JP3975491B2 - 空燃比フィードバック制御系の異常診断装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、内燃機関の空燃比に対してリニアに出力を増減させる空燃比センサを備え、該センサによる検出結果に基づいてマイクロコンピュータ等からなる電子制御装置による空燃比フィードバック制御を実施する空燃比フィードバック制御システムに係るものであって、空燃比フィードバック制御系の異常診断装置に関するものである。なお、本明細書においては、空燃比センサの異常や電子制御装置(マイクロコンピュータ)による制御異常(フィードバックゲインの異常等)を空燃比フィードバック制御系の異常として定義する。
【0002】
【従来の技術】
近年の空燃比フィードバック制御システムにおいては、排気ガス中の酸素濃度に応じてリニアに空燃比を検出する空燃比センサ(例えば、限界電流式酸素センサ)が用いられており、マイクロコンピュータは前記センサによる空燃比検出結果を取り込んで内燃機関への燃料噴射量を制御する。この場合、マイクロコンピュータは前記空燃比センサによる空燃比検出結果に基づき空燃比補正係数を算出し、該空燃比補正係数にて燃料噴射量を補正する。これにより、内燃機関での最適な燃焼が実現され、排気ガス中の有害成分(CO,HC,NOX 等)が低減される。
【0003】
一方で、上記空燃比フィードバック制御システムでは、空燃比センサにより検出される空燃比の信頼性が低下すると制御精度が著しく悪化するため、従来より同空燃比センサの異常診断を精度良く検出するための技術が要望されている。そこで、従来技術として、例えば特開昭62−225943号公報の「酸素濃度センサの異常検出方法」では、限界電流式の酸素濃度センサについて印加電圧と検出電流とに応じて接続系の異常を検出する異常診断手順が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記従来技術では、接続系の断線や短絡等の回路構成上の異常が検出できるものの、空燃比センサの劣化等が生じた場合には、それによる異常の症状を検出することができない。つまり、空燃比センサにより検出された空燃比の真偽(センサ出力が正常か否か)を判断すること、即ちセンサ出力の信頼性を判断することができなかった。また、空燃比センサの検出結果を用いて実現される空燃比フィードバックの電子制御システムの信頼性を診断することもできなかった。
【0005】
本発明は、上記従来の問題点に着目してなされたものであってその目的は、空燃比センサの異常や、マイクロコンピュータ等からなる電子制御装置による制御異常を含む空燃比フィードバック制御系の異常を精度良く診断し、ひいては同制御システムの制御精度向上に貢献することができる空燃比フィードバック制御系の異常診断装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
先ず以って、本発明の空燃比フィードバック制御システムでは、内燃機関の空燃比に対してリニアに出力を増減させる空燃比センサを備え、該空燃比センサにより検出された空燃比をマイクロコンピュータ等からなる電子制御装置に入力する。そして、電子制御装置は、前記検出された空燃比と目標空燃比との偏差に応じた空燃比補正係数を設定すると共に、当該空燃比補正係数を用いて前記内燃機関への燃料供給量を補正し空燃比フィードバック制御を実現する(空燃比補正係数設定手段,空燃比フィードバック制御手段)。
【0007】
かかる制御システムでは、空燃比センサの劣化や断線による異常が発生したり、マイクロコンピュータによる制御性の異常が発生したりすると、適正な空燃比フィードバック制御が継続できなくなる。そこで、本発明では、空燃比センサの異常やマイクロコンピュータの制御異常をまとめて空燃比フィードバック制御系の異常とし、当該異常を精度良く検出するものである。
【0008】
請求項1に記載の発明では、その特徴として、空燃比センサにより検出された空燃比から第1の異常判定要素を演算すると共に(第1の要素演算手段)、空燃比補正係数設定手段により設定された空燃比補正係数から第2の異常判定要素を演算する(第2の要素演算手段)。また、、前記第1,第2の異常判定要素をそれぞれ少なくとも1つのしきい値にて区画した複数の正常・異常判定領域に対応させ、当該対応した領域に応じて空燃比フィードバック制御系の異常を診断する(異常診断手段)。
【0009】
上記構成によれば、異常判定要素に対応した複数の正常・異常判定領域に応じて空燃比フィードバック制御系の異常を診断することにより、既存の異常診断装置とは異なる装置を提供することができる。かかる場合、空燃比センサの異常、マイクロコンピュータによる制御異常等含む空燃比フィードバック制御系の異常を容易且つ明確に診断することができる。つまり、空燃比フィードバック制御系の異常を精度良く診断し、ひいては同制御システムの制御精度向上に貢献することができる。
【0010】
なお、正常判定領域としては、第1,第2の異常判定要素の各々に対して、例えば2つずつのしきい値にて区画される中間領域として与えられる。具体的には、図11のしきい値A,B,C,Dにより囲まれる中間領域がその一例である。但し、図11の縦軸「Tλ(空燃比偏差の積算値)」が第1の異常判定要素に相当し、横軸「TFAF(空燃比補正係数偏差の積算値)」が第2の異常判定要素に相当する。また、異常判定領域としては、第1,第2の異常判定要素の各々に対して、例えば2つずつのしきい値にて区画される外部領域として与えられる。具体的には、図11のしきい値A,B,C,Dにより設定される斜線領域がその一例である。
【0011】
請求項2に記載の発明では、その特徴として、前記第1の要素演算手段は、空燃比センサにより検出された空燃比と目標空燃比との偏差を前記第1の異常判定要素として演算する。また、前記第2の要素演算手段は、空燃比補正係数と当該補正係数の平均値との偏差を前記第2の異常判定要素として算出する。この場合、異常診断手段は、前記空燃比の偏差(第1の異常判定要素)及び前記空燃比補正係数の偏差(第2の異常判定要素)が正常・異常のいずれの判定領域にあるかに応じて空燃比フィードバック制御系の異常を診断する。
【0012】
さらに、請求項3に記載の発明では、その特徴として、前記第1の要素演算手段は、空燃比センサにより検出された空燃比と目標空燃比との偏差を逐次積算して前記第1の異常判定要素を演算する。また、前記第2の要素演算手段は、空燃比補正係数と当該補正係数の平均値との偏差を逐次積算して前記第2の異常判定要素を演算する。この場合、異常診断手段は、前記空燃比の偏差の積算値(第1の異常判定要素)及び前記空燃比補正係数の偏差の積算値(第2の異常判定要素)が正常・異常のいずれの判定領域にあるかに応じて空燃比フィードバック制御系の異常を診断する。
【0013】
上記請求項2,3のいずれにおいても、空燃比フィードバック制御系の異常診断に際してより適正な空燃比情報、及び空燃比補正係数情報(異常判定要素)が得られる。但し、請求項3では、積算値に基づいて異常診断を行うために、外乱(センサ出力や補正係数の一時的な乱れ)による影響の少ない異常診断が可能となる。
【0014】
請求項4に記載の発明では、異常診断手段は、予め設定されている異常診断回数内において所定回数以上、その時の前記第1,第2の異常判定要素が異常判定領域に属すると判定された場合、最終的に空燃比フィードバック制御系の異常である旨を診断する。かかる場合には、処理毎の異常診断結果を最終の診断結果とする場合に比べて、異常診断の信頼性を向上させることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明では、前記異常診断手段は、目標空燃比に対する空燃比の変動量、及び平均値に対する空燃比補正係数の変動量が所定値未満の領域について、空燃比フィードバック制御系が正常である旨の判定を禁止する。つまり、空燃比の変動や空燃比補正係数の変動が少ない領域では、それらの情報を用いた異常診断の信頼性が低く、異常を見逃してしまうおそれがある。この場合、上記の如く正常判定を禁止することにより、異常診断の誤検出を防止してその信頼性を高めることができる。
【0016】
請求項6に記載の発明では、前記第1,第2の異常判定要素に対応する複数の正常・異常判定領域をマップとしてメモリに記憶保持しておき、前記異常診断手段は、前記マップ上の正常・異常判定領域により異常診断を実施する。この場合、正常・異常判定領域の判断がより一層簡便に実現できる。
【0017】
また、請求項6に記載したマップの詳細としては、請求項7に記載したように、第1,第2の異常判定要素のそれぞれに応じて複数に均等区分された領域を多数有し、各領域に正常である旨のデータ又は異常であることのデータを記憶しておくのが望ましい。具体的には、図15のマップの太線枠内にある各領域が正常領域として記憶保持され、太線枠外にある各領域が異常領域として記憶保持される。
【0018】
請求項8に記載の発明では、前記第1,第2の異常判定要素に対応する正常・異常判定領域を所定の学習条件に基づいて学習する判定領域学習手段を備えている。その詳細な構成として、請求項9に記載の発明では、前記判定領域学習手段は、前記第1の異常判定要素に基づいて異常が検出された場合に空燃比補正係数に係わる正常判定領域を拡大させるよう正常・異常判定領域を学習し、他方、第2の異常判定要素に基づいて異常が検出された場合に空燃比に係わる正常判定領域を拡大させるよう正常・異常判定領域を学習する。
【0019】
つまり、空燃比センサの異常や制御系の異常が発生する場合には、双方の異常が同時に発生することは少なく、一方のみが発生していることが多いと考えられる。この場合、例えば空燃比センサ又は制御装置のいずれか一方に異常が発生すると、それに起因して他方にも異常の症状が現れることが多い。そこで、上記構成では、一方の異常が検出されると、他方の正常判定領域を拡大して異常判定条件を甘くする。それにより、実際に発生している異常を直接的に反映した形で異常診断を行うことができる。また、異常内容の特定をより正確に行うことも可能となる。
【0020】
【発明の実施の形態】
(第1の実施の形態)
以下、本発明を内燃機関の空燃比制御装置において具体化した第1の実施の形態を説明する。
【0021】
図1は本実施の形態における内燃機関の空燃比制御装置が設けられた内燃機関とその周辺機器の概略構成図である。図1に示すように、内燃機関1は4気筒4サイクルの火花点火式として構成されている。その吸入空気は上流よりエアクリーナ2、吸気管3、スロットルバルブ4、サージタンク5及びインテークマニホールド6を通過して、インテークマニホールド6内で各燃料噴射弁7から噴射された燃料と混合され、所定空燃比の混合気として各気筒に供給される。また、内燃機関1の各気筒に設けられた点火プラグ8には、点火回路9から供給される高電圧がディストリビュータ10にて分配供給され、点火プラグ8は前記各気筒の混合気を所定タイミングで点火する。そして、燃焼後の排気ガスはエキゾーストマニホールド11及び排気管12を通過し、排気管12に設けられた三元触媒13にて有害成分(CO、HC、NOX 等) が浄化されて大気に排出される。
【0022】
前記吸気管3には吸気温センサ21及び吸気圧センサ22が設けられ、吸気温センサ21は吸入空気の温度(吸気温Tam)を、吸気圧センサ22はスロットルバルブ4の下流側の吸入空気の圧力(吸気圧PM)をそれぞれ検出する。また、前記スロットルバルブ4には同バルブ4の開度(スロットル開度TH)を検出するためのスロットルセンサ23が設けられ、このスロットルセンサ23はスロットル開度THに応じたアナログ信号を出力すると共に、スロットルバルブ4が略全閉である旨の検出信号を出力する。また、内燃機関1のシリンダブロックには水温センサ24が設けられ、この水温センサ24は内燃機関1内の冷却水の温度(冷却水温Thw)を検出する。前記ディストリビュータ10には内燃機関1の回転数(機関回転数Ne)を検出するための回転数センサ25が設けられ、この回転数センサ25は内燃機関1の2回転、すなわち720°CA毎に等間隔で24個のパルス信号を出力する。
【0023】
さらに、前記排気管12の三元触媒13の上流側には、内燃機関1から排出される排気ガスの酸素濃度に比例して広域で且つリニアな空燃比信号を出力する、限界電流式酸素センサからなるA/Fセンサ(空燃比センサ)26が設けられている。また、三元触媒13の下流側には、空燃比λが理論空燃比(λ=1)に対してリッチかリーンかに応じた電圧VOX2を出力する下流側O2 センサ27が設けられている。なお、本実施の形態では、空燃比を空気過剰率「λ」で表し、理論空燃比(=14.7)を空燃比λ=1として記載する。
【0024】
図2は、A/Fセンサ26の概略を示す断面図である。図2において、A/Fセンサ26は排気管12の内部に向けて突設されており、同センサ26はカバー31、センサ本体32及びヒータ33に大別される。カバー31は断面コ字状をなし、その周壁にはカバー内外を連通する多数の小孔31aが形成されている。センサ本体32は、空燃比リーン領域における酸素濃度、若しくは空燃比リッチ領域における未燃ガス(CO,HC,H2 等)濃度に対応する限界電流を発生する。
【0025】
センサ本体32の構成について詳述する。センサ本体32において、断面カップ状に形成された固体電解質層34の外表面には、排気ガス側電極層36が固着され、内表面には大気側電極層37が固着されている。また、排気ガス側電極層36の外側には、プラズマ溶射法等により拡散抵抗層35が形成されている。固体電解質層34は、ZrO2 、HfO2 、ThO2 、Bi2 O3 等にCaO、MgO、Y2 O3 、Yb2 O3 等を安定剤として固溶させた酸素イオン伝導性酸化物焼結体からなり、拡散抵抗層35は、アルミナ、マグネシャ、ケイ石質、スピネル、ムライト等の耐熱性無機物質からなる。排気ガス側電極層36及び大気側電極層37は共に、白金等の触媒活性の高い貴金属からなりその表面には多孔質の化学メッキ等が施されている。なお、排気ガス側電極層36の面積及び厚さは、10〜100mm2 (平方ミリメートル)及び0.5〜2.0μm程度となっており、一方、大気側電極層37の面積及び厚さは、10mm2 (平方ミリメートル)以上及び0.5〜2.0μm程度となっている。
【0026】
ヒータ33は大気側電極層37内に収容されており、その発熱エネルギーによりセンサ本体32(大気側電極層37、固体電極質層34、排気ガス側電極層36及び拡散抵抗層35)を加熱する。ヒータ33は、センサ本体32を活性化するに十分な発熱容量を有している。
【0027】
上記構成のA/Fセンサ26において、センサ本体32は、理論空燃比点よりリーン領域の酸素濃度に応じた限界電流を発生する。この場合、酸素濃度に対応する限界電流は、排気ガス側電極層36の面積、拡散抵抗層35の厚さ、気孔率及び平均孔径により決定される。また、センサ本体32は酸素濃度を直線的特性にて検出し得るものであるが、このセンサ本体32を活性化するのに約650℃以上の高温が必要とされると共に、同センサ本体32の活性温度範囲が狭いため、エンジン1の排気ガスのみによる加熱では活性領域を制御できない。そのため、本実施の形態では、後述するECU41によりヒータ33が加熱制御され、センサ本体32が所定の活性温度に保持されるようになっている。なお、理論空燃比よりもリッチ側の領域では、未燃ガスである一酸化炭素(CO)等の濃度が空燃比に対してほぼリニアに変化し、センサ本体32はCO等の濃度に応じた限界電流を発生する。
【0028】
センサ本体32の電圧−電流特性について図3を用いて説明する。図3に示すように電流−電圧特性は、A/Fセンサ26の検出酸素濃度(空燃比)に比例するセンサ本体32の固体電解質層34への流入電流と、同固体電解質層34への印加電圧との関係が直線的であることを示す。そして、センサ本体32が温度T=T1にて活性状態にあるとき、図3の実線で示すように特性線L1でもって安定した状態を示す。かかる場合、特性線L1の電圧軸Vに平行な直線部分がセンサ本体32の限界電流を特定する。この限界電流の増減は空燃比の増減(即ち、リーン・リッチ)に対応しており、空燃比がリーン側になるほど限界電流は増大し、空燃比がリッチ側になるほど限界電流は減少する。
【0029】
また、この電圧−電流特性において電圧軸Vに平行な直線部分よりも小さい電圧域は抵抗支配域となっており、その抵抗支配域における特性線L1の傾きは、センサ本体32における固体電解質層34の内部抵抗により特定される。固体電解質層34の内部抵抗は温度変化に伴い変化するため、センサ本体32の温度が低下すると抵抗の増大により上記傾きが小さくなる。つまり、センサ本体32の温度TがT1よりも低いT2にあるとき、電流−電圧特性は図3の破線で示すように特性線L2でもって特定される。かかる場合、特性線L2の電圧軸Vに平行な直線部分がT=T2におけるセンサ本体32の限界電流を特定するもので、この限界電流は特性線L1による限界電流とほぼ一致している。
【0030】
そして、特性線L1において、センサ本体32の固体電解質層34に正の印加電圧Vposを印加すれば、センサ本体32に流れる電流が限界電流Iposとなる(図3の点Pa参照)。また、センサ本体32の固体電解質層34に負の印加電圧Vnegを印加すれば、センサ本体32に流れる電流が酸素濃度に依存せず、温度のみに比例する負の温度電流Inegとなる(図3の点Pb参照)。
【0031】
また、図1の内燃機関1の運転を制御する電子制御装置(以下、ECUという)41は、CPU(中央処理装置)42、ROM(リードオンリメモリ)43、RAM(ランダムアクセスメモリ)44、バックアップRAM45等を中心に論理演算回路として構成され、前記各センサの検出信号を入力する入力ポート46及び各アクチュエータに制御信号を出力する出力ポート47等に対しバス48を介して接続されている。そして、ECU41は、入力ポート46を介して前記各センサから吸気温Tam、吸気圧PM、スロットル開度TH、冷却水温Thw、機関回転数Ne、空燃比信号等を入力して、それらの各値に基づいて燃料噴射量TAU、点火時期Ig等の制御信号を算出し、さらに、それら制御信号を出力ポート47を介して燃料噴射弁7及び点火回路9等にそれぞれ出力する。また、ECU41は後述する異常判定処理を実行して空燃比フィードバック制御系の異常の有無を診断し、異常時には警告灯49を点灯して運転者に異常発生を警告する。
【0032】
次に、上述した燃料噴射制御システムにおいて、空燃比制御を行うために予め設計されている手法について順次説明する。なお、以下の設計手法は特開平1−110853号公報に開示されている。
【0033】
(1)制御対象のモデリング
この実施の形態では、内燃機関1の空燃比λを制御するシステムのモデルに、むだ時間P=3を有する次数1の自己回帰移動平均モデルを用い、更に外乱dを考慮して近似している。
【0034】
まず、自己回帰移動平均モデルを用いた空燃比λを制御するシステムのモデルは、次の数式1により近似できる。
【0035】
【数1】
【0036】
ただし、この数式1において、符号FAFは空燃比補正係数を表す。また、符号a,bはモデルの応答性を決定するためのモデル定数を表す。また、符号kは、最初のサンプリング開始からの制御回数を示す変数を表す。
【0037】
さらに、外乱dを考慮すると、制御システムのモデルは、次の数式2で近似できる。
【0038】
【数2】
【0039】
以上のように近似したモデルに対し、ステップ応答を用いて回転周期(360°CA)サンプリングで離散化して上記モデル定数a,bを定めること、即ち空燃比λを制御する系の伝達関数Gを求めることは容易である。
【0040】
(2)状態変数量Xの表示方法(ただし、Xはベクトル量である)
上記数式2を、状態変数量X(k)=[X1(k),X2(k),X3(k),X4(k)]^Tを用いて書き直すと、数式3の如き行列式となり、更には数式4のようになる。ここで、符号Tは転置行列を示す。
【0041】
【数3】
【0042】
【数4】
【0043】
(3)レギュレータの設計
上記数式3,数式4に基づいてレギュレータを設計すると、空燃比補正係数FAFは、最適フィードバックゲインK=[K1,K2,K3,K4]と、状態変数量X^T(k)=[λ(k),FAF(k−3),FAF(k−2),FAF(k−1)]とを用いて、数式5のように表せる。
【0044】
【数5】
【0045】
さらに、この数式5において、誤差を吸収させるための積分項ZI(k)加えると、空燃比補正係数FAFは、次の数式6によって与えられる。
【0046】
【数6】
【0047】
なお、上記の積分項ZI(k)は、目標空燃比λTG及び現実の空燃比λ(k)間の偏差と積分定数Kaとから決まる値であって、次の数式7により与えられる。
【0048】
【数7】
【0049】
図4は、上述のようにモデルを設計した空燃比λの制御システムのブロック線図を表す。なお、この図4においては、空燃比補正係数FAF(k)をFAF(k−1)から導出するためにZ-1変換を用いて表記したが、これは過去の空燃比補正係数FAF(k−1)をRAM44に記憶しておき、次の制御タイミングで読み出して用いている。因みに、「FAF(k−1)」は1回前の空燃比補正係数を表し、「FAF(k−2)」は2回前の空燃比補正係数を表し、「FAF(k−3)」は3回前の空燃比補正係数を表す。
【0050】
また、同図4において、二点鎖線で囲まれたブロックP1が、空燃比λ(k)を目標空燃比λTGにフィードバック制御している状態にて状態変数量X(k)を定める部分であり、ブロックP2が、積分項ZI(k)を求める部分(累積部)であり、そしてブロックP3が、ブロックP1で定められた状態変数量X(k)とブロックP2で求められた積分項ZI(k)とから今回の空燃比補正係数FAF(k)を演算する部分である。
【0051】
(4)最適フィードバックゲインK及び積分定数Kaの決定
最適フィードバックゲインK及び積分定数Kaは、例えば、次の数式8で示される評価関数Jを最小にすることで設定できる。
【0052】
【数8】
【0053】
ただしこの数式8において、評価関数Jは、空燃比補正係数FAF(k)の動きを制約しつつ、空燃比λ(k)と目標空燃比λTGとの偏差を最小にすることを意図したものである。また、空燃比補正係数FAF(k)に対する制約の重み付けは、重みのパラメータQ,Rの値によって変更できる。従って、重みパラメータQ,Rの値を種々変えて最適な制御特性が得られるまでシミュレーションを繰り返し、最適フィードバックゲインK及び積分定数Kaを定めればよい。
【0054】
さらに、最適フィードバックゲインK及び積分定数Kaは、先のモデル定数a,bに依存している。従って、実際の空燃比λを制御する系の変動(パラメータ変動)に対するシステムの安定性(ロバスト性)を保証するためには、これら各モデル定数a,bの変動分を見込んで、最適フィードバックゲインK及び積分定数Kaを設定する必要がある。よって、シミュレーションは、各モデル定数a,bの現実に生じ得る変動を加味して行い、安定性を満足する最適フィードバックゲインK及び積分定数Kaを定める。
【0055】
以上、(1)制御対象のモデリング、(2)状態変数量の表示方法、(3)レギュレータの設計、(4)最適フィードバックゲイン及び積分定数の決定について説明したが、該実施の形態の装置では、これらは何れも既に設定されているものとする。そして、ECU41では、前記数式6及び数式7のみを用いて、該燃料噴射制御システムにおける空燃比制御を実行するものとする。
【0056】
次に、上記のように構成された本実施の形態における空燃比制御装置の動作を説明する。
図5はECU41内のCPU42により実行される燃料噴射量算出ルーチンを示すフローチャートであり、同ルーチンは、内燃機関1の回転に同期して360°CA毎に実行される。なお、本実施の形態では、図5のルーチンが空燃比補正係数設定手段及び空燃比フィードバック制御手段に相当する。
【0057】
さて、CPU42は、先ずステップ101で吸気圧PM、機関回転数Ne等に基づいて基本燃料噴射量Tpを算出し、続くステップ102で空燃比λのフィードバック条件が成立しているか否かを判別する。ここで、周知のようにフィードバック条件とは、冷却水温Thwが所定水温以上で、且つ高回転・高負荷でないときに成立する。現時点にてフィードバック条件が成立していれば、CPU42はステップ103に進み、空燃比λを目標空燃比λTG(本実施の形態では、理論空燃比λ=1としている)とするための空燃比補正係数FAFを設定し、その後ステップ104に進む。即ち、ステップ103では、前述の数式6及び数式7に基づいて目標空燃比λTGとA/Fセンサ26にて検出された空燃比λ(k)とから空燃比補正係数FAFが算出される。
【0058】
また、前記ステップ102でフィードバック条件が成立していなければ、CPU42はステップ105に進んで空燃比補正係数FAFを「1.0」に設定し、その後ステップ104に進む。この場合、FAF=1.0とは空燃比λを補正しないことを意味し、いわゆるオープン制御が実施される。
【0059】
ステップ104では、CPU42は、次の数式9に従って基本燃料噴射量Tp、空燃比補正係数FAF及びその他の補正係数FALLから燃料噴射量TAUを設定する。
【0060】
【数9】
TAU=Tp・FAF・FALL
その後、上記燃料噴射量TAUに基づく制御信号が燃料噴射弁7に出力され、同弁7の開弁時間、即ち実際の燃料噴射時間が制御され、その結果、空燃比λが目標空燃比λTGに調整される。
【0061】
以上、空燃比補正係数FAFが空燃比λと目標空燃比λTG(本実施の形態では、λTG=1.0)との偏差に応じて設定される旨を記載したが、A/Fセンサ26が異常になると、或いはCPU42による制御異常(例えばフィードバックゲインの異常等)が発生すると、空燃比フィードバック制御系が正常に機能しなくなる。そこで、本実施の形態では、A/Fセンサ26により検出された空燃比λと空燃比補正係数FAFとのから得られる異常判定要素に基づいて、空燃比フィードバック制御系の異常の有無を診断する。
【0062】
ここで、本異常判定処理を略述すれば、本処理では、所定時間内においてA/Fセンサ26により検出された空燃比λと目標空燃比λTGとの差の積算値(以下、λ積算値Tλという)を算出すると共に、同じく所定時間内において空燃比補正係数FAFと当該FAFの平均値FAFAVとの差の積算値(以下、FAF積算値TFAFという)を算出する。この場合、空燃比λが目標空燃比λTGを基準に変動すると共に、空燃比補正係数FAFがその平均値FAFAVを基準に変動するとすれば、λ積算値Tλ、FAF積算値TFAFは、図10における斜線部の面積に相当する。なお、本実施の形態では、λ積算値Tλが第1の異常判定要素に相当し、FAF積算値TFAFが第2の異常判定要素に相当する。
【0063】
そして、これらTλ,TFAFが正常判定領域にあるか又は異常判定領域にあるかに応じて空燃比フィードバック制御系の異常を検出する。具体的には、図11に示すように、Tλがしきい値A〜Bの範囲内にあり、且つTFAFがしきい値C〜Dの範囲内にあれば(図の斜線部を除く中間領域)、空燃比フィードバック制御系が正常であると診断される。また、Tλ及びTFAFが図の斜線領域にあれば、空燃比フィードバック制御系が異常であると診断される。この場合、Tλ≦A且つTFAF≦Cの領域は、本来、異常領域として断定しにくい領域であるが、本実施の形態では、当該領域については異常診断の信頼性が低く、異常を見逃してしまうおそれがあるとして、正常である旨の判定を禁止するようにしている(即ち、異常判定領域としている)。
【0064】
図6は、本実施の形態における空燃比フィードバック系異常判定ルーチンを示すフローチャートであり、同ルーチンは例えば4ms周期でCPU42により実行される。なお、本実施の形態では、図6のルーチンが異常診断手段に相当する。
【0065】
さて、図6のルーチンがスタートすると、CPU42は、先ずステップ210で今現在の機関運転状態が異常判定可能な状態であるか否かを判別する。具体的には、ステップ210では例えば以下の条件が満たされているか否かが判別される。
・A/Fセンサ26が活性化状態であること(センサ本体32の素子温が650℃以上、或いはA/Fセンサ26の素子抵抗が90Ω以下であること)。
・吸気圧PMが所定圧以下であること。
・機関回転数Neが所定回転数以下であること。
・スロットル開度THが所定開度以下であること。
・アイドル状態であること。
・空燃比フィードバックの開始から所定時間が経過していること。
【0066】
そして、上記ステップ210が肯定判別され、異常判定が許可されると、CPU42はステップ220に進み、λ積算値Tλを算出する。ここで、λ積算値Tλは図7のサブルーチンにより算出されるものであって、同図7のルーチンが第1の要素演算手段に相当する。その内容を説明すれば、CPU42は、図7のステップ221でA/Fセンサ26により検出された空燃比λと、目標空燃比λTGとの差を算出し、続くステップ222で前記空燃比λと目標空燃比λTGとの差の絶対値|λ−λTG|を、λ積算値の前回値Tλi-1 に加算してλ積算値の今回値Tλi を算出する(Tλi =Tλi-1 +|λ−λTG|)。
【0067】
また、図6のステップ230において、CPU42はFAF積算値TFAFを算出する。ここで、FAF積算値TFAFは図8のサブルーチンにより算出されるものであって、同図8のルーチンが第2の要素演算手段に相当する。その内容を説明すれば、CPU42は、図8のステップ231で既述した手順に従って求めた空燃比補正係数FAFを読み込み、続くステップ232で当該FAFを空燃比補正係数の今回値FAFi とする。
【0068】
さらに、CPU42は、ステップ233で周知のなまし処理を用いて空燃比補正係数FAFの平均値FAFAVi (今回値)を算出する。即ち、当該平均値FAFAVi は、次の数式10により算出される。
【0069】
【数10】
FAFAVi ={FAFAVi-1 ・(n−1)+FAFi }/n
但し、上記数式10において、例えばn=64である。
【0070】
その後、CPU42は、ステップ234で空燃比補正係数FAFi (今回値)とその平均値FAFAVi (今回値)との差を算出し、続くステップ235で前記空燃比補正係数FAFi とその平均値FAFAVi との差の絶対値|FAFi −FAFAVi |を、FAF積算値の前回値TFAFi-1 に加算してFAF積算値の今回値TFAFi を算出する(TFAFi =TFAFi-1 +|FAFi −FAFAVi |)。
【0071】
一方、図6のステップ220,230の処理(Tλ,TFAFの算出処理)後において、CPU42は、ステップ240で前回の異常判定時から所定時間t(本実施の形態では、1280ms)が経過したか否かを判別し、これが否定判別されれば本ルーチンをそのまま終了する。つまり、ステップ240が否定判別されている期間内(1280ms期間内)では、前記ステップ220,230により空燃比λの偏差の積算処理、及び空燃比補正係数FAFの偏差の積算処理が繰り返し実行される。
【0072】
また、ステップ240が肯定判別されれば、CPU42はステップ250に進み、異常判定処理を実行する。この異常判定処理は図9に示すサブルーチンに従って実施される。
【0073】
このステップ250の異常判定処理(図9に示すサブルーチン)は、前記算出したλ積算値TλとFAF積算値TFAFとを用いて空燃比フィードバック制御系の異常を判定するものであって、その判定処理後、CPU42は図6のステップ280でλ積算値Tλ及びFAF積算値TFAFを「0」にクリアして本ルーチンを一旦終了する。
【0074】
次に、図9の異常判定サブルーチンを詳細に説明する。
図9において、CPU42は、先ずステップ251で異常判定処理の実施回数を表す処理カウンタCDGを「1」インクリメントし、続くステップ252で当該処理カウンタCDGが「5」を超えるか否かを判別する。処理開始当初には、ステップ252が否定判別され、CPU42はステップ253に進む。
【0075】
CPU42は、ステップ253でλ積算値Tλが所定のしきい値A,Bで区画される正常領域にあるか否かを判別する。ここで、しきい値A,Bは、図11の縦軸に表される値である。この場合、A<Tλ<Bであれば、CPU42はステップ254でλ異常判定カウンタCAFDGを現状のままとし、Tλ≦A又はTλ≧Bであれば、ステップ255でλ異常判定カウンタCAFDGを「1」インクリメントする。
【0076】
さらに、CPU42は、ステップ256でλ異常判定カウンタCAFDGが「3」以上であるか否かを判別する。そして、CAFDG<3であれば、CPU42はステップ257でλ異常判定フラグXDGAFを「0」にクリアし、CAFDG≧3であれば、ステップ258でλ異常判定フラグXDGAFに「1」をセットする。
【0077】
その後、CPU42は、ステップ259でFAF積算値TFAFが所定のしきい値C,Dで区画される正常領域にあるか否かを判別する。ここで、しきい値C,Dは、図11の横軸に表される値である。この場合、C<TFAF<Dであれば、CPU42はステップ260でFAF異常判定カウンタCFAFDGを現状のままとし、TFAF≦C又はTFAF≧Dであれば、ステップ261でFAF異常判定カウンタCFAFDGを「1」インクリメントする。
【0078】
さらに、CPU42は、ステップ262でFAF異常判定カウンタCFAFDGが「3」以上であるか否かを判別する。そして、CFAFDG<3であれば、CPU42は、ステップ263でFAF異常判定フラグXDGFAFを「0」にクリアして本ルーチンを終了する。また、CAFDG≧3であれば、CPU42は、ステップ264でFAF異常判定フラグXDGFAFに「1」をセットして本ルーチンを終了する。
【0079】
一方、同図9の処理が繰り返し実行され、それに伴なってステップ252が肯定判別されると、CPU42はステップ265に進み、λ異常判定フラグXDGAF又はFAF異常判定フラグXDGFAFのいずれかに「1」がセットされているか否かを判別する。この場合、XDGAF又はXDGFAFがいずれも「0」であれば、CPU42はステップ266に進み、最終異常判定フラグXDGを「0」にクリアする。また、XDGAF又はXDGFAFの少なくともいずれかに「1」がセットされていれば、CPU42はステップ267に進み、最終異常判定フラグXDGに「1」をセットする。なお、図示は省略したが、最終異常判定フラグXDGのセット操作に伴ない前記異常判定フラグXDGAF,XDGFAFは共に「0」にクリアされるようになっている。
【0080】
かかる場合、XDG=0となることは、λ積算値Tλ及びFAF積算値TFAFが図11の正常領域(図の中央の領域)にあることを意味し、XDG=1となることは、λ積算値Tλ及びFAF積算値TFAFが図11の異常領域(図の斜線領域)にあることを意味する。
【0081】
その後、CPU42は、ステップ268で処理カウンタCDGを「0」にクリアすると共に、続くステップ269でλ異常判定カウンタCAFDGを「0」にクリアする。さらに、CPU42は、ステップ270でFAF異常判定カウンタCFAFDGを「0」にクリアして本ルーチンを終了する。なお、上記最終異常判定フラグXDGがセットされると、CPU42は警告灯49を点灯させたり、空燃比フィードバックを停止させたりする等のダイアグ処理を実施する。
【0082】
次に、上記の如く実施される異常判定処理を図12のタイムチャートを用いてより具体的に説明する。なお、図中の時間t1,t2,t3,t4,t5,t6は、前記図9の異常判定処理が実施されるタイミングを示す。さて、図12においては、処理カウンタCDGが1280ms毎にカウントアップされ、CDG=5に達した後、「0」にクリアされる。
【0083】
時間t1〜t2の期間、時間t3〜t5の期間においては、空燃比λが目標空燃比λTGに対して大きく変動しており、かかる期間ではλ積算値Tλが正常領域としての許容範囲(A〜B)から外れることとなる。従って、時間t2,t4,t5において、λ異常判定カウンタCAFDGが1つずつインクリメントされ、CAFDG=3となる時間t5では、λ異常判定フラグXDGAFに「1」がセットされている(即ち、この時間t5で図9のステップ256が肯定判別される)。
【0084】
また、時間t1以前、時間t1〜t3の期間、時間t4〜t5の期間においては、空燃比補正係数FAFが当該FAFの平均値FAFAVに対して大きく変動しており、かかる期間ではFAF積算値TFAFが正常領域としての許容範囲(C〜D)から外れることとなる。従って、時間t1,t2,t3,t5において、FAF異常判定カウンタCFAFDGが1つずつインクリメントされ、CFAFDG=3となる時間t3では、FAF異常判定フラグXDGFAFに「1」がセットされている(即ち、この時間t3で図9のステップ262が肯定判別される)。
【0085】
そして、CDG=5となる時間t6では、λ異常判定フラグXDGAF,FAF異常判定フラグXDGFAFに「1」がセットされているため、最終異常判定フラグXDGに「1」がセットされることとなる。
【0086】
なお、上記図12のタイムチャートでは、λ異常(A/Fセンサ26の異常)とFAF異常(CPU42によるフィードバックゲインの異常等)とが略同時に発生している事例を説明したが、実際のシステムでは、いずれか一方の異常が発生し、それに起因して他方の異常が発生することが多い。
【0087】
そこで、本実施の形態の空燃比制御装置では、λ異常、FAF異常のうちでいずれか一方の異常判定後において、上記λ異常,FAF異常を判定するためのしきい値A,B,C,Dを学習するようにしており、以下にその詳細を説明する。なお図示は省略したが、かかる構成では、前記λ異常判定フラグXDGAFに「1」がセットされた回数(図9のステップ256が肯定判別された回数),並びにFAF異常判定フラグXDGFAFに「1」がセットされた回数(図9のステップ262が肯定判別された回数)が継続的にカウントされ、同カウント値がRAM44に記憶されるようになっている。
【0088】
図13のフローチャートは、λ異常判定フラグXDGAF,FAF異常判定フラグXDGFAFの操作状態に基づいて、λ積算値Tλ及びFAF積算値TFAFを正常・異常判定するためのしきい値A,B,C,Dを学習するためのしきい値学習ルーチンであり、同ルーチンは例えば10分周期でCPU42により実行される。なお、本実施の形態では、図13のルーチンが判定領域学習手段に相当する。
【0089】
さて、図13がスタートすると、CPU42は、先ずステップ301で前回の処理時と今回の処理時との期間中にλ異常判定フラグXDGAF及びFAF異常判定フラグXDGFAFのうち、いずれのフラグが先にセットされたかを判別する。但し、いずれのフラグもセットされていなければCPU42はそのまま処理を終了する(図示略)。
【0090】
かかる場合において、λ異常判定フラグXDGAFが先にセットされたとすれば、CPU42はステップ302に進み、当該XDGAFのセット回数を読み込むと共に、続くステップ303で前記セット回数が所定値K1に達しているかを判別する。また、CPU42は、ステップ304でしきい値C,Dが予め設定されているガード値に達しているかを判別する。即ち、しきい値C,Dの過剰な学習が行われていないかを判別する。
【0091】
この場合、ステップ303が肯定判別され、且つステップ304が否定判別されれば、CPU42はステップ305に進む。また、ステップ303が否定判別されるか、或いはステップ304が肯定判別されれば、CPU42はステップ305をバイパスしてステップ306に進む。
【0092】
CPU42は、ステップ305でしきい値C,Dに対し学習処理を実行する。具体的には、空燃比λ(A/Fセンサ26)に異常が発生すると、その影響を受けて本来正常なはずの空燃比補正係数FAFに異常な兆候が現れることがある。そこで、しきい値C,Dで区画される正常領域を広くする。つまり、図11において、しきい値Cを小さくし、しきい値Dを大きくする。このとき、正常領域を広くするためのしきい値C,Dの学習処理は、しきい値C,Dのいずれか一方についてのみ行うようにしてもよい。
【0093】
その後、CPU42は、ステップ306で異常判定フラグXDGAF,XDGFAFのセット回数をクリアするように指令し、本ルーチンを終了する。
また、FAF異常判定フラグXDGFAFが先にセットされたとすれば、CPU42はステップ307に進み、当該XDGFAFのセット回数を読み込むと共に、続くステップ308で前記セット回数が所定値K2に達しているかを判別する。また、CPU42は、ステップ309でしきい値A,Bが予め設定されているガード値に達しているかを判別する。即ち、しきい値A,Bの過剰な学習が行われていないかを判別する。
【0094】
この場合、ステップ308が肯定判別され、且つステップ309が否定判別されれば、CPU42はステップ310に進む。また、ステップ308が否定判別されるか、或いはステップ309が肯定判別されれば、CPU42はステップ310をバイパスしてステップ306に進む。
【0095】
CPU42は、ステップ310でしきい値A,Bに対し学習処理を実行する。具体的には、空燃比補正係数FAF(フィードバックゲイン)に異常が発生すると、その影響を受けて本来正常なはずの空燃比λに異常な兆候が現れることがある。そこで、しきい値A,Bで区画される正常領域を広くする。つまり、図11において、しきい値Aを小さくし、しきい値Bを大きくする。このとき、正常領域を広くするためのしきい値A,Bの学習処理は、しきい値A,Bのいずれか一方についてのみ行うようにしてもよい。
【0096】
以上詳述した本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(a)本実施の形態では、A/Fセンサ26により検出された空燃比λと目標空燃比λTGとの偏差(λ積算値Tλ)を算出すると共に、空燃比補正係数FAFとその平均値FAFAVとの偏差(FAF積算値TFAF)を算出した。そして、それら算出された異常判定要素(λ積算値Tλ,FAF積算値TFAF)を、それぞれ2つずつのしきい値にて区画した正常・異常判定領域(図11参照)に対応させて空燃比フィードバック制御系の異常を診断するようにした。
【0097】
かかる場合、異常判定要素と正常・異常判定領域とを照合させることにより、容易且つ明確な当該異常診断を実施することができ、既存の異常診断装置とは異なる装置が提供できる。その結果、A/Fセンサ26の異常、マイクロコンピュータ(ECU41)による制御異常等含む空燃比フィードバック制御系の異常を精度良く診断して、ひいては同制御システムの制御精度向上に貢献することができる。
【0098】
(b)また、異常診断に際しては、A/Fセンサ26により検出された空燃比λと目標空燃比λTGとの偏差を逐次積算すると共に、空燃比補正係数FAFと当該FAFの平均値FAFAVとの偏差を逐次積算し、これらの演算結果(λ積算値Tλ,FAF積算値TFAF)を異常判定要素とした(Tλ=第1の異常判定要素,TFAF=第2の異常判定要素)。この場合、適正な空燃比情報及び空燃比補正係数情報が得られる。また、各情報の積算値に基づいて異常診断を行うために、外乱(センサ出力や補正係数の一時的な乱れ)による影響の少ない異常診断が可能となる。
【0099】
(c)また、本実施の形態では、所定の異常診断回数(本実施の形態では、CDG=5回)内において所定回数(本実施の形態では、3回)以上、その時の異常判定要素が異常判定領域に属すると判定された場合、最終的に空燃比フィードバック制御系の異常である旨を診断するようにした。かかる場合には、処理毎の異常診断結果を最終結果とする場合に比べて、異常診断の信頼性を向上させることができる。
【0100】
(d)さらに、λ積算値Tλ及びFAF積算値TFAFが所定値未満の領域(Tλ≦A、且つTFAF≦Cの領域)では、空燃比フィードバック制御系が正常である旨の判定を禁止するようにした(図11参照)。つまり、空燃比λの変動や空燃比補正係数FAFの変動が少ない領域では、それらの情報を用いた異常診断の信頼性が低く、異常を見逃してしまうおそれがある。この場合、上記の如く正常である旨の判定を禁止すれば、異常診断の誤検出を防止してその信頼性を高めることができる。
【0101】
(e)併せて、本実施の形態では、λ積算値Tλに基づいて異常が検出された場合に空燃比補正係数FAFに係わる正常判定領域(図11のC〜Dの領域)を拡大させるよう正常・異常判定領域を学習し、他方、FAF積算値TFAFに基づいて異常が検出された場合に空燃比λに係わる正常判定領域(図11のA〜Bの領域)を拡大させるよう正常・異常判定領域を学習するようにした。
【0102】
つまり、A/Fセンサ26の異常やECU41内の制御異常が発生する場合には、双方の異常が同時に発生することは少なく、一方のみが発生していることが多いと考えられる。この場合、例えばA/Fセンサ26又はECU41のいずれか一方に異常が発生すると、それに起因して他方にも異常の症状が現れることが多い。そこで、上記構成では、一方の異常が検出されると、他方の正常判定領域を拡大して異常判定条件を甘くする。それにより、実際に発生している異常を直接的に反映した形で異常診断を行うことができる。また、異常内容の特定をより正確に行うことも可能となる。
【0103】
(第2の実施の形態)
次に、本発明における第2の実施の形態を図14〜図17を用いて説明する。但し、本実施の形態の構成において、上述した第1の実施の形態と同等であるものについては図面に同一の記号を付すと共にその説明を簡略化する。そして、以下には第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0104】
本実施の形態では、λ積算値TλとFAF積算値TFAFとを異常判定要素とした図15の正常・異常判定マップを用い、異常判定処理を実施する。即ち、図15では、λ積算値Tλが多数のしきい値により複数領域(図では16領域)に均等区分されると共に、FAF積算値TFAFが多数のしきい値により複数領域(図では16領域)に均等区分されている。従って、マップ全体としては、16×16=256個の小領域が設けられていることとなっている。
【0105】
この場合、同マップの太線枠内にある個々の小領域(図では、10×10=100個の小領域)が正常領域として設定されており、太線枠外にある個々の小領域が異常領域として設定されている。そして、本実施の形態では、その時々のTλ及びTFAFが正常・異常のいずれの領域にあるかに応じて異常判定を行うようにしている。なお、図15のマップは、メモリとしてのバックアップRAM45に記憶保持されている。
【0106】
図14は、本実施の形態における異常判定ルーチンを示すフローチャートであり、同ルーチンは、前記第1の実施の形態における図9のルーチン(図6のステップ250の処理)に置き換えられるものである。
【0107】
さて、図14のルーチンがスタートすると、CPU42は、先ずステップ401で異常判定処理の実施回数を表す処理カウンタCDGを「1」インクリメントし、続くステップ402で当該処理カウンタCDGが「5」を超えるか否かを判別する。処理開始当初には、ステップ402が否定判別され、CPU42はステップ403に進む。
【0108】
CPU42は、ステップ403でその時のλ積算値Tλ及びFAF積算値TFAFλが前記図15のマップ上で正常領域にあるか否かを判別する。具体的には、図15のマップ上において、Tλ=Tλ1,TFAF=TFAF1であれば、正常領域内(太線枠内)の小領域Pが選択され、結果として正常である旨が判定されることとなる。また、Tλ=Tλ2,TFAF=TFAF2であれば、異常領域内(太線枠外)の小領域Qが選択され、結果として異常である旨が判定されることとなる。
【0109】
従って、Tλ,TFAFが正常領域にありステップ403が肯定判別されれば、CPU42はステップ404に進み、異常判定カウンタCMPDGを現状のままとする。また、Tλ,TFAFが異常領域にありステップ403が否定判別されれば、CPU42はステップ405に進み、異常判定カウンタCMPFDGを「1」インクリメントする。
【0110】
その後、同図14の処理が繰り返し実行され、それに伴なってステップ402が肯定判別されると、CPU42はステップ406に進み、異常判定カウンタCMPDGが「3」以上であるか否かを判別する。そして、CMPDG<3であれば、CPU42は、ステップ407で最終異常判定フラグXDGを「0」にクリアし、CAFDG≧3であれば、ステップ408で最終異常判定フラグXDGに「1」をセットする。
【0111】
その後、CPU42は、ステップ409で処理カウンタCDGを「0」にクリアする。また、CPU42は、続くステップ410で異常判定カウンタCMPDGを「0」にクリアして本ルーチンを終了する。
【0112】
一方、図16は、前記図15のマップにおける正常・異常領域を学習するためのマップ学習ルーチンを示すフローチャートであり、同ルーチンは所定周期でCPU42により実行される。なお、本実施の形態では、図16のルーチンが判定領域学習手段に相当する。
【0113】
図16において、CPU42は、先ずステップ501でマップの正常・異常判定領域を学習するための条件(学習条件)が成立しているか否かを判別する。この学習条件としては、例えば正常又は異常判定される小領域が毎回大きく異なることや、λ積算値Tλ及びFAF積算値TFAFが共に微小値に維持されていること等が含まれる。かかる学習条件が成立する場合には、適正な異常判定が行われない可能性があり、図15のマップにおける正常・異常の個々の小領域を学習すべきであるとしてステップ501を肯定判別する。
【0114】
上記学習条件が成立してステップ501が肯定判別された場合、CPU42はステップ502に進み、カウンタCTを「1」インクリメントする。また、CPU42は、続くステップ503でカウンタCTの数値が所定の判定値KCTよりも大きいか否かを判別する。そして、ステップ503が肯定判別された場合のみ、CPU42は、ステップ504で前記図15に示す正常・異常判定マップの学習処理を実行する。
【0115】
さらに、CPU42は、続くステップ505で前記カウンタCTを「0」にクリアし、その後本処理を終了する。なお、ステップ501,503が否定判別された場合には、そのまま本処理を終了し、マップの学習処理を実施しない。
【0116】
正常・異常判定マップの学習例を図17(a),(b)に示す。図17(a),(b)において、太線枠内が正常領域を表し、太線枠外が異常領域を表す。このような領域の更新は、1つの小領域毎に行ってもよいし、多数の小領域をまとめて行ってもよい。また、かかる学習時には、正常領域となる小領域の数を不変にしてもよいし(例えば、図15では100個)、可変としてもよい。
【0117】
本第2の実施の形態によれば、上記第1の実施の形態と同様に本発明の目的を達成することができると共に、既述の効果に加えて以下に示す効果をも得ることができる。
【0118】
(イ)即ち、本実施の形態では、異常判定要素(λ積算値Tλ,FAF積算値TFAF)に対応した正常・異常判定マップを用い、そのマップ上で空燃比フィードバック制御系の異常を判定するようにした。かかる場合、正常・異常判定領域の判断がより一層簡便に実現できる。
【0119】
(ロ)また、前記図15のマップには、λ積算値Tλ,FAF積算値TFAFのそれぞれに応じて複数に均等区分された小領域を多数設け(本実施の形態では、16×16=256領域)、個々の小領域について、正常である旨のデータ又は異常であることのデータを記憶しておくようにした。従って、正常・異常判定領域を比較的大領域で設けた場合(例えば、4×4=16領域)に比べて、緻密な正常・異常判定を実施することができる。
【0120】
(ハ)さらに、本実施の形態では、正常・異常判定マップの正常又は異常データを必要に応じて学習するようにした。その結果、一方(A/Fセンサ26又はECU41のいずれか)の異常の影響から他方にも異常の症状が現れるような事態にも、より正確な異常診断が実施できる。
【0121】
なお、本発明は、上記各実施の形態の他に次のように具体化することもできる。
(1)上記各実施の形態では、1280ms間のλ積算値Tλ及びFAF積算値TFAFを算出し、その算出結果を用いて異常判定を行ったが、λ積算値Tλ及びFAF積算値TFAFを算出する期間を短くしたり、又は長くしたりしてもよい。例えば、図18に示すように、λ積算値Tλ及びFAF積算値TFAFに応じてこれら積算値を積算する期間を変更するようにしてもよい(図では、320ms,640ms,1280ms)。このとき、λ積算値Tλ及びFAF積算値TFAFが大きい場合ほど機関運転状態が過渡状態であると推測されるため、積算期間を長くするようにしている。
【0122】
(2)上記各実施の形態では、異常判定の実行回数を5回とし(図9のルーチン参照)、この5回の異常判定回数内に3回以上、異常の旨が判定されれば最終的に空燃比フィードバック制御系の異常があると判定したが、この異常判定回数を図19に示すように変更してもよい。図19では、λ積算値Tλ及びFAF積算値TFAFに応じて、3回、5回、7回の実行回数が設定されており、Tλ及びTFAFが大きい場合ほど機関運転状態が過渡状態であると推測されるため、実行回数を多くするようにしている。この場合、最終的に空燃比フィードバック制御系の異常であると判定する際のλ異常,FAF異常の判定回数(図9のステップ256,262)は、3回のままでもよいし、変更してもよい。
【0123】
(3)上記各実施の形態では、第1,第2の異常判定要素としてλ積算値Tλ及びFAF積算値TFAFを用いたが、これを変更してもよい。例えば、単にA/Fセンサ26により検出された空燃比λと目標空燃比λTGとの偏差を算出すると共に、空燃比補正係数FAFと当該FAFの平均値FAFAVとの偏差を算出し、これら空燃比の偏差及びFAFの偏差を第1,第2の異常判定要素とする。そして、上記各異常判定要素に応じて空燃比フィードバック制御系の異常を診断するようにしてもよい。この場合、第1の実施の形態のようにしきい値による異常判定を行ってもよいし、第2の実施の形態のようにマップ上での異常判定を行ってもよい。
【0124】
(4)上記各実施の形態では、正常・異常を判定するためのしきい値をλ積算値Tλ及びFAF積算値TFAFのそれぞれに対して複数設けていたが、このしきい値を1つにしてもよい。また、λ積算値Tλ及びFAF積算値TFAFのそれぞれに対して同数のしきい値を設けていたが、各々に異なる数のしきい値を設けるようにしてもよい。
【0125】
(5)上記第2の実施の形態において、正常・異常判定マップの領域を区画するためのしきい値の数を変更し、当該区画される領域数を増やしたり、減らしたりすることもできる。例えば領域数を減らせば判定精度は多少ラフなものになるが、メモリ容量を軽減することができる。
【0126】
(6)最終異常判定フラグXDGが一旦セットされた後には、それ以降、異常判定処理を実施しないようにし、CPU42の演算負荷を軽減させるようにしてもよい。この場合、例えば図6の異常判定条件に最終異常判定フラグXDGがセットされていないことを確認する条件を追加する。そして、最終異常判定フラグXDGがセットされていれば、以降の処理をバイパスしてそのまま本ルーチンを終了する。
【0127】
(7)上記実施の形態では、現代制御理論を用いて空燃比フィードバック制御を実現した空燃比制御システムに本発明のセンサ異常診断処理を具体化したが、当然ながら他の制御(例えば、PID制御等)によるシステムで本発明を具体化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】発明の実施の形態における内燃機関の空燃比制御装置の全体構成図。
【図2】A/Fセンサの詳細な構成を示す断面図。
【図3】A/Fセンサの電圧−電流特性を示す図。
【図4】空燃比フィードバック制御システムの原理を説明するためのブロック図。
【図5】燃料噴射量算出ルーチンを示すフローチャート。
【図6】空燃比フィードバック制御系の異常を判定するためのメインルーチンを示すフローチャート。
【図7】λ積算値算出のサブルーチンを示すフローチャート。
【図8】FAF積算値算出のサブルーチンを示すフローチャート。
【図9】異常判定サブルーチンを示すフローチャート。
【図10】目標空燃比λTGに対する空燃比λの変化状態、及び空燃比補正係数平均値FAFAVに対する空燃比補正係数FAFの変化状態を示すタイムチャート。
【図11】しきい値A,B,C,Dにより区画されたλ積算値及びFAF積算値の正常・異常判定領域を示す図。
【図12】空燃比フィードバック制御系の異常判定動作をより具体的に示すタイムチャート。
【図13】しきい値学習ルーチンを示すフローチャート。
【図14】第2の実施の形態における異常判定サブルーチンを示すフローチャート。
【図15】λ積算値及びFAF積算値に応じて小領域に区分された正常・異常判定マップ。
【図16】判定領域学習ルーチンを示すフローチャート。
【図17】図16のルーチンにより学習された結果を示す正常・異常判定マップ。
【図18】λ積算値及びFAF積算値に応じてTλ,TFAFの積算時間を設定するためのマップ。
【図19】λ積算値及びFAF積算値に応じて異常判定回数を設定するためのマップ。
【符号の説明】
1…内燃機関、26…空燃比センサとしてのA/Fセンサ、42…空燃比補正係数設定手段,空燃比フィードバック制御手段,第1の要素演算手段,第2の要素演算手段,異常診断手段,判定領域学習手段としてのCPU、45…メモリとしてのバックアップRAM。
Claims (9)
- 内燃機関の空燃比に対してリニアに出力を増減させる空燃比センサと、
前記空燃比センサにより検出された空燃比と目標空燃比との偏差に応じた空燃比補正係数を設定する空燃比補正係数設定手段と、
前記空燃比補正係数設定手段により設定された空燃比補正係数を用いて、前記内燃機関への燃料供給量を補正する空燃比フィードバック制御手段と
を備えた空燃比フィードバック制御システムに適用されるものであって、
前記空燃比センサにより検出された空燃比から第1の異常判定要素を演算する第1の要素演算手段と、
前記空燃比補正係数設定手段により設定された空燃比補正係数から第2の異常判定要素を演算する第2の要素演算手段と、
前記第1,第2の異常判定要素をそれぞれ少なくとも1つのしきい値にて区画した複数の正常・異常判定領域に対応させ、当該対応した領域に応じて空燃比フィードバック制御系の異常を診断する異常診断手段を備えることを特徴とする空燃比フィードバック制御系の異常診断装置。 - 前記第1の要素演算手段は、前記空燃比センサにより検出された空燃比と目標空燃比との偏差を前記第1の異常判定要素として演算し、
前記第2の要素演算手段は、前記空燃比補正係数設定手段により設定された空燃比補正係数と当該補正係数の平均値との偏差を前記第2の異常判定要素として演算することを特徴とする請求項1に記載の空燃比フィードバック制御系の異常診断装置。 - 前記第1の要素演算手段は、前記空燃比センサにより検出された空燃比と目標空燃比との偏差を逐次積算して前記第1の異常判定要素を演算し、
前記第2の要素演算手段は、前記空燃比補正係数設定手段により設定された空燃比補正係数と当該補正係数の平均値との偏差を逐次積算して前記第2の異常判定要素を演算することを特徴とする請求項1に記載の空燃比フィードバック制御系の異常診断装置。 - 前記異常診断手段は、予め設定されている異常診断回数内において所定回数以上、その時の前記第1,第2の異常判定要素が異常判定領域に属すると判定された場合、最終的に空燃比フィードバック制御系の異常である旨を診断する請求項1〜3のいずれかに記載の空燃比フィードバック制御系の異常診断装置。
- 前記異常診断手段は、目標空燃比に対する空燃比の変動量、及び平均値に対する空燃比補正係数の変動量が所定値未満の領域について、空燃比フィードバック制御系が正常である旨の判定を禁止する請求項1に記載の空燃比フィードバック制御系の異常診断装置。
- 前記第1,第2の異常判定要素について、それらに対応する複数の正常・異常判定領域をマップとしてメモリに記憶保持しておき、前記異常診断手段は、前記マップ上の正常・異常判定領域により異常診断を実施する請求項1に記載の空燃比フィードバック制御系の異常診断装置。
- 請求項6に記載の空燃比フィードバック制御系の異常診断装置において、
前記マップは、前記第1,第2の異常判定要素のそれぞれに応じて複数に均等区分された領域を多数有し、各領域には正常である旨のデータ又は異常であることのデータが記憶されている空燃比フィードバック制御系の異常診断装置。 - 前記第1,第2の異常判定要素に対応する正常・異常判定領域を所定の学習条件に基づいて学習する判定領域学習手段を備えた請求項1〜7のいずれかに記載の空燃比フィードバック制御系の異常診断装置。
- 請求項8に記載の空燃比フィードバック制御系の異常診断装置において、
前記判定領域学習手段は、前記第1の異常判定要素に基づいて異常が検出された場合に空燃比補正係数に係わる正常判定領域を拡大させるよう正常・異常判定領域を学習し、他方、前記第2の異常判定要素に基づいて異常が検出された場合に空燃比に係わる正常判定領域を拡大させるよう正常・異常判定領域を学習する空燃比フィードバック制御系の異常診断装置。
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