JP3983207B2 - Fe基軟磁性バルク非晶質・ナノ結晶二相合金の製造方法 - Google Patents

Fe基軟磁性バルク非晶質・ナノ結晶二相合金の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気ヘッド、トランス、チョークコイル等のコア材に使用できる軟磁気特性に優れたFe基軟磁性バルク非晶質・ナノ結晶二相合金の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、磁気ヘッドのコア若しくはパルスモータの磁心又はトランスやチョークコイルなどに用いられている軟磁性合金に要求される特性は、飽和磁束密度が高いこと、透磁率が高いこと、低保磁力であること、薄い形状が得やすいことなどである。したがって、軟磁性合金の開発においては、これらの観点から種々の合金系において材料研究がなされている。従来、前述の用途に対する材料として、センダスト、パーマロイ、けい素鋼等の結晶質合金が用いられてきた。
【0003】
前記のセンダストは、低保磁力、高透磁力などの軟磁気特性には優れるものの、飽和磁束密度が約1.1T程度と低い欠点があり、パーマロイも同様に、軟磁気特性に優れる合金組成においては飽和磁束密度が約0.8Tと低い欠点があり、けい素鋼は飽和磁束密度は高いものの、軟磁気特性に劣る欠点がある。
【0004】
最近では、Fe系やCo系の非晶質合金も使用されるようになってきている。
Co基の非晶質合金は、軟磁気特性には優れるものの、飽和磁束密度が1T程度と不十分である。また、液体急冷法で製造したFe−B−M(M=Ti,Zr,Hf,Nb,V,Ta,Mo,W)系等の非晶質合金は、飽和磁束密度が高く、1.5T又はそれ以上のものが得られるが、軟磁気特性が不十分な傾向がある。更に、非晶質合金の熱安定性は十分ではなく、未解決の面がある。以上のことから、従来の材料では、高飽和磁束密度と優れた軟磁気特性を兼備することは難しい。
【0005】
そこで、Fe系合金に非晶質化元素とCuを添加して非晶質薄帯を製造し、これを熱処理して一部結晶化させる軟磁性薄帯の製造方法が知られている(特許文献1〜8)。これらの特許出願に係る発明の合金は、非晶質相と微細な結晶相を混在させたものであり、優秀な軟磁気特性と高い飽和磁束密度と高硬度を兼ね備えるものであった。
【0006】
これらのFe基軟磁性ナノ結晶合金は、液体急冷法により作製されたアモルファス合金を結晶化させることにより実現したものである。したがって、試料の大きさは液体急冷により作製されたアモルファス合金の寸法に左右される。すなわち、従来のFe基アモルファス合金は、アモルファス形成能が低いため、得られる試料の形状は薄帯、薄膜、粉末、線材に限定され、バルク状試料の作製はできなかった。このため、このような材料を用いた電磁変換機器は高価であまり普及していない。
【0007】
本発明者らは、1995年に初めて銅鋳型鋳造法によりFe−Al−Ga−P−C−Bからなる組成のFe基軟磁性バルクガラス合金を開発した。その後引き続き、Fe−(Nb,Cr,Mo)−(Al,Ga)−(P,C,B)、Fe−(Nb,Cr,Mo)−(P,C,B) 、Fe−Co−Ga−(P,C,B)、Fe−Ga−(P,C,B)、Fe−(Nb,Cr,Mo)−Ga−(P,C,B)、Fe−(Zr,Hf,Nb)−B、Fe−(Cr,Mo)−C−B、Fe−B−Si−Nb等のFe基軟磁性バルクガラス合金を開発した(例えば、特許文献9〜19、非特許文献1)。
【0008】
【特許文献1】
特願昭62−317189号(特公平4−4393号公報)
【特許文献2】
特願平4−335524号(特開平7−11396号公報)
【特許文献3】
特願平3−42051号(特開平4−280949号公報)
【特許文献4】
特願平3−360321号(特開平6−17204号、特許第3357386号公報)
【特許文献5】
特願平3−22791号(特開平5−93249号、特許第2857257号公報)
【特許文献6】
特願平9−124803号(特開平10−60607号、特許第33159936号公報)
【特許文献7】
特願平7−18291号(特開平7−258728号公報)
【特許文献8】
特願平7−166579号(特開平9−20965号公報)
【特許文献9】
特願平8−243756号(特開平9−320827号公報)
【特許文献10】
特願平9−35342号(特開平10−226856号公報)
【特許文献11】
特願平9−235277号(特開平11−71647号公報)
【特許文献12】
特願平10−11798号(特開平11−131199号公報)
【特許文献13】
特願平11−60912号(特開2000−256812号公報)
【特許文献14】
特願平11−330699号(特開2001−152301号公報)
【特許文献15】
特願2000−79055号(特開2001−262292号公報)
【特許文献16】
特願2000−289491号(特開2001−316782号公報)
【特許文献17】
特願2000−293576号(特開2002−105607号公報)
【特許文献18】
特願2000−391567号(特開2002−194514号公報)
【特許文献19】
特願2001−197157号(特開2002−226956号公報)
【非特許文献1】
A.Inoue and B.L.Shen,Mater.Trans.43,766(2002)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
電子・電気機器の小型化、高性能化に対応するために、より高性能の軟磁性合金材料が望まれている。従来のアモルファス薄帯に代わるバルク金属ガラスにおいて、さらに優れた軟磁気特性を保持しつつ形状の自由度を高めることが可能になれば、アモルファスないしナノ結晶軟磁性金属の応用分野は格段に拡大し、ひいては省エネ、省資源、地球温暖化対策にも効果が期待できるものと考えられる。本発明は、前記事情を背景になされたものであり、Fe−Si−B系バルク金属ガラス合金において、さらに優れた軟磁気特性を有し、バルク試料の作製が容易であるFe基軟磁性合金を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述の課題を解決することを目的として種々の合金組成について探査した結果、Fe100−a−x−y−z−wCoSiCu Nb (5≦a≦32(原子%)、2≦w≦8(原子%)、5≦x≦15(原子%)、5≦y≦15(原子%)、0.01≦z≦4(原子%)である)系合金において、明瞭なガラス遷移と広い過冷却液体域を示し、ガラス形成能がより高い合金組成を見出した。さらに、銅鋳型鋳造法により得られたガラス相の体積分率が100%のそれらバルク金属ガラス合金を結晶化させ、優れた軟磁気特性を示すFe基バルク非晶質・ナノ結晶二相合金が得られ、本発明を完成するに至った。なお、本件明細書において「バルク」とは径又は厚みが0.75mm以上の合金をいう。
【0011】
上記の合金組成において、銅鋳型鋳造法により直径又は厚みが1mm〜2mmの金属ガラス合金が作製できる。これらの金属ガラス合金はこれまでの金属ガラス合金と違って、Cu元素を含有するため、示差走査熱量計(DSC)で測定した結果、ガラス遷移Tgを示す前に、Cuクラスタの凝集Tpが現れ、それらCuクラスタは結晶核として均一に分散し、熱処理を加えると、ナノ結晶が均一に析出することができる。
【0012】
作製した金属ガラスのΔTx=Tx−Tg(ただし、Txは結晶化開始温度、Tgはガラス遷移温度)の式で表される過冷却液体の温度間隔ΔTxは20K以上、好ましくは25K以上で、換算ガラス化温度Tg/Tl(Tgはガラス遷移温度、Tlは液相線温度(いずれも絶対温度))が0.59以上、好ましくは0.61以上である。
【0013】
上記バルク金属ガラス合金を550〜670℃の温度範囲で加熱した後、急冷する熱処理によって結晶化させることによって析出した、平均結晶粒径30nm以下、その結晶粒の体積分率が約40〜85%のFe、Coの固溶体である微細なbcc結晶粒からなるナノ結晶相と、bcc結晶粒の粒界に存在する粒界非晶質相の二相を主体とする微結晶合金、すなわち、バルク非晶質・ナノ結晶二相合金の作製ができる。
【0014】
また、このバルク非晶質・ナノ結晶二相合金は、飽和磁束密度(Bs)が1T以上、1.8T以下、保磁力(Hc)が10A/m以下、0.5A/m以上、1KHzでの透磁率(μe)が10,000以上、60,000以下、の軟磁気特性を有する軟磁性合金である。
【0015】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を説明する。本発明の製造方法で得られる合金の上記合金組成は、基本的に下記6種の元素を構成要素としている。Fe:軟磁性バルクナノ結晶合金の基となる元素、Co:磁性を担うとともにガラス形成能を高める元素、Nb:ニオブ、Si:けい素、B:ホウ素、Cu:銅。
【0016】
これら元素の構成比率は、Coが3原子%〜32原子%の範囲であり、Nbは2原子%〜8原子%の範囲内であり、Siは5原子%〜15原子%の範囲内であり、Bも同じく5原子%〜15原子%の範囲内であり、Cuは0.01原子%〜4原子%の範囲内である。
【0017】
本発明のFe基バルク非晶質・ナノ結晶二相合金は、銅鋳型鋳造法により作製されたFe基バルク金属ガラス合金を結晶化させることにより実現した。したがって、試料の大きさは合金のガラス形成能に左右される。このFe基バルク金属ガラス合金において、前記の各元素群は一体となって非晶質合金を形成しているが、それぞれの元素群は下記の特性に寄与していると考えられる。
【0018】
Fe:合金の基となり磁性を担う。
Co:これも磁性を担う元素であるが、特に、5原子%以上配合されるとガラス形成能を示す過冷却液体領域の温度幅ΔTxが増大し、ガラス状態が得やすくなる。ただし、32原子%を超えると過冷却液体領域の温度幅ΔTxが減少し好ましくない。Coは、より好ましくは、7.5原子%〜20原子%である。
【0019】
このように、Feの一部をCoに置換すると、合金のガラス形成能が向上するのみならず、熱処理によりbcc−(Fe,Co)相が析出して、合金の誘導磁気異方性も増大する。この誘導磁気異方性は合金の高周波領域での軟磁気特性を維持することができる。Coを多くするにつれてガラス遷移温度は高まり、過冷却液体温度範囲はわずかに小さくなる。FeをCoの最適量で置換することによって、銅鋳型鋳造法によるガラス形成能を高めることができ、引き続いて熱処理することによって得られるナノ結晶bccバルク合金はCoを含有しないFe−B−Si−Nb−Cu合金と比べて軟磁性が向上する。
【0020】
Nb:過冷却液体領域の温度幅ΔTxを拡大する効果があり、非晶質を形成しやすくする効果がある。また、本発明のFe基軟磁性合金において、Nbは、比較的遅い拡散種であり、Nbの添加は、微細結晶核の成長速度を小さくする効果を持つと考えられ、組織の微細化に不可欠である。しかし、Nbの添加量が2原子%を下回る値になると、核成長速度を小さくする効果が失われ、この結果、結晶粒径が粗大化し良好な軟磁性が得られない。Nbの添加量が8原子%を超えると、Nb−B系又はFe−Nb系の化合物の生成傾向が大きくなり、良好な特性が得られない。よって、Nbの添加範囲を2〜8原子%とした。
【0021】
また、Nbは、酸化物の生成自由エネルギーの絶対値が小さく、熱的に安定であり、製造時に酸化し難いものである。よって、Nbを添加している場合は、製造条件が容易で安価に製造することができ、また、製造コストの面でも有利である。Nbを添加して前記軟磁性合金を製造する場合に、具体的には、溶湯を急冷する際に使用する坩堝のノズルの先端部に、不活性ガスを部分的に供給しつつ大気中で製造もしくは大気中の雰囲気で製造することができる。
【0022】
Si:ガラス形成能の向上に効果があり、また、軟磁気特性の改善にも効果がある。配合量は5原子%未満ではガラス形成能と軟磁気特性の向上に効果がないため好ましくない。また、15原子%を超えると磁気特性が低下し、特に、磁化が低下するため好ましくない。より好ましいSiの含有量は7原子%〜13原子%である。
【0023】
B:ホウ素には本発明合金のガラス形成能を高める効果、及び前記熱処理工程において磁気特性に悪影響を及ぼす化合物相の生成を抑制する効果があると考えられ、このためホウ素添加は必須である。ホウ素の添加量が5原子%を下回る場合、粒界の非晶質相が不安定となるため、十分な添加効果が得られない。また、ホウ素の添加量が15原子%を超えると、B−Nb系及びFe−B系において、ほう化物の生成傾向が強くなり、この結果、微細結晶組織を得るための熱処理条件が制約され、良好な軟磁気特性が得られなくなる。このように、適切な量のホウ素を添加することで析出する微細結晶相の平均結晶粒径を20nm以下に調整することができる。より好ましいホウ素の含有量は9原子%〜14原子%である。また、Si+Bにおいては、より好ましい含有量は15原子%〜25原子%である。
【0024】
また、本来、α−Feに対してZr、Hfはほとんど固溶しないが、前記組成の合金の全体を急冷して非晶質化することで、ZrとHfを過飽和に固溶させ、この後に施す熱処理によりこれら元素の固溶量を調節して一部結晶化し、微細結晶相として析出させることで、得られる軟磁性合金の軟磁気特性を向上させ、合金の磁歪を小さくできる。
【0025】
また、微結晶相を析出させ、その微結晶相の結晶粒の粗大化を抑制するには、結晶粒成長の障害となり得る非晶質相を粒界に残存させることが必要であると考えられる。さらに、この粒界非晶質相は、熱処理温度の上昇によってα−Feから排出されるNbを固溶することで、軟磁性を劣化させるFe−Nb系化合物の生成を抑制すると考えられる。よってFe−Zr(Hf)系の合金にホウ素を添加することが重要となる。
【0026】
Cu:バルクガラス合金の形成に最適なホウ素含有量を減らして微量のCuを添加すると、ガラス形成能とともに結晶化モードが一段階から二段階に変化する。二段階の結晶化により残留するガラス相に埋め込まれたナノ結晶bcc相が形成される。ナノ結晶bcc合金は良好な軟磁性をもたらす。本発明においては、Cuを0.01原子%〜4原子%含むことが好ましい。添加量が0.01原子%より少ないと前記の熱処理工程により優れた軟磁気特性を得ることが難しく、4原子%を超えると磁化が低下するため好ましくない。
【0027】
本発明のFe基非晶質軟磁性合金はガラス転移点Tgを有し、このガラス転移点Tgと結晶化開始温度Txとの差、すなわちΔTx=Tx−Tg(式中、Txは結晶化開始温度、Tgはガラス転移点である)の式で表される過冷却液体領域の温度幅ΔTxが、20K以上であり、25K以上とされていることが好ましい。また、換算ガラス化温度Tg/Tl(Tgはガラス遷移温度、Tlは液相線温度(いずれも絶対温度))が0.59以上、より好ましくは0.61以上である。これらの条件を充たす組成物は、溶融状態から冷却するとき、結晶化することなく温度の低下に伴ってこの過冷却液体領域の温度幅ΔTxを経過した後に、ガラス転移点Tgに至って非結晶質のいわゆる金属ガラス合金を形成する。
【0028】
本発明の上記合金組成において、組成域からのずれにより、ガラス形成能が劣り、溶湯から凝固過程にかけて、結晶核が生成・成長し、ガラス相に結晶相が混在した組織になる。また、この組成範囲から大きく離れると、ガラス相が得られず、結晶相となる。
【0029】
本発明の上記合金組成において、ガラス形成能が高いため、銅鋳型鋳造すると直径最大2mmの金属ガラス丸棒が作製できるが、同様な冷却速度で、回転水中紡糸法により、直径0.55mmまでの細線、アトマイズ法により、直径0.6mmまでの粒子の金属ガラスを作製できる。
【0030】
それらバルク金属ガラス合金に上記熱処理工程を施すと、軟磁性バルクナノ結晶合金を得ることができる。なお、特に規定しない限り、以下に示す実施例では、550〜650℃の温度で10分間保持後、水焼入れした後の磁気特性を示す。
【0031】
本発明に係る合金は、後述する種々の組成を有し、体積分率でその組織の少なくとも40%以上が、平均結晶粒径30nm以下の体心立方構造(bcc構造)、より好ましくは平均結晶粒径20nm以下の体心立方構造の微細なナノ結晶粒からなる結晶相と、その粒界に存在する粒界非晶質相とを主体としてなる組織を有する。bcc微細結晶が多いほうが、飽和磁化は高くなる。一方、粒界相である残存アモルファス相は結晶粒成長を抑制する役割があり、一定の量を保つ必要があるので、微細な結晶粒からなる結晶相の割合の上限は体積分率で85%程度が好ましい。
【0032】
前記組成と組織を有する合金を製造するには、前記組成になるように合金原料を混合して溶解し合金溶湯を得た後、銅鋳型鋳造法を実施する。この銅鋳型鋳造法により非晶質状態のバルク状の試料を得ることができる。このバルク状試料を得たならば、試料に対し、550〜670℃で加熱した後に急冷、好ましくは水焼入れする熱処理を行う。もし、空冷や炉冷すると、熱量の発散が遅くなり、結晶粒が余熱により成長し、軟磁気特性に悪い影響を齎す。そこで、本発明は、水焼き入れの方法で、バルク材の熱を一気に奪うようにする。
【0033】
この金属ガラス合金は熱処理によって第一、第二の2段階の発熱反応によって結晶化する。第一の段階は約10nmの結晶粒径を有するナノスケールのbcc−(Fe,Co)相の析出である。第二の段階は残留した非晶質相の(Fe,Co)B,(Fe,Co)23,(Fe,Co)Si 及び (Fe,Co)Nb相への分解である。550℃未満の温度で熱処理すると、温度が低いため、析出したbcc結晶粒の含有量が少なく、飽和磁化は低下する。
【0034】
一方、670℃を超える温度では、第二の発熱ピークの温度範囲に入るため、この温度範囲内で熱処理を施すと、bcc結晶粒の他に、第二の発熱ピークによる(Fe,Co)B, (Fe,Co)23,(Fe,Co)Si 及び (Fe,Co)Nbなど化合物が析出し、軟磁気特性に悪い影響を与え、保磁力が増大して透磁率が低下する。この熱処理温度は、より好ましくは、580〜630℃である。この熱処理により非晶質相の中に微細結晶相が析出して本発明に係る組織の合金薄帯を得ることができ、この熱処理によりバルク合金の軟磁気特性が向上する。
【0035】
前記組成の軟磁性合金は、1.0〜1.8T(テスラ)程度の高い飽和磁束密度(Bs)を発揮し、保磁力(Hc)が10A/m以下、0.5A/m以上、しかも、1kHzで10000以上の高い透磁率(μe)を示すものとなる。また、組成によっては透磁率として1kHzで30,000〜60,000の優れた値を得ることができる。
【0036】
【実施例】
実施例1〜11、比較例1〜8
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を具体的に図面を参照して説明する。表1に示すような組成になるように材料を調製し、銅鋳型鋳造法を実施し、バルク合金を得た。表1に、実施例1〜11、比較例1〜8の合金組成及び示差走査熱量計を用いて測定したガラス遷移温度(Tg)、結晶化開始温度(Tx)の差であるTx−Tg(K)を示す。また、試料中に含まれるガラス相の率(Vf−体積分率(Vf−amo.)は、示差走査熱量計を用いて、結晶化による発熱量を完全ガラス化した単ロール型液体急冷法による薄帯との比較により評価した。また、熱処理後の平均結晶粒径およびナノ結晶粒の体積分率は透過電子顕微鏡観察結果から得られた。
【0037】
得られたバルク金属ガラス合金を550〜650℃で10分間加熱後、水焼入れを施して各軟磁性合金試料を得、これらの軟磁性合金試料の飽和磁束密度(Bs)、保磁力(Hc)及び透磁率μe(1kHz)はそれぞれ試料振動型磁力計(VSM)、直流B−Hループトレーサー及びインピーダンスアナライザーにより測定した。また、各実施例及び比較例の鋳造塊のガラス化の確認及び熱処理後の組織観察をX線回折法及び透過電子顕微鏡観察で行った。それらの結果を表1にまとめて示す。また、表1に平均結晶粒径、ナノ結晶粒の体積分率を示す。
【0038】
【表1】
Figure 0003983207
【0039】
本発明の実施例1〜11は、ΔTx=Tx−Tg(ただし、Txは結晶化開始温度、Tgはガラス遷移温度)の式で表される過冷却液体の温度間隔ΔTxは27〜37Kであり、また、換算ガラス化温度Tg/Tl(Tgはガラス遷移温度、Tlは液相線温度(いずれも絶対温度))が0.61〜0.63であるため、直径1mm〜2mmの鋳造塊でガラス相の体積分率(Vf−amo.)は100%である。
【0040】
それらバルク金属ガラス合金に上記の熱処理工程を施すと、平均結晶粒径30nm以下の結晶粒が均一に析出し、ナノ結晶バルク材を得ることができる。
【0041】
これに対して、比較例1、2はCoの含有量が32at%を超えたため、ガラス遷移が現れず、直径0.5mmの鋳造棒で結晶質であった。その試料は一般の鋳造材であり、結晶粒径が大きく、軟磁気特性が悪い。さらに熱処理工程を加えると、結晶粒がさらに成長し、軟磁気特性を得ることが不可能である。
【0042】
比較例3はCoが含有されないため、銅鋳型鋳造で0.5mmのバルクアモルファス材しか作製できず、それ以上の直径では、結晶質であった。
比較例4はCuが含有されないため、直径1mmのバルク金属ガラスは作製できるが、Cuクラスタが存在しないため、熱処理後均一なナノ結晶組織は得られず、粗粒材であり、軟磁気特性を得ることが不可能である。
【0043】
比較例5の合金は、Nbの含有量は本発明の合金組成の範囲内であるが、Bの含有量が16.5at%と高く、直径0.5mmの鋳造棒で結晶質であった。その試料は一般の鋳造材であり、結晶粒径が大きく、軟磁気特性が悪い。さらに熱処理工程を加えると、結晶粒がさらに成長し、軟磁気特性を得ることが不可能である。
【0044】
比較例6の合金は、Nbの含有量は本発明の合金組成の範囲内であるが、Siの含有量が4at%と少なく、一方、Bの含有量が19.5at%と高く、直径0.5mm鋳造棒で結晶質であった。それらの試料も一般の鋳造材であり、結晶粒径が大きく、軟磁気特性が悪い。さらに熱処理工程を加えると、結晶粒がさらに成長し、軟磁気特性を得ることが不可能である。
【0045】
比較例7、8の合金は、Fe、Co、Si、B、Cu元素の含有量は本発明の合金組成の範囲内であるが、Nbの含有量が少なすぎるか多すぎるので、直径0.5mmの鋳造棒で結晶質であった。その試料も一般の鋳造材であり、結晶粒径が大きく、軟磁気特性が悪い。さらに熱処理工程を加えると、結晶粒がさらに成長し、軟磁気特性を得ることが不可能である。
【0046】
比較例9の合金は、Fe、Co、Si、B、Nbの含有量は本発明の合金組成の範囲内であるが、Cu元素が5at%と多く、直径0.5mmの鋳造棒で結晶質であった。その試料も一般の鋳造材であり、結晶粒径が大きく、軟磁気特性が悪い。さらに熱処理工程を加えると、結晶粒がさらに成長し、軟磁気特性を得ることが不可能である。
【0047】
図1に、実施例1、3、4、5、6、7及び比較例1,2の示差走査熱量計(DSC)の測定結果を示す。図1に示すように、キュリー温度(Tc)が現れた後、Coの含有量が30at%までは、Cu元素の凝集(Tp)後、ガラス遷移Tgが現れる一方、Coの含有量35at%、40at%の組成では、Cu元素の凝集後、ガラス遷移は現れなかった。
【0048】
図2に、実施例1、3、4、5、6、7のバルクガラス合金の熱処理後のX線回折図形を示す。図2に示すように、熱処理後の試料は、bcc−(Fe,Co)相のみが析出している。
【0049】
図3に、その一例として、実施例3により得られた直径2mmのバルク合金における熱処理前後のX線回折図形を示す。図3に示すように、熱処理前の試料はアモルファス特有のハロー図形を示し、アモルファス構造を有することがわかる。一方、熱処理後の試料は、bcc−(Fe,Co)相のみが析出したことがわかる。
【0050】
図4に、上記熱処理後の試料の透過電子顕微鏡観察結果を示す。図4に示すように、均一に析出している直径約10nm、体積分率約75%の球状bcc−(Fe,Co)ナノ結晶及び結晶粒の間に残留した幅約2nmのアモルファス相が観察され、バルクナノ結晶合金の作製が可能であることが確認された。
【0051】
実施例12
実施例3と同じ組成を有する溶融合金を通常のメルトスピン法で急冷凝固し、厚さ0.03mm、幅2mmのリボン材を作製し、実施例3と同じく水焼入れした。図5に、試料振動型磁力計を用いて測定した実施例3により得られた直径2mmのバルクナノ結晶合金と本実施例のリボン材のB−Hヒステリシス曲線を示す。図5に示すように、バルクナノ結晶合金はリボン材と同じく、軟磁気特性を示している。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例1、3、4、5、6、7及び比較例1、2の示差走査熱量計(DSC)の測定結果を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例1、3、4、5、6、7のバルクガラス合金の熱処理後のX線回折図形を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例3により得られた直径2mmのバルク合金における熱処理前後のX線回折図形を示すグラフである。
【図4】図5は、実施例3により得られた直径2mmのバルク合金における熱処理後の試料の透過電子顕微鏡観察結果を示す図面代用写真である。
【図5】図5は、実施例3により得られた直径2mmのバルクナノ結晶合金と実施例12により得られたリボン材のB−Hヒステリシス曲線を示すグラフである。

Claims (2)

  1. Fe100−a−x−y−z−wCoSiCu Nb (5≦a≦32(原子%)、2≦w≦8(原子%)、5≦x≦15(原子%)、5≦y≦15(原子%)、0.01≦z≦4(原子%)である)で示される組成になるように合金原料を混合して溶解し合金溶湯を得た後、
    銅鋳型鋳造法によって径又は厚みが0.75mm以上で、ガラス相の体積分率が100%の鋳造塊からなり、ΔTx=Tx−Tg(ただし、Txは結晶化開始温度、Tgはガラス遷移温度)の式で表される過冷却液体の温度間隔ΔTxが20K以上で、換算ガラス化温度Tg/Tl(Tgはガラス遷移温度、Tlは液相線温度(いずれも絶対温度))が0.59以上であるバルク金属ガラス合金を製造し、
    これを550〜670℃の温度範囲で加熱した後、急冷することによりバルク金属ガラス合金を結晶化させて、Fe、Coの固溶体である平均結晶粒径が30nm以下、体積分率で40〜85%のbcc結晶粒からなるナノ結晶相と、bcc結晶粒の粒界に存在する粒界非晶質相の二相を形成させる
    ことを特徴とするFe基軟磁性バルク非晶質・ナノ結晶二相合金の製造方法。
  2. 前記二相合金は、飽和磁束密度(Bs)が1T以上、1.8T以下、保磁力(Hc)が10A/m以下、0.5A/m以上、1KHzでの透磁率(μe)が、10,000以上、60,000以下、であることを特徴とする請求項1記載のFe基軟磁性バルク非晶質・ナノ結晶二相合金の製造方法。
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