JP3950079B2 - ノボラック型フェノール樹脂及びその製造方法 - Google Patents

ノボラック型フェノール樹脂及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フェノール類モノマー成分の含有量が極めて少なく、フェノール類ダイマー成分を主体とした低分子量でかつ分子量分布の狭いノボラック型フェノール樹脂及びそのような樹脂を効率良く製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ノボラック型フェノール樹脂は、一般に酸触媒の存在下、フェノール類とアルデヒド類とを所望の縮合度まで反応させて初期縮合物を合成した後、減圧下に高温濃縮して製造されている。このような製造方法で得られるノボラック型フェノール樹脂は、臭気を伴うフェノール類モノマー成分を多く含んでいるが、これらの気散による環境の汚染が問題となっており、このようなフェノール類モノマー成分を低減する方法が検討されてきた。例えば、縮合反応終了後のノボラック系縮合物を150〜210℃で濃縮する際に不活性ガスや水蒸気を吹き込んで低分子量成分を除去する方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、この方法によれば、フェノール類モノマー成分の低減効果は確かではあるが、樹脂が高分子量化しやすくなり、さらにフェノール類モノマー成分の除去により樹脂の収率が低下してしまうという問題点があった。
【0003】
特に、低分子量で分子量分布の狭いノボラック型フェノール樹脂は、電気・電子材料や半導体封止材料等に用いられるエポキシ樹脂用のベースレジンもしくはエポキシ樹脂用硬化剤をはじめとして、積層板、鋳型用材料、成形材料等のバインダーとして広く用いられている。一般的に、このような低分子量のノボラック樹脂は、アルデヒド類に対して3〜50倍のフェノール類を比較的低い温度で長時間反応させることにより製造されているが、大過剰のフェノール類を作用させるため未反応フェノール類が反応系内に大量に残存し、これらの除去に煩雑な工程を要するという問題や、容積効率が悪く収率が低いという問題があった。
【0004】
このように、フェノール類モノマーの含有量が低減され、低分子量でかつ分子量分布が狭いといった特性を有するノボラック型フェノール樹脂を効率良く製造する方法は未だに確立されていないのが現状である。
【0005】
【特許文献1】
特公平7−91352号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、低分子量でかつ分子量分布が狭いノボラック型フェノール樹脂を効率良く製造することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を克服するために鋭意研究した結果、フェノール類、アルデヒド類、及びリン酸から形成される二相分離状態、即ち、不均一系でフェノール類とアルデヒド類とを反応させると、アルデヒド類とフェノール類のモル比が0.33〜0.40の範囲内において、フェノール類ダイマー成分を主体する、低分子量でかつ分子量分布が狭いノボラック型フェノール樹脂が得られることを見出し、この知見をもとにさらに研究を重ねて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のノボラック型フェノール樹脂の製造方法は、フェノール類と、フェノール類1モルに対して0.33モル以上0.40モル未満のアルデヒド類とを、フェノール類100質量部に対して25質量部以上のリン酸類の存在下で不均一系反応させる工程を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明のノボラック型フェノール樹脂は、ゲル濾過クロマトグラフの面積法による測定でフェノール類モノマーの含有量が1%以下かつフェノール類ダイマーが45〜95%、ゲル濾過クロマトグラフ測定によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が200〜450、かつ重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との分散比(Mw/Mn)が1.3以下であることを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明のノボラック樹脂は、原料としてフェノール類及びアルデヒド類、酸触媒としてリン酸を必須とし、これらから形成される二層分離状態を、機械的攪拌、超音波等によりかき混ぜ混合して二相(有機相と水相)が交じり合った白濁状の不均一反応系において、フェノール類とアルデヒド類との反応を進めて縮合物(樹脂)を合成する。次に、例えば非水溶性有機溶媒(例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)を添加混合して該縮合物を溶解し、かき混ぜ混合を止めて静置し、有機相(有機溶媒相)と水相(リン酸水溶液相)とに分離させる。その後水相を除去して回収を図る一方、有機相については湯水洗及び/又は中和した後、有機溶媒を蒸留回収することによって製造される。
【0011】
本発明方法は、上述したごとく相分離反応を利用しているため、攪拌効率は極めて重要であり、反応系中の両相を微細化して界面の表面積をできうる限り増加させることが反応効率の面から望ましく、これによりフェノール類モノマー成分の樹脂への転化が促進される。また、本発明方法での特異な点は、後述の実施例で示す様に、得られるノボラック樹脂のフェノール類モノマー成分が少なくかつフェノール類ダイマー成分が従来製法の樹脂よりも多いと共に、分子量分布幅が狭く収率が高いという特徴を有している。
【0012】
原料として用いるフェノール類としては、例えばフェノール、クレゾール、キシレノール、ブチルフェノール、フェニルフェノール等が挙げられる。一方、アルデヒド類としては、例えばホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等が挙げられる。これらの原料は、いずれも例示に限定はされず、またそれぞれ、単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0013】
アルデヒド類(F)とフェノール類(P)の配合比(F/P)は、モル基準で0.33以上0.40未満、好ましくは0.34〜0.38の範囲である。配合割合が0.33未満では未反応フェノール類モノマーが増えるため容積効率が低下し、0.40以上では分散比が大きくなる。
【0014】
また、酸触媒として用いるリン酸は、フェノール類との間で相分離反応の場を形成する重要な役割を果すものであるため、好ましくは水溶液タイプ、例えば89質量%リン酸、75質量%リン酸などが用いられるが、必要に応じて例えばポリリン酸、無水リン酸などを用いてもよい。
【0015】
リン酸の配合量は、相分離効果の制御に大きく影響を与えるが、フェノール類100質量部に対して5質量部以上、好ましくは25質量部以上、より好ましくは50質量部以上である。配合量が5質量部未満では、反応促進効果がみられない。なお、70質量部以上のリン酸を使用する場合には、反応系への分割投入により、反応初期の発熱を抑えて安全性を確保することが望ましい。
【0016】
また、反応系中の水の量は、相分離効果、生産効率に影響を与えるが、一般的には質量基準で4.5%〜40%である。水の量が4.5%未満や、逆に40%を超えると生産効率が低下する可能性がある。
【0017】
また、フェノール類とアルデヒド類との反応温度は、相分離効果を高める上で重要であり、一般的には40℃〜還流温度、好ましくは80℃〜還流温度、より好ましくは還流温度である。反応温度が40℃未満であると反応時間が極めて長くなる上、フェノール類モノマーの低減化ができない可能性がある。なお、反応時間としては、反応温度、リン酸の配合量、反応系中の含水量などにより異なるが、一般的には1〜10時間程度である。また、反応環境としては、常圧が好適であるが、本発明の特徴である不均一反応を維持するならば、加圧下又は減圧下で反応を行なってもよい。
【0018】
本発明のノボラック型フェノール樹脂(以下、ノボラック樹脂という)は、従来のノボラック樹脂よりもフェノール類モノマーの含有量が少なく、フェノール類ダイマー成分の含有量が多い、具体的にはゲル濾過クロマトグラフ(以下、GPCという)の面積法でフェノール類モノマー成分の含有量が1%以下、フェノール類ダイマー成分の含有量が45〜95%、好ましくは50〜90%であることを第一の特徴としている。フェノール類モノマー成分の含有量が1%より多くなると、作業環境の問題をはじめとするフェノール類モノマー成分に起因する諸問題を解決することができず好ましくない。また、フェノール類ダイマー成分の含有量が45%未満では樹脂の溶融粘度が高くなり流動性が低下するため好ましくなく、95%を越えると樹脂の耐熱性が低下し実用に供さなくなるため好ましくない。
【0019】
また、本発明のノボラック樹脂は、GPC測定によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が200〜450、好ましくは250〜400であり、かつ重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との分散比(Mw/Mn)が1.3以下、好ましくは1.05〜1.25の間に制御されていることを第二の特徴としている。Mwが200より小さいと耐熱性が低くなり実用に供さないし、450を超えると樹脂の溶融粘度が上昇して流動性が低下する。また、分散比(Mw/Mn)が1.3を越えると樹脂の溶融粘度が上昇し流動性が低下するため好ましくない。
【0020】
[作用]
本発明方法によって、従来製法の樹脂よりフェノール類モノマー成分が少なく、フェノール類ダイマー成分が多く、低分子量でかつ分子量分布幅が狭いノボラック樹脂が収率よく得られる理由は、必ずしも明確ではないが次のように推察される。
【0021】
多分、フェノール類が主成分の有機相と、リン酸及びアルデヒド類が主成分の水相とが交じり合っている白濁状態の不均一反応系において、有機相中のフェノール類は水相内に溶け込み、リン酸の触媒作用下にアルデヒド類と反応して水相に共存し得ない縮合物(樹脂)に成長すると、縮合物の溶解能を有する有機相に移動し、さらなる縮合物の成長が抑制ないしは停止されるため高分子量化が抑制される。このように本発明方法は、水相内でのフェノール類の樹脂化と有機相内での樹脂の高分子量化が抑制される機構の二液相界面反応を利用しているため、縮合反応終了時点で、既にフェノール類モノマーが少なく、しかも分子量分布幅が狭い範囲に集約された樹脂が製造される上、大幅な収率の向上が発現されるものと思われる。
【0022】
また、本発明方法の実施においては、アルデヒド類/フェノール類のモル比が比較的低い範囲になっている。その範囲内においては、水相内での縮合物の成長が抑制されるため、フェノール類ダイマー成分が消費され難くなり、その為、収率が多い割には最終製品のフェノール類ダイマー成分は従来処方と比較して多いという特徴が発現されているのであろう。これらのことから、反応原料配合比やリン酸量の設定が最重要ではあるが、これに関連する水や反応温度も本発明方法の相分離効果を効率的に発現する上で重要であると思慮される。即ち、本発明方法は、上述の推察理由に基づく適正な反応条件の設定により、フェノール類モノマー成分の含有量が少なく、フェノール類ダイマー成分が多く、低分子量でかつ分子量分布幅の狭いノボラック樹脂を高収量で製造することができるものと推察される。
【0023】
【実施例】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、得られたノボラック樹脂の特性は下記の試験法により測定した。
【0024】
(I)分散比(Mw/Mn)
東ソー株式会社製ゲル濾過クロマトグラフSC−8020シリーズビルドアップシステム(カラム:G2000Hxl+G4000Hxl、検出器:UV254nm、キャリヤー:テトラヒドロフラン1ml/min、カラム温度:38℃)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を求めて分散比(Mw/Mn)を算出した。
【0025】
(II)フェノール類モノマー成分及びフェノール類ダイマー成分の含有量(%)
分子量分布の全面積に対するフェノール類モノマー成分及びフェノール類ダイマー成分の面積を百分率で表示する面積法によって測定した。
【0026】
<実施例1>
温度計、攪拌装置、還流冷却器を備えた反応容器内に、フェノール(P)を188g、37質量%ホルマリン(F)を57g(F/P=0.35)、89質量%リン酸を113g仕込んだ後、攪拌混合により形成される白濁状態(2相混合物)のもとで、徐々に還流温度(98〜102℃)まで昇温し、さらに同温度で2時間縮合反応を行なってから反応を停止した。
【0027】
次いで、攪拌混合しながらメチルイソブチルケトンを添加して縮合物を溶解した後、攪拌混合を停止して内容物を分液フラスコ内に移して静置し、メチルイソブチルケトン溶液層(上層)とリン酸水溶液層(下層)に分離させた。次いで、リン酸水溶液層を除去し、メチルイソブチルケトン溶液を数回水洗してリン酸を除いた後、再び内容物を反応容器内に戻し、減圧蒸留によりメチルイソブチルケトンを完全に除去してノボラック樹脂105g(収率56質量%/P)を得た。なお、ノボラック樹脂の収率はフェノールの仕込み量(質量基準)に対する百分率で表示した。
【0028】
得られたノボラック樹脂については、冒頭記載の試験法により、各特性を測定した。それらの結果を表1に示す。なお、表1中の「N.D.」は検出されなかった事を意味する。
【0029】
<実施例2〜4>
反応条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてノボラック型フェノール樹脂を得、同様の測定を行なった。これらの結果を表1に示す。
【0030】
<比較例1>
温度計、攪拌装置、コンデンサーを備えた反応容器内に、フェノールを188g、37質量%ホルマリンを57g(F/P=0.35)、蓚酸を0.9g仕込んだ後、徐々に還流温度(98〜102℃)まで昇温して同温度で10時間縮合反応を行なった。次いで、減圧濃縮してノボラック樹脂90g(収率48質量%/P)を得、実施例1と同様の測定を行なった。これらの結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
Figure 0003950079
【0032】
表1より明らかなごとく、本発明のノボラック樹脂は、従来製法にて製造されたノボラック型フェノール樹脂と比較して、フェノール類モノマー成分が少なくフェノール類ダイマー成分が多く、かつ分子量分布の狭い樹脂が高収率で製造されることが確認された。
【0033】
【発明の効果】
本発明においては、リン酸類の存在下でリン酸相分離反応を行なうことによって、フェノール類モノマーやフェノール類ダイマーの含有量や分散比の制御されたノボラック型フェノール樹脂を高収率で得ることが可能となり、製造コストの大幅な低減が可能となる。
【0034】
また、本発明で得られるノボラック型フェノール樹脂は、従来型樹脂よりもフェノール類モノマー成分が極めて少ないものが得られるため、作業環境の汚染などや生産効率などの問題を改善することができる。また、分子量分布が狭く溶融粘度が低い樹脂が得られるため、例えばエポキシ樹脂用ベースレジン、エポキシ樹脂用硬化剤をはじめとして、積層板、鋳型用材料、成形材料等のバインダーとして好適に使用される。

Claims (2)

  1. フェノール類と、フェノール類1モルに対して0.33モル以上0.40モル未満のアルデヒド類とを、フェノール類100質量部に対して5質量部以上のリン酸類の存在下で不均一系反応させる工程を有することを特徴とするノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
  2. ゲル濾過クロマトグラフの面積法による測定でフェノール類モノマーの含有量が1%以下かつフェノール類ダイマーの含有量が45〜95%、ゲル濾過クロマトグラフ測定によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が200〜450かつ重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との分散比(Mw/Mn)が1.3以下であることを特徴とするノボラック型フェノール樹脂。
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