JP3852396B2 - 薄鋼板および薄鋼板用溶鋼の脱酸方法 - Google Patents
薄鋼板および薄鋼板用溶鋼の脱酸方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車、家庭電器製品などに用いられる薄鋼板、およびその薄鋼板用溶鋼の溶製方法に関し、さらに詳しくは、表面品質が良好で、プレス成形性に優れた薄鋼板、およびその薄鋼板用溶鋼の脱酸処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
表面性状が良好で、かつ成形性に優れることを要求される自動車の外装用鋼板、家庭電気製品などの薄鋼板には、極低炭素鋼が用いられる。極低炭素鋼を溶製する際には、通常は、転炉を用いて精錬された未脱酸溶鋼を減圧下で脱炭処理し、その後、Alにより脱酸処理を行う。具体的には、転炉を用いて炭素含有率が0.01〜0.07質量%の溶鋼を溶製し、その溶鋼を未脱酸のまま取鍋内に出鋼した後、RH式などの真空処理装置を用いて、炭素含有率が0.001〜0.01質量%程度に達するまで脱炭処理し、その後、金属Alを添加して溶鋼を脱酸する。その際に、溶鋼中の溶存酸素含有率を低下させるために、溶鋼中にAlを0.01質量%以上含有させるのが一般的である。
溶鋼中に金属Alを添加すると、脱酸生成物としてAlの酸化物(Al2O3)が生成する。また、連続鋳造中に溶鋼中のAlと大気中の酸素またはスラグ中のFeO、MnOなどとが反応し、Alの酸化物が生成する。これらAlの酸化物は、いわゆるクラスター状と称する大型の凝集した酸化物になりやすく、溶鋼中を浮上しにくくなる。連続鋳造中のタンディッシュ内や鋳型内の溶鋼から除去されなかったAlの酸化物は、鋳片中に残存して非金属介在物(以下では、単に「介在物」と称する)となる。とくに鋳片表面に残存する100μm以上の大きな介在物は、その鋳片を素材とする圧延製品にまで残存し、薄鋼板においてスリバー疵などの表面疵の発生原因となる。
【0003】
さらに、溶鋼中のAlの酸化物は、連続鋳造中に浸漬ノズルが閉塞する原因となりやすい。浸漬ノズルが閉塞すると、鋳造速度が低下し、生産性が阻害される。さらに、浸漬ノズル内を通過する溶鋼に偏流が生じ、鋳型内の溶鋼の流動が不均一になりやすい。鋳型内の溶鋼の流動が不均一になると、鋳型内の溶鋼表面に添加したモールドパウダが溶鋼中に巻き込まれ、鋳片表面にパウダ性欠陥が発生しやすくなる。鋳片表面のパウダ性欠陥は、その鋳片を素材とする圧延製品にまで残存しやすく、薄鋼板におけるゲ疵、スリバー疵などの表面疵を発生させる原因となる。
【0004】
浸漬ノズルの閉塞を防ぐため、通常、浸漬ノズル内を通過する溶鋼中へのArなどの不活性ガスの吹き込みが行われている。しかし、不活性ガスを多量に吹き込むと、不活性ガスの気泡は鋳型内の凝固殻に捕捉されやすくなり、これが鋳片表面近傍に気泡性欠陥を発生させる。熱間圧延前に鋳片を加熱する際、鋳片表面近傍の気泡性欠陥内にFeなどの酸化物が生成し、それらが圧延製品にまで残存して、薄鋼板においてヘゲ疵などの表面疵が発生する。
上述のようなAl脱酸に起因する問題点に鑑み、いくつかの試みがなされている。これら鋳造中の浸漬ノズルの閉塞、薄鋼板のヘゲ疵、スリバー疵などの表面疵の発生の根本的な原因は、減圧下での脱炭処理後のAlによる脱酸処理に際し、高融点のAl酸化物が生成し、これがクラスター状の酸化物を形成することにある。なお、薄鋼板の表面疵の発生を防止するために、鋳片または薄鋼板用に熱間圧延した鋼帯の表面を手入れすることは、薄鋼板製造の経済性および生産性を低下させる。そこで、従来からクラスター状のAlの酸化物の生成を抑制し、また生成する酸化物を複合酸化物として、その融点を下げることにより、鋳造中の浸漬ノズルの閉塞を防止する方法が開示されている。
【0005】
特許文献1には、真空下で脱炭処理した後のAlによる脱酸後にCa処理を行い、直径が1μm以上の介在物の70%以上が、0.54≦CaO/Al2O3≦0.90、SiO2≦10質量%の組成範囲となるアルミキルド薄鋼板の製造方法が開示されている。この方法によれば、Caを添加する際の錆の発生をなくするとともに、浸漬ノズルの閉塞および薄鋼板の表面疵の問題も併せて解決できるとされている。しかし、実生産において、このような狭い組成範囲に介在物の組成を制御することは困難である。
【0006】
特許文献2には、真空下での脱炭処理後の溶網に、Alおよび/またはSiを添加して半脱酸溶鋼とし、その後にTiを添加してさらに脱酸する極低炭素冷延鋼板の製造方法が開示されている。ここで開示された方法は、溶鋼中に生成し、浸漬ノズルの閉塞の原因となるAlの酸化物を抑制するために、溶鋼中に添加するAl量を低減し、Tiを添加する方法である。溶鋼中に生成する酸化物をTiとAlとの複合酸化物、TiとSiとの複合酸化物、またはTi、AlおよびSi複合酸化物とすることにより、クラスター状のAlの酸化物の生成を防止することによって、鋳造中の浸漬ノズルの閉塞を防止する方法である。
【0007】
しかし、実生産において、この方法のような狭い組成範囲に酸化物の組成を制御することは、以下に示す理由により困難である。浸漬ノズルの閉塞を防止するには、浸漬ノズル内を通過する溶鋼の温度で、溶鋼中の酸化物が液体または液体主体の固液共存状態であることが効果的であり、そのためには、酸化物の融点がおよそ1600℃以下であることが好ましい。しかし、例えば非特許文献1に示されるとおり、TiO2−Al2O3−SiO2三元系の酸化物の状態図によれば、生成する酸化物の融点が1600℃以下となる組成範囲は極めて狭いからである。
【0008】
特許文献3には、Al含有率を低減し、Tiを含有させた極低炭素鋼において、直径が10μm以上の介在物の70%以上がCaO、Al2O3およびTiO2を主成分とし、これらの主成分が特定の比率の組成を有する薄鋼板、およびその脱酸処理方法が開示されている。Al含有率を低減し、Tiを含有させるのは、溶鋼中にクラスター状のAlの酸化物が生成するのを防止するためである。ただし、Ti含有鋼は、かえって浸漬ノズルの閉塞を発生しやすく、その浸漬ノズルの閉塞を防止するために、介在物を特定の組成とする方法である。
【0009】
具体的には、介在物の組成を、CaO、Al2O3およびTiO2の含有率が、質量%で下記の3つの式を満足する組成とする方法である。すなわち、0.03≦CaO/(CaO+Al2O3+TiO2)≦0.30、0≦Al2O3/(CaO+Al2O3+TiO2)≦0.40、およびTiO2/(CaO+Al2O3+TiO2)≦0.90により表される3つの式である。このような組成の介在物とすることにより、クラスター状の酸化物の生成を防止するとともに、鋳造中の浸漬ノズルの閉塞を防止するのである。
【0010】
また、特許文献4には、Al含有量を低減し、Tiを含有させた極低炭素鋼において、その鋼中にCaOおよびREM酸化物のいずれか1種以上の合計が5〜50質量%、Ti酸化物が90質量%以下、Al2O3が70質量%以下の酸化物系介在物を含む鋼材、およびその鋼材の製造方法が開示されている。鋼中に残留する酸化物系介在物の組成を上記の組成とすることにより、クラスター状のAl酸化物の生成を防止し、浸漬ノズルの閉塞の発生を防止する方法である。
【0011】
しかし、酸化物の組成を、上記の特許文献3または特許文献4に開示されたような狭い組成範囲に制御することは、実生産においては困難である。なぜなら、例えば、非特許文献2に示されるように、TiO2−Al2O3−CaO三元系の酸化物の状態図によれば、生成する酸化物の融点が1600℃以下となる組成範囲は極めて狭いからである。
【0012】
さらに、特許文献5には、Al含有量を低減し、Tiを含有させた極低炭素鋼に、チタン酸化物、マンガン酸化物、シリコン酸化物、アルミナが主成分で、アルミナを30%以下含む酸化物系介在物を含有させた薄鋼板、およびその製造方法が開示されている。ここで開示された方法は、介在物を微細でかつ、部分的に固い晶出相がなく、介在物全体が変形・破砕しやすい組成の介在物にコントロールして介在物欠陥を減少させ、さらに鋼中のsol.Al含有量を極めて低減できるので、再結晶温度が低く、高いプレス成形性を有する鋼板を得ることができるとされている。
【0013】
特許文献6には、Al含有量を低減し、Tiを含有させた極低炭素鋼において、最大粒径が150μm以下で鋼中の介在物をチタン酸化物、マンガン酸化物、シリコン酸化物、アルミナが主成分で、チタン酸化物が5〜30%、アルミナが2〜15%で、かつ、チタン酸化物とアルミナの和が40%以下である酸化物系介在物を含有させた表面処理用鋼板、およびその製造方法が開示されている。ここで開示された方法は、介在物を微細でかつ、固い晶出相がなく、介在物全体が変形・破砕しやすい組成の介在物にコントロールして介在物欠陥をなくし、さらに鋼中のsol.Al含有量を低減できるので、再結晶温度が低く、Nb、Tiなどの炭窒化物形成元素を用いても連続焼鈍工程での通板不良などを解決し、鋼板を安定して製造できるとされている。
【0014】
上記の特許文献5および6に開示された方法は、クラスター状の介在物を生成せず、介在物を、鋼中に微細分散しやすい酸化物が主成分のものとすることによって、鋼板のプレス成形や製缶時における欠陥の発生を低減するものである。しかし、連続鋳造時における非金属介在物の浸漬ノズル内壁への付着防止については考慮されておらず、また、介在物をSiO2を含む4元系介在物とすることから、Si添加による製造コストの上昇という問題もあり、この点については、後述する。
なお、本発明に関係する状態図および熱力学データとして、非特許文献3には、Al2O3−TiO2−MnO三元系状態図およびAl2O3−TiO2−MnO系におけるMnOの活量が、また、非特許文献4には、SiO2−TiO2−MnO三元系状態図およびSiO2−TiO2−MnO系におけるMnOの活量が、それぞれ記載されており、これらについても後述する。
【特許文献1】
特開平8−225821号公報(特許請求の範囲、段落[0016])
【特許文献2】
特開平9−192804号公報(特許請求の範囲、段落[0023])
【特許文献3】
特開平11−302772号公報(特許請求の範囲、段落[0078]および[0079])
【特許文献4】
特開平11−343516号公報(特許請求の範囲、段落[0012])
【特許文献5】
特開平10−226843号公報(特許請求の範囲、段落[0006])
【特許文献6】
特開平11−279721号公報(特許請求の範囲、段落[0008])
【非特許文献1】
Phase Diagram for Ceramics (1964), The American Ceramic Society, p261
【非特許文献2】
Slag Atlas 2nd Edition(1995), VDEh , p105
【非特許文献3】
M.Ohta,K.Morita:ISIJ Int.,39(1999),p1231
【非特許文献4】
森田、太田、伊藤、網谷、佐野:日本学術振興会製鋼第19委員会 反応プロセス研究会提出資料、19委−11834,(2000年1月)
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、ヘゲ疵、スリバー疵などの表面疵の発生しない良好な表面品質を有するとともに、ストレッチャーストレインの発生や伸びの低下などを防止した加工性に優れた薄鋼板を提供すること、および鋳造時の浸漬ノズルの閉塞を防止し、表面疵がなく良好な表面品質を有する加工性に優れた薄鋼板製造用の溶鋼の溶製方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述の課題を達成するために、前記した従来の問題点について検討を加え、下記の(a)〜(c)の知見を得た。
(a)溶鋼中の酸化物系介在物の組成を、低融点のTiOx−MnO−Al2O3系またはTiOx−MnO−Al2O3−SiO2系(ただし、SiO2含有率≦5質量%)の組成とすることにより、前記の問題、すなわち、介在物の融点が1600℃以下となる組成範囲が狭く、実生産において組成制御が困難なことを解決できる。
【0017】
なお、以下の説明において、特に断らない限り、含有率は、「質量%」にて表す。
(b)介在物の組成を低融点の組成範囲とするためには、TiOx−MnO−Al2O3系において、MnOの活量を高くする必要があり、従来は、この目的のために高いMnO含有率を確保することは困難と考えられてきたが、Ti、MnおよびAl量を適切に調整することにより、溶鋼中の介在物の組成を上記(a)の低融点組成に制御できる。
(c)ストレッチャーストレインの発生による表面品質の悪化や、伸びの低下および降伏強度の上昇による成形性の悪化は、固溶Cおよび固溶Nの量を制限して常温時効劣化を防止することにより、改善できる。
【0018】
本発明は、上記の知見に基づき完成させたものであり、その要旨は、下記の(1)および(2)に示す薄鋼板ならびに(3)に示す薄鋼板用溶鋼の脱酸処理方法にある。
【0019】
(1)C:0.01%以下、Si:0.08%以下、Mn:0.05〜1.5%、P:0.15%以下、S:0.015%以下、N:0.0030%以下、sol.Al:0.0001〜0.01%、Nb:0.05%以下、酸化物系介在物として含有されるTiを除いたTi(1):0.003〜0.1%を含有し、さらに、Ti(1)、sol.Al、Mn、CおよびNが、下記の(1)〜(6)式により表される関係を満足する組成範囲を有し、残部がFeおよび不純物からなる薄鋼板であって、幅が1μm以上の酸化物系介在物の70%以上がTiOx、MnOおよびAl2O3を主成分とし、かつ、その介在物中のTiOx、MnOおよびAl 2 O 3 の単独での含有率が3%以上であって、かつ、その介在物中のTiOx、MnOおよびAl2O3の組成範囲が、下記の(7)式および(8)式を満足する薄鋼板。
Ti(1)/Mn≦0.03 ・・・(1)
sol.Al/Ti(1)≦0.2 ・・・(2)
{(C−(12/47.9)×Ti(2)−(12/92.9)×Nb}+{N−(14/47.9)×Ti(1)}≦0.0012 ・・・(3)
N−(14/47.9)×Ti(1)≦0.0005 ・・・(4)
ここで、
Ti(2)=Ti(1)−(47.9/32)×S−(47.9/14)×N ・・・(5)
ただし、
Ti(2)<0のときは、Ti(2)=0 ・・・(6)
0.3≦TiOx/(TiOx+MnO)≦0.9 ・・・(7)
Al2O3/(TiOx+Al2O3)≦0.9 ・・・(8)
ここで、
Ti(1)、Mn、sol.Al、C、NおよびNbは、それぞれ薄鋼板中の各成分の含有率(質量%)を表し、TiOx、MnOおよびAl2O3は、それぞれ酸化物系非金属介在物中の各酸化物の含有率を表す。
また、TiOxは、TiO2、Ti2O3およびTi3O5の総称を表し、TiOxの含有量の表示に際しては、それぞれの酸化物の総和を意味する。
【0020】
(2)Bを0.01%以下含有する前記(1)に記載の薄鋼板。
【0021】
(3)前記(1)または(2)に記載の薄鋼板用溶鋼を連続鋳造するに際して、溶鋼を減圧下で脱炭処理し、その脱炭処理後の未脱酸溶鋼に、MnまたはMn合金、およびAlまたはAl合金を添加し、その後にTiまたはTi合金を添加する薄鋼板用溶鋼の脱酸処理方法。
【0022】
本発明において、「薄鋼板」とは、厚さ0.2〜5.0mm程度の鋼板をいう。
「幅が1μm以上の酸化物系介在物の70%以上がTiOx、MnOおよびAl 2 O 3 を主成分とし、かつ、その介在物中のTiOx、MnOおよびAl 2 O 3 の単独での含有率が3%以上である」とは、幅が1μm以上の酸化物系非金属介在物中のTiOx、MnOおよびAl 2 O 3 の合計含有率が70質量%以上であり、かつ、上記の各酸化物の単独での含有率が3質量%以上の範囲にあることをいう。
「幅が1μm以上」とは、薄鋼板の圧延方向の断面で観察される介在物の圧延方向と垂直な方向の最大長さが1μm以上であることを意味する。
【0023】
「減圧下」とは、溶鋼が接する気相雰囲気の圧力が、14kPa以下の場合を意味する。
【0024】
【発明の実施の形態】
従来、極低炭素鋼に代表される軟鋼のような低合金鋼では、MnおよびSiの含有量は低く、かつ、Tiの脱酸力に比較してMnおよびSiの脱酸力は弱いため、TiおよびAlの含有量をMnおよびSiの含有量よりも少なく抑制する必要がある。したがって、そのような微量のTiおよびAlの制御をともなうTi−Mn−Al−Siによる複合脱酸は困難と考えられてきた。
【0025】
しかし、最近、報告された状態図によれば、溶鋼の鋳造ないしは精錬温度の範囲では、溶融状態となる成分濃度領域は広いことが判明した。
【0026】
図1は、非特許文献3で開示されたAl2O3−TiO2−MnO三元系状態図である。
【0027】
図2は、非特許文献4で開示されたSiO2−TiO2−MnO三元系状態図である。
図1および図2によれば、溶鋼の精錬温度および鋳造温度である1773〜1873Kにおいてスラグが溶融状態で存在するための成分組成の範囲は、広範囲であることがわかる。。
【0028】
一方、脱酸平衡についての熱力学的検討によれば、溶鋼中のAl含有率が充分に低く、TiO2の活量を1.0と見積もっても、溶鋼中のTi含有率が0.0050%の場合には、酸素の活量aoの値は約50×10 -4 と計算され、溶鋼中のMn含有率が0.3%の時のMnOの活量は高々0.02と計算される。この結果を三成分系におけるMnOの活量と比較して、低融点組成への調整の可能性を検討する。
【0029】
図3は、Al2O3−TiO2−MnO系におけるMnOの等活量線を示す図である。
図4は、SiO2−TiO2−MnO系におけるMnOの等活量線を示す図である。
【0030】
図3および図4に示されたMnOの等活量線図によれば、Al2O3−TiO2−MnO系介在物またはSiO2−TiO2−MnO系介在物を低融点領域の組成とするためには、MnOの活量を高くする必要がある。しかし、前記の計算結果に見られるとおり、MnOの活量は、高々0.02程度にしか達しないことから、介在物を低融点組成に制御することは、困難と考えられていた。
【0031】
この点について、本発明者らは、実験室的に溶鋼の溶解試験を行い、Ti、MnおよびAl含有量を適切に制御することにより、鋼中の介在物をTiOx−MnO−Al2O3系の低融点組成に制御できることを見出した。
【0032】
前記の特許文献5および6に記載された鋼板およびその製造方法は、クラスター状の介在物を生成させず、また、圧延などの加工時に破砕されやすく、鋼中に微細に分散しやすいTi酸化物、Mn酸化物、Si酸化物およびAl酸化物が主成分のものにすることによって、プレス成形や製缶の過程において発生する欠陥の低減を図るものである。
【0033】
これに対して、本発明は、自動車、家庭電器製品などに用いられる薄鋼板およびその薄鋼板用溶鋼の脱酸処理方法に、関するものであり、鋳造時の浸漬ノズルの閉塞を防止し、ヘゲ疵、スリバー疵などの表面疵の発生しない良好な表面品質の薄鋼板およびその薄鋼板を得るための溶鋼の脱酸処理方法を提供することを目的とした。
【0034】
上記の目的を達成するためには、介在物がクラスターを生成せずに、微細分散しやすいものであることはもちろんであるが、連続鋳造時に付着物が浸漬ノズルの内壁に付着してノズル閉塞などを起こすことがなく、また、連続鋳造時にノズル閉塞防止用として吹き込まれ、ピンホール欠陥の発生原因となっているArガスの吹き込み量を大幅に低減でき、さらには吹き込みを省略できることが要求される。
【0035】
(A)各成分組成相互間の関係
最初に、下記の実験室的試験を行い、本発明の可能性を調査した。
【0036】
溶解能力10kg規模のタンマン炉を用いて、介在物を目標とする低融点組成への制御の可能性を調査した。
【0037】
溶鋼の組成は、C:0.0020〜0.0030%、Si:0.005〜0.080%、Mn:0.10〜0.80%、P:0.015〜0.020%、S:0.004〜0.006%、sol.Al:0.0001〜0.0020%、N:0.0008〜0.0022%およびNb:0.020〜0.030%とし、この溶鋼にTiを少量ずつ添加した。溶鋼の温度は1570〜1600℃、雰囲気はAr雰囲気、ルツボはMgO製のものを用いた。
【0038】
溶鋼から急冷サンプルを採取し、サンプル中の介在物の組成をエネルギー分散型X線マイクロアナライザー(以下の説明では、「SEM−EDX」と称する)により分析した。なお、組成分析した介在物は、直径1〜10μmのものであった。
【0039】
一例として、C:0.0022〜0.0024%、Si:0.035%、Mn:0.31%、P:0.015%、S:0.006%、sol.Al:0.0004〜0.0006%、N:0.0014〜0.0017%、Nb:0.025%を含有する溶鋼に、金属Tiを少量ずつ添加して介在物組成の変化を調査した試験結果を示す。なお、溶鋼組成のうち、Ti(1)とは、酸化物系介在物に含有されるTiを除いた鋼中Ti含有率を表す。
【0040】
上記のTi(1)の値は、例えば、下記の分析方法により、求めることができる。1gの分析用試料を20mlの硝酸および10mlの塩酸の混合液に投入して加熱、溶解する。その溶液を濾紙により濾過し、濾液をICP−AES法(誘導結合プラズマ発光分光分析法)にて分析し、定量する。
【0041】
鋼中の酸化物系介在物の形態は、何れも球状または塊状であり、クラスター状のものはほとんど認められなかつた。介在物の組成は、Ti酸化物、MnO、Al2O3が主体であり、その他、少量のSiO2、MgO、CaO、およびSが分析された。
【0042】
表1に、溶鋼の化学組成および酸化物系介在物の組成を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
なお、Ti酸化物の形態は、TiO2、Ti3O5およびTi2O3が考えられるが、表1中では、便宜上、TiOxとして表示した。
【0045】
同表において、試料番号が1から5へと増加するにつれて、Tiの総添加量は順次増加しているので、同表の結果から、Tiの添加により、介在物中のTi酸化物の含有率は増加し、Ti(1)も増加していくことがわかる。
【0046】
表面品質や成形性を満足する固溶N含有量、つまり前記(4)式の関係を満足する固溶N含有量を有する試料番号3〜5のうちで、試料3は、図1および図2に示される状態図によれば、本試験温度において、介在物が液体であることがわかる。また、試料4は、固液共存状態にあり液相比率が高いこと、および試料5は、固液共存状態にあるものの、固相比率が高いことがわかる。
【0047】
すなわち、本試験例のようにMnやSi含有率の低い低合金鋼において、下記の(4)式の関係
N−(14/47.9)×Ti(1)≦0.0005 ・・・(4)
を満足する高いTi含有率であっても、鋼中の酸化物系介在物が液体状態あるいは液相比率の高い固液共存状態であることを実現できるという新しい知見が得られた。
【0048】
1)Ti(1)、Mnおよびsol.Al:
次に、連続鋳造時の浸漬ノズル内壁への介在物の付着現象を模擬した実験室的試験を実施した。
【0049】
前記の試験と同様に、溶解能力10kgのタンマン炉を用い、MgO製ルツボ内で溶解した10kgの溶鋼中に、浸漬ノズルの内壁耐火物として、一般的なアルミナグラファイト質の耐火物で作成した直径20mm、高さ100mmの円柱状の試験片の一部を浸漬させ、60rpmの速度で約1h回転させた。その後、試験片を回収して、円柱軸と平行な面で切断後、付着した介在物層の厚みを測定した。
【0050】
溶鋼の組成は、C:0.001〜0.01%、Si:0.003〜0.080%、P:0.01〜0.10%、S:0.002〜0.010%、Ti(1):0.003〜0.100%、Nb:0.01〜0.04%およびB:0〜0.01%とし、Mn含有率およびsol.Al含有率を変化させて、耐火物試験片に付着する介在物層の厚みにおよぼす組成の影響を調査した。溶鋼の温度は1545〜1570℃とし、雰囲気はAr雰囲気とした。
【0051】
試験の結果、付着物の付着厚さは、溶鋼中のsol.Al含有量とTi(1)との比sol.Al/Ti(1)と、Mn含有量とTi(1)との比Mn/Ti(1)に依存することが判明した。また、溶鋼中の介在物は、Ti酸化物、MnOおよびAl2O3を主成分とするものであった。
介在物中のMnO含有率とTi酸化物含有率の比、Al2O3含有率とTi酸化物含有率の比が決まれば、介在物の組成が決定される。介在物中のMnO含有率とTi酸化物含有率の比は、鋼中のMn/Ti(1)に、Al2O3含有率とTi酸化物含有率の比は、sol.Al/Ti(1)にそれぞれ依存するはずである。すなわち、溶鋼中のMn/Ti(1)、およびsol.Al/Ti(1)により介在物組成が変化する結果、耐火物試験片への介在物の付着厚さが変化したのである。
【0052】
そこで、介在物の付着厚さが少なくなる溶鋼中の各成分含有率の関係を調査した。
【0053】
図5は、実験室的試験により得られた介在物付着量の少ない溶鋼の組成条件を示す図である。
【0054】
同図の結果は、Al含有量を0.02〜0.04%としたAlキルド鋼での試験におけるAl2O3介在物の付着厚さを基準として、介在物の付着厚さがその(1/2)以下に低減した溶鋼中の成分含有率の条件を示したものである。
【0055】
すなわち、成分含有量が下記の(1)式および(2)式を満足する範囲に存在するときに介在物の付着量は少なくなる。
Ti(1)/Mn≦0.03 ・・・(1)
sol.Al/Ti(1)≦0.2 ・・・(2)
なお、Ti(1)/Mn>0.03では、鋼鋳の介在物がTi酸化物主体またはTi酸化物とAl2O3主体の高融点の組成となり、また、sol.Al/Ti(1)>0.2では、Al2O3含有率の高い高融点の介在物となり、耐火物の付着しやすくなる。
【0056】
上述の結果から、溶鋼成分のうちで、Ti(1)/Mnの値およびsol.Al/Ti(1)の値を、前記の(1)式および(2)式で表される範囲内に制御することにより、鋼中の介在物をTi酸化物、MnOおよびAl2O3が主体で、残部がSiO2、MgO、SおよびCaOからなる低融点組成のものに制御できる結果、クラスターの生成を防止できることはもちろん、ノズル耐火物への付着物の付着を大幅に低減できることが判明した。
また、付着物の組成をSEM−EDXによりさらに詳細に分析することにより、付着物は、酸化物系介在物および地金であり、鋼中の幅1μm以上の酸化物系介在物の70%以上が、TiOx、MnOおよびAl2O3を主成分とすることが確認された。
【0057】
上記のとおり、本願発明では、幅1μm以上のの酸化物系介在物の70%以上が、Ti酸化物(TiOx)、MnOおよびAl2O3を主成分とするが、5%以下のSiO2を含有しても構わない。その理由は以下に説明するとおりである。
【0058】
通常の製造方法である高炉−転炉法で溶製された未脱酸溶鋼を減圧下で脱酸する際に、脱炭処理の溶鋼中には、Si成分はほとんど含有されない。さらに、本発明では、詳細を後述するとおり、鋼材のSi含有量を0.08%以下とするので、Siを含有させる場合においても、少量のSiまたはSi合金しか溶鋼中に添加しない。したがって、脱酸生成物であるSiO2はわずかしか含有されず、たとえ含有されても、5%以下である。
【0059】
また、Ti酸化物(TiOx)、MnOおよびAl2O3を主成分とする酸化物系介在物に、5%以下のSiO2が含有されても、本発明の作用、すなわち、低融点組成の酸化物系介在物に制御してクラスターの生成を防止し、ノズル耐火物への付着物の付着を大幅に低減することに対しては、悪影響がないことを確認している。
【0060】
2)C、Ti(2)、Nb、N、Ti(1):
極低炭素鋼は、例えば自動車などにおいて、パネルなどの良好な表面性が要求される外装用途やドアラインなどの難成形補強材に用いられている。これらの品質を実現するためには、常温時効による劣化の原因となる母材への固溶C量および固溶N量の合計量の上限を下記の(3)式、(5)式および(6)式により表される関係を満足するようにように制限する必要がある。
常温時効による劣化とは、ストレッチャーストレインの発生により外装用材としての表面品質が悪化したり、伸びの低下や降伏強度の上昇により成形性が悪化することをいう。
{(C−(12/47.9)×Ti(2)−(12/92.9)×Nb}+{N−(14/47.9)×Ti(1)}≦0.0012 ・・・(3)
ここで、
Ti(2)=Ti(1)−(47.9/32)×S−(47.9/14)×N・・・(5)
ただし、
Ti(2)<0のときは、Ti(2)=0 ・・・(6)
特に、固溶Nは、固溶Cよりも常温時効劣化への悪影響が著しいことから、さらにその値を下記の(4)式により表される範囲内に制限する。計算上は(4)式左辺の値が負の値となるようにNを完全に固定するのが好ましい。
N−(14/47.9)×Ti(1)≦0.0005 ・・・(4)
常温時効劣化は、焼付硬化量(以下、「BH量」ともいう)の測定値を指標として評価可能であり、BH量を50MPa以下に抑制する必要がある。
【0061】
なお、BH量は、下記の方法により求める。
【0062】
薄鋼板より、引張試験ようの試験片を採取し、引張試験機にて2%の予歪みを与え、そのときの公称応力を測定して、これをXp(MPa)とする。その試験片を170℃にて20分間加熱した後、再度、引張試験を行い、予歪みを与える前の試験片の断面積を基準として算出される公称降伏応力を測定し、これをYp(MPa)とする。これら両者の測定値から、(Yp−Xp)の値を求め、これをBH量とする。
【0063】
3)TiOx、MnOおよびAl2O3:
通常の高炉−転炉法または電気炉法により製造される鋼中のN含有率は0.0007%以上であり、大部分が0.0010%以上であるため、上記の(3)式の関係を満足するためのTi(1)の値は、0.0024%以上となり、好ましくは、0.0034%以上であることが要求される。
【0064】
このため、鋼中のSi含有率が0.08%以下の場合に、鋼成分が前記(1)〜(3)式の条件を満足する条件では、酸化物系介在物の主成分は、TiOx、MnOおよびAl2O3となる。
図6は、実験室的試験により得られた介在物付着量の少ない介在物の組成範囲を示す図である。同図は、前述の試験において、鋼中の介在物の組成を分析し、TiOx−MnO−Al2O3系として表示したものである。
【0065】
同図の結果から、介在物付着量の少ない介在物組成は、下記の(7)式および(8)式を満たす範囲であることが判明した。
0.3≦TiOx/(TiOx+MnO)≦0.9 ・・・(7)
Al2O3/(TiOx+Al2O3)≦0.9 ・・・(8)
(B)各成分組成範囲の限定理由:
次に、鋼中の各成分組成範囲の限定理由について説明する。
【0066】
C:0.08%以下:
Cは、含有率が増加すると鋼の成形性を悪化させる元素であり、できる限り低くする必要がある。したがって、その上限は0.01%とする。しかし、過度の脱炭処理は、精錬コストの増加を招くので、その含有率は0.0005%以上とするのが好ましい。
【0067】
Si:0.08%以下:
Siは、鋼の脱酸および鋼の強化の目的で含有させる。しかし、特に外観の美麗さが厳しく問題とされる自動車の外装用鋼板などにおいては、鋼材表面のめっき性や化成処理性の悪化を防止することが重要であり、Si含有量はその上限値を制限される。また、Si含有率が増加すると、伸びが低下し、r値に代表される成形性が悪化するという問題もある。そこで、Si含有率の上限値を0.08%とした。
【0068】
Mn:0.05〜1.5%:
Mnは、鋼中のSと結合し、Sによる鋼の熱間脆性を抑制する元素であり、その効果を発揮させるためには、0.05%以上を含有させる必要がある。しかし、その含有量が1.5%を超えると、鋼の伸びやr値などの成形性が低下するので、その含有量を1.5%以下とする。含有量の好ましい範囲は、0.05〜0.7%である。
【0069】
P:0.15%以下:
Pは本発明においては、不純物として、含有率を可能な限り低くする場合と、鋼の強化成分として、積極的に添加する場合とがある。いずれの場合も、その含有率が0.15%を超えると、鋼の成形性が悪化するので、含有率の上限を0.15%とした。
【0070】
Pが鋼の強化のために添加される場合には、0.0055%以上含有させるのが好ましい。含有量のさらに好ましい範囲は、0.0055〜0.1%である。
【0071】
S:0.015%以下:
Sは、不純物元素であり、鋼の熱間脆性を悪化させる。その含有率が0.15%を超えると上記の悪影響が著しくなる。そこで、S含有率は0.015%以下とする。含有率の好ましい範囲は0.010%以下である。
【0072】
N:0.0030%以下:
Nは鋼中に固溶することにより、鋼の成形性を悪化させる元素であり、その含有率は、できる限り低くする必要がある。そこで、含有率の上限値を0.0030%とした。
【0073】
sol.Al:0.0001〜0.010%:
Alは、通常は、脱酸のために含有させる。その効果を発揮させるためには、0.0001%以上を含有させる必要がある。一方、0.01%を超えて含有させると溶鋼中のsol.Alが大気中の酸素により酸化され、浸漬ノズルの閉塞が発生しやすくなるので、含有率の上限を0.01%とした。好ましくは、その含有率は0.009%以下である。
【0074】
Nb:0.05%以下:
Nbは、Cを固定するための有効な元素であり、鋼の耐常温時効性を向上させる作用を有する。しかし、その含有率が0.05%を超えると、上記の耐常温時効性を向上させる効果が飽和するので、含有率を0.05%以下とする。
【0075】
B:0.01%以下:
Bは、含有させてもさせなくてもよいが、鋼の加工性を向上させる効果を要求される場合には、含有させる。極低炭素鋼においては、固溶炭素量が少ないことから、結晶粒界の強度が低く、熱間圧延して得られた鋼材をさらに冷間加工する際に、粒界破断によって鋼材に加工割れが発生する場合がある。Bは、0.0001%以上を含有させることにより、この加工割れを抑制する効果を有する。しかし、B含有量が0.01%を超えると、上記の加工割れ抑制効果は飽和するので、その含有量を0.01%以下とする。
Ti(1):0.003〜0.1%:
Tiは、脱酸の他に、鋼中のNおよびCを固定するのに有効な作用を有する元素であり、これにより、鋼の耐時効性を向上させることができる。前記の耐時効性の効果を得るためにはTi(1)を0.003%以上含有させる必要がある。一方、Ti(1)が0.1%を超えて多く含有されると、前記の効果が飽和するので、その含有量は0.1%以下とする。
【0076】
(C)溶鋼の脱酸処理方法:
本発明の脱酸処理方法に付いて説明する。本発明の方法においては、連続鋳造を行う前の薄鋼板用の溶鋼を脱酸するに際して、溶鋼を減圧下で脱炭処理し、その脱炭処理された未脱酸溶鋼に所定量のMnまたはMn合金(以下、単に「Mn」と記す)およびAlまたはAl合金(以下、単に「Al」と記す)を添加し、その後にTiまたはTi合金(以下、単に「Ti」と記す)を添加する。その際に、溶鋼を減圧下で効果的に脱炭処理するために、通常の酸素吹き転炉を用いて溶鋼を吹錬した後、減圧下で脱炭処理するのが好ましい。
【0077】
MnおよびAlを添加して溶鋼をある程度脱酸した後に、Tiを添加するのは、これらの元素を添加する前の未脱酸溶鋼にTiを添加すると、溶鋼中の溶存酸素によって、Tiが酸化されやすいからである。さらに、Alを添加する前に、Mnを未脱酸溶鋼中に添加するのが好ましい。Mnを添加する前にAlを添加すると、未脱酸溶鋼中の溶存酸素によってAlが酸化されやすいからである。
【0078】
次に、Siの添加について説明する。
【0079】
本発明の脱酸処理方法では、上記のとおり、脱炭処理後の未脱酸溶鋼に、予め目標含有率に基いて求めた所定量のMnおよびAlを添加し、その後に所定量のTiを添加する。また、本発明では、鋼材のSi含有率を0.08%以下とする。したがって、脱炭処理後の未脱酸溶鋼にSiまたはSi合金(以下、単に「Si」と記す)を含有させないか、または、Siを含有させる場合においても、溶鋼中に少量のSiしか添加しない。Siを添加する場合には、MnおよびSiを添加した後にAlを添加し、その後に、Tiを添加するのが好ましい。
【0080】
【実施例】
(A)試験方法:
本発明の効果を確認するためため、各種の試験条件にて溶製した溶鋼を用いて連続鋳造試験を行い、その結果を評価した。
【0081】
転炉およびRH式真空脱ガス装置を用いて、C含有率が0.002%程度の極低炭素鋼を1ヒート約270tの容量で溶製した。その際、転炉により吹錬された未脱酸の溶鋼を真空下で脱炭処理し、脱炭処理後の溶鋼の脱酸処理方法を変更して試験した。
【0082】
上記の方法で溶製した溶鋼を2ストランドを有する垂直曲げ型連続鋳造機に供給し、厚さ270mm、幅1500mmの鋳片に鋳造した。鋳造速度は1.5m/分とし、鋳造時に浸漬ノズル内を通過する溶鋼中へのArガス吹き込みは行わなかった。
【0083】
連続鋳造中のタンディッシュ内の溶鋼からボンブ法により、直径25mm、長さ80mmの試料を採取し、後述する冷間圧延した薄鋼板から分析用の試料を採取し、これらの試料の化学組成を通常のプラズマ発光分析法、原子吸光分析法、高周波燃焼−赤外線吸収法などの分析法により分析した。その結果、ボンブ法による溶鋼の化学組成の分析値と、薄鋼板の化学組成の分析値とは、ほとんど同じであることを確認した。また、鋳造終了後に浸漬ノズルを回収して縦断し、その内壁への酸化物系介在物の付着状況を調査した。
【0084】
得られた鋳片を仕上げ温度920℃で熱間圧延し、厚さ3.5mmの薄鋼板として巻き取り温度610℃でコイル状に巻き取った。また、この薄鋼板を酸洗し、その後、冷間圧延して厚さ0.7mmの薄鋼板としてコイル状に巻き取った。
【0085】
さらに、上記の冷間圧延した薄鋼板を820℃の焼鈍温度で連続焼鈍した後、表面品質状況を目視で検査し、鋳片に含まれる酸化物系介在物、パウダー性欠陥、または気泡性欠陥に起因するヘゲ疵またはスリバー疵の発生状況を調査した。
【0086】
これらの薄鋼板の表面疵の発生状況は、コイルの長さ1000m当たりにおける前記の表面疵の発生個数で評価した。さらに、連続焼鈍後の薄鋼板からJIS5号試験片を採取し、前記のBH量測定試験に供した。試験は、各コイルから5個の試験片を採取し、BH量を測定した。
【0087】
また、焼鈍後の薄鋼板から介在物分析用試料を採取し、酸化物系介在物の大きさおよび組成をSEM−EDXにより分析した。各試験では、酸化物系介在物の代表組成として、約20個の介在物の組成を測定し、その平均値を求めた。
【0088】
(B)試験結果:
表2に、各試験についての鋼の化学組成を、表3には、各試験鋼についての(1)〜(6)式により計算される値を示した。
【0089】
また、表4には、酸化物系介在物の化学組成、(7)式および(8)式で計算される組成比、ならびに酸化物の付着状況、鋼帯表面の欠陥発生率およびBH量についての試験結果をそれぞれまとめて示した。
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
なお、表4において、試験結果の評価区分は、下記の基準により行った。
【0094】
浸漬ノズル壁への酸化物系介在物の付着状況:
小:切断し測定した浸漬ノズル吐出孔部の付着物の平均厚みが3mm未満、
大:切断し測定した浸漬ノズル吐出孔部の付着物の平均厚みが5mm以上、
鋼帯表面の欠陥発生率:
良好:(0.5個/長さ1km)未満、
不良:(1.0個/長さ1km)以上、
BH量:
良好:50Mpa未満、
不良:50Mpa以上、
試験番号1および3は、請求項1および3に規定する範囲を満足する本発明例であり、試験番号2は、請求項1および2に規定する範囲を満足する本発明例である。試験番号4〜8は、本発明で規定する範囲を外れた比較例である。試験材の溶製条件は、下記のとおりである。
【0095】
本発明例の試験番号1は、脱炭処理の後、溶鋼中に金属Mnおよび金属Alを添加して脱酸し、溶鋼中の溶存酸素含有率を約0.0110%に調整した。その後、金属TiおよびFe−Nbを添加した。
【0096】
本発明例の試験番号2は、脱炭処理した後、溶鋼中に金属Alを添加してAl脱酸し、溶鋼中の溶存酸素含有率を約0.0150%に調整した。その後、金属Ti、Fe−NbおよびFe−Bを添加した。
【0097】
本発明例の試験番号3は、脱炭処理した後、溶鋼中に金属Mn、Fe−Ni合金および金属Alを添加して脱酸し、溶鋼中の溶存酸素含有率を約0.0070%に調整した。そして、さらにその後、金属Tiを添加した。これらの試験番号1〜3における脱酸処理方法は、本発明の方法で規定する条件を満足する方法である。
【0098】
これらの試験番号1〜3では、鋳片を熱間圧延、冷間圧延後、さらに連続焼鈍して得られた薄鋼板の化学組成を用いて計算されるTi(1)/Mnの値は0.022〜0.027、sol.Al/Ti(1)は0.03〜0.15、(3)式左辺の値は−0.00229〜0.00022であり、(4)式左辺の値は−0.00052〜−0.00007であり、本発明で規定する範囲を満足していた。また、幅1μm以上の大きさの酸化物系介在物の70%以上が、試験番号1および2では、TiOx、MnOおよびAl2O3を主成分とし、試験番号3では、TiOx、MnOおよびAl2O3を主成分として、2.1%のSiO2を含有し、本発明で規定する範囲を満足していた。さらに、(7)式の値は0.68〜0.78であり、(8)式の値は0.21〜0.52であって、いずれも本発明で規定する範囲内にあった。
【0099】
これらの試験では、鋳造終了後、回収した浸漬ノズル内壁には、酸化物の付着は少なく、吐出孔部の付着物平均厚みは2mm以下であった。また、得られた薄鋼板の表面品質は良好で、ヘゲ疵およびスリバー疵の発生は非常に少なかった。さらに、BH量も30MPa以下であり、問題のない結果であった。
【0100】
比較例の試験番号4は、脱炭処理後、溶鋼中に金属Mnおよび金属Alを添加して脱酸し、溶鋼中の溶存酸素含有率を約0.0170%に調整した。その後、金属TiおよびFe−Nbを添加した。この脱酸処理方法では、MnおよびAlを添加した後にTiを添加したが、後述のとおり、製造した薄鋼板のTi(1)含有率とMn含有率の比Ti(1)/Mnの値が本発明で規定する範囲を外れ、大きくなっている。
【0101】
鋳片を熱間圧延、冷間圧延の後、さらに連続焼鈍して得られた薄鋼板の化学組成から計算されるTi(1)/Mnの値は0.043、sol.Al/Ti(1)は0.03、(3)式左辺の値は−0.00224、そして(4)式左辺の値は−0.00141であり、これらの値のうち、Ti(1)/Mnの値が本発明の薄鋼板で規定する条件を外れて大きかった。また、幅1μm以上の大きさの酸化物系介在物の70%以上がTiOx、MnOおよびAl2O3を主成分としているが、(7)式の値は0.98であって、本発明で規定する範囲を外れて大きかった。
【0102】
鋳造終了後、回収した浸漬ノズルの内壁には、厚さ約6mmの酸化物が付着しており、浸漬ノズルに閉塞が認められた。また、冷間圧延して得られた薄鋼板の表面には、ヘゲ疵またはスリバー疵が、コイルの長さ1000m当たり1.8個と、多く発生した。ただし、BH量は10MPa以下であり、問題のない良好な結果であった。
【0103】
比較例の試験番号5では、脱炭処理後、溶鋼中に金属Mn、Fe−Si合金および金属Alを添加して脱酸し、溶鋼中の溶存酸素含有率を約0.0060%に調整した。その後、金属TiおよびFe−Nbを添加した。この脱酸処理方法では、Mn、Fe−SiおよびAlを添加した後にTiを添加したが、後述のとおり、薄鋼板のsol.Al/Ti(1)の値が本発明で規定する範囲を外れている。
【0104】
鋳片を熱間圧延、冷間圧延後、さらに連続焼鈍して得られた薄鋼板のTi(1)/Mnの値は0.028、sol.Al/Ti(1)の値は0.31、(3)式左辺の値は0.00040、そして(4)式左辺の値は−0.00054であり、これらの値のうちで、sol.Al/Ti(1)の値が本発明の薄鋼板で規定する範囲を外れて高かった。また、幅1μm以上の大きさの酸化物系介在物の70%以上がTiOx、MnOおよびAl2O3を主成分としているが、(8)式の値が0.95であって、本発明で規定する範囲を外れて高かった。
鋳造終了後、回収した浸漬ノズルの内壁には、厚さ約5mmの酸化物が付着しており、浸漬ノズルに閉塞が認められた。また、冷間圧延して得られた薄鋼板の表面には、ヘゲ疵またはスリバー疵が、コイルの長さ1000m当たり2.5個と多数発生していた。ただし、BH量は30〜40MPaであって、問題のない結果であった。
【0105】
比較例の試験番号6では、脱炭処理した後、溶鋼中に金属Mnおよび金属Alを添加して脱酸し、溶鋼中の溶存酸素含有率を約0.0110%に調整した。その後、金属TiおよびFe−Nbを添加したが、後述のとおり、製造した薄鋼板において、(4)式左辺の値が本発明で規定する範囲を外れている。
鋳片を熱間圧延、冷間圧延後、さらに連続焼鈍して得られた薄鋼板のTi(1)/Mnの値は0.025、sol.Al/Ti(1)の値は0.04、(3)式左辺の値は−0.00077、そして、(4)式左辺の値は0.00066であり、これらの値のうち、(4)式左辺の値が本発明の薄鋼板で規定される範囲を外れて高い値であった。また、幅1μm1以上の大きさの酸化物系介在物の70%以上がTiOx、MnOおよびAl2O3を主成分とし、かつ、(7)式の値は0.76、(8)式左辺の値は0.24であり、本発明で規定する範囲内の値であった。
鋳造終了後、回収した浸漬ノズルの内壁に酸化物の付着は少なく、吐出孔部の付着物平均厚みは1mm以下であった。また、冷間圧延して得られた薄鋼板の表面品質は良好で、ヘゲ疵およびスリバー疵の発生は非常に少なかった。しかし、BH量は60〜70MPaであり、常温時効による劣化が問題となる量であった。
【0106】
比較例の試験番号7では、脱炭処理した後、溶鋼中に金属Alを添加して脱酸し、溶鋼中の溶存酸素含有率を約0.0090%に調整した。その後、金属TiおよびFe−Nbを添加したが、製造した薄鋼板における(3)式左辺の値が本発明で規定する範囲を外れている。
【0107】
鋳片を熱間圧延、冷間圧延後、さらに連続焼鈍して得られた薄鋼板のTi(1)/Mnの値は0.028、sol.Al/Ti(1)の値は0.10、(3)式左辺の値は0.00146、そして(4)式左辺の値は−0.00026であり、これらの値のうちで、(3)式左辺の値が本発明の薄鋼板で規定する範囲を外れて高い値であった。幅1μm以上の大きさの酸化物系介在物の70%以上がTiOx、MnOおよびAl2O3を主成分とし、かつ、、(7)式の値が0.78、(8)式の値は0.43であり、本発明で規定する範囲内の値であった。
【0108】
鋳造終了後、回収した浸漬ノズルの内壁に酸化物の付着は少なく、吐出孔の付着物平均厚みは1mm以下であった。また、冷間圧延して得られた薄鋼板の表面品質は良好で、ヘゲ疵およびスリバー疵の発生は非常に少なかった。しかし、BH量は70〜80MPaであり、常温時効による劣化が問題となる量であった。
【0109】
比較例の試験番号8では、脱炭処理した後、溶鋼中に金属Mnおよび多量の金属Alを添加して通常のAlキルド鋼のレベルまで脱酸し、溶鋼中の溶存酸素含有率を約0.0003%に調整した。その後、金属TiおよびFe−Nbを添加したが、後述するとおり、Ti(1)/Mnの値およびsol.Al/Ti(1)の値が本発明で規定する範囲を外れた高い値となっている。
【0110】
鋳片を熱間圧延、および冷間圧延した後、さらに連続焼鈍して得られた薄鋼板のTi(1)/Mnの値は0.300、sol.Al/Ti(1)の値は0.85、(3)式左辺の値は−0.01121、そして(4)式左辺の値は−0.00745であり、これらの値のうちで、Ti(1)/Mnの値およびsol.Al/Ti(1)の値が本発明の薄鋼板で規定する範囲を大幅に外れた高い値となっていた。また、幅1μm以上の大きさの酸化物系介在物の70%以上は、ほぼAl2O3含有率が100%であり、本発明で規定する範囲を外れて高い値であった。
【0111】
鋳造終了後、回収した浸漬ノズルの内壁には、厚さ約5mmの酸化物が付着しており、浸漬ノズルに閉塞が認められた。冷間圧延して得られた薄鋼板の表面には、ヘゲ疵またはスリバー疵が、コイルの長さ1000m当たり約2.4個と多数発生した。ただし、BH量については、10MPa以下であり、問題のない良好な結果であった。
【0112】
【発明の効果】
本発明によれば、ヘゲ疵、スリバー疵などの表面疵の発生しない良好な表面品質を有し、ストレッチャーストレインの発生や伸びの低下を防止したプレス成形性の良好な薄鋼板が容易に得られる。また、本発明の方法によれば、鋳造時の浸漬ノズルの閉塞を防止し、表面疵の発生しない良好な表面品質を有する加工性に優れた薄鋼板製造用の溶鋼を容易に溶製することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Al2O3−TiO2−MnO三元系状態図である。
【図2】SiO2−TiO2−MnO三元系状態図である。
【図3】Al2O3−TiO2−MnO系におけるMnOの活量を示す図である。
【図4】SiO2−TiO2−MnO系におけるMnOの活量を示す図である。
【図5】実験室的試験により得られた介在物付着量の少ない溶鋼の組成条件を示す図である。
【図6】実験室的試験により得られた介在物付着量の少ない介在物の組成範囲を示す図である。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.01%以下、Si:0.08%以下、Mn:0.05〜1.5%、P:0.15%以下、S:0.015%以下、N:0.0030%以下、sol.Al:0.0001〜0.01%、Nb:0.05%以下、酸化物系非金属介在物として含有されるTiを除いたTi(1):0.003〜0.1%を含有し、さらに、Ti(1)、sol.Al、Mn、CおよびNが、下記の(1)〜(6)式により表される関係を満足する組成範囲を有し、残部がFeおよび不純物からなる薄鋼板であって、幅が1μm以上の酸化物系非金属介在物の70質量%以上がTiOx、MnOおよびAl2O3を主成分とし、かつ、その介在物中のTiOx、MnOおよびAl 2 O 3 の単独での含有率が3%以上であって、かつ、その介在物中のTiOx、MnOおよびAl2O3の組成範囲が、下記の(7)式および(8)式を満足することを特徴とする薄鋼板。
Ti(1)/Mn≦0.03 ・・・(1)
sol.Al/Ti(1)≦0.2 ・・・(2)
{(C−(12/47.9)×Ti(2)−(12/92.9)×Nb}+{N−(14/47.9)×Ti(1)}≦0.0012 ・・・(3)
N−(14/47.9)×Ti(1)≦0.0005 ・・・(4)
ここで、
Ti(2)=Ti(1)−(47.9/32)×S−(47.9/14)×N ・・・(5)
ただし、
Ti(2)<0のときは、Ti(2)=0 ・・・(6)
0.3≦TiOx/(TiOx+MnO)≦0.9 ・・・(7)
Al2O3/(TiOx+Al2O3)≦0.9 ・・・(8)
ここで、
Ti(1)、Mn、sol.Al、C、NおよびNbは、それぞれ薄鋼板中の各成分の含有率(質量%)を表し、TiOx、MnOおよびAl2O3は、それぞれ酸化物系非金属介在物中の各酸化物の含有率を表す。
また、TiOxは、TiO2、Ti2O3およびTi3O5の総称を表し、TiOxの含有量の表示に際しては、それぞれの酸化物の総和を意味する。 - Bを0.01質量%以下含有することを特徴とする請求項1に記載の薄鋼板。
- 請求項1または2に記載の薄鋼板用溶鋼を連続鋳造するに際して、溶鋼を減圧下で脱炭処理し、該脱炭処理後の未脱酸溶鋼にMnまたはMn合金、およびAlまたはAl合金を添加し、その後にTiまたはTi合金を添加することを特徴とする薄鋼板用溶鋼の脱酸処理方法。
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