◆本発明の観点によれば、以下のように構成する、繊維機械が提供される。複数並べて設置されるとともに、それぞれがパッケージを形成可能な糸処理ユニットと、前記糸処理ユニットの並べられる方向に沿って走行し、満巻パッケージを載置エリアへ移動させることが可能な玉揚台車と、を備える。前記糸処理ユニットが並べられる方向に直交する方向において、前記玉揚台車の走行路が、前記満巻パッケージの載置エリアと前記糸処理ユニットとの間の位置に配置されている。また、糸処理ユニットの糸走行側を前面側として、前記玉揚台車の走行路と載置エリアとが前面側に配置されている。前記玉揚台車は、前記糸処理ユニットが並べられる方向に直交する方向に延びるとともに、前記糸処理ユニットで生成された満巻パッケージを前記載置エリアに移動させるパッケージ通路を備える。
これにより、機台の外部から近い位置に載置エリアを配置できるので、載置エリアへのアクセスが容易である。従って、玉揚台車の走行路を足場とする必要なく、載置エリアの満巻パッケージを容易に回収できる。また、玉揚台車の走行路を足場として紡績ユニットを点検する作業者に負担の掛かる姿勢を強いることを少なくできる。
これにより、糸処理ユニットから送られる糸を捕捉するために玉揚台車から捕捉手段を前記載置エリアを跨ぐように延出させる必要がないから、捕捉手段の長さあるいは延出距離を短くでき、その先端を糸の捕捉が容易な位置に精度良く位置決めすることができる。従って、糸の捕捉ミスを低減することができる。
◆前記の繊維機械においては、以下のように構成することが好ましい。前記玉揚台車の走行輪を走行させる走行面の下側に動力供給線収容室を設ける。この動力供給線収容室の内部に、前記玉揚台車に接続される動力供給線を配置するとともに、該動力供給線を保護する屈曲性保護具を配置する。前記屈曲性保護具は、その屈曲がほぼ水平面内で行われるように配置される。
これにより、屈曲性保護具の最小曲げ半径が大きい場合でも、動力供給線収容室を高さ方向でコンパクトとできるから、その上側にある玉揚台車の走行面を低くできる。従って、メンテナンス時に作業者が走行面上に立って糸処理ユニットの点検等をする際に作業性を向上できる。
◆前記の繊維機械においては、以下のように構成することが好ましい。前記玉揚台車の走行輪を走行させる走行面に凹溝を設ける。前記玉揚台車には、前記凹溝の内壁に接触して回転するローラ体を複数設ける。複数の前記ローラ体は、前記凹溝の両方の内壁に当該ローラ体のいずれかが接触するように配置されている。
これにより、玉揚台車の走行方向を案内する案内面を凹溝の内壁で構成することができるから、前記走行面に凸状のレールなどを設けることなく、玉揚台車のガタを防止できる。この結果、糸処理ユニット等をメンテナンスするために走行面上に作業者が立って作業をする場合でも、足元の凸起を少なくしあるいはゼロとすることができ、作業性を向上できる。
◆前記の繊維機械においては、糸継装置を備えるとともに前記糸処理ユニットに沿って走行可能な糸継台車が、玉揚台車とは独立して複数設けられていることが好ましい。
これにより、玉揚作業と独立した糸継専用の台車が複数走行するので、糸の切断が複数の糸処理ユニットで同時に発生したり、糸の切断と同時に別の糸処理ユニットで玉揚要求が発生しても、短時間で糸継要求ユニットに到達でき、パッケージの生産効率の低下を防止できる。
◆前記の繊維機械においては、以下のように構成することが好ましい。前記糸処理ユニットは、紡績ノズルと中空ガイド軸体を備える紡績装置と、前記紡績装置の下流側に位置する糸送りローラと、を備えた紡績ユニットとして構成する。前記中空ガイド軸体には、上流側の繊維束を糸継ぎ時に引き込むための吸引流発生ノズルを糸通路の途中に備え、且つ前記中空ガイド軸体内部の糸通路において、前記吸引流発生ノズルの下流側に絞り部を設ける。前記紡績装置から紡出された糸を前記糸送りローラの直ぐ下流に先端が到達するまで旋回して捕捉し、前記糸継台車の前記糸継装置に案内する紡出側糸端捕捉案内手段を設ける。
これにより、糸出し及び糸継ぎの成功率を向上させることができる。即ち、吸引流発生ノズルの下流側に絞り部が設けられているので、中空ガイド軸体から糸出しされた糸端を強い気流で糸送りローラまで到達させることができる。従って、糸送りローラを単純に回転させることで糸送りローラに糸をニップでき、従来のように紡出側糸端捕捉案内手段の先端を糸送りローラの上流まで到達させて捕捉し、紡出側糸端捕捉案内手段により糸送りローラに糸を横送りしてニップさせる必要がないので、糸出し・糸継ぎの失敗が少なくなる。糸送りローラによって糸が保持された後は、その直ぐ下流で紡出側糸端捕捉案内手段に受け渡すことで、糸継台車の糸継装置に糸を適切に案内させることができる。また、この構成をとることによって前記紡出側捕捉案内手段を短くできるので、旋回したときの軌跡がコンパクトになり、その分、玉揚台車を更に糸処理ユニット側に近づけることができ、機台のコンパクト化を実現できる。
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
図1は、並設された多数の紡績ユニット(糸処理ユニット)2を備えた、繊維機械としての紡績機1を示している。この紡績機1には、紡績ユニット2が並べられる方向に走行自在に設けられた糸継台車3と、この糸継台車とは独立に走行自在に設けられた玉揚台車4と、ブロアボックス80と、原動機ボックス81とが装備される。
図1に示すように、各紡績ユニット2は、ドラフト装置7と、紡績装置9と、糸送り装置11と、巻取装置12と、を主要な構成として有している。ドラフト装置7は紡績機1本体のケーシング6の上端近傍に設けられており、このドラフト装置7から送られてくる繊維束8を紡績装置9で紡績するように構成している。紡績装置9から排出された紡績糸10は糸送り装置11で下方へ送られ、糸の欠陥を検出して糸切断を行い糸欠陥部分を除去するためのクリアラー(糸欠陥検出器)52を経て、巻取装置12によって巻き取られ、パッケージ45を形成する。例えばクリアラー52は、糸の太さムラ欠陥を検出する機能や、紡績糸10内に混入した異物を検出する機能や、これらの機能を兼用したものが考えられる。
ドラフト装置7は図2に示すように、スライバ13を延伸して繊維束8にするためのものであり、バックローラ14、サードローラ15、エプロンベルト16を装架したミドルローラ17及びフロントローラ18の4つのローラから構成されている。
また糸送り装置11は、紡績機1本体のケーシング6に支持されたデリベリローラ39と、デリベリローラ39に接離自在に設けられたニップローラ40とからなる。紡績装置9から排出された紡績糸10をデリベリローラ39とニップローラ40との間に挟んでデリベリローラ39を回転駆動させることにより、紡績糸10を巻取装置12側へ送るようになっている。
巻取装置12は、ボビン48の軸方向両端を回転可能に支持するクレードルを構成する二本のアーム83・84(図1参照)と、ボビン48やパッケージ45を回転駆動させるための駆動ドラム79(図2参照)と、を主要な構成として備えている。二本のアーム83・84の下端部はケーシング6に枢支されており、正面側(図1の紙面手前側、図2の紙面左側)に倒れるように回動可能である。このアーム83・84には図示しない付勢バネが弾設されて、起立方向の付勢力を常時アーム83・84に加えている。従って、アーム83・84に支持されるボビン48あるいはパッケージ45の周面が前記駆動ドラム79に押し付けられることによって、ボビン48あるいはパッケージ45は駆動ドラム79の駆動力を受けて回転する。ボビン48に紡績糸10が巻かれてパッケージ45が巻き太るに従って、アーム83・84は図2の鎖線に示すように正面側に倒れ、パッケージ45の軸の位置が前方へ移動する。駆動ドラム79は等速で回転駆動されているので、パッケージ45が巻き太っても、その巻取速度(周速度)は一定に保たれる。
図1に示すように、巻取装置12の一側のアーム83は、他側のアーム84に対し接離方向に傾動可能に構成される。またこのアーム83は、図示しないバネによって、他側のアーム84に近づく方向に付勢されている。従って、紡績糸10の巻取時にはバネ力によってボビン48を両アーム83・84の間に挟持できる一方、ボビン48に紡績糸10が巻かれてパッケージ45が満巻となったときは、アーム83を他側のアーム84から離れる方向に傾けて上記挟持状態を解除することで(図1の鎖線)、満巻のパッケージ45を巻取装置12から取り外すことができる。この満巻パッケージ45の取外しは、前記一側のアーム83の延出状の先端部を、前記玉揚台車4のクレードル操作アーム90が押動することにより行われる(詳細は後述する)。
糸継台車3は図1や図2に示すように、台車42と、この台車42に設けられたノッター又はスプライサ等の糸継装置43と、台車42に俯仰自在に設けられ、軸を中心に旋回しながら、紡績装置9から排出され糸送り装置11を通過した糸端を吸い込みつつ捕捉して糸継装置43へ案内するサクションパイプ(紡出側糸端捕捉案内手段)44と、台車42に俯仰自在に設けられ、軸を中心に旋回しながら、巻取装置12に回転自在に支持されたパッケージ45から糸端を吸引捕捉して糸継装置43へ案内するサクションマウス46と、を有している。
図2に示すように、前記ケーシング6の後部側の内部には、前記糸継台車3の走行空間50が構成されている。この走行空間50は、前記紡績ユニット2の並べられる方向に沿って、細長く形成されている。この走行空間50の上部と下部にレール41が配設されるとともに、前記台車42の下部には走行輪49が備えられている。この構成で糸継台車3は、前記レール41によってその走行方向を案内されながら、走行輪49の駆動によって走行空間50の内部を走行できるようになっている。
玉揚台車4は前記糸継台車3とは独立して設けられており、図1や図2に示すように、紡績機1本体の前部に設けられた走行路86に沿って走行できるようになっている。玉揚台車4の走行方向は前記糸継台車3と同じく、紡績ユニット2の並べられる方向に沿って細長く設けられている。
玉揚台車4は図1や図2に示すように、前記走行路86上を走行輪87によって走行可能な台車ケーシング85を有している。この台車ケーシング85には、バンチ巻における糸捕捉手段としてのサクションパイプ88や、チャッカ89や、クレードル操作アーム90や、バンチ巻駆動アーム91を備えている。サクションパイプ88は、紡績装置9から排出される糸端を吸い込みながら捕捉して前記巻取装置12まで案内するために、前記台車ケーシング85に俯仰自在かつ伸縮自在に設けられる。チャッカ89は、空のボビン48を前記巻取装置12に供給するために、前記台車ケーシング85に回動自在に設けられている。クレードル操作アーム90は、前記巻取装置12のアーム83の先端を操作するために、前記台車ケーシング85に回動自在に設けられている。更にはバンチ巻駆動アーム91は、空のボビン48に紡績糸10を巻き始める初期のバンチ巻を行わせるために、前記台車ケーシング85に回動自在に設けられている。
前記玉揚台車4の走行路86より更に前側には、満巻パッケージ45の載置エリア95が設定されている。即ち、前記紡績ユニット2が並べられる方向に直交する方向(図2の紙面左右方向)において、玉揚台車4の走行路86が、前記満巻パッケージ45の載置エリア95と前記紡績ユニット2との間の位置に配置されており、且つ、紡績ユニット2の糸走行側を前面側として、前記玉揚台車4の走行路86と載置エリア95とが前面側に配置されている。
玉揚台車4の台車ケーシング85は図1に示すように正面視門型に構成するとともに、パッケージ通路93を備えている(図10も併せて参照)。このパッケージ通路93は図2に示すように、前記載置エリア95に近づくにつれて低くなる傾斜床94を備えている。この構成で、前記巻取装置12から取り外された満巻パッケージ45は、パッケージ通路93の内部を前記傾斜床94上を転がって貫通し、載置エリア95に形成される浅い溝96に落ちて静止する。こうして載置エリア95に移動した満巻パッケージ45は作業者によって回収され、次工程へ送られる。なお、載置エリア95にコンベア等の搬送手段を配置し、次工程へ自動的に搬送する構成としても構わない。
次に紡績装置9を説明する。この紡績装置9は図3に示すように、フロントローラ18から送られてくる前記繊維束を挿通させながらその繊維束に旋回流を与える紡績ノズル19と、紡績ノズル19に先端部が同軸挿入される中空ガイド軸体(スピンドル)20と、を主に備えて構成される。
図3に示すように、紡績ノズル19は、ニードルホルダ23と、このニードルホルダ23が取り付けられるノズル部ケーシング53とを有する。ニードルホルダ23は、上流側のドラフト装置7でドラフトされた繊維束を導入する案内孔21を有し、また、案内孔21から排出された繊維束の流路上にニードル22を保持している。
ニードルホルダ23より下流側の位置において、ノズル部ケーシング53にテーパ孔54が設けられ、このテーパ孔54に、当該テーパ孔54とほぼ等しいテーパ角を有する中空ガイド軸体20の先端部24が、同軸に且つ所定の隙間を隔てて挿入されている。中空ガイド軸体20の先端面とニードルホルダ23との間には紡績室26が区画形成され、この紡績室26には前記ニードル22の先端が突出されており、ニードル22の先端が中空ガイド軸体20の先端面と対向している。また、前記テーパ孔54と前記先端部24との間には、旋回流発生室25が区画形成される。
ノズル部ケーシング53には、出口端が紡績室26に開口される複数の第1旋回流発生ノズル27が設けられる。これら第1旋回流発生ノズル27はノズル部ケーシング53に穿設された孔からなり、紡績室26の接線方向に且つ糸送り下流側に傾斜して設けられている。第1旋回流発生ノズル27は図示しない圧空源から圧空の供給を受けてその圧縮空気(圧空)を紡績室26に噴射し、例えば平面視反時計回りの旋回流(図5参照)を紡績室26に発生させる。この旋回流は中空ガイド軸体20の先端部24の周りの旋回流発生室25に沿って螺旋状に下流側に流れ、ノズル部ケーシング53に形成された排気室55から排出される。
中空ガイド軸体20は、前記先端部24を有する外部筒体56と、この外部筒体56に同軸嵌合されて一体的に固定される内部筒体57とから構成される。本実施形態では外部筒体56は、上流側半部56aと下流側半部56bとを接合した構造とされている。中空ガイド軸体20の軸心に沿って糸通路29が形成され、この糸通路29内を糸が通過できるように構成している。
外部筒体56の上流側半部56aには、その先端部24より下流側に拡径状の太径部58が形成され、この太径部58は前記排気室55に露出される。この太径部58は軸体保持部材59に挿入固定される。軸体保持部材59はノズル部ケーシング53に対して着脱自在とされており、軸体保持部材59をノズル部ケーシング53から取り外すことで、紡績室26又は旋回流発生室25に詰まった繊維を除去することが容易となっている。
中空ガイド軸体20には、糸継ぎの糸出し紡績の際に圧空を噴射する複数の第2旋回流発生ノズル(吸引流発生ノズル)36が設けられる。この第2旋回流発生ノズル36は、内部筒体57における外部筒体56との接続位置付近に貫通形成された孔からなる。第2旋回流発生ノズル36の出口端は糸通路29に開口される。この第2旋回流発生ノズル36によって、糸通路29内に、第1旋回流発生ノズル27による旋回流とは逆向きの平面視時計回りの旋回流(図6参照)を発生させることができる。内部筒体57と外部筒体56との間には、第2旋回流発生ノズル36に圧空を導くための圧空通路37が形成されている。圧空通路37は、外部筒体56に形成された圧空導入孔60と、これに連通する供給管38等を通じて、図示しない圧空源に接続される。
中空ガイド軸体20の下流側においては、内部筒体57と外部筒体56の下流側半部56bとが、嵌合部61においてOリング等を介して互いに嵌合されている。更に外部筒体56の下端部には排出筒62が嵌合される。この排出筒62は、外部筒体56にネジ止めされる中空の止めボルト63の筒孔に嵌合される。排出筒62の内部には、上流側の円形孔64と、下流側の三角孔65が形成されている。三角孔65は断面が正三角形となるように形成されるとともに、止めボルト63に形成された円孔としての出口孔34に連通している。
三角孔65の断面積は前記円形孔64の断面積よりも小さく設定している。従って、本実施形態において三角孔65は絞り部を構成している。この三角孔65が、下流側に向かう方向で、中空ガイド軸体20の内部の糸通路29の幅を狭めている。三角孔65の断面として現れる正三角形の内心の位置は、前記円形孔64の軸心に一致している。
内部筒体57の先端部であって第2旋回流発生ノズル36より上流側の位置に、先端嵌合部67が形成される。また、外部筒体56には嵌合孔68が形成され、前記先端嵌合部67はこの嵌合孔68に嵌合される。これによって、内部筒体57と外部筒体56とは、下流側に位置する前記嵌合部61(前述)のほか、先端部24の根元付近の位置で互いに嵌合接続されることになる。なお上記の嵌合は、糸通路29に段差や突起が生じないように行われる。
中空ガイド軸体20の先端付近において、糸通路29は、外部筒体56の先端部24に形成された孔69と、この孔69に同径で連続され内部筒体57の第2旋回流発生ノズル36より上流側に設けられた孔70と、内部筒体57における孔70の下流側且つ第2旋回流発生ノズル36の位置に設けられ、その孔70よりやや大径の孔71と、で構成される。また前記排出筒62付近において、糸通路29は、前記円形孔64と三角孔65と出口孔34とにより構成される。
次に、本実施形態の紡績装置9の作用について説明する。通常の紡績状態では、第2旋回流発生ノズル36は圧空を噴射しない非作動状態とされ、第1旋回流発生ノズル27のみ圧空を噴射する作動状態とされる。このとき、紡績室26には図5の太線矢印に示すような平面視反時計回りの旋回流が発生し、この旋回流は旋回流発生室25を螺旋状に流れながら排気室55から排出される。
繊維束8ないし紡績糸10は、フロントローラ18から案内孔21、紡績室26、糸通路29を通じて糸送り装置11に至る連続状態にあり、糸送り装置11により下流側への送り力が付与されることによって、糸には張力が付与される。
ドラフト装置7のフロントローラ18から排出された繊維束8は、案内孔21から紡績室26に入って、第1旋回流発生ノズル27による旋回流の作用を受ける。これにより繊維束8のうちの芯繊維となる長繊維に対して残りの短繊維が分離され、旋回流発生室25内で振り回され、加撚される。なお、この撚りはフロントローラ18側へ伝播しようとするが、その伝播はニードル22によって阻止されるので、フロントローラ18から送り出される繊維束8が上記の撚りによって撚り込まれることがない。このように、ニードル22は撚り伝播防止手段をなしている。上記のように加撚された繊維は、大部分が巻付き繊維となる実撚り状の糸に順次生成され、糸通路29を通過し出口孔34から排出される。そして、図2の糸送り装置11を経て巻取装置12(図1)に巻き取られる。
次に、紡績装置を始動させるときやクリアラー52の欠陥検出により図示しないカッタが作動する等の糸切れが発生したときに行われる糸継ぎ作業状態を、図6を用いて説明する。
糸継ぎ作業初期において、ドラフト装置7、第1旋回流発生ノズル27及び第2旋回流発生ノズル36は非作動状態である。またフロントローラ18の下流側に繊維ないし糸は存在しない。従って、糸送り装置11による糸張力も発生していない。
糸継ぎ作業開始時においては、先ず、糸継台車3を糸継ぎすべき紡績ユニット2まで走行移動させ、次に、ドラフト装置7、第1旋回流発生ノズル27及び第2旋回流発生ノズル36を作動させる。
ドラフト装置7の作動により繊維束8が紡績装置9に送り出されると、送られた繊維束8は案内孔21を通過して紡績室26に入り、第1旋回流発生ノズル27による旋回流の作用を受ける(図6)。糸には張力が付与されていないので、繊維束8は旋回流によって緩い仮撚り状態にされながら、ニードル22に案内されて糸通路29の入口付近に送られる。このとき、撚りの上流側への伝播はニードル22によって阻止され、芯部分の繊維に対し残りの繊維が旋回流により分離され、旋回流発生室25内で振り回される。
一方、第2旋回流発生ノズル36から噴射された圧空は糸通路29内に旋回流を発生させる。糸通路29は第2旋回流発生ノズル36から下流側に向かうにつれて断面積を増大させていくため、糸通路29内の旋回流は下流側に向かう螺旋状の流れとなる。これにより、糸通路29には吸引方向の流れが生じるとともに、糸通路29の入口には負圧が発生し、紡績室26の繊維束8を糸通路29内に引き込むことができる。このように第2旋回流発生ノズル36によれば、糸送り装置11による糸張力が無くても繊維束8を糸通路29内に吸引し、下流方向に送ることができる。
第2旋回流発生ノズル36による旋回流は第1旋回流発生ノズル27による旋回流と逆向きなので、第2旋回流発生ノズル36による旋回流を受ける繊維束は、第1旋回流発生ノズル27による旋回方向と逆向きに撚られ、解撚される。このとき、緩い仮撚り状態の繊維束8は結束繊維状の糸(結束糸)に紡績され、この後に出口孔34から排出される。これによって糸出しが実行される。
詳しくは、第2旋回流発生ノズル36の位置に送られた繊維束の大部分が、第2旋回流発生ノズル36の加撚作用によりニードル22との間で撚りが付与され芯繊維として集束される。一方、これによって撚りを付与されず芯繊維を構成しなかった残りの繊維は、第1旋回流発生ノズル27の旋回流によりその方向に芯繊維の周囲に巻き付く。第2旋回流発生ノズル36により芯繊維に付与された撚りは、第2旋回流発生ノズル36を通過した時点から解撚を開始する。この解撚の方向は第2旋回流発生ノズル36の旋回方向と逆方向、つまり第1旋回流発生ノズル27の旋回方向と同方向である。このため、芯繊維の解撚により、巻付き繊維が芯繊維により強力に巻き付くようになり、解撚により無撚りとなった芯繊維の周囲に巻付き繊維が巻き付いた結束紡績糸が生成されるのである。
こうして生成された結束糸47は、第2旋回流発生ノズル36からの旋回流による送り作用によって下流へ送られ、出口孔34から、糸送り装置11の前記デリベリローラ39とニップローラ40との対向部分に向けて噴射される。ここで糸通路29は前記出口孔34に至る前の段階で、排出筒62の円形孔64から三角孔65へ移行する際にその断面積が絞られているので(絞り作用)、三角孔65を通過する空気流の速度を増大でき、この三角孔65内を送られる結束糸47に対して下流への強い送り作用を行わせることができる。従って、前記出口孔34から結束糸47を強い勢いで噴射して前記デリベリローラ39とニップローラ40の対向部分に適切に飛ばすことができる。
また糸通路29の下流部分の三角孔65を通過する結束糸47は、正三角形状の内壁のガイド作用によって、その三角形に内接する円の領域内にバルーンが小さく抑えられる。このバルーン規制作用によって、結束糸47を前記出口孔34からブレなく真っ直ぐ噴出させることができる。また同時に、三角孔65において三角形の各頂点付近は、前記第2旋回流発生ノズル36から噴出されたエアを容易に通過させる通路としての役割を果たす。従って、三角孔65を通過する空気の流量を大きく確保することができるから、結束糸47に強い送りを行わせて出口孔34から勢い良く噴出させることができ、糸送り装置11のデリベリローラ39とニップローラ40との間の所定のニップ箇所へ向けて的確に飛ばすことができる。また、第2旋回流発生ノズル36で噴射された圧縮空気が三角孔65の三角形の頂点付近の通路を通過して容易に出口孔34側から抜けるので、第2旋回流発生ノズル36の上流側で強い負圧を作り出すことができ、糸通路29への繊維束8の引き込み作用を良好とできる。
結束糸47が出口孔34から噴射されるとき、糸送り装置11のデリベリローラ39は駆動されており、デリベリローラ39とニップローラ40は互いに接しながら回転している。従って、噴射された結束糸47の糸端がデリベリローラ39あるいはニップローラ40の周面に着地すると、その糸端は、デリベリローラ39とニップローラ40の回転によって両ローラ39・40間のニップ箇所に送られ、ニップされた後に更に下流側へ送られる。これとほぼ同時に、予め到着させておいた糸継台車3を駆動してサクションパイプ44を上昇回動させて、その先端を糸送り装置11の直ぐ下流側まで上昇させ(図2の鎖線)、この状態で結束糸47を吸い込む。この状態でサクションパイプ44を下降回動させて、結束糸47を糸継装置43へ案内する。
なお、結束糸47が糸送り装置11によってニップされ、結束糸47に張力が付与されるのとほぼ同時に、前記第2旋回流発生ノズル36は停止され、糸送り装置11による送り出しに切り換えられる。この後は前述した通常紡績へ移行し、実撚り状の糸が生成される。最終的には結束糸47はすべてサクションパイプ44内に吸引廃棄され、実際に糸継装置43に渡されるのは実撚り状の糸となる。
以上の動作と並行して、糸継台車3側ではサクションマウス46によってもパッケージ45側の糸を吸引して、糸継装置43へ受け渡しておく。その後は糸継装置43を駆動させ、紡績装置9側とパッケージ45側との間で実撚り状の糸同士を結ぶことによって糸継ぎ作業が完了する。なお、前記の結束糸47は、上記糸継ぎの際の糸切断によって除去される。
以上に示すように本実施形態の紡績機1は、糸出し紡績された結束糸47の糸端を、絞り部としての三角孔65を通過する強い空気流によって出口孔34から噴射し、糸送り装置11のローラ39・40に着地させ、両ローラ39・40の回転によってニップを行わせる構成となっている。従って、ローラ39・40を単純に回転させることで両ローラ39・40に結束糸47を挟んでニップさせることができ、従来のように糸を横送りして保持させる必要がないので、糸出し・糸継ぎの失敗を少なくできている。また、サクションパイプ44に結束糸47を吸い込んで捕捉する前に、ローラ39・40によって結束糸47をニップして張力を付与できるので、サクションパイプ44に捕捉する前の段階で第2旋回流発生ノズル36の作動を停止して通常紡績へ移行できる。従って、実撚りの紡績糸10に比べて弱く不安定な結束糸47が形成される糸出し紡績の時間を短くでき、このことによっても糸出し及び糸継ぎの成功率が向上する。また、糸出し紡績の時間の短縮化により、紡績糸10の生産効率が向上し、また、無駄になる結束糸47を少なくできるという効果も奏する。
次に、玉揚台車4による玉揚げ動作について、図7〜図9を参照しながら説明する。
複数の紡績ユニット2のうち、ある紡績ユニット2においてパッケージ45が満巻となったことが図示しないセンサによって検知されると、紡績機1の制御装置はドラフト装置7のバックローラ14、サードローラ15や紡績装置9を停止させるとともに、巻取装置12において、アーム83・84の回動により駆動ドラム79から満巻パッケージ45を離して、パッケージ45の回転駆動を停止させる。そして、玉揚台車4をその紡績ユニット2の前まで走行して停止させる。図2にはその状態が示されている。なお、パッケージが満巻近くまで巻き取られた段階で満巻の予告信号を紡績ユニット2から出力し、予め、玉揚台車4を該当ユニット2まで移動させ、待機させることも可能である。
玉揚台車4の停止後は、図7に示すように、玉揚台車4はクレードル操作アーム90を下側へ回動させて巻取装置12のアーム83を押動し、アーム83を正面側へ更に倒すように傾動させる。このとき巻取装置12の他側のアーム84も追従して正面側へ傾動するので、満巻パッケージ45は駆動ドラム79から更に離間することになる。更にアーム83を図1の鎖線に示すように他側のアーム84から離すようにクレードル操作アーム90を回動させることで、両アーム83・84の間に支持されていた満巻パッケージ45はその支持状態を解除され、傾斜床94上を転がるようにして玉揚台車4内のパッケージ通路93を通過し、載置エリア95の溝96に落下して静止する。
こうして満巻パッケージ45を取り外すのとほぼ同時に、玉揚台車4はサクションパイプ88を斜め上方へ回動させるとともに図示しない空気圧シリンダによって伸長させ、その吸込み口を前記糸送り装置11のデリベリローラ39及びニップローラ40の直ぐ下流まで移動させる(図7)。このとき紡績装置9側では前述した糸出し紡績が行われており、前記結束糸47が紡績装置9から噴出されて、糸送り装置11の両ローラ39・40にニップされ、更に下流側へ送られる。この結果、結束糸47の先端はサクションパイプ88に吸い込まれ捕捉される。
更に玉揚台車4において、前記チャッカ89が、台車ケーシング85の内部にストックされている空のボビン48を把持した後(図7)、下側へ回動される(図8)。なおこのとき、巻取装置12の一側のアーム83は前記クレードル操作アーム90によって拡開側に傾動されているので、前記両アーム83・84の間の距離はボビン48の軸方向長さよりも長くなっている。従って、チャッカ89に把持されたボビン48を両アーム83・84の間の位置に移動させた状態では、ボビン48の両軸端は、巻取装置12の両アーム83・84に対し、軸方向の隙間を形成した状態となる。
前記チャッカ89の下側への回動とほぼ同時に、前記バンチ巻駆動アーム91も図8に示すように下側へ回動し、その先端の駆動ローラ92を、前記チャッカ89に保持される空のボビン48に対して近接させる。なおこの状態では、駆動ローラ92はまだ回転駆動されていない。
更に、延出状態にあった前記サクションパイプ88を図8に示すように縮退させるとともに下側へ回動させ、紡績装置9から紡出される糸の糸端を吸い込みながら、チャッカ89に支持された空のボビン48の近傍まで、糸を案内する。なお、糸をボビン48の近傍まで案内する時点では前記紡績装置9は糸出し紡績から通常紡績へ切り換えられており、結束糸47は全てサクションパイプ88に吸い込まれ、紡績装置9からサクションパイプ88の吸込み口までの間には通常の紡績糸10が引き出されている状態となっている。
この状態で前記クレードル操作アーム90を回動させて前記アーム83の拡開状態を解除し、巻取装置12の両アーム83・84によって空のボビン48を挟んで、当該ボビン48を回転自在に支持する。またこれと同時に、前記チャッカ89によるボビン48の把持状態を解除する。なお、この支持状態においても、前記アーム83は、前記クレードル操作アーム90によってやや正面側へ倒されており、従って、前記ボビン48の周面は駆動ドラム79に接触しない。
この状態から、ボビン48に紡績糸10のバンチ巻を以下のようにして行う。即ち、図示しない所定のニップ部に、サクションパイプ88に捕捉されている紡績糸10を係止し、この状態で前記バンチ巻駆動アーム91を図8の状態から更に回動させて、その先端の駆動ローラ92をボビン48の外周面に接触させる。そして、この状態で駆動ローラ92を回転駆動することでボビン48を所定回数だけ回転させ、前記ニップ部からボビン48の軸方向に少し離れた位置に紡績糸10の棒巻を形成することで、バンチ巻を形成できる。なお、このバンチ巻のときに、紡績糸10の余分な糸端は、サクションパイプ88の先端に取り付けられた図示しないカッタで切断され、サクションパイプ88に吸引され廃棄される。
上記のバンチ巻が終了した直後には、図9に示すように、前記クレードル操作アーム90を上昇回動させて、当該クレードル操作アーム90によるアーム83の正面側への傾動状態を解除する。この結果、アーム83・84は付勢バネの作用によって起立し、空のボビン48が駆動ドラム79に接触し、紡績糸10の巻取りが開始される。なお、クレードル操作アーム90の上昇回動とほぼ同時に、前記チャッカ89や前記バンチ巻駆動アーム91も上昇回動する。以上で玉揚げ動作は完了し、玉揚台車4は、また何れかの紡績ユニット2でパッケージ45が満巻となるまで待機する。
なお、以上に示したチャッカ89やクレードル操作アーム90やバンチ巻駆動アーム91やサクションパイプ88の回動動作は、玉揚台車4に支持された図示しないカム軸が図略の電動モータによって駆動されることで、一連の動きとして行われる。
ここで、上記特許文献1の構成では、玉揚台車と紡績ユニットとの間に前記載置エリアが配置されるため、例えばバンチ巻の際に、紡績ユニット側から送り出される糸を捕捉する捕捉機構を、玉揚台車から載置エリアを横切るようにして紡績ユニット側へ長い距離だけ延出させなければならず、その捕捉機構の先端の捕捉部分を精度良く位置決めすることができなかった。従って、紡績ユニット側からの糸をうまく捕捉できない捕捉ミス等が生じてしまっていた。
この点、本実施形態の紡績機1では、前記紡績ユニット2が並べられる方向において、前記玉揚台車4の走行路が、前記満巻パッケージ45の載置エリア95と前記紡績ユニット2の間の位置に配置されている。従って、紡績装置9から紡出される糸を捕捉するためにサクションパイプ88を前記載置エリア95を跨ぐように延出させる必要がないから、サクションパイプ88の延出距離を図7に示すように短くでき、サクションパイプ88の吸込み口を糸送り装置11の直ぐ下流に精度良く位置決めすることができる。従って、サクションパイプ88による捕捉ミスを低減することができる。また、正面側の作業スペースから近い位置に載置エリア95を配置できるので、載置エリア95へのアクセスが容易で、満巻パッケージ45を回収する度に作業者が走行面97に乗り降りする必要がない。更に、紡績ユニット2を点検する場合においても、その該当ユニットに玉揚台車4が停止・通過しない限り、作業者は走行面97上に乗って作業できるので、作業者の足場から紡績ユニット2へのアクセスも容易になる。ここで、一般的に、満巻パッケージ45の回収作業の頻度よりも、紡績ユニット2の点検の頻度の方が低い。これらを総合すると、玉揚台車4の走行面97への乗り降りの回数を減らすことができる。
更に、前記玉揚台車4は、前記紡績ユニット2が並べられる方向に直交する方向のパッケージ通路93を備えている。そして、前記紡績ユニット2の巻取装置12に支持されている満巻パッケージ45は、その支持状態を解除された後、図7に示すように、前記パッケージ通路93を通って前記載置エリア95に移動する。従って、玉揚台車4にパッケージ通路93を備える構成であるので、例えば満巻パッケージ45が玉揚台車4の上方を越えて載置エリア95へ送られる構成に比べて、満巻パッケージ45の移動経路を短くでき、また、満巻パッケージ45を持ち上げて上昇させるための構成も不要とできる。また、パッケージ通路93が玉揚台車4を貫通するように形成されているので、玉揚台車4の側方に迂回路の如き通路を設けてその通路を通じて載置エリア95へ満巻パッケージ45を送る構成に比べて、満巻パッケージ45の移動経路(満巻パッケージ45が載置エリア95に送られるまでにパッケージ表面が通路と接触する距離)を短くでき、パッケージ表面に汚れ等が付着する可能性を小さくできる。
次に、上記の玉揚台車4への電力などの供給構成について、図10を参照して説明する。
この図10に示すように、紡績機1のケーシング6の正面手前側には玉揚台車4の走行路86が備えられており、この走行路86の走行面97上を玉揚台車4の走行輪87が走行するようになっている。走行路86には、その走行路86の長手方向に沿って細長い凹溝98が設けられる。一方、玉揚台車4の底部には、この凹溝98の内壁に接触して回転する案内ローラ(ローラ体)99が複数設けられている。この構成とすることで、凹溝98の内壁が案内面としての作用を営み、玉揚台車4の走行する方向を、紡績ユニット2が並べられる方向に適切に案内することができる。
前記凹溝98の溝幅は、前記案内ローラ99の外径よりも若干大きく設定されている。そして玉揚台車4には案内ローラ99が3つ設けられており、3つのうち2つは前記凹溝98の一側の内壁に、残りの1つは他側の内壁に、それぞれ接触するようになっている。この構成とすることで、3つの案内ローラ99が呈する位置決め作用によって、玉揚台車4の走行時にガタが生じるのを防止している。
更に、前記走行面97には摩耗防止用のシート部材101が貼設されている。玉揚台車4の走行輪87は、このシート部材101の上面に接触しながら走行するようになっている。
前記凹溝98は、前記走行面97の下側に形成した動力供給線収容室102と通じている。この動力供給線収容室102は、前記走行面97と平行な長手方向を有する細長い空間であり、この内部には、屈曲性保護具100がU字状に屈曲された状態で載置されている。この屈曲性保護具100は、中空状の多数のリンクを所定の角度範囲で回動自在に連結しながら線状に連ねた構成となっており、内部に条体(例えば、導電線、ホース等)を収納して保護することができる。そして、各リンクが他のリンクに対して回動することで、屈曲性保護具100はある方向に屈曲を呈することができる。
本実施形態において屈曲性保護具100の固定端側はケーシング6側に接続され、自由端側は玉揚台車4側に接続される。屈曲性保護具100の内部には動力供給線103が収納されている。動力供給線103は本実施形態では、紡績機1の制御部からの制御信号を玉揚台車4に伝送するための制御信号線や、前記サクションパイプ88の伸縮を行わせるための図略の空気圧シリンダに圧縮空気を送るための圧空ホースで構成されている。また、前記サクションパイプ88やチャッカ89等を回動させるためのカム軸を駆動する電動モータや、前記走行輪87を駆動するための電動モータに電力を供給するための給電線も、前記動力供給線103を構成する。なお、本明細書で「動力供給線」103とは、給電線、制御信号線、エア供給パイプ等、玉揚台車4の走行や玉揚げ動作に必要な動力を供給したり信号を伝達したりする線のことをいう。
この屈曲性保護具100は、図10に示すように、前記動力供給線収容室102の内部に、屈曲がほぼ水平面内で行われるようにその屈曲方向を向けて載置される。従って、屈曲性保護具100の最小曲げ半径が大きい場合でも、屈曲性保護具100を高さ方向でコンパクトに設置できるから、動力供給線収容室102を高さ方向でコンパクトにできる。
以上に示すように、本実施形態の紡績機1では、前記玉揚台車4の走行輪87を走行させる走行面97の下側に動力供給線収容室102を設け、この動力供給線収容室102の内部に、前記玉揚台車4に接続される動力供給線103を配置するとともに、この動力供給線103を保護する屈曲性保護具100を配置している。そして、この屈曲性保護具100は、その屈曲がほぼ水平面内で行われるように、動力供給線収容室102内に配置されている。
従って、動力供給線収容室102を高さ方向でコンパクトとできるから、その上側にある玉揚台車4の走行面97を低くできる。従って、メンテナンス時に作業者が走行面97上に立って紡績ユニット2の点検等をする際に作業性を向上できる。例えば、低い位置にある巻取装置12をメンテナンスする際も、足元の走行面97が低くなっていることにより、作業者に負担の掛かる姿勢を強いる場合が少なくなる。
また本実施形態の紡績機1では、前記玉揚台車4の走行輪87を走行させる走行面97に凹溝98を設けている。そして、玉揚台車4には、前記凹溝98の内壁に接触して回転する案内ローラ99を複数設けている。そして、複数の前記案内ローラ99は、前記凹溝98の互いに対向する一対の内壁の両方に対して、1つ以上の案内ローラ99が接触するように配置されている。従って、前記玉揚台車4の走行方向を案内する案内面を凹溝98の内壁で構成することができるから、前記走行面97に凸状のレールなどを設けることなく、玉揚台車4の走行時等のガタを防止できる。この結果、紡績ユニット2や糸継台車3をメンテナンスするために走行面97上に作業者が立って作業をする場合でも、足元の凸起を少なくしあるいはゼロとすることができ、作業性を向上できる。
更に前記玉揚台車4の走行面97には、摩耗防止用のシート部材101が貼設されている。従って、走行輪87の走行による走行面97の摩耗を防止できる。例えば仮にケーシング6の上面に走行面97が直接構成されていた場合には、ケーシング6の塗装が走行輪87との摩擦により剥離し、塗料屑が製品としての満巻パッケージ45に付着して品質を低下させることが考えられるが、本実施形態では前記シート部材101によってこの問題を回避できる。
なお、図11に示すように、前記走行空間50内に、前記紡績ユニット2が並べられる方向に沿って走行可能な糸継台車3・3’を2台設けても構わない。以下、この構成について説明する。図11は糸継台車を複数設けた他の実施形態の紡績機を示す全体正面図である。
即ち図11に示すように、一つの機台に2台の糸継台車3・3’が備えられており、各々が作業する範囲が、仮想の境界線300によって決められている。例えば、仮想境界線300によって区分けされた左半分を糸継台車3の作業範囲とし、残りの右半分を糸継台車3’の作業範囲とする。なお、玉揚作業を行う台車(玉揚台車4)はこれらの糸継台車3・3’とは別に単独で設けられており、この玉揚台車4の作業範囲は機台の全範囲とされている。
この図11のような構成によれば、複数のユニットから同時に糸継要求があったとしても、できるだけ早くその該当ユニットに到着し、糸継作業を行うことができる。また、糸継作業を行う台車3・3’を玉揚作業を行う台車4とは別に設けているので、糸継要求と同時に別のユニットから玉揚要求があったとしても、糸継台車3・3’はその玉揚要求に拘束されることなく糸継要求ユニットに到着し、糸継作業を行うことができる。
この図11の構成は、例えば、前記のクリアラー52のような糸欠陥検出器(図11では図略)による糸欠陥検出基準を厳しくしたり、糸欠陥検出器が糸の太さムラ欠陥検出と異物検出を併せて行うように構成した場合に有効である。即ち、上記のような場合には糸欠陥の検出の頻度が増大し、糸切断による糸継作業の必要頻度が増大する。そこで、図11のような構成とすることにより、頻繁な糸継要求に対してもより早急に対応することが可能である。その結果、紡績機機台の運転効率向上、パッケージ生産性の向上につながる。なお、図11では2台の糸継台車3・3’を設けた構成としているが、糸継台車3・3’を3台以上設けるようにしても良い。この場合は、機台の全範囲を3つ以上に分割するように仮想境界線を設定し、それぞれの糸継台車に各作業範囲を割り当てるようにすれば良い。
更に本実施形態の紡績機1において、紡績ユニット2は、紡績ノズル19と中空ガイド軸体20を備える紡績装置9と、この紡績装置9の下流側の糸送りローラ(デリベリローラ39・ニップローラ40)を備えている。更に中空ガイド軸体20は、上流側の繊維を糸継ぎ時に引き込むための第2旋回流発生ノズル36を備えている。そして前記中空ガイド軸体20の内部の糸通路29において、前記第2旋回流発生ノズル36の下流側に、断面積が絞られた三角孔65を設けている。更に、前記紡績装置9から紡出された結束糸47を前記糸送りローラ39・40の直ぐ下流で捕捉して、前記糸継台車3の糸継装置43に案内するサクションパイプ44を備えている。
この構成により、糸出し及び糸継ぎの成功率を向上させることができる。即ち、第2旋回流発生ノズル36の下流側に三角孔65が設けられているので、中空ガイド軸体20から糸出しされた糸端を強い気流で糸送りローラ39・40まで到達させることができる。従って、糸送りローラ39・40を単純に回転させることで糸送りローラ39・40に結束糸47をニップできるので、糸を横送りして両ローラ39・40にニップさせるような構成に比べ、糸出し・糸継ぎの失敗が少なくなる。また、糸送りローラ39・40によって結束糸47が保持された後は、その直ぐ下流でサクションパイプ44に受け渡すことで、前記糸継装置43に適切に案内させることができる。また、糸送りローラ39・40によって糸に張力が付与された後は、その後にサクションパイプ44によって捕捉される前に、前記第2旋回流発生ノズル36の作動を停止して実撚りに早い段階で移行することができる。従って、紡出される糸が弱く不安定な糸出し紡績の時間を短くでき、このことによっても糸出し及び糸継ぎの成功率が向上する。
更に、糸継台車3のサクションパイプ44を紡績装置9の出口孔34の直ぐ下流ではなく、糸送りローラ39・40の直ぐ下流まで延出させれば良いので、糸継台車3のサクションパイプ44を短くできる。従って、糸送り装置11の直ぐ下流まで上昇させたサクションパイプ44やその回動軌跡が他の装置と干渉する度合いを小さくすることができる。本実施形態の紡績機1でいえば、糸継台車3の走行空間50に隣接して玉揚台車4の走行路86が配置されているが、サクションパイプ44を上昇回動させても玉揚台車4と干渉しない構成とすることができる。従って、玉揚台車4(の走行路86)を更に紡績ユニット2に近づけることができ、機台のコンパクト化に貢献できている。
なお、前記紡績装置9の中空ガイド軸体20(図3)においては、絞り部を前記三角孔65とすることに限られず、断面積を上流側に比べて絞る構成であれば、その断面形状を他の形状、例えば円形や四角形となるように構成して良い。
また、本発明は上記の構成の紡績装置を備えた紡績機に限定されず、他の構成の紡績装置を備えたタイプの紡績機にも適用可能である。更に言えば、本発明は紡績機のみならず、糸に対して何らかの処理を行ってパッケージを形成し、玉揚台車による作業が必要となる繊維機械全般に適用することができる。