JP3938058B2 - 熱融着性を有するポリイミドフィルム、それを用いた積層板およびそれらの製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、片面のみに熱融着性を有する多層ポリイミドフィルム、片面金属箔積層板およびそれらの製造法に関するものであり、さらに詳しくは耐熱性ポリイミド層の両面に熱融着性ポリイミド層を有しさらに片面に熱融着性を有しない耐熱性ポリイミド層が積層されてなる4層構造を有する片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルム、該ポリイミドフィルムを用いた片面金属箔積層板及びそれらの製造法に関するものである。
この発明によれば、電子部品の実装工程で装置に張り付くことが実質的になく成形加工性が良好なオ−ルポリイミドの片面銅張板を与える熱融着性を有する多層ポリイミドフィルムおよび片面銅張り積層板を得ることができる。
【0002】
【従来の技術】
カメラ、パソコン、液晶ディスプレイなどの電子機器類への用途として芳香族ポリイミドフィルムは広く使用されている。
芳香族ポリイミドフィルムをフレキシブルプリント板(FPC)やテ−プ・オ−トメイティッド・ボンディング(TAB)などの基板材料として使用するためには、エポキシ樹脂などの接着剤を用いて銅箔を張り合わせる方法が採用されている。
【0003】
芳香族ポリイミドフィルムは耐熱性、機械的強度、電気的特性などが優れているが、エポキシ樹脂などの接着剤の耐熱性等が劣るため、本来のポリイミドの特性を損なうことが指摘されている。
このような問題を解決するために、接着剤を使用しないでポリイミドフィルムに銅を電気メッキしたり、銅箔にポリアミック酸溶液を塗布し、乾燥、イミド化したり、熱可塑性のポリイミドを熱圧着させたオ−ルポリイミド基材も開発されている。
【0004】
また、ポリイミドフィルムと金属箔との間にフィルム状ポリイミド接着剤をサンドイッチ状に接合させたポリイミドラミネ−トおよびその製法が知られている(特許文献1)。
しかし、このポリイミドラミネ−トおよびその製法は、フィルム状ポリイミド接着剤の取り扱いが容易ではなく、しかもある種のポリイミドフィルムについては剥離強度(接着強度)が小さく適用できない。
【0005】
さらに、金属箔積層ポリイミドフィルムおよびその製造法が知られている(特許文献2、特許文献3)。
しかし、これらの文献には、多層ポリイミドフィルムと金属箔とが強固に接着された積層体が記載されているに過ぎず、寸法安定性については未解決であった。
このため、ダブルベルトプレスによって3層構造の熱圧着性ポリイミドフィルムの両面に金属箔を積層した寸法安定性の良好なフレキシブル金属箔積層体が提案された(特許文献4)。
【0006】
【特許文献1】
米国特許第4543295号公報
特開平8−276547号公報。
【特許文献2】
特開平4−33847号公報
【特許文献3】
特開平4−33848号公報
【特許文献4】
特開2000−103010号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来公知の技術によれば、片面金属箔積層板、例えば片面銅張り積層板においてカ−ル抑制の必要性から両面に熱融着性を有するポリイミドフィルムが必要であり、銅箔を張り合わせない面には離型紙として高耐熱性ポリイミドフィルムを用いることが必要であるが、使用時に離型紙を除く必要があり加工性が悪くなる。しかも、剥離紙を除いた片面銅張り積層板は、熱融着性を有するポリイミド層がむき出しとなるため、工程によっては電子部品の実装工程で装置に張り付くなどの問題がある。
従って、この発明の目的は、金属箔積層時に剥離紙を使用しないで片面金属箔積層板、特に片面銅張り積層板を製造できる高耐熱性の熱融着性ポリイミドフィルムおよび該ポリイミドフィルムを用いた片面金属箔積層板、特に片面銅張り積層板を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明は、厚みが4〜45μmの耐熱性ポリイミド層(S1層)の両面に厚みが略等しい熱融着性ポリイミド層を有し、片面の熱融着性ポリイミド層の厚みと他面の熱融着性ポリイミド層の厚みとの合計が3〜10μmであり、該熱融着性ポリイミド層の片面に厚みが0.1〜2μmの熱融着性を有しない耐熱性ポリイミド層(S2層)が積層されてなる片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムに関する。
また、この発明は、前記の片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムと銅箔とが、熱融着性を有するポリイミド層を介して熱圧着によって積層されている片面金属箔積層板に関する。
【0009】
また、この発明は、耐熱性ポリイミドを与えるポリアミック酸溶液とその両側に熱融着性ポリイミドを与えるポリアミック酸溶液とを、耐熱性ポリイミド層(S1層)の厚みが4〜45μmで、両側の熱融着性ポリイミド層の厚みの合計が3〜10μmとなるように積層し、自己支持性を示すまで加熱乾燥した自己支持性フィルムの片面に、熱融着性を有しない耐熱性ポリイミド層(S2層)を与える組成のポリアミック酸溶液を該耐熱性ポリイミド層(S2層)厚みが0.1〜2μmとなるように塗布し、加熱して乾燥、イミド化する片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムの製造法に関する。
【0010】
さらに、この発明は、前記の片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムおよび銅箔の各2組を、熱融着性を有しない耐熱性ポリイミド層を内側にし銅箔を外側にして、ダブルベルトプレスに連続的に供給し、2組を同時に加圧下に熱圧着および冷却した後、2組の積層体を引き剥がして別々に巻き取る長尺状の片面金属箔積層板の製造法に関する。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下にこの発明の好ましい態様を列記ずる。
1)片面の熱融着性ポリイミド層と他面の熱融着性ポリイミド層とが、その厚みの相違によって所望のカ−ル度に調整されてなる上記の片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルム。
2)熱融着性を有しない耐熱性ポリイミド層(S2層)が、耐熱性ポリイミド層(S1層)と同一モノマ−組成のポリイミドからなる上記の片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルム。
【0012】
この発明においては、4〜45mの基体層としての耐熱性ポリイミド層の両面に厚みが略等しい熱融着性ポリイミド層が積層され、片面の熱融着性ポリイミド層の厚みと他面の熱融着性ポリイミド層との合計の厚みが3〜10μmである。各熱圧着性ポリイミド層の厚みは好適には3〜4である。
また、この発明において、片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムは、好適にはカ−ル度が+B表示で0〜10で、線膨張係数(50〜200℃)(MD)が13〜30×10-6cm/cm/℃である。
【0013】
前記の基体層としての耐熱性ポリイミドは、好適には3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下単にs−BPDAと略記することもある。)とパラフェニレンジアミン(以下単にPPDと略記することもある。)と場合によりさらに4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル(以下単にDADEと略記することもある。)とから製造される。この場合PPD/DADE(モル比)は100/0〜85/15であることが好ましい。
また、基体層としての耐熱性ポリイミドは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とピロメリット酸二無水物とパラフェニレンジアミンと4,4’−ジアミノジフェニルエ−テルとから製造される。この場合BPDA/PMDAは15/85〜85/15で、PPD/DADEは90/10〜10/90であることが好ましい。
【0014】
また、基体層としての耐熱性ポリイミドは、ピロメリット酸二無水物とパラフェニレンジアミンおよび4,4’−ジアミノジフェニルエ−テルとから製造される。この場合DADE/PPDは90/10〜10/90であることが好ましい。
さらに、基体層としての耐熱性ポリイミドは、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)およびピロメリット酸二無水物とパラフェニレンジアミンおよび4,4’−ジアミノジフェニルエ−テルとから製造される。この場合、酸二無水物中BTDA/PMDAが20/80〜90/10、ジアミン中PPD/DADEが30/70〜90/10であることが好ましい。
【0015】
この発明における熱融着性を有しない耐熱性ポリイミドとしては、前記の基体層としての耐熱性ポリイミドを挙げることができる。
この発明において、前記の熱融着性を有しない耐熱性ポリイミドは基体層としての耐熱性ポリイミドと異なったポリイミド組成のものでもよいが、同一のポリイミド組成のものが好ましい。
【0016】
上記の基体層としての耐熱性ポリイミドとしては、単独のポリイミドフィルムの場合にガラス転移温度が300℃以上か確認不可能であるものが好ましく、特に線膨張係数(50〜200℃)(MD)が5×10-6〜20×10-6cm/cm/℃であるものが好ましい。また、引張弾性率(MD、ASTM−D882)は300kg/mm2以上であるものが好ましい。
この基体層ポリイミドの合成は、最終的に各成分の割合が前記範囲内であればランダム重合、ブロック重合、あるいはあらかじめ2種類のポリアミック酸を合成しておき両ポリアミック酸溶液を混合後反応条件下で混合して均一溶液とする、いずれの方法によっても達成される。
【0017】
前記各成分を使用し、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物の略等モル量を、有機溶媒中で反応させてポリアミック酸の溶液(均一な溶液状態が保たれていれば一部がイミド化されていてもよい)とする。
前記基体層ポリイミドの物性を損なわない種類と量の他のテトラカルボン酸二無水物やジアミンを使用してもよい。
【0018】
この発明における熱融着性ポリイミドとしては、種々の公知の熱可塑性ポリイミドから選択することができ、好適には1,3−ビス(4−アミノフェノキシベンゼン)(以下、TPERと略記することもある)と3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物および2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、a−BPDAと略記することもある。)とから製造される。この場合s−BPDA/a−BPDAは100/0〜5/95であることが好ましい。
また、前記の熱融着性ポリイミドとして、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−2,2−ジメチルプロパン(DANPG)と4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)およびa−BPDAとから製造される。
あるいは、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)およびピロメリット酸二無水物と1,3−ビス(4−アミノフェノキシベンゼン)とから製造される。
【0019】
前記の熱融着性ポリイミドは、前記各成分と、さらに場合により他のテトラカルボン酸二無水物および他のジアミンとを、有機溶媒中、約100℃以下、特に20〜60℃の温度で反応させてポリアミック酸の溶液とし、このポリアミック酸の溶液をド−プ液として使用し、そのド−プ液の薄膜を形成し、その薄膜から溶媒を蒸発させ除去すると共にポリアミック酸をイミド環化することにより製造することができる。
また、前述のようにして製造したポリアミック酸の溶液を150〜250℃に加熱するか、またはイミド化剤を添加して150℃以下、特に15〜50℃の温度で反応させて、イミド環化した後溶媒を蒸発させる、もしくは貧溶媒中に析出させて粉末とした後、該粉末を有機溶液に溶解して熱圧着性ポリイミドの有機溶媒溶液を得ることができる。
【0020】
この発明で熱融着性ポリイミドの物性を損なわない範囲で他のテトラカルボン酸二無水物、例えば3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3、4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物あるいは2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物など、好適には3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物で置き換えられてもよい。
また、熱融着性ポリイミドの物性を損なわない範囲で他のジアミン、例えば4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)ジフェニルエ−テル、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)ジフェニルメタン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルエ−テル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルメタン、2,2−ビス〔4−(アミノフェノキシ)フェニル〕プロパンなどの複数のベンゼン環を有する柔軟な芳香族ジアミン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカンなどの脂肪族ジアミン、ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンなどのジアミノジシロキサンによって置き換えられてもよい。他の芳香族ジアミンの使用割合は全ジアミンに対して20モル%以下、特に10モル%以下であることが好ましい。また、脂肪族ジアミンおよびジアミノジシロキサンの使用割合は全ジアミンに対して20モル%以下であることが好ましい。この割合を越すと熱融着性ポリイミドの耐熱性が低下する。
前記の熱融着性ポリイミドのアミン末端を封止するためにジカルボン酸無水物、例えば、無水フタル酸およびその置換体、ヘキサヒドロ無水フタル酸およびその置換体、無水コハク酸およびその置換体など、特に、無水フタル酸を使用してもよい。
【0021】
この発明における熱融着性ポリイミドを得るためには、前記の有機溶媒中、ジアミン(アミノ基のモル数として)の使用量が酸無水物の全モル数(テトラ酸二無水物とジカルボン酸無水物の酸無水物基としての総モルとして)に対する比として、0.95〜1.0、特に0.98〜1.0、そのなかでも特に0.99〜1.0であることが好ましい。ジカルボン酸無水物を使用する場合の使用量は、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基モル量に対する比として、0.05以下であるような割合の各成分を反応させることができる。
【0022】
前記のジアミンおよびジカルボン酸無水物の使用割合が前記の範囲外であると、得られるポリアミック酸、従って熱圧着性ポリイミドの分子量が小さく、銅箔との積層体の接着強度の低下をもたらす。
また、ポリアミック酸のゲル化を制限する目的でリン系安定剤、例えば亜リン酸トリフェニル、リン酸トリフェニル等をポリアミック酸重合時に固形分(ポリマ−)濃度に対して0.01〜1%の範囲で添加することができる。
また、イミド化促進の目的で、ド−プ液中に塩基性有機化合物を添加することができる。例えば、イミダゾ−ル、2−イミダゾ−ル、1,2−ジメチルイミダゾ−ル、2−フェニルイミダゾ−ル、ベンズイミダゾ−ル、イソキノリン、置換ピリジンなどをポリアミック酸に対して0.05〜10重量%、特に0.1〜2重量%の割合で使用することができる。これらは比較的低温でポリイミドフィルムを形成するため、イミド化が不十分となることを避けるために使用することができる。
また、接着強度の安定化の目的で、熱融着性ポリイミド用ポリアミック酸溶液に有機アルミニウム化合物、無機アルミニウム化合物または有機錫化合物を添加してもよい。例えば水酸化アルミニウム、アルミニウムトリアセチルアセトナ−トなどをポリアミック酸に対してアルミニウム金属として1ppm以上、特に1〜1000ppmの割合で添加することができる。
【0023】
前記のポリアミック酸製造に使用する有機溶媒は、耐熱性ポリイミドおよび熱圧着性ポリイミドのいずれに対しても、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルカプロラクタム、クレゾ−ル類などが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
この発明の片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムの製造においては、例えば上記の基体層の耐熱性ポリイミドを与えるポリアミック酸溶液と熱融着性ポリイミドを与えるポリアミック酸溶液を三層共押出法によって、耐熱性ポリイミド層の厚みが4〜45μmで両側の熱融着性ポリイミド層の厚みの合計が3〜10μmとなるように三層押出し成形用ダイスに供給し、支持体上にキャストしてこれをステンレス鏡面、ベルト面等の支持体面上に流延塗布し、100〜200℃で半硬化状態またはそれ以前の乾燥状態とすることが好ましい。
200℃を越えた高い温度で流延フィルムを処理すると、熱融着性を有するポリイミドフィルムの製造において、接着性の低下などの欠陥を来す傾向にある。
この半硬化状態またはそれ以前の状態とは、加熱および/または化学イミド化によって自己支持性の状態にあることを意味する。
【0025】
次いで、加熱乾燥した自己支持性フィルムの片面(A面あるいはB面)に、熱融着性を有しない耐熱性ポリイミド層を与える組成のポリアミック酸溶液を該耐熱性ポリイミド層の厚みが0.1〜2μmとなるように、グラビア−ト法、スクリ−ン法、浸漬法などの塗布法で均一に塗布して均一に分布させ、その塗布フィルムを好ましくは50〜180℃、特に好ましくは60〜160℃、さらに好ましくは70〜150℃の乾燥温度で好ましくは0.1〜20分間、特に好ましくは0.2〜15分間乾燥して固化フィルムを形成し、次いで、好ましくは(1)100gf/mm2以下、特に好ましくは80gf/mm2以下である実質的にフリ−の状態ないしは低張力下、および好ましくは(2)約80〜250℃、特に好ましくは100〜230℃の乾燥温度で、好ましくは約1〜200分間、特に好ましくは2〜100分間乾燥して、前記有機溶媒および生成水分が約5〜25重量%、特に10〜23重量%の割合で含有されている固化フィルムを形成することが望ましい。
【0026】
前記溶媒および生成水分が好ましくは約25〜60重量%、特に好ましくは30〜50重量%残存している固化フィルムを乾燥温度に昇温する際には、比較的短時間内に昇温することが好ましく、例えば、10℃/分以上の昇温速度であることが好適である。乾燥する際に固化フィルム状体に対して加えられる張力を増大することによって、最終的に得られるポリイミドフィルムの線膨張係数を小さくすることができる。
そして、前述の乾燥工程に続いて、連続的または断続的に前記固化フィルムの少なくとも一対の両端縁を連続的または断続的に前記フィルムと共に移動可能な固定装置などで固定した状態で、前記の乾燥温度より高く、しかも好ましくは200〜550℃の範囲内、特に好ましくは300〜500℃の範囲内の高温度で、好ましくは1〜100分間、特に1〜10分間、前記固化フィルムを乾燥および熱処理して、好ましくは最終的に得られるポリイミドフィルム中の有機溶媒および生成水等からなる揮発物の含有量が1重量%以下になるように、固化フィルムから溶媒などを充分に除去するとともに前記フィルムを構成しているポリマ−のイミド化を充分に行って、片面(B面あるいはA面)のみに熱融着性を有する多層ポリイミドフィルムを形成する。
【0027】
前記の固化フィルムの固定装置としては、例えば、多数のピンまたは把持具などを等間隔で備えたベルト状またはチェ−ン状のものを、連続的または断続的に供給される前記固化フィルムの長手方向の両側縁に沿って一対設置し、そのフィルムの移動と共に連続的または断続的に移動させながら前記フィルムを固定できる装置が好適である。また、前記の固化フィルムの固定装置は、熱処理中のフィルムを幅方向または長手方向に適当な伸び率または収縮率(特に好ましくは0.5〜5%程度の伸縮倍率)で伸縮することができる装置であってもよい。
【0028】
なお、前記の工程において製造された改質されたポリイミドフィルムを、再び好ましくは400gf/mm2以下、特に好ましくは300gf/mm2以下の低張力下あるいは無張力下に、100〜400℃の温度で、好ましくは0.1〜30分間熱処理すると、特に寸法安定性が優れた片面(B面)のみに熱融着性を有する多層ポリイミドフィルムとすることができる。また、製造された長尺の片面のみに熱融着性を有する多層ポリイミドフィルムは、適当な公知の方法でロ−ル状に巻き取ることができる。
この発明の片面のみに熱融着性を有する多層ポリイミドフィルムは、線膨張係数(50〜200℃)(MD)が13〜30ppm/℃で、カ−ルをユ−ザ−ニ−ズに合わせてB面+表示で10〜−10(A面+10)に調整可能であり、好適にはB面+表示で0〜10である。
【0029】
この発明の片面のみに熱融着性を有する多層ポリイミドフィルムを用いてカ−ル度を調整する方法を以下に説明する。線膨張係数が18ppm/℃程度の場合、耐熱性ポリイミド層の厚みを例えば15μmとし、熱融着性を有さない耐熱性ポリイミド層の厚みを例えば1μmとし、熱融着性ポリイミド層の厚みを例えばA面側3.0〜4.0μm、B面側2.5〜3.5μmで変化させて、カ−ル度(B面+10〜B面−15)を縦軸とし熱融着性ポリイミド層の厚み差(A−B=0〜1.5を横軸とし、各点をプロットする。その結果、カ−ル度(B面+10〜B面−)と熱融着性ポリイミド層の厚み差との間には直線が引ける。この直線から、あるカ−ル度に対応する熱融着性ポリイミド層の厚み差が得られる。
金属箔と積層する場合に、カ−ル度が例えばB面+3〜+5が好ましいとすると、それに対応した熱融着性ポリイミド層の厚み差を採用することによって望ましいカ−ル度が調整できるのである。
【0030】
この発明において使用される金属箔(回路用)としては、銅、アルミニウム、金、合金の箔など各種金属箔が挙げられるが、好適には圧延銅箔、電解銅箔などの銅箔があげられる。
前記金属箔として、表面粗さRzが0.5μm以上であるものが好ましい。また、金属箔の表面粗さRzが7μm以下、特に5μm以下であるものが好ましい。このような金属箔、例えば銅箔はVLP、LP(またはHTE)として知られている。
金属箔の厚さは特に制限はないが、2〜35μm、特に5〜18μmであるものが好ましい。
金属箔の厚みが5μm以下のものは、キャリア付き金属箔、例えばアルミニウム箔キャリア付き銅箔が使用される。
【0031】
この発明においては、例えば前記の片面(B面)のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムおよび金属箔を、少なくとも一対の加圧部材で連続的に、加圧部の温度が熱圧着性ポリイミドのガラス転移温度より30℃以上で420℃以下の温度で加熱下に熱圧着して、長尺状の片面金属箔積層板を得ることができる。
前記の加圧部材としては、一対の圧着金属ロ−ル(圧着部は金属製、セラミック溶射金属製のいずれでもよい)またはダブルベルトプレスが挙げられ、特に加圧下に熱圧着および冷却できるものであって、そのなかでも特に液圧式のダブルベルトプレスを好適に挙げることができる。
この発明においては、前記の加圧部材、例えば金属ロ−ル、好適にはダブルベルトプレスを使用し、前記の多層ポリイミドフィルムと金属箔と補強材とを重ね合わせて、連続的に加熱下に圧着して、ポリイミド片面積層体を製造することができる。
【0032】
また、片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムおよび金属箔が、ロ−ル巻きの状態で加圧部材にそれぞれ供給され、ポリイミド片面積層体をロ−ル巻きの状態で得られる場合に特に好適である。
この発明の方法において、特に、前記の片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムおよび金属箔各2組を、熱融着性を有しない耐熱性ポリイミド層面(A面)を内側にし金属箔を外側にして、ダブルベルトプレスに連続的に供給し、2組を同時に加圧部の温度が熱融着性ポリイミドのガラス転移温度より30℃以上で420℃以下の温度で加熱下に熱圧着および冷却した後、2組の積層体を引き剥がして別々に巻き取ることによって、長尺状の片面金属箔積層板を得ることが生産性の点からは好ましい。
【0033】
この発明の片面金属箔積層板は、熱融着性を有する多層ポリイミドフィルムおよび金属箔が強固に、好適には90°剥離強度が1.0kgf/cm以上で積層されており、セラミック、耐熱性ポリイミドフィルム、金属などの他の基材と常温だけでなく300℃程度の加熱時においても接着することがなく、例えば他の耐熱性ポリイミドフィルムと300℃程度の温度で加圧下に積層しても90°剥離強度が20gf/cm以下である。
また、この発明の片面金属箔積層板は、好適には多層ポリイミドフィルムの線膨張係数(50〜200℃)(MD)が13〜30×10-6cm/cm/℃である。
この発明の片面金属箔積層板は、成形加工性が良好で、そのまま穴あけ加工、折り曲げ加工や絞り加工、金属配線形成、配線上への電子回路の熱圧着などを行うことができる。
【0034】
【実施例】
以下、この発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明する。
以下の各例において、部は質量部を意味する。
以下の各例において、物性評価および銅箔積層フィルムの剥離強度は以下の方法に従って測定した。
線膨張係数:20〜200℃、5℃/分の昇温速度で測定(MD)した。
積層体の剥離強度:IPC−FC−2413Bに従って、90°剥離強度を測定した。
【0035】
参考例1
基体層ポリイミド製造用ド−プの合成例1
攪拌機、窒素導入管を備えた反応容器に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加え、さらに、パラフェニレンジアミン(PPD)と3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)とを1000:998のモル比でモノマ−濃度が18%(重量%、以下同じ)になるように加えた。添加終了後50℃を保ったまま3時間反応を続けた。得られたポリアミック酸溶液は褐色粘調液体であり、25℃における溶液粘度は約1500ポイズであった。この溶液を基材用ド−プとして使用した。
【0036】
熱融着性ポリイミド製造用ド−プの合成例1
攪拌機、窒素導入管を備えた反応容器に、NMPを加え、さらに、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、s−BPDA、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンおよびDADEを20:80:50:50のモル比でモノマ−濃度が22%になるように、またトリフェニルホスフェ−トをモノマ−重量に対して0.1%加えた。添加終了後25℃を保ったまま1時間反応を続けた。このポリアミック酸溶液は、25℃における溶液粘度が約2000ポイズであった。この溶液をド−プとして使用した。
【0037】
耐熱性ポリイミド層塗工液の合成例1
N−メチル−2−ピロリドンに、PPDおよびs−BPDAを100:96のモル比でモノマ−濃度が18%(重量%、以下同じ)になるように加えてポリアミック酸溶液を得た後、酸/ジアミンが等モルとなるように3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸(s−BPTA)を添加して原液を調合し、NMPで希釈し、モノマ−濃度が5%のポリアミック酸溶液を得た。この溶液を塗工用ド−プとして使用した。
【0038】
実施例1
前記の基体層ポリイミド製造用ド−プと熱融着性ポリイミド製造用ド−プとを三層押出し成形用ダイス(マルチマニホ−ルド型ダイス)を設けた製膜装置を使用し、三層押出ダイスから金属製支持体上に流延し、130℃の熱風で連続的に乾燥した後剥離して自己支持性フィルムを形成し、この自己支持性フィルムの片面(A面)に耐熱性ポリイミド層塗工用ド−プをグラビアコ−タ−にて塗工し、加熱炉で150℃から450℃まで徐々に昇温して溶媒の除去、イミド化を行い、長尺状の片面に厚みが1μmの熱融着性を有しない耐熱性ポリイミド層が積層された片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムを巻き取りロ−ルに巻き取った。
得られた片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムは、各層の厚みが1μm/3.5μm/17.2μm/3.3μm(合計25μm)であり、カ−ル度がB+8で、線膨張係数(50−200℃)が、MD:18ppm/℃、TD:16ppm/℃、平均:17ppm/℃であり、引張弾性率が700kgf/mm2で、基体層ポリイミドのガラス転移温度は400℃以下の温度で確認されず、熱融着層ポリイミドはガラス転移温度が242℃であり、ゲル化が実質的に生じていなかった。
【0039】
実施例2
ダブルベルトプレスに、片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムを約150℃に予熱して連続的に供給し、その両側からロ−ル巻きした電解銅箔(福田金属箔粉工業株式会社製、CF−T9、VP、Rzが5μm、厚さ18μm)金属箔各2組を、熱融着性を有しない耐熱性ポリイミド層面(A面)を内側にして、加熱ゾ−ンの温度(最高加熱温度)380℃、冷却ゾ−ンの温度(最低冷却温度)117℃で、連続的に加圧下に熱圧着−冷却し、2組の片面銅張積層板を引き剥がして、片面積層板を巻き取りロ−ルに巻き取った。
得られた片面積層板の銅箔側の剥離強度は1.1kgf/cmであった。
また、別途に2組の片面銅張積層板の熱融着性を有しない耐熱性ポリイミド層間の90°剥離強度を測定したところ、13gf/cmであった。
【0040】
実施例3
実施例1とは別に製造した耐熱性ポリイミドフィルムおよび熱融着性ポリイミドフィルムから、耐熱性ポリイミドフィルムの線膨張係数:12ppm/℃を用いて、両層の厚みを換算して線膨張係数(MD、TDの平均値)が17ppm/℃の片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムを得ることとした。
実施例1において、耐熱性ポリイミド層の厚みを17.4μmとし、熱融着性を有さない耐熱性ポリイミド層の厚みを1μmとし、熱融着性ポリイミド層の厚みを例えばA面側3.0〜4.0μm、B面側2.5〜3.5μmで変化させて、種々の熱融着性ポリイミド層の厚み差を有する片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムを得た。
これらについて、カ−ル度(B面+10〜B面−15)を縦軸とし熱融着性ポリイミド層の厚み差(A−B=0〜1.5を横軸とし、12点をプロットした。その結果、カ−ル度(B面+10〜B面−)と熱融着性ポリイミド層の厚み差との間には直線が引けた。
この直線から、カ−ル度:B面+5では厚み差0.4μmである。
つまり、線膨張係数(MD、TDの平均値)が17ppm/℃で、カ−ル度:B面+5の片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムを得るためには、各層の厚みを1μm/3.6μm/17.2μm/3.2μm(合計25μm)とすればよいことになる。
【0041】
実施例1において、各層の厚みが前記の厚みになるように、原料ド−プを供給した他は実施例1と同様にして、片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムを巻き取りロ−ルに巻き取った。
また、この片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムを使用した他は実施例2と同様にして、2組の片面銅張積層板を得た。
得られた片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムは、各層の厚みが1μm/3.5μm/17.2μm/3.3μm(合計25μm)であり、カ−ル度がB+8で、線膨張係数(50−200℃)が、MD:18ppm/℃、TD:16ppm/℃、平均:17ppm/℃であり、引張弾性率が700kgf/mm2で、基体層ポリイミドのガラス転移温度は400℃以下の温度で確認されず、熱融着層ポリイミドはガラス転移温度が242℃であり、ゲル化が実質的に生じていなく、片面銅張積層板の熱融着性を有しない耐熱性ポリイミド層間の90°剥離強度を測定したところ13gf/cmであり良好な剥離性を示した。
以上の結果は、目的とする線膨張係数およびカ−ル度をほぼ計算通りに保有し、良好な剥離性を有する片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムが得られたことを示す。
【0042】
比較例1
耐熱性ポリイミド層塗工用ド−プをグラビアコ−タ−にて塗工しなかった他は実施例1と同様にして、熱融着性を有するポリイミドフィルムを得た。
この熱融着性を有するポリイミドフィルム2組を重ねて、最高加熱温度380℃で熱圧着した。
得られた積層フィルムの剥離強度は2kgf/cm(フィルム材破)であった。
【0043】
【発明の効果】
この発明によれば、以上のような構成を有しているため、成形加工性が良好で剥離紙を必要としない片面金属箔積層板を製造できるポリイミドフィルムおよび該ポリイミドフィルムを用いた片面金属箔積層板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例3における、カ−ル度(B面+10〜B面−15)を縦軸とし耐熱性ポリイミド層の両面に積層した熱融着性ポリイミド層の厚み差(A−B=0〜1.5を横軸とする、カ−ル度(B面+表示)と熱融着性ポリイミド層の厚み差との関係を示す図である。
Claims (6)
- 厚みが4〜45μmの耐熱性ポリイミド層(S1層)の両面に厚みが略等しい熱融着性ポリイミド層を有し、片面の熱融着性ポリイミド層の厚みと他面の熱融着性ポリイミド層の厚みとの合計が3〜10μmであり、該熱融着性ポリイミド層の片面に厚みが0.1〜2μmの熱融着性を有しない耐熱性ポリイミド層(S2層)が積層されてなる片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルム。
- 片面の熱融着性ポリイミド層と他面の熱融着性ポリイミド層とが、その厚みの相違によって所望のカ−ル度に調整されてなる請求項1に記載の片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルム。
- 熱融着性を有しない耐熱性ポリイミド層(S2層)が、耐熱性ポリイミド層(S1層)と同一モノマ−組成のポリイミドからなる請求項1に記載の片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルム。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムと金属箔とが、熱融着性を有するポリイミド層を介して熱圧着によって積層されている片面金属箔積層板。
- 耐熱性ポリイミドを与えるポリアミック酸溶液とその両側に熱融着性ポリイミドを与えるポリアミック酸溶液とを、耐熱性ポリイミド層(S1層)の厚みが4〜45μmで、両側の熱融着性ポリイミド層の厚みの合計が3〜10μmとなるように積層し、自己支持性を示すまで加熱乾燥した自己支持性フィルムの片面に、熱融着性を有しない耐熱性ポリイミド層(S2層)を与える組成のポリアミック酸溶液を該耐熱性ポリイミド層(S2層)厚みが0.1〜2μmとなるように塗布し、加熱して乾燥、イミド化する片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムの製造法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の片面のみに熱融着性を有するポリイミドフィルムおよび金属箔の各2組を、熱融着性を有しない耐熱性ポリイミド層を内側にし金属箔を外側にして、ダブルベルトプレスに連続的に供給し、2組を同時に加圧下に熱圧着および冷却した後、2組の積層体を引き剥がして別々に巻き取る長尺状の片面金属箔積層板の製造法。
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