JP2012092368A - 析出硬化型銅合金箔、及びそれを用いたリチウムイオン2次電池用負極、並びに析出硬化型銅合金箔の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】析出硬化型銅合金箔は、Crを0.05〜0.4質量%、Zrを0.01〜0.08質量%、Snを0.05〜0.3質量%、残部がCu及び不可避的不純物からなるCu−Cr−Zr系の銅合金であり、その圧延方向に垂直な断面の組織が、600nm×400nmの領域内の母相の結晶粒径が50μm以下であり、領域内に存在するCr又はZrを含有する任意の100個の析出物のうち、結晶粒径が最も大きい径の算術平均値が15nm以下であり、領域内の任意の10箇所の900nm2の領域内において15nm以下の析出物の個数が5個以上である。
【選択図】図1
Description
(1)600nm×400nmの領域内の母相の結晶粒径が50μm以下であり、
(2)前記領域内に存在するCr又はZrを含有する任意の100個の析出物のうち、前記結晶粒径が最も大きい径の算術平均値が15nm以下であり、
(3)前記領域内の任意の10箇所の900nm2の領域内において15nm以下の析出物の個数が5個以上である。
(1)前記銅合金材にSnを0.05〜0.3質量%含有させた銅合金を鋳造する工程、
(2)前記銅合金の鋳造工程で生じた析出物を一旦母相中に固溶させるための溶体化の効果を伴う熱間圧延を約900℃程度の温度で行って板材に加工する熱間圧延工程、
(3)前記板材に冷間圧延を施す第1の冷間圧延工程、
(4)前記板材に溶体化処理を施す溶体化処理工程、
(5)前記板材に80%以上の加工度の冷間圧延を施して箔材を形成する第2の冷間圧延工程、及び
(6)前記箔材に350℃以上550℃以下の温度で時効処理を施す時効処理工程。
第1の実施の形態に係る銅合金は、リチウムイオン二次電池の負極の材料として好適に用いられる。
この第1の実施の形態におけるCu−Cr−Zr系の銅合金は、Cu(銅)を母相として、Cr(クロム)を0.05〜0.4質量%、Zr(ジルコニウム)を0.01〜0.08質量%含有し、残部が不可避的不純物からなる構成を基本組成成分としている。Cuとしては、無酸素銅を用いることが好適である。
Crは、時効処理により単独でCu母相中に析出して強度及び耐熱性を向上させる作用を発揮する。Cr含有量が0.05質量%未満では析出が不十分であるため、所望の効果が期待できない。一方、Cr含有量が0.4質量%を超えると、溶体化処理時における未固溶Crが粗粒第2相析出物を形成し、銅合金の強度を増加させることができないばかりでなく、加工性の低下を招くので好ましくない。
Zrは、時効処理によりCuと化合物を形成してCu母相中に析出し、銅合金を強化する作用を有する。Zr含有量が0.01質量%未満では析出が不十分であるため、所望の効果が期待できない。一方、Zr含有量が0.08質量%を超えると、溶体化処理時の未固溶Zrが粗大な粗粒第2相析出物を形成し、銅合金の強度を増加させることができないばかりでなく、加工性の低下を招くので好ましくない。Zr含有量としては、0.01〜0.05質量%にすることで更に微細な析出物を形成するので好ましく、微細な析出物は強度と延性との双方を向上させることができる。
Snは、高温でのCrの不均一析出を抑制する効果を有する。この効果により熱間圧延加工中、その後の冷間圧延時において、Crが析出せずにCu母相中の固溶Cr量が多くなり、時効処理時において微細なCrが析出し、銅合金の強化につながる。Snは更に、固溶強化による銅合金の強化作用を有しているが、Sn含有量が0.01質量%未満では、所望の効果が期待できない。一方、Sn含有量が0.3質量%を超えると、導電率の低下を招くので好ましくない。
Mgは、溶体化処理での再結晶組織を微細化させる効果を有する。この効果によって強度の向上が得られる。更には、冷間圧延時の加工性が良くなり、銅合金の肌荒れを抑制することができる。Mgは、固溶強化による銅合金の強化作用をも有しているが、Mg含有率が0.01質量%未満では、所望の効果が期待できない。一方、Mg含有率が0.3質量%を超えると、導電率の低下を招くので好ましくない。
図1を参照すると、図1には、第1の実施の形態に係る銅合金箔を製造するための典型的な製造工程が示されている。この銅合金箔を製造する工程は、図1に示すように、溶製工程、熱間圧延工程、第1の冷間圧延工程、溶体化処理工程、第2の冷間圧延工程、及び時効処理工程の一連の工程からなる。これらの工程で順番に処理を行うことで初期の目的とする析出硬化型銅合金箔が効果的に得られる。
この溶製工程においては、CuにCr、Zr、及びSnを添加し、溶解炉を用いて溶製して銅合金材となるインゴットを鋳造する(ステップ10、以下、ステップを「S」という。)。溶製工程では、0.1質量%以上0.4質量%以下のCrと、0.01質量%以上0.08質量%以下のZrと、0.05質量%以上0.3質量%以下のSnとを含有する銅合金材、あるいはこれらの3種の成分に加えて、0.01質量%以上0.3質量%以下のMgを含有する銅合金材を鋳造する。
この熱間圧延工程においては、約900℃程度の温度で加熱したインゴットに熱間圧延を施し、板材を形成する(S20)。
この第1の冷間圧延工程においては、熱間圧延後の板材に冷間圧延を施す(S30)。この冷間圧延では、定法に従い所定の厚みになるように冷間圧延の加工度を調整する。
この溶体化処理工程においては、冷間圧延後の板材に溶体化処理を施す(S40)。溶体化処理とは、板材中のCr、Zr、Sn、及びMgをCu母相中に固溶させる機能である。最終工程となる時効処理工程において生成されるCr及びZrを含有する析出物の銅合金中における分布状態をより均一にすることができるとともに、析出物を微細な状態に保つことができる。
この第2の冷間圧延工程においては、溶体化処理後の板材に80%以上の加工度の冷間圧延を施す(S50)。この冷間圧延では、リチウムイオン二次電池用の負極の集電体として要求される厚みの箔材を形成する。箔材の厚さとしては、20μm以下であることが好適であるが、所定の厚みになるように冷間圧延の加工度を調整することで、20μm以上においても同等の特性を得ることができる。
最終工程となる時効処理工程においては、冷間圧延を施された銅合金箔材に350℃以上550℃未満の温度と所定の時間で、時効処理を施す(S60)。この時効析出によって析出硬化が起こり、製造される銅合金箔の強度や延性等の特性を向上させることができる。第2の冷間圧延工程における冷間圧延により、銅合金箔中に多数の格子欠陥が導入され、これらの格子欠陥が時効処理における析出硬化において析出物(例えばCr単体、ZrとCuとの化合物)の析出の起点として機能する。時効温度が350℃未満の温度では延性の向上が得られず、550℃以上の温度では強度の低下を招くので好ましくない。
(析出硬化型銅合金箔)
上記製造工程で得られた析出硬化型銅合金箔は、リチウムイオン2次電池用の電極として用いられる。その銅合金箔の厚さとしては、20μm以下であることが好適であり、ASTM E−345に準拠して測定した引張試験による伸びが3.0%以上であり、引張強さが450MPa以上であることが好適である。
(1)析出硬化型銅合金箔における任意の1箇所として、600nm×400nmの領域内のCu母相の結晶粒径が50μm以下であること、
(2)600nm×400nmの領域内に存在するCr又はZrを含有する析出物のうち、任意の100個の析出物を選択した場合に、各析出物の結晶粒径が最も大きい径(長径)の算術平均値が15nm以下であること、好ましくは、各析出物の長径の算術平均値が13nm以下であること、及び
(3)600nm×400nmの領域内の任意の10箇所の900nm2の領域を選択した場合に、それぞれの900nm2の領域内において長径が15nm以下の析出物の存在個数が5個以上であること。
(リチウムイオン2次電池用負極)
上記のように構成された析出硬化型銅合金箔としては、リチウムイオン2次電池用の負極集電体に用いることが好適である。図2を参照すると、図2にはリチウムイオン2次電池用負極1の構成が模式的に示されている。このリチウムイオン2次電池用負極1は、析出硬化型銅合金箔からなる負極集電体2と、負極集電体2上に設けられた負極活物質層3とを備えている。その負極活物質としては、Si(珪素)を含有するCu−Si合金系、あるいはSn(スズ)を含有するCu−Sn合金系が用いられる。この合金系材料メッキを析出硬化型銅合金箔1上に施すことで負極活物質層3を形成する。高強度と優れた延性との双方を兼ね備えた材料からなる負極集電体2を形成することにより、負極集電体2からの負極活物質層3の剥離を抑制できるとともに、負極集電体2の体積膨張を小さく抑えることができるようになる。
実施例1〜8の銅合金箔を製作するために、無酸素銅を母材にして、表1に示す合金組成の銅合金を溶製し、インゴットに鋳造した。そのインゴットを、種々の条件下で、900℃での熱間加工、第1の冷間加工、900℃での溶体化処理、及び80%以上の加工度で第2の冷間加工を順次行い、20μm以下の厚みを有する銅合金箔を製作した。そして、これらの銅合金箔に対して、表1に示す種々の温度で時効を行った。
伸び(延性)や引張強さ(強度)の評価方法としては、実施例1〜8、及び比較例1〜9の銅合金箔に対して引張試験を行ない、ASTM E−345に準拠して圧延平行方向の引張強さと伸びとを測定した。
析出物の粒径や900nm2あたりの析出物の個数を観察する方法としては、実施例1〜8、及び比較例1〜9の銅合金箔に対して薄膜処理を施し、電子顕微鏡による観察を行なった。電子顕微鏡で撮影した画像から、100個の析出物について銅合金箔の長手方向長さの平均値を析出物の平均粒径として算出し、10箇所での析出物の個数の平均値を900nm2あたりの析出物の個数として算出した。
表1から明らかなように、実施例1〜8の銅合金箔の組成と時効温度とは、許容規定範囲を満足するものであり、15nm以下の平均粒径を有する析出物が銅合金箔中に多く存在し、その平均粒径の析出物が900nm2あたり5個以上存在する。これにより、初期の目的とする規定範囲を満足する強度と延性との両立が可能となるということが理解できる。
比較例1及び2の銅合金箔の組成は、規定外のCrを含有している。比較例1及び2では、伸びが初期の目的とする3%の規定範囲を満たし、初期の目的とする15nm以下の析出物の平均粒径が得られる。しかしながら、比較例1及び2では、引張強さが450MPaの規定範囲より小さくなり、しかも、900nm2あたりの個数が5個の規定範囲より少なくなり、初期の目的とする規定範囲から外れていた。比較例1及び2の銅合金箔は、初期の目的とする強度と延性との両立を達成できなかった。
比較例3及び4の銅合金箔の組成は、規定外のZrを含有している。比較例3では、伸びが初期の目的とする3%の規定範囲を満たし、初期の目的とする15nm以下の析出物の平均粒径が得られるが、引張強さが初期の目的とする450MPaの規定範囲より小さくなり、しかも、900nm2あたりの個数が初期の目的とする5個の規定範囲より少なかった。比較例4では、析出物の平均粒径が大きくなり、引張強さが小さく、900nm2あたりの個数が少なくなっており、初期の目的とする規定範囲から外れていた。比較例3及び4の銅合金箔は、強度と延性との両立を達成できなかった。
比較例5及び6の銅合金箔の組成は、規定外のSnを含有している。比較例5及び6では、比較例4と同様に、伸びが初期の目的とする3%の規定範囲を満たしているが、析出物の平均粒径が大きくなり、引張強さが小さく、しかも、900nm2あたりの個数が少なく、初期の目的とする規定範囲から外れていた。比較例5及び6の銅合金箔は、強度と延性との両立を達成できなかった。
比較例7の銅合金箔の組成は、規定外のMgを含有している。比較例7では、伸びが初期の目的とする3%の規定範囲を満たしているが、比較例4と同様に、析出物の平均粒径が大きくなり、引張強さが小さく、しかも、900nm2あたりの個数が少なくなっており、初期の目的とする規定範囲から外れていた。比較例7の銅合金箔は、強度と延性との両立を達成できなかった。
比較例8及び9の銅合金箔の組成は、初期の目的とする規定範囲を満足しているが、規定外の温度で時効が施されている。比較例8では、時効温度が初期の目的とする350℃の規定範囲より小さく、伸びが初期の目的とする3%の規定範囲より小さくなり、延性の向上を果たせなかった。しかも、比較例8では、900nm2あたりの個数が初期の目的とする5個の規定範囲より少なかった。
Claims (9)
- Cuを母相として、Crを0.05〜0.4質量%、Zrを0.01〜0.08質量%、Snを0.05〜0.3質量%、及び不可避的不純物を含有するCu−Cr−Zr系の銅合金であり、圧延方向に垂直な断面の組織が次の条件を満たすことを特徴とする析出硬化型銅合金箔。
(1)600nm×400nmの領域内の母相の結晶粒径が50μm以下であり、
(2)前記領域内に存在するCr又はZrを含有する任意の100個の析出物のうち、前記結晶粒径が最も大きい径の算術平均値が15nm以下であり、
(3)前記領域内の任意の10箇所の900nm2の領域内において15nm以下の析出物の個数が5個以上である。 - 前記Cu−Cr−Zr系の銅合金にMgを0.01〜0.3質量%含有することを特徴とする請求項1記載の析出硬化型銅合金箔。
- 前記結晶粒径が最も大きい径の算術平均値が13nm以下であることを特徴とする請求項1記載の析出硬化型銅合金箔。
- ASTM E−345に準拠して測定した引張試験による伸びが3.0%以上であり、引張強さが450MPa以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の析出硬化型銅合金箔。
- 厚さが20μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の析出硬化型銅合金箔。
- 上記請求項1〜5のいずれかに記載の析出硬化型銅合金箔を負極集電体として用いたことを特徴とするリチウムイオン2次電池用負極。
- 前記負極集電体に負極活物質としてSi又はSnを含有する合金系材料を用いたことを特徴とする請求項6記載のリチウムイオン2次電池用負極。
- Cuを母相として、Crを0.05〜0.4質量%、Zrを0.01〜0.08質量%、及び不可避的不純物を含有するCu−Cr−Zr系の銅合金材に対し、次の一連の工程を少なくとも行うことを特徴とする析出硬化型銅合金箔の製造方法。
(1)前記銅合金材にSnを0.05〜0.3質量%含有させた銅合金を鋳造する工程、
(2)前記銅合金の鋳造工程で生じた析出物を一旦母相中に固溶させるための溶体化の効果を伴う熱間圧延を約900℃程度の温度で行って板材に加工する熱間圧延工程、
(3)前記板材に冷間圧延を施す第1の冷間圧延工程、
(4)前記板材に溶体化処理を施す溶体化処理工程、
(5)前記板材に80%以上の加工度の冷間圧延を施して箔材を形成する第2の冷間圧延工程、及び
(6)前記箔材に350℃以上550℃以下の温度で時効処理を施す時効処理工程。 - 前記Cu−Cr−Zr系の銅合金材にMgを0.01〜0.3質量%含有させて鋳造することを特徴とする請求項1記載の析出硬化型銅合金箔の製造方法。
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