JP3992370B2 - 抗血栓性に優れた高分子組成物およびそれからなる医療用材料 - Google Patents

抗血栓性に優れた高分子組成物およびそれからなる医療用材料 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は抗血栓性に優れた高分子組成物およびそれを用いた医療用材料に関する。さらに詳しくは溶解性パラメーターが9.0〜10.4の範囲にある特定のポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体とポリ塩化ビニルとからなる抗血栓性に優れた高分子組成物、およびそれを用いた血液と接触して使用するための医療用材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、合成高分子材料は、人工臓器、カテーテルをはじめとする医療用材料に広く用いられている。その代表的なものは、医療用高分子材料としてはポリエステル、ポリスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、シリコーン樹脂、ポリメタクリル酸エステル及び含フッ素樹脂などの疎水性高分子や、ポリビニルアルコール、ポリエーテルウレタン(セグメント化ポリウレタン、SPU)、ポリ(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル)およびポリアクリルアミドなどの親水性高分子である。このうち疎水性高分子材料は生体親和性において、また親水性高分子は機械的強度において何れも満足できるものではない。これら従来の材料の大部分が、主にその物理的、機械的特性に着目して使用されてきた中において、SPUに関しては、比較的抗血栓性に優れることが知られている。中でもBiomerR、CardiothaneRなどは人工心臓への応用が試みられたが、なお十分な効果を得るには至らなかった(E.Nylas,R.C.Reinbach, J.B.Caulfield,N.H.Buckley, W.G.Austen; J.Biomed.Mater.Res.Symp.,3,129(1972)、L.P.Joyce,M.C.Devries, W.S.Hastings,D.B.Olsen,R.K.Jarvik,W.J.Kolff; Trans.ASAIO, 29,81(1983))。
【0003】
これらセグメント化ポリウレタンは、剛直な芳香族ウレタン結合部位と柔軟なポリエーテル結合部位の間のミクロ相分離構造により血小板粘着が抑制されるが、その効果は十分ではない。特にウレタン結合やウレア結合のように水素結合性の部分構造は、分子鎖の剛直性向上に寄与するものの、主鎖の極性基間の相互作用が強いため、疎水性相互作用を軽減しうる水分子の水和が阻害される。従って血中タンパクが吸着した際にタンパクの変性を誘起、血小板粘着を促進することが報告されている。そもそも一般に水酸基、アミノ基といった極性部位は、血液接触時に補体活性化(第二経路)を誘発し、フィブリン形成促進による血栓形成の要因ともなる。その他ポリエステル系ポリマーでは、PEO(ポリエチレンオキシド)/PBT(ポリブチレンテレフタレート)共重合体が、血液適合性に優れた生体適合ポリマーとして知られているが(特開昭60−238315号公報)、これも高い加水分解性、およびそれに伴う低分子溶出物及びオリゴマーの体内への漏洩など、化学的な安定性にかける欠点があり、実用上問題が大きい。
【0004】
ポリマー表面を親水/疎水ミクロドメイン構造とすることで血小板粘着を抑制して抗血栓性を発現するという材料設計が、HEMA(2-hydroxyethylmethacrylate)-Styrene-HEMAブロック共重合体等で知られている(C.Nojiri,T.Okano,D.Grainger,K.D.Park,S.Nakahama,K.Suzuki,S.W.Kim,Trans. ASAIO,33,596(1987))が、これも高価格であり、また脆く、溶融成型、湿式成型も困難であるなど実用上の問題が大きい。最近では表面エネルギーの小さな(疎水性の大きい)フルオロアルキル基等をミクロドメイン構造の疎水性ドメインに適応することで、表面エネルギーの大きな親水性ドメインとの相分離状態を安定化し、より血液適合性を向上させる試みがなされているが、なお加工性の問題は解決されてない。また生体膜類似表面構造を有するMPC(2-methacryloyloxyethylphosphoryl choline)-BMA(buthylmethacrylate)共重合体が抗血栓性に優れることも示されたが(K.Ishihara, R.Aragaki,T.Ueda,A.Watanabe,N.Nakabayashi,J.Biomed.Mater.Res.,24,1069(1990))、これも成型加工性、価格等に問題がある。
【0005】
一方、医療技術の進歩に伴って、生体組織や血液と材料が接触する機会は増加しており、材料の生体親和性が大きな問題になってきた。中でも蛋白質や血球などの生体成分が材料表面に吸着し変性することは、血栓形成、炎症反応等の通常では認められない悪影響を生体側に引き起こすばかりでなく、材料の劣化にもつながり、医療用材料の根本的かつ緊急に解決せねばならない重要な課題である。とりわけ、血液の体外循環に用いる血液回路や血管内に挿入するカテーテルなどの部材は、外科的医療必要不可欠なものであり、これらの技術の進展に大きく貢献してきた。それらの素材の機械的物性が部材としての要求特性に大きく考慮されてきた一方で、血液適合性については全く改善されず、主にヘパリンなどの抗凝固剤の血中投与により、かろうじて血液凝固などの異物反応を抑制していた。しかしながら、最近ヘパリンの長期継続投与による脂質代謝異常などの肝臓障害、出血時間の延長あるいはアレルギー反応等の副作用を併発することが認められている。このような観点から、これら血液接触型医療器材使用の際に抗凝固剤の使用量を低減させるか、あるいは全く使用しなくても血液凝固を引き起こさない、すなわち、抗血栓性を備えた素材の開発が強く望まれるようになってきた。一般に、これらの部剤には屈曲性、耐圧性等の機械的特性に優れた軟質ポリ塩化ビニルが多用されている。この軟質ポリ塩化ビニルも血液適合性に問題があり、その改善が検討されてきた。軟質ポリ塩化ビニルは、添加剤としてフタル酸ジオクチル等の可塑剤を含有し、このため溶媒を用いた抗血栓ポリマーの表面被覆では、用いる溶媒によっては可塑剤の溶媒への漏出が問題となり、また表面にうまく被覆できても、抗血栓ポリマーとの親和性が低く、使用時にポリマーの剥離などを起こしてしまう。過去にこの問題を解決すべく、特公平2−35580号公報では、軟質ポリ塩化ビニルとポリエーテルエステルをブレンドすることで抗血栓性に優れたミクロンサイズのアロイが得られることが開示されているが、このものはポリエーテルエステルの加水分解による溶出物の体内漏洩の問題が解決されていない。また血液適合性そのものも卓越して優れているとは言えない。特許第2568108号では、抗血栓ポリマーとしてポリビニルアルコール系共重合体を用い、軟質ポリ塩化ビニルの表面にビニルアルコールと塩化ビニルの共重合体をグラフトすることで抗血栓性ポリマーの接着性を高めているが、現在ではポリビニルアルコールそのものが満足な血液適合性を有していないことが知られており、より優れた抗血栓ポリマーの表面固定化が望まれる。また抗血液凝固性に優れたヘパリン等の生理活性物質を表面へ化学的に固定する報告もなされているが、工程の煩雑さや、生理活性分子の化学的不安定性による効果の持続性の問題が解決されておらず、実用には至っていない。
【0006】
ところで、本発明者らは、血液適合性(特に抗血栓性)、生体安全性、経済性、溶剤溶解性等を考慮した医療用血液適合性ポリマーの検討を行ったところ、適当な鎖長から成るポリエチレングリコールと疎水性のモノマーから得られる共重合体、即ち、ポリエチレングリコールと共重合するハード成分であるポリ(芳香族ポリスルホン)またはポリ(芳香族ポリアリールエーテルケトン)の共重合体において、ポリエチレングリコール単位数、疎水性ハード成分の種類、およびこれらの共重合組成の制御したポリエーテル/ポリスルホン共重合体またはポリエーテル/ポリアリールエーテルケトン共重合体が血液適合性(特に抗血栓性)に優れることを既に見い出している。これらのポリアルキルアリールエーテル系共重合体は、溶融成形のみならず、種々の有機溶媒へ可溶であり、他の汎用高分子へブレンドしたり、表面をコートすることにより、幾つかの汎用高分子の血液適合性を改善できることも示された。これら本発明者らが開発した血液適合性ポリアルキルアリールエーテル系共重合体を、直接ポリ塩化ビニル上へ表面被覆してみたが、やはり被覆ポリマーのポリ塩化ビニルへの親和性が低く、部分的な剥離を生じた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、医療用素材として優れた物性を有するポリ塩化ビニルを対象にして、コスト、成型性等の面で実用的であり、かつ抗血栓性を改善した医療用複合材料、ならびにそれを用いた血液接触用素材を提供することにある。そしてそのために、抗血栓性に優れたポリアルキルエーテル系共重合体をポリ塩化ビニルと何らかの方法により複合化し、その機械的特性を損なわずに抗血栓性を向上する方法を提示することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、血液適合性(特に抗血栓性)、生体安全性、経済性、溶剤溶解性等を考慮し、ポリ塩化ビニルの抗血栓性を改善することを検討した。その結果、ポリマーの溶解性パラメーターが9.0〜10.4の範囲にある特定のポリアルキルエーテル系共重合体を少量混合したポリ塩化ビニル組成物は、これを成形することにより得られた膜表面に該共重合体が有効に偏析され、ポリ塩化ビニルに抗血栓性を付与できることを見出した。即ち、抗血栓性に優れる、ソフト成分であるポリオキシアルキレングリコールとハード成分であるポリアリールエーテルスルホンとの共重合体において、ポリオキシアルキレングリコール単位数、疎水性であるハード成分の種類、およびこれらの共重合組成の制御等を詳細に検討した結果、適当な鎖長から成るポリオキシアルキレングリコールとアリールモノマーから得られる、ポリアルキルエーテル系共重合体をポリ塩化ビニルに少量配合することにより、得られるポリ塩化ビニル組成物は溶媒成膜、または溶融成型することでポリ塩化ビニルの機械的特性を維持したまま、それらの抗血栓性を大幅に向上した医療用ポリ塩化ビニル組成物が得られ、前記の問題点が解決できることを見出し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、下記式(1)〜(3)
【化2】
−(−Ar−X−Ar−O−)− ・・・(1)
−(−Ar−Y−Ar−O−)− ・・・(2)
−(−RO−)k− ・・・(3)
(ここで、Xは−SO−であり、Ar、Ar、Ar及びArはそれぞれ独立に、p−フェニレン基、m−フェニレン基、Yは、フッ化炭素基であり、Rは炭素数2〜3のアルキレン基であり、kは(RO)kで示されるポリオキシアルキレン構造の分子量が2000〜20000となるような単位繰り返し数である。)で示される繰り返し単位から実質的になり、上記式(1)、(2)及び(3)で表される繰り返し単位の合計量に基づく、上記式(3)で表わされる繰り返し単位の含有量が重量比で10〜90重量%の範囲内であり、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン6/4(重量比)混合溶媒で濃度1.2g/dl、35℃で測定した還元粘度が0.5以上であり、かつ溶解性パラメーターが9.0〜10.4の範囲であるポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)1〜50重量部、及びポリ塩化ビニル(B)99〜50重量部とから構成されていることを特徴とする抗血栓性に優れた高分子組成物である。
【0010】
また本発明は、上記ポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)1〜50重量部、及びポリ塩化ビニル(B)99〜50重量部とから構成されている高分子組成物を、血液と接触して使用するための医療用材料を製造するための素材としての使用である。
【0011】
また本発明は、血液と接触して使用されるための医療用材料であって、少なくとも血液と接触して使用される表面を持つ部分は、上記ポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)1〜50重量部、及びポリ塩化ビニル(B)99〜50重量部とから構成されている高分子組成物を素材として形成されている医療用材料である。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明に用いるポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)は、上記式(1)〜(3)で示される部分構造より主として構成される。
【0013】
上記式(1)、(2)においてAr、Ar、ArおよびArはそれぞれ独立に、p−フェニレン基、m−フェニレン基である。
【0014】
上記式(1)において、Xは−SO−である。
【0015】
上記式(2)において、Yは、フッ化炭素基である。フッ化炭素基としては、炭素数2から6のフッ素化アルキル基が好ましく、フッ素数は1〜6、好ましくは2〜5であり、アルキル基の炭素数は好ましくは2、3である。具体的なYの構造としては、1,3−ジフルオロイソプロピリデン、1,1,3−トリフルオロイソプロピリデン、1,3,3−トリフルオロイソプロピリデン、1,1,3,3−テトラフルオロイソプロピリデン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロイソプロピリデン、1,1,3,3,3−ペンタフルオロイソプロピリデン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピリデン、トリフルオロメチルメチレンなどがあげられる。このうちYとしては、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピリデン、トリフルオロメチルメチレンが好ましい。
【0016】
上記式(3)において、Rは炭素数2〜3のアルキレン基を示し、具体的には、エチレン、プロピレン等を例示することができる。Rとしてはこれらのうち、エチレンが好ましい。Rは単独の構造でもよいし、二種以上の構造から構成されていてもよい。また、kは(RO)kで示されるポリオキシアルキレン構造の分子量が、400〜20000となるような繰り返し単位数を示す。ポリオキシアルキレン構造の分子量は、好ましくは600〜15000、より好ましくは800〜10000、特に好ましくは1000〜6000である。
【0017】
上記ポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)は、上記式(3)で表わされるポリオキシアルキレン構造の含有量が共重合体(A)に対し、10〜90重量%の範囲である。該ポリオキシアルキレン構造の含有量が重量比10%以下では共重合体(A)の疎水性が高すぎ、乾燥膜状態での水への濡れが充分ではない。また90%以上では親水性が高すぎるため、水中への溶出、著しい膨潤が起こり機械的強度も十分ではない。該ポリオキシアルキレン構造の含有量は、好ましくは30〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%である。
【0018】
上記ポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)は、好ましくは上記式(2)で表わされる繰り返し単位に基づく、上記式(1)で表わされる繰り返し単位の割合がモル比で30〜60%の範囲内である。かかる範囲内であることによって、良好な抗血栓性を示す。かかる割合は、より好ましくはモル比で40〜55%であり、さらにより好ましくは43.5〜49.9%である。
【0019】
上記ポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)は、該共重合体の溶解性パラメーターδが9.0〜10.4の範囲にあるものである。ここでδは下記式(4)で示される。
【0020】
【化3】
δ=ρ・ΣFi/M (4)
ただしρはポリマーの密度、Mはポリマーの繰り返し単位構造の分子量、ΣFiはモル吸引力定数で各部分構造に固有の値である。
【0021】
すなわち物性が既知のポリマーではこれら各変数も公知であり、δを容易に求めることができる(例えば、書籍:「ポリマーブレンド」、秋山三郎、井上隆、西敏夫 共著、株式会社シーエムシー、文献:K.L.Hoy,J. Paint Technol,42,76(1970))。ポリ塩化ビニルの場合、δ=9.44であり、即ちこれに近いδを持つポリマーほど、ポリ塩化ビニルと相溶し易いといえる。一般に相溶性が高いポリマーブレンドほど、一方のポリマーの機械特性が低下しにくいと考えられ、そういう点から上記ポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)のδはポリ塩化ビニルに近いほど好ましく、数値としてδ=9.0〜10.4の範囲が好ましい。δがこの範囲より小さすぎても大きすぎても、ポリ塩化ビニルとの相溶性が不十分で両者は微細に(サブミクロンオーダーで)混合分散したブレンド体を形成せずに巨視的(ミクロンオーダー以上のサイズ)で分離し、その機械的特性が損なわれるため好ましくない。またδの変数としてポリマー密度が入るため、δをポリマーの構造のみから予測するのは困難であるが、上記ポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)の場合、δを上記範囲に設定するにはAr〜Arとしてp−フェニレン基が好ましく、Yとしては1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピリデン基が好ましく、上記式(3)におけるRはエチレンが好ましく、kは(RO)kで示されるポリオキシアルキレン構造の分子量が、2000〜4000が好ましく、上記式(3)で表わされるポリオキシアルキレン構造の含有量がポリアルキルエーテル/ポリフルオロアリールエーテルスルホン共重合体に対し、50〜70重量%の範囲である。
【0022】
上記ポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)は、例えば下記式(5)〜(7)
【化4】
Z- Ar1- X - Ar2- Z (5)
HO - Ar3- Y- Ar4- OH (6)
Z- ( -RO -)k-1-R-Z (7)
で表されるビス(ハロアリール)スルホン、ジヒドロキシフルオロアルケニルアリール化合物およびα,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレン化合物を、アルカリの存在下、加熱反応させることによって効率よく製造することができる。
【0023】
上記式(5)はビス(ハロアリール)スルホンを表わす。ここで、Ar、Arはp−フェニレン基、m−フェニレン基であり、Zは塩素、臭素、およびヨウ素原子があげられ、塩素原子が好ましい。
【0024】
上記式(5)で表されるビス(ハロアリール)スルホン化合物としては、例えばビス(4−クロロフェニル)スルホン、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン、ビス(3−クロロフェニル)スルホン、ビス(3−フルオロフェニル)スルホン、ビス(3,4−クロロフェニル)スルホン、ビス(3,4−フルオロフニル)スルホン等を挙げることができる。
【0025】
上記式(6)は、ジヒドロキシアリール化合物を表わす。ここで、Ar、Arはp−フェニレン基、m−フェニレン基である。
【0026】
上記式(6)で表されるジヒドロキシアリール化合物としては、例えば4,4’−(1,3−イソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェノール等を挙げることができる。
【0027】
上記式(7)はα,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレン化合物を表わす。ここで、Rは炭素数2〜3のアルキレン基であり、上記式(3)において述べたものと同様のものを例示することができる。kは(RO)kで示されるポリオキシアルキレン構造の分子量が400〜20000となるような単位繰り返し数を示す。Zは上記と同様の塩素、臭素、およびヨウ素原子があげられ、このうち塩素または臭素原子が好ましい。
【0028】
上記式(7)で表されるα,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレン化合物としては、例えばα,ω−ビス(2−ブロモエトキシ)ポリオキシエチレン、α,ω−ビス(2−クロロエトキシ)ポリオキシエチレン、α,ω−ビス(2−ブロモ−1メチルエトキシ)ポリオキシイソプロピレン、α,ω−ビス(2−クロロ−1メチルエトキシ)ポリオキシイソプロピレン、及びポリオキシエチレンとポリオキシイソプロピレンのブロック共重合体のα,ω−ビスブロモ及び/またはクロロ体を挙げることができる。
【0029】
本発明で使用する上記α,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレンは種々の方法で合成することができるが、具体的には以下の方法が代表的である。
【0030】
(i)ポリオキシアルキレングリコールとハロゲン化リンとを塩基存在下で反応させる。
【0031】
(ii)ポリオキシアルキレングリコールとハロゲン化チオニルとを塩基存在下で反応させる。
【0032】
上記(i)の方法においては、相当するポリオキシアルキレングリコールと塩基とを任意の溶媒の存在下、ハロゲン化リンを滴下混合し、その後加熱撹拌することによって合成することができる。ここでポリオキシアルキレングリコールのモル数を(A)、ハロゲン化リンのモル数を(B)とするとき、下記式(8)
[数1]
0.75≦(B)/(A)≦2 (8)
を満たすようにする。ここで(B)/(A)の値が大きすぎるとハロゲン化リンの量が多すぎて無駄になり、小さい場合は収率よく所定の物質が得られない。また、この方法で用いるハロゲン化リンは、反応性の点から三臭化リンであることが好ましい。
【0033】
溶媒としては、これらの反応成分が溶解混合し、かつハロゲン化リンと反応する官能基、例えばヒドロキシル基、一級、二級アミノ基等を含有しないものであればよく、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、二硫化炭素等を例示できるが、溶解性、反応操作の簡便性の点から、塩化メチレンを用いることが好ましい。
【0034】
かかる溶媒の量としては、反応基質の総重量に対する重量比で1.0〜10.0倍、さらには2.0〜5.0倍であることが好ましい。これより溶媒の量が少ないと、反応基質が析出してしまい、これより溶媒量が多いと生成物の精製操作が煩雑になったり、反応効率が低下する恐れがある。
【0035】
塩基としては、公知の有機塩基を用いることができ、例えばピリジン、トリエチルアミン、N,N’−テトラメチルエチレンジアミン、HMPA(ヘキサメチルリン酸トリアミド)、DBU(1、8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7)などを例示できるが、ピリジンを使用することが好ましい。
【0036】
かかる塩基はハロゲン化リンに対して1.5〜3.0等量程度用いるが、最適量は塩基の種類、および前記(8)式の(B)/(A)の値などの反応条件によっても異なる。例えば塩基としてピリジンを用い、溶媒として塩化メチレンを使用し、(B)/(A)=0.75となるようにして反応する場合には、ピリジンはハロゲン化リンに対して3.0等量程度用いるのが好ましい。
【0037】
反応温度は、溶媒から原料成分が晶析しなければ室温以下でもかまわず、また100℃以下の沸点を有する溶媒を用いる場合、溶媒環留温度で反応させてもかまわない。ただし反応初期にハロゲン化リンを塩基とポリオキシアルキレングリコールの混合溶液に滴下する際は、急激に発熱し、操作上突沸等の危険を伴う可能性があるので、滴下時は氷冷下0〜5℃に保つのが好ましい。また反応温度が100℃を超える場合、副反応を起こし目的物質の収量が減少し、温度が低すぎると反応速度が低下する。ハロゲン化リンとして三臭化リンを用いる場合、反応温度は30〜50℃が好適である。
【0038】
上記(ii)の方法においては、相当するポリオキシアルキレングリコールと塩基とを任意の溶媒の存在下、まず第一段階のハロゲン化チオニルを滴下混合して反応させ、その後さらに第二段階として等量のハロゲン化チオニルを加え加熱撹拌することによって合成することができる。第一、第二段階の反応はそれぞれ下記式(9)、(10)で表される。
[数2]
nHO-(-RO-)k-OH + nSOX2 → -[O-(RO-)k-OS(O)]n- +2nHX (9)
-[O-(RO-)k-OS(O)]n- + nSOX2 → nX-(-RO-)k-X + 2SO2 (10)
従って、ポリオキシアルキレングリコールのモル数を(A)、ハロゲン化チオニルのモル数を(B1、第一段階でのモル数)、(B2、第二段階でのモル数)とするとき、下記数式(11)、(12)
[数3]
(B1)/(A)=1 (11)
(B2)/(A)=1 (12)
を満たすように反応条件を設定する。すなわち全体として塩化チオニルはポリオキシアルキレングリコールの二倍モル等量用いればよい。ここで(B)/(A)の値が大きすぎるとハロゲン化チオニルの量が多すぎて無駄になり、小さい場合は収率よく所定の物質が得られない。また、この方法で用いるハロゲン化チオニルは、反応性の点から塩化チオニルであることが好ましい。
【0039】
溶媒としては、前記(i)の方法同様、これらの反応成分が溶解混合し、かつハロゲン化チオニルと反応する官能基、例えばヒドロキシル基、一級、二級アミノ基等を含有しないものであればよく、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、二硫化炭素等を例示できるが、溶解性、反応操作の簡便性の点から、塩化メチレンを用いることが好ましい。
【0040】
溶媒の量、反応温度についても、前記(i)の方法に準ずる。
用いる塩基の種類も前記(i)の方法に準ずるが、ピリジンを使用することが好ましい。塩基は第一段階の反応で加えたハロゲン化チオニルに対して、2.0等量程度か若干過剰量(2.1等量)用いるが、第二段階の反応においては塩基を追加する必要はない。第一段階の反応における塩基添加量の最適量は塩基の種類によるが、原理的に複製する塩酸を中和できる理論量であればよい。例えば塩基としてピリジンを用い、塩化チオニルでポリオキシアルキレングリコールを塩素化する場合には、ピリジンは第一段階で加えたハロゲン化チオニルに対して2.0等量程度用いるのが好ましい。
【0041】
本発明によれば、このようにして得られる上記式(7)で表されるα,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレンを用いて、これとビス(ハロアリール)スルホンおよびジヒドロキシフルオロアリール化合物をアルカリの存在下、加熱反応させることによって目的の共重合体(A)を製造することができる。
【0042】
反応は、上記式(5)と(7)で表されるビス(ハロアリール)スルホンとα,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレンのモル数の和が、上記式(6)で表されるジヒドロキシアリール化合物のモル数と等量となるように仕込んで混合し、適当な溶媒の存在下、アルカリと共に反応せしめる。ビス(ハロアリール)スルホンとα,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレンのモル比を変えることで、種々の組成のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体を得ることができる。加熱反応温度は120〜400℃が好ましく、より好ましくは160〜350℃である。反応温度が400℃より高いと副反応が起こったり、原料の分解が起こりやすく、また120℃より低いと反応が遅くなる。
【0043】
反応に用いるアルカリとしては、アルカリ金属炭酸塩または水酸化物が好ましく、例えば炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等をあげることができる。中でも炭酸塩、特に炭酸カリウムが好ましい。アルカリの量は、反応中に発生するハロゲン化水素を実質的に中和する量であることが必要であるが、実際は理論量よりも5%程度多くても、少なくても、反応させることができる。反応には適当な可塑剤、溶媒を用いることもできる。適当な溶媒を例示すれば、ジフェニルスルホン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド等を用いることができるが、中でもN,N−ジメチルアセトアミド、ジフェニルスルホンが好ましい。
【0044】
反応に際してその促進のために添加剤を加えることができる。かかる添加剤の例として金属またはその塩、包接化合物、キレート剤、有機金属化合物などをあげることができる。
【0045】
かくして得られる上記ポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)は、上記式(1)〜(3)で表される繰り返し単位を有するが、これを言い換えると、ポリオキシアルキレン構造が共重合した芳香族ポリアリールエーテルスルホンであり、下記式(13)および(14)
【化5】
-(-Ar-SO2-Ar1-O-Ar2-Y-Ar3-O-)- (13)
【化6】
-(-RO-)k -Ar2-Y-Ar3-O- (14)
で表される繰り返し単位から主としてなる共重合体であり、かつ上記式(13)と(14)で表される繰り返し単位の合計重量のうち、ポリオキシアルキレン構造(−(−RO−)−)の重量割合が10〜90重量%、即ちポリオキシアルキレン構造(−(−RO−)−)がポリマー全体の10〜90重量%である。
【0046】
上記ポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)は、還元粘度が0.5以上、好ましくは1.0〜5.0である。還元粘度が0.5未満の場合には、ポリマーの機械的強度が不充分となり好ましくない。なお、ここでいう還元粘度は、フェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4)中、ポリマー濃度1.2g/dl、温度35℃で測定される値をいう。
【0047】
上記共重合体(A)は、その目的に応じてポリオキシアルキレン構造の分子量、共重合組成を任意に変化させることができる。
【0048】
なお本発明において、上記共重合体(A)は、その性質が本質的に変化しない範囲(例えばポリマーの20重量%以下、好ましくは10重量%以下)で他の成分を共重合成分として含有していてもよい。共重合させる他の成分としては、例えば、エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位として含有するポリエステル、ブチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位として含有するポリエステル、ジフェニルスルホンを主たる繰り返し単位として含有するポリエーテルスルホン、ジフェニルスルホンとビスフェノールAの縮合物を主たる繰り返し単位として含有するポリスルホン、ビスフェノールAの炭酸エステルを主たる繰り返し単位として含有するポリカーボネート等を挙げることができる。
【0049】
上記ポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)は、ヒト血漿に37℃で一時間接触した時のMicroBCA法により測定した蛋白吸着量が非常に少なく、0.7μg/cm以下であり、血漿溶液に接したときの血液中の蛋白および血小板の粘着等に対して優れた吸着抑制効果を有する。この理由については、以下のように考えられる。上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体は、剛直部位で疎水性の大きなポリアリールスルホン(ハード成分)及びポリマー主鎖中に固定された親水性ポリオキシアルキレンユニット(ソフト成分)を有しており、これら親水性セグメントと疎水性のポリアリールスルホンセグメント双方は熱力学的にのみならず、巨視的に相分離した表面構造を特徴とする。かかるポリマーには主鎖中に水素結合供与基が存在しないため、主鎖間の相互作用が小さく、該親水性ポリオキシアルキレンユニットのドメインには、疎水性相互作用を逓減しうる水分子の接触が容易に起こる。従ってドメインのパターンに基づく生体蛋白の表面への選択的吸着が起こり、吸着蛋白は表面で変性することがない。この結果、ポリマー表面は正常蛋白が単分子層で表面吸着した状態となり、それ以上の生体成分(赤血球、白血球および血小板)の粘着が抑制される。また補体活性化、血栓形成、細胞膜損傷等の有害な生体反応を回避できる。かかる蛋白吸着量は少ないほど望ましいが、0.3〜0.7μg/cmの範囲にあれば実際的に十分効果がある。
【0050】
こうして調製したポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)は、種々の方法によりポリ塩化ビニル(B)と混合されて本発明の抗血栓性に優れた高分子組成物が提供される。
【0051】
上記共重合体(A)を混合するポリ塩化ビニル(B)としては、数平均分子量30,000〜1,000,000の素材であれば良く、特に医用材料として広く用いられている医療グレードのポリ塩化ビニルが好ましい。もちろんポリ塩化ビニル(B)は上記共重合体(A)と分子レベルでは均一には混合せず、以下に説明するように、ポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)が大量のポリ塩化ビニルの海の中にサブミクロンオーダーの島状に分散し、更にこの島が凝集しブレンド体の表面に偏析した組成物を形成する。
【0052】
ポリ塩化ビニル(B)への上記ポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)のブレンド比率に関しては、上記共重合体(A)が少なくとも重量比1%以上であるべきであり、1〜50重量%とすることが好ましく、10〜30重量%とすることがより好ましい。上記共重合体(A)のブレンド率が1重量%以下であると、該共重合体(A)の表面偏析絶対量が少なすぎるため、十分な抗血栓化の効果が得られず、また50重量%以上であると、素材の形状によっては本来の物理的特性、使用条件が大きく変化する恐れがある。
【0053】
ブレンド方法に際しては、ポリマーの物性により様々の方法が考えられるが、この高分子組成物は、例えば共重合体(A)とポリ塩化ビニル(B)とを上記所定の割合で有機溶媒に溶解し、しかる後有機溶媒を除去して調製したり、あるいは共重合体(A)とポリ塩化ビニル(B)とを上記所定の割合で溶融混合することにより調製することができる。
【0054】
先述の通り、上記高分子組成物において、共重合体(A)とポリ塩化ビニル(B)とは、分子レベルで均一に混合することはなく、別個の相(ポリ塩化ビニルの海/共重合体の島)をサブミクロンオーダーで形成し、相分離して存在する。
【0055】
ポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)は、親水性のポリオキシエチレン鎖を有しており、基本的に従来の疎水性高分子材料と分子レベルで均一混合することはない。従って得られる高分子組成物(以降ブレンド体を呼ぶことがある)は両ブレンド成分、すなわちポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)とポリ塩化ビニル(B)とはサブミクロンオーダーで相分離した構造を有する。この相分離状態において、上記共重合体(A)はブレンド体の表面(厳密にはキャストフィルム成膜時の空気界面のようなポリマー近傍のバルク界面)に優先して偏析する。偏析の駆動力としては、ポリアリールエーテルスルホンユニット自体のポリ塩化ビニルとの低い相溶性が寄与するほかに、界面が水との接触面であれば、該共重合体の親水性ユニットであるポリオキシエチレン鎖の親水性が、また空気との界面であれば表面自由エネルギーの小さなポリアリールエーテルスルホンユニットの疎水性、疎油性が主として働く。得られたブレンド体は共重合体(A)が表面に偏析しているので、先述の機構により、血液接触時に血液適合性を示すものと推定される。抗血栓性発現にはブレンド体の表面組成について上記共重合体が30重量%以上となるよう高濃度に偏析して存在することが好ましいが、40重量%以上となることがより好ましく、50重量%となるよう偏析することがさらに好ましい。ここで言う表面組成とは、あくまでポリマーの表面近傍、具体的には表面から深さ100Å程度までの領域でのポリマーの分率を指しており、両者のポリマー全体でのブレンド組成のことではない。
【0056】
本発明によれば、高分子組成物のこのような性質を利用して、血液と接触して使用されるための医療用材料であって、少なくとも血液と接触して使用される表面を持つ部分はポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)とポリ塩化ビニル(B)とからなる高分子組成物を素材として形成され、そして該部分の表面近傍における上記共重合体(A)の濃度が該部分を形成する該ポリマー組成物全体中の上記共重合体(A)の濃度よりも高いことを特徴とする医療用材料が提供される。
【0057】
表面近傍における共重合体(A)の割合は、ポリマー組成物の有機溶媒溶液から医療用材料を製造する際に、ポリマー組成物全体中の共重合体(A)の割合(濃度)よりも高くなる。すなわち、ドープ溶液からブレンド体を成型する場合、有機溶媒が飛散するにつれて、また溶融してブレンド後に射出成型する場合、金型との界面でブレンド体が冷却、固化する過程で相分離が起り、最終的に表面近傍において共重合体(A)の濃度の高い医療用材料が得られる。表面近傍とは厳密ではないが表面から深さ100Å程度までの領域である。
【0058】
本発明によれば、血液と接触して使用される部分が薄い厚みを持つ医療用材料は特に下記方法によって有利に製造される。
【0059】
すなわち、本発明によれば、さらに、ポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)、ポリ塩化ビニル(B)およびこれらを溶解し得る非プロトン性極性有機溶媒(C)とからなり、そして上記(A)成分および(B)成分の合計濃度が1〜30重量%であるドープを準備し、このドープを薄膜に形成し、この薄膜を湿式もしくは乾式成形法に付して厚さが1mm以下の、血液や接触して使用される部分を持つ医療用材料を生成せしめることを特徴とする医療用材料の製造法が提供される。
【0060】
非プロトン性極性有機溶媒としては、これら双方の高分子(A)及び(B)が溶解する溶媒、例えばテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン等の脂肪族環状エーテルおよびこれらと各種有機溶媒との混合溶媒が好適に用いられる。
【0061】
ドープを薄膜に形成するには、例えばドープを基材上にキャストしてフィルム状にしたりあるいは管状にしたりすることにより行うことができる。ドープ中の(A)成分と(B)成分の合計濃度は、キャストの際には好ましくは5〜20重量%、より好ましくは10〜15重量%であり、中空糸状に紡糸する際には好ましくは5〜30重量%、より好ましくは10〜20重量%、特に好ましくは13〜14重量%である。
【0062】
ドープは薄膜に形成されたのち、湿式もしくは乾式法により非プロトン性極性有機溶媒を除去され、多孔膜やフィルム等の自立性のある成形品としての医療用材料を与える。
【0063】
ここで湿式法とはドープの薄膜を水/非プロトン性有機溶媒および次いで水中で処理することにより、ドープ中の非プロトン性有機溶媒を除去する方法であり、乾式法はドープの薄膜を常温、常圧下あるいは40〜50℃で1〜30mmHg程度の減圧下で処理することにより、ドープ中の非プロトン性有機溶媒を同様に除去する方法である。
【0064】
得られる医療用材料の血液と接触して使用される部分である薄膜は好ましくは1μm〜1mmの厚みを有し、とりわけ中空糸では10〜50μmの膜厚を持つのが有利である。
【0065】
こうして得られる高分子組成物は、濃度5重量%であるヒト貧血小板血漿(PPP)のリン酸緩衝液に37℃、一時間接触させた時の上記共重合体表面への蛋白吸着量が0.8μg/cm以下(MicroBCA法によるアルブミン換算)であることが好ましく、0.6μg/cm以下であることがより好ましい。血液接触時の蛋白吸着量が0.8μg/cm以上であると、それに続く血小板粘着、活性化を十分に抑制できないため、血栓形成が進行する。
【0066】
(作用)
本発明の抗血栓性に優れる高分子組成物は、該材料の血液と接触する部分に、上記のポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)がポリ塩化ビニル(B)にブレンド混在していることを特徴とする。ここで血液と接触する部分とは、血液が接触する材料の表面およびその近傍をさす。先述のように、該材料中において上記ポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)は、もう一つのブレンド体の成分であるポリ塩化ビニル(B)と巨視的に相分離した状態にある。上記共重合体のポリオキシエチレンユニットは、溶媒除去の際に、ブレンド体における界面自由エネルギーを安定化させるべく、ブレンド体内部より、むしろブレンド体とバルクとの界面(血液/ブレンド体界面)に配向する。従って水(これは血液の主成分である)の存在下、血液との接触界面の大部分にわたって上記共重合体(A)が配向し、血漿蛋白の吸着および血小板粘着を抑制できるものと考える。例えば、実際に人工透析用中空糸として使用する場合には、少なくとも血液が流れるその多孔膜表面に上記共重合体(A)が混在されていればよい。従って材料全体を本発明のブレンド体自体によって成形してもよいし、他の素材と複合する方法も好ましく実施できる。
【0067】
【発明の効果】
本発明の抗血栓性に優れる高分子組成物は、蛋白質や血球などの生体成分の吸着が少なく、また吸着した蛋白質の変性や接触した血小板の粘着、活性化を抑制することができる。更にブレンド体中のオキシエチレン自由末端鎖、遊離水酸基末端数等が少ないため、補体活性化、細胞膜損傷を回避できる。それ故、本発明の高分子組成物の利用分野としては、直接血液成分と接触して用いることが主たる目的となる医療用材料として有用であり、例えば、人工腎臓、人工血管、人工心肺、血液透析膜用の血液チューブ、ブラッドアクセス、または血液バッグ、カテーテル、血漿分離膜等に用いることができる。そして、このような材料として本発明の高分子組成物を用いる場合、ブレンド体自体を材料として用い中空糸、シート、フィルム、チューブとして成形するのみならず、ブレンド体を溶媒に溶解し、この溶液をこれら各種材料表面に塗布し、血液接触表面のみを改質することも可能である。
【0068】
【実施例】
以下、参考例および実施例によって本発明を更に詳しく説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
1.例中の「部」は特にことわらない限り「重量部」を表す。
2.高分子組成物の作成とESCAによる表面組成解析
ポリ塩化ビニルを、上記共重合体(A)と乾式ブレンドすることにより、高分子組成物を作成し、その表面組成をESCAにより解析した。高分子組成物の作成は、次のように行った。参考例で製造した該共重合体(A)をコントロールである軟質及び硬質ポリ塩化ビニル(数平均分子量60000、サンアロー化学製)と共にテトラヒドロフラン(THF)に加熱溶解することで抗血栓性医療用高分子組成物の1wt%溶液を得た。この溶液をPET支持基板上にキャスト法により成膜、溶媒を乾燥除去することで厚さ約0.5μmの高分子組成物からなる膜を得た。また比較例として、軟質ポリ塩化ビニル(S−PVC)及び硬質ポリ塩化ビニル(H−PVC)各々単独のTHF溶液をキャスト製膜した試料を調整した。
【0069】
ESCAの測定には、試料膜を直径1cmの円盤上に切り出し、測定試料とした。装置はVG社ESCALAB−200を用い、MgKα線を光電子取り出し角45゜となるよう照射、スキャンした。測定は、キャスト時空気界面と接触していた表面(表)と、テフロン支持基板と接していた表面(裏)について各々行った。
3.蛋白質吸着量の評価
膜に吸着したタンパク質の定量評価は、MicroBCA法により行った。これは銅イオンおよび下記構造で示されるBCA蛋白検出試薬を用いたキットによる蛋白定量法である。試料中に存在する蛋白により一価に還元された銅イオンのみが、この試薬とキレート反応を行い発色(570nm)するため、サンプルの吸光度測定より蛋白濃度(アルブミン換算)を定量することができる。
【0070】
【化7】
Figure 0003992370
【0071】
評価にあたっては、比較例として抗血栓性のない軟質ポリ塩化ビニル(S−PVC)及び硬質ポリ塩化ビニル(H−PVC)を比較実験として用いた。
【0072】
サンプルの作成については、実施例1と同様に調整した共重合体(A)とポリ塩化ビニル(B)とのブレンド膜を直径15mmに切り出して評価試料とした。測定ではこれらの膜をヒト貧血小板血漿(PPP)を用い、この血漿溶液に接触させたときの蛋白吸着量を分光定量した。評価に際しては、PPPをリン酸緩衝液で所定濃度(5重量%リン酸緩衝液溶液)に調製したものを37℃、一時間ポリマー膜へ接触させ、吸着蛋白を1wt%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液で抽出、MicroBCAキットを用い、常法により発色させ、吸光度から吸着量を見積った。
【0073】
4.SEM観察による膜表面に吸着した血小板粘着の評価
一般に、重篤な血栓形成の前段階である血小板の粘着、凝集には,材料表面へ吸着するタンパク質の種類及びその表面における配向が大きく関与することが知られている.そして粘着した血小板の活性化(変形、顆粒放出)がその後の凝集、血小板血栓形成、凝固因子系の反応促進に影響する.従って血液(全血又は成分血)と接触した後の材料表面における血小板の粘着状態を観察することで、そのポリマーの血液適合性の程度を大まかに見積もることができる。
【0074】
ここではヒト多血小板血漿(PRP)を用い、PRP接触後の膜表面の血小板粘着挙動をSEMにより観察した。PRPはヒト上腕部静脈より採取した新鮮血に3.5wt%クエン酸三ナトリウム水溶液を1/9容加え、1000r.p.m.で10分遠心分離した上澄みを調製した。サンプルは先述の共重合体(A)とポリ塩化ビニル(B)とのブレンド膜、比較例のポリ塩化ビニル平膜を用いた。これらを培養シャーレ(Falcon,24well)中、0.7mlのPRPと37℃、3時間接触した.接触後のポリマーサンプルは蒸留水でよく洗浄し、2.5wt%グルタルアルデヒド水溶液で室温下二時間かけて固定し、凍結乾燥後、金蒸着して観察試料とした。
【0075】
[参考例1(α,ω−ビス(2−クロロエトキシ)ポリオキシエチレン(数平均分子量3000)の合成)]
ポリエチレングリコール(#3000)30部、ピリジン2.4部、脱水クロロホルム150部をスリ付き三角フラスコ中に仕込み、撹拌して均一溶液とした。これに塩化チオニル1.8部、脱水クロロホルム15部の混合溶液を氷冷下30分かけて滴下、その後氷冷をはずして液温が室温に上昇した後、更にもう8時間撹拌を続けた。クロロホルムを減圧留去後、更にもう15部の新鮮な塩化チオニルを加え、24時間加熱乾留した。その後減圧下で余剰の塩化チオニルを留去し、残査を新鮮なクロロホルム300部に溶解し、飽和食塩水200部で三回洗浄、ついで純水200部で一回洗浄し、クロロホルム層を分取、無水硫酸ナトリウムで一晩乾燥した。クロロホルムを留去し得られた油状物は室温で直ちに固化した。これをアセトン40部に加熱溶解し、ジエチルエーテル200部より再沈殿を行うことで白色粉状晶28.8部を得た。生成物の融点は、50.5℃〜53.5℃であった。IR(赤外分光)測定よりこの化合物はα,ω−ビス(2−クロロエトキシ)ポリオキシエチレン(数平均分子量3000)であることが確認された。
【0076】
[実施例1、参考例2、比較例1〜2(共重合体の製造)]
4,4−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフェノール16.81部、ビス(4−クロロフェニル)スルホン10.79部、及び予めトルエンとの共沸により共存する水分を除去したα,ω−ビス(2−クロロエトキシ)ポリオキシエチレン(数平均分子量3035)30.70部、トルエン50ml、N,N−ジメチルアセトアミド50ml、炭酸カリウム8.97部を、窒素導入口と排出口を持った3つ口フラスコに入れ、これをディーン・スタークス・トラップに誘導し窒素置換を行い、115〜125℃で16時間加熱環流を行った。反応に伴う水の流出が終了したのを確認後、トルエンを8時間かけて留去しながら、新たにN,N−ジメチルアセトアミドをトルエンの減少分を補う形で計100ml加え、フラスコ内を窒素置換後、165〜180℃で20時間加熱撹拌し、反応せしめた。反応後、全体をイオン交換水3000mlに撹袢しながら開け洗浄後、更に新たなイオン交換水3000mlで2時間撹袢洗浄するという操作を3回繰り返した。ついでポリマーを0.1wt%塩酸水溶液3000mlで8時間撹袢洗浄、残存するアルカリ触媒を完全に失活させ水中に溶出した。これを更に新たなイオン交換水3000mlで2時間撹袢洗浄、脱塩酸するという操作を3回繰り返した。得られたポリマーを80℃、24時間かけて減圧乾燥後クロロホルムで抽出し濾過、乾燥した。最終的に理論収率の92%程度(約48g)の乾燥ポリマーを得た。このポリマーはポリオキシエチレン成分50重量%とポリスルホン成分50重量%とからなる共重合体であり、これをPEO3000(60)−co−PFS(40)と略す。
【0077】
このポリマー120mgをフェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4)10mlに溶解させ、還元粘度を測定したところ1.15であった。また、このポリマーの数平均分子量は約31000(ポリスチレン換算)であった。また溶解度パラメーター(σ値)は10.15であった。結果を表1に示す。
【0078】
同様な方法で、共重合体組成の異なるPEO3000(60)−co−PS(40)を合成した(参考例2)。これらのポリマーの分子量、粘度を表1に併記した。また、比較として、下記2種類のポリマーの結果を併記する。用いたポリマーの構造も示す。
【0079】
【表1】
Figure 0003992370
【0080】
1)略号はそれぞれ下記構造式に対応する。
2)フェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4)
10mlに120mgを溶解させて35℃で測定した還元粘度。
3)溶解性パラメーター
なお、各ポリマーの密度ρ、ΣFiはそれぞれ10.15、9895.82(PEO3000(60)−co−PFS(40))、10.34、8727.09(PEO3000(60)−co−PS(40))、10.69、8240.27(PEO3000(60)−co−PPES(40))、10.15、9895.82(PEO3000(60)−co−PES(40))である。
【0081】
【化8】
Figure 0003992370
【0082】
[実施例2、参考例3、比較例3〜4(高分子組成物、それからなる膜の製造及びESCAによる表面組成解析)]
各種共重合体(A)を所定量ポリ塩化ビニル(B)とともにTHFに溶解し、キャストすることにより、ブレンド体のフィルムを作成した(BとAとの重量比90/10)。ここで、比較例1,2で示した共重合体については、溶解性パラメーターδ値は10.4を超え、ポリ塩化ビニル(B)の値と大きく異なるため、THFに溶解した時点で白濁、マクロに相分離し、肉眼で均質なブレンド体を得ることができなかった。
【0083】
一方、実施例1の共重合体(A)とポリ塩化ビニル(B)のブレンド体は均質透明なフィルムを作成できた。このブレンド体より成る高分子組成物の膜のESCAによる表面組成解析結果を表2に示す。何れのブレンド体も、表面より深さ100Å内の表面組成において、該共重合体(A)の分率は均一混合を仮定した値を上回り、該共重合体が有効に膜の表面偏析していることを確認した。
【0084】
【表2】
Figure 0003992370
【0085】
[実施例3〜4、参考例4〜5、比較例5〜6]
1.蛋白質吸着量の評価
上記の方法にしたがって膜表面の蛋白質吸着量を測定した。膜を構成する共重合体(A)のブレンド率は10重量%である。表3に示すように、上記共重合体とポリ塩化ビニルとの高分子組成物は、従来のポリ塩化ビニルに比べ、有意な蛋白吸着抑制を示した。なお、先に示した上記比較例1の共重合体と上記ポリ塩化ビニル(B)とからなる均質でないブレンド体を用いた場合、蛋白吸着量は比較例5の場合より大きかった。
【0086】
【表3】
Figure 0003992370
【0087】
1)アルブミン換算した値
2)粘着血小板の活性化に伴う変形の度合を定量化した値。血小板の変形状態を、未変形を第1段階として4段階に分類し各状態の血小板の個数にその段階の数を乗じ、総和を粘着血小板総数で割り、形態指数とする。従って粘着血小板全てが未変形であれば形態指数は1となり、全てが第4段階の変形を起こしていれば指数は4となる。
【0088】
2.ヒトPRPを用いたポリマー表面への血小板粘着のSEM観察
上記表3にPRP接触後の各種ポリマーの膜表面の血小板粘着数を併記した.先の検討により、タンパク吸着抑制が低い疎水性ポリマーである軟質及び硬質ポリ塩化ビニルでは、多くの血小板が表面に粘着が認められた.一方、タンパク吸着抑制能の高い共重合体(A)と軟質及び硬質ポリ塩化ビニル(B)とのブレンドマー膜は、オリジナルのポリ塩化ビニルと比較して明らかな血小板粘着抑制が見られた。
【0089】
以上の結果より、タンパク吸着抑制能に優れた本発明の高分子組成物は、既存のポリ塩化ビニルに比べ、血小板の粘着を有意に抑制することが明らかとなった。
【0090】
これにより、本発明の高分子組成物を医用素材として用いることで、ポリ塩化ビニルが本来有する優れた機械特性を維持し、なおかつ血液適合性に優れた医療用材料を提供できることが明らかになった。

Claims (4)

  1. 下記式(1)〜(3)
    Figure 0003992370
    (ここで、Xは−SO−であり、Ar、Ar、Ar及びArはそれぞれ独立に、p−フェニレン基、m−フェニレン基、Yは、フッ化炭素基であり、Rは炭素数2〜3のアルキレン基であり、kは(RO)kで示されるポリオキシアルキレン構造の分子量が2000〜20000となるような単位繰り返し数である。)で示される繰り返し単位から実質的になり、上記式(1)、(2)及び(3)で表される繰り返し単位の合計量に基づく、上記式(3)で表わされる繰り返し単位の含有量が重量比で10〜90重量%の範囲内であり、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン6/4(重量比)混合溶媒で濃度1.2g/dl、35℃で測定した還元粘度が0.5以上であり、かつ溶解性パラメーターが9.0〜10.4の範囲であるポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)1〜50重量部、及びポリ塩化ビニル(B)99〜50重量部とから構成されていることを特徴とする抗血栓性に優れた高分子組成物。
  2. 請求項1に記載のポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)1〜50重量部、及びポリ塩化ビニル(B)99〜50重量部とから構成されている高分子組成物を、血液と接触して使用するための医療用材料を製造するための素材としての使用。
  3. 血液と接触して使用されるための医療用材料であって、少なくとも血液と接触して使用される表面を持つ部分は、請求項1に記載のポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)1〜50重量部、及びポリ塩化ビニル(B)99〜50重量部とから構成されている高分子組成物を素材として形成されている医療用材料。
  4. 血液と接触して使用される表面を持つ部分の表面近傍における請求項1に記載のポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合体(A)の濃度が、該部分を形成する該高分子組成物全体中の上記共重合体(A)の濃度よりも高い請求項3記載の医療用材料。
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