590cm-1に出現する回折線の強度面積比A(D/G)が0.3以上であるものを好適に用いることができる。
【0026】
ここで、強度面積比A(D/G)は、ラマン分光法により測定された波数1570〜1590cm-1に出現するGピークと波数1340〜1360cm-1に出現するDピークとのバックグランドを含まないラマンスペクトル強度面積比A(D/G)と定義する。また、バックグランドを含まないとは、ノイズ部分は含まないことを意味する。
【0027】
上述したように、Grのラマンスペクトルの数あるピークの中に波数1570〜1590cm-1に現れるGピークと波数1340〜1360cm-1に現れるDピークと呼ばれる2つのピークが観察される。このうち、Dピークは、本来Gピーク由来のピークではなく、構造が歪んで構造の対称性が低くなったときに現れるラマン不活性のピークである。それゆえ、Dピークは、Grの歪んだ構造の尺度となり、DピークとGピークとの強度面積A(D/G)は、Grのa軸方向結晶子サイズLaの逆数と直線的関係を有することが知られている。
【0028】
このような炭素材料としては、具体的には、アセチレンブラック等の非晶質系炭素材料を好ましく用いることができる。
【0029】
また、上述したような強度面積比A(D/G)が0.3以上である炭素材料は、例えば粉砕器で粉砕する等の処理を施すことで得ることができる。そして、粉砕時間を制御することにより、容易に任意のA(D/G)を有する炭素材料を得ることができる。
【0030】
例えば、晶質炭素材である黒鉛は、遊星型ボールミル等の強力な粉砕器を用いて粉砕することで構造が容易に破壊されて非晶質化が進み、それにしたがって強度面積比A(D/G)は増大する。つまり、粉砕器の運転時間を制御することによって任意のA(D/G)、すなわち0.3以上である炭素材料を容易に得ることが可能となる。したがって、粉砕を施すことにより、炭素材料として晶質炭素系材料等も好ましく用いることができる。
【0031】
また、LiFePO4 炭素複合体の粉体密度は、2.2g/cm3 以上であることが好ましい。LiFePO4 炭素複合体は、その粉体密度が2.2g/cm3 以上となる程度に合成原料に対してミリングが施されると、十分に微細化されたものとなる。したがって、正極活物質の充填率が向上し、高容量を有する非水電解液電池1を実現できる。また、LiFePO4 炭素複合体は、上記粉体密度を満たすように微小化されているので、LiFePO4 の比表面積も増大しているといえる。つまり、LiFePO4 と炭素材料との接触面積を十二分に確保することができ、電子伝導性を向上させることが可能となる。
【0032】
LiFePO4 炭素複合体の粉体密度が2.2g/cm3 未満である場合、LiFePO4 炭素複合体は十分に圧縮されてないため、正極4における活物質充填率の向上が図れない虞れがある。
【0033】
また、LiFePO4 炭素複合体のブルナウアーエメットテラー(以下、BETと称する。)比表面積は、10.3m2 /g以上であることが好ましい。LiFePO4 炭素複合体のBET比表面積を10.3m2 /g以上とすると、単位重量当たりにおけるLiFePO4 の比表面積を十分に大きいものとすることができ、LiFePO4 と炭素材料との接触面積を大きくすることができる。したがって、正極活物質の電子伝導性を確実に向上させることができる。
【0034】
さらに、LiFePO4 炭素複合体の1次粒径は、3.1μm以下であることが好ましい。LiFePO4 炭素複合体の1次粒径を3.1μm以下とすることにより、単位重量当たりにおけるLiFePO4 の比表面積を十分に大きいものとすることができ、LiFePO4 と炭素材料との接触面積を大きくすることができる。したがって、正極活物質の電子伝導性を確実に向上させることができる。
【0035】
正極活物質層に含有される結着剤としては、この種の非水電解液電池において正極活物質層の結着剤として通常用いられている公知の樹脂材料等を用いることができる。
【0036】
上述のように、正極活物質としてオリビン型リチウムリン酸化物を用いているので、上記正極活物質層の厚さは、25〜110μm(本例では両面塗布であるので、両面合計で50〜220μm)の範囲内になるように設定する。
【0037】
上記正極活物質層の厚さが25μm未満(両面合計で50μm未満)であると、集電体の電池内容積に占める割合が大きくなり過ぎ、電池容量の低下を招く。逆に、上記正極活物質層の厚さが110μm(両面合計で220μm)を越えると、負荷特性の低下が問題になってくる。
【0038】
負極材3は、ニッケル箔や銅箔等からなる負極集電体10の両面に負極活物質層11が形成されている。負極材3には、一端近傍に負極リード12が取り付けられている。
【0039】
負極活物質層11は、負極活物質として、リチウムをドープ、脱ドープ可能な材料が用いられる。このリチウムをドープ、脱ドープ可能な負極活物質としては、金属リチウム、リチウム合金、リチウムがドープされた導電性高分子、炭素質材料や金属酸化物などの層状化合物を用いることができる。この負極活物質層10に含有される結合剤としては、この種の非水電解液二次電池において負極活物質層の結合剤として通常用いられている公知の樹脂材料等を用いることができる。
【0040】
非水電解液二次電池1は、負極材3の幅方向の端部の位置が正極材2の幅方向の端部の位置と同じか内側となった場合、その充電の際に負極材3の幅方向の両端部でリチウムイオンが、充放電反応を妨げる金属リチウムとなって析出する現象が生じる。このため、非水電解液二次電池1においては、負極材3が正極材2よりも幅広に形成される。この時、正極活物質に用いているLiFePO4はLiCoO2等に比して充放電時に放電するLi量が少なく金属リチウムの析出量が抑えられるため、片側0.05mm以上大きければ析出した金属リチウムの影響を受けずに充放電が行われるとともに、0.05mm未満だと電池素子5形成時に巻ずれが生じた場合に、負極材3端部の位置が正極材2端部と同位置か内側に入ってしまう虞がある。また、片側2.0mmよりも大きくすると電池反応に寄与しない負極活物質が増えることになりエネルギー密度が低下する。このため、負極材3は、図1に示す片側あたりの幅寸法の差tが0.05mm乃至0.2mmとなるように正極材2に比して幅広に形成されることが好ましい。
【0041】
セパレータ4は、正極材2の正極活物質層8と、負極材3の負極活物質層11とを離間させるものであり、この種の非水電解液二次電池のセパレータとして通常用いられている公知の材料を用いることができ、例えばポリプロピレンなどの高分子フィルムが用いられる。また、セパレータ4は、リチウムイオン伝導度とエネルギー密度との関係から、その厚みができるだけ薄いことが必要である。具体的には、セパレータの厚みは例えば50μm以下が適当である。
【0042】
非水電解液二次電池1においては、図1に示すように、上述した正極材2と負極材3とがセパレータ4を介して積層され、かつ複数回巻回されて電池素子5が構成される。
【0043】
非水電解液としては、非プロトン性非水溶媒に電解質を溶解させた溶液が用いられる。
【0044】
非水溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチルラクトン、スルホラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、3−メチル−1,3−ジオキソラン、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等を使用することができる。特に、電圧安定性の点からは、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート類を使用することが好ましい。また、このような非水溶媒は、1種類を単独で用いても良いし、2種類以上を混合して用いても良い。
【0045】
また、非水溶媒に溶解させる電解質としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2等のリチウム塩を使用することができる。これらのリチウム塩の中でも特に、LiPF6、LiBF4を使用することが好ましい。
【0046】
電池缶6は、内面にニッケルメッキが施されてなり、上述した電池素子5と非水電解液とを封入するものである。
【0047】
次に、上述のように構成される非水電解液電池1の製造方法、特に正極活物質の合成方法について説明する。
【0048】
まず、正極活物質としてLixFePO4と炭素材料との複合体を、以下に示す製造方法に従って合成する。
【0049】
この正極活物質を合成するには、LixFePO4の合成原料を混合し、ミリングを施し、焼成し、且つ上記の何れかの時点で炭素材料を添加する。LixFePO4の合成原料としては、Li3PO4と、Fe3(PO4)2又はその水和物であるFe3(PO4)2・nH2O(ただし、nは水和数である。)とを用いる。
【0050】
以下、合成原料として、リン酸リチウム(Li3PO4)と、下記に示すようにして合成されるリン酸第一鉄八水和物(Fe3(PO4)2・8H2O)とを用い、この合成原料に炭素材料を添加した後に種々の工程を行うことにより、LiFePO4炭素複合体を合成する場合について説明する。
【0051】
まず、LiFePO4の合成原料と炭素材料とを混合して混合物とする混合工程を行う。次いで、混合工程で得られた混合物にミリングを施すミリング工程を行う。次いで、ミリング工程でミリングを施した混合物を焼成する焼成工程を行う。
【0052】
混合工程では、合成原料として、リン酸リチウムとリン酸第一鉄八水和物とを所定比で混合し、さらに炭素材料を添加して混合物とする。
【0053】
合成原料として用いるリン酸第一鉄八水和物は、硫酸鉄七水和物(FeSO4・7H2O)を水に溶かしてなる水溶液に、リン酸水素二ナトリウム一二水和物(2Na2HPO4・12H2O)を添加し、所定の時間放置することにより合成される。リン酸第一鉄八水和物の合成反応は、下記化1に示す反応式で表される。
【0054】
【化1】
【0055】
合成原料であるリン酸第一鉄八水和物には、その合成工程上、ある程度のFe3+が含まれている。合成原料にFe3+が残存すると、焼成により3価のFe化合物が生成されるため、LiFePO4炭素複合体の単相合成が妨げられてしまう。このため、焼成前の合成原料に還元剤を添加し、焼成時に合成原料中に含まれているFe3+をFe2+に還元する必要がある。
【0056】
しかし、還元剤によるFe3+のFe2+への還元能力には限界があり、合成原料中のFe3+の含有率が多すぎる場合、Fe3+が還元されきれずにLiFePO4炭素複合体中に残存してしまうことがある。
【0057】
そこで、リン酸第一鉄八水和物中の鉄総量に対するFe3+の含有率を、61重量%以下とすることが好ましい。合成原料であるリン酸第一鉄八水和物中の鉄総量に対するFe3+の含有率を61重量%以下と予め制限することにより、焼成時においてFe3+を残存させることなく、すなわちFe3+に起因する不純物を生成させることなく、LiFePO4炭素複合体の単相合成を確実に行うことができる。
【0058】
なお、リン酸第一鉄八水和物を生成する際の放置時間が長いほど、生成物中のFe3+の含有率が多くなるので、放置時間を所定の時間に制御することにより、任意のFe3+の含有率を有するリン酸第一鉄八水和物を生成させることができる。また、リン酸第一鉄八水和物中の鉄総量に対するFe3+の含有率は、メスバウア測定法により測定することができる。
【0059】
また、合成原料に添加される炭素材料は、合成原料のリン酸第一鉄八水和物中に含まれるFe2+が大気中の酸素や焼成等によりFe3+に酸化されたとしても、焼成時にFe3+をFe2+に還元する還元剤として働く。したがって、合成原料にFe3+が残存していたとしても、不純物の生成が防止され、LiFePO4炭素複合体の単相合成が可能となる。さらに、炭素材料は、合成原料に含まれるFe2+のFe3+への酸化を防止する酸化防止剤として働く。すなわち、炭素材料は、焼成前又は焼成時において大気中及び焼成炉内に存在する酸素により、Fe2+がFe3+へ酸化されてしまうことを防止する。
【0060】
すなわち、炭素材料は、上述したように正極活物質の電子伝導性を向上させる導電材としての働きをするとともに、還元剤及び酸化防止剤として働く。なお、この炭素材料は、LiFePO4炭素複合体の構成要素となるので、LiFePO4炭素複合体の合成後に除去する必要がない。したがって、LiFePO4炭素複合体の製造が効率化される。
【0061】
なお、LiFePO4炭素複合体の単位重量あたりの炭素含有量は、3重量%以上とすることが好ましい。LiFePO4炭素複合体の単位重量あたりの炭素含有量を3重量%以上とすることにより、LiFePO4が本来有する容量及びサイクル特性を十分に引き出すことが可能となる。
【0062】
ミリング工程では、混合工程で得られた混合物に、粉砕・混合を同時に行うミリングを施す。ここで、ミリングとは、ボールミルを用いた強力な粉砕・混合をいう。また、ボールミルとしては、例えば遊星型ボールミル、シェイカー型ボールミル、メカノフュージョン等を好適に用いることができる。
【0063】
混合工程で得られた混合物にミリングを施すことにより、合成原料及び炭素材料を均一に混合することができる。また、ミリングを施すことにより合成原料を微細化すると、合成原料の比表面積を増大させることができる。したがって、原料同士の接触点が増大し、引き続く焼成工程における合成反応を速やかに進行させることが可能となる。
【0064】
合成原料を含有する混合物にミリングを施すに際しては、粒子径3μm以上の粒子の粒度分布が体積基準の積算頻度にして22%以下となるようにすることが好ましい。合成原料の粒度分布を上記範囲とすることにより、合成原料は、表面積として、合成反応に十分な表面活性を得ることができる広さを有することとなる。これにより、焼成温度が例えば600℃という合成原料の融点以下という低い温度であっても、反応効率が良好であり、LiFePO4炭素複合体の単相合成を確実に行うことができる。
【0065】
また、LiFePO4炭素複合体の粉体密度が2.2g/cm3以上となるように、ミリングを施すことが好ましい。上記粉体密度となるように合成原料を微小化することにより、LiFePO4の比表面積を大きくすることができる。これにより、LiFePO4と炭素材料との接触面積を大きくすることができ、正極活物質の電子伝導性を向上させることが可能となる。
【0066】
したがって、合成原料を含有する混合物にミリングを施すことにより、高容量である非水電解液電池1を実現する正極活物質を製造することができる。
【0067】
焼成工程では、ミリング工程でミリングを施した混合物を焼成する。混合物を焼成することにより、リン酸リチウムとリン酸第一鉄八水和物とを反応させ、LiFePO4を合成する。
【0068】
LiFePO4の合成反応は、下記化2に示す反応式で表される。なお、下記化に示す反応式においては、Li3PO4と、Fe3(PO4)2又はその水和物であるFe3(PO4)2・nH2O(ただし、nは水和数である。)とを反応させた場合を示す。
【0069】
【化2】
【0070】
上記化2に示す反応式から明らかなように、合成原料としてFe3(PO4)2を用いた場合、副生成物が生じない。また、Fe3(PO4)2・nH2Oを用いた場合、副生成物として無毒である水のみが生じる。
【0071】
ところで、従来は合成原料として炭酸リチウム、リン酸二水素アンモニウム及び酢酸鉄(II)を所定比で混合し、焼成し、下記化3に示す反応によってLiFePO4を合成していた。
【0072】
【化3】
【0073】
上記化3に示す反応式から明らかなように、従来のLiFePO4の合成方法では、焼成時に有毒なアンモニアや酢酸等の副生成物が生じていた。このため、これら有毒な副生成物を処理するための大規模な集気装置等の設備が必要となり、製造コスト上昇の原因となっていた。また、これらの副生成物が大量に生じるため、LiFePO4の収率が低下していた。
【0074】
しかしながら、合成原料としてLi3PO4と、Fe3(PO4)2又はその水和物であるFe3(PO4)2・nH2O(ただし、nは水和数である。)とを用いることにより、有毒な副生成物を生じることなく、目的物質であるLiFePO4を得られる。言い換えると、従来の製造方法に比べて、焼成時における安全性が著しく向上する。また、従来では有毒な副生成物を処理するために大規模な処理設備が必要だったが、上述した製造方法では、副生成物が無毒である水なので、処理工程を大幅に簡略化でき、処理設備を縮小できる。したがって、従来の副生成物であるアンモニア等を処理する際に比べて、製造コストを大幅に削減することができる。さらにまた、上記化2に示す反応式から明らかなように、副生成物の生成が少量であるので、LiFePO4の収率を大幅に向上させることができる。
【0075】
混合物の焼成を行う際の焼成温度は、上記の合成方法により400℃〜900℃とすることが可能であるが、電池性能を考慮すると、600℃程度とすることが好ましい。焼成温度が400℃未満であると、化学反応及び結晶化が十分に進まず、合成原料であるLi3PO4等の不純物相が存在し、均一なLiFePO4を得られない虞がある。一方、焼成温度が900℃を上回ると、結晶化が過剰に進行してLiFePO4の粒子が大きくなり、LiFePO4と炭素材料との接触面積が減少し、電子伝導性が下がるため、十分な放電容量を得られない虞がある。
【0076】
焼成時において、合成されたLiFePO4炭素複合体中のFeは2価の状態である。このため、合成温度である600℃程度の温度においては、LiFePO4炭素複合体中のFeは、焼成雰囲気中の酸素によって下記化4に示す反応式によりFe3+に速やかに酸化されてしまう。これに起因して、3価のFe化合物等の不純物が生成され、LiFePO4炭素複合体の単相合成が妨げられてしまう。
【0077】
【化4】
【0078】
そこで、焼成雰囲気として窒素、アルゴン等の不活性ガス又は水素や一酸化炭素等の還元性ガスを用いるとともに、焼成雰囲気中の酸素濃度を、LiFePO4炭素複合体中のFeが酸化されない範囲、すなわち1012ppm(体積)以下とすることが好ましい。焼成雰囲気中の酸素濃度を、1012ppm(体積)以下とすることにより、600℃程度の合成温度においてもFeの酸化を防止し、LiFePO4炭素複合体の単相合成を確実に行うことが可能となる。
【0079】
焼成雰囲気中の酸素濃度が1012ppm(体積)よりも高い場合には、焼成雰囲気中の酸素量が多すぎるため、LiFePO4炭素複合体中のFeがFe3+に酸化されてしまい、これに起因して不純物が生成してしまうため、LiFePO4炭素複合体の単相合成が妨げられてしまう虞がある。
【0080】
焼成後のLiFePO4炭素複合体の取り出しについては、焼成後のLiFePO4炭素複合体の取り出し温度、すなわちLiFePO4炭素複合体を大気中に暴露する際のLiFePO4炭素複合体の温度は305℃以下とすることが好ましい。また、焼成後のLiFePO4炭素複合体の取り出し温度を204℃以下とすることがより好ましい。LiFePO4炭素複合体の取り出し温度を305℃以下とすることにより、焼成後のLiFePO4炭素複合体中のFeが大気中の酸素により酸化され、不純物が生成されることを防止できる。
【0081】
焼成後にLiFePO4炭素複合体を十分に冷却しない状態で取り出した場合、LiFePO4炭素複合体中のFeが大気中の酸素により酸化され、不純物が生成される虞がある。しかしながら、余り低い温度までLiFePO4炭素複合体を冷却したのでは、作業効率の低下を招く虞がある。
【0082】
したがって、焼成後のLiFePO4炭素複合体の取り出し温度を305℃以下とすることにより、焼成後のLiFePO4炭素複合体中のFeが大気中の酸素により酸化されて不純物が生成されることを防止するとともに、作業効率も維持することが可能となり、電池特性として好ましい特性を有するLiFePO4炭素複合体を効率よく合成することができる。
【0083】
なお、焼成後のLiFePO4炭素複合体の冷却は焼成炉内で行うが、このときの冷却方法は、自然冷却でも良く、また、強制冷却でも良い。ただし、冷却時間の短縮、すなわち、作業効率を考慮した場合には、強制冷却することが好ましい。そして、強制冷却する場合には、焼成炉内を上述した酸素濃度、すなわち1012ppm(体積)以下とするように酸素と不活性ガスとの混合ガス、又は不活性ガスのみを焼成炉内に供給すれば良い。
【0084】
上記においては、ミリングを施す前に炭素材料の添加を行っているが、炭素材料の添加は、ミリング後又は焼成後に行うことも可能である。
【0085】
ただし、炭素材料を焼成後に添加する場合、焼成時の還元効果、及び酸化防止効果を得ることはできず、導電性向上効果のみのために用いるという条件が付く。したがって、炭素材料を焼成後に添加する場合、他の手段によりFe3+の残存を防止することが必要となる。
【0086】
また、炭素材料を焼成後に添加する場合、焼成により合成された生成物はLiFePO4炭素複合体ではなく、LiFePO4である。そこで、焼成により合成されたLiFePO4に炭素材料を添加した後、再度ミリングを施す。ミリングを再度行うことにより、添加した炭素材料は微細化され、LiFePO4の表面に付着しやすくなる。また、ミリングを再度行うことにより、LiFePO4と炭素材料とが十分に混合されるので、微細化された炭素材料をLiFePO4の表面に均一に付着させることができる。したがって、焼成後に炭素材料を添加した場合においても、ミリングを施す前に炭素材料を添加した場合と同様の生成物、すなわちLiFePO4炭素複合体を得ることが可能であり、また、上述した同様の効果を得ることが可能である。
【0087】
上述のようにして得られたLiFePO4炭素複合体を正極活物質として用いた非水電解液電池1は、例えば次のようにして製造される。
【0088】
正極材2としては、まず、正極活物質となるLiFePO4炭素複合体と結着剤とを溶媒中に分散させてスラリーの正極合剤を調製する。次に、得られた正極合剤を正極集電体7上に均一に塗布し、乾燥させて正極活物質層8を形成することにより正極材2が作製される。
【0089】
このとき、正極活物質層8の膜厚が、片面25〜110μm、両面合計50〜220μmとなるように上記正極合剤を塗布する。
【0090】
上記正極合剤の結着剤としては、公知の結着剤を用いることができるほか、上記正極合剤に公知の添加剤等を添加することができる。
【0092】
負極材3としては、まず、負極活物質と結着剤とを溶媒中に分散させてスラリーの負極合剤を調製する。次に、得られた負極合剤を負極集電体上に均一に塗布し、乾燥させて負極活物質層を形成することにより負極材3が作製される。上記負極合剤の結着剤としては、公知の結着剤を用いることができるほか、上記負極合剤に公知の添加剤等を添加することができる。
【0093】
正極材2と負極材3とは、正極材2に比して負極材3の方が幅方向の寸法を大きく、好ましくは0.05mm乃至2.0mm幅広に形成される。
【0094】
この様にして得られた正極材2と負極材3とを、間にセパレータ4を配して積層し、複数回巻回し、電池素子5を作製する。
【0095】
非水電解液は、電解質塩を非水溶媒中に溶解することにより調製される。
【0096】
そして、電池缶6内に絶縁板13を介して電池素子5を収容し、非水電解液を注入する。その後、ガスケット14を介して蓋体15と安全弁装置16を電池缶6にかしめ付けることにより非水電解液二次電池1が完成する。
【0097】
以上のようにして製造された非水電解液電池1は、正極活物質層の厚さが適正な範囲に設定されているので、負荷特性と電池容量が両立され、電池特性に優れた非水電解質二次電池とされる。
【0098】
なお、上記においては、上述したようにLiFePO4の合成原料と炭素材料とを混合して混合物とする混合工程と、混合工程で得られた混合物にミリングを施すミリング工程と、ミリング工程でミリングを施した混合物を焼成する焼成工程とを経て正極活物質を合成している。しかし、本発明においては、正極活物質の製造方法はこれに限定されることなく、例えば上記の方法において炭素材料を添加せず、またミリング工程を除いて正極活物質を合成しても良い。
【0099】
また、上述したような本例の非水電解液電池1は、円筒型、角型、コイン型、ボタン型等、その形状については特に限定されることはなく、また、薄型、大型等の種々の大きさにすることができる。
【0100】
さらに、本発明を適用した非水電解質電池として、非水電解液を用いた非水電解液電池1を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、非水電解質として、固体電解質を用いた場合にも適用可能である。ここで、固体電解質としては、リチウムイオン導電性を有する材料であれば無機固体電解質、ゲル状電解質等の高分子固体電解質の何れも用いることができる。ここで、無機固体電解質としては、窒化リチウム、ヨウ化リチウム等が挙げられる。また、高分子固体電解質は、電解質塩とそれを溶解する高分子化合物とからなり、その高分子化合物は、ポリ(エチレンオキサイド)や、同架橋体などのエーテル系高分子、ポリ(メタクリレート)エステル系高分子、アクリレート系高分子等を単独、又は分子中に共重合、又は混合して用いることができる。この場合、例えばゲル状電解質のマトリックスとしては、非水電解液を吸収してゲル化するものであれば種々の高分子材料を用いることができる。このような高分子材料としては、例えば、ポリ(ビニリデンフルオロライド)や、ポリ(ビニリデンフルオロライド−CO−ヘキサフルオロプロピレン)等のフッ素系高分子、ポリ(エチレンオキサイド)や、同架橋体などのエーテル系高分子、またポリ(アクリロニトリル)などを用いることができる。そして、これらの中でも特に、酸化還元安定性の観点からフッ素系高分子を用いることが好ましい。
【0101】
【実施例】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果に基づいて説明する。
<実験1>
本実験では、LiFePO4 炭素複合体を合成し、得られたLiFePO4 炭素複合体を正極活物質として用いて非水電解液電池を作製し、正極活物質層の膜厚を変えたときの特性を評価した。
【0102】
先ず、正極活物質としてLiFePO4 複合体を合成した。この正極活物質の製造方法を以下に示す。
【0103】
まず、Li3PO4とFe3(PO4)2・8H2Oとを、リチウムと鉄との元素比率が1:1となるように混合し、さらに様々な大きさの粒径を有するアセチレンブラック粉末を焼成物全体の10重量%となるように添加して混合物とした。次に、混合物及び直径10mmのアルミナ製ボールを、質量比で混合物:アルミナ製ボール=1:2として直径100mmのアルミナ製ポットに投入し、遊星型ボールミルを用いてこの混合物にミリングを施した。なお、遊星型ボールミルとして、実験用遊星回転ポットミル「LA−PO4」(伊藤製作所製)を使用し、下記に示す条件としてミリングを施した。
【0104】
遊星型ボールミルミリング条件
公転半径 :200mm
公転回転数:250rpm
自転回転数:250rpm
運転時間 :10h
次に、ミリングを施した後の混合物をセラミックるつぼに入れ、窒素雰囲気中の電気炉にて600℃の温度で5時間焼成することによりLiFePO4 炭素複合体を得た。
【0105】
このようにして得たLiFePO4 炭素複合体を用い、このLiFePO4炭素複合体と、導電剤としてのグラファイト、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを混合して正極合剤を調製し、これをN−メチル−2−ピロリドンに分散させてスラリー状とした。
【0106】
次に、正極集電体として厚さ20μm、幅56mmの帯状のアルミニウム箔の両面に上記正極合剤のスラリーを均一に塗布して正極活物質層を形成し、乾燥後ロールプレス機で圧縮成型して帯状正極を作製した。なお、正極活物質層の密度は2.3g/cm3 で設計した。
【0107】
このとき、表1に示すように正極活物質層の厚さを変えて、各種サンプル電池を作製した。
【0108】
一方、負極活物質として、出発原料に石油ピッチを用い、これに酸素を含む官能基を10〜20%導入、いわゆる酸素架橋した後、不活性ガス気流中1000℃で焼成してガラス状炭素に近い性質の難黒鉛炭素材料を得た。この材料について、X線回折測定を行った結果、(002)面の面間隔は3.76Åで、真比重は1.58であった。
【0109】
このようにして得た炭素材料を90重量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン10重量部とを混合して負極合剤を作製し、これをN−メチル−2−ピロリドンに分散させてスラリー状とした。
【0110】
次に、負極集電体として厚さ10μm、幅58mmの帯状の銅箔を用意し、その両面に上記負極合剤のスラリーを均一に塗布し、乾燥後ロールプレス機で圧縮成型して帯状の負極を作製した。なお、このとき、負極容量が正極容量の130%となるような設計で負極合剤を塗布した。
【0111】
セパレータとしては、厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを使用し、負極、正極、セパレータを渦巻型に巻回し、電極素子を作製した。
【0112】
このようにして得た電極素子をニッケルメッキを施した鉄製の缶に収納した。そして、渦巻式電極素子の上下両面に絶縁板を配置し、アルミニウム製正極リードを正極集電体から導出して電池蓋に、ニッケル製負極リードを負極集電体から導出して電池缶に溶接した。
【0113】
次に、この電池缶の中にプロピレンカーボネート(PC)50容量%とジメチルカーボネート(DMC)50容量%との混合溶媒にLiPF6 を1モル/l溶解させた電解液を注入した。
【0114】
最後にアスファルトを塗布した絶縁ガスケットを介して上記電池缶と電池蓋をかしめて封口し、円筒型電池を作製した。
【0115】
正極活物質層の厚さを変えて作製した各サンプル電池について、電池容量、負荷特性を測定し評価した。
【0116】
なお、電池容量や負荷特性の評価は、次のような方法により行った。
【0117】
先ず、各電池に対して、23℃,1Aの定電流定電圧充電を上限4.2Vまで3時間行い、次に100mAの定電流放電を終止電圧2.0Vまで行った。この時の放電容量を初期放電容量とした。
【0118】
さらに、各電池に対して1C充電を行った後、0.2C放電を終止電圧2.0Vまで行い、0.2C放電容量を求めた。
【0119】
また、同様に、1C充電、3C放電を行い、3C放電容量を求めた。0.2Cの放電容量を100とした場合の3C放電容量維持率(%)を求め、負荷特性として評価した。結果を表1に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
電池特性としては、放電容量が700mAh以上、負荷特性が3C放電容量維持率で80%以上であることが好ましく、このような観点から表1を見ると、正極活物質層の厚さは、片面25μm以上(両面合計で50μm以上)、110μm以下(両面合計で220μm以下)に設定することが望ましいことがわかる。
【0122】
なお、正極活物質として、LiFePO4炭素複合体の代わりに、LiFe0.2Mn0.8PO4炭素複合体、LiFe0.2Cr0.8PO4炭素複合体、LiFe0.2Co0.8PO4炭素複合体、LiFe0.2Cu0.8PO4炭素複合体、LiFe0.2Ni0.8PO4炭素複合体、LiFe0.25V0.75PO4炭素複合体、LiFe0.25Mo0.75PO4炭素複合体、LiFe0.25Ti0.75PO4炭素複合体、LiFe0.3Zn0.7PO4炭素複合体、LiFe0.3Al0.7PO4炭素複合体、LiFe0.3Ga0.7PO4炭素複合体、LiFe0.25Mg0.75PO4炭素複合体、LiFe0.25B0.75PO4炭素複合体、LiFe0.25Nb0.75PO4炭素複合体をそれぞれ用いて同様の電池を作製し、同様の評価を行ったところ、いずれの場合にも、正極活物質層の厚さを片面25μm以上(両面合計で50μm以上)、110μm以下(両面合計で220μm以下)に設定することで、高電池容量、高負荷特性が実現されることがわかった。
【0123】
<実験2>
本実験では、ポリマー電池について、正極活物質層の膜厚を変えたときの特性を調べた。
【0124】
先ず、負極を以下のようにして作製した。
【0125】
粉砕した黒鉛粉末90重量部と、結着剤としてポリ(ビニリデンフルオロライド−co−ヘキサフルオロプロピレン)10重量部とを混合して負極合剤を調整し、さらにこれをN−メチル−2−ピロリドンに分散させスラリー状とした。そして、このスラリーを負極集電体である厚さ10μmの帯状銅箔の片面に均一に塗布し乾燥後、ロールプレス機で圧縮成型し、負極を作製した。
【0126】
次に、正極を次のように作製した。
【0127】
実験1で作製したLiFePO4 炭素複合体を85重量部、導電剤としてグラファイトを10重量部、結着剤としてフッ素樹脂粉末であるポリ(ビニリデンフルオロライド)5重量部とを混合して正極合剤を調製した後、N−メチルピロリドンを加えてスラリー状にしたものを準備した。
【0128】
この正極合剤を、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてスラリーとした。そして、このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布、乾燥して正極活物質層を形成した後、ロールプレス機で圧縮成形することにより正極を作製した。このとき、表2に示すように正極活物質層の厚さを変えて、各種サンプル電池を作製した。
【0129】
正極及び負極の活物質層が形成されていない部分(正極はアルミニウム箔、負極は銅箔)上に、アルミニウムからなる正極端子リード及びニッケルからなる負極端子リードを溶接した。
【0130】
さらに、ゲル電解質を次にようにして得た。
【0131】
ヘキサフルオロプロピレンが6.9重量%の割合で共重合されたポリフッ化ビニリデンと、非水電解液と、ジメチルカーボネートとを混合し、撹拌、溶解させ、ゾル状の電解質溶液を調製した。次いで、ゾル状の電解質溶液に、ビニレンカーボネート(VC)を0.5重量%の割合で添加してゲル状電解質溶液とした。なお、非水電解液として、エチレンカーボネート(EC)と、プロピレンカーボネート(PC)とを体積比で6:4の割合で混合した混合溶媒にLiPF6 を0.85mol/kgの割合で溶解させたものを使用した。
【0132】
上記ゲル状電解質溶液を負極、正極上に均一に塗布し、含浸させ、常温で8時間放置し、炭酸ジメチルを気化、除去しゲル電解質を得た。
【0133】
ゲル電解質を塗布した負極、及び正極をゲル電解質側を厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムからなるセパレータを介して重ね合わせ、圧着、巻回する事で、巻回型ゲル電解質電池素子を作製した。
【0134】
ラミネートフィルムからなる封入体に上記電池素子を挿入し、200℃、10秒の条件でシール機によりシール幅5mmで熱融着し、試験電池を作製した。
【0135】
正極活物質層の厚さを変えて作製した各サンプル電池について、電池容量、負荷特性を測定し評価した。
【0136】
なお、電池容量や負荷特性の評価は、次のような方法により行った。
【0137】
先ず、各電池に対して、23℃,0.5Aの定電流定電圧充電を上限4.2Vまで3時間行い、次に50mAの定電流放電を終止電圧2.0Vまで行った。この時の放電容量を初期放電容量とした。
【0138】
さらに、各電池に対して1C充電を行った後、0.2C放電を終止電圧2.0Vまで行い、0.2C放電容量を求めた。
【0139】
また、同様に、1C充電、3C放電を行い、3C放電容量を求めた。0.2Cの放電容量を100とした場合の3C放電容量維持率(%)を求め、負荷特性として評価した。結果を表2に示す。
【0140】
【表2】
【0141】
この表2からも明らかなように、ポリマー電池においても、正極活物質層の厚さは、片面25μm以上(両面合計で50μm以上)、110μm以下(両面合計で220μm以下)に設定することが望ましいことがわかる。
【0142】
なお、正極活物質として、LiFePO4炭素複合体の代わりに、LiFe0.2Mn0.8PO4炭素複合体、LiFe0.2Cr0.8PO4炭素複合体、LiFe0.2Co0.8PO4炭素複合体、LiFe0.2Cu0.8PO4炭素複合体、LiFe0.2Ni0.8PO4炭素複合体、LiFe0.25V0.75PO4炭素複合体、LiFe0.25Mo0.75PO4炭素複合体、LiFe0.25Ti0.75PO4炭素複合体、LiFe0.3Zn0.7PO4炭素複合体、LiFe0.3Al0.7PO4炭素複合体、LiFe0.3Ga0.7PO4炭素複合体、LiFe0.25Mg0.75PO4炭素複合体、LiFe0.25B0.75PO4炭素複合体、LiFe0.25Nb0.75PO4炭素複合体をそれぞれ用いてポリマー電池を作製し、同様の評価を行ったところ、いずれの場合にも、正極活物質層の厚さを片面25μm以上(両面合計で50μm以上)、110μm以下(両面合計で220μm以下)に設定することで、高電池容量、高負荷特性が実現されることがわかった。
【0143】
【発明の効果】
以上の説明からも明らかなように、本発明の非水電解質二次電池においては、正極活物質としてオリビン型リチウムリン酸化物の炭素複合体を用いるとともに、正極活物質層の厚さを最適化しているので、負荷特性と電池容量を両立することができ、電池性能に優れた非水電解質二次電池を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】非水電解液二次電池の一構成例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
1 非水電解液二次電池,2 正極材,3 負極材,4 セパレータ,5 電池素子
Claims (4)
- 一般式LixFe1−yMyPO4 (ただし、Mは、Mn、Cr、Co、Cu、Ni、V、Mo、Ti、Zn、Al、Ga、Mg、B及びNbからなる群より選ばれた少なくとも1種を表す。また、0.05≦x≦1.2、0≦y≦0.8である。)で表される化合物の炭素複合体からなる正極活物質層を有する正極と、負極と、非水電解質とを備え、
上記正極活物質層は、正極集電体の両面にそれぞれ形成されるとともに、これら両面に形成された正極活物質層の膜厚の合計が50〜220μmの範囲内にあることを特徴とする非水電解質二次電池。 - 上記炭素複合体は、上記化合物の粒子の表面に、上記粒子より粒径の小さい炭素材料が付着されて複合化されていることを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。
- 上記非水電解質が、液系電解質であることを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。
- 上記非水電解質が、ポリマー電解質であることを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。
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