JP2015232183A - イレギュラー・ビード防止性に優れる電池ケース用アルミニウム合金板および電池ケース - Google Patents
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Abstract
【課題】電池ケースに作製するための成形性およびレーザー溶接性を有し、強度、および耐圧性(耐膨れ性)を向上させたイレギュラー・ビード防止性に優れる電池ケース用アルミニウム合金板、および、この電池ケース用アルミニウム合金板を用いた電池ケースを提供する。【解決手段】Mn:1.0〜1.5質量%、Cu:0.7〜4.0質量%、Mg:0.2〜1.5質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Fe:0.05〜1.0質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる電池ケース用アルミニウム合金板において、前記不可避的不純物のうち、Zn:0.3質量%以下、Ti:0.02質量%未満、B:5〜20質量ppm(ただし、5質量ppmを除く)に規制したことを特徴とする。【選択図】なし
Description
本発明は、リチウムイオン二次電池ケース等に用いられるイレギュラー・ビード防止性に優れる電池ケース用アルミニウム合金板および電池ケースに関する。
携帯電話やノート型パーソナルコンピュータ等の電源として、リチウムイオン二次電池が広く使用されている。この二次電池の外装であるケース(以下、適宜、電池ケースという)の材料には、従来、電池の小型化および軽量化、そして電池ケースに成形するための加工性(成形性)等を満足するため、JISA3003合金等のアルミニウム合金が使用されている。このような電池において、充放電が行われると電池ケースの内部圧力が上昇する。さらに、夏季の自動車内のような高温環境下に電池を搭載した電子機器を放置したような場合は、電池ケース自体が60℃から90℃にも達し、温度上昇によって内部圧力が大きく上昇するだけでなく、電池ケース用材料自体の内部応力が緩和される。その結果、電池ケースが膨れて変形し電池交換時の取出しが困難になり、さらには電池ケースが破損して電子機器の性能を損ねて破裂に至る危険性を抱えている。
そこで、このような電池ケースには、前記の電池の充放電および高温環境下での使用により、電池ケースの内圧が上昇した場合にも、電池ケースの所期の形状を保持できるような、優れた耐圧性(耐膨れ性)や耐応力緩和性が要求される。その一方で、さらなる電池の小型化や軽量化および低コスト化のため、電池ケースの薄肉化を図ることが強く要求されている。ところが、従来のJISA3003合金等からなるアルミニウム合金板を薄肉化すると変形が生じやすくなり、電池ケースの耐圧性が低下して比較的小さな内部圧力が作用しても膨れが生じやすくなるという問題が発生する。
そこで、近年、JIS3000系(JISA3000系)のアルミニウム合金にCu等を添加することにより、アルミニウム合金板の強度を向上させて、薄肉化しても電池の使用状態に対応できる耐圧性を備えるようにした電池ケース用アルミニウム合金板が開発されている。例えば、特許文献1には、Cu,Mg,Si,Feを所定量添加することにより強度を向上させて、薄肉化しても十分な耐応力緩和性を有することにより高い耐圧性を備えるようにした電池ケース用アルミニウム合金板およびその製造方法が開示されている。
また、近年においては、強度、耐圧性に優れる他、パルスレーザー溶接性にも優れることが要求されている。そこで、特許文献2には、Si,Fe,Cu,Mn,Mgを所定量添加することにより強度を向上させて、Si、Fe、CuおよびMgの合計値を1.5質量%以下とすることで、パルスレーザー溶接での割れ発生を防止できるようにしたアルミニウム合金板が開示されている。
しかしながら、二次電池のいっそうの安全性向上のため、電池ケース材料は、強度および耐圧性のさらなる向上が要求される。さらに近年においては、小型化や軽量化および低コスト化のための要求をも満足する必要も生じたため、強度および耐圧性を備えた薄肉化の要求は勿論、加えて、電池ケースを作製する際のパルスレーザー溶接の溶接速度を、従来の20〜30mm/秒から、30〜40mm/秒に高速化することが検討されている。これにより、投入されるパルスレーザー出力は従来の1.1〜1.3倍へと出力アップされるため、新たな課題が生じた。すなわち、このような高速化を行う場合には、溶接割れは発生しないものの、異常部(イレギュラー・ビード)の形成が認められ、溶接部の不連続性が発生しやすくなる。この異常部は、被溶接材の裏面にまで突き抜ける溶け込みとなり、導電性および動作電圧等の性能に悪影響を与える問題を生じた。この溶接性に関する問題をも解消できる電池ケース材料が要求されているが、これを解消できるJIS3000系のアルミニウム合金はない。
例えば、特許文献1に記載の電池ケース用アルミニウム合金板は、Znの含有量が0.10質量%以下と所定量以下に規制されているために、厚さ1mmの当該アルミニウム合金を使って電池ケースを作製する際のパルスレーザー溶接性にも優れていると記載されており、電池ケース作製で使用されるパルスレーザー溶接をする際の溶接割れとZn飛散を防止できることが記載されている。しかしながら、電池ケースを作製する際のパルスレーザー溶接の溶接速度を30〜40mm/秒の高速化条件で行う場合には、溶接割れの抑制効果はある程度あるものの、その他の成分範囲の規制がないために、溶接を高速条件で行うためのパルスレーザー出力が高い条件下では、前記の異常部の発生を抑えることができない。
また、特許文献2に記載のアルミニウム合金板は、Si、Fe、CuおよびMgの合計値を1.5質量%以下として、Si、Fe、CuおよびMgの合計値を規制しているために、パルスレーザー溶接で割れ発生を防止できると記載されている。しかしながら、電池ケースを作製する際のパルスレーザー溶接の溶接速度を30〜40mm/秒の高速化条件で行う場合には、溶接割れの抑制効果はある程度あるものの、その他の成分範囲の規制がないために、溶接を高速条件で行うためのパルスレーザー出力が高い条件下では、前記の異常部の発生を抑えることができない。また、特許文献2にはTi、Bの記載があるが、積極添加であること、および、この積極添加によって得られる効果は、結晶粒微細化で成形時の肌荒れを防止する目的のみが記載されており、パルスレーザー溶接の溶接速度の高速化には触れておらず、前記記載の新たな課題には当然対応できる技術ではない。
すなわち、従来のJIS3000系のアルミニウム合金板では、電池ケースで所望されている軽量化を目指して薄肉化を図ると、耐圧性(耐膨れ性)が得られなくなるといったように、アルミニウム合金板の薄肉化と耐圧性とが二律背反的な関係にある課題は解消できるが、それらの課題に加えて、前記の異常部の発生を抑制できないほどに溶接速度がアップされた場合に、アルミニウム合金板の薄肉化と、耐圧性と、溶接性とが三律背反的な関係にある課題は解消できない。そのため、電池ケースに対してアルミニウム合金板の薄肉化および耐圧性に加えて、溶接性も両立させて満足させることは困難である。
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、電池ケースに作製するための成形性およびレーザー溶接性を有し、強度、および耐圧性(耐膨れ性)を向上させたイレギュラー・ビード防止性に優れる電池ケース用アルミニウム合金板、および、この電池ケース用アルミニウム合金板を用いた電池ケースを提供することを目的とする。
本発明者らは、電池ケース用アルミニウム合金板に関し、以下の事項について検討した。
パルスレーザー溶接における異常部の発生、すなわち突発的に溶融部が変化することは、パルスレーザー溶融時(660〜750℃)から再凝固(660〜640℃)する間にビード内に残留するポロシティ欠陥の発生度と関連する。
溶接時、パルスレーザー照射部は溶融状態となり、その溶融池内には、水素、シールドガス、金属蒸気等による気泡が存在する。気泡は軽いので、溶融池の表面から直ちに抜き出る。一方、1パルスのパルスレーザー照射が完了すると、凝固過程へと移行するが、気泡が抜けにくい場合には、そのままポロシティ欠陥として残留しやすくなる。ここで、パルスレーザー溶接の場合、凝固完了したビードに新たにビードが重なるように次のパルスレーザー光が照射される。そして、凝固完了したビードが、パルスレーザー光の照射により再溶融した際には、残留したポロシティにパルスレーザー光が照射されることになり、ポロシティが膨張して、通常、パルスレーザー光照射により形成されるキーホールが肥大化してレーザー光が奥深くまで入り込みやすくなる。その結果、溶け込みが深く形成されて、非定常溶け込み部となる。この非定常溶け込み部が凝固して、溶接部における異常部が発生する。
パルスレーザー溶接における異常部の発生、すなわち突発的に溶融部が変化することは、パルスレーザー溶融時(660〜750℃)から再凝固(660〜640℃)する間にビード内に残留するポロシティ欠陥の発生度と関連する。
溶接時、パルスレーザー照射部は溶融状態となり、その溶融池内には、水素、シールドガス、金属蒸気等による気泡が存在する。気泡は軽いので、溶融池の表面から直ちに抜き出る。一方、1パルスのパルスレーザー照射が完了すると、凝固過程へと移行するが、気泡が抜けにくい場合には、そのままポロシティ欠陥として残留しやすくなる。ここで、パルスレーザー溶接の場合、凝固完了したビードに新たにビードが重なるように次のパルスレーザー光が照射される。そして、凝固完了したビードが、パルスレーザー光の照射により再溶融した際には、残留したポロシティにパルスレーザー光が照射されることになり、ポロシティが膨張して、通常、パルスレーザー光照射により形成されるキーホールが肥大化してレーザー光が奥深くまで入り込みやすくなる。その結果、溶け込みが深く形成されて、非定常溶け込み部となる。この非定常溶け込み部が凝固して、溶接部における異常部が発生する。
そこで、本発明者らは、前記の異常部(イレギュラー・ビード)の発生およびビード内部のポロシティの発生に及ぼす微量成分の影響を鋭意調査した結果、Mg,B,Ti含有量に影響されることと、そのうち、B,Ti含有量の影響は特に大きいことも見出した。すなわち、B,Ti含有量の範囲を適性化することによって、従来合金で問題のあった溶接速度を速くした場合であっても、異常部の発生を防止できることを見出した。
また、溶接割れ発生に及ぼす微量成分の影響を鋭意調査した結果、Mg,Cu含有量に影響されることも見出した。すなわち、Mg,Cu含有量を適正化することによって、従来合金で問題のあった溶接割れの発生を防止できることを見出した。
また、溶接割れ発生に及ぼす微量成分の影響を鋭意調査した結果、Mg,Cu含有量に影響されることも見出した。すなわち、Mg,Cu含有量を適正化することによって、従来合金で問題のあった溶接割れの発生を防止できることを見出した。
本発明者等は、このようにリチウムイオン電池ケース用の素材として優れているJIS3000系アルミニウム材の利点を生かしつつ、これをパルスレーザー溶接により溶接したときの欠点を解消できる素材を開発すべく、種々実験研究した。その結果、素材のTiとBの含有が、パルスレーザーの不規則ビードである異常部の発生に大きな影響を与えており、そして、このJIS3000系アルミニウム合金材に含まれているTiやBの含有量を適正な範囲に規制することによって、ビード内へのポロシティ残留を抑制できることから不規則ビードである異常部の発生を防止できることを見出した。また、融点を下げるMgの過剰な添加は、前記TiとB含有によるビード内へのポロシティ残留を促進するために、所定量に規制する必要があることも見出した。
前記課題を解決するために、請求項1に係るイレギュラー・ビード防止性に優れる電池ケース用アルミニウム合金板(以下、適宜、電池ケース用アルミニウム合金板またはアルミニウム合金板という)は、Mn:1.0〜1.5質量%、Cu:0.7〜4.0質量%、Mg:0.2〜1.5質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Fe:0.05〜1.0質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる電池ケース用アルミニウム合金板において、前記不可避的不純物のうち、Zn:0.3質量%以下、Ti:0.02質量%未満、B:5〜20質量ppm(ただし、5質量ppmを除く)に規制したことを特徴とする。
このような構成によれば、Mn,Cu,Mg,Siを所定量含有することによって、それぞれの元素が母相内に固溶し、アルミニウム合金板の強度が向上する。
また、Mn,Si,Feを所定量含有することによって、金属間化合物の形成により成形性が向上し、Cu,Mg、Siを所定量含有することによって、Mg2Siや微細な S'を析出し、耐応力緩和特性が向上する。さらに、Zn濃度を所定量以下に規制することによって、アルミニウム合金板のレーザー溶接時に、蒸気圧の低いZnが飛散せず、周囲を汚染することがない。また、Ti,Bを所定量以下に規制することによって、パルスレーザー溶接照射による素材の溶融時に、凝固ビード内に気泡が残留しにくくなり、溶接部における異常部の発生が防止される。
また、Mn,Si,Feを所定量含有することによって、金属間化合物の形成により成形性が向上し、Cu,Mg、Siを所定量含有することによって、Mg2Siや微細な S'を析出し、耐応力緩和特性が向上する。さらに、Zn濃度を所定量以下に規制することによって、アルミニウム合金板のレーザー溶接時に、蒸気圧の低いZnが飛散せず、周囲を汚染することがない。また、Ti,Bを所定量以下に規制することによって、パルスレーザー溶接照射による素材の溶融時に、凝固ビード内に気泡が残留しにくくなり、溶接部における異常部の発生が防止される。
請求項2に係るイレギュラー・ビード防止性に優れる電池ケース用アルミニウム合金板は、さらに、Zr:0.15質量%以下、Cr:0.40質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする。
このような構成によれば、Zr、Crのうち1種以上を所定量含有することによって、組織を微細化、均質化することができる。
このような構成によれば、Zr、Crのうち1種以上を所定量含有することによって、組織を微細化、均質化することができる。
請求項3に係る電池ケースは、請求項1または請求項2に記載の電池ケース用アルミニウム合金板を用いたことを特徴とする。
このような電池ケースは、前記したアルミニウム合金板を用いるため、強度、耐圧性(耐膨れ性)が向上したものとなる。
本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板によれば、板厚を薄肉化しても、電池ケースに成形される際に優れた成形性(しごき加工性)およびパルスレーザー溶接性(耐溶接割れ性、溶接部強度)を有し、さらに、優れた強度、耐圧性(耐膨れ性)を有する電池ケースとすることができる。
また、本発明に係る電池ケースによれば、優れた強度、耐圧性(耐膨れ性)を有するため、リチウムイオン二次電池等で充放電が繰り返されたり高温環境下で使用されたりして電池ケース内部の温度が上昇し、それに伴って内部圧力が上昇した場合でも、この電池ケースの膨れの変形量が適切に低く抑えられる。その結果、電池ケースが膨れて変形し電池交換時の取出しが困難になることや、さらには電池ケースが破損して電子機器の性能を損ねたり破裂したりすることを防止することができる。
また、本発明に係る電池ケースによれば、優れた強度、耐圧性(耐膨れ性)を有するため、リチウムイオン二次電池等で充放電が繰り返されたり高温環境下で使用されたりして電池ケース内部の温度が上昇し、それに伴って内部圧力が上昇した場合でも、この電池ケースの膨れの変形量が適切に低く抑えられる。その結果、電池ケースが膨れて変形し電池交換時の取出しが困難になることや、さらには電池ケースが破損して電子機器の性能を損ねたり破裂したりすることを防止することができる。
以下、本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板(以下、適宜、アルミニウム合金板という)を実現するための最良の形態について説明する。
〔アルミニウム合金板の構成〕
本発明に係るアルミニウム合金板は、Mn,Cu,Mg,Si,Feを所定量含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金板において、前記不可避的不純物のうち、Zn,Ti,Bを所定量以下に規制したものである。以下、各成分の限定理由について説明する。
本発明に係るアルミニウム合金板は、Mn,Cu,Mg,Si,Feを所定量含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金板において、前記不可避的不純物のうち、Zn,Ti,Bを所定量以下に規制したものである。以下、各成分の限定理由について説明する。
(Mn:0.4〜1.5質量%)
Mnは、母相内に固溶して、アルミニウム合金板の強度を高め、耐圧強度を向上させる効果があり、Mn含有量増加に伴い強度を高めることができる。また、Mnは、Al,Fe,Siと金属間化合物(Al−Fe−Mn系金属間化合物、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物)を形成して、微細な前記金属間化合物の数を増やせることにより電池ケースに成形加工する際の潤滑効果に寄与するため、アルミニウム合金板の成形性を向上させる。Mn含有量が0.4質量%未満では、1μm以上11μm未満の微細な前記金属間化合物の数が不足するため、これらの効果が不十分である。一方、Mn含有量が1.5質量%を超えると、11μm以上の粗大な前記金属間化合物の数が増え、成形時の割れの起点となりやすいため、アルミニウム合金板の成形性が低下する。したがって、Mn含有量は、0.4〜1.5質量%とする。
Mnは、母相内に固溶して、アルミニウム合金板の強度を高め、耐圧強度を向上させる効果があり、Mn含有量増加に伴い強度を高めることができる。また、Mnは、Al,Fe,Siと金属間化合物(Al−Fe−Mn系金属間化合物、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物)を形成して、微細な前記金属間化合物の数を増やせることにより電池ケースに成形加工する際の潤滑効果に寄与するため、アルミニウム合金板の成形性を向上させる。Mn含有量が0.4質量%未満では、1μm以上11μm未満の微細な前記金属間化合物の数が不足するため、これらの効果が不十分である。一方、Mn含有量が1.5質量%を超えると、11μm以上の粗大な前記金属間化合物の数が増え、成形時の割れの起点となりやすいため、アルミニウム合金板の成形性が低下する。したがって、Mn含有量は、0.4〜1.5質量%とする。
(Cu:0.7〜4.0質量%)
Cuは、母相内に固溶して、アルミニウム合金板の強度を高め、耐圧強度を向上させる効果があり、Cu含有量増加に伴い強度を高めることができる。また、Cuは、パルスレーザー溶接時の溶接部の強度を向上させる効果がある。また、Cuは、Al,Mgと結び付いて微細なS'(Al2CuMg)相を形成、析出する。この微細なS'(Al2CuMg)相が、転位の移動を抑制することによって、応力緩和現象を抑えて、アルミニウム合金板の耐応力緩和性を向上させる。Cu含有量が0.7質量%未満では、これらの効果が不十分である。一方、Cu含有量が4.0質量%を超えると、微細なS'(Al2CuMg)相の析出物により転位の移動が過剰に抑制されるため、成形性を低下させる。また、融点が低下するので、パルスレーザー溶接において、溶接割れが生じる。したがって、Cu含有量は、0.7〜4.0質量%とする。
Cuは、母相内に固溶して、アルミニウム合金板の強度を高め、耐圧強度を向上させる効果があり、Cu含有量増加に伴い強度を高めることができる。また、Cuは、パルスレーザー溶接時の溶接部の強度を向上させる効果がある。また、Cuは、Al,Mgと結び付いて微細なS'(Al2CuMg)相を形成、析出する。この微細なS'(Al2CuMg)相が、転位の移動を抑制することによって、応力緩和現象を抑えて、アルミニウム合金板の耐応力緩和性を向上させる。Cu含有量が0.7質量%未満では、これらの効果が不十分である。一方、Cu含有量が4.0質量%を超えると、微細なS'(Al2CuMg)相の析出物により転位の移動が過剰に抑制されるため、成形性を低下させる。また、融点が低下するので、パルスレーザー溶接において、溶接割れが生じる。したがって、Cu含有量は、0.7〜4.0質量%とする。
(Mg:0.2〜1.5質量%)
Mgは、母相内に固溶して、アルミニウム合金板の強度を高め、耐圧強度を向上させる効果があり、Mg含有量増加に伴い強度を高めることができる。また、Mgは、Siと結び付いてMg2Siを析出したり、Al,Cuと結び付いて微細なS'(Al2CuMg)相を析出したりする。このMg2SiおよびS'(Al2CuMg)相が転位の移動を抑制することによって、応力緩和現象を抑えて、アルミニウム合金板の耐応力緩和性を向上させる。Mg含有量が0.2質量%未満では、これらの効果が不十分である。また、Mg含有量が0.2質量%未満では、強度(耐力)が低下する。一方、Mg含有量が1.5質量%を超えると、アルミニウム合金板の加工硬化性が高くなって成形性が低下する。また、融点が低下するので、パルスレーザー溶接において、溶接割れが生じる。したがって、Mg含有量は、0.2〜1.5質量%とする。
Mgは、母相内に固溶して、アルミニウム合金板の強度を高め、耐圧強度を向上させる効果があり、Mg含有量増加に伴い強度を高めることができる。また、Mgは、Siと結び付いてMg2Siを析出したり、Al,Cuと結び付いて微細なS'(Al2CuMg)相を析出したりする。このMg2SiおよびS'(Al2CuMg)相が転位の移動を抑制することによって、応力緩和現象を抑えて、アルミニウム合金板の耐応力緩和性を向上させる。Mg含有量が0.2質量%未満では、これらの効果が不十分である。また、Mg含有量が0.2質量%未満では、強度(耐力)が低下する。一方、Mg含有量が1.5質量%を超えると、アルミニウム合金板の加工硬化性が高くなって成形性が低下する。また、融点が低下するので、パルスレーザー溶接において、溶接割れが生じる。したがって、Mg含有量は、0.2〜1.5質量%とする。
また、Mg含有量が1.5質量%を超えて含有すると、融点が低下し、かつMg原子が突発的に蒸気化飛散する割合が増加してパルスレーザー溶接において異常部が発生する。したがって、パルスレーザー溶接における異常部の発生を防止する特性も加味させるためにも、Mg量の上限は、1.5質量%とする。
(Si:0.05〜1.0質量%)
Siは、母相内に固溶して、アルミニウム合金板の強度を高め、耐圧強度を向上させる効果がある。また、Siは、Al,Mn,FeとAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物を形成して、微細な前記金属間化合物の数を増やせることにより電池ケースに成形加工する際の潤滑効果に寄与するため、アルミニウム合金板の成形性を向上させる。さらに、Siは、Mgと結び付いてMg2Siを析出するので、アルミニウム合金板の耐応力緩和性を向上させる。Si含有量が0.05質量%未満では、これらの効果が不十分である。一方、Si含有量が1.0質量%を超えると、前記金属間化合物が粗大なものとなり、成形時の割れの起点となりやすいため、アルミニウム合金板の成形性が低下する。また、Mg2Siが粗大化して耐力が低下する場合がある。さらに、Al−Cu−Fe−Si系金属間化合物を形成して、Cuの固溶量を減少させる場合がある。また、融点が低下するので、パルスレーザー溶接において、溶接割れが生じる。したがって、Si含有量は、0.05〜1.0質量%とする。
Siは、母相内に固溶して、アルミニウム合金板の強度を高め、耐圧強度を向上させる効果がある。また、Siは、Al,Mn,FeとAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物を形成して、微細な前記金属間化合物の数を増やせることにより電池ケースに成形加工する際の潤滑効果に寄与するため、アルミニウム合金板の成形性を向上させる。さらに、Siは、Mgと結び付いてMg2Siを析出するので、アルミニウム合金板の耐応力緩和性を向上させる。Si含有量が0.05質量%未満では、これらの効果が不十分である。一方、Si含有量が1.0質量%を超えると、前記金属間化合物が粗大なものとなり、成形時の割れの起点となりやすいため、アルミニウム合金板の成形性が低下する。また、Mg2Siが粗大化して耐力が低下する場合がある。さらに、Al−Cu−Fe−Si系金属間化合物を形成して、Cuの固溶量を減少させる場合がある。また、融点が低下するので、パルスレーザー溶接において、溶接割れが生じる。したがって、Si含有量は、0.05〜1.0質量%とする。
(Fe:0.05〜1.0質量%)
Feは、Mn,Siと同様にAl−Fe−Mn系、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物を形成して、微細な前記金属間化合物の数を増やせることにより電池ケースに成形加工する際の潤滑効果に寄与するため、アルミニウム合金板の成形性を向上させる効果がある。Fe含有量が0.05質量%未満では、1μm以上11μm未満の微細な前記金属間化合物の数が不足するため、前記効果が小さい。一方、Fe含有量が1.0質量%を超えると、11μm以上の粗大な前記金属間化合物の数が増え、成形時の割れの起点となりやすいため、アルミニウム合金板の成形性が低下する。また、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物の形成量が多くなって、そのためMg2Siの析出が減少して、耐応力緩和性が低下する場合がある。さらに、Al−Cu−Fe−Si系金属間化合物を形成して、Cuの固溶量を減少させる場合がある。したがって、Fe含有量は、0.05〜1.0質量%とする。
Feは、Mn,Siと同様にAl−Fe−Mn系、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物を形成して、微細な前記金属間化合物の数を増やせることにより電池ケースに成形加工する際の潤滑効果に寄与するため、アルミニウム合金板の成形性を向上させる効果がある。Fe含有量が0.05質量%未満では、1μm以上11μm未満の微細な前記金属間化合物の数が不足するため、前記効果が小さい。一方、Fe含有量が1.0質量%を超えると、11μm以上の粗大な前記金属間化合物の数が増え、成形時の割れの起点となりやすいため、アルミニウム合金板の成形性が低下する。また、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物の形成量が多くなって、そのためMg2Siの析出が減少して、耐応力緩和性が低下する場合がある。さらに、Al−Cu−Fe−Si系金属間化合物を形成して、Cuの固溶量を減少させる場合がある。したがって、Fe含有量は、0.05〜1.0質量%とする。
(残部:Alおよび不可避的不純物)
アルミニウム合金板の成分は前記の他、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものである。なお、不可避的不純物として、例えば、地金や中間合金に含まれている、通常知られている範囲内のGa、V、Ni等は、本発明の効果を妨げるものではないため、このような不可避的不純物の含有は許容される。
アルミニウム合金板の成分は前記の他、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものである。なお、不可避的不純物として、例えば、地金や中間合金に含まれている、通常知られている範囲内のGa、V、Ni等は、本発明の効果を妨げるものではないため、このような不可避的不純物の含有は許容される。
(Zn:0.3質量%以下)
Znは、蒸気圧が低いため、パルスレーザー溶接時に飛散して周囲を汚染しやすく、さらにはビード割れも発生しやすく、アルミニウム合金板のパルスレーザー溶接性を悪くする。したがって、Zn含有量は、0.3質量%以下に規制する。更に、前記の汚染性を良好にするための好ましいZn含有量は、0.10質量%以下である。
Znは、蒸気圧が低いため、パルスレーザー溶接時に飛散して周囲を汚染しやすく、さらにはビード割れも発生しやすく、アルミニウム合金板のパルスレーザー溶接性を悪くする。したがって、Zn含有量は、0.3質量%以下に規制する。更に、前記の汚染性を良好にするための好ましいZn含有量は、0.10質量%以下である。
(Ti:0.02質量%未満)
Tiは、アルミニウム合金鋳造組織を微細化、均質化(安定化)する効果があり、圧延用スラブの造塊時の鋳造割れ防止を目的に、通常は0.02質量%以上に添加されるが、過剰に添加すると粗大な金属間化合物が晶出し、成形時の割れの起点となりやすいため、0.15質量%以下の範囲内とされる元素である。しかしながら、前記のように常用されている0.02質量%以上を添加すると、パルスレーザー溶接照射による素材の溶融時(660〜750℃)に凝固ビード内に気泡が残留し易くなるので、次のパルスレーザー溶接照射によって、一つ前の凝固ビードが再溶解する際に、溶融池内から気泡が抜けにくくなる。これにより、ビードにポロシティ欠陥が残留し、溶け込みが深く形成されて、異常部が発生する。したがって、Ti含有量は、0.02質量%未満に規制する。
Tiは、アルミニウム合金鋳造組織を微細化、均質化(安定化)する効果があり、圧延用スラブの造塊時の鋳造割れ防止を目的に、通常は0.02質量%以上に添加されるが、過剰に添加すると粗大な金属間化合物が晶出し、成形時の割れの起点となりやすいため、0.15質量%以下の範囲内とされる元素である。しかしながら、前記のように常用されている0.02質量%以上を添加すると、パルスレーザー溶接照射による素材の溶融時(660〜750℃)に凝固ビード内に気泡が残留し易くなるので、次のパルスレーザー溶接照射によって、一つ前の凝固ビードが再溶解する際に、溶融池内から気泡が抜けにくくなる。これにより、ビードにポロシティ欠陥が残留し、溶け込みが深く形成されて、異常部が発生する。したがって、Ti含有量は、0.02質量%未満に規制する。
(B:20質量ppm以下)
Bは、前記のようにアルミニウム合金のスラブ造塊時の鋳造割れ防止を目的に、Ti−B母合金としてTiと共に、積極添加にて常用されている元素である。しかしながら、B含有量が20質量ppmを超えると、前記のTi添加と同様に、パルスレーザー照射部の凝固ビード内に気泡が残留し易くなり、次のパルスレーザー照射にて前の凝固ビード部が再溶解する際に、溶融池内から気泡が抜けにくくなり、ビードにポロシティ欠陥が残留し、溶け込みが深く形成されることにより異常部が発生する。したがって、B含有量は、20質量ppm以下に規制する。
Bは、前記のようにアルミニウム合金のスラブ造塊時の鋳造割れ防止を目的に、Ti−B母合金としてTiと共に、積極添加にて常用されている元素である。しかしながら、B含有量が20質量ppmを超えると、前記のTi添加と同様に、パルスレーザー照射部の凝固ビード内に気泡が残留し易くなり、次のパルスレーザー照射にて前の凝固ビード部が再溶解する際に、溶融池内から気泡が抜けにくくなり、ビードにポロシティ欠陥が残留し、溶け込みが深く形成されることにより異常部が発生する。したがって、B含有量は、20質量ppm以下に規制する。
本発明に係るアルミニウム合金板は、さらに、Zr:0.15質量%以下、Cr:0.40質量%以下のうち1種以上を含有してもよい。
(Zr:0.15質量%以下、Cr:0.40質量%以下)
Zr,Crは、アルミニウム合金組織を微細化、均質化(安定化)する効果がある。しかしながら、それぞれの規定含有量を超えると、粗大な金属間化合物が晶出し、成形時の割れの起点となりやすいため、アルミニウム合金板の成形性が低下する。したがって、Zr、Crを添加する場合は、Zr含有量は、0.15質量%以下、Cr含有量は、0.40質量%以下とする。なお、下限値は特に規定されるものではないが、溶接時に再凝固した時の再結晶粒を微細化でき、溶接割れを回避できるため、Zr,Crは、それぞれ0.05質量%以上含有することが好ましい。なお、Zr,Crは、前記の規定含有量以下を不可避的不純物として含有してもよい。
Zr,Crは、アルミニウム合金組織を微細化、均質化(安定化)する効果がある。しかしながら、それぞれの規定含有量を超えると、粗大な金属間化合物が晶出し、成形時の割れの起点となりやすいため、アルミニウム合金板の成形性が低下する。したがって、Zr、Crを添加する場合は、Zr含有量は、0.15質量%以下、Cr含有量は、0.40質量%以下とする。なお、下限値は特に規定されるものではないが、溶接時に再凝固した時の再結晶粒を微細化でき、溶接割れを回避できるため、Zr,Crは、それぞれ0.05質量%以上含有することが好ましい。なお、Zr,Crは、前記の規定含有量以下を不可避的不純物として含有してもよい。
〔アルミニウム合金板の製造方法〕
次に、本発明に係るアルミニウム合金板の製造方法の一例について説明する。
まず、前記組成を有するアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を作製し、この鋳塊に面削を施した後に、480℃以上かつ前記アルミニウム合金の融点未満の温度で均質化熱処理を施す。次に、この均質化熱処理された鋳塊を、熱間圧延および冷間圧延して圧延板を作製する。そして、この圧延板を、100℃/分以上の加熱速度で420℃以上かつ前記アルミニウム合金の融点未満の温度域に加熱し、この温度域に0〜180秒保持した後、300℃/分以上の冷却速度で冷却することにより中間焼鈍を施す。その後、中間焼鈍された圧延板に圧下率20〜50%で最終冷間圧延を施して、アルミニウム合金板とする。なお、必要に応じて、最終冷間圧延を施した圧延板に、80〜200℃、0.5〜8時間の最終焼鈍を施してもよい。最終焼鈍により、材料が軟化し、伸びが向上するため、最終焼鈍は、成形性を向上させるために好適な工程である。
次に、本発明に係るアルミニウム合金板の製造方法の一例について説明する。
まず、前記組成を有するアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を作製し、この鋳塊に面削を施した後に、480℃以上かつ前記アルミニウム合金の融点未満の温度で均質化熱処理を施す。次に、この均質化熱処理された鋳塊を、熱間圧延および冷間圧延して圧延板を作製する。そして、この圧延板を、100℃/分以上の加熱速度で420℃以上かつ前記アルミニウム合金の融点未満の温度域に加熱し、この温度域に0〜180秒保持した後、300℃/分以上の冷却速度で冷却することにより中間焼鈍を施す。その後、中間焼鈍された圧延板に圧下率20〜50%で最終冷間圧延を施して、アルミニウム合金板とする。なお、必要に応じて、最終冷間圧延を施した圧延板に、80〜200℃、0.5〜8時間の最終焼鈍を施してもよい。最終焼鈍により、材料が軟化し、伸びが向上するため、最終焼鈍は、成形性を向上させるために好適な工程である。
〔電池ケース〕
次に、本発明に係る電池ケースについて説明する。本発明に係る電池ケースは、前記アルミニウム合金板を用いて作製したものである。
以下、本発明に係るアルミニウム合金板から電池ケースおよび二次電池を作製する方法の一例を説明する。
次に、本発明に係る電池ケースについて説明する。本発明に係る電池ケースは、前記アルミニウム合金板を用いて作製したものである。
以下、本発明に係るアルミニウム合金板から電池ケースおよび二次電池を作製する方法の一例を説明する。
<電池ケースおよび二次電池の作製方法>
ケース本体部とする本発明に係るアルミニウム合金板は、最終冷間圧延にて0.3〜0.8mm程度の板厚とする。このアルミニウム合金板を、所定の形状に切断し、絞り加工またはしごき加工により有底筒形状に成形する。さらにこの加工を複数回繰り返して徐々に側壁面を高くして、トリミング等の加工を必要に応じて施すことで、所定の底面形状および側壁高さに成形してケース本体部とする。電池ケースの形状は特に限定されるものではなく、円筒形、偏平形の直方体等、二次電池の仕様に従い、ケース本体部は上面が開放された有底筒形状とする。
ケース本体部とする本発明に係るアルミニウム合金板は、最終冷間圧延にて0.3〜0.8mm程度の板厚とする。このアルミニウム合金板を、所定の形状に切断し、絞り加工またはしごき加工により有底筒形状に成形する。さらにこの加工を複数回繰り返して徐々に側壁面を高くして、トリミング等の加工を必要に応じて施すことで、所定の底面形状および側壁高さに成形してケース本体部とする。電池ケースの形状は特に限定されるものではなく、円筒形、偏平形の直方体等、二次電池の仕様に従い、ケース本体部は上面が開放された有底筒形状とする。
しごき加工等によるケース本体部の側壁の板厚減少率(しごき加工率)は、30〜80%であることが好ましい。板厚減少率がこの範囲外となる場合、成形したケース本体部の側壁を所望の板厚に調整することが困難となる。
また、ケース本体部と同じアルミニウム合金で、0.7〜1.5mm程度の板厚とした本発明に係るアルミニウム合金板で蓋部を作製する。このアルミニウム合金板をケース本体部の上面に対応した形状に切断し、注入口等を形成して蓋部とする。前記ケース本体部に二次電池材料(正極材料、負極材料、セパレータ等)を格納し、上面に前記蓋部を溶接する。ケース本体部と蓋部との溶接は、波形制御されたパルスレーザーによる溶接が一般的である。そして、電池ケースに注入口から電解液を注入して、注入口を封止して二次電池とする。
以上のように、本発明に係るアルミニウム合金板は、一連の成形加工が順次に施されるトランスファープレスによって所望の形状に成形される成形品、特に、リチウムイオン二次電池の電池ケースに好適なものである。すなわち、本発明に係るアルミニウム合金板は、トランスファープレスに含まれる、多段階の絞り−しごき加工のような特に過酷な加工に対して優れた強度および成形性(加工性)を有するものである。さらに、本発明に係るアルミニウム合金板は、例えば電池ケースに作製する際の、ケース本体部と蓋部とをパルスレーザーで確実に封止できるパルスレーザー溶接性を有するものである。
また、本発明に係るアルミニウム合金板から作製した電池ケースは、前記したようにリチウムイオン二次電池等で充放電が繰り返されたり高温環境下で使用されたりして電池ケース内部の温度が上昇し、それに伴って内部圧力が上昇した場合でも、この電池ケースの膨れの変形量を適切に低く抑えることができるものである。このように、本発明に係るアルミニウム合金板は、強度、成形性、パルスレーザー溶接性(耐溶接割れ性、溶接部強度)、耐圧性(耐膨れ性)を満足するものである。
以上、本発明を実施するための最良の形態について述べてきたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と対比して具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
〔供試材作製〕
表1に示す組成のアルミニウム合金を、溶解、鋳造して鋳塊とし、この鋳塊に面削を施した後に、540℃にて4時間の均質化熱処理を施した。この均質化した鋳塊に、熱間圧延、さらに冷間圧延を施して、板厚0.7mm程度の圧延板とした。そして、この圧延板を500℃/分で520℃に加熱して、この温度に30秒保持した後、500℃/分で冷却して中間焼鈍を行った。最後に、圧下率30%で最終冷間圧延を行って板厚0.5mmのアルミニウム合金板とした。
成分組成を表1に示す。なお、表中、本発明の範囲を満たさないものは、数値に下線を引いて示し、成分を含有しないものは、「−」で示す。また、No.34は、JIS3003合金、No.35は、特許文献1の記載に基づく合金である。
表1に示す組成のアルミニウム合金を、溶解、鋳造して鋳塊とし、この鋳塊に面削を施した後に、540℃にて4時間の均質化熱処理を施した。この均質化した鋳塊に、熱間圧延、さらに冷間圧延を施して、板厚0.7mm程度の圧延板とした。そして、この圧延板を500℃/分で520℃に加熱して、この温度に30秒保持した後、500℃/分で冷却して中間焼鈍を行った。最後に、圧下率30%で最終冷間圧延を行って板厚0.5mmのアルミニウム合金板とした。
成分組成を表1に示す。なお、表中、本発明の範囲を満たさないものは、数値に下線を引いて示し、成分を含有しないものは、「−」で示す。また、No.34は、JIS3003合金、No.35は、特許文献1の記載に基づく合金である。
〔評価〕
得られたアルミニウム合金板にて以下の評価を行った。
(強度)
アルミニウム合金板から、引張方向が圧延方向と平行になるようにJIS5号による引張試験片を切り出した。この試験片で、JISZ2241による引張試験を実施し、引張強さ、耐力(0.2%耐力)、および伸びを測定した。強度の合格基準は、耐力が220MPa以上とした。
得られたアルミニウム合金板にて以下の評価を行った。
(強度)
アルミニウム合金板から、引張方向が圧延方向と平行になるようにJIS5号による引張試験片を切り出した。この試験片で、JISZ2241による引張試験を実施し、引張強さ、耐力(0.2%耐力)、および伸びを測定した。強度の合格基準は、耐力が220MPa以上とした。
(成形性)
アルミニウム合金板から、プレス加工機を使用して、側壁のしごき加工率を50%として、底面が縦5mm×横30mm、側壁の高さ50mmの箱体の角型電池ケース本体を成形した。この際、成形可能であり、成形後に肌荒れのないものを成形性が優れているとして「◎」、成形可能であり、わずかに肌荒れが発生したものを良好であるとして「○」、成形時に割れが発生したもの、または著しい肌荒れが発生したものは成形性が不良であるとして「×」と評価した。
アルミニウム合金板から、プレス加工機を使用して、側壁のしごき加工率を50%として、底面が縦5mm×横30mm、側壁の高さ50mmの箱体の角型電池ケース本体を成形した。この際、成形可能であり、成形後に肌荒れのないものを成形性が優れているとして「◎」、成形可能であり、わずかに肌荒れが発生したものを良好であるとして「○」、成形時に割れが発生したもの、または著しい肌荒れが発生したものは成形性が不良であるとして「×」と評価した。
(パルスレーザー溶接性)
図1に示すように、板厚0.5mmのアルミニウム合金板10,10を、端面同士を突き合わせて配置し、この突合せ部をパルスレーザーにより溶接した。パルスレーザー溶接においては、1個のパルスレーザーにより溶融池が形成されて固化した円状の溶接部20がレーザーの移動により、連続的に溶接線に沿って重なり合いながら形成される。溶接機は、パルス発振のYAGレーザーを使用し、溶接速度は25mm/秒と35mm/秒の2水準とし、シールドガスは窒素を20リットル/分の速度で供給した。また、No.5に示すアルミニウム合金板を溶接した場合にビードの溶け込み深さが約200μmとなる条件として、周波数とパルスレーザー出力を表2に示すように選定した。
図1に示すように、板厚0.5mmのアルミニウム合金板10,10を、端面同士を突き合わせて配置し、この突合せ部をパルスレーザーにより溶接した。パルスレーザー溶接においては、1個のパルスレーザーにより溶融池が形成されて固化した円状の溶接部20がレーザーの移動により、連続的に溶接線に沿って重なり合いながら形成される。溶接機は、パルス発振のYAGレーザーを使用し、溶接速度は25mm/秒と35mm/秒の2水準とし、シールドガスは窒素を20リットル/分の速度で供給した。また、No.5に示すアルミニウム合金板を溶接した場合にビードの溶け込み深さが約200μmとなる条件として、周波数とパルスレーザー出力を表2に示すように選定した。
評価については、溶接割れが生じたか生じなかったかを肉眼および光学顕微鏡にて観察し、割れの無い健全なビードが得られたものを「○」、割れが生じたものを「×」と判定した。
また、図1のX−X線による断面として、溶接ビード断面を切り出して光学顕微鏡観察することにより、ビードの溶け込み深さを測定して、深さ180μm以上の場合に十分な継手強度が得られるものとして「○」、深さ180μm未満の場合に溶け込み不足により十分な継手強度が得られないものとして「×」と評価した。また、図2(a)に示すように、異常部21(図2(b)参照)が生じなかった場合を、ビード形状が良好であるとして「○」、図2(b)に示すように、異常部21が生じた場合を、ビード形状が不良であるとして「×」と評価した。
一方、パルスレーザー溶接における突発的なビード異常部の発生について、その関連が予想されたポロシティ欠陥の発生状況について観察した。ポロシティの測定方法は、ポロシティ径は放射線透過試験で判定できないサイズであることから、顕微鏡観察により行った。即ち、図3に示すように、パルスレーザー溶接後の被溶接材10,10から、溶接ビード20を含むように溶接線方向にLsの長さの試験片を採取し(図3上図の四角の枠で示す部分)、この試験片を樹脂に埋め込み、溶接部の断面を溶接部の幅方向の中央部まで研磨した。そして、研磨面を倍率400〜1000倍で顕微鏡観察し、ポロシティ22の大きさ、数および位置を測定した。このポロシティ22の大きさは、目視にて、顕微鏡のスケールを使用し、最小径2.5μmから7.5μmまでの1.25μmピッチの4段階と、7.5μm超の1段階とで合計で5段階に分けて分類した。また、ポロシティ22の発生状況については、溶接線方向の長さがLsの観察面において、発生したポロシティ22の直径からその面積を算出し、これにその面積の範囲に含まれるポロシティ22の数を乗算し、これを全ての面積範囲について総計して総断面積を求め、これを観察距離Lsで除して、ポロシティ発生度を算出した。即ち、ポロシティ発生度は、下記式にて算出した。
ポロシティ発生度(μm2/mm)={採取した断面のポロシティ総断面積(面積×個数)}/Ls
その結果、ポロシティ発生度が3.0μm2/mm以下の場合に、ビード外観は良好であり、ポロシティ発生度が3.0μm2/mmを超えると、ビード外観に乱れが発生した。そこで、ポロシティ発生度が3.0μm2/mm以下の場合は、ビード形成が良好(異常無し)ということで「○」、3.0μm2/mmを超えると、ビード形成が不良(異常発生)ということで「×」と評価した。
(耐圧性)
前記成形性の評価で作製した角型ケースを用いて、蓋材を重ねてパルスレーザー溶接にて封止した角型電池ケースを、294kPa(3kg/cm2)の内圧を作用させた状態で、100℃に加熱して2時間保持した。室温に戻した後、電池ケースの側面(横30mm×高さ50mmの面)の膨れの変位量を測定した。変位量が0.8mm以下であったものは耐圧性が優れているとして「◎」、0.8mmを超え、1.0mm以下であったものは耐圧性が良好であるとして「○」、1.0mmを超えたものは不良であるとして「×」と評価した。
これらの結果を表3に示す。なお、表中、耐力が合格基準を満たさないものは、数値に下線を引いて示し、耐圧性評価において、成形性が不良のために、評価ができなかったもの、レーザー溶接で、ビードに割れや異常部が生じたため、評価ができなかったものは、「−」で示す。
前記成形性の評価で作製した角型ケースを用いて、蓋材を重ねてパルスレーザー溶接にて封止した角型電池ケースを、294kPa(3kg/cm2)の内圧を作用させた状態で、100℃に加熱して2時間保持した。室温に戻した後、電池ケースの側面(横30mm×高さ50mmの面)の膨れの変位量を測定した。変位量が0.8mm以下であったものは耐圧性が優れているとして「◎」、0.8mmを超え、1.0mm以下であったものは耐圧性が良好であるとして「○」、1.0mmを超えたものは不良であるとして「×」と評価した。
これらの結果を表3に示す。なお、表中、耐力が合格基準を満たさないものは、数値に下線を引いて示し、耐圧性評価において、成形性が不良のために、評価ができなかったもの、レーザー溶接で、ビードに割れや異常部が生じたため、評価ができなかったものは、「−」で示す。
表3に示すように、実施例あるいは参考例であるNo.1〜17は、本発明の範囲を満たすため、あるいは参考例のため、強度、成形性、パルスレーザー溶接性、耐圧性のすべてにおいて、優れていた。
一方、比較例であるNo.18〜35は、本発明の範囲を満たさないため、以下の結果となった。
No.18は、Mn含有量が下限値未満のため、耐圧性に劣った。一方、成形性については、Cu含有量によって耐力低下が抑制された結果、成形性は辛うじて確保された。
No.18は、Mn含有量が下限値未満のため、耐圧性に劣った。一方、成形性については、Cu含有量によって耐力低下が抑制された結果、成形性は辛うじて確保された。
No.19は、Mn含有量が上限値を超えるため、成形性に劣った。No.20は、Cu含有量が下限値未満のため、ビードが溶け込み不足となり、パルスレーザー溶接性に劣った。また、耐圧性に劣った。No.21は、Cu含有量が上限値を超えるため、成形性に劣った。また、ビードに割れが生じ、パルスレーザー溶接性に劣った。
No.22は、Mg含有量が下限値未満のため、強度、耐圧性に劣った。No.23は、Mg含有量が上限値を超えるため、成形性に劣った。また、ビードに割れ、異常部が生じ、ポロシティ発生度が高く、パルスレーザー溶接性に劣った。
No.24は、Si含有量が下限値未満のため、耐圧性に劣った。一方、成形性については、Cu含有量によって耐力低下が抑制された結果、成形性は辛うじて確保された。No.25は、Si含有量が上限値を超えるため、ビードに割れが生じ、パルスレーザー溶接性に劣った。一方、成形性については、Cu含有量によって耐力低下が抑制された結果、成形性は辛うじて確保された。
No.26は、Fe含有量が下限値未満のため、成形性に劣った。No.27は、Fe含有量が上限値を超えるため、成形性に劣った。No.28は、Zn含有量が上限値を超えるため、ビードに割れが生じ、パルスレーザー溶接性に劣った。
No.29は、Zr含有量が上限値を超えるため、成形性に劣った。No.30は、Cr含有量が上限値を超えるため、成形性に劣った。No.31とNo.35は、Ti含有量が上限値を超えるため、ビードに異常部が生じ、ポロシティ発生度が高く、パルスレーザー溶接性に劣った。
No.32は、B含有量が上限値を超えるため、ビードに異常部が生じ、ポロシティ発生度が高く、パルスレーザー溶接性に劣った。No.33は、Ti含有量、B含有量が上限値を超えるため、ビードに異常部が生じ、ポロシティ発生度が高く、パルスレーザー溶接性に劣った。No.34は、Cu含有量、Mg含有量が下限値未満のため、強度、耐圧性に劣った。また、ビードが溶け込み不足となり、パルスレーザー溶接性に劣った。
10 被溶接材(アルミニウム合金板)
20 溶接部(溶接ビード)
21 異常部(非定常溶け込み)
22 ポロシティ
20 溶接部(溶接ビード)
21 異常部(非定常溶け込み)
22 ポロシティ
Claims (3)
- Mn:1.0〜1.5質量%、Cu:0.7〜4.0質量%、Mg:0.2〜1.5質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Fe:0.05〜1.0質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる電池ケース用アルミニウム合金板において、
前記不可避的不純物のうち、Zn:0.3質量%以下、Ti:0.02質量%未満、B:5〜20質量ppm(ただし、5質量ppmを除く)に規制したことを特徴とするイレギュラー・ビード防止性に優れる電池ケース用アルミニウム合金板。 - さらに、Zr:0.15質量%以下、Cr:0.40質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のイレギュラー・ビード防止性に優れる電池ケース用アルミニウム合金板。
- 請求項1または請求項2に記載の電池ケース用アルミニウム合金板を用いたことを特徴とする電池ケース。
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