JP3894225B2 - コロイダル金属含有漆系塗料及び漆塗装材 - Google Patents
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Description
漆塗膜はふっくら感、しっとり感、深み感などの高級感を発現し数千年の保存に耐えることは周知の事実であるが、エマルションの分散粒径が比較的大きいために塗膜の光沢は低くなる。このために重合荏油やロジン変性重合亜麻仁油などを混合したり、乾燥塗膜表面の水研ぎ、胴刷りによる蝋色仕上げにより漆塗膜に光沢を付与することが行われている。
項1)天然産の生漆又は精製漆および金属コロイド粒子を含有することを特徴とする漆系塗料、
項2)精製漆および金属コロイド粒子の混合物であって、平均水滴粒径が0.1〜3μmである項1)記載の漆系塗料、
項3)精製漆が無油透漆又は有油透漆である項1)又は2)に記載の漆系塗料、
項4)金属コロイド粒子が、金コロイド粒子、銀コロイド粒子又は白金族コロイド粒子よりなる群より選ばれた貴金属コロイド粒子である項1)〜3)いずれか1つに記載の漆系塗料、
項5)金属コロイド粒子が金コロイド粒子または銀コロイド粒子である項1)〜4)いずれか1つに記載の漆系塗料、
項6)顔料分散安定剤により分散安定化された金属コロイド粒子である項1)〜5)いずれか1つに記載の漆系塗料、
項7)有機酸を加えることにより塗料のpHを4〜5に調節した項1)〜6)いずれか1つに記載の漆系塗料、
項8)アルコキシシラン類を添加した項1)〜6)いずれか1つに記載の漆系塗料、
項9)項1)〜8)いずれか1つに記載の漆系塗料で塗装された漆塗装材、
項10)木製品又はガラス製品である項9)記載の漆塗装材。
本発明の漆系塗料は、生漆液(油中水滴型(W/O型)エマルション)に金属コロイド粒子又は金属コロイド溶液を混合して得られる混合物を、好ましくは撹拌等により微粒化することにより製造される。ここで「微粒子化」とは、漆エマルションにおける平均水滴粒径を3μm以下にすること、好ましくは0.1〜3μmにすること、より好ましくは0.1〜1μmにすることを言う。ここで平均水滴粒径は、数平均を意味する。
本発明の漆系塗料は、後述のナヤシ操作又は更にクロメ処理により得られる微粒子化した精製漆に貴金属コロイド粒子又は貴金属コロイド溶液を混合することによっても得られる。微粒子化は上述と同義である。
本発明に使用する生漆及び精製漆に関する用語は、日本工業規格JISK5950に従う。
また「コロイド」とは、コロイド溶液又はコロイド粒子を意味する。
本発明に使用することができる卑金属コロイド溶液としては、マグネシウム、アルミニウム、銅、チタン、マンガン、鉄、コバルト、亜鉛、及びスズの各コロイド溶液が例示できる。卑金属のナノオーダーのコロイド粒子を直接精製漆に混合することもできる。これらのナノ粒子は、瞬間気相生成法等により製造することができる。
脱水精製した漆は、そのまま透漆(すきうるし)として使用することが好ましい。脱水精製した漆に、鉄粉又は水酸化鉄で黒く着色した後固形分を除いた黒漆として使用することもできる。
透漆又は黒漆のいずれもそのまま無油漆(「すぐろめ漆」ともいう。)として使用できる他に、又、アマニ油や荏油(重合荏油やロジン変性重合亜麻仁油を含む。)などの乾性油を加えた有油漆としても使用することができる。無油透漆には、梨地漆、木地蝋漆(きじろううるし)、箔下漆、中塗漆、艶消漆、及び釦漆(いつかけうるし)が含まれるが、箔下漆が好ましく用いられる。有油透漆としては、春慶漆、朱合漆(しゅあいうるし)、中花漆、並花漆、塗立漆(ぬりたてうるし)、及び留漆が含まれるが、朱合漆を好ましく使用することができる。
これらのコロイダル貴金属含有漆系塗料は、貴金属コロイド粒子が安定に分散された着色漆塗料であり、外観が優れているのみならず耐久性に優れた塗装材を提供する。
還元剤としては、NaBH4等のアルカリ金属水素化ホウ素塩、ヒドラジン化合物、クエン酸ナトリウム等のクエン酸化合物、ジメチルアミノエタノール等のアルカノールアミン、等が挙げられる。貴金属化合物の溶液1モルに対して一般に還元剤を1.5〜8モルの過剰に使用することが好ましい。還元反応に際して、金属モル濃度が50mM以上であることが好ましく、100mM以上であることがより好ましい。
ヒドロゾルの方が貴金属コロイドの高い濃度(50mM以上)が得易いので、オルガノゾルよりも好ましい。
分散安定高分子は貴金属コロイドの10mMあたり、1〜20g使用することが好ましく、1〜5g使用することがより好ましい。
貴金属コロイドの粒径は、数〜数百nmであることが、上記の優れた発色を得るために好ましく、数〜数十nmであることが更に好ましい。
ビーカーに50mMの塩化金酸水溶液100mlを入れ、分散安定化のための極性高分子として、ゼネカ社製の「ソルスパース27000」(商品名)の4gを溶解する。ジメチルアミノエタノール2.5mlを撹拌しながら加えて還元し赤色の金コロイド水性液を得る。
銀コロイド水性液の製造例は以下の通りであり、上記の公報の実施例3と類似の方法である。
ビーカーに硝酸酸性の100mM硝酸銀水溶液100mlを入れ、極性高分子として、ビックケミー社製の「ディスパービック180」(商品名)5gを溶解する。ジメチルアミノエタノール2.5mlを撹拌しながら加えて還元し黄色の銀コロイド水溶液を得る。
漆塗料は不均一であるから、エマルション粒子をこのように微粒化することにより、優れた光沢を与える塗膜を得ることができる。微粒子化のサイズは前述の通りである。
塗膜の乾燥は、常温での加湿乾燥と高温での熱硬化とに大別される。加湿乾燥の代表的な条件は、ラッカーゼ酵素の作用を活用し、湿度40〜80%RH、温度20〜30℃である。加熱乾燥は、ラッカーゼ酵素の作用を活用しない乾燥であり、100〜200℃、好ましくは150〜200℃で加熱乾燥する。
漆塗膜の厚さは、適宜選択できるが、好ましい漆塗膜の厚さは10〜80μmである。
日本産漆の硬化速度を遅らせるためには、有機酸を加えることにより塗料のpHを酸性(pH=4〜5)にすることが好ましい。有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸などが例示でき、クエン酸が好ましい。その添加量は、pH調節に必要十分な量である。
ベトナム産の漆は、アルカリ性側で硬化速度が遅くなる逆の傾向を有する。
(但し、式中、Rは互いに同じであっても異なっていてもよいアルキル基であり、nは1以上の整数である。)
具体的には、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1〜12のアルキル基が好適に挙げられ、このうち炭素数1〜4のアルキル基が更に好ましく、メチル基が特に好ましい。このアルコキシシラン類としては、具体的には、オルトケイ酸アルキルエステル(n=1)、その加水分解縮合生成物(n=2〜10)、又はこれらの混合物が好ましく、オルトケイ酸メチルエステル及びその加水分解物が特に好ましい。このアルコキシシラン類は、単独で使用できるだけではなく、2種以上を混合して使用することができる。混合使用した場合、耐水性の向上や乾燥速度の調節も容易となる。
XnSi(OR)m (2)
(式中、Xはアミノ基、アルキルアミノ基、アミノアルキル基、エポキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基及びビニル基からなる群から選ばれる基であり、Rはアルキル基であり、nとmはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい1〜3の整数であり、かつ、nとmの合計は4である。)
上記のアルコキシシラン類は、特開2003−55558号公報に記載されており、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランが例示できる。
アルコキシシラン類を配合すると、漆塗料の乾燥促進、塗膜の耐水性向上、及び紫外線照射に対する耐久性向上の硬化が得られる。
塗布の方法は特に限定されず、従来行われている通常の方法が使用できる。高級木製品への漆塗りに本発明の漆系塗料を使用すると特にその効果が顕著である。これらの木製品としては、紫檀板、黒檀板、ケヤキ材、唐木、ヒノキ材等が例示できる。塗装品への応用の例としてわが国伝統の調度品、工芸品、美術品が含まれ、応用例には、各種の仏具も対象とすることができる。
特に、金コロイドを含有し、オルトケイ酸メチルエステエルの加水分解物を含む漆塗料は、美しいワインレッドの塗膜を生じ、ガラスとの密着性に優れるので、カラス製食器等の着色に好ましく使用することができる。
本発明の漆塗料は、伝統的な塗装法に匹敵する塗膜を与えることができる。伝統的塗装法における白檀塗装や玉虫塗りとは、下地塗装の上に漆液で金箔や銀箔を固着させ、その上に飴色の透漆や染料で着色した赤色の漆を塗装して仕上げる技法であり、高級な変わり塗りとして知られているものである。本発明に係るコロイダル金含有漆系塗料又はコロイダル銀含有漆系塗料(以下、それぞれ「コロイダル金漆」又は「コロイダル銀漆」とも略称する。)を用いれば、金箔や銀箔を下地に固着することなくメタリック感のある変わり塗りが可能となる。
以下に実施例により発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
水分25%を含む中国産生漆100グラムに塩化金酸の水溶液を還元して得られた10%濃度の金コロイド水性液0.5グラムを加えてニーダーミキサーで2時間混練りし、残存水分5%の漆液に調製した。これを美吉野紙でろ過精製し透明感のあるコロイダル金漆を得た。このコロイダル金漆を25マイクロメータのフィルムアプリケーターでガラス板に塗布して解析用の試料を作成し試験に供した。金コロイド粒子の直径は約15nmであった。
また、10%濃度の金コロイド水性液0.5gを使用する替わりに、10%濃度の銀コロイド水性液5gを使用する以外は全く同様にしてコロイダル銀漆を得た。同様に解析用の試料を作成して試験に供した。銀コロイド粒子の直径は約7nmであった。
上記の試料を温度20℃、湿度70%の条件下で硬化させた。
市販の生漆及び素クロメ漆と比較したところ、次の表1に示すような結果を得た。
なお、得られた塗膜の電子顕微鏡写真から、本発明で使用した素クロメ漆は、粒子径が1〜3μmのゴム質水球を含んでいたことが観察された。
また、光沢計として堀場製作所(株)製のグロスチェッカーIG−330を使用した。
また、このコロイダル金漆にテレピン油を40%加えて希釈し、アルミニウム板に吹き付け塗装したところ、乾燥塗膜は赤紫色を呈しメタリック感のある赤玉虫塗りになった。
水分3%を含む中国産朱合漆100グラムに塩化金酸水溶液を還元して得られた10%濃度の金コロイド溶液0.5グラムを加えてアズワンハイパワーミキサーで3,000rpmの高速撹拌を行ったコロイダル金漆の分散粒径は0.1〜0.2マイクロメータになり高い透明感のある赤色漆液になった。これをガラス板に25マイクロメータのフィルムアプリケーターで塗布して解析用の試料を作成し、漆室(温度20℃、湿度70%)中で乾燥させた。塗膜は高鮮映性を発現する紅春慶色になった。
実施例1と同様の紫外線照射による強制耐光性試験を行ったところ、本発明の漆系塗料により得られる塗膜は耐光性に優れていることを示す結果が得られた。硬化乾燥時間も、比較用の無添加漆塗料より短かかった。
水分3%を含む朱合漆100gに10%濃度の銀コロイド溶液5グラムを加えて高速撹拌機で良くかき混ぜると、淡黄色のコロイダル銀漆を得た。このコロイダル銀漆を76マイクロメータのフィルムアプリケーターでガラス板に塗布して解析用の試料を作成し、漆室(温度20℃、湿度70%)中で乾燥させた。実施例1と同様の紫外線照射による強制耐光性試験を行ったところ、本発明の漆系塗料により得られる塗膜は耐光性に優れていることを示す結果が得られた。硬化乾燥時間も、比較用の無添加漆塗料より短かった。
紫檀板製の位牌の塗料として、実施例1と同様にして調製したコロイダル金漆を使用した。表面光沢がありやや紫がかった赤色の落ち着いた感じを与える塗膜が得られた。紫檀板の替わりに黒檀板を使用しても同様の効果が得られた。
実施例3で調製したコロイダル銀漆をケヤキ材に塗装した塗膜は高鮮映性を発現する黄春慶色になった。
透箔下漆100gに10%濃度の金コロイド液5gを加えて混練撹拌装置で良くかき混ぜると淡赤色のコロイダル金漆が得られる。このコロイダル金漆を76μマイクロメーターのフィルムアプリケーターでガラス板に塗布して、漆室(温度20℃、湿度70%)中で乾燥させて分析用試料を作製した。その塗膜は淡赤色で光沢があり、高鮮映性を有していた。
透箔下漆100gに17%濃度の銀コロイド液5gを加えて混練撹拌装置で良くかき混ぜると、淡黄色のコロイダル銀漆が得られた。このコロイダル銀漆を76μマイクロメーターのフィルムアプリケーターでガラス板に塗布して、漆室(20℃、湿度70%)中で乾燥させて分析用試料を作製した。その塗膜は淡黄色で光沢があり、高鮮映性を有していた。
透箔下漆100gを混練撹拌装置で良くかき混ぜながらクエン酸水溶液を加えて漆液のpHを約5に調整した。その後10%濃度の金コロイド液5gを加え更に良くかき混ぜると、淡赤色のコロイダル金漆が得られた。このコロイダル金漆を76μマイクロメーターのフィルムアプリケーターでガラス板に塗布して、漆室(20℃、湿度70%)中で乾燥させた。クエン酸水溶液を加えると塗膜の乾燥に時間がかかるが、淡赤色の発現が鮮明になり、高い光沢と高鮮映性に優れていた。
実施例1、2、3にもクエン酸水溶液を添加すると、金コロイドでは赤色が、銀コロイドでは黄色の発現が鮮明になり、その塗膜は高い光沢と高鮮映性に優れていた。
クロメ漆100gを混練撹拌装置で良くかき混ぜながらシリコーンレジンメトキシオリゴマー2327(信越化学工業製)5gを加え、その後10%濃度の金コロイド溶液5gを加えて良くかき混ぜると、淡赤色のコロイダル金漆が得られた。このコロイダル金漆を76マイクロメーターのフィルムアプリケーターでガラス板に塗布して自然乾燥させた。ワインレッドの乾燥塗膜が得られた。シリコーンレジンメトキシオリゴマー2327を加えると塗膜の乾燥は早くなるが、その色相を薄く、ゆっくり発色させるためにできるだけ湿度を押さえた自然乾燥条件(20℃、60%RH)でゆっくり乾燥させた。その結果塗膜は淡赤色に鮮明に発色し、高い光沢と高鮮映性に優れていた。
クロメ漆の代わりに箔下漆、朱合漆とシリコーンレジンメトキシオリゴマー2327(信越化学工業製)と10%濃度の金コロイド液を添加すると金コロイドでは赤色の塗膜が得られた。
クロメ漆100gを混練撹拌装置で良くかき混ぜながらシリコーンレジンメトキシオリゴマー2327(信越化学工業製)5gを加え、その後17%濃度の銀コロイド溶液5gを加えて良くかき混ぜると、淡黄色のコロイダル銀漆が得られた。このコロイダル銀漆を76マイクロメーターのフィルムアプリケーターでガラス板に塗布して自然乾燥させた。シリコーンレジンメトキシオリゴマー2327を加えると塗膜の乾燥は早くなるが、その色相を薄く、ゆっくり発色させるため、できるだけ湿度を押さえた自然乾燥条件(20℃、60%RH)でゆっくり乾燥させた。その結果塗膜は淡赤色に鮮明に発色し、高い光沢と高鮮映性に優れていた。
クロメ漆の代わりに箔下漆、朱合漆とシリコーンレジンメトキシオリゴマー2327(信
越化学工業製)とを使用して、17%濃度の銀コロイド溶液を添加すると黄色の塗膜が得られた。
実施例9で使用したハイブリッド漆をワイングラスの装飾に使用した。ワインレッドに着色された絵柄のワイングラスが得られた。
Claims (10)
- 天然産の生漆又は精製漆、および
金属コロイド粒子を含有することを特徴とする
漆系塗料。 - 精製漆および貴金属コロイド粒子の混合物であって、平均水滴粒径が0.1〜3μmである請求項1記載の漆系塗料。
- 精製漆が無油透漆又は有油透漆である請求項1又は2記載の漆系塗料。
- 金属コロイド粒子が金コロイド粒子、銀コロイド粒子又は白金族コロイド粒子よりなる群より選ばれた貴金属コロイド粒子である請求項1〜3いずれか1つに記載の漆系塗料。
- 金属コロイド粒子が金コロイド粒子または銀コロイド粒子である請求項1〜4いずれか1つに記載の漆系塗料。
- 顔料分散安定剤により分散安定化された金属コロイド粒子である請求項1〜5いずれか1つに記載の漆系塗料。
- 有機酸を加えることにより塗料のpHを4〜5に調節した請求項1〜6いずれか1つに記載の漆系塗料。
- アルコキシシラン類を添加した請求項1〜6いずれか1つに記載の漆系塗料。
- 請求項1〜8いずれか1つに記載の漆系塗料で塗装された漆塗装材。
- 木製品又はガラス製品である請求項9記載の漆塗装材。
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