JP3807377B2 - 低Al溶鋼のCa処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、Ca歩留まりが低く、Ca処理を安定して行うことが困難な低Al溶鋼のCa処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
溶鋼のCa処理は代表的な溶鋼処理方法の一つで、その目的は、水素誘起割れや溶接性を低下させるMnS介在物やAl2O3介在物などの有害介在物の形態制御、連続鋳造時のノズル閉塞の防止、快削性の向上など、非常に多岐にわたっている。
【0003】
このように、Ca処理の目的は様々であるが、Ca処理において最も重要なことは、Ca歩留まりを安定させることにある。Caの沸点は1440℃で、一般的な溶鋼処理温度1580〜1620℃よりも低い。このため、CaはCa処理中に溶鋼から蒸発し易く、その濃度、すなわちCa歩留まりを管理することが難しい。Ca歩留まりの制御が困難であると、溶鋼中のCa濃度がばらついてしまい、目的とする特性を有する鋼を得ることができない。
【0004】
Ca歩留まりを安定させるために、これまで数多くの技術が提案されている。例えば、特許文献1には、取鍋に収容された溶鋼にCaを添加する際、スラグ中のCaO/SiO2(含有量比)を2.5より大きくし、スラグ中のT.FeとMnOの合計含有量を2.0%未満とした後、Caを添加することにより、添加されたCaのスラグとの反応による消耗を防ぎ、Al2O3系介在物の形態制御(低融点化)を再現性よく達成する溶鋼へのCa添加方法が開示されている。
【0005】
特許文献2では、ブルーム・ビレットの連続鋳造において、Al:0.010〜0.050%、S:0.005〜0.050%を含有する溶鋼へCaを添加して〔%Ca〕/〔%Al〕比を0.06〜0.20の範囲に調整し、鋼中介在物の組成を低融点の12CaO−7Al2O3系酸化物の組成に近接させて凝集浮上分離を促進することにより、大型介在物の生成を防止する方法が、また、特許文献3では、Al(0.100%以下)、S(0.150%以下)を含有する溶鋼へCaを添加する際、Ca添加速度をC濃度に応じて制御することにより、CaSの生成を低位に抑制し、Al2O3を低融点の12CaO・7Al2O3に改質し、ノズル詰まりが発生せず、介在物欠陥の少ない小断面鋳片が得られるCa処理方法が提示されている。
【0006】
特許文献4には、S含有量を20ppm以下、Al含有量を0.001〜0.020%に制御した後、Caを70ppm以下添加することにより、CaSクラスター介在物の少ない清浄度の優れたラインパイプ用鋼材の製造方法が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献5には、取鍋内溶鋼に、Alを投入して脱酸し、攪拌してスラグ中のFeO+MnOを5%以下とした後、Caを添加することにより、少ないCa添加量で確実に取鍋のノズル詰まりを防止できる方法が開示されている。
【0008】
このように、Al脱酸溶鋼を対象として、Ca処理に関する技術が多数提案されており、溶鋼へのCa歩留まりの向上、それを踏まえての介在物の形態制御などによる操業の改善や鋼の品質の向上が図られてきた。これは、Ca歩留まりの不安定がCaの蒸発し易さのみにあるのではなく、その最大の理由は、CaとO(酸素)の親和力が強いため、溶鋼の脱酸状態(溶鋼の酸素ポテンシャル)が溶鋼内でのCaの反応に強く影響することにあるからである。そのため、従来技術の大部分は、溶鋼の酸素ポテンシャルを安定させるためにAlを添加したAl脱酸鋼を対象としており、Alの含有量は0.01%よりも高いものである。
【0009】
一方、近年、溶接性の向上やコスト削減を目的として、鋼中のAlの濃度を低下させた鋼が望まれるようになった(このような鋼を得ることができる溶鋼を、以下、「低Al溶鋼」という)。これに伴い、低Al溶鋼をCa処理する必要が生じたが、従来のCa処理技術ではAl濃度が一定以上であることが必要であり、低Al溶鋼についてCa処理を安定して行うことは困難である。また、低Al溶鋼では酸素ポテンシャルが高くなるためCa歩留まりが低下することは知られていたが、定量的に把握されてはおらず、低下の原因も定かではなかったためそれに対する技術的解決策を見いだすことができなかった。
【0010】
【特許文献1】
特開昭63−7318号公報
【特許文献2】
特開平1−299742号公報
【特許文献3】
特開平3−183721号公報
【特許文献4】
特開昭57−9822号公報
【特許文献5】
特開昭64−75621号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前述した状況に鑑みなされたもので、その目的は、低Al溶鋼をCa処理するに際し、Ca歩留まりを安定して制御する方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明者らは、従来、定量的に把握されていなかった溶鋼中のAl濃度とCa歩留まりの関係を調査した。なお、以下において、溶鋼およびスラグの化学成分の濃度(含有量)の「%」は、「質量%」を意味する。
【0013】
先ず、マグネシア(MgO)坩堝内で、Si:0.1〜0.7%、Mn:0.5〜1.3%、S:0.0004〜0.0025%およびC:0.002%未満で、残部がFeである鋼15kgをAr雰囲気下で溶解し、溶鋼温度を1600℃とした後、この溶鋼に金属Alを添加し、溶鋼中Al濃度を0.0001〜0.08%の範囲に調整した。続いて、溶鋼に金属Caを添加し、溶鋼中のCa濃度を測定して、Ca歩留まりを求めた。なお、「Ca歩留まり」は、下記(2)式で定義した。
【0014】
【数1】
【0015】
結果を図1に示す。前記成分範囲の鋼では、Al以外の成分がCa歩留まりに与える影響は顕著ではなかった。
【0016】
この図から明らかなように、Al濃度が0.008%以上では、Ca歩留まりはほぼ一定しており、Ca歩留まりに与えるAlの影響は大きくないが、Al濃度が0.008%未満ではCa歩留まりが低下するとともに、ばらつきが大きくなる。そこで、Al濃度が0.008%未満の溶鋼を対象として、以下の検討を行った。
【0017】
前記のように、Al濃度が低下するとCa歩留まりが低下するのは、次に述べる理由によるものと推察される。すなわち、Al濃度が低くなると、溶鋼の溶存酸素濃度が上昇して酸素活量が増加し、添加されたCaはこの酸素と下記(3)式に従い反応する。
Ca+O→CaO ・・・(3)
この反応の平衡状態におけるCaの活量を平衡Ca活量[Ca]eとすると、[Ca]eは、平衡定数K、酸素活量[O]を用いて、下記(4)式で表すことができる。
[Ca]e=(1/K)・(CaO/[O]) ・・・(4)
この(4)式において、Al濃度の低下に伴い酸素活量[O]が増加すると、CaOの活量は一定とみなせるから、平衡Ca活量[Ca]eが低下し、Caの蒸発速度が速くなるためCa歩留まりが低下することになる。
【0018】
したがって、低Al溶鋼でCa歩留まりを制御するには、酸素濃度(活量)とCa濃度(活量)の関係を把握することが重要である。しかし、低Al溶鋼で酸素濃度を制御するのは容易ではない。そこで、溶鋼にフラックスを添加してスラグを形成させ、「スラグ−メタル間反応」で酸素濃度を制御する方法について検討することとし、スラグ組成とCa歩留まりの関係を調査した。スラグ−メタル間反応で酸素濃度を推算することは熱力学的に可能であるが、このスラグ組成とCa歩留まりの関係を熱力学的推算により求めることは難しいからである。
【0019】
スラグ組成とCa歩留まりの関係の調査では、先ず、マグネシア坩堝内で、Si:0.1〜0.7%、Mn:0.5〜1.3%、S:0.0004〜0.0025%およびC:0.002%未満で、残部がFeである鋼15kgをAr雰囲気下で溶解し、溶鋼温度を1600℃に調整した。次いで、溶鋼のAl濃度を0.002〜0.007%の範囲に調整した後、この溶鋼にCaOとAl2O3の質量比(CaO/Al2O3)が0.75〜1.5で、SiO2濃度が28%以下のフラックスを300g添加した。その後、Caを0.05〜0.3kg/tの範囲で添加した。
【0020】
Ca添加後、溶鋼サンプルとスラグサンプルをそれぞれ採取し、スラグ組成と溶鋼のCa濃度を定量し、前記(2)式により「Ca歩留まり」を求めた。
【0021】
この調査で得られた、スラグ中のCaO/Al2O3質量比とCa歩留まりの関係を図2に示す。なお、スラグのSiO2濃度が28%以下の範囲では、前記CaO/Al2O3質量比とCa歩留まりの関係に及ぼすSiO2濃度の影響は小さかった。
【0022】
図2に示した結果から、CaO/Al2O3質量比の低下に伴いCa歩留まりが低下することが解る。CaO/Al2O3質量比が低下すると、アルミナの活量が増加するため、酸素濃度が上昇(酸素活量が増加)し、その結果、前記(4)式で示したように、平衡Ca活量[Ca]eが低下し、Ca歩留まりが低下する、と考えられ、先の推察と一致する。
【0023】
また、図2には、枠外にCa添加量をパラメータとして示したが、Ca添加量が0.17kg/t以上(図中の□印、△印および○印)であれば、Ca歩留まりのCaO/Al2O3質量比に対する依存性は同一で、Ca歩留まりとCaO/Al2O3質量比とが一定の比率(勾配)で変化していることが解る。すなわち、Ca添加量が0.17kg/t以上であれば、CaO/Al2O3質量比に対して、一義的にCa歩留まりが求まる。
【0024】
しかし、Ca添加量が0.17kg/t未満では、Ca歩留まりのCaO/Al2O3質量比に対する依存性がCa添加量によって変化し、例えば、Ca添加量が0.14kg/tでは、CaO/Al2O3質量比>1.0の範囲ではCa添加量が0.3kg/t以上の場合と同一の依存性を示すが、CaO/Al2O3質量比が1.0より小さくなるとCa歩留まりが急速に低下する。さらに、Ca添加量が0.1kg/tでは、CaO/Al2O3質量比>1.3の範囲でのみ同一の依存性を示す。これは、スラグによって溶鋼の酸素濃度を低下させても、Ca添加量が少なすぎると、Ca脱酸が進行しないためと考えられる。すなわち、CaO/Al2O3質量比が高ければ、溶鋼の酸素濃度(活量)が低いためCa添加量が0.1kg/tでもCa脱酸が進行するが、CaO/Al2O3質量比が1.0より小さくなると、Ca添加量が0.14kg/tでも不足することになる。
【0025】
このことから、あるCaO/Al2O3質量比で安定したCa歩留まりを得るには、ある最低限のCa添加量が存在するということができ、その量は図2から容易に求めることができる。例えば、CaOを大量に添加し、CaO/Al2O3質量比=1.5でCa添加を行う場合、Ca添加量が0.1kg/t以上であれば安定したCa歩留まりが得られる。一方、スラグ量を低減するために、CaO/Al2O3質量比=1.0で操業する場合は、Ca添加量は0.14kg/t以上必要であり、それ未満ではCa歩留まりは不安定になる。
【0026】
以上の結果をまとめると、Al濃度が0.008%未満の溶鋼では、下記▲1▼および▲2▼のとおりである。
▲1▼Ca歩留まりはCaO/Al2O3質量比に依存し、CaO/Al2O3質量比の低下に伴いCa歩留まりが低下する(つまり、不安定になる)。
▲2▼Ca添加量が、CaO/Al2O3質量比によって決まるある一定値よりも低くなると、Ca歩留まりが急激に低下する(つまり、不安定になる)。
【0027】
そこで、前記のCaO/Al2O3質量比によって決まるCa添加量の“ある一定値”をより正確に把握するために、前述のスラグ組成とCa歩留まりの関係の調査をさらに継続して実施した。
【0028】
この調査で得られた、スラグ中のCaO/Al2O3質量比とCa添加量の関係を図3に示す。図3における○印は、Ca歩留まりとCaO/Al2O3質量比とが、Ca添加量によらず、一定の比率(勾配)で変化した場合(前記図2に示した□印、△印および○印の場合)を、●印は、前記一定の比率(勾配)から外れてCa歩留まりが低下(不安定化)した場合を示す。同図中に示した境界線Bが、それぞれのCaO/Al2O3質量比における安定したCa歩留まりが得られる最低のCa添加量を示し、この境界線Bより下のCa添加量が少ない領域ではCa歩留まりが不安定になる。この境界線Bは下記(5)式で表される。
【0029】
y=−0.11x+0.24 ・・・(5)
(5)式において、縦軸のCa添加量をA、「CaO/Al2O3質量比」と、「CaOとAl2O3の質量濃度比〔CaO(質量%)/Al2O3(質量%)〕」とは同じであるから、横軸のCaO/Al2O3質量比を〔CaO(質量%)/Al2O3(質量%)〕に置き換え、Rとすると、前記(5)式は下記(6)式に書き換えることができる。
A=−0.11×R+0.24 ・・・(6)
なお、(6)式において、Rの範囲は、0.75<R<1.5である。Rが0.75以下の場合は、Al2O3飽和なので、(6)式にR=0.75を代入して求められるCa添加量Aを、安定したCa歩留まりが得られる最低のCa添加量として適用すればよい。また、Rが1.5以上の場合は、CaO飽和なので、(6)式にR=1.5を代入して求められるCa添加量Aを、同様に適用すればよい。
【0030】
本発明は、以上述べた検討結果に基づきなされたもので、その要旨は、下記の低Al溶鋼のCa処理方法にある。
【0031】
『C:0.5%以下、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜1.3%およびsol.Al:0.008%未満を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、不純物中のSが0.004%以下である溶鋼をCa処理するに際し、取鍋スラグ中のCaOとAl2O3の質量濃度比〔CaO(質量%)/Al2O3(質量%)〕RとCa添加量Aが下記(1)式
A≧−0.11×R+0.24 ・・・(1)
ただし、0.75<R<1.5
を満足するように、前記溶鋼にCaを添加する低Al溶鋼のCa処理方法。』
ところで、スラグのCaO/Al2O3質量比とCa添加量とによっては、スラグから溶鋼にAlが供給(Al pick up)され、溶鋼中Al濃度が上昇する。Al濃度を厳格に管理する必要がない場合は、Ca添加量Aは、前記(1)式のみを満足する量であればよい。しかし、溶鋼中Al濃度を厳格に管理する場合は、Al濃度の上限を抑えることが望ましい。
【0032】
図4は、前述した一連の調査に関連して得られた結果で、Ca添加量と溶鋼中Al濃度の上昇量の関係を示す図である。なお、同図の枠外に示した「C/A」は、スラグのCaO/Al2O3質量比を表す。このような調査結果から、溶鋼中Al濃度の上昇が認められない条件を求め、整理した結果が、前記図3に示した境界線A(A=−0.11×R+0.39)である。この境界線Aよりも上、すなわちCa添加量が多い場合は、溶鋼中Al濃度が上昇するので、Al濃度の上昇を抑制する必要がある場合は、下記(7)式を満たすようにCaを添加すればよい。
A<−0.11×R+0.39 ・・・(7)
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の低Al溶鋼のCa処理方法について、詳細に説明する。
【0034】
はじめに、本発明のCa処理方法において、溶鋼の化学組成を前記のように定めた理由を説明する。
【0035】
C:0.5%以下
CはCaの活量を低下させるので、C濃度が高いと、Caと介在物、CaとO(酸素)、CaとSなどとの間の反応の速度が変化する。また、一方で、CはSの活量を高くするので、C濃度が著しく高い場合は、CaSの生成が容易になる。したがって、本発明の方法で処理の対象とする溶鋼のC濃度は、0.5%以下とする。
【0036】
Si:0.1〜1.0%
Siは脱酸力を有する元素である。そのため、Si濃度が0.1%未満になると、溶鋼のO(酸素)濃度が100ppmと高くなり、製品清浄度が悪化する。一方、Si濃度が1.0%を超えて高くなると、Sの活量を高め、Ca−S間の反応に影響する。したがって、溶鋼のSi濃度は、0.1〜1.0%とする。
【0037】
Mn:0.1〜1.3%
Mnは弱脱酸元素であるが、その濃度が0.1%未満になると、溶鋼の脱酸が著しく不足する。一方、Mn濃度が0.1%以上であると、脱酸性に大きな影響はないが、Mn濃度が高いとコスト高になる。したがって、上限を1.3%とし、溶鋼のMn濃度は、0.1〜1.3%とする。
【0038】
sol.Al:0.008%未満
先に述べたように、Al濃度が0.008%以上では、Ca歩留まりはほぼ一定しており、Ca歩留まりに与えるAlの影響は大きくはない(前記の図1参照)。したがって、溶鋼のAl濃度(sol.Alとして定量される)は、0.008%未満とする。
【0039】
本発明の方法で処理の対象とする溶鋼は、前記の成分以外、残部がFeおよび不純物からなる溶鋼である。不純物としては、Sの上限を抑えることが必要である。
【0040】
S:0.004%以下
SはCaと親和性が強く、CaS化合物等を生成させる。S濃度が高いと、生成するCaSにより鋼の清浄度が著しく悪化するので、溶鋼のS濃度は、0.004%以下とする。
【0041】
本発明のCa処理方法は、前記化学組成の低Al溶鋼に対して、前記の(1)式を満足するように、Caを添加する方法である。この(1)式と前記の(6)式とを比較すると明らかなように、(1)式が等号をとる場合、(1)式は前記図3の境界線Bを表しており、したがって、「(1)式を満足する」ということは、図3における境界線Bを含めてそれより上であること、すなわち、Ca添加量を境界線Bが示す値以上とすることを意味している。
【0042】
(1)式において、Rの範囲が定められているが、これは、(1)式が前記Rの範囲(0.75<R<1.5)で成り立つことを示すものである。先に述べたように、Rが0.75以下の場合、またはRが1.5以上の場合は、CaOとAl2O3の質量濃度比〔CaO(質量%)/Al2O3(質量%)〕(以下、単に「CaO/Al2O3質量濃度比」と記す)によりCa添加量を変化させる必要はないので、(1)式において、R=0.75、またはR=1.5を代入して求められるCa添加量Aを、それぞれ、Rが0.75以下、またはRが1.5以上の範囲において、安定したCa歩留まりが得られる最低のCa添加量として適用すればよい。
【0043】
Caの添加は溶鋼が取鍋内に収容されている間に行うので、(1)式からCa添加量を求めるに際し、(1)式のRには、取鍋内のスラグについて求めたCaO/Al2O3質量濃度比Rを適用する。
【0044】
このCa処理方法によれば、Ca歩留まりが低く、安定したCa処理の実施が困難な低Al溶鋼に対し、高いCa歩留まりで安定した処理を行うことができる。
【0045】
次に、本発明のCa処理方法を、転炉を用い、循環脱ガス(RH)法およびガス吹き込み精錬を行って低Al溶鋼を溶製する際に実施する場合を例にとって説明する。
【0046】
溶鋼を、転炉脱炭処理した後、取鍋に出鋼する。続いて、溶鋼を収容した取鍋をRH装置内に移動してRH処理を行い、溶鋼の成分および温度を調整する。
【0047】
RH処理の前または後にガス吹き込み精錬を実施してもよい。また、溶鋼の成分および温度の調整は、ガス吹き込み精錬で行ってもよいし、RH処理およびガス吹き込み精錬の両方で分担して実施してもよい。いずれにせよ、Ca添加を行う前までに実施して、溶鋼の成分を前記規定の範囲内に入るように制御する。
【0048】
スラグ組成の制御は、転炉からの出鋼時、RH処理中、またはガス吹き込み精錬時に、フラックスを添加することにより行う。
【0049】
CaO/Al2O3質量濃度比の制御は、Al脱酸による生成アルミナ量、転炉から取鍋への流出スラグ量、および溶鋼の温度上昇処理によるアルミナ生成量を勘案し、それに応じてCaOまたはCaO含有物質の添加量を調整することにより制御する。スラグ組成の制御は、Ca添加前に完了していることが望ましい。Ca添加後にCaO/Al2O3質量濃度比を大きく変化させると、再びCa蒸発速度が変化するからである。なお、スラグを均一組成とし、かつ、スラグ−メタル間反応を十分に促進させておくために、Ca添加前にガス吹き込み精錬を行うことが望ましい。
【0050】
スラグ中の低級酸化物(T.Fe+MnO)の濃度は10%以下であることが望ましい。スラグ中の低級酸化物濃度が10%を超えて高いと、Caと低級酸化物が反応してしまい、Ca歩留まりが悪化する。
【0051】
スラグ量は10kg/t以上であることが望ましい。10kg/tに満たないと、スラグ量が少なく、溶鋼表面の被覆が不十分となって、スラグ−メタル間反応が停滞する場合がある。
【0052】
溶鋼成分の調整、およびスラグの組成や量の制御が完了した後、溶鋼に前記の(1)式を満足するようにCaを添加する。溶鋼のAl濃度の上昇を回避したい場合には、前記の(7)も同時に満足させることが望ましい。
【0053】
前記添加するCaとしては、金属Caの他、CaSi、FeCaなどのCa合金を使用してもよい。また、Caの添加方法は、これらCaまたは前記Ca合金からなるCa系粉末をキャリアガスとともに吹き込む「Ca吹き込み」、Ca系ワイヤを溶鋼中に送り込む「ワイヤ添加」など、従来使用されている如何なる方法でもよい。また、Ca添加中に不活性ガス吹き込みを同時に行うと、スラグ−メタル間反応が促進されるので、Ca歩留まりがより安定する。
【0054】
このように、溶鋼の温度、成分調整、スラグの組成や量の調整およびCa添加を行って得られた低Al溶鋼は、連続鋳造他に供することができる。
【0055】
【実施例】
(実施例1)
C:0.045〜0.06%、Si:0.3〜0.5%、Mn:0.7%およびS:0.0025%を含有する溶鋼1.5tを、1.333×104Pa(100Torr)のAr雰囲気中で溶製し、Al濃度を0.001〜0.004%に調整した。続いて、雰囲気をAr1.013×105Pa(760Torr)、溶鋼温度を1600℃とし、5分間保持した。その後、溶鋼にCaSi(Ca純分:35%)を添加した。なお、CaSiの添加は、ホッパーから一括添加することにより行った。
【0056】
続いて、溶鋼およびスラグのサンプルを採取し、溶鋼組成およびスラグ組成を分析した。スラグ中のCaO/Al2O3質量濃度比の制御は、CaO−Al2O3フラックスにおけるCaOとAl2O3の配合割合を変更ことにより行った。
【0057】
表1に、溶鋼中のAl濃度、スラグ組成(CaO/Al2O3質量濃度比およびSiO2濃度)ならびにCaの添加量と歩留まりを示す。表1において(表2においても同じ)、「スラグ中CaO/Al2O3比」はCaO/Al2O3質量濃度比を表す。また、「(1)式右辺から求められるCa添加量」とは、(1)式が等号をとる場合で、安定したCa歩留まりが得られる最低のCa添加量を示し、「(7)式右辺から求められるCa添加量」とは、溶鋼のAl濃度の上昇が認められない最高のCa添加量を示す。なお、Ca歩留まりは、前記の(2)式から計算により求めた。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示した結果から、Ca添加量が(1)式を満足する試験No.1〜12(実施例)では、安定したCa歩留まりが得られていることが解る。また、そのうちの試験No.1〜10は(1)式および(7)式を同時に満足する場合であるが、この場合は、溶鋼のAl濃度の上昇も抑制された。
【0060】
一方、Ca添加量が(1)式から外れる試験No.13〜20(比較例)ではCa歩留まりは0.7〜1.3%と低く、しかも、ばらつきが大きかった。
【0061】
以上の結果から、(1)式を満足するようにCaを添加すれば、スラグ中のCaO/Al2O3質量濃度比の値如何にかかわらず、安定したCa歩留まりを確保することが可能であり、また、同時に(7)式をも満たすものであれば、溶鋼のAl濃度の上昇も抑制することができる。
【0062】
(実施例2)
転炉で精錬した溶鋼250tを取鍋へ出鋼し、この取鍋をRH装置内へ移動した。RH処理を行い、溶鋼の成分を、C:0.04〜0.063%、Si:0.2〜0.4%、Mn:0.5〜0.8%およびS:0.0018〜0.0022%に、また、溶鋼温度を、1600〜1610℃に調整した後、取鍋をRH装置外へ移動し、CaSiをワイヤ添加した。CaSiのCa純分は30%である。また、CaSiの添加速度は、Ca純分に換算して0.042kg/(t・min)であった。スラグ中のCaO/Al2O3質量濃度比の制御は、転炉出鋼時にCaO、Al2O3フラックスを添加することにより行った。なお、スラグ量は13〜21kg/tであった。
【0063】
表2に、溶鋼中のAl濃度、スラグ組成(CaO/Al2O3質量濃度比、SiO2濃度および「T.Fe+MnO」濃度)ならびにCaの添加量と歩留まりを示す。なお、Ca歩留まりは、前記の(2)式から計算により求めた。
【0064】
【表2】
【0065】
本実施例2では、溶鋼250tで、反応系が大きく、実施例1の場合よりも見かけの反応速度がやや低下するため、Ca歩留まりが表2に示すように高くなった。
【0066】
しかし、表2に示した結果から、Ca添加量が(1)式を満足する試験No.21〜27(実施例)では、(1)式から外れる試験No.28〜34(比較例)に比べて、安定して高いCa歩留まりが得られることが解る。試験No.21〜26は(1)式および(7)式を同時に満足する場合であるが、この場合は、溶鋼のAl濃度の上昇も抑制された。
【0067】
また、スラグ中低級酸化物(T.Fe+MnO)濃度が低い方が高いCa歩留まりが得られたが、Ca添加量が(1)式を満足する場合は、T.Fe+MnO濃度が高くても、高いCa歩留まりが得られた。
【0068】
【発明の効果】
本発明の低Al溶鋼のCa処理方法によれば、Ca歩留まりが低く、Ca処理を安定して行うことが困難な低Al溶鋼をCa処理するに際し、Ca歩留まりを安定して制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶鋼中Al濃度とCa歩留まりの関係を示す図である。
【図2】スラグ中のCaO/Al2O3質量比とCa歩留まりの関係を示す図である。
【図3】スラグ中のCaO/Al2O3質量比とCa添加量の関係を示す図である。
【図4】 Ca添加量と溶鋼中Al濃度の上昇量の関係を示す図である。
Claims (1)
- 質量%で、C:0.5%以下、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜1.3%およびsol.Al:0.008%未満を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、不純物中のSが0.004%以下である溶鋼をCa処理するに際し、取鍋スラグ中のCaOとAl2O3の質量濃度比〔CaO(質量%)/Al2O3(質量%)〕RとCa添加量Aが下記(1)式を満足するように、前記溶鋼にCaを添加することを特徴とする低Al溶鋼のCa処理方法。
A≧−0.11×R+0.24 ・・・(1)
ただし、0.75<R<1.5
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