JP3714190B2 - 薄鋼板および薄鋼板用溶鋼の脱酸処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車、家庭電器製品などに用いられる薄鋼板、およびその薄鋼板用溶鋼の脱酸処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
表面性状に優れ、かつ成形性に優れていることが要求される自動車の外装用鋼板、家庭電器製品などの薄鋼板には、極低炭素鋼が用いられる。極低炭素鋼を溶製する際、通常、転炉を用いて得られた未脱酸溶鋼を真空下で脱炭処理し、その後、Alにより脱酸処理を行う。具体的には、炭素含有率0.01〜0.07質量%の溶鋼を転炉を用いて溶製し、その溶鋼を未脱酸のまま取鍋内に出鋼した後、RH式などの真空処理装置を用いて、炭素含有率が0.001〜0.01質量%程度になるまで脱炭処理した後、Alを添加して溶鋼を脱酸する。その際、溶鋼中の溶存酸素含有率を低下させるため、溶鋼中にAlを0.01質量%以上含有させるのが一般的である。
【0003】
溶鋼中にAlを添加すると脱酸生成物としてAlの酸化物(Al2 O3 )が生成する。また、連続鋳造中に溶鋼中のAlと大気中の酸素またはスラグ中のFeO、MnOなどとが反応し、Alの酸化物が生成する。これらAlの酸化物は、いわゆるクラスター状と称する大型の凝集した酸化物になりやすく、溶鋼中を浮上しにくくなる。連続鋳造中のタンディッシュ内や鋳型内の溶鋼から除去されなかったAlの酸化物は、鋳片に残存して酸化物系非金属介在物となる。とくに鋳片表面に残存する100μm以上の大きな酸化物系非金属介在物は、その鋳片を素材とする圧延製品にまで残存するので、薄鋼板においてスリバー疵などの表面疵が発生する。
【0004】
さらに、溶鋼中のAlの酸化物は、連続鋳造中に浸漬ノズルが閉塞する原因となりやすい。浸漬ノズルが閉塞すると、鋳造速度が低下し、生産性が阻害される。さらに、浸漬ノズル内を通過する溶鋼に偏流が生じ、鋳型内の溶鋼の流動が不均一になりやすい。鋳型内の溶鋼の流動が不均一になると、鋳型内の溶鋼表面に添加したモールドパウダが溶鋼中に巻き込まれ、鋳片表面にパウダ性欠陥が発生しやすくなる。鋳片表面のパウダ性欠陥はその鋳片を素材とする圧延製品にまで残存するので、薄鋼板においてヘゲ疵、スリバー疵などの表面疵が発生する。
【0005】
浸漬ノズルの閉塞を防ぐため、浸漬ノズル内を通過する溶鋼中にAr等の不活性ガスを吹き込むことが、通常、行われている。しかし、多量に吹き込まれた不活性ガスの気泡は鋳型内の凝固殻に捕捉されやすく、鋳片表面近傍に気泡性欠陥が発生する。熱間圧延前に鋳片を加熱する際、鋳片表面近傍の気泡性欠陥内にFeなど酸化物が生成し、それらが圧延製品にまで残存するので、薄鋼板においてヘゲ疵などの表面疵が発生する。
【0006】
これら鋳造中の浸漬ノズルの閉塞、薄鋼板のヘゲ疵、スリバー疵などの表面疵の発生の根本的な原因は、真空下での脱炭処理後のAlによる脱酸処理に際し、高融点のAlの酸化物が生成し、クラスター状のAlの酸化物が生成することにある。なお、薄鋼板の表面疵の発生を防止するために、鋳片または薄鋼板用に熱間圧延した鋼帯の表面を手入れすることは、経済性および生産性の観点で不利である。そこで、従来からクラスター状のAlの酸化物の生成を抑制し、また生成する酸化物を複合酸化物として、その融点を下げることにより、鋳造中の浸漬ノズルの閉塞を防止する方法が提案されている。
【0007】
特開平8−225821号公報には、真空下で脱炭処理した後のAlによる脱酸後にCa処理を行い、直径が1μm以上の酸化物系非金属介在物の70%以上が、0.54≦CaO/Al2 O3 ≦0.90、SiO2 ≦10質量%の組成範囲となるアルミキルド薄鋼板が提案されている。Caを添加する際の錆の発生を防止するとともに、浸漬ノズルの閉塞、および薄鋼板の表面疵も併せて解決できるとされている。しかし、この方法で提案されたような狭い組成範囲に、酸化物系非金属介在物の組成を制御することは、実生産では困難である。
【0008】
特開平9−192804号公報には、真空下での脱炭処理後の溶鋼に、Alおよび/またはSiを添加して半脱酸溶鋼とし、その後にTiを添加してさらに脱酸する極低炭素冷延鋼板の製造方法が提案されている。この方法は、浸漬ノズルの閉塞の原因となる溶鋼中に生成するAlの酸化物を抑制するために、溶鋼中に添加するAl量を低減し、Tiを添加する方法である。溶鋼中に生成する酸化物をTiとAlとの複合酸化物、TiとSiとの複合酸化物、またはTiとAlとSiとの複合酸化物とすることにより、クラスター状のAlの酸化物の生成を防止し、鋳造中の浸漬ノズルの閉塞を防止する方法である。
【0009】
しかし、この方法で提案されたような狭い組成範囲に、酸化物の組成を制御するのは、実生産では困難である。浸漬ノズルの閉塞を防止するには、浸漬ノズル内を通過する溶鋼の温度で、溶鋼中の酸化物が液体または液体主体の固液共存状態であることが効果的であり、そのためには、酸化物の融点が1600℃程度以下であることが好ましい。しかし、TiO2 −Al2 O3 −SiO2 三元系の酸化物の状態図(たとえば、The American Ceramic Society の資料「Phase Diagram for Ceramists 」(1964))によると、生成する酸化物の融点が1600℃程度以下となる組成範囲が極めて狭いからである。
【0010】
特開平11−302772号公報には、Al含有率を低減し、Tiを含有させた極低炭素鋼において、直径が10μm以上の酸化物系非金属介在物の70%以上が、CaO、Al2 O3 およびTiO2 を主成分とし、これら主成分が特定の比率の組成を有する薄鋼板およびその脱酸処理方法が提案されている。Al含有率を低減し、Tiを含有させるのは、溶鋼中にクラスター状のAlの酸化物の生成を防止するためである。ただし、Ti含有鋼においては、かえって浸漬ノズルの閉塞が発生しやすく、この方法はその浸漬ノズルの閉塞の防止のために、酸化物系非金属介在物を特定の組成とする方法である。具体的には、CaO、Al2 O3 およびTiO2 を有する酸化物系非金属介在物の組成を、含有率(質量%)で、下記の3つの式で表される関係を満足する組成とする方法である。その3つの式とは、0.03≦CaO/(CaO+Al2 O3 +TiO2 )≦0.30、0≦Al2 O3 /(CaO+Al2 O3 +TiO2)≦0.40、および0.40≦TiO2 /(CaO+Al2 O3 +TiO2 )≦0.90である。このような組成の酸化物系非金属介在物とすることにより、クラスター状の酸化物の生成を防止するとともに、鋳造中の浸漬ノズルの閉塞を防止する。
【0011】
また、特開平11−343516号公報には、Al含有率を低減し、Tiを含有させた極低炭素鋼において、CaOおよびREM酸化物のいずれか1種以上の合計が5〜50質量%、Ti酸化物が90質量%以下、Al2 O3 が70質量%以下の酸化物系非金属介在物をその鋼中に含有する鋼材およびその鋼材の製造方法が提案されている。この方法は、鋼中に残留する酸化物系非金属介在物の組成範囲を特定の組成とすることにより、クラスター状のAlの酸化物の生成を防止し、浸漬ノズルの閉塞の発生を防止する方法である。
【0012】
しかし、実生産において、上記の特開平11−302772号公報または特開平11−343516号公報で提案されたような狭い組成範囲に、酸化物の組成を制御するのは困難である。なぜなら、TiO2 −Al2 O3 −CaO三元系の酸化物の状態図(たとえば、VDEhの資料「Slag Atlas 2nd Edition」(1995))によると、生成する酸化物の融点が1600℃程度以下となる組成範囲が極めて狭いからである。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、自動車、家庭電器製品などに用いられる薄鋼板およびその薄鋼板用溶鋼の脱酸処理方法に関し、鋳造中の浸漬ノズルの閉塞を防止でき、ヘゲ疵、スリバー疵などの表面疵の発生のない、良好な表面品質の薄鋼板を提供し、さらに、前記薄鋼板を得るための溶鋼の脱酸処理方法を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、下記(1)と(2)に示す薄鋼板、および下記(3)に示すその薄鋼板を得るための溶鋼の脱酸処理方法にある。
(1)質量%で、C:0.01%以下、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.05〜0.5%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.0005〜0.01%、Ca:0.0003〜0.004%、Ti:0.005〜0.1%、Nb:0〜0.03%、B:0〜0.01%、および残部Feと不純物からなる組成を有し、かつ、次の (a) 〜 (c) のうちのいずれかの関係を満足することを特徴とする薄鋼板。
(a)Si/Ti≦0.5、0.02≦sol.Al/Ti≦0.1、かつ0.5≦Ca/insol.Al≦5.2−36×(sol.Al/Ti)。
(b)0.5<Si/Ti≦2、0.02≦sol.Al/Ti≦0.14、かつ、0.5≦Ca/insol.Al≦5.0−24×(sol.Al/Ti)。
(c)2<Si/Ti≦5、0.02≦sol.Al/Ti≦0.2、かつ、0.5≦Ca/insol.Al≦4.8−16×(sol.Al/Ti)。
ここで、Si、Ti、sol.Al、Caおよびinsol.Alは薄鋼板中の各元素の含有率(質量%)である。
(2)厚さ1μm以上の酸化物系非金属介在物の70質量%以上が、Tiの酸化物(TiOx)、Al2O3、CaOおよびSiO2を主成分とし、かつ、次の (d) 〜 (f) のうちのいずれかの関係を満足することを特徴とする、上記(1)の薄鋼板。
(d)0.1≦Al2O3/TiOx≦0.5、0.1≦SiO2≦3、かつ、0.27≦CaO/(CaO+Al 2 O 3 )≦0.84−0.59×(Al 2 O 3 /TiO x )。
(e)0.1≦Al2O3/TiOx≦1.0、0.2≦SiO2≦6、かつ、0.27≦CaO/(CaO+Al 2 O 3 )≦0.81−0.27×(Al 2 O 3 /TiO x )。
(f)0.1≦Al2O3/TiOx≦2.0、0.5≦SiO2≦10、かつ、0.27≦CaO/(CaO+Al 2 O 3 )≦0.80−0.13×(Al 2 O 3 /TiO x )。
ここで、CaO、Al2O3およびTiOxは、酸化物系非金属介在物中のそれぞれの含有率(質量%)であり、また、TiOx含有率とは、TiO2、Ti2O3およびTi3O5の合計の含有率を意味する。
(3)連続鋳造に供する溶鋼を脱酸処理するに際して、溶鋼を真空下で脱炭処理し、その脱炭処理後の未脱酸溶鋼にAlまたはAl合金、SiまたはSi合金、およびTiまたはTi合金を添加し、その後にCaまたはCa合金を添加することを特徴とする、上記(1)または(2)の薄鋼板用溶鋼の脱酸処理方法。
【0015】
薄鋼板の化学組成と溶鋼の化学組成とは実質的に同じであること、および薄鋼板中の酸化物系非金属介在物の組成と溶鋼中の酸化物の組成とは実質的に同じであることを確認しているので、以下では、薄鋼板の化学組成または溶鋼の化学組成の表現を適宜使い分け、また、薄鋼板中の酸化物系非金属介在物または溶鋼中の酸化物の表現を適宜使い分けて、それぞれ記載している。
【0016】
本発明で規定するTiOxとは、TiO2 、Ti2 O3 およびTi3 O5 の組成で示されるTi酸化物を意味する。したがって、以下で記載するTiOxとは、Ti酸化物を総称している。また、以下で記載するTiO2 とは、上記Ti酸化物のうち、代表してTiO2 を説明している。
【0017】
本発明者らは、後に詳述する実験により、Al含有率を低減し、TiおよびCaを含有させた極低炭素鋼の薄鋼板において、Siを含有させ、かつ、C、Si、Mn、P、S、sol.Al、CaおよびTiの含有率を上記(1)に記載の含有率とし、さらに、Si/Ti、sol.Al/TiおよびCa/insol.Alの組成を上記(1)に記載の組成とすることにより、その薄鋼板用の溶鋼を鋳造中に、浸漬ノズルの閉塞を防止できることを知見した。ここでいう「insol.Al」とは、分析によって得られる薄鋼板中の全Al含有率(質量%)から、同じく分析によって得られるsol.Al含有率(質量%)を引いた値を意味する。
【0018】
さらに、後に詳述する実験により、薄鋼板中の酸化物系非金属介在物の組成範囲を上記(2)に記載の範囲とすることにより、その薄鋼板用の溶鋼を鋳造中に、より安定して確実に、浸漬ノズルの閉塞を防止できることを知見した。「厚さ1μm以上の酸化物系非金属介在物」を対象とするのは、厚さ1μm未満では、薄鋼板の表面欠陥の原因とならないからである。また、「酸化物系非金属介在物の70%以上」に関して条件を規定するのは、厚さ1μm以上の大きさの酸化物系非金属介在物の70%以上が適正な条件を満足すれば、浸漬ノズルに酸化物が付着しにくく、浸漬ノズルの閉塞が発生しにくいからである。本発明で規定する「厚さ1μm以上の酸化物系非金属介在物」とは、薄鋼板の厚さ方向の大きさが1μm以上の酸化物系非金属介在物を意味する。
【0019】
上記のとおり、薄鋼板とその溶鋼の化学組成、および、薄鋼板中の酸化物系非金属介在物と溶鋼中の酸化物の組成範囲を適正な範囲とすることにより、鋳造中の浸漬ノズルの閉塞を防止でき、鋳造された鋳片を素材とする薄鋼板では、ヘゲ疵、スリバー疵などの表面疵の発生を防止できるとの知見を得たが、これらの知見を得るに到った実験結果を以下に詳細に説明する。
【0020】
TiO2 −Al2 O3 −CaO三元系の酸化物において、融点が1600℃を超えるのは、TiO2 主体の組成範囲である場合、TiO2 含有率が40〜50質量%程度で、かつ、CaO/Al2 O3 が1.5〜2程度である組成範囲である場合、TiO2 含有率は少なく、CaO主体の組成範囲である場合、およびAl2 O3 主体の組成範囲である場合で、これらの組成範囲は広い。したがって、融点が1600℃程度以下となる酸化物の組成範囲は狭く、実生産において、このように狭い組成範囲の酸化物に制御するのは困難である。
【0021】
そこで、融点の低下に対するSiO2 の効果に着目し、TiO2 −Al2O3 −CaO三元系にSiO2 を含有させた四元系の酸化物の融点の変化を調査した。すなわち、TiO2 、Al2 O3 、CaOおよびSiO2 の試薬を所定量配合して、瑪瑙鉢で粉砕混合した粉末試料から、直径8mm、高さ12mmのブリケットを作成した。このブリケットをAr雰囲気下で5℃/分の速度で昇温し、溶融する温度を目視で観察した。
【0022】
図1は、TiO2 −Al2 O3 −CaO−SiO2 四元系の酸化物の溶融温度に及ぼすSiO2 含有率の影響を示す図である。上記試薬を配合した、TiO2 含有率が50質量%、含有率の比、CaO/Al2 O3 が1.0〜2.0の三元系酸化物に、SiO2 の試薬を含有させた四元系の酸化物の融点を示す。SiO2 を2〜10質量%含有させることにより、融点を1600℃程度以下に、大きく低下させることができることがわかった。
【0023】
そこで、つぎに、容量10kg程度のタンマン炉を用いて、実際の溶鋼中にSi成分を添加し、溶鋼中のTiOx−Al2 O3 −CaO三元系の酸化物にSiO2 を含有させることができるかどうかの確認を行った。なお、ここでTi酸化物をTiOxと記載するのは、実際の溶鋼中のTi酸化物は、TiO2 の他に、Ti2 O3 およびTi3 O5 を含有するからである。
【0024】
具体的には、下記の実験を行った。すなわち、質量%で、C:0.002〜0.003%、P:0.015〜0.02%、Mn:0.12〜0.15%、S:0.004〜0.006%、Ti:0.02〜0.03%、Nb:0.008〜0.012%、Al:0.001〜0.003%を含有する溶鋼を溶製し、Arガス雰囲気中で、MgO製るつぼ内に溶鋼を保持した。その後、この溶鋼中にSi合金およびCa合金を添加した。溶鋼の温度は1570〜1610℃の範囲内に保持した。
【0025】
ボンブ法により、直径15mm、高さ40mmの溶鋼のサンプルを採取し、水中に急冷した。このボンブサンプルの化学組成を、通常のプラズマ発光分析法、原子吸光分析法、高周波燃焼−赤外線吸収法などによって調査し、その化学組成が上記の範囲であること、また、Si含有率が0.07〜0.08質量%、Ca含有率が0.0005〜0.002質量%であることを確認した。さらに、ボンブサンプル中の酸化物の大きさと組成を、光学顕微鏡およびエネルギー分散型X線マイクロアナライザーにより分析した。
【0026】
これら酸化物の大きさは直径1〜10μmで、その形態はいずれも球状で、クラスター状のものはなかった。また、その組成はTiOx、Al2 O3 、CaOおよびSiO2 が主体であり、その他に、MgO、MnO、Sが分析された。
【0027】
図2は、TiOx−Al2 O3 −CaO−SiO2 四元系の酸化物中に含有されるTiOx含有率とSiO2 含有率との関係を示す図である。また、図3は、TiOx−Al2 O3 −CaO−SiO2 四元系の酸化物中に含有されるCaO含有率をAl2 O3 含有率で除した比、CaO/Al2 O3 と、SiO2 含有率との関係を示す図である。これら図2および図3から、上記四元系の酸化物中にはSiO2 が0.5〜6質量%程度含有されること、さらに、TiOx含有率が低い程、またCaO/Al2 O3 が大きい程、いずれもSiO2 が多く含有されることがわかった。
【0028】
前述のとおり、TiO2 −Al2 O3 −CaO三元系の酸化物において、TiO2 含有率が40〜50質量%程度で、CaO/Al2 O3 が1.5〜2程度の組成範囲の領域において、その融点は1600℃を超えて高い。しかし、本発明者らの実験結果による図1、図2および図3に示すように、上記三元系の酸化物に、さらに、SiO2 を0.5〜6質量%程度含有させることができ、TiOx含有率が40〜50質量%程度で、CaO/Al2 O3 が1.5〜2程度の組成範囲の領域において、その融点を1600℃程度以下の温度に低下させ得ることがわかった。
【0029】
つぎに、所定の化学組成に溶製した溶鋼中に、一般的な浸漬ノズル用耐火物であるアルミナ・グラファイト質の試験片を1時間浸漬し、その後に引き上げて冷却した後の試験片の表面に付着した付着物の厚さを測定した。付着物は、酸化物系非金属介在物と地金の混合物であることを、後述のとおり、確認している。具体的には、下記の実験を行った。すなわち、前述の容量10kg程度のタンマン炉を用いて、Arガス雰囲気中で、質量%で、C:0.001〜0.01%、P:0.01〜0.01%、Mn:0.05〜0.5%、S:0.002〜0.01%、Ti:0.005〜0.5%、Nb:0〜0.03%、B:0〜0.01%を含有し、さらに、sol.Al、insol.Al、SiおよびCaの含有率を変化させた溶鋼を溶製し、溶鋼の温度を1545〜1570℃の範囲内として、MgO製るつぼ内に溶鋼を保持した。耐火物の試験片は、直径20mm、高さ100mmの円柱状とし、60rpmの速度で回転させながら、溶鋼中に1時間浸漬した。ボンブ法により、直径15mm、高さ40mmの溶鋼のサンプルを採取するとともに、耐火物の試験片を回収して切断し、付着物の厚さを測定した。
【0030】
図4は、アルミナ・グラファイト質の耐火物に付着する付着物の厚さに及ぼす、溶鋼の組成であるSi/Ti、sol.Al/TiおよびCa/insol.Alの影響を示す図である。SiおよびCaを含有させずに溶製した溶鋼で、かつ、sol.Alを0.02〜0.04質量%、insol.Alを0.0005〜0.003質量%含有させた通常の化学組成の範囲内の溶鋼中に浸漬した試験片に付着した付着物の厚さを基準として、その他の化学組成の溶鋼中に浸漬した試験片に付着した付着物の厚さが、その基準の50%以下の厚さとなる、Si/Ti、sol.Al/TiおよびCa/insol.Alの適正な組成範囲を求めた結果を示す。
【0031】
Si/Tiの値に応じたそれぞれの適正な組成範囲は、図4中に示す、それぞれ4つの直線で囲まれた領域であり、溶鋼中のSi/Ti、sol.Al/TiおよびCa/insol.Alの組成が、前述の(1)に記載の組成であれば、アルミナ・グラファイト質の耐火物に付着する付着物の厚さが、通常の化学組成の範囲内の溶鋼中において付着する付着物の厚さの1/2以下になることがわかった。
【0032】
また、付着物の組成をエネルギー分散型X線マイクロアナライザーにより分析することにより、付着物は酸化物系非金属介在物および地金であり、さらに、厚さ1μm以上の酸化物系非金属介在物の70質量%以上が、TiOx、Al2 O3 、CaOおよびSiO2 を主成分とすることを確認し、さらに、以下を確認することができた。
【0033】
図5は、付着物の厚さが、通常の化学組成の範囲内の溶鋼中において付着する付着物の厚さの1/2以下になる場合の、TiOx、Al2 O3 、CaOおよびSiO2 の適正範囲を示す図である。ただし図5では、Ti酸化物をTiO2 として図示している。図5から、TiOx、Al2 O3 、CaOおよびSiO2 の組成範囲が、前述の組成範囲a、bおよびcであれば、アルミナ・グラファイト質の耐火物に付着する付着物の厚さが、通常の化学組成の溶鋼中で付着する付着物の厚さの1/2以下になることがわかる。
【0034】
さらに、本発明者らは、連続鋳造する前の薄鋼板用溶鋼を脱酸処理するに際して、溶鋼を真空下で脱炭処理し、その脱炭処理後の未脱酸溶鋼に所定量のAlまたはAl合金、SiまたはSi合金、およびTiまたはTi合金を添加し、その後に所定量のCaまたはCa合金を添加する脱酸処理方法により、薄鋼板の化学組成を前述の(1)に記載の化学組成に、また、薄鋼板中の酸化物系非金属介在物の組成を前述の(2)に記載の組成に、より安定して確実に、それぞれ調整することができることを知見した。
【0035】
このような脱酸処理方法において、Al、SiおよびTi、またはそれらの合金を添加した後の脱酸溶鋼中にCaまたはCa合金を添加するのは、未脱酸溶鋼中では、溶鋼中の溶存酸素によって、Caが酸化されやすく、溶鋼の化学組成の範囲を前述の(1)に記載の範囲内とすることが困難な場合があるからである。
【0036】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の薄鋼板の化学組成および薄鋼板中の酸化物系非金属介在物の組成を説明する。なお、以下の%表示は、質量%を意味する。
C:0.01%以下
Cは、本発明が対象とする薄鋼板において、成形性を悪化させる元素となるので、できるだけ含有率は低い方がよく、その上限は0.01%とする。ただし、過度の脱炭処理は製造コストの上昇を招くので、その下限は0.0005%とするのが望ましい。
【0037】
Si:0.01〜0.5%
Siは、通常、脱酸と鋼の強化のために含有させる。さらに、鋼中にSiO2を含有させるためにSiを含有させる。これらの効果または作用を発揮させるために、下限は0.01%とする。一方、0.5%を超えて含有させると鋼が硬化し、また、鋼材表面のメッキ性を悪化させるので、その上限は0.5%とする。したがって、Si含有率は0.01〜0.5%とする。さらに、酸化物系非金属介在物の組成範囲を調整するために、後述するTiの含有率に対して、Si/Ti≦5を満足する範囲の値とするのが望ましい。
【0038】
Mn:0.05〜0.5%
Mnは、鋼中のSと結合し、Sによる鋼の熱間脆性を抑制する元素であり、その効果を発揮させるために、その下限は0.05%とする。また、0.5%を超えて含有させると鋼の成形性が悪化するので、その上限は0.5%とする。したがって、Mn含有率は0.05〜0.5%とする。
【0039】
P:0.1%以下
本発明においては、Pは不純物としてその含有率をできるだけ低くする場合と、鋼の強化成分として積極的に利用する場合とがある。いずれの場合も、その含有率が0.1%を超えると鋼の成形性が悪化するので、上限は0.1%とする。なお、積極的に利用する場合は、その含有率は0.03%以上とするのが望ましい。
【0040】
S:0.01%以下
Sは、不純物元素であり、鋼の熱間脆性を悪化させる元素であるから、その上限は0.01%とする。
【0041】
sol.Al:0.0005〜0.01%
Alは、通常、脱酸のために含有させる。その効果を発揮させるために、下限は0.0005%とする。一方、0.01%を超えて含有させると溶鋼中のsol.Alが大気中の酸素により酸化され、浸漬ノズルの閉塞が発生しやすくなるので、その上限は0.01%とする。
【0042】
さらに、上記Siの含有率および後述するTiの含有率の比、Si/Tiの値に応じて、Si/Ti≦0.5では、0.02≦sol.Al/Ti≦0.1とし、また0.5<Si/Ti≦2では、0.02≦sol.Al/Ti≦0.14とし、さらに2<Si/Ti≦5では、0.02≦sol.Al/Ti≦0.2とする。薄鋼板のsol.AlとSiおよびTiとの関係をこのようにすることにより、薄鋼板中の酸化物系非金属介在物の組成を適正な範囲とすることができる。また、その薄鋼板用の溶鋼を鋳造中に、浸漬ノズルの閉塞の発生を防止できる。
【0043】
sol.Al/Tiが0.02未満では、鋼中の酸化物がTiOx主体またはTiOxとCaOが主体の高融点の酸化物となり、またsol.Al/Tiが、上記Si/Tiの値に応じて、それぞれ0.1、0.14または0.2を超えると、Al2 O3 含有率が高い高融点の酸化物となり、いずれも浸漬ノズルの閉塞が発生しやすい。
【0044】
Ca:0.0003〜0.004%
Caは、Alの酸化物がクラスター状の凝集した酸化物になるのを抑制し、Alの酸化物を低融点の複合酸化物とする効果があり、その効果を発揮させるために、その下限は0.0003%とする。一方、0.004%を超えて含有させても効果は飽和する。したがって、Ca含有率は0.0003〜0.004%とする。
【0045】
さらに、上記Siの含有率および後述するTiの含有率の比、Si/Tiの値に応じて、Si/Ti≦0.5では、0.5≦Ca/insol.Al≦5.2−36×(sol.Al/Ti)とし、また0.5<Si/Ti≦2では、0.5≦Ca/insol.Al≦5.0−24×(sol.Al/Ti)とし、さらに2<Si/Ti≦5では、0.5≦Ca/insol.Al≦4.8−16×(sol.Al/Ti)とする。薄鋼板のCaとinsol.Al、sol.AlおよびTiとの関係を上記とすることにより、薄鋼板中の酸化物系非金属介在物の組成を適正な範囲とすることができ、また、その薄鋼板用の溶鋼を鋳造中に浸漬ノズルの閉塞の発生を防止できる。
【0046】
Ca/insol.Alが0.5未満では、TiOxまたはAl2 O3 が主成分の高融点の酸化物系非金属介在物となり、またCa/insol.Alが、上記Si/Tiに応じて、5.2−36×(sol.Al/Ti)、5.0−24×(sol.Al/Ti)、または4.8−16×(sol.Al/Ti)の値を超えると、CaOおよびAl2 O3 の含有率が比較的高い高融点の酸化物系非金属介在物となり、いずれも浸漬ノズルの閉塞が発生しやすい。
【0047】
Ti:0.005〜0.1%
Tiは、脱酸、およびC、Nを固定するのに有効な元素であり、その効果を発揮させるために、その下限は0.005%とする。また、0.1%を超えて含有させると効果が飽和する。したがって、Ti含有率は0.005〜0.1%とする。また、上記Siの含有率およびTiの含有率の比、Si/Tiの値を5以下とするのは、前述のとおりである。Si/Tiの値が5を超えると、酸化物系非金属介在物中にSiO2 を含有することによる融点の低下効果が小さくなる。
【0048】
さらに、本発明の薄鋼板では、Feの一部に代えて、質量%で、Nb:0.001〜0.03%、B:0.0001〜0.01%のうちの1種以上を含有させるのが望ましい。
【0049】
Nb:0〜0.03%、
Nbは、必要に応じて添加する元素である。Nbは、C、Nを固定するのに有効な元素で、鋼の耐時効性を向上させる。これらの効果を得るためには、0.001%以上含有させるのが望ましい。しかし、0.03%を超えると、その効果が飽和する。
B:0〜0.01%
Bは、必要に応じて添加する元素である。Bは、鋼の加工性向上に有効な元素である。極低炭素鋼の金属組織においては、固溶炭素が少ないので、粒界の強度が弱く、熱間圧延して得られた鋼材をさらに冷間加工する際に、粒界破断によって鋼材に加工割れが発生する場合がある。Bは、この加工割れを抑制する効果がある。その効果を得るためには、0.0001%以上含有させるのが望ましい。しかし、0.01%を超えると、その効果が飽和する。
【0050】
本発明の薄鋼板は、その化学組成の範囲を上記範囲とすることにより、クラスター状のAlの酸化物の生成を抑制することができるので、その薄鋼板用の溶鋼を鋳造中に、浸漬ノズルの閉塞を防止でき、薄鋼板の表面品質の改善を図ることができる。
【0051】
さらに、より安定して確実に鋳造中の浸漬ノズルの閉塞を防止し、表面品質のより良好な薄鋼板を得るために、薄鋼板中の酸化物系非金属介在物の組成を適正な範囲とすることが望ましい。すなわち、本発明の薄鋼板は、上記の化学組成に加えて、厚さ1μm以上の酸化物系非金属介在物の70質量%以上が、TiOx、Al2 O3 、CaOおよびSiO2 を主成分とし、かつ、これら主成分の組成範囲が、前述の(2)に記載の組成範囲であることが望ましい。
【0052】
このような組成範囲のTiOx−Al2 O3 −CaO−SiO2 四元系の酸化物系非金属介在物とすることにより、広い組成範囲にわたって、その融点は1600℃程度以下となるので、より安定して確実に、鋳造中の浸漬ノズルの閉塞を防止でき、その結果、表面品質の良好な薄鋼板を得ることができる。
【0053】
つぎに、本発明の脱酸処理方法について説明する。本発明の方法では、連続鋳造する前の薄鋼板用の溶鋼を脱酸処理するに際して、溶鋼を真空下で脱炭処理し、その脱炭処理後の未脱酸溶鋼に所定量のAlまたはAl合金、SiまたはSi合金、およびTiまたはTi合金を添加し、その後に所定量のCaまたはCa合金を添加する。その際、溶鋼を真空下で効果的に脱炭処理するために、通常の酸素吹き転炉を用いて溶鋼を溶製した後、真空下で脱炭処理するのが望ましい。
【0054】
CaまたはCa合金を最後に添加するのは、未脱酸溶鋼中にCaまたはCa合金を添加すると、溶鋼中の溶存酸素によって、Caが酸化されやすいためである。また、TiまたはTi合金を添加する前に、AlまたはAl合金を未脱酸溶鋼中に添加するのが望ましい。未脱酸溶鋼中の溶存酸素によってTiが酸化されやすいためである。
【0055】
Ca合金が、たとえば、Ca−Si合金のように、Siを含有する場合には、脱炭処理後の未脱酸溶鋼に所定量のAlまたはAl合金、およびTiまたはTi合金を添加した後に、所定量のCa−Si合金を添加することができる。
【0056】
このように脱酸処理することにより、薄鋼板の化学組成を前述の(1)に記載の化学組成に、また、薄鋼板中の酸化物系非金属介在物の組成を前述の(2)に記載の組成に、より安定して確実に、それぞれ調整することができる。
【0057】
溶鋼中に添加するこれらAl、Si、Ti、Ca、またはそれらの合金の添加量は、たとえば1つの例として、つぎのようにして求めることができる。すなわち、まづ、鋼材の要求性能、溶鋼中のN含有率などに応じて、0.005〜0.1%の範囲内で薄鋼板の目標のTi含有率を決める。つぎに、目標のTi含有率に応じて、前述の(1)に記載のSi/Ti≦5の範囲内で薄鋼板の目標のSi含有率が求まる。さらに、薄鋼板の目標のTi含有率に応じて、前述の(1)に記載の0.02≦sol.Al/Ti≦0.2の範囲内で薄鋼板の目標のsol.Alが求まる。
【0058】
一方、転炉を用いて溶製した連続鋳造する前の薄鋼板用の溶鋼を脱酸処理するに際して、溶鋼を真空下で脱炭処理し、その脱炭処理後の未脱酸溶鋼に所定量のSiまたはSi合金を添加した際の、溶鋼中のSi含有率を予め求めておくと、目標のSi含有率に対応するSiまたはSi合金の添加量を求めることができる。さらに、未脱酸溶鋼に所定量のAlまたはAl合金を添加した際の、溶鋼中および薄鋼板のsol.Alおよびinsol.Alの関係を予め求めておくと、目標のsol.Al含有率およびinsol.Alに対応して、溶鋼中に添加すべきAlまたはAl合金の添加量が求まる。
【0059】
また、上記Si、sol.Alなどを調整した溶鋼に、所定量のTiまたはを添加した際の、溶鋼中のTi含有率を予め求めておくと、上記の求めた目標のTi含有率に対応するTiまたはTi合金の添加量を求めることができる。
【0060】
さらに、薄鋼板の目標のsol.Al、Tiおよびinsol.Alが求まると、前述の(1)に記載の0.5≦Ca/insol.Al≦4.8−16×(sol.Al/Ti)の範囲内で薄鋼板の目標のCa含有率が求まる。脱酸処理時のAl、Si、Ti、またはそれらの合金を添加した後に、所定量のCaまたはCa合金を添加した際の、溶鋼中のCa含有率を予め求めておくと、目標のCa含有率に対応して、溶鋼中に添加すべきCaまたはCa合金の添加量が求まる。
【0061】
Al、Si、TiおよびCaのそれぞれの合金は、通常の合金でよく、また、それら合金のブリッケット、またはそれら合金を内包した鉄被覆ワイヤを用いることができる。
【0062】
【実施例】
転炉およびRH式真空処理装置を用いて、C含有率が0.002質量%程度の極低炭素鋼を1ヒート約270tの容量で溶製した。その際、転炉を用いて得られた未脱酸の溶鋼を真空下で脱炭処理し、脱炭処理後の溶鋼の脱酸処理方法を変更して試験した。
【0063】
溶製した溶鋼を2ストランドを有する垂直曲げ型連続鋳造機を用いて、厚さ270mm、幅1500mmの鋳片に速度1.5m/分で鋳造した。連続鋳造する際に、浸漬ノズル内を通過する溶鋼中にはArガスを吹き込まなかった。
【0064】
連続鋳造中のタンディッシュ内の溶鋼をボンブ法により、直径25mm、高さ80mmのサンプルを採取し、また、後述する冷間圧延した薄鋼板から分析用のサンプルを採取し、これらのサンプルの化学組成を通常のプラズマ発光分析法、原子吸光分析法、高周波燃焼−赤外線吸収法などによって分析した。その結果、ボンブ法による溶鋼の化学組成と、薄鋼板の化学組成は、ほとんど同じであることを確認した。
【0065】
また、鋳造終了後に浸漬ノズルを回収して縦断し、その内壁への酸化物系非金属介在物の付着状況を調査した。
【0066】
つぎに、得られた鋳片を熱間圧延し、厚さ3.5mmの薄鋼板としてコイル状に巻き取った。また、この薄鋼板を酸洗し、その後冷間圧延して厚さ0.7mmの薄鋼板としてコイル状に巻き取った。その後、その冷間圧延した薄鋼板を連続焼鈍した後、表面品質状況を目視で検査し、鋳片における酸化物系非金属介在物、パウダ性欠陥または気泡性欠陥に起因するヘゲ疵またはスリバー疵の発生状況を調査した。これらの薄鋼板の表面疵の発生状況は、コイルの長さ1000mにおけるこれら表面疵の発生個数で評価した。
【0067】
また、冷間圧延した薄鋼板から分析用サンプルを採取し、酸化物系非金属介在物の大きさおよび組成を、光学顕微鏡およびエネルギー分散型X線マイクロアナライザーにより分析した。各試験では、酸化物系非金属介在物の代表的な組成を約20例測定し、その平均組成を求めた。薄鋼板の化学組成を表1に、試験結果を表2に示す。なお、以下の表示の%は、質量%を意味する。
【0068】
【表1】
【表2】
本発明例の試験No.1では、脱炭処理した後、溶鋼中にAlを添加してAl脱酸し、溶鋼中の溶存酸素含有率を約150ppmに調整した。その後、Fe−SiおよびTiを添加し、Fe−Nbを添加した後、Fe−Caブリケットを添加してCa処理を行った。本発明例の試験No.2では、脱炭処理した後、溶鋼中にAlを添加してAl脱酸し、溶鋼中の溶存酸素含有率を約100ppmに調整した。その後、Fe−SiおよびTiを添加し、Fe−NbおよびFe−Bを添加した後、Ca−Si合金の鉄被覆ワイヤを添加して、Ca処理を行った。また、本発明例の試験No.3では、脱炭処理した後、溶鋼中にAlを添加してAl脱酸し、溶鋼中の溶存酸素含有率を約130ppmに調整した。その後、Fe−SiおよびTiを添加した後、Ca−Si合金の鉄被覆ワイヤを添加して、Ca処理を行った。これら試験No.1〜No.3における脱酸処理方法は、本発明の方法で規定する条件を満足する方法である。
【0069】
これら試験No.1〜No.3では、鋳片を熱間圧延後、さらに冷間圧延して得られた薄鋼板の化学組成において、Si/Tiは0.41〜3.38、sol.Al/Tiは0.067〜0.17、Ca/insol.Alは1.67〜1.83であり、これら比の値を含めて、薄鋼板の化学組成は、本発明で規定する条件の範囲内であった。また、厚さ1μm以上の大きさの酸化物系非金属介在物の70%以上が、TiOx、Al2 O3 、SiO2 およびCaOを主成分とし、かつ、Al2 O3 /TiOxは0.22〜1.4、CaO/(CaO+Al2 O3 )は0.53〜0.58で、SiO2 含有率は0.2〜3.0%であり、これら組成範囲は、本発明の薄鋼板で規定する望ましい条件の範囲内であった。鋳造終了後、回収した浸漬ノズル内壁には酸化物の付着はほとんど認められなかった。また、冷間圧延して得られた薄鋼板の表面品質は良好で、ヘゲ疵およびスリバー疵は発生しなかった。
【0070】
比較例の試験No.4では、脱炭処理した後、溶鋼中にAlを添加してAl脱酸し、溶鋼中の溶存酸素含有率を約200ppmに調整した。その後、Fe−SiおよびTiを添加し、Fe−Nbを添加した後、Fe−Caブリケットを添加してCa処理を行った。脱酸処理方法は、本発明の方法で規定する条件を満足する方法である。鋳片を熱間圧延後、さらに冷間圧延して得られた薄鋼板の化学組成において、Si/Tiは0.43、sol.Al/Tiは0.014、Ca/insol.Alは8.0であり、これらの比の値のうち、sol.Al/Tiの値が、本発明の薄鋼板で規定する条件を外れて小さく、また、Ca/insol.Alの値が、本発明の薄鋼板で規定する条件を外れて大きい。また、厚さ1μm以上の大きさの酸化物系非金属介在物の70%以上が、TiOx、Al2 O3 、SiO2 およびCaOを主成分としているが、Al2 O3 /TiOxは0.01、CaO/(CaO+Al2 O3 )は0.89で、SiO2含有率は0.1%であり、これら組成範囲は、本発明の薄鋼板で規定する望ましい条件の範囲を外れていた。
【0071】
比較例の試験No.5では、脱炭処理した後、溶鋼中にAlを添加してAl脱酸し、溶鋼中のsol.Al含有率を約0.030%に調整した。その後、TiおよびFe−Nbを添加した後、Ca処理は行わなかったので、この脱酸処理方法は、本発明の方法で規定する条件を外れた方法である。鋳片を熱間圧延後、さらに冷間圧延して得られた薄鋼板の化学組成において、sol.Al含有率が0.028%であることが、本発明の薄鋼板で規定する条件を外れており、さらに、Si/Tiは0.17、sol.Al/Tiは0.93、Ca/insol.Alは0.03であり、これら比の値のうち、sol.Al/Tiの値が、本発明の薄鋼板で規定する条件を外れて大きく、Ca/insol.Alの値が、本発明の薄鋼板で規定する条件を外れて小さい。また、厚さ1μm以上の大きさの酸化物系非金属介在物の70%以上が、TiOx、Al2 O3 、SiO2 およびCaOを主成分としているが、Al2 O3 /TiOxは99、CaO/(CaO+Al2 O3 )は0.01未満で、また、SiO2 含有率は0.1%未満であり、これら組成範囲は、本発明の薄鋼板で規定する望ましい条件の範囲を外れていた。
【0072】
比較例の試験No.6では、脱炭処理した後、溶鋼中にAlを添加してAl脱酸し、溶鋼中の溶存酸素含有率を約100ppmに調整した。その後、Fe−SiおよびTiを添加し、Fe−Nbを添加した後、Fe−Ca混合粉の鉄被覆ワイヤを添加して、Ca処理を行った。脱酸処理方法は、本発明の方法で規定する条件を満足する方法である。鋳片を熱間圧延後、さらに冷間圧延して得られた薄鋼板の化学組成において、Si/Tiは0.43、sol.Al/Tiは0.12、Ca/insol.Alは1.86であり、これら比の値のうち、sol.Al/TiおよびCa/insol.Alの値が、本発明の薄鋼板で規定する条件を外れて大きい。また、厚さ1μm以上の大きさの酸化物系非金属介在物の70%以上が、TiO2 、Al2 O3 、SiO2 およびCaOを主成分としているが、Al2 O3 /TiOxは0.72、CaO/(CaO+Al2O3 )は0.58で、SiO2 含有率は0.4%であり、これら組成範囲は、本発明の薄鋼板で規定する望ましい条件の範囲を外れていた。
【0073】
これら試験No.4〜No.6では、鋳造終了後、回収した浸漬ノズル内壁には、酸化物が多く付着しており、浸漬ノズルに閉塞が認められた。また、冷間圧延して得られた薄鋼板の表面には、ヘゲ疵またはスリバー疵が、コイルの長さ1000m当たり0.8〜1.5個と、多く発生した。
【0074】
比較例の試験No.7およびNo.8では、脱炭処理した後、溶鋼中にAlを添加してAl脱酸し、溶鋼中の溶存酸素含有率を約130ppmに調整した。その後、試験No.7では、Fe−SiおよびTiを添加し、Fe−NbおよびFe−Bを添加した後、また、試験No.8では、Fe−SiおよびTiを添加した後に、それぞれCa−Si合金の鉄被覆ワイヤを添加して、Ca処理を行った。これらの脱酸処理方法は、本発明の方法で規定する条件を満足する方法である。これら試験No.7およびNo.8では、鋳片を熱間圧延後、さらに冷間圧延して得られた薄鋼板の化学組成において、Si/Tiは1.29または3.39、sol.Al/Tiは0.15または0.22、Ca/insol.Alは1.70または1.75であり、これら比の値のうち、sol.Al/TiおよびCa/insol.Alの値が、本発明の薄鋼板で規定する条件を外れて大きい。また、厚さ1μm以上の大きさの酸化物系非金属介在物の70%以上が、TiOx、Al2 O3 、SiO2 およびCaOを主成分としているが、Al2O3 /TiOxは1.2または2.4、CaO/(CaO+Al2 O3 )は0.56または0.57で、SiO2 含有率は1.6%または3.2%であり、これら組成範囲は、本発明の薄鋼板で規定する望ましい条件の範囲を外れていた。
【0075】
これら試験No.7およびNo.8では、鋳造終了後、回収した浸漬ノズル内壁には、酸化物が多く付着しており、浸漬ノズルに閉塞の発生しているのが認められた。また、冷間圧延して得られた薄鋼板の表面には、ヘゲ疵またはスリバー疵が、コイルの長さ1000m当たり1.4または1.2個と多く発生した。
【0076】
【発明の効果】
本発明により、鋳造中の浸漬ノズルの閉塞を防止でき、ヘゲ疵、スリバー疵などの表面疵の発生のない、良好な表面品質の薄鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】TiO2 −Al2 O3 −CaO−SiO2 四元系の酸化物の溶融温度に及ぼすSiO2 含有率の影響を示す図である。
【図2】TiOx−Al2 O3 −CaO−SiO2 四元系の酸化物中に含有されるTiOx含有率とSiO2 含有率との関係を示す図である。
【図3】TiOx−Al2 O3 −CaO−SiO2 四元系の酸化物中に含有されるCaO含有率をAl2 O3 含有率で除した比、CaO/Al2 O3 と、SiO2 含有率との関係を示す図である。
【図4】アルミナ・グラファイト質の耐火物に付着する付着物の厚さに及ぼす、溶鋼の組成であるSi/Ti、sol.Al/TiおよびCa/insol.Alの影響を示す図である。
【図5】TiOx、Al2 O3 、CaOおよびSiO2 の適正範囲を示す図である。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.01%以下、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.05〜0.5%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.0005〜0.01%、Ca:0.0003〜0.004%、Ti:0.005〜0.1%、Nb:0〜0.03%、B:0〜0.01%、および残部Feと不純物からなる組成を有し、かつ、次の (a) 〜 (c) のうちのいずれかの関係を満足することを特徴とする薄鋼板。
(a)Si/Ti≦0.5、0.02≦sol.Al/Ti≦0.1、かつ0.5≦Ca/insol.Al≦5.2−36×(sol.Al/Ti)。
(b)0.5<Si/Ti≦2、0.02≦sol.Al/Ti≦0.14、かつ、0.5≦Ca/insol.Al≦5.0−24×(sol.Al/Ti)。
(c)2<Si/Ti≦5、0.02≦sol.Al/Ti≦0.2、かつ、0.5≦Ca/insol.Al≦4.8−16×(sol.Al/Ti)。
ここで、Si、Ti、sol.Al、Caおよびinsol.Alは薄鋼板中の各元素の含有率(質量%)である。 - 厚さ1μm以上の酸化物系非金属介在物の70質量%以上が、Tiの酸化物(TiOx)、Al2O3、CaOおよびSiO2を主成分とし、かつ、次の (d) 〜 (f) のうちのいずれかの関係を満足することを特徴とする、請求項1に記載の薄鋼板。
(d)0.1≦Al2O3/TiOx≦0.5、0.1≦SiO2≦3、かつ、0.27≦CaO/(CaO+Al 2 O 3 )≦0.84−0.59×(Al 2 O 3 /TiO x )。
(e)0.1≦Al2O3/TiOx≦1.0、0.2≦SiO2≦6、かつ、0.27≦CaO/(CaO+Al 2 O 3 )≦0.81−0.27×(Al 2 O 3 /TiO x )。
(f)0.1≦Al2O3/TiOx≦2.0、0.5≦SiO2≦10、かつ、0.27≦CaO/(CaO+Al 2 O 3 )≦0.80−0.13×(Al 2 O 3 /TiO x )。
ここで、CaO、Al2O3およびTiOxは、酸化物系非金属介在物中のそれぞれの含有率(質量%)であり、また、TiOx含有率とは、TiO2、Ti2O3およびTi3O5の合計の含有率を意味する。 - 連続鋳造に供する溶鋼を脱酸処理するに際して、溶鋼を真空下で脱炭処理し、その脱炭処理後の未脱酸溶鋼にAlまたはAl合金、SiまたはSi合金、およびTiまたはTi合金を添加し、その後にCaまたはCa合金を添加することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薄鋼板用溶鋼の脱酸処理方法。
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