JP3959754B2 - アルデヒド類の製造方法 - Google Patents

アルデヒド類の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、第8族金属−ホスファイト系錯体触媒の存在下に、オレフィン系不飽和化合物をヒドロホルミル化反応させてアルデヒド類を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
第8族金属錯体触媒の存在下に、オレフィン系不飽和化合物を一酸化炭素及び水素と反応させることによりアルデヒド類を製造するプロセスは広範に工業化されている。このヒドロホルミル化反応における触媒としては、ロジウム等の第8族金属を3価のリンの化合物のような配位子で修飾した錯体触媒が用いられており、ヒドロホルミル化反応の活性や選択性を向上させるために、種々の配位子についての検討がなされている。
【0003】
例えば、特公昭45−10730号には、トリアリールホスフィンやトリアリールホスファイト等の3価リン化合物配位子で修飾されたロジウム触媒が有効であることが開示されている。中でも、ホスファイト配位子で修飾された触媒は、ヒドロホルミル化反応において高い活性と優れた選択性を示すことが知られている。
【0004】
しかしながら、特開昭59−51229号に開示されているように、トリフェニルホスファイト等のホスファイト配位子では、ヒドロホルミル化反応系中で配位子が比較的速やかに分解し、それに伴い触媒活性が低下することが知られており、ホスファイト配位子を連続的に補給することが必要である。したがって、単に触媒の活性及び選択性を改良するためだけでなく、ホスファイト配位子の減損による触媒活性の低下を小さくするために、各種のホスファイト配位子が提案されている。
【0005】
例えば、特開昭59−51228号及び特開平4−290551号には、ホスファイト配位子の分解を抑制するために、ホスファイト自体の安定性を改良することが開示されている。また、特開昭60−156636号には、ヒドロホルミル化反応帯域に3級アミンを存在させてホスファイト配位子の安定化を図る方法が開示されている。
【0006】
また、触媒の分離技術として、特開昭50−49190号には吸着法が、特開昭57−122948号には晶析法が、特開平2−231435号には膜分離法が開示されており、特開昭56−2994号には、ロジウム−ホスフィン系錯体触媒を使用するヒドロホルミル化反応により得られる触媒液をパラフィンもしくはシクロパラフィンおよび極性有機溶媒と接触させて二相分離し、極性有機溶媒相にロジウム錯体の大部分を得る方法が開示されている。しかし、工業的には蒸留による分離が用いられることが多い。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
通常の液相ヒドロホルミル化反応の反応媒体としては、芳香族炭化水素等の不活性溶媒が用いられるほか、アルデヒド生成物の縮合反応により生成する高沸点副生物が用いられることが多い。いずれの媒体を使用した場合にもこの高沸点副生物は経時的に生成し、抜き出しを行わなければ次第に蓄積する。この高沸点副生物の蓄積はそのマスバランス的な問題の他に、場合によっては触媒の被毒物質となりうるために、連続的又は間欠的に高沸点副生物の一部を系外に抜き出す必要がある。
【0008】
一方、第8族金属錯体触媒を工業的に使用する場合には、第8族金属が高価であるために、触媒を連続的に再循環することが必須である。従って、上記のような高沸点副生物の一部をパージする際には、第8族金属錯体触媒の損失を可能な限り少なくするように、選択的に高沸点副生物を抜き出す必要がある。この高沸点副生物を抜き出すための分離方法として、従来のホスフィン系プロセスにおいては通常蒸留が用いられてきた。
【0009】
ヒドロホルミル化反応の溶媒として通常用いられるベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素溶媒を使用した場合、触媒液の沸点は非常に高くなる。そのため、蒸留により高沸点副生物と触媒成分の分離を行う場合、蒸留塔の釜の温度を低下させるための一つの手段として水蒸気蒸留が用いられることもある。これらの蒸留塔の釜の温度は120℃から場合によっては170℃以上になることがある。
【0010】
ヒドロホルミル化反応における第8族金属触媒の配位子としてトリフェニルホスフィンに代表されるような有機ホスフィン化合物を使用する場合、上記のような高い温度条件下であっても通常何ら支障をきたさない。ところがホスフィン系配位子に比べ反応においては高活性、高選択性であるホスファイト系配位子を使用しようとする場合、ホスファイトは熱安定性の面でホスフィンよりもはるかに劣るため、上記のような高温での蒸留による高沸点副生物の分離方法ではホスファイトの急速な分解がおこり、実質的にホスファイトを工業的に使用することは不可能であった。
また、温度を下げるために水蒸気蒸留を使用する場合においては、ホスファイトの加水分解性の高さのために更に激しい分解が引き起こされる。
【0011】
従来、ホスファイトは高い加水分解性を有するため、プロセス中の水分はホスファイトの分解を促進するものであることから、できるだけ水分を少なくする方法が考えられていた。もっとも、少量の水であれば存在させるほうがむしろ好ましいことが、特開平6−199728号に開示されている。しかし、それでも多すぎる水分、例えば抽出分離操作の際、有機相と水相の2相に分離するほどの量の水分を添加することは、同出願においても好ましくないことが述べられている。つまり、従来の知見では、ホスファイト系プロセスにおいて水系の抽出操作により、錯体触媒又は高沸点副生物を分離することは困難であった。
【0012】
すなわち、ホスフィン系配位子よりも高性能のホスファイト系配位子を工業的に利用する場合には、ホスファイト配位子の分解を抑制し、且つ、錯体触媒の損失をできるだけ少なくして、高沸点副生物の一部を抜き出す方法の確立が一つの重要な課題であった。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題につき鋭意検討を重ねた結果、第8族金属−ホスファイト系錯体触媒を用いたヒドロホルミル化反応生成液を極性溶媒を含む抽出溶液と緊密に接触させることで、ホスファイト配位子を分解させることなしに、選択的に錯体触媒又は高沸点副性物を分離することが可能であることを見出して、本発明を完成した。
【0014】
即ち、本発明の要旨は、第8族金属−ホスファイト系錯体触媒の存在下、液相で、オレフィン系不飽和化合物を一酸化炭素及び水素とヒドロホルミル化反応させてアルデヒド類を製造する方法において、反応により得られる錯体触媒及び高沸点副生物を含む反応生成液を、極性溶媒を含む抽出溶液と緊密に接触させて、錯体触媒及び高沸点副生物のいずれか一方を選択的に抽出させ、抽出溶液層を反応生成液層から相分離することを特徴とするアルデヒド類の製造方法、に存する。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明におけるヒドロホルミル化反応により得られる反応生成液は、少なくとも(i)高沸点副生物、(ii)第8族金属及びホスファイト化合物を含む錯体触媒、及び(iii)反応媒体を含むものであり、本発明は、この反応生成液を極性溶媒を含む抽出溶液と緊密に接触させることで、錯体触媒及び高沸点副生物のいずれか一方を選択的に抽出溶液側に移行させ、その後、反応生成液層と抽出溶液層とを二相分離する方法である。
【0016】
本発明において、錯体触媒及び高沸点副生物のいずれか一方を選択的に抽出させる方法としては、以下の(I)(II)の方法が挙げられる。
(I)まず、抽出溶液の種類を選ぶことにより、高沸点副生物を選択的に抽出し、触媒成分、例えば触媒活性のある第8族金属−ホスファイト系錯体や過剰のホスファイト化合物の抽出率ができるだけ少なくなるよう操作する方法がある。こうして、触媒成分を含有する反応生成液層をヒドロホルミル化反応器へ再循環させることができるので、ヒドロホルミル化製造系から触媒を著しく損失することがない。
【0017】
(II)また、抽出溶液の種類を選ぶことにより、錯体触媒を選択的に抽出するよう操作する方法がある。錯体触媒が含まれる抽出溶液層から逆抽出等の方法により触媒成分を非極性層に移した後、ヒドロホルミル化反応器へ戻すことができる。高沸点副生物を含む反応生成液層は、通常の蒸留等の方法により反応溶媒を回収した後、再使用される。
【0018】
ヒドロホルミル化反応生成液は、通常予めアルデヒド生成物を蒸留等の方法で分離した後に抽出操作に用いられるが、反応生成液を直接抽出操作に用いてもよい。また、反応生成液の全量について抽出操作を行う必要は必ずしもなく、場合によってはその一部を抜き出して抽出操作を行ってもよい。
【0019】
抽出溶液は、ヒドロホルミル化反応生成液と二相分離できる種々の極性溶媒を含有し得る。また、極性溶媒自体はヒドロホルミル化反応生成液と二相分離しなくても、例えば水と混合することにより二相分離するようなもの、即ち抽出溶液が複数成分から成るものでもよい。これらの極性溶媒としては、水、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、ジエチルケトン等のケトン類、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、ジグライム、トリグライム等のエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール等のジオール類、低級カルボン酸、更にはジエチレングリコールモノメチルエーテル、2−メトキシエタノール等の2種以上の官能基を持つ化合物等が挙げられる。これらの溶媒の中でも、錯体触媒を抽出せず、高沸点副生物のみを選択的に抽出するものが好ましく、そのような溶媒としては、例えば炭素原子を3個まで有するアルカノール類、特に第1アルカノール類であるメタノール又はエタノールを使用すると特に良好な結果が得られ、また、ギ酸、酢酸等のカルボン酸類、エチレングリコール、ブタンジオール等のジオール類、ジエチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類を用いても同様に良好な結果が得られる。
【0020】
逆に、高沸点副生物を抽出せず、錯体触媒のみを選択的に抽出する溶媒もまた好ましい。例えば、トリエチルアミン、トリオクチルアミン等のアルキルアミン、メタノールアミン、エタノールアミン等のアルカノールアミン、ピリジン等の環式アミン類等が挙げられ、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジオキサン等のエーテル類等も好ましく用いられる。
【0021】
先に述べたように、ヒドロホルミル化反応生成液と二相分離するものであれば、抽出溶液中に必ずしも水の存在は必要ではない。しかし、多くの場合、水の存在は二相分離の効果だけでなく、抽出効率にも効果的に作用する。抽出溶液を構成している極性溶媒と水の相対量は、回収すべき高沸点副生物又は錯体触媒の種類及び使用した反応溶媒等に依存して実質的に変化し得るが、通常極性溶媒と水との体積比率で20:1〜1:20であり、好ましくは5:1〜1:1の範囲内を用いるのがよい。
【0022】
ヒドロホルミル化反応生成液と抽出溶液との間の、錯体触媒又は高沸点副生物の分配は平衡過程であり、抽出操作の際の抽出溶液と反応生成液との相対体積は、使用される溶液中での錯体触媒又は高沸点副生物の溶解度、抽出溶液中の極性溶媒含有量、及び分離すべき錯体触媒又は高沸点副生物の量によって決まる。例えば、高沸点副生物を抽出する場合、分離すべき高沸点副生物が抽出溶液中で高い溶解度を示し、且つ反応生成液中に比較的低濃度で存在する場合には、反応生成液に対して小さい体積比率の抽出溶液を使用して、高沸点副生物を実用的に抽出することが可能である。また、高沸点副生物の濃度が高いほど、反応生成液から高沸点副生物を実用的に抽出するために使用しなげればならない抽出溶液の反応生成液に対する比率は通常高くなる。高沸点副生物が抽出溶液中で比較的低い溶解度を示す場合には、上記した抽出溶液の相対体積が増加する。通常、抽出溶液と反応生成液との体積比率は10:1〜1:10の範囲で変動し得るが、反応生成液と抽出溶液の比率を慎重に選定することによって、上記体積比率のうち1:1〜1:4の範囲内がほとんどの高沸点副生物の分離に採用することができる。錯体触媒を抽出する場合においても全く同様である。
【0023】
また、抽出温度としては、ヒドロホルミル化反応温度(例えば70〜125℃)よりも高い温度を用いることによって実現される利点は何もなく、ヒドロホルミル化反応温度よりも低い抽出温度を用いることにより、優れた結果が得られる。この操作は、抽出効率、平衡到達温度及びエネルギー問題の観点から10〜60℃、更には10〜45℃の温度範囲で行うことが、実用的で好ましい。しかしながら、抽出時に何らかの反応を伴う場合はこの限りではない。例えば、高沸点副生物を抽出する際に高沸点副生物を抽出溶液層に抽出されやすい形態に反応によって変化させる場合がある。この場合、それぞれの反応における最適な温度が存在する。
【0024】
ヒドロホルミル化反応生成液と抽出溶液とを接触させておく時間、即ち二相分離前の時間は、相が平衡状態に到達する速度に依存する。実際には、これは1分以内から3時間を超える長い時間まで変動しうる。
本発明における抽出プロセスは、二つの別々の液体相に溶解している特定化合物の平衡過程である。本抽出プロセスの効率は、化合物Xの分配係数Kpによって測定することができ、これは以下のように定義される。
【0025】
【数1】
Kp=(抽出後の抽出溶液中のXの濃度)/(抽出後の反応生成液中のXの濃度)
【0026】
本発明の抽出プロセスについては、ヒドロホルミル化反応生成液と抽出溶液との間で高沸点副生物を分配させる場合、錯体触媒のKp値は通常抽出プロセスの経済性により左右されるが、0.2以下、好ましくは0.06以下、更に好ましくは0.03以下に抑制することができる。この場合、高沸点副生物のKp値はできるだけ高いことが好ましく、Kp値が高いと抽出効率が高くなり、抽出溶液の必要量が少なくなる。錯体触媒を分配させる場合も同様である。また、反応溶媒のKp値が低い値であることが、溶媒のロスを減少できるという点で望ましい。
【0027】
第8族金属−ホスファイト系錯体触媒は、第8族金属源とホスファイト化合物とを直接ヒドロホルミル化反応器に供給して、ヒドロホルミル化反応系内で形成させてもよいが、反応器外で一酸化炭素、水素及びホスファイト化合物と共に、溶媒中で高い温度・圧力の条件下で反応させて、あらかじめ錯体触媒を調製しておくこともできる。触媒調製の際に使用する溶媒は、通常後述する反応溶媒の中から選ばれるが、必ずしも反応溶媒と同一の溶媒でなくてもよい。調製条件は通常、圧力が常圧〜100kg/cm2G、温度が常温〜150℃で行われる。
【0028】
錯体触媒の第8族金属源としては例えば、Ru3 (CO)12、Ru(NO3 3 、RuCl2 (Ph3 P)4 、Ru(acac)3 等のルテニウム化合物、PdCl2 、Pd(OAc)2 、Pd(acac)2 、PdCl2 (COD)、PdCl2 (Ph3 P)2 等のパラジウム化合物、Os3 (CO)12、OsCl3 等のオスミウム化合物、Ir4 (CO)12、IrSO4 等のイリジウム化合物、K2 PtCl4 、PtCl2 (PhCN)2 、Na2 PtCl6 ・6H2 O等の白金化合物、CoCl2 、Co(NO3 2 、Co(OAc)2 、Co2 (CO)8 等のコバルト化合物、アルミナ、シリカ、活性炭等の担体に担持されたRh金属、RhCl3 、Rh(NO3 3 等の無機塩、Rh(OAc)3 、Rh(OCOH)3 等の有機塩、Rh2 3 等のロジウム酸化物、Rh(acac)(CO)2 等のRhのキレート化合物、塩化ロジウム酸ナトリウム、塩化ロジウム酸カリウムのようなロジウムの無機または有機塩基酸塩、〔Rh(OAc)(COD)〕2 、Rh4 (CO)12、Rh6 (CO)16、μ,μ′−Rh2Cl2 (CO)4 、RhH(CO)(Ph3 P)3 、〔Rh(OAc)(CO)2 2 、〔RhCl(COD)〕2 、〔Rh(μ−S(t−Bu))(CO)2 2等のRhのカルボニル錯化合物等のロジウム化合物(ここでacacはアセチルアセトネート基、Acはアセチル基、CODはシクロオクタジエン、Phはフェニル基を各々表わす)が挙げられ、中でもロジウム化合物を用いるのが好ましい。
【0029】
一方、第8族金属と錯体を形成するホスファイト配位子及び遊離ホスファイト配位子としては、トリアリールホスファイト、トリアルキルホスファイト、アリールアルキルホスファイト等の任意のホスファイト化合物を使用することができる。また、これらの組合せを同一分子内にもつビスホスファイト、ポリホスファイト化合物等も使用できる。
【0030】
また、トリフェニルホスファイト等は、室温でもアルデヒド化合物と容易に反応し配位子の減損が生じる。従って、ホスファイト化合物の内、本発明の目的のために好ましい化合物としては、分子構造中の立体障害等によりアルデヒドや水等との反応が抑制され、安定性を向上させたホスファイト化合物が挙げられる。
【0031】
このような安定性の高いホスファイト化合物は、例えば以下のような2つの化合物群に分類することができる。第1の化合物群は、リン原子を含む環状構造を分子内に持たないホスファイト化合物であり、第2の化合物群はリン原子を含む環状構造を分子内に持つホスファイト化合物である。
【0032】
まず、リン原子を含む環状構造を分子内に持たないホスファイト化合物の例としては、ホスファイト化合物の少なくとも1つのアルコール成分が、芳香環に直接結合する水酸基を有し、該水酸基の結合する炭素原子の隣接炭素原子に炭化水素置換基を有する芳香族アルコールであるものを用いるのが好ましい。例えば次の一般式(1)で表わされるのホスファイト化合物が挙げられる。
【0033】
【化1】
P(OR1)(OR2)(OR3) ・・・(1)
[式中、R1,R2及びR3は互いに独立して有機基を表わし、その少なくとも1つは、下記一般式(2)
【0034】
【化2】
Figure 0003959754
【0035】
(式中、R4は一般式C(R9)(R10)(R11)で表わされる基又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、R9,R10及びR11は互いに異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭化水素基又はフッ素化炭化水素基を表し、R5,R6,R7及びR8は互いに異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は有機基を表す。)で表される置換フェニル基を表す。]
【0036】
好ましくは一般式(2)中のR4が全体としてイソプロピル基以上の嵩高さを持つものがよい。これらの化合物の具体例としては、ジフェニル(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジフェニル(2−イソプロピルフェニル)ホスファイト、ビス(2−t−ブチル−4−メチルフェニル)フェニルホスファイト等が挙げられる。
【0037】
このうち、一般式(1)においてR1,R2及びR3のすべてが一般式(2)表される置換フェニル基である化合物が更に好ましい。
これらの化合物の具体例としては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−4−メトキシフェニル)ホスファイト、トリス(o−フェニルフェニル)ホスファイト、トリス(o−メチルフェニル)ホスファイト等が挙げられる。
【0038】
また、リン原子を含む環状構造を分子内に持たないホスファイト化合物の好ましい別の例としては、次の一般式(1’)のホスファイト化合物等が挙げられる。
【0039】
【化3】
P(OR1)(OR2)(OR3) ・・・(1’)
[式中、R1,R2及びR3は互いに独立して有機基を表わし、その少なくとも1つは、下記一般式(3)
【0040】
【化4】
Figure 0003959754
【0041】
(式中、R4は一般式C(R9)(R10)(R11)で表わされる基又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、R9,R10及びR11は互いに異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭化水素基又はフッ素化炭化水素基を表し、R12,R13,R14,R15及びR16は互いに異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は有機基を表す。)で表される置換−2−ナフチル基を表す。]
【0042】
好ましくは、一般式(3)中のR4が全体としてイソプロピル基以上の嵩高さをもつものがよい。これらの化合物の具体例としては、ジフェニル(3,6−ジ−t−ブチル−2−ナフチル)ホスファイト等が挙げられる。
このうち、一般式(1’)においてR1,R2及びR3が互いに異なっていてもよく、それぞれ置換されていてもよい2−ナフチル基であり、且つ、R1,R2及びR3のうち少なくとも1つの2−ナフチル基の置換基R4が上記一般式(3)で定義したものである化合物がより好ましい。
【0043】
これらの化合物の具体例としては、ビス(2−ナフチル)(3,6−ジ−t−ブチル−2−ナフチル)ホスファイト等が挙げられる。
このうち、一般式(1’)において、R1,R2及びR3の少なくとも1つが一般式(3)で表される置換−2−ナフチル基であって、他の基が一般式(2)で表される置換フェニル基であるものが更に好ましい。
【0044】
これらの化合物の具体例としては、ビス(3,6−ジ−t−ブチル−2−ナフチル)(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(3,6−ジ−t−ブチル−2−ナフチル)(2−t−ブチルフェニル)ホスファイト等が挙げられる。
【0045】
このうち、一般式(1’)においてR1,R2及びR3のすべてが一般式(3)で表される置換−2−ナフチル基である化合物が最も好ましい。
これらの化合物の具体例としては、トリス(3,6−ジ−t−ブチル−2−ナフチル)ホスファイト、トリス(3,6−ジ−t−アミル−2−ナフチル)ホスファイト等が挙げられる。
【0046】
好ましい配位子の更に別の例としては、一般式(1’)においてR1及びR2が、それぞれ少なくともその3位、6位および8位が互いに異なっていてもよい炭化水素基で置換されており、且つ、他に置換基を有していてもよい2−ナフチル基であり、R3がアルキル基、シクロアルキル基またはm位および/またはp位にのみ置換基を有していてもよいフェニル基であるホスファイト化合物がある。
【0047】
これらの化合物の具体例としては、ビス(3,6,8−トリ−t−ブチル−2−ナフチル)フェニルホスファイト、ビス(3,6,8−トリ−t−ブチル−2−ナフチル)(p−トリル)ホスファイト等が挙げられる。
また、本発明で使用しうるホスファイト化合物のうち、リン原子を含む環状構造を分子内に持たないホスファイト化合物の中で、好ましい化合物の別の例としては、次の一般式(4)で示されるビスホスファイト化合物及びポリホスファイト化合物等が挙げられる。
【0048】
【化5】
1[−O−P(OR17)(OR18)]n ・・・(4)
【0049】
(式中、R17及びR18は互いに異なっていてもよい芳香族炭化水素基を表し、該芳香族炭化水素基の少なくとも1つは、酸素原子に結合する炭素原子の隣接炭素原子に炭化水素基を有し、A1は、それぞれ置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素又は芳香族炭化水素の部分構造を含有するn価の有機基を表す。また、各[−O−P(OR17)(OR18)]基は互いに異なっていてもよく、nは2〜4の整数を表す。)
【0050】
好ましくは、一般式(4)において、R17又はR18の少なくとも1つが、前記一般式(2)で表される置換フェニル基、又は前記一般式(3)で表される置換−2−ナフチル基であるホスファイト化合物を用いるのがよい。
【0051】
このうち、一般式(4)において、R17及びR18のいずれもが前記一般式(2)で表される置換フェニル基であるホスファイト化合物を用いるのが更に好ましい。これらの化合物の具体例としては、以下の式に示すような化合物が挙げられる。
【0052】
【化6】
Figure 0003959754
【0053】
本発明で使用しうるホスファイト化合物のうち、もう一方の化合物群であるリン原子を含む環状構造を分子内に持つホスファイト化合物としては、次の一般式(5)で表されるホスファイト化合物が挙げられる。
【0054】
【化7】
Figure 0003959754
(式中、Zは二価の有機基を表し、Wは置換又は未置換の一価炭化水素基を表す。)
【0055】
一般式(5)中のZで示される代表的な有機基としては、二価の脂肪族基又は二価の芳香族基等が挙げられる。二価の脂肪族基としては、アルキレン、アルキレンオキシアルキレン、アルキレン−NX−アルキレン(Xは水素又は一価炭化水素基)、アルキレン−S−アルキレン、シクロアルキレン基等が挙げられる。二価の芳香族基としては、アリーレン、アリーレンアルキレン、アリーレンアルキレンアリーレン、アリーレンオキシアリーレン、アリーレンオキシアルキレン、アリーレン−NX−アリーレン、アリーレン−NX−アルキレン(Xは水素又は一価炭化水素基)、アリーレン−S−アルキレン及びアリーレン−S−アリーレン基等が挙げられる。
【0056】
これらのホスファイト化合物のうち好ましい化合物の例としては、次式(6)に示されるような、式(5)における二価の有機基Zと一価の炭化水素基Wとが結合したような、3価の有機基Z’を含む二環性又は多環性のホスファイト化合物等が挙げられる。
【0057】
【化8】
Figure 0003959754
【0058】
これらの化合物の具体例としては、4−メチル−2,6,7−トリオキサ−1−ホスファビシクロ[2.2.2]オクタン、4−エチル−2,6,7−トリオキサ−1−ホスファビシクロ[2.2.2]オクタン、4−エトキシメチル−2,6,7−トリオキサ−1−ホスファビシクロ[2.2.2]オクタン、4−アセトキシメチル−2,6,7−トリオキサ−1−ホスファビシクロ[2.2.2]オクタン等が挙げられる。
【0059】
また、好ましいホスファイト化合物の別の例としては、一般式(5)で表される化合物のうち次の一般式(7)で表されるホスファイト化合物等が挙げられる。
【0060】
【化9】
Figure 0003959754
【0061】
(式中、Rは水素、アルキル基又はシクロアルキル基を表し、置換基を有していてもよく、相互に異なっていてもよい。nは0〜4の整数を表す。)
【0062】
一般式(7)中のRとしては、メチル基、エチル基、フェニル基、トリル基、ベンジル基、ナフチル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
【0063】
また、より好ましくは、一般式(5)におけるWが一般式(2)又は(3)で表されるような、酸素原子に結合する炭素原子の隣接炭素原子に炭化水素基を有するアリール基であるホスファイト化合物を用いるのがよい。
また、好ましいホスファイト化合物の別の例としては、次の一般式(8)で表されるホスファイト化合物等が挙げられる。
【0064】
【化10】
Figure 0003959754
(式中、Wは置換又は未置換の一価炭化水素基を表し、Rは炭化水素基であり、Rはベンゼン環と縮合して縮合芳香環を形成していてもよい。)
【0065】
一般式(8)中のRとしては、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基及び置換基を有していてもよいアリール基等、またRがベンゼン環と縮合したナフタレン環等の縮合芳香環等が挙げられる。
【0066】
また、より好ましくは、一般式(8)におけるWが一般式(2)又は(3)で表されるような、酸素原子に結合する炭素原子の隣接炭素原子に炭化水素基を有するアリール基であるホスファイト化合物を用いるのがよい。
また、好ましいホスファイト化合物の別の例としては、一般式(5)で表される化合物のうち次の一般式(9)で表されるホスファイト化合物等が挙げられる。
【0067】
【化11】
Figure 0003959754
【0068】
[式中、Arは互いに異なっていてもよい置換又は未置換のアリーレン基であり、yは0又は1を表し、QはCR1920、O、S、NR21、SiR2223及びCO(ここでR19及びR20は水素、炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、トリル基又はアニシル基であり、R21、R22及びR23は水素又はメチル基である。)よりなる群から選ばれる二価の基であり、nは0又は1を表す。]
【0069】
より好ましいホスファイト化合物としては、一般式(5)で表される化合物のうち、次の一般式(10)又は(11)で表されるホスファイト化合物等が挙げられる
【0070】
【化12】
Figure 0003959754
【0071】
(各式中、QはCR2425で表される基であり、R24及びR25は水素又はアルキル基を表し、Wは置換又は未置換の炭素数1〜18のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等のアリール基を表し、Z1、Z2、Y1及びY2は、、炭素数1〜8のアルキル、アリール、アルカリール、アラルキル、脂環式基、ヒドロキシ基及びヒドロカルビルオキシ基よりなる群から選ばれる基を表す。)
これらの化合物の具体例としては、以下に示すような化合物等が挙げられる。
【0072】
【化13】
Figure 0003959754
【0073】
本発明で使用しうるホスファイト化合物のうち、リン原子を含む環状構造を分子内に持つホスファイト化合物の別の例としては、次の一般式(12)に示すようなビスホスファイト化合物又はポリホスファイト化合物等が挙げられる。
【0074】
【化14】
Figure 0003959754
【0075】
(式中、Zは互いに異なっていてもよい二価の有機基を表し、Wは置換又は未置換のm価の炭化水素基を表す。mは2〜6を表す。)
【0076】
また、好ましいホスファイト化合物としては、次の一般式(13)で示されるような、一般式(12)におけるZが、前記一般式(7)、(8)又は(9)で定義したZである化合物、又は各Zが前記式の組合せで表されるホスファイト化合物等が挙げられる。
【0077】
【化15】
Figure 0003959754
【0078】
(式中、各置換基は前記式(7)、(8)及び(9)で定義したものと同じものを表し、各Zは互いに異なっていてもよい。Wは置換又は未置換のm価の炭化水素基を表し、各R基は個々に、アルキル、アリール、アルカリール、アラルキル及び脂環式基等の置換又は未置換の一価炭化水素基よりなる群から選ばれる基を表す。m1、m2及びm3はそれぞれ0〜6であり、m1+m2+m3は2〜6でmはm1+m2+m3に等しい。)
【0079】
また、より好ましいホスファイト化合物としては、一般式(12)におけるZが、前記一般式(9)と同様に定義されたホスファイト化合物が挙げられる。
また、更に好ましいホスファイト化合物としては、一般式(12)におけるZが、前記一般式(10)及び/又は(11)と同様に定義されたホスファイト化合物が挙げられる。
これらの化合物の具体例としては、以下に示すような化合物等が挙げられる。
【0080】
【化16】
Figure 0003959754
【0081】
【化17】
Figure 0003959754
【0082】
【化18】
Figure 0003959754
【0083】
本発明で使用しうるホスファイト化合物のうち、リン原子を含む環状構造を分子内に持つポリホスファイトとしては、次の一般式(14)のホスファイト化合物等が挙げられる。
【0084】
【化19】
Figure 0003959754
【0085】
(ここでWは置換又は未置換のm価の炭化水素基を表し、Zは一般式(5)におけと同様に二価の有機基を表し、各Zは互いに異なっていてもよい。また、各Rは置換又は未置換の一価の炭化水素基であり、m1及びm2はそれぞれ1〜6の値を有し、m1+m2は2〜6であり、mはm1+m2に等しい。)
【0086】
また、好ましいホスファイト化合物としては、一般式(14)におけるZが、前記一般式(7)、(8)、(9)で定義したZである化合物、又は各Zが前記式の組合せで表されるホスファイト化合物等が挙げられる。
【0087】
また、更により好ましいホスファイト化合物としては、次の一般式(15)及び(16)で示されるような、一般式(14)におけるZが前記式(10)又は(11)で定義したZである化合物、又は、各Zが前記式の組合せで表されるホスファイト化合物が挙げられる。
【0088】
【化20】
Figure 0003959754
【0089】
[ここでWはアルキレン、アリーレン及びアリーレン−(CH22−(Q)n(CH22−アリーレン−(各アリーレン基は置換基を有していてもよい。)よりなる群から選ばれる置換又は未置換の二価の炭化水素基であり、QはCR2627、O、S、NR28、SiR2930及びCO(ここでR26及びR27は水素又はアルキル基を表し、R28、R29及びR30は水素又はメチル基である。)よりなる群から選ばれる二価の基であり、nは0又は1を表し、Rは、アルキル基、アリール基、アルカリール基、アラルキル基、脂環式基等の置換又は未置換の炭化水素基を表す。また、Y1、Y2、Z1及びZ2は式(10)におけると同様である。]
これらの化合物の具体例としては、以下に示す化合物等が挙げられる。
【0090】
【化21】
Figure 0003959754
【0091】
【化22】
Figure 0003959754
【0092】
本発明で使用しうるホスファイト化合物としては、同一分子内に部分構造としてホスファイト構造と、例えばホスフィン構造のような配位能力のある部分構造を合わせ持つような化合物を用いてもよい。
【0093】
配位能力のある部分構造としては、−PR3132、−OPR3132、−P(O)(OR31)、−NR3132、−NR31C(O)R32、−SR31のような不対電子対を持つものがあり、ここで、R31及びR32はそれぞれ異なっていてもよく、水素又は一価の炭化水素基を表し、R31とR32が結合して環状構造になっていてもよい。
【0094】
このうち、好ましい化合物の例としては、前記式(1)におけるR1、R2又はR3、前記式(4)におけるA1、前記式(5)、(12)又は(14)におけるWで示される置換基として、上記配位能力のある部分構造を合わせ持つホスファイト化合物等が挙げられる。
これらの化合物の具体例としては、以下の式に示すような化合物等が挙げられる。
【0095】
【化23】
Figure 0003959754
【0096】
本発明で用いられるヒドロホルミル化プロセス中に存在する遊離ホスファイト配位子はどんな過剰量存在していてもよく、例えば反応媒体中に存在する第8族金属1モル当たり少なくとも1モルであり、100モルまで或いはそれより多くすることができる。一般に、反応媒体中に存在する第8族金属に結合(錯形成)したホスファイトの量と遊離(非錯形成)のホスファイトの量との和は、第8族金属1モル当たり約4〜約500モルあれば大部分の用途に適する。また、反応媒体中に所定量の遊離配位子を維持するために、任意の態様で反応媒体中に補給用ホスファイト配位子を供給してもよい。また、第8族金属−ホスファイト系錯体触媒のホスファイト配位子と遊離ホスファイト配位子とは通常同じ種類の配位子を用いるが、必要によりそれぞれ別のホスファイト配位子を使用してもよく、また、2種以上の異なるホスファイト配位子の混合物を使用することもできる。
【0097】
本発明のヒドロホルミル化プロセスの反応媒体中に存在する第8族金属−ホスファイト系錯体触媒の量は、使用すべき所定の第8族金属濃度をもたらすのに必要な最低量あればよく、少なくとも触媒量の第8族金属に関する基準を満たす量であればよい。第8族金属としてロジウムを用いた場合、ヒドロホルミル化反応媒体中のロジウム濃度は、一般に金属ロジウムとして計算して、1ppm〜1000ppmの範囲で十分であり、10〜500ppmを用いることが好ましく、25〜350ppmがより好ましい。
【0098】
本発明で用いられるオレフィン系不飽和化合物は、単品でも混合物としても用いることができ、直鎖状、分岐鎖状又は環状構造でもよい。好適なオレフィン系不飽和化合物は炭素数2〜20のオレフィンであり、2個以上のエチレン性不飽和基を含んでいてもよい。また、本発明で用いる抽出溶液に対して溶解度の低いオレフィンを使用するのが好ましい。ヒドロホルミル化反応に実質的に悪影響を与えないカルボニル基、カルボニルオキシ基、ヒドロカルビルオキシ基、ヒドロキシ基、オキシカルボニル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリール基、アルキル基、ハロアルキル基等を含有していてもよい。
【0099】
オレフィン系不飽和化合物の例としては、α−オレフィン、内部オレフィン、アルケン酸アルキル、アルカン酸アルケニル、アルケニルアルキルエーテル、アルケノール等が挙げられ、具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン、ノネン、デセン、ドデセン、オクタデセン、シクロヘキセン、プロピレン二量体混合物、プロピレン三量体混合物、プロピレン四量体混合物、ブテン二量体混合物、ブテン三量体混合物、スチレン、3−フェニル−1−プロペン、1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン、3−シクロヘキシル−1−ブテン等のオレフィン系炭化水素、アリルアルコール、1−ヘキセン−4−オール、1−オクテン−4−オール、酢酸ビニル、酢酸アリル、酢酸−3−ブテニル、プロピオン酸アリル、酢酸アリル、メタクリル酸メチル、ビニルエチルエーテル、ビニルメチルエーテル、アリルエチルエーテル、n−プロピル−7−オクテノエート、3−ブテンニトリル、5−ヘキセンアミド等が挙げられる。このうち、オレフィン系炭化水素が好ましく、中でもモノオレフィンが更に好ましい。また、モノオレフィンの中でも、プロピレン、ブテンが最も好ましい。
【0100】
ヒドロホルミル化反応の反応媒体としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素その他の反応溶媒を用いることもでき、原料オレフィン自体を用いてもよく、また2種以上の混合物を用いることもできる。アルデヒド生成物及び/又は反応系中で形成される高沸点のアルデヒド縮合副生物を用いることも好ましい。例えば、連続プロセスの開始時には任意の一次溶媒を用いた場合でも、連続プロセスという性質上、一次溶媒は通常順次に置換されて最終的にはアルデヒド生成物と高沸点のアルデヒド縮合副生物とを主成分とするようになる。所望により、このアルデヒド縮合副生物を予備形成させてもよい。
【0101】
溶媒の使用量は本発明にとって重要な問題でなく、所定プロセスに望まれる特定の金属錯体触媒濃度を維持し、且つ反応媒体としての役割を果たすのに十分な量であればよい。一般に、溶媒量は、反応媒体の総重量に対し約5重量%〜約95重量%が用いられる。また本発明においては、抽出の際に二相分離を行わなければならないという観点では、反応溶媒が、用いる抽出溶媒の密度と少なくとも0.05g/mlの差がある密度を有することが好ましく、水不溶性溶媒又は非極性溶媒を用いるのが好ましい。特定のヒドロホルミル化反応溶媒については、満足な相分離を実現するために、特別の溶媒と水の比率からなる抽出溶液を使用する必要がある。
【0102】
ヒドロホルミル化反応条件としては、水素、一酸化炭素及びオレフィン系不飽和化合物の総気体圧力が500kg/cm2G未満でヒドロホルミル化プロセスを作動させることが好ましく、200kg/cm2G未満がより好ましい。最低限の総気体圧力は、反応の初期速度を達成するのに必要な反応体量により限定される。更に、本発明のヒドロホルミル化反応における一酸化炭素分圧は、好ましくは0.1〜100kg/cm2、より好ましくは1〜7kg/cm2であり、また水素分圧は好ましくは0.1〜100kg/cm2、より好ましくは1〜8kg/cm2である。一般に、水素と一酸化炭素ガスのモル比(H2:CO)は1:10〜100:1であり、より好ましくは1:1〜10:1である。
【0103】
また、反応は通常常温〜150℃の温度で実施でき、反応温度50℃〜120℃の範囲内が多くのオレフィン出発原料に対して好ましい。120℃を大幅に上回る反応温度では、実質的な利益は観察されず、また、特表昭61−501268号に開示されているように、触媒活性の減退が見込まれるために一般に好ましくない。
【0104】
オレフィンのヒドロホルミル化反応は、通常連続式の反応器に原料であるオレフィン系不飽和化合物、オキソガス(一酸化炭素−水素混合ガス)及び触媒液を連続的に供給し、上記ヒドロホルミル化反応条件下にて実施される。
【0105】
上記ヒドロホルミル化反応で副生する高沸点副生物は、主としてヒドロホルミル化反応で生成するアルデヒドの2次的副反応により生成するものである。例えば、プロピレンのヒドロホルミル化反応においては、直鎖状のn−ブチルアルデヒドと分岐鎖状のイソブチルアルデヒドとが生成するが、これらのアルデヒド生成物は反応性に富み、それ自体、触媒の不存在下で、しかも比較的低温においてもゆっくりと重合反応又は縮合反応を起こし、高沸点の重縮合生成物を生成する。
【0106】
これらの高沸点の重縮合生成物としては、n−ブチルアルデヒドについては、その自己重合物である二量体及び三量体、縮合二量体である2−エチルヘキセナール、その水素化物である2−エチルヘキサナール及び2−エチルヘキサノール、n−ブチルアルデヒドの水素化物であるn−ブタノール、あるいはn−ブチルアルデヒドのジブチルアセタール等が挙げられる。また、イソブチルアルデヒドからもn−ブチルアルデヒドと同様な反応で自己縮合物である二量体、三量体が生成し、さらにn−ブチルアルデヒドとイソブチルアルデヒドとの交互重合生成物である二量体、三量体及びそれらの誘導体も生成する。また、ヒドロホルミル化反応においては、本発明で使用するホスファイト化合物よりも沸点の高い高沸点副生物も副生する。
【0107】
【実施例】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り以下の実施例によって限定されるものではない。
実施例1〜17、参考例1、2
[Rh(OAc)(COD)]2と下記式のホスファイト化合物(A)をトルエンに溶解し、80℃、オキソガス圧10kg/cm2Gで、1時間プレカルボニル化反応を行った。このプレカルボニル化触媒液に、以下の実験により得られた高沸点副生物と、反応系で生成すると予想されるn−ブタノールを添加し、モデル触媒液を調製した。
【0108】
【化24】
Figure 0003959754
【0109】
添加した高沸点副生物は、酢酸ロジウムをロジウム濃度で300mg/L、トリフェニルホスフィン25wt%の触媒液を用い、トルエンを溶媒として、攪拌槽型反応器でプロピレンを100℃、17kg/cm2Gでヒドロホルミル化反応させ、ブチルアルデヒドを製造するプロセスにおいて得られた。反応生成液からオキソガスと未反応プロピレンを分離した後、アルデヒド生成物を連続蒸留により圧力490mmHg、蒸留釜温度119℃で分離し、触媒液はヒドロホルミル化反応工程にリサイクルされた。このプロセスにおいて32回リサイクルを実施した触媒液より、連続蒸留により圧力70mmHg、蒸留釜温度150℃で溶媒を取り除いた後、更に圧力30mmHg、蒸留釜温度153℃で連続的に水蒸気蒸留を行うことによって、主としてアルデヒド2〜3量体からなる高沸点副生物が得られた。
【0110】
調製されたモデル触媒液の組成は以下の通りである。
Rh :50mg/L
ホスファイト化合物(A):0.2wt%
n−ブタノール :2.1wt%
高沸点副生物 :48.6wt%
トルエン :49.3wt%
【0111】
このモデル触媒液を用いて抽出実験を行った。モデル触媒液に対する抽出溶液の体積比は1:1とした。抽出温度は25℃で、触媒液と抽出溶液を混合した後の振盪時間は30分であった。その後、30分から150分静置させたが、ほとんどの場合で60分以内に二相に分離した。ヒドロホルミル化反応液層と抽出溶液層中の錯体触媒と高沸点副生物をそれぞれ分析し、錯体触媒のKp値(錯体)と高沸点副生物のKp値(高沸)を求めた。結果を表−1に示した。
【0112】
【表1】
Figure 0003959754
【0113】
このうち実施例1〜11は錯体触媒に比べて高沸点副生物が選択的に抽出された例である。また、実施例1216は錯体触媒が選択的に抽出された例であり、この場合には、抽出溶液層から触媒成分を逆抽出して回収することができ、高沸点副生物を含むヒドロホルミル化反応液からは、蒸留により大部分のトルエン溶媒を回収することができた。また、以上の操作においてホスファイトの分解は観察されなかった。
【0114】
実施例17及び18
極性溶媒(メタノール)と水の体積比率を4:1とし、抽出溶液と触媒液との体積比率を表−2に示したようにしたこと以外は、実施例1〜18と同様にして抽出実験を行った。いずれの操作においてもホスファイトの分解は観察されなかった。結果を表−2に示した。
【0115】
【表2】
Figure 0003959754
【0116】
実施例19
[Rh(OAc)(COD)]2と下記式のホスファイト化合物(B)をトルエンに溶解し、ロジウム濃度が100mg/L、P/Rh(モル比)が8となるようにした。この液に実施例1〜16で用いたものと同じ高沸点副生物を添加し、モデル触媒液を調製した。
【0117】
【化25】
Figure 0003959754
【0118】
調製されたモデル触媒液の組成は以下の通りである。
Rh :50mg/L
ホスファイト化合物(B):0.4wt%
n−ブタノール :1.8wt%
高沸点副生物 :48.8wt%
トルエン :49.0wt%
【0119】
このモデル触媒液を用い、実施例1〜16と同様の抽出条件を用いて実験を行った。この操作においてホスファィトの分解は観察されなかった。結果を表−3に示した。
【0120】
【表3】
Figure 0003959754
【0121】
比較例1
ホスファイト配位子(B)の代わりにトリフェニルホスフィンを用いたこと以外は実施例19と同様にしてモデル触媒液を調製した。
【0122】
調製されたモデル触媒液の組成は以下の通りである。
Rh :50mg/L
トリフェニルホスフィン :4.0wt%
n−ブタノール :1.7wt%
高沸点副生物 :48.7wt%
トルエン :45.6wt%
このモデル触媒液を用い、実施例1〜18と同様の抽出条件を用いて実験を行った。結果を表−4に示した。
【0123】
【表4】
Figure 0003959754
【0124】
同一条件で実施した実施例及び19と比較すると、この系では錯体触媒と高沸点副生物とがほぼ同じ割合で抽出されていることが分かる。
【0125】
【発明の効果】
本発明の方法を用いることにより、ホスフィン系配位子よりも分解性の高いホスファイト系配位子をヒドロホルミル化反応に使用する場合であっても、配位子の分解を抑制し、且つ、触媒成分の損失をできるだけ少なくして、高沸点副生物の一部を分離することができるため、工業的な利用価値が高い。

Claims (8)

  1. 第8族金属−ホスファイト系錯体触媒の存在下、液相で、オレフィン系不飽和化合物を一酸化炭素及び水素とヒドロホルミル化反応させてアルデヒド類を製造する方法において、反応により得られる錯体触媒及び高沸点副生物を含む反応生成液を、水及び極性溶媒を含む抽出溶液と緊密に接触させて、錯体触媒及び高沸点副生物のいずれか一方を選択的に抽出させ、抽出溶液層を反応生成液層から相分離することを特徴とするアルデヒド類の製造方法。
  2. 第8族金属−ホスファイト系錯体触媒の存在下、液相で、オレフィン系不飽和化合物を一酸化炭素及び水素とヒドロホルミル化反応させてアルデヒド類を製造する方法において、反応により得られる錯体触媒及び高沸点副生物を含む反応生成液を、炭素数3以下のアルカノール類、カルボン酸類、ジオール類、アミド類及びスルホランよりなる群から選ばれた極性溶媒及び水を含む抽出溶液と緊密に接触させて、高沸点副生物を選択的に抽出させ、抽出溶液層を反応生成液層から相分離することを特徴とするアルデヒド類の製造方法。
  3. 極性溶媒が、メタノール、エタノール、蟻酸、酢酸、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン及びスルホランよりなる群から選ばれたものであることを特徴とする請求項2に記載のアルデヒド類の製造方法。
  4. 第8族金属−ホスファイト系錯体触媒の存在下、液相で、オレフィン系不飽和化合物を一酸化炭素及び水素とヒドロホルミル化反応させてアルデヒド類を製造する方法において、反応により得られる錯体触媒及び高沸点副生物を含む反応生成液を、アルキルアミン類、アルカノールアミン類、環式アミン類、ニトリル類、ケトン類及びエーテル類よりなる群から選ばれた極性溶媒及び水を含む抽出溶液と緊密に接触させて、錯体触媒を選択的に抽出させ、抽出溶液層を反応生成液層から相分離することを特徴とするアルデヒド類の製造方法。
  5. 極性溶媒が、アセトニトリル、メチルエチルケトン、アセトン、ジエチルエーテル及びジオキサンよりなる群から選ばれるものであることを特徴とする請求項4に記載のアルデヒドの製造方法。
  6. ホスファイトを構成するアルコール成分の少なくとも一つが、芳香環に直接結合する水酸基と、この水酸基が結合する炭素原子に隣接する炭素原子に炭化水素置換基を有するものであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のアルデヒドの製造方法。
  7. 水酸基が結合する炭素原子に隣接する炭素原子にイソプロピル基よりも嵩高い炭化水素基を有していることを特徴とする請求項6に記載のアルデヒド類の製造方法。
  8. オレフィン系不飽和化合物がプロピレンであることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のアルデヒドの製造方法。
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