JP3865735B2 - 冬虫夏草の人工栽培方法 - Google Patents

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本発明は、冬虫夏草の人工栽培方法に関するものである。
冬虫夏草は古くから漢方薬として珍重されてきたが、抗ガン作用のあるβーグルガンが多量に含まれており、心筋や大動脈の収縮抑制や右心房の収縮増強の効果もあることが明らかとなってきた。
一般に漢方薬として市販されている冬虫夏草は、コウモリ蛾科のコウモリ蛾の幼虫に寄生する肉座科の不完全菌類の一種である。この冬虫夏草は、多くは中国の高地に自生しているものを採取したものである。しかし現在輸入されているものは自然物を採取したもので数も少なく、またその薬効から漢方薬としての需要が拡大してきたことから、年々採取量が減少し価格も更に高騰してきている。
このため薬効に優れ、採取量も少なく高価な冬虫夏草を人工的に栽培する方法が種々検討されているが、多くは薬効成分を抽出するのが目的であるため、培養によって菌糸体を生成させるものがほとんどで、子実体の栽培までは目的としていないものが多い。子実体の栽培を具体化させたものとしては、冬虫夏草の子実体人工栽培方法(特許文献1)が開発されている。
この方法は、繭から生糸を紡いだ後の、死んだ蚕のサナギを乾燥させて、これを育成箱に一匹ずつ入れて、蚕のサナギの一部が空気中に露出するように培養液を注入してから、蝶や蛾などの鱗翅目に属する昆虫のサナギに寄生する冬虫夏草の菌を接種し、これを培養して蚕のサナギに子実体を形成させるものである。
この方法では、生糸を紡いだ後の死んだ蚕のサナギを固体培地として有効利用すると共に、液体培地を併用することにより、薬効に優れ、焼酎に漬けたり煎じて飲むのに便利なキノコ状の子実体を年間を通して人工栽培することができるようになった。
しかしながらこの方法では、死んだ蚕のサナギを集め、これを育成箱に一匹ずつ区分して入れ、ここに培養液を注入してから、冬虫夏草の菌を接種するので、作業に手間がかかり収量が低く、しかも収穫した後は、生長した子実体と死んだ蚕のサナギを分離する作業が必要で、大量に生産する上で問題があった。
このため本発明者は、繭を取った後の死んだ蚕のサナギを乾燥させ、これを粉砕した蚕乾燥粉末と、豆類、穀類、海藻類またはキノコ類の乾燥粉末の1種または2種以上からなる食物乾燥粉末を混合して、これに培養液を加えて混練し、これを育成箱の底部に敷き詰めて培地を作成し、この培地を、植菌袋に封入して加熱滅菌処理した後、培地に冬虫夏草の菌を接種して、育成する冬虫夏草の人工栽培方法を先に開発した。
この方法では、従来使用されていなかった繭を取った後の蚕のサナギを乾燥させた粉末と、食料として利用されている豆類、穀類、海藻類またはキノコ類の乾燥粉末を混合したものを培地として使用するので安価であり、しかも通常のきのこ栽培と同様な方法で栽培できるので作業性に優れ、純度の高い冬虫夏草の子実体を大量に、且つ安価に年間を通して栽培することができる利点かあった。
特許第2676502号
従来方法により生産した冬虫夏草は、抗ガン作用のあるβーグルガンが100g当り4g程度含まれているが、更にこのβーグルガンの含有量を増大させて薬効を高めると共に、発菌率を向上させた冬虫夏草の人工栽培方法を提供するものである。
本発明の請求項1記載の冬虫夏草の人工栽培方法は、繭を形成する前の蚕の幼虫を煮沸してから乾燥させ、この蚕乾燥粉末50〜90重量パーセント、残部が豆類、穀類、海藻類またはキノコ類の乾燥粉末の1種または2種以上からなる食物乾燥粉末を混合して、これに培養液を加えて混練し、これを育成箱の底部に敷き詰めて培地を作成し、この培地を、植菌袋に封入して加熱滅菌処理した後、培地に冬虫夏草の菌を接種して、育成することを特徴とするものである。
本発明の請求項2記載の冬虫夏草の人工栽培方法は、育成箱の底部に複数の排水孔を開孔したことを特徴とするものである。更に請求項3記載の冬虫夏草の人工栽培方法は、育成箱の底部に作成する培地の厚さを、冬虫夏草の子実体の根の生長する長さとほぼ等しい20〜30mmに形成することを特徴とするものである。
以下本発明方法を図1ないし図10を参照して詳細に説明する。図1に示すように蚕の幼虫1に桑の葉2を与えて育てる。毎日桑の葉2を与えて60日程度育てて図2に示すように体長が80〜150mm程度の幼虫1になって繭を形成する直前の状態になったら、図3に示すように熱湯4に投入して煮沸し、殺虫する。この後、熱湯から取り出して図4に示すように乾燥させる。次にこの乾燥した蚕の幼虫1を粉砕して粗い粉末状にする。
次にこの蚕乾燥粉末と、食物乾燥粉末を混合して、これに培養液を加えて混練して培地を形成する。この培地原料の混合割合は蚕乾燥粉末を50〜90重量パーセント、残部を食物乾燥粉末としたものである。
食物乾燥粉末としては、豆類、穀類、海藻類またはキノコ類の乾燥粉末の一種または2種以上からなる乾燥粉末を用いる。豆類としては例えば大豆や小豆、そら豆、いんげん豆、えんどう豆などが用いられるが、大豆が安価で大量に入手できるので最も好ましい。また穀類としては例えば、米、麦、そば、トウモロコシなどを用いることができる。また海藻類としては、海苔、ワカメ、ヒジキなどを用いることができる。またキノコ類としては例えばシイタケや、シメジ、アガリスクを用いることができる。また必要に応じで、煮干などの干し魚を用いても良い。
これらの食物は、乾燥させた状態で粉砕機にかけて細かく粉砕して、食物乾燥粉末を作成する。これら食物乾燥粉末と蚕乾燥粉末を混合して原料粉末を作成し、これに培養液を加えて混練する。この培養液としては例えば水や、糖質やアミノ酸などを含有する溶液を用いる。また原料粉末と培養液との混合割合は、原料粉末100重量部に対して培養液を90〜150重量部混合して混練すると良い。
このようにして混練した培地原料を図5に示すように、上面が開口し、底面に複数の排水孔5を開孔した育成箱6の底に敷きつめて培地7を作成する。この培地7の厚さは、冬虫夏草の子実体の根が生長する長さとほぼ等しい20〜30mmに形成する。
このように培地7を形成した育成箱6を、図6に示すようにプラスチックフィルムなどで形成された植菌袋8に入れて、図示しない加熱滅菌装置に入れて、例えば120℃の蒸気で2〜10時間程度加熱することにより、培地に含まれる雑菌を滅菌させると共に、培地の蚕粉末と食物粉末が加熱されて柔らかくなり、栄養分が融け出して肥料として吸収され易くする。
この後、無菌室で植菌袋8から育成箱6を取り出して、図7に示すように培地7の上に冬虫夏草の菌9を振り掛けて接種する。この接種する冬虫夏草の菌9としては、例えばコナサナギタケ、ハナサナギタケまたはサナギタケなどを用いると良い。
菌9の接種が終わったら、植菌袋8の口を閉じて育成箱6を密閉し、10〜25℃の育成室で育成すると、育成箱6の底部には排水孔5が開孔されているので、余分な水分が排水される。また排水孔5から根10に酸素が十分に供給され根10の生長が速く、長く伸びた多数の根10から養分を十分に吸収して生長が促進される。
このため図8に示すように数日後には発菌が見られ育成箱全体に広がった。その後、8〜10日後には図9に示すように、根10の生長と共にきのこ状の子実体11が生長し、25〜30日後には図10に示すように、胞子を持った長さの50〜60mmの子実体11が育成箱全体に生長した。
子実体11が長く生長した時点では、根10も生長し、培地7の肥料分はほとんど吸収されて根10が全体に伸びて広がり、培地が消滅した状態になる。従って収穫する場合には、培地7が消滅しているので育成箱6からそのまま取り出すだけで、従来のように子実体11と蚕のサナギを分離する作業が不要となる。
なお本発明において、培地原料の蚕乾燥粉末の割合を50〜90重量パーセントに規定したのは、50重量パーセント未満では発菌が極めて悪く、また90重量パーセントを超えると子実体11の生長が悪く、収率が低下するからである。また育成箱の底部に作成する培地の厚さを、20〜30mmに規定したのは、20mm未満では子実体11の生長に必要な肥料分が不足し、また30mmを超えると培地7が残留して、後の分離作業に手間がかかるからである。
本発明に係る請求項1記載の冬虫夏草の人工栽培方法によれば、培地原料として繭を形成する前の蚕の幼虫を乾燥させた蚕乾燥粉末を主成分とし、これに食料として利用されている豆類、穀類、海藻類またはキノコ類などの食物乾燥粉末を混合したものを使用するので、発菌率が高く、子実体の生長が速い上、通常のきのこ栽培と同様な方法で簡単に栽培できるので作業性に優れ、栄養分の高い冬虫夏草を大量に、且つ安価に年間を通して栽培することができる。
また請求項2記載の冬虫夏草の人工栽培方法によれば、育成箱の底部には排水孔が開孔されているので、培地の余分な水分が排水されると共に、根に酸素が十分に供給されて生長が速く、長く伸びた多数の根から養分を十分に吸収して子実体の生長を促進させることができる。
更に請求項3記載の冬虫夏草の人工栽培方法によれば、育成箱の底部に作成する培地の厚さを、冬虫夏草の子実体の根の生長する長さに形成することにより、収穫後に子実体と培地を分離する作業が不要となり、100%そのまま使用することができる。
繭を形成する前の蚕の幼虫を乾燥させて粉砕した蚕乾燥粉末と食物乾燥粉末および培養液を培地として冬虫夏草を人工栽培する方法を実現した。
(実施例)繭を形成する前の蚕の幼虫1を煮沸して乾燥させる、次に、乾燥した蚕の幼虫を粉砕した蚕乾燥粉末と食物乾燥粉末および培養液(水または糖質2%水溶液)を表1の実施例1〜4に示す割合で混合して混練した後、これを排水孔5を開孔した育成箱6の底に約20mmの厚さに敷きつめて培地7を作成した。このように培地7を形成した育成箱6を、プラスチックフィルムで形成された植菌袋8に入れる。この後、加熱滅菌装置に入れて、120℃の蒸気で3時間加熱して、培地7に含まれる雑菌を滅菌すると共に、柔らかくして栄養分が吸収し易い状態にする。
次に、無菌室で植菌袋8から育成箱6を取り出して、培地7の上にハナサギタケの菌4を振り掛けて接種した。この後、植菌袋8の口を閉じて密閉し、22℃の育成室で育成して、発菌日と子実体が形成されるまでの日を観察した。その結果は、表1に示すようになった。また比較のために、繭を取った後の死んだ蚕のサナギを乾燥してこれを粉砕した蚕乾燥粉末を用いた比較例1、2についても同様に栽培を行ないその結果を表1に併記した。




上表の結果から、実施例1〜4は、発菌や子実体の形成が速く、35〜40日後には育成箱全体に40〜50mmの長さの子実体11が成長し、培地7は消滅していた。また比較例5、6は発菌が遅く、子実体の成長が本発明に比べて20日程度遅かった。
また実施例1の冬虫夏草について、その成分を分析した結果は、表2に示すようになった。この結果から抗ガン作用のあるβーグルガンが5.0g/100gも含まれ、比較例1の、繭を取った後の蚕のサナギの乾燥粉末を用いたものの3.9g/100gに比べて多量に含まれていることが確認された。




本発明の人工栽培方法により収穫した冬虫夏草の子実体は、乾燥炉で乾燥させ、そのまま酒に漬け込んで薬用酒として飲むかまたは薬膳料理の食材として利用する。また、粉末にしてお茶やドリンク剤に混ぜて飲用にしても良い。
幼虫に桑の葉を食べさせている状態を示す説明図である。 桑の葉を食べて幼虫が大きく成長した状態を示す説明図である。 幼虫を煮沸している状態を示す断面図である。 乾燥させた幼虫を示す説明図である。 育成箱に培地を形成した状態を示す断面図である。 培地を形成した育成箱を植菌袋に封入した状態を示す断面図である。 培地に菌を接種している状態を示す断面図である。 培地に発菌している状態を示す断面図である。 培地に根と子実体が生長し始めた状態を示す断面図である。 培地に子実体が生長した状態を示す断面図である。
符号の説明
1 幼虫
2 桑の葉
4 熱湯
5 排水孔
6 育成箱
7 培地
8 植菌袋
9 冬虫夏草の菌
10 根
11 子実体

Claims (3)

  1. 繭を形成する前の蚕の幼虫を煮沸してから乾燥させ、この蚕乾燥粉末50〜90重量パーセント、残部が豆類、穀類、海藻類またはキノコ類の乾燥粉末の1種または2種以上からなる食物乾燥粉末を混合して、これに培養液を加えて混練し、これを育成箱の底部に敷き詰めて培地を作成し、この培地を、植菌袋に封入して加熱滅菌処理した後、培地に冬虫夏草の菌を接種して、育成することを特徴とする冬虫夏草の人工栽培方法。
  2. 育成箱の底部に複数の排水孔を開孔したことを特徴とする請求項1記載の冬虫夏草の人工栽培方法。
  3. 育成箱の底部に作成する培地の厚さを、冬虫夏草の子実体の根の生長する長さとほぼ等しい20〜30mmに形成することを特徴とする請求項1記載の冬虫夏草の人工栽培方法。

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