JP4172851B2 - 抗血栓性に優れた高分子組成物およびそれを用いた医療用材料 - Google Patents

抗血栓性に優れた高分子組成物およびそれを用いた医療用材料 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は抗血栓性に優れた高分子組成物およびそれを用いた医療用材料に関する。さらに詳しくは溶解性パラメーターが9.0〜14.0( cal/cm ) 1/2 の範囲にある特定のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体とポリエーテルスルホンとからなる抗血栓性に優れた高分子組成物、およびそれを用いた血液と接触して使用するための医療用材料に関する。該医療用材料は、例えば上記高分子組成物のドープ溶液を湿式紡糸して得られる、医療用血液透析膜に好適である。
【0002】
【従来の技術】
近年、合成高分子材料は、人工臓器、カテーテルをはじめとする医療用材料に広く用いられている。その代表的なものは、医療用高分子材料としてはポリエステル、ポリスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、シリコーン樹脂、ポリメタクリル酸エステル及び含フッ素樹脂などの疎水性高分子や、ポリビニルアルコール、ポリエーテルウレタン(セグメント化ポリウレタン、SPU)、ポリ(メタクリル酸2ーヒドロキシエチル)およびポリアクリルアミドなどの親水性高分子である。これら従来の材料の大部分が、主にその物理的、機械的特性に着目して使用されてきた中において、SPUに関しては、比較的抗血栓性に優れることが知られている。中でもBiomerR、CardiothaneRなどは人工心臓への応用が試みられているが、なお十分な効果を得るには至らなかった(E.Nylas,R.C.Reinbach, J.B.Caulfield,N.H.Buckley, W.G.Austen; J.Biomed.Mater.Res.Symp.,3,129(1972)、L.P.Joyce,M.C.Devries,W.S.Hastings,D.B.Olsen,R.K.Jarvik,W.J.Kolff; Trans.ASAIO, 29,81(1983))。
【0003】
一方、医療技術の進歩に伴って、生体組織や血液と材料が接触する機会はますます増加しており、材料の生体親和性が大きな問題になってきている。中でも蛋白質や血球などの生体成分が材料表面に吸着し、変性することは、血栓形成、炎症反応などの、通常では認められない悪影響を生体側に引き起こすばかりでなく、材料の劣化にもつながり、医療用材料の根本的かつ緊急に解決せねばならない重要な課題である。材料表面での血液凝固の防止に関しては、従来ヘパリンに代表される血液抗凝固剤の連続投与が行われてきたが、最近長期にわたるヘパリン投与の影響が問題となってきており、特に血液透析、血液濾過などの血液浄化をうける慢性腎不全患者の血液透析療法に関して、抗凝固剤を必要としない血液接触材料の開発が強く望まれるようになってきた。現在、日本における血液浄化法適用患者は10万人を超える。
【0004】
血液浄化の原理は、血液と透析液とを膜を介して接触させ、血液中の老廃物や代謝産物を透析液中に拡散除去し、更に余剰の水分を圧力差を利用して取り除くことによる。血液浄化を行う場合には血液浄化器が用いられている。これは中空糸を束ねた血液回路がハウジングに納められているもので、中空糸の内部を血液が、外側を透析液が流れる構造となっている。血液浄化器用の透析膜素材としては、従来より再生セルロース膜、とりわけ銅アンモニウム法再生セルロース膜が広く用いられており、透析装置や透析技術の進歩と共に腎不全患者の延命、社会復帰に大きな役割を果たしている。これは、再生セルロース膜が優れた透析性能や機械的強度を有すると共に、長年の実績に裏付けられた高い安全性を有しているからに他ならない。しかしながら血液透析療法の進展にも関わらず、透析に伴う種々の問題が今なお未解決であるのも事実である。その主たるものは、一つにセルロースポリマーによる血液中の補体活性化に伴う一過性白血球減少があり、そして二つ目に、抗凝固剤の長期大量投与のために生じると考えられる種々の副作用がある。先述のように、血液透析を行う場合には、血液浄化器内での血液凝固反応を抑制するためにヘパリンに代表される血液抗凝固剤の連続投与が行われてきた。しかしながら、血液浄化器の溶質除去性能が改良され、20年に及ぼうとする長期延命が可能となってきた現在、ヘパリンを使用することによる問題が次々と指摘されてきている。特に長期にわたるヘパリン投与により、脂質代謝異常などの肝臓障害、出血時間の延長あるいはアレルギー反応等の副作用を併発することが認められている。このような観点から、血液浄化療法の際に抗凝固剤の使用量を低減させるか、あるいは全く使用しなくても血液凝固を引き起こさない、すなわち、抗血栓性を備えた血液浄化器の開発が強く望まれるようになってきた。更に、抗血栓性の血液浄化器は、装置全体のポータブル化も可能にし、一週間に2〜3日間、5時間程度病院に拘束されている患者の社会復帰を促し、そのクオリティオブライフの向上にもつながることになる。
【0005】
再生セルロース膜の透析性能を損なわず、補体活性化の抑制または抗血栓性を改善する方法も幾つか提案されている。例えば補体活性化抑制に関しては、第三級アミノ基を有する高分子の表面固定、ポリエチレンオキシド鎖のような親水性高分子を表面に共有結合によりグラフトしたりする方法等も報告され、ある程度の補体活性化抑制の効果は確認されているが、血液凝固の抑制(抗血栓性)までは不十分であった。また抗血栓性の改善に関しては、膜表面のヘパリン化(特開昭51−194号公報)、あるいはプロスタグランジンE1ーセルロース誘導体吸着層による表面修飾(特開昭54−77497号公報)による抗血栓性付与が、また抗血栓性に優れたポリマーである2−メタクリロイルオキシエチルホスホコリン(MPC)をセルロース表面にグラフト重合、固定化する方法(BIO INDUSTRY,8(6),412- 420(1991))あるいは化学修飾したMPCグラフトセルロース誘導体の中空糸への固定(特開平5−220218号公報および5−345802号公報)等が報告されている。しかし、生理活性物質の低安定性の問題等、効果が十分でなかったり、または固定化方法の煩雑さによる高コスト化、均質な固定化表層の獲得の困難さといった面で問題も多く、実用化されていない。もともと再生セルロース膜の透析性能は低く、また表面被覆方法が繁雑であるため、実用レベルには達していない。更に、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等の合成高分子からなる膜、特にポリエーテルスルホンの様な高いガラス転移点、機械特性を有する合成高分子は再生セルロースに比べデバイス化した際の透析性能も優れており、また補体活性化抑制等の血液適合性も良好であるといった報告が近年なされているが、抗血栓性は不十分であり、抗凝固剤の使用を低減するには至っていない。
【0006】
これら医療素材の抗血栓化を考える上で、抗血栓性に優れた他の高分子素材との複合化が考えられるがそれも現実には実用レベルには達していない。即ち前記のポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸エステルといった疎水性高分子材料や、ポリビニルアルコール、ポリ(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル)などの親水性高分子材料は、いずれも機械的強度、生体親和性等において満足できるものではない。更にBiomerR、CardiothaneRなどセグメント化ポリウレタンは、剛直な芳香族ウレタン結合部位と柔軟なポリエーテル結合部位の間のミクロ相分離構造により血小板粘着が抑制されるが、その効果は必ずしも十分ではない。特にウレタン結合やウレア結合のように水素結合性の部分構造は、分子鎖の剛直性向上に寄与するものの、主鎖の極性基間の相互作用が強いため、疎水性相互作用を軽減しうる水分子の水和が阻害される。従って血中タンパクが吸着した際にタンパクの変性を誘起、血小板粘着を促進することが報告されている。そもそも一般に水酸基、アミノ基といった極性部位は、血液接触時に補体活性化(第二経路)を誘発し、フィブリン形成促進による血栓形成の要因ともなる。その他ポリエステル系ポリマーでは、PEO(ポリエチレンオキシド)/PBT(ポリブチレンテレフタレート)共重合体が、血液適合性に優れた生体適合ポリマーとして知られているが(特開昭60−238315号公報)、これも高い加水分解性、およびそれに伴う低分子溶出物の体内への漏洩など、化学的な安定性にかける欠点があり、実用上問題が大きい。
【0007】
一方、ポリマー表面を親水/疎水ミクロドメイン構造とすることで血小板粘着を抑制して抗血栓性を発現するという材料設計が、HEMA(2-hydroxyethylmethacrylate)-Styrene-HEMAブロック共重合体等で知られている(C.Nojiri,T.Okano,D.Grainger,K.D.Park,S.Nakahama,K.Suzuki,S.W.Kim,Trans. ASAIO,33,596(1987))が、これも高価格であり、また脆く、溶融成型、湿式成型も困難であるなど実用上の問題が大きい。最近では表面エネルギーの小さな(疎水性の大きい)フルオロアルキル基等をミクロドメイン構造の疎水性ドメインに適応することで、表面エネルギーの大きな親水性ドメインとの相分離状態を安定化し、より血液適合性を向上させる試みがなされているが、なお加工性の問題は解決されてない。先述の生体膜類似表面構造を有するMPC(2-methacryloyloxyethylphosphoryl choline)-BMA(buthylmethacrylate)共重合体が抗血栓性に優れることも示されたが(K.Ishihara, R.Aragaki, T.Ueda, A.Watanabe, N.Nakabayashi, J.Biomed.Mater.Res. ,24,1069(1990))、これも成型加工性、価格等に問題がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、コスト、成型性等の面で実用的であり、かつ抗血栓性を改善させ、更に透析性能に優れたポリエーテルスルホン、及びこれからなる医療用抗血栓性高分子材料、ならびにそれを用いた医療用透析素材を提供することにある。
ところで、特定のポリエーテル/ポリスルホン系共重合体が優れた抗血栓性を有し、これを抗血栓性材料として用いることは本発明者らによって提案されている。従って、既存のポリエーテルスルホン膜にかかるポリエーテル/ポリスルホン系共重合体を何らかの方法で複合化することで、透析性能に優れ、かつその抗血栓性を向上できるのではないかと考える。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、血液適合性(特に抗血栓性)、生体安全性、経済性、溶剤溶解性等を考慮し、ポリエーテルスルホンの抗血栓性を改善することを検討した。その結果、ポリマーの溶解性パラメータが9.0〜14.0( cal/cm ) 1/2 の範囲にある特定のポリエーテル/ポリアリールエーテルスルホン系共重合体を少量混合したポリエーテルスルホン組成物は、これを紡糸することにより得られた膜表面に該共重合体が有効に偏析され、ポリエーテルスルホンに抗血栓性を付与できることを見出した。即ち、抗血栓性に優れるソフトセグメントであるポリオキシアルキレングリコールとハード成分であるポリアリールエーテルスルホンとの共重合体において、ポリオキシアルキレングリコール単位数、疎水性であるハード成分の種類、およびこれらの共重合組成の制御等を詳細に検討した結果、適当な鎖長から成るポリオキシアルキレングリコールとアリールモノマーから得られる、ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン系共重合体をポリエーテルスルホンに少量配合することにより、得られるポリエーテルスルホン組成物は湿式成膜、または紡糸することで機械的特性、透析性能を維持したまま、良好な抗血栓性を有するポリエーテルスルホン組成物からなる血液透析中空糸膜が得られることを見出し本発明を達成するに至った。すなわち、本発明は、下記式(1)〜(3)
【0010】
【化3】
−(−Ar−X−Ar1−O−)− ・・・(1)
−(−Ar2−O−)− ・・・(2)
−(−RO−)k− ・・・(3)
【0011】
(上記式(1)において、Xは−SO2−であり、ArおよびAr1はそれぞれ独立に、核置換されていてもよい炭素数6〜30の2価の芳香族基である。上記式(2)において、Ar24,4’−(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェニレン基である。上記式(3)において、Rは炭素数2〜3のアルキレン基であり、kは(RO)kで示されるポリオキシアルキレン構造の分子量が2000〜20000となるような単位繰り返し数である。)で示される繰り返し単位から実質的になり、かつ上記式(1)、(2)及び(3)で表される繰り返し単位の合計量に基づく、上記式(3)で表わされる繰り返し単位の含有量が重量比で10〜90重量%の範囲内であり、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン6/4(重量比)混合溶媒で濃度1.2g/dl、35℃で測定した還元粘度が0.5dl/g以上であり、溶解性パラメーターが9.0〜14.0( cal/cm ) 1/2 の範囲であるポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)1〜50重量部、及びポリエーテルスルホン(B)99〜50重量部から構成されていることを特徴とする抗血栓性に優れた高分子組成物である。
【0012】
また本発明は、上記高分子組成物を、血液と接触して使用するための医療用材料を製造するための素材として使用である。
【0013】
また本発明は、ポリエーテルスルホン(B)として下記式(4)で示される化学構造を有するポリマーを使用した高分子組成物を素材として形成されている医療用材料である。
【0014】
【化4】
−(−Ar3−X−Ar4−O−)− ・・・(4)
【0015】
(上記式(4)において、Xは−SO2−であり、 Ar3およびAr4はそれぞれ独立に、核置換されていてもよい炭素数6〜30の2価の芳香族基である。)
【0016】
また本発明は、血液と接触して使用されるための医療用材料であって、少なくとも血液と接触して使用される表面を持つ部分は、上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)1〜50重量部、及びポリエーテルスルホン(B)99〜50重量部から構成されている高分子組成物を素材として形成されている医療用材料である。
【0017】
さらに本発明は、上記高分子組成物のドープ溶液を湿式紡糸して製造された血液透析膜である。
【0018】
本発明に用いるポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)は、上記式(1)〜(3)で示される部分構造より主として構成される。
【0019】
上記式(1)、(2)においてAr、Ar1、およびAr2はそれぞれ独立に、核置換されていても良い炭素数6〜30の2価の芳香族基を示し、具体的にはp−フェニレン、m−フェニレン、2,6−ナフチレン、2,7−ナフチレン、1,4−ナフチレン、1,5−ナフチレン、4,4’−ビフェニレン、2,2’−ビフェニレン、4,4’−オキシジフェニレン、4,4’−イソプロピリデンジフェニレン、4,4’−(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェニレン、4,4’−イソプロピリデン−2,2’,6,6’−テトラメチルジフェニレン、4,4’−スルホニルジフェニレン等、およびそれらのモノ、ジ、トリ、テトラ核置換体を例示することができる。核置換基としてはメチル、エチル、フェニル等の炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、フッ素、塩素等のハロゲン基、ニトロ基、炭素数1〜8のアルコキシ基等があげられる。これらのうちAr、Ar1としては、以下に述べる溶解性パラメーターの点よりp−フェニレンが、Ar2としては4,4’−(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェニレンが好ましい。
【0020】
また、上記式(1)において、Xは−SO2−である。 上記式(3)において、Rは炭素数2〜3のアルキレン基を示し、具体的には、エチレン、プロピレン等を例示することができる。Rとしてはこれらのうち、エチレンが好ましい。Rは単独の構造でもよいし、二種以上の構造から構成されていてもよい。また、kは(RO)kで示されるポリオキシアルキレン構造の分子量が、400〜20000となるような繰り返し単位数を示す。ポリオキシアルキレン構造の分子量は、好ましくは600〜15000、より好ましくは800〜10000、特に好ましくは1000〜6000である。
【0021】
上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)は、上記式(3)で表わされるポリオキシアルキレン構造の含有量がポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体に対し、10〜90重量%の範囲である。該ポリオキシアルキレン構造の含有量が重量比10%以下ではポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体の疎水性が高すぎ、乾燥膜状態での水への濡れが充分ではない。また90%以上では親水性が高すぎるため、水中への溶出、著しい膨潤が起こり機械的強度も十分ではない。該ポリオキシアルキレン構造の含有量は、好ましくは30〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%である。
【0022】
上記共重合体(A)は、上記式(2)で表わされる繰り返し単位に基づく、上記式(1)で表わされる繰り返し単位の割合がモル比で30〜60%の範囲内である。かかる範囲内であることによって、良好な抗血栓性を示す。かかる割合は、好ましくはモル比で40〜55%であり、より好ましくは43.5〜49.9%である。
【0023】
上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)は、該共重合体の溶解性パラメータδが9.0〜14.0( cal/cm ) 1/2 の範囲にあるものである。ここでδは下記式(5)で示される。
【0024】
【数1】
δ=ρ・ΣFi/M (5)
【0025】
ただしρはポリマーの密度、Mはポリマーの繰り返し単位構造の分子量、ΣFiはモル吸引力定数の総和で各部分構造に固有の値の合計である。
【0026】
すなわち物性が既知のポリマーではこれら各変数も公知であり、δを容易に求めることができる(例えば、書籍:「ポリマーブレンド」、秋山三郎、井上隆、西敏夫 共著、株式会社シーエムシー、文献:K.L.Hoy,J. Paint Technol,42,76(1970))。一般のポリエーテルスルホンのδは分子構造、及びポリマーが共重合体の場合その共重合組成により変化する。これらの各種ポリエーテルスルホンに対し、そのδ値が近接したポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)ほど、対応するポリエーテルスルホンと相溶し易いといえる。一般に相溶性が高いポリマーブレンドほど、一方のポリマーの機械特性が変化しにくいと考えられ、そういう点から本発明のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)のδは対象となるポリエーテルスルホンに近いほど好ましく、数値としてδ=10.0〜14.0の範囲が、抗血栓性、機械特性が良好である。δがこの範囲より小さすぎても大きすぎても、ポリエーテルスルホンとの相溶性が不十分で両者は微細に(サブミクロンオーダーで)混合分散したブレンド体を形成せずに巨視的(ミクロンオーダー以上のサイズ)で分離し、その機械的特性が損なわれるため好ましくない。またδの変数としてポリマー密度が入るため、δをポリマーの構造のみから予測するのは困難であるが、本発明のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)の場合、δをこの範囲に設定するには Ar、Ar1としてp−フェニレン、 Ar2としては4,4’−(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェニレンが好ましく、上記式(3)におけるRはエチレンが好ましく、kは(RO)kで示されるポリオキシアルキレン構造の分子量が、2000〜4000が好ましく、上記式(3)で表わされるポリオキシアルキレン構造の含有量がポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体に対し、50〜70重量%の範囲であることが特に好ましい。
【0027】
本発明のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)は、例えば下記式(6)〜(8)
【0028】
【化5】
Z- Ar - X - Ar1 -Z (6)
HO - Ar2 - O H (7)
Z- ( -RO -)k-1 -R-Z (8)
【0029】
で表されるビス(ハロアリール)スルホン 、ジヒドロキシアリール化合物およびα,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレン化合物を、アルカリの存在下、加熱反応させることによって効率よく製造することができる。
【0030】
上記式(6)はビス(ハロアリール)スルホンを表わす。ここで、Ar、Ar1は前記の如く、核置換されていても良い2価の芳香族炭化水素基であり、上記式(1)、(2)において述べたものと同様の芳香族基を例示することができる。Zは塩素、臭素、およびヨウ素原子があげられ、塩素原子が好ましい。
【0031】
上記式(6)で表されるビス(ハロアリール)スルホン化合物としては、例えばビス(4−クロロフェニル)スルホン、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン、ビス(3−クロロフェニル)スルホン、ビス(3−フルオロフェニル)スルホン、ビス(3,4−クロロフェニル)スルホン、ビス(3,4−フルオロフェニル)スルホン、ビス(4−クロロビフェニル)スルホン、ビス(4−フルオロビフェニル)スルホン等を挙げることができる。
【0032】
上記式(7)は、ジヒドロキシアリール化合物を表わす
【0033】
上記式(7)で表されるジヒドロキシアリール化合物としては、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェノールを挙げることができる。
【0034】
上記式(8)はα,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレン化合物を表わす。ここで、Rは炭素数2〜3のアルキレン基であり、上記式(3)において述べたものと同様のものを例示することができる。kは(RO)kで示されるポリオキシアルキレン構造の分子量が400〜20000となるような単位繰り返し数を示す。Xは上記と同様の塩素、臭素、およびヨウ素原子があげられ、このうち塩素または臭素原子が好ましい。
【0035】
上記式(8)で表されるα,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレン化合物としては、例えばα,ω−ビス(2−ブロモエトキシ)ポリオキシエチレン、α,ω−ビス(2−クロロエトキシ)ポリオキシエチレン、α,ω−ビス(2−ブロモ−1メチルエトキシ)ポリオキシイソプロピレン、α,ω−ビス(2−クロロ−1メチルエトキシ)ポリオキシイソプロピレン、及びポリオキシエチレンとポリオキシイソプロピレンのブロック共重合体のα,ω−ビスブロモ及び/またはクロロ体を挙げることができる。
【0036】
本発明で使用する上記α,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレンは種々の方法で合成することができるが、具体的には以下の方法が代表的である。
(i)ポリオキシアルキレングリコールとハロゲン化リンとを塩基存在下で反応させる。
(ii)ポリオキシアルキレングリコールとハロゲン化チオニルとを塩基存在下で反応させる。
【0037】
上記(i)の方法においては、相当するポリオキシアルキレングリコールと塩基とを任意の溶媒の存在下、ハロゲン化リンを滴下混合し、その後加熱撹拌することによって合成することができる。ここでポリオキシアルキレングリコールのモル数を(A)、ハロゲン化リンのモル数を(B)とするとき、下記式(9)
【0038】
【数2】
0.75≦(B)/(A)≦2 (9)
【0039】
を満たすようにする。ここで(B)/(A)の値が大きすぎるとハロゲン化リンの量が多すぎて無駄になり、小さい場合は収率よく所定の物質が得られない。また、この方法で用いるハロゲン化リンは、反応性の点から三臭化リンが好ましい。
【0040】
溶媒としては、これらの反応成分が溶解混合し、かつハロゲン化リンと反応する官能基、例えばヒドロキシル基、一級、二級アミノ基等を含有しないものであればよく、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1、2ージクロロエタン、テトラヒドロフラン、二硫化炭素等を例示できるが、溶解性、反応操作の簡便性の点から、塩化メチレンを用いることが好ましい。
【0041】
かかる溶媒の量としては、反応基質の総重量に対する重量比で1.0〜10.0倍、さらには2.0〜5.0倍であることが好ましい。これより溶媒の量が少ないと、反応基質が析出してしまい、これより溶媒量が多いと生成物の精製操作が煩雑になったり、反応効率が低下する恐れがある。
【0042】
塩基としては、公知の有機塩基を用いることができ、例えばピリジン、トリエチルアミン、N,N’−テトラメチルエチレンジアミン、HMPA(ヘキサメチルリン酸トリアミド)、DBU(1、8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7)などを例示できるが、ピリジンを使用することが好ましい。
【0043】
かかる塩基はハロゲン化リンに対して1.5〜3.0等量程度用いるが、最適量は塩基の種類、および前記(8)式の(B)/(A)の値などの反応条件によっても異なる。例えば塩基としてピリジンを用い、溶媒として塩化メチレンを使用し、(B)/(A)=0.75となるようにして反応する場合には、ピリジンはハロゲン化リンに対して3.0等量程度用いるのが好ましい。
【0044】
反応温度は、溶媒から原料成分が晶析しなければ室温以下でもかまわず、また100℃以下の沸点を有する溶媒を用いる場合、溶媒還流温度で反応させてもかまわない。ただし反応初期にハロゲン化リンを塩基とポリオキシアルキレングリコールの混合溶液に滴下する際は、急激に発熱し、操作上突沸等の危険を伴う可能性があるので、滴下時は氷冷下0〜5℃に保つのが好ましい。また反応温度が100℃を超える場合、副反応を起こし目的物質の収量が減少し、温度が低すぎると反応速度が低下する。ハロゲン化リンとして三臭化リンを用いる場合、反応温度は30〜50℃が好適である。
【0045】
上記(ii)の方法においては、相当するポリオキシアルキレングリコールと塩基とを任意の溶媒の存在下、まず第一段階のハロゲン化チオニルを滴下混合して反応させ、その後さらに第二段階として等量のハロゲン化チオニルを加え加熱撹拌することによって合成することができる。第一、第二段階の反応はそれぞれ下記式(10)、(11)で表される。
【0046】
【数3】
nHO-(-RO-)k-OH + nSOX2 → -[O-(RO-)k-OS(O)]n- +2nHX (10)
-[O-(RO-)k-OS(O)]n- + nSOX2 → nX-(-RO-)k-X + 2SO2 (11)
【0047】
従って、ポリオキシアルキレングリコールのモル数を(A)、ハロゲン化チオニルのモル数を(B1、第一段階でのモル数)、(B2、第二段階でのモル数)とするとき、下記数式(12)、(13)
【0048】
【数4】
(B1)/(A)=1 (12)
(B2)/(A)=1 (13)
【0049】
を満たすように反応条件を設定する。すなわち全体として塩化チオニルはポリオキシアルキレングリコールの二倍モル等量用いればよい。ここで(B)/(A)の値が大きすぎるとハロゲン化チオニルの量が多すぎて無駄になり、小さい場合は収率よく所定の物質が得られない。また、この方法で用いるハロゲン化チオニルは、反応性の点から塩化チオニルであることが好ましい。
【0050】
溶媒としては、前記(i)の方法同様、これらの反応成分が溶解混合し、かつハロゲン化チオニルと反応する官能基、例えばヒドロキシル基、一級、二級アミノ基等を含有しないものであればよく、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、二硫化炭素等を例示できるが、溶解性、反応操作の簡便性の点から、塩化メチレンを用いることが好ましい。
【0051】
溶媒の量、反応温度についても、前記(i)の方法に準ずる。
用いる塩基の種類も前記(i)の方法に準ずるが、ピリジンを使用することが好ましい。塩基は第一段階の反応で加えたハロゲン化チオニルに対して、2.0等量程度か若干過剰量(2.1等量)用いるが、第二段階の反応においては塩基を追加する必要はない。第一段階の反応における塩基添加量の最適量は塩基の種類によるが、原理的に複製する塩酸を中和できる理論量であればよい。例えば塩基としてピリジンを用い、塩化チオニルでポリオキシアルキレングリコールを塩素化する場合には、ピリジンは第一段階で加えたハロゲン化チオニルに対して2.0等量程度用いるのが好ましい。
【0052】
本発明によれば、このようにして得られる上記式(9)で表されるα,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレンを用いて、これとビス(ハロアリール)スルホンおよびジヒドロキシアリール化合物をアルカリの存在下、加熱反応させることによって目的のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体を製造することができる。
【0053】
反応は、上記式(6)と(8)で表されるビス(ハロアリール)スルホンとα,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレンのモル数の和が、上記式(6)で表されるジヒドロキシアリール化合物のモル数と等量となるように仕込んで混合し、適当な溶媒の存在下、アルカリと共に反応せしめる。ビス(ハロアリール)スルホンとα,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレンのモル比を変えることで、種々の組成のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体を得ることができる。加熱反応温度は120〜400℃が好ましく、より好ましくは160〜350℃である。反応温度が400℃より高いと副反応が起こったり、原料の分解が起こりやすく、また120℃より低いと反応が遅くなる。
【0054】
反応に用いるアルカリとしては、アルカリ金属炭酸塩または水酸化物が好ましく、例えば炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどをあげることができる。なかでも炭酸塩、特に炭酸カリウムが好ましい。アルカリの量は、反応中に発生するハロゲン化水素を実質的に中和する量であることが必要であるが、実際は理論量よりも5%程度多くても、少なくても、反応させることができる。反応には適当な可塑剤、溶媒を用いることもできる。適当な溶媒を例示すれば、ジフェニルスルホン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等を用いることができるが、中でもN,N−ジメチルアセトアミド、ジフェニルスルホンが好ましい。
【0055】
反応に際してその促進のために添加剤を加えることができる。かかる添加剤の例として金属またはその塩、包接化合物、キレート剤、有機金属化合物などをあげることができる。
【0056】
かくして得られる本発明のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体は、上記式(1)〜(3)で表される繰り返し単位を有するが、これを言い換えると、ポリオキシアルキレン構造が共重合した芳香族ポリアリールエーテルスルホンであり、下記式(14)および(15)
【0057】
【化6】
- ( - Ar - S O2- Ar1- O - Ar2- O - ) - (14)
【0058】
【化7】
- ( - R O - ) k - Ar2- O - (15)
【0059】
で表される繰り返し単位から主としてなる共重合体であり、かつ上記式(14)と(15)で表される繰り返し単位の合計重量のうち、ポリオキシアルキレン構造(- ( - R O - ) k -)の重量割合が10〜90重量%、即ちポリオキシアルキレン構造(- ( - R O - ) k -)がポリマー全体の10〜90重量%)である。
【0060】
本発明のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)は、還元粘度が0.5dl/g以上、好ましくは1.0〜3.0dl/gである。還元粘度が0.5dl/g未満の場合には、ポリマーの機械的強度が不充分となり好ましくない。なお、ここでいう還元粘度は、フェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4)中、ポリマー濃度1.2g/dl、温度35℃で測定され
る値をいう。
【0061】
本発明のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体は、その目的に応じてポリオキシアルキレン構造の分子量、共重合組成を任意に変化させることができる。
【0062】
なお本発明において、上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体は、その性質が本質的に変化しない範囲(例えばポリマーの20重量%以下、好ましくは10重量%以下)で他の成分を共重合成分として含有していてもよい。共重合させる他の成分としては、例えば、エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位として含有するポリエステル、ブチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位として含有するポリエステル、ジフェニルスルホンを主たる繰り返し単位として含有するポリエーテルスルホン、ジフェニルスルホンとビスフェノールAの縮合物を主たる繰り返し単位として含有するポリスルホン、ビスフェノールAの炭酸エステルを主たるくり返し単位として含有するポリカーボネート等を挙げることができる。
【0063】
本発明のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)は、ヒト血漿に37℃で一時間接触した時のMicroBCA法により測定した蛋白吸着量が非常に少なく、0.7μg/cm2以下であり、血漿溶液に接したときの血液中の蛋白および血小板の粘着等に対して優れた吸着抑制効果を有する。この理由については、以下のように考えられる。上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体は、剛直部位で疎水性の大きなポリアリールスルホン(ハード成分)及びポリマー主鎖中に固定された親水性ポリオキシアルキレンユニット(ソフト成分)を有しており、これら親水性セグメントと疎水性のポリアリールスルホンセグメント双方は熱力学的にのみならず、巨視的に相分離した表面構造を特徴とする。かかるポリマーには主鎖中に水素結合供与基が存在しないため、主鎖間の相互作用が小さく、該親水性ポリオキシアルキレンユニットのドメインには、疎水性相互作用を逓減しうる水分子の接触が容易に起こる。従ってドメインのパターンに基づく生体蛋白の表面への選択的吸着が起こり、吸着蛋白は表面で変性することがない。この結果、ポリマー表面は正常蛋白が単分子層で表面吸着した状態となり、それ以上の生体成分(赤血球、白血球および血小板)の粘着が抑制される。また補体活性化、血栓形成、細胞膜損傷等の有害な生体反応を回避できる。かかる蛋白吸着量は少ないほど望ましいが、0.3〜0.7μg/cm2の範囲にあれば実際的に十分効果がある。
【0064】
この疎水性が高く剛直なポリアリールエーテルスルホンセグメントは安定なドメイン構造を形成し易く、血液適合性発現に優利である。更に親水性のポリオキシアルキレン単位とブロック共重合することで得られるポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体は、濡れ性や溶剤溶解性、他のポリマーへの混和性も変化する結果、成型加工の面からも種々の特徴を付与できる可能性がある。
【0065】
こうして調製したポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)は、種々の方法によりポリエーテルスルホン(B)と混合されて本発明の抗血栓性に優れた高分子組成物が提供される。
【0066】
上記共重合体(A)と混合するポリエーテルスルホン(B)は、下記式(4)で示されるものが好ましい。
【0067】
【化8】
−(−Ar3−X−Ar4−O−)− ・・・(4)
【0068】
上記式(4)において、Xは−SO2−であり、 Ar3およびAr4はAr、Ar1、およびAr2同様、それぞれ独立に核置換されていてもよい炭素数6〜30の2価の芳香族基を示し、具体的にはp−フェニレン、m−フェニレン、2,6−ナフチレン、2,7−ナフチレン、1,4−ナフチレン、1,5−ナフチレン、4,4’−ビフェニレン、2,2’−ビフェニレン等を例示することができる。核置換基としてはメチル、エチル、フェニル等の炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、フッ素、塩素等のハロゲン基、ニトロ基、炭素数1〜8のアルコキシ基等があげられる。 これらのうちAr3およびAr4としては、重合性や素材特性の点からp−フェニレン、m−フェニレンが好ましく、p−フェニレンがより好ましい。
【0069】
これら用いるポリエーテルスルホンは、不純物等を含まない医療用グレードのポリエーテルスルホンで数平均分子量10,000〜1,000,000の素材であれば良い。もちろんこれらのポリエーテルスルホン(B)は上記共重合体(A)と分子レベルでは均一混合せず、ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)が表面偏析したブレンド体を形成する。
【0070】
ポリエーテルスルホン(B)への上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)のブレンド比率に関しては、上記共重合体(A)が少なくとも重量比1%以上であるべきであり、1〜50重量%とすることが好ましく、10〜30重量%とすることがより好ましい。上記共重合体(A)のブレンド率が1重量%以下であると、該共重合体(A)の表面偏析絶対量が少なすぎるため、十分な抗血栓化の効果が得られず、また50重量%以上であると、素材の形状によっては本来の物理的特性、使用条件が大きく変化する恐れがある。
【0071】
ブレンド方法に際しては、ポリマーの物性により様々の方法が考えられるが、この高分子組成物は、例えば共重合体(A)とポリエーテルスルホン(B)とを上記所定の割合で有機溶媒に溶解し、しかる後有機溶媒を除去して調製したり、あるいは共重合体(A)とポリエーテルスルホン(B)とを上記所定の割合で溶融混合することにより調製することができる。
【0072】
上記高分子組成物において、共重合体(A)とポリエーテルスルホン(B)とは、分子レベルで均一に混合することはなく、別個の相を形成し、相分離して存在する。
【0073】
ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)は、親水性のポリオキシエチレン鎖を有しており、基本的に従来の疎水性高分子材料と分子レベルで均一混合することはない。従って得られる高分子組成物(以降ブレンド体を呼ぶことがある)は両ブレンド成分、すなわちポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)とポリエーテルスルホン(B)とは相分離した構造を有する。この相分離状態において、上記共重合体(A)はブレンド体の表面(厳密にはキャストフィルム成膜時の空気界面のようなポリマー近傍のバルク界面)に優先して偏析する。偏析の駆動力としては、ポリアリールエーテルスルホンユニット自体のポリエーテルスルホンとの低い相溶性が寄与するほかに、界面が水との接触面であれば、該共重合体の親水性ユニットであるポリオキシエチレン鎖の親水性が、また空気との界面であれば表面自由エネルギーの小さなポリアリールエーテルスルホンユニットの疎水性、疎油性が主として働く。得られたブレンド体は共重合体(A)が表面に偏析しているので、先述の機構により、血液接触時に血液適合性を示すものと推定される。抗血栓性発現にはブレンド体の表面組成について上記共重合体が50重量%以上となるよう高濃度に偏析して存在することが好ましいが、60重量%以上となることがより好ましく、70重量%となるよう偏析することがさらに好ましい。ここで言う表面組成とは、あくまでポリマーの表面近傍、具体的には表面から深さ100Å程度までの領域でのポリマーの分率を指しており、両者のポリマー全体でのブレンド組成のことではない。
【0074】
本発明によれば、高分子組成物のこのような性質を利用して、血液と接触して使用されるための医療用材料であって、少なくとも血液と接触して使用される表面を持つ部分はポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)とポリエーテルスルホン(B)とからなる高分子組成物を素材として形成され、そして該部分の表面近傍における上記共重合体(A)の濃度が該部分を形成する該ポリマー組成物全体中の上記共重合体(A)の濃度よりも高いことを特徴とする医療用材料が提供される。
【0075】
表面近傍における共重合体(A)の割合は、ポリマー組成物の有機溶媒溶液から医療用材料を製造する際に、ポリマー組成物全体中の共重合体(A)の割合(濃度)よりも高くなる。すなわち、溶液から有機溶媒が飛散するにつれて相分離が起り、最終的に表面近傍において共重合体(A)の濃度の高い医療用材料が得られる。表面近傍とは厳密ではないが表面から深さ100Å程度までの領域である。
【0076】
本発明によれば、血液と接触して使用される部分が薄い厚みを持つ医療用材料は特に下記方法によって有利に製造される。
【0077】
すなわち、本発明によれば、さらに、ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)、ポリエーテルスルホン(B)およびこれらを溶解し得る非プロトン性極性有機溶媒(C)とからなり、そして上記(A)成分および(B)成分の合計濃度が1〜30重量%であるドープを準備し、このドープを薄膜に形成し、この薄膜を湿式もしくは乾式成形法に付して厚さが1mm以下の、血液や接触して使用される部分を持つ医療用材料を生成せしめることを特徴とする医療用材料の製造法が提供される。
【0078】
非プロトン性極性有機溶媒としては、これら双方の高分子(A)及び(B)が溶解する溶媒、例えばN−メチルピロリドン、N、N’−ジメチルホルムアミド、N、N’−ジメチルアセトアミド、N−メチルモルホリン、ジメチルスルホオキシド等の非プロトン性極性溶媒、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン系非極性溶媒、およびハロゲン系溶媒に適当量のメタノール、エタノール等のプロトン性極性溶媒を添加した混合溶媒が好適に用いられる。
【0079】
ドープを薄膜に形成するには、例えばドープを基板上にキャストしてフィルム状にしたりあるいは紡糸して中空糸状にしたりすることにより行うことができる。ドープ中の(A)成分と(B)成分の合計濃度は、キャストの際には好ましくは5〜20重量%、より好ましくは10〜15重量%であり、中空糸状に紡糸する際には好ましくは5〜30重量%、より好ましくは10〜20重量%、特に好ましくは13〜14重量%である。
【0080】
ドープは薄膜に形成されたのち、湿式もしくは乾式法により非プロトン性極性有機溶媒を除去され、自立性のある成形品としての医療用材料を与える。
【0081】
湿式法はドープの薄膜を水/非プロトン性有機溶媒および次いで水中で処理することにより、ドープ中の非プロトン性有機溶媒を除去する方法であり、乾式法はドープの薄膜を常温、常圧下あるいは40〜50℃で1〜30mmHg程度の減圧下で処理することにより、ドープ中の非プロトン性有機溶媒を同様に除去する方法である。
【0082】
得られる医療用材料の血液と接触して使用される部分である薄膜は好ましくは1μm〜1mmの厚みを有し、とりわけ中空糸では10〜50μmの膜厚を持つのが有利である。
【0083】
こうして得られる高分子組成物は、濃度5重量%であるヒト貧血小板血漿(PPP)のリン酸緩衝液に37℃、一時間接触させた時の上記共重合体表面への蛋白吸着量が0.8μg/cm2以下(MicroBCA法によるアルブミン換算)であることが好ましく、0.6μg/cm2以下であることがより好ましい。血液接触時の蛋白吸着量が0.8μg/cm2以上であると、それに続く血小板粘着、活性化を十分に抑制できないため、血栓形成が進行する。
【0084】
(作用)
本発明の抗血栓性に優れる高分子組成物は、該材料の血液と接触する部分に、上記のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)がポリエーテルスルホン(B)にブレンド混在していることを特徴とする。ここで血液と接触する部分とは、血液が接触する材料の表面およびその近傍をさす。先述のように、該材料中において上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)は、もう一つのブレンド体の成分であるポリエーテルスルホン(B)と巨視的に相分離した状態にある。上記共重合体(A)のポリオキシエチレンユニットは、溶媒除去の際に、ブレンド体における界面自由エネルギーを安定化させるべく、ブレンド体内部より、むしろブレンド体とバルクとの界面(血液/ブレンド体界面)に配向する。従って水(これは血液の主成分である)の存在下、血液との接触界面の大部分にわたって上記共重合体(A)が配向し、血漿蛋白の吸着および血小板粘着を抑制できるものと考える。例えば、実際に人工透析用中空糸として使用する場合には、少なくとも血液が流れるその多孔膜表面に上記共重合体(A)が混在されていればよい。従って材料全体を本発明のブレンド体自体によって成形してもよいし、他の素材と複合する方法も好ましく実施できる。
【0085】
【発明の効果】
本発明の抗血栓性に優れる高分子組成物は、蛋白質や血球などの生体成分の吸着が少なく、また吸着した蛋白質の変性や接触した血小板の粘着、活性化を抑制することができる。更にブレンド体中のオキシエチレン自由末端鎖、遊離水酸基末端数等が少ないため、補体活性化、細胞膜損傷を回避できる。それ故、本発明の高分子組成物の利用分野としては、直接血液成分と接触して用いることが主たる目的となる医療用材料として有用であり、例えば、人工腎臓、人工血管、人工心肺、血液透析膜、血液バッグ、カテーテル、血漿分離膜等に用いることができる。そして、このような材料として本発明の高分子組成物を用いる場合、ブレンド体自体を材料として用い中空糸、シート、フィルム、チューブとして成形するのみならず、ブレンド体を溶媒に溶解し、この溶液をこれら各種材料表面に塗布し、血液接触表面のみを改質することも可能である。
【0086】
【実施例】
以下、参考例および実施例によって本発明を更に詳しく説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
1.例中の「部」は特にことわらない限り「重量部」を表す。
【0087】
2.高分子組成物の作成とESCAによる表面組成解析
ポリエーテルスルホンとしては、住友化学より供給された下記構造のポリエーテルスルホン(PES、溶解性パラメータδ=13.44( cal/cm ) 1/2 )を用い、上記ポリエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)と湿式ブレンドすることにより、高分子組成物を作成し、その表面組成をESCAにより解析した。高分子組成物の作成は、次のように行った。参考例で製造した該共重合体(A)をコントロールであるポリエーテルスルホン(住友化学製、溶解性パラメータδ=13.44( cal/cm ) 1/2 )と共にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に加熱溶解することで抗血栓性医療用高分子組成物のドープ溶液を得た。この溶液をテフロン支持基板上、キャスト法により成膜、溶媒を水抽出することで厚さ約0.5mmの高分子組成物からなる膜を得た。また比較例として、該共重合体(A)をブレンドしていないポリエーテルスルホンからなる膜を調整した。以下に用いたポリエーテルスルホンの化学構造を示した。
【0088】
【化9】
Figure 0004172851
【0089】
ESCAの測定には、膜を直径1cmの円盤上に切り出し、測定試料とした。装置はVG社ESCALAB−200を用い、MgKα線を光電子取り出し角45゜となるよう照射、スキャンした。測定は、キャスト時空気界面と接触していた表面(表)と、テフロン支持基板と接していた表面(裏)について各々行った。
【0090】
3.蛋白質吸着量の評価
膜に吸着したタンパク質の定量評価は、MicroBCA法により行った。これは銅イオンおよびBCA蛋白検出試薬を用いたキットによる蛋白定量法である。試料中に存在する蛋白により一価に還元された銅イオンのみが、この試薬とキレート反応を行い発色(570nm)するため、サンプルの吸光度測定より蛋白濃度(アルブミン換算)を定量することができる。
【0091】
評価にあたっては、コントロールポリマーとして抗血栓性のないポリエーテル
スルホン(PES)を比較実験として用いた。
【0092】
サンプルの作成については、実施例1と同様に調整した共重合体(A)とポリエーテルスルホン(B)とのブレンド膜を直径15mmに切り出して評価試料とした。また比較例として先の共重合体(R)を同様に用い、ポリエーテルスルホンとのポリマーブレンド膜を調整して評価した。測定ではこれらの膜をヒト貧血小板血漿(PPP)を用い、この血漿溶液に接触させたときの蛋白吸着量を分光定量した。評価に際しては、PPPをリン酸緩衝液で所定濃度(5重量%リン酸緩衝液溶液)に調製したものを37℃、一時間ポリマー膜へ接触させ、吸着蛋白を1wt%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液で抽出、MicroBCA キットを用い、常法により発色させ、吸光度から吸着量を見積った。
【0093】
4.SEM観察による膜表面に吸着した血小板粘着の評価
一般に、重篤な血栓形成の前段階である血小板の粘着、凝集には,材料表面へ吸着するタンパク質の種類及びその表面における配向が大きく関与することが知られている.そして粘着した血小板の活性化(変形、顆粒放出)がその後の凝集、血小板血栓形成、凝固因子系の反応促進に影響する.従って血液(全血又は成分血)と接触した後の材料表面における血小板の粘着状態を観察することで、そのポリマーの血液適合性の程度を大まかに見積もることができる。
【0094】
ここではヒト多血小板血漿(PRP)を用い、PRP接触後の膜表面の血小板粘着挙動をSEMにより観察した。PRPはヒト上腕部静脈より採取した新鮮血に3.5wt%クエン酸三ナトリウム水溶液を1/9容加え、1000r.p.m.で10分遠心分離した上澄みを調製した。サンプルは先述のポリエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)とポリエーテルスルホン(B)とのブレンド膜、コントロールのポリエーテルスルホン平膜を用いた。これらを培養シャーレ(Falcon,24well))中、0.7mlのPRPと37℃、3時間接触した.接触後のポリマーサンプルは蒸留水でよく洗浄し、2.5wt%グルタルアルデヒド水溶液で室温下二時間かけて固定し、凍結乾燥後、金蒸着して観察試料とした。
【0095】
5.ポリエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体とポリエーテルスルホンの混合ドープ溶液からの湿式紡糸による中空糸膜の作成と血栓形成抑止能の評価
本発明の高分子組成物を用い、湿式紡糸により中空糸膜を作成した。参考例で製造したポリエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)をポリエーテルスルホン(B)(住友化学製)と共にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に加熱溶解することでドープ溶液を得た。これをノズルより温水中へ吐出することで湿式紡糸を行い、均質な多孔中空糸膜を得た。また比較実験としてポリエーテルスルホン単独についても同様にドープ作成と紡糸を行い均質な中空糸膜を得た。
【0096】
これらについて、ヒトノンヘパリン血を用いた血栓抑止能の評価を行った。多孔中空糸膜を40本束ねたバンドルをヒト上腕部より採取したノンヘパリン血に浸し、常温で15分放置した。ついで多孔中空糸膜を取り出し、リン酸バッファー水溶液でよく洗浄後、多孔中空糸膜表面での血栓形成状態を観察した。
【0097】
[参考例1]
(α,ω−ビス(2−クロロエトキシ)ポリオキシエチレン(数平均分子量3
000)の合成)
ポリエチレングリコール(#3000)30部、ピリジン2.4部、脱水クロロホルム150部をスリ付き三角フラスコ中に仕込み、撹拌して均一溶液とした。これに塩化チオニル1.8部、脱水クロロホルム15部の混合溶液を氷冷下30分かけて滴下、その後氷冷をはずして液温が室温に上昇した後、更にもう8時間撹拌を続けた。クロロホルムを減圧留去後、更にもう15部の新鮮な塩化チオニルを加え、24時間、加熱乾留した。その後減圧下で余剰の塩化チオニルを留去し、残査を新鮮なクロロホルム300部に溶解し、飽和食塩水200部で三回洗浄、ついで純水200部で一回洗浄し、クロロホルム層を分取、無水硫酸ナトリウムで一晩乾燥した。クロロホルムを留去し得られた油状物は室温で直ちに固化した。これをアセトン40部に加熱溶解し、ジエチルエーテル200部より再沈殿を行うことで白色粉状晶28.8部を得た。生成物の融点は、50.5℃〜53.5℃であった。IR(赤外分光)測定よりこの化合物はα,ω−ビス(2−クロロエトキシ)ポリオキシエチレン(数平均分子量3000)であることが確認された。
【0098】
[実施例1〜2 、比較例3
A.ポリマーの製造
4,4-ヘキサフルオロイソプロピリデンジフェノール16.80部、ビス(4−クロロフェニル)スルホン11.90部、及び予めトルエンとの共沸により共存する水分を除去したα,ω−ビス(2−クロロエトキシ)ポリオキシエチレン(数平均分子量3035)25.95部、トルエン200ml、N,N-ジメチルアセトアミド100ml、炭酸カリウム8.625部を、窒素導入口と排出口を持った3つ口フラスコに入れ、これをディーン・スタークス・トラップに誘導し窒素置換を行い、115〜125℃で16時間加熱環流を行った。反応に伴う水の流出が終了したのを確認後、トルエンを8時間かけて留去しながら、新たにN,N−ジメチルアセトアミドをトルエンの減少分を補う形で計200ml加え、フラスコ内を窒素置換後、165〜180℃で20時間加熱撹拌し、反応せしめた。反応後、全体をイオン交換水3000mlに撹袢しながら開け洗浄後、更に新たなイオン交換水3000mlで2時間撹袢洗浄するという操作を3回繰り返した。ついでポリマーを0.1wt%塩酸水溶液3000mlで8時間撹袢洗浄、残存するアルカリ触媒を完全に失活させ水中に溶出した。これを更に新たなイオン交換水3000mlで2時間撹袢洗浄、脱塩酸するという操作を3回繰り返した。得られたポリマーを80℃、24時間かけて減圧乾燥後クロロホルムで抽出し濾過、乾燥した。最終的に理論収率の92%程度(約48g)の乾燥ポリマーを得た。このポリマーはポリオキシエチレン成分50重量%とポリスルホン成分50重量%とからなる共重合体であり、これをPEO3000(50)−co−PFS(50)と略す。
【0099】
このポリマー120mgをフェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4)10mlに溶解させ、還元粘度を測定したところ0.85であった。また、このポリマーの数平均分子量は約25000(ポリスチレン換算)であった。結果を実施例1として表1に示す。
【0100】
同様な方法で、共重合体組成比の異なるPEO3000(60)-co-PFS(40)、PEO3000(60)-co-PES(40)を合成した。これらのポリマーの分子量、粘度を表1にそれぞれ実施例2、比較例3として併記した。
また、用いたポリマーの構造も示す。
【0101】
【表
Figure 0004172851
【0102】
1)略号はそれぞれ下記構造式に対応する。
2)フェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4)
10mlに120mgを溶解させて35℃で測定した還元粘度。
3)溶解性パラメータ
【0103】
【化10】
Figure 0004172851
【0104】
B.高分子組成物、それからなる膜の製造及びESCAによる表面組成解析
各種ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)とポリエーテルスルホン(B)のブレンド体をNMPドープからの湿式製膜法により調製した。これらブレンド膜については、ESCAによる表面組成解析結果を表2に示す。何れのブレンド体も、表面より深さ100Å内の表面組成において、該ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)の分率は均一混合を仮定した値を上回り、該共重合体が有効に膜の表面偏析していることを確認した。
【0105】
【表
Figure 0004172851
【0106】
[実施例4〜5、比較例6、比較例1]
A.蛋白質吸着量の評価
上記の方法にしたがって膜表面の蛋白質吸着量を測定した。膜を構成する共重合体(A)のブレンド率は10重量%である。表3に示すように、本発明のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体とポリエーテルスルホンとの高分子組成物は、従来のポリエーテルスルホンに比べ、有意な蛋白吸着抑制を示した。
【0107】
【表
Figure 0004172851
【0108】
B.ヒトPRPを用いたポリマー表面への血小板粘着のSEM観察
表3にPRP接触後の各種ポリマーの膜表面の血小板粘着数を併記した.先の検討により、タンパク吸着抑制能が低い疎水性ポリマーであるポリエーテルスルホンでは、表面へ多くの血小板の粘着が認められた.一方、タンパク吸着抑制能の高いポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)とポリエーテルスルホンとのブレンド膜は、オリジナルのポリエーテルスルホンと比較して明らかな血小板粘着抑制が見られた。
【0109】
以上の結果より、タンパク吸着抑制能に優れた本発明の高分子組成物は、既存のポリエーテルスルホンに比べ、血小板の粘着を有意に抑制することが明らかとなった。
【0110】
C.ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)とポリエーテルスルホン(B)との混合ドープ溶液からの湿式紡糸による中空糸膜の作成血栓形成抑止能の評価
成形された均質な中空糸膜について、ヒト上腕部より採取したノンヘパリン血に浸し、常温で15分放置した後の中空糸表面への血栓付着状態を肉眼観察した。また具体的な血栓形成状況(本数)を表3に併記した。オリジナルのポリエーテルスルホンでは、中空糸膜の全体が完全に血栓で覆われたが、ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)をポリエーテルスルホン(B)に全体の10重量%ブレンド紡糸してなる中空糸は、ほぼ完全に血栓形成を抑制することが確認された。
【0111】
これにより、本発明の高分子組成物を湿式紡糸することで、ポリエーテルスルホンが本来有する優れた膜特性を維持し、なおかつ血液適合性に優れた医療用膜を提供できることが明らかになった。

Claims (7)

  1. 下記式(1)〜(3)
    【化1】
    −(−Ar−X−Ar1−O−)− ・・・(1)
    −(−Ar2−O−)− ・・・(2)
    −(−RO−)k− ・・・(3)
    (上記式(1)において、Xは−SO2−であり、ArおよびAr1はそれぞれ独立に、核置換されていてもよい炭素数6〜30の2価の芳香族基である。上記式(2)において、Ar24,4’−(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェニレン基である。上記式(3)において、Rは炭素数2〜3のアルキレン基であり、kは(RO)kで示されるポリオキシアルキレン構造の分子量が2000〜20000となるような単位繰り返し数である。)で示される繰り返し単位から実質的になり、かつ上記式(1)、(2)及び(3)で表される繰り返し単位の合計量に基づく、上記式(3)で表わされる繰り返し単位の含有量が重量比で10〜90重量%の範囲内であり、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン6/4(重量比)混合溶媒で濃度1.2g/dl、35℃で測定した還元粘度が0.5dl/g以上であり、溶解性パラメーターが9.0〜14.0( cal/cm ) 1/2 の範囲であるポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)1〜50重量部、及びポリエーテルスルホン(B)99〜50重量部から構成されていることを特徴とする抗血栓性に優れた高分子組成物。
  2. 請求項1記載の高分子組成物を、血液と接触して使用するための医療用材料を製造するための素材として使用。
  3. 血液と接触して使用されるための医療用材料であって、少なくとも血液と接触して使用される表面を持つ部分は、請求項1記載の高分子組成物を素材として形成されている医療用材料。
  4. ポリエーテルスルホン(B)が下記式(4)で示される化学
    構造を有する請求項3記載の医療用材料。
    【化2】
    −(−Ar3−X−Ar4−O−)− ・・・(4)
    (上記式(4)において、Xは−SO2−であり、Ar3およびAr4はそれぞれ独立に、核置換されていてもよい炭素数6〜30の2価の芳香族基である。)
  5. 血液と接触して使用される表面を持つ部分の表面近傍における請求項1記載のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)の濃度が、該部分を形成する該高分子組成物全体中の上記共重合体(A)の濃度よりも高い請求項3〜4のいずれかに記載の医療用材料。
  6. 医療用材料が血液透析膜である請求項2〜5のいずれかに記載の医療用材料。
  7. 血液透析膜が請求項1記載の高分子組成物のドープ溶液を湿式紡糸して製造された請求項6記載の医療用材料。
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