JP3988072B2 - 水性樹脂組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、分子中にカルボキシル基を有する重合体粒子と感熱ゲル化剤とカルボキシル基に対して反応性を有する架橋剤とが水性媒体中に分散してなる水性樹脂組成物に関し、耐薬品性に優れ、柔軟性や屈曲性を有し、且つ硬度の高い被膜を形成する被覆剤として有用な水性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、各種エチレン性不飽和単量体を重合して得られる水性樹脂組成物は、エマルジョンバインダーとして塗料、接着剤、繊維加工等の広範囲の用途に利用されている。
これらのエマルジョンバインダーとして使用されるポリマーエマルジョンは、通常、重合体粒子として存在し、被膜形成時に重合体粒子相互間の融着による造膜過程を経て被膜化する。このため比較的硬度を有する被膜を得ようとした場合、重合体粒子自体が硬質なため、被膜形成時の重合体粒子相互間の融着が十分ではなく、硬くて脆い被膜しか形成しないという欠点が生じ、また柔軟性を必要とする用途、特に、屈曲性が要求される用途においては、被膜に亀裂が入り使用できないという欠点が生じる。また、耐薬品性が要求される用途においては、薬品が被膜の亀裂に滲入して被膜が著しく劣化するという欠点も有している。
【0003】
一方、重合体粒子を軟質なものとして、重合体粒子相互間の融着を容易にした場合は、得られる被膜の硬度が不十分なものとなり、使用上問題であった。
【0004】
これらの欠点を改良するために、▲1▼硬質な重合体粒子に重合体を可塑化させる可塑剤(「造膜助剤」と云う)を添加して、重合体粒子相互間の融着性を向上させる方法や、▲2▼重合体粒子の粒子形態を硬質な重合体と軟質な重合体とから構成される「多層構造粒子」とすることにより重合体粒子相互間の融着性を向上させる方法などが提案されている。
【0005】
しかしながら、方法▲1▼においては、重合体粒子相互間の融着性は改善されるが、被膜化の直後には重合体自体が可塑化されているために硬度を発現し難く、また、経時的に可塑剤が流出するため、被膜の硬度が経時的に変化するという欠点を有している。更に、被膜に可塑剤が存在している間は耐薬品性も低下するという欠点もある。
【0006】
また、方法▲2▼の場合は、例えば、特開平7−70215号公報において耐水白化性、被膜形成特性、および柔軟性が要求される用途に適した特性を有する多段重合ラテックスが開示されているが、被膜の耐薬品性や硬度がまだ不十分であり、実用上問題であった。
一方、水性樹脂組成物に架橋剤を添加して、重合体粒子間を架橋させることにより耐薬品性を向上させる方法は、例えば、特開平11−256006号公報に開示されているが、この方法で得られる被膜の耐薬品性や柔軟性、屈曲性は未だ不十分である。
【0007】
また、特開平10−110135号公報には、コア/シェル構造(即ち、多層構造)を有するカルボキシル基含有樹脂を付加重合性オキサゾリンを含む出発物質から得られる樹脂で架橋させるオーバープリントワニス組成物が開示されているが、被膜の耐薬品性が不十分であり、柔軟性や屈曲性に優れた皮膜を得られない。
【0008】
これらのエマルジョンは、各種塗工及び含浸加工に用いられるが、特にカーペットバッキング等の膜厚の厚い被膜を形成させるコーティング用途においては、一般的に被膜形成時にブリスタ(被膜のふくれ)が発生し、加工品の品位や物性を落とすという欠点を有している。
【0009】
該ブリスタの発生は、一般的には水系コーティング剤を熱風により乾燥させる際に熱風が直接接触する表面付近の乾燥が先に進行し、その部位が先に被膜化するために被膜内部に残留する水分が後から蒸発し表面被膜を内部から膨らませることにより発生するものと考えられる。
【0010】
特に膜厚が厚い場合、乾燥温度が高い場合、あるいは風量が強い場合に発生しやすくなることが知られている。該ブリスタを抑制する方法として特公平5−6593号公報に充填剤を添加する方法、特公平6−4935号公報にシリコーン油系感熱ゲル化剤を添加する方法が提案されている。前者の充填剤を添加する方法では、ブリスタを抑制するには多量の充填剤が必要であり、被膜の造膜性が低下し被膜強度等の諸物性が悪化するという欠点がある。また後者のシリコーン油系感熱ゲル化剤を添加する方法においてもブリスタの発生を抑制するにはまだ不十分であった。
【0011】
以上のような理由から、耐薬品性、柔軟性、屈曲性を有し、且つ、硬度に優れる皮膜を、ブリスタが発生することなく得ることが出来る被覆剤用水性樹脂組成物の開発が切望されていた。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、特に被覆剤(即ち、表面コーティング剤)として使用した場合に、耐薬品性に優れ、柔軟性や屈曲性が良好で、且つ、硬度に優れた被膜を、ブリスタが発生することなく形成することができる水性樹脂組成物を提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、カルボキシル基を含有する特定の重合体粒子と感熱ゲル化剤とカルボキシル基に対して反応性を有する架橋剤とが水性媒体中に分散する水性樹脂組成物を用いることにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、少なくとも分子中にカルボキシル基を有し、ガラス転移温度が−50〜−15℃である重合体[A]とガラス転移温度が30〜150℃である重合体[B]とから構成される、分子中にカルボキシル基を有する重合体粒子[X]と感熱ゲル化剤[Y]としてのポリエーテル変性シリコーンカルボキシル基と反応性を有する架橋剤[Z]とが水性媒体中に分散してなる水性樹脂組成物であって、前記重合体粒子[X]が前記重合体[B]をコア、及び前記重合体[A]をシェルとするコア−シェル構造を有するものであり、かつ前記ポリエーテル変性シリコーンが、前記重合体粒子[X]100重量部に対して0.05〜30重量部含まれ、かつ前記架橋剤[Z]が、前記重合体粒子[X]の有するカルボキシル基1モルに対して0.1〜2.0モル含まれることを特徴とする水性樹脂組成物を提供するものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下本発明をさらに詳細に説明する。
まず本発明に使用する分子中にカルボキシル基を有する重合体粒子[X]について説明する。
カルボキシル基を有する重合体粒子[X](以下重合体粒子[X]という)は、少なくとも、分子中にカルボキシル基を有し、ガラス転移温度が−50〜−15℃である重合体[A]とガラス転移温度が30〜150℃である重合体[B]とから構成される。
【0016】
分子中にカルボキシル基を有し、ガラス転移温度が−50〜−15℃である重合体[A](以下重合体[A]という)としては、特に限定されるものではないが、例えばカルボキシル基を有するアクリル系重合体、ブタジエン系重合体等のエチレン性不飽和単量体のラジカル重合体(以下エチレン性重合体という)、尿素並びにウレタン結合を有する重合体を含むウレタン重合体、ポリエステル重合体等が挙げられる。またこれら種々の重合体の混合物、例えばアクリル重合体/ウレタン重合体の混合物や、種々の重合体のグラフト化(ブロック化)物、例えば、不飽和ポリエステル重合体或いはアルキッド樹脂にアクリル重合体をグラフト化したもの等も挙げられる。
【0017】
重合体[A]は、上記重合体のうち、酸価、分子量の調整やカルボキシル基以外の反応性官能基の導入等を考慮して設計する場合、設計が容易で後記する方法により簡単に製造することができるという点から、エチレン性重合体であることが好ましい。
【0018】
これらの重合体にカルボキシル基を導入するには、分子中にカルボキシル基を有する単量体を使用することにより、達成される。例えばエチレン性重合体の場合は、エチレン性不飽和単量体を用い、ラジカル重合反応させることにより得ることができる。
重合体[A]が有するカルボキシル基は、重合体粒子[X]が水性媒体中で安定的に分散するように作用すると共に、後記する架橋剤[Z]との架橋性反応基として作用し、更に、重合体[B]中の官能基との架橋性反応基としても作用する。
【0019】
本発明に使用する重合体[A]は、カルボキシル基の他、更に後述する重合体[B]中の反応性官能基と反応性を有する基を含有していることが特に好ましい。この場合、重合体[A]と重合体[B]とが該反応性官能基によって相互に結合するので、常温での被膜の硬度や耐薬品性が向上する。
【0020】
重合体[A]に導入し得るカルボキシル基以外の反応性官能基としては、具体的には、例えば、グリシジル基、水酸基、アミノ基、メチロールアミド基、加水分解性シリル基もしくはシラノール基、アジリジニル基、イソシアナート基、ブロックイソシアナート基、オキサゾリン基、アミド基、カルボニル基、アセトアセチル基、アリル基、シクロペンテニル基等が挙げられる。
【0021】
重合体[A]は、常温(25℃)での硬度を保持するという点から、ガラス転移温度(以下Tgという)は−50℃以上であることが必要であり、−40℃以上であることが好ましい。
また重合体[A]は、被膜の柔軟性や屈曲性の点から、Tgが−15℃以下であることが必要であり、−20℃以下であることが好ましい。
本発明におけるTgの数値は、JIS K7122(プラスチック転移熱測定方法)に従い示差走査型熱量計を用いて測定した値に基づくものである。
【0022】
Tgが30〜150℃である重合体[B](以下重合体[B]という)の重合体の種類としては、特に制限されないが、上記の重合体[A]として掲げた重合体を用いることができる。
【0023】
重合体[B]は、Tgが高く剛直な物性を有するため、重合体粒子の被膜の柔軟性や屈曲性を維持しつつ常温での硬度を向上させるためには、重合体粒子[X]の内部に存在することが好ましい。
【0024】
重合体[B]のTgを30℃以上とすると、重合体粒子[X]から形成される被膜の硬度に優れた被膜が得られる。
また、被膜の25℃での柔軟性や屈曲性を維持するためには、重合体[B]のTgが150℃以下であることが必要である。
【0025】
本発明に使用する重合体[B]は、重合体[A]のカルボキシル基やその他の反応性官能基と反応性を有する基を含有していると、重合体[A]と重合体[B]とが該反応性基により結合し、被膜の硬度や耐薬品性が向上するため好ましい。
特に、被膜の耐薬品性を向上させるという点から、重合体[B]にカルボキシル基と反応性を有する官能基を含有することが好ましい。
【0026】
カルボキシル基と反応性を有する官能基としては、例えば、グリシジル基、メチロールアミド基、アジリジニル基、イソシアナート基、ブロックイソシアナート基、オキサゾリン基等が挙げられるが、特に、被膜の耐薬品性の点からグリシジル基が好ましい。
【0027】
また、重合体[B]には、重合体[A]のカルボキシル基とは反応性を持たない反応性官能基(以下、カルボキシル基と非反応性の官能基という)を導入してもよい。カルボキシル基と非反応性の官能基としては、具体的には、例えば、水酸基、アミノ基、アミド基、カルボニル基、加水分解性シリル基もしくはシラノール基、アセトアセチル基、アリル基、シクロペンテニル基等が挙げられる。
【0028】
本発明に使用する重合体粒子[X]は、少なくとも、重合体[A]および重合体[B]から構成されているが、重合体[A]、重合体[B]以外の重合体を含むこともできる。また重合体粒子[X]の構造は特に限定されない。
【0029】
重合体粒子[X]の構造としては、例えば重合体[A]をマトリックスとして重合体[B]が該マトリックスの重合体[A]内に1つの塊状となって、或いは多数に分散して存在するものである。更に、具体的には、重合体[B]をコア、重合体[A]をシェルとする「コア−シェル構造」、或いは、重合体[B]が重合体[A]中に多数に分散し、重合体[A]が重合体[B]を完全に或いは不完全にカプセル化している構造、或いは、重合体[A]と重合体[B]が多数の不連続なドメインを形成する相互貫入網目構造などの不均質な構造、或いは、重合体[A]が水性媒体中に溶解ないしは非粒子状態で分散しており、重合体[B]が重合体[A]をマトリックスとして粒子状に分散している構造等が挙げられる。
【0030】
これらの構造において、上記のとおり、被膜の柔軟性や屈曲性の点で、重合体[B]が重合体[A]の内部に存在し、重合体[A]が重合体[X]の最外殻部に存在する粒子形態が好ましい。
【0031】
さらに、上記の構造のうち、重合体[A]と重合体[B]がそれぞれ同芯状に層構造を有する、いわゆる「コア−シェル構造」、あるいは、重合体[B]が重合体[A]中に多数に分散し、重合体[A]が重合体[B]をカプセル化し、かつ重合体[A]が粒子の最外殻部に存在する構造が、低温特性に優れ、且つ、常温での硬度にも優れるためより好ましい。
【0032】
この形態学的な粒子構造は、当該分野で知られている種々の方法で観察することができるが、染色法を用いた走査透過型電子顕微鏡による観察が、各重合体間の違いを強調するために適している。また、クライオミクロトームを用いて作成した粒子の断面を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察する方法においても、粒子構造を確認することができる。
【0033】
上述した重合体[A]中の反応性官能基と重合体[B]中の反応性官能基は、水性樹脂組成物の製造時に反応して重合体粒子[X]内で架橋していてもよいが、被膜の造膜性や硬度の点から、造膜前の重合体粒子においては未架橋のまま残存していることが好ましい。その後被膜を形成する時、或いは被膜を形成した後に反応性官能基を反応させ、架橋被膜を形成させる方が、被膜の諸物性を著しく向上させることができる。
この様な重合体[A]および重合体[B]に存在する反応性官能基との組み合わせとしては、例えば、以下に挙げる組み合わせがそれら相互の反応性に優れる点から好ましい。
【0034】
即ち、重合体[A]中のカルボキシル基と、重合体[B]中のグリシジル基、メチロールアミド基、アジリジニル基、イソシアナート基、ブロックイソシアナート基、オキサゾリン基との組み合わせ;
重合体[A]中のグリシジル基と、重合体[B]中のアミノ基、メチロールアミド基、アセトアセチル基、加水分解性シリル基もしくはシラノール基との組み合わせ;
重合体[A]中の水酸基と、重合体[B]中のメチロールアミド基、イソシアナート基、ブロックイソシアナート基、加水分解性シリル基もしくはシラノール基との組み合わせ;
【0035】
重合体[A]中のアミノ基と、重合体[B]中のグリシジル基、アセトアセチル基との組み合わせ;
重合体[A]中のメチロールアミド基と、重合体[B]中のメチロールアミド基、水酸基、グリシジル基、イソシアナート基、ブロックイソシアナート基、アミド基、アセトアセチル基、加水分解性シリル基もしくはシラノール基との組み合わせ;
重合体[A]中の加水分解性シリル基もしくはシラノール基と、重合体[B]中の水酸基、メチロールアミド基、グリシジル基、加水分解性シリル基もしくはシラノール基との組み合わせ;
【0036】
重合体[A]中のイソシアナート基と、重合体[B]中の水酸基、メチロールアミド基、グリシジル基、アセトアセチル基との組み合わせ;
重合体[A]中のアミド基と、重合体[B]中のメチロールアミド基、アセトアセチル基との組み合わせ;
重合体[A]中のアセトアセチル基と、重合体[B]中のアミノ基、メチロールアミド基、グリシジル基、イソシアナート基との組み合わせ;
重合体[A]中のシクロペンテニル基と、重合体[B]中のシクロペンテニル基との組み合わせ;
重合体[A]中のアリル基と、重合体[B]中のアリル基との組み合わせ;
或いは更に、これら2種以上の組み合わせ等が使用できる。
【0037】
上記の組み合わせの中でも、重合体[A]中のカルボキシル基と、重合体[B]中のグリシジル基、メチロールアミド基、アジリジニル基、イソシアナート基、ブロックイソシアナート基、オキサゾリン基との組み合わせ、
及び、重合体[A]中の加水分解性シリル基もしくはシラノール基と、重合体[B]中の水酸基、メチロールアミド基、グリシジル基、加水分解性シリル基もしくはシラノール基との組み合わせが、得られる被膜の常温での硬度や耐水性等の諸物性が著しく向上するため好ましい。
【0038】
本発明の水性樹脂組成物を構成する重合体粒子[X]の平均粒子径(50%メジアン径)は、250〜1500nmであることが、被膜形成時の乾燥性に優れることから好ましい。
【0039】
また、水性樹脂組成物の固形分は55重量%以上であることが、被膜形成時の乾燥性に優れることから好ましい。
【0040】
次ぎに本発明の水性樹脂組成物に使用する感熱ゲル化剤[Y]としては、ポリエーテル変性シリコーン、アルキルフェノール−ホルマリン縮合物のアルキレンオキサイド付加物、亜鉛アンモニウム塩、ノニオン系界面活性剤、無機金属塩、ポリプロピレングリコール、ポリビニルメチルエーテル等が挙げられる。これらのうち、耐水性の点でポリエーテル変性シリコーン、アルキルフェノール−ホルマリン縮合物のアルキレンオキサイド付加物、ノニオン系界面活性剤、ポリビニルメチルエーテルが好ましく、さらにブリスタ抑制効果の点でポリエーテル変性シリコーンが好ましい。またポリエーテル変性シリコーンの1重量%水溶液の曇点は、ブリスタ抑制効果の点で30〜55℃であることが好ましい。
【0041】
ここで、感熱ゲル化剤[Y]の曇点とは、透明なポリエーテル変性シリコーンの1重量%水溶液を室温より徐々に加熱していき、目視観察により該水溶液に濁りを生ずる温度をいい、本発明における曇点は、後記の実施例に示す方法で測定した数値に基づくものである。
【0042】
ポリエーテル変性シリコーンは、さらに具体的には、構造式[1]又は構造式[2]で表される。構造式[1]及び構造式[2]の中でポリオキシアルキレングリコール単位としては、エチレンオキサイド及びエチレンオキサイド以外のアルキレンオキサイド等が挙げられる。
【0043】
【化1】
Figure 0003988072
【化2】
Figure 0003988072
【0044】
上記構造式[1]及び[2]中、R1は任意のアルキル基、R2は任意のアルキレン基、R3、R4は何れか一方がエチレン残基で、他方が炭素原子数が3〜8のアルキレン残基であり、R5はアルキル基、アセチル基もしくは水素を示し、a及びbは各々1以上の整数を示し、m及びnは各々任意の整数を示す。
【0045】
これらの感熱ゲル化剤[Y]の量は、特に制限されるものではないが、重合体水性分散液の長期保存性の面から、重合体粒子[X]100重量部に対して、通常、0.05〜30重量部の範囲で使用することが好ましい。
【0046】
重合体粒子[X]のカルボキシル基と反応性を有する架橋剤[Z](以下架橋剤[Z]という)としては、カルボキシル基と反応性を有する架橋剤であれば、特に制限を受けるものではない。架橋剤[Z]の態様は、水溶性、或いは水希釈性または水分散性等が挙げられる。
【0047】
架橋剤[Z]としては、具体的には、例えば、多官能性メラミン化合物、多官能性ポリエチレンイミン化合物、多官能性(ブロック)イソシアネート化合物、多官能性アジリジン化合物、多官能性グリシジル化合物、多官能性カルボジイミド化合物、多官能性オキサゾリン化合物等が挙げられる。
【0048】
これらの中でも特に、架橋剤[Z]が、多官能性グリシジル化合物、多官能性カルボジイミド化合物又は多官能性オキサゾリン化合物が、得られる被膜の架橋密度を向上させることができ、被膜の耐薬品性や硬度が向上するため好ましい。
【0049】
多官能性グリシジル化合物の具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル等の脂肪族多価アルコールのグリシジルエーテル類;ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル等のポリアルキレングリコールのグリシジルエーテル類;多価アルコール[エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ビス(ヒドロキシメチル)ベンゼン等]と多価カルボン酸[蓚酸、アジピン酸、ブタントリカルボン酸、マレイン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ベンゼントリカルボン酸等]とのポリエステルのポリグリシジル化物、ポリカプロラクトンのポリグリシジル化物等のポリエステルのポリグリシジル化物;多価アミン[エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、トリレンジアミン等]と多価カルボン酸[蓚酸、アジピン酸、ブタントリカルボン酸、マレイン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ベンゼントリカルボン酸等]とのポリアミドのポリグリシジル化物;ビスフェノールAとエピクロルヒドリンの縮合物、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンの縮合物のエチレンオキシド付加物、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンの縮合物のプロピレンオキシド付加物等のビスフェノールA系エポキシ樹脂;フェノールノボラック樹脂、フェノールノボラック樹脂のエチレンオキシド付加物、フェノールノボラック樹脂のプロピレンオキシド付加物等のフェノールノボラック系エポキシ樹脂;エポキシ樹脂をウレタン変性したエポキシウレタン樹脂;側鎖にエポキシ基を有する各種ビニル系(共)重合体;グリシジル変性シリコーンオイル;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシジル基含有アルコキシシランの部分加水分解物;グリシジル基含有アクリル樹脂等の1分子中にグリシジル基を2個以上有する化合物が挙げられる。この様なグリシジル基含有化合物の中でも、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、グリセロールポリグリシジルエーテル類、ジグリセロルポリグリシジルエーテル類、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル類、ソルビトールポリグリシジルエーテル類等の水溶性グリシジル基含有化合物、または、「デナコールEM−125」[ナガセ化成工業(株)製]、「ディックファインEM−100」[大日本インキ化学工業(株)製]、「アデカレジンEPE−0410、EPES−0425W」[旭電化工業(株)製]等の自己分散性のグリシジル基含有化合物をエマルジョン化したもの、或いは水不溶性のグリシジル基含有化合物(液状、固型状)を乳化剤でエマルジョン化したものが、重合体粒子[X]との相溶性や硬化性の点から好ましい。
【0050】
また、多官能性グリシジル化合物としては、1分子中にグリシジル基と、グリシジル基以外の反応性官能基(ここで反応性官能基とは、重合体粒子[X]中の反応基と反応し得る反応性官能基、もしくは該反応基同士で反応し得る反応性官能基をいう)を有していることが好ましく、この様な化合物としては、具体的には、1分子中にグリシジル基と、加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有するグリシジル基含有シラン化合物が挙げられる。
【0051】
このグリシジル基含有シラン化合物を用いた場合、被膜の耐水性や耐薬品性等の諸物性、特に耐薬品性が著しく向上し、更に、架橋性が良好であり、例えば常温乾燥のみで所望とする性能の架橋被膜が得られるため好ましい。
【0052】
グリシジル基含有シラン化合物としては、これらの両種の反応性基を併有するエチレン性重合体や、グリシジル基を有するシランカップリング剤、あるいはグリシジル基を有するシリコーン樹脂などが特に代表的なものとして挙げられる。
【0053】
ここにおいて、かかる加水分解性シリル基とは、たとえば、アルコキシ基、置換アルコキシ基、フェノキシ基、ハロゲン原子、イソプロペニルオキシ基、アシロキシ基またはイミノオキシなどが結合した珪素原子を含む原子団であって、容易に加水分解されて、シラノール基を生成するものを指称するが、それらのうちでも特に代表的なものとして、例えば、アルコキシシリル基、フェノキシシリル基、ハロシリル基、イソプロペニルオキシシリル基、アシロキシシリル基またはイミノオキシシリル基などが挙げられる。
【0054】
上記したグリシジル基と加水分解性シリル基もしくはシラノール基を併有するエチレン性重合体を調製するには、公知の各種の方法がいずれも適用できる。これらのうち、推奨し得る方法としては、▲1▼各種の加水分解性シリル基含有重合性単量体類と、各種のグリシジル基含有重合性単量体類とをラジカル共重合する方法、▲2▼上記の如く、加水分解性シリル基含有重合性単量体類と、各種のグリシジル基含有重合性単量体類と、これらと共重合可能なるその他の重合性単量体とをラジカル共重合する方法、▲3▼γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランまたはγ−メルカプトプロピルトリイソプロペニルオキシシランの如き、加水分解性シリル基を含有する各種の連鎖移動剤の存在下に、前述した各種のグリシジル基含有重合性単量体類を必須の単量体成分とする単量体混合物をラジカル(共)重合せしめるか、あるいは、▲4▼上記▲1▼もしくは▲2▼の方法と上記▲3▼の方法を組み合わせた方法等の種々の方法が挙げられる。
【0055】
また、上記したグリシジル基含有シランカップリング剤として、特に代表的なものとしては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジエトキシシランもしくはγ−グリシドキシプロピルトリイソプロぺニルオキシシランの如き、各種のグリシジル基含有シラン化合物;γ−イソシアネ−トプロピルトリイソプロぺニルオキシシランもしくはγ−イソシアネ−トプロピルトリメトキシシランの如き、各種のイソシアネートシラン化合物と、グリシド−ルとの付加物;またはγ−アミノプロピルトリメトキシシランの如き、各種のアミノシラン化合物と、ジグリシジル化合物との付加物;あるいは、上掲の如き各種のグリシジル基含有シラン化合物を部分加水分解縮合せしめて得られる、一分子中に2個以上のグリシジル基と加水分解性シリル基とを併有する化合物等が挙げられる。
【0056】
更に、架橋剤[Z]として、多官能性グリシジル化合物を使用する場合は、硬化触媒を併用することが、被膜の架橋性をより一層向上することができる点から好ましい。
【0057】
斯かる硬化触媒として特に代表的なものとしては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸カリウム、ナトリウム・メチラート等の各種の塩基性化合物類;テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、オクチル酸錫、オクチル酸鉛、オクチル酸コバルト、オクチル酸亜鉛、オクチル酸カルシウム、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ジ−n−ブチル錫ジアセテート、ジ−n−ブチル錫ジオクトエート、ジ−n−ブチル錫ジラウレート、ジ−n−ブチル錫マレエート等の各種の含金属化合物類;p−トルエンスルホン酸、トリクロル酢酸、燐酸、モノアルキル燐酸、ジアルキル燐酸、モノアルキル亜燐酸、ジアルキル亜燐酸等の各種の酸性化合物などが挙げられる。
【0058】
次に、架橋剤[Z]として、多官能性カルボジイミド化合物としては、2個以上のカルボジイミド基を含有する化合物であり、例えば、有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応によりイソシアネート末端多価カルボジイミドを合成することにより製造できる。
【0059】
2個以上のカルボジイミド基を含有する化合物を合成する際の原料である有機ジイソシアネートとしては、脂肪族、脂環式或いは芳香族のジイソシアネートを、単独或いは二種以上の混合物として使用することができる。
具体的には、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメチルメタンジイソシアネート、1,4−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0060】
上記した有機イソシアネートとともにモノイソシアネート等の末端イソシアネート基と反応する化合物を用いて、分子を適当な重合度に制御することもできる。
【0061】
上記した有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応は、カルボジイミド化触媒の存在下に進行する。このカルボジイミド化触媒としては、例えば、1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−2−ホスホレン−1−オキシドや、これらの3−ホスホレン異性体等のホスホレンオキシド等を使用することができる。
【0062】
また、多官能性カルボジイミド化合物は、水溶性、或いは水希釈性または水分散性であることが、重合体粒子[X]との相溶性の点から好ましい。
【0063】
この場合、適当な乳化剤や分散安定剤を用いて水に分散させたり、或いは多官能性カルボジイミド化合物の分子構造内に親水性のセグメントを付加することにより自己乳化或いは水溶液の形態にすることができる。
【0064】
上記親水性セグメントとしては、ジアルキルアミノアルコールの四級アンミニウム塩(例えば2−ジメチルアミノエタノールの四級塩等)、ジアルキルアミノアルキルアミンの四級塩(例えば3−ジメチルアミノ−n−プロピルアミンの四級塩等)、反応性ヒドロキシル基を少なくとも1個以上有するアルキルスルホン酸塩(例えばヒドロキシプロパンスルホン酸塩等)、アルコキシ基で末端封鎖されたポリエチレンオキサイドまたはポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドとの混合物(例えばメトキシ基またはエトキシ基で末端封鎖されたポリエチレンオキサイド等)等が挙げられる。
【0065】
多官能性カルボジイミド化合物としては、製品として、例えば、カルボジライトV−01、V−02、V−03、V−04、V−05、V−06[日清紡(株)製]、UCARLINK XL−29SE、XL−29MP[ユニオンカーバイド(株)製]を挙げることができる。
【0066】
次に、多官能性オキサゾリン化合物としては、2個以上のオキサゾリン基を含有する化合物であり、2個以上のオキサゾリン基を含有する低分子量化合物であっても、オキサゾリン基含有重合体であってもよいが、一分子内に少なくとも2個以上のオキサゾリン基を含有するオキサゾリン基含有重合体であることが、被膜の耐薬品性等の点から、より好ましい。
【0067】
上記多官能性オキサゾリン化合物の低分子量化合物としては、例えば、2,2’−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−メチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−トリメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−ヘキサメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、ビス−(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス−(2−オキサゾリニルノルボルナン)スルフィド等を挙げることができる。
【0068】
多官能性オキサゾリン化合物の重合体としては、下記一般式[1](一般式[1]中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立に水素、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アリール基または置換アリール基であり、R5は付加重合性不飽和結合を有する非環状有機基である)で表される付加重合性オキサゾリンと、共重合可能な単量体を含むモノマー成分を重合したオキサゾリン基含有重合体が挙げられる。
【化3】
Figure 0003988072
【0069】
上記付加重合性オキサゾリンとしては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等を挙げることができ、これらの中から選ばれる1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらのうち、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが、工業的に入手し易いため、好ましい。
【0070】
付加重合性オキサゾリンの使用量は、特に制限を受けるものではないが、単量体成分中の5重量%以上含有することが好ましく、更に好ましくは、30〜60重量%の範囲である。
【0071】
付加重合性オキサゾリンの使用量がかかる範囲であれば、得られる被膜に優れた耐薬品性、耐水性などを付与することができる。
【0072】
付加重合性オキサゾリンの使用量が5重量%未満では、重合体粒子[X]のカルボキシル基との架橋反応の程度が不十分となり、得られる被膜の耐薬品性等が低下してしまう。
【0073】
付加重合性オキサゾリンの使用量が60重量%を越えた場合は、多官能性オキサゾリン化合物自体の親水性が強くなり、得られる被膜の耐水性が低下してしまう。
【0074】
更に、本発明に使用できる付加重合性オキサゾリンと共重合可能な単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸とポリエチレングリコールとのモノエステル化合物等の(メタ)アクリル酸エステル類;2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、β−(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート等のフッ素含有エチレン性不飽和単量体;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルブチラート、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、アミルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有エチレン性不飽和単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルアニソール、α−ハロスチレン、ビニルナフタリン、ジビニルスチレン等の芳香族環を有するビニル化合物;イソプレン、クロロプレン、ブタジエン、エチレン、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、N−ビニルピロリドン等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0075】
また、多官能性オキサゾリン化合物は、水溶性、或いは水希釈性または水分散性であることが、重合体粒子[X]との相溶性の点から好ましい。
【0076】
上記の多官能性オキサゾリン化合物のうち、特に、多官能性オキサゾリン化合物の重合体が、被膜の架橋密度を向上することができ、耐薬品性に優れるため、好ましい。
【0077】
多官能性オキサゾリン化合物の重合体は、上記単量体成分を、従来公知の溶液重合法や乳化重合法等の方法で製造することができる。
【0078】
多官能性オキサゾリン化合物の重合体としては、例えば、市販品としてはエポクロスK−1010E、K−1020E、K−1030E、K−2010E、K−2020E、K−2030E[(株)日本触媒製:エマルジョンタイプ]、エポクロスWS−500、WS−700[(株)日本触媒製:水溶性タイプ]を使用することができる。
【0079】
特に、多官能性オキサゾリン化合物として、水溶性のエポクロスWS−500、WS−700を使用することが、前述の如く被膜の架橋密度を向上することができ、耐薬品性に優れるため、好ましい。
【0080】
上記の架橋剤[Z]の中でも、特に、多官能性オキサゾリン化合物を使用することが、本発明により得られる被膜の耐薬品性が特に優れるため、好ましい。
【0081】
これらの架橋剤[Z]の量は、特に制限されるものではないが、重合体水性分散液の架橋性、架橋被膜の性能と、重合体水性分散液の貯蔵安定性の面から、重合体粒子[X]中に含まれるカルボキシル基1モルに対して、通常、0.1〜2.0モルの範囲で使用することが好ましい。
【0082】
本発明の水性樹脂組成物は、それ自体、常温もしくは加熱乾燥により、耐薬品性に優れ、柔軟性や屈曲性に優れ、且つ硬度に優れた被膜を形成するものであるが、本発明の奏する効果を損なわない範囲において、架橋剤[Z]以外の架橋剤を使用することができる。この架橋剤としては、例えば、多官能性ポリアミン化合物、多官能性ポリエチレンイミン化合物金属塩化合物等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0083】
次ぎに本発明の水性樹脂組成物の製造方法について説明する。
すなわち、製造方法としては、例えば
(1)重合体[A]と重合体[B]とを別々に製造し、これらを一旦混合した後に水性媒体中に分散させて重合体粒子[X]の水性分散液を得、その後、感熱ゲル化剤(Y)及び架橋剤[Z]を添加する方法、
(2)重合体[A]を製造し、これを水性媒体中に溶解、或いは分散させた後、該水性媒体中で重合体[B]を製造して重合体粒子[X]の水性分散液を得、その後、感熱ゲル化剤(Y)及び架橋剤[Z]を添加する方法、
(3)重合体[B]を製造し、これを水性媒体中に溶解、或いは分散させた後、該水性媒体中で重合体[A]を製造して重合体粒子[X]の水性分散液を得、その後、感熱ゲル化剤(Y)及び架橋剤[Z]を添加する方法、
などが挙げられる。
【0084】
本発明の水性樹脂組成物の製造方法は、これらの製造方法の中で、上記方法(2)が、重合体(B)が重合体(A)に取り込まれ易くなり、1つの粒子中に重合体(A)と重合体(B)を含有する粒子構造となり易く、且つ、粒子の最外殻部に重合体[A]が存在し易くなるため、好ましい。
【0085】
以下上記方法(2)について説明する。
まず重合体[A]の製造方法としては、特に制限されるものではないが、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を必須成分とする単量体成分を、例えば懸濁重合、乳化重合、塊状重合、溶液重合などの方法により得ることができる。これらのうち、重合体[A]を水性媒体中に分散させる工程を省略でき、重合体[A]の製造工程と重合体[B]の製造工程とを連続して行え、製造工程を簡略化できる点から、水性媒体中で乳化重合を行う方法が好ましい。
【0086】
重合体[A]を水性媒体中で乳化重合により製造する方法としては、水、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を必須の成分とする重合性単量体混合物、重合開始剤、(必要に応じて乳化剤及び分散安定剤)を一括混合して重合する方法や、水、重合性単量体、乳化剤を予め混合したものを滴下するいわゆるプレエマルジョン法や、モノマー滴下法等の方法により製造することができる。これらの中でも、特に、モノマー滴下法、またはプレエマルジョン法で製造することが、重合時の安定性の点から好ましい。
【0087】
重合体[A]を乳化重合する場合の必須の単量体であるカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体としては、分子内にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するものであれば特に限定されない。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、β−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルプロピオン酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸ハーフエステル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンサクシネート、β−(メタ)ヒドロキシエチルハイドロゲンフタレートおよびこれらの塩等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも、特に、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体として、メタクリル酸を用いると、単量体成分重合時の安定性に優れるため、好ましい。
【0088】
本発明で使用する単量体成分としては、上記のカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体の他、その他のエチレン性不飽和単量体を併用して重合させることができる。このその他のエチレン性不飽和単量体との併用により、重合体のTg(−50〜−15℃)を前述の好ましい範囲に調整した重合体[A]を得ることができる。
【0089】
上記の、その他のエチレン性不飽和単量体としては、エチレン性不飽和単量体と共重合性のあるものであれば特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、β−(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート等のフッ素含有エチレン性不飽和単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルブチラート、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、アミルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有エチレン性不飽和単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルアニソール、α−ハロスチレン、ビニルナフタリン、ジビニルスチレン等の芳香族環を有するビニル化合物;イソプレン、クロロプレン、ブタジエン、エチレン、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、N−ビニルピロリドン等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0090】
所望のTg(−50〜−15℃の範囲)の重合体[A]を得るためには、アルキル基の炭素原子数が4〜12の長鎖アルキル基を含有する(メタ)アクリル酸エステル類を使用することが好ましい。
【0091】
また、その他のエチレン性不飽和単量体として、上述した単量体と共に、カルボキシル基以外の反応性官能基を有するエチレン性不飽和単量体を併用して重合することができる。このエチレン性不飽和単量体の併用は、後述する重合体[B]中の反応性官能基と結合して、耐薬品性等の諸物性が向上するため、好ましい。
【0092】
カルボキシル基以外の反応性官能基を有するエチレン性不飽和単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有重合性単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有重合性単量体;アミノエチル(メタ)アクリレート、N−モノアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有重合性単量体;N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−イソプロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のメチロールアミド基またはそのアルコキシ化物含有重合性単量体;ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩等のシリル基含有重合性単量体;2−アジリジニルエチル(メタ)アクリレート等のアジリジニル基含有重合性単量体;(メタ)アクリロイルイソシアナート、(メタ)アクリロイルイソシアナートエチルのフェノール或いはメチルエチルケトオキシム付加物等のイソシアナート基及び/またはブロック化イソシアナート基含有重合性単量体;2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−2−オキサゾリン等のオキサゾリン基含有重合性単量体;(メタ)アクリルアミド、N−モノアルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有重合性単量体;ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等のシクロペンテニル基含有重合性単量体;アリル(メタ)アクリレート等のアリル基含有重合性単量体;アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド等のカルボニル基含有重合性単量体;アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のアセトアセチル基含有重合性単量体等が挙げられる。
上述した単量体の1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0093】
上記のカルボキシル基以外の反応性官能基を有するエチレン性不飽和単量体のうち、後述する重合体[B]中の反応性官能基との反応性に優れ、被膜の耐久性および耐水性がより向上する点から、特にグリシジル基含有重合性単量体、水酸基含有重合性単量体、メチロールアミド基含有重合性単量体、シリル基含有重合性単量体、アセトアセチル基含有重合性単量体を使用することが好ましく、その中でも、シリル基含有重合性単量体を使用すると、エマルジョン被膜の耐水性等の諸物性が著しく向上するため、より好ましい。
【0094】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体と、その他のエチレン性不飽和単量体との使用割合は、前記の如く重合体[A]のTgが−50〜―15℃となるような割合で、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を使用する必要があり、且つ、後述する重合体[B]の単量体成分及び該重合体[B]との相溶性を考慮して、その種類と量を選択することが好ましい。
【0095】
重合体[A]を乳化重合により製造する際の乳化剤としては、陰イオン性乳化剤、非イオン性乳化剤の公知のものが使用できる。
【0096】
また、上記乳化剤以外にその他の分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、繊維素エーテル、澱粉、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化アルキッド樹脂、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、水性アクリル樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性ポリアミド樹脂、水性ポリウレタン樹脂等の合成或いは天然の水溶性高分子物質が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0097】
重合体[A]の重合の際に用いる重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が用いられ、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類等の有機過酸化物類、過酸化水素等があり、これら過酸化物のみを用いてラジカル重合するか、或いは前記過酸化物と、アスコルビン酸及びその塩、エリソルビン酸及びその塩、酒石酸及びその塩、クエン酸及びその塩、ホルムアルデヒドスルホキシラートの金属塩、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、塩化第二鉄等のような還元剤とを併用したレドックス重合開始剤系によっても重合でき、また、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ系開始剤を使用することも可能であり、これらの1種又は2種以上の混合物が使用できる。
【0098】
本発明において、重合体[A]の分子量を調整する必要がある場合は、重合体[A]を合成する際に分子量調整剤として連鎖移動能を有する化合物を添加してもよい。分子量調整剤としては、例えば、ラウリルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸、チオグリセリン等のメルカプタン類、またはα−メチルスチレン・ダイマー等を挙げることができる。
【0099】
重合体[A]のカルボキシル基は、必要に応じて塩基性物質により中和することができる。中和剤として使用する塩基性物質としては、通常のものが使用でき、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属化合物;水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属化合物;アンモニア;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジメチルプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等の水溶性有機アミン類等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。特に、得られる被膜の耐水性をより向上させたい場合は、常温或いは加熱により飛散するアンモニアを使用することが好ましい。
【0100】
次ぎに上記で得られる重合体[A]の水性分散体に、重合体[B]を製造するための単量体成分を添加し、乳化重合を行うことにより、重合体[X]を製造することができる。
重合体[B]を製造するための単量体成分としては、重合体[B]のTgが30〜150℃となるエチレン性不飽和単量体であれば特に制限されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、β−(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート等のフッ素含有エチレン性不飽和単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルブチラート、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、アミルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有エチレン性不飽和単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルアニソール、α−ハロスチレン、ビニルナフタリン、ジビニルスチレン等の芳香族環を有するビニル化合物;イソプレン、クロロプレン、ブタジエン、エチレン、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、N−ビニルピロリドン等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらのなかでも特に重合が容易であり、重合体のTgの調整が容易である点から(メタ)アクリル酸エステル類が好ましい。
【0101】
更に具体的に、所望のTg(30〜150℃)の重合体[B]を得るためには、単量体の単独重合時に得られる重合体のTgが、30℃以上のエチレン性不飽和単量体を使用することが必須であり、例えば、メチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、シクロヘキシルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、イソボルニルアクリレート等のアクリル酸エステル類、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられ、これらの1種または2種以上を混合して使用することができる。
【0102】
また、上記の単量体の単独重合時に得られる重合体のTgが30℃以上の前記単量体と、アルキル基の炭素原子数が1〜3のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル類、または炭素原子数が4〜12の長鎖アルキル基を含有する(メタ)アクリル酸エステル類を併用して、重合体[B]のTgを30℃〜150℃に調整することもできる。
【0103】
また、本発明においては、重合体[B]を製造するための単量体中に、上述した単量体と共に、重合体[A]中の反応性官能基と反応性を有する官能基を含有するエチレン性不飽和単量体を併用して重合することにより、得られる重合体[B]が、重合体[A]と結合し、耐水性等の諸物性が向上するため、好ましい。
【0104】
上述のような重合体[A]中の反応性官能基と反応性を有する官能基を含有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有重合性単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有重合性単量体;アミノエチル(メタ)アクリレート、N−モノアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有重合性単量体;N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−イソプロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のメチロールアミド基またはそのアルコキシ化物含有重合性単量体;ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩等のシリル基含有重合性単量体;2−アジリジニルエチル(メタ)アクリレート等のアジリジニル基含有重合性単量体;(メタ)アクリロイルイソシアナート、(メタ)アクリロイルイソシアナートエチルのフェノール或いはメチルエチルケトオキシム付加物等のイソシアナート基及び/またはブロック化イソシアナート基含有重合性単量体;2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−2−オキサゾリン等のオキサゾリン基含有重合性単量体;(メタ)アクリルアミド、N−モノアルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有重合性単量体;ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等のシクロペンテニル基含有重合性単量体;アリルメタクリレート等のアリル基含有重合性単量体;アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド等のカルボニル基含有重合性単量体;アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のアセトアセチル基含有重合性単量体等が挙げられ、これら単量体の1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0105】
これらの中でも特に、重合体[A]中の反応性官能基と反応性を有する官能基を含有するエチレン性不飽和単量体として、カルボキシル基と反応性を有する官能基を含有するエチレン性不飽和単量体を使用すると、得られる重合体[B]が重合体[A]に親水性を付与しているカルボキシル基と反応して架橋構造を形成することにより、被膜の耐水性が著しく向上するため、好ましい。
【0106】
更に、必要に応じてその他のエチレン性不飽和単量体として、エチレン性不飽和基を2つ以上持つ多官能性エチレン性不飽和単量体を併用することも可能である。
【0107】
本発明における重合体[B]を製造する際に用いる重合開始剤としては、上記重合体[A]を製造するとき使用するラジカル重合開始剤を用いることができる。
また重合体[B]の分子量を調整する必要がある場合は、重合体[A]を製造する際使用した分子量調整剤を用いることができる。
以上のようにして本発明に使用する重合体粒子[X]が得られる。
【0108】
本発明の水性樹脂組成物は、上記重合体粒子[X]に、感熱ゲル化剤[Y]及び架橋剤[Z]を添加することにより得ることができる。
【0109】
本発明の水性樹脂組成物は、被膜形成時のブリスタの発生を防止するという点で、さらに無機充填剤[W]を併用することが好ましい。この無機充填剤[W]としては、特に限定されるものでないが、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、タルク、珪藻土、マイカ、カオリン、酸化チタン、アルミナ、シリカ、ケイ酸カルシウム、カーボンブラック、アタパルジャイト、シラスバルーン、パーライト等が挙げられ、これらは単独又は2種以上を混合使用してもよい。
【0110】
本発明において、上記の無機充填剤[W]の含有量は、重合体粒子[X]100重量部に対して5〜50重量部の範囲であることが好ましい。無機充填剤[W]の含有量がかかる範囲であれば被膜の強度に優れる。
【0111】
また、無機充填剤[W]の平均粒子径は、特に制限されるものではないが、好ましくは0.1〜100μmの範囲である。
【0112】
無機充填剤[W]の分散安定剤として、水溶性高分子物質を使用することができる。この水溶性高分子物質としては、例えば、ポリビニルアルコール、繊維素エーテル、澱粉、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化アルキッド樹脂、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、水溶性アクリル樹脂等の合成或いは天然の水溶性高分子物質が挙げられ、これらの1種又は2種以上の混合物を使用することができる。
【0113】
上記分散安定剤は、無機充填剤[W]の混和安定性及び貯蔵安定性を向上させる目的で使用することができるが、被膜の耐水性等の面からその使用量を極力少なくすることが好ましい。分散安定剤の使用量は、重合体粒子[X]100重量部に対して2重量部以下とすることが好ましい。
【0114】
本発明の水性樹脂組成物は、さらに増粘剤[V]を併用することが好ましい。増粘剤[V]は、従来公知の増粘剤を用いることができる。従来公知の増粘剤としては、例えばカルボキシルメチルセルロース(CMC)水溶液、ヒドロキシルエチルセルロース水溶液、デンプン、ポリビニルアルコール、親水性基含有合成樹脂の水分散体等が挙げられるが、ブリスタの発生を防止する点で、親水性基含有合成樹脂の水分散体が好ましく、カルボキシル基含有アクリル系共重合体の水分散体であることが特に好ましい。
【0115】
カルボキシル基含有アクリル系共重合体の水分散体を製造する方法としては、上記重合体[A]を水性媒体中で乳化重合により製造する方法と同様の方法を用いることができる。
増粘剤としてのカルボキシル基含有アクリル系共重合体の水分散体は、アンモニア水溶液や水酸化ナトリウム水溶液を添加したときのアルカリ増粘性の点で、カルボキシル基含有単量体を15〜60重量%用いるのが好ましい。
【0116】
本発明で使用するカルボキシル基含有アクリル系共重合体の分子量を調整する必要がある場合は、分子量調整剤として連鎖移動能を有する化合物を添加してもよい。
【0117】
また、本発明で使用するカルボキシル基含有アクリル系共重合体の水分散体のカルボキシル基は必要に応じて、塩基性物質等の中和剤で中和させることができる。
【0118】
本発明において、上記の増粘剤[V]の含有量は、特に制限されるものではないが、重合体粒子[X]100重量部に対して5重量部以下の範囲であることが好ましい。増粘剤[V]の含有量がかかる範囲であれば水性樹脂組成物の粘度の経時安定性に優れる。
【0119】
本発明の水性樹脂組成物により形成された被膜の測定温度25℃での引張試験での破断点伸度は、特に制限されないが、塗膜の屈曲性に優れる点で、100%以上であることが好ましい。
この測定温度25℃での引張試験での破断点伸度は、温度25℃でクロスヘッドスピード200mm/分の条件で引張試験機を用いて測定した数値に基づくものである。
【0120】
本発明の水性樹脂組成物には、更に必要に応じて、水溶性或いは水分散性の熱硬化性樹脂、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、或いは熱可塑性樹脂、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂等を混和して使用することもできる。
更に、必要に応じて、本発明の所望の効果を阻害しない範囲で、顔料、pH調整剤、被膜形成助剤、レベリング剤、撥水剤、消泡剤、酸化防止剤、耐光安定剤等公知のものを適宜添加して使用することができる。
【0121】
また、必要に応じて本発明の所望の効果を阻害しない範囲で、充填剤、顔料、pH調整剤、皮膜形成助剤、レベリング剤、増粘剤、撥水剤、消泡剤等公知のものを適宜添加して使用することができる。
【0122】
本発明の水性樹脂組成物は、優れた低温特性を有し、且つ、常温での硬度に優れ、耐水性の良好な被膜を与えるものであり、その用途は多岐にわたる。特に、耐薬品性と柔軟性や屈曲性を有し、且つ硬度の要求される分野において有用なものであり、例えば塗料、プライマー処理剤、接着剤、フィルムコーティング剤、繊維加工用樹脂(織編物や不織布用バインダー・被覆剤、植毛加工用バインダー等)、紙加工(含浸、塗工)用樹脂、ガラス繊維加工用樹脂(ガラス繊維集束剤、ガラスペーパー用バインダー、ガラス繊維被覆剤等)、モルタル改質用樹脂等として利用できる。特に、塗料、インキ、ニス、フィルムコーティング、接着、繊維加工用樹脂、紙加工用樹脂等の応用分野で利用される場合、既述の通り極めて優れた効果を発現する。
【0123】
尚、本発明の態様は、上述したように、分子中にカルボキシル基を有する重合体粒子[X]と感熱ゲル化剤[Y]とカルボキシル基と反応性を有する架橋剤[Z]とが水性媒体中に分散してなる水性樹脂組成物であって、該重合体粒子[X]が、少なくとも、分子中にカルボキシル基を有し、ガラス転移温度が−50〜−15℃である重合体[A]とガラス転移温度が30〜150℃である重合体[B]とから構成されてなることを特徴とする水性樹脂組成物にかかるものである。
【0124】
本発明の他の態様の一つとしては、前記分子中にカルボキシル基を有し、ガラス転移温度が−50〜−15℃である重合体[A]が、前記重合体粒子[X]の最外殻部に存在する上記の水性樹脂組成物にかかるものである。
本発明の他の態様の一つとしては、前記重合体粒子[X]の平均粒子径が250〜2000nmである上記の水性樹脂組成物にかかるものである。
本発明の他の態様の一つとしては、前記感熱ゲル化剤[Y]が、ポリエーテル変性シリコーンである上記の水性樹脂組成物にかかるものである。
本発明の他の態様の一つとしては、前記ポリエーテル変性シリコーンの1重量%水溶液の曇点が30〜55℃である上記の水性樹脂組成物にかかるものである。
【0125】
本発明の他の態様の一つとしては、前記カルボキシル基と反応性を有する架橋剤[Z]が、多官能オキサゾリン化合物である上記の水性樹脂組成物にかかるものである。
本発明の他の態様の一つとしては、さらに無機充填剤[W]を含有する上記の水性樹脂組成物にかかるものである。
本発明の他の態様の一つとしては、さらに増粘剤[V]を含有する上記の水性樹脂組成物にかかるものである。
【0126】
本発明の他の態様の一つとしては、前記水性樹脂組成物中の固形分が55重量%以上である上記の水性樹脂組成物にかかるものである。
本発明の他の態様の一つとしては、前記水性樹脂組成物により形成される被膜の測定温度25℃での引張試験における破断点伸度が100%以上である上記の水性樹脂組成物にかかるものである。
【0127】
【実施例】
以下、本発明を実施例及び比較例により、一層、具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。以下において、特に断らない限り、「%」は重量%、「部」は重量部をそれぞれ示すものとする。
【0128】
まず本発明で用いた評価方法について以下に述べる。
【0129】
[平均粒子径の測定方法]
平均粒子径は、動的光散乱法により、日機装(株)製マイクロトラックUPA型粒度分布測定装置にて測定した平均粒子径(50%メジアン径)の値を求めた。
【0130】
[測定温度25℃での引張試験での破断点伸度の測定方法]
実施例で得られた本発明の水性樹脂組成物を乾燥後の膜厚が0.5mmとなるようにガラス板に塗工し、40℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離し、更に140℃で5分間乾燥したものを2号ダンベルで打ち抜き、これを試料とした。この試料を用いて、オリエンテック社製テンシロンRTM−100型引張試験機にて、25℃の雰囲気下で、クロスヘッドスピード200mm/分で引張試験を実施した時の破断点伸度を測定した。
【0131】
[Tgの測定方法]
実施例で得られた本発明の水性樹脂組成物を乾燥後の膜厚が0.5mmとなるようにガラス板に塗工し、40℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離し、更に140℃で5分間乾燥したものを試料とした。次いで、この試料を、直径5mm、深さ2mmのアルミニウム製円筒型セルに試料約10mgを秤取し、TAインスツルメント社製のDSC−2920モジュレイテッド型示差走査型熱量計を用い、−50℃から昇温速度20℃/分で150℃まで昇温した時の吸熱曲線から測定した。
【0132】
[曇点の測定方法]
実施例で使用した感熱ゲル化剤の1重量%水溶液を室温より徐々に攪拌しながら加熱し、目視観察で該水溶液が濁った時点の温度を曇点とした。
【0133】
[ブリスタ(被膜のふくれ)の評価方法]
実施例で得られた本発明の水性樹脂組成物を内径14mm、高さ30mm、厚さ1mmのガラス製容器に充填剤未添加品の場合は0.7g、充填剤添加品の場合は1.5g入れ、90℃に設定したタバイ社製熱風乾燥機に6分間入れた後、すぐに150℃に設定したタバイ社製熱風乾燥機に3分間入れてブリスタの有無を目視で観察し、以下の基準に従い判定した。
○:変化無し
×:ブリスタ発生
【0134】
[耐酸性試験の測定方法]
実施例で得られた本発明の水性樹脂組成物を乾燥後の膜厚が0.5mmとなるようにガラス板に塗工し、40℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離し、更に140℃で5分間乾燥したものを2号ダンベルで打ち抜き試料とした。この試料を、濃度0.1重量%の硫酸水溶液に50℃で7日間浸漬した。
硫酸水溶液に浸漬前の試料について、測定温度25℃での引張試験における破断点応力(S1)を前述の如く測定し、次に、硫酸水溶液に浸漬後の試料について、試料表面の硫酸水溶液を拭き取った後、同様にして破断点応力(S2)を測定し、硫酸水溶液浸漬前後の破断点応力の保持率を以下の式に従って求めた。
破断点応力の保持率(%)=S2/S1×100
【0135】
[耐アルカリ性試験の測定方法]
実施例で得られた本発明の水性樹脂組成物を乾燥後の膜厚が0.5mmとなるようにガラス板に塗工し、40℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離し、更に140℃で5分間乾燥したものを2号ダンベルで打ち抜き試料とした。この試料を、濃度0.1重量%の水酸化ナトリウム水溶液に50℃で7日間浸漬した。水酸化ナトリウム水溶液に浸漬前の試料について、測定温度25℃での引張試験における破断点応力(S3)を前述の如く測定し、次に、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬後の試料について、試料表面の水酸化ナトリウム水溶液を拭き取った後、同様にして破断点応力(S4)を測定し、水酸化ナトリウム水溶液浸漬前後の破断点応力の保持率を以下の式に従って求めた。
破断点応力の保持率(%)=S4/S3×100
【0136】
[測定温度−10℃での屈曲性の測定方法]
実施例で得られた本発明の水性樹脂組成物を乾燥後の膜厚が1.0mmとなるようにガラス板に塗工し、40℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離し、更に140℃で5分間乾燥したものを20mm×100mmに切り出したものを試料とし、−10℃の雰囲気下で、一端を固定して90度折り曲げ、試料の外観変化を観察して評価を行った。
評価結果は、以下の基準にしたがって判定した。
×:破断もしくは亀裂が発生
△:応力白化や皺等の欠点が発生
○:上記欠点が発生しない
【0137】
《参考例1》(増粘剤[V]の合成)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に脱イオン水690部とノイゲンET−170[第一工業製薬(株)製]24部を入れ、窒素を吹き込みながら75℃まで昇温した。撹拌下、10%過硫酸アンモニウム水溶液10部とエチルアクリレート203部、メタクリル酸87部からなる単量体混合物に、脱イオン水100部とノイゲンET−170[第一工業製薬(株)製]3部を加えて乳化させたモノマープレエマルジョン(前記単量体混合物と乳化剤と水でモノマーを乳化状態にしたものを云う)をそれぞれ滴下漏斗を使用して、反応容器内温度を75℃に保ちながら120分間かけて滴下して重合せしめた。
【0138】
《実施例1》
▲1▼本発明に使用する重合体[A]の製造
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に脱イオン水73部を入れ、窒素を吹き込みながら75℃まで昇温した。撹拌下、過硫酸カリウム0.02部を添加し、続いてn−ブチルアクリレート168部、メチルメタクリレート20部、メタクリル酸12部からなる単量体混合物に、ラテムルE−118B(乳化剤、花王(株)製:有効成分25%)16部と脱イオン水60部を加えて乳化させたモノマープレエマルジョン(前記単量体混合物と乳化剤と水でモノマーを乳化状態にしたものを云う)の一部(3部)を添加し、反応容器内温度を75℃に保ちながら60分間で重合させた。引き続き、反応容器内温度を75℃に保ちながら、残りのモノマープレエマルジョン(273部)と、t−ブチルハイドロパーオキサイドの水溶液(有効成分1%)30部、アスコルビン酸水溶液(有効成分0.5%)30部を、各々別の滴下漏斗を使用して、反応容器内温度を75℃に保ちながら180分間かけて滴下して重合せしめた。
【0139】
滴下終了後、同温度にて120分間撹拌し、反応容器内温度を75℃に保ちながら、アンモニア水(有効成分10%)15部を30分間かけて滴下し、重合体中のカルボキシル基を中和した。
【0140】
▲2▼本発明に使用する重合体[X]の製造
上記カルボキシル基を中和した後、反応容器内温度を75℃に保ちながら、n−ブチルアクリレート60部、メチルメタクレート132部、グリシジルメタクリレート8部からなる単量体混合物と、t−ブチルハイドロパーオキサイドの水溶液(有効成分1%)30部、アスコルビン酸水溶液(有効成分0.5%)30部を、各々別の滴下漏斗を使用して、反応容器内温度を75℃に保ちながら180分間かけて滴下して重合せしめた。滴下終了後、同温度にて120分間撹拌し、内容物を冷却し、pHが7.8になるようにアンモニア水(有効成分10%)で調整した。ここで得られた重合体粒子の水性分散液の粒子径(50%メジアン径)は、350nmであった。
【0141】
▲3▼本発明の水性樹脂組成物の製造
上記の重合体粒子の水性分散液に、感熱ゲル化剤としてFZ−2164(日本ユニカー(株)製オルガノポリシロキサンポリオキシアルキレングリコール:有効成分100重量%)10部を添加し、架橋剤としてエポクロスWS−500((株)日本触媒製オキサゾリン基含有水溶性架橋剤:有効成分40重量%)20部を添加して、固形分濃度が55.0%になるように脱イオン水で調整した後、100メッシュ金網で濾過し、本発明の水性樹脂組成物を得た。
【0142】
この本発明の水性樹脂組成物を用いて得た被膜の評価結果を第1表に示したが、測定温度25℃での引張試験での破断点伸度は270%であり、測定温度25℃での引張試験での破断点応力は13MPaであり、また、Tgは−21℃と45℃であった。また、この水性樹脂組成物から得られた被膜の耐酸性試験での破断応力の保持率は100%であり、耐アルカリ性試験での破断応力の保持率は100%であった。また、この水性樹脂組成物から得られた被膜の測定温度−10℃での屈曲性は、破断や亀裂の発生が無く良好であった。
【0143】
《実施例2〜5》
単量体混合物及び感熱ゲル化剤、架橋剤、増粘剤として第1表に示したものを用いた以外は、実施例1と全く同様にして本発明の水性樹脂組成物を得た。この水性樹脂組成物の粒子径(50%メジアン径)、固形分濃度は第1表に記載した通りであった。また、この水性樹脂組成物から得られた被膜の測定温度25℃での引張試験での破断点伸度、および測定温度25℃での引張試験での破断点応力、Tg、耐酸性、耐アルカリ性、測定温度−10℃での屈曲性、測定温度25℃での硬度は第1表に記載した通りであった。
【0144】
《比較例1〜2》
単量体混合物として第2表に示したものを用いた以外は、実施例1と全く同様にして水性樹脂組成物を得た。この水性樹脂組成物の粒子径、固形分濃度は第2表に記載した通りであった。また、この水性樹脂組成物から得られた被膜の測定温度25℃での引張試験での破断点伸度、被膜の測定温度25℃での引張試験での破断点応力、Tg、耐酸性、耐アルカリ性、測定温度−10℃での屈曲性は第2表に記載した通りであった。
【0145】
《比較例3》
攪拌機、環流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に脱イオン水73部を入れ、窒素を吹き込みながら75℃まで昇温した。撹拌下、過硫酸カリウム0.02部を添加し、続いてn−ブチルアクリレート224部、メチルメタクリレート152部、メタクリル酸12部、グリシジルメタクリレート8部からなる単量体混合物に、ラテムルE−118B[乳化剤、花王(株)製:有効成分25%]16部と脱イオン水60部を加えて乳化させたモノマープレエマルジョン(前記単量体混合物と乳化剤と水でモノマーを乳化状態にしたものをいう)の一部(3部)を添加し、反応容器内温度を75℃に保ちながら60分間で重合させた。引き続き、反応容器内温度を75℃に保ちながら、残りのモノマープレエマルジョン(393部)と、t−ブチルハイドロパーオキサイドの水溶液(有効成分1%)30部、アスコルビン酸水溶液(有効成分0.5%)30部を、各々別の滴下漏斗を使用して、反応容器内温度を75℃に保ちながら180分間かけて滴下して重合せしめた。滴下終了後、同温度にて120分間撹拌し、内容物を冷却し、pHが7.8になるようにアンモニア水(有効成分10%)で調整した。ここで得られた重合体粒子の水性分散液の粒子径(50%メジアン径)は320nmであった。
【0146】
【表1】
Figure 0003988072
【0147】
【表2】
Figure 0003988072
【0148】
第1、2表中の略号の正式名称を下記に示す。
n−BA ;n−ブチルアクリレート
MMA ;メチルメタクリレート
MAA ;メタクリル酸
AA ;アクリル酸
GMA ;グリシジルメタクリレート
MAPTMS;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
L−SH ;ラウリルメルカプタン
2−EHA ;2−エチルヘキシルアクリレート
CHMA ;シクロヘキシルメタクリレート
NUC SILWET FZ−2164;
日本ユニカー(株)製:シリコーン型感熱ゲル化剤 有効成分100%
NUC SILWET FZ−2101;
日本ユニカー(株)製:シリコーン型感熱ゲル化剤 有効成分100%
NUC SILWET FZ−2163;
日本ユニカー(株)製:シリコーン型感熱ゲル化剤 有効成分100%
エポクロス WS−500;
(株)日本触媒製:オキサゾリン基含有架橋剤 有効成分40%
UCARLINK XL−29SE;
ユニオンカーバイド(株)製:カルボジイミド基含有架橋剤 有効成分50%
【0149】
【発明の効果】
本発明の水性樹脂組成物は、被覆剤(表面コーティング剤)として使用した場合に、耐薬品性に優れ、柔軟性や屈曲性を有し、且つ、硬度の高い被膜を形成する。特に、低温特性と常温での高硬度の要求される分野において有用なものであり、塗料、インキ、ニス、フィルムコーティング、接着、繊維加工用樹脂、紙加工用樹脂等の分野で、極めて優れた効果を発揮する。

Claims (8)

  1. 少なくとも分子中にカルボキシル基を有し、ガラス転移温度が−50〜−15℃である重合体[A]とガラス転移温度が30〜150℃である重合体[B]とから構成される、分子中にカルボキシル基を有する重合体粒子[X]と感熱ゲル化剤[Y]としてのポリエーテル変性シリコーンカルボキシル基と反応性を有する架橋剤[Z]とが水性媒体中に分散してなる水性樹脂組成物であって、前記重合体粒子[X]が前記重合体[B]をコア、及び前記重合体[A]をシェルとするコア−シェル構造を有するものであり、かつ前記ポリエーテル変性シリコーンが、前記重合体粒子[X]100重量部に対して0.05〜30重量部含まれ、かつ前記架橋剤[Z]が、前記重合体粒子[X]の有するカルボキシル基1モルに対して0.1〜2.0モル含まれることを特徴とする水性樹脂組成物。
  2. 前記重合体粒子[X]の平均粒子径が250〜2000nmである請求項1に記載の水性樹脂組成物。
  3. 前記ポリエーテル変性シリコーンの1重量%水溶液の曇点が30〜55℃である請求項記載の水性樹脂組成物。
  4. 前記カルボキシル基と反応性を有する架橋剤[Z]が、多官能オキサゾリン化合物である請求項1記載の水性樹脂組成物。
  5. さらに無機充填剤[W]を含有する請求項1記載の水性樹脂組成物。
  6. さらに増粘剤[V]を含有する請求項1記載の水性樹脂組成物。
  7. 前記水性樹脂組成物中の固形分が55重量%以上である請求項1記載の水性樹脂組成物。
  8. 前記水性樹脂組成物により形成される被膜の測定温度25℃での引張試験における破断点伸度が100%以上である請求項1〜のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物。
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