JP5887189B2 - 電池ケース用アルミニウム合金板およびその製造方法ならびに電池ケース - Google Patents

電池ケース用アルミニウム合金板およびその製造方法ならびに電池ケース Download PDF

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Description

本発明は、リチウムイオン二次電池ケース等に用いられる電池ケース用アルミニウム合金板およびその製造方法ならびに電池ケースに関する。
携帯電話やノート型パーソナルコンピュータ等の電源として、リチウムイオン二次電池が広く使用されている。この二次電池の外装であるケース(以下、適宜、電池ケースという)の材料には、従来、電池の小型化および軽量化、そして電池ケースに成形するための加工性(成形性)等を満足するため、JISA3003合金等のアルミニウム合金が使用されている。このような電池において、充放電が行われると電池ケースの内部圧力が上昇する。さらに、夏季の自動車内のような高温環境下に、電池を搭載した電子機器を放置したような場合は、電池ケース自体の温度が60℃から90℃にも達し、温度上昇によって内部圧力が大きく上昇するだけでなく、電池ケース用材料自体の内部応力が緩和される。その結果、電池ケースが膨れて変形し電池交換時の取出しが困難になり、さらには電池ケースが破損して電子機器の性能を損ねて破裂に至る危険性を抱えている。
そこで、このような電池ケースには、前記の電池の充放電および高温環境下での使用により、電池ケースの内圧が上昇した場合にも、電池ケースの所期の形状を保持できるような、優れた耐圧性(耐膨れ性)や耐応力緩和性が要求される。その一方で、さらなる電池の小型化や軽量化および低コスト化のため、電池ケースの薄肉化を図ることが強く要求されている。ところが、従来のJISA3003合金等からなるアルミニウム合金板を薄肉化すると変形が生じやすくなり、電池ケースの耐圧性が低下して比較的小さな内部圧力が作用しても膨れが生じやすくなるという問題が発生する。
そこで、近年、JIS3000系(JISA3000系)のアルミニウム合金にCu等を添加することにより、アルミニウム合金板の強度を向上させて、薄肉化しても電池の使用状態に対応できる耐圧性を備えるようにした電池ケース用アルミニウム合金板が開発されている。例えば、特許文献1には、Mn,Cu,Mg,Siを所定量添加することにより強度を向上させて、薄肉化しても十分な耐応力緩和性を有することにより高い耐圧性を備えるようにした電池ケース用アルミニウム合金板およびその製造方法が開示されている。
また、近年においては、強度、耐圧性に優れる他、パルスレーザー溶接での耐割れ性にも優れることが要求されている。そこで、特許文献2には、Si,Fe,Cu,Mn,Mgを所定量添加することにより強度を向上させて、Si、Fe、CuおよびMgの合計値を1.5質量%以下とすることで、パルスレーザー溶接での割れ発生を防止できるようにしたアルミニウム合金板が開示されている。
特許第3867989号公報(段落0030〜0053) 特開2006−104580号公報(段落0014〜0016)
しかしながら、従来の電池ケース用アルミニウム合金板においては、以下のような問題がある。
電池ケース用アルミニウム合金板においては、加工性(成形性)の向上が図られてはいるが、成分組成や製造条件によっては、成形加工においてアルミニウム合金が裂ける等、加工割れが生じる場合がある。
また、二次電池のいっそうの安全性向上のため、電池ケース材料は、強度および耐圧性のさらなる向上が要求される。
また、従来の電池ケース用アルミニウム合金板においては、前記したように、パルスレーザー溶接での耐割れ性の向上が図られている。しかし、近年においては、電池ケースを作製する際のパルスレーザー溶接の溶接速度が高速化しているため、溶接部に異常部(イレギュラー・ビード)が形成され、溶接部の不連続性が発生しやすくなるという問題がある。そのため、パルスレーザー溶接での割れ発生を防止できると共に、異常部の発生を抑制できる電池ケース用アルミニウム合金板の要求も高まってきている。
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、電池ケースに作製するための成形性に優れ、また、優れたパルスレーザー溶接性を有すると共に、強度、および耐圧性(耐膨れ性)を向上させた電池ケース用アルミニウム合金板、および、その製造方法、ならびに、この電池ケース用アルミニウム合金板を用いた電池ケースを提供することを目的とする。
前記課題を解決するために、請求項1に係る電池ケース用アルミニウム合金板(以下、適宜、アルミニウム合金板という)は、Mn:0.4〜1.5質量%、Cu:1.2〜4.0質量%、Mg:0.2〜1.5質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Fe:0.05〜1.0質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる電池ケース用アルミニウム合金板において、前記不可避的不純物のうち、Zn:0.3質量%以下、Ti:0.02質量%未満、B:20質量ppm以下に規制し、耐力:220MPa以上、伸び:3.3%以上であり、前記電池ケース用アルミニウム合金板の圧延方向と板厚方向とに平行な切断面を観察面として、前記観察面の板厚方向中心を中心とした領域であって板厚方向長が板厚の38%である領域において、最大長が1μm以上の金属間化合物の面積率が0.3%を超え2.1%未満であり、かつ最大長が11μm以上の金属間化合物の個数密度が140個/mm以下であることを特徴とする。
このような構成によれば、Mn,Cu,Mg,Siを所定量含有することによって、それぞれの元素が母相内に固溶し、アルミニウム合金板の強度(耐圧強度)が向上する。また、Mn,Si,Feを所定量含有することによって、金属間化合物の形成により成形性が向上し、Cu,Mg、Siを所定量含有することによって、組立てられた電池が、高温環境に曝される場合や、さらには、その高温環境と常温環境とに繰り返し曝される場合に、加工された電池ケース用アルミニウム合金板においては、MgSiや微細なS'(AlCuMg)相を析出し、耐応力緩和特性が向上する。さらに、Zn濃度を所定量以下に規制することによって、アルミニウム合金板のレーザー溶接時に、蒸気圧の低いZnが飛散せず、周囲を汚染することがない。また、Ti,Bを所定量以下に規制することによって、パルスレーザー溶接照射による素材の溶融時に、凝固ビード内に気泡が残留しにくくなり、溶接部における異常部の発生が防止される。さらに、最大長が1μm以上の金属間化合物の面積率を所定に規定することで、加工時の潤滑性が向上し、アルミニウム合金板の焼付き等が防止されると共に、成形時の割れが防止され、最大長が11μm以上の金属間化合物の個数密度を所定に規定することで、成形時の割れが防止される。
請求項2に係る電池ケース用アルミニウム合金板は、さらに、Zr:0.15質量%以下、Cr:0.40質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする。
このような構成によれば、Zr、Crのうち1種以上を所定量含有することによって、組織を微細化、均質化することができる。
請求項3に係る電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法は、請求項1または請求項2に記載の電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法であって、前記組成を有するアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を作製する鋳造工程と、前記鋳塊を420℃以上かつ前記アルミニウム合金の融点未満の温度で均質化熱処理を施す均質化熱処理工程と、前記均質化熱処理された鋳塊を、熱間圧延する熱間圧延工程と、前記熱間圧延工程後に冷間圧延して圧延板を作製する冷間圧延工程と、前記圧延板に中間焼鈍を施す中間焼鈍工程と、前記中間焼鈍された圧延板に圧下率20〜50%で最終冷間圧延を施す最終冷間圧延工程と、を含み、前記中間焼鈍は、前記圧延板を、100℃/分以上500℃/分以下の加熱速度で420℃以上かつ前記アルミニウム合金の融点未満の温度域に加熱し、この温度域に0〜180秒保持した後、300℃/分以上500℃/分以下の冷却速度で冷却することを特徴とする。
このような製造方法によれば、均質化熱処理を施すことにより、金属間化合物が拡散固溶され、組織が均質化される。また、中間焼鈍を施すことにより、最終冷間圧延において、アルミニウム合金板の板厚を所望の板厚に調整しやすくなり、かつ、加工硬化が生じてアルミニウム合金板の強度が向上する。さらに、MgSiや微細なS'(AlCuMg)相が固溶する。この固溶強化によって、アルミニウム合金板の強度が向上する。また、組立てられた電池が、高温環境に曝される場合や、さらには、その高温環境と常温環境とに繰り返し曝される場合に、加工された電池ケース用アルミニウム合金板においては、MgSiやS'(AlCuMg)相の析出によるピン止め作用と共に、応力緩和現象が抑制され、アルミニウム合金板の耐圧性が向上する。さらに、中間焼鈍を施すことにより、それぞれの元素の固溶強化により、アルミニウム合金板の強度が向上する。また、最終冷間圧延における圧下率を所定範囲に制御することによって、応力緩和現象が抑制されて、耐圧性が向上する。
請求項4に係る電池ケースは、請求項1または請求項2に記載の電池ケース用アルミニウム合金板を用いたことを特徴とする。
このような電池ケースは、前記したアルミニウム合金板を用いるため、強度、耐圧性(耐膨れ性)が向上したものとなる。
本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板によれば、電池ケースに成形される際に優れた成形性(しごき加工性)を有し、また、パルスレーザー溶接性に優れ、パルスレーザー溶接において、優れた耐溶接割れ性、溶接部強度を有し、かつ、異常部の発生を抑制することができる。さらに、板厚を薄肉化しても、優れた強度、耐圧性(耐膨れ性)を有する電池ケースとすることができる。
本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法によれば、前記の効果を有する電池ケース用アルミニウム合金板を生産性よく製造することができる。
本発明に係る電池ケースによれば、優れた強度、耐圧性(耐膨れ性)を有するため、リチウムイオン二次電池等で充放電が繰り返されたり高温環境下で使用されたりして電池ケース内部の温度が上昇し、それに伴って内部圧力が上昇した場合でも、この電池ケースの膨れの変形量が適切に低く抑えられる。その結果、電池ケースが膨れて変形し、電池交換時の取出しが困難になることや、さらには電池ケースが破損して電子機器の性能を損ねたり破裂したりすることを防止することができる。
実施例におけるパルスレーザー溶接性の評価方法を説明するためのパルスレーザーによる溶接部を示す斜視図である。 図1のX−X線による断面図であって、(a)は、良好な溶接部の場合を示す断面図、(b)は、異常部が生じた場合を示す断面図である。 実施例におけるポロシティ発生度の測定方法を説明するための模式図である。
以下、本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板(以下、適宜、アルミニウム合金板という)を実現するための形態について説明する。
〔アルミニウム合金板の構成〕
本発明に係るアルミニウム合金板は、Mn,Cu,Mg,Si,Feを所定量含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金板において、前記不可避的不純物のうち、Zn,Ti,Bを所定量以下に規制したものである。さらに、アルミニウム合金板の断面の板厚方向中心部における所定の金属間化合物の面積率および個数密度を所定に規定したものである。以下、各成分の限定理由および金属間化合物の分布の規定理由について説明する。
(Mn:0.4〜1.5質量%)
Mnは、母相内に固溶して、アルミニウム合金板の強度を高める効果があり、Mn含有量増加に伴いその効果が向上し、電池ケースとしたときの耐圧強度を高めることができる。また、Mnは、Al,Fe,Siと金属間化合物(Al−Fe−Mn系金属間化合物、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物)を形成して、微細な前記金属間化合物の数を増やせることにより、電池ケースに成形加工する際の潤滑効果に寄与するため、アルミニウム合金板の成形性を向上させる。Mn含有量が0.4質量%未満では、固溶強化が発揮されず、また、1μm以上11μm未満の微細な前記金属間化合物の数が不足しやすくなるため、これらの効果が不十分である。一方、Mn含有量が1.5質量%を超えると、11μm以上の粗大な前記金属間化合物の数が増え、成形時の割れの起点となりやすいため、アルミニウム合金板の成形性が低下する。したがって、Mn含有量は、0.4〜1.5質量%とする。
(Cu:1.2〜4.0質量%)
Cuは、母相内に固溶して、アルミニウム合金板の強度を高める効果があり、Cu含有量増加に伴いその効果が向上し、電池ケースとしたときの耐圧強度を高めることができる。また、Cuは、パルスレーザー溶接時の溶接部の強度を向上させる効果がある。また、Cuは、Al,Mgと結び付いて微細なS'(AlCuMg)相を形成、析出する。この微細なS'(AlCuMg)相が、転位の移動を抑制することによって、応力緩和現象を抑えて、アルミニウム合金板の耐応力緩和性を向上させる。Cu含有量が1.2質量%未満では、これらの効果が不十分である。一方、Cu含有量が4.0質量%を超えると、微細なS'(AlCuMg)相の析出物により転位の移動が過剰に抑制されるため、成形性を低下させる。また、融点が低下するので、パルスレーザー溶接において、溶接割れが生じる。したがって、Cu含有量は、1.2〜4.0質量%とする。
(Mg:0.2〜1.5質量%)
Mgは、母相内に固溶して、アルミニウム合金板の強度を高める効果があり、Mg含有量増加に伴いその効果が向上し、電池ケースとしたときの耐圧強度を高めることができる。また、Mgは、Siと結び付いてMgSiを析出したり、Al,Cuと結び付いて微細なS'(AlCuMg)相を析出したりする。このMgSiおよびS'(AlCuMg)相が転位の移動を抑制することによって、応力緩和現象を抑えて、アルミニウム合金板の耐応力緩和性を向上させる。Mg含有量が0.2質量%未満では、これらの効果が不十分である。また、Mg含有量が0.2質量%未満では、強度(耐力)が低下する。一方、Mg含有量が1.5質量%を超えると、アルミニウム合金板の加工硬化性が高くなって成形性が低下する。また、融点が低下するので、パルスレーザー溶接において、溶接割れが生じる。
また、Mg含有量が1.5質量%を超えて含有すると、融点が低下し、かつMg原子が突発的に蒸気化飛散する割合が増加してパルスレーザー溶接において異常部が発生する。したがって、パルスレーザー溶接における異常部の発生を防止する特性も加味させるためにも、Mg量の上限は、1.5質量%とする。したがって、Mg含有量は、0.2〜1.5質量%とする。
(Si:0.05〜1.0質量%)
Siは、母相内に固溶して、アルミニウム合金板の強度を高める効果があり、Si含有量増加に伴いその効果が向上し、電池ケースとしたときの耐圧強度を高めることができる。また、Siは、Al,Mn,FeとAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物を形成して、微細な前記金属間化合物の数を増やせることにより、電池ケースに成形加工する際の潤滑効果に寄与するため、アルミニウム合金板の成形性を向上させる。さらに、Siは、Mgと結び付いてMgSiを析出するので、アルミニウム合金板の耐応力緩和性を向上させる。Si含有量が0.05質量%未満では、これらの効果が不十分である。一方、Si含有量が1.0質量%を超えると、前記金属間化合物が粗大なものとなりやすく、成形時の割れの起点となりやすいため、アルミニウム合金板の成形性が低下しやすい。また、MgSiが粗大化して耐力が低下する場合がある。さらに、Al−Cu−Fe−Si系金属間化合物を形成して、Cuの固溶量を減少させる場合がある。また、融点が低下するので、パルスレーザー溶接において、溶接割れが生じる。したがって、Si含有量は、0.05〜1.0質量%とする。
(Fe:0.05〜1.0質量%)
Feは、Mn,Siと同様にAl−Fe−Mn系、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物を形成して、微細な前記金属間化合物の数を増やせることにより電池ケースに成形加工する際の潤滑効果に寄与するため、アルミニウム合金板の成形性を向上させる効果がある。Fe含有量が0.05質量%未満では、1μm以上11μm未満の微細な前記金属間化合物の数が不足するため、前記効果が小さい。一方、Fe含有量が1.0質量%を超えると、11μm以上の粗大な前記金属間化合物の数が増え、成形時の割れの起点となりやすいため、アルミニウム合金板の成形性が低下する。また、Al−Fe−Mn系、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物の形成量が多くなって、そのためMgSiの析出が減少して、耐応力緩和性が低下する場合がある。さらに、Al−Cu−Fe−Si系金属間化合物を形成して、Cuの固溶量を減少させる場合がある。したがって、Fe含有量は、0.05〜1.0質量%とする。
(残部:Alおよび不可避的不純物)
アルミニウム合金板の成分は前記の他、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものである。なお、不可避的不純物として、例えば、地金や中間合金に含まれている、通常知られている範囲内のGa、V、Ni等は、本発明の効果を妨げるものではないため、このような不可避的不純物の含有は許容される。また、本発明においては、不可避的不純物のうち、Zn,Ti,Bを所定量以下に規制する。
(Zn:0.3質量%以下)
Znは、蒸気圧が低いため、パルスレーザー溶接時に飛散して周囲を汚染しやすく、さらにはビード割れも発生させやすく、アルミニウム合金板のパルスレーザー溶接性を悪くする。したがって、Zn含有量は、0.3質量%以下に規制する。さらに、前記の汚染性を良好にするための好ましいZn含有量は、0.10質量%以下である。
(Ti:0.02質量%未満)
Tiは、アルミニウム合金鋳造組織を微細化、均質化(安定化)する効果があり、圧延用スラブの造塊時の鋳造割れ防止を目的に、通常は0.02質量%以上添加されるが、過剰に添加すると粗大な金属間化合物が晶出し、成形時の割れの起点となりやすいため、0.15質量%以下の範囲内とされる元素である。しかしながら、前記のように常用されている0.02質量%以上を添加すると、パルスレーザー溶接照射による素材の溶融時(660〜750℃)に凝固ビード内に気泡が残留し易くなるので、次のパルスレーザー溶接照射によって、一つ前の凝固ビードが再溶解する際に、溶融池内から気泡が抜けにくくなる。これにより、ビードにポロシティ欠陥が残留し、溶け込みが深く形成されて、異常部が発生する。したがって、Ti含有量は、0.02質量%未満に規制する。
(B:20質量ppm以下)
Bは、前記のようにアルミニウム合金のスラブ造塊時の鋳造割れ防止を目的に、Ti−B母合金としてTiと共に、積極添加にて常用されている元素である。しかしながら、B含有量が20質量ppmを超えると、前記のTi添加と同様に、パルスレーザー照射部の凝固ビード内に気泡が残留し易くなり、次のパルスレーザー照射にて前の凝固ビード部が再溶解する際に、溶融池内から気泡が抜けにくくなる。これにより、ビードにポロシティ欠陥が残留し、溶け込みが深く形成されて、異常部が発生する。したがって、B含有量は、20質量ppm以下に規制する。
本発明に係るアルミニウム合金板は、さらに、Zr:0.15質量%以下、Cr:0.40質量%以下のうち1種以上を含有してもよい。
(Zr:0.15質量%以下、Cr:0.40質量%以下)
Zr,Crは、アルミニウム合金組織を微細化、均質化(安定化)する効果がある。また、溶接時に再凝固した時の再結晶粒を微細化でき、溶接割れを回避することができる。しかしながら、それぞれの規定含有量を超えると、粗大な金属間化合物が晶出し、成形時の割れの起点となりやすいため、アルミニウム合金板の成形性が低下する。したがって、Zr、Crを添加する場合は、Zr含有量は、0.15質量%以下、Cr含有量は、0.40質量%以下とする。なお、下限値は特に規定されるものではないが、前記効果を得るため、Zr,Crは、それぞれ0.05質量%以上含有することが好ましい。なお、Zr,Crは、前記の規定含有量以下を不可避的不純物として含有してもよい。
(最大長が1μm以上の金属間化合物の面積率:0.3%を超え2.1%未満)
アルミニウム合金板の断面の板厚方向中心部における最大長が1μm以上の金属間化合物の面積率を、0.3%を超え2.1%未満とする。なお、断面の板厚方向中心部とは、具体的には、板厚方向中心を中心とした板厚の30〜50%における領域を指す。
面積率が0.3%以下では、しごき加工時において、ポンチやダイスに凝固したアルミニウム母地を除去する潤滑効果が不足して、アルミニウム合金板に焼付き等が発生するため、アルミニウム合金板の成形性が低下する。一方、面積率が2.1%以上では、粗大な金属間化合物が多く、成形割れの起点になりやすいため、アルミニウム合金板の成形性が低下する。
なお、前記範囲内において、1μm未満の化合物が含まれていても、これらの面積率については成形性に影響を与えるものではなく、前記範囲内にこれらの金属間化合物が含まれていてもよい。また、最大長の上限については、定めはなく、面積率には、最大長が11μm以上の金属間化合物も含まれている。
(最大長が11μm以上の金属間化合物の個数密度:140個/mm以下)
アルミニウム合金板の断面の板厚方向中心部における最大長が11μm以上の金属間化合物の個数密度を、140個/mm以下とする。
個数密度が140個/mmを超えると、粗大な前記金属間化合物の数が多く、成形時の割れの起点となりやすいため、アルミニウム合金板の成形性が低下する。
なお、前記範囲内において、11μm未満の化合物が含まれていても、これらの個数密度については、成形性に影響を与えるものではなく、前記範囲内にこれらの金属間化合物が含まれていてもよい。また、最大長の上限については、定めはない。
そして、これら金属間化合物の分布は、前記Mn,Mg,Si,Feの各含有量、および後記の製造条件(均質化熱処理条件、中間焼鈍条件)により制御する。
金属間化合物の検出手段には、走査型電子顕微鏡(SEM)の適用が一例として挙げられる。最大長が1μm以上の金属間化合物はSEMの組成(COMPO)像において母相とのコントラストで識別でき、Al−Mn−Fe系、Al−Mn−Fe−Si系金属間化合物はAl母相より白く写り、Mg−Si系金属間化合物はAl母相より黒く写る。アルミニウム合金板の断面の板厚方向中心部における金属間化合物においては、アルミニウム合金板を切り出して、圧延方向と板厚方向を含む切断面を研磨して鏡面に仕上げて観察面とし、アルミニウム合金板の板厚方向中心を中心とした板厚の30〜50%における領域を観察する。この領域から好ましくは複数の視野を合計1mm以上観察、撮影し、画像処理装置等を用いて指定サイズの金属間化合物についての面積率および個数密度を測定する。
〔アルミニウム合金板の製造方法〕
次に、本発明に係るアルミニウム合金板の製造方法について説明する。本発明に係るアルミニウム合金板の製造方法は、前記記載の電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法であり、鋳造工程と、均質化熱処理工程と、熱間圧延工程と、冷間圧延工程と、中間焼鈍工程と、最終冷間圧延工程と、を含む。以下、各工程について説明する。
<鋳造工程>
鋳造工程は、前記組成を有するアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を作製する工程である。
合金を溶解、鋳造する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。例えば、真空誘導炉を用いて溶解し、連続鋳造法や、半連続鋳造法を用いて鋳造することができる。
<均質化熱処理工程>
均質化熱処理工程は、前記鋳塊を420℃以上かつ前記アルミニウム合金の融点未満の温度で均質化熱処理を施す工程である。なお、均質化熱処理工程においては、前記鋳塊に面削を施した後に均質化熱処理を施す。
(処理温度:420℃以上、アルミニウム合金の融点未満)
鋳塊を圧延する前に、所定温度で均質化熱処理(均熱処理)することが必要である。均熱処理を施すことによって、鋳造時に晶出した金属間化合物を拡散固溶させて組織を均質化する。均熱処理温度が420℃未満では、本発明に係るアルミニウム合金からなる鋳塊の均質化が不十分である。すなわち、電池ケースに成形加工する際に割れの起点となる粗大なAl−Fe−Mn−Si系等の金属間化合物の数を減らす効果が得られない。一方、均熱処理温度がアルミニウム合金の融点に至ると、鋳塊が溶融する。したがって、均熱処理温度は420℃以上、アルミニウム合金の融点未満とする。なお、本発明に係るアルミニウム合金の融点は、その組成によって500〜610℃程度の範囲で変化し、特にCu含有量が多いと低くなる。また、均熱処理時間が1時間未満では、鋳塊の均質化が完了していないことがあるので、1時間以上行うことが好ましい。
<熱間圧延工程および冷間圧延工程>
熱間圧延工程は、前記均質化熱処理された鋳塊を、熱間圧延する工程である。
冷間圧延工程は、前記熱間圧延工程後に冷間圧延して圧延板を作製する工程である。
熱間圧延および冷間圧延する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。
<中間焼鈍工程>
中間焼鈍工程は、前記圧延板に中間焼鈍を施す工程である。
前記中間焼鈍は、前記圧延板を、100℃/分以上の加熱速度で420℃以上かつ前記アルミニウム合金の融点未満の温度域に加熱し、この温度域に0〜180秒保持した後、300℃/分以上の冷却速度で冷却する。
(加熱速度:100℃/分以上、保持:420℃以上、アルミニウム合金の融点未満で0〜180秒、冷却速度:300℃/分以上)
最後の冷間圧延(最終冷間圧延)前の圧延板に中間焼鈍を施すことによって、最終冷間圧延において、アルミニウム合金板の板厚を所望の板厚に調整しやすくなり、かつ、加工硬化が生じてアルミニウム合金板の強度が向上する。また、中間焼鈍を行うことによって、圧延板にMgSiや微細なS'(AlCuMg)相が固溶する。この固溶強化によって、アルミニウム合金板の強度が向上する。また、組立てられた電池が、高温環境に曝される場合や、さらには、その高温環境と常温環境とに繰り返し曝される場合に、加工された電池ケース用アルミニウム合金材においては、MgSiまたはS'(AlCuMg)相が転位の移動を抑制し(ピン止め効果)、応力緩和現象を抑え、アルミニウム合金板の耐圧性を向上させる。さらに、中間焼鈍を行うことによって、Cu等の溶質元素を母相内に固溶させるため、それぞれの元素の固溶強化によりアルミニウム合金板の強度が向上する。
中間焼鈍の処理温度が420℃未満では、結晶粒が再結晶しないため、最終冷間圧延工程において、中間焼鈍での再結晶組織と加工組織の混在する板を圧延することとなり、成形加工時に割れや肌荒れがおき、成形性が低下する。一方、中間焼鈍の処理温度がアルミニウム合金の融点に至ると、圧延板が溶融する。したがって、中間焼鈍の処理温度は420℃以上、アルミニウム合金の融点未満とする。なお、本発明に係るアルミニウム合金の融点は、前記均熱処理の上限温度におけるものと同じであるので省略する。また、この中間焼鈍の温度域で180秒を超えて保持しても、前記の効果は増大せず、生産性が低下するので、保持時間は180秒以下とする。
また、この中間焼鈍の温度域に圧延板を加熱する加熱速度が100℃/分未満であると、昇温途中の温度域で溶質元素が粗大な析出物となり、この析出物が中間焼鈍の処理温度域においても固溶しない。また、中間焼鈍(保持)後の冷却速度が300℃/分未満であると、固溶していた溶質元素が降温途中の温度域で析出する。さらに、加熱速度や冷却速度が遅いと、結晶が粗大化して成形性が低下することがある。したがって、中間焼鈍の処理温度域に加熱する加熱速度は100℃/分以上とし、中間焼鈍の処理温度域からは、冷却速度は300℃/分以上で、溶質元素が析出することのない100℃以下まで冷却することとする。
<最終冷間圧延工程>
最終冷間圧延工程は、前記中間焼鈍された圧延板に圧下率20〜50%で最終冷間圧延を施す工程である。
(圧下率:20〜50%)
最終冷間圧延における圧下率を20〜50%に調整することによって、応力緩和現象が抑制されて、アルミニウム合金板の耐圧性が向上する。圧下率が20%未満では、強度が十分得られず、電池ケースとしての剛性が不足する場合がある。一方、圧下率が50%を超えると、歪みの蓄積が多くなって回復が進行しやすくなり、耐応力緩和性が低下すると共に耐圧性が低下する。また、成形加工時に割れや肌荒れがおきるため、成形性が低下する。したがって、最終冷間圧延の圧下率は20〜50%とする。
なお、本発明を行うにあたり、前記各工程に悪影響を与えない範囲において、前記各工程の間あるいは前後に、例えば、歪み矯正処理工程等、さらに、洗浄処理工程等、他の工程を含めてもよい。
〔電池ケース〕
次に、本発明に係る電池ケースについて説明する。本発明に係る電池ケースは、前記アルミニウム合金板を用いて作製したものである。
以下、本発明に係るアルミニウム合金板から電池ケースおよび二次電池を作製する方法の一例を説明する。
<電池ケースおよび二次電池の作製方法>
ケース本体部とする本発明に係るアルミニウム合金板は、最終冷間圧延にて0.3〜0.8mm程度の板厚とする。このアルミニウム合金板を、所定の形状に切断し、絞り加工またはしごき加工により有底筒形状に成形する。さらにこの加工を複数回繰り返して徐々に側壁面を高くして、トリミング等の加工を必要に応じて施すことで、所定の底面形状および側壁高さに成形してケース本体部とする。電池ケースの形状は特に限定されるものではなく、円筒形、偏平形の直方体等、二次電池の仕様に従い、ケース本体部は上面が開放された有底筒形状とする。
しごき加工等によるケース本体部の側壁の板厚減少率(しごき加工率)は、30〜80%であることが好ましい。板厚減少率がこの範囲外となる場合、成形したケース本体部の側壁を所望の板厚に調整することが困難となる。
また、ケース本体部と同じアルミニウム合金で、0.7〜1.5mm程度の板厚とした本発明に係るアルミニウム合金板で蓋部を作製する。このアルミニウム合金板をケース本体部の上面に対応した形状に切断し、注入口等を形成して蓋部とする。前記ケース本体部に二次電池材料(正極材料、負極材料、セパレータ等)を格納し、上面に前記蓋部を溶接する。ケース本体部と蓋部との溶接は、波形制御されたパルスレーザーによる溶接が一般的である。そして、電池ケースに注入口から電解液を注入して、注入口を封止して二次電池とする。
以上のように、本発明に係るアルミニウム合金板は、一連の成形加工が順次に施されるトランスファープレスによって所望の形状に成形される成形品、特に、リチウムイオン二次電池の電池ケースに好適なものである。すなわち、本発明に係るアルミニウム合金板は、トランスファープレスに含まれる、多段階の絞り−しごき加工のような特に過酷な加工に対して優れた強度および成形性(加工性)を有するものである。さらに、本発明に係るアルミニウム合金板は、例えば電池ケースに作製する際の、ケース本体部と蓋部とをパルスレーザーで確実に封止できるパルスレーザー溶接性を有するものである。また、不可避的不純物のうち、Ti,Bの含有量を所定以下に規定することで、パルスレーザー溶接での異常部の発生を抑制することができ、パルスレーザー溶接性をさらに向上させることができる。
また、本発明に係るアルミニウム合金板から作製した電池ケースは、前記したようにリチウムイオン二次電池等で充放電が繰り返されたり高温環境下で使用されたりして電池ケース内部の温度が上昇し、それに伴って内部圧力が上昇した場合でも、この電池ケースの膨れの変形量を適切に低く抑えることができるものである。このように、本発明に係るアルミニウム合金板は、成形性に優れ、また、強度、耐圧性(耐膨れ性)を満足するものである。さらに、優れたパルスレーザー溶接性を有し、耐溶接割れ性、溶接部強度に優れると共に、パルスレーザー溶接における異常部の発生の抑制を図ることができる。
以上、本発明を実施するための形態について述べてきたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と対比して具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
〔供試材作製〕
(実施例No.1、2、4〜17、参考例3、比較例No.18〜35)
表1に示す組成のアルミニウム合金を、溶解、鋳造して鋳塊とし、この鋳塊に面削を施した後に、500℃にて4時間の均質化熱処理を施した。この均質化した鋳塊に、熱間圧延、さらに冷間圧延を施して、板厚0.7mm程度の圧延板とした。そして、この圧延板を500℃/分の加熱速度で500℃に加熱して、この温度に30秒保持した後、500℃/分で冷却して中間焼鈍を行った。最後に、圧下率30%で最終冷間圧延を行って板厚0.5mmのアルミニウム合金板とした。
(実施例No.36〜37、39〜43、参考例38、44、比較例No.45〜53)
表2に示す組成のアルミニウム合金(実施例No.5と同じ組成)を、溶解、鋳造して鋳塊とし、この鋳塊に面削を施した後に、この鋳塊に表2に示す温度にて4時間の均熱処理を施した。この均質化した鋳塊に、熱間圧延、さらに冷間圧延を施して、所定の板厚の圧延板とした。そして、この圧延板に、表2に示す加熱速度、焼鈍温度(30秒保持)、および冷却速度で中間焼鈍を行った。最後に、表2に示す圧下率で最終冷間圧延を行って板厚0.5mmのアルミニウム合金板とした。
成分組成を表1、2に示す。なお、表中、本発明の範囲を満たさないものは、数値に下線を引いて示し、成分を含有しないものは、「−」で示す。また、No.34は、JISA3003合金、No.35は、特許文献1の記載に基づく合金である。
Figure 0005887189
Figure 0005887189
〔金属間化合物の分布〕
次に、金属間化合物の分布を以下の方法により測定した。
まず、アルミニウム合金板を切り出して樹脂埋めし、圧延方向と板厚方向を含む面を観察面となるように研磨して鏡面とし、この鏡面化された面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて、加速電圧20KV,倍率500倍の組成(COMPO)像で20視野(合計1mm)観察した。観察視野は、板厚方向中心を中心として板厚方向に、厚み方向の両側(上方向および下方向)を合わせて、0.19mmの範囲内とした。母相より白く写る部分をAl−Mn−Fe系金属間化合物またはAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物と見なし、母相より黒く写る部分をMg−Si系金属間化合物と見なして、画像処理により最大長が1μm以上の金属間化合物の面積の合計を求め、面積率を算出した。また、最大長が11μm以上の金属間化合物の個数をカウントし、単位面積当たりの個数(個数密度)を算出した。アルミニウム合金板の断面の板厚中心部における金属間化合物の面積率および個数密度を表3、4に示す。
〔評価〕
得られたアルミニウム合金板にて以下の評価を行い、結果を表4、5に示す。
(強度)
アルミニウム合金板から、引張方向が圧延方向と平行になるようにJIS5号による引張試験片を切り出した。この試験片で、JISZ2241による引張試験を実施し、引張強さ、耐力(0.2%耐力)、および伸びを測定した。強度の合格基準は、耐力が220MPa以上とした。
(成形性)
アルミニウム合金板から、プレス加工機を使用して、側壁のしごき加工率を50%として、底面が縦5mm×横30mm、側壁の高さ50mmの箱体の角型電池ケース本体を成形した。この際、成形可能であり、成形後に肌荒れのないものを成形性が優れているとして「◎」、成形可能であり、わずかに肌荒れが発生したものを成形性が良好であるとして「○」、成形時に割れが発生したもの、または著しい肌荒れが発生したものを成形性が不良であるとして「×」と評価した。
(パルスレーザー溶接性)
図1に示すように、板厚0.5mmのアルミニウム合金板10,10を、端面同士を突き合わせて配置し、この突合せ部をパルスレーザーにより溶接した。パルスレーザー溶接においては、1個のパルスレーザーにより溶融池が形成されて固化した円状の溶接部20がレーザーの移動により、連続的に溶接線に沿って重なり合いながら形成される。溶接機は、パルス発振のYAGレーザーを使用し、溶接速度は25mm/秒と35mm/秒の2水準とし、シールドガスは窒素を20リットル/分の速度で供給した。また、No.5に示すアルミニウム合金板を溶接した場合にビードの溶け込み深さが約200μmとなる条件として、周波数とパルスレーザー出力を表3に示すように選定した。
Figure 0005887189
評価については、溶接割れの有無を肉眼および光学顕微鏡にて観察し、割れの無い健全なビードが得られたものを「○」、割れが生じたものを「×」と判定した。
また、図1のX−X線による断面として、溶接ビード断面を切り出して光学顕微鏡観察することにより、ビードの溶け込み深さを測定して、深さ180μm以上の場合に十分な継手強度が得られるものとして「○」、深さ180μm未満の場合に溶け込み不足により十分な継手強度が得られないものとして「×」と評価した(表中、「溶け込み」と記す)。また、図2(a)に示すように、異常部21(図2(b)参照)が生じなかった場合を、ビード形状が良好であるとして「○」、図2(b)に示すように、異常部21が生じた場合を、ビード形状が不良であるとして「×」と評価した(表中、「異常部の発生」と記す)。
一方、パルスレーザー溶接における突発的なビード異常部の発生について、その関連が予想されたポロシティ欠陥の発生状況について観察した。ポロシティの測定方法は、ポロシティ径は放射線透過試験で判定できないサイズであることから、顕微鏡観察により行った。即ち、図3に示すように、パルスレーザー溶接後の被溶接材10,10から、溶接ビード20を含むように溶接線方向にLsの長さの試験片を採取し(図3上図の四角の枠で示す部分)、この試験片を樹脂に埋め込み、溶接部の断面を溶接部の幅方向の中央部まで研磨した。そして、研磨面を倍率400〜1000倍で顕微鏡観察し、ポロシティ22の大きさ、数および位置を測定した。このポロシティ22の大きさは、目視にて、顕微鏡のスケールを使用し、最小径2.5μmから7.5μmまでの1.25μmピッチの4段階と、7.5μm超の1段階とで合計で5段階に分けて分類した。また、ポロシティ22の発生状況については、溶接線方向の長さがLsの観察面において、発生したポロシティ22の直径からその面積を算出し、これにその面積の範囲に含まれるポロシティ22の数を乗算し、これを全ての面積範囲について総計して総断面積を求め、これを観察距離Lsで除して、ポロシティ発生度を算出した。即ち、ポロシティ発生度は、下記式にて算出した。
ポロシティ発生度(μm/mm)={採取した断面のポロシティ総断面積(面積×個数)}/Ls
その結果、ポロシティ発生度が3.0μm/mm以下の場合に、ビード外観は良好であり、ポロシティ発生度が3.0μm/mmを超えると、ビード外観に乱れが発生した。そこで、ポロシティ発生度が3.0μm/mm以下の場合は、ビード形成が良好(異常無し)ということで「○」、3.0μm/mmを超えると、ビード形成が不良(異常発生)ということで「×」と評価した。
(耐圧性)
前記成形性の評価で作製した角型ケースを用いて、蓋材を重ねてパルスレーザー溶接にて封止した角型電池ケースを、294kPa(3kg/cm)の内圧を作用させた状態で、100℃に加熱して2時間保持した。室温に戻した後、電池ケースの側面(横30mm×高さ50mmの面)の膨れの変位量を測定した。変位量が0.8mm以下であったものは耐圧性が優れているとして「◎」、0.8mmを超え、1.0mm以下であったものは耐圧性が良好であるとして「○」、1.0mmを超えたものは不良であるとして「×」と評価した。
なお、表中、耐力が合格基準を満たさないものは、数値に下線を引いて示し、鋳塊や圧延板が溶融し、評価できなかったものは、「−」で示す。また、耐圧性評価において、成形性が不良のために、評価を行なわなかったもの、パルスレーザー溶接で、ビードに割れや異常部が生じたため、評価を行なわなかったものは、「−」で示す。
Figure 0005887189
Figure 0005887189
(アルミニウム合金組成による評価)
表4に示すように、実施例あるいは参考例であるNo.1〜17は、本発明の範囲を満たすため、あるいは参考例のため、強度、成形性、パルスレーザー溶接性、耐圧性のすべてにおいて、優れていた。
一方、比較例であるNo.18〜35は、本発明の範囲を満たさないため、以下の結果となった。
No.18は、Mn含有量が下限値未満のため、耐圧性に劣った。一方、成形性については、Cu含有量によって耐力低下が抑制された結果、成形性は辛うじて確保された。なお、微細な金属間化合物の数は減少したものの、最大長が1μm以上の金属間化合物の面積率は0.3%を超えた。
No.19は、Mn含有量が上限値を超えるため、金属間化合物が多発かつ粗大化して、成形性に劣った。No.20は、Cu含有量が下限値未満のため、ビードが溶け込み不足となり、パルスレーザー溶接性に劣った。また、耐圧性に劣った。No.21は、Cu含有量が上限値を超えるため、成形性に劣った。また、ビードに割れが生じ、パルスレーザー溶接性に劣った。
No.22は、Mg含有量が下限値未満のため、強度、耐圧性に劣った。No.23は、Mg含有量が上限値を超えるため、成形性に劣った。また、ビードに割れ、異常部が生じ、ポロシティ発生度が高く、パルスレーザー溶接性に劣った。
No.24は、Si含有量が下限値未満のため、耐圧性に劣った。一方、成形性については、Cu含有量によって耐力低下が抑制された結果、成形性は辛うじて確保された。なお、微細な金属間化合物の数は減少したものの、最大長が1μm以上の金属間化合物の面積率は0.3%を超えた。No.25は、Si含有量が上限値を超えるため、ビードに割れが生じ、パルスレーザー溶接性に劣った。一方、成形性については、Cu含有量によって耐力低下が抑制された結果、成形性は辛うじて確保された。なお、粗大な金属間化合物が生成したものの、最大長が11μm以上の金属間化合物の個数密度は140以下となった。
No.26は、Fe含有量が下限値未満のため、金属間化合物が不足して、成形性に劣った。No.27は、Fe含有量が上限値を超えるため、金属間化合物が多発かつ粗大化して、成形性に劣った。No.28は、Zn含有量が上限値を超えるため、ビードに割れが生じ、パルスレーザー溶接性に劣った。
No.29は、Zr含有量が上限値を超えるため、成形性に劣った。No.30は、Cr含有量が上限値を超えるため、成形性に劣った。なお、No.29、30では、粗大な金属間化合物が生成したものの、最大長が11μm以上の金属間化合物の個数密度は140以下となった。No.31とNo.35は、Ti含有量が上限値を超えるため、ビードに異常部が生じ、ポロシティ発生度が高く、パルスレーザー溶接性に劣った。
No.32は、B含有量が上限値を超えるため、ビードに異常部が生じ、ポロシティ発生度が高く、パルスレーザー溶接性に劣った。No.33は、Ti含有量、B含有量が上限値を超えるため、ビードに異常部が生じ、ポロシティ発生度が高く、パルスレーザー溶接性に劣った。No.34は、Cu含有量、Mg含有量が下限値未満のため、強度、耐圧性に劣った。また、ビードが溶け込み不足となり、パルスレーザー溶接性に劣った。
(製造方法による評価)
表5に示すように、実施例あるいは参考例であるNo.36〜44は、本発明の範囲を満たすため、あるいは参考例のため、強度、成形性、パルスレーザー溶接性、耐圧性のすべてにおいて、優れていた。
一方、比較例であるNo.45〜53は、本発明の範囲を満たさないため、以下の結果となった。
No.45は、均熱処理温度が下限値未満のため、金属間化合物が多発して、成形性に劣った。No.46は、均熱処理温度が上限値を超えるため、鋳塊が溶融した。
No.47は、中間焼鈍での加熱速度が下限値未満のため、金属間化合物が多発して、成形性に劣った。No.48は、中間焼鈍での焼鈍温度が下限値未満のため、成形性に劣った。No.49は、均熱処理温度が下限値未満のため、鋳塊の均質化が不十分であり、また、中間焼鈍での焼鈍温度が上限値を超えるため、圧延板が溶融した。
No.50は、中間焼鈍での冷却温度が下限値未満のため、金属間化合物が多発して、成形性に劣った。No.51は、中間焼鈍での加熱速度、焼鈍温度および冷却速度が下限値未満のため、金属間化合物が多発して、成形性に劣った。No.52は、最終冷間圧下率が下限値未満のため、強度および耐圧性に劣った。No.53は、最終冷間圧下率が上限値を超えるため、成形性に劣った。
10 被溶接材(アルミニウム合金板)
20 溶接部(溶接ビード)
21 異常部(非定常溶け込み)
22 ポロシティ

Claims (4)

  1. Mn:0.4〜1.5質量%、Cu:1.2〜4.0質量%、Mg:0.2〜1.5質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Fe:0.05〜1.0質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる電池ケース用アルミニウム合金板において、
    前記不可避的不純物のうち、Zn:0.3質量%以下、Ti:0.02質量%未満、B:20質量ppm以下に規制し、
    耐力:220MPa以上、伸び:3.3%以上であり、
    前記電池ケース用アルミニウム合金板の圧延方向と板厚方向とに平行な切断面を観察面として、前記観察面の板厚方向中心を中心とした領域であって板厚方向長が板厚の38%である領域において、最大長が1μm以上の金属間化合物の面積率が0.3%を超え2.1%未満であり、かつ最大長が11μm以上の金属間化合物の個数密度が140個/mm以下であることを特徴とする電池ケース用アルミニウム合金板。
  2. さらに、Zr:0.15質量%以下、Cr:0.40質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の電池ケース用アルミニウム合金板。
  3. 請求項1または請求項2に記載の電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法であって、
    前記組成を有するアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を作製する鋳造工程と、
    前記鋳塊を420℃以上かつ前記アルミニウム合金の融点未満の温度で均質化熱処理を施す均質化熱処理工程と、
    前記均質化熱処理された鋳塊を、熱間圧延する熱間圧延工程と、
    前記熱間圧延工程後に冷間圧延して圧延板を作製する冷間圧延工程と、
    前記圧延板に中間焼鈍を施す中間焼鈍工程と、
    前記中間焼鈍された圧延板に圧下率20〜50%で最終冷間圧延を施す最終冷間圧延工程と、を含み、
    前記中間焼鈍は、前記圧延板を、100℃/分以上500℃/分以下の加熱速度で420℃以上かつ前記アルミニウム合金の融点未満の温度域に加熱し、この温度域に0〜180秒保持した後、300℃/分以上500℃/分以下の冷却速度で冷却することを特徴とする電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法。
  4. 請求項1または請求項2に記載の電池ケース用アルミニウム合金板を用いたことを特徴とする電池ケース。
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