JP3621530B2 - 空気入りタイヤ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は空気入りタイヤに係り、特に、氷上性能を向上させた空気入りタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、氷上及び雪上の性能を高めたタイヤとしてスタッドレスタイヤが使用されている。
【0003】
この種のスタッドレスタイヤのトレッドには、雪上性能を高めるために複数のブロックからなるブロップパターンが形成されている。
【0004】
他方、氷上性能を高めるために、この種のスタッドレスタイヤのトレッドには、氷路面との摩擦力を得るために通常のタイヤと比較して柔軟なゴム材を使用している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
氷上性能を高めるために、トレッドのゴム材をより柔らかくすることも考えられるが、ブロック剛性の低下、耐摩耗性の低下等の問題が生じるので限度がある。また、サイプを多用することも考えられるが、偏摩耗やブロック剛性の低下につながるため、サイプの多用にも限界がある。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、他性能を低下させること無く氷上性能を高めることのできる空気入りタイヤを提供することが目的である。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、一対のビードコア間にトロイド状をなして跨がるカーカスのクラウン部外周に補強層とトレッドを順次配置した空気入りタイヤであって、前記トレッドの少なくとも接地部分は、踏面と直交する一断面において耐摩耗性の異なるゴム層がタイヤ幅方向、又はタイヤ周方向に沿って互いに隣り合い、前記ゴム層は10mm当たり2層以上積層され、かつ前記2層以上積層されたゴム層のうち最も耐摩耗性の高いゴム層及び最も耐摩耗性の低いゴム層が無数の粒子を有し、最も耐摩耗性の高いゴム層と最も耐摩耗性の低いゴム層の粒子の含有率の差が10重量%以上であることを特徴としている。
【0008】
次に、請求項1に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
耐摩耗性の高いゴム層と耐摩耗性の低いゴム層とを比較すると、耐摩耗性の低いゴム層の方が摩耗の進展速度が早い。したがって、走行によりトレッド表面(踏面)が摩耗すると、耐摩耗性の高いゴム層部分に比較して耐摩耗性の低いゴム層部分が低くなり、トレッド表面に比較的深さが浅く細い溝が多数出現する。このようにして出現した溝により、排水性及びエッジ効果が得られ、氷上ブレーキ性能、氷上トラクション性能及びウエット性能が向上する。
【0009】
また、摩耗初期のみならず、摩耗が進行してもこの状態を維持することが可能であるため、氷上ブレーキ性能、氷上トラクション性能及びウエット性能の向上を継続的に図ることができる。
【0010】
ここで、最も耐摩耗性の高いゴム層、即ち、摩耗したときに摩耗した踏面の凹凸の凸部となる層が粒子を有している場合、走行によって踏面が摩耗すると、最も耐摩耗性の高いゴム層の踏面に無数の粒子が表れ、踏面に表れたこれら無数の粒子が氷面を引っかき、氷上ブレーキ性能及び氷上トラクション性能を向上させることができる。
【0011】
また、踏面に表れたこれら無数の粒子が路面との摩擦等によってゴムから脱落すると、粒子の脱落したところには微小な凹部が形成される。踏面に形成された無数の凹部は踏面と路面との間の水分を吸収するので、これにより氷上ブレーキ性能、氷上トラクション性能及びウエット性能を向上させることができる。
【0012】
即ち、最も耐摩耗性の高いゴム層が粒子を有している場合には、踏面に突出した粒子の引っかき効果と、粒子の脱落したあとの凹部による吸水効果が得られる。
【0013】
粒子の具体例としては、表面にアルミニウム結合水酸基及びケイ素結合水酸基を有するもの(一例として昭和電工製のハイジライト(商品名))、SPB樹脂(結晶性シンジオタクティック−1,2−ポリブタジエン樹脂)等が好ましいが、これら以外のものであっても良い。また、粒子の径は、5μm〜250μmが好ましい。なお、粒子の形状は特に問わない。
【0014】
一方、耐摩耗性の低いゴム層が無数の粒子を有する場合、その耐摩耗性の低いゴム層を一層摩耗し易くでき、溝をより一層深くすることができる。
【0015】
これにより、水分の吸収能力を高めることができ、氷上ブレーキ性能、氷上トラクション性能及びウエット性能を向上させることができる。
【0016】
また、最も耐摩耗性の高いゴム層と最も耐摩耗性の低いゴム層の粒子の含有率の差を10%以上としたので、最も耐摩耗性の低いゴム層を摩耗させて踏面に確実に溝を形成することができるようになる。
ここで、含有率の差が10%未満の場合は、耐摩耗性の高いゴム層と耐摩耗性の低いゴム層の耐摩耗性が近くなり、摩耗差によって得られる溝の形成が困難になる。
さらに、耐摩耗性の異なるゴム層がタイヤ幅方向に沿って互いに隣り合う場合には、摩耗により出現した溝の方向がタイヤ周方向となるので、路面の水膜を蹴りだし側へ排水する性能、即ち排水性を向上でき、特に氷上ブレーキ性能を向上させることができる。また、横方向の摩擦係数を増大させることもでき、コーナリング性能を向上させることもできる。
一方、耐摩耗性の異なるゴム層がタイヤ周方向に沿って互いに隣り合う場合には、摩耗により出現した溝の方向がタイヤ幅方向となるので、幅方向に延びるエッジ成分の水切り作用により、特に氷上トラクション性能が向上する。
なお、トレッドの接地する部分がこのような耐摩耗性の異なるゴム層の積層構造となっていれば良く、必ずしもトレッド全体を耐摩耗性の異なるゴム層の積層構造としなくても良い。例えば、トレッドがキャップ・ベース構造である場合には、キャップ部のみをこのような積層構造とすれば良い。
【0017】
また、耐摩耗性の高いゴム層と耐摩耗性の低いゴム層とを交互に積層した場合、耐摩耗性の低いゴム層の厚さは、耐摩耗性の高いゴム層の厚さよりも薄い事が好ましい。耐摩耗性の高いゴム層が厚くなり過ぎると、水が溝まで届きにくくなり、排水性が向上せず氷上性能が向上しない。逆に、耐摩耗性の低いゴム層が増加しすぎてしまう場合には、耐摩耗性の高いゴム層が少なくなるので実接地面積の減少により氷上性能と耐摩耗性が低下する。したがって、トレッドの接地面にあらわれる耐摩耗性の高いゴム層の厚さと耐摩耗性の低いゴム層の厚さとの比率は、耐摩耗性の高いゴム層を100とした場合、耐摩耗性の低いゴム層を5〜40にすることが好ましい。
【0018】
また、耐摩耗性の低いゴム層の厚さを0.05mm未満にするとトレッド表面が摩耗してもトレッド表面に溝が生じ難くなり、耐摩耗性の高いゴム層の厚さを5.0mm以上にすると、耐摩耗性の高いゴム層が厚いため、溝までの距離が長くなり、水が溝まで届きにくく、氷上性能が向上しない。
【0019】
隣接するゴム層同士で耐摩耗性に差をつける方法としては、各々のゴム層の硬度を変える方法を上げることができるが、各々のゴム層のゴム種を変えても良い。
【0020】
なお、ゴムの耐摩耗性の高い低いは、例えば、JIS K 6264に従って、ランボーン試験を標準試験条件(速度80m/min、スリップ率30%、負荷加重40N、落砂量20g/min)で行って測定することができる。
【0021】
また、隣接するゴム層同士で硬度差をつける場合には、隣接するゴム層同士で3度(JIS K6301に準拠し、室温にて測定した値。)以上の硬度差を付けることが好ましく、5度以上の硬度差を付ける事がさらに好ましい。
【0022】
また、トレッドは、ブロックパターン、リブパターン、ラグパターン等の何れのパターンであっても良く、パターン無し(溝無し)であっても良い。
【0023】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の空気入りタイヤにおいて、前記ゴム層のうち最も耐摩耗性の高いゴム層が有する無数の粒子の含有率が1〜15重量%であることを特徴としている。
【0024】
次に、請求項2に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
請求項2に記載の空気入りタイヤは、凸部分となる最も耐摩耗性の高いゴム層が有する無数の粒子の含有率を1〜15重量%としたため、最も耐摩耗性の高いゴム層の踏面に表れる粒子による引っかき作用が十分に確保されると共に、粒子がゴムから脱落してできる微小な凹部による水分の吸収作用が十分に確保される。
【0025】
なお、粒子の含有率が1重量%未満になると、踏面に表れる粒子の数が少なくなり、引っかき作用が得られなくなる。また、粒子がゴムから脱落してできる微小な凹部の数が少なくなり、摩耗差によって得られる溝で吸収排出できなかった水の吸収作用が無くなる。このため、氷上ブレーキ性能、氷上トラクション性能及びウエット性能が向上しない。
【0026】
一方、粒子の含有率が15重量%を越えると、耐摩耗性の高いゴム層の耐摩耗性が低下し、耐摩耗性の低いゴム層との耐摩耗性の差が小さくなり、摩耗差によって得られる溝の形成が困難になる。
【0027】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の空気入りタイヤにおいて、前記ゴム層のうち最も耐摩耗性の低いゴム層が有する無数の粒子の含有率が16〜30重量%であることを特徴としている。
【0028】
次に、請求項3に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
ゴムに粒子を含有させることによってゴムの耐摩耗性を低下させることができる。この請求項3に記載の空気入りタイヤは、最も耐摩耗性の低いゴム層が有する無数の粒子の含有率が16〜30重量%とされている。このため、最も耐摩耗性の低いゴム層の耐摩耗性を一層低下させることができ、最も耐摩耗性の低いゴム層の摩耗を促進させて踏面に確実に溝を形成することができるようになる。
【0029】
なお、粒子の含有率が16%未満では、粒子を含有させることによってゴムの耐摩耗性をより一層低下させる、という効果が少なくなり、最も耐摩耗性の低いゴム層の耐摩耗性を十分に低下させることができず、摩耗差によって得られる溝の形成が困難になる。
【0030】
一方、粒子の含有率が30重量%を越えると、踏面全体の耐摩耗性が低下する。
【0043】
【発明の実施の形態】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る空気入りタイヤ10を図1乃至図5にしたがって説明する。
【0044】
本実施形態の空気入りタイヤ(サイズ:185/70R13、リム:51/2J−13、内圧1.9kg/cm2)10は、一対のビードコア間にトロイド状をなして跨がるカーカスのクラウン部外周に補強層としてのベルトとトレッドとを順次配置したラジアル構造の空気入りタイヤである。なお、トレッド以外の内部構造は、一般のラジアルタイヤの構造と変わりないので説明は省略する。
【0045】
図1に示すように、トレッド12には、複数本の周方向溝14及びこの周方向溝14と交差する複数本の横溝16とによって複数のブロック18が形成されている。
【0046】
各ブロック18には、タイヤ幅方向に沿って直線状に延びるサイプ19がタイヤ周方向に等間隔で4本形成されており、各々の両端はブロック18の側面に開口している。なお、ブロック18は、タイヤ周方向の長さが25mm、タイヤ軸方向の幅が20mmである。また、サイプ19は幅が0.4mmであり、タイヤ周方向に約5mm間隔で形成されている。
【0047】
図2に示すように、トレッド12は、直接路面に接地する上層のキャップ部12Aと、このキャップ部12Aのタイヤ内方に隣接して配置される下層のベース部12Bとから構成されており、いわゆるキャップ・ベース構造とされている。
【0048】
キャップ部12Aは、耐摩耗性の低いゴム層20と耐摩耗性の高いゴム層22とがタイヤ幅方向に交互に積層されている。
【0049】
ここで、図3(A)に示すように、耐摩耗性の高いゴム層22には粒子60が無数に含有されたゴムが用いられている。
【0050】
このようなトレッド12を備えた空気入りタイヤ10は、図4に示すような耐摩耗性の低いゴム層20と粒子60を含む耐摩耗性の高いゴム層22とを幅方向に交互に積層した生(未加硫)のゴム帯状物24を形成し、これを生タイヤの外周に貼り付けてモールドで加硫することで形成することができる。
(作用)
次に本実施形態の作用を説明する。
【0051】
走行によりトレッド12の表面が摩耗すると、耐摩耗性の低いゴム層20が耐摩耗性の高いゴム層22よりも摩耗が進展するので、図5に示すように、耐摩耗性の高いゴム層22部分に比較して耐摩耗性の低いゴム層20部分が低くなり、トレッド12表面に比較的深さが浅く細い溝26が多数出現する。
【0052】
このようにして出現する溝26はタイヤ周方向に沿って延びた形状となり、複数出現した溝26により排水性が得られ、氷上ブレーキ性能、氷上トラクション性能及びウエット性能が向上し、特に氷上ブレーキ性能が向上する。
【0053】
また、耐摩耗性の高いゴム層22が摩耗すると、図3(B)に示すように踏面に無数の粒子60が表れ、踏面に表れたこれら無数の粒子60が氷面を引っかき、氷上ブレーキ性能及び氷上トラクション性能をより一層向上させることができる。
【0054】
また、踏面に表れたこれら無数の粒子60が路面との摩擦等によってゴムから脱落すると、粒子60の脱落したところには微小な凹部62が形成される。踏面に形成された無数の凹部62は踏面と路面との間の水分を吸収するので、これにより氷上ブレーキ性能、氷上トラクション性能及びウエット性能をより一層向上させることができる。
【0055】
即ち、本実施形態では、耐摩耗性の高いゴム層22の踏面に突出した粒子60の引っかき効果と、粒子60の脱落したあとの凹部62による吸水効果が得られる。
【0056】
なお、摩耗初期のみならず、摩耗が進行してもこの状態を維持することが可能であるため、氷上ブレーキ性能、氷上トラクション性能及びウエット性能の向上を継続的に図ることができる。
【0057】
また、踏面にタイヤ周方向に沿って延びる溝26が出現するのでコーナリング時の横滑り防止効果も得られる。
【0058】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る空気入りタイヤ10を図6にしたがって説明する。なお、第1の実施形態と同一構成には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0059】
図6に示すように、この第2の実施形態に係る空気入りタイヤ10では、キャップ部12Aが、耐摩耗性の低いゴム層20と耐摩耗性の高いゴム層22とがタイヤ周方向(図6の矢印A方向)に交互に積層されている。
【0060】
次に本実施形態の作用を説明する。
走行によりトレッド12の表面が摩耗すると、前記第1の実施形態で説明したように、耐摩耗性の高いゴム層22部分に比較して耐摩耗性の低いゴム層20部分が低くなるが、本実施形態では、トレッド12表面にタイヤ幅方向に沿って延る溝26が複数出現する。出現した溝26の方向がタイヤ幅方向となるので、本実施形態の空気入りタイヤ10は、幅方向に延びるエッジ成分の水切り作用により特に氷上トラクション性能が向上する。
【0061】
また、耐摩耗性の高いゴム層22の踏面に表れた粒子60が氷面を引っかき、粒子60の脱落したあとの凹部62(図6では図示せず。)が路面との間の水を吸収するので、氷上ブレーキ性能、氷上トラクション性能及びウエット性能をより一層向上させることができる。
【0070】
(試験例)
従来例のタイヤ1種、本発明の適用された実施例のタイヤ16種、比較例のタイヤ1種を用い、氷上ブレーキ性能、氷上トラクション性能及び耐摩耗性能を比較した。
【0071】
次に氷上ブレーキ性能の試験方法を説明する。
タイヤを実車に装着して氷上平坦路を走行させ、時速20km/hの時点でブレーキを踏んでタイヤをロックさせ、停止するまでの距離を測定した。結果は、距離の逆数を従来タイヤ100として指数表示した。なお、数値が大きいほど氷上ブレーキ性能が良いことを示す。
【0072】
氷上トラクション性能の試験方法
タイヤを実車に装着し、氷上平坦路を停止した状態から車を発進させ、50mの距離までに到達した時間の逆数を従来タイヤ100として指数表示した。なお、数値が大きいほど氷上トラクション性能が良いことを示す。
【0073】
耐摩耗性能の試験方法
タイヤを実車に装着し、10000km走行後の摩耗量(摩耗した溝深さ)を測定し、摩耗量の逆数を従来タイヤ100として指数表示した。なお、数値が大きいほど耐摩耗性能が良いことを示す。
【0074】
次に供試タイヤの説明をする。
各供試タイヤ共に、図1に示すブロックパターンを有しており、タイヤ幅方向に4個、タイヤ周方向に50mmピッチでブロックが配列されている。また、ブロックのサイズはタイヤ周方向の寸法が25mm、タイヤ幅方向の寸法が20mmである。
【0075】
耐摩耗性の低いゴム層には硬度が38度のゴムを用い、耐摩耗性の高いゴム層には硬度が50度のゴムを用いた。
【0076】
実施例1〜16のタイヤは、耐摩耗性の低いゴム層及び又は耐摩耗性の高いゴム層に粒子を有しているタイヤである。
【0077】
実施例11、12のタイヤは、耐摩耗性の高いゴム層に発泡ゴムを用いたタイヤである。
【0078】
ここで、発泡ゴムの空洞率Vsは、Vs=(ρ0 /ρ1 −1)×100(%)で表される。なお、ρ1 は微小空洞を有するゴムの密度(g/cm3 )、ρ0 は微小空洞を有するゴムの固相部の密度(g/cm3 )である。なお、発泡ゴムの発泡率Vsが大きくなると耐摩耗性が低下する。
【0079】
また、水膜を効率的に吸収するためには、微小空洞の平均空洞径は5〜150μmが望ましく、好ましくは10〜100μmである。
【0080】
なお、最も耐摩耗性の高いゴム層の空洞率が2%未満では、溝で排出できなかった水を吸収する効果が得られない。一方、最も耐摩耗性の高いゴム層の空洞率が20%を越えると、耐摩耗性が低下して耐摩耗性の低いゴム層の耐摩耗性に近くなる。このため、踏面にあらわれる溝を深くすることができなくなり、排水性が低下する。
【0081】
実施例13、14のタイヤは、踏面との摩擦等によってゴムから脱落する無数の短繊維を耐摩耗性の高いゴム層に含有させたタイヤである。なお、短繊維には平均径50μm、平均長さ2000μmである円柱体状のPETを用いた。なお、短繊維の含有率は以下の表1〜3に示す通りである。
【0082】
実施例16のタイヤは、ブロックに耐摩耗性の高いゴム層と耐摩耗性の低いゴム層とが年輪状に積層されたタイヤである。なお、表内に記載されている積層数はブロックに表れる最大の層数であり、厚さは平均値である。
【0083】
比較例のタイヤは、粒子の含まれていない耐摩耗性の低いゴム層と耐摩耗性の高いゴム層とがタイヤ幅方向に交互に積層されたタイヤである。ゴム層の硬度、サイプ、ブロックのサイズ及び配置は実施例1のタイヤと同様である。なお、ゴム層の厚さ及び積層数は以下の表1に示す通りである。
【0084】
従来例のタイヤは、トレッドのキャップ部が全て粒子の含まれた耐摩耗性の高いゴム層で形成されたタイヤである。なお、サイプ、ブロックのサイズ及び配置は実施例1のタイヤと同様である。
【0085】
ゴム層の積層数、厚さ、形態、空洞率、空洞率の差、気泡全体に占める保護層を有した気泡の比率、氷上ブレーキ性能の試験結果、氷上トラクション性能の試験結果、耐摩耗性能の試験結果は以下の表1〜3に示す通りである。
【0086】
なお、試験には、ならし走行を行ってトレッド表面に溝が出現したタイヤを使用した。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
短繊維=材質:PET、平均径:50μm、平均長さ:2000μmである円柱体。
粒 子=材質:SPB樹脂、平均径:50μmである球体。
【0091】
上記の表1〜3に示すように、ゴム層の積層方向をタイヤ周方向とし、かつゴム層に粒子を含有した実施例1〜16のタイヤは氷上ブレーキ性能及び氷上トラクション性能が従来例のタイヤ及び比較例のタイヤに比較して向上していることが分かる。
【0092】
中でも、ゴム層の積層方向をタイヤ幅方向とした実施例1〜14のタイヤは、氷上トラクション性能よりも氷上ブレーキ性能が一層向上していることが分かる。
【0093】
また、ゴム層の積層方向をタイヤ周方向とした実施例15の氷上ブレーキ性能よりも氷上トラクション性能が一層向上していることが分かる。
【0094】
さらに、ゴム層を年輪状にした実施例16のタイヤは、氷上ブレーキ性能及び氷上トラクション性能の両方がほぼ同じレベルで向上していることが分かる。
【0095】
なお、耐摩耗性に関しては、指数90以上あれば実用上で特には問題にならないレベルである。
【0096】
また、短繊維の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートに代表されるポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等を上げることができるが、これら以外の繊維であっても良い。
【0097】
また、短繊維の径は10μm〜1.0mmが好ましく、短繊維の長さは2〜50mmが好ましい。さらに、短繊維の長さと短繊維の径との比率は、(短繊維の長さ/短繊維の径)>10とすることが好ましい。
【0098】
なお、短繊維の含有率を増やすと氷上ブレーキ性能、氷上トラクション性能及びウエット性能が向上するが、耐摩耗性は低下する。
【0099】
このため、短繊維の含有率は、1重量%〜15重量%が好ましい。短繊維の含有率が1重量%未満では氷上ブレーキ性能、氷上トラクション性能及びウエット性能が向上せず、15重量%を越えると耐摩耗性が低下する。
【0100】
ところで、前記実施形態の空気入りタイヤ10は、新品時にはトレッド表面に溝26が出現していないため、極めて短い距離ではあるが慣らし走行が必要となる。このため、新品時から高い氷上性能を得るために、ゴムの摩耗差によってこの溝26が出現するまでの間、摩耗差により出現する溝26とほぼ同じ寸法で、且つ、この溝26が出現した際に消滅するような浅い細溝をトレッド12の表面に多数形成しておいても良い。
【0101】
また、前記第1の実施形態及び第2の実施形態の空気入りタイヤ10では、耐摩耗性の低いゴム層20及び耐摩耗性の高いゴム層22が、トレッド12の表面で直線状となっていたが、波状やジグザグ状となっていても良い。
【0102】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1に記載の空気入りタイヤは、トレッド表面に比較的深さが浅く細い溝を多数出現させ、これらの溝の排水作用及びエッジ効果により氷上ブレーキ性能、氷上トラクション性能及びウエット性能を向上できる、という優れた効果を有する。さらに、摩耗初期のみならず、摩耗が進行してもこの状態を維持することが可能であるため、氷上ブレーキ性能、氷上トラクション性能及びウエット性能の向上を継続的に図ることができる、という優れた効果を有する。
また、最も耐摩耗性の高いゴム層と最も耐摩耗性の低いゴム層の粒子の含有率の差を10重量%以上としたので、最も耐摩耗性の低いゴム層を摩耗させて踏面に確実に溝を形成することができる、という優れた効果を有する。
また、ゴム層の積層方向をタイヤ幅方向とすることにより、摩耗により出現した溝の方向がタイヤ周方向となるので、路面の水膜を蹴りだし側へ排水する性能、即ち排水性を向上でき、特に氷上ブレーキ性能を向上させることができる、という優れた効果を有する。また、横方向の摩擦係数を増大させることもでき、コーナリング性能を向上させることもできる。
一方、ゴム層の積層方向をタイヤ周方向とすることにより、摩耗により出現した溝の方向がタイヤ幅方向となるので、幅方向に延びるエッジ成分の水切り作用により、特に氷上トラクション性を向上させることができる、という優れた効果を有する。
【0103】
請求項2に記載の空気入りタイヤは、摩耗した踏面の凹凸の凸となる最も耐摩耗性の高いゴム層の踏面に表れた無数の粒子が氷面を引っかく作用により氷上ブレーキ性能及び氷上トラクション性能をさらに向上させることができる、という優れた効果を有する。さらに、踏面に表れた粒子がゴムから脱落したあとに形成される微小な凹部が、踏面に形成された溝で排出できなかった水膜を吸収することができ、これにより氷上ブレーキ性能、氷上トラクション性能及びウエット性能をさらに向上できる、という優れた効果を有する。
【0104】
請求項3に記載の空気入りタイヤは、最も耐摩耗性の低いゴム層の摩耗を促進させて踏面に確実に溝を形成することができ、高い氷上ブレーキ性能、氷上トラクション性能及びウエット性能を確保できる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る空気入りタイヤのトレッドの平面図である。
【図2】図1に示すトレッドのタイヤ幅方向に沿った断面図である。
【図3】(A)は粒子の含まれた耐摩耗性の高いゴム層の拡大断面図であり、(B)は摩耗した耐摩耗性の高いゴム層の拡大断面図である。
【図4】後に図2に示すトレッドのキャップ部分となるゴム帯状物の斜視図である。
【図5】摩耗後のトレッドの断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る空気入りタイヤのトレッドのタイヤ周方向に沿った断面図である。
Claims (3)
- 一対のビードコア間にトロイド状をなして跨がるカーカスのクラウン部外周に補強層とトレッドを順次配置した空気入りタイヤであって、
前記トレッドの少なくとも接地部分は、踏面と直交する一断面において耐摩耗性の異なるゴム層がタイヤ幅方向、又はタイヤ周方向に沿って互いに隣り合い、
前記ゴム層は10mm当たり2層以上積層され、かつ前記2層以上積層されたゴム層のうち最も耐摩耗性の高いゴム層及び最も耐摩耗性の低いゴム層が無数の粒子を有し、最も耐摩耗性の高いゴム層と最も耐摩耗性の低いゴム層の粒子の含有率の差が10重量%以上であることを特徴とする空気入りタイヤ。 - 前記ゴム層のうち最も耐摩耗性の高いゴム層が有する無数の粒子の含有率が1〜15重量%であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
- 前記ゴム層のうち最も耐摩耗性の低いゴム層が有する無数の粒子の含有率が16〜30重量%であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
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