JP3864668B2 - アルデヒド類の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ロジウム−ホスファイト系錯体触媒の存在下に、オレフィン系不飽和化合物をヒドロホルミル化反応させてアルデヒド類を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
第VIII族金属錯体触媒の存在下に、オレフィン系不飽和化合物を一酸化炭素及び水素でヒドロホルミル化することによりアルデヒド類を製造するプロセスは広範に工業化されている。このヒドロホルミル化反応における触媒としては、ロジウム等の第VIII族金属を3価のリンの化合物のような配位子で修飾した錯体触媒が用いられており、ヒドロホルミル化反応の活性や選択性を向上させるために、種々の配位子についての研究がなされている。例えば、特公昭45-10730号には、トリアリールホスフィンやトリアリールホスファイト等の3価リン配位子で修飾されたロジウム触媒が有効であることが開示されている。なかでも、ホスファイト配位子で修飾された触媒は、ヒドロホルミル化反応において高い活性と選択性を示すことが知られている。
しかしながら、特開昭59-51229号に開示されているように、トリフェニルホスファイト等のホスファイト配位子では、ヒドロホルミル化反応系中で配位子が比較的速やかに分解し、それに伴い触媒活性が低下することが知られており、ホスファイト配位子を連続的に補給することが必要である。したがって、単に触媒の活性及び選択性を改良するためだけではなく、ホスファイト配位子の減損による触媒活性の低下を小さくするために、各種のホスファイト配位子が提案されている。
【0003】
例えば、橋頭部にリン原子を含有する環式ホスファイト配位子(特開昭59-51228号及び特開昭59-51230号)、ベンゼン環の特定部位に置換基を有するトリアリールホスファイト配位子(特開昭57-123134号)、ナフチル環の特定部位に置換基を有するトリアリールホスファイト配位子(特開平4-288033)、分子内にリン原子を含む環状構造を有するジオルガノホスファイト配位子(特表昭61-501268号)が提案されている。更に、ビスホスファイト配位子及びポリホスファイト配位子の例としては、ジオルガノホスファイト配位子(特開昭62-116535号及び特開昭62-116587号)、環状構造を有するビスホスファイト配位子(特開平4-290551号)を用いる方法、また、本出願人による環状構造を有しないビスホスファイト配位子及びポリホスファイト配位子(特開平5-178779号)を用いる方法も知られている。
このようにホスファイト配位子は、ヒドロホルミル化反応において高い活性及び優れた選択性を示すにもかかわらず、工業的有利にアルデヒド類を製造するためには、前述したようなホスファイト配位子自体の安定性が問題であり、このようなホスファイト配位子の急速な分解は、単に触媒の活性や安定性に悪影響を与えるのみならず、新たなホスファイト配位子を連続的に追加しなければならないという問題があった。
【0004】
前記した特開昭59-51229号の他に、例えば特表61-501268号には、トリフェニルホスファイトがロジウムの非存在下においても室温下でアルデヒドと速やかに反応することが記載されている。トリオルガノホスファイトを用いることの欠点は、ホスファイトがアルデヒドと反応する親和力が非常に高いことによるものと考えられ、その反応により得られる生成物は容易に加水分解して、対応するヒドロキシアルキルホスホン酸になることが示されている。また、ジオルガノホスファイトにおいても生成速度は遅いものの同様の酸副生物が生成することが示されている。このようなヒドロキシアルキルホスホン酸は、自己触媒プロセスにより生成し、特にホスファイト配位子とアルデヒド生成物との接触が長期にわたる連続的な触媒再循環プロセスにおいて生成しやすくなる。このヒドロキシアルキルホスホン酸は、通常の液体ヒドロホルミル化反応媒質に不溶性であるため、急速に蓄積されてゼラチン状副生物が沈殿し、連続的なヒドロホルミル化反応の循環管路を閉塞又は汚染する恐れがある。かかる沈殿物を任意の適当な方法、例えば重炭酸ナトリウム等の弱塩基による酸の抽出等の方法によって除去するためには、定期的にプロセスの運転を停止又は休止することが必要であった。これらの現象は、従来工業的に用いられているトリフェニルホスフィン等のホスフィン系配位子においてはみられない、ホスファイト系配位子独自の特徴といえる。
【0005】
これらの安定性の問題に対する解決方法として、例えば特開昭60-156636号には、ホスファイト配位子の分解によって生成する酸性物質を中和するために、3級アミンを添加する方法が開示されている。また前記特表昭61-501268号には、弱塩基性アニオン交換樹脂で処理することにより分解を最小限に抑える方法が開示されている。更に、特公平5-48215号には、特定の極性官能基を有する有機重合体の存在下に蒸留を行うことにより、ロジウムのメタル化が抑制されることが開示されており、また、ロジウム−ホスファイト系錯体触媒を含有する生成物溶液からアルデヒド生成物を蒸留分離することは、150℃未満、好ましくは140℃未満の温度で実施するのがよいことが開示されている。特開平6-199729号にはエポキシドを添加することにより分解に対して安定化する方法が開示されている。特開平6-199728号には所定のロジウム−ビスホスファイト複合触媒の触媒活性増進用添加剤として添加水、弱酸性添加剤、或いは添加水及び弱酸性添加剤を用いる方法が開示されている。また、特開平8-165266には、アルデヒド生成物を含む反応生成液から分離操作によって一酸化炭素、水素、未反応オレフィン系不飽和化合物、アルデヒド生成物、溶媒、中沸点副生物及び高沸点副生物から選ばれる少なくとも1つの成分を分離するにあたり、分離操作における温度と滞留時間とから得られるパラメータがある規定範囲内で行われることによりホスファイト配位子の減損や副生物の生成を効果的に抑制する方法が開示されている。また、上記分離操作が水蒸気蒸留であり、その分離操作における水蒸気蒸留温度と滞留時間と水蒸気分率とから得られるパラメータがある規定範囲内で行われることにより、配位子の分解が抑制されることが開示されている。
このように、従来技術においては何らかの添加物質や後処理方法を必要としたり、分離工程における操作条件を規定したりするものがあるが、本質的にホスファイト配位子の分解を抑制するプロセスを提供するものではなかった。
【0006】
一部のビスホスファイト配位子触媒については水の添加により触媒活性増進の効果のあることが報告されている(特開平6-199728号参照)が、一般的には特表61-501268号に示されるトリフェニルホスファイトのように、水の存在により配位子の分解生成物の更なる分解が進行することが知られている。
一方、ヒドロホルミル化反応帯域には、通常多少なりとも水分が存在する。これは、反応帯域においてヒドロホルミル化反応の副反応として縮合脱水反応が起こって水が副生する他に、原料である水素及び一酸化炭素の混合ガス(これを、オキソガスと呼ぶ)と共に同伴されてヒドロホルミル化反応帯域に持ち込まれる水分がある。更に、触媒液を循環再使用するにあたり、触媒液の活性低下の抑制のため、触媒液中の不純物の除去、活性化或いは触媒の回収再生を目的として触媒含有液を水或いは水溶液で処理する方法が知られている(例えば、WO9720797、特開平8-337550号、特開2000-34253号等)。そして係る水性液で処理された触媒含有液は、蒸留操作などにより高温に曝されて活性の低下や配位子の分解が起こるのを防止するため、直接反応器に再循環される。その為、この様な処理を経た触媒液は少なくとも溶解量の水分を含有しており、ヒドロホルミル化反応帯域中に無視し得ない量の水分を持ち込んでいる。
反応帯域におけるこれらの水分の存在により、ホスファイト配位子の分解が進行し、触媒の活性を低下させる原因となる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は係る事情に鑑みなされたものであって、その目的は、一般的なロジウム−ホスファイト系錯体を触媒とする連続ヒドロホルミル化反応プロセスにおいて、反応帯域内でのホスファイト配位子の分解を抑制するプロセスを提供することにあり、特にホスファイト配位子の分解の原因となるヒドロホルミル化反応帯域内の水分を低減させることにより、効率よくアルデヒドを製造する方法を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題につき鋭意検討を重ね、通常、触媒分離工程で生成アルデヒドと触媒含有液を分離する操作として蒸留又は蒸発が採用され、この時、アルデヒドと共に水が触媒液から除去されることに着目し、水性液で処理された触媒含有液を直接反応器に循環せずに、反応器出口から触媒分離工程までの何れかに戻すことにより触媒液の水性液処理により循環触媒液中に混入する水分を除去することに成功し、循環触媒液中に同伴されて反応器に持ち込まれる水分量を低下させる本発明方法を達成した。即ち本発明の要旨は、ロジウム−ホスファイト系錯体触媒の存在下、オレフィン系不飽和化合物と一酸化炭素及び水素とを連続的にヒドロホルミル化反応させて得られる、少なくとも触媒及び生成アルデヒドを含む反応生成物から生成アルデヒドを分離した後の触媒含有液を反応器に循環させ、その際、触媒含有液の少なくとも一部を水性液と接触処理する液循環ヒドロホルミル化反応プロセスにおいて、水性液と接触処理後の触媒含有液を、ヒドロホルミル化反応器出口から触媒分離工程までの任意の工程に循環することを特徴とするアルデヒド類の製造方法に存する。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明のヒドロホルミル化反応に適用されるオレフィン系不飽和化合物としては、直鎖状、分岐鎖状を問わず、常用の任意のα−オレフィン又は内部オレフィンが好ましく、具体的にはプロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、ドデセン−1、テトラデセン−1などのα−オレフィンが挙げられ、特に好ましくはプロピレンである。
本発明のヒドロホルミル化反応は、3価のホスファイト化合物を配位子として含むロジウム錯体触媒を用いる。3価のホスファイト化合物としては、単座配位子又は多座配位子としての能力を有し、水の存在により分解されやすい、常用の任意のものを用いることができる。例えば下記の式(1)〜(10)で示されるものを用いることができる。
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、R1〜R3はそれぞれ独立して、置換されていてもよい1価の炭化水素基を示す。)
置換されていてもよい1価の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基などが挙げられる。(1)式で表される化合物の具体例としては、例えば、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、n−ブチルジエチルホスファイト、トリ−n−ブチルホスファイト、トリ−n−プロピルホスファイト、トリ−n−オクチルホスファイト、トリ−n−ドデシルホスファイト等のトリアルキルホスファイト;トリフェニルホスファイト、トリナフチルホスファイト等のトリアリールホスファイト;ジメチルフェニルホスファイト、ジエチルフェニルホスファイト、エチルジフェニルホスファイト等のアルキルアリールホスファイトなどが挙げられる。また、例えば、特開平6-122642号公報に記載のビス(3,6,8−トリ−t−ブチル−2−ナフチル)フェニルホスファイト、ビス(3,6,8−トリ−t−ブチル−2−ナフチル)(4−ビフェニル)ホスファイトなどを用いてもよい。これらの中で最も好ましいものはトリフェニルホスファイトである。
【0012】
【化2】
【0013】
(式中、R4は置換されていてもよい2価の炭化水素基を示し、R5は置換されていてもよい1価の炭化水素基を示す。)
R4で示される置換されていてもよい2価の炭化水素基としては、炭素鎖の中間に酸素、窒素、硫黄原子などを含んでいてもよいアルキレン基;炭素鎖の中間に酸素、窒素、硫黄原子などを含んでいてもよいシクロアルキレン基;フェニレン、ナフチレン等の2価の芳香族基;2価の芳香環が直接、又は中間にアルキレン基、酸素、窒素、硫黄等の原子を介して、結合した2価の芳香族基;2価の芳香族基とアルキレン基とが直接、又は中間に酸素、窒素、硫黄等の原子を介して、結合した基などが挙げられる。R5で示される置換されていてもよい1価の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基などが挙げられる。式(2)で表される化合物としては、例えば、ネオペンチル(2,4,6−t−ブチル−フェニル)ホスファイト、エチレン(2,4,6−t−ブチル−フェニル)ホスファイト等の米国特許第3415906号公報記載の化合物等或いは下記式(3)で示される化合物が挙げられる。
【0014】
【化3】
【0015】
(式中、R10は式(2)におけるR5と同義であり、Ar1及びAr2は、それぞれ独立して、置換されていてもよいアリーレン基を示し、x及びyは、それぞれ独立して、0又は1を示し、Qは−CR11R12−,−O−,−S−,−NR13−,−SiR14R15−及び−CO−よりなる群から選ばれる架橋基であり、R11及びR12はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、トリル基又はアニシル基を示し、R13、R14及びR15はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を示す。nは0又は1を示す。)
式(3)で表される化合物として、より具体的には、1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト等の米国特許第4599206号公報記載の化合物及び3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジメトキシ−1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル−(2−t−ブチル−4−メトキシフェニル)ホスファイト等の米国特許第4717775号公報記載の化合物などが挙げられる。
【0016】
【化4】
【0017】
(式中、R6は環状又は非環状の置換されていてもよい3価の炭化水素基を示す。)
式(4)で表される化合物としては、例えば、4−エチル−2,6,7−トリオキサ−1−ホスファビシクロ−[2,2,2]−オクタン等の米国特許第4567306号公報記載の化合物等が挙げられる。
【0018】
【化5】
【0019】
(式中、R7は式(2)におけるR4と同義であり、R8及びR9はそれぞれ独立して置換されていてもよい炭化水素基を示し、a及びbはそれぞれ0〜6の整数を示し、aとbの和は2〜6であり、Xは(a+b)価の炭化水素基を示す。)
式(5)で表される化合物のうち好ましいものとしては、例えば、6,6’−[[3,3’,5,5’−テトラキス(1,1’−ジメチルエチル)−[1,1’−ビフェニル]−2,2’−ジイル]ビス(オキシ)]ビス−ベンゾ[d、f][1,3,2]ジオキサホスフェビン等の特開平2-231497号公報記載の化合物、あるいは、式(6)で表される化合物が挙げられる。
【0020】
【化6】
【0021】
(式中、R16及びR17はそれぞれ独立して置換されていても良い炭化水素基を示し、Xはアルキレン、アリーレン及び−Ar1−(CH2)x−Qn−(CH2)y−Ar2−よりなる群から選ばれた2価の基を示し、Ar1、Ar2、Q、x、y、nは式(3)と同義である。)具体的には、特開昭62-116535号公報記載の化合物及び特開昭62-116587号公報記載の化合物を包含する。
【0022】
【化7】
【0023】
(式中、X、Ar1、Ar2、Q、x、y、nは式(6)と同義であり、R18は式(2)におけるR4と同義である。)
【0024】
【化8】
【0025】
(式中、R19及びR20はそれぞれ独立して芳香族炭化水素基を示し、かつ少なくとも一方の芳香族炭化水素基は、酸素原子が結合する炭素原子に隣接する炭素原子に炭化水素基を有しており、mは2〜4の整数を示し、各−O−P(OR19)(OR20)基は互いに異なっていてもよく、Xは置換されていてもよいm価の炭化水素基を示す。)
式(8)で表される化合物の中で、例えば、特開平5-178779号公報、2,2’−ビス(ジ−1−ナフチルホスファイト)−3,3’,5,5’−テトラ−t−ブチル−6,6’−ジメチル−1,1’−ビフェニル等の特開平10-45776号公報に記載のものが好ましい。
【0026】
【化9】
【0027】
(式中、R21〜R24は、置換されていてもよい炭化水素基を示し、これらは互いに独立したものであっても、R21とR22、R23とR24が互いに結合して環を形成していてもよく、Wは置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基を示し、Lは置換基を有していてもよい飽和又は不飽和の2価の脂肪族炭化水素基を示す。)。式(9)で表される化合物としては、例えば、特開平8-259578号公報に記載のものが挙げられる。
【0028】
【化10】
【0029】
(式中、R25〜R28は、置換されていてもよい1価の炭化水素基を示し、R25とR26、R27とR28は互いに結合して環を形成していてもよく、A及びBはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基を示し、nは0又は1の整数を示す。)
【0030】
これらのホスファイトと組み合わせて使用されるロジウム−ホスファイト系錯体触媒のロジウム源としては、ロジウムアセチルアセトナート、[Rh(COD)(OAc)]2等のロジウム錯体、酢酸ロジウム等の有機酸塩、硝酸ロジウム等の無機酸塩、酸化ロジウム等の酸化物等が用いられる(CODはシクロオクタジエンを、Acはアセチル基をそれぞれ表す)。
ロジウム源は直接ヒドロホルミル化反応領域に供給してもよいが、反応領域外で一酸化炭素、水素及びホスファイト化合物と共に、溶媒中で高い温度・圧力の条件下で反応させて、あらかじめロジウム錯体触媒を調製しておくこともできる。触媒調製の際に使用する溶媒は、通常後述する反応溶媒の中から選ばれるが、必ずしも反応溶媒と同一の溶媒でなくてもよい。調製条件は通常、圧力が常圧〜10MPaG、温度が常温〜150℃で行われる。
ホスファイトは過剰量用いても良く、ヒドロホルミル化プロセス中に遊離ホスファイト配位子として存在していてもよい。ホスファイトの使用量は例えば反応媒体中に存在するロジウム1モルあたり、少なくとも1モル以上であり、100モルまで或いはそれより多くすることもできる。一般に反応媒体中に存在するロジウムに結合(錯形成)したホスファイトの量と遊離(非錯形成)のホスファイトの量との和は、ロジウム1モル当たり約4〜約500モルあれば大部分の用途に適する。また、反応媒体中に所定量の遊離配位子を維持するために、任意の態様で反応媒体中に補給用ホスファイト配位子を供給してもよい。また、ロジウム−ホスファイト系錯体触媒のホスファイト配位子と遊離ホスファイト配位子とは通常同じ種類の配位子を用いるが、必要によりそれぞれ別のホスファイト配位子を使用してもよく、また、2種以上の異なるホスファイト配位子の混合物を使用することもできる。
【0031】
本発明のヒドロホルミル化プロセスにおいて、反応媒体中に存在するロジウム−ホスファイト系錯体触媒の量は、使用すべき所定のロジウム濃度をもたらすのに必要な最低量あればよく、少なくとも触媒量のロジウムに関する基準を満たす量であればよい。ヒドロホルミル化反応媒体中のロジウム濃度は、一般に金属ロジウムとして計算して、1〜1000ppmの範囲で十分であり、10〜500ppmを用いることが好ましく、25〜350ppmがより好ましい。
本発明のヒドロホルミル化反応では、反応溶媒の使用は必須ではないが、トルエン、キシレン等の各種有機溶剤を用いても良く、或いは原料オレフィン自体を用いてもよく、2種以上の混合物を用いることもできる。一般に、アルデヒド生成物及び/又は反応系中で形成される高沸点のアルデヒド液体縮合副生物を用いることが好ましい。例えば、連続プロセスの開始時には任意の一次溶剤を用いた場合でも、連続プロセスという性質上、通常最終的には、反応溶媒はアルデヒド生成物と高沸点のアルデヒド液体縮合副生物とからなる。所望により、このアルデヒド縮合副生物は予備形成させてもよい。溶媒の使用量は本発明にとって重要な問題ではなく、所定プロセスに望まれる特定のロジウム濃度を維持し、かつ反応媒体としての役割を果たすのに十分な量であればよい。一般に、溶剤量は、反応媒体の総重量に対し約5〜95重量%が用いられる。
【0032】
本発明のヒドロホルミル化反応プロセスは、オレフィン系不飽和化合物と水素及び一酸化炭素を連続的に反応させ、反応生成物から少なくとも生成アルデヒドを分離した後の触媒含有液を循環させる液循環プロセスであれば、特に限定されるものではない。ヒドロホルミル化反応条件としては、水素、一酸化炭素及びオレフィン系不飽和化合物の総気体圧力が50MPaG未満でヒドロホルミル化プロセスを作動させることが好ましく、20MPaG未満がより好ましい。最低限の総気体圧力は、反応の初期速度を達成するのに必要な反応体量により限定される。更に、本発明のヒドロホルミル化反応における一酸化炭素分圧は、好ましくは0.01〜10MPa、より好ましくは0.1〜0.7MPaであり、また水素分圧は好ましくは0.01〜10MPa、より好ましくは0.1〜0.8MPaである。一般に、水素と一酸化炭素ガスのモル比(H2:CO)は1:10〜100:1であり、より好ましくは1:10〜10:1である。また、反応は通常、常温〜150℃の温度で実施でき、反応温度50℃〜120℃の範囲内が多くのオレフィン出発原料に対して好ましい。120℃を大幅に上回る反応温度では、実質的な利益は観察されず、また、特表昭61−501268に開示されているように、触媒活性の減退が見込まれるために一般に好ましくない。
【0033】
ヒドロホルミル化反応は、通常、連続式の反応器に、原料である水素、一酸化炭素及びオレフィン系不飽和化合物を連続的に供給し、上記ヒドロホルミル化反応条件下にて実施される。反応器の種類としては、攪拌槽型、気泡塔型、管型などを用いることができる。ヒドロホルミル化反応後、反応器より生成アルデヒド及び触媒を含む反応生成物の一部又は全部を連続的に抜き出し、触媒分離工程で生成アルデヒドと触媒含有液を分離し、触媒液は反応工程に再循環される。
本発明のヒドロホルミル化反応プロセスは、循環触媒液の少なくとも一部を水性液で処理する触媒液処理工程を有する液循環式連続プロセスで行われる。液循環式連続プロセスは、種々の実施態様があり、特に限定されるものではないが、通常、少なくとも反応工程に続く、触媒分離工程及び触媒処理工程から構成され、好ましくは、更に未反応オレフィン回収工程から構成される。触媒分離工程と未反応オレフィン回収工程はこの順序で設置されていても良く、或いは逆の順序で設置されていてもよい。未反応オレフィン回収工程は 任意の手段と装置を採用することが出来、例えば向流接触塔等が用いられる。各装置間には適宜、気液分離器等が設けられる。また、触媒分離工程及び未反応原料回収工程の他に精留塔等の精製工程等を有していてもよい。
【0034】
触媒分離工程は、反応器から抜き出された反応生成物から生成アルデヒドと触媒含有液を分離する工程で、分離手段としては特に限定されないが、アルデヒドに随伴させて水を分離できる分離手段が選ばれ、蒸留或いは蒸発が好ましい。より好ましくは蒸留により、蒸留塔塔頂よりアルデヒド成分を留出させ、触媒含有液を塔底より流出させる。また、例えば特開平8−165266号に記載される様な配位子の分解や触媒活性の低下を抑制する分離条件を採用することが望ましい。分離されたアルデヒドは、未反応オレフィン回収工程、例えば向流接触塔でオキソガスと接触させ、未反応オレフィンが分離され、更に、要すれば精留塔等で精製され、製品アルデヒドとされる。或いは、反応器から抜き出された反応生成物は先ず、未反応オレフィン回収工程に供給され、未反応オレフィンを分離回収した後、要すれば気液分離した後の液相を触媒分離工程に供給して、アルデヒドと触媒含有液に分離しても良い。
何れの場合も、生成アルデヒドを分離された触媒含有液は反応器に循環されるが、循環される触媒液の少なくとも一部を触媒処理工程に導入し、水性液と接触処理した後、反応器出口から触媒分離工程までの任意の工程に循環させる。
触媒処理工程は、生成アルデヒド分離後の触媒含有液中の不純物の除去、触媒の活性化、回収、再活性化等を目的とし、触媒含有液を処理する工程であり、本発明方法は、係る触媒処理工程の中、水或いは水性液と触媒含有液との接触処理を含む工程を対象とする。
【0035】
例えば、特開平8−337550号に開示されている、第VIII族金属−ホスファイト系錯体触媒を用いたヒドロホルミル化反応生成液から分離した触媒含有液を、水を含む極性溶媒抽出溶液と接触させて、高沸点副生物を選択的に抽出し分離する場合或いは、錯体触媒を分離回収して再生、再使用する場合;WO9720797号に開示されているように、金属−オルガノホスファイト配位子錯体触媒を用いたヒドロホルミル化反応生成液から分離した触媒含有液を水と接触させることにより、リン酸酸性化合物を除去する場合;特開平3−146423号に開示される、ヒドロホルミル化反応液から分離した触媒含有液を、カルボン酸及びカルボン酸アルカリ金属塩の存在下、酸素ガスで処理した後、水で抽出してロジウムを回収する方法を利用して回収したロジウムを再生してリサイクルする場合;米国特許第4390473号に記載されるように、低圧ヒドロホルミル化法において使用された触媒含有液を蟻酸水溶液と接触させ、酸素を含有するガスを導通した後、相分離し、水相に回収したロジウムを再生してリサイクルする場合;ヨーロッパ特許第695734号に記載されている様に、触媒含有液から水溶性リン配位子水溶液を用いて水相にロジウムを抽出し、この水溶液を水性ガスで処理して有機溶媒にロジウムを抽出する方法を利用する場合、特開平10−324656号、特開2000−34253号に開示される様に、触媒含有液をカルボン酸、アンモニア、アミン或いはそれ等の塩等から選ばれる促進剤を含有する水性媒体へ酸化抽出し、一酸化炭素雰囲気で非水溶性有機リン化合物の有機溶媒液と接触させてロジウム有機リン化合物錯体を有機溶媒液中に抽出し、要すれば促進剤除去のため水洗した後触媒液とする場合等が挙げられる。
【0036】
係る処理により活性化或いは再生された触媒含有液は、少なくとも溶解量の水分を含有している。本発明方法は係る触媒含有液を、直接反応工程へ循環せずに、反応器出口から、触媒分離工程までの何れかの工程へ供給することを必須とする。
触媒処理工程を経た触媒含有液の供給場所としては、特に限定されるものではなく、例えばヒドロホルミル化反応工程出口、未反応オレフィン回収工程或いは触媒分離工程が代表的な供給先であり、反応プロセスに応じ適宜選択される。これにより、触媒処理工程で混入した水分を、触媒含有液と生成アルデヒドを分離する際、アルデヒドと共に留出させることが出来る。その結果、循環触媒液中の水分濃度を低減させ、触媒に同伴されて持ち込まれる反応帯域中の水分濃度を低減することができるため、ホスファイト配位子の分解生成物の更なる分解を抑制することができる。
【0037】
本発明方法の具体的な実施態様の1つを、図1を用いて、また、他の1例を図2を用いて説明する。図1、2において、(1)は反応器、(2)は未反応オレフィン回収のための向流接触塔、(3)は気液分離器、(4)は触媒分離塔、(5)は触媒処理工程を示す。
図1の例においては、管路(7)より反応器(1)にオレフィンを連続的に供給し、管路(17)より触媒液を反応器(1)に循環供給する。また、オキソガスは管路(8)より向流接触塔(2)に連続的に供給して未反応のオレフィンを回収した後、管路(11)より反応器(1)に供給し、ヒドロホルミル化反応が実施される。生成アルデヒド、触媒、水、溶媒等を含有する反応生成液は管路(9)より向流接触塔(2)に導入され、オキソガスと向流接触させる。未反応のオレフィンを回収した後の向流接触塔塔底液は気液分離器(3)に供給され、オキソガス等を分離した後、触媒分離塔(4)へ導入され、塔頂より水及びアルデヒドを留出分離し、更に精留塔等を経てアルデヒドを回収する。触媒分離塔(4)の塔底から得られる触媒含有液の一部を管路(14)より抜き出し、触媒処理工程(5)へ導入して水性媒体処理を行った後、管路(16)を経て触媒分離塔(4)あるいは向流接触塔(2)へ循環する。一方、残りの触媒分離塔塔底液は、管路(17)により、反応器(1)へ循環される。また、反応器(1)からはアルデヒド生成物及び水並びに未反応オレフィン等からなる混合蒸気流を管路(19)より抜き出し、これをコンデンサー(6)により冷却する。コンデンサーでの凝縮液は、通常再び反応器(1)へ循環するが、反応器中の水分量を低減させるために、凝縮液の一部又は全部を管路(18)より向流接触塔(2)或いは触媒分離塔(4)へ供給しても良い。
【0038】
図2の例においては、反応器(1)より管路(9)により抜き出された反応生成液は、先ず気液分離器(3)へ導入され、ガス成分を分離し、液相は触媒分離塔(4)へ導入され、塔頂より生成アルデヒドを留出させ、向流接触塔(2)へ導入し、オキソガスと向流接触させて未反応オレフィンを分離し、アルデヒドを回収する。触媒分離塔(4)の塔底から得られる溶媒含有液の一部を管路(14)より抜き出し、触媒処理工程(5)へ導入して水性媒体処理を行った後、管路(16)を経て触媒分離塔(4)へ循環する。一方、残りの触媒分離塔塔底液は、管路(17)により、反応器(1)へ循環される。また、反応器(1)からアルデヒド生成物及び水並びに未反応オレフィン等からなる混合蒸気流を管路(19)より抜き出し、これをコンデンサー(6)により冷却し、通常、再び、反応器(1)へ循環されるが、凝縮液の一部又は全部を管路(18)より触媒分離塔(4)へ供給してもよい。さらに、気液分離器(3)から分離されたガスもコンデンサー(6')により冷却して凝縮液の一部又は全部を触媒分離塔へ供給することもできる。これらの凝縮液を反応器以外の工程へ供給することにより、反応器内の水分を低減することができる。
【0039】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1
図1の装置を用いてプロピレンのヒドロホルミル化反応を行った。反応はロジウム−ビスホスファイト系錯体触媒の存在下(Rh濃度 500mg/l、P/Rh mol比=8)で行った。ビスホスファイトとして下記化合物(1)を用いた。
【0040】
【化11】
【0041】
(上式中、tBuはt−ブチル基、−はメチル基を表す)。
管路(7)より反応器(1)にプロピレンを連続的に供給し、管路(17)より触媒液を7500kg/Hrで循環供給した。また、0.4wt%の水分を含むオキソガス(H2/CO=1.0)を管路(8)より向流接触塔(2)に連続的に供給して未反応のプロピレンを回収した後、管路(11)より反応器(1)に供給した。反応器は90℃、全圧0.98MPaに維持され、反応器の圧力が0.98MPaに保たれるようにプロピレン及びオキソガスの供給量を調整したところ、プロピレンのフィード量は1200kg/h、オキソガスのフィード量は900kg/hであった。反応器気相部はコンデンサー(6)で40℃に冷却され、ベントガスの1部は管路(21)よりパージされ、残りは5000kg/hで管路(20)より反応器(1)に再循環された生成アルデヒド及び触媒を含有する反応生成液は、管路(9)より向流接触塔(2)へ導かれ、オキソガスとの緊密接触により未反応オレフィンがガスストリッピングされた後、気液分離器(3)へ導入され減圧された。気液分離後の反応液は触媒分離塔(4)に導かれ、塔頂より生成アルデヒドを留出させ、塔底からの触媒含有液を750kg/hで管路(14)より触媒処理工程(5)へ供給し、触媒液を酸化した後酢酸水溶液に抽出し、次いで、トルエン溶媒で再抽出し、これを水洗した後、管路(16)より触媒分離塔(4)へ戻した。管路(16)での水分濃度は1.4wt.%であった。そして管路(17)より反応器(1)へ7500kg/hで再循環した。このとき、反応器(1)中の水分濃度は0.03wt.%であった。
【0042】
比較例1
実施例1と同じ装置を用いてプロピレンのヒドロホルミル化反応を行った。触媒処理工程(5)を経た後の触媒液を触媒液を、触媒分離塔(4)へ供給せずに、直接反応器(1)に戻すこと以外は実施例1と同じ操作条件で、反応条件等も同一であった。このときの反応器中の水分濃度は0.16wt.%であった。
【0043】
【発明の効果】
本発明方法でヒドロホルミル化反応を行うことにより、反応器内の水分濃度を従来の約5分の1に低減することができ、ロジウム−ホスファイト系錯体触媒を用いたヒドロホルミル化反応における配位子の分解を抑制して、効率的に反応を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法の一実施態様を示すプロセスフローシート。
【図2】本発明方法の他の一実施態様を示すプロセスフローシート。
【符号の説明】
1 反応器
2 向流接触塔
3 気液分離器
4 触媒分離塔
5 触媒処理工程
6 コンデンサー
Claims (7)
- ロジウム−ホスファイト系錯体触媒の存在下、オレフィン系不飽和化合物と一酸化炭素及び水素とを連続的にヒドロホルミル化反応させて得られる、少なくとも触媒及び生成アルデヒドを含む反応生成物から生成アルデヒドを分離した後の触媒含有液を反応器に循環させ、その際、触媒含有液の少なくとも一部を水性液と接触処理する液循環ヒドロホルミル化反応プロセスにおいて、水性液と接触処理後の触媒含有液を、ヒドロホルミル化反応器出口から触媒分離工程までの任意の工程に循環することを特徴とするアルデヒド類の製造方法。
- ロジウム−ホスファイト系錯体触媒の存在下、オレフィン系不飽和化合物と一酸化炭素及び水素とを連続的にヒドロホルミル化反応させることにより得られる、少なくとも触媒及び生成アルデヒドを含む反応生成物を反応器より抜き出し、未反応オレフィン回収工程に供給して未反応オレフィンを回収した後、気液分離し、液相を触媒分離工程に供給して生成アルデヒドを分離回収した後の触媒含有液を反応器に循環させる液循環ヒドロホルミル化反応プロセスにおいて、アルデヒド分離後の触媒含有液の少なくとも一部を触媒処理工程に導入し、水性液と接触させた後、ヒドロホルミル化反応器出口から触媒分離工程までの任意の工程に循環することを特徴とするアルデヒド類の製造方法。
- ロジウム−ホスファイト系錯体触媒の存在下、オレフィン系不飽和化合物と一酸化炭素及び水素とを連続的にヒドロホルミル化反応させることにより得られる、少なくとも触媒及び生成アルデヒドを含む反応生成物を反応器より抜き出し、気液分離後、液相を触媒分離工程に供給して生成アルデヒドを分離した後の触媒含有液を反応器に循環させ、分離した生成アルデヒドは未反応オレフィン回収工程に供給して未反応オレフィンを回収する液循環ヒドロホルミル化反応プロセスにおいて、生成アルデヒド分離後の触媒含有液の少なくとも一部を触媒処理工程に導入し、水性液と接触させた後、ヒドロホルミル化反応器出口から触媒分離工程までの任意の工程に循環することを特徴とするアルデヒド類の製造方法。
- 触媒処理工程で水性液と接触させた後の触媒含有液を、触媒分離工程に循環することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のアルデヒド類の製造方法。
- 触媒処理工程で水性液と接触させた後の触媒含有液を、未反応オレフィン回収工程に循環することを特徴とする請求項1又は2に記載のアルデヒド類の製造方法。
- 触媒分離工程において、蒸留または蒸発により反応生成液から生成アルデヒドを分離することを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のアルデヒド類の製造方法。
- オレフィン系不飽和化合物がプロピレンであることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載のアルデヒド類の製造方法。
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