JP3945962B2 - フェライト化合物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、異方性 Sr フェライト焼結磁石の主組成物であって、マグネトプランバイト型結晶構造を有するフェライト化合物に関する。
【0002】
【従来の技術】
フェライト磁石はモーター、発電機等の回転機を含む種々の用途に使用されている。最近は特に自動車用回転機分野では小型・軽量化を目的とし、電気機器用回転機分野では高効率化を目的としてより高い磁気特性を有するフェライト磁石が求められている。従来SrフェライトあるいはBaフェライトの高性能焼結磁石は以下のようにして製造されていた。即ち、酸化鉄とSrまたはBaの炭酸塩を混合後、仮焼処理によりフェライト化反応を終了させる。仮焼されたクリンカーを粗粉砕する。次に得られた粗粉砕粉を、焼結挙動を制御する添加物:SiO2、SrCO3及びCaCO3、さらには保磁力iHcを制御する添加物:Al2O3あるいはCr2O3等とともに平均粒径値が0.7〜1.0μmになるまで微粉砕する。微粉砕し、作製したスラリーを用いて磁場中で配向させながら湿式成形し成形体とする。成形体を焼成し、その後製品形状に加工する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
このような製造方法を前提とした場合、フェライト磁石の高性能化の方法は以下の5つに大きく分類されると考えられる。第1の方法は微粒化である。焼成体における結晶粒の大きさが、M(マグネトプランバイト)型Srフェライト磁石の臨界単磁区粒子径値である約0.9μmに近いほど保磁力iHcは最大となるため、焼成時の結晶粒成長を見込んで、微粉砕平均粒径値を例えば0.7μm以下に微粒化すればよい。しかしながら本方法では、微粒化するほど湿式成形時の脱水特性が悪くなり、生産効率が落ちるという副作用を有する。第2の方法は焼成体の結晶粒の大きさをできるだけ均一にすることである。理想的には均一にしてその値を上記の臨界単磁区粒子径値約0.9μmとすればよい。この値より大きな結晶粒も小さな結晶粒も保磁力iHcの低下につながるからである。この方式による具体的な高性能化の手段は微粉砕粉の粒径分布を改善することにあるが、工業的生産を前提とした場合にはボールミルあるいはアトライターなどの既存の粉砕機を用いざるを得ず、その改善程度には自ずから限界がある。また近年、化学的沈殿法により均一な粒子径を有するフェライト微粒子を作製する試みが公表されているが、工業的大量生産に適合する方式とはいえない。第3の方法は磁気的異方性を左右する結晶配向度を向上させることである。本方法における具体的手段としては、表面活性剤を微粉砕スラリーに添加してスラリー中のフェライト粒子の分散性を向上したり、配向時の磁場強度を強くすること等が挙げられる。第4の方法は焼成体の密度を向上させることである。Srフェライト焼成体の理論密度は5.15g/ccである。現在市場に供されているSrフェライト磁石の密度は概ね4.9〜5.0g/ccの範囲にあり、この値は対理論密度比で95〜97%に相当する。高密度化すれば残留磁束密度Brの向上が期待されるが、上記の現状値以上に密度を向上するにはHIP等の特殊な高密度化手段が必要である。しかしながらこのような特殊なプロセスの導入は製造原価の増加に結びつき、廉価磁石としてのフェライト磁石の特長を失わしめる可能性がある。第5の方法はフェライト磁石を構成する主組成物であるフェライト化合物自体の飽和磁化σsを向上させることである。飽和磁化σsの向上は直接的に残留磁束密度Brの向上へ結びつく可能性を有している。従来において生産されているフェライト化合物はM(マグネトプランバイト)型の結晶構造を有している。このM型より大きな飽和磁化を有するW型フェライトの検討も鋭意行われているものの、雰囲気制御の困難さのため量産化が実現されるには至っていない。このような状況の中で、上記第1〜第4の方法によりフェライト磁石の高性能化が図られ、代表特性;Br=4100G、iHc=4000Oeを有する高性能フェライト磁石の製品化まで進んでいるのが現状である。しかしながら、SrO・nFe2O3(nはモル比)で表される化合物を主組成物とし、上記第1〜第4の方法でこれ以上の格段の高性能化を図ることは下記の理由により困難になっている。即ち第1の理由は上記第1〜第4の方法が生産性に対し副作用ともいうべき悪影響を有していたり、量産工程を考慮した場合の実現が困難な内容を含んでいるためである。第2の理由は磁気特性のうち、特に残留磁束密度Brが既に理論値に近いレベルに達しているためである。このことはSrフェライト焼結磁石のみならず、Srフェライト磁石粉末でも同様である。従って、本発明の課題は、上記第5の方法により、従来のフェライト磁石粉末に比べて高い飽和磁化または高い飽和磁化及び保磁力を有するフェライト磁石粉末を得るべく、飽和磁化σsを向上させたフェライト化合物を提供することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記課題を達成するために、本発明者らはSrO・nFe2O3(nはモル比)で表すことができる組成物のSrおよびFe元素の一部を異種元素で置換する方法を見い出した。マグネトプランバイト型Srフェライトの磁性はFeイオンの磁気モーメントが担っており、この磁気モーメントがFeイオンサイトにより部分的に反平行方向に配列したフェリ磁性体の磁気構造を有している。この磁気構造において飽和磁化を向上させるには2つの方法がある。第1の方法は反平行方向に向いた磁気モーメントに対応するサイトのFeイオンを、Feイオンより小さな磁気モーメントを有するか非磁性の別種の元素で置換することである。第2の方法は平行方向に向いた磁気モーメントに対応するサイトのFeイオンを、Feイオンより大きな磁気モーメントを有する別種の元素で置換することである。本発明者らは以上を念頭におき、Feイオンを種々の元素で置換する検討を鋭意行った結果Mn、CoまたはNiが飽和磁化を向上し、かつ磁気特性を改善する元素であり、中でもCoが有効であることを見い出した。しかしながら単純に前記元素を添加しただけでは十分な効果は得られない。なぜならば、Feイオンを別種の元素で置換しようとすると、イオン価数のバランスがくずれ異相が発生してしまうためである。この現象を回避するには、電荷補償を目的にSrサイトを別種の元素で置換すればよく、その目的のためにはLa、NdまたはPrが有効であり、中でもLaが特に有効であることを見い出し本発明をなしたものである。
【0005】
即ち本発明のフェライト化合物は、異方性Srフェライト焼結磁石の主組成物であって、基本組成式が SrO ・ 6Fe 2 O 3 で表され、Srサイトの一部がLaで置換されているとともに、Feサイトの一部がCoで置換されており、マグネトプランバイト型結晶構造を有する。本発明のフェライト化合物は異方性Srフェライト焼結磁石の主組成物であるとともに、その原料となるフェライト磁石粉末の主組成物でもある。本発明のフェライト化合物を主組成物とする異方性Srフェライト焼結磁石及びフェライト磁石粉末は、従来のものに比べて高い飽和磁化または高い飽和磁化及び保磁力を有しており、有用なものである。
【0006】
本発明のフェライト化合物を主組成物とし、原子比率で(Sr1−xLax)O・n[(Fe1−yCoy)2O3](0.05≦x≦0.5、{x/(2.2n)}≦y≦{x/(1.8n)}及び5.7≦n≦6.0)で表される組成を有するフェライト磁石粉末は、良好な磁気特性を有する。nが5.7未満では磁気特性の減少傾向が認められ、nが6.0を超えるとマグネトプランバイト相以外の異相(例えばα−Fe2O3)が生成して磁気特性が顕著に低下する。xは0.05以上、0.5以下とする。xが0.05未満では従来のフェライト磁石粉末よりも磁気特性を高めることが困難であり、0.5を超えると逆に磁気特性が低下する。yは、電荷バランスを理想的に満足する条件(x=2ny)のみならず、x/(ny)が1.8〜2.2の範囲にあれば、従来のフェライト磁石粉末よりも磁気特性を高めることができる。従って、{x/(2.2n)}≦y≦{x/(1.8n)}がyの望ましい範囲である。
【0007】
本発明のフェライト化合物は、フェライト磁石粉末の標準製造工程(混合→仮焼→粉砕)の仮焼段階で実質的に形成される。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を実施例により詳細に説明する。
(実施例1、参考例1〜11)
SrCO3、Fe2O3、R元素の各酸化物及びM元素の各酸化物をそれぞれ用い、下記の化学式において、原子比率でn=5.85、x=2ny、x=0.117になるように配合し、湿式にて混合した。その後、1200℃で2時間、大気中で仮焼した。
(Sr1−xRx)O・n[(Fe1−yMy)2O3]
R元素としては、Srイオンと類似のイオン半径を有することを基準として、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gdを選択した。またM元素としては、Feイオンと類似のイオン半径を有することを基準として、Ti、V、Mn、Co、Ni、Cu、Znを選択した。また比較例として、上記化学式において、n=5.85、x=y=0なる組成物に配合し、混合した以外は前記と同様にして仮焼した。仮焼粉をローラーミルで乾式粉砕を行い粗粉砕粉とした。次に、試料振動型磁力計により得られた粗粉砕粉の磁気特性を測定し、評価した。この測定は最大磁場強度12kOeで行い、1/H2プロット(Hは印加磁場強度)により飽和磁化σsを求めた。また保磁力Hcを求めた。またX線回折により生成した相の同定を行った。結果を表1に示す。表1において、M相とはマグネトプランバイト型の結晶構造を有する相である。表1より、(R元素、M元素)の組み合わせで(La、Mn)、(La、Co)及び(La、Ni)をそれぞれ選択した実施例1の磁石粉末は比較例の磁石粉末に比べて高い飽和磁化σs及び良好な保磁力Hcを有していることがわかる。
【0009】
【表1】
【0010】
(参考例12)
R元素としてLa、M元素としてZnをそれぞれ選択し、SrCO3、Fe2O3、La2O3及びZnOを用い、下記に示す化学式において、原子比率でn=5.85、x=2ny、x=0〜0.6になるように配合し、湿式にて混合した。その後、1200℃で2時間、大気中で仮焼した。
(Sr1−xLax)O・n[(Fe1−yZny)2O3]
その後は実施例1と同様にして粗粉砕粉を作製し、磁気特性を測定した。結果を図1に示す。図1よりLa2O3及びZnOを同時に添加することにより、飽和磁化σsが向上することがわかる。またLa含有量xが0.05以上でσs向上効果が認められ、0.5を超えると逆にσsが減少することがわかる。従ってxは、0.05以上、0.5以下が望ましく、さらに望ましくは0.07以上、0.4以下である。
(参考例 13)
R元素がPrまたはNd、及びM元素がMn、Co、Niのいずれかの組み合わせとした以外は参考例12と同様にして評価した場合においても図1とほぼ同様の結果が得られた。またnが5.7〜6.0の範囲では有意に差異は認められず、同様な効果が得られることを確認した。
【0011】
(参考例14)
電荷補償と関連して、R元素とM元素の添加量比の許容範囲を求める検討を行った。R元素としてLa、M元素としてZnをそれぞれ選択し、SrCO3、Fe2O3、La2O3及びZnOを用いて、下記に示す化学式において、原子比率でn=5.85、y=0.83〜1.25x10−2、x=0.117 になるよう配合し、湿式にて混合した。その後、1200℃で2時間、大気中で仮焼した。
(Sr1−xLax)O・n[(Fe1−yZny)2O3]
以降は参考例3と同様にして粗粉砕粉を作製し、磁気特性を測定した。結果を表2に示す。表2より、電荷バランスが完全に満たされた条件、即ちx=2nyが成り立つ添加量比のみならず、x/(ny)値が1.8から2.2の範囲にあれば、磁気特性の実質的な劣化は認められず、高い磁気特性が維持されることがわかる。 一方、x/(ny)値が2.2を超えた場合あるいは1.8未満では磁気特性の顕著な減少が認められた。従って、x/(ny)値の望ましい範囲は1.8以上、2.2以下であることがわかる。これをyについて整理すると、y値の望ましい範囲は下記の式で示される。
{x/(2.2n)}≦y≦{x/(1.8n)}
【0012】
【表2】
【0013】
以上に記述の如く、本発明によれば、従来に比べて高い磁気特性を有するフェライト磁石粉末及び異方性 Sr フェライト焼結磁石を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 xと飽和磁化σsとの相関の一例を示す図である。
Claims (1)
- 異方性Srフェライト焼結磁石の主組成物であって、基本組成式が SrO ・ 6Fe 2 O 3 で表され、Srサイトの一部がLaで置換されているとともに、Feサイトの一部がCoで置換されており、マグネトプランバイト型結晶構造を有することを特徴とするフェライト化合物。
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