JP3909938B2 - 床衝撃音低減構造 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数階建て建物における床衝撃音低減構造に関し、詳しくは、上階で発生した床衝撃音の階下への伝播を低減させることができる床衝撃音低減構造に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
近年における複数階戸建て住宅の増加、生活環境の高密度化等に伴い、複数階建物における床衝撃音対策の必要性が増大している。
従来、床衝撃音を低減する方法として、上階の床の材料にシート状の遮音材を敷き込む方法、上階の床構造体に衝撃緩衝材を介した吊具(吊木)を用いる方法等が知られている。
【0003】
しかし、近年、合理化構造として、ユニット構造や枠組み2×4工法はもとより在来軸組工法においても先行床施工工法が普及し、更に住宅の高気密・高断熱化の奨励もあって、上階の床と下階の天井との間の空間とその他の室内等の空間との空間的な連続性が断たれる場合が多くなっている。これに伴い、上階の床と下階の天井との間の空間(以下、天井懐空間という)に封じ込められた空気が空気ばねのように作用して上階床面の振動をダイレクトに階下の天井面に伝えるという、いわゆる太鼓現象による床衝撃音伝播の問題が顕在化してきている。そして、上述したような従来技術によっては床衝撃音の効果的な低減が困難となっている。
【0004】
従って、本発明の目的は、上階で発生した床衝撃音の階下への伝播、特にいわゆる太鼓現象による床衝撃音の伝播を、効果的に低減させることのできる床衝撃音低減構造を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、複数階建て建物における、上階の床の衝撃音が下階へ伝播するのを低減する床衝撃音低減構造であって、内部空間を有する壁体を上記上階及び上記下階のうちの少なくとも該上階に設け、該壁体の内部空間と、上記床と該下階の天井との間の空間とを連通させてなり、横架材上に複数の床パネルを敷設して上記上階の床を構成し、該床パネルの、上記上階の上記壁体下に位置し且つ上記横架材上に位置する端部に、該床パネルの上下面間に亘る切欠部を設け、該切欠部により、該壁体の内部空間と、上記床と上記下階の天井との間の空間とを連通する連通路を形成してあり、上記床パネルの上記切欠部は、該床パネルの上面の開口面積より下面の開口面積が大きいことを特徴とする請求項1に記載の床衝撃音低減構造を提供することにより、上記の目的を達成したものである。
【0007】
請求項記載の発明は、上記壁体内及び/又は上記床と上記下階の天井との間の空間内に、吸音材及び/又は遮音材を配設してあることを特徴とする請求項に記載の床衝撃音低減構造を提供することにより、上記の目的を達成したものである。
【0008】
請求項記載の発明は、内部空間を有する壁体を上記下階にも設け、少なくとも該下階の壁体の内部空間への入り口の幅を該壁体内部の幅よりも狭く形成してあることを特徴とする請求項1又は2に記載の床衝撃音低減構造を提供することにより、上記の目的を達成したものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の床衝撃音低減構造の一実施形態について図面を参照して説明する。ここで、図1は、本発明の床衝撃音低減構造の一実施形態を示す概略断面図であり、図2は、図1における床パネルの端部を示す平面図であり、図3は、床パネルに形成された切欠部を示す斜視図である。
【0010】
本形態の床衝撃音低減構造は、複数階建て建物における、上階の床4の衝撃音が下階5へ伝播するのを低減する床衝撃音低減構造であって、内部空間を有する壁体を上記上階(壁体1)及び上記下階(壁体2)に設け、該壁体1,2の内部空間10,20それぞれと、上記床4と該下階5の天井7との間の空間(天井懐空間)3とを連通させてなる。
【0011】
以下、本形態の床衝撃音低減構造についてより詳細に説明する。
本形態の床衝撃音低減構造は、二階建て木造住宅における床衝撃音低減構造であって、二階床面4aに対する衝撃で発生する衝撃音が一階5に伝播するのを低減する建物の構造であり、上記二階及び上記一階には、内部空間10,20を有する間仕切り壁として、壁体1及び壁体2が設けられている。
【0012】
上記床4には、上記壁体1下に、該壁体1の内部空間10と、該床4の床下空間である天井懐空間3とを連通する連通路42が形成されている。より具体的に説明すると、上記床4は、横架材6上に複数の床パネル41を敷設し、更にその上に下地材43及びフロア材44を敷設して構成されており、該床パネル41における上記壁体1下に位置する端部に、該床パネル41の上下面間に亘る切欠部45を設けることによって上記連通路42が形成がされている。尚、上記床パネル41は、従来公知の床形成用パネルを切削加工してなるもので、該パネルの材質等に特に制限はない。
【0013】
上記切欠部45は、図3に示すように、テーパー面45aを設けて形成されており、床パネル41の上面41aよりも該パネル下面41bの開口面積が大きくなっており、図1に示されるように、上方において上記壁体1の内部空間10に開口し、下方において床梁、桁等の横架材6を避けて上記天井懐空間3に開口する連通路42を形成するようになしてある。尚、該切欠部45の上記床パネル41の上面41a近傍は垂直面45bとされており、上記テーパー面45aと該上面41aとの間が薄くなり過ぎないようにしてある。これにより、パネル敷き込み時における床パネル41の欠損等を防止することができると共に、切欠部を設けた部分においても必要な強度を確保することができる。
【0014】
本構造における上記床4は、図2に示すように、サイズ910mm×1820mmの床パネル41を複数敷設して構成されており、内部空間10を有する壁体1下に端部を有する床パネル41の該端部には、該床パネル41の縦横いずれの端部についても、910mmに二つの割合で上記切欠部45が形成されている。尚、図2は、部屋の隅部に配される床パネル41bを示すものであり、図2の横方向及び縦方向には、それぞれ内部空間を有する壁体が配設されている。
【0015】
そして、上記床パネル41bの長手方向の一端部に形成された切欠部45により、図2の横方向に配された壁体1内と上記天井懐空間3とを連通する連通路42が二つ形成され、該床パネル41の幅方向の一端部に形成された切欠部45により図2の縦方向に配された壁体1’内と上記天井懐空間3とを連通する連通路42が四つ(一つのみ図示)形成されている。尚、図2において、上記壁体1と上記壁体1’とは、各々を構成する壁材11、11’を点線で示すことにより示してある。
【0016】
本構造における上階の床4と下階の天井7との間の空間(天井懐空間)3は、図1に示すように、更に下階の壁体2の内部空間20とも連通させてある。上記壁体2は、該壁体2を構成する壁材21同士間に空間を有してなり、該壁体2の上端部は一階の天井7に接続されている。尚、上記天井7は、図1に示されるように、天井下地材71及びプラスターボード72により構成されており、該天井下地材71上には、吸音材73が敷設されている。この吸音材73は、シート状の吸音材であり、好ましくは、グラスウール、ロックウール、各種プラスティック系発泡材製である。また、上記壁体1及び壁体2の内面にも、図示しない同様の吸音材を接着させてある。
【0017】
上記壁体1内空間の厚みT(図1参照)は、柱の径によって決まる場合が多く、90〜150mmの範囲であるが、多くは105〜120mmである。又、上記壁体2内空間の厚みについても同様である。
【0018】
本形態の床衝撃音低減構造によれば、上階床衝撃音の下階への伝播、特にいわゆる太鼓現象による伝播を低減させることができる。これは、上階床4と下階天井7との間に介在する閉鎖空間の容積を拡大させると、pV=一定(pは圧力,Vは容積)で、p・ΔV+V・Δp=0(Δpは圧力変化,ΔVは容積変化)というボイルの法則に従って、床衝撃音による圧力変化が小さくなることによる。ここで、この圧力変化(Δp)が小さくなるという現象は、低い周波数帯で顕著に現れ、防音上特に有効となる。尚、上下階間の防音性能は、中音域以上の周波数帯で多少減少するが、これは吸音材の設置等により低減することができる。
【0019】
また、本形態の床衝撃音低減構造によれば、上記天井懐空間3が連通する壁体1,2の内面に吸音材を設けてあるので、該壁体1,2内において上階の床衝撃音が該吸音材に吸収され、より床衝撃音の伝播を低減させることができる。また、壁体1,2内に加えて、下階の天井7上にも吸音材が敷設してあるため、床衝撃音をより効果的に低減することができる。
【0020】
尚、上記壁体1,2内及び/又は上記天井懐空間3内に、このような吸音材と共に遮音材を設けると、床衝撃音の伝播をより効果的に低減することができるので好ましい。また、上下階間及び/又は隣室間の中音域以上の遮音性を向上させることもできる。上記遮音材としては、プラスターボードの二重貼りや、金属粉体入りの遮音シート等を好適に用いることができ、特に、シート状のものが施工性等に優れるので好ましい。
このように、上記壁体内及び/又は上記天井懐空間内に、吸音材及び/又は遮音材を配設することによって、中音域以上の周波数帯での上下階間及び/又は隣室間の防音性能の低下を抑えることができる。これにより、効果的な床衝撃音の低減が可能である。
【0021】
本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、上記実施形態における床衝撃音低減構造は、内部空間を有する壁体を上階(二階)及び下階(一階)に設け、これらの両壁体の内部空間を上記天井懐空間3と連通させてなるが、本発明の床衝撃音低減構造は、上階の壁体における内部空間のみに、上記天井懐空間3を連通させてなるものであっても良い。また、上階及び下階は、三階及び二階のように更に上方階であっても良いし、一階及び地下階等であっても良い。
【0022】
また、上記天井懐空間3を連通させる壁体は、間仕切り壁であっても外周壁であっても良い。また、上記実施形態におけるように間仕切り壁及び外周壁の両方に上記天井懐空間3を連通させても良い。
【0023】
また、本発明の床衝撃音低減構造を適用する建物は、パネル工法による建物であることが好ましい。
【0024】
また、上記吸音材及び遮音材は、その両方を併せて同じ箇所に配設しても良いし、配設箇所毎に、又は全ての箇所に、いずれか一方のみ配設しても良い。また、吸音材及び遮音材は、上記壁体内及び上階床と下階の天井との間の両方に配設することが好ましいが、壁体内にのみ配設しても良い。
【0025】
また、図9に示すように、上記天井懐空間3に連通する壁体2の入り口を狭く絞ると、ヘルムホルツ型の吸音装置が形成され、より効果的に床衝撃音を低減することができる。図9に示す構造においては、下階の壁体2を構成する一対の壁材21の上端部に専用の部材8を取り付けることにより、壁体2の内部空間20への入り口の幅W1を該壁体内部の幅W2よりも狭く形成してある。尚、このように専用の部材8を用いるのに代えて、天井7の構成部材を壁体2の内部空間20の上部にまで突出させることにより、該内部空間20の入り口の幅を該壁体内部の幅より狭く形成しても良い。
【0026】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明の有効性を具体的に例証すると共に、本発明について更に説明する。
【0027】
<実施例>
二面を間仕切り壁、他の二面を外周壁の内側の面(内面壁)に囲まれた二階の部屋の床4を、図4及び図5に示すように、縦横910mm×1820mm、厚み35mmの床パネル41a,41b,41c及び41c’を縦二列に合計8枚敷設し、且つこれらの床パネル上に下地材として厚さ12mmの木質繊維板緩衝ボード、及び厚さ12mmの木製フローリング材44を敷き込んで形成した。ここで、図5は、図4のA−A線断面図である。
【0028】
上記床パネルは、端縁に沿う長さ150mm、奥行き60mmの切欠部45を910mmに二つの割合で形成したものであり、上記床パネル41aは長手方向の一端部にのみ切欠部45を形成したもので、上記床パネル41b及び41cは長手方向の一端部及び幅方向の一端部に切欠部45を形成したものである。上記床パネル41c’は、部屋の入り口部分に配されるパネルであり、切欠部が設けられていない部分に部屋の入り口を設けてある。
【0029】
これらの床パネルにおける各切欠部45は、その一部を上記緩衝ボード43及びフロア材44により覆われており、該切欠部45の奥行き20mmの部分のみが上方に開口するように構成されている。尚、各床パネルにおける上記切欠部45の上記開口部は、該床4の図4における上縁及び左縁においては間仕切り壁内に開口し、図4における右縁及び下縁においては上記外周壁内に開口しており、本実施例の床衝撃音低減構造においては、上記天井懐空間3は、上階間仕切り壁内及び外周壁内の両方に連通されている。
【0030】
また、本実施例の構造においては、上記天井懐空間3は、図5に示すように下階の間仕切り壁及び外周壁内にも連通させてある。尚、一階の天井7は、SS天井に12mmのプラスターボード72で構成し、該プラスターボード72上には吸音材としてグラスウール73を敷設した。
【0031】
<比較例>
図6は、比較例の建物構造を示すもので、上記実施例における切欠部が形成された上記各床パネル41a,41b,41c及び41c’に代えて、従来施工による切欠部を有しない床パネルを用い、且つ上記床4と一階天井7との間の空間(天井懐空間)3と下階の間仕切り壁及び外周壁との間を閉鎖して、上記天井懐空間3を上階及び下階のいずれの壁体内の空間とも連通しないようにした他は、実施例の構造におけるのと同様に構成してある。
【0032】
<評価>
実施例及び比較例における二階の床面を、JISに規定された所定の床衝撃音発生装置、即ち重量床衝撃源としてのバングマシーン、及び軽量床衝撃源としてのタッピングマシーンにより打撃すると共に階下で衝撃音を測定して、重量床衝撃音及び軽量床衝撃音の一階への伝播の程度を調べた。その結果を図7及び図8に示した。図7は、重量床衝撃音について測定した結果を示すグラフであり、図8は、軽量床衝撃音について測定した結果を示すグラフである。
【0033】
これらの結果に示されるように、実施例の床衝撃音低減構造によれば、比較例の構造に対して、重量床衝撃音及び軽量床衝撃音のいずれについても、床衝撃音を2〜3dB低減することができた。尚、隣室間の遮音性の低下も認められなかった。尚、詳述しないが、本実施例における上記切欠部45の幅を、150mmから250mmに代えて同様に試験したところ、床面と梁等の構造材との接触面の減少で、更に軽量床衝撃音の低減効果を向上させることができた。
【0034】
このように本発明の床衝撃音低減構造は、簡易な構造であるにも拘わらず床衝撃音を効率的に低減させることができる。そのため、木造住宅において重装備にならざるを得なかった床衝撃音レベルL−65程度の仕様を、軽装備にて可能とする目処が立った。
【0035】
【発明の効果】
以上の説明からも明らかなように、本発明の床衝撃音低減構造によれば、上階床衝撃音の下階への伝播、特にいわゆる太鼓現象による床衝撃音の伝播を効果的に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の床衝撃音低減構造の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】図2は、図1における床パネルの端部を示す平面図である。
【図3】図3は、床パネルに形成された切欠部を示す斜視図である。
【図4】図4は、本発明の実施例における二階の床面を俯瞰して示す平面図である。
【図5】図5は、図4のA−A線断面図である。
【図6】図6は、比較例における従来施工による断面図である。
【図7】図7は、重量床衝撃音についての評価結果を示すグラフである。
【図8】図8は、軽量床衝撃音についての評価結果を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明の他の実施形態における要部を示す概略図である。
【符号の説明】
1 上階の壁体
2 下階の壁体
3 床と該下階の天井との間の空間(天井懐空間)
4 上階の床
41 床パネル
42 連通路
43 下地材
44 フロア材
45 切欠部
5 下階
6 横架材
7 下階の天井
73 吸音材

Claims (3)

  1. 複数階建て建物における、上階の床の衝撃音が下階へ伝播するのを低減する床衝撃音低減構造であって、
    内部空間を有する壁体を上記上階及び上記下階のうちの少なくとも該上階に設け、該壁体の内部空間と、上記床と該下階の天井との間の空間とを連通させてなり、
    横架材上に複数の床パネルを敷設して上記上階の床を構成し、該床パネルの、上記上階の上記壁体下に位置し且つ上記横架材上に位置する端部に、該床パネルの上下面間に亘る切欠部を設け、該切欠部により、該壁体の内部空間と、上記床と上記下階の天井との間の空間とを連通する連通路を形成してあり、
    上記床パネルの上記切欠部は、該床パネルの上面の開口面積より下面の開口面積が大きいことを特徴とする床衝撃音低減構造。
  2. 上記壁体内及び/又は上記床と上記下階の天井との間の空間内に、吸音材及び/又は遮音材を配設してあることを特徴とする請求項に記載の床衝撃音低減構造。
  3. 内部空間を有する壁体を上記下階にも設け、少なくとも該下階の壁体の内部空間への入り口の幅を該壁体内部の幅よりも狭く形成してあることを特徴とする請求項1又は2に記載の床衝撃音低減構造。
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