JP3934754B2 - アクリル系多層構造粒状複合体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アクリル系多層構造粒状複合体、それよりなる凝集粒状体、それらの製造方法、前記アクリル系多層構造粒状複合体または凝集粒状体からなる成形品、および積層体に関するものである。本発明のアクリル系多層構造粒状複合体およびそれよりなる凝集粒状体は、成形性、積層成形性、熱安定性に優れており、しかもそれらから得られる成形品や積層体などは耐衝撃性、透明性、耐応力白化性、耐温水白化性、熱安定性などに優れており、そのため、本発明のアクリル系多層構造粒状複合体およびその凝集粒状体は、それらの特性を活かして、フイルム、シート、板をはじめとする各種成形品、積層体に有効に用いることができる。
【0002】
【従来の技術】
アクリル系樹脂は、美麗な外観を有し、高い透明性を有し、耐候性に極めて優れており、しかも射出成形、押出成形、その他の溶融成形が容易に行えることから、それらの特性を活かして各種成形品の製造やその他の用途に広く用いられている。しかしながら、アクリル系樹脂は耐衝撃性が不足しており、応力が加わると、ひび割れ、欠けなどが発生し易い。また、透明性や耐候性に優れるアクリル系樹脂を、フイルムやシートなどの薄物の製造に用いることも試みられているが、薄物では、強度の低い、極めて脆弱なものとなり、実用性のあるフイルムやシートなどが得られない。
【0003】
そのため、アクリル系樹脂における上記した欠点を改良するために、ゴム成分を導入して耐衝撃性の向上や、フイルムなどの薄物における強度の向上をはかることが従来から試みられている。しかしながら、従来技術による場合は、透明性の低下による外観の不良、導入したゴム成分に起因する耐候性の大幅な低下などが生じ易く、透明性、耐候性および耐衝撃性を兼ね備えるアクリル系樹脂材料が未だ得られていない。
【0004】
特に、フイルムなどの薄物の製造に用い得るアクリル系樹脂を得ようとして、アクリルゴム層を含むアルキルメタクリレート系重合体多層粒状物およびそれを含有する重合体組成物が色々提案されている。それらは、いずれも耐衝撃性の向上を目的とし、そのためにガラス転移点の低いポリアルキルアクリレートを核とし、その上にメチルメタクリレートとアルキルアクリレートを分割添加して重合させる方法が採用されている。その結果、フイルムなどの薄物の成形は可能となるものの、アクリル系樹脂が本来有する卓抜した透明性が損なわれ、成形品は一般に青みかがった半透明状や白濁状(ヘイズ状)となる。しかも、シートやフイルムは折り曲げると、折り曲げ部分が白化し、いわゆる“応力白化”が生ずるため、実用上の制約が大きい。
【0005】
ゴム層を含むアルキルメタクリレート系重合体多層粒状物に関する従来技術を具体的に挙げると、例えば、米国特許第3,450,632号明細書および米国特許第3,562,235号明細書には、耐衝撃性の向上を目的として、その核にポリアルキルアクリレートを主体とする弾性重合体を配置した多層構造粒状重合体材料が記載されているが、これらのものは、熱安定性、応力白化などの点で十分に満足のゆくものではない。
【0006】
また、メチルメタクリレートやスチレンから主としてなる硬質樹脂を核とする多層構造粒状重合体も提案されており、例えば特公昭46−3591号公報には、その内層(核)と外層をメチルメタクリレートおよび/またはスチレンを主成分とする硬質樹脂から形成し、両者の中間に架橋したポリアルキルアクリレート層を配置した3層構造粒状重合体が記載されている。
しかしながら、この3層構造粒状重合体では、各層間のグラフト結合が十分ではなく、そのため該3層構造粒状重合体を用いて得られる成形品は、半透明または不透明であり、しかも応力白化が大きく、折り曲げや延伸などの応力が加えられると白化が生じ易く、メチルメタクリレート系樹脂が本来有する特徴を失う。その上、この3層構造粒状重合体はフイルムなどの薄物の成形時にその成形幅を大きなものとすることができず、フイルムなどの薄物用の素材としての適性に欠けている。
【0007】
さらに、特公昭55−27576号公報には、低ヘイズで耐衝撃性の重合体組成物を得ることを目的として、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリルなどの硬質熱可塑性重合体に、上記した特公昭46−3591号公報に記載されているのと類似した層構成を有する3層構造粒状重合体をブレンドした重合体組成物が提案されている。しかしながら、この重合体組成物を用いて得られるフイルムやシートなどの薄物の成形品は、折り曲げ白化が生じ易いというポリマーブレンド系の本質的な欠点を有しており、しかも半透明または不透明であって透明性の点でポリメチルメタクリレートやポリスチレンなどに比べて大幅に劣っている。
【0008】
また、特開平7−223298号公報には、上記した特公昭46−3591号公報に記載されているのと類似した層構成を有する3層構造粒状重合体と硬質熱可塑性アクリル樹脂とのブレンド物の層をポリカーボネート樹脂基板に積層した積層板が記載されている。この積層板で用いている前記3層構造粒状重合体は、ガラス転移点の高い内外層の中間に低級アルキルアクリレートから主としてなる弾性重合体の層を有する3層構造粒状体であり、その3層構造粒状体を硬質熱可塑性アクリル樹脂にブレンドすることによって耐衝撃性の組成物が得られるとしている。しかしながら、該3層構造粒状体は流動性が極めて悪く、そのためにそれ自身では成形性に劣り、単独ではフイルムなどの薄物の成形品の製造に円滑に用いることができない。しかも、該3層構造粒状体と硬質熱可塑性アクリル樹脂とからなるブレンド物は、ポリマーブレンド系の本質的な欠点である、上記したような折り曲げ白化を生じ易いという問題点や、透明性に劣るという欠点を有している。
【0009】
さらに、特公昭52−30996号公報、特公昭63−42940号公報、特公平7−68318号公報、特開平5−320457号公報には、上記した3層構造粒状重合体と類似した層構成を有し、特に、ガラス転移点の高い内層と外層の間に低級アルキルアクリレートとスチレンなどの芳香族ビニル化合物との単量体混合物から形成した弾性重合体の中間層を有する3層構造粒状重合体が記載されており、この3層構造粒状重合体では各層の屈折率を合わせることで透明性を保持することが試みられている。しかしながら、この3層構造粒状重合体ではその中間層をなす弾性重合体がスチレンなどの芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を有していることにより、耐候性が低く、フイルムなどの薄物の成形品の素材としては適用性に乏しい。
【0010】
また、特公昭58−1694号公報および特公昭59−366455号公報には、3層構造を基本とし、しかもその各層間にほぼ定率で変化する濃度勾配を持つ中間層を更に設けた4層以上の多層構造粒状重合体が記載されている。さらに、特公昭59−36646号公報、および特公昭63−8983号公報には、中央の軟質重合体層と最外層との間に1層以上の中間層を更に有する4層以上の多層構造粒状重合体が記載されており、また特公昭62−41241号公報には、軟質層−硬質層−軟質層−硬質層というように4層以上を有する多層構造粒状重合体が記載されている。
しかしながら、これらの多層構造粒状重合体は、いずれもその層数が合計で4層以上の多層であるため、多層構造粒状重合体を得るための重合工程が複雑で且つ長い重合時間を要し、生産性に劣る。
【0011】
さらに、アクリル系樹脂は吸湿性が比較的大きく、温水浸漬時や、屋外で用いた場合の雨上がりの気温上昇時などには、吸湿して白化し易い。特に、フイルムなどの薄物の成形品では、前記した温水白化現象は透明性の低下につながり、その商品価値を大きく損なう。
温水白化の防止策としては、従来、シクロヘキシルメタクリレートのような疎水性の単量体をアクリル系樹脂中に共重合させたり、シリコーン化合物や可塑剤などの撥水性および/または疎水性化合物をアクリル系樹脂中に添加して、温水の吸収を低減させる方法が試みられているが、いずれも十分に満足のゆく結果が得られていない。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、アクリル系樹脂が本来有する良好な成形性、美麗な外観、高い透明性、優れた耐候性などの特性を保持し、しかも他の熱可塑性重合体や弾性重合体などとブレンドしなくても、それ自体で耐衝撃性および熱安定性に優れ、そのために他の重合体とブレンドすることによって生ずる透明性の低下や耐候性の低下を回避しながら、それ自身で外観、透明性、耐候性、耐応力白化性、耐温水性、熱安定性などに優れる各種成形品や積層体などの製品を良好な成形性で円滑に生産性良く製造することのできるアクリル系多層構造粒状複合体を提供することである。
そして、本発明の目的は、複雑で時間のかかる重合工程や処理工程を要せずに、簡単な重合工程や処理工程によって、上記した優れた諸特性を有するアクリル系多層構造粒状複合体を得ることである。
さらに、本発明の目的は、上記した優れた諸特性を有するアクリル系多層構造粒状複合体からなる成形品および積層体を提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。そして、最内層および最外層のそれぞれがメチルメタクリレートから主としてなる特定の硬質重合体からなり、それらの中間に特定の低級アルキルアクリレートから主としてなる軟質重合体層を有し、該最内層、中間層および最外層を特定の割合で含有し、しかも特定の平均粒度およびメルトフローレートを有する3層構造粒状重合体を製造することに成功した。
そして、それにより得られた3層構造粒状重合体の物性を色々調べたところ、該3層構造粒状重合体は、アクリル系樹脂が本来有する良好な成形性、熱安定性、美麗な外観、優れた透明性や耐候性などの特性を有すること、しかも他の熱可塑性重合体や弾性重合体などとブレンドしなくてもそれ自体で耐衝撃性、耐応力白化性、耐温水白化性などに優れていること、そのために他の重合体とブレンドすることによって生ずる透明性の低下や耐候性の低下などを生ずることなく、それ自身で外観、透明性、耐候性、耐応力白化性、耐温水白化性、熱安定性などに優れる成形品や積層体などを良好な成形性で生産性良く製造できることを見出した。特に、本発明者らの製造した上記のアクリル系多層構造粒状複合体は、フイルムなどの薄物の成形品への成形性が良好で、それにより得られるフイルムなどは外観、透明性、耐衝撃性などに優れ、折り曲げや延伸などの応力が加わっても白化が生じず、温水にさらされても白化しないことを見出した。
【0014】
さらに、本発明者らは、上記で得られた3層構造粒状重合体を凝集させて、平均粒度が100〜500μm、見掛け密度が0.3g/cm3以上、および加圧圧縮率が30%未満である凝集粒状体にすると、それにより得られる凝集粒状体は飛散しにくく、取り扱い性、成形性に優れ、押出成形や射出成形などの成形が円滑に行えること、他の添加剤の凝集粒状体への分散性が良好であること、取り扱い時や貯蔵中にブロッキングや機器への付着が生じないこと、さらに該凝集粒状体を用いて得られる成形品ではブツ(フィッシュアイ)の発生がなく、力学的特性にも優れていることを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は、アクリル系多層構造粒状複合体であって;
(I) 前記アクリル系多層構造粒状複合体が、
(i) メチルメタクリレート80〜98.99重量%、アルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートの少なくとも1種1〜20重量%、多官能性グラフト剤0.01〜1重量%および多官能性架橋剤0〜0.5重量%からなる単量体混合物を重合してなる最内層硬質重合体(a);
(ii) 上記の最内層硬質重合体(a)の存在下に、アルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートの少なくとも1種70〜99.5重量%、メチルメタクリレート0〜30重量%、多官能性グラフト剤0.5〜5重量%および多官能性架橋剤0〜5重量%からなる単量体混合物を重合してなる軟質層重合体(b);並びに、
(iii) 上記の最内層硬質重合体(a)と軟質層重合体(b)からなる重合体粒子の存在下に、メチルメタクリレート90〜99重量%およびアルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートの少なくとも1種10〜1重量%からなる単量体混合物を重合してなるガラス転移点が80℃以上の最外層硬質重合体(c);
よりなる3層構造を有し;
(II) アクリル系多層構造粒状複合体の重量に基づいて、上記の最内層硬質重合体(a)を5〜30重量%、軟質層重合体(b)を20〜45重量%および最外層硬質重合体(c)を50〜75重量%の割合で有し;
(III) 平均粒度が0.01〜0.3μmであり;且つ
(IV) 230℃、3.8kg荷重下でのメルトフローレートが0.5〜20g/10分である;
ことを特徴とするアクリル系多層構造粒状複合体である。
【0016】
そして、本発明は、上記したアクリル系多層構造粒状複合体が凝集してなる凝集粒状体であって、平均粒度が100〜500μm、見掛け密度が0.3g/cm3以上、および加圧圧縮率が30%未満であることを特徴とする凝集粒状体である。
【0017】
さらに、本発明は、上記したアクリル系多層構造粒状複合体および/または上記した凝集粒状体からなる成形品、並びに該アクリル系多層構造粒状複合体および/または該凝集粒状体から形成された層を少なくとも1層並びに他の熱可塑性重合体から形成された層を少なくとも1層有する積層体を包含する。
【0018】
そして、本発明は、(1)メチルメタクリレート80〜98.99重量%、アルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートの少なくとも1種1〜20重量%、多官能性グラフト剤0.01〜1重量%および多官能性架橋剤0〜0.5重量%からなる単量体混合物を水性媒体中で重合して硬質重合体を製造し、(2)前記の重合工程(1)で得られる硬質重合体の存在下に水性媒体中でアルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートの少なくとも1種70〜99.5重量%、メチルメタクリレート0〜30重量%、多官能性グラフト剤0.5〜5重量%および多官能性架橋剤0〜5重量%からなる単量体混合物を重合して前記硬質重合体上に軟質重合体が積層してなる重合体粒子を製造し、そして(3)前記の重合工程(2)で得られる重合体粒子の存在下に、水性媒体中でメチルメタクリレート90〜99重量%およびアルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートの少なくとも1種10〜1重量%からなる単量体混合物を重合して前記軟質重合体上にガラス転移点が80℃以上である硬質重合体の層を形成させることからなり、且つアクリル系多層構造粒状複合体の製造に用いる単量体の全重量に基づいて、重合工程(1)に用いる上記単量体混合物の割合が5〜30重量%であり、重合工程(2)に用いる上記単量体混合物の割合が20〜45重量%であり、そして重合工程(3)に用いる上記単量体混合物の割合が50〜75重量%であることを特徴とする、上記した本発明のアクリル系多層構造粒状複合体の製造方法である。
【0019】
そして、本発明は、上記した本発明のアクリル系多層構造粒状複合体を含む水性分散液を凍結し、次いでそれを融解した後、脱水および乾燥して、平均粒度が100〜500μm、見掛け密度が0.3g/cm3以上、および加圧圧縮率が30%未満である上記した本発明のアクリル系多層構造粒状複合体の凝集粒状体を製造する方法である。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明のアクリル系多層構造粒状複合体は、最内層硬質重合体(a)よりなる最内層(核)、軟質層重合体(b)よりなる中間層および最外層硬質重合体(c)からなる3層構造粒状体である。
本発明のアクリル系多層構造粒状複合体における最内層硬質重合体(a)は、上記のように、メチルメタクリレート80〜98.99重量%、アルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートの少なくとも1種1〜20重量%、多官能性グラフト剤0.01〜1重量%および多官能性架橋剤0〜0.5重量%からなる単量体混合物を重合することにより得られる。
【0021】
最内層硬質重合体(a)の形成に用いるアルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレート(以下「C1 〜 8アルキルアクリレート」という)としては、アクリル酸のC1 〜 8アルキルエステルであればいずれでもよく特に制限されず、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−ブチルメチルアクリレート、n−ヘプチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレートなどを挙げることができ、これらのアルキルアクリレートの1種または2種以上を用いることができる。これらのうちでも、メチルアクリレートおよび/またはn−ブチルアクリレートが好ましく用いられる。
【0022】
また、最内層硬質重合体(a)の形成に用いる多官能性グラフト剤は、最内層硬質重合体(a)と軟質層重合体(b)とを化学的に結合させ、また場合により更に最内層硬質重合体(a)に架橋構造を形成するのに用いる。
多官能性グラフト剤としては、前記した働きを有する多官能性単量体であればいずれも使用可能であり、一般的には異なる重合性基を2個以上を有する化合物が好ましく用いられる。多官能性グラフト剤の具体例としては、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、モノ−またはジ−アリルマレエート、モノ−またはジ−アリルフマレート、クロチルアクリレート、クロチルメタクリレートなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、アリルメタクリレートが、最内層硬質重合体(a)と軟質層重合体(b)の結合能が高く、耐応力白化性および透明性に優れる点から好ましく用いられる。
【0023】
さらに、多官能性架橋剤は、重合時に最内層硬質重合体(a)に架橋構造を形成して、成形時にアクリル系多層構造粒状複合体が破壊することを防ぐために用いる。この多官能性架橋剤は、最内層硬質重合体(a)の形成に当たって必要に応じて用いられる任意成分である。多官能性架橋剤としては、重合時に最内層硬質重合体(a)に架橋構造を形成し得る多官能性単量体であればいずれも使用でき、例えば、ジアクリル化合物、ジメタクリル化合物、ジアリル化合物、ジビニル化合物トリビニル化合物などの従来既知の多官能性架橋剤を用いることができる。より具体的には、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、エチレングリコールジアリルエーテル、プロピレングリコールジアリルエーテルなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0024】
本発明のアクリル系多層構造粒状複合体では、その最内層硬質重合体(a)が、最内層硬質重合体(a)の形成に用いる単量体混合物の全重量に基づいて、上記のように、メチルメタクリレートを80〜98.99重量%、C1 〜 8アルキルアクリレートの少なくとも1種を1〜20重量%、多官能性グラフト剤を0.01〜1重量%および多官能性架橋剤を0〜0.5重量%の割合で含む単量体混合物の重合により形成されていることが必要であり、メチルメタクリレート90〜96.9重量%、C1 〜 8アルキルアクリレート3〜10重量%、多官能性グラフト剤0.1〜0.5重量%および多官能性架橋剤0〜0.2重量%からなる単量体混合物の重合により形成されていることが好ましい。
【0025】
最内層硬質重合体(a)の製造に用いる単量体混合物の全重量に基づいて、メチルメタクリレートの割合が80重量%未満であると耐候性が低下し易くなり、一方98.99重量%を超えると耐衝撃性が低下し易くなる。また、最内層硬質重合体(a)の製造に用いる単量体混合物の全重量の基づいて、C1 〜 8アルキルアクリレートの割合が1重量%未満であるとアクリル系多層構造粒状複合体が熱分解し易くなり、一方20重量%を超えるとアクリル系多層構造粒状複合体から得られるフイルムなどの成形品の温水白化が著しくなる。
また、最内層硬質重合体(a)の製造に用いる単量体混合物の全重量に基づいて、多官能性グラフト剤の割合が0.01重量%未満であると、最内層硬質重合体(a)と軟質層重合体(b)との結合が弱くなって、成形時にアクリル系多層構造粒状複合体が破壊し易くなり、一方1重量%を超えるとアクリル系多層構造粒状複合体の耐衝撃性が低下する。
また、上記したように多官能性グラフト剤によって最内層硬質重合体(a)の架橋もある程度なされるので、多官能性架橋剤は必ずしも使用する必要がないが、多官能性架橋剤を用いる場合は、最内層硬質重合体(a)の形成に用いる単量体混合物の全重量に基づいて、0.5重量%以下であることが必要であり、0.5重量%を超えると、最内層硬質重合体(a)の架橋が過度になって耐衝撃性が低下する。
【0026】
そして、本発明のアクリル系多層構造粒状複合体における軟質層重合体(b)よりなる中間層は、上記した最内層硬質重合体(a)の存在下に、軟質層重合体(b)の製造に用いる単量体混合物の全重量に基づいて、C1 〜 8アルキルアクリレートの少なくとも1種を70〜99.5重量%、メチルメタクリレートを0〜30重量%、多官能性グラフト剤を0.5〜5重量%および多官能性架橋剤を0〜5重量%の割合で含有する単量体混合物を重合することによって形成されていることが必要であり、C1 〜 8アルキルアクリレートの少なくとも1種を90〜99重量%、メチルメタクリレートを0〜10重量%、多官能性グラフト剤を1〜3重量%および多官能性架橋剤を0〜2重量%の割合で含有する単量体混合物を重合することによって形成されていることが好ましい。
【0027】
軟質層重合体(b)の製造に用いるC1 〜 8アルキルアクリレートとしては、最内層硬質重合体(a)の製造に用いられるC1 〜 8アルキルアクリレートについて上記で挙げたのと同様のアルキルアクリレートの1種または2種以上を用いることができ、そのうちでもメチルアクリレートおよび/またはn−ブチルアクリレートが好ましく用いられる。
また、軟質層重合体(b)の製造に用いる多官能性グラフト剤としては、最内層硬質重合体(a)の製造に用いられる多官能性グラフト剤について上記で挙げたのと同様の多官能性グラフト剤の1種または2種以上を用いることができ、そのうちでもアリルメタクリレートが、軟質層重合体(b)と最外層硬質重合体(c)との結合能が高く、耐応力白化性および透明性に優れる点から好ましく用いられる。
そして、軟質層重合体(b)の製造に必要に応じて用いられる多官能性架橋剤としては、最内層硬質重合体(a)の製造に用い得る多官能性架橋剤について上記で挙げたのと同様の多官能性化合物の1種または2種以上を用いることができる。
【0028】
そして、軟質層重合体(b)の製造に用いる単量体混合物の全重量に基づいて、C1 〜 8アルキルアクリレートの割合が70重量%未満であると耐衝撃性が低下し易くなり、一方99.5重量%を超えると耐応力白化性および透明性が低下し易くなる。
また、軟質層重合体(b)の製造に用いる単量体混合物の全重量に基づいて、メチルメタクリレートの割合が30重量%を超えると耐衝撃性が低下し易くなる。このメチルメタクリレートは必要に応じて用いられる任意成分であり、必ずしも使用しなくてもよい。
また、軟質層重合体(b)の製造に用いる単量体混合物の全重量の基づいて、多官能性グラフト剤の割合が0.5重量%未満であると、アクリル系多層構造粒状複合体から得られるフイルムなどの成形品や積層体の耐応力白化性が低下し、一方5重量%を超えるとアクリル系多層構造粒状複合体の耐衝撃性が低下する。さらに、多官能性架橋剤を用いなくても多官能性グラフト剤によって軟質層重合体(b)の架橋がある程度なされるので、多官能性架橋剤は必要に応じて用いられる任意成分であって必ずしも使用する必要はないが、多官能性架橋剤を用いる場合は、軟質層重合体(b)の形成に用いる単量体混合物の全重量に基づいて、5重量%以下であることが必要であり、5重量%を超えると、アクリル系多層構造粒状複合体の耐衝撃性が低下する。
【0029】
また、本発明のアクリル系多層構造粒状複合体における最外層硬質重合体(c)は、上記の最内層硬質重合体(a)と軟質層重合体(b)からなる重合体粒子の存在下に、メチルメタクリレート90〜99重量%およびC1 〜 8アルキルアクリレートの少なくとも1種10〜1重量%からなる単量体混合物を重合することによって形成されていることが必要であり、メチルメタクリレート95〜98重量%およびC1 〜 8アルキルアクリレートの少なくとも1種5〜2重量%からなる単量体混合物を重合することによって形成されていることが好ましい。
また、最外層硬質重合体(c)は、そのガラス転移点が80℃以上であることが必要であり、90℃以上であることが好ましい。
【0030】
最外層硬質重合体(c)の製造に用いる単量体混合物の全重量に基づいて、メチルメタクリレートの割合が90重量%未満である(C1 〜 8アルキルアクリレートの割合が10重量%を超える)と、最外層硬質重合体(c)のガラス転移点が80℃未満になり易く、アクリル系多層構造粒状複合体から得られるフイルムなどの成形品や積層体の耐応力白化性が低いものとなる。一方、最外層硬質重合体(c)の製造に用いる単量体混合物の全重量に基づいて、メチルメタクリレートの割合が99重量%を超える(C1 〜 8アルキルアクリレートの割合が1重量%未満である)と、アクリル系多層構造粒状複合体が熱分解し易くなる。
【0031】
最外層硬質重合体(c)の製造に用いるC1 〜 8アルキルアクリレートとしては、最内層硬質重合体(a)の製造に用いられるC1 〜 8アルキルアクリレートについて上記で挙げたのと同様のアルキルアクリレートの1種または2種以上を用いることができ、そのうちでもメチルアクリレートおよび/またはn−ブチルアクリレートが好ましく用いられる。
【0032】
そして、本発明のアクリル系多層構造粒状複合体では、アクリル系多層構造粒状複合体の重量に基づいて、上記の最内層硬質重合体(a)を5〜30重量%、軟質層重合体(b)を20〜45重量%および最外層硬質重合体(c)を50〜75重量%の割合で有していることが必要であり、最内層硬質重合体(a)を10〜20重量%、軟質層重合体(b)を30〜40重量%および最外層硬質重合体(c)を50〜60重量%の割合で有していることが好ましい。
アクリル系多層構造粒状複合体における最内層硬質重合体(a)の割合が5重量%未満であると、アクリル系多層構造粒状複合体の熱安定性が低下し、また最内層硬質重合体(a)の存在下に軟質層重合体(b)を形成する重合反応(すなわちシード重合)が円滑に行われなくなる。一方、最内層硬質重合体(a)の割合が30重量%を超えると、アクリル系多層構造粒状複合体の耐衝撃性および柔軟性が低下する。
また、アクリル系多層構造粒状複合体における軟質層重合体(b)の割合が20重量%未満であるとアクリル系多層構造粒状複合体の耐衝撃性および柔軟性が低下し、一方45重量%を超えるとアクリル系多層構造粒状複合体の耐熱性および流動性が低下する。
また、アクリル系多層構造粒状複合体における最外層硬質重合体(c)の割合が50重量%未満であるとアクリル系多層構造粒状複合体の流動性およびフイルム形成性が低下し、一方75重量%を超えるとアクリル系多層構造粒状複合体の耐衝撃性および耐応力白化性が低下する。
【0033】
さらに、本発明のアクリル系多層構造粒状複合体は、その平均粒度が0.01〜0.3μmの範囲であることが必要であり、0.04〜0.2μmであることが好ましく、0.05〜0.15μmであることがより好ましい。
アクリル系多層構造粒状複合体の平均粒度が0.01μm未満の場合は、その生産性を向上させるために系中の重合体濃度を上げる必要が生じ、その場合には重合に用いる水性分散液の粘度が高くなり過ぎて、取り扱い性が低下する。一方、アクリル系多層構造粒状複合体の平均粒度が0.3μmを超えると、それから得られるフイルムなどの成形品や積層体などの耐応力白化性が低下する。
なお、本明細書でいうアクリル系多層構造粒状複合体の平均粒度は、以下の実施例の項に記載するように、アクリル系多層構造粒状複合体を含む水性分散液を用いて吸光度法により求めた値をいう。
【0034】
また、本発明のアクリル系多層構造粒状複合体は、230℃、3.8kg荷重下でのメルトフローレートが0.5〜20g/10分であることが必要であり、0.8〜10g/10分であることが好ましい。アクリル系多層構造粒状複合体のメルトフローレートが0.5g/10分未満であると、流動性が低く成形性に劣ったものとなり、一方20g/10分よりも高いと、力学的特性の劣ったものとなる。
【0035】
本発明のアクリル系多層構造粒状複合体の製造方法は特に制限されず、上記した要件を備えているアクリル系多層構造粒状複合体を製造し得る方法であればいずれの方法で製造してもよい。
そのうちでも、本発明のアクリル系多層構造粒状複合体は、(1)メチルメタクリレート80〜98.99重量%、アルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートの少なくとも1種1〜20重量%、多官能性グラフト剤0.01〜1重量%および多官能性架橋剤0〜0.5重量%からなる単量体混合物を水性媒体中で重合して硬質重合体を製造し、(2)前記の重合工程(1)で得られる硬質重合体の存在下に水性媒体中でアルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートの少なくとも1種70〜99.5重量%、メチルメタクリレート0〜30重量%、多官能性グラフト剤0.5〜5重量%および多官能性架橋剤0〜5重量%からなる単量体混合物を重合して前記硬質重合体上に軟質重合体が積層してなる重合体粒子を製造し、そして(3)前記の重合工程(2)で得られる重合体粒子の存在下に、水性媒体中でメチルメタクリレート90〜99重量%およびアルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートの少なくとも1種10〜1重量%からなる単量体混合物を重合して前記軟質重合体上にガラス転移点が80℃以上である硬質重合体の層を形成させることからなり、且つアクリル系多層構造粒状複合体の製造に用いる単量体の全重量に基づいて、重合工程(1)に用いる上記単量体混合物の割合が5〜30重量%であり、重合工程(2)に用いる上記単量体混合物の割合が20〜45重量%であり、そして重合工程(3)に用いる上記単量体混合物の割合が50〜75重量%である、多段重合方法によって円滑に製造することができる。
その際に、上記の重合工程(1)〜(3)は、好ましくは乳化重合によって実施され、特に重合工程(2)および重合工程(3)は、一般的なシード重合法によって行うことがより好ましい。
【0036】
最外層硬質重合体(c)を形成する重合工程(3)を行う際に、連鎖移動剤を添加して重合体の分子量を調節することによって、最終的に得られるアクリル系多層構造粒状複合体のメルトフローレートを上記した0.5〜20g/10分の範囲にすることができる。その際の連鎖移動剤の種類は特に制限されず、従来既知のものを用いることができ、例えば、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン類;ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィドなどのキサントゲンジスルフィド類;テトラチウラムジスルフィドなどのチウラムジスルフィド類;四塩化炭素、臭化エチレンなどのハロゲン化炭化水素などを挙げることができる。連鎖移動剤は、一般に、重合工程(3)で用いる単量体混合物100重量部に対して、0.05〜2重量部の割合で用いることが好ましく、0.08〜1重量部の割合で用いることがより好ましい。
【0037】
上記の重合工程(1)〜(3)において、重合中に凝集物が発生したり、重合槽付着物が重合体中に混入すると、それにより得られたアクリル系多層構造粒状複合体を用いてフイルムなどの成形品を製造したときに、ブツ(フィッシュアイ)が発生して製品価値が低下する。そのため、重合工程(1)〜(3)を、凝集物の生成を抑制し、且つ重合槽付着物の低減させ、且つそれらの重合体中への混入を極力回避しながら行うことが重要である。
そのための好ましい方法としては、単量体混合物をその供給量を調整しつつ重合系に滴下などによって供給しながら重合工程(1)〜(3)を行う方法を挙げることができる。その際の単量体混合物の供給速度としては、重合工程(1)、重合工程(2)および重合工程(3)のそれぞれにおいて、各重合工程に用いる単量体混合物の全重量に基づいて、単量体混合物の各重合系への供給割合を0.05〜3重量%/分としながら各工程での重合を行うことが好ましく、0.1〜1重量%/分の供給割合とすることがより好ましく、0.2〜0.8重量%/分の供給割合とすることが更に好ましい。
【0038】
重合工程(1)〜(3)は、重合開始剤を用いて、好ましくは乳化剤の存在下に乳化重合により行う。重合開始剤の種類は特に制限されず、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性の無機系開始剤、前記の無機系開始剤に亜硫酸塩やチオ硫酸塩など併用したレドックス開始剤、油溶性の有機過酸化物/第一鉄塩、有機過酸化物/ナトリウムスルホキシレートなどのレドックス開始剤などを用いることができる。
重合系における重合開始剤ラジカル量が低下する場合は、重合開始剤を分割して添加しながら重合を行ってもよい。
【0039】
また、乳化剤の種類も特に制限されず、従来慣用されているものの中から任意に選ぶことができ、例えば、長鎖アルキルスルホン酸塩、スルホコハク酸アルキルエステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩などのアニオン系乳化剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのノニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウムなどのアルキルエーテルカルボン酸塩などのノニオン・アニオン系乳化剤を挙げることができる。
【0040】
また、重合工程(1)〜(3)は、同じ重合槽中で行っても、または重合槽を変えて行ってもよいが、同じ重合槽中で行うことが好ましい。
上記した重合工程(1)〜(3)を乳化剤を用いて乳化重合によって行う場合に、乳化剤の種類、乳化剤の添加量、重合開始剤の濃度、重合温度などを調節することによって、最終的に得られるアクリル系多層構造粒状複合体の平均粒度を上記した0.01〜0.3μmの範囲に調節することができる。
一般的に、重合工程(1)〜(3)のそれぞれを30〜120℃の温度で行うことが好ましく、50〜100℃の温度で行うことがより好ましい。
【0041】
また、重合工程(1)〜(3)のいずれかにおいて、必要に応じて、反応性の紫外線吸収剤、例えば2−[2−ヒドロキシ−5−(2−メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−1,2,3−ベンゾトリアゾールなどを添加して重合を行って、耐紫外線性に優れるアクリル系多層構造粒状複合体を製造してもよい。その場合の前記した紫外線吸収剤の添加量は、単量体混合物100重量部に対して、0.05〜5重量部程度の量とすることが好ましい。
【0042】
また、重合工程(1)〜(3)のいずれかの段階で凝集物が生成したり、重合槽付着物(スケール)が生じた場合には、目開きが50μm以下、好ましくは30μm以下の濾材を用いて、凝集物やスケールの除去を行うことが好ましい。
【0043】
上記の重合工程(3)の終了後に、平均粒度が0.01〜0.3μmのアクリル系多層構造粒状複合体が水性媒体中に分散した分散液が生成する。
分散液からのアクリル系多層構造粒状複合体の分離・回収方法は特に制限されず、アクリル系多層構造粒状複合体の物性低下を招かない方法であればいずれの方法で行ってもよく、例えば、凍結凝固法、塩析凝固法、酸析凝固法、凍結乾燥法、噴霧乾燥法などにより行うことができる。その場合に、分離・回収したアクリル系多層構造粒状複合体が未だ水分を含む場合は更に乾燥を行って、乾燥粉末の状態にするとよい。凍結乾燥法や噴霧乾燥法による場合は、一般に、平均粒度が上記した0.01〜0.3μmの範囲にある乾燥粉末の形態のアクリル系多層構造粒状複合体が得られ、また凍結凝固法、塩析凝固法、酸析凝固法などによる場合は、一般に、アクリル系多層構造粒状複合体(一次粒子)が複数凝集した凝集粒状体(二次粒子)が得られる。
【0044】
本発明では、上記した分離・回収方法のうちでも、凍結凝固法が好ましく採用される。凍結凝固法による場合は、アクリル系多層構造粒状複合体中に含まれる不純物の洗浄除去が可能であり、塩析剤のような凝固剤を使用しないことにより着色等の原因となる残留物を含まないアクリル系多層構造粒状複合体が得られる。しかも、凍結凝固法による場合は、アクリル系多層構造粒状複合体(一次粒子)が複数凝集して、取り扱い性、成形性に優れ、しかも成形したときにブツ(フィッシュアイ)の出現がなく、力学的特性に優れる成形品を得ることのできる凝集粒状体(二次粒子)を生成させることができる。
【0045】
そして、凍結凝固法を採用する場合は、アクリル系多層構造粒状複合体を含む水性分散液を−5℃以下の温度で30分以上かけて徐々に凍結して凝固させ、次いでそれを融解し、脱水、乾燥する方法が好ましく採用され、それによって、一般に、平均粒度が100〜500μm、見掛け密度が0.3g/cm3以上で、加圧圧縮率が30%未満である不定形の凝集粒状体(二次粒子)を得ることができる。この凝集粒状体は、飛散しにくく、取り扱い性、成形性に優れており、貯蔵中にブロッキングを生じにくく、添加剤を配合する際の分散性に優れており、しかもそれから得られる成形品ではブツ(フィッシュアイ)が発生せず、力学的特性に優れるものとなる。凍結凝固を前記したよりも速い速度で行うと、凝集粒状体の平均粒度が上記したよりも小さくなって、飛散し易く、取り扱い性の低下したものになり易い。
なお、ここでいう、アクリル系多層構造粒状複合体の凝集粒状体の平均粒度、見掛け密度および加圧圧縮率は、以下の実施例の項に記載する方法により測定した値をいう。
【0046】
本発明のアクリル系多層構造粒状複合体およびそれよりなる凝集粒状体は、溶融成形が可能であり、熱可塑性重合体一般に採用されている成形方法および成形装置を用いて成形を行うことができ、そのまま粉体状の形態で、またはペレットなどの形態にして、例えば、押出成形、射出成形、ブロー成形、プレス成形、カレンダー成形、注型、溶融積層成形などによって、各種成形品、例えば、フイルム、シート、板、管、棒、その他の三次元構造の成形品や積層体を製造することができる。
【0047】
特に、本発明のアクリル系多層構造粒状複合体およびそれよりなる凝集粒状体は、従来アクリル系重合体が適さないとされてきた、フイルムやシートなどの薄物の成形品の製造にも適しており、本発明のアクリル系多層構造粒状複合体および/または凝集粒状体を用いて得られる薄物の成形品は、耐衝撃性に優れ、しかも耐応力白化性に優れていて折り曲げても白化が生じず、耐温水白化性に優れていて温水に曝されても白化が生じない。フイルムやシートなどの薄物の成形品や積層フイルムなどの製造に当たっては、Tダイによる押出成形法、インフレーション成形法などの従来既知の方法を採用することができる。
【0048】
さらに、本発明のアクリル系多層構造粒状複合体および凝集粒状体は、他の重合体、特にポリカーボネート系重合体、塩化ビニル系重合体、フッ化ビニリデン系重合体、メタクリル樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AS樹脂などの熱可塑性重合体との接着性にも優れており、そのため本発明のアクリル系多層構造粒状複合体および/またはそれよりなる凝集粒状体と前記した熱可塑性重合体を用いて、積層フイルムやその他の積層体を円滑に製造することができる。その際の積層体の製造法は特に制限されず、例えば、本発明のアクリル系多層構造粒状複合体または凝集粒状体と上記した熱可塑性重合体を溶融共押出して積層体を製造する方法、熱可塑性重合体から予め製造したフイルム、シート、板などの上に本発明のアクリル系多層構造粒状複合体または凝集粒状体を押出被覆して積層体を製造する方法、熱可塑性重合体から予め製造したフイルム、シート、板などを型内に配置した状態で本発明のアクリル系多層構造粒状複合体または凝集粒状体を射出成形や注型などにより型内に導入して積層体を製造する方法、熱可塑性重合体から予め製造したフイルム、シート、板などと本発明のアクリル系多層構造粒状複合体またはその凝集粒状体をプレス成形して積層体を製造する方法などを挙げることができる。
【0049】
また、本発明のアクリル系多層構造粒状複合体およびそれよりなる凝集粒状体には、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、老化防止剤、可塑剤、高分子加工助剤、滑剤、染料、顔料などの公知の添加剤を配合することができる。これらの添加剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で用いられ、一般に、アクリル系多層構造粒状複合体またはそれよりなる凝集粒状体100重量部に体して0.01〜20重量部の範囲で用いられる。
【0050】
【実施例】
以下に本発明について実施例および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はそれらにより何ら制限されるものではない。以下の実施例および比較例で用いた「部」および「%」はそれぞれ重量部および重量%を示す。また、実施例および比較例における各種物性の測定および評価は以下にようにして行った。
【0051】
(1)アクリル系多層構造粒状複合体(凝集する前の粒状体)の平均粒度:
アクリル系多層構造粒状複合体を含む水性分散液を採取して、吸光度法によりその平均粒度を求めた。
【0052】
(2)アクリル系多層構造粒状複合体よりなる凝集粒状体の平均粒度:
ASTM標準篩により篩分け行い、次式により重量平均による凝集粒状体の平均粒度を求めた。
【0053】
【数1】
凝集粒状体の平均粒度=Σ(yi・di/yi)
ここで、diはi段目の篩の目開き(μm)、yiはi段目の篩に残った粉体の重量比率を示す。
【0054】
(3)アクリル系多層構造粒状複合体の凝集粒状体の見掛け密度:
予め重量を測定しておいた100ml(100cm3)メスシリンダー[メスシリンダー重量W0(g)]に、その約50ml程度の目盛りまで凝集粒状体を入れて、メスシリンダーと凝集粒状体の合計重量(W)(g)を測定する。その後、メスシリンダーを10cmの高さから落下させる操作(タッピング)を10回行って、そのときの凝集粒状体の体積(V)(ml=cm3)をメスシリンダーの目盛りで読み取り、次式により凝集粒状体の見掛け密度を算出した。
【0055】
【数2】
凝集粒状体の見掛け密度(g/cm3)=(W−W0)/V
【0056】
(4)アクリル系多層構造粒状複合体の凝集粒状体の加圧圧縮率:
直径61mm、高さ80mmの円筒形容器[容積V0(mm3)]に凝集粒状体を一杯に充填し、上から0.3kg/cm2の荷重を平均にかけて5分間加圧し、その時の凝集粒状体の体積(V)(mm3)を測定し、次式により凝集粒状体の加圧圧縮率を算出した。
【0057】
【数3】
凝集粒状体の加圧圧縮率(%)={(V0−V)/V0}×100
【0058】
(5)メルトフローレート:
アクリル系多層構造粒状複合体の凝集粒状体より製造したペレットを用いて、ASTM−D1238に準じて、230℃、3.8kg荷重でのメルトフローレート(以下「MFR」という)を測定した。
【0059】
(6)熱安定性:
アクリル系多層構造粒状複合体の凝集粒状体より製造したペレットを280℃で5分間ラボプラストミルを用いて混練し、そのときの状態を目視で観察して、ゲル化および発泡が生じていない場合を良好(○)、ゲル化および/または発泡が生じている場合を不良(×)として評価した。
【0060】
(7)フイルム成形性:
アクリル系多層構造粒状複合体の凝集粒状体よりなるペレットを用いて、Tダイ押出成形機を使用して、シリンダー温度250℃、ダイ温度240℃の条件下に、ダイリップ横幅300mmおよび上下空隙0.3mmのTダイを通して溶融押出し、縦方向に10倍延伸しながら引き取ってフイルムを製造し、押出成形開始10分後から60分後までの間に測定されたフイルムの最小厚さ(Dmin)(μm)と最大厚さ(Dmax)(μm)から、次式により厚み変動率を求め、下記の表1に示す評価基準にしたがってフイルム成形性を評価した。
【0061】
【数4】
フイルムの厚み変動率(%)={(Dmax−Dmin)/Dmin}×100
【0062】
【表1】
[フイルム成形性の評価基準]
◎:厚み変動率が5%未満であり、フイルム成形性が極めて良好である。
○:厚み変動率が5〜20%であり、フイルム成形性がほぼ良好である。
×:厚み変動率が20%を超え、フイルム成形性が不良である。
【0063】
(8)積層成形性:
共溶融押出成形で製造した積層板を目視で観察して、フローマークおよび層界面における白化の有無を調べ、フローマークおよび層界面の白化のいずれもが生じていない場合を良好(○)、フローマークおよび/または層界面の白化が生じていた場合を不良(×)として評価した。
【0064】
(9)耐衝撃性:
アクリル系多層構造粒状複合体の凝集粒状体からなるペレットを用いて、射出成形機(日本製鋼所製「N70A」)を使用して、溶融温度250℃、射出圧力100kg/cm2、金型温度60℃の条件下に射出成形を行って、試験片を作製し、ASTM−D256に準じて、Vノッチ付アイゾット衝撃強度を測定した。
【0065】
(10)非積層成形品の耐応力白化性:
アクリル系多層構造粒状複合体の凝集粒状体からなるペレットを用いて、射出成形機(日本製鋼所製「N70A」)を使用して、溶融温度250℃、射出圧力100kg/cm2、金型温度60℃の条件下に射出成形を行って、引張試験用のダンベル試験片を作製し、オートグラフ引張試験機(島津製作所製「AG−10TB」)を用いて、5mm/分の引張速度で試験片を引き伸ばし、10%伸び率の時の白化の有無を目視により観察し、白化が生じていない場合を良好(○)、白化が生じていた場合を不良(×)として評価した。
【0066】
(11)積層板の耐応力白化性:
共溶融押出成形で製造した厚さ2mmの積層板から幅10mmの短冊状試験片を切り出し、常温(20℃)で90℃に折り曲げて、折り曲げ部分における白化の有無を目視で観察して、白化が生じていない場合を良好(○)、白化が生じていた場合を不良(×)として評価した。
【0067】
(12)非積層成形品の耐温水白化性:
アクリル系多層構造粒状複合体の凝集粒状体からなるペレットを用いて、射出成形機(日本製鋼所製「N70A」)を使用して、溶融温度250℃、射出圧力100kg/cm2、金型温度60℃の条件下に射出成形を行って、厚さ3mmの平板状の試験片を作製し、その厚さ方向の光線透過率を波長600nmにて測定した。次いで、その試験片を80℃の温水に12時間浸漬した後、室温(20℃)の蒸留水に直ちに浸漬して室温まで冷却し、蒸留水から取り出して、ガーゼで表面の水分をふき取って、その厚さ方向の光線透過率を波長600nmにて測定すると共に、白化の有無を目視にて観察し、白化が全く生じていない場合を極めて良好(◎)、白化がほとんど生じていない場合を良好(○)、やや白化している場合を不良(△)、白化が著しい場合を極めて不良(×)として評価した。
【0068】
(13)積層板の耐温水白化性:
共溶融押出成形で製造した厚さ2mmの積層板から試験片を切り出し、その試験片を80℃の温水に12時間浸漬した後、室温(20℃)の蒸留水に直ちに浸漬して室温まで冷却し、蒸留水から取り出して、ガーゼで表面の水分をふき取って、白化の有無を目視にて観察した。その際、白化が全く生じていない場合を極めて良好(◎)、白化がほとんど生じていない場合を良好(○)、やや白化している場合を不良(△)、白化が著しい場合を極めて不良(×)として評価した。
【0069】
《実施例1》
(1) 撹拌機、温度計、窒素ガス導入部、単量体導入管および還流冷却器を備える反応容器内に、脱イオン水150部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム1.5部および炭酸ナトリウム0.05部を仕込み、容器内を窒素ガスで充分に置換して実質的に酸素の影響がない状態とした後、内温を80℃に設定した。そこに、過硫酸カリウム0.015部を投入し、5分間撹拌した後、メチルメタクリレート14.67部、n−ブチルアクリレート0.3部およびアリルメタクリレート0.03部からなる単量体混合物を20分間かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに30分間重合を行って、最内層硬質重合体(a)を製造した。
(2) 次いで、同反応器内に、過硫酸カリウム0.030部を投入して5分間撹拌した後、n−ブチルアクリレート29.4部およびアリルメタクリレート0.6部からなる単量体混合物を40分間かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに30分間重合を行って、最内層硬質重合体(a)上に軟質層重合体(b)よりなる重合体層を有する層状粒状体を製造した。
(3) 次に、同反応器内に、過硫酸カリウム0.055部を投入して5分間撹拌した後、メチルメタクリレート53.9部、n−ブチルアクリレート1.1部およびn−オクチルメルカプタン(連鎖移動剤)0.5部を含む単量体混合物を100分間かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに60分間重合を行って、軟質層重合体(b)上に最外層硬質重合体(c)よりなる重合体層を有するアクリル系多層構造粒状複合体を含む水性分散液(ラテックス)を得た。このラテックスを少量採取して、そこに含まれているアクリル系多層構造粒状複合体の平均粒度を上記したように吸光度法により求めたところ、0.09μmであった。
【0070】
(4) 上記(3)で得られたアクリル系多層構造粒状複合体のラテックスを、−20℃の温度で1時間かけて凍結し、それにより得られた凍結物を3倍量の80℃の温水中に投入して融解させて凝集スラリーとした。次いで、この凝集スラリーを遠心分離機で脱水した後、80℃で乾燥させて、アクリル系多層構造粒状複合体の凝集粒状体を得た。この凝集粒状体の平均粒度、見掛け密度および加圧圧縮率を上記した方法で求めたところ、平均粒度165μm、見掛け密度0.48g/cm3、加圧圧縮率10%であった。
(5) 上記(4)で得られたアクリル系多層構造粒状複合体の凝集粒状体を押出機に供給して、溶融押出温度240℃の条件下にペレット(直径2mm、長さ3mm)を製造した。
(6) 上記(5)で得られたペレットの熱安定性を上記した方法で評価すると共に、上記(5)で得られたペレットを用いて試験片を製造して、その各種物性を上記した方法で調べたところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0071】
《実施例2〜5および比較例1〜3》
最内層硬質重合体(a)および最外層硬質重合体(c)を、下記の表2または表3に示す単量体混合物を用いて行った以外は実施例1と全く同様にして、アクリル系多層構造粒状複合体のラテックスを製造し、それを用いてアクリル系多層構造粒状複合体の凝集粒状体を製造した。得られた凝集粒状体からペレットを製造し、それにより得られたペレットの熱安定性を上記した方法で評価すると共に、該ペレットを用いて試験片を製造して、その各種物性を上記した方法で調べたところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0072】
《実施例6〜7および比較例4》
アクリル系多層構造粒状複合体を製造する際に、乳化剤の量を減少させて、得られるアクリル系多層構造粒状複合体の平均粒度を下記の表2または表3に示すように変えた以外は実施例1と全く同様にして、アクリル系多層構造粒状複合体のラテックスを製造し、それを用いてアクリル系多層構造粒状複合体の凝集粒状体を製造した。得られた凝集粒状体からペレットを製造し、それにより得られたペレットの熱安定性を上記した方法で評価すると共に、該ペレットを用いて試験片を製造して、その各種物性を上記した方法で調べたところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0073】
《実施例8〜10および比較例5〜7》
最内層硬質重合体(a)、軟質層重合体(b)および最外層硬質重合体(c)の層比率を、下記の表2または表3に示すように変えた以外は実施例1と全く同様にして、アクリル系多層構造粒状複合体のラテックスを製造し、それを用いてアクリル系多層構造粒状複合体の凝集粒状体を製造し、該凝集粒状体からペレットの製造し、それにより得られたペレットの熱安定性を上記した方法で評価すると共に、該ペレットを用いて試験片を製造して、その各種物性を上記した方法で調べたところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
上記の表2〜表4の結果から、メチルメタクリレート80〜98.99重量%、C1 〜 8アルキルアクリレート1〜20重量%、多官能性グラフト剤0.01〜1重量%および多官能性架橋剤0〜0.5重量%からなる単量体混合物を重合してなる最内層硬質重合体(a)、C1 〜 8アルキルアクリレート70〜99.5重量%、メチルメタクリレート0〜30重量%、多官能性グラフト剤0.5〜5重量%および多官能性架橋剤0〜5重量%からなる単量体混合物を重合してなる軟質層重合体(b)、並びにメチルメタクリレート90〜99重量%およびC1 〜 8アルキルアクリレート10〜1重量%からなる単量体混合物を重合してなるガラス転移点が80℃以上の最外層硬質重合体(c)からなるアクリル系多層構造粒状複合体であって、且つ最内層硬質重合体(a):軟質層重合体(b):最外層硬質重合体(c)の層比率(重量比)が、5〜30:20〜45:50〜75の範囲にあり、MFRが0.5〜20g/10分の範囲にある実施例1〜10のアクリル系多層構造粒状複合体(凝集粒状体)は、熱安定性、フイルム成形性に優れ、しかも耐衝撃性、耐応力白化性、耐温水白化性に優れる成形品(フイルム)を製造し得ることがわかる。
【0078】
それに対して、上記の表2〜表4の結果から、最内層硬質重合体(a)または最外層硬質重合体(c)を構成する構造単位の割合が本発明の範囲から外れていたり、最内層硬質重合体(a)、軟質層重合体(b)および最外層硬質重合体(c)の層比率が本発明の範囲から外れていたり、またはアクリル系多層構造粒状複合体の平均粒度が本発明の範囲から外れている比較例1〜7の場合は、アクリル系多層構造粒状複合体(凝集粒状体)の熱安定性、フイルム成形性、得られる成形品の耐衝撃性、耐応力白化性、耐温水白化性の1つ以上において、物性が劣ったものとなることがわかる。
【0079】
《実施例11〜17》
実施例1で得られたアクリル系多層構造粒状複合体の凝集粒状体からなるペレットを押出機(スクリュー径30mm)に供給してシリンダー温度250℃の条件下に溶融し、一方下記の表4に記載した熱可塑性重合体のペレットを別の押出機(スクリュー径50mm)に供給して、下記の表5に示すシリンダー温度で溶融し、両方の溶融物を幅350mmのシート製造用の共押出ダイに供給して、熱可塑性重合体からなる層の両側にアクリル系多層構造粒状複合体からなる被覆層(各被覆層の厚さ50μm)を有する全体の厚さが2mmの2種3層からなる積層板を製造した。
その際に、積層成形性を上記した方法で評価すると共に、得られた積層板の耐応力白化性および耐温水白化性を上記した方法で調べたところ、下記の表5に示すとおりであった。
なお、積層板におけるアクリル系多層構造粒状複合体からなる被覆層の厚さは、積層板を試験片を切り出し、その切断面を研磨してから光学顕微鏡を用いて測定した。
【0080】
《比較例8〜10》
比較例1、比較例3および比較例4のアクリル系多層構造粒状複合体よりなる凝集粒状体からなるペレット(比較例8、比較例9および比較例10にそれぞれ対応)を用いた以外は実施例11と同様にして積層板を製造し、測定評価した。その結果を下記の表5に示す。
【0081】
【表5】
【0082】
上記の表5の結果から、本発明のアクリル系多層構造粒状複合体は、熱可塑性重合体との積層成形性に優れていること、しかも本発明のアクリル系多層構造粒状複合体からなる層と熱可塑性重合体からなる層を有する積層体は、耐応力白化性や耐温水白化性などの特性においても優れていることがわかる。
【0083】
【発明の効果】
本発明のアクリル系多層構造粒状複合体およびそれよりなる凝集粒状体は、アクリル系樹脂が本来有する良好な成形性、熱安定性、美麗な外観、優れた透明性や耐候性などの特性を有し、しかも他の熱可塑性重合体や弾性重合体などとブレンドしなくてもそれ自体で耐衝撃性、耐応力白化性、耐温水白化性などに優れているので、他の重合体とブレンドすることによって生ずる透明性の低下や耐候性の低下などを生ずることなく、それ自身で外観、透明性、耐候性、耐応力白化性、耐温水白化性、熱安定性などに優れる成形品や積層体などを、良好な成形性で生産性良く製造することができる。
特に、本発明のアクリル系多層構造粒状複合体およびそれよりなる凝集粒状体は、アクリル系樹脂において従来不向きであるとされていた、フイルムやシートなどの薄物の成形品においても、その成形性や物性が優れており、本発明のアクリル系多層構造粒状複合体およびそれよりなる凝集粒状体を用いて得られるフイルムなどの薄物の成形品は、外観、透明性、耐衝撃性などに優れ、折り曲げや延伸などの応力が加わっても白化が生じず、温水に曝されても白化しない。
【0084】
さらに、本発明のアクリル系多層構造粒状複合体およびそれよりなる凝集粒状体は、他の熱可塑性重合体に対する接着性に優れており、他の熱可塑性重合体と共溶融押出やその他の方法で積層成形することにより、層間剥離がなく、耐応力白化性、耐温水白化性、力学的特性などに優れる積層体を、良好な積層成形性で生産性良く製造することができる。
【0085】
そして、本発明のアクリル系多層構造粒状複合体の凝集により得られる、平均粒度が100〜500μm、見掛け密度が0.3g/cm3以上、および加圧圧縮率が30%未満である本発明の凝集粒状体は、飛散しにくく、取り扱い性、成形性に優れ、押出成形や射出成形などの成形を円滑に行うことができ、他の添加剤の凝集粒状体への分散性が良好であり、取り扱い時や貯蔵中にブロッキングや機器への付着が生じず、しかもブツ(フィッシュアイ)の発生がなく、力学的特性に優れる成形品を製造することができる。
【0086】
上記した優れた特性を有する本発明のアクリル系多層構造粒状複合体は、上記した重合工程(1)〜(3)よりなる本発明の方法により円滑に製造することができる。
また、上記した優れた特性を有する本発明のアクリル系多層構造粒状複合体よりなる凝集粒状体は、本発明のアクリル系多層構造粒状複合体を含む水性分散液を凍結し、次いでそれを融解した後、脱水および乾燥することからなる本発明の方法により円滑に得ることができる。
Claims (10)
- アクリル系多層構造粒状複合体であって;
(I) 前記アクリル系多層構造粒状複合体が、
(i) メチルメタクリレート80〜98.99重量%、アルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートの少なくとも1種1〜20重量%、多官能性グラフト剤0.01〜1重量%および多官能性架橋剤0〜0.5重量%からなる単量体混合物を重合してなる最内層硬質重合体(a);
(ii) 上記の最内層硬質重合体(a)の存在下に、アルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートの少なくとも1種70〜99.5重量%、メチルメタクリレート0〜30重量%、多官能性グラフト剤0.5〜5重量%および多官能性架橋剤0〜5重量%からなる単量体混合物を重合してなる軟質層重合体(b);並びに、
(iii) 上記の最内層硬質重合体(a)と軟質層重合体(b)からなる重合体粒子の存在下に、メチルメタクリレート90〜99重量%およびアルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートの少なくとも1種10〜1重量%からなる単量体混合物を重合してなるガラス転移点が80℃以上である最外層硬質重合体(c);
よりなる3層構造を有し;
(II) アクリル系多層構造粒状複合体の重量に基づいて、上記の最内層硬質重合体(a)を5〜30重量%、軟質層重合体(b)を20〜45重量%および最外層硬質重合体(c)を50〜75重量%の割合で有し;
(III) 平均粒度が0.01〜0.3μmであり;且つ
(IV) 230℃、3.8kg荷重下でのメルトフローレートが0.5〜20g/10分である;
ことを特徴とするアクリル系多層構造粒状複合体。 - 最内層硬質重合体(a)、軟質層重合体(b)および最外層硬質重合体(c)が、各重合体の形成に用いる単量体混合物の全重量に基づいて単量体混合物を0.05〜3重量%/分の供給速度で重合系に供給しながら重合を行って形成したものである請求項1記載のアクリル系多層構造粒状複合体。
- 請求項1または2記載のアクリル系多層構造粒状複合体が凝集してなる凝集粒状体であって、平均粒度が100〜500μm、見掛け密度が0.3g/cm3以上、および加圧圧縮率が30%未満であることを特徴とする凝集粒状体。
- 請求項1または2記載のアクリル系多層構造粒状複合体あるいは請求項3記載の凝集粒状体からなる成形品。
- フイルムまたはシートである請求項4記載の成形品。
- 請求項1または2記載のアクリル系多層構造粒状複合体あるいは請求項3記載の凝集粒状体から形成された層を少なくとも1層、および他の熱可塑性重合体からなる層を少なくとも1層有することを特徴とする積層体。
- 他の熱可塑性重合体からなる層が、ポリカーボネート系重合体、塩化ビニル系重合体、フッ化ビニリデン系重合体、メタクリル樹脂、ABS樹脂、AES樹脂およびAS樹脂から選ばれる少なくとも1種からなっている請求項6記載の積層体。
- (1)メチルメタクリレート80〜98.99重量%、アルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートの少なくとも1種1〜20重量%、多官能性グラフト剤0.01〜1重量%および多官能性架橋剤0〜0.5重量%からなる単量体混合物を水性媒体中で重合して硬質重合体を製造し、(2)前記の重合工程(1)で得られる硬質重合体の存在下に水性媒体中でアルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートの少なくとも1種70〜99.5重量%、メチルメタクリレート0〜30重量%、多官能性グラフト剤0.5〜5重量%および多官能性架橋剤0〜5重量%からなる単量体混合物を重合して前記硬質重合体上に軟質重合体が積層してなる重合体粒子を製造し、そして(3)前記の重合工程(2)で得られる重合体粒子の存在下に、水性媒体中でメチルメタクリレート90〜99重量%およびアルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートの少なくとも1種10〜1重量%からなる単量体混合物を重合して前記軟質重合体上にガラス転移点が80℃以上である硬質重合体の層を形成させることからなり、且つアクリル系多層構造粒状複合体の製造に用いる単量体の全重量に基づいて、重合工程(1)に用いる上記単量体混合物の割合が5〜30重量%であり、重合工程(2)に用いる上記単量体混合物の割合が20〜45重量%であり、そして重合工程(3)に用いる上記単量体混合物の割合が50〜75重量%であることを特徴とする、請求項1記載のアクリル系多層構造粒状複合体の製造方法。
- 前記の重合工程(1)、重合工程(2)および重合工程(3)において、各工程に用いる単量体混合物の全重量に基づいて、該単量体混合物を0.05〜3重量%/分の供給速度で各重合系に供給して各工程での重合を行う請求項8記載の製造方法。
- 請求項1または2記載のアクリル系多層構造粒状複合体を含む水性分散液を凍結し、次いでそれを融解した後、脱水および乾燥することを特徴とする請求項3記載の凝集粒状体の製造方法。
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