JP3824811B2 - 高分子重合体の水性分散重合方法および水性分散重合用重合機 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、重合性単量体を水性媒体中に分散させて重合する高分子化合物の重合方法および高分子化合物の水性分散重合用重合機に関する。更に詳しくは、塩化ビニル系樹脂などの高分子重合体の水性懸濁重合等、重合機を開放することなく重合性単量体を水性分散下で、バッチ連続重合により高分子重合体を得る方法において、重合機撹拌翼に生成するスケールの成長にともなう撹拌動力の上昇を抑制することができ、作業環境の悪化、生産性の低下を招くことなく、粒子径分布がシャープな高品質の重合体を製造する方法およびそれに用いられる水性分散重合用重合機に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、塩化ビニル系樹脂などは、その粒子径及び加工用途に応じて懸濁重合法、乳化重合法又は微細懸濁重合法などの水性分散下での重合法によって生産されている。一般的にこれら重合法に用いられる重合機の撹拌翼にはブルーマージン翼、ファウドラー翼、ピッチドパドル翼などが用いられ、高速撹拌下における均一な単量体分散を行った後、油溶性開始剤などを用いて重合が行われる。撹拌翼の種類は重合形態に応じて選定される。
【0003】
従来公知のブルーマージン翼の例を図2に示したが、図2において、通常ブルーマージン翼は撹拌軸に固定するためのボス21、ボス21と羽根23を連結するためのアーム22及び羽根23で構成されている。アーム22はボス21と羽根23を連結するためのものであり、撹拌時の所要動力が小さくなるような円筒形もしくは水平矩形平板の構造である。また羽根23は単量体の分散、および重合機内で単量体と水性媒体を流動循環させるためのものであり、通常、矩形状である。
【0004】
ブルーマージン翼の構造は、撹拌時の所要動力の大半を単量体を分散させるエネルギーに、集中的に費やすことができることから、重合終了後得られた重合体粒子の粒子径分布がシャープであり、また余分な動力を必要とせず、高速撹拌時の撹拌所要動力を低くすることができることから、塩化ビニル樹脂などの懸濁重合用の重合機に設置される撹拌翼は、ブルーマージン翼が用いられることが多い。
【0005】
一方、高い生産性を確保するため重合終了後、スラリーを次工程へ払い出した後重合機を開放することなく、次のバッチを仕込み生産するバッチ連続重合法が確立されている。重合機の開放は主に重合機内のスケールの除去、付帯機器のメンテナンスを実施する際に行うが、作業員が入槽し缶内作業を行うには重合機内の単量体ガスを減圧回収し、窒素などの不活性ガスで圧力を大気圧に戻したのち、重合機を解放後、空気で置換する作業が必要となる。
【0006】
また、バッチ連続重合法では缶内に生成するスケール量を低減するためスケール防止剤を塗布するが撹拌翼へのスケール防止剤の効果は極めて低く、バッチ毎にスケールが成長し、これに伴い撹拌動力が上昇する。通常、撹拌モータの容量は過剰な設備投資をさけ、スケール付着による撹拌動力の上昇を考慮せず最小限の能力で設備化される。この場合、撹拌モータのトリップを避けるため、スケールの成長度合いを電力計などで確認しながら定格容量以下の電力の状態でスケール除去作業を実施する。このため重合機内の単量体ガス回収、ガス置換および作業員の入槽による掃除作業に要する時間が掛かり生産性の低下を招いている。
【0007】
さらに重合機内のガス置換作業では、完全に単量体ガスを減圧回収するのは困難であり、無視し得ない量が重合機内に残存し、重合機開放後のガス置換時に大気へ放出されるため、大気汚染上好ましくなく作業環境の悪化を招く。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる実情を鑑み、重合機を開放することなくバッチ連続重合する方法において、重合機撹拌翼に生成するスケール付着にともなう撹拌動力の上昇を抑制することができ、作業環境の悪化、生産性の低下を招くことなく、粒子径分布がシャープな高品質の高分子重合体を製造する方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するべく鋭意研究の結果、重合体の水性分散重合用の重合機に設置されたブルーマージン翼に付着するスケールはブルーマージン翼の混合特性すなわち、撹拌軸付近の軸方向流れが極端に弱く、撹拌翼設置位置における軸方向の物質交換がされにくいことに依存し、軸方向の流れを促進させることでスケール付着が防止できることを見いだし本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、(1)重合機中に回転方向前方の羽根形状が円弧状でかつ傾斜平板アームを設けたブルーマージン翼を設置し、重合性単量体を水性媒体中に分散させて、前記ブルーマージン翼で攪拌しながら、高分子重合体を製造することを特徴とする高分子重合体の水性分散重合方法(請求項1)、(2)前記ブルーマージン翼の傾斜平板アームの傾斜角が5〜35度であることを特徴とする請求項1記載の製造方法(請求項2)、(3)前記ブルーマージン翼の傾斜平板アームの傾斜角が15〜25度であることを特徴とする請求項1または2記載の製造方法(請求項3)、(4)前記ブルーマージン翼の回転方向後方の羽根形状が矩形状であることを特徴とする請求項1、2、または3記載の製造方法(請求項4)、(5)攪拌翼が前記ブルーマージン翼の回転方向前方の羽根形状が円弧状でかつ傾斜平板アームを設けたブルーマージン翼を機内に設置した重合性単量体の水性分散重合用重合機(請求項5)、(6)前記ブルーマージン翼の傾斜平板アームの傾斜角が5〜35度であることを特徴とする請求項5記載の水性分散重合用重合機(請求項6)、(7)前記ブルーマージン翼の傾斜平板アームの傾斜角が15〜25度であることを特徴とする請求項6記載の水性分散重合用重合機(請求項7)、および(8)前記ブルーマージン翼の回転方向後方の羽根形状が矩形状であることを特徴とする請求項5、6、または7記載の水性分散重合用重合機(請求項8)、に関する。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施態様を示す添付図面をもとに、塩化ビニル系樹脂を製造する方法に基づいて説明する。
【0012】
図1は本発明を実施するために用いられるブルーマージン翼の一実施態様を示す図である。図1において、本発明におけるブルーマージン翼は撹拌軸に固定するためのボス1、ボス1と羽根3を連結し、かつ軸方向の流れを促進させるためのアーム2、及び単量体の分散および重合機内での塩化ビニル等の単量体と水性媒体を流動循環させるための羽根3で構成される。平板アームの傾斜角θは水平面に対し、通常5〜35度、好ましくは10〜30度、更には15〜25度がスケール付着防止上好ましい。平板アーム傾斜角が5度以下の場合、撹拌状態における軸方向流れが弱いことからスケール付着防止効果が低い。また、平板アーム35度以上の場合、撹拌モータへの負荷が大きく設備過剰になることあり、製造される塩化ビニル系樹脂の粒子径分布がブロードとなり傾向がある。また、羽根3の形状は、矩形状、円弧状、三角形状などのその他の形状が適宜採用し得るが、スケール付着防止上の効果の観点から回転方向前方を円弧状とするのが好ましい。また、羽根3の回転方向後方の形状は、矩形状、円弧状、三角形状などのその他の形状が適宜採用し得るが、このうち矩形状のものが得られた重合体粒子の粒子径分布のシャープなものが得やすく好ましく用いられる。
【0013】
平板アーム2の傾斜方向は、重合機内の流体を上から下にかき下げる方向、下から上にかき上げる方向のどちらでも良いが、撹拌効率の良さから通常かき下げる傾斜方向とするのが好ましい。また、傾斜平板アームの板厚みと幅および長さは、ボス1と羽根3を連結し、撹拌状態における機械強度が充分に確保される寸法であれば本発明は何ら制約されないが、通常、板厚みは重合機槽径の0.001〜0.02倍、板幅は槽径の0.01〜0.06倍、長さは槽径の0.05〜0.25倍の寸法を用いられる。また、羽根の板厚みと高さおよび長さは、目的の高分子重合樹脂の品質、撹拌所要動力などに応じ選定され、特に本発明は何ら制約されないが、通常、板厚みは重合機槽径の0.001〜0.02倍、高さは槽径の0.03〜0.1倍、長さは槽径の0.03〜0.2倍の寸法のものが用いられる。また、羽根枚数、重合機への撹拌翼設置段数、撹拌翼取り付け位置は使用する目的に応じ、適宜選定できるが、通常は、撹拌で用いられる羽根枚数は1段あたり3〜5枚、撹拌翼設置段数は1〜6段、撹拌翼取り付け位置は、通常、重合機缶底から気液界面までの距離をほぼ等間隔で設置されることが多い。
【0014】
本発明の水性分散重合法で製造される重合体としては、例えば、塩化ビニル系単量体を重合した塩化ビニル系樹脂単独重合体、塩化ビニル系単量体と同単量体と共重合可能な単量体との共重合体、およびスチレン系単量体を重合したポリスチレン系樹脂単独重合体およびスチレン系単量体と同単量体と共重合可能な単量体とのスチレン系共重合体樹脂などがある。塩化ビニル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えばエチレン、プロピレンなどのオレフィン類、酢酸ビニル、ステアリン酸ビニルなどのビニルエステル類、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルなどのアクリル酸エステル類、マレイン酸またはフマル酸などのエステル類および無水物、アクリロニトリルなどのニトリル化合物、あるいは塩化ビニリデンの如きビニリデン化合物が挙げられる。
【0015】
本発明において用いられる重合開始剤、懸濁分散安定剤等について、特に制限はなく、適用する水性分散重合法に応じて、従来公知のものが適宜用いられる。
【0016】
【実施例】
以下に、本発明の製造方法を実施例および比較例にもとづき説明するが、これらは、本発明を何ら限定するものではない。
【0017】
実施例および比較例における測定および評価方法は、以下の方法により行った。
【0018】
撹拌翼の初期所要動力は、撹拌モータに設置された電力計を読みとり評価を行った。また、スケールの付着量は、撹拌機に直結されているモータの電力値上昇度合いより評価を行った。すなわち評価開始時に重合機内を掃除しスケール付着の無い状態において、所定の方法により仕込み作業を開始し、重合終了後、スラリーを次工程へ払い出した後、重合機を開放することなく、自動水洗設備を用い缶壁を水洗し、次のバッチを仕込み、バッチ連続生産を行い、撹拌モータ定格値の90%の負荷に達するまでの連続バッチ数と、その時までの連続バッチ後の1バッチ当たりの平均電力上昇値を用いた。
【0019】
また、得られた樹脂の粒子径分布のシャープ性は、従来公知の方法により脱水、乾燥を行った後、篩い法において平均粒子径および粒子径分布の標準偏差値を算出し標準偏差値を平均粒子径の値で除した変動係数(%)で分布のシャープ性の評価を行った。
【0020】
(実施例1)
内容積30m3、槽径2500mm、ジャケットおよびモータ容量55Kwの攪拌機付きステンレス製重合機に、図1に示す撹拌翼でアーム板厚み16mm、板幅90mm、長さ350mmの平板で傾斜角度20度、羽根の板厚み11mm、高さ150mm、長さ200mmで回転方向前方が円弧状、後方が矩形状の3枚羽根ブルーマージン翼を3段設置した。この重合機に脱イオン水16100Kg、ケン化度88%の部分ケン化ポリビニールアルコール1.0Kg、ケン化度79%の部分ケン化ポリビニールアルコール5.5Kg、ジ―2―エチルヘキシルパーオキシジカーボネート4.5Kgを仕込み、重合機内の空気を真空ポンプで除去した。ついで塩化ビニル単量体8900Kgを投入し撹拌回転数250回転/分、58℃の温度で、反応時間約7時間経過した時点で反応を停止し、塩化ビニル樹脂スラリーを得、連続バッチ仕込みを実施した結果を表1に示した。得られた塩化ビニル系樹脂の変動係数は20%とシャープであり、初期撹拌動力は36Kwと低く、撹拌翼に生成するスケールの付着は抑制され撹拌モータ定格値の90%の負荷に達するまでの連続バッチ数は35バッチであり、1バッチ間に上昇する電力値は0.4Kwであった。
【0021】
(実施例2)
重合機に設置したブルーマージン翼の平板傾斜アームの傾斜角度を5度とした以外は実施例1と同様の方法で製造を行った。得られた塩化ビニル系樹脂の変動係数は21%とシャープであり、初期撹拌動力は32Kwと低くかったが、撹拌翼に生成するスケールの付着がやや多く、撹拌モータ定格値の90%の負荷に達するまでの連続バッチ数は25バッチであり、1バッチ間に上昇する電力値は0.7Kwであった。
【0022】
(比較例1)重合機に設置したブルーマージン翼の羽根形状を回転方向前方が矩形状とした以外は実施例1と同様の方法で製造を行った。得られた塩化ビニル系樹脂の変動係数は20%とシャープであり、初期撹拌動力は36Kwと低くかったが、撹拌翼に生成するスケールの付着がやや多く、撹拌モータ定格値の90%の負荷に達するまでの連続バッチ数は20バッチであり、1バッチ間に上昇する電力値は0.7Kwであった。
【0023】
(実施例3)重合機に設置したブルーマージン翼の羽根形状を回転方向後方が円弧状とした以外は実施例1と同様の方法で製造を行った。得られた塩化ビニル系樹脂の変動係数は49%とブロードであった。初期撹拌動力は36Kwと低く、撹拌翼に生成するスケールの付着は抑制され撹拌モータ定格値の90%の負荷に達するまでの連続バッチ数は35バッチであり、1バッチ間に上昇する電力値は0.4Kwであった。
【0024】
(実施例4)重合機に設置したブルーマージン翼の平板傾斜アームの傾斜角度を35度とした以外は実施例1と同様の方法で製造を行った。得られた塩化ビニル系樹脂の変動係数は33%であり、初期撹拌動力は42Kwとやや高かったが、撹拌翼に生成するスケールの付着は抑制され、撹拌モータ定格値の90%の負荷に達するまでの連続バッチ数は37バッチであり、1バッチ間に上昇する電力値は0.2Kwであった。
【0025】
(比較例2)重合機に設置したブルーマージン翼の羽根形状を、図2に示す撹拌翼でアーム直径60mm、長さ350mmの円柱材で、羽根の板厚み11mm、高さ150mm、長さ200mmで回転方向前方が矩形状、後方が矩形状の3枚羽根ブルーマージン翼を3段設置した以外は実施例1と同様の方法で製造を行った。得られた塩化ビニル系樹脂の変動係数は21%とシャープであり、初期撹拌動力は32Kwと低くかったが、撹拌翼に生成するスケールの付着量が多く撹拌モータ定格値の90%の負荷に達するまでの連続バッチ数は8バッチであり、1バッチ間に上昇する電力値は2.4Kwであった。
【0026】
(比較例3)重合機に設置したブルーマージン翼の羽根形状を、図2に示す撹拌翼でアーム板厚み16mm、板幅90mm、長さ350mmの平板で傾斜角度0度、羽根の板厚み11mm、高さ150mm、長さ200mmで回転方向前方が矩形状、後方が矩形状の3枚羽根ブルーマージン翼を3段設置した以外は実施例1と同様の方法で製造を行った。得られた塩化ビニル系樹脂の変動係数は20%とシャープであり、初期撹拌動力は30Kwと低くかったが、撹拌翼に生成するスケールの付着量が多く撹拌モータ定格値の90%の負荷に達するまでの連続バッチ数は6バッチであり、1バッチ間に上昇する電力値は3.3Kwであった。
【0027】
【表1】
【0028】
【発明の効果】
叙上の通り、本発明の方法によれば、重合機を開放することなくバッチ連続重合する方法において、重合機撹拌翼に生成するスケール付着にともなう撹拌動力の上昇を抑制することができ、作業環境の悪化、生産性の低下を招くことなく、粒子経分布がシャープな高品質の高分子重合体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を実施するために用いられるブルーマージン翼の一実施例を示す説明図である。
【図2】従来公知のブルーマージン翼の一実施例を示す説明図である。
【符号の説明】
1 ボス
2 アーム
3 羽根
Claims (8)
- 重合機中に回転方向前方の羽根形状が円弧状でかつ傾斜平板アームを設けたブルーマージン翼を設置し、重合性単量体を水性媒体中に分散させて、前記ブルーマージン翼で攪拌しながら、高分子重合体を製造することを特徴とする高分子重合体の水性分散重合方法。
- 前記ブルーマージン翼の傾斜平板アームの傾斜角が5〜35度であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
- 前記ブルーマージン翼の傾斜平板アームの傾斜角が15〜25度であることを特徴とする請求項1または2記載の製造方法。
- 前記ブルーマージン翼の回転方向後方の羽根形状が矩形状であることを特徴とする請求項1、2、または3記載の製造方法。
- 攪拌翼が回転方向前方の羽根形状が円弧状でかつ傾斜平板アームを設けたブルーマージン翼を機内に設置した重合性単量体の水性分散重合用重合機。
- 前記ブルーマージン翼の傾斜平板アームの傾斜角が5〜35度であることを特徴とする請求項5記載の水性分散重合用重合機。
- 前記ブルーマージン翼の傾斜平板アームの傾斜角が15〜25度であることを特徴とする請求項6記載の水性分散重合用重合機。
- 前記ブルーマージン翼の回転方向後方の羽根形状が矩形状であることを特徴とする請求項5、6、または7記載の水性分散重合用重合機。
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