JP3787222B2 - 空気入りタイヤ - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は空気入りタイヤに係り、ウエット性能、氷上性能及び偏摩耗性等を向上させることのできる空気入りタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
ウエット性能や氷上性能及び、偏摩耗性等の性能を向上させるため、タイヤの陸部(ブロック等)には幅の狭い(例としては、2mm以下のような)いわゆるサイプと呼ばれる細溝が適用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記サイプは、加硫金型に植え付けられたブレードと呼ばれる金属板により、タイヤの加硫成型時にトレッド部に形成される。
【0004】
上記性能を向上するために細溝の間隔を狭くしたり、密度を多くすることが考えられる。
【0005】
しかし、従来技術では、金型に植え付けられたブレードの植え込み間隔を狭くする、またはブレードの植え込み密度を多くすると、ブロック剛性低下を来たし、タイヤがモールドから抜け出る際にブロックの一部又は全てが脱落してしまう問題(ブロック欠け)があり、ブレードの間隔を狭めたり、密度を多くするにも自ずと制限があった。
【0006】
一方、上記性能の向上から、トレッド部の細溝数の増加が要望される場合もあるが、上記のような問題点から、その要求は達成できなかった。
【0007】
また、従来タイヤは、上記性能を摩耗末期まで維持する為に、サイプ深さを主溝深さ近くまで設定する必要があった。
【0008】
そのため、多数のサイプを配置すると、摩耗末期対比摩耗初期においてはブロック剛性が低いため操縦安定性が悪いことや、新品時のブロック剛性と摩耗末期のブロック剛性が大きく変わり、ドライブフィールが著しく変化することにより運転者への負担も少なくなかった。
【0009】
また、細溝を形成するために従来よりブレードが用いられていたが、ブレードは、加工の問題及び曲がりや損傷の抑制のため、例えばトラックバス用のタイヤで0.6mm、乗用車用のタイヤで0.4mm以上の厚さに設定されている。しかし、操縦安定性確保や偏摩耗性を低下させないためにブロック剛性を高いレベルで維持したい場合や、接地面積をなるべく低下させないために、細溝幅をなるべく小さくすることが望まれていた。
【0010】
本発明は上記事実を考慮し、他性能を低下させること無くウエット性能、氷上性能、偏摩耗性等を向上できる空気入りタイヤを提供することが目的である。
【0011】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、ブレードによって細溝を形成する従来方法の問題を解消するために、ゴム層と、ゴム層よりも強度の低い低強度層(例えば、繊維層等)とを交互に積層したトレッドを用い、走行入力によって低強度層をゴム層から剥離させ(及び低強度層自身を破壊させ)、ゴム層とゴム層との間に細溝を形成する方法を考え、タイヤを試作して実験を重ねた。
【0012】
その結果、走行入力によって低強度層のゴム層からの剥離(及び低強度層自身の破壊)が生じ、ゴム層とゴム層との間に細溝が形成されることが確認された。
【0013】
また、細溝を早期に形成するためには、走行入力で細溝形成層内(ゴム層とゴム層との間の部分)で剥離のきっかけをつくるいわゆる核の存在が有効になることを究明した。
【0014】
請求項1に記載の発明は上記事実を鑑みてなされたものであって、一対のビードコア間にトロイド状をなして跨がるカーカスのクラウン部外周に補強層とトレッドを順次配置した空気入りタイヤであって、前記トレッドの少なくとも接地部分の一部は、ゴム層と、前記ゴム層よりも強度の低い低強度層と、が隣り合うように積層され、かつ、前記低強度層の少なくとも片面には、前記ゴム層との剥離性を向上させる剥離層が設けられていることを特徴としている。
【0015】
次に、請求項1に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
空気入りタイヤが路面上を回転すると、走行入力によってトレッドのゴムが繰り返し変形する。繰り返し変形がトレッドに作用すると、ゴム層との剥離性を向上させる剥離層が核となって低強度層とゴム層とが剥離する。なお、この剥離層は、低強度層の両面に設けられていても良い。
【0016】
低強度層とゴム層との剥離は、トレッドの変形量の大きい部位から生じ始める。トレッドは、一般的に路面と接する踏面側の変形が大きく、タイヤ内側(カーカス側)の変形が小さいので、低強度層とゴム層との剥離は踏面側から生じ、細溝は踏面側から形成される。
【0017】
ここで、剥離の形態を詳細に説明すると、▲1▼剥離層内部で剥離する、▲2▼剥離層と低強度層との境界面で剥離する、▲3▼剥離層とゴム層との境界面で剥離する、の3つ形態があるが、何れか1つ有れば良い。
【0018】
このように低強度層がゴム層から剥離し、走行入力により低強度層自身が破壊、離脱することによってゴム層とゴム層との間に細溝が形成される。
【0019】
本発明では、ゴム層と低強度層との間に剥離層を設けたので、ゴム層と低強度層とを容易に剥離でき、早期に、また、トレッドやブロックの何れの場所にも均一に細溝を形成することができる。
【0020】
また、ゴム層と低強度層との間に剥離層を設けたので、剥離層によって剥離性(接着性の反対の性質)をコントロールすることができ、これによって細溝深さをコントロールすることもできる。
【0021】
低強度層の低強度とは、曲げ、引張、圧縮、剪断等の少なくとも一つの強度が低いことをいう。
【0022】
形成された細溝は接地面内の水を排水する排水路の役目をするので、ウエット性能及び氷上性能が向上する。
【0023】
本発明では、ブレードを用いずに低強度層(及び剥離層)の厚みを設定するのみで細溝を所望の幅に設定することができる。即ち、ブレードよりも薄い低強度層を用いることにより、タイヤ製造上に問題を生じさせずに従来よりも幅狭の細溝を簡単に形成することができ、接地面積の低下を抑えることができる。
【0024】
ここで、従来では、ブロック等の陸部に複数のサイプ(摩耗末期まで消滅しないように溝深さは深い)を形成すると、ブロック内の剛性に偏りが生じてブロック内の接地圧が不均一になり、これによって偏摩耗を発生する問題や、サイプで分割された小ブロックが接地時に倒れ込むことにより各小ブロックに偏摩耗を発生する問題等があった。一方、本発明では、比較的浅めの細溝を形成でき、タイヤ径方向内側では低強度層が剥離(又は破壊)しない状態にできるので、ブロック内の剛性に偏りが生じるのを抑えることができ、また、細溝と細溝との間の小ブロックの倒れ込みを抑えることができるので、上記各偏摩耗の発生を抑えることができる。
【0025】
なお、ゴム層と低強度層とが互いに積層された部分がトレッドの少なくとも接地部分の一部にあれば良く、必ずしもトレッド全体に無くても良い。例えば、トレッドがキャップ・ベース構造である場合には、キャップ部のみをこのような積層構造とすれば良い。
【0026】
トレッドは、ブロックパターン、リブパターン、ラグパターン等の何れのパターンであっても良く、パターン無し(溝無し)であっても良い。
【0027】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の空気入りタイヤにおいて、前記剥離層が発泡ゴムであることを特徴としている。
【0028】
発泡ゴムは、無数の気泡(空洞)を有しているため、発泡ゴムのゴム部分と繊維層との接触面積は小さいため、繊維層は、発泡ゴムとの境界面から剥離し易くなる。
【0029】
なお、請求項2に記載の発明においては、剥離のきっかけとなる核は、発泡ゴムの気泡と繊維層の接着していない個所のことをいう。
【0030】
また、請求項2に記載の発明においては、発泡ゴムの発泡率を変更することにより、剥離性を変更することができる。
【0031】
請求項3に記載の空気入りタイヤは、請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤにおいて、前記低強度層が10mm当たり3層以上積層されていることを特徴としている。
【0032】
次に、請求項3に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
低強度層の積層数を10mm当たり3層以上とすることにより、細溝による排水性能を十分に発揮することができるようになる。
【0033】
低強度層の積層数が10mm当たり3層未満になると形成される細溝の数が少なく、排水性の向上が余り望めない。
【0034】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の空気入りタイヤにおいて、前記ゴム層と前記低強度層とは、タイヤ幅方向に積層されていることを特徴としている。
【0035】
次に、請求項4に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
請求項4に記載の空気入りタイヤでは、ゴム層と低強度層とがタイヤ幅方向に積層されているので、形成される細溝の方向はタイヤ周方向となる。接地面内の水がタイヤ周方向に排出されるので、特に氷上ブレーキ性能が向上する。
【0036】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の空気入りタイヤにおいて、前記ゴム層と前記低強度層とは、タイヤ周方向に積層されていることを特徴としている。
【0037】
請求項5に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
請求項5に記載の空気入りタイヤでは、ゴム層と溶解層とがタイヤ周方向に積層されているので、形成される細溝の方向はタイヤ幅方向となり、特に氷上トラクション性能が向上する。
【0038】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の空気入りタイヤにおいて、前記低強度層が繊維層であることを特徴としている。
【0039】
次に、請求項6に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
請求項6に記載の空気入りタイヤでは、走行入力により繊維層が剥離したり、繊維同士が離れて繊維層に破壊が起こり、細溝が形成される。
【0040】
繊維層は、同じ厚さでも、繊維の径、密度、布のような場合には織り方等によってゴムとの剥離性や自身の強度をコントロールすることができる。剥離性や自身の強度をコントロールすることによって、形成される細溝の溝深さをコントロールすることができ、例えば剥離性を大としたり、自身の強度を低下させることにより溝深さを深くすることができる。
【0041】
なお、繊維層は、走行入力によりゴム層と剥離しても良いので、繊維層に接着を高めるディップ処理等の接着処理は必ずしも必要ではない。但し、ブロック剛性の低下を最小限に抑える市場要望がある場合には、繊維層に接着処理を行い、剥離層と繊維層との間の剥離性をコントロールし、走行時に接地している部分近傍にのみ細溝を形成するようにして、細溝トレッドの深さ方向の進展を抑えることが可能である。具体的には、市場での走行時のタイヤへの入力と繊維層と剥離層との接着の強さを考慮に入れて、適宜接着強さを設定することにより達成が可能となる。
【0042】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の空気入りタイヤにおいて、前記繊維層が不織布からなることを特徴としている。
【0043】
不織布は、例えば、緯糸と経糸とからなる織物と比較して薄く形成することができ、これによって幅狭の細溝を形成することが可能となる。さらに、不織布は、製造方法によって繊維の方向を一方向に揃えたり、ランダムにすることができ、これによってゴムとの剥離性や自身の強度をコントロールすることができる。
【0044】
不織布の製法としては、カーディング法、抄紙法、エアレイ法、メルトブロー、スパンボンド法などがあり、これらの製法によってウェブを作製する。メルトブロー、スパンボンド法以外のウェブでの繊維の結合方法として、熱融着、バインダによる方法、水流または針の力で繊維を交絡させる水流絡合法、ニードルパンチ法を好適に利用することができる。とりわけ、水流または針で繊維を交絡させる水流絡合法、ニードルパンチ法およびメルトブロー、スパンボンド法により得られた不織布が好適である。
【0045】
剥離性や自身の強度をコントロールすることによって、形成される細溝の溝深さをコントロールすることができ、例えば剥離性を大としたり、自身の強度を低下させることにより溝深さを深くすることができる。
【0046】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤ10を図1乃至図3にしたがって説明する。
【0047】
本実施形態の空気入りタイヤは、一対のビードコア間にトロイド状をなして跨がるカーカスのクラウン部外周に補強層としてのベルトとトレッドとを順次配置したラジアル構造の空気入りタイヤである。なお、トレッド以外の内部構造は、一般のラジアルタイヤの構造と変わりないので説明は省略する。
【0048】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤ10のトレッド12には、複数本の周方向溝14及びこの周方向溝14と交差する複数本の横溝16とによって複数のブロック18が形成されている。
【0049】
トレッド12は、直接路面に接地する上層のキャップ部12Aと、このキャップ部12Aのタイヤ内方に隣接して配置される下層のベース部12Bとから構成されており、いわゆるキャップ・ベース構造とされている。
【0050】
図2に示すように、キャップ部12Aは、通常の発泡していないゴムからなるゴム層20と繊維層22とがタイヤ幅方向(矢印W方向)に交互に配置され、繊維層22とゴム層20との間に剥離層としての発泡ゴム層23が配置された構造である。
【0051】
本実施形態では、繊維層22に不織布が用いられている。
不織布は、引張、圧縮、剪断等に対して異方性が小さいことが好ましい。
【0052】
不織布を構成するフィラメント繊維の材質としては、綿、レーヨン、セルロースなどの天然高分子繊維、脂肪族ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリイミド、芳香族ポリアミドなどの合成高分子繊維、及びカーボン繊維、ガラス繊維、スチールワイヤのうちから選択した一種又は複数種の繊維を混合することが出来るが他の材質の繊維であっても良い。
【0053】
不織布に適用する繊維の直径又は最大径は、0.1〜100μmの範囲が好ましく、断面形状は円状のもの、又は円と異なる断面形状のもの、中空部を有するものを用いることが出来る。さらに、異なる材質を内層と外層に配置した芯鞘構造、或いは米字形、花弁形、層状形等の複合繊維も用いることができる。
【0054】
また、不織布に使用する繊維の長さは、8mm以上が好ましい。
不織布の厚さは0.05〜2.0mmの範囲が好ましく、(不織布の厚さは20g/cm2 の加圧下で測定した)、目付(1m2 当たりの重量)は、10〜300gの範囲にあるのが好ましい。
【0055】
また、繊維自身は、内層、外層を異なる素材とする2層構造の繊維も不織布の材料として使用することができる。
【0056】
本実施形態の繊維層22は、ポリエステル(PET)繊維からなる不織布であり、目付40g/m2 、厚さ0.2mm、繊維径25μm、繊維長さ50mmである。
【0057】
発泡ゴム層23の発泡ゴムは、高い剥離性を得るために発泡率を20%以上とすることが好ましい。なお、発泡率Vsは、Vs=(ρ0 /ρ1 −1)×100(%)で表され、ρ1 は発泡ゴムの密度(g/cm3 )、ρ0 は発泡ゴムの固相部の密度(g/cm3 )である。
【0058】
発泡率Vsが20%未満では、剥離性の向上が余り望めない。
(作用)
次に本実施形態の作用を説明する。
【0059】
空気入りタイヤ10が路面上を回転すると、路面から入力によってブロック18が繰り返し変形する。ブロック18が繰り返し変形すると、繊維層23が発泡ゴム層23との境界面で変形の大きい接地面側から剥離し(さらに、剥離した部分から一部の繊維が脱落する)、図3に示すようにゴム層20とゴム層20との間に細溝24が形成される。
【0060】
本実施形態では、ゴム層20と繊維層22との間に、繊維層22を容易に剥離させるための発泡ゴム層23が設けられているので、比較的小さな入力で繊維層22を剥離でき、舗装路等の比較的凹凸の少ない道路の走行でもトレッド12全体に均一に細溝24を形成することができる。
【0061】
なお、剥離層として発泡ゴム層23を用いた場合、発泡ゴムの発泡率を変更することで剥離性を変更することができる。
【0062】
これらの細溝24はタイヤ周方向に沿って延びており、接地面内の水をタイヤ周方向へ排水するので、ウエット性能及び氷上ブレーキ性能が向上する。
【0063】
なお、繊維層22は少なくとも無数の繊維によって層状となっており、走行入力によって細溝24が形成されるものであればその形態は問わない。
【0064】
上記実施形態では、繊維層22に非水溶性のポリエステル繊維からなる不織布を用いたが、水溶性繊維からなる不織布を用いても良い。
【0065】
水溶性繊維としては、ビニルアルコールユニットが50モル%以上、平均重合度が100〜3000のケン化度80%未満のポリビニルアルコール系ポリマーを原料とし、紡出後の繊維に対してホルマール化・アセタール化等の耐水性を付与する処理を行っていない繊維を用いることができる。
【0066】
ビニルアルコールユニット及び酢酸ビニルユニット以外のユニットとしては、エチレン、アリルアルコール、イタコン酸、アクリル酸、無水マレイン酸等のポリビニルアルコールの結晶性を阻害するユニットが好ましい。
【0067】
次に、水溶性繊維の製造方法を簡単に説明する。
先ず、ビニルアルコールユニットが75モル%、酢酸ビニルユニットが25モル%からなる平均重合度が500のケン化度75モル%のポリビニルアルコール系ポリマーとジメチルスルフォキド(DMSO)を混合し、窒素置換後減圧下にて十分に脱泡を行い、45%のジメチルスルフォキド(DMSO)溶液を作製する。
【0068】
次に、この紡糸原液を孔径φ0.15mmの単孔ノズルより、2°Cのアセトン/DMSO(重量比:85/15)の混合溶液に湿式紡糸する。
【0069】
その後、アセトン/DMSO(重量比:95/5)の混合溶液中で4.5倍の延伸を行った後、アセトン中で十分にDMSOを除去し、80°Cで乾燥を行うことでポリビニルアルコール系繊維が得られる。なお、このポリビニルアルコール系繊維は、10°Cの水で溶解するものである。
【0070】
水溶性繊維からなる不織布を繊維層22に用いた場合、路面の水によって繊維が溶けるので、ウエット路面や氷路面を走行したときに細溝24の溝深さがより深くなって排水性が向上し、ウエット性能及び氷上ブレーキ性能が更に向上する。
【0071】
また、路面の水によって水溶性繊維がすぐに溶けて細溝24を形成するので繊維層22が剥離する前でも高いウエット性能及び氷上ブレーキ性能が得られる。
【0072】
なお、上記実施形態では、繊維層22がタイヤ周方向に沿って真っ直ぐに延びていたが、波状やジグザグ状に延びていても良く、タイヤ周方向に対して傾斜して延びていても良く、タイヤ幅方向に延びていても良い。
【0073】
また、キャップ部12Aをタイヤ径方向に複数層とし、上層側と下層側とで繊維層22の積層数を変えても良い。一般的に、摩耗中期〜摩耗末期にかけてウエット性能等が除々に低下するが、下層側の積層数を大きくすることで、摩耗中期〜摩耗末期に細溝24による排水作用を増大させ、ウエット性能等の低下を抑えることも可能である。
【0074】
また、細溝24を形成するには、ゴム層20とゴム層20との間に、ゴム層20のゴムよりも強度の低い材質からなる低強度層が設けられていれば良く、低強度層は繊維層22以外であっても良い。
【0075】
繊維層22以外の低強度層の具体例としては、紙(ボール紙等も含む)、前記水溶性繊維の材質をフィルム状に形成したもの、オブラート、短繊維を積層したもの等を上げることができるが、これら以外であっても良い。
【0076】
また、前記実施形態では、繊維層22とゴム層20とがタイヤ幅方向に積層されていたが、繊維層22とゴム層20とはタイヤ周方向に積層しても良い。繊維層22とゴム層20とをタイヤ周方向に積層すると、タイヤ幅方向に沿って延びる細溝24が形成され、細溝24のエッジ効果により、特に氷上トラクション性能が向上する。
(試験例)
本発明の適用された実施例のタイヤ5種、比較例のタイヤ2種を用い、ウエット性能、氷上ブレーキ性能及び偏摩耗性の比較を行った。
【0077】
氷上ブレーキ性能の試験方法:試験タイヤを実車に装着して氷上テストコースを走行させ、時速20km/hの時点でブレーキを踏んでタイヤをロックさせ、停止するまでの制動距離を測定した。結果は、制動距離の逆数を比較例1のタイヤを100として指数表示した。なお、数値が大きいほど氷上ブレーキ性能が良いことを示す。
【0078】
ウエット性能の試験方法:試験タイヤを実車に装着してウエット路面(テストコース)を走行させ、テストドライバーによるフィーリング評価を行った。結果は、比較例1のタイヤを100として指数表示した。なお、数値が大きいほどウエットフィーリングが良いことを示す。
【0079】
偏摩耗の試験方法:テストタイヤを実車に装着して2万km走行させ、ブロックの段差量を測定し、その逆数を比較例1のタイヤを100として指数表示した。なお、数値が大きいほど偏摩耗性が良いことを示す。
【0080】
次に供試タイヤの説明をする。
各供試タイヤ共に、タイヤ周方向長さ30mm、タイヤ幅方向長さ30mm、高さ20mmのブロックを多数有したブロックパターンのタイヤであり(図1参照)、タイヤサイズはTBR11R22.5である。
【0081】
比較例1及び比較例2のタイヤは、従来通りブレードを用いてブロックにサイプを形成したタイヤである。
【0082】
実施例1乃至実施例3は、繊維層にポリエステル繊維からなる不織布を用い、剥離層に発泡ゴムを用いたタイヤであり、実施例4は繊維層にポリエチレン繊維からなる不織布を用い、剥離層に発泡ゴムを用いたタイヤであり、実施例5は繊維層に水溶性繊維(PVA:ポリビニルアルコール系繊維)からなる不織布を用い、剥離層に発泡ゴムを用いたタイヤである。なお、実施例1乃至実施例5のタイヤは、何れも繊維層の両側に剥離層が設けられている。
【0083】
その他の諸元(寸法等)及び試験結果は以下の表1及び表2に示す通りである。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
ここで、比較例2のタイヤは、モールドにブロックが密着して脱落するため、所望のサイプ間隔のタイヤが製造出来なかった。
【0087】
試験の結果、表1及び2に示すように、実施例1〜5のタイヤはウエット性能、氷上ブレーキ性能及び偏摩耗性能が比較例1のタイヤに比較して向上していることが分かる。
【0088】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1に記載の空気入りタイヤは上記の構成としたので、他性能を低下させること無くウエット性能、氷上性能及び偏摩耗性を向上できる、という優れた効果を有する。
【0089】
さらに、ゴム層と低強度層との間に剥離層が設けられているので、ゴム層と低強度層とを容易に剥離でき、早期に、また、トレッドやブロックの何れの場所にも均一に細溝を形成することができる、という優れた効果を有する。
【0090】
請求項2に記載の空気入りタイヤは上記の構成としたので、発泡ゴムの発泡率を変更することにより剥離性を変更できる、という優れた効果を有する。
【0091】
請求項3に記載の空気入りタイヤは上記の構成としたので、十分な排水性が得られる、という優れた効果を有する。
【0092】
請求項4に記載の空気入りタイヤは上記の構成としたので、特に氷上ブレーキ性能を向上できる、という優れた効果を有する。
【0093】
請求項5に記載の空気入りタイヤは上記の構成としたので、特に氷上トラクション性能を向上できる、という優れた効果を有する。
【0094】
請求項6に記載の空気入りタイヤは上記の構成としたので、低強度層の強度をコントロールすることができる、という優れた効果を有する。また、細溝深さをコントロールすることもできる。
【0095】
請求項7に記載の空気入りタイヤは上記の構成としたので、従来よりも幅狭の細溝を形成することができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る空気入りタイヤのトレッドのタイヤ幅方向に沿った断面図である。
【図2】ブロック(新品時)の拡大断面図である。
【図3】走行後のブロックの拡大断面図である。
【符号の説明】
10 空気入りタイヤ
20 ゴム層
22 繊維層(低強度層、溶解層)
23 発泡ゴム層(剥離層)
【発明の属する技術分野】
本発明は空気入りタイヤに係り、ウエット性能、氷上性能及び偏摩耗性等を向上させることのできる空気入りタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
ウエット性能や氷上性能及び、偏摩耗性等の性能を向上させるため、タイヤの陸部(ブロック等)には幅の狭い(例としては、2mm以下のような)いわゆるサイプと呼ばれる細溝が適用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記サイプは、加硫金型に植え付けられたブレードと呼ばれる金属板により、タイヤの加硫成型時にトレッド部に形成される。
【0004】
上記性能を向上するために細溝の間隔を狭くしたり、密度を多くすることが考えられる。
【0005】
しかし、従来技術では、金型に植え付けられたブレードの植え込み間隔を狭くする、またはブレードの植え込み密度を多くすると、ブロック剛性低下を来たし、タイヤがモールドから抜け出る際にブロックの一部又は全てが脱落してしまう問題(ブロック欠け)があり、ブレードの間隔を狭めたり、密度を多くするにも自ずと制限があった。
【0006】
一方、上記性能の向上から、トレッド部の細溝数の増加が要望される場合もあるが、上記のような問題点から、その要求は達成できなかった。
【0007】
また、従来タイヤは、上記性能を摩耗末期まで維持する為に、サイプ深さを主溝深さ近くまで設定する必要があった。
【0008】
そのため、多数のサイプを配置すると、摩耗末期対比摩耗初期においてはブロック剛性が低いため操縦安定性が悪いことや、新品時のブロック剛性と摩耗末期のブロック剛性が大きく変わり、ドライブフィールが著しく変化することにより運転者への負担も少なくなかった。
【0009】
また、細溝を形成するために従来よりブレードが用いられていたが、ブレードは、加工の問題及び曲がりや損傷の抑制のため、例えばトラックバス用のタイヤで0.6mm、乗用車用のタイヤで0.4mm以上の厚さに設定されている。しかし、操縦安定性確保や偏摩耗性を低下させないためにブロック剛性を高いレベルで維持したい場合や、接地面積をなるべく低下させないために、細溝幅をなるべく小さくすることが望まれていた。
【0010】
本発明は上記事実を考慮し、他性能を低下させること無くウエット性能、氷上性能、偏摩耗性等を向上できる空気入りタイヤを提供することが目的である。
【0011】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、ブレードによって細溝を形成する従来方法の問題を解消するために、ゴム層と、ゴム層よりも強度の低い低強度層(例えば、繊維層等)とを交互に積層したトレッドを用い、走行入力によって低強度層をゴム層から剥離させ(及び低強度層自身を破壊させ)、ゴム層とゴム層との間に細溝を形成する方法を考え、タイヤを試作して実験を重ねた。
【0012】
その結果、走行入力によって低強度層のゴム層からの剥離(及び低強度層自身の破壊)が生じ、ゴム層とゴム層との間に細溝が形成されることが確認された。
【0013】
また、細溝を早期に形成するためには、走行入力で細溝形成層内(ゴム層とゴム層との間の部分)で剥離のきっかけをつくるいわゆる核の存在が有効になることを究明した。
【0014】
請求項1に記載の発明は上記事実を鑑みてなされたものであって、一対のビードコア間にトロイド状をなして跨がるカーカスのクラウン部外周に補強層とトレッドを順次配置した空気入りタイヤであって、前記トレッドの少なくとも接地部分の一部は、ゴム層と、前記ゴム層よりも強度の低い低強度層と、が隣り合うように積層され、かつ、前記低強度層の少なくとも片面には、前記ゴム層との剥離性を向上させる剥離層が設けられていることを特徴としている。
【0015】
次に、請求項1に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
空気入りタイヤが路面上を回転すると、走行入力によってトレッドのゴムが繰り返し変形する。繰り返し変形がトレッドに作用すると、ゴム層との剥離性を向上させる剥離層が核となって低強度層とゴム層とが剥離する。なお、この剥離層は、低強度層の両面に設けられていても良い。
【0016】
低強度層とゴム層との剥離は、トレッドの変形量の大きい部位から生じ始める。トレッドは、一般的に路面と接する踏面側の変形が大きく、タイヤ内側(カーカス側)の変形が小さいので、低強度層とゴム層との剥離は踏面側から生じ、細溝は踏面側から形成される。
【0017】
ここで、剥離の形態を詳細に説明すると、▲1▼剥離層内部で剥離する、▲2▼剥離層と低強度層との境界面で剥離する、▲3▼剥離層とゴム層との境界面で剥離する、の3つ形態があるが、何れか1つ有れば良い。
【0018】
このように低強度層がゴム層から剥離し、走行入力により低強度層自身が破壊、離脱することによってゴム層とゴム層との間に細溝が形成される。
【0019】
本発明では、ゴム層と低強度層との間に剥離層を設けたので、ゴム層と低強度層とを容易に剥離でき、早期に、また、トレッドやブロックの何れの場所にも均一に細溝を形成することができる。
【0020】
また、ゴム層と低強度層との間に剥離層を設けたので、剥離層によって剥離性(接着性の反対の性質)をコントロールすることができ、これによって細溝深さをコントロールすることもできる。
【0021】
低強度層の低強度とは、曲げ、引張、圧縮、剪断等の少なくとも一つの強度が低いことをいう。
【0022】
形成された細溝は接地面内の水を排水する排水路の役目をするので、ウエット性能及び氷上性能が向上する。
【0023】
本発明では、ブレードを用いずに低強度層(及び剥離層)の厚みを設定するのみで細溝を所望の幅に設定することができる。即ち、ブレードよりも薄い低強度層を用いることにより、タイヤ製造上に問題を生じさせずに従来よりも幅狭の細溝を簡単に形成することができ、接地面積の低下を抑えることができる。
【0024】
ここで、従来では、ブロック等の陸部に複数のサイプ(摩耗末期まで消滅しないように溝深さは深い)を形成すると、ブロック内の剛性に偏りが生じてブロック内の接地圧が不均一になり、これによって偏摩耗を発生する問題や、サイプで分割された小ブロックが接地時に倒れ込むことにより各小ブロックに偏摩耗を発生する問題等があった。一方、本発明では、比較的浅めの細溝を形成でき、タイヤ径方向内側では低強度層が剥離(又は破壊)しない状態にできるので、ブロック内の剛性に偏りが生じるのを抑えることができ、また、細溝と細溝との間の小ブロックの倒れ込みを抑えることができるので、上記各偏摩耗の発生を抑えることができる。
【0025】
なお、ゴム層と低強度層とが互いに積層された部分がトレッドの少なくとも接地部分の一部にあれば良く、必ずしもトレッド全体に無くても良い。例えば、トレッドがキャップ・ベース構造である場合には、キャップ部のみをこのような積層構造とすれば良い。
【0026】
トレッドは、ブロックパターン、リブパターン、ラグパターン等の何れのパターンであっても良く、パターン無し(溝無し)であっても良い。
【0027】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の空気入りタイヤにおいて、前記剥離層が発泡ゴムであることを特徴としている。
【0028】
発泡ゴムは、無数の気泡(空洞)を有しているため、発泡ゴムのゴム部分と繊維層との接触面積は小さいため、繊維層は、発泡ゴムとの境界面から剥離し易くなる。
【0029】
なお、請求項2に記載の発明においては、剥離のきっかけとなる核は、発泡ゴムの気泡と繊維層の接着していない個所のことをいう。
【0030】
また、請求項2に記載の発明においては、発泡ゴムの発泡率を変更することにより、剥離性を変更することができる。
【0031】
請求項3に記載の空気入りタイヤは、請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤにおいて、前記低強度層が10mm当たり3層以上積層されていることを特徴としている。
【0032】
次に、請求項3に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
低強度層の積層数を10mm当たり3層以上とすることにより、細溝による排水性能を十分に発揮することができるようになる。
【0033】
低強度層の積層数が10mm当たり3層未満になると形成される細溝の数が少なく、排水性の向上が余り望めない。
【0034】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の空気入りタイヤにおいて、前記ゴム層と前記低強度層とは、タイヤ幅方向に積層されていることを特徴としている。
【0035】
次に、請求項4に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
請求項4に記載の空気入りタイヤでは、ゴム層と低強度層とがタイヤ幅方向に積層されているので、形成される細溝の方向はタイヤ周方向となる。接地面内の水がタイヤ周方向に排出されるので、特に氷上ブレーキ性能が向上する。
【0036】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の空気入りタイヤにおいて、前記ゴム層と前記低強度層とは、タイヤ周方向に積層されていることを特徴としている。
【0037】
請求項5に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
請求項5に記載の空気入りタイヤでは、ゴム層と溶解層とがタイヤ周方向に積層されているので、形成される細溝の方向はタイヤ幅方向となり、特に氷上トラクション性能が向上する。
【0038】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の空気入りタイヤにおいて、前記低強度層が繊維層であることを特徴としている。
【0039】
次に、請求項6に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
請求項6に記載の空気入りタイヤでは、走行入力により繊維層が剥離したり、繊維同士が離れて繊維層に破壊が起こり、細溝が形成される。
【0040】
繊維層は、同じ厚さでも、繊維の径、密度、布のような場合には織り方等によってゴムとの剥離性や自身の強度をコントロールすることができる。剥離性や自身の強度をコントロールすることによって、形成される細溝の溝深さをコントロールすることができ、例えば剥離性を大としたり、自身の強度を低下させることにより溝深さを深くすることができる。
【0041】
なお、繊維層は、走行入力によりゴム層と剥離しても良いので、繊維層に接着を高めるディップ処理等の接着処理は必ずしも必要ではない。但し、ブロック剛性の低下を最小限に抑える市場要望がある場合には、繊維層に接着処理を行い、剥離層と繊維層との間の剥離性をコントロールし、走行時に接地している部分近傍にのみ細溝を形成するようにして、細溝トレッドの深さ方向の進展を抑えることが可能である。具体的には、市場での走行時のタイヤへの入力と繊維層と剥離層との接着の強さを考慮に入れて、適宜接着強さを設定することにより達成が可能となる。
【0042】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の空気入りタイヤにおいて、前記繊維層が不織布からなることを特徴としている。
【0043】
不織布は、例えば、緯糸と経糸とからなる織物と比較して薄く形成することができ、これによって幅狭の細溝を形成することが可能となる。さらに、不織布は、製造方法によって繊維の方向を一方向に揃えたり、ランダムにすることができ、これによってゴムとの剥離性や自身の強度をコントロールすることができる。
【0044】
不織布の製法としては、カーディング法、抄紙法、エアレイ法、メルトブロー、スパンボンド法などがあり、これらの製法によってウェブを作製する。メルトブロー、スパンボンド法以外のウェブでの繊維の結合方法として、熱融着、バインダによる方法、水流または針の力で繊維を交絡させる水流絡合法、ニードルパンチ法を好適に利用することができる。とりわけ、水流または針で繊維を交絡させる水流絡合法、ニードルパンチ法およびメルトブロー、スパンボンド法により得られた不織布が好適である。
【0045】
剥離性や自身の強度をコントロールすることによって、形成される細溝の溝深さをコントロールすることができ、例えば剥離性を大としたり、自身の強度を低下させることにより溝深さを深くすることができる。
【0046】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤ10を図1乃至図3にしたがって説明する。
【0047】
本実施形態の空気入りタイヤは、一対のビードコア間にトロイド状をなして跨がるカーカスのクラウン部外周に補強層としてのベルトとトレッドとを順次配置したラジアル構造の空気入りタイヤである。なお、トレッド以外の内部構造は、一般のラジアルタイヤの構造と変わりないので説明は省略する。
【0048】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤ10のトレッド12には、複数本の周方向溝14及びこの周方向溝14と交差する複数本の横溝16とによって複数のブロック18が形成されている。
【0049】
トレッド12は、直接路面に接地する上層のキャップ部12Aと、このキャップ部12Aのタイヤ内方に隣接して配置される下層のベース部12Bとから構成されており、いわゆるキャップ・ベース構造とされている。
【0050】
図2に示すように、キャップ部12Aは、通常の発泡していないゴムからなるゴム層20と繊維層22とがタイヤ幅方向(矢印W方向)に交互に配置され、繊維層22とゴム層20との間に剥離層としての発泡ゴム層23が配置された構造である。
【0051】
本実施形態では、繊維層22に不織布が用いられている。
不織布は、引張、圧縮、剪断等に対して異方性が小さいことが好ましい。
【0052】
不織布を構成するフィラメント繊維の材質としては、綿、レーヨン、セルロースなどの天然高分子繊維、脂肪族ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリイミド、芳香族ポリアミドなどの合成高分子繊維、及びカーボン繊維、ガラス繊維、スチールワイヤのうちから選択した一種又は複数種の繊維を混合することが出来るが他の材質の繊維であっても良い。
【0053】
不織布に適用する繊維の直径又は最大径は、0.1〜100μmの範囲が好ましく、断面形状は円状のもの、又は円と異なる断面形状のもの、中空部を有するものを用いることが出来る。さらに、異なる材質を内層と外層に配置した芯鞘構造、或いは米字形、花弁形、層状形等の複合繊維も用いることができる。
【0054】
また、不織布に使用する繊維の長さは、8mm以上が好ましい。
不織布の厚さは0.05〜2.0mmの範囲が好ましく、(不織布の厚さは20g/cm2 の加圧下で測定した)、目付(1m2 当たりの重量)は、10〜300gの範囲にあるのが好ましい。
【0055】
また、繊維自身は、内層、外層を異なる素材とする2層構造の繊維も不織布の材料として使用することができる。
【0056】
本実施形態の繊維層22は、ポリエステル(PET)繊維からなる不織布であり、目付40g/m2 、厚さ0.2mm、繊維径25μm、繊維長さ50mmである。
【0057】
発泡ゴム層23の発泡ゴムは、高い剥離性を得るために発泡率を20%以上とすることが好ましい。なお、発泡率Vsは、Vs=(ρ0 /ρ1 −1)×100(%)で表され、ρ1 は発泡ゴムの密度(g/cm3 )、ρ0 は発泡ゴムの固相部の密度(g/cm3 )である。
【0058】
発泡率Vsが20%未満では、剥離性の向上が余り望めない。
(作用)
次に本実施形態の作用を説明する。
【0059】
空気入りタイヤ10が路面上を回転すると、路面から入力によってブロック18が繰り返し変形する。ブロック18が繰り返し変形すると、繊維層23が発泡ゴム層23との境界面で変形の大きい接地面側から剥離し(さらに、剥離した部分から一部の繊維が脱落する)、図3に示すようにゴム層20とゴム層20との間に細溝24が形成される。
【0060】
本実施形態では、ゴム層20と繊維層22との間に、繊維層22を容易に剥離させるための発泡ゴム層23が設けられているので、比較的小さな入力で繊維層22を剥離でき、舗装路等の比較的凹凸の少ない道路の走行でもトレッド12全体に均一に細溝24を形成することができる。
【0061】
なお、剥離層として発泡ゴム層23を用いた場合、発泡ゴムの発泡率を変更することで剥離性を変更することができる。
【0062】
これらの細溝24はタイヤ周方向に沿って延びており、接地面内の水をタイヤ周方向へ排水するので、ウエット性能及び氷上ブレーキ性能が向上する。
【0063】
なお、繊維層22は少なくとも無数の繊維によって層状となっており、走行入力によって細溝24が形成されるものであればその形態は問わない。
【0064】
上記実施形態では、繊維層22に非水溶性のポリエステル繊維からなる不織布を用いたが、水溶性繊維からなる不織布を用いても良い。
【0065】
水溶性繊維としては、ビニルアルコールユニットが50モル%以上、平均重合度が100〜3000のケン化度80%未満のポリビニルアルコール系ポリマーを原料とし、紡出後の繊維に対してホルマール化・アセタール化等の耐水性を付与する処理を行っていない繊維を用いることができる。
【0066】
ビニルアルコールユニット及び酢酸ビニルユニット以外のユニットとしては、エチレン、アリルアルコール、イタコン酸、アクリル酸、無水マレイン酸等のポリビニルアルコールの結晶性を阻害するユニットが好ましい。
【0067】
次に、水溶性繊維の製造方法を簡単に説明する。
先ず、ビニルアルコールユニットが75モル%、酢酸ビニルユニットが25モル%からなる平均重合度が500のケン化度75モル%のポリビニルアルコール系ポリマーとジメチルスルフォキド(DMSO)を混合し、窒素置換後減圧下にて十分に脱泡を行い、45%のジメチルスルフォキド(DMSO)溶液を作製する。
【0068】
次に、この紡糸原液を孔径φ0.15mmの単孔ノズルより、2°Cのアセトン/DMSO(重量比:85/15)の混合溶液に湿式紡糸する。
【0069】
その後、アセトン/DMSO(重量比:95/5)の混合溶液中で4.5倍の延伸を行った後、アセトン中で十分にDMSOを除去し、80°Cで乾燥を行うことでポリビニルアルコール系繊維が得られる。なお、このポリビニルアルコール系繊維は、10°Cの水で溶解するものである。
【0070】
水溶性繊維からなる不織布を繊維層22に用いた場合、路面の水によって繊維が溶けるので、ウエット路面や氷路面を走行したときに細溝24の溝深さがより深くなって排水性が向上し、ウエット性能及び氷上ブレーキ性能が更に向上する。
【0071】
また、路面の水によって水溶性繊維がすぐに溶けて細溝24を形成するので繊維層22が剥離する前でも高いウエット性能及び氷上ブレーキ性能が得られる。
【0072】
なお、上記実施形態では、繊維層22がタイヤ周方向に沿って真っ直ぐに延びていたが、波状やジグザグ状に延びていても良く、タイヤ周方向に対して傾斜して延びていても良く、タイヤ幅方向に延びていても良い。
【0073】
また、キャップ部12Aをタイヤ径方向に複数層とし、上層側と下層側とで繊維層22の積層数を変えても良い。一般的に、摩耗中期〜摩耗末期にかけてウエット性能等が除々に低下するが、下層側の積層数を大きくすることで、摩耗中期〜摩耗末期に細溝24による排水作用を増大させ、ウエット性能等の低下を抑えることも可能である。
【0074】
また、細溝24を形成するには、ゴム層20とゴム層20との間に、ゴム層20のゴムよりも強度の低い材質からなる低強度層が設けられていれば良く、低強度層は繊維層22以外であっても良い。
【0075】
繊維層22以外の低強度層の具体例としては、紙(ボール紙等も含む)、前記水溶性繊維の材質をフィルム状に形成したもの、オブラート、短繊維を積層したもの等を上げることができるが、これら以外であっても良い。
【0076】
また、前記実施形態では、繊維層22とゴム層20とがタイヤ幅方向に積層されていたが、繊維層22とゴム層20とはタイヤ周方向に積層しても良い。繊維層22とゴム層20とをタイヤ周方向に積層すると、タイヤ幅方向に沿って延びる細溝24が形成され、細溝24のエッジ効果により、特に氷上トラクション性能が向上する。
(試験例)
本発明の適用された実施例のタイヤ5種、比較例のタイヤ2種を用い、ウエット性能、氷上ブレーキ性能及び偏摩耗性の比較を行った。
【0077】
氷上ブレーキ性能の試験方法:試験タイヤを実車に装着して氷上テストコースを走行させ、時速20km/hの時点でブレーキを踏んでタイヤをロックさせ、停止するまでの制動距離を測定した。結果は、制動距離の逆数を比較例1のタイヤを100として指数表示した。なお、数値が大きいほど氷上ブレーキ性能が良いことを示す。
【0078】
ウエット性能の試験方法:試験タイヤを実車に装着してウエット路面(テストコース)を走行させ、テストドライバーによるフィーリング評価を行った。結果は、比較例1のタイヤを100として指数表示した。なお、数値が大きいほどウエットフィーリングが良いことを示す。
【0079】
偏摩耗の試験方法:テストタイヤを実車に装着して2万km走行させ、ブロックの段差量を測定し、その逆数を比較例1のタイヤを100として指数表示した。なお、数値が大きいほど偏摩耗性が良いことを示す。
【0080】
次に供試タイヤの説明をする。
各供試タイヤ共に、タイヤ周方向長さ30mm、タイヤ幅方向長さ30mm、高さ20mmのブロックを多数有したブロックパターンのタイヤであり(図1参照)、タイヤサイズはTBR11R22.5である。
【0081】
比較例1及び比較例2のタイヤは、従来通りブレードを用いてブロックにサイプを形成したタイヤである。
【0082】
実施例1乃至実施例3は、繊維層にポリエステル繊維からなる不織布を用い、剥離層に発泡ゴムを用いたタイヤであり、実施例4は繊維層にポリエチレン繊維からなる不織布を用い、剥離層に発泡ゴムを用いたタイヤであり、実施例5は繊維層に水溶性繊維(PVA:ポリビニルアルコール系繊維)からなる不織布を用い、剥離層に発泡ゴムを用いたタイヤである。なお、実施例1乃至実施例5のタイヤは、何れも繊維層の両側に剥離層が設けられている。
【0083】
その他の諸元(寸法等)及び試験結果は以下の表1及び表2に示す通りである。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
ここで、比較例2のタイヤは、モールドにブロックが密着して脱落するため、所望のサイプ間隔のタイヤが製造出来なかった。
【0087】
試験の結果、表1及び2に示すように、実施例1〜5のタイヤはウエット性能、氷上ブレーキ性能及び偏摩耗性能が比較例1のタイヤに比較して向上していることが分かる。
【0088】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1に記載の空気入りタイヤは上記の構成としたので、他性能を低下させること無くウエット性能、氷上性能及び偏摩耗性を向上できる、という優れた効果を有する。
【0089】
さらに、ゴム層と低強度層との間に剥離層が設けられているので、ゴム層と低強度層とを容易に剥離でき、早期に、また、トレッドやブロックの何れの場所にも均一に細溝を形成することができる、という優れた効果を有する。
【0090】
請求項2に記載の空気入りタイヤは上記の構成としたので、発泡ゴムの発泡率を変更することにより剥離性を変更できる、という優れた効果を有する。
【0091】
請求項3に記載の空気入りタイヤは上記の構成としたので、十分な排水性が得られる、という優れた効果を有する。
【0092】
請求項4に記載の空気入りタイヤは上記の構成としたので、特に氷上ブレーキ性能を向上できる、という優れた効果を有する。
【0093】
請求項5に記載の空気入りタイヤは上記の構成としたので、特に氷上トラクション性能を向上できる、という優れた効果を有する。
【0094】
請求項6に記載の空気入りタイヤは上記の構成としたので、低強度層の強度をコントロールすることができる、という優れた効果を有する。また、細溝深さをコントロールすることもできる。
【0095】
請求項7に記載の空気入りタイヤは上記の構成としたので、従来よりも幅狭の細溝を形成することができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る空気入りタイヤのトレッドのタイヤ幅方向に沿った断面図である。
【図2】ブロック(新品時)の拡大断面図である。
【図3】走行後のブロックの拡大断面図である。
【符号の説明】
10 空気入りタイヤ
20 ゴム層
22 繊維層(低強度層、溶解層)
23 発泡ゴム層(剥離層)
Claims (7)
- 一対のビードコア間にトロイド状をなして跨がるカーカスのクラウン部外周に補強層とトレッドを順次配置した空気入りタイヤであって、
前記トレッドの少なくとも接地部分の一部は、ゴム層と、前記ゴム層よりも強度の低い低強度層と、が隣り合うように積層され、かつ、前記低強度層の少なくとも片面には、前記ゴム層との剥離性を向上させる剥離層が設けられていることを特徴とする空気入りタイヤ。 - 前記剥離層が発泡ゴムであることを特徴とした請求項1に記載の空気入りタイヤ。
- 前記低強度層が10mm当たり3層以上積層されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤ。
- 前記ゴム層と前記低強度層とは、タイヤ幅方向に積層されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の空気入りタイヤ。
- 前記ゴム層と前記低強度層とは、タイヤ周方向に積層されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の空気入りタイヤ。
- 前記低強度層が繊維層であることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の空気入りタイヤ。
- 前記繊維層が不織布からなることを特徴とする請求項6に記載の空気入りタイヤ。
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