以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、同一の又は対応する符号には全ての図を通じて同一の符号を付して重複する説明を省略する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る空燃比制御装置の構成を示す概念図である。空燃比制御装置は、内燃機関1を駆動源とする乗物(例えば、自動二輪車、不整地走行車、四輪車又は小型滑走艇)に搭載される。内燃機関1は、シリンダ3及び燃焼室4を形成する本体2、シリンダ3内で往復するピストン5、及びコネクティングロッド6を介しピストン5に連結されてピストン5により回転駆動されるクランク軸(図示せず)を含む。吸気通路7の下流端は燃焼室4に開口して吸気弁8で開閉される。排気通路9の上流端は燃焼室4に開口して排気弁10で開閉される。
吸気通路7は、吸気流れの上流から順に、エアクリーナ11の内空間、スロットル装置12のボディ内空間、及び本体2の吸気ポート13を含む。外気がエアクリーナ11に流入して浄化され、浄化された外気がスロットル装置12を通り吸気ポート13に取り込まれる。
運転者は、自身の加速、定速又は減速要求に応じてスロットルグリップ又はアクセルペダルのようなアクセル操作部材14を操作することで、スロットル装置12のボディに内蔵されたスロットル弁15を操作可能である。吸気量はスロットル弁15の開度(以下、「スロットル開度」)に応じて調整される。スロットル弁15は、弁モータ16により駆動される電動スロットル弁15aを含む。弁モータ16は電子制御ユニット(以下、「ECU」)40によって制御され、弁モータ16はアクセル操作部材14の操作量(以下、「アクセル操作量」)に応じて動作し、スロットル開度がアクセル操作量に応じたものとなる。スロットル弁15は、アクセル操作部材14での操作に応じて機械的に駆動される手動スロットル弁15bを含んでもよく、その場合、2つの弁15a,15bが吸気通路7内で吸気流れ方向に並ぶ。
燃料系は、燃料(例えば、ガソリン)を蓄える燃料タンク17、燃料を噴射するインジェクタ18、燃料タンク17をインジェクタ18の燃料入口に接続する燃料パイプ19、及び燃料タンク17内の燃料を燃料パイプ19ひいては燃料入口に圧送する燃料ポンプ20を含む。本実施形態では燃料が吸気通路7内に噴射されるが、燃焼室4に噴射されてもよい。インジェクタ18は、ECU40によって制御され、1エンジンサイクルごとに燃料を噴射する。内燃機関1は、例えば4スロトークエンジンであり、1エンジンサイクルは、例えば吸気、圧縮、膨張及び排気の4行程で構成される。
吸気行程では吸気弁8が吸気通路7を開放し、吸気及び燃料が燃焼室4に供給される。燃焼室4内の混合気は、圧縮行程で圧縮されて点火プラグ21により点火燃焼される。排気行程では排気弁10が排気通路9を開放し、燃焼排ガスが燃焼室4から排気通路9へと排出される。
排気通路9は、排気流れの上流から順に、本体2内の排気ポート22、排気マニホルド23の内空間、三元触媒管24の内空間、及び排気マフラ25の内空間を含む。燃焼排ガスは、排気通路9を通って外気に放出される。三元触媒管24の通過中、燃焼排ガスから炭化水素、一酸化炭素及び窒素酸化物が除去される。
詳細な図示を省略するが、内燃機関1は複数のシリンダ3を有する多気筒型である。燃焼室4、ピストン5及びコネクティングロッド6はシリンダ3に個別対応し、クランク軸は全シリンダ3で共通する。エアクリーナ11は全シリンダ3で共通し、吸気弁8及び吸気ポート13はシリンダ3に個別対応する。一例として、スロットル弁15は、シリンダ3に個別対応するが、全シリンダ3でスロットル開度が同じとなるよう一斉に動作する。燃料タンク17及び燃料ポンプ20は全シリンダ3で共通し、インジェクタ18はシリンダ3に個別対応する。燃料パイプ19は、上流部では集合され、下流部ではインジェクタ18に対応して分岐する。排気弁10及び排気ポート22はシリンダ3に個別対応し、三元触媒管24及び排気マフラ25は全シリンダ3で共通する。排気マニホルド23は、上流部では排気ポート22に対応して分岐し、下流部では集合される。
図2は、図1に示す空燃比制御装置及びその異常診断装置の構成を示すブロック図である。空燃比制御装置は、前述したECU40、電動スロットル弁15a及びインジェクタ18を含む。また、空燃比制御装置は、内燃機関1(図1参照)の運転状態を検出する運転状態検出手段と、内燃機関1の空燃比を検出するための空燃比検出手段とを含む。
運転状態検出手段には、例えば、クランク角センサ31、スロットル開度センサ32及びアクセル操作量センサ33が含まれる。クランク角センサ31は、クランク軸の回転位置(以下、「クランク角」)を検出する。ECU40は、クランク角センサ31の出力に基づいてエンジン回転数を検出することができる。スロットル開度センサ32は、スロットル開度を検出する。アクセル操作量センサ33は、アクセル操作量を検出する。
本実施形態に係る空燃比検出手段は、内燃機関1(図1参照)の空燃比が理論空燃比付近を跨いだとき(すなわち、空燃比がリッチからリーンに移行したとき又はその逆のとき)に、出力特性を反転させるO2センサ38である。O2センサ38は全シリンダ3(図1参照)で共通し、例えば、排気マニホルド23(図1参照)の下流部に取り付けられ、排気マニホルド23内の燃焼排ガスの酸素濃度に応じて高電圧又は低電圧の信号を出力する。排気マニホルド23内の燃焼排ガスの酸素濃度が、理論空燃比の混合気を燃焼したときに得られると想定される排ガス酸素濃度値を跨ぐように上昇又は下降したときに、O2センサ38は出力特性を反転させる。ECU40は、O2センサ38の出力に基づいて内燃機関1の空燃比がリッチ状態であるのかリーン状態であるのか判断することができる。ECU40は、O2センサ38の出力特性が反転したことに基づいて空燃比が理論空燃比付近であると判断することができる。
ECU40は、運転状態に応じて制御対象としての弁モータ16及びインジェクタ18を制御し、それにより制御量としての空燃比を制御する。ECU40は、空燃比検出手段の出力に基づいて空燃比を理論空燃比に近づけるように空燃比制御装置の操作量を補正するフィードバック制御を実施する。空燃比に影響を及ぼす操作量には、弁モータ16の位置ひいてはスロットル開度、及びインジェクタ18の開弁期間が含まれる。本実施形態では、インジェクタ18の開弁期間がフィードバック制御を実施する際に補正の対象となっている。
インジェクタ18は、その噴射口を常閉する電磁開閉弁である。ECU40は、1エンジンサイクルごとに運転状態に応じてインジェクタ18の開弁期間を決定する。適当な時期から当該決定された開弁期間が経過するまで、インジェクタ18はECU40から開弁指令を受ける。開弁期間中に、噴射口が開放され、圧送された燃料が噴射口より噴射される。インジェクタ18から噴射される燃料量は、燃料系を構成する部品の設計値(例えば、噴射口径など)、燃料性状(例えば、粘性など)、燃料圧力及びインジェクタ18の開弁期間に応じて決まる。設計値及び燃料性状は略一定であり、燃料圧力も、燃料ポンプ17(図1参照)、インジェクタ18又は燃料パイプ19(図1参照)のような燃料系を構成する部品に異常がなければ略一定に保たれる。このため、インジェクタ18の開弁期間を操作量と扱うことで、燃料量及び空燃比を制御量とする燃料噴射制御及び空燃比制御を実施できる。
開弁期間がいくら補正されても目的の空燃比を得られない場合、燃料系を構成する部品に異常があると考えることができる。あるいは、エアクリーナ11(図1参照)又はスロットル弁15(図1参照)のような吸気系を構成する部品に異常があると考えることもできる。あるいは、運転状態検出手段又は空燃比検出手段のような検出系を構成する部品に異常があると考えることもできる。開弁期間を大きく補正することなく目的の空燃比を得ることができる場合、その補正量は、内燃機関1(図1参照)、吸気系、燃料系及び検出系を構成する部品の個体差又はこれら部品の劣化により生じた許容誤差を補償するために必要な補正量であると考えることができる。
ECU40は、補正量に関連付けされた補正値と、補正量に関わらず設定される比較値とに基づいて空燃比制御装置の異常を診断する。ECU40は、空燃比制御装置を構成し且つその異常診断装置も構成する。
異常診断装置は、空燃比制御装置に異常があると診断されると運転者にその旨報知する警報装置39を備える。警報装置39は、ECU40によって制御される。警報装置39は、警告表示を行うことによって運転者の視覚に訴えて異常を知らせる報知する表示装置であってもよい。表示装置は、乗物のインストルメントパネル上に配置されてもよく、表示装置にはランプ又は液晶パネルを採用することができる。警報装置39は、警告音を放音することによって運転者の聴覚に訴えて異常を報知するスピーカ装置であってもよい。
ECU40は、上記の空燃比制御及び異常診断を実現する機能モジュールとして、記憶部41、モード決定部42、操作量決定部43及び診断部44を有する。記憶部41は、メモリのようなECU40のハードウェア要素により実現される。モード決定部42、操作量決定部43及び診断部44は、メモリに記憶されたプログラムのようなECU40のソフトウェア要素と、プログラムを実行するCPUのようなECU40のハードウェア要素とにより実現される。
モード決定部42は、運転状態に基づいてフィードバック制御を実施する条件(以下、「フィードバック実施条件」)の成否を判定する。フィードバック実施条件が成立していれば、モード決定部42は制御モードとして「フィードバックモード」を設定し、空燃比検出手段の出力に基づいて空燃比が理論空燃比付近となるように操作量を補正するフィードバック制御を実施する。フィードバック実施条件が不成立であれば、モード決定部42は制御モードとして「非フィードバックモード」を設定し、ECU40は、空燃比検出手段の出力に関わらず操作量を決める非フィードバック制御を実施する。例えば、高負荷時及び急加速時には、フィードバック実施条件が不成立となる。
操作量決定部43は、スロットル開度決定部51及びインジェクタ開弁期間決定部52を含む。スロットル開度決定部51は、記憶部41に記憶される開度マップ(図示せず)に従って運転状態に応じて弁モータ16の位置指令値を決定する。ECU40は、決定された位置指令値に従って弁モータ16を駆動し、それによりスロットル開度が運転状態に応じて制御される。例えば、スロットル開度はアクセル操作量に比例するよう制御され、内燃機関1(図1参照)の出力並びに乗物の推進力及び速度が、運転者の要求に応じて調整される。
インジェクタ開弁期間決定部52は、運転状態に応じてインジェクタ18の開弁期間を決定し、ECU40は、クランク角センサ31の出力を監視し、適当な時期から開弁期間だけ開弁するようにインジェクタ18に開弁指令を与える。開弁期間TAUは、例えば次式(1A)を用いて決定される。
TAU=TBASE×FFB …(1A)
TBASEは開弁期間の標準値、FFBはフィードバック補正係数である。式(1A)を用いる場合、開弁期間TAUは、標準値TBASEに補正係数を乗算補正することによって求められる。ただし、これは一例であり、開弁期間TAUは、標準値TBASEに補正量を加減算補正することによって求められてもよい。
フィードバック補正係数FFBは、フィードバック制御の実施中に、空燃比検出手段の出力に基づいて空燃比を理論空燃比に近づけるよう、開弁期間TAUを標準値TBASEから補正する。非フィードバック制御の実施中、フィードバック補正係数FFBは基準値に設定され、それによりフィードバック補正係数FFBによる開弁期間TAUの補正が行われない。式(1A)を用いる場合、フィードバック補正係数FFBの基準値は1である。なお、式(1A)より導かれるとおり、フィードバック補正係数FFBによる開弁期間TAUの補正量TFBは、標準値TBASE及びフィードバック補正係数FFBの積から標準値TBASEを減算した値である(TFB=TBASE×FFB−TBASE=TBASE(FFB−1))。
標準値TBASEは、運転状態に対応した開弁期間である。本実施形態では、非フィードバック補正の実施中、開弁期間TAUが標準値TBASEに設定される(そうならない場合については、第2実施形態を参照)。標準値TBASEは、開弁期間TAUが標準値TBASEに設定された場合に空燃比が内燃機関1(図1参照)の出力特性や燃焼排ガスの性状(例えば、含有成分など)に対する様々な要求を考慮して当該運転領域に適した想定標準値ABASEとなるよう、運転状態に応じて設定される。空燃比の想定標準値ABASEは、開弁期間の標準値TBASEと同じく、当初に(すなわち、乗物、内燃機関1及び空燃比制御装置の設計段階で)想定されるものである。空燃比の想定標準値ABASEは、必ずしも理論空燃比ではない。例えば、高出力型の自動二輪車では、空燃比の想定標準値ABASEは、上記要求が考慮された結果として運転状態の略全般にわたってリッチ値である。
例えば記憶部41は、運転状態に対応する標準値TBASEを定める第1対応関係61を予め記憶している。第1対応関係61は、複数の運転領域をスロットル開度及びエンジン回転数で規定し、複数の運転領域を複数の標準値TBASEと一対一で対応付ける(図3参照)。この場合、インジェクタ開弁期間決定部52は、第1対応関係61に従って運転状態に応じた標準値TBASEを決定することができる。ただし、第1対応関係61は、テーブル又はマップの形態に限られず、演算式であってもよい。標準値TBASEは第1対応関係61に従ってスロットル開度及びエンジン回転数以外の運転状態に応じて決定されてもよい。
本実施形態に係るフィードバック補正係数FFBは、運転状態に基づき設定される空気過剰率補正係数(以下、「λ補正係数」)FO2RAMと、空燃比検出手段の出力に基づき空燃比を理論空燃比に近づけるように可変的に設定される変動補正係数FVFBとを含む。この点を考慮して、式(1A)は次式(2A)に変形可能である。
TAU=TBASE×FO2RAM×(1+FVFB) …(2A)
式(2A)では、フィードバック補正係数FFBが、λ補正係数FO2RAMと、変動補正係数FVFBに1加算した値との積であり、λ補正係数FO2RAMの基準値は1、変動補正係数FVFBの基準値はゼロである。ただし、これは一例であり、フィードバック補正係数FFBは2係数FO2RAM,FVFBの積でもよく(FFB=FO2RAM×FVFB)、この場合はどちらの基準値も1である。非フィードバック制御の実施中、2係数FO2RAM,FVFBは基準値に設定される。
λ補正係数FO2RAMは、空燃比を想定標準値ABASEから理論空燃比ASTに変えるために標準値TBASEに乗算される補正係数である。つまり、λ補正係数FO2RAMは、標準値TBASEに対応した想定標準値ABASEを理論空燃比ASTで除算することで得られる空気過剰率である(FO2RAM=ABASE/AST)。以下、標準値TBASEをこれに対応するλ補正係数FO2RAMで乗算補正した値を「理論値TST」と呼ぶ(TST=TBASE×FO2RAM)。
例えば記憶部41は、運転状態に対応したλ補正係数FO2RAMを定める第2対応関係62を予め記憶している。第2対応関係62は、第1対応関係61と全く同じに複数の運転領域を規定し、複数の運転領域を複数のλ補正係数FO2RAMと一対一で対応付けている(図4参照)。つまり、λ補正係数FO2RAMは、第1及び第2対応関係61,62を介し、これら対応関係61,62により規定される運転領域ごとに、標準値TBASEと一対一で対応付けられる。この場合、フィードバック制御の実施中、インジェクタ開弁期間決定部52は、第1対応関係61に従って運転状態に応じた標準値TBASEを決定し、第2対応関係62に従って同じ運転状態に応じたλ補正係数FO2RAMを決定し、標準値TBASEをλ補正係数FO2RAMで乗算補正する。
なお、標準値TBASEは当初に定められる。標準値TBASEを決めれば、これに対応するλ補正係数FO2RAMが一意に決まり、理論値TSTも決まる。そこで、第2対応関係は、複数の運転領域を複数の理論値TSTと一対一で対応付けてもよい。この場合、フィードバック制御の実施中、インジェクタ開弁期間決定部52は、第1対応関係61を用いず、この変形例に係る第2対応関係に従って運転状態に応じて理論値TSTを直接的に決定する。
図5(a)は、空燃比制御装置が個体差も劣化も異常もない理想的な状態にある場合における開弁期間及び空燃比の一例を示す図である。この場合、図5(a)に示すように、非フィードバック制御の実施中に開弁期間TAUが標準値TBASEに設定されると、そのときの実際の空燃比ABASE(A)が想定標準値ABASEに等しくなる(棒a−1参照)。フィードバック制御が開始して開弁期間TAUが理論値TSTに設定されると、そのときの実際の空燃比AST(A)は理論空燃比ASTと等しくなる(棒a−2参照)。なお、式(2A)より導かれるとおり、λ補正係数FO2RAMによる開弁期間TAUの補正量TO2RAMは、標準値TBASE及びλ補正係数FO2RAMの積から標準値TBASEを減算した値、すなわち、理論値TSTから標準値TBASEを減算した値である(TO2RAM=TBASE×FO2RAM−TBASE=TST−TBASE)。
フィードバック制御の実施中に運転状態が変化して標準値TBASEが変更されると、これと同時にλ補正係数FO2RAMも変更される。このため、開弁期間TAUは、変化後の運転状態に対応する理論値TSTに設定され、空燃比が理論空燃比ASTに維持される。
図5(b)及び(c)は、空燃比制御装置に個体差又は劣化が存在する場合における開弁期間及び空燃比の一例を示す図である。図5(b)に示すように、非フィードバック制御の実施中に開弁期間TAUを標準値TBASEに設定しても、そのときの実際の空燃比ABASE(A)が想定標準値ABASEを下回る可能性がある(棒b−1参照)。つまり、実際の燃料量が、標準値TBASEに応じた当初想定の燃料量よりも多くなる、又は、実際の吸気量が標準値TBASEに対応付けられた運転状態に応じた当初想定の吸気量よりも少なくなる可能性がある。その場合、フィードバック制御が開始して開弁期間TAUを理論値TSTに設定しても、そのときの実際の空燃比AST(A)が理論空燃比ASTを下回る可能性がある(棒b−2参照)。
図5(c)に示すように、非フィードバック制御の実施中に開弁期間TAUを標準値TBASEに設定しても、そのときの実際の空燃比ABASE(A)が想定標準値ABASEを上回る可能性もある(棒c−1参照)。つまり、実際の燃料量が、標準値TBASEに応じた当初想定の燃料量よりも少なくなる、又は、実際の吸気量が標準値TBASEに対応付けられた運転状態に応じた当初想定の吸気量よりも多くなる可能性がある。この場合、フィードバック制御が開始して開弁期間TAUを理論値TSTに設定しても、そのときの実際の空燃比AST(A)が理論空燃比ASTを上回る可能性がある(棒c−2参照)。
本実施形態では、空燃比検出手段がO2センサ38で構成されるので、実際の空燃比ABASE(A)が想定標準値ABASEからどの程度離れているのか、実際の空燃比AST(A)が理論空燃比ASTからどの程度離れているのかを正確に検出し得ない。これに対し、変動補正係数FVFBは、フィードバック制御の実施中にO2センサ38の出力に基づいて変化し、開弁期間TAUを時間経過に伴って段階的に補正する。開弁期間TAUは、λ補正係数FO2RAMを用いて標準値TBASEから理論値TSTへと一次的に補正されてから、変動補正係数FVFBを用いて理論値TSTから二次的に補正される。変動補正係数FFBは、個体差又は劣化により生じた空燃比の誤差(AST(A)−AST)を補償することができ、それにより空燃比は理論空燃比ASTに近づけられていく(棒b−3及びc−3参照)。
式(2A)より導かれるとおり、変動補正係数FVFBによる開弁期間TAUの補正量TVFBは、標準値TBASEとλ補正係数FO2RAMと変動補正係数FVFBに1加算した値との積から標準値TBASE及びλ補正係数FO2RAMの積を減算した値、すなわち、理論値TST及び変動補正係数FVFBの積である(TVFB=TBASE×FO2RAM×(1+FVFB)−TBASE×FO2RAM=TST×FVFB)。
フィードバック制御の実施中に運転状態が変化して標準値TBASEが変更されると、これと同時にλ補正係数FO2RAMも変更され、理論値TSTが変化後の運転状態に応じた値に変更される。変動補正係数FVFBによる補正量TVFBは、理論値TST及び変動補正係数FVFBの積であるので、変化後の理論値TSTに依存して自動的に変更される。よって、運転状態が変化して吸気量が変化しても、変動補正係数FVFBの値を大きく変えずに空燃比の誤差を補償し続けることができる。
図6は、変動補正係数FVFBの設定法の一例を示すグラフである。図6左側は、図5(b)に示したケースでの変動補正係数FVFBの一例を、図6右側は、図5(c)に示したケースでの変動補正係数FVFBの一例をそれぞれ示している。図6に示すように、フィードバック制御が開始すると、変動補正係数FVFBは先ず基準値に設定される。一方、図6では詳細に図示しないが、フィードバック制御が開始すると、λ補正係数FO2RAMが運転状態に応じた値に設定され、開弁期間TAUは理論値TSTに設定される。
図6左側に示すように、図5(b)に示したケースでは、開弁期間TAUが理論値TSTに設定された直後、O2センサ38の出力特性がリッチ状態を示す。変動補正係数FVFBはO2センサ38の出力に基づいて空燃比が理論空燃比に近づくように変化していく。つまり、変動補正係数FVFBは、空燃比がリッチ状態から理論空燃比に近づくように漸次減少していく。O2センサ38の出力特性が反転すると、変動補正係数FVFBは、その増減を反転させる。出力特性及び増減傾向が反転する際、変動補正係数FVFBは、反転時の値から所定スキップ値だけ反転側にスキップしたうえで、それまでと増減を逆にして変化してもよい。ここでは、変動補正係数FVFBが漸次減少してきたので、変動補正係数FVFBが反転時の値から所定スキップ値だけ増加するようスキップし、それから漸次増加する。その後、O2センサ38の出力特性が反転するたび、変動補正係数FVFBがスキップしてその増減を反転させる。空燃比の誤差が大きいほど、変動補正係数FVFBの基準値からの変化量が大きくなる。
図6右側に示すように、図5(c)に示したケースでも同様である。開弁期間TAUが理論値TSTに設定された直後、O2センサ38の出力特性はリーン状態を示す。変動補正係数FVFBはO2センサ38の出力に基づいて空燃比が理論空燃比に近づくように変化していく。このケースでは、変動補正係数FVFBが先ず漸次増加する。
図7は、空燃比制御装置及びその異常診断装置により実行される空燃比制御及び異常診断の一例を示すフローチャートである。このフローは、ECU40及び内燃機関1の稼働中、1エンジンサイクルおきに繰返し実行される。図7に示すように、スロットル開度決定部51が、アクセル操作量に応じて弁モータ16の目標位置ひいては目標スロットル開度を決定する(S1)。インジェクタ開弁期間決定部52が、第1対応関係61に従って運転状態(一例として、エンジン回転数及びスロットル開度で規定される運転領域)に応じて開弁期間の標準値TBASEを決定する(S2)。
モード決定部42がフィードバック実施条件の成否を判定する(S3)。フィードバック実施条件が不成立であれば(S3:NO)、ECU40は、非フィードバック制御を実施する。その一環として、インジェクタ開弁期間決定部52が、フィードバック補正係数FFBを基準値に設定する(S11)。すなわち、λ補正係数FO2RAMを基準値(1)に設定し、変動補正係数FVFBを基準値(ゼロ)に設定する。
次に、インジェクタ開弁期間決定部52が開弁期間TAUを決定する(S30)。本実施形態では、非フィードバック制御の実施中、開弁期間TAUは標準値TBASEに設定される。インジェクタ開弁期間決定部52は、クランク角センサ31の出力を監視し、適当な時期になれば当該時期からステップS30で決定された開弁期間TAUだけインジェクタ18に開弁指令を与える。図5(a)に示すように空燃比制御装置が理想的な状態にあれば、空燃比が想定標準値ABASEになる。したがって、当初のねらいどおり、内燃機関1の出力特性や燃焼排ガスの性状が運転状態に適したものとなる。図5(b)及び(c)に示すように個体差又は劣化が生じていれば、実際の空燃比ABASE(A)と想定標準値ABASEとの間に誤差が生じる。この誤差のため、内燃機関1の出力特性や燃焼排ガスの性状が当初のねらいから外れる可能性がある。
フィードバック実施条件が成立していれば(S3:YES)、ECU40は、フィードバック制御を実施する。その一環として、インジェクタ開弁期間決定部52は、第2対応関係62に従って運転状態に応じてλ補正係数FO2RAMを決定し、O2センサ38の出力に基づいて変動補正係数FVFBを決定する(S14)。変動補正係数FVFBの設定法は前述のとおりである。次に、空燃比制御装置の異常診断処理を実行する(S20)。
図8は、空燃比制御装置の異常診断処理S20の手順を示すフローチャートである。図8に示すように、異常診断処理S20では、診断部44が、診断を実施する条件(以下、「診断許可条件」)の成否を判定する(S21)。診断許可条件が不成立であれば(S21:NO)、異常診断処理S20を終了し、ステップS30(図7参照)に進む。診断許可条件が成立していれば(S21:YES)、診断部44が、空燃比制御装置の異常を診断する(S22)。異常でないと診断すると(S22:NO)、異常診断処理S20を終了し、ステップS30に進む。異常であると診断すると(S22:YES)、警報装置が作動し(S23)、ステップS30に進む。異常診断処理S20では3つのルートのうちいずれかを通りステップS30に進むところ、そのステップS30では、ステップS2で決定された標準値TBASEと、ステップS14で決定された2係数FO2RAM,FVFBとを用いて開弁期間TAUが決定される。
図9(a)〜(c)は、診断許可条件の一例を示すグラフである。診断許可条件は、運転状態が安定的に推移しているとの第1診断許可条件(図9(a)参照)、変動補正係数FVFBが安定的に推移しているとの第2診断許可条件(図9(b)及び(c)参照)を含む。診断許可条件は、第1診断許可条件及び第2診断許可条件の両方を充足したときに成立してもよいし、片方を充足したときに成立してもよい。
図9(a)に示すように、例えば第1診断許可条件は、スロットル開度が、条件判定時点(現時点)に至るまでの第1所定期間P1の間、下限閾値及び上限閾値で規定される許容範囲内で推移しているとの条件である。実線a1は当該条件を充足する場合を示す。上限閾値を上回る領域もしくは下限閾値を下回る領域内で第1所定期間P1の間留まり続けているとき(破線a2,a3参照)、又はいずれかの閾値を跨ぐように加速もしくは減速しているとき(破線a4,a5参照)には、当該条件が不成立となる。第1診断許可条件は、エンジン回転数に関する同様の条件を有する。第1診断許可条件は、スロットル開度に関する条件とエンジン回転数に関する条件との両方を充足したときに成立してもよく、片方を充足したときに成立してもよい。
図9(b)に示すように、例えば第2診断許可条件は、条件判定時点(現時点)に至るまでの第2所定期間P2内に取得された複数の変動補正係数FVFBのうち最大値FVFBmaxと最小値FVFBminとの差dFVFBmmが所定値未満との条件である。図9(c)に示すように、例えば第2診断許可条件は、変動補正係数FVFBの平均値FVFBavの変化率dFVFBavが、条件判定時点(現時点)に至るまでの第3所定期間P3の間、上限閾値及び下限閾値で規定される所定範囲内で推移しているとの条件である。なお、平均値FVFBavは、算出時点に至るまでの第4所定期間P4(図9(b)参照)内に取得された複数の変動補正係数FVFBの平均であり、平均は算術平均でも加重平均でもよく、加重平均であれば算出時点に近い補正量ほど重みづけ係数が高くてもよい。第2診断許可条件は、差dFVFBmmに関する条件と変化率dFVFBavに関する条件との両方を充足したときに成立してもよく、片方を充足したときに成立してもよい。なお、第1〜第4所定期間P1〜P4は同じ長さでもよいし、異なる長さでもよい。
ステップS22では、診断部44が、操作量の一例としての開弁期間TAUに対する補正量に関連付けされた補正値と、補正に関わらず設定される比較値とに基づいて空燃比制御装置の異常を診断する。診断に用いる補正値の元となる「補正量」は、フィードバック制御の実施中における開弁期間の補正量TFBを含む。補正量TFBは、λ補正係数FO2RAMによる補正量TO2RAMと、変動補正係数FVFBによる補正量TVFBとを含む。これら補正量TFB,TO2RAM,TVFBは係数FFB,FO2RAM,FVFBによって決定づけられる。本書では、診断に用いる補正値の元となる「補正量」は、開弁期間TAUに対する補正量TFB,TO2RAM,TVFBそのものだけでなく、これを決定づける係数FFB,FO2RAM,FVFBも含む。
「補正量」は、1エンジンサイクルごとに更新される。補正量に関連付けされた「補正値」は、今回エンジンサイクルにおける開弁期間TAUを決定するために設定された補正量の今回値でもよい。また、「補正値」は、所定期間内に取得された補正量の平均値でもよい。所定期間は、例えば今回のエンジンサイクル及びそれよりも過去の1以上のエンジンサイクルである。
本実施形態に係る補正値は、標準値TBASEを理論値TSTへと一次的に補正してから、空燃比を理論空燃比付近に到達させるまでに二次的に必要になった補正量、すなわち、補正量TVFB及びこれを決定づける変動補正係数FVFBに基づいて設定される。例えば、補正値は、変動補正係数FVFBの今回値及び変動補正係数FVFBの平均値である。
一方、診断に用いる「比較値」は、上記補正量に関わらず設定される。例えば、比較値は、記憶部41に予め記憶される。このとき、比較値は運転状態に関わらず一定の値でもよい。複数の比較値が、第1及び第2対応関係61,62により規定される複数の運転領域それぞれに一対一で対応付けられていてもよい。比較値は、開弁期間TAU及びその補正値を含まない関数によって求められてもよい。
「比較値」は、上限比較値及び下限比較値を含み、これら2比較値が補正値の許容範囲を規定する。診断部44は、補正値と比較値(上限比較値及び下限比較値)との比較に基づいて、空燃比制御装置が異常であるとの診断結果を下す条件(以下、「異常条件」)の成否を判定する。
図10(a)及び(b)は、異常条件の一例を示すグラフである。図10(a)に示すように、異常条件は、変動補正係数FVFBの今回値が上限比較値U1及び下限比較値L1を超えて許容範囲R1外に出ている状態を所定期間P11継続しているとの条件を含む。図10(b)に示すように、異常条件は、変動補正係数FVFBの平均値FVFBavが上限比較値U2及び下限比較値L2を超えて許容範囲R2外に出ている状態を所定期間P12継続しているとの条件を含む。2つの期間P11,P12は同じ長さでもよいし、異なる長さでもよい。
図11は、図10(a)に例示した異常条件の説明図である。前述のとおり、変動補正係数FVFBによる開弁期間TAUの補正量TVFBは、理論値TST及び変動補正係数FVFBの積である。そこで図11では、変動補正係数FVFB、上限比較値U1及び下限比較値L1を、理論値TSTとの積に変換して開弁期間軸上に表している。図11に示すように、フィードバック制御の実施中、変動補正係数FVFBによる補正を行い、変動補正係数FVFBの今回値が許容範囲R1内に収まっていれば、空燃比制御装置は異常でないと診断する(棒3参照)。ECU40は、変動補正係数FVFBの今回値が許容範囲R1外に出て所定期間P11(図10(a)参照)内に許容範囲R1内に戻ったときも、空燃比制御装置は異常でないと診断する。これらのケースでは、ECU40は、空燃比の誤差が許容されるとして、これを補償する制御を実施し続ける。ECU40は、変動補正係数FVFBが許容範囲R1外に出て所定期間P11を経過すると、変動補正係数FVFBによる補正によっても空燃比の誤差を適切に修正することはできないとして、空燃比制御装置が異常であると診断する(棒4参照)。
補正値が下限比較値を下回るケースは、O2センサ38の出力特性がリッチ状態を示し続けて変動補正係数FVFB及びその平均値FVFBavが減少し続けたときに生じる。すなわち、開弁期間TAUを短くして燃料量を少なくしようとしても、O2センサ38の出力特性がリッチ状態を示し続けるときに生じる。このようなケースで想定される空燃比制御装置の異常として、インジェクタ18の噴射口における異物噛込み等によるインジェクタ18の閉弁不良、エアクリーナ11のフィルタ目詰まり、スロットル開度閉じ側でのスロットル弁15のスタック、O2センサ38の検出不良(酸素濃度の過小評価)、O2センサ38の断線などが考えられる。
補正値が上限比較値を上回るケースは、O2センサ38の出力特性がリーン状態を示し続けて変動補正係数FVFB及びその平均値FVFBavが増加し続けたときに生じる。すなわち、開弁期間TAUを長くして燃料量を多くしようとしても、O2センサ38の出力特性がリーン状態を示し続けるときに生じる。このようなケースで想定される空燃比制御装置の異常として、燃料ポンプ20の吐出不良、インジェクタ18の開弁不良、燃料パイプ19のシール不良、スロットル開度開き側でのスロットル弁15のスタック、O2センサ38の検出不良(酸素濃度の過大評価)、O2センサ38の断線などが考えられる。
本実施形態に係る異常診断装置では、ECU40のインジェクタ開弁期間決定部52が、空燃比検出手段の出力に基づいて空燃比を理論空燃比に近づけるように空燃比制御装置の操作量の一例としての開弁期間TAUを補正する。ECU40の診断部44が、開弁期間TAUに対する補正量に関連付けされた補正値と、インジェクタ開弁期間決定部52における補正に関わらず設定される比較値とに基づいて空燃比制御装置の異常を診断する。このように、補正量に依存しない比較値を異常診断に用いるので、空燃比制御装置に初期不良が存在しても比較値にその影響は含まれない。このため、ECU40の診断部44は初期不良を検出することができる。また、劣化が漸次進行して空燃比制御装置が異常に至ったと認められる場合であっても、これを検知しやすくなる。よって異常診断装置の信頼性が高くなる。特に、補正値が補正量の変化率(今回値と過去値又は平均値との差分)ではなく今回値又は平均値に基づくので、劣化の漸次進行に伴う異常を検知しやすい。
ECU40のモード決定部42は、空燃比検出手段の出力に基づいて空燃比を理論空燃比に近づけるフィードバック制御を実施するフィードバックモードと、空燃比検出手段の出力に基づかずに操作量を決める非フィードバック制御を実施する非フィードバックモードとで制御モードを切り換える。フィードバック制御が開始すると、インジェクタ開弁期間決定部52は、第2対応関係62に従って開弁期間TAUを標準値TBASEから補正したのち、開弁期間TAUを時間経過に伴って段階的に二次的に補正することによって空燃比を理論空燃比ASTに近づける。このため、空燃比制御装置が異常でない場合に、空燃比を理論空燃比ASTに近づけるまでの時間を短くすることができる。その結果として、空燃比制御装置が異常である場合に、これを検知するまでの時間も短くすることができる。
補正値は、開弁期間TAUが第2対応関係62に従って一次的に理論値TSTへと補正されてから、空燃比が理論空燃比ASTに達するまでの二次的な変動補正係数FVFBに基づいて設定される。第2対応関係62に従って開弁期間TAUが一次的に設定されると、空燃比制御装置が個体差も劣化も異常もない理想的な状態にあれば、空燃比は理論空燃比ASTに達するはずである。変動補正係数FVFBは、空燃比制御装置がそうではないために生じた空燃比の理論空燃比ASTからの誤差を補償するために用いられる。逆にいえば、空燃比制御装置が理想的な状態にあれば、変動補正係数FVFBは(スキップ値分の変動はあるかもしれないが)基準値から殆ど変動しない。異常診断に用いる補正値がこのような補正量に基づき設定されるので、個体差や劣化による許容される誤差であるのか、異常が生じているのかを峻別しやすくなる。よって、異常診断装置の信頼性が高くなる。
空燃比が理論空燃比ASTとなるために必要な開弁期間TAUの標準値TBASEからの総補正量TFBは、運転状態によって異なる。吸気量が異なるし、運転状態によって空燃比の想定標準値ABASEも異なるためである。しかし、第2対応関係62に従って開弁期間TAUを一次的に理論値TSTまで補正すれば、その後に必要な補正量TVFBは、運転状態に変化によって大きく変わらない。しかも、本実施形態では、当該補正量TVFBが、理論値TSTに変動補正係数FVFBを乗算した値であり、変動補正係数FVFBは、運転状態の変化に応じて敏感に変動させなくてもよい。よって、比較値を運転状態に応じて大きく変えなくて済むことになり、比較値の設定を簡便に行うことができるようになる。
診断部44は、補正値が比較値を超えた状態が所定時間継続すると空燃比制御装置が異常であると診断する。このため、ノイズの影響等により補正値が瞬間的に比較値を超えた場合であっても、診断部44の診断精度が向上する。また、補正値に補正量の平均値も採用している。このため、ノイズの影響等により今回値が瞬間的に比較値を超えている場合であっても、診断部44の診断精度が向上する。
診断部44は、診断許可条件が成立したときに空燃比制御装置の異常診断を実施し、診断許可条件が不成立であれば空燃比制御装置の異常診断を実施しない。診断許可条件は、運転状態が安定的に推移しているとの第1診断許可条件、及び変動補正係数FVFBが安定的に推移しているとの第2診断許可条件を含む。運転状態及び変動補正係数FVFBが安定しているときに異常診断を実施するので、診断部44の診断精度が向上する。
空燃比制御装置が異常であると診断すると、ECU40は警報装置39を作動させる。これにより、運転者に空燃比制御装置の異常を知らせることができ、運転者に適切な対応を促すことができる。
(第2実施形態)
図12は、第2実施形態に係る空燃比制御装置及びその異常診断装置の構成を示すブロック図である。本実施形態は、主として、変動補正係数FVFBが閉ループ補正係数FAF及び学習補正係数FLAFに分かれている点、非フィードバック制御の実施中に開弁期間TAUが劣化補正係数FDLAFを用いて補正される点、及び異常条件がこれら係数FAF,FLAF,FDLAFに基づいた条件を含む点で、第1実施形態と相違する。以下、この相違を中心に第2実施形態について説明する。
本実施形態に係るECU240は、操作量決定部243を有し、そのインジェクタ開弁期間決定部252は、式(1B)を用いて開弁期間TAUを決定する。
TAU=TBASE×FFB×(1+FDLAF) …(1B)
FDLAFは劣化補正係数である。フィードバック制御の実施中は、劣化補正係数FDLAFが基準値に設定され、劣化補正係数FDLAFによる開弁期間TAUの補正が行われない。式(1B)を用いる場合、劣化補正係数FDLAFの基準値はゼロである。
フィードバック補正係数FFBはλ補正係数FO2RAM及び変動補正係数FVFBを含み、変動補正係数FVFBは閉ループ補正係数FAF及び学習補正係数FLAFを含む。この点を考慮して、式(1B)は次式(2B)に変形可能である。
TAU=TBASE×FO2RAM×(1+FAF+FLAF)×(1+FDLAF) …(2B)
式(2B)及び第1実施形態に係る式(2A)に示すように、閉ループ補正係数FAF及び学習補正係数FLAFの和が、第1実施形態に係る変動補正係数FVFBに相当する。式(2B)を用いる場合、係数FAF,FLAFの基準値はゼロである。非フィードバック制御の実施中、係数FO2RAM,FAF,FLAFはいずれも基準値に設定される。閉ループ補正係数FAFによる補正量TAFは、理論値TST及び閉ループ補正係数FAFの積であり(TAF=TST×FAF)、学習補正係数FLAFによる補正量TLAFは、理論値TST及び学習補正係数FLAFの積である(TLAF=TST×FLAF)。
図13は、閉ループ補正係数FAF及び学習補正係数FLAFの設定法の一例を示すグラフである。ここでは、フィードバック制御が開始して開弁期間TAUを理論値TSTに設定してもO2センサ38の出力特性がリッチ状態を示すものとする。この場合、閉ループ補正係数FAF及び学習補正係数FLAFはO2センサ38の出力に基づいて空燃比を理論空燃比ASTに近づけるように漸次減少する。
O2センサ38の出力特性が反転すると、閉ループ補正係数FAFは所定スキップ値だけ増加したうえで空燃比を理論空燃比に近づけるよう漸次増加する。次に、O2センサ38の出力特性が反転すると、閉ループ補正係数FAFが所定スキップ値だけ減少したうえで空燃比を理論空燃比に近づけるよう漸次減少する。以後フィードバック制御が終了するまで、この閉ループ補正係数FAFの変動が繰り返される。
学習補正係数FLAFは、閉ループ補正係数FAFのスキップ時に閉ループ補正係数FAFが所定の学習停止値FAFstopを跨ぐまで減少し続ける。なお、学習停止値FAFstopは基準値でもよいし、2つの学習停止値FAFstopが閉ループ補正係数FAFの基準値を挟むように設定されてもよい。閉ループ補正係数FAFが学習停止値FAFstopを跨ぐと、以降フィードバック制御が終了するまで、学習補正係数FLAFはその時点の値で固定される。
閉ループ補正係数FAFが減少するときには学習補正係数FLAFの減少が加味され、O2センサ38の出力特性を反転させるまでの時間が短くなる。閉ループ補正係数FAFが増加するときには学習補正係数FLAFの減少に逆らって空燃比を理論空燃比に近づけていくので、O2センサ38の出力特性を反転させるまでの時間が長くなる。そのため、閉ループ補正係数FAFは増減を反転させつつも基準値へと近づいていく。これを実現するために、学習補正係数FLAFの変化率は、閉ループ補正係数FAFの変化率よりも小さい。
このように、2係数FAF,FLAFがフィードバック制御開始後に共に減少して一旦空燃比の誤差が補償されると(一旦O2センサ38の出力特性が反転すると)、学習補正係数FLAFは閉ループ補正係数FAFの当初減少分(誤差補償分)を譲り受けるように減少し続ける一方、閉ループ補正係数FAFは増減を繰り返しながら基準値へ戻っていく。係数の値の受渡しは、O2センサ38の出力を監視しながら行われる。よって、この受渡しは、空燃比を理論空燃比付近に維持して行われる。
つまり、学習補正係数FLAFは、第1実施形態に係る変動補正係数FVFBから、O2センサ38の出力に基づき増減したりスキップしたりする要素を取り除き、開弁期間TAUが理論値TSTに設定されたときに生じる空燃比の理論空燃比からの誤差を補償する要素を抽出することで得られる補正係数である。学習補正係数FLAFは、フィードバック制御が終了するたび、記憶部241に更新記憶される。詳細な図示を省略するが、次のフィードバック制御が開始すると、学習補正係数FLAFは先ず記憶部241に記憶されている値に設定される。よって、フィードバック制御が開始してから一旦O2センサ38の出力特性が反転するまでの期間が短くなる。
図14は、図12に示す空燃比制御装置に個体差又は劣化が存在する場合における開弁期間及び空燃比の一例を示す図である。図14に示すように、フィードバック制御が開始して開弁期間TAUを理論値TSTに設定しても、そのときの実際の空燃比AST(A)は理論空燃比ASTと異なる値となる場合がある(棒2参照)。フィードバック制御の実施中、閉ループ補正係数FAF及び学習補正係数FLAFによる補正でもって一旦空燃比の誤差が補償され(棒3参照)、その後、学習補正係数FLAFが閉ループ補正係数FAFの誤差補償分を漸次受け持っていく(棒4参照)。
このフィードバック制御が終了して非フィードバック制御が開始すると、開弁期間TAUは、標準値TBASEを劣化補正係数FDLAFで補正した値に設定される。劣化補正係数FDLAFは、非フィードバック制御の実施中に開弁期間TAUを標準値TBASEに設定しても実際の空燃比ABASE(A)が想定標準値ABASEとならない場合にその誤差を補償するよう、開弁期間TAUを標準値TBASEから補正する(棒5参照)。非フィードバック制御の実施中はFO2RAM=1及びFAF,FLAF=0であるため、式(2B)より導かれるとおり、劣化補正係数FDLAFによる開弁期間TAUの補正量TDLAFは、標準値TBASEと劣化補正係数FDLAFに1加算した値の積からTBASEを減算した値、すなわち、標準値TBASE及び係数FDLAFの積である(TDLAF=TBASE×(1+FDLAF)−TBASE=TBASE×FDLAF)。
劣化補正係数FDLAFは、学習補正係数FLAFに基づいて設定される。本実施形態では、劣化補正係数FDLAFは、直前のフィードバック制御の終了時に記憶部241に更新記憶された学習補正係数FLAFと同値に設定される(そうでない場合については第3実施形態を参照)。これにより、実際の空燃比ABASE(A)が想定標準値ABASEとならない場合に、その誤差を劣化補正係数FDLAFで補償することができる。よって、空燃比を想定標準値ABASEに近づけることができ、個体差や劣化の存在に関わらず、内燃機関の出力特性及び燃焼排ガスの性状を良好に保つことができる。
図15は、図12に示す空燃比制御装置及びその異常診断装置により実行される空燃比制御及び異常診断の一例を示すフローチャートである。図15に示すように、弁モータ16の目標位置ひいては目標スロットル開度が決定され(S201)。標準値TBASEが第1対応関係61に従って決定され(S202)、フィードバック実施条件の成否が判定される(S203)。フィードバック実施条件が不成立であれば(S203:NO)、非フィードバック制御が実施される。その一環として、フィードバック補正係数FFBが基準値に設定され(S211)、劣化補正係数FDLAFが学習補正係数FLAFに基づいて決定される(S212)。フィードバック実施条件が成立していれば(S203:YES)、フィードバック制御が実施される。その一環として、劣化補正係数FDLAFが基準値に決定され(S213)、フィードバック補正係数FFBが決定される(S214)。すなわち、λ補正係数FO2RAMが第2対応関係62に従って決定され、閉ループ補正係数FAF及び学習補正係数FLAFが空燃比検出手段の出力に基づいて決定される。
次に、空燃比制御装置の異常診断処理が実行され(S220)、開弁期間TAUが決定される(S230)。本実施形態では、非フィードバック制御の実施中にも異常診断処理S220が実行される。異常診断処理S220の手順そのものは第1実施形態(図8参照)と同様であり、診断許可条件も第1実施形態と同様である。
ステップS22(図8参照)での異常の診断に関し、診断に用いる補正値の元となる「補正量」は、フィードバック制御実施中における開弁期間の補正量TFBと、非フィードバック制御実施中における開弁期間の補正量TDLAFと、これら補正量を決定づける係数とを含む。補正量TFBは、λ補正係数FO2RAMによる補正量TO2RAMと、閉ループ補正係数FAFによる補正量TAFと、学習補正係数FLAFによる補正量TLAFと、変動補正係数FVFB(閉ループ補正係数FAFと学習補正係数FLAFの和)による補正量TVFBとを含む。補正量TFB,TO2RAM,TAF,TLAF,TVFB,TDLAFは、係数FFB,FO2RAM,FAF,FLAF,FVFB,FDLAFによって決定づけられる。
本実施形態に係る補正値は、標準値TBASEを理論値TSTへと一次的に補正してから、空燃比を理論空燃比付近に到達させるまでに二次的に必要になった補正量に基づいて設定される。補正値は、閉ループ補正係数FAFの今回値、閉ループ補正係数FAFの平均値、学習補正係数FLAFの今回値、変動補正係数FVFB(閉ループ補正係数FAF及び学習補正係数FLAFの和)の今回値を含む。補正値は、劣化補正係数FDLAFの今回値も含む。劣化補正係数FDLAFは、前記二次的に必要になった補正量である学習補正係数FLAFに基づいて設定されるので、劣化補正係数FDLAFの今回値もかかる補正量に基づいて設定される値である。比較値は、これら補正値に対応して設定される。
フィードバック制御の実施中では、異常条件が、閉ループ補正係数FAFの今回値が上限比較値及び下限比較値を超えて許容範囲外に出ている状態を所定期間継続しているとの条件、閉ループ補正係数FAFの平均値が上限比較値及び下限比較値を超えて許容範囲外に出ている状態を所定期間継続しているとの条件、学習補正係数FLAFの今回値が上限比較値及び下限比較値を超えて許容範囲外に出ている状態を所定期間継続しているとの条件、変動補正係数FVFBの今回値が上限比較値及び下限比較値を超えて許容範囲外に出ている状態を所定期間継続しているとの条件を含む。診断部244は、これらの条件が全て充足したときに異常条件が成立したと判定してもよいし、少なくとも1つが充足したときに異常条件が成立したと判定してもよい。
非フィードバック制御の実施中では、異常条件が、劣化補正係数FDLAFの今回値が上限比較値及び下限比較値を超えて許容範囲外に出ている状態を所定期間継続しているとの条件を含む。
本実施形態でも、フィードバック制御の実施中、上記実施形態と同様にして信頼性の高い異常診断を行うことができる。本実施形態では、インジェクタ開弁期間決定部252が、非フィードバック制御の実施中に、それよりも過去のフィードバック制御の実施中に設定された補正量に基づいて開弁期間TAUを補正する。よって、診断部244は、非フィードバック制御の実施中にも、補正量に関連付けされた補正値と、補正量に関わらず設定される比較値とに基づいて空燃比制御装置の異常を診断することができる。
前記構成によれば、個体差、劣化又は異常による空燃比誤差の補償を担う変動補正係数が学習補正係数として学習され、記憶された学習補正係数が次のO2フィードバック制御の開始時から変動補正係数に加味される。このため、フィードバック制御の開始から誤差補償完了までの時間が短くなる。よって、内燃機関1の出力や燃焼排ガスの性状を速やかに所要のものへと変化する。
そして、学習補正係数FLAFを用いて異常を診断する場合、異常がフィードバック制御の実施前に生じたとしても、当該フィードバック制御の実施直後にその異常を検知することができる。また、学習補正係数FLAFと閉ループ補正係数FAFの和を用いて異常を診断する場合、劣化の漸次進行により異常性が認められるに至っても、これを検知しやすくなる。
(第3実施形態)
図16は、第3実施形態に係る空燃比制御装置及びその異常診断装置の構成を示すブロック図である。本実施形態は、主として、学習補正係数FLAFが実時学習係数FRLAF及び長期学習係数FLLAFに分かれている点、学習補正係数FLAFが運転状態に対応して記憶される点、劣化補正係数FDLAFが長期学習係数FLLAFに基づいて設定される点で、上記実施形態と相違する。以下、この相違を中心に第3実施形態について説明する。
本実施形態に係るECU340は操作量決定部343を有し、そのインジェクタ開弁期間決定部352は、前述した式(1B)を用いて開弁期間TAUを決定する。フィードバック補正係数FVFBはλ補正係数FO2RAM及び変動補正係数FVFBを含み、変動補正係数FVFBは、閉ループ補正係数FAF及び学習補正係数FLAFを含み、学習補正係数FLAFは実時学習係数FRLAF及び長期学習係数FLLAFを含む。この点を考慮して、式(1B)は次式(2C)に変形可能である。
TAU=TBASE×FO2RAM×(1+FAF+FRLAF+FLLAF)
×(1+FDLAF) …(2C)
式(2C)及び第2実施形態に係る式(2B)に示すように、実時学習係数FRLAF及び長期学習係数FLLAFの和が、第2実施形態に係る学習補正係数FLAFに相当する。式(2C)を用いる場合、2係数FLLAF,FRLAFの基準値はゼロであり、非フィードバック制御の実施中、係数FO2RAM,FAF,FRLAF,FLLAFはいずれも基準値に設定される。実時学習係数FRLAFによる補正量TRLAFは、理論値TST及び実時学習係数FRLAFの積であり(TRLAF=TST×FRLAF)、長期学習係数FLLAFによる補正量TLLAFは、理論値TST及び長期学習係数FLLAFの積である(TLLAF=TST×FLLAF)。
図17は、実時学習係数FRLAF及び長期学習係数FLLAFの設定法の一例を示すグラフである。図17に示すように、フィードバック制御が開始すると、学習補正係数FLAF(実時学習係数FRLAFと長期学習係数FLLAFの和)は、第2実施形態において説明したとおり閉ループ補正係数FAFが学習停止値を跨ぐまで漸次変化する。長期学習係数FLLAFは変化せず、実時学習係数FRLAFのみが変化する。実時学習係数FRLAFが所定の移行閾値FTH1,FTH2に達すると、実時学習係数FRLAFが所定の移行値ΔFだけ減算される一方、長期学習係数FLLAFが当該移行値ΔFだけ加算される。これにより、両係数FRLAF,FLLAFの和を保ったまま、実時学習係数FRLAFから長期学習係数FLLAFへと値の受渡しが行われる。この時点で閉ループ補正係数FAFが未だ学習停止値を跨いでいなければ、長期学習値が加算後の値のまま変化せず、実時学習係数FRLAFが減算後の値から漸次変化し続ける。実時学習係数FRLAF及び長期学習係数FLLAFは記憶部341に更新記憶される。
例えば記憶部341は、実時学習係数FRLAFを運転状態に関連付けする第3対応関係363と、長期学習係数FLLAFを運転状態に関連付けする第4対応関係364とを記憶している。第3対応関係363は、複数の運転領域をスロットル開度及びエンジン回転数で規定し、複数の運転領域を複数の実時学習係数FRLAFと一対一で対応付ける(図18(a)参照)。第4対応関係364は、複数の運転領域をスロットル開度及びエンジン回転数で規定し、複数の運転領域を複数の実時学習係数FRLAFと一対一で対応付ける(図18(b)参照)。フィードバック制御が終わると、その時点の実時学習係数FRLAF及び長期学習係数FLLAFが、その時点の運転領域に対応付けされて更新記憶される。フィードバック制御の実施中に運転状態が変化したときに、変化時点の実時学習係数FRLAF及び長期学習係数FLLAFが、その時点の運転領域に対応付けされて更新記憶されてもよい。詳細な図示を省略するが、次のフィードバック制御が開始すると、第3対応関係363に従って運転状態に応じた実時学習係数FRLAFが読み出され、第4対応関係364に従って運転状態に応じた長期学習係数FLLAFが読み出され、係数FRLAF,FLLAFが読み出された値に設定される。
劣化補正係数FDLAFは、記憶部341に記憶される第4対応関係364に記憶された長期学習係数FLLAFに基づいて設定される。例えば、劣化学習係数FDLAFは、複数の運転領域それぞれに対応付けられた複数の長期学習係数FLLAFの重みづけ平均値である。このとき、重みづけ係数は、エンジン回転数が小さいときほど大きい値に設定され、スロットル開度が小さいときほど大きい値に設定されてもよい。これにより、吸気量が少ないときほど燃料補正の感度が上がり、劣化に対処した補正をより正確に行うことができる。
診断部344は、このように設定される劣化学習係数FDLAFの今回値と、これに対応する比較値との比較に基づいて、非フィードバック制御の実施中に空燃比制御装置の異常を診断してもよい。
(第4実施形態)
図1には、二点鎖線で第4実施形態に係る構成も示されている。本実施形態は、主として、乗物が排気ポート22に二次エアを供給するシステムを備える点、アイドリング時に該システムを利用して空燃比検出手段の出力に基づき燃焼状態を安定させる制御を実施する点、その制御で空燃比制御装置の制御対象の操作量(一例としてインジェクタ18の開弁期間)が補正される点、異常条件がこの補正に基づく条件を含む点で、上記実施形態と相違する。以下、この相違を中心に第4実施形態について説明する。
図1に二点鎖線で示すように、本実施形態では、エアクリーナ11のクリーン側が二次エア供給管426を介して排気ポート22に接続されている。二次エア供給管426は二次エア供給弁427により開閉される。二次エア供給弁427が二次エア供給管426を開放しているときには、浄化された外気が、スロットル装置12及び燃焼室4を迂回し、エアクリーナ11から排気ポート22へと送られる。この二次エアを排気ポート22に供給することで、燃焼排ガスを再燃焼させ、燃焼排ガス中の炭化水素及び一酸化炭素を低減することができる。二次エア供給弁427はECU440によって制御される。なお、燃焼排ガスの逆流は、二次エア供給管426上において二次エア供給弁427よりも下流に配置される逆止弁428によって防止される。
図19は、第4実施形態に係る空燃比制御装置及びその異常診断装置の構成を示すブロック図である。モード決定部442は、内燃機関1(図1参照)がアイドリング状態にあれば、制御モードとして「アイドルモード」を設定し、空燃比検出手段の出力に基づいて二次エア込みの空燃比がリッチとならないように操作量を補正するアイドル劣化補正制御を実施する。内燃機関1がアイドリング状態でなければ、モード決定部442は運転状態に基づいてフィードバック実施条件の成否を判定する。上記実施形態と同様にして、フィードバック実施条件が成立していれば、フィードバックモードが設定されてフィードバック制御が実施される。フィードバック実施条件が不成立であれば、非フィードバックモードが設定されて非フィードバック制御が実施される。
操作量決定部443は、上記実施形態と同様のスロットル開度決定部51のほか、インジェクタ開弁期間決定部452及び二次エア供給決定部453を有する。インジェクタ開弁期間決定部452は、例えば式(1D)を用いて開弁期間TAUを決定する。
TAU=TBASE×FFB×(1+FDLAF)×FILAF …(1D)
FILAFはアイドル補正係数であり、インジェクタ18ごと(シリンダ3(図1参照)ごと)に個別設定される。フィードバック制御及び非フィードバック制御の実施中、アイドル補正係数FILAFは基準値に設定される。式(1D)を用いる場合、アイドル補正係数FILAFの基準値は1である。逆に、アイドル劣化補正制御の実施中、係数FFB,FDLAFは基準値に設定される。なお、第3実施形態における式(1B)から式(2C)への変形と同様に、式(1D)は次式(2D3)に変形可能である。
TAU=TBASE×FO2RAM×(1+FAF+FRLAF+FLLAF)
×(1+FDLAF)×FILAF …(2D3)
記憶部441は、第3実施形態と同様の第3及び第4対応関係363,364を記憶している。劣化補正係数FDLAFは、第3実施形態と同様にして、長期学習係数FLLAFに基づいて設定される。
二次エア供給決定部453は、アイドル劣化補正制御を実施すると二次エア供給弁427に開指令を与える。その他、二次エア供給決定部453は、フィードバック実施条件が不成立であって運転状態が特定の運転領域にあるときに、二次エア供給弁427に開指令を与える。開指令の付与により、二次エア供給弁427は二次エア供給通路426を開放する。二次エア供給決定部453は、アイドル劣化補正制御を実施しておらず、また、フィードバック実施条件不成立時に運転状態が特定の運転領域になければ、二次エア供給弁427に開指令を与えない。それにより二次エア供給弁427は二次エア供給通路426を閉鎖する。
ECU440は、アイドル劣化補正制御の実施時に燃焼状態を判定する燃焼状態判定部445を有する。燃焼状態判定部445は、第1判定部456及び第2判定部457を有する。燃焼状態判定部445は、メモリに記憶されたプログラムのようなECU440のソフトウェア要素と、プログラムを実行するCPUのようなECU440のハードウェア要素とにより実現される。
図20は、第1判定部456による燃焼状態の判定法の一例を示す図である。第1判定部456は、アイドル劣化補正制御の実施中、所定期間Δt1内で検出された複数のエンジン回転数の検出値から最小値と最大値とを抽出し、最大値と最小値の偏差Δωの算出を経て、偏差Δωが閾値以上であるか否かを判断する。この所定期間Δt1は、内燃機関1がアイドリング状態である場合に1以上のエンジンサイクルを経過させることができる十分に長い時間に設定される。すなわち、燃焼状態を巨視的に監視するために十分に長い時間に設定される。偏差Δωが閾値未満であれば、第1判定部456は燃焼状態が安定していると判定する。偏差Δωが閾値以上であれば、第1判定部456は燃焼状態が不安定であると判定する。
図21(a)及び(b)は、第2判定部457による燃焼状態の判定法の一例を示す図である。図21(a)は燃焼状態が安定しているときの典型例、図21(b)は燃焼状態が不安定であるときの典型例を示している。第2判定部457は、各シリンダ3の膨張行程の開始時付近(例えば、クランク角:15[degCA])で取得された第1回転数ωAと、膨張行程の終了時付近(例えば、クランク角:135[degCA])で取得された第2回転数ωBとの差分値を算出する。なお、差分値は、第2回転数ωBから第1回転数ωAを減算して求められる。差分値は、所定数のエンジンサイクルが経過するまでエンジンサイクル毎に算出される。所定数の差分値から最大値と最小値とを抽出して、最大値と最小値との偏差をフィルタ係数で除算する鈍し処理を行うことにより偏差変化係数を算出する。
正常な燃焼が行われていれば、膨張行程が開始してから終了付近に至るまでの間、エンジン回転数は上に凸の上昇傾向で推移する(図21(a)参照)。このため、上記差分値は比較的大きい正の値をとることになる。このような燃焼が継続して行われれば、偏差変化係数が比較的大きい正値となる。他方、弱火や失火が生ずると、膨張行程が開始してから終了付近に至るまでの間、エンジン回転数が顕著な上昇傾向を見せず、極端な場合、図示するように、エンジン回転数は低下傾向で推移する(図21(b)参照)。この場合、上記差分値は正値であってもゼロに近い値、極端な場合に負値となる。このような燃焼が継続して行われれば、偏差変化係数がゼロ付近の正値又はゼロ以下の値をとる。
第2判定部457は、各シリンダ3について偏差変化係数が閾値以上であるか否かを判断する。ここで、閾値は正値に設定される。偏差変化係数が閾値以上であれば、第2判定部457は当該シリンダ3の燃焼状態が安定していると判定する。偏差変化係数が閾値未満であれば、第2判定部457は当該シリンダ3の燃焼状態が不安定であると判定する。
図22は、アイドル補正係数FILAFの設定法の一例を示すグラフである。図22に示すように、内燃機関1がアイドリング状態になると、二次エア供給決定部453が二次エア供給弁427に開指令を与え、第1及び第2判定部456,457が燃焼状態を判定する。インジェクタ開弁期間決定部452は、標準値TBASEを第1対応関係61に従って決定し、アイドル補正係数FILAFを決定する。アイドル補正係数FILAFの初期値は基準値(1)である。
そして、O2センサ38の出力特性がリッチ状態を示すものからリーン状態を示すものに変化するか否かを監視する。アイドル劣化補正制御においては、二次エア供給弁427が開いている。このため、O2センサ38は、燃焼室4に供給された混合気の燃焼排ガスそのものではなく、これに二次エアが加味され、場合によっては再燃焼が行われた後に排気マニホルド23の下流部まで達した燃焼排ガスの酸素濃度に応じて、高電圧又は低電圧の信号を出力する。
アイドル劣化補正制御が開始してから所定時間が経過したか否かを判断し、所定時間が経過するまでにO2センサ38の出力特性がリーン状態を示すものに変化すると、アイドル補正係数FILAFを補正せずにアイドル劣化補正制御を継続する。アイドル劣化補正制御の実施中、O2センサの出力特性がリーン状態を示すものからリッチ状態を示すものに反転すると、この反転時点から所定時間が経過するまでの間にO2センサ38の出力特性がリーン状態を示すものへと再び反転するか否かを監視する。
所定時間内にO2センサ38の出力特性がリーン状態を示すものに変化しなかった場合、インジェクタ開弁期間決定部452は、アイドル補正係数FILAFをその時点での値から所定の減少量だけ減少補正する。そして、この補正時点から所定時間が経過するまでの間にO2センサ38の出力特性がリーン状態を示すものへと変化するか否かを監視する。O2センサ38の出力特性がリーン状態を示すものへと変化するまで、所定時間おきに上記減少量ずつ減少補正し続ける。この補正により、内燃機関1がアイドリング状態であっても、劣化のために二次エア込みの空燃比が過リッチとなるのを良好に抑制することができる。このO2センサ38の出力に基づくアイドル補正係数FILAFの減少補正は、燃焼状態が安定していると判定されているシリンダ3のみを対象にして実施される。
O2センサ38の出力に基づく減少補正は弱化や失火の遠因となるおそれもある。そこで、燃焼状態が不安定であると判断されると、その時点から安定していると判定されるまでの間、所定時間Δt3が経過するたびにアイドル補正係数FILAFを所定の増加量ずつ増加させる。それにより、O2センサ38に基づく減少補正分を徐々に縮小していく。
第1判定部456は巨視的に燃焼状態を判定しているので、第1判定部456が燃焼状態を不安定であると判定したときには、全シリンダ3のアイドル補正係数FILAFを一律に増加させる。第2判定部457はシリンダ3毎に燃焼状態を判定しているので、第2判定部457が燃焼状態を不安定であると判定したときには、そのように判定されたシリンダ3のアイドル補正係数FILAFのみを増加させる。このような補正を行うことにより、O2センサに基づくアイドル補正係数FILAFの過補正を防止することができる。なお、燃焼状態の判定結果に基づく補正は、アイドル補正係数FILAFが基準値に達した後は、それ以上アイドル係数FILAFの値を増加させないようにしてもよい。これにより、二次エア込みの空燃比がリッチ化するのを抑制することができる。
図23は、図19に示す空燃比制御装置及びその異常診断装置により実行される空燃比制御及び異常診断の一例を示すフローチャートである。図23に示すように、弁モータ16の目標位置ひいては目標スロットル開度が決定され(S401)。標準値TBASEが決定され(S402)、内燃機関1がアイドリング状態であるか否かが判断される(S404)。アイドリング状態でなければ(S404:NO)、フィードバック実施条件の成否が判定される(S403)。フィードバック実施条件が不成立であれば(S403:NO)、非フィードバック制御が実施される。その一環として、フィードバック補正係数FFB及びアイドル補正係数FILAFが基準値に設定され(S411)、劣化補正係数FDLAFが決定される(S412)。フィードバック実施条件が成立していれば(S403:YES)、フィードバック制御が実施される。その一環として、劣化補正係数FDLAF及びアイドル補正係数FILAFが基準値に決定され(S413)。フィードバック補正係数FFBが決定される(S414)。すなわち、λ補正係数FO2RAMが第2対応関係62に従って決定され、閉ループ補正係数FAFが空燃比検出手段の出力に基づいて決定され、実時学習係数FLLAF及び長期学習係数FRLAFが第3及び第4対応関係363,364に従って運転状態に基づき、また、空燃比検出手段の出力に基づいて決定される。次に、空燃比制御装置の異常診断処理が実行され(S420)、開弁期間TAUが決定される(S430)。
内燃機関1がアイドリング状態であれば(S404:YES)、アイドル劣化補正制御が実施される。その一環として、フィードバック補正係数FFB及び劣化補正係数FDLAFが基準値に設定され(S415)、アイドル補正係数FILAFが決定される(S416)。アイドル補正係数FILAFの設定法は前述のとおりである。次に、異常診断処理S420に進んだ後、開弁期間TAUが決定される(S430)。このように、本実施形態では、アイドル劣化補正制御の実施中にも異常診断処理S420が実行される。異常診断処理S420の手順そのものは第1実施形態(図8参照)と同様であり、診断許可条件も第1実施形態と同様である。
ステップS22(図8参照)での異常の診断に関し、診断に用いる補正量の元となる補正量には、アイドル補正係数FILAFによる補正量TILAF、及びこれを決定づけるアイドル補正係数FILAFも含まれる。補正値は、各シリンダ3のアイドル補正係数FILAFの今回値を含む。比較値は、アイドル補正係数FILAFの今回値に対応して設定される。
アイドル劣化補正制御の実施中では、異常条件が、アイドル補正係数FILAFの今回値が下限比較値を超えて許容範囲外に出ている状態を所定時間継続しているとの条件である。アイドル補正係数FILAF自体が上限に制限があるので、許容範囲の上限はアイドル補正係数FILAFの上限値(例えば、基準値)である。なお、非フィードバック制御の実施中における異常条件、フィードバック制御の実施中における異常条件は上記実施形態と同様である。本実施形態では、診断部444は、アイドル劣化補正制御の実施中にも、補正量に関連付けされた補正値と、補正量に関わらず設定される比較値とに基づいて空燃比制御装置の異常を診断することができる。
(変更例)
劣化学習係数FDLAFの設定法に第2実施形態を適用するように第4実施形態が変更されてもよい。その場合、式(1D)は次式(2D2)に変形可能である。開弁期間TAUを決定するに際して劣化補正係数FDLAFを考慮しないように第4実施形態が変更されてもよい。その場合、式(1D)を次式(1E)に変更可能である。フィードバック補正係数FFBの設定法には第1、第2及び第3実施形態のいずれを適用してもよく、式(1E)は次式(2E1),(2E2)又は(2E3)に変形可能である。
TAU=TBASE×FO2RAM×(1+FAF+FLAF)
×(1+FDLAF)×FILAF …(2D2)
TAU=TBASE×FFB×FILAF …(1E)
TAU=TBASE×FO2RAM×(1+FVFB)×FILAF …(2E1)
TAU=TBASE×FO2RAM×(1+FAF+FLAF)×FILAF …(2E2)
TAU=TBASE×FO2RAM×(1+FAF+FRLAF+FLLAF)×FILAF …(2E3)
開弁期間TAUを決定する式を上記のように変えると、異常条件もこれに応じて変更される。
開弁期間TAUは、走行環境に応じて補正されてもよい。これにより、変動補正係数が、走行環境の変化による空燃比の誤差を補償しなくてもよくなる。このため、変動補正係数に基づいて設定される補正値を用いて、空燃比制御装置の異常を診断する精度が更に向上する。この場合、当該補正が第1実施形態に適用される場合は、式(2A)を次式(3A)に変更すればよい。他の実施形態及び上記変更例に適用する場合についても同様である。
TAU=TBASE×FO2RAM×(1+FKI+FVFB) …(3A)
FKIは環境補正係数である。環境補正係数FKIは、内燃機関の冷却水温や吸気圧に応じて可変的に設定される。
非フィードバック制御からフィードバック制御への移行時に、開弁期間が標準値から理論値へと変化するが、λ補正係数は基準値から運転状態に応じた値へと徐々に変化してもよい。これにより、モード移行時に燃料量が急変して内燃機関の出力が急変するのを抑えることができる。
非フィードバック制御の実施中において、劣化補正係数FDLAFが、アイドル劣化補正制御と同様に、燃焼状態に応じて補正されてもよい。この場合、劣化補正係数FDLAFは、学習補正係数FLAFに基づいて第2又は第3実施形態のように学習補正係数FLAF(又は長期学習係数FLLAF)に基づいて全シリンダに共通して設定される代表補正係数と、燃焼状態が不安定であると判定されたときに代表補正係数を補正すべくシリンダに個別設定される燃焼状態補正係数とを含んでもよい。
上記実施形態では、スロットル開度とエンジン回転数とから標準値TBASEを求めたが、スロットル開度に対応して変化する第1関連値、エンジン回転数に対応して変化する第2関連値とに基づいて標準値TBASEを求めてもよい。例えば、第1関連値として、給気通路の圧力である吸気圧を用いてもよいし、吸気圧とスロットル開度とを併用してもよい。第2関連値として、車速及び変速機のギヤ比を用いてもよいし、カム角センサの値を用いてもよい。このほか、他の演算方法又はマップを用いて標準値TBASEを求めてもよい。例えば、他の運転状態に応じて標準値TBASEが補正されてもよい。
上記実施形態では、空燃比制御装置が空燃比を制御するためにインジェクタの開弁期間を補正し、その補正量に基づき空燃比制御装置の異常が診断されるが、空燃比制御装置は弁モータの位置ひいてはスロットル開度を補正してもよい。その場合、異常診断装置は、弁モータの位置又はスロットル開度の補正量に関連付けられた補正値と、これに対応する比較値との比較に基づいて空燃比制御装置の異常を診断してもよい。
空燃比制御装置は空燃比を制御することができればよい。スロットル開度はそのための操作量と扱うことができるが、インジェクタの開弁期間を補正することで空燃比制御を実現できるのであれば、スロットル弁15は必ずしも電動スロットル弁15aを含まなくてもよい。
上記実施形態では内燃機関が4ストローク型であるが、内燃機関は2ストローク型でもよい。内燃機関の燃料は、ガソリン以外の燃料(例えば、エタノール、エタノール混合ガソリン、軽油)であってもよい。上記実施形態では内燃機関が多気筒型であるが、その場合における気筒の配列は特に限定されず、例えば並列型でもV型でもよい。内燃機関は単気筒型でもよい。本発明は、内燃機関を駆動源とする乗物に好適に利用することができ、内燃機関を備える装置全般に適用することができる。