JP3817125B2 - 食肉の懸濁分散液の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、タンパク質分解酵素を利用することで食肉の加工適性を改善した食肉の懸濁分散液、ゲル状酵素処理肉及びそれらを含有する食品に関し、より詳しくは、今まで固さのために食肉を摂取できなかった人にも、全く食肉を意識しないで食することができ、食肉の栄養を享受することを可能とした分散性に優れた食肉の懸濁分散液、ゲル状酵素処理肉及びそれらを含有するスープ様食品、プディング様食品、佃煮様食品、アイスクリーム様食品、フラワーペースト様食品等の各種食品に関する。
【0002】
【従来の技術】
昔から、食肉(畜肉)は、味、食感といった嗜好を満たす食品として様々な料理に広く利用され、また、その栄養価も極めて高く、特に近年の日本人の栄養摂取状況を改善する一要因であった。しかし一方で、例えば、離乳期の乳幼児に与える場合等には、その固い食感をなくすため、細切し長時間あるいは圧力釜で煮込むなど、調理するために苦労しなければならなかった。また、食肉の固い食感を嫌う子供に対しては、親が食肉の栄養が体の成長に良いとわかっていながらも、子供が嫌がるため与えることができないことがあり、さらに、病人や高齢者を含む咀嚼や嚥下が困難な人達も、その固いという物性のため食肉を摂取できず、食肉の持つ栄養学的な特性を生かせていない状況にある。こうした食肉の「固さ」の問題が解決されると、新たな食肉の消費拡大につながると考えられる。
【0003】
従来、食肉に対するタンパク質分解酵素の利用分野としては、食肉あるいは食肉製品の食感を残しつつ、軟化するという試みが多くなされている。例えば、牛肉にタンパク質分解酵素を注入し軟化させる方法(特開平04−262763号公報)や、納豆抽出液を用いた軟化処理方法(特開平05−284944号公報)、あるいは、天ぷら粉にタンパク質分解酵素を加えることで柔らかい唐揚げや天ぷらを提供する方法(特許2026300号公報)などが知られている。しかし、これらはあくまでも堅い肉を柔らかくするという、既存のステーキ、唐揚げ、天ぷらなどの品質を改善するという試みにとどまり、積極的に食肉の加工適性を改善しようとするものではなかった。また、ペースト状の食肉・魚肉加工品に関しては、以下の技術が知られている。
【0004】
特開昭59−63167号公報には、魚肉のゲル化能を減少乃至喪失せしめ新しいタイプの食品を製造することを目的として、魚肉の粉砕物またはそれと植物性蛋白質給源、動物性蛋白質給源、動植物油脂給源および炭水化物給源からなる群から選ばれた1種以上との混合物に、蛋白質を分解する酵素及び/又は微生物を作用させ、魚肉又は当該混合物中の蛋白質の物性を変化せしめて得られるペースト状蛋白質材料に水を加え、液状化後、殺菌し、乳酸菌を添加して乳酸発酵せしめることを特徴とする流動状乃至液状食品の製造方法が記載されている。また、特開昭59−63140号公報には、魚肉の粉砕物に、蛋白質を分解する酵素及び/又は微生物を作用させ、魚肉に含まれる蛋白質の物性を変化せしめることにより、そのゲル化能を減少乃至喪失せしめることを特徴とするペースト状の蛋白質食品または蛋白質材料の製造方法が記載されている。
【0005】
特開昭63−112951号公報には、甲殻類をそれら自身に含まれる酵素が失活するに充分な条件で蒸煮及び微粉砕した後、蛋白質を分解する酵素及び/又は微生物を作用させることを特徴とする甲殻類からのペースト状蛋白質材料又は蛋白質食品の製造方法が記載されている。また、特開昭49−118860号公報には、原料獣肉及び/又はレバーに酵素エンドペプチナーゼを、獣肉及び/又はレバーの1gに対して100単位以下量使用してこれを分解し、得られたものを使用することを特徴とするミート類ペーストの製造方法が記載されている。
【0006】
また、本発明者らによる特許第3016472号公報には、畜肉のゲル化能を減少ないし喪失させて、衛生上安全で、しかも滑らかな舌触りの食感を持つ畜肉スプレットの製造方法として、脂肪と筋を取り除いた畜肉の粉砕物に亜硝酸塩を含む塩漬剤を添加し、さらにエンド型及びエキソ型の蛋白質分解酵素を作用させてミオシン重鎖を切断させた後、該酵素を加熱失活させたものにスモークリキッド又はスモークオイルを含む添加物と水とを加え、最後に口溶けのよい植物性油を加え、さらに乳酸菌を添加して乳酸発酵させることでpHを低下させ、微生物学的な安全性を付与したクリーム状の畜肉スプレッドの製造方法が記載されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
食肉タンパク質は水に溶解しないという特徴を有するため、食肉をミキサーなどで粉砕してから加熱しても、また、加熱後の食肉をミキサーで粉砕したとしても、なめらかなペースト状の食品は得られない。そこで、前記のように、食肉(畜肉)や魚肉タンパク質を、プロテアーゼ等の酵素で分解したペースト状の食肉・魚肉加工品が数多く提案されている。しかし、ペースト状食肉であっても、嚥下を困難とする老人、幼児、重篤な病人にあっては摂取できないことがあり、介護施設や病院の関係者の間に、食肉飲料にもなる液状食肉に対するニーズがあることを見い出したが、従来、分散性に優れた実用性のある液状食肉については知られていなかった。まして、食肉に特定の酵素処理を施すと、分散性に優れた食肉の懸濁分散液が得られることや、特に冷凍保存後に解凍した場合であっても、分散性に優れた食肉の懸濁分散液とすることができる実用的な液状食肉素材については知られていなかった。本発明の課題は、咀嚼や嚥下を困難とする老人、幼児、病人であっても容易に摂取することができる、食肉本来の風味を有し、かつ分散性に優れた液状食肉や、その溶液が分散性に優れたゲル状酵素処理肉や、それらを含む食品を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため種々検討した。まず、食肉に、種々の種類のエンド型、エキソ型のプロテアーゼを単独、あるいは組み合わせて加え、種々の条件下で酵素反応を行い、次いで種々の加熱処理条件下で酵素反応を停止し、加熱処理後のゲル状物を水に懸濁させ、該懸濁液が液状食品として使用しうるかどうかについて個々に検討した。かかる検討の結果、該懸濁液が液状食品として使用しうるためには、前記加熱処理後のゲル状物の10重量%水懸濁液を4時間放置したときの浮遊率が80%以上の優れた分散性を示すこと、かかる浮遊率80%以上の分散性を示す加熱処理後のゲル状物を得るには、その破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%になるまでプロテアーゼによる酵素反応を行う必要があること、プロテアーゼ処理後の加熱処理は85〜95℃で120〜45分間が好ましいとの知見が得られた。本発明はかかる知見に基づいて完成に至ったものである。
【0009】
すなわち本発明は、食肉の粉砕物に、エンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させた後、85〜95℃で120〜45分間加熱処理してプロテアーゼを失活させ、該加熱処理後のゲル状物10〜60重量部を90〜40重量部の水に懸濁させ、加熱処理後のゲル状物の10重量%水懸濁液を4時間放置したときの浮遊率が80%以上である分散性を示す食肉の懸濁分散液の製造方法であって、前記プロテアーゼ処理として、前記加熱処理後のゲル状物における破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%になるまで酵素反応を行うことを特徴とする分散性に優れた食肉の懸濁分散液の製造方法(請求項1)や、加熱処理後のゲル状物の水懸濁液に濾過処理を施すことを特徴とする請求項1記載の分散性に優れた食肉の懸濁分散液の製造方法(請求項2)に関する。
【0010】
また本発明は、食肉の粉砕物に、エンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させた後、85〜95℃で120〜45分間加熱処理することにより得ることができ、その10重量%水懸濁液を4時間放置したときの浮遊率が80%以上である優れた分散性を示し、かつ、その破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%であることを特徴とするゲル状酵素処理肉(請求項3)に関する。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられる食肉とは、畜肉及び家禽肉をいい、魚肉は含まれず、かかる食肉としては、牛肉、豚肉、綿羊肉、山羊肉、家兎肉、鶏肉等を具体的に例示することができ、畜種あるいは部位で限定されるものではないが、入手のしやすさ、処理のしやすさなどを考慮すると、豚のもも肉が好ましい。そして、本発明の分散性に優れた食肉の懸濁分散液の製造には、好ましくは脂肪組織及び結合組織を除去した食肉が用いられ、かかる脂肪組織及び結合組織を除去した食肉は次いで粉砕される。この食肉の粉砕処理としては、常法により行うことができ、肉塊が残らない程度に破砕、粉砕又は磨砕することができれば特に制限されるものではないが、例えば、グラインダーによる挽肉処理及び/又はサイレントカッターによる破砕処理等を例示することができる。かかる粉砕処理に際して、食塩等の調味料などを添加してもよく、また破砕処理の際にプロテアーゼを添加してもよい。
【0012】
上記脂肪組織及び結合組織を除去した食肉の粉砕物は、エンド型プロテアーゼやエキソ型プロテアーゼにより酵素処理される。エンド型プロテアーゼやエキソ型プロテアーゼとしては、特に制限されるものではなく、市販のものを使用することができ、これらは単独あるいは組み合わせて使用することができ、これら酵素を組み合わせて使用する場合、同時に併用してもよく、また順次作用させてもよい。かかる酵素の使用条件、すなわちプロテアーゼの種類、作用温度、作用pH、反応時間、使用量等は、かかるプロテアーゼ処理に引き続いて実施される加熱処理後のゲル状物における破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%となる条件であれば、特に制限されるものではないが、50℃付近に至適作用温度を有するプロテアーゼや、食肉自体が弱酸性側のpHを有することから弱酸性側に至適pHを有するプロテアーゼが好ましく、また反応時間としては温和な反応が好ましいことから1〜5時間、特に2〜4時間程度が好ましく、反応温度としては45〜55℃が好ましい。上記破断応力の測定にはレオメーターが用いられ、サンプル厚15mm、プランジャー径10mm、テーブルスピード60mm/分の測定条件で測定した値が用いられる。
【0013】
食肉粉砕物にプロテアーゼを作用させた後に施される加熱処理によりプロテアーゼの失活が行われるが、かかる加熱処理としては、加熱処理後のゲル状物の水分散性、加熱処理後のゲル状物の殺菌、加熱処理効率等の観点からして、85〜95℃で120〜45分間の加熱処理が好ましく、特に90℃で1時間の加熱処理が好ましい。かかる加熱処理により、酵素処理後の食肉粉砕物はゲル状を呈し、該加熱処理後のゲル状物について前記破断応力が測定される。この破断応力をプロテアーゼ未処理の対照と比較して、その値が33〜67%にあるゲル状物が選択される。かかる破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%にある加熱処理後のゲル状物は、水に懸濁させた場合、優れた懸濁分散性を示す。プロテアーゼ未処理の対照と比較して、破断応力の値が33%未満である加熱処理後のゲル状物の水懸濁液は、懸濁分散性には優れるものの食肉本来の風味を失い、一方、破断応力の値が67%を越える加熱処理後のゲル状物の水懸濁液は、食肉本来の風味を有するものの懸濁分散性に劣り、共に好ましくない。
【0014】
本発明の分散性に優れた食肉の懸濁分散液は、前記破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%である加熱処理後のゲル状物を水に懸濁分散させた液体であり、かつ、その10重量%水懸濁液を4時間放置したときの浮遊率が80%以上である分散性を示す液体である。ここで、浮遊率とは、適当な長さの試験管等の容器に懸濁液を入れ、懸濁状態にある部分の高さを全体の高さで除した値を100倍した値、すなわち次式により求められ、浮遊率が大きい程、沈降するスピードが遅く、懸濁分散性に優れているということができる。
浮遊率(%)=(懸濁状態にある部分の高さ/全体の高さ)×100
【0015】
前記加熱処理後のゲル状物を均一な懸濁分散液とするために用いられる水の量は特に制限されるものではないが、優れた均一懸濁分散性という利点を享受する点からして、加熱処理後のゲル状物10〜60重量部に対して、水90〜40重量部の範囲で用いることが好ましい。また、食肉加工素材は、毛、軟骨、硬骨などの異物が混入するおそれがあることから、加熱処理後のゲル状物の水懸濁液に濾過処理を施すことが好ましい。かかる濾過処理としては特に制限されるものではないが、100メッシュのフィルター、ネルフィルター、ガーゼ等を用いる濾過処理を具体的に例示することができる。従来、魚肉加工素材からの鱗、軟骨、硬骨などの異物を除去することは知られていたが、食肉加工素材からの異物の除去は困難とされていた。しかし、加熱処理後のゲル状物を均一な懸濁分散液とすることで、異物の除去がはじめて可能となり、この点も本発明の大きな特徴である。
【0016】
本発明のゲル状酵素処理肉は、前記本発明の分散性に優れた食肉の懸濁分散液を作製する際に用いられ、前記食肉の粉砕物に、エンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させた後、85〜95℃で120〜45分間加熱処理することにより得ることができ、その10重量%水懸濁液を4時間放置したときの浮遊率が80%以上である優れた分散性を示し、かつ、その破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%のゲル状物であり、このゲル状酵素処理肉は冷凍した場合に氷結が生じることが少なく、たとえ氷結が生じた場合であっても冷凍後に解凍した場合、その水懸濁液は優れた懸濁分散性を示し、冷凍・解凍処理によりその品質が劣化しないことから、冷凍状態で流通・保存しうる実用性がきわめて大きい食肉素材である。また、このゲル状酵素処理肉についても、毛、軟骨、硬骨などの異物を除去する目的で裏漉し処理をすることが好ましい。
【0017】
本発明の冷凍ゲル状酵素処理食肉は、食肉の粉砕物に、エンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させた後、85〜95℃で120〜45分間加熱処理することにより得られる、その10重量%水懸濁液を4時間放置したときの浮遊率が80%以上である優れた分散性を示し、かつ、その破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%であるゲル状酵素処理肉を冷凍することにより得ることができ、解凍後にその10重量%水懸濁液を4時間放置したときの浮遊率が80%以上である優れた分散性を示すことから、冷凍食肉素材として有用である。
【0018】
本発明の対象となる食品は、上記の分散性に優れた食肉の懸濁分散液や、ゲル状酵素処理肉を含む食品であれば特に制限されるものではないが、脂質、炭水化物、食物繊維、ビタミン類、ミネラル類から選ばれる群の1種又は2種以上を添加して、栄養バランスに優れた食品とすることが好ましく、アミノ酸スコアが対蛋白質比100とすることがより好ましい。上記添加する脂質としては特に制限されるものではないが、濃厚感を得たいときには動物性脂肪を、また、さっぱりとした食品に仕上げたい場合には植物性油脂を選択・使用することができる。上記添加する炭水化物としては特に制限されるものではないが、目的とする食品の食感に合わせて、小麦、馬鈴薯、コーン、米、タピオカなどの澱粉を単独あるいは組み合わせて利用することができる。
【0019】
また、その摂取不足が問題となっている食物繊維も添加することが好ましく、かかる食物繊維としては特に制限されるものではないが、くせのないなめらかさを有するものや、分散性に優れた食肉の懸濁分散液と共に用いる場合は水溶性のものが好ましく、水溶性食物繊維としては、例えばポリデキストロース、水溶性グアガム等を挙げることができる。上記添加するビタミン類としては、豚肉にもともと豊富なビタミンB1に加え、ビタミンA、ビタミンB12、ビタミンK、ビタミンE、ビタミンB6、ビタミンD、ビタミンCなどを挙げることができる。上記添加するミネラル類としては特に制限されるものではないが、鉄、カルシウム、マグネシウムなどを例示することができる。
【0020】
本発明の対象となる食品の種類としては、スープ、栄養飲料、ドレッシング等の液状食品、アイスクリーム、シャーベット、ハンバーグ、ミートボール、クッキー等の固形状食品、カスタードクリームなどのフラワーペースト、佃煮、マヨネーズ等のペースト状食品、プリン、プディング、ゼリー、ババロア、ムース、豆腐等のゾル状・ゲル状食品を具体的に例示することができるが、これらに限定されるものではなく、本発明の分散性に優れた食肉の懸濁分散液やゲル状酵素処理肉は、例えば味付けや調理方法を適宜変更することにより、いかなる食品にもベース素材として利用可能である。
【0021】
【実施例】
以下、本発明を実施例等により詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例等によって限定されるものではない。
実施例1[分散性に優れた食肉懸濁分散液の調製]
脂肪組織、結合組織を除去し、赤肉のみとした豚もも肉をグラインダーにより挽肉とした。得られた挽肉60kgに対し、食塩1kg、アスコルビン酸ナトリウム40gを添加し、さらにタンパク質分解酵素プロテアーゼ「アマノA」(天野製薬株式会社)、プロテアーゼ「アマノN」(天野製薬株式会社)をそれぞれの濃度が0、10、25、50、100、200ppmとなるように添加し、サイレントカッターで良く混合しながら破砕した。挽肉が十分細かくなったら、2kgずつ真空包装し、50℃で3時間酵素反応を進行させた。その後、90℃で1時間加熱処理し、プロテアーゼを失活させた後、ただちに氷水で急冷した。得られた加熱処理後のゲル状物の破断応力を、レオメーター(CR−200D、サン科学株式会社)を用いて、サンプル厚15mm、プランジャー径10mm、テーブルスピード60mm/分の測定条件下で測定した。結果を図1に示す。その結果、プロテアーゼを加えない対照が477g/cm2(100%)であったのに対し、上記プロテアーゼを10、25、50、100、200ppmずつ加えたものの破断応力は、それぞれ対照の76.7%、66.7%、54.3%、33.3%、4.2%を示した。なお、90℃、1時間加熱処理したゲル状物は、10℃で3ヶ月保存した後も、菌の増殖が全く認められなかった。
【0022】
次に、これら加熱処理後のゲル状物の10重量%の水懸濁液を調製し、その水懸濁液を4時間放置したときの浮遊率を測定した。結果を図2に示す(参考写真参照)。図2より、破断応力の比率が67%以下のときに浮遊率が80%以上である優れた懸濁分散性を示すことがわかる。また、それぞれの水懸濁液の官能評価を5名の専門のパネラーにより行った。結果を表1に示す。そして、破断応力の比率が33%未満のものではアミノ酸などの分解物の臭いが強く、食肉本来の風味が損なわれることがわかった。また、破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の66.7%、54.3%、33.3%である本発明のゲル状酵素処理肉は冷凍した場合に生じる氷結が少なく、冷凍後に解凍した場合にあっても、食肉本来の風味を有し、その水懸濁液は優れた懸濁分散性を示すことが確かめられた。
【0023】
【表1】
【0024】
実施例2[栄養飲料の調製]
実施例1で得られた加熱処理後のゲル状物(破断応力54.3%)10重量部に、水90重量部を加え撹拌した後、各種ビタミン、ミネラル、フレーバーを適量添加したところ、食肉本来の風味を有する従来にない滑らかな食感を有する食肉液状食品が得られた。
【0025】
実施例3[スープ様食品の調製]
実施例1で得られた加熱処理後のゲル状物(破断応力54.3%)10重量部に、水20重量部と牛乳70重量部を加え撹拌した後、ブイヨンを少量加え、沸騰させたところ、既存のものとは異なる濃厚感のある分散性に優れたスープが得られた。また、水の添加量を40重量部に増やすと、流動性に優れたスープが得られ、ゲル状酵素処理肉の量を20重量部に増やすと、より濃厚でのどごしの良いポタージュ様のスープが出来た。
【0026】
実施例4[スープ様食品、プディング様食品の調製]
実施例1で得られた加熱処理後のゲル状物(破断応力54.3%)10重量部に、水50重量部を加え100メッシュのフィルターで濾過した後、牛乳40重量部、水溶性食物繊維ポリデキストロース10重量部を加え撹拌した後、ブイヨンを少量加えて沸騰させたところ、蛋白質と食物繊維を一度に摂取できるスープ様食品が得られた。これを冷却しても違和感のない飲料となることから、夏期の栄養補給に適したものであった。さらに、上記スープ様食品にゼラチンを少量加え、型に流し冷却すると、のどごしの良いプディング様食品が得られた。
【0027】
実施例5[アイスクリーム様食品の調製]
実施例1で得られた加熱処理後のゲル状物(破断応力54.3%)20重量部に、水20重量部、生クリーム40重量部、牛乳20重量部、砂糖20重量部、ラム酒を少々加え、フードプロセッサーで均一になるまで撹拌し、型に流し冷凍した。こうしてできたものは非常に滑らかなアイスクリーム様食品であり、原料に肉を加えてあるとはわからないものであった。
【0028】
実施例6[アイスクリーム様食品の調製]
実施例1で得られた加熱処理後のゲル状物(破断応力54.3%)20重量部をフードプロセッサーで糊状にして裏漉ししたものに、生クリーム40重量部、牛乳20重量部、水溶性グアガム10重量部、砂糖20重量部、ラム酒を少々加え、フードプロセッサーで均一になるまで撹拌し、型に流し冷凍した。こうしてできたものは非常に滑らかなアイスクリーム様食品であり、原料に肉を加えてあるとはわからないものであった。また、デザートでありながら、蛋白質と食物繊維を一度に摂取できるものである。
【0029】
実施例7[佃煮様食品の調製]
実施例1で得られた加熱処理後のゲル状物(破断応力54.3%)に水溶性食物繊維を加えフードプロセッサーで糊状にして裏漉しした後、醤油、みりん、砂糖を適量加えて味を調え、次いで加熱し、煮詰めたところ、糊状の佃煮様食品が得られた。こうして得られた佃煮様食品は、お粥に加えたところ容易に溶解するものであった。この佃煮様食品は、例えば、咀嚼力のない老人向けの食肉栄養食品として特に適していることがわかった。
【0030】
実施例8[フラワーペースト様食品の調製]
実施例1で得られた加熱処理後のゲル状物(破断応力54.3%)50重量部、水20重量部、馬鈴薯澱粉4重量部、水溶性食物繊維ポリデキストロース5重量部及び香辛料をフードプロセッサーで均一になるまで撹拌した後、加温したサラダ油20部を撹拌しながらゆっくりと添加し、更に加熱後冷却することで、カスタードクリーム様のフラワーペースト様食品ができた。こうしてできたフラワーペースト様食品は、パンの具材とすることで蛋白質、脂質、食物繊維を一度で摂取できるものであった。
【0031】
【発明の効果】
本発明によると、咀嚼や嚥下を困難とする老人、幼児、病人であっても容易に摂取することができる、食肉本来の風味を有し、かつ分散性に優れた液状食肉を得ることができる。また、かかる液状食品の製造に用いられる本発明のゲル状酵素処理肉は、冷凍保存後に解凍した場合であっても、水に懸濁させることにより優れた分散性を有する食肉の懸濁分散液とすることができる。さらに、液状食肉をフィルター等で濾過することにより、毛、軟骨、硬骨などの異物を除去することができ、食肉加工品としては初めて異物の混入のない製品を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】各種プロテアーゼ処理肉の破断応力の測定結果を示す図である。
【図2】各種プロテアーゼ処理肉の10重量%水懸濁液の4時間放置後の分散状態を示す図である。
Claims (3)
- 食肉の粉砕物に、エンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させた後、85〜95℃で120〜45分間加熱処理してプロテアーゼを失活させ、該加熱処理後のゲル状物10〜60重量部を90〜40重量部の水に懸濁させ、加熱処理後のゲル状物の10重量%水懸濁液を4時間放置したときの浮遊率が80%以上である分散性を示す食肉の懸濁分散液の製造方法であって、前記プロテアーゼ処理として、前記加熱処理後のゲル状物における破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%になるまで酵素反応を行うことを特徴とする分散性に優れた食肉の懸濁分散液の製造方法。
- 加熱処理後のゲル状物の水懸濁液に濾過処理を施すことを特徴とする請求項1記載の分散性に優れた食肉の懸濁分散液の製造方法。
- 食肉の粉砕物に、エンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させた後、85〜95℃で120〜45分間加熱処理することにより得ることができ、その10重量%水懸濁液を4時間放置したときの浮遊率が80%以上である優れた分散性を示し、かつ、その破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%であることを特徴とするゲル状酵素処理肉。
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