JP3995125B2 - 合わせガラス用中間膜、合わせガラス及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、オートクレーブによる高温・高圧処理を必要とせず、室温で合わせ加工が可能な合わせガラス用中間膜、合わせガラス及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術とその課題】
合わせガラスは、自動車用安全ガラス、公共施設や運動施設等のクレージング材、間仕切り、防犯用ドア等に広く用いられ、その構造としては、通常、複数枚の無機ガラス板(以下、「ガラス板」という)または一部のガラス板を透明な合成樹脂板とし、各々のガラス板同士またはガラス板と合成樹脂板の間に中間膜を介して、合わせ加工することがなされている。
【0003】
このような中間膜としては、可塑剤により可塑化されたポリビニルブチラール(PVB)が、ガラス板や合成樹脂板との優れた接着性、強靱な引張強度、高い透明性等を兼ね備えているため、最も一般的に用いられている。
【0004】
しかしながら、上記PVB樹脂からなる中間膜は、合わせガラスを製造する際には中間膜の調湿工程を必要とし、また、合わせ加工には仮接着した後、オートクレーブを用い高温・高圧条件下で行う必要があり、作業が煩雑になるという問題があった。
【0005】
ここで、合わせガラスに合成樹脂板を使用したものでは、上記PVB樹脂に使用した可塑剤が中間膜と合成樹脂板との界面に吹出し(ブリードアウト)、接着力を低下させたり、合成樹脂板の白化やクラックの原因になることがあり、さらにガラス板と合成樹脂板とでは線膨脹係数が異なるため高温で合わせ加工すると、積層体が反ったり、ガラス板が割れ易いという問題があった。
【0006】
上記問題点を解決するための手段として、PVB樹脂に代えて、エチレン−
(メタ)アクリル酸エステル共重合体を中間膜に使用することが提案され(特開平8−188453号)、また、液状樹脂をガラス板の間に注入した後、室温で硬化させる方法が提案(特開平7−290647号)されている。
【0007】
しかしながら、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなる中間膜を使用すると、調湿工程やオートクレーブによる高温・高圧処理を必要としないが、真空条件下での仮接着工程と110℃以上の合わせ加工温度を必要とするために、合成樹脂板との合わせガラスでは、反りや割れの問題を解決できず、また、上記の液状樹脂を用いた方法では、室温で硬化させるので、反りや割れの問題を解決できるが、樹脂の注入方法や硬化後の膜厚制御が容易でないという問題がある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、合わせ加工時の調湿、減圧脱泡、仮接着、オートクレーブによる高温・高圧処理工程を合理化するとともに、従来方法での品質を満足できる合わせガラス用中間膜、合わせガラス及びその製造方法を提供するものである。
【0009】
本発明の要旨とするところは、
1.合わせガラス用中間膜及び合わせガラスとして、
下記a)〜c)の粘弾性特性を有し、厚みが50〜2000μmの範囲であることを特徴とする合わせガラス用中間膜及びこの中間膜を用いてなる合わせガラスにある。
【0010】
a)ガラス転移温度(Tg)が−60℃〜10℃
b)測定温度20℃、周波数1Hzでの貯蔵弾性率(G´)が1×104 〜1×106 Pa
c)測定温度20℃、周波数1Hzでの貯蔵弾性率(G´ 1Hz)と、測定温度20℃、周波数10-4Hzでの貯蔵弾性率(G´ 10-4Hz)との比:(G´ 1Hz)/(G´ 10-4Hz)が10〜103
2.合わせガラスの製造方法として、
ガラス板又は合成樹脂板のどちらか一方に、予め上記の中間膜を貼り、ついで他方のガラス板又は合成樹脂板をニップロール間で初めて接触するようにニップロール間へ搬入させ、ロール間の圧接力で気泡を押出しながら両方の板を連続して接合することを特徴とする合わせガラスの製造方法にある。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳しく説明する。
従来の合わせガラス用中間膜は加熱溶融させ2枚のガラス板の凹凸を埋めるようなホットメルトタイプであるのに対して、本発明の中間膜は室温でも接着可能な粘弾性特性を有するものである。
市販の感圧接着剤を用いたものでは透明性に劣り、また、耐熱性や凝集力を付与させるためにイソシアネート、メラニン、エポシキ化合物あるいは紫外線、電子線で架橋させたものが一般的であるが、このような共有結合タイプのものでは凝集力が強すぎて、ガラス板、合成樹脂板及び中間膜自体の厚みの凹凸を埋めるような流動(濡れ)性が小さく、合わせ加工後、中間膜の弾性回復によりガラス板と中間膜との界面での厚みの凹凸に沿って剥離が生じ、気泡が生じるという欠点がある。
【0012】
本発明の中間膜では、特定範囲の粘弾性特性を有することにより、共有結合による架橋に比べて凝集力(貯蔵弾性率)の周波数依存性が大きく、合わせ加工における速度域の10-3Hzから10Hz付近までは上記市販の感圧接着剤と同様の凝集力を保持し、10-4Hz以下では凝集力が低下するため、合わせ加工後のガラス板と中間膜の界面での厚みの凹凸を埋めるような流動(濡れ)が進行する。
【0013】
しかしながら、上記周波数が10-4〜10-2Hzの範囲で凝集力が低下するものでは、中間膜の経時的な寸法安定性、合わせガラスの耐熱性や耐久性に問題が発生し易く、上記粘弾性特性の内、c)の測定温度20℃、周波数1Hzでの貯蔵弾性率(G´ 1Hz)と、測定温度20℃、周波数10-4Hzでの貯蔵弾性率(G´ 10-4Hz)との比:(G´ 1Hz)/(G´ 10-4Hz)が10〜103 の範囲であることが重要である。10未満では合わせガラスに加工した後、中間膜がはみ出たり、ガラス板等がずれるという問題があり、103 を越えると合わせガラスに加工した際、中間膜の僅かな厚み差により、厚みの小さい箇所に気泡が残り易いという問題がある。
【0014】
本発明で使用する中間膜の材料としては、上記粘弾性特性を満足するものであれば適宜選択できるが、耐候性や透明性に優れた下記材料が好適に使用できる。▲1▼エチレン等のα,β不飽和カルボン酸を含有した(メタ)アクリル酸エステル系共重合体に金属化合物等を添加して金属イオン架橋してなるアイオノマー樹脂であり、金属化合物としては、亜鉛イオン、ナトリウムイオン等を有するアセチルアセトン金属錯体、酸化金属、脂肪酸金属塩等を用いる。このアイオノマー樹脂は既にイオン架橋したものを使用しても良いが、中間膜の製膜時に共重合体へ金属化合物を添加してイオン架橋させても良い。
【0015】
▲2▼ビニル芳香族化合物と共役ジエンとの共重合体またはその水素添加誘導体に水素添加した粘着付与剤を混合した樹脂。ビニル芳香族化合物としてはスチレンが代表的なものであるが、o−スチレン、p−スチレン、α−メチルスチレン等も用いられる。共役ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン等があり、具体的な共重合体として、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)が挙げられる。さらに上記共重合体の共役ジエンに水素添加した水素添加誘導体も好適に使用でき、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)が挙げられる。上記共重合体またはその水素添加誘導体には水素添加した粘着付与剤を混合するが、この水素添加した粘着付与剤としては水添テルペン樹脂や水添石油樹脂が好適に使用でき、50重量%程度で混合すればよい。
【0016】
ここで、本発明の中間膜として、耐衝撃性、光線透過性、作業性の改良のために高剛性フイルムを芯材とし、その両面に上記の粘弾性特性を満足する樹脂層を積層し、少なくとも3層以上からなるものが好適に使用できる。芯材には二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルム(OPET)等が好適に使用できる。芯材の厚みは中間膜全体の厚みの1〜50%の範囲が実用的である。
【0017】
芯材の表裏に設ける層は各々25〜1000μmの範囲で積層すればよく、25μm未満では接着性に劣り易く、1000μmを越えるとコスト面で問題がある。
【0018】
上記内容の中間膜を用いてガラス板同士、又はガラス板と合成樹脂板を接合して合わせガラスを作製する。合わせ加工には種々の方法があるが、オートクレーブを用いずに接合できる次の方法が好適である。まずガラス板又は合成樹脂板のどちらか一方に、予め中間膜を貼り、ついで他方のガラス板又は合成樹脂板をニップロール間で初めて接触するようにニップロール間へ搬入させ、ロール間の圧接力で気泡を押出しながら両方の板を連続して接合する方法であり、予め中間膜を貼る方法も上記と同様のニップロール間へ搬入する方法で貼り合わせることができる。
【0019】
この方法では、ニップロールの線圧力により、ガラス板または合成樹脂板と中間膜の間に気泡をかみ込むことなく接着できる。つまり、線圧力によって短時間で与えられた中間膜の歪みは回復しようとするため、まだ接着されていないニップロール直前のガラス板又は合成樹脂板を僅かに湾曲させ、2枚の板の間に隙間を常に生じさせ気泡を押出すことができる。上記方法は、本発明の中間膜の粘弾性特性を利用することで、従来の減圧脱泡・仮接着及びオートクレーブによる高温・高圧処理が不要となり、室温での作業が可能となり、得られる合わせガラスも気泡が入らず品質上優れたものが得られる。
【0020】
【実施例】
以下、実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
n−ブチルアクリレート:50重量%、2−エチルヘキシルアクリレート:40重量%及びアクリル酸:2重量%を共重合させたアクリル酸共重合体100重量部に対し、金属化合物として亜鉛アセチルアセトン塩:2重量部及びアルミアセチルアセトン塩:0.6重量部を溶融混練した後、離型フィルム間に厚み900μmでシート状に成形しアイオノマー樹脂からなる中間膜を得た。
上記中間膜を用いて合わせガラスを作製した。合わせガラスの作製方法を図1に示した工程概略図(1)から(3)に従い説明する。
【0021】
(1)エタノール液で洗浄した市販のフロートガラス板1(厚さ3mm、幅20cm、長さ30cm)の一方に片面の離型フィルム4を剥がした中間膜2をニップロール5と駆動ゴムロール6間で、初めて接触するようにロール間へ搬入させ、線圧力:lkgf/cm、速度;5m/分で貼った後、残りの離型フィルム4を剥がした。
【0022】
(2)次に上記中間膜2を貼ったガラス板1を中間膜を介して市販のポリカーボネート板3(厚さ3mm、幅20cm、長さ30cm、UVカット、両面ハードコート)を接触させずに向かい合わせ、2枚の板の端部をニップロール5と駆動ゴムロール6間で、初めて接触するようにニップロール(線圧力:20kgf/cm、速度0.5m/分)に挟んで合わせガラスを得た。
【0023】
(実施例2)
SIS樹脂の水添品であるSEPS樹脂(クラレ(株)製、商品名「セプトンー2043」):100重量部に対して、水添テルペン系樹脂(安原ケミカル(株)製、商品名「クリアロンP−85」):130重量部、酸化防止剤(チバ・ガイギー(株)製、商品名「イルガノックス1010」):2重量部及び紫外線吸収剤(チバ・ガイギー(株)製、商品名「チヌビンP」):1重量部を溶融混練した後、離型フィルム間に厚み900μmでシート状に成形して中間膜を得た。合わせガラスの加工方法は実施例1と同様の条件で行った。
【0024】
(実施例3)
果施例1で得たアイオノマー樹脂を厚み100μmのPETフィルムの両面に各々400μm積層して、離型フィルムを貼り合わせて積層中間膜を得た。
【0025】
実施例1と同様にエタノール液で洗浄したフロートガラス板(厚み3mm、幅20cm、長さ30cm)の一方に実施例1で得た中間膜を用いて、片面の離型フィルムを剥がした中間膜をニップロール(線圧力:lkgf/cm、速度:5m/分)で貼った後、残りの離型フィルムを剥がした。次にもう1枚の洗浄したガラス板に、中間膜を貼ったガラス板と上記の積層中間膜を介して接触させずに向かい合わせ、2枚の板の端部をニップロールと駆動ゴムロール間で、初めて接触するようにニップロール(線圧力:20kgf/cm、速度0.5m/分)に挟んで合わせガラスを得た。
【0026】
(比較例1)
市販の構造用両面接着テ−プ;厚み1100μm(日東電工(株)製、商品名「HJ−9210K」)を中間膜として用いた。合わせガラスの加工方法は実施例1と同様の条件で行った。
【0027】
(比較例2)
実施例1で得た未架構のアクリル酸エステル系共重合樹脂を厚み900μmのシート状に成形し中間膜として用いた。
【0028】
(比較例3)
実施例1で得た未架橋のアクリル酸エステル系共重合樹脂を厚み100μmのPETフィルムの両面に各々400μm積層し、離型フィルムに貼り合わせて積層中間膜を得た。合わせガラスの加工方法は実施例3と同様の条件で行った。
【0029】
上述した実施例及び比較例に記載した内容により得られた各々の合わせガラスを用いて、下記項目について評価した結果を表1に示した。問題がなかったものは(○)で示している。
【0030】
[冷熱サイクル性]…−40℃〜60℃(2サイクル/日)で20サイクル処理した後、合わせガラスの層間剥離、割れ、気泡等の有無を観察した。
[耐熱性]……80℃で8週間放置した後、合わせガラスの層間剥離、割れ、気泡等の有無を観察した。
[耐久性]……合わせガラスの片方を長時間保持して、自重でもう一方のガラス板のズレの有無を観察した。
[耐候性]……フェードメータを用い、500時間した後、黄変の有無を観察した。
【0031】
【表1】
【0032】
表1の結果から明らかなように、本発明の中間膜を用いて作製した合わせガラスの性能は項目すべて良好であるのに対し、比較例に示す中間膜を用いて作製した合わせガラスでは項目のいずれかを満足することができないことが判る。
【0033】
【発明の効果】
上述したように本発明の中間膜、合せガラス及びその製造方法においては、調湿、減圧脱泡仮接着、オートクレーブによる高温・高圧処理の一連の工程を合理化でき、ニップロールを用いて室温で合わせ加工が可能であり、かつ合わせガラスの品質をも満足できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の合わせガラスの製造方法の一例を示す工程概略図である。
【符号の説明】
1 … ガラス板
2 … 中間膜
3 … 合成樹脂板
5 … ニップロール
Claims (4)
- 下記a)〜c)の粘弾性特性を有する、α,β不飽和カルボン酸を含有した(メタ)アクリル酸エステル系共重合体に金属化合物を添加して金属イオン架橋してなるアイオノマー樹脂、又は、ビニル芳香族化合物と共役ジエンとの共重合体またはその水素添加誘導体に水素添加した粘着付与剤を混合した樹脂からなり、厚みが50〜2000μmの範囲であることを特徴とする合わせガラス用中間膜。
a)ガラス転移温度(Tg)が−60℃〜10℃
b)測定温度20℃、周波数1Hzでの貯蔵弾性率(G´)が1×104〜1×106Pa
c)測定温度20℃、周波数1Hzでの貯蔵弾性率(G´ 1Hz)と、測定温度20℃、周波数10−4Hzでの貯蔵弾性率(G´ 10−4Hz)との比:(G´ 1Hz)/(G´ 10−4Hz)が10〜103 - 高剛性フイルムを芯材とし、その両面に請求項1記載のa)乃至c)の粘弾性特性を満足する樹脂からなる層を表裏各々25〜1000μmの範囲で積層してなる少なくとも3層以上からなる合わせガラス用中間膜。
- 請求項1又は2記載の中間膜を用いてガラス板同士、又はガラス板と合成樹脂板を接合してなる合わせガラス。
- ガラス板又は合成樹脂板のどちらか一方に、予め請求項1又は2記載の中間膜を貼り、ついで他方のガラス板又は合成樹脂板をニップロール間で初めて接触するようにニップロール間へ搬入させ、ロール間の圧接力で気泡を押出しながら両方の板を連続して接合することを特徴とする合わせガラスの製造方法。
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