JP3849767B2 - インクジェット式記録ヘッド - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板の表面に圧電素子を形成して、圧電素子の変位によりインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】
前者は圧電素子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電素子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電素子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
【0004】
これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電素子を作り付けることができるものの、たわみ振動を利用する関係上、ある程度の面積が必要となり、高密度配列が困難であるという問題がある。
【0005】
一方、後者の記録ヘッドの不都合を解消すべく、特開平5−286131号公報に見られるように、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものが提案されている。
【0006】
これによれば圧電素子を振動板に貼付ける作業が不要となって、リソグラフィ法という精密で、かつ簡便な手法で圧電素子を作り付けることができるばかりでなく、圧電アクチュエータの厚みを薄くできて高速駆動が可能になるという利点がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このように圧電素子を圧電材料のスパッタリングにより構成した場合には、グリーンシートを焼成して構成されたものと略同一電圧で駆動すると、圧電素子が薄い分だけ高い電界が印加され、大気中の湿気を吸収した場合には駆動電極間のリーク電流が増加しやすく、ついには絶縁破壊に至るという問題を抱えている。
【0008】
このような問題を解決するために、圧電素子を封止するための封止部を有する封止基板を圧力発生室が形成される流路形成基板に接着した構造が提案されているが、封止基板を接着している接着剤を介して封止部内に水分が侵入し、圧電素子が破壊されてしまうという問題がある。
【0009】
また、封止基板の流路形成基板との接着面積を大きくすることによって封止部内への水分の侵入を抑えることはできるが、ヘッドが大型化してしまうという問題がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑み、圧電素子の湿気等の外部環境に起因する動作不良を防止できるインクジェット式記録ヘッドを提供することを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、インクを吐出するノズル開口に連通する圧力発生室が画成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられる下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備するインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に接合され、当該圧電素子に対向する領域に空間を確保した状態で当該空間を密封する圧電素子保持部を有する封止基板を有し、該封止基板と前記流路形成基板とを接合する接合層の少なくとも外気に接触する部分が含フッ素有機基を含む撥水性エポキシ系接着剤層からなり、且つ前記圧電素子保持部の周囲の前記接合層は、前記撥水性エポキシ系接着剤層の内側の外気に接触しない部分に含フッ素有機基を有さないエポキシ系接着剤層を有することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0012】
かかる第1の態様では、大気中の水分が接合層を介して圧電素子保持部内に侵入することがなく、水分に起因する圧電素子の破壊が防止される。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記撥水性エポキシ系接着剤層は、エポキシ系樹脂材料からなる主剤を、該主剤を硬化させる硬化剤と、前記含フッ素有機基を有し且つ前記主剤又は前記硬化剤と反応する官能基を有するシラン化合物とで硬化させたものであることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0014】
かかる第2の態様では、シラン化合物を主剤又は硬化剤と反応させることにより、含フッ素有機基を有する撥水性エポキシ系接着剤層を形成することができる。
【0015】
本発明の第3の態様は、第2の態様において、前記官能基は、前記シラン化合物のケイ素元素に結合するエポキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基及びカルボニル基からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0016】
かかる第3の態様では、シラン化合物に含まれる官能基が、主剤又は硬化剤と反応することで、含フッ素有機基を有する撥水性エポキシ系接着剤層が形成される。
【0017】
本発明の第4の態様では、第2又は3の態様において、前記シラン化合物の分子鎖の一端部側が前記含フッ素有機基であり、他端部側が前記官能基であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0018】
かかる第4の態様では、シラン化合物に含まれる官能基によってエポキシ系樹脂材料に含まれるエポキシ基を開環させることにより、含フッ素有機基を有する撥水性エポキシ系接着剤層を形成することができる。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0032】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの概略を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及び断面図である。
【0033】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなる。流路形成基板10としては、通常、150〜300μm程度の厚さのものが用いられ、望ましくは180〜280μm程度、より望ましくは220μm程度の厚さのものが好適である。これは、隣接する圧力発生室12間の隔壁11の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。
【0034】
流路形成基板10の一方の面は開口面となり、他方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ1〜2μmの弾性膜50が形成されている。
【0035】
一方、流路形成基板10の開口面には、シリコン単結晶基板を異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11により区画された圧力発生室12が幅方向に並設され、その長手方向外側には、後述するリザーバ形成基板30のリザーバ部31に連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の一部を構成する連通部13が形成され、各圧力発生室12の長手方向一端部とそれぞれインク供給路14を介して連通されている。
【0036】
ここで、異方性エッチングは、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と約70度の角度をなし且つ上記(110)面と約35度の角度をなす第2の(111)面とが出現し、(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われるものである。かかる異方性エッチングにより、二つの第1の(111)面と斜めの二つの第2の(111)面とで形成される平行四辺形状の深さ加工を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12を高密度に配列することができる。
【0037】
本実施形態では、各圧力発生室12の長辺を第1の(111)面で、短辺を第2の(111)面で形成している。この圧力発生室12は、流路形成基板10をほぼ貫通して弾性膜50に達するまでエッチングすることにより形成されている。ここで、弾性膜50は、シリコン単結晶基板をエッチングするアルカリ溶液に侵される量がきわめて小さい。また各圧力発生室12の一端に連通する各インク供給路14は、圧力発生室12より浅く形成されており、圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。すなわち、インク供給路14は、シリコン単結晶基板を厚さ方向に途中までエッチング(ハーフエッチング)することにより形成されている。なお、ハーフエッチングは、エッチング時間の調整により行われる。
【0038】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側で連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.1〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるガラスセラミックス、又は不錆鋼などからなる。ノズルプレート20は、一方の面で流路形成基板10の一面を全面的に覆い、シリコン単結晶基板を衝撃や外力から保護する補強板の役目も果たす。また、ノズルプレート20は、流路形成基板10と熱膨張係数が略同一の材料で形成するようにしてもよい。この場合には、流路形成基板10とノズルプレート20との熱による変形が略同一となるため、熱硬化性の接着剤等を用いて容易に接合することができる。
【0039】
ここで、インク滴吐出圧力をインクに与える圧力発生室12の大きさと、インク滴を吐出するノズル開口21の大きさとは、吐出するインク滴の量、吐出スピード、吐出周波数に応じて最適化される。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合、ノズル開口21は数十μmの直径で精度よく形成する必要がある。
【0040】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。
【0041】
また、圧電素子300の上電極膜80の長手方向一端部近傍から流路形成基板10の端部近傍まで、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が延設されている。そして、このリード電極90の端部近傍には圧電素子300を駆動するための外部配線(図示なし)が電気的に接続される。
【0042】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、リザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有するリザーバ形成基板30が接合されている。このリザーバ部31は、本実施形態では、リザーバ形成基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述したように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。
【0043】
また、リザーバ形成基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態で、その空間を密封可能な圧電素子保持部32が設けられ、圧電素子300はこの圧電素子保持部32内に密封されている。
【0044】
なお、このリザーバ形成基板30は、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0045】
また、このリザーバ形成基板30は、接合層110によって流路形成基板10に接合されている。この接合層110は、本実施形態では、含フッ素有機基を含む撥水性を有する撥水性エポキシ系接着剤からなり、接合層110全体が撥水性を有している。これにより、大気中の水分が接合層110を透過して圧電素子保持部32に侵入することを防止することができる。
【0046】
この接合層110を形成する撥水性エポキシ系接着剤は、基本的には、一般的なエポキシ系接着剤の主剤と硬化剤とが重合反応したものであるが、本実施形態では、さらに含フッ素有機基を有するシラン化合物を添加することにより、含フッ素有機基を有するシラン化合物と、主剤又は硬化剤の一部とが重合反応して含フッ素有機基が重合体の中に形成される。
【0047】
ここで、主剤に用いるエポキシ系樹脂材料は、1分子中にエポキシ基を有する比較的低分子の重合体であり、エポキシ基の開環反応によって熱硬化性樹脂となる。この熱硬化性樹脂は、加熱すると重合体中で架橋反応が起こり網状構造となる合成樹脂である。
【0048】
また、主剤を硬化させる硬化剤は、例えば、アミノ基、カルボニル基等を一つ以上含む化合物からなり、主剤であるエポキシ樹脂材料の分子鎖中に含まれるエポキシ基と反応することにより、エポキシ基を開環させて熱硬化性樹脂にする。このような主剤を硬化させる硬化剤は、100重量部の主剤に対して50〜100重量部添加することが好ましい。
【0049】
ここで、主剤及び硬化剤と反応するシラン化合物は、分子内に含フッ素有機基と、主剤又は硬化剤と反応する官能基とを有する。
【0050】
含フッ素有機基としては、炭化水素基に結合する水素の少なくとも一つをフッ素置換した直鎖、分岐若しくは環状のパーフルオロアルキル基、あるいは、フッ素置換したアリール基等を挙げることができる。
【0051】
また、官能基としては、主剤又は硬化剤と反応し且つ親水性を有していないものであれば特に限定されないが、例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボニル基及びエポキシ基から選択される少なくとも一種を挙げることができる。シラン化合物は、このような官能基を一つ以上有していればよい。
【0052】
このようなシラン化合物の例としては、下記(1)式に示すように、基本骨格が炭素原子を鎖状に連結した構造となる鎖状分子であり、分子鎖の一端部側の炭素に結合するケイ素元素に主剤又は硬化剤と反応する官能基(R1)がそれぞれ結合し、他端部側に含フッ素有機基を有するものを挙げることができる。すなわち、シラン化合物の一端部側が官能基(R1)となり、他端部側の含フッ素有機基が疎水性基となる。このように、接合層110は、含フッ素有機基を有するシラン化合物を添加した撥水性エポキシ系接着剤で形成されるので、優れた撥水性を有する。
【0053】
【化1】
【0054】
(式中、nは、1〜30の範囲の整数を表す。)
【0055】
また、シラン化合物の一端部側のケイ素元素に結合する官能基(R1)は、上述したように、エポキシ系樹脂材料からなる主剤、あるいは硬化剤と反応するものであり、少なくとも一つ有していればよい。このシラン化合物は、100重量部の主剤に対して1〜10重量部添加することが好ましい。
【0056】
上述した含フッ素有機基を有するシラン化合物が持つ官能基は、主剤に含まれるエポキシ基、あるいは硬化剤と反応することによって、主剤及び硬化剤から形成される重合体の分子構造内に、疎水性基である含フッ素有機基を組み込ませることができる。
【0057】
具体的には、官能基としてアミノ基を有するシラン化合物では、硬化剤と同様に作用して主剤のエポキシ基と反応することにより、主剤及び硬化剤により形成される重合体の分子構造内に含フッ素有機基を組み込ませることができる。
【0058】
また、官能基としてカルボニル基を有するシラン化合物も同様に、硬化剤的に作用して主剤のエポキシ基と反応することにより、主剤及び硬化剤により形成される重合体の分子構造内に含フッ素有機基を組み込ませることができる。
【0059】
さらに、官能基としてエポキシ基を有するシラン化合物では、主剤と同様に作用して硬化剤のアミノ基等と反応し、主剤及び硬化剤により形成される重合体の分子構造内に含フッ素有機基を組み込ませることができる。
【0060】
さらには、シラン化合物に含まれる官能基がヒドロキシ基である場合には、主剤に含まれるエポキシ基と硬化剤とが開環反応することで生じたヒドロキシ基と、シラン化合物に含まれるヒドロキシ基とが水和状態(結合状態)となり、主剤及び硬化剤により形成される重合体の分子構造内に含フッ素有機基を組み込ませることができる。
【0061】
なお、硬化剤的に作用するシラン化合物を用いる場合には、硬化剤の添加量を適宜調整してもよく、また、硬化剤と反応するシラン化合物を用いる場合には、硬化剤の添加量を適宜増量する等の調節をする必要がある。
【0062】
このように、疎水性基である含フッ素有機基を有する撥水性エポキシ系接着剤からなる接合層110によって流路形成基板10とリザーバ形成基板30とを接合したので、圧電素子保持部32内への水分の侵入を防止して流路形成基板10とリザーバ形成基板30とを良好に接合することができる。すなわち、エポキシ系接着剤層からなる接合層110には大気中の水分が浸透することがないため、圧電素子保持部32内を常に乾燥状態に保持することができる。したがって、圧電素子保持部32内の圧電素子300が大気中の水分によって破壊されることがない。また、圧電素子保持部32内に乾燥流体等を封入しておけば、大気中の水分による圧電素子300の破壊をより確実に防止することができる。さらに、シラン化合物を加えても接合強度は変化しないため、接合面積が比較的狭くても両者を良好に接合することができ、ヘッドの小型化を図ることができる。
【0063】
なお、本実施形態では、主剤及び硬化剤からなる重合体の分子構造内に含フッ素有機基を組み込むことで接合層110に撥水性を持たせることができるが、主剤であるエポキシ系樹脂材料に含まれるエポキシ基が開環することによって生じたヒドロキシ基の比較的近い所に、シラン化合物に含まれる疎水性基である含フッ素有機基を存在させることにより、大気中の水分がヒドロキシ基にトラップされて接合層110が吸湿することを阻害させることもできる。これによって、接合層110が優れた撥水性を発揮することができる。
【0064】
さらに、このようなリザーバ形成基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止され、内部圧力の変化によって変形可能な可撓部34となっている。
【0065】
また、このリザーバ100の長手方向略中央部外側のコンプライアンス基板40上には、リザーバ100にインクを供給するためのインク導入口35が形成されている。さらに、リザーバ形成基板30には、インク導入口35とリザーバ100の側壁とを連通するインク導入路36が設けられている。
【0066】
なお、リザーバ形成基板30の圧電素子300に対応する領域上には、各圧電素子300を駆動するための、例えば、回路基板あるいは駆動回路を含む半導体集積回路(IC)等の駆動回路120が搭載されている。そして、この駆動回路120は、リザーバ形成基板30の圧電素子保持部32とリザーバ部31との間の領域に設けられた貫通孔37を介して延設されたボンディングワイヤ等からなる駆動配線130によって、各リード電極90とそれぞれ電気的に接続されている(図2(b)参照)。
【0067】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口35からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0068】
以上説明した本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、特に限定されないが、その一例を図3〜図5を参照して説明する。図3〜図5は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【0069】
まず、図3(a)に示すように、流路形成基板10となるシリコン単結晶基板のウェハを約1100℃の拡散炉で熱酸化して二酸化シリコンからなる弾性膜50を形成する。
【0070】
次に、図3(b)に示すように、スパッタリングで下電極膜60を弾性膜50の全面に形成後、下電極膜60をパターニングして全体パターンを形成する。この下電極膜60の材料としては、白金(Pt)等が好適である。これは、スパッタリング法やゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体層70は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。すなわち、下電極膜60の材料は、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持できなければならず、殊に、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ないことが望ましく、これらの理由から白金が好適である。
【0071】
次に、図3(c)に示すように、圧電体層70を成膜する。この圧電体層70は、結晶が配向していることが好ましい。例えば、本実施形態では、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて形成することにより、結晶が配向している圧電体層70とした。圧電体層70の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛系の材料がインクジェット式記録ヘッドに使用する場合には好適である。なお、この圧電体層70の成膜方法は、特に限定されず、例えば、スパッタリング法で形成してもよい。
【0072】
さらに、ゾル−ゲル法又はスパッタリング法等によりチタン酸ジルコン酸鉛の前駆体膜を形成後、アルカリ水溶液中での高圧処理法にて低温で結晶成長させる方法を用いてもよい。
【0073】
何れにしても、このように成膜された圧電体層70は、バルクの圧電体とは異なり結晶が優先配向しており、且つ本実施形態では、圧電体層70は、結晶が柱状に形成されている。なお、優先配向とは、結晶の配向方向が無秩序ではなく、特定の結晶面がほぼ一定の方向に向いている状態をいう。また、結晶が柱状の薄膜とは、略円柱体の結晶が中心軸を厚さ方向に略一致させた状態で面方向に亘って集合して薄膜を形成している状態をいう。勿論、優先配向した粒状の結晶で形成された薄膜であってもよい。なお、このように薄膜工程で製造された圧電体層の厚さは、一般的に0.2〜5μmである。
【0074】
次に、図3(d)に示すように、上電極膜80を成膜する。上電極膜80は、導電性の高い材料であればよく、アルミニウム、金、ニッケル、白金等の多くの金属や、導電性酸化物等を使用できる。本実施形態では、白金をスパッタリングにより成膜している。
【0075】
次に、図4(a)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80のみをエッチングして圧電素子300のパターニングを行う。
【0076】
次に、図4(b)に示すように、リード電極90を形成する。具体的には、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を流路形成基板10の全面に亘って形成すると共に、各圧電素子300毎にパターニングする。
【0077】
以上が膜形成プロセスである。このようにして膜形成を行った後、前述したアルカリ溶液によるシリコン単結晶基板の異方性エッチングを行い、図4(c)に示すように、圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14等を形成する。
【0078】
次に、図5(a)に示すように、撥水性エポキシ系接着剤からなる接合層110によって、リザーバ形成基板30と流路形成基板10とを接合する。なお、このような撥水性エポキシ系接着剤は、本実施形態では、エポキシ系樹脂材料からなる主剤60wt%と、硬化剤35wt%と、上述した(1)式でR1;アミノ基(NH2)、n=17のシラン化合物5wt%とを混練することによって形成した。
【0079】
このように、撥水性エポキシ系接着剤からなる接合層110によって流路形成基板10とリザーバ形成基板30とを接合することにより、圧電素子保持部32内への水分の侵入を防止して流路形成基板10とリザーバ形成基板30とを良好に接合することができる。すなわち、エポキシ系接着剤層からなる接合層110には大気中の水分が浸透することがないため、圧電素子保持部32内を常に乾燥状態に保持することができる。したがって、圧電素子保持部32内の圧電素子300が大気中の水分によって破壊されることがない。また、圧電素子保持部32内に乾燥流体等を封入しておけば、大気中の水分による圧電素子300の破壊をより確実に防止することができる。さらに、シラン化合物を加えても接合強度は変化しないため、接合面積が比較的狭くても両者を良好に接合することができ、ヘッドの小型化を図ることができる。
【0080】
続いて、図5(b)に示すように、流路形成基板10のリザーバ形成基板30とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、リザーバ形成基板30上にコンプライアンス基板40を接合することにより、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドが形成される。
【0081】
なお、実際には、上述した一連の膜形成及び異方性エッチングによって一枚のウェハ上に多数のチップを同時に形成し、プロセス終了後、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割する。そして、分割した流路形成基板10に、リザーバ形成基板30及びコンプライアンス基板40を順次接着して一体化し、インクジェット式記録ヘッドとする。
【0082】
(実施形態2)
図6は、本発明の実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの断面図である。
【0083】
上述した実施形態1では、含フッ素有機基を含む撥水性エポキシ系接着剤を用いて接合層110全体を形成するようにしたが、本実施形態では、接合層110Aの一部のみを撥水性エポキシ系接着剤で形成するようにした。
【0084】
具体的には、図6に示すように、圧電素子保持部32の周縁部に設けられる接合層110Aの外気に接触する部分110aを含フッ素有機基を有する撥水性エポキシ系接着剤によって形成し、その内側、すなわち、接合層110Aの外気に接触しない部分110bを含フッ素有機基を有さないエポキシ系接着剤によって形成するようにした。また、接合層110A以外の接合層110Bについては、含フッ素有機基を含まないエポキシ系接着剤によって形成するようにした。
【0085】
このような構成としても、接合層110Aの外気に接触する部分110aに含まれる含フッ素有機基によって、大気中の水分を吸湿することを阻害して圧電素子保持部32に浸入することを防止することができる。また、接合層110Aの外気に接触しない部分110bによって、圧電素子保持部32に含まれる水分を吸湿させることにより、圧電素子保持部32内を常に乾燥状態とすることができる。したがって、圧電素子保持部32内の圧電素子300が大気中の水分によって破壊されることがない。
【0086】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、インクジェット式記録ヘッドの基本的構成は上述したものに限定されるものではない。
【0087】
例えば、上述の実施形態では、成膜及びリソグラフィプロセスを応用して製造される薄膜型のインクジェット式記録ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のインクジェット式記録ヘッドにも本発明を採用することができる。
【0088】
【発明の効果】
以上説明したように本発明では、流路形成基板と、圧電素子保持部を有する封止基板とを撥水性エポキシ系接着剤からなる接合層によって接合するようにしたので、大気中の水分が接合層を介して圧電素子保持部に侵入することがない。したがって、大気中の水分による圧電素子の破壊を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの概略を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す平面図及び断面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの断面図である。
【符号の説明】
10 流路形成基板
12 圧力発生室
20 ノズルプレート
21 ノズル開口
30 リザーバ形成基板
31 リザーバ部
32 圧電素子保持部
40 コンプライアンス基板
60 下電極膜
70 圧電体層
80 上電極膜
100 リザーバ
110 接合層
300 圧電素子
Claims (4)
- インクを吐出するノズル開口に連通する圧力発生室が画成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられる下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備するインクジェット式記録ヘッドにおいて、
前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に接合され、当該圧電素子に対向する領域に空間を確保した状態で当該空間を密封する圧電素子保持部を有する封止基板を有し、該封止基板と前記流路形成基板とを接合する接合層の少なくとも外気に接触する部分が含フッ素有機基を含む撥水性エポキシ系接着剤層からなり、且つ前記圧電素子保持部の周囲の前記接合層は、前記撥水性エポキシ系接着剤層の内側の外気に接触しない部分に含フッ素有機基を有さないエポキシ系接着剤層を有することを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。 - 前記撥水性エポキシ系接着剤層は、エポキシ系樹脂材料からなる主剤を、該主剤を硬化させる硬化剤と、前記含フッ素有機基を有し且つ前記主剤又は前記硬化剤と反応する官能基を有するシラン化合物とで硬化させたものであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッド。
- 前記官能基は、前記シラン化合物のケイ素元素に結合するエポキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基及びカルボニル基からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット式記録ヘッド。
- 前記シラン化合物の分子鎖の一端部側が前記含フッ素有機基であり、他端部側が前記官能基であることを特徴とする請求項2又は3に記載のインクジェット式記録ヘッド。
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