JP3881202B2 - アルミニウム軸受合金の連続鋳造方法および連続鋳造装置 - Google Patents

アルミニウム軸受合金の連続鋳造方法および連続鋳造装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ベルト鋳造手段によってアルミニウム軸受合金を板状に連続的に鋳造する方法およびその装置に係り、特に晶出物の粗大化を防止するようにしたものに関する。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウム、アルミニウム合金、亜鉛その他の比較的低い温度で溶融する金属を連続的に板状に鋳造する装置として、一対の無端ベルトの間で鋳造する構造のベルト鋳造機は公知である。この公知のベルト鋳造機は、一対の無端ベルトをそれぞれ複数のローラに掛け渡し、その一対の無端ベルトのほぼ平行な部分の間で水平または水平に対して僅かな角度だけ傾斜した鋳造空間を形成した構造のものである。
【0003】
このベルト鋳造機では、一対の無端ベルトは、冷却装置により冷却されながら、駆動ローラにより駆動されて走行する。溶融された金属は上記の鋳造空間内に供給され、無端ベルトにより冷却されて板状に凝固し、鋳造空間から連続的に送り出される。このような移動鋳型式のベルト鋳造機は、固定鋳型式の連続鋳造装置に比べ、鋳造速度が速く、生産性に優れる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
自動車や一般産業用機械のエンジンの軸受としては、通常、アルミニウム軸受合金(以下、Al合金)を内張りした軸受(以下、アルミニウム合金軸受)が用いられる。このアルミニウム合金軸受は、鋳造工程、圧延工程、圧接工程、熱処理工程、機械加工工程を順に経て製造される。すなわち、鋳造工程では、アルミニウム軸受合金を溶融して板状に鋳造する。鋳造したAl合金の板材は次に圧延工程で圧延し、圧接工程で鋼鈑に圧接してバイメタルにする。そして、Al合金の鋳造板材と鋼鈑との接着強度を高めるためにバイメタルを焼鈍し、その後、バイメタルを機械加工して最終的に半円筒状または円筒状の軸受に形成する。
【0005】
ところで、エンジンの軸受の製造メーカーでは、Al合金を板状に連続鋳造する装置として前述のベルト鋳造機を採用し、生産性の向上を図ることが行われている。しかしながら、ベルト鋳造機は、鋳造速度が速いため、鋳造板材の冷却速度としては遅くなり、徐冷状態となる。すると、Sn、Siなどを含有するAl合金では、Sn、Siなどの晶出物の粗大化および偏析が起き易く、また、軸受特性を向上するために種々の元素を添加したAl合金も同様に、金属間化合物の晶出物が粗大化し易い上、偏析するという問題を生ずる。
【0006】
そして、このようにAl合金中で晶出物が偏析し、或いは粗大化すると塑性変形性が低下し、その後の圧延、圧接など、塑性加工を行う場合、割れを発生したりする。また、軸受特性としても、耐疲労性、耐摩耗性が低下したりして軸受特性の向上のために種々の元素を添加した意味がなくなってしまう。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的は、ベルト鋳造手段によってAl合金を板状に鋳造する場合において、晶出物の粗大化および偏析を防止できるアルミニウム軸受合金の連続鋳造方法および連続鋳造装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、走行する一対の無端ベルトのうち、ほぼ平行に対向する部分の間に鋳造空間を形成し、この鋳造空間に溶融したアルミニウム軸受合金を供給して板状に連続的に鋳造する連続鋳造方法において、前記アルミニウム軸受合金は、3〜40質量%のSn、0.5〜7質量%のSi、0.05〜2質量%のFeを含み、前記一対の無端ベルトの走行により、前記鋳造空間で連続的に鋳造されて当該鋳造空間から送り出される前記アルミニウム軸受合金の鋳造板材に対し、水を噴射すると共に、この水噴射よりも前記鋳造空間側で空気を噴出させ、前記噴出された空気によって形成されるエアカーテンにより、前記噴射された水が前記無端ベルト側に飛散することを防止しながら、当該噴射された水によって当該アルミニウム軸受合金の凝固時の冷却速度ΔTを3〜6℃/secに制御してAl−Si−Feの3元系金属間化合物を晶出させることを特徴とするものである。
【0009】
但し、ΔT=(T−500)/t
T:アルミニウム軸受合金の鋳造開始時の温度(℃)
t:アルミニウム軸受合金の温度が500℃に低下するまでの鋳造開始からの時間(sec)
上記3〜6℃/secという冷却速度は、従来のベルト鋳造機の冷却速度1〜2℃/secに比較して速い。このような3〜6℃/secという速い冷却速度でAl合金を凝固させると、晶出物は粗大化および偏析せず、その後の圧延工程、圧接工程などで割れが発生するなどの不具合を生ずるおそれがなく、また軸受特性を低下させるおそれもない。
【0010】
本発明の鋳造方法は、上述のように3〜40質量%のSn、0.5〜7質量%のSi、0.05〜2質量%のFeを含み、Al−Si−Feの3元系金属間化合物を晶出する新規なAl合金を鋳造する(請求項。また、3〜40質量%のSn、0.5〜7質量%のSi、0.05〜2質量%のFeの他、Mn、V、Mo、Cr、Co、Ni、Wのうちから選択された1種以上の元素を総量で0.01〜3質量%含有し、Al−Si−Feに当該選択された元素が加わった多元系金属間化合物を晶出する新規なAl合金を鋳造する場合(請求項)に好適である。
【0011】
上記新規なAl合金には、B、Ti、Zrのうちから選択された1種以上の元素を総量で0.01〜2質量%含ませることができる(請求項)。また、Cu、Mg、Znのうちから選択された1種以上の元素を総量で0.1〜5質量%含ませても良い(請求項)。
【0012】
ここで、上記の新規なAl合金を開発するに至った技術的背景を説明する。 近年、エンジンの高性能化に伴い、エンジン用軸受には、更なる耐疲労性、耐摩耗性の向上が求めらる傾向にある。そのうち、耐疲労性に関しては、Cu、Mn、Vなどの元素を添加してAl合金を強化するようにしている。また、耐摩耗性に関しては、特開昭58−64332号公報に見られるように、Al合金にSiを添加し、Al合金中に晶出するSi粒子の大きさと分布を制御すること、或いは、特開昭58−67841号公報に見られるように、Al合金にMn、Fe、Mo、Niなどを添加し、Al合金中にそのMnなどとAlとの金属間化合物を晶出させることによってなじみ性、非焼付性を高め、ひいては耐摩耗性の向上を図っている。
【0013】
上記の特開昭58−64332号公報、特開昭58−67841号公報では、Si粒子、金属間化合物が5μm以上40μm以下の大きさを持つ場合に効果があるとする。しかしながら、一般に、Al中に含まれる硬質粒子は均一に分散することで強化の用に供され、その粒子の大きさは細かいほど効果を発揮するとされているが、特開昭58−64332号公報、特開昭58−67841号公報のように、Siや金属間化合物を5μm以上40μm以下という比較的大きな径を持った粒子に制御すると、Alマトリックスの強度が低下し、耐疲労性に劣ったものとなってしまう。すなわち、晶出粒子を小さくして耐疲労性を向上させようとすれば、非焼付性の向上は望み得ず、逆に晶出粒子を大きくして非焼付性ひいては耐摩耗性を向上させようとすれば、耐疲労性の向上は望み得ない、といったジレンマに陥ってしまう。
【0014】
本発明者は、Al−Si−Feの3元系金属間化合物、或いはAl−Si−Feをベースにした多元系金属間化合物を晶出させることによって、耐疲労性を損なうことなく、非焼付性および耐摩耗性を向上させることができるAl合金を発明した。このAl−Si−Feの3元系金属間化合物、Al−Si−Feをベースにした多元系金属間化合物は極めて安定しており、裏金鋼鈑との圧接後に施される熱処理によっても、その基本的な形を変えることがない。
【0015】
すなわち、Si自体は共晶物として3次元的には立体的に連結したサンゴ状に晶出するが、鋳造後の圧延、裏金鋼鈑と圧接する際の圧延などによって細かく砕け、その後の熱処理によっても形態を変えてしまう。これはSiの特徴で、特に300℃を越える熱処理では、界面張力を小さくしようとして比較的丸みを帯びた形状に変化する。特に、Al合金のようなSnを多く含む材料においては、その傾向は助長される。
【0016】
ところが、上記した3元系金属間化合物、多元系金属間化合物はその晶出形態(その一例を図3に示す)を変えず、通常の熱処理温度では、全くその形に変化がないのである。また、その3元系金属間化合物、多元系金属間化合物は、軸受の製造工程中、塑性変形を伴う圧延、圧接工程で粉砕される。しかしながら、この粉砕により、金属間化合物は刃物の破片のようにシャープエッジを持った形態(その一例を図4に示す)となる。Si粒では、圧延、熱処理を経て丸みを帯びて細かく割れてしまうが、上記3元系金属間化合物、多元系金属間化合物はシャープエッジを持った攻撃的な形を保つのである。
【0017】
このような3元系金属間化合物、多元系金属間化合物は少量でも相手軸に対するラッピング作用を持ち、特に初期摩耗の不安定な軸と軸受との関係を安定化させてなじみ性を高めるのに極めて有効である。その具体的な作用は、相手軸の表面の突出部や相手軸の表面の球状黒鉛周辺のバリなどのエッジ部を削り取る作用、Al合金の弱点である相手軸への凝着による摩耗を未然に防止し、また凝着物を掻き落として焼付きを未然に防止する機能である。
【0018】
しかも、本発明の3元系金属間化合物、多元系金属間化合物は、圧延を経ても比較的粗大なものが多く、粉砕されて微細化したSi粒子はAlマトリックス中に分散してその強度を高める効果を有することと相俟って、耐摩耗性、非焼付性の向上と耐疲労性の向上との両立を可能ならしめるのである。
【0019】
以上のような3元系金属間化合物、多元系金属間化合物を晶出するAl合金を鋳造する場合、本発明の鋳造方法によって3〜6℃/secの冷却速度で凝固させると、上記金属間化合物が粗大化せず、40〜55μmの大きさの結晶に制御できると共に、Siの晶出物も粗大化せず、40μm以下の大きさに制御できる。その後に鋳造板材を圧延したり、裏金鋼鈑に圧接したりする際に、金属間化合物は粉砕されて1〜20μmの大きさとなり、Siの晶出物は5μm以下の大きさの粒子となる。
【0020】
請求項の各成分の組成の限定理由を説明すると、以下の通りである。
Sn(3〜40質量%)
Snは軸受としての非焼付性、なじみ性、埋収性などの表面性能を改善する。Snの含有量が3質量%未満ではその効果がなく、40質量%を越えると軸受合金の機械的性質が低下し、軸受性能の低下を招く。好ましいSnの含有量は6〜20質量%である。
【0021】
Si(0.5〜7質量%)
SiはAlマトリックス中に固溶すると共に、単体で晶出するものは微細に分散し、材料の疲労強度を高め、また非焼付性、耐摩耗性の向上に寄与する。一方、SiはAl−Si−Fe系金属間化合物を構成する必須元素で、適切なラッピング作用や非焼付性、耐摩耗性の向上にも効果がある。0.5質量%未満では合金に固溶してしまい、その効果がない。また、7質量%を越えると粗大晶出し、かえって軸受合金の耐疲労性を害する。好ましいSiの含有量は2〜6質量%である。
【0022】
Fe(0.05〜2質量%)
Feは主にAl−Si−Fe系金属間化合物として晶出し、前述の効果をもたらす。そのFeを含む金属間化合物は軸との焼付きを防止し、耐摩耗性を向上させる。その特性は0.05〜2質量%が有効で、0.05質量%未満ではその効果がなく、2質量%を越えると化合物の粗大化が起こり、軸受合金が脆くなって圧延加工に問題が出てくる。好ましくは0.07〜1質量%である。
【0023】
Mn、V、Mo、Cr、Co、Ni、W(1種以上を総量で0.01〜3質量%)
これらは選択元素であり、本発明における多元系金属間化合物を構成する。すなわち、Al−Si−Feに選択された元素αを加えたAl−Si−Fe−αの多元系金属間化合物を生成する。もちろん、単体でAlマトリックス中に固溶してAlマトリックスも強化する。多元系金属間化合物の生成効果は0.01質量%未満では期待できず、3質量%を越えると多元系金属間化合物が粗大化し過ぎ、軸受合金としての物性の低下をもたらすと共に、圧延などの塑性加工にも問題を生ずる。その好ましい含有量は0.2〜2質量%である。
【0024】
B、Ti、Zr(1種以上を総量で0.01〜2質量%)
これらの選択元素はAl−Si−Fe系金属間化合物の生成には寄与せず、Alマトリックスに固溶し、軸受合金の疲労強度を高める効果を持つ。0.01質量%未満ではその効果はなく、2質量%を越えると軸受合金が脆くなる。その好ましい含有量は0.02〜0.5質量%である。
【0025】
Cu、Mg、Zn(1種以上を総量で0.1〜5質量%)
これらの選択元素はAlマトリックス強度を向上させる添加元素であり、溶体化処理を施すことにより強制的にAlマトリックスに固溶させることができ、急冷、時効させることで、微細な化合物を析出させることもできる。その効果は0.1質量%未満では期待できず、5質量%を越えると粗大な化合物になってしまう。その好ましい含有量は0.5〜4質量%である。
【0026】
本発明の連続鋳造装置は、3〜40質量%のSn、0.5〜7質量%のSi、0.05〜2質量%のFeを含むアルミニウム軸受合金、または3〜40質量%のSn、0.5〜7質量%のSi、0.05〜2質量%のFeの他、Mn、V、Mo、Cr、Co、Ni、Wのうちから選択された1種以上の元素を総量で0.01〜3質量%含むアルミニウム軸受合金を板状に連続的に鋳造するものであって、走行する一対の無端ベルトを備え、当該一対のベルトのほぼ平行に対向する部分の間に鋳造空間を形成したベルト鋳造手段と、このベルト鋳造手段の前記鋳造空間に前記アルミニウム軸受合金の溶湯を当該鋳造空間の一端側から供給する溶湯供給手段と、前記鋳造空間に供給された溶湯を前記一対の無端ベルトを介して冷却する冷却手段と、前記一対の無端ベルトの走行により、前記鋳造空間で連続的に鋳造されて当該鋳造空間の他端側から送り出される鋳造板材に対し、その表裏両側から水を噴射して当該鋳造板材の凝固時の冷却速度ΔTを3〜6℃/secに制御することにより、Al−Si−Feの3元系金属間化合物、または前記Al−Si−Feに前記選択された元素が加わった多元系金属間化合物を晶出させる水噴射手段と、前記水噴射手段よりも前記鋳造空間側においてエアカーテンを形成して前記水噴射手段から噴射された水が前記無端ベルト側に飛散することを防止する空気噴出手段とを具備してなる(請求項5)。
但し、ΔT=(T−500)/t
T:アルミニウム軸受合金の鋳造開始時の温度(℃)
t:アルミニウム軸受合金の温度が500℃に低下するまでの鋳造開始からの時間(sec)
【0027】
この連続鋳造装置によれば、鋳造空間から送り出される鋳造板材に対し、その表裏両側から水を噴射するので、鋳造板材を急冷して凝固させることができ、晶出物の粗大化を防止できる。また、空気噴出手段によりエアカーテンを形成するので、水噴射手段から噴射された水が無端ベルトにかかることを、より完全に防止できる。このエアカーテンによる効果は、請求項1においても同様である。
【0028】
本発明の連続鋳造装置では、鋳造板材を一層急速に冷却できるようにするために、鋳造板材に対し、鋳造空間から送り出された直後の部分に水が噴射されるように構成することができる(請求項)。
【0029】
また、本発明の連続鋳造装置では、水噴射手段から鋳造板材に噴射された水の飛散を防止する防滴部材を、鋳造空間から送り出される鋳造板材の表裏両側を覆うように配置することができる(請求項)。
無端ベルトは溶湯に触れて相当高温度になる。このため、水噴射手段から噴射された水が飛散して無端ベルトに付着し、高温度のAl合金にかかると、その水が爆発的に蒸気化するおそれがある。しかしながら、請求項のように防滴部材を設けて水噴射手段から噴射された水が無端ベルトにかからないようにすることによって、水が爆発的に蒸気化することを効果的に防止できる。
【0030】
この場合、請求項のように、防滴部材の少なくとも鋳造空間側の端部を、鋳造空間側に向かって鋳造板材に次第に接近するように傾斜していることが好ましい。このように防滴板が傾斜していれば、鋳造板材に噴射されて飛び散った水は防滴部材に当たって鋳造空間から遠去かる方向に跳ね返されるので、水が無端ベルトにかかることをより確実に防止できる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施例を図面を参照しながら説明する。
Al合金を板状に鋳造する連続鋳造装置はベルト鋳造手段としてのベルト鋳造機を主体にして構成されている。ベルト鋳造機1を示す図2において、基台2には複数個の支柱3が立設されており、これら支柱3に上機枠4が上下動可能に支持されている。また、基台2には、上機枠4の下側に位置して下機枠5が固定されている。そして、上下両機枠4、5には複数本のローラ6a〜6e、7a〜7eが設けられており、それらローラ6a〜6e、7a〜7eに上下一対の無端ベルト8、9が掛け渡されている。なお、無端ベルト8、9はスチール板、或いは耐熱繊維などによって形成されている。
【0033】
上記各機枠4、5のローラ6a〜6e、7a〜7eのうち、上機枠4については右上のローラ6e、下機枠5については右下のローラ7eは、各機枠4、5に回動可能に支持されたアーム10、11の先端部に設けられている。そして、アーム10、11は油圧シリンダ12、13によってそれぞれ矢印A、B方向に回動付勢されて無端ベルト8、9に張力を付与している。また、ローラ6a〜6e、7a〜7eはモータ(図示せず)に連結されており、その回転により無端ベルト8、9が駆動されてそれぞれ矢印D、E方向に走行するようになっている。
【0034】
上側の無端ベルト8のローラ6aおよび6b間の部分と下側の無端ベルト9のローラ7aおよび7b間の部分は互いにほぼ平行に対向し、この上下一対の無端ベルト8、9のほぼ平行に対向する部分の間の空間は鋳造空間Cとされている。もちろん、鋳造空間Cの左右両側はシール材(図示せず)によって閉塞されている。そして、前記基台2の図示左側には鋳造空間Cの一端側に位置して溶湯供給手段としての溶湯溜め14が設けられており、この溶湯溜め14に注湯器15からAl合金の溶湯が供給される。溶湯溜め14はノズル16を備え、このノズル16から溶湯を鋳造空間Cに供給するようになっている。
【0035】
このようなベルト鋳造機1は、無端ベルト8、9を冷却する水冷用ジャケット17、18を備えている。水冷用ジャケット17、18は上下両機枠4、5に取り付けられ、上下一対の無端ベルト8、9のほぼ平行な部分に対し、鋳造空間Cの反対側から接触している。そして、この水冷用ジャケット17、18は鋳造空間C内に供給されたAl合金の溶湯を無端ベルト8、9を介して冷却する。
【0036】
上下両機枠4、5には鋳造空間Cの他端側に位置して上下に対向するローラコンベア19、20が設けられており、鋳造空間Cで板状に鋳造されたAl合金 (以下、鋳造板材)21はそれらローラコンベア19、20間に送り出される。そして、これら上下両ローラコンベア19、20の鋳造空間C側の部位には、図1にも示すように、鋳造空間Cから送り出された直後の鋳造板材21に対し、上下両側から水を噴射する水噴射手段として、当該鋳造板材21の送り出し方向である矢印F方向に沿って並ぶ2本の水噴射パイプ22、23が設けられている。この実施例では、鋳造板材21の板厚は15mmに設定されているが、上機枠4の上下方向の位置を調節して鋳造間隔Cの高さを調節することによって変更可能である。
【0037】
上下両機枠4、5には、水噴射パイプ22、23から噴射された水が外部に飛び散ることを防止する防滴部材24、25が設けられている。これら上下の防滴部材24、25は浅底の偏平容器状に形成されて鋳造板材21の通路である上下のローラコンベア19、20を覆い隠すように設けられている。これら防滴部材24、25の鋳造空間C側の端部はその上下の間隔が鋳造空間Cに向って次第に狭まるように、上防滴部材24については上面が鋳造空間Cに向って下向きに傾斜し、下防滴部材25については下面が鋳造空間Cに向って上向きに傾斜するように形成されている。
【0038】
また、上下の防滴部材24、25の内側には、前記水噴射パイプ22、23よりも鋳造空間C側に位置して空気噴出手段としての空気噴出パイプ26、27が設けられている。この空気噴出パイプ26、27は上下両側に向けて空気を噴射して防滴部材24、25と鋳造板材21との間にエアカーテンを形成し、水噴射パイプ22、23から噴射された水が鋳造空間C側(矢印F方向と反対側)に向かって進み、無端ベルト8、9に付着することを防止している。
【0039】
なお、ローラコンベア19、20から送り出された鋳造板材21はその後、ピンチローラ28、29間に挟み込まれ、最終的に図示しない巻き込み機によってコイル状に巻回される。
【0040】
次に上記のように構成した連続鋳造装置によってAl合金を鋳造する場合の作用を説明する。溶融したAl合金を注湯器15から溶湯溜め14に注入すると、その溶湯は溶湯溜め14のノズル16から鋳造空間Cへ供給される。鋳造空間Cへ供給された溶湯は水冷ジャケット17、18により無端ベルト8、9を介して冷やされ、その冷却により次第に凝固して板状に成形されながら矢印D、E方向に走行している無端ベルト8、9によって矢印F方向に送られる。そして、水噴射パイプ22、23は、鋳造板材21に対し、鋳造空間Cから送り出された直後の部分に水を噴射する。
【0041】
このように鋳造板材21は、鋳造空間Cから出ると、直ちに噴射水によって冷却されるので、水冷ジャケット17、18による冷却に引き続いて水噴射パイプ22、23からの噴射水による冷却が行われ、この水噴射により鋳造板材21は急冷されて凝固を完了するものである。
【0042】
この実施例では、アルミニウム合金としては、3〜40質量%のSn、0.5〜7質量%のSi、0.05〜2質量%のFeを含む合金、或いは3〜40質量%のSn、0.5〜7質量%のSi、0.05〜2質量%のFeの他、Mn、V、Mo、Cr、Co、Ni、Wのうちから選択された1種以上の元素を総量で0.01〜3質量%含有する合金が用いられる。
【0043】
このAl合金の溶湯は、約800℃で鋳造空間Cに供給される。そして、Snを除いた部分の凝固が完了する約500℃にまで冷却された時点を凝固の完了とする。この凝固完了までに、水冷ジャケット17、18と水噴射パイプ22、23との冷却によって、鋳造板材21が3〜6℃/secの冷却速度で、鋳造開始温度である800℃から500℃まで温度低下するように、水冷ジャケット17、18の通水量と水噴射パイプ22、23からの噴射水量が設定されている。このような冷却速度で急冷することにより、鋳造板材21の晶出物の粗大化および偏析が防止される。
以上から明らかなように、ここでいう冷却速度は、冷却速度ΔT=(鋳造開始温度T−500)/(鋳造板材の温度が500℃に低下するまでの鋳造開始からの時間)、と定義されているものである。
【0044】
ところで、水噴射パイプ22、23から噴射水による冷却時において、噴射水は鋳造板材21に当たって飛散する。Al合金は約800℃の高温で鋳造空間Cに供給されるため、無端ベルト8、9に水が付着すると、Al合金の溶湯に触れたとき、その水が急激に蒸発し、危険である。
しかしながら、この水噴射は上下一対の防滴部材22、23の間で行われるから、鋳造板材21に当たって飛散した水は防滴部材22、23により遮られて外部に飛び散ることはなく、無端ベルト8、9に水が付着するおそれはない。
【0045】
この場合、防滴部材24、25の鋳造空間C側の端部はその上下の間隔が鋳造空間Cに向って次第に狭まるように、上防滴部材24については上面が鋳造空間Cに向って下向きに傾斜し、下防滴部材25については下面が鋳造空間Cに向って上向きに傾斜するように形成されているので、鋳造空間C側に向って飛び出ようとする水はその防滴部材24、25の傾斜面24a、25aに衝突して鋳造空間Cの反対側に跳ね返されるようになるので、上下の防滴部材24、25と鋳造板材21との間に存在する隙間から水が外部に飛び出ることを防止できる。
【0046】
しかも、水噴射パイプ22、23よりも鋳造空間C側に設けられた空気噴出パイプ26、27が防滴部材24、25と鋳造板材21との間にエアカーテンを形成するので、水噴射パイプ22、23から噴射された水が鋳造空間C方向に進み、防滴部材24、25と鋳造板材21との間から鋳造空間C側に漏れ出て無端ベルト8、9に付着することを一層確実に防止することができる。なお、防滴部材22、23により受けられた水は、下防滴部材23に設けられた排出路(図示せず)から排水される。
【0047】
さて、連続鋳造された鋳造板材21中には、図3に示すようにAl−Si−Feの3元系金属間化合物、或いはAl−Si−FeにMn、V、Mo、Cr、Co、Ni、Wのうち選択された元素との多元系金属間化合物(Al−Si−Fe−Mnなど)が晶出すると共に、Si粒子が晶出する。そして、この鋳造工程で、その鋳造板材21の冷却速度を上記のように3〜6℃/secに制御することによって上記金属間化合物の晶出物の大きさを30〜70μm、Si共晶組織の大きさを40μm以下に制御できる。
【0048】
連続鋳造された鋳造板材21は、その後、冷間で15mmから6mmの板厚に連続圧延され、次に、鋳造板材21に接着層形成用の薄いAl板を圧接し、その後、鋳造板材21を裏金鋼鈑に圧接してバイメタルを製造する。次いで、鋳造板材21と裏金鋼鈑との接着力を高めるための焼鈍を行った後、Al合金を強化するために470℃で20分間保持する溶体化処理を行い、水冷後、170℃で15時間保持する時効処理を施す。
【0049】
金属間化合物は、上記の圧延、圧接などによって鋳造当初の大きさ40〜55μmから1〜20μm程度に粉砕されて図4に示すようにシャープエッジを持った角張った形状になると共に、その金属間化合物からなる硬質粒子が1mm当たり6〜200個分布するようになる。このような硬質粒子の大きさおよび分布はその後の熱処理によってもほとんど変わることはない。一方、Si粒子も圧延、圧接などによって粉砕され、時効処理後の最終的な形態では最大径が5μm未満の丸みを帯びた形状で、1mm当たり200個以上分布するようになる。その後、バイメタルを機械加工して半割円筒状の軸受を製造する。
【0050】
次の表1は、試験のために鋳造を実施した合金成分(質量%)、鋳造に使用した連続鋳造装置の種類、冷却速度を示す。同表の鋳造装置の欄のBC1は水噴射パイプを備えた本発明の連続鋳造装置、BC2は水噴射パイプのない従来の連続鋳造装置を示す。
【0051】
【表1】
Figure 0003881202
【0052】
次の表2は表1の合金1〜6(発明品)、合金11〜16(従来品)について、鋳造板材の組織検査、圧延性の調査結果、および軸受として製造し、疲労試験、摩耗試験、焼付試験を行った結果を示す。疲労試験、摩耗試験、焼付試験の条件は表3〜5に示す。
【0053】
【表2】
Figure 0003881202
【0054】
【表3】
Figure 0003881202
【0055】
【表4】
Figure 0003881202
【0056】
【表5】
Figure 0003881202
【0057】
まず、表2に示す組織検査、試験結果について分析して見る。同表において組織の欄の○印は偏析はなく、また、金属間化合物の晶出物の大きさは40〜55μmの範囲にあって均一に分散していることを示し、×印は偏析ありを示す。この表2でいう偏析とは、鋳造板材の組織の結晶粒にばらつきがある、或いはSnやSiの分布が不均一である、或いは粗大なAl−Si−Fe系の金属間化合物が存在する状態を言う。圧延性については、圧延工程で50%圧下した場合の鋳造板材の端部の割れの深さで評価し、割れの深さが5mm以下のものには○印、5mmを越えるものには×印を付して示した。
【0058】
同表から明らかなように、冷却速度3〜6℃/secで急冷する発明品はいずれも組織に偏析はなく、冷却速度が3℃/sec未満で徐冷状態となる従来品はいずれも組織に偏析があった。その結果、発明品はいずれも圧延時の割れが軽微で圧延性は良く、従来品は大きな割れを生じて圧延性に劣ることが分かる。このため、発明品では1回当たりの圧下量を大きくして生産性を高めることが可能である。また、耐疲労性、耐摩耗性、非焼付性についても、発明品の方が従来品よりも優れていることが理解される。
【0059】
このように本発明は、溶融したAl合金を3〜6℃/secの冷却速度で冷却して鋳造板材21を鋳造することにより、その鋳造板材21に晶出する金属間化合物およびSiを粗大化しないように適度な大きさに制御し、これにて、その後の圧延時に鋳造板材21に割れが発生しないようにすると共に、その圧延に伴って生ずる金属間化合物、Si晶出物の粉砕により、金属間化合物については、前述したラッピング作用などを有効に発揮して非焼付性ひいては耐摩耗性を向上させ得る大きさとなるようにし、Si粒子についてはAlマトリックスに広く分布して耐疲労性を向上させ得る大きさとなるようにできるものである。
【0060】
なお、本発明は上記し且つ図面に示す実施例に限定されるものではなく、例えばAl−Si−Feの3元系金属間化合物、Al−Si−FeにMnなどを加えた多元系金属間化合物を晶出するアルミニウム系軸受合金を対象にしたものに限られず、通常のアルミニウム系軸受合金を対象とした鋳造方法、鋳造装置に適用しても良いなど、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示すもので、ベルト鋳造機の出口側の断面図
【図2】ベルト鋳造機を主体とした連続鋳造装置の断面図
【図3】Al−Si−Feの3元系金属間化合物を晶出した鋳造板材の顕微鏡写真の模式図
【図4】Al−Si−Feの3元系金属間化合物を含む圧延後の鋳造板材の顕微鏡写真の模式図
【符号の説明】
図中、1はベルト鋳造機(ベルト鋳造手段)、8、9は無端ベルト、14は溶湯溜め(溶湯供給手段)、17、18は水冷ジャケット(冷却手段)、19、20はローラコンベア、21は鋳造板材、22、23は水噴射パイプ(水噴射手段)、24、25は防滴部材、26、27は空気噴出パイプ(空気噴出手段)である。

Claims (8)

  1. 走行する一対の無端ベルトのうち、ほぼ平行に対向する部分の間に鋳造空間を形成し、この鋳造空間に溶融したアルミニウム軸受合金を供給して板状に連続的に鋳造する連続鋳造方法において、
    前記アルミニウム軸受合金は、3〜40質量%のSn、0.5〜7質量%のSi、0.05〜2質量%のFeを含み、
    前記一対の無端ベルトの走行により、前記鋳造空間で連続的に鋳造されて当該鋳造空間から送り出される前記アルミニウム軸受合金の鋳造板材に対し、水を噴射すると共に、この水噴射よりも前記鋳造空間側で空気を噴出させ、前記噴出された空気によって形成されるエアカーテンにより、前記噴射された水が前記無端ベルト側に飛散することを防止しながら、当該噴射された水によって当該アルミニウム軸受合金の凝固時の冷却速度ΔTを3〜6℃/secに制御してAl−Si−Feの3元系金属間化合物を晶出させることを特徴とするアルミニウム軸受合金の連続鋳造方法。
    但し、ΔT=(T−500)/t
    T:アルミニウム軸受合金の鋳造開始時の温度(℃)
    t:アルミニウム軸受合金の温度が500℃に低下するまでの鋳造開始からの時間(sec)
  2. 前記アルミニウム軸受合金は、3〜40質量%のSn、0.5〜7質量%のSi、0.05〜2質量%のFeの他、Mn、V、Mo、Cr、Co、Ni、Wのうちから選択された1種以上の元素を総量で0.01〜3質量%含有し、Al−Si−Feに当該選択された元素が加わった多元系金属間化合物を晶出することを特徴とする請求項1記載のアルミニウム軸受合金の連続鋳造方法。
  3. 前記アルミニウム軸受合金は、B、Ti、Zrのうちから選択された1種以上の元素を総量で0.01〜2質量%含むことを特徴とする請求項1または2記載のアルミニウム軸受合金の連続鋳造方法。
  4. 前記アルミニウム軸受合金は、Cu、Mg、Znのうちから選択された1種以上の元素を総量で0.1〜5質量%含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のアルミニウム軸受合金の連続鋳造方法。
  5. 3〜40質量%のSn、0.5〜7質量%のSi、0.05〜2質量%のFeを含むアルミニウム軸受合金、または3〜40質量%のSn、0.5〜7質量%のSi、0.05〜2質量%のFeの他、Mn、V、Mo、Cr、Co、Ni、Wのうちから選択された1種以上の元素を総量で0.01〜3質量%含むアルミニウム軸受合金を板状に連続的に鋳造する連続鋳造装置において、
    走行する一対の無端ベルトを備え、当該一対のベルトのほぼ平行に対向する部分の間に鋳造空間を形成したベルト鋳造手段と、
    このベルト鋳造手段の前記鋳造空間に前記アルミニウム軸受合金の溶湯を当該鋳造空間の一端側から供給する溶湯供給手段と、
    前記鋳造空間に供給された溶湯を前記一対の無端ベルトを介して冷却する冷却手段と、
    前記一対の無端ベルトの走行により、前記鋳造空間で連続的に鋳造されて当該鋳造空間の他端側から送り出される鋳造板材に対し、その表裏両側から水を噴射して当該鋳造板材の凝固時の冷却速度ΔTを3〜6℃/secに制御することにより、Al−Si−Feの3元系金属間化合物、または前記Al−Si−Feに前記選択された元素が加わった多元系金属間化合物を晶出させる水噴射手段と、
    前記水噴射手段よりも前記鋳造空間側においてエアカーテンを形成して前記水噴射手段から噴射された水が前記無端ベルト側に飛散することを防止する空気噴出手段と
    を具備してなるアルミニウム軸受合金の連続鋳造装置。
    但し、ΔT=(T−500)/t
    T:アルミニウム軸受合金の鋳造開始時の温度(℃)
    t:アルミニウム軸受合金の温度が500℃に低下するまでの鋳造開始からの時間(sec)
  6. 前記水噴射手段は、前記鋳造板材に対し、前記鋳造空間の他端側から送り出された直後の部分に水を噴射することを特徴とする請求項5記載のアルミニウム軸受合金の連続鋳造装置。
  7. 前記水噴射手段から鋳造板材に噴射された水の飛散を防止する防滴部材が前記鋳造空間から送り出される前記鋳造板材の表裏両側を覆うように配置されていることを特徴とする請求項5または6記載のアルミニウム軸受合金の連続鋳造装置。
  8. 前記防滴部材の少なくとも前記鋳造空間側の端部は、鋳造空間側に向って前記鋳造板材に次第に接近するように傾斜していることを特徴とする請求項7記載のアルミニウム軸受合金の連続鋳造装置。
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