JP4539913B2 - 二次電池ケース用アルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
二次電池ケース成形は、通常多段プレスによって成形されるために、ケース材料には良好な成形性が求められる。このために、従来では純アルミニウム系(JIS−1000系)やAl−Mn系(JIS−3003合金など)のような比較的軟質のものが用いられることが多かった。二次電池は、上述材料からなるケースに電極体を入れた後に、一般にはレーザ溶接により蓋を付けて密封することで製造される。こうして製造された二次電池は携帯電話などの電源として使用する。この二次電池に放電後に充電する際、ケース内部の温度が上昇して、ケース内部の圧力が上昇する。また、携帯電話などの携帯電子機器を乗用車中に放置する場合がある。夏などの季節では車内の温度が70℃以上にもなり、電池ケース内部の圧力が大幅に上昇する。このような場合、上述した比較的軟質のケース材料で製造されたケースに大きな膨れが生じるという問題がある。この膨れの生成を抑制するために、高強度のケース材料が要求される。最近、Al−Mn系合金に少量のCuを添加して耐膨れ性を向上させた材料(例えば特許文献1)やJIS−3003合金に少量のCuとMgを添加して強度の向上を図った材料が用いられるようになっている。
Cuは、強度とクリープ性を高め、耐膨れ性の向上に寄与する効果がある。Cu含有量が1.0%以下では、その効果は不十分となる。逆にCu含有量が2.0%を超えると、レーザ溶接時の割れ感受性が高くなり、レーザ溶接性が劣化する。また、プレス成形性も低下する。したがって、Cuの含有量を上記範囲に定める。なお、同様の理由で、さらに下限1.5%超、上限1.9%が好ましい。
Mnは、強度を高め、また、結晶粒を微細化してプレス成形性の向上に寄与する。Mn量が0.2%未満では、その効果が不十分となる。一方、Mn含有量が1.0%を越えると、鋳造時に粗大な晶出物が生成しやすくなり、マトリックス中に分散してプレス成形性が低下する。また、Al−Cu−Mn系化合物が生成し、合金強度が低下するおそれがある。したがって、Mnの含有量を上記範囲に定める。なお、同様の理由で、さらに下限0.3%、上限0.8%が好ましい。
Mgは、強度とクリープ性を高め、耐膨れ性の向上に寄与する効果がある。Mg含有量が0.1%未満では、その効果は不十分となり、Mg含有量が0.9%を超えると、強度とクリープ性は更に向上するが、レーザ溶接性とプレス成形性が低下する。したがって、Mgの含有量を上記範囲に定める。なお、同様の理由で、さらに下限0.21%、上限0.7%が好ましい。
Siは、不可避不純物として存在し、強度を若干高める効果がある。一方、レーザ溶接性を若干劣化させる。レーザ溶接性を満足できる場合、Si含有量を制限する必要はないが、高いレーザ溶接性を要求される場合、Si含有量を0.2%未満に制限するのが好ましい。さらに、0.1%未満に制限することが一層好ましい。
Zr、Crはアルミニウム合金の結晶粒を微細化する作用があり、結晶粒微細化の効果を高め、プレス成形性を向上させるため、所望によりZr、Crの単独添加または複合添加をする。含有量は、それぞれ0.05〜0.2重量%が好ましい。0.05%未満では、結晶粒微細化の効果が不十分となり、0.2%を超えると、鋳造時に粗大な晶出物が生成しやすくなって、プレス成形性を低下する。
以上の組成からなる本発明のアルミニウム合金板は強度が高く、耐膨れ性、プレス成形性、及びレーザ溶接性に優れたものである。
また、溶接性とは、二次電池ケース胴体に蓋を接合する際の溶接ができるかどうかをいい、レーザ溶接性とは、溶接をレーザによって行う場合の溶接ができるかどうかをいう。本発明のアルミニウム合金板は、溶接性に優れているため、ニ次電池ケースを良好に作製することができる。
本発明のアルミニウム合金板は、時効硬化特性を有するものである。この時効硬化特性を生かせるために、上記焼鈍時に時効硬化元素であるCu、Mg等をマトリックス中に固溶させておかなければならない。焼鈍温度は480℃より低く、保持時間が20秒より短いと、Cu、Mg等の固溶が不十分となるために、時効硬化特性が得られにくくなって、強度が低下する。一方、焼鈍温度が560℃より高く、保持時間が180秒より長くなると、結晶粒の成長が生じるために結晶粒が大きくなって、プレス成形性が劣る。冷却速度が20℃/秒より遅いと、冷却中にCuとMgが析出してしまい、強度の低下をもたらすために好ましくない。冷却速度が200℃/秒を超えると、冷却用の設備投資が増し、生産コストが増加する。
以上のように、焼鈍工程の焼鈍温度、保持時間および冷却速度を上記範囲とすることで、Cu、Mg等の時効硬化元素が充分固溶し、平均結晶粒径が25μmより大きくならずに、強度が高くプレス成形性に優れたアルミニウム合金板を製造することができる。
もう1つは、焼鈍後に最終冷間圧延を施すことによって所定の強度を達成することができる。この場合、最終冷間圧延時の圧下率が60%以下に制御することが好ましい。圧下率が60%超えると、プレス成形性が劣化する。最終冷間圧延時の圧下率の下限値は特に規定しないが、但し、前記引張強度が250MPa以上の要求を満足する必要がある。また、この引張強度の要求が満足できれば、加熱時効処理と最終冷間圧延の2つの手法は、複合使用することもできる。例えば、最終冷間圧延後に加熱時効処理を行う。なお、最終冷間圧延後では、自然時効は十分に得られない。
本発明のアルミニウム合金板は以下の方法により製造することができる。
上記本発明の組成が得られるように成分調整したアルミニウム合金を、溶解、鋳造し、さらに均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍を行い、その後、自然時効又は最終冷間圧延と時効処理の工程の一方または両方を経て板材とする。
上記冷間圧延に至るまでの工程は常法により実行することができ、本発明としては特定の条件に限定されない。なお、冷間圧延においては、上記したように、焼鈍温度が480〜560℃で、保持時間が20〜180秒、冷却速度が20〜200℃/秒とする焼鈍を行うのが望ましい。この焼鈍は、連続焼鈍炉を用いて行うことができる。
以上のように、焼鈍工程の焼鈍温度、保持時間および冷却速度を上記範囲とすることで、平均結晶粒径を25μm以下に調整することができる。
その後、高い強度を得るために、1〜7日の自然時効または100〜220℃で2時間〜24時間保持する加熱時効処理もしくは10〜60%の最終圧延率に制御する最終冷間圧延を行う。なお、最終冷間圧延と加熱時効処理とは両方を行うものであってもよい。
(実施例)
表1は、実施例1〜8のアルミニウム合金板の成分組成を示すものである。なお、表1中の単位は質量%である。
以下に、本発明のアルミニウム合金板を製造する工程について説明する。
製造されたアルミニウム合金板が表1に示す組成成分となるように配合されたアルミニウム合金の鋳塊を半連続鋳造により鋳造し、得られた鋳塊を面削して表面の不均一層を除去した。その後、595℃の温度に6時間保持する均質化処理を行い、400℃まで冷却して、速やかに熱間圧延を施し、厚さ7mmの板材とした。続いて、厚さ0.70mmまで冷間圧延し、昇温速度100℃/秒、保持温度520℃、保持時間30秒、冷却速度150℃/秒という条件で焼鈍を行った。その後、厚さ0.52mmまで最終冷間圧延した。最終冷間圧延の際の圧下率は25.7%であった。
アルミニウム合金板の組成が表1に示す成分となるようにした他は、上記実施例と同様の方法により比較例1〜6のアルミニウム合金板を製造した。
上記により得られた各供試材について、引張強度、プレス成形性、結晶粒径、クリープ特性、レーザ溶接性について測定、評価を行った。
成形性については、径33mm、肩R4.5mmポンチと、径57.75〜69.3mmのプランクを用いて深絞り試験を行い、限界絞り比によって評価した。限界絞り比が1.95以上のものを○、1.95未満のものを×とした。
平均結晶粒径は、アルミニウム合金板の圧延方向断面において、PHILIPS社のSEM(XL30Fe)につけたTSL社のEBSPシステムにより、0.1μmのポイント間隔で測定した結晶方位データから、TSL社のOIM3.0解析ソフトによって求めた。方位差15°以上の粒界に囲まれた領域中に、10個以上のポイントが含まれるものを結晶粒とした。
クリープ試験は、平行部長さ32mm、幅7mmの試験片を用い、100℃雰囲気中で180MPa初期荷重を負荷して行った。
レーザ溶接性については、YAG、パルスレーザ溶接機を用いて、突合せ法によって本発明のアルミニウム合金板を溶接して、割れ、溶け込み不良などの溶接欠陥がないものを○、あるものを×として評価した。
表2に実施例1〜8および比較例1〜6の引張強度(機械的性質)、プレス成形性、100℃で180MPa初期荷重を負荷したときの定常クリープ速度と減速クリープ段階の歪み量、およびレーザ溶接性の評価結果を示す。
表2より、本発明の実施例1〜8の板材は全て、引張強度が高く、定常クリープ速度と減速クリープ段階の歪み量が小さいことが分かる。また、良好なプレス成形性およびレーザ溶接性を示した。これより、実施例1〜8においては、引張強度が高く、耐膨れ性、プレス成形性に優れ、溶接性にも優れたアルミニウム合金板が提供でき、二次電池ケース用アルミニウム合金板として適したものである。
一方、本発明の合金組成範囲からはずれた比較例1〜6の板材では、引張強度が250MPaより低いか、定常クリープ速度または減速クリーブ段階の歪み量が大きいことによって、耐膨れ性が悪い。あるいはプレス成形性、レーザ溶接性が劣っている。これより、比較例1〜6のアルミニウム合金板は、二次電池ケース用アルミニウム合金板としては、本発明に比べ、劣ったものである。
表3に、表1に示した実施例1の焼鈍以後の製造条件を変えた場合の製造方法実施例9〜13を示す。焼鈍前の溶解、鋳造、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延工程の条件は実施例1と同じである。
さらに表3に、表1に示した比較例1の焼鈍以後の製造条件を本発明範囲外で変えた場合の製造方法比較例7〜10を示す。焼鈍前の溶解、鋳造、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延工程の条件は表3に示した実施例9〜13、すなわち表1の比較例1と同じである。
引張強度、プレス成形性、定常クリープ速度と減速クリープ段階の歪み量は、表2に示した評価に用いた方法と同様に測定、評価した。
平均結晶粒径は、アルミニウム合金板の圧延方向断面において、PHILIPS社のSEM(XL30Fe)につけたTSL社のEBSPシステムにより、0.1μmのポイント間隔で測定した結晶方位データから、TSL社のOIM3.0解析ソフトによって求めた。方位差15°以上の粒界に囲まれた領域中に、10個以上のポイントが含まれるものを結晶粒とした。
表4より、本発明の製造方法に従って製造した実施例9〜13の板材は全て、引張強度が高く、定常クリープ速度と減速クリープ段階の歪み量が低くて、結晶粒が小さくプレス成形性が良好であったことが分かる。
一方、本発明の製造条件を外れた比較例7〜10の板材では、成形性が悪く、また、一部では、クリープ特性が良好ではないという結果が得られた。
Claims (5)
- 質量比で、Cuを1.0超〜2.0%、Mnを0.2〜1.0%、Mgを0.1〜0.9%含有し、残部が不可避不純物とAlからなる組成を有することを特徴とする二次電池ケース用高強度アルミニウム合金板。
- 前記不可避不純物のSiを質量比で0.2%未満に制限することを特徴とする請求項1記載の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金板。
- 質量比で、Zr0.05〜0.2%、Cr0.05〜0.2%の一種または2種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金板。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の組成を有するアルミニウム合金板を冷間圧延した後、480〜560℃で20〜180秒保持、冷却速度20〜200℃/秒の焼鈍を行い、その後、1〜7日間保持する自然時効を行うことを特徴とする二次電池ケース用高強度アルミニウム合金板の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の組成を有するアルミニウム合金板を冷間圧延した後、480〜560℃で20〜180秒保持、冷却速度20〜200℃/秒の焼鈍を行い、その後、最終冷延率10〜60%で圧延を行う最終冷間圧延と、100〜220℃で2時間〜24時間保持する時効処理の一方または両方を行うことを特徴とする二次電池ケース用高強度アルミニウム合金板の製造方法。
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