JP3867989B2 - 電池ケース用アルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
本発明によれば、Mn、Cu、Mg、Si、FeおよびZnの含有量を所定の範囲内に規制することによって、板厚を薄肉化しても、電池ケースに成形された際に優れた強度、成形性、レーザー溶接性(溶接割れ性、溶接部強度)、応力緩和性、耐圧性(耐膨れ性)を有する電池ケース用アルミニウム合金板を提供することができる。特に、レーザー溶接性については、Znの含有量を規制することによって、レーザー溶接時に、Znが飛散せず、周囲を汚染することがない。
そこで、本発明においては、強度、成形性、レーザー溶接性(溶接割れ性、溶接部強度)、応力緩和性、耐圧性(耐膨れ性)を同時に満足させるアルミニウム合金板を実現するために、アルミニウム合金の組成を最適化した。すなわち、アルミニウム合金板は、Mn:0.9質量%以上1.5質量%以下、Cu:0.5質量%を超え1.0質量%以下、Mg:0.2質量%以上0.6質量%以下、Si:0.05質量%以上0.50質量%以下、Fe:0.05質量%以上0.60質量%以下を含有し、Zn:0.10質量%以下に規制し、残部Alおよび不可避的不純物からなる。
Mnは、母相内に固溶して、アルミニウム合金板の強度を高め、耐圧強度を向上させる作用効果を有する。しかし、Mnの含有量が0.9質量%未満であるとこの作用効果は小さく、一方、Mnの含有量が1.5質量%を超えると粗大な金属間化合物(Al−Fe−Mn、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物)が生成し、成形時の割れの起点となりやすいため、アルミニウム合金板の成形性が低下する。したがって、Mn含有量は0.9質量%以上1.5質量%以下とする。
Cuは、固溶強化によりアルミニウム合金板の強度を高め、耐圧強度を向上させる作用効果を有する。また、Mg、Alと結びついてS'(CuMgAl2)相を生成し応力緩和現象を抑え、アルミニウム合金板の応力緩和性を向上させる作用効果を有する。しかし、Cuの含有量が0.5質量%以下ではこの作用効果が小さく、一方、Cuの含有量が1.0質量%を超えるとアルミニウム合金板の成形性を低下させると共に、電池ケースのケース本体部と蓋部とをレーザー溶接等により固着させる際に割れが生じやすくなり、レーザー溶接性が低下する。したがって、Cuの含有量は0.5質量%を超えて1.0質量%以下とする。また、Cuの固溶強化によってレーザー溶接時の溶接部の強度を高めるためには、Cuの含有量は、0.7質量%以上1.0質量%以下が好ましい。
Mgは、固溶強化によりアルミニウム合金板の強度を高め、耐圧強度を向上させる作用効果を有する。また、Mgは、Siと結びついて析出物(Mg2Si)を形成したり、Al及びCuと結びついてS'(CuMgAl2)相を形成し、転位の移動を抑制する。このMg2Si、S'(CuMgAl2)相の形成によって、応力緩和を抑制することができ、アルミニウム合金板の応力緩和性を向上させる作用効果を有する。
Siは、固溶強化によりアルミニウム合金板の強度を高め、耐圧強度を向上させる作用効果を有する。また、Siは、Al、Mn、Fe等とAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物を形成し、アルミニウム合金板の成形性を向上させる作用効果を有する。さらに、Siは、Mgと結びついて析出物(Mg2Si)を形成して応力緩和を抑制することができ、アルミニウム合金板の応力緩和性を向上させる作用効果を有する。
Feは、Siと同様にAl−Fe−Mn、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物を形成するため、アルミニウム合金板の成形性を向上させる作用効果を有する。しかし、Feの含有量が0.05質量%未満であると、金属間化合物の形成量が少なく、その作用効果が小さく、一方、Feの含有量が0.60質量%を超えると、金属間化合物が粗大化し、成形時の割れの起点となりやすいため、アルミニウム合金板の成形性が低下する。また、耐応力緩和特性も低下する。したがって、Feの含有量は、0.05質量%以上0.60質量%以下とする。
Znは、蒸気圧が低いため、前記レーザー溶接時に飛散し、周囲を汚染しやすく、アルミニウム合金板のレーザー溶接性を悪くする。したがって、Znの含有量は0質量%を超え0.10質量%以下に規制する。
不可避的不純物としては、Cr、Ti等が挙げられる。本発明の作用効果を奏するためには、これらの不可避的不純物のそれぞれの含有量を0.1質量%以下に抑える必要がある。
(Si/Feが0.2〜6.0)
Si/Feが前記範囲内であると、アルミニウム合金板の応力緩和の原因となるAl−Fe−Mn系金属間化合物の形成が妨げられ、また、応力緩和を抑制するMg2Siの形成が促進されるため、アルミニウム合金板の応力緩和性がさらに向上する。
(6N/mm2<(σB)−(σ0.2)<50N/mm2、かつ、(σ0.2)≧240N/mm2)
引張強度(σB)および0.2%耐力(σ0.2)は、アルミニウム合金板の加工硬化特性に影響を与えるもので、前記の関係を満足しないと、しごき加工等に適した加工硬化特性が得られない。(σ0.2)≧240N/mm2であっても、(σB)−(σ0.2)が6N/mm2以下である場合には、加工硬化特性が低くなりすぎて、しごき加工等によって作製される電池ケースの硬さが低下しやすく、耐圧性が低下しやすい。また、(σB)−(σ0.2)が50N/mm2以上である場合には、加工硬化特性が高くなりすぎて、しごき加工時に成形割れが発生しやすい。
〔アルミニウム合金板の製造方法〕
アルミニウム合金板は、前記組成を有するアルミニウム合金を溶解・鋳造して鋳塊を得る(第1工程)、得られた鋳塊を均質化熱処理(第2工程)した後、熱間圧延および冷間圧延(第3工程)を行ない、得られた圧延板に中間焼鈍(第4工程)を施し、中間焼鈍された圧延板を所定板厚になるように最終冷間圧延(第5工程)する方法が挙げられる。
そして、前記アルミニウム合金板を所定形状にカットし、これに複数回にわたって絞りあるいはしごき加工を行い、徐々に有底筒形状の側壁面を高く成形し、トリミングなどの加工を必要に応じて施すことで、所定の側壁高さ、底面積を備えるケース本体部を製造する。例えば、直径60mmのブランク板から側壁高さが50mmのケース本体部を作製する。
さらに、リチウムイオン二次電池は、以下のような工程により作製される。
(1)正極材料、負極材料、セパレーターを重ねて巻き、前記ケース本体部の内部に収納する。
(2)電極材料の正極と負極を、ケース本体部の正極と負極にそれぞれ溶接する。
(3)電解液をケース本体部の注液口から注液する。
(4)注液口を蓋部で溶接によって封止する。
なお、ケース本体部の注液口を蓋部で封止する場合には、波形制御されたパルスレーザーによる溶接が一般的である。
以下、本発明によるところの実施例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく限りにおいて適宜に変更することが可能である。
前記アルミニウム合金板について、引張方向が圧延方向と平行になるようにJIS5号による引張試験片を作製した。その後、JISZ2241による引張試験を実施し、引張強さ、耐力及び伸びを求めた。耐力として240N/mm2以上を良好とした。
前記アルミニウム合金板から、加工機を使用して、側壁のしごき加工率を50%として、縦5mm、横30mm、高さ50mmの角型電池ケースを成形した。この際、成形可能であったものは成形性が良好であり問題なしとして「◎」、わずかに肌荒れ「○」、割れまたは肌荒れが著しく発生したものは成形性が不良であるとして「×」と評価した。
前記角型電池ケースの上部に、角型電池ケースと同材質のアルミニウム合金板からなる蓋部をパルスレーザーで溶接した。溶接部に割れなどの欠陥が見られず健全で、パルス毎のビード形状が一定であるものを「◎」、溶接部に欠陥が見られず健全であるがビード形状が若干乱れているものを「○」、溶接部に割れが発生したもの、あるいは溶質元素が飛散し周囲を汚染したものを「×」として評価した。
前記アルミニウム合金板に、電池ケースへの成形加工を想定し最終冷間圧延率50%の冷間圧延を行い、図1に示すように、幅10mm、長さ150mmの試験片に切り出した。その後、日本電子材料工業会標準規格EMAS−3003に記載の片持ち梁式により、試験片の50mm(L)の位置に120MPaの応力を付加し変形させ(δ0)、その状態で85℃、24時間保持した後に応力を除去し、試験片の変形量(たわみ量:ε)を測定した。なお、この場合、変形量が大きいほど、応力緩和特性に劣ることとなる。変形量(たわみ量:ε)が2.5mm以下を良好とした。
前記角型電池ケースを封止した後、294kPa(3kg/cm2)の内圧を作用させた状態で、100℃の温度に加熱して2時間保持した後、室温に戻し、その後電池ケース側面の膨れの変位量を測定した。この膨れ変位量が1.0mm以下であったものは耐圧性がより優れているとして「◎」、1.0mmを超え、1.2mm以下であったものは耐圧性が優れているとして「○」、1.2mmを超え、1.5mm以下であったものは耐圧性が良好であるとして「△」、1.5mmを超えたものは不良であるとして「×」とした。また、成形性およびレーザー溶接性の少なくとも1つが不良「×」のものは、測定不能であるとして「−」とした。
次に、実施例4、5(参考例)として、表3に示す組成のアルミニウム合金を用いて、実施例1〜3と同様にアルミニウム合金板を作製した。そして、実施例4、5(参考例)のアルミニウム合金板および前記実施例1〜3のアルミニウム合金板を用いて、レーザー溶接性(溶接部強度)ついての評価を、以下のように行った。その結果を表4に示す。
〔レーザー溶接性(溶接部強度)〕
前記アルミニウム合金板にパルスレーザーを照射して、直径500μmの単点スポットを形成させ、単点スポットの内部硬度(スポット硬度)をビッカース硬度計で測定した。なお、単点あたりの照射エネルギーは4Jとした。
次に、実施例1のアルミニウム合金を用いて、最終冷間圧延後に最終焼鈍を施す以外は実施例1と同様にして、アルミニウム合金板を作製した。なお、最終焼鈍条件については表6に示す条件で行い、実施例6〜9が請求項6の最終焼鈍条件を満足する例、実施例10〜12が最終焼鈍条件を満足しない例とした。
ケース成形後の硬さ測定は、図2に示すように、角型電池ケース1の広幅面の上部から1/4,2/4,3/4の測定ポイントP1、P2、P3での硬さをマイクロビッカース硬度計を用いて測定し、平均値を求めた。なお、測定条件は、荷重300gで時間20秒である。
次に、実施例1のアルミニウム合金を用いて、最終冷間圧延を圧延率15%(実施例13)、圧延率50%(実施例14)で行う以外は実施例1と同様にして、アルミニウム合金板を作製した。このように作製したアルミニウム合金板を用いて、実施例1と同様にして、強度、成形性、レーザー溶接性(溶接割れ性)、応力緩和性および耐圧性(耐膨れ性)について評価を行った。その結果、実施例13、14は、実施例1と同等であった。
P1 測定ポイント
P2 測定ポイント
P3 測定ポイント
Claims (5)
- Mn:0.9質量%以上1.5質量%以下、Cu:0.7質量%以上1.0質量%以下、Mg:0.2質量%以上0.6質量%以下、Si:0.05質量%以上0.50質量%以下、Fe:0.05質量%以上0.60質量%以下を含有し、Zn:0.10質量%以下に規制し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成されることを特徴とする電池ケース用アルミニウム合金板。
- 前記Siの含有量とFeの含有量との比(Si/Fe)が0.2〜6.0であることを特徴とする請求項1に記載の電池ケース用アルミニウム合金板。
- 請求項1または請求項2に記載の電池ケース用アルミニウム合金板の引張強度(σB)および0.2%耐力(σ0.2)が、6N/mm2<(σB)−(σ0.2)<50N/mm2、かつ、(σ0.2)≧240N/mm2の関係式を満足することを特徴とする電池ケース用アルミニウム合金板。
- 請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金を溶解・鋳造して鋳塊を作製する第1工程と、
前記鋳塊に均質化熱処理を施す第2工程と、
均質化熱処理された前記鋳塊を熱間圧延および冷間圧延して圧延板を作製する第3工程と、
前記圧延板に中間焼鈍を施す第4工程と、
中間焼鈍された前記圧延板に最終冷間圧延を施してアルミニウム合金板を作製する第5工程とを含むことを特徴とする電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法。 - 前記第5工程において、最終冷間圧延された前記圧延板に80〜200℃、0.5〜8時間の最終焼鈍を施すことを特徴とする請求項4に記載の電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法。
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