JP3719661B2 - 電池ケース用アルミニウム合金板およびアルミニウム合金製電池ケース - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リチウムイオン電池ケース等の電池ケース用アルミニウム合金板に関し、特に、高い強度および高い成形性が付与された電池ケース用アルミニウム合金板およびアルミニウム合金製電池ケースに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、携帯電話やハンディパーソナルコンピュータ等の電源として搭載されているリチウムイオン2次電池には、通常、Niめっき鋼板またはステンレス鋼板等の金属材料に複数の絞り加工の工程と、しごき加工の工程とを適宜に組み合わせたプレス加工等の成形加工が施されて形成された電池ケースが使用されている。
【0003】
このようなリチウムイオン2次電池における近時の要求によれば、単位質量当たりのエネルギ出力密度の向上を図ることであり、これを実現するためにリチウムイオン2次電池(以下、単に「電池」という。)の電池ケース(以下、単に「電池ケース」という。)に対して一層の小型化と軽量化を図ることが要求されている。そこで、この電池ケースのより一層の小型化と軽量化とを目的として、この電池ケースにJISA3003合金等の軽量性と強度とを備えたアルミニウム合金が一部採用されている。
【0004】
ところで、このような電池ケースでは、電池の充電や放電が行なわれる際に電池ケースの内部の圧力が上昇し、さらに高温環境下で使用される場合にはこの電池ケースの内部の圧力が大きく上昇する。そのため、電池ケースが膨れて変形し、場合によっては電池ケースの破損が生じる場合がある。その結果、電子機器の性能を損ねるおそれがある。
【0005】
そこで、このような電池ケースに要求される特性として、電池の充電および放電時はもとより、高温環境下で使用される状況を想定して、これらの使用状況で電池ケースの内圧が上昇した場合にも、電池ケースが所期の形状を保持できることが挙げられる。その一方で、電池の小型化や軽量化および低コスト化を図るべく、電池ケースの薄肉化を図ることが強く要求されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような電池ケースに適用可能なアルミニウム合金素材として前記したJISA3003合金等を使用し、電池ケースの軽量化を図るべくこのアルミニウム合金素材の板厚をある程度薄くすると、変形が生じ易くなり、その結果、電池ケースの耐圧性が低下して比較的小さな圧力が作用しても膨れが生じ易くなるという問題が発生する。
【0007】
すなわち、従来のJISA3003合金等のアルミニウム合金素材では、電池ケースで所望とされている軽量化を目指して薄肉化を図ると所要の耐圧性が得られなくなるといったように素材の薄肉化と耐圧性とが二律背反的な関係にあるため、電池ケースに対してアルミニウム合金の薄肉化と耐圧性とを両立させて満足させることは困難であった。
【0008】
このため、特開平10−284014号公報では、JIS3000系のアルミニウム合金にCu等を添加することによりアルミニウム合金の強度を向上させて、このアルミニウム合金の板厚を薄肉化して電池ケースの軽量化を可能とする技術が開示されている。この技術によれば、所要の強度を確保してある程度の軽量化が可能となり、しかも所要の成形性を有したアルミニウム合金が得られるようになる。しかしながら、このようなアルミニウム合金は、「絞り加工」の成形加工では問題がみられないものの、加工硬化の程度が大きな「しごき加工」を施してなる電池ケースには必ずしも充分とは言えなかった。
【0009】
さらに、電池ケースとして形成された加工後の側壁硬度は、ビッカース硬さで70以下という値であることが測定されており、電池ケースの薄肉化が進められる状態であって、充電、放電が繰り返され内部気圧が上昇する電池ケースに対して、更なる加工後の側壁硬度の向上が望まれていた。
【0010】
また、従来のJIS3000系の一つであるJIS3003合金のH14調質では強度不足による耐圧性不足が発生するため、Mgの添加により強度を高めるものも存在するが、加工硬化性が高くなるためにしごき加工性が低下してしまう。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、薄肉化しても絞り加工およびしごき加工の際に破断が生じることのない成形性を備えていると共に、電池ケースに成形加工された後に、この電池ケース内部の圧力が上昇した場合でも膨れによる変形量を小さく抑え、耐圧性を高くした電池ケース用アルミニウム合金板およびアルミニウム合金製電池ケースを提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、3000系のアルミニウム合金の組成で、強度上昇に寄与するCu、Mg、Mnの含有量を所定の範囲内に規制するとともに、アルミニウム合金中の化合物形成に寄与するSiおよびFeの含有量を所定の範囲内に規制し、なおかつこのような組成を有するアルミニウム合金で板の耐力および加工後の側壁硬度が所定の範囲にあるように構成することによって、超硬質にして、高いしごき加工性が得られることを知見して前記課題を解決することができることを見いだした。
【0013】
すなわち、前記課題を解決するための本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板は、Cuを0.2質量%を超えて0.5質量%まで(0.2<Cu≦0.5)、Mgを0.1質量%から0.8質量%まで(0.1≦Mg≦0.8)、およびMnを0.6質量%から1.5質量%まで(0.6≦Mn≦1.5)含み、更に、Siを0.05質量%から0.5質量%まで(0.05≦Si≦0.5)、Feを0.1質量%から1.0質量%まで(0.1≦Fe≦1.0)含み、残部がAlと不可避的不純物とからなる組成を有し、かつ、前記組成を有する板材の硬度がビッカース硬さで82以上90以下となるように構成した。
【0014】
このように構成すれば、アルミニウム合金中、強度に寄与するCu、Mg、Mnの含有量を所定の範囲内に規制することにより適正化し、さらに化合物を形成させて成形性に寄与するSiおよびFeの両方の含有量を所定の範囲内に規制することにより適正化し、なおかつ板材の耐力およびその板材のビッカース硬さを所定の範囲内に規制したので、薄肉化しても、所定の強度と成形性、並びに所望の耐圧性を有する電池ケース用アルミニウム合金板が具現化される。
【0015】
なお、前記電池ケース用アルミニウム合金板は、前記組成を有する板材を打ち抜いた直径が60mmのブランク板から絞りしごき加工を行い側壁部高さが50mmの電池ケースとした際に測定した側壁硬度が、ビッカース硬さで82以上95以下となるように構成すると都合がよい。このとき、前記組成を有する板材の硬度がビッカース硬さで82以上90以下となる構成を備えているとさらに都合がよい。
【0016】
このように構成すれば、電池ケースとして薄肉に形成された場合であっても、電池ケースの側壁硬度が確保でき、所望の強度を有する電池ケースの側壁硬度が確保でき、所望の強度を有する電池ケース用アルミニウム合金板が具現化される。
【0017】
さらに、前記電池ケース用アルミニウム合金板において、前記絞りしごき加工前の板材のビッカース硬さから、前記ブランク板から絞りしごき加工を行い前記電池ケースとした際に測定した側壁硬度であるビッカース硬さを引いた値が、5以下となるように構成した。
【0018】
このように構成すれば、冷間圧延時の加工硬度が小さなアルミニウム合金の素材に対して所望の強度を付与したので、加工硬化性を低下させ、しごき加工に適した強度を有し、かつ、電池ケースの側壁硬度の向上した電池ケース用アルミニウム合金板が具現化される。
【0019】
また、アルミニウム合金製電池ケースとしては、Cuを0.2質量%を超えて0.5質量%まで、Mgを0.1質量%から0.8質量%まで、およびMnを0.6質量%から1.5質量%まで含み、更に、Siを0.05質量%から0.5質量%まで、Feを0.1質量%から1.0質量%まで含み、残部がAlと不可避的不純物とからなる組成を有し、かつ、絞りしごき加工を行い電池ケースとしたときの側壁硬度が、ビッカース硬さで82以上95以下となるように構成した。
【0020】
このように構成すれば、電池ケースとして形成された際にその側壁が薄肉に形成された場合であっても、絞りしごき加工に対する加工性を維持しながら、電池ケースの側壁硬度が確保でき、所望の耐圧性を有する電池ケース用アルミニウム合金が具現化される。
【0021】
なお、前記アルミニウム合金板において、絞りしごき加工後の成形品である電池ケースの側壁硬度から前記加工前の板硬度を引いた値が、ビッカース硬さで5以下となるように構成すると都合がよい。また、電池ケース用アルミニウム合金板は、所定の強度と成形性とを両立させて具現化させることが可能な組成を有する電池ケース用アルミニウム合金板に対し、冷間圧延時の加工硬化によってアルミニウム合金の素材に対して所望の強度を付与するべく冷間圧延の圧延率を規制して製造することが望ましい。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板を、本発明の実施の形態に基づいて詳細に説明する。なお、本発明はこのような実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく限りにおいて、適宜に変更することが可能である。
本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板は、一連の成形加工が順次に施されるトランスファープレスによって所望の形状に成形されてなる、前記したリチウムイオン2次電池の電池ケースに好適なものである。
【0023】
すなわち、本発明に係るアルミニウム合金は、トランスファープレスに含まれる、多段階の絞り−しごき加工のような特に過酷な加工(以下、単に「しごき加工等」という。)に対して優れた加工性を有するものである。
【0024】
また、前記したようにリチウムイオン2次電池等で放電または充電が繰り返されたり、あるいは高温環境下で使用されたり、電池ケース内部の温度が上昇しそれに伴って圧力が上昇した場合でも、この電池ケースの膨れの変形量を適切に低く抑えることができるものである。
このように本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板にあっては、強度と成形性とに優れていることが必要とされる。
【0025】
〔電池ケース用アルミニウム合金の構成〕
そこで、まず、強度と成形性とを同時に満足させる電池ケース用アルミニウム合金板を実現するために合金の組成を最適化した。すなわち、電池ケース用アルミニウム合金板の組成は、Cuが0.2質量%を超えて0.5質量%まで、Mgを0.1質量%から0.8質量%まで、およびMnを0.6質量%から1.5質量%まで含み、更に、Siを0.05質量%から0.5質量%まで、Feを0.1質量%から1.0質量%まで含み、残部がAlと不可避的不純物とからなる組成を有している。
【0026】
そして、所定の製造工程により製造されることで、その電池ケース用アルミニウム合金板の加工前の板材の硬度がビッカース硬さで82以上90以下としている。そして、しごき加工等を行った後の電池ケースとしての側壁硬度がビッカース硬さで82以上95以下となるように成形されている。なお、電池ケース用アルミニウム合金板の耐力が282から300MPaとすることが好ましい。
【0027】
はじめに、この電池ケース用アルミニウム合金板の組成として、Cu、Mg、Mn、さらに、Si、Feの各元素の含有量を特定の値となるように数値限定した理由について説明する。
【0028】
(Cuの含有量:0.2〜0.5質量%)
Cuは、固溶強化によりアルミニウム合金素材の強度を高め、耐圧強度を向上させる作用を有する。Cuの含有量が0.2質量%以下ではこの効果が小さく、一方、Cuの含有量が0.5質量%を超えるとアルミニウム素材の成形性を低下させるとともに電池ケースのケース本体部と蓋部とをレーザ溶接等により固着させる際に割れが生じやすくなる。したがって、Cuの含有量は0.2を超えて0.5質量%とする。
【0029】
(Mgの含有量:0.1〜0.8質量%)
Mgは、固溶強化によりアルミニウム合金素材の強度を高め、耐圧強度を向上させる作用を有する。Mgの含有量が0.1質量%未満ではこの効果は小さく、一方、Mgの含有量が0.8質量%を超えると加工硬化性が高まってアルミニウム合金素材の成形性が低下し、また前記レーザ溶接時に割れが生じやすくなる。したがって、Mg含有量は0.1から0.8質量%とする。
【0030】
(Mnの含有量:0.6〜1.5質量%)
Mnは、母相内に固溶して強度を高める作用を有する。Mnの含有量が0.6質量%未満であるとこの効果は小さく、一方、Mnの含有量が1.5質量%を超えると粗大な金属間化合物が生成し、成形時の割れの起点となりやすいため成形性が低下する。したがって、Mn含有量は0.6から1.5質量%とする。
【0031】
(Siの含有量:0.05〜0.5質量%)
Siは、Al,Mn,Fe等と金属間化合物を形成し,成形性を向上させる効果を有する。しかし、これらのSi元素の含有量が0.05質量%未満であるとその効果が小さく、一方、Si元素の含有量が0.5質量%を超えると金属間化合物が粗大化し、成形時の割れの起点となりやすいため成形性が低下する。したがって、Si元素の含有量は、0.05から0.5質量%とする。
【0032】
(Feの含有量:0.1〜1質量%)
Feは、Siと同様に金属間化合物を形成するため、成形性を向上させる効果を有する。しかし、Fe元素の含有量が0.1質量%未満であると化合物の形成量が少なくその効果が小さく、一方、Fe元素の含有量が1.0質量%を超えると金属間化合物が粗大化し、成形時の割れの起点となりやすいため成形性が低下する。したがって、Fe元素の含有量は、0.1から1.0質量%とする。
【0033】
つぎに、加工前の硬度(および耐力)の条件について述べる。電池ケース用アルミニウム合金板は、前記組成成分であることと併せ、しごき加工等を行う前の電池ケース用アルミニウム合金板の硬度がビッカース硬さで82以上90以下となるように設定されている。なお、電池ケース用アルミニウム合金板は、耐力が、所定の成形工程により、282から300MPaとなるように設定されていると都合がよい。
【0034】
〔電池部品ケース用アルミニウム合金の製造方法〕
アルミニウム合金板は、高いしごき性が付与されるためにアルミニウム合金を冷間圧延する際の圧延率を規制することにより、超硬質化が図られ、所望の低い加工硬化性を有することになる。ここでは、電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法で、アルミニウム合金を熱間圧延する工程の後、仕上げ冷間圧延を行なうようにしている。この冷間圧延を行なう際の圧延率を75%以上とした。なお,熱間圧延後、並びに冷間圧延の途中に焼鈍した後で、冷間圧延することは本構成に含まれる。
【0035】
(冷間圧延率:75%以上)
この冷間圧延は、所望の板厚に調整すると同時に、加工硬化によってアルミニウム合金素材の強度を所望の強度に向上させるために行なわれる。なお、この冷間圧延の圧延率は、高ければ高いほど強度の高いアルミニウム合金板が得られるようになる。
【0036】
本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板の製造方法において、このように比較的高い圧延率で冷間圧延が施されたアルミニウム合金板の素材は、引張強さと耐力との差が一層縮められ、従って、加工硬化性が比較的低くなっているため、しごき加工の際の加工性が高くなる。そして、電池ケース用アルミニウム合金板のしごき加工等を行う前の硬度を、マイクロビッカース硬度計において、荷重を300gで20秒間加えることにより測定すると、しごき加工等の前の硬度をビッカース硬さにおいて、82〜90の範囲となるように、硬度を設定して構成している。このときの耐力が282から300MPaとなるように設定されていると都合がよい。
【0037】
しごき加工等を行った後の電池ケースの側壁硬度を、マイクロビッカース硬度計において、荷重を300gで20秒間加えることにより測定すると、82〜95の範囲内となるようにしている。これは、従来のJIS3003合金板の加工前の硬度よりも著しく高い値である。電池ケースに形成されたときに、その側壁硬度が、ビッカース硬さにおいて82未満であると、膨れ等の変形を生じる可能性が高い。また、電池ケースに形成されたときに、その側壁硬度が、ビッカース硬さにおいて95を超えていると、良好な加工結果を得られない可能性が高い。
【0038】
なお、電池ケース用アルミニウム合金板は、その耐力が282より小さく、かつビッカース硬さが82より小さいと、しごき加工等を行って電池ケースとした場合に、膨れ等の変形を生じる可能性が高い。また、電池ケース用アルミニウム合金板は、その耐力が300より大きく、かつビッカース硬さが90より大きい、しごき加工等を行う場合に適切な加工結果を得られない可能性が高い。
【0039】
また、しごき加工等を行った後の成形品である電池ケースの側壁高度から、しごき加工等を行う板の硬度を引いた値が、ビッカース硬さで5以下になるように構成されている。ビッカース硬さで5以上であると、硬度および加工性が求められる電池ケース用アルミニウム合金板において加工硬化が大きくなり望ましくない。さらに、加工後の成形品である電池ケースの側壁硬度から加工前の板材の硬度を引いた値が、ビッカース硬さで5以下となり、その値が0に近づくほど加工硬化が小さく、電池ケース用アルミニウム合金板として都合がよい。
【0040】
なお、電池ケース用アルミニウム合金板は、加工前の板厚さを0.3〜0.8mm程度から加工後0.1〜0.4mm程度への絞り、しごき加工を行うようにしており、直方体の角型形状になるように成形される。なお、この電池ケース用アルミニウム合金板により成形されるアルミニウム合金製電池ケース等の成型品の形状は、絞り、しごき加工を施して有底筒形状となれば、特に限定されるものではない。
【0041】
また、しごき加工等を行う前後の板厚減少率の適正範囲は、30〜80%であることが好ましい。この板厚減少率が30未満である場合、あるいは、板厚減少率が80を超える場合は、形成する電池ケースの所望の側壁厚さを達成することが困難となる。
【0042】
そして、例えば、アルミニウム合金製電池ケースを前記した電池ケース用アルミニウム合金板から成形する場合は、所定形状にカットされた電池ケース用アルミニウム合金板を複数回にわたって絞りあるいはしごき加工を行い、徐々に有底筒形状の側壁面を高く成形することで、所定の側壁高さ底面積を備えるアルミニウム合金製電池ケースとしている。ここでは、直径60mmのブランク板から側壁高さが50mmの電池ケースとしたときの側壁硬度を、ビッカース硬さにおける測定を行ったときの値として示している。
【0043】
【実施例】
以下、電池ケース用アルミニウム合金板を実際に製造して得られた、本発明の必要条件を満足する電池ケース用アルミニウム合金板の実施例と、本発明の必要条件を満足しない比較例とを対比させて本発明について詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく限りにおいて適宜に変更することが可能である。
【0044】
〔第1の実施例〕
表1は、本発明の必要条件を満足する実施例の構成と、本発明の必要条件を満足しない比較例の構成とをそれぞれ示す表である。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すように、No.1〜No.20のそれぞれの組成を有し、残部がアルミニウムおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金の鋳塊に均質化処理を施し、熱間圧延した後、圧延率を80%として冷間圧延を施し、板厚が0.3mmのアルミニウム合金板を作製した。
【0047】
すなわち、表1に示す通り、本発明の必要条件を満足する実施例(No.1〜9)はいずれも本発明で規制した組成を有するものであり、本発明の必要条件を満足しない比較例(No.10、11)は、各々Siの含有量が、各々本発明で規制した範囲の下限値未満または上限値超である。
【0048】
また、比較例(No.12、13)は、Feの各々本発明で規制した範囲の下限値未満または上限値超であり、比較例(No.14,15)は、各々Cuの本発明で規制した範囲の下限値未満または上限値超であり、比較例(No.16、17)はMnの含有量が、本発明で規制した範囲の下限値未満または上限値超であり、比較例(No.18、19)は、各々Mgの本発明で規制した範囲の下限値未満または上限値超である。また、比較例(No.20)はJISA3003合金であって、Siの範囲が上限値超であり、Mgの値が不明なものである。
【0049】
次に、このようにして作製したアルミニウム合金板に対して、引張試験、電池ケース形状(角型)への成形加工試験、その成形加工前後の硬度測定、およびケース封孔後の耐圧試験を行った。
成形加工試験は、側壁のしごき加工率を50%として、縦5mm、横30mm、高さ50mmの角形ケースを成形し、成形可能であったものは成形性が良好であり問題なしとして「◎」、わずかに肌荒れ「○」、割れ又は肌荒れが著しく発生したものは成形性が不良であるとして「×」と評価した。
【0050】
成形加工後の硬度測定は、図1に示すように、側壁の広幅面の底部から1/4,2/4,3/4の測定ポイントP1,P2,P3の部位の硬度をマイクロビッカース硬度計を用いて測定し、平均値を求めた。
【0051】
また、耐圧試験は、ケースを封孔して294kPa(3kg/cm2)の内圧を作用させた状態で、100℃の温度に加熱して2時間保持した後、室温に戻し、その後ケース側面の膨れの変位量を測定した。この膨れ変位量が1.2mm以下であったものは耐圧性が優として「◎」、1.2mm〜1.5mmであったものは耐圧性が良好であるとして「○」、1.5mmを超えたものは不良であるとして「×」とした。
これらの試験結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2に示す通り、本発明の必要条件を満足する実施例(No.1〜9)は、アルミニウム合金板の組成、耐力、成形加工前後の硬度がいずれも本発明で規制した範囲内にあるため、優れたしごき成形加工性、耐圧性を示している。
【0054】
一方、比較例(No.10)は、表1に示すようにSiの含有量が本発明で規制した範囲の下限値未満であり、(No.11)は上限値を超えるため、しごき成形加工性が劣るものであった。比較例(No.12)は、Feの含有量が表1に示すように本発明で規制した範囲の下限値未満であり、(No.13)は上限値を超えるため、しごき成形加工性が劣るものであった。
【0055】
また、比較例(No.14)は、Cuの含有量が本発明で規制した範囲の下限値未満であるため、耐圧性が劣るものとなっている。一方、比較例(No.15)は、Cuの含有量が本発明で規制した範囲の上限値を超えているため、しごき成形加工性が劣るものであった。
【0056】
さらに、比較例(No.16)は、Mnの含有量が本発明で規制した範囲の下限値未満であるため耐圧性が劣るものとなっている。比較例(No.17)は、Mnの含有量が本発明で規制する上限値を超えているため、しごき成形加工性が劣るものであった。比較例(No.18)は、Mgの含有量が本発明で規制した範囲の下限値未満であるため耐圧性が劣るものとなっている。比較例(No.19)は、Mgの含有量が本発明で規制した範囲の上限値を超えるためしごき成形加工性が劣るものであった。
【0057】
〔第2の実施例〕
前記の第1の実施例における表1に示される、実施例1(No.1)の組成を有するアルミニウム合金鋳塊に均質化処理を施した後、熱間圧延を行い、更に表3に示す条件にて冷間圧延を行い、板厚が0.3mmのアルミニウム合金板を作製した。このようにして作製した各種のアルミニウム合金板について、第1の実施例と同様の試験を行って評価した。これらの評価結果を、表3に示す。なお、成形前、成形後は、実施の形態で説明したしごき加工等を行った前後を示す。
【0058】
【表3】
【0059】
表3に示す通り、本発明の必要条件を満足する実施例(No.21〜22)は、いずれもアルミニウム合金板の組成、耐力および成形加工前後の硬度が本発明で規制した範囲内にあるため、優れたしごき成形加工性、耐圧性を示している。
【0060】
一方、本発明の必要条件を満足しない比較例(No.23)は、耐力、成形加工後の硬度、成形加工前後の硬度差が本発明で規制した範囲外であるためしごき成形加工性が劣るものとなっている。また、比較例(No.24)は、耐力が本発明で規制した範囲を超えるために成形加工性が劣るものとなっている。さらに、比較例(No.25)は、成形前のビッカース硬さが本発明で規制した範囲外であるため、ケース形状への成形加工性が劣っている。
【0061】
【発明の効果】
以上説明した通りに構成される本発明によれば、以下の効果を奏する。
本発明によれば、アルミニウム合金中、強度に寄与するCu、Mg、Mnの含有量を適正化し、さらに化合物であるα相の成形性に寄与するSiおよびFeの両方の各元素の含有量を適正化し、なおかつ加工前の板材の硬度について適正化したので、所定の強度と成形性、並びに薄肉化された状態での内圧、温度の変化に対応できる電池ケースを形成することができる電池ケース用アルミニウム合金板を提供することができる。
【0062】
本発明によれば、加工後の成形品である電池ケースの側壁硬度について、電池ケースとして薄肉化された状態での内圧、温度の変化に対応することができる硬度に設定しているため、所望の強度を有する電池ケース用アルミニウム合金板を提供することができる。
【0063】
本発明によれば、加工前の板材のビッカース硬さと、加工後の成形品である電池ケースの側壁硬度について、電池ケースとして薄肉化された状態での内圧、温度の変化に対応することができる硬度に設定しているため、所望の強度を有する電池ケース用アルミニウム合金板を提供することができる。
【0064】
本発明によれば、前記加工後の成形品である電池ケースの側壁硬度から前記加工前の板材の硬度を引いた値が、ビッカース硬さで5以下となるように構成しているため、加工硬化性を低下させ、しごき加工等の成形加工性を向上して、かつ、電池ケースとして薄肉化された状態での内圧、温度の変化に対応することができる硬度を備える電池ケース用アルミニウム合金板を提供することができる。
【0065】
本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板は、薄肉化してもしごき加工に対して適切な強度と成形性を有する組成および硬度が適切に規定されている。その結果、リチウムイオン2次電池の電池ケース等の容器形状に成形するためのしごき加工における成形性が優れていると共に、ケース内部の圧力が上昇しても膨れ変形量が少なく、耐圧性が高いアルミニウム合金製電池ケースを得ることができる。このような本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板からアルミニウム合金製電池ケースを成形すれば、リチウムイオン2次電池の電池ケースをはじめとする各種の容器に対して求められている、近時の軽量化や小型化の要求を充分に満足させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明にかかる電子部品ケース用アルミニウ合金板の加工後における電池ケースでの測定部位を示す模式図である。
【符号の説明】
1 電池ケース
P1 測定ポイント
P2 測定ポイント
P3 測定ポイント
Claims (5)
- Cuを0.2質量%を超えて0.5質量%まで、Mgを0.1質量%から0.8質量%まで、およびMnを0.6質量%から1.5質量%まで含み、更に、Siを0.05質量%から0.5質量%まで、Feを0.1質量%から1.0質量%まで含み、残部がAlと不可避的不純物とからなる組成を有し、かつ、前記組成を有する板材の硬度がビッカース硬さで82以上90以下となることを特徴とする電池ケース用アルミニウム合金板。
- Cuを0.2質量%を超えて0.5質量%まで、Mgを0.1質量%から0.8質量%まで、およびMnを0.6質量%から1.5質量%まで含み、更に、Siを0.05質量%から0.5質量%まで、Feを0.1質量%から1.0質量%まで含み、残部がAlと不可避的不純物とからなる組成を有し、かつ、前記組成を有する板材を打ち抜いた直径が60mmのブランク板から絞りしごき加工を行い側壁部高さが50mmの電池ケースとした際に測定した側壁硬度が、ビッカース硬さで82以上95以下となることを特徴とする電池ケース用アルミニウム合金板。
- Cuを0.2質量%を超えて0.5質量%まで、Mgを0.1質量%から0.8質量%まで、およびMnを0.6質量%から1.5質量%まで含み、更に、Siを0.05質量%から0.5質量%まで、Feを0.1質量%から1.0質量%まで含み、残部がAlと不可避的不純物とからなる組成を有し、かつ、前記組成を有する板材の硬度がビッカース硬さで82以上90以下となり、前記組成を有する板材を打ち抜いた直径が60mmのブランク板から絞りしごき加工を行い側壁部高さが50mmの電池ケースとした際に測定した側壁硬度が、ビッカース硬さで82以上95以下となることを特徴とする電池ケース用アルミニウム合金板。
- 前記絞りしごき加工前の板材のビッカース硬さから、前記ブランク板から絞りしごき加工を行い前記電池ケースとした際に測定した側壁硬度であるビッカース硬さを引いた値が、5以下となることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の電池ケース用アルミニウム合金板。
- Cuを0.2質量%を超えて0.5質量%まで、Mgを0.1質量%から0.8質量%まで、およびMnを0.6質量%から1.5質量%まで含み、更に、Siを0.05質量%から0.5質量%まで、Feを0.1質量%から1.0質量%まで含み、残部がAlと不可避的不純物とからなる組成を有し、かつ、前記組成を有する板材から電池ケースとした際に側壁硬度が、ビッカース硬さで82以上95以下となることを特徴とするアルミニウム合金製電池ケース。
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