JP3946482B2 - 曲げ加工におけるd値補正装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、プレスブレーキによる曲げ保持時間の違いに対する曲げ加工におけるD値補正方法およびその装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、プレスブレーキでの曲げ加工において、曲げ保持時間が異なると同じ刃間距離(D値)でも仕上がり角度が異なることが知られているが、これまで板金曲げ加工の分野での要求精度では、実用上あまり問題とされなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、近年、曲げ加工に対する要求精度が高くなるにつれて、前述のような従来の技術にあっては、以下に示すような問題が新たに生じるようになってきた。
【0004】
(1)、従来のプレスブレーキにおけるD値計算式においては、計算要素に曲げ保持時間が考慮されていないため、曲げ保持時間を変えても常に計算D値は一定である。このため、曲げ保持時間を変更すると、そのままのD値では必要な曲げ角度が得られないという問題がある。
【0005】
(2)、狙い角度を得るためにD値計算式を使用せずに試し曲げでD値を決定する場合でも、手動パルス曲げによる試し曲げでは曲げ保持時間が非常に長くなる場合が多く、実際の製品加工(連続曲げ)ではタクトを短縮するために、曲げ保持時間を短くする場合が多い。このため、試し曲げと実加工とでは曲げ保持時間に大きな差がある場合が多く、試し曲げで得られたD値で製品加工を行なっても狙い角度が得られないという問題がある。
【0006】
この発明の目的は、以上のような従来の技術の問題点に着目してなされたものであり、曲げ保持時間が異なっても同一の曲げ角度を得ることができる曲げ加工におけるD値補正方法およびその装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の曲げ加工におけるD値補正装置は、制御装置によりラムをD軸制御して、ラムに装着されたパンチとダイとの協働により曲げ加工を行なう際に、前記パンチとダイによりワークを曲げた状態で保持する曲げ保持時間が変わっても同じ仕上がり角度を得るためにD値の補正を行なう曲げ加工におけるD値補正装置において、前記制御装置が、予め実験により得られた一定のD値における曲げ保持時間と仕上がり角度変化量との関係を記憶しておく記憶手段と、前記一定のD値において曲げ保持時間が変化した場合に前記曲げ保持時間と仕上がり角度変化量との関係から変化前後の曲げ保持時間に対する仕上がり角度変化量を求め、変化前の曲げ保持時間に対する目標曲げ角度を補正して変化後の曲げ保持時間に対する目標曲げ角度を算出する補正曲げ角度算出部と、この補正曲げ角度算出部により算出された補正後の目標曲げ角度に対するD値を算出するD値算出部と、を備えてなることを特徴とするものである。
【0012】
従って、予め種々の曲げ条件に対して曲げ加工の実験を行ない、この実験データから一定のD値における曲げ保持時間と仕上がり角度変化量との関係を求めて制御装置の記憶手段に記憶しておく。また、ある曲げ保持時間で曲げ加工する際のD値を例えば試し曲げで求めておく。そして、実際の曲げ加工においては、先にD値を求めた曲げ保持時間とは異なる曲げ保持時間により曲げ加工を行なう必要がある場合があるが、この曲げ保持時間の違いにより仕上がり角度が異なってくるため、予め記憶されている曲げ保持時間と仕上がり角度変化量との関係から、補正曲げ角度算出部が変化後の曲げ保持時間である実際の曲げ保持時間に対する補正後目標曲げ角度を算出し、この補正後目標曲げ角度に対するD値をD値算出部が算出する。
【0013】
請求項2による発明の曲げ加工におけるD値補正装置は、請求項1記載の曲げ加工におけるD値補正装置において、前記制御装置に、前記曲げ保持時間を計測する曲げ保持時間計測器が接続されていること、を特徴とするものである。
【0014】
従って、試し曲げによってD値を求める際には、試し曲げ曲げ保持時間は、曲げ保持時間計測器により計測されて制御装置に伝達され、記憶される。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0016】
図5および図6には、ごく一般的なプレスブレーキ1が示されている。このプレスブレーキ1では、左右の側板3L、3Rが立設されており、この左右の側板3L、3Rの上部前端面にはラムとしての上部テーブル5Uが上下方向(D軸方向)に移動自在に設けられている。また、左右の側板3L、3Rの下部前端面には、下部テーブル5Lが固定的に設けられている。
【0017】
上部テーブル5Uの下端部には、多数の中間板7を介してパンチPが交換自在に取付けられている。また、下部テーブル5Lの上端部には、ダイホルダ9によりダイDが交換自在に取付けられている。上部テーブル5Uは、左右の油圧シリンダ11L、11Rのピストンロッド13に取付けられている。なお、プレスブレーキ1に隣接して制御装置であるNC装置15が設けられている。
【0018】
従って、NC装置15のD軸制御により、油圧シリンダ11L、11Rが上部テーブル5Uを上下移動させて、パンチPとダイDとの協働により、ダイDの上に位置決めされているワークWの曲げ加工を行なうものである。
【0019】
図1を参照して、この発明に係るD値補正装置としてのNC装置15の構成について説明する。このNC装置15は中央処理装置としてのCPU17を備えており、このCPU17には、種々のデータを入力するための例えばキーボードのごとき入力手段19、種々のデータを表示するための例えばCRTのごとき出力手段21が接続されている。
【0020】
また、CPU17には、記憶手段であるメモリ23、所望の曲げ角度を得るためのD値を算出するD値算出部25、曲げ速度が変化しても同一の曲げ角度を得るために目標曲げ角度を補正する補正曲げ角度算出部27、が接続されている。
【0021】
次に、曲げ保持時間が変化しても同一の曲げ角度を得るためのD値補正方法について説明する。なお、ここで「曲げ保持時間」というのは、プレスブレーキ1が曲げ動作を完了して、金型(パンチPとダイD)がワークWを挟み込んだ状態(すなわち曲げ状態)を保持している時間を意味している。
【0022】
予め、実験を行なって、例えば図2に示されているような曲げ保持時間と角度変化量の関係式を求めてく。すなわち、曲げ保持時間をT、同一D値で曲げ保持時間を変えた場合の仕上がり角度の変化量をΔθとすると、
Δθ=h(T)……(1)
で表される。なお、図2に示されている曲げ保持時間Tと角度変化量Δθの関係式は1次式であるが、これは例示であり式(1)が1次式である必要はない。
【0023】
この関係式(1)は、材質、板厚、金型形状、仕上がり角度等の曲げ条件ごとに実験的に求めておき、NC装置15のメモリ23に記憶しておく。
【0024】
また、曲げ保持時間を考慮しない場合において曲げ角度θを得るためのD値を算出する計算式
D=g(θ)……(2)
もNC装置15のメモリ23に記憶されており、この式に基づいてD値算出部25がD値を算出する。
【0025】
実施例1
次に、NCプログラム中の曲げ保持時間(タイマ値)をT1からT2に変更して曲げ加工を行う場合のD値の補正方法について具体的に説明する。ここで、
Δθ1,2;曲げ保持時間をT1からT2に変えた場合の角度変化量
θ1;曲げ保持時間T1、D値がD1のときの仕上がり角度
D2;曲げ保持時間T2の時に角度θ1が得られるD値
g(θ);曲げ角度θを得るためのD値を求める計算式
を意味する。また、
Δθ1,2=h(T2)−h(T1)……(3)
D2=g(θ1−Δθ)……(4)
である。
【0026】
今、T1=0.5秒、T2=1秒、Δθ=h(T)(図3参照)、θ1=90°00′の場合、曲げ保持時間をT2に変化して曲げ加工を行うと、同一D値で曲げても、式(3)および図3から、
Δθ1,2=h(1)−h(0.5)=−40′+20′=−20′
となり、20′だけ曲げ角度がきつくなる。そこで、式(4)から、
D2=g(90°00′+00°20′)=g(90°20′)
すなわち、補正曲げ角度算出部27は、90°20′を補正後の目標曲げ角度として算出し、この補正後の目標曲げ角度に対するD値をD値算出部25が算出し、このD値でかつ曲げ保持時間をT2に保持して曲げ加工を行なえば、曲げ保持時間を0.5秒から1秒に長くしても同一の目標角度90°00′に曲げ加工することができる。
【0027】
なお、図3で示した曲げ保持時間Tと曲げ角度変化量Δθとの関係は、例えば図4に示されているような実験結果から得られた近似曲線を示したものである。ここで、図4の実験値は、例えば材料SPCCで板厚t1,t2のワークに対して、曲げ長さ100mm、V幅8mm、金型角度88度で、目標曲げ角度90度(図4中○印)、95度(図4中□印)、110度(図4中△印)の場合について示したものである。
【0028】
実施例2
次に、試し曲げ(テパ曲げ)で決定したD値を決定し、このときの曲げ保持時間と異なる曲げ保持時間で製品曲げ(本番曲げ)を行なう場合におけるD値補正方法について説明する。なお、この場合には、試し曲げ時に曲げ保持時間がどれだけあったかを自動計測する保持時間計測器29を制御装置15に接続しておく(図1参照)。
【0029】
まず、試し曲げ(手動パルス曲げ)で決定したD値をNC装置15のメモリ23に記憶すると共にこの試し曲げを行なったときの曲げ保持時間を保持時間計測器29により計測してメモリ23に記憶する。そして、この試し曲げによる曲げ角度を測定して記憶しておく。
【0030】
ここで、
T1;試し曲げ保持時間
T2;製品曲げ保持時間
Δθ1,2;同じD値に対する製品曲げと試し曲げの角度変化量(図2または図3より得られる。)
θ1;試し曲げ時の仕上がり角度(目標曲げ角度)
D2;製品曲げにおいて、角度θ1が得られるD値(製品曲げにおけるD値)
g(θ);曲げ角度θを得るためのD値を求める計算式であり、曲げ角度θは、試し曲げにおける目標角度と、曲げ保持時間の相違により生じる角度変化量Δθ求められる。すなわち、θ=θ1−Δθとなる。
【0031】
Δθ1,2=h(T2)−h(T1)……(5)
D2=g(θ1−Δθ)……(6)
とおくことにより、前述した実施例1の場合と全く同様にして、曲げ保持時間をT2にして製品曲げを行う場合のD値の補正を行なうことができる。
【0032】
以上の結果から、実験的に得られた曲げ保持時間と角度変化量との関係を用いて、製品の曲げ加工を行なおうとするときの曲げ保持時間に応じてD値を補正するので、D値を求めたときの曲げ保持時間と異なる曲げ保持時間で曲げ加工を行なっても、同一の曲げ角度を得ることができる。これにより、試し曲げの際の曲げ保持時間と異なる保持時間で製品曲げを行なう場合でも、高精度の曲げ加工を行なうことができる。
【0033】
なお、この発明は前述の発明の実施の形態に限定されることなく、適宜な変更を行うことにより、その他の態様で実施し得るものである。すなわち、前述の発明の実施の形態においては、上部テーブル5Uがラムとして上下移動する場合について説明したが、下部テーブル5Lがラムとして上下移動するものでも全く同様に適用することができる。また、油圧シリンダ11によりラムの上下移動を行なうものについて説明したが、モータによりラムの上下移動を行なうものであっても全く同様である。
【0036】
【発明の効果】
本発明による曲げ加工におけるD値補正装置では、実際の曲げ加工においては、先にD値を求めた曲げ保持時間とは異なる曲げ保持時間により曲げ加工を行なう必要がある場合があるが、この曲げ保持時間の違いにより仕上がり角度が異なってくるため、予め記憶されている曲げ保持時間と仕上がり角度変化量との関係から、補正曲げ角度算出部が変化後の曲げ保持時間である実際の曲げ保持時間に対する補正後目標曲げ角度を算出し、この補正後目標曲げ角度に対するD値をD値算出部が算出して、このD値に対して曲げ加工を行なう。これにより、曲げ保持時間の違いにもかかわらず、同じ仕上がり角度を得ることができる。
【0037】
請求項2の発明による曲げ加工におけるD値補正装置では、試し曲げによってD値を求める際には、試し曲げ曲げ保持時間は、曲げ保持時間計測器により計測されて制御装置に伝達され、記憶されるので、試し曲げにおける曲げ保持時間を正確に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係る曲げ加工におけるD値補正装置を示すブロック構成図である。
【図2】曲げ保持時間と角度変化量との関係の一例を示すグラフである。
【図3】曲げ保持時間と角度変化量との関係の別の例を示すグラフである。
【図4】種々の目標曲げ角度についての試し曲げにおける曲げ保持時間と角度変化量との関係を示すグラフである。
【図5】プレスブレーキの正面図である。
【図6】図5中VI方向から見た側面図である。
【符号の説明】
15 NC装置(制御装置)
5U 上部テーブル(ラム)
P パンチ
D ダイ
W ワーク
23 記憶手段
25 D値算出部
27 補正曲げ角度算出部
29 曲げ保持時間計測器

Claims (2)

  1. 制御装置によりラムをD軸制御して、ラムに装着されたパンチとダイとの協働により曲げ加工を行なう際に、前記パンチとダイによりワークを曲げた状態で保持する曲げ保持時間が変わっても同じ仕上がり角度を得るためにD値の補正を行なう曲げ加工におけるD値補正装置において、
    前記制御装置が、予め実験により得られた一定のD値における曲げ保持時間と仕上がり角度変化量との関係を記憶しておく記憶手段と、前記一定のD値において曲げ保持時間が変化した場合に前記曲げ保持時間と仕上がり角度変化量との関係から変化前後の曲げ保持時間に対する仕上がり角度変化量を求め、変化前の曲げ保持時間に対する目標曲げ角度を補正して変化後の曲げ保持時間に対する目標曲げ角度を算出する補正曲げ角度算出部と、この補正曲げ角度算出部により算出された補正後の目標曲げ角度に対するD値を算出するD値算出部と、を備えてなることを特徴とする曲げ加工におけるD値補正装置。
  2. 前記制御装置に、前記曲げ保持時間を計測する曲げ保持時間計測器が接続されていること、を特徴とする請求項1記載の曲げ加工におけるD値補正装置。
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