JP3786498B2 - 血液適合性に優れた医療用多層成型体及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は血液を接触して使用される医療用多層成型体に関し、さらに詳しくは血液と接触して使用される医療用材料の血液適合性が改善された抗血栓性医療用多層成型体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、合成高分子材料は、人工臓器、カテーテルをはじめとする医療用材料に広く用いられている。その代表的なものは、医療用高分子材料としてはポリエステル、ポリスルホン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、シリコーン樹脂、ポリメタクリル酸エステル及び含フッ素樹脂などの疎水性高分子や、ポリビニルアルコール、ポリエーテルウレタン(セグメント化ポリウレタン、SPU)、ポリ(メタクリル酸2ーヒドロキシエチル)およびポリアクリルアミドなどの親水性高分子である。これら従来の材料の大部分が、主にその物理的、機械的特性に着目して使用されてきた中において、SPUに関しては、比較的抗血栓性に優れることが知られている。中でもBiomerR、CardiothaneRなどは人工心臓への応用が試みられているが、なお十分な効果を得るには至らなかった(E.Nylas,R.C.Reinbach, J.B.Caulfield,N.H.Buckley, W.G.Austen; J.Biomed.Mater.Res.Symp.,3,129(1972)、L.P.Joyce,M.C.Devries,W.S.Hastings,D.B.Olsen,R.K.Jarvik,W.J.Kolff; Trans.ASAIO, 29,81(1983))。
【0003】
一方、医療技術の進歩に伴って、生体組織や血液と材料が接触する機会はますます増加しており、材料の生体親和性が大きな問題になってきている。中でも蛋白質や血球などの生体成分が材料表面に吸着し、変性することは、血栓形成、炎症反応などの、通常では認められない悪影響を生体側に引き起こすばかりでなく、材料の劣化にもつながり、医療用材料の根本的かつ緊急に解決せねばならない重要な課題である。材料表面での血液凝固の防止に関しては、従来ヘパリンに代表される血液抗凝固剤の連続投与が行われてきたが、最近長期にわたるヘパリン投与の影響が問題となってきており、特に血液透析、血液濾過などの血液浄化をうける慢性腎不全患者の血液透析療法、及び人工心肺による酸素冨化を必要とする乳幼児へのECMO(Extracoaporial menbrane oxgenation)への適用、更には手術時の血管導入用のカテーテルの使用に関して、抗凝固剤を必要としない血液接触材料の開発が強く望まれるようになってきた。
【0004】
現在、これら血液接触器材用の素材としては、再生セルロース膜、またはポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン等、先述の合成高分子材料が広く用いられている。特にポリ塩化ビニルは、安価であり、また材料としての機械特性に優れ、溶融成型が容易な為、人工腎臓用の部材、カテーテル基材、血液チューブ等に幅広く適用されている。しかしながらこれらの素材は血液適合性に欠けるため、それによる種々の問題が今なお未解決であるのも事実である。その主たるものは、一つにこれらのポリマーによる血液中の補体活性化に伴う一過性白血球減少があり、そして二つ目に、抗凝固剤の長期大量投与のために生じると考えられる種々の副作用がある。先述のように、これら血液接触材料を使用する場合には、医療器材内での血液凝固反応を抑制するためにヘパリンに代表される血液抗凝固剤の連続投与が行われてきた。最近になり、このヘパリンを使用することによる問題が次々と指摘されてきている。特に長期にわたるヘパリン投与により、脂質代謝異常などの肝臓障害、出血時間の延長あるいはアレルギー反応等の副作用を併発することが認められている。このような観点から、これら血液接触型医療器材使用の際に抗凝固剤の使用量を低減させるか、あるいは全く使用しなくても血液凝固を引き起こさない、すなわち、抗血栓性を備えた素材の開発が強く望まれるようになってきた。更に、抗血栓性の医療器材は、装置全体のポータブル化も可能にし、現在病院に拘束されている患者の社会復帰を促し、そのクオリティオブライフの向上にもつながることになる。
【0005】
従来の高分子材料の性能を損なわず、補体活性化の抑制または抗血栓性を改善する方法も幾つか提案されている。例えば補体活性化抑制に関しては、第三級アミノ基を有する高分子の表面固定、ポリエチレンオキシド鎖のような親水性高分子を表面に共有結合によりグラフトしたりする方法等も報告され、ある程度の補体活性化抑制の効果は確認されているが、血液凝固の抑制(抗血栓性)までは不十分であった。また抗血栓性の改善に関しては、膜表面のヘパリン化(特開昭51−194号公報)、あるいはプロスタグランジンE1ーセルロース誘導体吸着層による表面修飾(特開昭54−77497号公報)による抗血栓性付与が、また抗血栓性に優れたポリマーである2−メタクリロイルオキシエチルホスホコリン(MPC)をセルロース表面にグラフト重合、固定化する方法(BIO INDUSTRY,8(6),412- 420(1991))あるいは化学修飾したMPCグラフトセルロース誘導体の中空糸への固定(特開平5−220218号公報および5−345802号公報)等が報告されているが、生理活性物質の低安定性の問題等、効果が十分でなかったり、または固定化方法の煩雑さによる高コスト化、均質な固定化表層の獲得の困難さといった面で問題も多く、実用化されていない。更に、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等の合成高分子からなる膜では、再生セルロースに比べ補体活性化抑制等の血液適合性に優れるといった報告が近年なされているが、抗血栓性は不十分であり、抗凝固剤の使用を低減するには至っていない。
【0006】
前記のポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸エステルといった疎水性高分子材料や、ポリビニルアルコール、ポリ(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル)などの親水性高分子材料は、いずれも機械的強度、生体親和性等において満足できるものではない。更にBiomerR、CardiothaneRなどセグメント化ポリウレタンは、剛直な芳香族ウレタン結合部位と柔軟なポリエーテル結合部位の間のミクロ相分離構造により血小板粘着が抑制されるが、その効果は必ずしも十分ではない。特にウレタン結合やウレア結合のように水素結合性の部分構造は、分子鎖の剛直性向上に寄与するものの、主鎖の極性基間の相互作用が強いため、疎水性相互作用を軽減しうる水分子の水和が阻害される。従って血中タンパクが吸着した際にタンパクの変性を誘起、血小板粘着を促進することが報告されている。そもそも一般に水酸基、アミノ基といった極性部位は、血液接触時に補体活性化(第二経路)を誘発し、フィブリン形成促進による血栓形成の要因ともなる。その他ポリエステル系ポリマーでは、PEO(ポリエチレンオキシド)/PBT(ポリブチレンテレフタレート)共重合体が、血液適合性に優れた生体適合ポリマーとして知られているが(特開昭60-238315号公報)、これも加水分解性が高く、それに伴う低分子溶出物の体内への漏洩など、化学的な安定性にかける欠点があり、実用上問題が大きい。
【0007】
近年、ポリマー表面を親水/疎水ミクロドメイン構造とすることで血小板粘着を抑制して抗血栓性を発現するという材料設計が、HEMA(2-hydroxyethylmethacrylate)-Styrene-HEMAブロック共重合体等で知られているが(C.Nojiri,T.Okano,D.Grainger,K.D.Park,S.Nakahama,K.Suzuki,S.W.Kim,Trans. ASAIO,33,596(1987))、これも高価格であり、また脆く、溶融成型、湿式成型も困難であるなど実用上の問題が大きい。先述の生体膜類似表面構造を有するMPC共重合体が抗血栓性に優れることも示されたが(K.Ishihara, R.Aragaki,T.Ueda,A.Watanabe,N.Nakabayashi,J.Biomed.Mater.Res.,24,1069(1990))、これも成型加工性、価格等に問題がある。
【0008】
ところで、本発明者らは、血液適合性(特に抗血栓性)、生体安全性、経済性、溶剤溶解性等を考慮した医療用血液適合性ポリマーの検討を行ったところ、適当な鎖長から成るポリエチレングリコールと疎水性のモノマーから得られる共重合体、即ち、ポリエチレングリコールと共重合するハード成分であるポリ(芳香族ポリスルホン)またはポリ(芳香族ポリアリールエーテルケトン)の共重合体において、ポリエチレングリコール単位数、疎水性ハード成分の種類、およびこれらの共重合組成の制御したポリエーテル/ポリスルホン共重合体またはポリエーテル/ポリアリールエーテルケトン共重合体が血液適合性(特に抗血栓性)に優れることを既に見い出している。これらのポリアルキルアリールエーテル系共重合体は、溶融成型のみならず、種々の有機溶媒へ可溶であり、他の汎用高分子へブレンドしたり、表面をコートすることにより、幾つかの汎用高分子の血液適合性を改善できることも示された。
【0009】
一方、先に記したように、血液の体外循環に用いる血液回路や血管内に挿入するカテーテルなどの部材には、軟質ポリ塩化ビニルが多用されている。この軟質ポリ塩化ビニルも血液適合性は十分でなく、その改善が検討されてきた。軟質ポリ塩化ビニルは、添加剤としてフタル酸ジオクチル等の可塑剤を含有し、このため溶媒を用いた抗血栓ポリマーの表面被覆では、用いる溶媒によっては可塑剤の溶媒への漏出が問題となり、また表面にうまく被覆できても、抗血栓ポリマーとの親和性が低く、使用時にポリマーの剥離などを起こしてしまう。過去にこの問題を解決すべく、特公平2−35580号公報では、軟質ポリ塩化ビニルとポリエーテルエステルをブレンドすることで抗血栓性に優れたミクロンサイズのアロイが得られることが開示されているが、このものはポリエーテルエステルの加水分解による溶出物の体内漏洩の問題が解決されていない。また血液適合性そのものも卓越して優れているとは言えない。特許第2568108号では、抗血栓ポリマーとしてポリビニルアルコール系共重合体を用い、軟質ポリ塩化ビニルの表面にビニルアルコールと塩化ビニルの共重合体をグラフトすることで抗血栓性ポリマーの接着性を高めているが、現在ではポリビニルアルコールそのものが満足な血液適合性を有していないことが知られており、より優れた抗血栓ポリマーの表面固定化が望まれる。この様な背景より、本発明者らが開発した血液適合性ポリアルキルアリールエーテル系共重合体を、直接ポリ塩化ビニル上へ表面被覆してみたが、かかる共重合体のポリ塩化ビニルへの親和性は必ずしも十分ではなく、部分的な剥離を生じた。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、医療用素材として優れた物性を有する熱可塑性重合体、特にポリ塩化ビニルを対象にして、コスト、成型性等の面で実用的であり、かつ抗血栓性を改善した医療用多層材料を提供することにある。そしてそのために、抗血栓性に優れたポリアルキルアリールエーテル系共重合体をポリ塩化ビニル上に強固に被覆する方法を提示することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述した目的を達成するために、医療用ポリ塩化ビニルからなる成型体と、その上に被覆等により形成された特定のポリアルキルアリールエーテル系共重合体からなる層との間に、両者と親和性の高いアルキルアクリレートなどのアクリル系ポリマーからなる被膜層を形成させた。この結果、ポリ塩化ビニルの機械的特性を維持したまま、該ポリ塩化ビニルの抗血栓性を大幅に向上した医療用ポリ塩化ビニル多層成型体が得られ、前記の問題点が解決できることを見出し、本発明に到達したものである。
【0012】
即ち、本発明は、ポリ塩化ビニルからなる医療用材料(A)とポリアルキルアリールエーテル系共重合体から形成された層(B)とからなる医療用成型体であって、
(i)ポリアルキルアリールエーテル系共重合体が下記式(1)
【0013】
【化3】
―[―O―Ar1―Z―Ar2―O―Ar3―]― …(1)
[ここで、Ar1、Ar2およびAr3は、互いに同一もしくは異なり、置換基を有しない2価の芳香族炭化水素基でありそしてZは>C=0または>SO2である。]
で表わされる繰返し単位および下記式(2)
【0014】
【化4】
―[―(―OR―)n―O―Ar3―]― …(2)
[ここでRは炭素数2または3のアルキレン基であるか、炭素数2または3のアルキレン基と炭素数4のアルキレン基との組み合わせであり、Ar3の定義は上記に同じであり、そしてnは―(―OR―)n―で示される単位の分子量が400〜20,000の範囲にある数である。]
で表わされる繰返し単位からなり、上記式(2)で表わされる繰返し単位が平均して一分子中に少なくとも2個存在し、上記式(1)および(2)の繰返し単位の合計重量に基づき、上記式(2)中の―(―OR―)n―で示される単位が10〜90重量%を占め、そしてフェノール/1,1,2,2―テトラクロロエタンの重量比が6/4の混合溶媒中、ポリマー濃度1.2g/dl、温度で35℃で測定した還元粘度が少なくとも0.5dl/gであり、かつ
(ii)(A)と(B)の間にアクリル系ポリマーからなる層(C)を有する、
血液と接触して使用されるための医療用多層成型体によって達成される。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下本発明について詳述する。
本発明の医療用多層成型体は、ポリ塩化ビニルからなる医療用材料(A)とポリアルキルアリールエーテル系共重合体から形成された層(B)とからなる医療用成型体であって、(A)、(B)間にアクリル系ポリマーから成る被膜が介在されており、(B)成分が血液と接触して使用される。
【0016】
本発明においては、ポリ塩化ビニルが対象となる。
【0017】
かかるポリ塩化ビニルとしては、医療用グレードとして市販されている、低分子オリゴマー、不純物の溶出の少ない重合度1000〜2800の範囲のもので、適当な安定剤(Ca-Zn系)、安定助剤(エポキシ化大豆油等)、可塑剤(フタル酸ジオクチル等)を含んでいるもの、または可塑剤を含まないものや、特性改良の目的で他のユニットを共重合したランダム、ブロックコポリマーの何れでもよい。
【0018】
本発明におけるポリアルキルアリールエーテル系共重合体は、下記式(1)〜(2)で表される繰り返し単位から主としてなる。
【0019】
【化5】
―[―O―Ar1―Z―Ar2―O―Ar3―]― …(1)
[ここで、Ar1、Ar2およびAr3は、互いに同一もしくは異なり、置換基を有しない2価の芳香族炭化水素基でありそしてZは>C=0または>SO2である。]
で表わされる繰返し単位および下記式(2)
【0020】
【化6】
―[―(―OR―)n―O―Ar3―]― …(2)
[ここでRは炭素数2または3のアルキレン基であるか、炭素数2または3のアルキレン基と炭素数4のアルキレン基との組み合わせであり、Ar3の定義は上記に同じであり、そしてnは―(―OR―)n―で示される単位の分子量が400〜20,000の範囲にある数である。]
【0021】
上記式(1)、(2)において、Zは−SO2−または−CO−であり、Ar 1 、Ar 2 、Ar 3 はそれぞれ独立に、核置換されていない2価の芳香族基を示し、具体的にはp−フェニレン、m−フェニレン、2,6−ナフチレン、2,7−ナフチレン、1,4−ナフチレン、1,5−ナフチレン、4,4’−ビフェニレン、2,2’−ビフェニレン、4,4’−オキシジフェニレン、4,4’−イソプロピリデンジフェニレン、4,4’−スルホニルジフェニレン等を例示することができる。
【0022】
上記式(2)において、Rは炭素数2〜3のアルキレン基であるか、炭素数2または3のアルキレン基と炭素数4のアルキレン基との組合せである。かかる炭素数2または3のアルキレン基としては、例えばエチレン、プロピレン、トリメチレンを例示することができる。Rとしてはこれらのうち特にエチレンが好ましい。炭素数4のアルキレン基としてはテトラメチレン基を例示することができる。Rは単独の構造でもよいし、二種以上の組み合わせの構造であってもよい。炭素数2または3のアルキレン基と炭素数4のアルキレン基との組み合わせの場合、炭素数4のアルキレン基の割合は80モル%以下、好ましくは60モル%以下である。
【0023】
また、nは−(−RO−)n−で示されるポリオキシアルキレン構造単位の分子量が400〜20,000となるような数を示す。ポリオキシアルキレン構造の分子量は、好ましくは600〜15,000、より好ましくは800〜10,000、特に好ましくは1,000〜6,000である。
【0024】
上記共重合体は上記式(2)で表わされる繰返し単位が平均して一分子中に少なくとも2個存在する。繰返し単位の数が最も小さい本発明の共重合体は、式(1)の繰返し単位1つと式(2)の繰返し単位2つよりなる。この場合、Ar3の単位と−(―OR―)n−の単位合計5モルに対して―Ar1―Z―Ar2―の単位が1モルの割合で、これらの単位を含有する。
【0025】
さらに、本発明の共重合体は、式(2)中の構造単位は−(―OR―)n−を式(1)および式(2)の繰返し単位の合計重量に基づき10〜90重量%で含有する。10重量%未満では得られる共重合体の疎水性が高過ぎ、蛋白吸着や血小板粘着を十分に抑制できなく、乾燥フィルムとした場合水との濡れが十分でなく、また90重量%を超えるときには、得られる共重合体の親水性が高すぎ、水中へ溶出したり、著しく膨潤したりあるいは機械的強度も十分でなくなる。構造単位―(―OR―)n―は同じ基準に対し30〜90重量%が好ましく、30〜80重量%がより好ましく、40〜70重量%がさらにより好ましい。
【0026】
上記ポリアルキルアリールエーテル系共重合体としては、上記式(1)、(2)におけるZが−SO2−であり、Ar 1 、Ar 2 およびAr 3 がp−フェニレンであるポリエーテル/ポリスルホン共重合体が好ましく、上記式(1)、(2)におけるZが−CO−であり、Ar 1 、Ar 2 およびAr 3 がp−フェニレンであるポリエーテル/ポリアリールエーテルケトン共重合体が好ましい。
【0027】
上記式(1)及び(2)で表される繰り返し単位より実質的になるポリアルキルアリールエーテル系共重合体は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。
【0028】
かかるポリアルキルアリールエーテル系共重合体は、上記式(1)で表される繰り返し単位の1種または2種以上を用いてもよく、上記式(2)で表される繰り返し単位の1種又は2種以上を用いてもよい。
【0029】
上記式(1)におけるZが−SO2−であるポリアルキルエーテル/ポリスルホン共重合体は、例えば、ビス(ハロアリール)スルホンおよびα,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレンとジヒドロキシアリール化合物とを、適当な溶媒およびアルカリの存在下、加熱反応させる従来公知の方法で得ることができる。ビス(ハロアリール)スルホンとα,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレンのモル比を変えることで、種々の組成のポリエーテル/ポリスルホン共重合体を得ることができる。加熱反応温度は120〜300℃が好ましく、より好ましくは160〜250℃である。反応温度が高すぎると副反応が起こったり、原料の分解が起こりやすく、また低すぎると反応が遅くなる。
【0030】
同様に、上記式(1)におけるZが−CO−であるポリエーテル/ポリアリールエーテルケトン共重合体は、例えば、ビス(ハロアリール)ケトンおよびα,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレンとジヒドロキシアリール化合物とを、アルカリの存在下、加熱反応させることで得ることができる。ビス(ハロアリール)ケトンとα,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレンのモル比を変えることで、種々の組成のポリエーテル/ポリアリールエーテルケトン共重合体を得ることができる。加熱反応温度は120〜300℃が好ましく、より好ましくは160〜250℃である。反応温度が高すぎると副反応が起こったり、原料の分解が起こりやすく、また低すぎると反応が遅くなる。
【0031】
合成に用いるアルカリとしては、アルカリ金属炭酸塩または水酸化物が好ましく、例えば炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどをあげることができる。なかでも炭酸塩、特に炭酸カリウムが好ましい。アルカリの量は、反応中に発生するハロゲン化水素を実質的に中和する量であることが必要であるが、実際は理論量よりも5%程度多くても、少なくても、反応させることができる。反応には適当な可塑剤、溶媒等を用いることもできる。適当な溶媒を例示すれば、ジフェニルスルフォン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド等を用いることができるが、中でもN,N−ジメチルアセトアミド、ジフェニルスルフォンが好ましい。
【0032】
反応に際してその促進のために添加剤を加えることができる。かかる添加剤の例として金属またはその塩、包接化合物、キレート剤、有機金属化合物などをあげることができる。
【0033】
以上のようにして製造される本発明におけるポリマーは上記化学式(1)〜(2)で表される繰り返し単位から主としてなるポリエーテル/ポリスルホン共重合体およびポリエーテル/ポリアリールエーテルケトン共重合体であって、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン6/4(重量比)混合溶媒で測定した還元粘度が0.5以上、好ましくは1.0以上である。
【0034】
還元粘度が0.5未満の場合には、ポリマーの機械的強度、ブレンド特性が不充分となり好ましくない。なお、ここでいう還元粘度は、フェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4)中、ポリマー濃度1.2g/dl、温度35℃で測定される値をいう。
【0035】
本発明におけるポリアルキルアリールエーテル系共重合体は、その目的に応じてポリオキシアルキレン鎖の分子量、共重合組成を任意に変化させることができる。なお本発明において、ポリアルキルアリールエーテル系共重合体は、その性質が本質的に変化しない範囲で他の成分を共重合させることも可能である。
【0036】
なお本発明において、上記ポリアルキルアリールエーテル系共重合体は、その性質が本質的に変化しない範囲(例えばポリマーの20重量%以下、好ましくは10重量%以下)で他の成分を共重合成分として含有していてもよい。共重合させる他の成分としては、例えば、エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位として含有するポリエステル、ブチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位として含有するポリエステル、ジフェニルスルホンを主たる繰り返し単位として含有するポリエーテルスルホン、ジフェニルスルホンとビスフェノールAの縮合物を主たる繰り返し単位として含有するポリスルホン、ビスフェノールAの炭酸エステルを主たるくり返し単位として含有するポリカーボネート等を挙げることができる。
【0037】
本発明で用いる(C)層を構成するポリマーとしては、上記医療用材料(A)と上記ポリアルキルアリールエーテル系共重合体から形成された層(B)との親和性、接着性等が良好であればよく、例えばアクリル系ポリマーを挙げることができる。また、かかるポリマーの数平均分子量は特に制限はないが、通常10000〜100万のものである。
【0038】
その中で、(A)上に該ポリ塩化ビニルを溶解せず、アクリル系ポリマーを溶解しうる有機溶媒に溶解させた溶液組成物を加熱または光等の放射線を照射することにより形成させる方法により製造する方法を採用すると、表面モノマーの反応性、生成ポリマーの溶剤耐性、ポリ塩化ビニルへの親和性の点から、メチルアクリレート等のアルキルアクリレート又はメタクリレートが好ましい。
【0039】
本発明の医療用多層積層体は、まず、上記ポリ塩化ビニルからなるフィルム、
シート、繊維、各種成型体等の医療用材料(A)の表面に、アクリル系ポリマーからなる層(C)を形成する。かかる層(C)は、アクリル系ポリマーからなる溶融製膜により得られたフィルムを積層してもよいし、該熱可塑性重合体を溶解せず、アクリル系ポリマーを溶解しうる有機溶媒に溶解させた溶液組成物をハケ塗り等により塗布し、次いで乾燥により溶媒を除去することにより形成させてもよいし、アクリル系ポリマーのモノマーをかかる溶媒に溶解させた溶液組成物をハケ塗り等により塗布し、ついで加熱または光等の放射線を照射することにより形成させてもよい。あるいは医療用材料(A)を上記溶液組成物に浸漬し、次いで乾燥により有機溶媒を除去することにより形成することもできる。
【0040】
このようにして得られた(A)と(C)とからなる成型体の(C)上に、ついで上記ポリアルキルアリールエーテル系共重合体から形成された層(B)を積層する。(B)の積層方法としては、例えば上記ポリアルキルアリールエーテル系共重合体からなる、溶融製膜により得られたフィルムを(C)層上に積層してもよいし、上記(C)層を溶解せず、かかる共重合体を溶解しうる有機溶媒に溶解させた溶液組成物をハケ塗り等により(C)層上に塗布し、次いで乾燥により溶媒を除去することにより形成させてもよいし、(A)と(C)とからなる成型体を上記溶液組成物に浸漬し、次いで乾燥により有機溶媒を除去することにより形成することもできる。
【0041】
上記ポリアルキルアリールエーテル系共重合体は、種々の有機溶媒、例えばN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のアミド系有機溶媒、およびクロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン系有機溶媒もしくは1,3−ジオキサノン等の脂環式エーテルに可溶である。更に種々の混合溶媒(例えば1,3−ジオキサノンとメタノール、ベンゼンとアセトン等)へも溶媒組成、ポリマー組成の組み合わせによっては十分溶解する。本発明に用いるポリ塩化ビニル自身はこれらの溶媒に殆ど不要である。従って、これら有機溶媒に不溶、又は難溶のアクリル系ポリマーをモノマー状態でプライマーとしてポリ塩化ビニル上へ塗布し、光等を照射することによりポスト重合することで被覆、固定化しておき、ついで、こうして得られるアクリル系ポリマーのプライマー処理材料を、該材料を溶解しない上記ポリアルキルアリールエーテル系共重合体の有機溶媒溶液へ例えば浸漬し、溶媒除去することで、医療用材料の最表面を上記ポリアルキルアリールエーテル系共重合体の薄膜層で二重被覆することになる。被覆法としては、重合開始剤を含むアクリル系モノマーを直接、又は任意の濃度のアルコール性溶液として、これにポリ塩化ビニルの成型体を浸漬して十分にモノマーで表面を湿潤させた後、紫外光等の照射によりポリ塩化ビニル表面でポスト重合を行い、アクリルポリマーの被覆層を形成する。アクリル系モノマーは、そのものが液体であれば溶媒を用いず直接塗布する方が好ましく、固体であればできるだけ濃い濃度(飽和溶解度付近)で塗布に用いることが好ましい。
【0042】
上記のプライマーであるアクリル系ポリマー層(C)の厚みとしては、ポリ塩化ビニル本来の機械的特性が変化しない範囲であるべきであり、200nm〜30μmが好ましい。層厚が200nm未満にしようとすると、表面の被覆むらを生じる恐れがあり、30μmを超えるとポリ塩化ビニルの本来の機械的特性が失われる。前記同様、アクリル系ポリマーからなる被覆層の厚みも、用いるモノマー溶液の濃度と塗布回数で制御することが出来る。例えばアクリル酸n−ブチルを無溶媒でポリ塩化ビニル平膜に塗布、重合した場合のポリマー被覆層の厚みは約15μm程度である。一方ポリアルキルアリールエーテル系共重合体の薄膜層の厚みは、好ましくは10nm〜10μm、より好ましくは100nm〜1μmである。厚みが10nm未満であると、膜表面全体にわたる均質な薄膜層の作製が困難であり、又10μmより大きいとポリ塩化ビニル本来の医療用高分子としての素材特性が維持できない恐れがある。これら共重合体薄膜被覆層の厚みは、用いる有機溶媒の種類および濃度と塗布回数で制御することが出来る。例えばポリアルキルアリールエーテル系共重合体の1重量%メタノール/1,3−ジオキソラン溶液にポリ塩化ビニル平膜を浸漬後、余剰の溶液を除去、溶媒を乾燥した時の被覆層の厚みは約300−400nmである。
【0043】
ポリアルキルアリールエーテル系共重合体の溶媒濃度としては、ポリマーの溶解性にもよるが、均一な被覆を円滑に行うことができる濃度域として0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜2重量%の範囲が適切である。ポリマー濃度が0.1重量%未満では被覆が十分になされず部分的なむらを生じる恐れがあり、又10重量%を超えるとポリマー粘度が高すぎ、被覆が円滑に行えないばかりか、その厚みが不均一となる。
【0044】
上記共重合体の(C)層上の形成に際しては、適当な有機溶剤を用いた表面塗工が好適である。用いる有機溶媒としては、上記共重合体が可溶で、かつ上記(C)層のプライマーが不溶、又は難溶の有機溶媒として、先述のN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のアミド系有機溶媒、または混合溶媒系として1,3−ジオキソラン、1,4ージオキサン等の脂環式エーテルとメタノール、エタノール等のアルコールとの混合溶媒が挙げられる。溶媒は常温、常圧又は40〜50℃で減圧で乾燥、またはエタノール等の、上記両ポリマーに対する貧溶媒中で溶媒抽出することにより除去、上記共重合体被覆薄膜層が形成される。
【0045】
本発明の医療用多層成型体は、該材料の血液と接触する部分が、上記ポリアルキルアリールエーテル系共重合体からなる薄膜層により形成されている。ここで血液と接触する部分とは、血液が接触する材料の表面およびその近傍をさす。例えば、血液チューブ、人工腎臓用透析膜として使用する場合には、少なくとも血液が流れるその内面が上記共重合体で構成されていればよい。
【0046】
本発明の抗血栓性に優れる医療用多層成型体は、濃度5重量%であるヒト貧血小板血漿(PPP)のリン酸緩衝液に37℃、一時間接触させた時の上記成型体表面への蛋白吸着量が0.8μg/cm2以下(MicroBCA法によるアルブミン換算)であることが好ましく、0.6μg/cm2以下であることがより好ましい。血液接触時の蛋白吸着量が0.8μg/cm2より大きいと、それに続く血小板粘着、活性化を十分に抑制できないため、血栓形成が進行する。かかる蛋白吸着量は少ないほど望ましいが、0.3〜0.7μg/cm2の範囲にあれば実際的に十分効果がある。
【0047】
【発明の効果】
本発明の医療用多層成型体は、上記ポリアルキルアリールエーテル系共重合体がその血液接触面を完全に被覆している。そして、この医療用多層成型体は血漿溶液に接したときの血液中の蛋白および血小板の粘着等に対して優れた吸着抑制効果を有する。この理由については、以下のように考えられる。かかる共重合体は剛直部位であるポリエステル成分(ハードセグメント)及びポリマー主鎖中に固定された親水性ポリオキシアルキレングリコール鎖(ソフトセグメント)を有しており、これら親水性セグメントと疎水性ポリエステルセグメント双方は熱力学的にのみならず、巨視的に相分離した表面構造を特徴とする。かかるポリマーは、主鎖中の大部分にわたって水素結合供与基が存在しないため、主鎖間の相互作用が小さく、疎水性相互作用を低減しうる水分子の接触が容易におこる。従って水の存在下、水接触界面において水和したハイドロゲル層並びに疎水性ポリマー集合部から成る微細ドメイン構造が形成される。このため、蛋白質や血球などの生体成分の吸着が少なく、また吸着した蛋白質の変性や接触した血小板の粘着、活性化を抑制することができる。更にオキシエチレン自由末端鎖、遊離水酸基末端数等が大幅に減少するため、細胞膜損傷、補体活性化を回避できるものと考えられる。それ故、本発明の抗血栓性医療用多層成型体の利用分野としては、直接血液成分と接触して用いることが主たる目的となる医療用材料として有用であり、例えば、血液チューブ、カテーテル、人工腎臓、人工血管、人工心肺、血液透析膜、血液バッグ、血漿分離膜等に用いることができる。
【0048】
【実施例】
以下、参考例および実施例によって本発明を更に詳しく説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定するものではない。また、例中の「部」は特にこだわらない限り「重量部」を表す。
【0049】
ポリマーの還元粘度(ηsp/c)は、フェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4)10mlに120mgを溶解させて35℃で測定した。
【0050】
[合成例1(α,ω−ビス(2−クロロエトキシ)ポリオキシエチレン(数平均分子量2000)の合成)]
ポリエチレングリコール(#2000)30部、ピリジン3.2部、脱水クロロホルム150部をスリ付き三角フラスコ中に仕込み、撹拌して均一溶液とした。これに塩化チオニル2.4部、脱水クロロホルム15部の混合溶液を氷冷下30分かけて滴下、その後氷冷をはずして液温が室温に上昇した後、更にもう8時間撹拌を続けた。クロロホルムを減圧留去後、更にもう15部の新鮮な塩化チオニルを加え、24時間、加熱乾留した。その後減圧下で余剰の塩化チオニルを留去し、残査を新鮮なクロロホルム300部に溶解し、飽和食塩水200部で三回洗浄、ついで純水200部で一回洗浄し、クロロホルム層を分取、無水硫酸ナトリウムで一晩乾燥した。クロロホルムを留去し得られた油状物は室温で直ちに固化した。これをアセトン40部に加熱溶解し、ジエチルエーテル200部より再沈殿を行うことで白色粉状晶28.8部を得た。生成物の融点は、50.5℃〜53.5℃であり、IR(赤外分光)のチャートより、この化合物はα,ω−ビス(2−クロロエトキシ)ポリオキシエチレン(数平均分子量2000)であることが確認された。
【0051】
[参考例1(ポリエーテル/ポリスルホン共重合体の製造)]
4,4’−ヒドロキシジフェニルエーテル10.11部、ビス(4−クロロフェニル)スルホン8.79部、α,ω−ビス(2−クロロエトキシ)ポリオキシエチレン(数平均分子量2000)39.49部、トルエン20部、炭酸カリウム8.63部を、窒素導入口と排出口を持った3つ口フラスコに入れ、これをディーン・スタークス・トラップに誘導し窒素置換を行い、110℃で6時間加熱環流を行った。反応に伴う水の流出が終了したのを確認後、トルエンを留去し、新たにN,N−ジメチルアセトアミド20部を加え、フラスコ内を窒素置換後、160℃で15時間加熱撹拌し、反応せしめた。得られたポリマーをクロロホルムで抽出、メタノールより再沈殿後、水で煮沸洗浄し、乾燥した。120mgのポリマー(ポリエーテル/ポリスルホン共重合体)をフェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4)10mlに溶解させ、還元粘度を測定したところ2.55であった。また、このポリマーの数平均分子量は約49600(ポリスチレン換算)であった。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表1】
1)略号はそれぞれ下記構造式に対応する。
【0054】
【化7】
【0055】
[参考例2(ポリエーテル/ポリスルホン共重合体の製造)]
参考例1と同様の操作により、種々のポリエーテル/ポリスルホン共重合体を製造した。重合した一連のポリマーに関して、結果を表1に示す。
【0056】
[参考例3(ポリエーテル/ポリアリールエーテルケトン共重合体の製造)]
ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン10.00部、ビス(4−フルオロ)ベンゾフェノン8.12部、α,ω−ビス(2−クロロエトキシ)ポリオキシエチレン(数平均分子量約2000)38.75部、トルエン20部、ジフェニルスルホン20部、炭酸カリウム7部を、窒素導入口と排出口を持った3つ口フラスコに入れ、これをディーン・スタークス・トラップに誘導し窒素置換を行い、110℃で6時間加熱環流を行った。反応に伴う水の流出が終了したのを確認後、トルエンを留去し、新たにジフェニルスルホン10部を加え、フラスコ内を窒素置換後、200℃で15時間加熱撹拌し、反応せしめた。得られたポリマーをクロロホルムで抽出、メタノールより再沈殿後、水で煮沸洗浄し、乾燥した。120mgのポリマー(ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルケトン共重合体)をフェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4)10mlに溶解させ、還元粘度を測定したところ1.52であった。また、このポリマーの数平均分子量は約32000(ポリスチレン換算)であった。結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
1)略号はそれぞれ下記構造式に対応する。
【0059】
【化8】
【0060】
[参考例4(ポリエーテル/ポリアリールエーテルケトン共重合体の製造)]
参考例3と同様の操作により、種々のポリエーテル/ポリアリールエーテルケトン共重合体を製造した。重合した一連のポリマーに関して、結果を表2に示す。
【0061】
[実施例1〜8、比較例1]
(医療用多層成型体の製造)
(1)プライマーによる被覆
医療用グレードのポリ塩化ビニルからなる平膜(重合度1100のポリ塩化ビニル100重量部にCa-Zn系安定化剤0.5重量部、ジオクチルフタレート10重量部、エポキシ化大豆油5重量部を配合したものを、加熱して厚さ1mmのシート状に成型した)を、重合開始剤としての2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンを1重量%溶解したメチルアクリレートに浸漬した。一分間放置後、平膜を取り出し、紫外線重合(10kWUV、照度18.6mW/cm2、東芝KUV、30分)することによりポリメチルアクリレートによりポリ塩化ビニルをプライマー被覆した(厚さ0.5μm)。ポリ塩化ビニル表面とポリメチルアクリレートとの密着性は良好であった。
【0062】
(2)ポリエーテル/ポリスルホン共重合体による被覆
上記参考例1〜2で製造した各ポリエーテル/ポリスルホン共重合体の1.0重量%1,3−ジオキソラン/エタノール(40/60)混合溶媒溶液を調整し、これに(1)でプライマー処理したポリ塩化ビニル平膜を浸漬した。一分間放置後、平膜を取り出し、溶媒雰囲気下で一晩放置することにより溶媒を揮散させ、共重合体で被覆した。また別に上記参考例3〜4で製造した各ポリエーテル/ポリアリールエーテルケトン共重合体の1.0重量%DMAc(N,N−ジメチルアセトアミド)溶液を調整し、これに(1)でプライマー処理したポリ塩化ビニル平膜を浸漬した。一分間放置後、平膜を取り出し、5重量%のDMAc水溶液中に移し溶媒を水抽出して平膜をポリマーで被覆した。ポリメチルアクリレートとポリアルキルアリールエーテル系共重合体との密着性は良好であった。
【0063】
(蛋白質吸着量の評価)
抗血栓性医療用多層ポリ塩化ビニル平膜へのタンパク質吸着の定量をMicroBCA法により行った。これは銅イオンおよび下記構造で示されるBCA蛋白検出試薬を用いたキットによる蛋白定量法である。
【0064】
【化9】
【0065】
試料中に存在する蛋白により一価に還元された銅イオンのみが、この試薬とキレート反応を行い発色(570nm)するため、サンプルの吸光度測定より蛋白濃度(アルブミン換算)を定量することができる。
【0066】
評価にあたっては、コントロールポリマーとして未処理のポリ塩化ビニル平膜を比較実験として用いた。
【0067】
ヒト貧血小板血漿(PPP)を用い、コントロールポリマーである未処理ポリ塩化ビニル平膜、およびプライマー処理後に上記共重合体で被覆した本発明の医療用多層材料であるポリ塩化ビニル平膜をこの血漿溶液に接触したときの蛋白吸着量を分光定量した。評価に際しては、PPPをリン酸緩衝液で所定濃度(5重量%リン酸緩衝液溶液)に調製したものを37℃、一時間ポリマー試料へ接触させ、吸着蛋白を1重量%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液で抽出、MicroBCAキットを用い、常法により発色させ、吸光度から吸着量を見積った。結果を表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
本発明の医療用多層成型体は、従来のポリ塩化ビニルに比べ、有意な蛋白吸着抑制を示した。
【0070】
(ヒトPRPを用いたポリマー表面への血小板粘着のSEM観察)
一般に、重篤な血栓形成の前段階である血小板の粘着、凝集には,材料表面へ吸着するタンパク質の種類及びその表面における配向が大きく関与することが知られている.そして粘着した血小板の活性化(変形、顆粒放出)がその後の凝集、血小板血栓形成、凝固因子系の反応促進に影響する.従って血液(全血又は成分血)と接触した後の材料表面における血小板の粘着状態を観察することで、そのポリマーの血液適合性の程度を大まかに見積もることができる.ここではヒト多血小板血漿(PRP)を用い、PRP接触後のポリマー表面の血小板粘着挙動をSEMにより観察した.PRPはヒト上腕部静脈より採取した新鮮血に3.5重量%クエン酸三ナトリウム水溶液を1/9容加え、1000r.p.m.で10分遠心分離した上澄みを調製した.サンプルは先述の、プライマー処理後にポリエーテル/ポリスルホン共重合体又はポリエーテル/ポリアリールエーテルケトン共重合体で被覆した抗血栓性医療用多層ポリ塩化ビニル平膜(直径15mm、厚さ0.1mm)、並びにコントロールポリマーとして未処理のポリ塩化ビニル平膜平膜(直径15mm、厚さ0.1mm)を比較実験として用いた。
【0071】
これらを培養シャーレ(Falcon,24well)中、0.7mlのPRPと37℃、3時間接触した.接触後のポリマーサンプルは蒸留水でよく洗浄し、2.5重量%グルタルアルデヒド水溶液で室温下二時間かけて固定し、凍結乾燥後、金蒸着して観察試料とした.
表3にPRP接触後の各種ポリマー表面の血小板粘着量を併記した.先の検討により、タンパク吸着抑制が低いポリ塩化ビニルでは、多くの血小板が表面に粘着が認められた.一方、タンパク吸着抑制能の高い上記共重合体を表面被覆した医療用多層材料は、オリジナルのポリ塩化ビニルと比較して明らかな血小板粘着抑制が見られた。
【0072】
以上の結果より、タンパク吸着抑制能に優れた本発明の医療用材料(プライマー処理後にポリアルキルアリールエーテル系共重合体で被覆されたポリ塩化ビニル)では、既存のポリ塩化ビニル平膜に比べ、血小板の粘着を有意に抑制することが明らかとなった.
これにより、ビニル系ポリマーによりプライマー処理することで、抗血栓性に優れたポリエーテル/ポリスルホン共重合体又はポリエーテル/ポリアリールエーテルケトン共重合体との接着性が向上したポリ塩化ビニル表面は、該共重合体を被覆することで、優れた抗血栓性を示し、本発明によりポリ塩化ビニルから成る血液適合性に優れた医療用多層材料を提供できることが明らかになった。
Claims (5)
- ポリ塩化ビニルからなる医療用材料(A)とポリアルキルアリールエーテル系共重合体から形成された層(B)とからなる医療用成型体であって、
(i)ポリアルキルアリールエーテル系共重合体が下記式(1)
で表わされる繰返し単位および下記式(2)
で表わされる繰返し単位からなり、上記式(2)で表わされる繰返し単位が平均して一分子中に少なくとも2個存在し、上記式(1)および(2)の繰返し単位の合計重量に基づき、上記式(2)中の―(―OR―)n―で示される単位が10〜90重量%を占め、そしてフェノール/1,1,2,2―テトラクロロエタンの重量比が6/4の混合溶媒中、ポリマー濃度1.2g/dl、温度で35℃で測定した還元粘度が少なくとも0.5dl/gであり、かつ
(ii)(A)と(B)の間にアクリル系ポリマーからなる層(C)を有する、
血液と接触して使用されるための医療用多層成型体。 - 上記式(1)および(2)において、Zが−SO2−であり、Ar 1 、Ar 2 およびAr 3 がp−フェニレンである請求項1記載の医療用多層成型体。
- 上記式(1)および(2)において、Zが−CO−であり、Ar 1 、Ar 2 およびAr 3 がp−フェニレンである請求項1記載の医療用多層成型体。
- ポリアルキルアリールエーテル系共重合体から形成された層(B)の厚さが10nm〜10μmである請求項1〜3のいずれかに記載の医療用多層成型体。
- ポリ塩化ビニル系重合体よりなる成型物の表面に、アクリル系モノマーを塗布し、重合することにより厚さ200nm〜30μmのアクリル系ポリマー層を形成した後、この成型体表面に、請求項1に記載のポリアルキルアリールエーテル系共重合体と溶媒とからなる溶液組成物を塗布して厚さ10nm〜10μmの層を形成し、血液と接触して使用される部分を持つ医療用材料を生成せしめる、ことを特徴とする医療用多層成型体の製造方法。
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