JP3977540B2 - 温度センサの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、高温酸化雰囲気下で使用される温度センサに係り、特に詳しくは、サーミスタ素子を有する温度センサの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、負の温度係数を持つサーミスタ素子を有する温度センサとして、サーミスタ素子がステンレス合金製の金属チューブに収容され、そのチューブの基部フランジに締付ナット及び継手等の金属部品が組み付けられたものがある。この種の温度センサは、例えば、自動車の排気温度等を検出するために200〜1000℃程度の高温雰囲気下で使用されることにより、金属チューブの外面はもとより内面が急速に酸化することから、チューブ内部の酸素が著しく減少することになる。このように、金属チューブ内部の酸素が減少することにより、同チューブに収容されたサーミスタ素子の表面が還元され、同素子に特性変化が生じて温度センサとしての検出精度が低下するおそれがあった。
【0003】
そこで、上記不具合に対処するために、金属チューブの内側に通じる通気孔を設けたり、サーミスタ素子周辺に位置する金属部品の表面にサーミスタ素子を構成する金属酸化物より酸化物の平衡酸素分圧が高い酸化被膜を生成したりしている。これにより、サーミスタ素子周辺の酸欠時には、通気孔から金属チューブ内部に酸素を取り入れたり、金属チューブ内部において酸化被膜から酸素を放出させたりする等の措置がとられている。
【0004】
前者の対処手段として、例えば、温度センサの継手部分にゴアテックス製蓋により金属チューブ内部に通じる通気孔を設けたものがある。
後者の対処手段として、例えば、特開昭50−11478号公報に開示された「熱電対劣化防止用保護管」がある。この公報の保護管(金属チューブ)は、一端が閉塞しており、高温使用時に、内面の酸化を実質的に防ぐに十分な酸化被膜が内面に形成されている。これにより、高温使用時には、保護管内面の酸化をそれ以上進まないように抑え、保護管内の酸素濃度を一定に保つようにしている。この公報の保護管内面の酸化処理の一例として、材質を現在のSUS310Sに該当するSUS42(ニッケル、クロムを含む)とし、所定寸法を有する一端閉管型の保護管の最深部に酸素又は空気を毎分所定量吹き込みながらその保護管を900℃の温度に保持する。そして、3時間後に保護管内面の酸化が殆ど進行しなくなった時点で酸化処理を終えるようにしている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記通気孔による対処手段では、温度センサが自動車の排気温度を検出するために使用された場合、オイルや泥等により通気孔が塞がれるおそれがあった。又、保護管の中の酸素分圧が低下しても通気孔により常に呼吸があるのではなく、保護管が冷却され気体が収縮するときに通気孔から保護管の中に外気が流入すると考えられる。従って、保護管が加熱されている状態では、酸素分圧が低い状態になることから、通気孔を設けたとしても酸化被膜が必要になると考えられる。
【0006】
一方、酸化被膜による対処手段では、酸化被膜の組成の点で問題があった。即ち、酸素分圧の高い空気中(大気雰囲気中)で保護管の内面に酸化被膜を形成した場合、保護管の金属を構成する全ての元素が酸化されてしまい、各元素よりなる酸化被膜が複数層状に形成されることになり、酸化被膜が非常に粗なものとなってしまう。粗な酸化被膜では、その内側に存在する保護管の金属表面を完全に保護することができず、金属表面が露出した状態、或いは、金属表面と酸化被膜の界面に空気層を巻き込んだ状態となる。このような状態では、温度センサが使用される高温雰囲気下で、事前に形成された酸化被膜を剥離させながら新たな酸化が進行することになり、結果として、サーミスタ素子雰囲気の酸素濃度を変化させてしまうことになる。
【0007】
この発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、高温使用時にサーミスタ素子雰囲気中の酸素濃度を安定に保ち、同素子の特性変化を抑えて検出精度の低下を抑えることを可能にした温度センサの製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
なお、サーミスタ素子を一又は複数の包囲部材で形成される密閉空間内に収容した温度センサにおいて、一又は複数の包囲部材のうち少なくとも密閉空間内に露出しサーミスタ素子に近接して配置された金属部分の表面に実質的に酸化クロムからなる酸化被膜を設けるのが好ましい。
ここで、実質的に酸化クロムからなる酸化被膜とは、例えば、金属部分が耐熱合金を母材とした場合、酸化クロムのみよりなる被膜、或いは、酸化クロムを主体として、例えば、酸化珪素、酸化マンガン等を含み得る被膜を意味するものとする。
【0009】
記の構成によれば、包囲部材のうち少なくとも密閉空間内に露出しサーミスタ素子に近接して配置された金属部分の表面が実質的に酸化クロムからなる緻密な酸化被膜により覆われることになる。従って、高温下で温度センサが使用されるときには、金属部分の表面の酸化の進行が抑えられ、サーミスタ素子の周囲の酸素濃度の低下が抑えられる。
【0010】
また、この温度センサにおいて、酸化被膜の膜厚を0.5〜5.0μmにするのが好ましい。
【0011】
ここで、酸化被膜の膜厚が0.5μm未満の場合には、酸化被膜が不連続被膜となり金属部分の未酸化表面の露出が多くなる。これに対して、上記発明の構成によれば、酸化被膜を0.5μm以上の膜厚としたので、酸化被膜が連続被膜となり金属部分の未酸化表面の露出がなくなる。一方、膜厚が5.0μmを越えると、酸化被膜の内部応力が増大することにより、被膜にひび割れが生じて緻密さが失われ、被膜が剥離する傾向を示すようになる。従って、膜厚を0.5〜5.0μmの範囲に特定することにより、緻密で連続的な酸化被膜が得られ、金属部品の前記部分の表面の酸化の進行が有効に抑えられ、サーミスタ素子の周囲の酸素濃度の低下が有効に抑えられる。
【0012】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、サーミスタ素子を一又は複数の包囲部材で形成される密閉空間内に収容した温度センサの製造方法において、一又は複数の包囲部材のうち少なくとも密閉空間内に露出しサーミスタ素子に近接して配置された金属部分をクロム元素を含有する耐熱合金により形成し、金属部分を水素−水蒸気雰囲気中で加熱処理するにあたり、前記金属部分を含む前記包囲部材を処理炉に収容し、その処理炉には、20〜50℃に保たれた水中を通して水分を含ませた水素ガスよりなるウエットガスと、ドライ水素よりなるドライガスとを1対1〜3の割合で投入し、前記金属部分を1000〜1200℃の処理温度で加熱処理することにより、金属部分の表面に酸化クロムを選択的に生成させて酸化被膜を形成したことを趣旨とする。
【0013】
上記発明の構成によれば、包囲部材のうち少なくとも密閉空間においてサーミスタ素子に近接して配置された金属部分の表面に実質的に酸化クロムからなる緻密な酸化被膜が形成される。従って、高温下で温度センサが使用されるときには、金属部分の表面の酸化の進行が抑えられ、サーミスタ素子の周囲の酸素濃度の低下が抑えられる。
【0014】
【0015】
また、上記発明の構成によれば、包囲部材の金属部分に、実質的に酸化クロムからなる酸化被膜が効率良く最適な厚さだけ形成される。即ち、最適量の水蒸気を含む水素ガス中で、金属部分を1000℃以上に加熱することにより、酸化被膜が効率良く形成される。一方、金属部分を1200℃を越えて加熱することにより、金属部分に変質が生じたり、酸化被膜が急速に形成されたりして、被膜の緻密さが失われる。このため、処理温度は1200℃以下にするのが好ましい。
【0016】
上記目的を達成するために、請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明の温度センサの製造方法において、金属部分を、1100〜1200℃の処理温度で加熱処理したことを趣旨とする。
【0017】
上記発明の構成によれば、金属部分を1200℃を越えて加熱することにより、金属部分に変質が生じたり、酸化被膜が急速に形成されたりして、被膜の緻密さが失われるため、処理温度は1200℃以下にするのが好ましい。一方、処理温度を1100℃以上にすることにより、酸化被膜が更に効率良く生成されることから、処理時間が数10分〜数時間程度に抑えられる。
【0018】
上記目的を達成するために、請求項に記載の発明は、請求項1または請求項に記載の温度センサの製造方法において、前記金属部分に、クロム元素を少なくとも18重量%含有する耐熱合金を使用したことを趣旨とする。
【0019】
上記発明の構成によれば、請求項1または請求項に記載の温度センサの製造方法の作用に加え、耐熱合金中のクロム元素の含有率を少なくとも18重量%にすることにより、実質的に酸化クロムからなる酸化被膜が更に効率良く形成される。
【0020】
【発明の実施の形態】
[第1の実施の形態]
以下、この発明の温度センサ及びその製造方法を具体化した第1の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1に温度センサ1の部分破断側面図を示す。この温度センサ1は、自動車の排気通路に設けられて排気温度を検出するためのものである。温度センサ1は、サーミスタ素子2を金属チューブ3の中に収容したものである。金属チューブ3は、その先端側3aが閉塞し、基端側3bが開放される。金属チューブ3の基端側3bには、フランジ4がアルゴン溶接される。フランジ4の周囲には、六角ナット部5a及びネジ部5bを有するナット5が回動自在に挿入される。フランジ4の基端側4aには、継手6がアルゴン溶接される。
【0022】
金属チューブ3、フランジ4及び継手6の内部には、一対のシース芯線7を内包するシース8が配置される。金属チューブ3の内部においてシース8の先端側8aから突出するシース芯線7には、サーミスタ素子2がPt/Rh合金線9を介して接続される。この合金線9は、サーミスタ素子2と同時に焼成されるものである。合金線9及びシース芯線7は互いに抵抗溶接される。
【0023】
金属チューブ3、シース芯線7及びシース8は、SUS310S(Fe(鉄)以外に、C(炭素),Si(ケイ素),Mn(マンガン),P(リン),S(イオウ),Ni(ニッケル),Cr(クロム)を含有する耐熱合金であって、24.00〜26.00重量%でCrを含有する。)を材質とする。フランジ4は、SUS309S(Fe以外に、C,Si,Mn,P,S,Ni,Crを含有する耐熱合金であって、22.00〜24.00重量%でCrを含有する。)を材質とする。継手6は、SUS304(Fe以外に、C,Si,Mn,P,S,Ni,Crを含有する耐熱合金であって、18.00〜20.00重量%でCrを含有する。)を材質とする。
【0024】
金属チューブ3の先端側3aの内部には、酸化ニッケル製のペレット10が配置される。このペレット10は、万一、金属チューブ3の内部の酸素濃度が低下したときに、そのペレット10から酸素を放出させて酸素濃度の低下を抑えるためのものである。金属チューブ3の先端側3aの内部であってサーミスタ素子2及びペレット10等の周囲にはセメント11が充填される。
【0025】
継手6の内部においてシース8の基端側8bへ突出すシース芯線7には、かしめ端子12を介して一対のリード線13が接続される。これらリード線13は、耐熱ゴム製の補助リング14に内包される。シース芯線7及びリード線13は互いにかしめ端子12により接続される。補助リング14が継手6の上から丸かしめ又は六角かしめされることにより、両者14,6が気密性を保ちながら互いに接合される。これにより、金属チューブ3、フランジ4及び継手6の内部が密閉空間となる。即ち、サーミスタ素子2が、金属チューブ3、フランジ4及び継手6を金属包囲部材として形成される密閉空間に収容されることになる。
【0026】
この温度センサ1で特徴的なことは、金属チューブ3、シース8及びフランジ4のうち少なくとも前記密閉空間内に露出しサーミスタ素子2に近接して配置された金属部分の表面に実質的に酸化クロム(Cr23)からなる酸化被膜(図示略)が設けられることである。即ち、金属チューブ3及びフランジ4の少なくとも内面、並びにシース8の外面には、それぞれ上記の酸化被膜が設けられる。この実施の形態では、酸化被膜として、膜厚0.5〜5.0μmの連続被膜が上記金属包囲部材3,4,8の表面に設けられる。ここで、実質的に酸化クロムからなる酸化被膜は、各金属包囲部材3,4,8がそれぞれ耐熱合金としてSUS310S,SUS309Sから形成されることから、酸化クロムを主体として、更に、後述する加熱処理においてクロム元素よりも平衡酸素分圧の低い、即ち酸化し易い添加元素の酸化物である酸化珪素、酸化マンガン等を若干含むものである。
【0027】
この温度センサ1を製造するには、耐熱合金としてのそれぞれSUS309S,SUS310Sより形成された金属チューブ3、シース8及びフランジ4を予め形成する。その他の部品2,5〜7,10〜14も予め形成する。
次に、各金属包囲部材3,4,8を、水素−水蒸気雰囲気中で加熱処理することにより、これら金属包囲部材3,4,8の表面に酸化クロムを選択的に生成させて酸化被膜を形成する。この実施の形態では、各金属包囲部材3,4,8を水素−水蒸気雰囲気中で加熱処理するために、各金属包囲部材3,4,8を処理炉に収容して加熱処理することにより酸化被膜を形成する。
その後、上記酸化被膜が形成された各金属包囲部材3,4,8と、その他の部品2,5〜7,10〜14を互いに組み付けることにより、温度センサ1の製造を完了する。
【0028】
上記加熱処理に際して、処理炉には、20〜50℃に保たれた水中を通して水分を含有させた水素ガスよりなるウエットガスと、ドライ水素よりなるドライガスとを1対1〜3の割合で投入し、各金属包囲部材3,4,8を1000〜1200℃、望ましくは1100〜1200℃の処理温度で0.5〜2.0時間ほど加熱する。
例えば、耐熱合金において主に用いられる鉄、ニッケル、クロムの三つの元素について考えた場合、1000〜1200℃の温度範囲では、クロムの酸化物の平衡酸素分圧は、鉄及びニッケルのそれよりも低い。
ここで、上記雰囲気中の酸素分圧が平衡酸素分圧以上であれば各金属元素の酸化物は安定に存在することができる。即ち、各金属元素が酸化されることになる。1000〜1200℃の温度雰囲気でクロム元素のみを酸化させようとした場合、その温度での酸化クロムの平衡酸素分圧以上、酸化鉄及び酸化ニッケルの平衡酸素分圧以下の雰囲気で処理することにより、クロム元素を選択的に酸化させて酸化クロムを生成し酸化被膜を形成することができる。
【0029】
この実施の形態において、処理温度が1000〜1200℃の範囲に設定されるのは、温度センサ1が1000℃前後の高温条件下で使用されることから、少なくともその使用温度に耐えられることが必要だからである。
処理温度の下限を1000℃としたのは、それより低い温度では、酸化被膜の生成速度が遅く効率的でないからであり、クロム元素を選択的に酸化させるのに必要な酸素分圧が低くなり過ぎて酸素分圧のコントロールが難しいからである。一方、処理温度の上限を1200℃としたのは、それより高い温度では、耐熱合金に変質を生じるおそれがあり、クロム元素の酸化が急激に進行して酸化被膜の緻密さが失われるおそれがあるからである。
【0030】
ここで、酸化クロムよりなる酸化被膜として有効な膜厚は0.5〜5.0μmであった。そして、上記範囲の膜厚を得るのに必要な温度が1000〜1200℃であり、その温度範囲において酸化クロムよりなる酸化被膜を得るのに必要な酸素分圧は、酸化鉄及び酸化ニッケルを得るのに必要な酸素分圧よりも低いものと考えられる。つまり、鉄元素及びニッケル元素が酸化しない酸素分圧で耐熱合金を酸化させることにより、クロム元素のみを選択的に酸化させて酸化被膜を生成することができるのである。
【0031】
上記のように構成した温度センサ1によれば、サーミスタ素子2が金属チューブ3、フランジ4及び継手6により形成される密閉空間に収容されるものにおいて、金属チューブ3、シース8及びフランジ4のうち少なくとも密閉空間内に露出しサーミスタ素子2に近接して配置された金属部分の表面が実質的に酸化クロムからなる緻密な酸化被膜により覆われる。従って、温度センサ1が1000℃前後の高温下で使用され、サーミスタ素子2に近接して配置された金属チューブ3、シース8及びフランジ4等の金属包囲部材が酸化しようとしても、既にこれらの金属包囲部材3,4,8の表面に酸化被膜が形成されているため、金属チューブ3等の金属包囲部材の表面の酸化の進行が抑えられ、サーミスタ素子2の周囲の酸素濃度の低下が抑えられる。この結果、サーミスタ素子2の特性変化を抑えることができ、温度センサ1による温度検出の精度低下を抑えることができるようになる。
【0032】
特に、この実施の形態の温度センサ1では、酸化被膜が実質的に酸化クロムより形成されることから、被膜が緻密になる。従って、この温度センサ1によれば、金属チューブ3等の金属包囲部材を構成する耐熱合金中の複数の金属元素を酸化させることにより生成される粗な酸化被膜とは異なり、各金属包囲部材3,4,8の表面に形成された酸化被膜を剥離させながら新たな酸化が進行することはない。このため、高温時に生じる各金属包囲部材3,4,8の酸化の進行を抑えることができ、金属チューブ3等より形成される密閉空間内に露出したサーミスタ素子2の周囲、即ち素子雰囲気中の酸素濃度を安定的に保つことができるようになる。
【0033】
[実施例1]
ここで、膜厚の薄い(約0.3〜0.4μm)酸化被膜(不連続被膜)を形成した各金属包囲部材3,4,8(酸化皮膜薄品)を使用して製造されたこの実施の形態の温度センサ1につき、サーミスタ素子2を加熱したときの抵抗値の変化を評価した。この実施例1では、処理温度を1040℃とし、水温30℃の水中を通したウエット水素ガスとドライ水素ガスの比を1:1とした水素−水蒸気雰囲気中で1時間だけ加熱処理することにより、各金属包囲部材3,4,8の表面に選択的に生成された酸化クロムよりなる酸化皮膜を形成し、それらの金属包囲部材3,4,8を使用して温度センサ1を製造した。
【0034】
この温度センサ1につき、初期の900℃の抵抗値(Rb900)を測定した。その後、測定されたサーミスタ素子2を1000℃の温度条件下で150時間ほど連続放置し、放置後(耐久後)の900℃の抵抗値(Ra900)を測定した。そして、それら測定値から次式(1)に基づいて加熱による抵抗値の変化率を得た。
変化率=(Ra900−Rb900)/Rb900*100 …(1)
表1にその評価結果を示す。
【0035】
【表1】
Figure 0003977540
【0036】
[比較例]
これに対し、金属チューブを処理温度1050℃の大気雰囲気中で、即ち、実施例1の場合よりも高い酸素分圧下で1時間だけ加熱処理することにより、クロムの他、鉄、ニッケル等の金属元素も酸化させてなる酸化被膜を形成した。そして、その金属チューブを使用した温度センサにつき、上記と同様に耐久後の抵抗値の変化を評価した。表2にその評価結果を示す。
【0037】
【表2】
Figure 0003977540
【0038】
表1及び表2の対比により明なように、実施例1の温度センサ1の方が、比較例の温度センサよりも抵抗値の変化率が相対的に小さいことが分かる。即ち、酸化クロムを選択的に生成させて酸化被膜を形成した金属包囲部材を使用した実施例1の温度センサ1は、鉄、ニッケル等の酸化物も含む酸化被膜を形成した金属チューブを使用した比較例の温度センサに比べ、サーミスタ素子の抵抗値の変化率が半分程度まで抑えられ、抵抗値が相対的に安定していることが分かる。
【0039】
[実施例2]
次に、膜厚の厚い(約1〜2μm)酸化被膜(連続被膜)を形成した各金属部品3,4,8(酸化皮膜厚品)を使用してなる本実施の形態の温度センサ1につき、サーミスタ素子2を加熱したときの抵抗値の変化を上記実施例1と同様に評価した。本実施例2では、処理温度を1150℃とし、35℃の水中を通したウェット水素とドライ水素の比を1:2.2とした水素−水蒸気雰囲気中で1時間だけ加熱処理することにより、各金属包囲部材3,4,8の表面に選択的に生成された酸化クロムよりなる酸化皮膜を形成し、それらを使用して温度センサ1を製造した。表3にその評価結果を示す。
【0040】
【表3】
Figure 0003977540
【0041】
表1及び表3の対比から明なように、酸化皮膜厚品を使用した実施例2の温度センサ1の方が、酸化皮膜薄品を使用した実施例1の温度センサ1よりも抵抗値の変化率が極めて小さいことが分かる。即ち、酸化クロムを選択的に生成させて酸化被膜を形成した金属包囲部材を使用した温度センサ1につき、酸化皮膜(連続皮膜)の膜厚が1〜2μm程度のものの方が、酸化皮膜(不連続皮膜)の膜厚が0.3〜0.4μm程度のものよりも、サーミスタ素子の抵抗値の変化率が一桁前後の違いで低く、抵抗値が極めて安定していることが分かる。
【0042】
ここで、酸化被膜薄品では連続被膜の酸化被膜厚品よりも被膜が不連続である分だけ金属表面の露出が多いことから、加熱耐久試験の過程で、サーミスタ素子2の周辺の金属包囲部材3,4,8の酸化が進行して酸素が奪われることになり、同素子2を囲む雰囲気の酸素分圧が低下する傾向があり、この結果として、サーミスタ素子2の特性変化が相対的に大きいと考えられる。この現象を裏付けるために、上記加熱耐久試験後の金属チューブ3の内側の酸化皮膜の状態を確認したところ、実施例1の酸化皮膜薄品では、20μm程度まで酸化皮膜が成長し、皮膜は不連続な塊となっていることが確認できた。一方で、実施例2の酸化皮膜厚品では、酸化が進行しているものの、酸化皮膜の成長は最大でも10μm程度に止まり、酸化の進行が抑えられていることが確認できた。
【0043】
以上説明したように、この実施の形態の温度センサ1によれば、金属チューブ3、フランジ4及びシース8のうち少なくとも密閉空間内に露出しサーミスタ素子2に近接して配置された金属部分の表面、即ち、金属チューブ3の内面、フランジ4の内面及びシース8の外面が酸化クロムからなる緻密な酸化被膜により覆われる。従って、高温下で温度センサ1が使用されるときには、各金属包囲部材3,4,8の表面の酸化の進行が抑えられ、サーミスタ素子2の周囲の酸素濃度の低下が抑えられる。この結果、温度センサ1が高温で使用されるときに、密閉空間においてサーミスタ素子2を囲む雰囲気中の酸素濃度を安定に保つことができ、サーミスタ素子2の特性変化を抑えて温度センサ1の検出精度の低下を抑えることができるという効果が得られる。即ち、高温下でも安定した動作特性を示す温度センサ1を得ることができるようになった。
【0044】
この実施の形態の温度センサ1によれば、金属チューブ3、フランジ4及びシース8の表面に形成された酸化被膜の膜厚が0.5μm未満では、酸化被膜が不連続被膜となり各金属包囲部材3,4,8の表面の露出が多くなる。0.5〜5.0μmの膜厚では酸化被膜が連続被膜となり、各金属包囲部材3,4,8の表面の露出がなくなる。一方で、膜厚が5.0μmを越えると、酸化被膜の内部応力が増大し、ひび割れを生ずるなどして被膜の緻密さが失われ、被膜が剥離する傾向を示すようになる。
従って、各金属包囲部材3,4,8の表面に形成される酸化被膜の膜厚が0.5〜5.0μmの範囲に特定されることにより、緻密で連続的な酸化被膜が得られ、各金属包囲部材3,4,8の少なくともサーミスタ素子2に近接する金属部分の表面の酸化の進行が有効に抑えられ、サーミスタ素子2を囲む雰囲気中の酸素濃度の低下が有効に抑えられる。これにより、上記した酸化被膜の効果を高めることができるようになる。
【0045】
この実施の形態の温度センサ1の製造方法では、密閉空間内に露出しサーミスタ素子2に近接して配置される金属チューブ3、フランジ4及びシース8をクロム元素を含有する耐熱合金(SUS309S,SUS310S)により形成している。そして、それら各金属包囲部材3,4,8を水素−水蒸気雰囲気中で加熱処理することにより、各金属包囲部材3,4,8の表面に酸化クロムを選択的に生成させて酸化被膜を形成するようにしている。従って、密閉空間内に露出しサーミスタ素子2に近接して配置された各金属包囲部材3,4,8の表面に実質的に酸化クロムからなる緻密な酸化被膜が形成される。これにより、前述した効果を有する温度センサ1を得ることができる。
【0046】
この実施の形態では、上記製造方法における加熱処理方法を具体化するために、各金属包囲部材3,4,8を処理炉に収容し、その処理炉には、20〜50℃に保たれた水中を通して水分を含ませた水素ガスよりなるウエットガスと、ドライ水素よりなるドライガスとを1対1〜3の割合で投入し、各金属包囲部材3,4,8を1000〜1200℃、望ましくは1100〜1200℃の処理温度で加熱処理するようにしている。従って、1000℃以上で加熱処理したので、各金属包囲部材3,4,8の表面に酸化被膜が効率良く生成される。特に、処理温度を1100℃以上にすることにより、酸化被膜が更に効率良く生成されることになる。一方、1200℃以下で加熱処理したので、各金属包囲部材3,4,8に変質が生じることがなく、酸化被膜が急速に生成されることがなく、緻密な被膜が生成される。この結果として、各金属包囲部材3,4,8の表面に緻密な酸化被膜を形成するための時間を短縮することができ、温度センサ1の製造時間の短縮化を図ることができる。
【0047】
この実施の形態の温度センサ1の製造方法では、各金属包囲部材3,4,8として、クロム元素を少なくとも18重量%含有する耐熱合金、即ちSUS309S及びSUS310Sを使用している。従って、クロム元素の含有率が少なくとも18重量%に特定されることにより、緻密な酸化被膜が効率良く形成される。これによっても、酸化被膜の形成時間を短縮し、温度センサ1の製造時間の短縮化を図ることができる。
【0048】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の温度センサを具体化した第2の実施の形態を図面に従って説明する。尚、本実施の形態を含む以下の各実施の形態において、前記第1の実施の形態の温度センサ1と同一構成については同一符号を付して説明を省略し、異なった点を中心に説明する。
【0049】
図2に本実施の形態の温度センサ21の断面図を示す。この温度センサ21では、金属チューブ3そのものが省略され、シース8とキャップ22とにより金属チューブが代用される点で前記温度センサ1と構成が異なる。シース8とキャップ22はシース先端部8aにおいてカシメにより仮固定され、円周溶接される。キャップ22の内部には、酸化ニッケルからなるペレット10及びセメント11が埋設され、先端が盛り材23により封止される。シース8、キャップ22及び盛り材23はそれぞれSUS310Sを材質とする。本実施の形態では、シース8とキャップ22、又は、キャップ22の表面(少なくとも内面又は外面)に、それ以上酸化を進行し難くしてサーミスタ素子2の雰囲気中の酸素分圧を安定させるために、選択的に生成された酸化クロムよりなる厚さ約1μmの酸化被膜が予め形成される。この酸化被膜は、シース8及びキャップ22を、水温35℃の水中を通したウェット水素ガスとドライ水素ガスを1:2.2の比で加えた水素−水蒸気雰囲気中で1150℃の温度で加熱処理することにより得られたものである。
【0050】
従って、本実施の形態の温度センサ21によれば、サーミスタ素子2に近接するキャップ22、シース8の表面に酸化クロムよりなる緻密な酸化被膜が形成されることから、第1の実施の形態と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0051】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の温度センサを具体化した第3の実施の形態を図面に従って説明する。
【0052】
図3に本実施の形態の温度センサ31の断面図を示す。この温度センサ31でも金属チューブそのものが省略され、シース8とキャップ22とにより金属チューブが代用される点で前記温度センサ1と構成が異なる。シース8とキャップ22とは外形が等しく形成され、シース先端部8aとキャップ基端部22aの端面が突き合わせ溶接される。キャップ22の内部には、ペレット10及びセメント11が埋設され、先端が盛り材23により封止される。シース8、キャップ22及び盛り材23はそれぞれSUS310Sを材質としている。本実施の形態では、シース8とキャップ22、又は、キャップ22の表面(少なくとも内面又は外面)に、それ以上酸化を進行し難くしてサーミスタ素子2の雰囲気中の酸素分圧を安定させるために、選択的に生成された酸化クロムよりなる厚さ約1μmの酸化被膜が予め形成される。この酸化被膜は、シース8及びキャップ22を、水温35℃の水中を通したウェット水素ガスとドライ水素ガスを1:2.2の比で加えた水素−水蒸気雰囲気中で1150℃の温度で加熱処理することにより得られたものである。
【0053】
従って、本実施の形態の温度センサ31によれば、サーミスタ素子2に近接するキャップ22、シース8の表面に酸化クロムよりなる緻密な酸化被膜が形成されていることから、第1の実施の形態と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0054】
尚、この発明は前記各実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜に変更して実施することもできる。
【0055】
例えば、前記第1の実施の形態では、酸化被膜が予め形成される各金属包囲部材3,4,8の材質に、耐熱合金としてのSUS309S、SUS310Sを使用した。これに対して、クロム元素を少なくとも18重量%含む耐熱合金として、例えば、SUS304、SUS304L、SUS304N1、SUS304J3、SUS305、SUS305J1を使用することもできる。
【0056】
【発明の効果】
請求項1に記載の発明の構成によれば、温度センサ1が高温で使用されるときに、密閉空間に露出しサーミスタ素子に近接して配置された金属部分の表面の酸化の進行が抑えられ、密閉空間におけるサーミスタ素子を囲む雰囲気中の酸素濃度の低下が抑えられる。このため、高温使用時に密閉空間におけるサーミスタ素子を囲む雰囲気中の酸素濃度を安定に保つことができ、サーミスタ素子の特性変化を抑えて温度センサの検出精度の低下を抑えることができる。
【0057】
請求項2に記載の発明の構成によれば、金属部分の表面に形成される酸化被膜の膜厚が0.5〜5.0μmの範囲に特定されることにより、緻密で連続的な酸化被膜が得られ、少なくともサーミスタ素子に近接する金属部分の表面の酸化の進行が有効に抑えられ、サーミスタ素子を囲む雰囲気中の酸素濃度の低下が有効に抑えられる。このため、請求項1に記載した発明の酸化被膜の効果を高めることができる。
【0058】
請求項3に記載の発明の構成によれば、密閉空間内に露出しサーミスタ素子に近接して配置された金属部分の表面に実質的に酸化クロムからなる緻密な酸化被膜が形成される。このため、高温使用時にサーミスタ素子を囲む雰囲気中の酸素濃度を安定に保ち、サーミスタ素子の特性変化を抑えて検出精度の低下を抑えることのできる温度センサを得ることができる。
【0059】
請求項4に記載の発明の構成によれば、金属部分の表面に緻密な酸化被膜が効率良く形成される。このため、酸化被膜の形成時間を短縮することができ、温度センサの製造時間の短縮化を図ることができる。
【0060】
請求項5に記載の発明の構成によれば、金属部分の表面に緻密な酸化被膜が皿に効率良く形成される。このため、酸化被膜の形成時間を短縮することができ、温度センサの製造時間の短縮化を図ることができる。
【0061】
請求項6に記載の発明の構成によれば、請求項3乃至請求項5の一つに記載の発明の作用・効果に加え、クロム元素の含有率が少なくとも18重量%に特定されることにより、緻密な酸化被膜が効率良く形成される。このため、酸化被膜の形成時間を短縮することができ、温度センサの製造時間の短縮化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 第1の実施の形態に係り、温度センサを示す部分破断側面図である。
【図2】 第2の実施の形態に係り、温度センサを示す側断面図である。
【図3】 第3の実施の形態に係り、温度センサを示す側断面図である。
【符号の説明】
1 温度センサ
2 サーミスタ素子
3 金属チューブ(包囲部材)
4 フランジ(包囲部材)
8 シース(包囲部材)
21 温度センサ
22 キャップ(包囲部材)
31 温度センサ

Claims (3)

  1. サーミスタ素子を一又は複数の包囲部材で形成される密閉空間内に収容した温度センサの製造方法において、
    前記一又は複数の包囲部材のうち少なくとも前記密閉空間内に露出し前記サーミスタ素子に近接して配置された金属部分をクロム元素を含有する耐熱合金により形成し、
    前記金属部分を水素−水蒸気雰囲気中で加熱処理するにあたり、前記金属部分を含む前記包囲部材を処理炉に収容し、その処理炉には、20〜50℃に保たれた水中を通して水分を含ませた水素ガスよりなるウエットガスと、ドライ水素よりなるドライガスとを1対1〜3の割合で投入し、前記金属部分を1000〜1200℃の処理温度で加熱処理することにより、前記金属部分の表面に酸化クロムを選択的に生成させて酸化被膜を形成した
    ことを特徴とする温度センサの製造方法。
  2. 請求項に記載の温度センサの製造方法において、
    前記金属部分を、1100〜1200℃の処理温度で加熱処理した
    ことを特徴とする温度センサの製造方法。
  3. 請求項1または請求項2に記載の温度センサの製造方法において、
    前記金属部分に、クロム元素を少なくとも18重量%含有する耐熱合金を使用した
    ことを特徴とする温度センサの製造方法。
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