JP3833276B2 - ジクロロアセチルクロライドの製造方法 - Google Patents

ジクロロアセチルクロライドの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、加圧・高温下でトリクロロエチレンを酸化することによってジクロロアセチルクロライドを製造する方法であって、1段階で上記酸クロライドの良好な収率が得られそしてトリクロロレチレンオキサイド含有量が少ない方法に関する。
【0002】
【従来技術】
酸素または例えば空気等の酸素含有ガスとトリクロロエチレンの反応によりジクロロアセチルクロライドが製造されることは公知である。この酸化反応は、通例では室温ないし200℃の温度で加圧せずにまたは加圧下に行われ、そしてフリーラジカル開始剤または照射により開始されるが、この反応は、略同量のジクロロアセチルクロライドおよびトリクロロエチレンオキサイド以外に、痕跡量の高沸点副生成物およびガス、例えば塩化水素、一酸化炭素およびホスゲンを生成する。
【0003】
中間生成物として生成するトリクロロエチレンオキサイド(エポキシド)を酸クロライドへ転位させる反応は、窒素−含有塩基によって促進するすることができる(米国特許第4,007,224号明細書、同第3,884,785号明細書および同第3,509,210号明細書参照)。
【0004】
ほとんどの公知の方法の欠点は、これらの反応時間が非常に長いことであり、通例は反応が完了するまで30ないし90時間を要する(米国特許第3,884,785号明細書、C. A. 109(1988)16987、同101(1984)9093を参照)。
【0005】
長い反応時間ゆえに、塩基触媒を用いたエポキシドの転位反応は、実質的に定量的な形で行われ、その結果3%以下のエポキシド濃度となってしまい、これは実用的でないと考えられる。
【0006】
流下膜UV反応器中で加圧・高温下で合成を行い、反応速度の増加が達成されるとされるジクロロアセチルクロライドの製造方法は公知である(米国特許第5,030,753号明細書参照)。しかしながら、反応速度の増加は最終生成物におけるエポキシド濃度の著しい増加を伴なう(約7%)。比較実験を行ったところ、15〜25%という高いエポキシド濃度が反応の際に観察された。触媒の濃度を増加してもなんらこの点での改善はみられなかった。この高いエポキシド濃度ゆえに、かゝる反応混合物を取り扱うのには必ず困難を伴なう。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、高反応速度にもかかわらず低エポキシド濃度を達成せしめるジクロロアセチルクロライドの製造方法を見出すことにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、特定の窒素−含有塩基の存在下に合成反応を行うことによって達成される。
【0009】
すなわち、本発明は、トリクロロエチレンを液相中でそして窒素−含有塩基の存在下に短波長光線の照射下、酸素と反応させることによってジクロロアセチルクロライドを製造する方法において、
上記窒素−含有塩基が式HNR1 2 [式中、R1 およびR2 は同一または異なって1〜10個の炭素原子を有するアルキル基である(但し、R1 およびR2 の少なくとも1つは3級構造を有している)かあるいはR1 およびR2 は窒素原子と一緒になって1個またはそれ以上のアルキル基で置換されてもよい5−ないし10−員環を形成する(但し、窒素原子に隣接する炭素原子のうち少なくとも1個は3級炭素原子である)]で表される第2脂肪族または脂環式アミンであり、そして上記窒素−含有塩基をトリクロロエチレンに基づいて0.001ないし0.1重量%の量で使用することを特徴とする方法に関する。
【0010】
本発明による方法において、トリクロロエチレンは、液相または気相中で短波長光を照射しながらかつ窒素−含有塩基の存在下に酸化させることによってジクロロアセチルクロライドに転化される。
【0011】
反応は、50ないし140℃、好ましくは65ないし120℃、特に70ないし100℃の温度で行われる。圧力は、0.01ないし2.0MPa、好ましくは0.03ないし1.0MPa、特に好ましくは0.05ないし0.5MPaである。
【0012】
使用する窒素−含有塩基は、式HNR1 2 [式中、R1 およびR2 は同一または異なって1〜10個、好ましくは3〜8個の炭素原子を有するアルキル基である(但し、R1 およびR2 の少なくとも1つは3級構造を有していなければならない)かあるいはR1 およびR2 は窒素原子と一緒になって1個またはそれ以上のアルキル基、好ましくはメチル基で置換されてもよい5−ないし10−員環、好ましくは6−ないし8−員環を形成する(但し、窒素原子に隣接する炭素原子のうち少なくとも1個は3級炭素原子である)]で表される第2脂肪族または脂環式アミンである。
【0013】
好適なアミンとしてN−メチル−t−ブチルアミン、N−エチル−t−ブチルアミン、N−プロピル−t−ブチルアミン、N−イソプロピル−t−ブチルアミン、N−ブチル−t−ブチルアミン、N−イソブチル−t−ブチルアミン、N−2−メチルブチル−t−ブチルアミン、N−3−メチルブチル−t−ブチルアミン、N−2,3−ジメチルブチル−t−ブチルアミン、N−ペンチル−t−ブチルアミン、N−2−エチルブチル−t−ブチルアミン、N−2−エチルヘキシル−t−ブチルアミン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、2,2,6,6−テトラメチルピペリドン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンが挙げられ、好ましくは、N−イソプロピル−t−ブチルアミン、N−イソブチル−t−ブチルアミン、N−2−メチルブチル−t−ブチルアミン、N−2、3−ジメチルブチル−t−ブチルアミン、N−2−エチルブチル−t−ブチルアミン、N−2−エチルヘキシル−t−ブチルアミン、2、2、6、6−テトラメチルピペリジン、2、2、6、6−テトラメチルピペリドン、4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジンが挙げられ、特に好ましくはN−2−メチルブチル−t−ブチルアミン、N−3−メチルブチル−t−ブチルアミン、N−2、3−ジメチルブチル−t−ブチルアミンおよび2、2、6、6−テトラメチルピペリジンである。
【0014】
高度に遮蔽された(screened)窒素原子を有する第2アミンが、酸素の分圧が増加した状態であっても、トリクロロエチレンオキサイドのジクロロアセチルクロライドへの完全な転位反応に対してその触媒性質を保持することが判った。この種の構造を有する第2アミンはしばしばポリマーの光安定剤(フリーラジカル掃去剤)に使用されていることから、それが当該反応に対してむしろ負の効果を示すと予想されていたため、このことは特に驚くべきことである。
【0015】
上記アミンは、使用するトリクロロエチレンに基づいて0.001ないし0.1重量%、好ましくは0.003ないし0.5重量%の量で使用される。これは、窒素に基づいて数ppmに相当する。この量は、反応条件に依存し、そして1ないし100ppm、好ましくは3ないし50ppm、特に5ないし30ppmの窒素の範囲内である。
【0016】
トリクロロエチレンと酸素との反応は、上記アミンの存在下に行われ、そしてフリーラジカル開始剤によって開始される。好ましい方法において、これは短波長光線、例えばHg高圧灯のUV光により開始される。
【0017】
過剰の酸素を連続して反応系に供給するが、1.1:1ないし5:1、好ましくは1.2:1ないし4:1、特に1.5:1ないし3.5:1のモル比で十分である。未反応の酸素は、ガス状の副生成物と一緒に、系の圧力を一定に保持するよう連続的に除去する。廃ガスを、副生成物、例えばホスゲンおよびHClを吸収するためにアルカリ廃ガス精製処理に付する。
【0018】
本発明による方法は、流下膜反応器中でおよび泡鐘塔型(bubble−cap column)反応器中で行われ、その際回分式または連続的操作が可能である。
【0019】
良好な全収率および高い反応速度を得るためには、40ないし70%の部分反応を行うのが好ましい。未反応のトリクロロエチレンは、蒸留により問題なく除去するすることができ、そしてこれを反応系に循環するすることができる。
【0020】
【実施例】
比較実験A
この実験は、メジェール(Meijere)教授により記載された通りの流下膜式光学的反応器内で行った。この反応器の最も重要な特徴を図1に示す。反応混合物は、管(1)を介して反応器に入り、環状水槽(trough)(2)を満たし、そして薄膜の形態で円筒管(3)の内部で底の管部(4)を通じて循環ポンプ(図示せず)に流れる。
【0021】
反応器はまた、泡鐘塔型反応器の形態でも使用できる。この場合、反応器は環状水槽まで溢れ出る。
冷却ジャケットが付されたUV光源(6)は、保護管(5)中に配置されている。かゝる光学的反応器は、専門会社から販売されている。
【0022】
循環系において使用する保存容器(250cm3 〜2,000cm3 まで可変)、出発原料用の滴下漏斗および排ガスを冷却するために下流に配置された熱交換器を有する多重コイルコンデンサーを反応器に付した。系圧を調整するために使用した減圧弁および圧力ゲージは、NaOH洗浄器に開放される排ガスパイプに一体化した。
【0023】
使用したUV光源は、タイプTQ 150の水銀高圧灯であった。その冷却 ジャケットを、水を使用して冷却した。酸素を、ガラスフリッターを介して反応器に連続的に計量添加し、そしてその使用量をロータメーター[Rotameter(登録商標名)]により測定した。
【0024】
実験のために、トリクロロエチレンおよびアミンを各々上記装置に導入し、そして循環ポンプのスイッチを入れ、そして装置をサーモスタットを使用して加熱した。多重コイルコンデンサーおよび熱交換器をクリオスタットにより一定温度(約−20℃)に保持した。
【0025】
UV灯の好適な運転時間の後、酸素を連続的に一定速度で通過させた。廃ガス流を、予備選択した圧力を一定に保つすることができるような方法で減圧弁により調整した。
【0026】
1,000gのトリクロロエチレンを82mgのピリジン(=14.5ppmのN)で処理し、そして75℃で0.03MPaのO2 過圧の泡鐘塔型操作で酸化した。ガスの使用量は、60dm3 /時とした。反応を4時間に亘って観察し、そしてガスクロマトグラフィーによる分析を表1に示す。
【0027】
4時間後、トリクロロエチレンのジクロロアセチルクロライドへの転化率(量)は、87.8%(=0.88kg)であり、選択率は77.4%であった。
Figure 0003833276
比較実験B
比較実験Aのようにして、0.05MPaのO2 過圧に設定して、1,000gのトリクロロエチレンを82mgのピリジンの存在下75℃で反応させた。
【0028】
反応の経過を表2に示す。
4時間後、トリクロロエチレンの転化率(量)は、89%(=0.89kg)であり、ジクロロアセチルクロライドに基づいて68.5%の選択率であった。
【0029】
Figure 0003833276
比較実験C
比較実験Bの通りにして、1,000gのトリクロロエチレンを75℃かつ0.05MPaのO2 過圧下で反応させた。転位触媒の量は二倍とした(164mgのピリジン)。
【0030】
反応の経過を表3に示す。
4時間後、トリクロロエチレンの転化率(量)は、90.6%(=0.91kg)であり、76%の選択率であった。
【0031】
Figure 0003833276
比較実験D
比較実験Cの通りにして、1,000gのトリクロロエチレンを164mgのピリジンと0.05MPaのO2 過圧下で反応させた。反応温度を80℃にまで上昇させた。
【0032】
4時間後、トリクロロエチレンの転化率(量)は、88.2%(=0.88kg)であり、ジクロロアセチルクロライドに基づいて66.9%の選択率であった。
【0033】
反応の経過は次の通りであった(表4)。
Figure 0003833276
比較実験E
比較実験Aの通りにして、1,200gのトリクロロエチレンを80℃でかつ0.075MPaのO2 過圧下で反応させた。使用した転位触媒はジメチルフォルムアミドである(95mg=15.2ppmのN)。
【0034】
反応の経過を表5に示す。
4時間後、トリクロロエチレンの転化率(量)は、90.1%(=1.08kg)であり、ジクロロアセチルクロライドに基づいて75.6%の選択率であった。
【0035】
Figure 0003833276
比較実験F
実験Eと同様にして、1,400gのトリクロロエチレンを80℃でそして0.075MPaのO2 過圧下で反応させた。使用した転位触媒はトリエタノールアミンである(130mg=9ppmのN)。
【0036】
反応の経過を表6に示す。
4時間後、81.9%(=1.15kg)のトリクロロエチレンが69.5%の選択率で反応していた。
Figure 0003833276
例1
比較実験Aと同様にして、1,200gのトリクロロエチレンを80℃でそして0.075MPaのO2 過圧下で反応させた。使用した転位触媒は2,2,6,6−テトラメチルピペリジンである(83mg=7ppmのN)。
【0037】
反応の経過を表7に示す。
4時間の反応時間の後、90.1%(=1.08kg)のトリクロロエチレンが反応していた。最終生成物に基づく選択率は、94.6%であった。
Figure 0003833276
例2
例1の通りにして、1,400gのトリクロロエチレンを流下膜中で80℃でそして0.075MPaのO2 過圧下で反応させた。99.6mg(=7mmpのN)の2,2,6,6−テトラメチルピペリジンを使用した。
【0038】
実験の経過を表8に示す。93.0%の選択率で80.32%(=1.12kg)のトリクロロエチレン転化率(量)が達成された。
Figure 0003833276
例3
例2の通りにして、1,400gのトリクロロエチレンを流下膜中で80℃でそして0.075MPaのO2 過圧下で反応させた。216mg(=15ppmのN)の2,2,6,6−テトラメチルピペリジンを使用した。
【0039】
反応の経過を表9に示す。4時間後トリクロロエチレンの転化率(量)は、81.4%(=1.14kg)であり、選択率は、95.5%であった。
Figure 0003833276
例4
例3の通りにして、1,400gのトリクロロエチレンを流下膜中で80℃でそして0.075MPaのO2 過圧下で反応させた。96mg(=6mmpのN)のN−2,3−ジメチルブチルーt−ブチルアミンを触媒として使用した。
【0040】
4時間後、トリクロロエチレンの転化率(量)は、82.1%(=1.15kg)であり、94.7%の選択率が達成されていた。
反応の経過を表10に示す。
Figure 0003833276
例5
例4の通りにして、1,400gのトリクロロエチレンを流下膜中で80℃でそして0.075MPaのO2 過圧下で反応させた。104mg(=8ppmのN)のN−イソブチル−tert−ブチルアミンを触媒として使用した。4時間の反応時間の後、82.2%(=1.15kg)のトリクロロエチレンが反応していた。選択率は、93.4%であった。
【0041】
反応の経過を表11に示す。
Figure 0003833276
例6
例1の通りにして、2,000gのトリクロロエチレンを流下膜中で80℃でそして0.075MPaのO2 過圧下で反応させた。転位反応を実施するために、304mg(=15ppmのN)の2,2,6,6−テトラメチルピペリジンを添加した。4時間後、68.4%(=1.38kg)のトリクロロエチレンが反応し、そして94.1%の選択率が達成されていた。
【0042】
反応の経過を表12に示す。
Figure 0003833276

【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明および比較実験を実施するための装置の一例を示した一部切り欠き断面図である。
【符号の説明】
1 管
2 環状水槽
3 円筒管
4 管底部
5 保護管
6 UV光源

Claims (3)

  1. トリクロロエチレンを液相中でそして窒素−含有塩基の存在下に短波長光線の照射下、酸素と反応させることによってジクロロアセチルクロライドを製造する方法において、
    上記窒素−含有塩基が式HNR1 2 [式中、R1 およびR2 は同一または異なって1〜10個の炭素原子を有するアルキル基である(但し、R1 およびR2 の少なくとも1つは3級構造を有している)かあるいはR1 およびR2 は窒素原子と一緒になって1個またはそれ以上のアルキル基で置換されてもよい5−ないし10−員環を形成する(但し、窒素原子に隣接する炭素原子のうち少なくとも1個は3級炭素原子である)]で表される第2脂肪族または脂環式アミンであり、上記窒素−含有塩基をトリクロロエチレンに基づいて0.001ないし0.1重量%の量で使用しそして上記反応を0.01〜2.00MPaの圧力のもとで実施することを特徴とする上記方法。”
  2. 上記窒素−含有塩基がN−イソプロピル−t−ブチルアミン、N−イソブチル−t−ブチルアミン、N−2−メチルブチル−t−ブチルアミン、N−3−メチルブチル−t−ブチルアミン、N−2,3−ジメチルブチル−t−ブチルアミン、N−2−エチルブチル−t−ブチルアミン、N−2−エチルヘキシル−t−ブチルアミン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジンまたは4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンである請求項1の方法。
  3. 上記窒素−含有塩基がN−2−メチルブチル−t−ブチルアミン、N−3−メチルブチル−t−ブチルアミン、N−2,3−ジメチルブチル−t−ブチルアミン、N−イソブチル−t−ブチルアミンまたは2,2,6,6−テトラメチルピペリジンである請求項1の方法。
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