JP3992866B2 - 燃料電池用電極及びその製造法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
高分子電解質型燃料電池の構成要素である電極及びその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高分子電解質型燃料電池の構成要素である電極において、反応ガスの供給路となる細孔と、水素イオン導電性の固体高分子電解質と、電子導電体である電極材料とが形成する、いわゆる三相界面の面積の大小は、電池の放電性能を左右する重要な因子の1つである。
【0003】
従来、この三相界面を増大させるために、電極材料と固体高分子電解質とを混合分散させた層を、膜と多孔質電極の界面に付与する試みがなされてきた。例えば、特公昭62−61118号公報、特公昭62−61119号公報に記載の技術では、固体高分子電解質を分散した溶液と、触媒化合物との混合物を固体高分子膜上に塗着し、電極材料とホットプレスした後触媒化合物を還元する方法、もしくは還元後塗着しホットプレスを行う方法が提案されている。
【0004】
また、特公平2−48632号公報では、多孔質電極を成型後、電極上にイオン交換膜樹脂を分散した溶液を散布し、この電極とイオン交換膜とをホットプレスする方法が提案されている。さらに、特開平3−184266号公報では高分子樹脂表面に固体高分子電解質を被覆した粉末、特開平3−295172号公報では固体高分子電解質の粉末を電極中に混合する方法が提案されている。また、特開平5−36418号公報では、固体高分子電解質と触媒と炭素粉末とフッ素樹脂を混合し、成膜して電極とする方法が提案されている。以上の技術では、電極内で固体高分子電解質を形成するための溶液として、アルコール類が用いられている。
【0005】
また、米国特許第5211984号に記載の技術では、グリセリンもしくはテトラブチルアンモニウム塩を溶媒として、これに固体高分子電解質と触媒と炭素粉末とをインク状に分散した溶液を作成し、これをポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)製フィルム上に成型した後、固体高分子電解質膜表面に転写する方法や、固体高分子電解質膜の交換基をNa型に置換し、その膜の表面に前記のインク状分散液を塗布して125℃以上で加熱乾燥し、交換基を再度H型に置換する方法が報告されている。
【0006】
一方、固体高分子型燃料電池の特徴である高出力密度を実現するには、電極触媒層に反応ガスの供給路(ガスチャネル)を形成し、ガスの透過・拡散能を高めることが重要となる。そこでフッ素樹脂などの撥水材を電極触媒層に添加し、ガスチャネルを形成する試みがなされてきた。例えば特開平5−36418号公報に記載の技術では、PTFE粉末と触媒を担持した炭素粉末とを、固体高分子電解質溶液に分散・混練して触媒層を作製する方法が提案されている。また、特開平4−264367号公報に記載の技術では、触媒を担持した炭素粉末とPTFEのコロイド液との混合液を用いて電極が提案されている。
【0007】
さらにJ.Electroanal.Chem.197号(1986年)の195頁では、PTFEにより撥水処理した炭素粉末と触媒を担持した炭素粉末とを混合して、酸性電解液用のガス拡散電極が提案されている。一方、米国特許第5211984号では、上記のような撥水材を用いずに固体高分子電解質と触媒と炭素粉末のみで電極の触媒層を作製することが提案されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、固体高分子電解質を分散した溶液に、触媒を担持した炭素粉末と、フッ素樹脂等の撥水剤、あるいは撥水処理された炭素粉末とを同時に添加すると、撥水剤や撥水処理された炭素粉末に、固体高分子電解質が多く吸着する。このとき、その分だけ固体高分子電解質と触媒との接触度合いが不均一な状態となり、結果的に、電極とイオン交換膜との界面で、十分な反応面積が確保できないという欠点を有していた。
【0009】
また、アルコール類の溶媒を用いた分散液を多孔質基板上に塗布した場合や、上記のインク状分散液を多孔質基板上に塗布した場合は、基板内部に分散液が侵入もしくは透過してしまうため、基板表面部分に直接に成型することができず、転写などの複雑な加工技術を必要とした。さらに上記に記載の膜表面にインク状分散液を直接塗布する方法では、膜の交換基を何度も置換する複雑な製造技術を必要とした。また、上記のフッ素樹脂の添加方法では、フッ素樹脂によって触媒微粒子が過多に被覆されて反応面積が減少し、分極特性が低下するという欠点を有していた。
【0010】
一方、上記のJ.Electroanal.Chem.197号(1986年)195頁に記載の技術のように、PTFEにより撥水処理した炭素粉末を用いると、確かにPTFEにより触媒粒子が被覆されてしまうという現象を抑制することはできた。しかし、この提案には、固体高分子電解質を用いた場合の、撥水処理した炭素粉末の添加の有無や、その添加率による効果の検討が行われていなかった。さらに、触媒を担持した炭素粉末と固体高分子電解質のみとで電極を作製すると、燃料電池内で発生する生成水により、いわゆるフラッディング現象が起こり、これにより高電流密度で電池を駆動すると、電池の電圧が低くなり、不安定になるという欠点を有していた。
【0011】
本発明は上記の課題を解決するもので、固体高分子電解質と触媒とを十分かつ均一に接触させることにより、電極内部の反応面積を増大させ、より高い性能を発揮する固体高分子型燃料電池の製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
また、フッ素樹脂を添加して触媒を過多に被覆することなく、水素イオンチャネルとガスチャネルを形成し、電極のガス透過能を高め、高電流密度で電池を駆動したときも、高い性能を発揮する固体高分子型燃料電池の製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
以上の課題を解決するために本発明は、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜を挟んだ触媒反応層を有する一対の電極とを具備した燃料電池に用いられる電極に関し、前記電極は、触媒粒子もしくは前記触媒粒子の担体の表面に、水素イオンの拡散層を有し、上記水素イオンの拡散層は、前記触媒粒子もしくは前記担体の表面に、塩基性官能基を持つシラン化合物を修飾し、前記シラン化合物と水素イオン伝導性の固体電解質とで形成されていることを特徴とする。
【0015】
このとき、上記シラン化合物の上記塩基性官能基は、非共有電子対を持つ窒素原子を有することが有効である。
【0016】
このとき、上記シラン化合物は、水素イオンを解離することのできる官能基を有することが望ましい。
【0017】
また、上記シラン化合物は、ハイドロカーボン鎖またはフルオロカーボン鎖の少なくとも一種を有することが望ましい。
【0018】
また、フェノール性水酸基、カルボキシル基、ラクトン基、カルボニル基、キノン基または無水カルボン酸より選ばれる少なくとも1つの官能基を介して、炭素粒子もしくは炭素繊維と、上記シラン化合物とを化学結合したことが有効である。
【0019】
また、本発明の燃料電池用電極の製造方法は、触媒粒子、触媒担体、炭素粒子または炭素繊維より選ばれる少なくとも1種の被接合材料を、上記塩基性官能基を持つ上記シラン化合物を含有した溶媒に浸漬することで、前記被接合材料の表面に上記シラン化合物を化学吸着させた後、前記被接合材料の表面と、記シラン化合物の分子中のシリコン原子との化学結合を行うことで、上記水素イオンの拡散層を形成することを特徴とする。
【0020】
【発明の実施の形態】
シラン化合物の加水分解性基を、触媒粒子(好ましくは触媒金属粒子)表面や触媒の担持体である炭素材料の表面で、溶液中あるいは空気中の水分、触媒表面の吸着水分により加水分解する。このとき、前記の加水分解性基は、活性なシラノール基(≡SiOH)に変化し、触媒粒子(好ましくは触媒金属粒子)表面の酸化物や炭素材料表面の官能基と反応し、強固な結合を形成することができる。このシラン化合物に、スルホン基やカルボキシル基などの水素イオン解離性官能基を持たせることにより、触媒表面に水素イオン導電層を単分子状に被覆させることができる。そして、これを触媒粒子(好ましくは触媒金属粒子)および炭素担体に被覆することにより、単分子状の水素イオンチャネルを形成することが可能となる。単分子は、数nmから数十nmに制御することが可能である。
【0021】
一般に、高分子電解質は深さが、約数百nmまでは燃料電池の電極反応に十分なガス供給能を示す。従って、本発明における高分子電解質層は、十分なガス溶解性を保つことができ、従来から使用されているサブミクロンオーダーのPTFEディスパージョン粒子を用いた場合のように、触媒表面を被覆して反応ガスの供給を妨げる事がない。
【0022】
図1に本発明の実施例である燃料電池用電極の断面の様子を示した。図1において、上述のように触媒粉末に高分子電解質層を均一に吸着させるので、電極1の触媒層2の内部で、触媒の微粒子3と炭素微粉末4と高分子電解質5とを、相互に均一に密着した状態にすることが可能となる。
【0023】
このような触媒層2の構成によって、水素などの燃料ガスもしくは酸素などの酸化剤ガスの供給路となる炭素粉末4相互の空孔が形成するガスチャネル7と、高分子電解質層5が形成する水素イオンチャネル8と、炭素微粉末相互が接続して形成する電子チャネル6の3つのチャネルが、同じ触媒層内部の極めて近傍に効率よく形成できる。図中9はガス拡散層、10は固体高分子電解質膜である。
【0024】
このとき、水素極及び酸素極ではそれぞれ、
【0025】
【化1】
2 → 2H+ + 2e-
【0026】
【化2】
1/2O2 + 2H+ + 2e- → H2
【0027】
で示した反応がおこる。このとき、図1に示した電極を用いると、水素及び酸素ガスの供給と、水素イオン及び電子の伝達が、同時にかつスムーズに広範囲で行われ、反応速度と反応面積が増大し、より高い放電性能を発揮する固体高分子型燃料電池を実現することが可能となる。
【0028】
さらに、単分子のサイズが十分小さいために、従来より使用されている数百nmオーダーの高分子電解質分子が、吸着できなかった細孔内部の触媒を被覆することができる。このため、細孔内部の触媒にも水素イオンチャネルを形成し、反応に寄与させることができる。
【0029】
このとき、シラン化合物にハイドロカーボン鎖を持たせることにより、高分子層の撥水性を高める事ができ、また、フルオロカーボン鎖を持たせることにより、高分子層の撥水性を更に高めることができる。
【0030】
また、シラン化合物の末端を、−SO 3 Hや−COOH基などで置換し、親水性を高めた場合には、電極の保水力が向上し、例えば燃料電池を低電流密度で作動し、生成水が少ない場合や低加湿の空気での作動にも、電極が一定の保水力を保ち、高い性能が得られる。そして、撥水性を高めた場合には、例えば燃料電池を高電流密度で作動し、生成水が多い場合や高加湿の空気での作動にも、電極のガス拡散能力が向上し、高い性能が得られる。
【0031】
また、図2に示したように、水素イオン解離性の官能基と、ハイドロカーボン鎖を持つ撥水性のシラン化合物を用いて触媒表面に水素イオンチャネルを形成し、フルオロカーボン鎖をもつ更に強い撥水性のシラン化合物を用いて触媒表面にガスチャネルを形成することもできる。これをもちいると、高電流密度域でより高い分極特性を示す固体高分子型燃料電池を実現することが可能となる。なお、フルオロカーボン鎖をもつ撥水性のシラン化合物を、触媒を担持していない炭素粉末に被覆することにより、撥水性の単分子層11を形成することができ、触媒表面積を低減することなくガスチャネル7を形成することができる。
【0032】
さらに、以上の構成で用いた高分子電解質層と、従来より使用されている米国アルドリッチ・ケミカル社製"Nafion溶液"のような高分子電解質を混合することにより、細孔内部の触媒から電解質膜表面まで、連続した水素イオンチャネルが形成でき、反応面積が広く、内部抵抗の小さい高性能な電極を実現できる。
【0033】
また、シラン化合物の加水分解性基を、触媒粒子(好ましくは触媒金属粒子)表面や触媒の担持体である炭素材料の表面で、溶液中あるいは空気中の水分、触媒表面の吸着水分により加水分解する。このとき、前記の加水分解性基は、活性なシラノール基(≡SiOH)に変化し、触媒粒子(好ましくは触媒金属粒子)表面の酸化物や炭素材料表面の官能基と反応し、強固な結合を形成することができる。このシラン化合物にアミド基やアミン基などの、非共有電子対を有する窒素原子を持つ塩基性官能基を末端に持たせると、スルホン酸などの酸基を有する高分子電解質と相互作用を生起することができる。このとき、単分子表面上すなわち触媒担体の表面近傍に、高分子電解質を強く引きつけ高分子電解質層を形成することができる。これにより触媒及び触媒担体表面に緻密な水素イオン導電層である水素イオンチャネルを形成することが可能となる。
【0034】
この効果は、触媒担体を被覆した単分子層の塩基性と、高分子電解質の酸性の相互作用が、触媒粒子(好ましくは触媒金属粒子)のより近くに高分子電解質を存在させることを可能にしたことによる。
【0035】
また、高分子電解質が触媒近傍に存在し、触媒粒子(好ましくは触媒金属粒子)を被覆する割合が増加することは、触媒反応により生成した水素イオンの輸送を効果的に行う水素イオンチャンネルが形成されると共に触媒効率の向上を可能にした。
【0036】
単分子層を形成するシラン化合物の主鎖骨格がハイドロカーボン鎖の場合、ハイドロカーボン鎖の撥水性は比較的弱いので、触媒層全体が塗れた状態をとる。これは、電極の保水力が向上したことを示す。すなわち、燃料電池を低電流密度で作動させ生成水が少ない場合や低加湿の空気での作動にも、電極が一定の保水力を保ち、高い性能が得られることを示す。
【0037】
一方、フルオロカーボン鎖は撥水性が高く、図7に示したように、フルオロカーボン鎖をもつシラン化合物を用いて単分子層71を形成し、高分子電解質としてフルオロカーボン鎖を持つもの(例えば、旭硝子製フレミオン)を用いた場合、両方の撥水効果により、単分子層71と高分子電解質層72との間に撥水層73を形成することができる。このとき、撥水層73に存在する水は、前述の両層の撥水効果により、さらに反応生成水を系外へ取り出しやすくなり、電極内を適当な状態で加湿する効果(フラッディング抑制効果)を維持することができる。
【0038】
このように、高分子型燃料電池を高電流密度で作動させ、生成水が多い場合や高加湿の空気を用いたときも、この撥水効果により電極中では十分なガス拡散能力が発揮することができ、充分高い電池性能が得られる。
【0039】
また、ハイドロカーボン鎖を持つシラン化合物を用いた場合は、触媒表面に水素イオンチャネルを形成することができ、また、フルオロカーボン鎖を持つシラン化合物を用いた場合は、触媒表面にガスチャネルを形成することができる。以上のように、シラン化合物の主鎖骨格を変えることで、電極中の触媒層の特性を適当な作動環境に合わせ設計することができ、高い放電特性を示す高分子型燃料電池の実現を可能とする。
【0040】
以下、本発明の燃料電池について図面を参照して述べる。
【0041】
【実施例】
(実施例1)
図3に示したように、粒径約1nm〜10nm程度の粒子状の白金よりなる触媒粒子3を、20重量%担持した炭素粒子4の表面に、窒素ガス雰囲気中で直接に化学吸着によりシラン化合物を吸着反応させて、シラン化合物よりなる単分子の保護膜を形成した。シラン化合物としては、直鎖状のハイドロカーボン鎖を持つCH 3 −(CH 2 )n−SiCl 3 (nは10以上で25以下の正数)を用い、1重量%の濃度で溶解したn−ヘキサンを調整し、これに前述の白金粒子を担持した炭素粉末を浸漬した。
【0042】
このとき触媒粒子3の表面には、自然酸化膜が形成されており、ここには−OH基や酸化物が含まれている。また、炭素粉末4は、その表面に、フェノール性水酸基、カルボキシル基、ラクトン基、カルボニル基、キノン基、無水カルボン酸などの表面官能基が存在するものを用いた。そこで、−SiCl 3 基、−OH基や、その他の官能基や酸化物と脱HCl反応をすることで、シラン化合物による単分子吸着膜12を、触媒粒子3の表面と、炭素担体4の表面とに、約2nm〜10nm程度の厚みで形成した。また、単分子の分子量を変えることにより、1nm〜100nm程度の厚みで成形することが可能であった。
【0043】
なお、化学吸着の材料としては、−OH基や酸化物に対して結合性を有する基、例えば≡SiCl基等を含んでいれば、上記で用いたシラン化合物に限定されるものではない。
【0044】
また、図4に示したように、水素イオン解離性官能基として、例えばスルホン基やカルボキシル基などを含むシラン化合物である、SiCl 3 −(CH 2 )n−SO 2 Cl(n:整数)や、SiCl 3 −(CH 2 )n−COOCH 3 (n:整数)、SiCl 3 −(CH 2 )n−(C 6 4 )−SO 2 Cl(n:整数)、 SiCl 3 −(CH 2 )n−(C 6 4 )−COOCH 3 (n:整数)等を用い、これを加水分解して用いることができた。この方法により、水素イオン導電性の単分子層13を触媒粒子3および炭素担体4表面に形成した。
【0045】
(実施例2)
本実施例では、直鎖状のハイドロカーボン鎖の一部にフッ素を含むシラン化合物、SiCl3−(CH22−CF3を、状シリコンオイル(信越化学工業製KF994)に溶かして用い、前述の実施例1で示した方法と同じ方法で、撥水性の単分子層11を炭素担体の表面に形成した。このようなシラン化合物を用いると、電極内の撥水性を向上でき、反応ガスを供給するガスチャネルを形成できた。
【0046】
なを、直鎖状のハイドロカーボン鎖の一部にフッ素を含むシラン化合物として、SiCl 3 −(CH 2 2 −(CF 2 )m−CF 3 (mは0以上9以下の整数)を用いることもできた。
【0047】
(実施例3)
本実施例では、水素イオン解離性官能基として、スルホン基を含み、直鎖状のハイドロカーボン鎖の一部にフッ素を含むシラン化合物である、SiCl 3 −(CH 2 )n−(CF 2 )m−SO 3 H(n,mは2から10の整数)を用いることにより、水素イオン導電性の単分子層13を触媒粒子3および炭素担体4表面に形成した。
【0048】
なを、水素イオン解離性官能基として、例えばスルホン基やカルボキシル基などを含み、直鎖状のハイドロカーボン鎖の一部にフッ素を含むシラン化合物とした、SiCl 3 −(CH 2 2 −(CF 2 )m−SO 2 Cl(n、mは整数)、SiCl 3 −(CH 2 2 −(CF 2 )m−COOCH 3 (n、mは整数)、SiCl 3 −(CH 2 2 −(CF 2 )m−(C 6 4 )−SO 3 Cl(n、mは整数)、SiCl 3 −(CH 2 2 −(CF 2 )m−(C 6 4 )−COOCH 3 (mは整数)を用い、これを加水分解しても効果を得ることができた。
【0049】
(比較例1)
比較のために米国アルドリッチ・ケミカル社製の"5重量%−Nafion溶液"を用い、これと粒径1nm〜10nm程度の白金触媒超微粒子3とを、20重量%担持させた炭素微粉末4を作成した。この炭素微粉末4とブタノールとを混合し、ボールミルで分散した後、カーボンペーパー(東レ製、TGP-H-120、膜厚360μm)上に、塗工し触媒層2を形成した電極1を作成した。
【0050】
(評価1)
以上の通り、実施例1,実施例2、実施例3及び比較例に記載した電極触媒粉末を用い、これをガス拡散層9であるカーボンペーパー(東レ製、TGP-H-120、膜厚360μm)上に、塗工することで触媒層2を形成し、これを電極1とした。このようにして作製した電極をNafion膜(Dupon製、Nafion112)10の両側に配してホットプレスを行い電極−電解質接合体を作製し、これらの単電池を図5に示した燃料電池の測定セルを作成して試験を行った。
【0051】
図5において、10は固体高分子電解質膜である。図5中、14および15はそれぞれ負極及び正極である。固体高分子電解質の添加量は、両極とも見かけ電極面積当たり1.0mg/cm 2 としたが、0.1〜3.0mg/cm 2 の範囲では同等の特性が得られた。また、白金の添加量は、同じく電極面積当たりの重量で0.5mg/cm 2 とした。
【0052】
これらの単電池の負極14に水素ガスを正極15に空気を流し、電池温度を75℃、燃料利用率を80%、空気利用率を30%、ガス加湿は水素ガスを75℃、空気を65℃の露点になるように調整し、電池の放電試験を行った。
【0053】
実施例1、3および比較例の方法を用いて作成した単電池をそれぞれA、BおよびXとし、実施例1の処理した触媒粉末と実施例2の処理をした炭素担体を混合して、触媒層を作成した単電池をCとした。
【0054】
図6に本発明の実施例および比較例1の電池A,B、CおよびXの電流−電圧特性を示した。また、電池電圧を反応律速領域である850mVとしたときの電流密度特性と、電池の電流密度を1000mA/cm 2 としたときの電池電圧を表1に示した。
【0055】
【表1】
Figure 0003992866
【0056】
表1において、電池電圧を850mVとしたときの電流密度をみると、比較例1の電池は9mA/cm2であるのに比べ、本実施例の電極を用いた電池A,B,Cは、それぞれ48,50,50mA/cm2の電流密を維持し、これを比較例と比べると約5倍以上のすぐれた特性であった。この理由は、本発明の電極は比較例の電極に比べて、5倍以上の反応面積を持つことによるものと考える。
【0057】
また、本発明の電極では、1nm〜100nm程度の膜厚を有する高分子の単分子を形成することができた。単分子のサイズが十分小さいために、従来の"Nafion溶液"などのような数百nmオーダーの高分子電解質分子が吸着できなかった細孔内部の触媒を被覆することができ、細孔内部の触媒にも水素イオンチャネルを形成し、反応に寄与させることができ、高い電流密度が得られたと考える。
【0058】
また、電流密度を1000mA/cm2としたときの電池電圧は、比較例の電池が0.29Vであるのと比べて、電池A,B,Cは、それぞれ0.55,0.64,0.66Vと、高い値を維持することができた。これは、上記のように本発明の電極は、反応面積が大きいため、高い電流密度で駆動したときも比較例と比較して高い特性が得られたものと考える。さらに、電池Bでは、水素イオン導電性の単分子層自身がハイドロカーボン鎖の一部にフッ素を含むために、ガス溶解性を向上することが可能となり、触媒へのガス供給能が向上し、高電流密度領域での特性が向上したと考える。また、電池Cでは、実施例1の処理した水素イオン導電性の単分子層を吸着させた触媒粉末と、実施例2の直鎖状のハイドロカーボン鎖の一部にフッ素を含む単分子層を吸着させた炭素担体とを混合して、触媒層を形成したために、さらに触媒層におけるガス供給能が増大し、高電流密度領域における特性が向上したと考える。
【0059】
(実施例4)
図8に示したように、粒径約1nm〜10nm程度の粒子状の白金よりなる触媒粒子81を、20重量%担持した炭素粒子82の表面に、窒素ガス雰囲気中で直接に化学吸着によりシラン化合物を吸着反応させて、シラン化合物よりなる単分子の保護膜を形成した。シラン化合物としては、直鎖状のハイドロカーボン鎖を持つCH 3 −(CH 2 )n−Si(OCH 3 ) 3 (nは2以上で10以下の正数)を用い、1重量%の濃度で溶解したエタノール溶液を調整し、これに前述の白金粒子を担持した炭素粉末を浸漬し、60℃で1時間加熱した。
【0060】
このとき触媒粒子81の表面には、自然酸化膜が形成されており、ここには−OH基や酸化物が含まれている。また、炭素粉末82は、その表面に、フェノール性水酸基、カルボキシル基、ラクトン基、カルボニル基、キノン基、無水カルボン酸などの表面官能基が存在するものを用いた。そこで、−Si(OCH 3 ) 3 基、−OH基や、その他の官能基や酸化物と脱アルコール反応をすることで、シラン化合物による単分子吸着膜83を、触媒粒子81の表面と、炭素担体82の表面とに、約2nm〜10nm程度の厚みで形成した。また、単分子の分子量を変えることにより、1nm〜100nm程度の厚みで成形することが可能であった。
【0061】
なお、化学吸着の材料としては、−OH基や酸化物に対して結合性を有する基、例えば≡Si(OCH 3 )、≡Si(OC 2 5 )基等を含んでいれば、上記で用いたシラン化合物に限定されるものではない。
【0062】
また、図に示したように、非共有電子対を有する窒素原子を持つ塩基性官能基として、アミン基を含むシラン化合物である、Si(OCH3)3−(CH2)n−NH2(nは、2以上で10以下の整数)を用いた。この方法により、単分子層83を炭素粉末82表面に形成した。さらに末端塩基性基の作用により、単分子層83を被覆するように高分子電解質層84を、触媒粒子および炭素担体表面近傍に緻密に形成し、水素イオン輸送を効果的に行う、水素イオンチャンネルを形成した。
【0063】
本実施例では、非共有電子対を有する窒素原子を持つ塩基性官能基として、例えばアミド基やアミン基を含むシラン化合物である、Si(OCH 3 ) 3 −(CH 2 )n−NH 2 (nは、2以上で10以下の整数)、Si(OCH 3 ) 3 −(CH 2 )m−NH−(CH 2 )n−NH 2 (m、nは、2以上で10以下の整数)、Si(OCH 3 ) 3 −(CH 2 )n−(C 6 4 )−NH 2 (nは、2以上で10以下の整数)、Si(OCH 3 ) 3 −(CH 2 )m−N(CH 3 2 (mは、2以上で10以下の整数)、Si(OCH 3 ) 3 −(CH 2 )n−(C 6 4 )−N(CH 3 2 (nは、2以上で10以下の整数)、Si(OC 2 5 ) 3 −(CH 2 )n−N(CH 2 CH 2 OH) 2 (CH 2 )n(nは、2以上で10以下の整数)を用いることもできた。
【0064】
(実施例5)
本実施例では、塩基性官能基として、アミン基を含むシラン化合物の直鎖のハイドロカーボン鎖の一部に、フッ素を含むものとして、Si(OCH 3 ) 3 −(CH 2 )n−(CF 2 )m−NH 2 (n,mは2から10の整数)を用いることで、直鎖が炭化水素のものと同様に単分子層12を触媒粒子3および炭素担体4表面に形成した。
【0065】
なを、使用するシラン化合物として、アミン基やアミド基を含むに、直鎖のハイドロカーボン鎖の一部にフッ素を含むものとして、Si(OCH3)3−(CH2)n−(CF2)m−NH2(n,mは2から10の整数)、Si(OCH3)3−(CH2)m−NH−(CH2)n−(CF2)l−NH2(n,m,lは2から7の整数)、Si(OCH3)3−(CH2)n−(CF2)m−N(CH32(n,mは2から8の整数)、Si(OCH3)3−(CH2)n−(CF2)m−(C64)−NH2(n,mは2から7の整数)、Si(OCH3)3−(CH2)n−(CF2)m−(C64)−N(CH32(n,mは2から7の整数)、Si(OC25)3−(CH2)n(CF2)m−N(CH2CH2OH)2(n,mは2から7の整数)を用いることもできた。
【0066】
(比較例2)
比較のために米国アルドリッチ・ケミカル社製の"5重量%−Nafion溶液"を用い、これと粒径1nm〜10nm程度の白金触媒超微粒子3とを、20重量%担持させた炭素微粉末4を作成した。この炭素微粉末4とブタノールとを混合し、ボールミルで分散した後、カーボンペーパー(東レ製、TGP-H-120、膜厚360μm)上に、塗工し触媒層2を形成した電極1を作成した。
【0067】
(評価2)
以上の通り、実施例4、実施例5及び比較例2に記載した電極触媒粉末を用い、これをガス拡散層であるカーボンペーパー(東レ製、TGP-H-120、膜厚360μm)上に、塗工することで触媒層を形成し、これを電極とした。このようにして作製した電極をNafion膜(Dupon製、Nafion112)10の両側に配してホットプレスを行い電極−電解質接合体を作製し、これらの単電池を図4に示した燃料電池の測定セルを作成して試験を行った。
【0068】
これらの単電池の負極14に水素ガスを正極15に空気を流し、電池温度を75℃、燃料利用率を80%、空気利用率を30%、ガス加湿は水素ガスを75℃、空気を65℃の露点になるように調整し、電池の放電試験を行った。
【0069】
実施例4、5および比較例2で作成した電極を用い作成した電池をそれぞれD(ハイドロカーボン鎖型)、E(フルオロカーボン鎖型)およびY(非表面処理型)とした。
【0070】
図9に本発明の実施例および比較例の電池D、EおよびYの電流−電圧特性を示した。また、電池の駆動電流密度を、低電流密度である300mA/cm 2 と、高電流密度である700mA/cm 2 としたときの電池電圧を表2に示した。
【0071】
【表2】
Figure 0003992866
【0072】
表2において、本発明の電極を用いた電池D、Eは、比較例Yと比較し、電池特性が高くなることが確認できた。
【0073】
本発明の電極と、比較例である従来より提案された電極とを比べると、電極に含まれる高分子電解質量、白金触媒量が、同程度であるにも関わらず、電池D、Eが電池Yより特性が向上したのは、塩基性基を持つシラン化合物が触媒担体表面を被覆し、単分子層を形成し、この単分子層が、さらに触媒担体近傍に緻密な高分子電解質層を形成することで、より高効率な水素イオン交換を可能にしたことによるものと考える。
【0074】
また、表2において、シラン化合物の主鎖骨格の違いが、電池特性に影響することを確認した。即ち、比較的疎水性が弱いハイドロカーボン鎖を有するシラン化合物を用いた電極による電池は、電池の駆動電流が低いとき、特にその効果が大きく、また、疎水性の強いフルオロカーボン鎖を有するシラン化合物を用いた電極による電池は、電池の駆動電流が高いとき、特にその効果が大きいものであった。
【0075】
以上の実施例では、触媒担体である炭素粉末に表面処理を行ったが、表面に−OH基や酸化物を有する触媒粒子であれば、本発明の構成は、触媒粒子自体にも利用できる。
【0076】
【発明の効果】
以上のように、本発明の電極は、触媒粒子もしくは触媒担体の表面に水素イオンの表面拡散機能を持ち、機能性高分子を吸着したことを特徴とする。これにより、触媒粒子(好ましくは触媒金属粒子)表面や触媒の担持されている炭素表面に単分子状の高分子電解質層を均一に吸着させ、細孔内部の触媒にも水素イオンチャネルを形成することによって、反応面積が増大して、より高い放電性能を発揮する固体高分子型燃料電池を実現することが可能となる。
【0077】
また、シラン化合物にハイドロカーボン鎖を持たせることによってこの高分子層の親水性を高める事ができ、例えば燃料電池を低電流密度で作動し、生成水が少ない場合や低加湿の空気での作動にも、電極が一定の保水力を保ち、高い性能が得られる。
【0078】
さらに、フルオロカーボン鎖を持たせることによってこの高分子層の撥水性を高めることが可能となり、例えば燃料電池を高電流密度で作動し、生成水が多い場合や高加湿の空気での作動にも、電極のガス拡散能力が向上し、高い性能が得られる。
【0079】
さらに、反応面積が増大するために電極触媒層に用いる貴金属触媒の使用量を従来よりも減らすことができ、コスト低減効果が期待できるという利点もある。
【0080】
また、本発明の電極は、触媒粒子もしくは触媒担体の表面に水素イオンの表面拡散機能を持つ、機能性高分子を吸着したことを特徴とする。この機能性高分子は、高分子電解質層として機能する。この形成には、塩基性官能基を持つシラン化合物を用い、機能性高分子としての単分子層を形成した。このように、水素イオンの表面拡散機能を持つ機能性高分子で、触媒担体の表面を修飾することで触媒近傍に緻密な高分子電解質層を形成し、効率的な水素イオンチャネルとガスチャンネルを形成する。これにより、高い放電性能を発揮する高分子型燃料電池を実現することができた。
【0081】
また、高効率の水素イオン交換能を利用することで、放電特性の低下を起こさず、電極触媒層に用いられる貴金属触媒量の低減を可能とし、コストの低減を図ることができた。
【0082】
さらに、表面修飾するシラン化合物の骨格構造を選択することで、電極の濡れ性を制御することができた。これにより、燃料電池の駆動条件に最適な、電極触媒を作成することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施例における電極の断面を示した概略図
【図2】 本発明の第2の実施例における電極の断面を示した概略図
【図3】 本発明の第1と第2の実施例における単分子膜を吸着した触媒微粒子もしくは触媒担体の断面を示した概念図
【図4】 本発明の第1と第2の実施例における吸着単分子膜の概念を示した図
【図5】 本発明の第1、第2及び第3の実施例の電極を用いて構成した燃料電池の模式断面を示した図
【図6】 本発明の第1、第2及び第3の実施例の電極を用いて構成した燃料電池の特性を示した図
【図7】 本発明の第1と第2の実施例における触媒担体表面を拡大した概念図
【図8】 本発明の第1と第2の実施例における単分子膜を吸着した触媒微粒子もしくは触媒担体の断面を示した概念図
【図9】 本発明の第1、第2の実施例の電極を用いて構成した燃料電池の特性を示した図
【符号の説明】
1 電極
2 触媒層
3 触媒粒子
4 炭素粉末
5 高分子電解質
6 電子チャネル
7 ガスチャネル
8 水素イオンチャネル
9 ガス拡散層
10 固体高分子電解質膜
11 撥水性の単分子層
12 単分子吸着膜
13 水素イオン導電性の単分子層
14 負極
15 正極

Claims (1)

  1. 触媒粒子および前記触媒粒子を担持する担体を含む触媒反応層を有する燃料電池用電極であって、
    前記触媒粒子もしくは前記担体の表面に、水素イオンの拡散層を有し、
    前記水素イオンの拡散層は、前記触媒粒子もしくは前記担体の表面に、塩基性官能基を持つシラン化合物を修飾し、前記シラン化合物と水素イオン伝導性の固体電解質とで形成されていること、を特徴とする燃料電池用電極
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