JP3831774B2 - ポリウレタン系弾性繊維用処理剤および該処理剤を用いて処理されたポリウレタン系弾性繊維 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はポリウレタン系弾性繊維用処理剤および該処理剤を用いて処理されたポリウレタン系弾性繊維に関する。更に詳しくは、ポリウレタン系弾性繊維の製造工程において、使用時の処理剤の粘度が長期に亘って安定しており且つ処理剤中の高級脂肪酸マグネシウム塩が良好に分散された処理剤をポリウレタン系弾性繊維に付与することで、良好な捲形状と糸解舒性を有するパッケージの製造を可能にし、且つ加工工程においては、ガイド類への処理剤の脱落と蓄積を低減させ、安定した操業性(糸通過性)を付与することのできるようなポリウレタン系弾性繊維用処理剤および該処理剤を用いて処理されたポリウレタン系弾性繊維に関する。
【0002】
【従来技術】
ポリウレタン系弾性糸を処理する従来の方法として、ポリジメチルシロキサンまたは鉱物油に、1)高級脂肪酸金属塩を分散した処理剤で処理する方法(特公昭37−4586、特公昭40−5557、特公平6−15745号公報)、2)アミノ変性シリコーンを配合した処理剤で処理する方法(特公昭63−8233号公報)、3)ポリエーテル変性シリコーンを配合した処理剤で処理する方法(特公昭61−459、特開平2−127569、特開平6−41873号公報)、4)シリコーン樹脂を配合した処理剤で処理する方法(特公昭42−8438、特公昭63−12197、特開平8−74179号公報)、5)アミノ変性シリコーンとシリコーン樹脂を配合した処理剤で処理する方法(特開平3−294524、特開平3−51374、特開平5−195442号公報)等がある。
【0003】
ところが、従来のポリジメチルシロキサンや鉱物油に高級脂肪酸金属塩を分散した処理剤でポリウレタン系弾性糸を処理する方法では、高級脂肪酸金属塩の初期の分散状態が保たれず経時的に凝集、沈殿するなど処理剤の分散安定性が著しく劣るため、処理剤を使用する際、十分撹拌しても高級脂肪酸金属塩が凝集しているため、これで処理されたポリウレタン弾性糸はパッケージで重なり合う糸条同志が密着し満足する解舒性が得られない。更に加工工程では、凝集した高級脂肪酸金属塩がガイド類に脱落、蓄積するため、これが原因となって糸切れが発生するという欠点がある。また高級脂肪酸金属塩を多量に分散した処理剤で処理する方法には、使用中に繊維からの溶出物により処理剤の粘度が経時的に上昇するため、安定した操業性が得られないという欠点がある。またポリジメチルシロキサンや鉱物油にアミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーンあるいはシリコーン樹脂等の変性シリコーンを配合した処理剤で処理した場合、高級脂肪酸金属塩を配合した処理剤で処理する場合よりもポリウレタン系弾性糸のパッケージでの糸条同志の密着を防止する効果が弱く満足する解舒性が得られない。特に、アミノ変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーンを配合した処理剤で処理した場合、繊維間摩擦係数が著しく低くなりパッケージの捲き崩れを生じ良好な捲形状が得られないばかりか、繊維から低分子量成分が溶出し、経時的にガイド類にスカムとして脱落、蓄積するため、安定した操業性を得られないという欠点がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、使用時の処理剤の粘度が長期に亘って安定しており且つ処理剤中の高級脂肪酸マグネシウム塩の凝集、沈殿を抑制し分散安定性を長期に亘って維持できるポリウレタン系弾性繊維用処理剤およびこれをポリウレタン系弾性繊維に処理することによりポリウレタン系弾性糸のパッケージが優れた捲形状と解舒性を有し、更には加工工程において処理剤のガイド類への脱落、蓄積することを低減し、良好な製造と加工工程通過性を有する、該処理剤によって処理されたポリウレタン系弾性繊維を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
しかして本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、ポリウレタン系弾性繊維を製造する際に、特定のシリコーンオイルと特定のアミノ変性シリコーンと特定のカルボキシ変性シリコーンとが所定割合から成るシリコーン混合物中に特定の高級脂肪酸マグネシウム塩を所定割合でコロイド状に分散された分散液から成るポリウレタン系弾性繊維用処理剤を用いることが正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、分散媒体として25℃における粘度が5×10-6〜50×10-6m2 /Sのシリコーンオイルと分散剤として下記の式1で示されるアミノ変性シリコーンと下記の式2で示されるカルボキシ変性シリコーンとが該シリコーンオイル/該アミノ変性シリコーンと該カルボキシ変性シリコーンとの総和=100/0.5〜100/5(重量比)の割合であって、該アミノ変性シリコーン/該カルボキシ変性シリコーン=100/100〜100/2(重量比)の割合から成るシリコーン混合物中に下記の式3で示される高級脂肪酸マグネシウム塩が該シリコーンオイル100重量部当たり1〜10重量部の割合でコロイド状に分散された分散液から成ることを特徴とするポリウレタン系弾性繊維用処理剤に係る。
【0007】
【化4】
【0008】
【化5】
【0009】
【化6】
【0010】
(式1、式2、式3において、
X1 、X2 、X3 :メチル基又は−R5 −(NH−R6 −)d−NH2 で示されるアミノ変性基であって、少なくともいずれか1つが該アミノ変性基
X4 、X5 、X6 :メチル基又は−R7 −COOHで示されるカルボキシ変性基であって、少なくともいずれか1つが該カルボキシ変性基
R1 、R2 :炭素数2〜5のアルキル基またはフェニル基
R3 、R4 :炭素数11〜21のアルキル基
R5 、R6 、R7 :炭素数2〜5のアルキレン基
a、b:aが25〜400、bが0〜200の整数であって、且つ25≦a+b≦400を満足するもの
c:0〜10の整数
d:0または1
e、f:eが25〜800、fが0〜200の整数であって、且つ25≦e+f≦800を満足するもの
g:0〜20の整数)
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明のポリウレタン系弾性繊維用処理剤(以下、処理剤という)において、分散媒体として用いるシリコーンオイルとしては、25℃における粘度が5×10-6〜50×10-6m2 /Sのものであるが、10×10-6〜30×10-6m2 /Sのものが好ましい。かかる粘度は、JIS−K2283(石油製品動粘度試験方法)に記載された方法で測定される値である。かかるシリコーンオイルとしては、シロキサン単位として、1)ジメチルシロキサン単位から成るポリジメチルシロキサン、2)ジメチルシロキサン単位と炭素数2〜4のアルキル基を含むジアルキルシロキサン単位とから成るポリジアルキルシロキサン類、3)ジメチルシロキサン単位とメチルフェニルシロキサン単位とから成るポリシロキサン類等が包含されるが、シリコーンオイルとしてはポリジメチルシロキサンが好ましい。
【0012】
本発明の処理剤において、分散剤として用いるアミノ変性シリコーンは、必須の構成単位としてジメチルシロキサン単位とアミノ変性基を有するシロキサン単位とを含む線状ポリオルガノシロキサンである。アミノ変性基を有するシロキサン単位としては、式1においてポリオルガノシロキサン鎖中に存在するcで括られた2価のメチル・アミノ変性シロキサン単位及び末端基としての1価のジメチル・アミノシロキサン単位が挙げられる。本発明はこれらのアミノ変性シロキサン単位の種類やその結合位置を制限するものではないが、少なくともcで括られた2価のメチル・アミノ変性シロキサン単位を有するものが後記する高級脂肪酸マグネシウム塩の分散性において好ましい。このようにアミノ変性基を末端でなくポリオルガノシロキサン鎖中に有する場合、これを含むシロキサン単位としては1個又は2〜5の繰り返し単位とすることが好ましい。この場合、末端基としてはX1 、X2 がメチル基に相当するトリメチルシロキサン単位であるものが特に好ましい。
【0013】
本発明に供するアミノ変性シリコーンにおいて、ポリオルガノシロキサン主鎖を形成することとなるアミノ変性基を含有しないシロキサン単位としては前記のジメチルシロキサン単位に加えてbで括られた2価のオルガノシロキサン単位を包含することができる。かかるシロキサン単位の繰り返し数の総和としては25〜400とするが、ジメチルシロキサン単位のみから成り、且つその繰り返し数が100〜200のものが特に好ましい。
【0014】
前記したアミノ変性シリコーンにおいて、アミノ変性基としては、一般式−R5 (NH−R6 −)d−NHにおいて、1)d=0の場合に該当するアルキル基の炭素数が2〜5のアミノアルキル基及び2)d=1の場合に該当するアルキル基の炭素数が2〜5のアミノアルキルアミノアルキル基が包含される。前記1)の具体例としては、2−アミノエチル基、3−アミノプロピル基、4−アミノブチル基等が挙げられるが、2−アミノエチル基又は3−アミノプロピル基が有利に適用できる。また前記2)の具体例としては、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基、N−(2−アミノエチル)−2−アミノエチル基等が挙げられるが、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基が有利に適用できる。
【0015】
本発明に供する処理剤において、分散剤として用いるカルボキシ変性シリコーンは、必須の構成単位としてジメチルシロキサン単位とカルボキシ変性基を有するシロキサン単位とを含む線状ポリオルガノシロキサンである。カルボキシ変性基を有するシロキサン単位としては、式1においてポリオルガノシロキサン鎖中に存在するgで括られた2価のメチル・カルボキシ変性シロキサン単位及び末端基としての1価のジメチル・カルボキシシロキサン単位が挙げられる。本発明はこれらのカルボキシ変性シロキサン単位の種類やその結合位置を制限するものではないが、少なくともgで括られた2価のメチル・カルボキシ変性シロキサン単位を有するものが処理剤の経時的な粘度の上昇を抑制する性質と後記する高級脂肪酸マグネシウム塩の分散性とにおいて好ましい。このようにカルボキシ変性基を末端でなくポリオルガノシロキサン鎖中に有する場合、これを含むシロキサン単位としては1個又は2〜20の繰り返し単位とすることが好ましい。この場合、末端基としてはX4 、X5 がメチル基に相当するトリメチルシロキサン単位であっても又はX4 、X5 がカルボキシ変性基であるジメチル・カルボキシシロキサン単位であっても特に支障はない。
【0016】
本発明に供するカルボキシ変性シリコーンにおいて、ポリオルガノシロキサン主鎖を形成することとなるカルボキシ変性基を含有しないシロキサン単位としては前記のジメチルシロキサン単位に加えてfで括られた2価のオルガノシロキサン単位を包含することができる。かかるシロキサン単位の繰り返し数の総和としては25〜800とするが、ジメチルシロキサン単位のみから成り、且つその繰り返し数が100〜400のものが特に好ましい。
【0017】
前記したカルボキシ変性シリコーンにおいて、カルボキシ変性基としては、2−カルボキシエチル基、3−カルボキシプロピル基、3−カルボキシ−1−メチルプロピル基等が挙げられるが、3−カルボキシプロピル基が有利に適用できる。
【0018】
本発明に供する処理剤に用いる式2で示される高級脂肪酸マグネシウム塩は、炭素数が12〜22の脂肪酸のマグネシウム塩の単独物又は混合物である。これには、1)同一の炭素数を有する高級脂肪酸から成るマグネシウム塩、2)異なる炭素数の高級脂肪酸から成るマグネシウム塩、3)これらの混合物が包含される。これには例えば、ジラウリン酸マグネシウム塩、ジミリスチン酸マグネシウム塩、ジパルミチン酸マグネシウム塩、ジステアリン酸マグネシウム塩、ジアラキン酸マグネシウム塩、ジベヘン酸マグネシウム塩等の同一の脂肪酸のマグネシウム塩、ミリスチン酸パルミチン酸マグネシウム塩、ミリスチン酸ステアリン酸マグネシウム塩、パルミチン酸ステアリン酸マグネシウム塩等の異なる脂肪酸のマグネシウム塩、これらの混合物等が挙げられるが、中でもジミリスチン酸マグネシウム塩、ジパルミチン酸マグネシウム塩、ジステアリン酸マグネシウム塩及びこれらの混合物が好ましい。
【0019】
本発明に供する処理剤は、前記したように分散媒体としてのシリコーンオイルと分散剤としてのアミノ変性シリコーン及びカルボキシ変性シリコーンとが所定割合から成るシリコーン混合物中に高級脂肪酸マグネシウム塩をコロイド状に分散させた分散液から成るものである。ここでシリコーンオイルとアミノ変性シリコーンとカルボキシ変性シリコーンの割合として、シリコーンオイル/アミノ変性シリコーンとカルボキシ変性シリコーンとの総和=100/0.5〜100/5(重量比)とするが、100/0.5〜100/2(重量比)とするのが好ましい。またアミノ変性シリコーン/カルボキシ変性シリコーン=100/100〜100/2(重量比)とするが、100/30〜100/5(重量比)とするのが好ましい。また高級脂肪酸マグネシウム塩の用いる割合としてはシリコーンオイル100重量部当たり1〜10重量部とするが、2〜8重量部とするのが好ましい。
【0020】
本発明は高級脂肪酸マグネシウム塩をシリコーン混合物中に分散させる方法を特に制限するものではないが、これには例えば、1)高級脂肪酸マグネシウム塩とシリコーン混合物とを所定割合で混合し、湿式粉砕して高級脂肪酸マグネシウム塩がコロイド状に分散された分散液を調製する方法が挙げられる。ここで湿式粉砕に用いる粉砕機としては、縦型ビーズミル、横型ビーズミル、サンドグラインダー、コロイドミル等の公知の湿式粉砕機が使用できる。
【0021】
本発明は高級脂肪酸マグネシウム塩がコロイド状に分散された分散液においてコロイド粒子の粒子径を特に制限するものではないが、後記する方法で測定された平均粒子径として0.1〜0.5μmとすることが好ましい。
【0022】
かくして得られた高級脂肪酸マグネシウム塩がシリコーン混合物中にコロイド状に分散した分散液は本発明に供する処理剤である。更に本発明によれば、前記した分散液に下記のポリオルガノシロキサンを更に含有させることができる。即ち、ポリオルガノシロキサンを構成する主たる繰返し単位として下記の式4で示される無水ケイ酸単位及びシリル末端基として下記の式5で示される1価のオルガノシロキサン単位とから構成され、且つ分子中にシラノール残基を有するものである。
[SiO4/2 ]・・・4
[R8 R9 R10SiO1/2 ]・・・5
(式5において、
R8 、R9 、R10:同時に同一又は異なる、炭素数1〜3のアルキル基又はフェニル基)
【0023】
かかるポリオルガノシロキサンは、前記した式4で示される無水ケイ酸単位を形成することとなるシラノール形成性化合物(A)と式5で示される1価のオルガノシロキサン単位を形成することとなるシラノール形成性化合物(B)を用いて、シラノール形成反応及びシラノール形成反応により生成したシラノールの縮重合反応という公知のポリオルガノシロキサン生成反応によって製造される。
【0024】
本発明に供するポリオルガノシロキサンには、前記したように分子中にシラノール残基を含有する。本発明におけるポリオルガノシロキサン生成反応においては、無水ケイ酸単位を形成することとなるシラノール化合物の縮重合反応によるシロキサン鎖成長反応とシロキサン鎖中に存在するシラノール基と1価のオルガノシロキサン単位を形成することとなるシラノール形成性化合物(B)との縮合によるシリル末端基形成反応によって本発明のポリオルガノシロキサンが得られる。この場合シリル末端基形成反応に関与しないシロキサン鎖中のシラノール基は、そのままポリオルガノシロキサン分子中に残存することとなる。本発明において、シラノール基の残存する割合を調整するには、前記したシラノール形成性化合物(A)とシラノール形成性化合物(B)との反応割合を適宜選択することによって達成される。
【0025】
本発明によれば、シラノール基の残存割合を好ましい範囲とするためには、シラノール形成性化合物(A)/シラノール形成性化合物(B)=k/{8/5×(k+1)}〜k/{2/5×(k+1)}(モル比)(但し、ここでkは1以上の整数である)とすることが好ましい。シラノ一ル形成性化合物(A)とシラノール形成性化合物(B)との割合を上記の範囲とすることによって、理論上では、ポリオルガノシロキサン生成反応において、ポリオルガノシロキサン鎖中に存在するシラノール基の20〜80モル%がシリル末端基によって封鎖されたものとなる。
【0026】
前記したシロキサン単位を形成するための原料としては、式4で示される無水ケイ酸単位を形成することとなるシラノール形成性化合物(A)として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン及びテトラクロルシラン等のテトラハロゲン化シラン、等が挙げられる。式5で示される1価のシロキサン単位を形成することと成るシラノール形成性化合物(B)としては、トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリプロピルメトキシシラン、ジメチルエチルメトキシシラン等のトリアルキルアルコキシシラン、ジメチルフェニルメトキシシラン等のフェニル基を含むジアルキルフェニルアルコキシシラン、トリメチルクロルシラン等のトリアルキルハロゲン化シラン、等が挙げられる。
【0027】
本発明によれば、前記したポリオルガノシロキサンの含有割合としては、分散媒体として用いたシリコーンオイル100重量部当たり0.5〜5重量部とするのが好ましく、1〜3重量部とするのが特に好ましい。かかるポリオルガノシロキサンを前記した高級脂肪酸マグネシウム塩がコロイド分散した分散液に加えることによってポリウレタン系弾性繊維に対して当初の性能を阻害することなく静電気の発生を防止する顕著な効果を有するものとなる。
【0028】
本発明の処理剤としては分散媒体としてシリコーンオイルと分散剤としてアミノ変性シリコーンとカルボキシ変性シリコーンとから成るシリコーン混合物中に高級脂肪酸マグネシウム塩をコロイド状に分散された分散液並びにこの分散液に対して前記したポリオルガノシロキサンを溶解させたものを包含する。
【0029】
かかる高級脂肪酸マグネシウム塩のコロイド分散系からなる本発明の処理剤において、コロイド状に分散した高級脂肪酸マグネシウム塩の凝集や沈殿を抑制し、安定な分散性を長期に亘って維持させ、ポリウレタン系弾性繊維の製造、加工工程において所望の性能を発揮させる上で、該分散系における高級脂肪酸マグネシウム塩のコロイド粒子表面の荷電特性が特に重要となる。それによれば、後記するような方法で測定されたゼータ電位として−30mV〜−100mVの範囲とすることが必要である。
【0030】
本発明において処理対象となるポリウレタン系弾性繊維とは、少なくとも85重量%のセグメント化したポリウレタンを含む長鎖の重合体からのフィラメントまたは繊維を意味する。
【0031】
この重合体は2種類の型のセグメント:(a)長鎖のポリエーテル、ポリエステルまたはポリエーテルエステルセグメントであるソフトセグメントと(b)イソシアネ−トとジアミンまたはジオール鎖伸長剤との反応により誘導された比較的短鎖のセグメントであるハードセグメントとを含有する。通常は、ポリウレタン系弾性体はヒドロキシル末端ソフトセグメント前駆体を有機ジイソシアネートでキャッピングすることによって得られるプレポリマ生成物をジアミンまたはジオールで鎖伸長させて製造する。
【0032】
典型的なポリエーテルソフトセグメントにはテトラメチレングリコール、3一メチル−1,5−ペンタンジオール、テトラヒドロフラン、3−メチルテトラヒドロフラン等から誘導されたもの、およびこれらの共重合体が含まれる。その中でもテトラメチレングリコールから誘導されたポリエーテルが好ましい。典型的なポリエステルソフトセグメントには、(a)エチレングリコール、テトラメチレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール等と(b)二塩基酸、たとえばアジピン酸、コハク酸等との反応性物が含まれる。ソフトセグメントはまた、典型的なポリエーテルとポリエステルとから、またはポリカーボネートジオール、たとえばポリー(ペンタン−1,5−カーボネート)ジオールおよびポリー(ヘキサン−1,6−カーボネート)ジオール等から形成されたポリエーテルエステルのような共重合体であってもよい。
【0033】
本発明記載のポリウレタン系弾性体の製造に適した有機ジイソシアネートの典型は、ビスー(p−イソシアナートフェニル)−メタン(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ビスー(4−イソシアナートシクロヘキシル)−メタン(PICM)、へキサメチレンジイソシアネート、3,3,5−トリメチル−5−メチレンシクロヘキシルジイソシアネート等である。その中で特にMDIが好ましい。
【0034】
種々のジアミン、たとえばエチレンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン等がポリウレタンウレアを形成させるための鎖伸長剤に好適である。鎖停止剤は、ポリウレタンウレアの最終的な分子量の調節を助けるために反応混合物に含有させることができる。通常、鎖停止剤は活性水素を有する一官能性化合物、たとえばジエチルアミンである。
【0035】
また、鎖伸長剤としては、上記アミンに限定されることはなく、ジオールであってもよい。例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノ一ル、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4ービス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートおよびパラキシリレンジオール等である。ジオール鎖伸長剤は、1種のみのジオールに限定されるわけでなく、複数種のジオールからなるものであってもよい。また、イソシアネート基と反応する1個の水酸基を含む化合物と併用していてもよい。この場合、このようなポリウレタンを得る方法については溶融重合法、溶液重合法など公知の方法が適用でき、限定されるものでない。重合の処方についても、特に限定されずに、たとえば、ポリオールとジイソシアネー卜と、ジオールからなる鎖伸長剤とを同時に反応させることにより、ポリウレタンを合成する方法等が挙げられ、いずれの方法によるものでもよい。
【0036】
ポリウレタン系弾性繊維はベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系等の耐候剤、ヒンダードフェノ一ル系等の酸化防止剤、酸化チタン、酸化鉄等の各種顔料、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化セシウム、銀イオン等を含有する機能性添加剤等が含有されていてもよい。
【0037】
ポリウレタン溶液に適した溶媒には、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドおよびN−メチルピロリドンが含まれるが、DMAcが最も一般的に使用される溶媒である。30ないし40%の、特に35ないし38%(溶液の全重量を基準にして)の範囲内のポリウレタン濃度が、フィラメントへの乾式紡糸に特に好適である。
【0038】
ジオールを鎖伸長剤として用いたポリウレタン系弾性繊維は溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法等により紡糸され、アミンを鎖伸長剤として用いたポリウレタン系弾性繊維は通常乾式紡糸される。本発明においての紡糸法は特に限定されるものではないが、溶媒を用いた乾式紡糸が望ましい。
【0039】
本発明の処理剤をポリウレタン系弾性繊維に付着させるには、処理剤を溶剤等で希釈することなくそのまま給油する所謂ニート給油をすることが必要である。その付着工程としては、紡糸後でパッケージに巻き取るまでの間の工程、巻き取ったパッケージを巻き返す工程、整経機で整経する工程等が挙げられるが、いずれの工程でもよく、また付着方法は、ローラー給油法、ガイド給油法、スプレー給油法等の公知の方法が適用できる。処理剤の付着量は、ポリウレタン系弾性繊維に対し1〜10重量%とするが、3〜7重量%とするのが好ましい。
【0040】
本発明に係る処理方法の実施形態としては、次の1)〜8)が好適例として挙げられる。
【0041】
1)分散媒体として25℃における粘度が20×10-6m2 /Sであるシリコーンオイル(S−1)94.2重量部と分散剤として式1中のaが180、bが0、cが1、X1 とX2 がメチル基、X3 がN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基であるアミノ変性シリコーン(A−1)0.7重量部と式2中のeが30、fが0、gが2、X4 とX5 がメチル基、X6 が3−カルボキシプロピル基であるカルボキシ変性シリコーン(B−1)0.1重量部とを混合したシリコーン混合物にジステアリン酸マグネシウム塩(F−1)5.0重量部を加えて20〜35℃で均一になるまで混合した後、横型ビーズミルを用いて湿式粉砕してジステアリン酸マグネシウム塩(F−1)がコロイド状に分散された分散液から成る処理剤(T−1)。
【0042】
2)分散媒体として25℃における粘度が10×10-6m2 /Sであるシリコーンオイル(S−2)95.2重量部と分散剤として式1中のaが110、bが0、cが4、X1 とX2 がメチル基、X3 がN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基であるアミノ変性シリコーン(A−2)1.2重量部と式2中のeが300、fが0、gが9、X4 とX5 がメチル基、X6 が3−カルボキシプロピル基であるカルボキシ変性シリコーン(B−2)0.1重量部とを混合したシリコーン混合物にジステアリン酸マグネシウム塩(F−1)3.5重量部を加えて20〜35℃で均一になるまで混合した後、横型ビーズミルを用いて湿式粉砕してジステアリン酸マグネシウム塩(F−1)がコロイド状に分散された分散液から成る処理剤(T−2)。
【0043】
3)分散媒体としてシリコーンオイル(S−1)95.6重量部と分散剤として式1中のaが50、bが5、cが1、X1 とX2 がメチル基、X3 がN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基、R1 がn−プロピル基であるアミノ変性シリコーン(A−3)0.7重量部と式2中のeが400、fが350、gが18、X4 とX5 がメチル基、X6 が3−カルボキシプロピル基、R2 がn−プロピル基であるカルボキシ変性シリコーン(B−3)0.1重量部とを混合したシリコーン混合物にパルミチン酸/ステアリン酸=40/60(モル比)の混合高級脂肪酸マグネシウム塩(F−2)3.7重量部を加えて20〜35℃で均一になるまで混合した後、横型ビーズミルを用いて湿式粉砕してパルミチン酸/ステアリン酸=40/60(モル比)の混合高級脂肪酸のマグネシウム塩(F−2)がコロイド状に分散された分散液から成る処理剤(T−3)。
【0044】
4)分散媒体としてシリコーンオイル(S−1)94.2重量部と分散剤として式1中のaが360、bが0、cが3、X1 とX2 がメチル基、X3 が3−アミノプロピル基であるアミノ変性シリコーン(A−4)0.7重量部と式2中のeが50、fが0、gが5、X4 とX5 がメチル基、X6 が3−カルボキシプロピル基であるカルボキシ変性シリコーン(B−4)0.1重量部とを混合したシリコーン混合物にジステアリン酸マグネシウム塩(F−1)5.0重量部を加えて20〜35℃で均一になるまで混合した後、横型ビーズミルを用いて湿式粉砕してジステアリン酸マグネシウム塩(F−1)がコロイド状に分散された分散液から成る処理剤(T−4)。
【0045】
5)分散媒体としてシリコーンオイル(S−1)95.2重量部と分散剤として式1中のaが180、bが50、cが2、X1 とX2 とX3 が3−アミノプロピル基、R1 がフェニル基であるアミノ変性シリコーン(A−5)0.7重量部と式2中のeが200、fが10、gが0、X4 とX5 が3−カルボキシプロピル基、R2 がフェニル基であるカルボキシ変性シリコーン(B−5)0.2重量部とを混合したシリコーン混合物にジステアリン酸マグネシウム塩(F−1)3.9重量部を加えて20〜35℃で均一になるまで混合した後、横型ビーズミルを用いて湿式粉砕してジステアリン酸マグネシウム塩(F−1)がコロイド状に分散された分散液から成る処理剤(T−5)。
【0046】
6)分散媒体としてシリコーンオイル(S−1)94.7重量部と分散剤として式1中のaが30、bが0、cが0、X1 とX2 が3−アミノプロピル基であるアミノ変性シリコーン(A−6)0.7重量部と式2中のeが200、fが0、gが2、X4 とX5 とX6 とが3−カルボキシプロピル基であるカルボキシ変性シリコーン(B−6)0.7重量部とを混合したシリコーン混合物にジステアリン酸マグネシウム塩(F−1)3.9重量部を加えて20〜35℃で均一になるまで混合した後、横型ビーズミルを用いて湿式粉砕してジステアリン酸マグネシウム塩(F−1)がコロイド状に分散された分散液から成る処理剤(T−6)。
【0047】
7)分散媒体としてシリコーンオイル(S−1)94.36重量部と分散剤としてアミノ変性シリコーン(A−1)1.2重量部とカルボキシ変性シリコーン(B−1)0.04重量部とテトラメチルシラン/トリメチルメトキシシラン=50/50(モル比)でシラノール形成反応と縮重合反応により得られるシラノール基が残存しているポリオルガノシロキサン(PS−1)0.9重量部とを混合したシリコーン混合物にジステアリン酸マグネシウム塩(F−1)3.5重量部を加えて20〜35℃で均一になるまで混合した後、横型ビーズミルを用いて湿式粉砕してジステアリン酸マグネシウム塩(F−1)がコロイド状に分散された分散液から成る処理剤(T−7)。
【0048】
8)分散媒体としてシリコーンオイル(S−2)92.5重量部と分散剤としてアミノ変性シリコーン(A−1)1.3重量部とカルボキシ変性シリコーン(B−2)0.5重量部とテトラメチルシラン/トリプロピルメトキシシラン=35/65(モル比)でシラノール形成反応と縮重合反応により得られるシラノール基が残存しているポリオルガノシロキサン(PS−2)2.0重量部とを混合したシリコーン混合物にパルミチン酸/ステアリン酸=40/60(モル比)の混合高級脂肪酸マグネシウム塩(F−2)3.7重量部を加えて20〜35℃で均一になるまで混合した後、横型ビーズミルを用いて湿式粉砕してパルミチン酸/ステアリン酸=40/60(モル比)の混合高級脂肪酸マグネシウム塩(F−2)がコロイド状に分散された分散液から成る処理剤(T−8)。
【0049】
本発明に係る処理剤で処理されたポリウレタン系弾性繊維の実施形態としては、次の9)〜11)が好適例として挙げられる。
【0050】
9)ビス−(p−イソシアナートフェニル)−メタン/テトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量1800)=1.58/1(モル比)の混合物を常法により90℃で3時間反応させ、キャップドグリコールを調製した。このキャップドグリコールをN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)で希釈した。次にエチレンジアミンおよびジエチルアミンを含むDMAc溶液をキャップドグリコールのDMAc溶液に添加して室温で高速撹拌装置を用いて混合して鎖伸長させた。更にDMAcを加えてポリマが約35重量%溶解したDMAc溶液を得た。得られたポリマのDMAc溶液に、ポリマ当たり酸化チタン4.7重量%、ヒンダードアミン系耐候剤3.0重量%、ヒンダードフェノ一ル系酸化防止剤1.2重量%となるように添加し、混合して均一なポリマ混合溶液を得た。ここで得られたポリマ混合溶液を用いて、公知のスパンデックス用の乾式紡糸方法によって単糸数4本からなる40デニールの弾性糸を紡糸して、巻き取り前のオイリングローラーによって前記1)の処理剤をニート給油して該処理剤の付着量がポリウレタン系弾性繊維に対し6.5重量%で処理されたポリウレタン系弾性繊維。
【0051】
10)前記9)と同様にして得た単糸数4本からなる40デニールの弾性糸に前記9)と同様の方法で前記2)の処理剤をニート給油して該処理剤の付着量がポリウレタン系弾性繊維に対し3.5重量%で処理されたポリウレタン系弾性繊維。
【0052】
11)前記9)と同様にして得た単糸数4本からなる40デニールの弾性糸に前記9)と同様の方法で前記3)〜8)のいずれかの処理剤をニート給油して該処理剤の付着量がポリウレタン系弾性繊維に対しそれぞれ5.0重量%で処理されたポリウレタン系弾性繊維。
【0053】
【実施例】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため実施例等を挙げるが、本発明が該実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例等において、別に記載しない限り、部は重量部を示し、%は重量%を示す。
【0054】
・試験区分1(処理剤の調製)
処理剤T−1の調製
分散媒体として25℃における粘度が20×10-6m2 /Sであるシリコーンオイル(S−1)94.2部と分散剤として下記の表1に示したアミノ変性シリコーン(A−1)0.7部と表2に示したカルボキシ変性シリコーン(B−1)0.1部とを混合したシリコーン混合物にジステアリン酸マグネシウム塩(F−1)5.0部を加えて20〜35℃で均一になるまで混合した後、横型ビーズミルを用いて湿式粉砕してジステアリン酸マグネシウム塩(F−1)がコロイド状に分散された分散液として処理剤(T−1)を調製した。
【0055】
処理剤(T−2)〜(T−6)及び(t−1)〜(t−8)の調製
処理剤(T−1)の調製と同様にして、処理剤(T−2)〜(T−6)及び(t−1)〜(t−8)を調製した。これらの処理剤の内容を表3及び表4にまとめて示した。
【0056】
処理剤(T−7)の調製
分散媒体としてのシリコーンオイル(S−1)94.36部と分散剤として下記の表1に示したアミノ変性シリコーン(A−1)1.2部と表2に示したカルボキシ変性シリコーン(B−1)0.04部と下記の表3の下に示したポリオルガノシロキサン(PS−1)0.9部とを混合したシリコーン混合物にジステアリン酸マグネシウム塩(F−1)3.5部を加えて20〜35℃で均一になるまで混合した後、横型ビーズミルを用いて湿式粉砕してジステアリン酸マグネシウム塩(F−1)がコロイド状に分散された処理剤(T−7)を調製した。
【0057】
処理剤(T−8)の調製
処理剤(T−7)の調製と同様にして、処理剤(T−8)を調製した。この内容を表3に示した。
【0058】
処理剤(t−9)の調製
分散媒体としてシリコーンオイル(S−1)96.5部にジステアリン酸マグネシウム塩(F−1)3.5部を加えて20〜35℃で均一になるまで混合した後、横型ビーズミルを用いて湿式粉砕してジステアリン酸マグネシウム塩(F−1)がコロイド状に分散された処理剤(t−9)を調製した。この内容を表4に示した。
【0059】
【表1】
【0060】
表1において、
AM−1:−C3 H6 NH−C2 H4 −NH2
AM−2:−C3 H6 −NH2
【0061】
【表2】
【0062】
表2において、
CS−1:−C3 H6 −COOH
【0063】
【表3】
【0064】
表3において、
S/A:シリコーンオイル100部当たりのアミノ変性シリコーンとカルボキシ変性シリコーンとの総和の割合(重量比)
A/B:アミノ変性シリコーン100部当たりのカルボキシ変性シリコーンの部
S/F:シリコーンオイル100部当たりの高級脂肪酸マグネシウム塩の部
S/PS:シリコーンオイル100部当たりのポリオルガノシロキサンの部
S−1:25℃における粘度が20×10-6m2 /Sであるポリジメチルシロキサン
S−2:25℃における粘度が10×10-6m2 /Sであるポリジメチルシロキサン
F−1:ジステアリン酸マグネシウム塩
F−2:パルミチン酸/ステアリン酸=40/60(モル比)の混合高級脂肪酸のマグネシウム塩
PS−1:テトラメチルシラン/トリメチルメトキシシラン=50/50(モル比)の割合でポリオルガノシロキサン生成反応させたものであって、シラノール基が残存しているもの(FT−IRでシラノール基の特性吸収帯3750cm-1が検出された)
PS−2:テトラメチルシラン/トリプロピルメトキシシラン=35/65(モル比)の割合でポリオルガノシロキサン生成反応させたものであって、シラノール基が残存しているもの(FT−IRでシラノール基の特性吸収帯3750cm-1が検出された)
【0065】
【表4】
【0066】
表4において、
S−1、F−1:表3と同じ
f−1:ジカプリル酸マグネシウム塩
【0067】
試験区分2(処理剤の評価乃至測定)
・試験区分1で調製した処理剤について、分散安定性、平均粒子径及びゼータ電位を下記のように評価乃至測定した。結果を表4に示した。
【0068】
・分散安定性の評価
処理剤100mlを密栓付きガラス製100mlメスシリンダーに入れ、25℃にて1週間と1ケ月間放置し、1週間後と1ケ月間後の処理剤の外観を観察し、下記の基準で評価した。
◎:均一な分散状態で外観に変化がない
○:5ml未満の透明層が発生した
△:5ml以上の透明層が発生した
×:沈殿が発生した
【0069】
・粘度特性の評価
処理剤を付着させないで紡糸したポリウレタン系弾性繊維100gを処理剤1リットルに室温で1週間浸漬した後、ポリウレタン系弾性繊維と処理剤とを分離して、浸漬に用いた処理剤を回収した。浸漬前後の処理剤の粘度をB型粘度計(ローター回転数6rpm)を用いて測定した。測定値を以下の基準で評価した。
○:浸漬後の粘度の増加分が浸漬前の粘度の10%未満
△:浸漬後の粘度の増加分が浸漬前の粘度の10%以上20%未満
×:浸漬後の粘度の増加分が浸漬前の粘度の20%以上
【0070】
・平均粒子径の測定
試験区分1で調製した処理剤を処理剤に供したと同一の分散媒体を用いて、高級脂肪酸マグネシウム塩が1000ppmの濃度となるように該処理剤を希釈して試料とした。この試料を25℃で超遠心式自動粒度分布測定装置(堀場製作所製CAPA−700)を用いて面積基準の平均粒子径を測定した。
【0071】
・ゼータ電位の測定
試験区分1で調製した処理剤を処理剤に供したと同一の分散媒体を用いて、高級脂肪酸マグネシウム塩が80ppmの濃度となるように該処理剤を希釈して、これを超音波バスで30秒間分散処理して試料とした。この試料を25℃でゼータ電位測定装置(PENKEM社製Model501)を用いてゼータ電位を測定した。
【0072】
【表5】
【0073】
試験区分3(ポリウレタン系弾性繊維への処理剤の付与及びその評価)
・ポリウレタン系弾性繊維の製造と処理剤の付与方法
ビス−(p−イソシアナートフェニル)−メタン/テトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量1800)=1.58/1(モル比)の混合物を常法により90℃で3時間反応させ、キャップドグリコールを調製した。このキャップドグリコールをN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)で希釈した。次にエチレンジアミンおよびジエチルアミンを含むDMAc溶液をキャップドグリコールのDMAc溶液に添加して室温で高速撹拌装置を用いて混合して鎖伸長させた。更にDMAcを加えてポリマが約35重量%溶解したDMAc溶液を得た。得られたポリマのDMAc溶液に、ポリマ当たり酸化チタン4.7重量%、ヒンダードアミン系耐候剤3.0重量%、ヒンダードフェノ一ル系酸化防止剤1.2重量%となるように添加し、混合して均一なポリマ混合溶液を得た。ここで得られたポリマ混合溶液を用いて、公知のスパンデックスで用いられる乾式紡糸方法によって単糸数4本からなる40デニールの弾性糸を紡糸して、巻き取り前のオイリングローラーによって処理剤をローラー給油し、巻き取り速度が約600m/min.で長さ58mmの円筒状紙管に、巻き幅38mmを与えるトラバースガイドをかいして巻き取った。処理剤付与量は糸に対して所定量になるようにオイリングローラーの回転数を調整することで行った。巻き量は、解舒性を評価する場合は500グラム巻き、その他の評価には100グラム巻きの試料を用いた。また、処理剤の付与量は、JIS−L1073(合成繊維フィラメント糸試験方法)に準拠し、抽出溶剤としてn−ヘキサンを用いて抽出した値とした。
【0074】
・評価及び測定
・対繊維摩擦係数の評価
図1に示した測定装置を用い、フリーローラ−6A、7A、8Aの間で糸に2回撚りを入れ、初期張力(T1 )2gをかけ、糸速度0.25m/分の速度で低速走行した際の2次張力(T2 )を測定し、摩擦係数を算出する。摩擦係数は下記の式を用いる。
摩擦係数=(T2 −T1 )÷(T2 +T1 )
【0075】
・捲形状の評価
図2はポリウレタン系弾性糸の巻き形状を示す説明図である。一般に、円筒状紙管1Cに巻き取られたポリウレタン系弾性糸2Cは、引き伸ばされて巻かれているため、内層に近づくにつれて、糸同士が滑り易くなり、巻き形状として巻き方向に対して直角方向に押し出すかたちになる。この傾向があまり強いと内層巻き幅Bが円筒状紙管長さAに近づき、フリーボードと呼ばれる巻きしろ3Cが小さくなり、後工程でのハンドリングが困難になる。また、高次加工の際、加工装置にポリウレタン弾性糸を装着する場合、装置に直接、糸部分が触れる可能性が高くなる。このため図2に示すフリーボードが重要な因子になる。このため、捲形状の評価として、下記のようにフリーボードの長さを測定し、下記の計算式によりフリーボード値を算出した。算出値を下記の基準で評価した。
フリーボード=(A一B)/2
○:フリーボードが4ミリ以上
△:フリーボードが2ミリ以上、4ミリ未満
×:フリーボードが2ミリ未満
【0076】
・解舒性の評価
図3に示した解舒性測定装置において、第1駆動ローラ−3Dとこれに常時接する第1遊離ローラ−1Dとで送り出し部を構成し、また、第2駆動ローラ−4Dと接する第2遊離ローラ−2Dとで巻き取り部を構成して、該送り出し部に対し巻き取り部を水平方向に20cm離して設置した。第1駆動ローラ−3Dに処理済みポリウレタン系弾性繊維を500g巻いたパッケージ5Dを装着し、糸巻の厚さが2mmになるまで解舒して試料とした。この試料から処理済みポリウレタン系弾性繊維を第2駆動ローラ−4Dに巻き取った。第1駆動ローラ−3Dからの処理済みポリウレタン系弾性繊維の送り出し速度を50m/分で固定する一方、第2駆動ローラ−4Cへの該処理済みポリウレタン系弾性繊維の巻き取り速度を50m/分より徐々に上げて、該処理済みポリウレタン系弾性繊維をパッケージから強制解舒した。この強制解舒時において、送り出し部分と巻き取り部分との間で処理済みポリウレタン系弾性繊維の踊りがなくなる時点での巻き取り速度V(m/分)を測定した。そして下記の式により解舒性(%)を求め、次の基準で評価した。結果を表6にまとめて示した。
解舒性(%)=(V−50)×2
◎:解舒性125%未満(全く問題なく、安定に解舒できる)
○:解舒性125以上135%未満(糸の引き出しにやや抵抗のあるものの、糸切れの発生は無く、安定に解舒できる)
△:解舒性135以上145%未満(糸の引き出しに抵抗感があり、若干の糸切れもあって、操業にやや問題がある。)
×:解舒性145%以上(糸の引き出しに抵抗感が大きく、糸切れが多発して、操業に大きな問題がある。)
【0077】
・スカムの評価
処理済みポリウレタン系弾性繊維のパッケージをミニチュア整経機に10本仕立て、25℃×65%RHの雰囲気下で糸速度200m/分で3万m巻き取った。この時、ミニチュア整経機のクシガイドに対するスカムの付着および蓄積状態を肉眼観察し、次の基準で評価した。結果を表6にまとめて示した。
◎:スカムの付着がほとんどない
○:スカムがやや付着しているが、糸の安定走行に問題はない
×:スカムの付着および蓄積が多く、糸の安定走行に大きな問題がある
【0078】
・制電性の評価
処理済みポリウレタン系弾性繊維のパッケージをミニチュア整経機に10本仕立て、25℃×65%RHの雰囲気下で糸速200m/分で走行させ、ミニチュア整経機のクリールスタンドとフロントローラーの間を走行する糸条の帯電圧を帯電圧測定器(春日製集電管KS−525)で測定し、測定値を次の基準で評価した。結果を表6にまとめて示した。
◎:帯電圧が1KV未満(全く問題なく、操業できる)
○:帯電圧が1KV以上2KV未満(問題なく、操業できる)
△:帯電圧が2KV以上2.5KV未満(操業性にやや問題あり)
×:帯電圧が2.5KV以上(操業できない)
【0079】
【表6】
【0080】
【発明の効果】
以上説明した本発明には、ポリウレタン系弾性繊維に優れた捲形状と解舒性を付与し、加工工程においてもガイド類へのスカムの付着および蓄積を低減でき、安定した操業性を与えるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】対繊維摩擦係数測定装置の概略図である。
【図2】巻き形状を示す説明図である。
【図3】解舒性測定装置の概略図である。
【符号の説明】
1A:初期加重の分銅
2A:走行糸
3A:初期張力検出器
4A.2次張力検出器
5A〜8A:フリーローラ−
1C:円筒状紙管
2C:ポリウレタン系弾性糸
3C:フリーボード
1D:第1遊離ローラ−
2D:第2遊離ローラー
3D:第1駆動ローラ−
4D:第2駆動ローラー
5D:ポリウレタン系弾性繊維パッケージ
Claims (9)
- 分散媒体として25℃における粘度が5×10-6〜50×10-6m2 /Sのシリコーンオイルと分散剤として下記の式1で示されるアミノ変性シリコーンと下記の式2で示されるカルボキシ変性シリコーンとが該シリコーンオイル/該アミノ変性シリコーンと該カルボキシ変性シリコーンとの総和=100/0.5〜100/5(重量比)の割合であって、該アミノ変性シリコーン/該カルボキシ変性シリコーン=100/100〜100/2(重量比)の割合から成るシリコーン混合物中に下記の式3で示される高級脂肪酸マグネシウム塩が該シリコーンオイル100重量部当たり1〜10重量部の割合でコロイド状に分散された分散液から成ることを特徴とするポリウレタン系弾性繊維用処理剤。
X1 、X2 、X3 :メチル基又は−R5 −(NH−R6 −)d−NH2 で示されるアミノ変性基であって、少なくともいずれか1つが該アミノ変性基
X4 、X5 、X6 :メチル基又は−R7 −COOHで示されるカルボキシ変性基であって、少なくともいずれか1つが該カルボキシ変性基
R1 、R2 :炭素数2〜5のアルキル基またはフェニル基
R3 、R4 :炭素数11〜21のアルキル基
R5 、R6 、R7 :炭素数2〜5のアルキレン基
a、b:aが25〜400、bが0〜200の整数であって、且つ25≦a+b≦400を満足するもの
c:0〜10の整数
d:0または1
e、f:eが25〜800、fが0〜200の整数であって、且つ25≦e+f≦800を満足するもの
g:0〜20の整数) - アミノ変性シリコーンが、式1においてX3 がアミノ変性基であって、且つcが1〜5で示されるものである請求項1記載のポリウレタン系弾性繊維用処理剤。
- アミノ変性シリコーンが、式1においてX1 とX2 がメチル基であり、aが100〜200であり且つbが0で示されるものである請求項2記載のポリウレタン系弾性繊維用処理剤。
- カルボキシ変性シリコーンが、式2においてeが100〜400であり且つfが0で示されるものである請求項2又は3記載のポリウレタン系弾性繊維用処理剤。
- シリコーンオイルとアミノ変性シリコーンとカルボキシ変性シリコーンとの割合が該シリコーンオイル/該アミノ変性シリコーンと該カルボキシ変性シリコーンとの総和=100/1.6〜100/0.5(重量比)であって、高級脂肪酸マグネシウム塩が該シリコーンオイル100重量部当たり2〜8重量部の割合である請求項1、2、3又は4記載のポリウレタン系弾性繊維用処理剤。
- 請求項1、2、3、4又は5記載の分散液が更にシリコーンオイル100重量部当たり、下記のポリオルガノシロキサンを0.5〜5重量部の割合で含有することを特徴とするポリウレタン系弾性繊維用処理剤。
ポリオルガノシロキサン:それを構成する主たる繰返し単位として下記の式4で示される無水ケイ酸単位及びシリル末端基として下記の式5で示される1価のオルガノシロキサン単位とから構成された、分子中にシラノール残基を有するポリオルガノシロキサンであって、該ポリオルガノシロキサンを形成する反応において、該無水ケイ酸単位を形成することとなるシラノール形成性化合物(A)と該1価のシロキサン単位を形成することとなるシラノール形成性化合物(B)とを該シラノール形成性化合物(A)/該シラノール形成性化合物(B)=k/{8/5×(k+1)}〜k/{2/5×(k+1)}(モル比)の割合でシラノール形成反応及び該シラノール形成反応により生成したシラノールの縮重合反応をさせて得られるポリオルガノシロキサン、但し、kは1以上の整数
[SiO4/2 ]・・・4
[R8 R9 R10SiO1/2 ]・・・5
(式5において、
R8 、R9 、R10:同時に同一又は異なる、炭素数1〜3のアルキル基又はフェニル基) - コロイド状に分散された高級脂肪酸マグネシウム塩の平均粒子径が0.1〜0.5μmである請求項1、2、3、4、5又は6記載のポリウレタン系弾性繊維用処理剤。
- 処理剤が該処理剤に供した分散媒体と同一の分散媒体を用いて、高級脂肪酸マグネシウム塩が80ppmの濃度となるように該処理剤を希釈して得られる分散液において、該分散液が25℃において−30〜−100mVのゼータ電位を有するものである請求項1、2、3、4、5、6又は7記載のポリウレタン系弾性繊維用処理剤。
- 請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載のポリウレタン系弾性繊維用処理剤を希釈することなくニート給油法によってポリウレタン系弾性繊維に対して1〜10重量%の割合で付着されてなることを特徴とするポリウレタン系弾性繊維。
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