JP2009097029A - 二次電池ケース用アルミニウム合金材、二次電池ケース用アルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents

二次電池ケース用アルミニウム合金材、二次電池ケース用アルミニウム合金板およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高強度でプレス成形性、レーザ溶接性、耐膨れ性に優れた二次電池ケース用アルミニウム合金板を提供する。
【解決手段】アルミニウム材組成をCu:1.2超〜1.8%、Mn:1.15超〜1.7%、Mg:0.30〜0.6%を含有し、残部がAlと不可避的不純物なるものとする。昇温速度30〜90℃/時間、420〜520℃、4〜12時間の条件または、一段目を200〜300℃、1〜2時間、二段目を420〜520℃、4〜12時間とする条件で均質化処理を施す。さらに、冷間加工に際し、460〜530℃、時間20〜180秒、冷却速度20〜200/秒の中間焼鈍を施す。引張強度260〜350MPa、導電率IACS39%以上、円相当直径0.5μm〜10μmの金属間化合物粒子が平均で11000〜30000個/mm分散した二次電池ケース用アルミニウム合金板が得られる。
【選択図】なし

Description

本発明は、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話などの動力源となる二次電池ケース用アルミニウム合金材および合金板ならびにその製造方法に関し、特に好適にはリチウムイオン二次電池ケース用に関する。
二次電池は、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話などの携帯機器の電源として使用されるため、小型且つ軽量であることが要求される。こうした要求に対するものの一つとして、二次電池ケースの薄肉化が検討されている。
二次電池ケース成形は、通常多段プレスによって成形されるために、ケース材料には良好な成形性が求められる。このために、従来では純アルミニウム系(JIS−1000系)またはAl−Mn系のJIS−3003合金などのような比較的軟質のものが用いられることが多い。二次電池は、上述材料からなるケースに電極体を入れた後に、レーザ溶接により蓋を付けて密封することで製造される。こうして製造された二次電池を携帯電話などに使用するが、放電後に充電する際、ケース内部の温度が上昇して、ケース内部の圧力が上昇する。また、携帯電話などの携帯電子機器を乗用車中に放置する場合がある。夏のとき、車内の温度70℃以上にも高くなり、電池ケース内部の圧力が大幅に上昇する。このような場合、上述した比較的軟質のケース材料で製造されたケースに大きな膨れが生じるという問題がある。この膨れの生成を抑制するために、高強度のケース材料が要求される。最近、JIS−3003合金に少量のCuとMgを添加し、強度の向上を図れた材料が用いられるようになっている。
ところで、最近携帯電子機器の多機能化と液晶表示ウィンドの大型化により、大容量且つ長時間で使用可能の二次電池が求められている。ケース底の肉厚を減らして、より多くの電解液を充填するような努力がなされてきている。その結果、電池の内圧が上昇する一途のために、強度の更なる高いケース用材料が求められるようになっている。二次電池ケース用の材料としては既にいくつかのものが提案されている(特許文献1〜6)。
上記特許文献1〜5では、適量のMn、Cuの含有、一部でさらに適量のMgを含有することで、221MPa〜258MPaという強度を得ている。また、特許文献6では、さらに成分の適量化によって381MPaという高強度を得ている。
特許文献7では合金元素の固溶量を増加させることにより、成形後の電池ケースの強度向上を図り、導電率を45IACS%以下としたアルミニウム合金板を得ている。
特開2005−336540号公報 特開2006−188744号公報 特開2006−104580号公報 特開2005−200729号公報 特開2004−197172号公報 特開2006−169574号公報 特開平11−176392号公報
しかし、前記特許文献1〜5に示されたアルミニウム合金板は、強度が十分ではなく、前記した課題を解決することは困難である。この中で、前記特許文献5に示されたアルミニウム合金板は、さらにレーザ溶接性が顕著に劣り、溶接時の不良率がかなり高くなる問題がある。
一方、前記特許文献6に示された高強度アルミニウム合金板は十分に高い強度が得られているが、ケース成形性が劣り、成形時の不良率が高い問題がある。また、前記特許文献7に示されたアルミニウム合金板は合金元素の固溶量が増加すると、レーザ溶接性が劣り、溶接不良率が増加するという問題がある。
本発明は、上記の問題点に鑑みて成し遂げられたものであり、その目的は、高強度且つプレス成形性、溶接性および耐膨れ性に優れた二次電池ケース用のアルミニウム合金板を提供することにある。
すなわち、本発明の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金材のうち、第1の本発明は、質量%で、Cu:1.2超〜1.8%、Mn:1.15超〜1.7%、Mg:0.3〜0.6%を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする。
第2の本発明の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金材は、前記第1の本発明において、前記組成における前記不可避不純物中のFe、Si含有量と前記Mn含有量の総量が、質量%で1.5〜2.0%であることを特徴とする。
第3の本発明の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金材は、前記第1または第2の本発明において、質量%で、前記組成における前記不可避不純物中のFe含有量が0.6%以下、Si含有量が0.3%以下であることを特徴とする。
第4の本発明の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金材は、前記第1〜第3の本発明において、前記組成に、さらに、ZrとCrの一種または二種を、質量%の総量で、0.05〜0.2%含有することを特徴とする。
第5の本発明の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金板は、前記第1〜第4のいずれかの本発明に記載の組成を有し、引張強度が260〜350MPaの範囲にあって、導電率がIACS39%以上、且つ円相当直径0.5μm以上、10μm以下の金属間化合物粒子が面方向平均で11000〜30000個/mm分散していることを特徴とする。
第6の本発明の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金板の製造方法は、前記第1〜第4のいずれかの本発明に記載の組成を有するアルミニウム合金材に、昇温速度30〜90℃/時間、保持温度420〜520℃、保持時間4〜12時間の条件で均質化処理を施すことを特徴とする。
第7の本発明の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金板の製造方法は、前記第1〜第4のいずれかの本発明に記載の組成を有するアルミニウム合金材に、保持温度200〜300℃、保持時間1〜3時間の条件で一段目の均質化処理を行い、保持温度420〜520℃、保持時間4〜12時間の条件で二段目の均質化処理を施すことを特徴とする。
第8の本発明の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金板の製造方法は、前記第1〜第4のいずれかの本発明に記載の組成を有するアルミニウム合金材を冷間加工する際に、加熱温度460〜530℃、保持時間20〜180秒、冷却速度20〜200/秒の焼鈍を施すことを特徴とする。
第9の本発明の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金板の製造方法は、前記第8の本発明において、前記焼鈍後に、圧下率65%以下の最終冷間圧延を行うことを特徴とする。
第10の本発明の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金板の製造方法は、前記第8または第9の本発明において、140〜250℃で2〜12時間の時効処理を施すことを特徴とする。
以下に、本発明で規定する組成等の条件について説明する。
まず、二次電池ケース用アルミニウム合金板の構成部分について説明する。なお、以下で説明する各成分の含有量はいずれも質量%で示される。
Cu:1.2超〜1.8%
Cuは、固溶硬化と析出硬化に寄与する元素であり、強度とクリープ性を高めて、耐膨れ性の向上に寄与する効果があるので含有させる。ただし、Cu含有量が1.2%以下では、その効果は不十分となる。逆にCu含有量が1.8%を超えると、多段絞り成形時に割れが発生してケース成形ができなくなる。このために、Cu含有量を1.2%超〜1.8%に制限する。なお、同様の理由で下限を1.2%超、上限を1.70%とするのが望ましい。
なお、Cuは、上記のように合金の強度とクリープ強度を高める元素であるため、従来から二次電池ケース用の材料にも合金元素として添加されている。しかし、二次電池ケース用材料においてCuを多く含有すると、ケースと蓋などを溶接する際のレーザ溶接性や成形性を低下させるため、従来は一定レベル以下に含有量を制御している。しかし、本発明者の研究において、Cuは母相中に固溶した場合、レーザ溶接性を低下させるが、時効処理を施して析出させておけば、合金の強度が向上し、その一方でレーザ溶接性はそれほど低下しないことが判明した。本発明ではこの知見を基にして、従来よりもCuを増量して1.2%超含有させている。
Mn:1.15超〜1.7%
Mnは、Al−Mn系の金属間化合物粒子を形成する元素である。適切なサイズのこの金属間化合物粒子が第2相粒子として形成されていることにより、ケース成形時に金型とアルミニウム合金板との摩擦が低下し、プレス成形性が向上し、Cu増量による成形性の低下は回避できる。これにより、260MPa以上の高強度と良好な成形性との両立ができるアルミニウム合金板の製造が可能となる。Mn量が1.15%以下では、十分なAl−Mn系の金属間化合物粒子の形成ができないために、前記の効果が不十分となり、プレス成形性が低下する。
Mg:0.30超〜0.6%
Mgは、固溶硬化に寄与する元素であり、強度とクリープ性を高めて、耐膨れ性を向上させる効果がある。Mg含有量が0.30%以下では、その効果は不十分となり、Mg含有量が0.6%を超えると、強度は更に向上するが、レーザ溶接性とプレス成形性が低下する。
Mn+Fe+Si:1.5〜2.0%
FeとSiは、不可避不純物として存在し、強度を若干高める効果がある。また、Al−Mn系金属間化合物粒子中に固溶して、この金属間化合物粒子の数を増やす効果がある。したがって、FeとSiの添加量も金属間化合物粒子の数とサイズに影響を及ぼす。上記の金属間化合物粒子の制限を維持するために、Mn+Fe+Siの量を1.5〜2.0%範囲に制限することが好ましい。
Si:0.3%以下
Siはレーザ溶接性を若干劣化させる。レーザ溶接性を満足できる場合、Si含有量を制限する必要はないが、高いレーザ溶接性を要求される場合、Si含有量を0.3%以下に制限する必要がある。さらに、0.1%以下に制限することが好ましい。
Fe:0.6%以下
Fe含有量は、上記のMn+Fe+Siの合計制限条件を満足したとしても、その単体添加量が高くなると、鋳造時に10μm以上の粗大な晶出物が生成しやすくなり、プレス成形時の不良率が上昇する。このために、高いプレス成形性が要求される場合、Fe含有量を0.6%以下に制限することが好ましい。
Zr、Crの一種又は2種:0.05〜0.2%
アルミニウム合金の場合、結晶粒微細化のために、ZrとCrを添加することが多い。本発明は、ZrとCrを必須としていないが、結晶粒微細化の効果を高め、プレス成形性を向上させるために、Zr、Crの単独添加または複合添加をすることも可能である。これらの総量は、0.05〜0.2%が好ましい。0.05%未満では、結晶粒微細化の効果が不十分となり、含有量が0.2%を超えると、鋳造時に粗大な晶出物が生成しやすくなって、プレス成形性を低下する。
円相当直径0.5μm以上、10μm以下の金属間化合物粒子:11000〜30000個/mm(面方向平均)
Al−Mn系の金属間化合物粒子のサイズと数によっても、摩擦低減の効果と成形時の割れ感受性が変化する。したがって、二次電池ケース用として製造された高強度アルミニウム合金板では、金属間化合物粒子のサイズと数が適切な範囲にあるのが望ましい。
円相当直径0.5μm以上の金属間化合物粒子はケース成形時の金型との間の摩擦を下げる作用がある。一方、10μmより大きい金属間化合物粒子は、成形時の亀裂の起点となりやすく、プレス成形時の不良率が上昇する。このために、円相当直径を0.5〜10μmに着目する。また、10μm以下の粒子でもその数が多いとやはりプレス成形時の不良率が高くなる。したがって、5μm以上、10μm以下の金属間化合物の数を平均で2500個/mm以下に制限することが好ましい。さらに、円相当直径0.5〜10μmの金属間化合物粒子の数は11000個/mm未満の場合、成形時の摩擦を下げる前記の作用は不十分となる。逆に30000個/mmを超えた場合、10μmを超える大きな金属間化合物粒子の発生確率が高くなり、5μm以上、10μm以下の金属間化合物の数を2500個/mm以下に制限することが難しくなる。また、Mn含有量が1.7%を越えると、10μmを超える粗大な金属間化合物粒子が生成しやすくなり、プレス成形性が低下する。上記金属間化合物は、Al−Mn系、Al−Mn−Fe系またはこれらを主として構成されている。
引張強度:260〜350MPa
また、上記の組成からなるアルミニウム合金板は、引張試験で求めた引張強度が260MPa以上であることが好ましい。引張強度がこの範囲内であれば、本発明のアルミニウム合金板を成形した二次電池ケースに、充放電サイクル時への十分な耐膨れ性を与えることができる。しかし、引張強度は350MPaを超えると、ケース成形時に亀裂が発生しやすくなる。同様の理由で引張強度を280〜340MPaに制限することが好ましい。
導電率:IACS39%以上
また、上記の組成からなるアルミニウム合金板の導電率はIACS39%以上であることが好ましい。この範囲であれば、Cuなど固溶合金元素量が十分低いために、良好なレーザ溶接性が得られる。さらに、合金元素の添加量が多い場合、最終圧延後に時効処理を行うことにより、固溶合金元素が一層析出して、更なる良好なレーザ溶接性を得ることができる。この場合、IACS43%以上の導電率が好ましい。本発明は、導電率の上限を特に規制しないが、時効処理などを十分実施してもIACS50%以上のものが得られにくい。
以上の組成からなる本発明のアルミニウム合金板は強度が高く、耐膨れ性、プレス成形性、及び溶接性(特にレーザ溶接性)に優れたものである。
ここで、強度とは、引張試験によって得られる引張強さという。耐膨れ性とは、二次電池の充放電サイクルを実施する際に、または二次電池を70〜100℃の高温環境中(例えば、夏のパーキングエリヤにある自動車内)に放置する際に、二次電池ケースの内部で圧力が増加したときのケースの膨れを防止できるかどうかをいう。強度が十分高くなると、充放電サイクルときのケースの膨れを防止できる。高温環境中での二次電池ケースの膨れを防止するには、高温と圧力が同時に作用するために、70〜100℃での良好なクリープ特性が要求される。本発明のアルミニウム合金板は、高強度と高クリープ特性を備え、従来のケースの膨れを解決したものである。
また、プレス成形性とは、形付けをプレスによって行う場合の形付けができるかどうかである。本発明のアルミニウム合金板は、プレス成形性に優れているため、二次電池ケースを良好に成形することができる。
また、溶接性とは、二次電池ケース胴体に蓋を接合する際の溶接ができるかどうかをいい、レーザ溶接性とは、溶接をレーザによって行う場合の溶接ができるかどうかをいう。本発明のアルミニウム合金板は、溶接性に優れているため、二次電池ケースを良好に作製することができる。
また、上記本発明のアルミニウム合金板は、負荷荷重180MPa、温度100℃のクリープ試験で求めた定常クリープ速度が0.000003(1/hr)以下であること、および減速クリープ段階の歪み量が0.015以下であることが好ましい。定常クリープ速度と減速クリープ段階の歪み量が前記の範囲内であれば、本発明のアルミニウム合金板を成形した二次電池ケースには、70〜100℃の高温環境中に放置したときの十分な耐膨れ性を与えることができる。定常クリープ速度と減速クリープ段階の歪み量の下限値は、特に規定しないが、アルミニウム合金板の成分、製造方法に依存するために、本発明の成分範囲の規定値、製造条件を満足するなら、それぞれ0.00000001(1/hr)と0.001を示すことができる。
本発明の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金材は、Cu:1.2超〜1.8%、Mn:1.15超〜1.7%、Mg:0.3〜0.6%を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなる組成を有するので、高強度且つプレス成形性、溶接性および耐膨れ性に優れたアルミニウム合金板を得ることが可能になる。
本発明の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金板は、上記本発明のアルミニウム合金組成を有し、引張強度が260〜350MPaの範囲にあって、導電率がIACS39%以上、且つ円相当直径0.5μm以上、10μm以下の金属間化合物粒子が平均で11000〜30000個/mm分散しているので、高強度且つプレス成形性、溶接性(特にレーザ溶接性)および耐膨れ性に優れた特性を示すことができる。
さらに、本発明の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金板の製造方法は、上記本発明の組成を有するアルミニウム合金材に、昇温速度30〜90℃/時間、保持温度420〜520℃、保持時間4〜12時間の条件、または、一段目を保持温度200〜300℃、保持時間1〜3時間、二段目を保持温度420〜520℃、保持時間4〜12時間とする条件で均質化処理を施すので、前記金属間化合物粒子が、上記の分布密度とサイズで析出をして、成形性を向上させる。
さらに、本発明の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金板の製造方法の他の形態では、上記本発明の組成を有するアルミニウム合金材を冷間加工する際に、加熱温度460〜530℃、保持時間20〜180秒、冷却速度20〜200/秒の焼鈍を施すので、前記成分による時効硬化性を確実にもたらし、その後の時効によって優れた強度特性を得ることができる。
本発明のアルミニウム合金板は以下の方法により製造することができる。
上記本発明の組成からなるアルミニウム合金は、通常は、溶解、鋳造、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、中間焼鈍、最終冷間圧延の各工程を経て板材とする。なお、冷間圧延の際には、中間焼鈍を行うことなく冷間圧延後に最終焼鈍を行うこともでき、また、中間焼鈍と最終焼鈍とをそれぞれ行うものであってもよい。また、強度をさらに高めるために、最終冷延後または最終焼鈍後に時効処理を施すことも可能である。
上記の均質化処理においては、昇温速度30〜90℃/時間以下、保持温度420〜520℃、保持時間4〜12時間の条件で行うことが好ましい。昇温途中にAlCu、AlCuMg金属間化合物粒子を析出させる。続いての420〜520℃、4〜12時間の加熱保持により、Al−Mn系の金属間化合物粒子がAlCu、AlCuMg金属間化合物粒子を核生成サイトとして微細に析出して、上記の分布密度とサイズの制限条件を満足することができる。昇温速度が30℃/時間より遅いと、析出してきたAlCu、AlCuMg金属間化合物粒子は、Al−Mn系の金属間化合物粒子が析出しはじめる前に再固溶してしまう。逆に90℃/時間より速いと、AlCu、AlCuMg金属間化合物粒子が十分析出できなくなる。保持温度が420℃より低く、または保持時間が4時間より短いと、Al−Mn系の金属間化合物粒子の析出が不十分となって、分布密度は低すぎることになる。逆に保持温度が520℃より高く、または保持時間が12時間より長いと、Al−Mn系の金属間化合物粒子が大きくなりすぎる恐れがある。
前記のような均質化処理以外に、二段均質化処理の実施も好ましい。まず、一段目の処理として、200〜300℃の範囲で1〜3時間に保持して、AlCu、AlCuMg金属間化合物粒子を析出させる。次いで、二段目の処理として、420〜520℃の範囲に加熱して、一段目の処理で析出したAlCu、AlCuMg金属間化合物粒子を核生成サイトとして、Al−Mn系の金属化合物が微細に分散して析出する。こうした二段均質化処理によって、上記の分布密度とサイズの制限条件を満足することができるAl−Mn系の金属化合物粒子が得られる。一段目の処理温度が200℃より低く、または保持時間が1時間未満では、AlCu、AlCuMg金属間化合物粒子が十分析出できなくなる。逆に300℃より高く、または保持時間が3時間より長いと、AlCu、AlCuMg金属間化合物粒子が大きく成長しすぎて、分布密度が低下してしまう。二段目の処理温度と時間の制限理由は前記の一段均質化処理と同じである。
上記した冷間圧延工程では中間焼鈍または最終焼鈍(以下、「焼鈍」という)を行うことができる。該焼鈍工程においては、焼鈍温度460〜530℃、保持時間20〜180秒、冷却速度20〜200℃/秒とするのが好ましい。本発明のアルミニウム合金板は、時効硬化特性を有するものである。この時効硬化特性を生かせるようにするために、焼鈍時に時効硬化元素であるCu、Mg等をマトリックス中に固溶させておかなければならない。焼鈍温度が460℃より低く、または保持時間が20秒より短いと、Cu、Mg等の固溶が不十分となるために、時効硬化特性が得られにくくなって、強度が低下する。一方、焼鈍温度が530℃より高いと局部溶融が発生する恐れがあり、プレス成形性が顕著に劣る。同様の理由のために焼鈍温度を480〜510℃に制限することが一層好ましい。また、保持時間が180秒より長くなると、結晶粒の成長が生じるために結晶粒が大きくなって、プレス成形性が劣る。冷却速度が20℃/秒より遅いと、冷却中にCuとMgが析出してしまい、強度の低下をもたらすために好ましくない。冷却速度が200℃/秒を超えると、冷却用の設備投資が増し、生産コストが増加する。
本発明のアルミニウム合金板の最終強度は、2種類の手法によって達成することができる。その1つは、最終冷間圧延後または最終焼鈍後に時効処理を施すことによって所定の強度を達成することである。この場合、時効温度と保持時間の選択では、前記引張強度が260MPa以上、導電率がIACS39%以上の要求を満足する必要がある。このために、時効処理を140〜250℃で2〜12時間の条件で実施することが好ましい。時効温度が140℃より低く、または保持時間が2時間より短いと、強化相AlCu、AlCuMg金属間化合物粒子の析出が不十分となって、所定の強度が得られずに、導電率がIACS39%よりも低くなる恐れがある。逆に時効温度が250℃より高く、または保持時間が12時間より長いと、AlCu、AlCuMg金属間化合物粒子が粗大になって、分布密度が下がって強化相として働かなくなる。
もう1つの手法は、上記中間焼鈍後に最終冷間圧延を施すことによって所定の強度を達成することである。この場合、最終冷間圧延時の圧下率を65%以下に制御することが好ましい。圧下率が65%超えると、プレス成形性が劣化する。最終冷間圧延時の圧下率の下限値は特に規定しないが、但し、前記引張強度が260MPa以上の要求を満足する必要がある。また、この製造方法を採用するときも、導電率をIACS39%以上に満足する必要がある。さらに、引張強度が260〜350MPa、導電率がIACS39%以上の制限条件を満足するために、時効処理と最終冷間圧延の2つの手法とを複合使用することもできる。例えば、上記最終冷間圧延後に前記時効処理を行うこと、または室温で4日以上放置の自然時効後に上記最終圧延を行うことである。
本発明のアルミニウム合金板は、プレス成形、レーザ溶接などによって二次電池ケースに成形されて使用される。この際には、優れたプレス成形性およびレーザ溶接性を示す。得られた二次電池ケースは、高い強度を有し、耐膨れ性に優れた特性を示す。
以下に実施例および比較例によって本発明を説明する。
(実施例1)
表1は、製造された発明材1〜3のアルミニウム合金板の成分組成である(残部にはその他の不純物を含む)。なお、表1中の単位は質量%である。製造されたアルミニウム合金板が表1に示す組成成分となるように配合されたアルミニウム合金の鋳塊を半連続鋳造により鋳造し、得られた鋳塊を面削して表面の不均一層を除去した。その後、60℃/hr.の昇温速度で500℃まで加熱し、8時間保持する均質化処理を行い、400℃まで冷却して、速やかに熱間圧延を施して、厚さ7mmまたは2mmの板材とした。続いて、厚さ0.88mmまで冷間圧延し、昇温速度100℃/秒、保持温度500℃、保持時間30秒、冷却速度150℃/秒という条件で中間焼鈍を行った。その後、室温で100時間放置の自然時効を施して、厚さ0.52mmまで最終冷間圧延した。最終冷間圧延の際の圧下率は40.9%であった。
また、比較例のアルミニウム合金板が表1に示す成分組成となるようにした他は、上記実施例と同様の方法により製造した。
Figure 2009097029
表2に発明材1〜3および比較材1〜7の引張強度(機械的性質)、0.5〜10μm金属間化合物粒子の分布密度、プレス成形性、100℃で180MPa初期荷重を負荷したときの定常クリープ速度と減速クリープ段階の歪み量、導電率およびレーザ溶接性の評価結果を示した。
なお、金属間化合物粒子の分布密度、プレス成形性、レーザ溶接性は、以下に示す方法により求めた(以下同様である)。
(評価試験方法)
引張強度は、得られた板材からJIS5号試験片を採取し、JIS Z 2241に定めた方法による引張試験を行った。
プレス成形性については、径69.3mmのブランク、径40mm、33mmおよび27mmのポンチを用いて三段深絞りを行って、割れの発生がなく成形できたものを○、割れが発生したものを×とした。
クリープ試験は、平行部長さ32mm、幅7mmの試験片を用い、100℃雰囲気中で180MPa初期荷重を負荷して行った。
レーザ溶接性については、YAG、パルスレーザ溶接機を用いて、突合せ法によって本発明のアルミニウム合金板を溶接して、割れ、溶け込み不良などの溶接欠陥がないものを○、あるものを×とした。
金属間化合物粒子の円相当径および分布密度は、圧延後の各板材からサンプルを切出して、軽く電解研磨を施した後に、板面においてKEYENCE社製VK−8500レーザ顕微鏡によって150μm×117μmのデジタル画像10枚を1000倍で撮影して、画像解析ソフトImage−Pro Plus4.5(商標名)で解析して求めた。
導電率は、所定の製造工程で製造された最終板を用いて、シグマテスターSIGMATEST2.067によって23℃の環境で測定した。
Figure 2009097029
(実施例2)
表1に示した発明材3および比較材3と同成分の鋳塊を面削して表面の不均一層を除去し、表3に示すような条件で均質化処理を行い、400℃まで冷却して、速やかに熱間圧延を施して、厚さ7mmまたは2mmの板材とした。その後の製造工程は実施例1と同じであった。即ち、厚さ0.88mmまで冷間圧延し、昇温速度100℃/秒、保持温度500℃、保持時間30秒、冷却速度150℃/秒という条件で中間焼鈍を行った。その後、室温で100時間放置の自然時効を施して、厚さ0.52mmまで最終冷間圧延した。最終冷間圧延の際の圧下率は40.9%であった。
Figure 2009097029
表4に発明材4および比較材8〜11の引張強度(機械的性質)、0.5〜10μm金属間化合物粒子の分布密度、プレス成形性、100℃で180MPa初期荷重を負荷したときの定常クリープ速度と減速クリープ段階の歪み量、導電率およびレーザ溶接性の評価結果を示した。
Figure 2009097029
(実施例3)
表1に示した発明材2と同成分の鋳塊を面削して表面の不均一層を除去し、昇温速度80℃/時間、一段保持温度250℃、保持時間2時間、二段保持温度480℃、保持時間6時間の条件で均質化処理を施して、420℃まで冷却して、速やかに熱間圧延を施して、厚さ7mmまたは2mmの板材とした。さらに表5に示す条件に従って中間焼鈍、最終冷延または時効処理を施した。いずれの材料も最終板厚は0.52mmである。これに合せるために、発明材5および比較材12〜14の中間焼鈍は0.88mm厚さ、発明材6と比較材15の中間焼鈍は0.52mm最終厚さ、発明材7の中間焼鈍は0.61mm厚さで行った。また、一部供試材(発明材6、比較材15)では、上記中間焼鈍を行うことなく、最終冷間圧延後に表5に示す条件で最終焼鈍を行った。さらに、これら供試材では一部を除いて、最終冷間圧延後または最終焼鈍後に表5に示す条件で時効処理を行った。
表6に発明材5〜7および比較材12〜15の引張強度、0.5〜10μm金属間化合物粒子の分布密度、プレス成形性、100℃で180MPa初期荷重を負荷したときの定常クリープ速度と減速クリープ段階の歪み量、導電率およびレーザ溶接性の評価結果を示した。
Figure 2009097029
Figure 2009097029

Claims (10)

  1. 質量%で、Cu:1.2超〜1.8%、Mn:1.15超〜1.7%、Mg:0.3〜0.6%を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする二次電池ケース用高強度アルミニウム合金材。
  2. 前記組成において前記不可避不純物中のFe、Si含有量と前記Mn含有量の総量が、質量%で1.5〜2.0%であることを特徴とする請求項1記載の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金材。
  3. 前記組成において、質量%で、前記不可避不純物中のFe含有量が0.6%以下、Si含有量が0.3%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金材。
  4. 前記組成において、さらに、ZrとCrの一種または二種を、質量%の総量で、0.05〜0.2%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金材。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の組成を有し、引張強度が260〜350MPaの範囲にあって、導電率がIACS39%以上、且つ円相当直径0.5μm以上、10μm以下の金属間化合物粒子が面方向平均で11000〜30000個/mm分散していることを特徴とする二次電池ケース用高強度アルミニウム合金板。
  6. 請求項1〜4のいずれかに記載の組成を有するアルミニウム合金材に、昇温速度30〜90℃/時間、保持温度420〜520℃、保持時間4〜12時間の条件で均質化処理を施すことを特徴とする二次電池ケース用高強度アルミニウム合金板の製造方法。
  7. 請求項1〜4のいずれかに記載の組成を有するアルミニウム合金材に、保持温度200〜300℃、保持時間1〜3時間の条件で一段目の均質化処理を行い、保持温度420〜520℃、保持時間4〜12時間の条件で二段目の均質化処理を施すことを特徴とする二次電池ケース用高強度アルミニウム合金板の製造方法。
  8. 請求項1〜4のいずれかに記載の組成を有するアルミニウム合金材を冷間加工する際に、加熱温度460〜530℃、保持時間20〜180秒、冷却速度20〜200/秒の焼鈍を施すことを特徴とする二次電池ケース用高強度アルミニウム合金板の製造方法。
  9. 前記焼鈍後に、圧下率65%以下の最終冷間圧延を行うことを特徴とする請求項8記載の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金板の製造方法。
  10. 140〜250℃で2〜12時間の時効処理を施すことを特徴とする請求項8または9記載の二次電池ケース用高強度アルミニウム合金板の製造方法。
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