JP4249286B2 - アルコール系溶媒から成形可能な医療用材料及びその製造方法 - Google Patents

アルコール系溶媒から成形可能な医療用材料及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は血液と接触して使用される医療用材料に関し、さらに詳しくは血液と接触して使用され、ポリカーボネート等の医療用高分子素材又はその成型体から主としてなる抗血栓性医療用材料およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、合成高分子材料は、人工臓器、カテーテルをはじめとする医療用材料に広く用いられている。その代表的なものは、医療用高分子材料としてはポリエステル、ポリスルホン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、シリコーン樹脂、ポリメタクリル酸エステル及び含フッ素樹脂などの疎水性高分子や、ポリビニルアルコール、ポリエーテルウレタン(セグメント化ポリウレタン、SPU)、ポリ(メタクリル酸2ーヒドロキシエチル)およびポリアクリルアミドなどの親水性高分子である。これら従来の材料の大部分が、主にその物理的、機械的特性に着目して使用されてきた中において、SPUに関しては、比較的抗血栓性に優れることが知られている。中でもBiomerR、CardiothaneRなどは人工心臓への応用が試みられているが、なお十分な効果を得るには至らなかった(E.Nylas,R.C.Reinbach, J.B.Caulfield,N.H.Buckley, W.G.Austen; J.Biomed.Mater.Res.Symp.,3,129(1972)、L.P.Joyce,M.C.Devries,W.S.Hastings,D.B.Olsen,R.K.Jarvik,W.J.Kolff; Trans.ASAIO, 29,81(1983))。
【0003】
一方、医療技術の進歩に伴って、生体組織や血液と材料が接触する機会はますます増加しており、材料の生体親和性が大きな問題になってきている。中でも蛋白質や血球などの生体成分が材料表面に吸着し、変性することは、血栓形成、炎症反応などの、通常では認められない悪影響を生体側に引き起こすばかりでなく、材料の劣化にもつながり、医療用材料の根本的かつ緊急に解決せねばならない重要な課題である。材料表面での血液凝固の防止に関しては、従来ヘパリンに代表される血液抗凝固剤の連続投与が行われてきたが、最近長期にわたるヘパリン投与の影響が問題となってきており、特に血液透析、血液濾過などの血液浄化をうける慢性腎不全患者の血液透析療法、及び人工心肺による酸素冨化を必要とする乳幼児へのECMO(Extracoaporial menbrane oxgenation)への適用、更には手術時の血管導入用のカテーテルの使用に関して、抗凝固剤を必要としない血液接触材料の開発が強く望まれるようになってきた。
【0004】
現在、これら血液接触器材用の素材としては、再生セルロース膜、またはポリプロピレン、ポリウレタン等、先述の合成高分子材料が広く用いられている。特にポリプロピレンは、材料としての機械特性に優れ、また溶融成型が容易な為、人工心肺用の多孔膜、カテーテル基材等に幅広く適用されている。しかしながらこれらの素材は血液適合性に欠けるため、それによる種々の問題が今なお未解決であるのも事実である。その主たるものは、一つにこれらのポリマーによる血液中の補体活性化に伴う一過性白血球減少があり、そして二つ目に、抗凝固剤の長期大量投与のために生じると考えられる種々の副作用がある。先述のように、これら血液接触材料を使用する場合には、医療器材内での血液凝固反応を抑制するためにヘパリンに代表される血液抗凝固剤の連続投与が行われてきた。最近になり、このヘパリンを使用することによる問題が次々と指摘されてきている。特に長期にわたるヘパリン投与により、脂質代謝異常などの肝臓障害、出血時間の延長あるいはアレルギー反応等の副作用を併発することが認められている。このような観点から、これら血液接触型医療器材使用の際に抗凝固剤の使用量を低減させるか、あるいは全く使用しなくても血液凝固を引き起こさない、すなわち、抗血栓性を備えた素材の開発が強く望まれるようになってきた。更に抗血栓性の医療器材は、装置全体のポータブル化も可能にし、現在病院に拘束されている患者の社会復帰を促し、そのクオリティオブライフの向上にもつながることになる。
【0005】
従来の高分子材料の性能を損なわず、補体活性化の抑制または抗血栓性を改善する方法も幾つか提案されている。例えば補体活性化抑制に関しては、第三級アミノ基を有する高分子の表面固定、ポリエチレンオキシド鎖のような親水性高分子を表面に共有結合によりグラフトしたりする方法等も報告され、ある程度の補体活性化抑制の効果は確認されているが、血液凝固の抑制(抗血栓性)までは不十分であった。また抗血栓性の改善に関しては、膜表面のヘパリン化(特開昭51−194号公報)、あるいはプロスタグランジンE1ーセルロース誘導体吸着層による表面修飾(特開昭54−77497号公報)による抗血栓性付与が、また抗血栓性に優れたポリマーである2−メタクリロイルオキシエチルホスホコリン(MPC)をセルロース表面にグラフト重合、固定化する方法(BIO INDUSTRY,8(6),412- 420(1991))あるいは化学修飾したMPCグラフトセルロース誘導体の中空糸への固定(特開平5−220218号公報および5−345802号公報)等が報告されているが、生理活性物質の低安定性の問題等、効果が十分でなかったり、または固定化方法の煩雑さによる高コスト化、均質な固定化表層の獲得の困難さといった面で問題も多く、実用化されていない。更に、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等の合成高分子からなる膜では、再生セルロースに比べ補体活性化抑制等の血液適合性に優れるといった報告が近年なされているが、抗血栓性は不十分であり、抗凝固剤の使用を低減するには至っていない。
【0006】
前記のポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸エステルといった疎水性高分子材料や、ポリビニルアルコール、ポリ(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル)などの親水性高分子材料は、いずれも機械的強度、生体親和性等において満足できるものではない。更にBiomerR、CardiothaneRなどセグメント化ポリウレタンは、剛直な芳香族ウレタン結合部位と柔軟なポリエーテル結合部位の間のミクロ相分離構造により血小板粘着が抑制されるが、その効果は必ずしも十分ではない。特にウレタン結合やウレア結合のように水素結合性の部分構造は、分子鎖の剛直性向上に寄与するものの、主鎖の極性基間の相互作用が強いため、疎水性相互作用を軽減しうる水分子の水和が阻害される。従って血中タンパクが吸着した際にタンパクの変性を誘起、血小板粘着を促進することが報告されている。そもそも一般に水酸基、アミノ基といった極性部位は、血液接触時に補体活性化(第二経路)を誘発し、フィブリン形成促進による血栓形成の要因ともなる。その他ポリエステル系ポリマーでは、PEO(ポリエチレンオキシド)/PBT(ポリブチレンテレフタレート)共重合体が、血液適合性に優れた生体適合ポリマーとして知られているが(特開昭60-238315号公報)、これも高い加水分解性、およびそれに伴う低分子溶出物の体内への漏洩など、化学的な安定性にかける欠点があり、実用上問題が大きい。
【0007】
一方、ポリマー表面を親水/疎水ミクロドメイン構造とすることで血小板粘着を抑制して抗血栓性を発現するという材料設計が、HEMA(2-hydroxyethylmethacrylate)-Styrene-HEMAブロック共重合体等で知られているが(C.Nojiri,T.Okano,D.Grainger,K.D.Park,S.Nakahama,K.Suzuki,S.W.Kim,Trans. ASAIO,33,596(1987))、これも高価格であり、また脆く、溶融成型、湿式成型も困難であるなど実用上の問題が大きい。最近では表面エネルギーの小さな(疎水性の大きい)フルオロアルキル基等をミクロドメイン構造の疎水性ドメインに適応することで、表面エネルギーの大きな親水性ドメインとの相分離状態を安定化し、より血液適合性を向上させる試みがなされているが、なお加工性の問題は解決されてない。先述の生体膜類似表面構造を有するMPC共重合体が抗血栓性に優れることも示されたが(K.Ishihara, R.Aragaki,T.Ueda,A.Watanabe,N.Nakabayashi,J.Biomed.Mater.Res.,24,1069(1990))、これも成型加工性、物理、化学的安定性、価格等に問題がある。
【0008】
即ちこれらの材料は、それ自身がバルクの材料として使用されるというより、機械的特性に優れた汎用素材表面にコーティングすることでバルクの素材特性を損なわず、血液接触表面のみの血液適合性を改質するのが主たる目的である。そのために最も有効なのが素材表面へのこれら抗血栓性材料の塗工と被膜形成である。溶融成型による抗血栓材料の表面積層も不可能ではないが、それでは表面のみをμmオーダーの均質な被膜で被覆することは困難である。従って塗工にはごく薄い被膜を形成させるため抗血栓性材料が溶解する溶媒が必要であるが、そのような有機溶媒はテトラヒドロフラン、トルエンの様な疎水性炭化水素、クロロホルム、塩化メチレンといったハロゲン系炭化水素およびヂメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンの様なアミド系非プロトン性極性溶媒であり、これらは有害性や取り扱い性といった問題のみならず、おおもとの汎用素材自身を溶解してしまうため、どうしても使用できる対象素材が制限されてしまう。特にポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリカーボネートの類の素材は耐有機溶剤性が小さいため、上述した何れの種類の溶媒も使用することができない。これら汎用素材表面を血液適合性材料で被覆する場合、素材が溶解しない溶媒として考えられるのは、メタノール、エタノールといった比較的沸点が低く、親水性の高い低級アルコール、及び/またはこれらを主たる組成成分とする混合溶媒である。先述のMPCはこれら溶媒に溶解できる抗血栓性材料として現在知られている唯一のものであるが、残念ながらそれ自身の機械的、物理化学的特性のため、被膜の剥離などの問題もあり実用化には至っていない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、機械的特性に優れた素材を対象にして、コスト、成型性(溶剤溶解性)等の面で実用的であり、かつ抗血栓性を改善した血液と接触して使用されるための医療用材料及びその製法を提供することにある。
本発明の他の目的は、血液と接触して使用される表面が特定のポリアルキルエーテル系共重合体で被覆された医療用材料を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、本発明の上記医療用材料を構成する新規な溶液組成物を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、血液適合性(特に抗血栓性)、生体安全性、経済性、溶剤溶解性等を考慮し、医療用素材の血液適合性改善の検討を行ったところ、適当な鎖長からなるポリエチレングリコールと疎水性のモノマーから得られる共重合体、即ち、ポリエチレングリコールと共重合するハード成分であるポリ(芳香族ポリスルホン)の共重合体において、ポリエチレングリコール単位数、疎水性ハード成分の種類、およびこれらの共重合組成の制御したポリエーテル/ポリスルホン共重合体が血液適合性(特に抗血栓性)に優れ、同時にアルコール系溶媒に溶解することを見い出し、更に、該共重合体のアルコール系混合溶媒溶液を医療用材料へ塗布、乾燥することにより、これら高分子材料の機械的特性を維持しつつ、更にポリエーテル/ポリスルホン系共重合体が有する抗血栓性を付与された医療用材料が得られ、前記の問題点が解決できることを見出し、本発明に到達したものである。
【0011】
即ち、本発明は、ポリアルキルエーテル系共重合体(A)0.1〜10重量部、及び炭素数1〜6の脂肪族アルコールを80重量%以上含有するアルコール系溶媒(C)100重量部からなり、かつ血液と接触して使用されるための医療用材料の血液と接触する表面を被覆するために使用する溶液組成物であって、ポリアルキルエーテル系共重合体(A)が
(i)下記式(1)〜(3)
【0012】
【化2】
−(−Ar1−X−Ar2−O−)− ・・・(1)
−(−Ar3−O−)− ・・・(2)
−(−RO−)k− ・・・(3)
【0013】
(上記式(1)において、Xは−SO2−であり、Ar1およびAr2はそれぞれ独立に、核置換されていてもよい2価の芳香族基である。上記式(2)において、Ar3は核置換されていてもよい2価の芳香族基である。上記式(3)において、Rは炭素数2〜3のアルキレン基であり、kは(RO)で示されるポリオキシアルキレン構造の分子量が2000〜20000となるような単位繰り返し数である。)
で表される繰り返し単位から主としてなり、上記式(1)、(2)及び(3)で表される繰り返し単位の合計量に基づく(3)の含有量が重量比で50〜90重量%の範囲内であり、上記式(1)、(2)及び(3)で表わされる繰り返し単位に基づく、(1)の割合がモル比で20〜60%の範囲内であり、かつフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比6/4)混合溶媒中、ポリマー濃度1.2g/dl、温度35℃で測定した還元粘度が0.5以上であって、かつ
(ii)炭素数1〜6の脂肪族アルコールを80重量%以上含有するアルコール系溶媒(C)に溶解可能である、
溶液組成物であり、または上記溶液組成物において、炭素数1〜6の脂肪族アルコールを80重量%以上含有するアルコール系溶媒(C)が10重量%以下の水と、1,3−ジオキソランとを含むものである。
【0014】
また、本発明は、上記溶液組成物を準備し、該溶液組成物から医療用高分子(B)上に厚さ1mm以下の薄膜を形成し、少なくとも血液と接触して使用される表面がポリアルキルエーテル系共重合体(A)で被覆された医療用材料を生成せしめることを特徴とする、医療用材料の製造方法であり、または、上記溶液組成物を、1,3−ジオキソランにポリアルキルエーテル系共重合体(A)を溶解し、これに炭素数1〜6の脂肪族アルコールを添加後、水を加えることにより準備し、該溶液組成物から医療用高分子(B)上に厚さ1mm以下の薄膜を形成し、少なくとも血液と接触して使用される表面がポリアルキルエーテル系共重合体(A)で被覆された医療用材料を生成せしめることを特徴とする、医療用材料の製造方法である。
【0015】
さらに本発明は、上記の製造方法によって得られた医療用材料である。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下本発明について詳述する。
本発明の医療用材料は、(A)ポリアルキルエーテル系共重合体と(B)医療用高分子とからなり、(A)成分が血液と接触して使用される。
【0017】
本発明に用いる医療用高分子(B)としては、例えばポリエステル、ポリエーテルエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、シリコーン樹脂、ポリメタクリル酸エステル及び含フッ素樹脂などの疎水性高分子や、ポリビニルアルコール、ポリエーテルウレタン(セグメント化ポリウレタン、SPU)、ポリ(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル)およびポリアクリルアミドなどの親水性高分子が挙げられる。このうち、特に成形性、(B)との接着性などの点からポリエステル、ポリエーテルエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、シリコーン樹脂、ポリメタクリル酸エステル及び含フッ素樹脂などの疎水性高分子が好適である。これら疎水性高分子としては、医療用グレードとして低分子オリゴマー、不純物の溶出のない分子量1万以上のものであれば、ホモポリマーのみならず、成型性、柔軟性付与の目的で他のモノマーを共重合したランダム、ブロックコポリマーの何れでもよい。
【0018】
本発明におけるポリアルキルエーテル系共重合体(A)は、下記式(1)〜(3)で表される繰り返し単位から主としてなる。
【0019】
【化3】
−(−Ar1−X−Ar2−O−)− ・・・(1)
−(−Ar3−O−)− ・・・(2)
−(−RO−)k− ・・・(3)
【0020】
上記式(1)、(2)において、Xは−SO2−であり、Ar1、Ar2及びAr3はそれぞれ独立に、核置換されていてもよい炭素数6〜30の2価の芳香族基を示し、具体的にはp−フェニレン、m−フェニレン、2,6−ナフチレン、2,7−ナフチレン、1,4−ナフチレン、1,5−ナフチレン、4,4’−ビフェニレン、2,2’−ビフェニレン、4,4’−オキシジフェニレン、4,4’−イソプロピリデンジフェニレン、4,4’−イソプロピリデン−2,2’,6,6’−テトラメチルジフェニレン、4,4’−スルホニルジフェニレン等を例示することができる。Ar1、Ar2としてはこれらのうちp−フェニレンが、Ar3としては4,4’−オキシジフェニレン、4,4’−イソプロピリデンジフェニレン、4,4’−イソプロピリデン−2,2’,6,6’−テトラメチルジフェニレン、4,4’−スルホニルジフェニレンが好ましい。
【0021】
上記式(3)において、Rは炭素数2〜3のアルキレン単位を示し、具体的には、エチレン、プロピレン等を例示することができる。Rとしてはこれらのうち、エチレンが好ましい。Rは単独の構造でもよいし、二種以上の構造から構成されていてもよい。
【0022】
kは(RO)kで示されるポリオキシアルキレン構造の分子量が、2000〜20000となるような繰り返し単位数を示す。ポリオキシアルキレン成分の数平均分子量は、好ましくは2000〜15000、より好ましくは3000〜10000、特に好ましくは3000〜6000である。例えば、Rがエチレンの場合、kはおよそ45〜455の範囲の数となる。
【0023】
上記ポリアルキルエーテル系共重合体(A)としては、上記式(1)におけるXが−SO2−であり、Ar1およびAr2がともにp−フェニレンであり、かつ上記式(2)におけるAr3がp−フェニレンであるポリエーテル/ポリスルホン共重合体が好ましい。上記ポリアルキルエーテル系共重合体(A)は、言いかえると、ポリスルホン成分をハードセグメントとし、数平均分子量が2000〜20000のポリオキシ(炭素数2〜3)アルキレン成分をソフトセグメントとする共重合体であって、下記式(4)
【0024】
【化4】
−(−Ar1−X−Ar2−O−Ar3−O−)− ・・・(4)
(上記式(4)中、X、Ar1、Ar2、およびAr3の定義は上記式(1)〜(3)と同義である)
で表される繰り返し単位と、上記式(3)で表される繰り返し単位とからなる共重合体である。
【0025】
本発明におけるポリアルキルエーテル系共重合体(A)に含まれる、上記式(3)で表されるポリオキシアルキレングリコール成分の含有量は、上記式(1)、(2)及び(3)で表される繰り返し単位の合計量に対して50〜90重量%の範囲内である。ソフトセグメントであるポリオキシアルキレングリコール成分の含有量がポリスルホンに対し、重量比50%未満では該共重合体(A)の疎水性が高すぎ、蛋白吸着や血小板粘着を十分に抑制できなく、更にアルコール系溶媒への溶解性も不十分である。また90%を超えると親水性が高すぎるため、水中への溶出、著しい膨潤が起こり機械的強度も十分ではない。かかるポリオキシアルキレングリコール成分の含有量は、好ましくは50〜85重量%、より好ましくは60〜80重量%である。
【0026】
上記ポリアルキルエーテル系共重合体(A)は、上記式(1)、(2)及び(3)で表わされる繰り返し単位に基づく、(1)の割合がモル比で20〜60%の範囲内である。かかる範囲内であることによって、良好な抗血栓性を示す。かかる割合は、好ましくはモル比で25〜55%であり、より好ましくは30〜49.9%である。
【0027】
上記式(1)、(2)及び(3)で表される繰り返し単位より実質的になるポリアルキルエーテル系共重合体は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。
【0028】
かかるポリアルキルエーテル系共重合体(A)は、上記式(1)で表される繰り返し単位の1種または2種以上を用いてもよく、上記式(2)で表される繰り返し単位の1種又は2種以上を用いてもよく、上記式(3)で表される繰り返し単位の1種又は2種以上を用いてもよい。
【0029】
上記ポリアルキルエーテル系共重合体(A)は、例えば、ビス(ハロアリール)スルホンおよびα,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレンとジヒドロキシアリール化合物とを、適当な溶媒およびアルカリの存在下、加熱反応させる従来公知の方法で得ることができる。ビス(ハロアリール)スルホンとα,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレンのモル比を変えることで、種々の組成のポリエーテル/ポリスルホン共重合体を得ることができる。加熱反応温度は120〜300℃が好ましく、より好ましくは160〜250℃である。反応温度が高すぎると副反応が起こったり、原料の分解が起こりやすく、また低すぎると反応が遅くなる。
【0030】
合成に用いるアルカリとしては、アルカリ金属炭酸塩または水酸化物が好ましく、例えば炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどをあげることができる。なかでも炭酸塩、特に炭酸カリウムが好ましい。アルカリの量は、反応中に発生するハロゲン化水素を実質的に中和する量であることが必要であるが、実際は理論量よりも5%程度多くても、少なくても、反応させることができる。反応には適当な可塑剤、溶媒を用いることもできる。適当な溶媒を例示すれば、ジフェニルスルフォン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド等を用いることができるが、中でもN,N−ジメチルアセトアミド、ジフェニルスルフォンが好ましい。
【0031】
反応に際してその促進のために添加剤を加えることができる。かかる添加剤の例として金属またはその塩、包接化合物、キレート剤、有機金属化合物などをあげることができる。
【0032】
本発明におけるポリアルキルエーテル系共重合体(A)は、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン6/4(重量比)混合溶媒中で測定した還元粘度が0.5以上、好ましくは1.0以上である。
【0033】
還元粘度が0.5未満の場合には、ポリマーの機械的強度、ブレンド特性が不充分となり好ましくない。なお、ここでいう還元粘度は、フェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4)中、ポリマー濃度1.2g/dl、温度35℃で測定される値をいう。
【0034】
本発明におけるポリアルキルエーテル系共重合体は、その目的に応じてポリオキシアルキレン鎖の分子量、共重合組成を任意に変化させることができる。なお本発明において、ポリアルキルエーテル系共重合体は、その性質が本質的に変化しない範囲で他の成分を共重合させることも可能である。
【0035】
なお本発明において、上記ポリアルキルエーテル系共重合体は、その性質が本質的に変化しない範囲(例えばポリマーの20重量%以下、好ましくは10重量%以下)で他の成分を共重合成分として含有していてもよい。共重合させる他の成分としては、例えば、エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位として含有するポリエステル、ブチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位として含有するポリエステル、ジフェニルスルホンを主たる繰り返し単位として含有するポリエーテルスルホン、ジフェニルスルホンとビスフェノールAの縮合物を主たる繰り返し単位として含有するポリスルホン、ジフェニルスルホンとビスフェノールFの縮合物を主たる繰り返し単位として含有するポリスルホン、ビスフェノールAの炭酸エステルを主たるくり返し単位として含有するポリカーボネート等を挙げることができる。
【0036】
こうして調製したポリアルキルエーテル系共重合体は、種々の有機溶媒、例えばテトラヒドロフラン(THF)、ベンゼンといった炭化水素溶媒、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のアミド系非プロトン性極性溶媒、およびクロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン系有機溶媒に可溶であるが、最も重要な特徴としてアルコール系の有機溶媒を多量に含有する溶媒に可溶であることが挙げられる。ここで言うアルコール系溶媒とは、主たる成分として炭素数1〜6の脂肪族アルコールを80重量%以上含有する混合溶媒、または該アルコール単独溶媒を指す。かかる炭素数1〜6の脂肪族アルコールとしては、具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール等の一価脂肪族低級アルコールを80〜100重量%含有する混合溶媒系または単独溶媒系である。アルコール含有量が80重量%未満であると、被塗工表面である医療用高分子(B)の耐溶剤性が低下し、上記ポリアルキルエーテル系共重合体の均質な薄膜層を形成できない恐れがある。
【0037】
用いる上記ポリアルキルエーテル系共重合体は、その組成とアルコールの種類の組み合わせによってはアルコール単独溶媒への溶解性が不十分なことがあり、その場合、混合溶媒を用いることができる。かかるアルコール溶媒と混合して用いる補助溶媒としては、上記ポリアルキルエーテル系共重合体(A)の良溶媒であり、かつ用いるアルコールと比較的沸点が近いかもしくは共沸混合物を形成できるものが好ましい。もちろん補助溶媒の混合溶媒組成は、対象の医療用高分子(B)が侵されたり、溶解したりしないよう必要最小限に調製すべきである。具体的には、例えば1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状脂肪族エーテル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等の脂肪族カルボン酸エステル、アセトン、メチルエチルケトン等の脂肪族ケトンなどが挙げられるが、上記ポリアルキルエーテル系共重合体の溶解性、溶媒沸点等の物理的性質から、1,3−ジオキソラン等の環状エーテルが好ましい。またこれらのアルコール混合溶媒系には共沸化のために少量(10重量%以下)の水を加えることも可能である。
【0038】
これらアルコール系溶媒を用いることで、上記ポリアルキルエーテル系共重合体(A)とアルコール系溶媒とからなる溶液組成物を調製することができる。
【0039】
本発明によれば、血液と接触して使用される部分が薄い厚みを持つ医療用材料はかかる溶液組成物を用いて、特に下記方法によって有利に製造される。
【0040】
すなわち、本発明によれば、上記ポリアルキルエーテル系共重合体(A)、及び炭素数1〜6の脂肪族アルコールを80重量%以上含有するアルコール系溶媒(C)からなる溶液組成物を準備し、該溶液組成物から医療用高分子(B)上に厚さ1mm以下の薄膜を形成し、少なくとも血液と接触して使用される表面がポリアルキルエーテル系共重合体(A)で被覆された医療用材料を生成せしめる、ことを特徴とする医療用材料の製造方法が提供される。
【0041】
溶液組成物を薄膜に形成するには、例えば溶液組成物を医療用高分子(B)上にキャストしてフィルム状にすることにより行うことができる。溶液組成物中の(A)成分と(B)成分の合計濃度は、キャストの際には好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.5〜2重量%である。
【0042】
溶液組成物は薄膜に形成されたのち、湿式もしくは乾式法によりアルコール系溶媒を除去され、自立性のある成形品としての医療用材料を与える。
【0043】
得られる医療用材料の血液と接触して使用される部分である薄膜は1mm以下、好ましくは10nm〜10μm、より好ましくは100nm〜1μmの厚みを有するのが有利である。
【0044】
上記キャスト方法としては、具体的には、先の医療用高分子(B)をアルコール系溶媒に単に浸漬し、ついで該溶媒を除去することにより、(B)の表面を上記ポリアルキルエーテル系共重合体の薄膜層で被覆することが可能である。上記ポリアルキルエーテル系共重合体の薄膜層の厚みが10nm未満であると、膜表面全体にわたる均質な薄膜層の作製が困難であり、又10μmより大きいと医療用高分子(B)本来の医療用高分子としての素材特性が維持できない恐れがある。被覆時の上記共重合体薄膜の厚みとしては、好ましくは10nm〜10μm、より好ましくは100nm〜1μmである。共重合体薄膜被覆層の厚みは、用いる有機溶媒の種類および濃度と塗布回数で制御することが出来る。例えばこれら共重合体の1重量%メタノール/ジオキソラン(80/20重量比)混合溶媒溶液にポリスチレン平膜を浸漬後、余剰の溶液を除去、溶媒を乾燥した時の被覆層の厚みは約300〜400nmである。ポリマーの溶媒濃度としては、ポリマーの溶解性にもよるが、均一な被覆を円滑に行うことができる濃度域として0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜2重量%の範囲が適切である。ポリマー濃度が0.1%未満では被覆が十分になされず、部分的なむらを生じる恐れがあり、又10%を超えるとではポリマー粘度が高すぎ、薄膜被覆が円滑に行えないばかりか、その厚みが不均一となる。
【0045】
用いる医療用高分子(B)としては、医療用グレードとして低分子オリゴマー、不純物の溶出のない分子量1万以上のものであれば、ホモポリマーのみならず、成型性、柔軟性付与の目的で他のモノマーを共重合したランダム、ブロックコポリマーの何れでもよい。
【0046】
本発明の医療用材料は、該材料の血液と接触する部分が、上記ポリアルキルエーテル系共重合体からなる薄膜により被覆されている。ここで血液と接触する部分とは、血液が接触する材料の表面およびその近傍をさす。例えば、人工腎臓用透析膜として使用する場合には、少なくとも血液が流れるその内面が上記共重合体で構成されていればよい。
【0047】
本発明の抗血栓性に優れる医療用材料は、濃度5重量%であるヒト貧血小板血漿(PPP)のリン酸緩衝液に37℃、一時間接触させた時の上記体表面への蛋白吸着量が0.8μg/cm2以下(MicroBCA法によるアルブミン換算)であることが好ましく、0.6μg/cm2以下であることがより好ましい。血液接触時の蛋白吸着量が0.8μg/cm2より大きいと、それに続く血小板粘着、活性化を十分に抑制できないため、血栓形成が進行する。かかる蛋白吸着量は少ないほど望ましいが、0.3〜0.7μg/cm2の範囲にあれば実際的に十分効果がある。
【0048】
【発明の効果】
本発明の医療用材料は、上記ポリアルキルエーテル系共重合体がその血液接触面を完全に被覆している。そして、この医療用材料は血漿溶液に接したときの血液中の蛋白および血小板の粘着等に対して優れた吸着抑制効果を有する。この理由については、以下のように考えられる。かかる共重合体は剛直部位であるポリスルホン成分(ハードセグメント)及びポリマー主鎖中に固定された親水性ポリオキシアルキレングリコール鎖(ソフトセグメント)を有しており、これら親水性セグメントと疎水性セグメント双方は熱力学的にのみならず、巨視的に相分離した表面構造を特徴とする。かかるポリマーは、主鎖中の大部分にわたって水素結合供与基が存在しないため、主鎖間の相互作用が小さく、疎水性相互作用を低減しうる水分子の接触が容易におこる。従って水の存在下、水接触界面において水和したハイドロゲル層並びに疎水性ポリマー集合部から成る微細ドメイン構造が形成される。このため、蛋白質や血球などの生体成分の吸着が少なく、また吸着した蛋白質の変性や接触した血小板の粘着、活性化を抑制することができる。更にオキシエチレン自由末端鎖、遊離水酸基末端数等が大幅に減少するため、細胞膜損傷、補体活性化を回避できるものと考えられる。
【0049】
また、上記ポリアルキルエーテル系共重合体のポリマー主鎖中に固定された親水性ポリオキシアルキレングリコール鎖は、アルコールのようなプロトン性極性溶媒へ高い親和性を有するに十分な分子鎖長を有しており、その効果によりアルコールを主成分とする混合溶媒へ溶解すると推察される。それ故、これらのアルコール溶液を用い種々の医療用高分子表面へ塗工被覆した本発明の医療用材料を形成することができる。
【0050】
以上より、アルコール系溶媒から成型された本発明の抗血栓性医療用材料の利用分野としては、直接血液成分と接触して用いることが主たる目的となる医療用材料として有用であり、例えば人工腎臓、人工血管、人工心肺、血液透析膜、血液バッグ、カテーテル、血漿分離膜等に用いることができる。
【0051】
【実施例】
以下、参考例および実施例によって本発明を更に詳しく説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定するものではない。また、例中の「部」は特にこだわらない限り「重量部」を表す。
ポリマーの還元粘度(ηsp/c)は、フェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4)10mlに120mgを溶解させて35℃で測定した。
【0052】
[合成例1(α,ω−ビス(2−クロロエトキシ)ポリオキシエチレン(数平均分子量4000)の合成)]
ポリエチレングリコール(#4000)40部、ピリジン2.4部、脱水クロロホルム150部をスリ付き三角フラスコ中に仕込み、撹拌して均一溶液とした。これに塩化チオニル1.8部、脱水クロロホルム15部の混合溶液を氷冷下30分かけて滴下、その後氷冷をはずして液温が室温に上昇した後、更にもう8時間撹拌を続けた。クロロホルムを減圧留去後、更にもう15部の新鮮な塩化チオニルを加え、24時間、加熱乾留した。その後減圧下で余剰の塩化チオニルを留去し、残査を新鮮なクロロホルム300部に溶解し、飽和食塩水200部で三回洗浄、ついで純水200部で一回洗浄し、クロロホルム層を分取、無水硫酸ナトリウムで一晩乾燥した。クロロホルムを留去し得られた油状物は室温で直ちに固化した。これをアセトン40部に加熱溶解し、ジエチルエーテル200部より再沈殿を行うことで白色粉状晶38.4部を得た。生成物の融点は、50.5℃〜53.5℃であり、IR(赤外分光)測定よりこの化合物はα,ω−ビス(2ークロロエトキシ)ポリオキシエチレン(数平均分子量3000)であることが確認された。
【0053】
[参考例1(ポリアルキルエーテル系共重合体の製造)]
4,4’−ヒドロキシジフェニルエーテル10.11部、ビス(4−クロロフェニル)スルホン11.29部、α,ω−ビス(2−クロロエトキシ)ポリオキシエチレン(数平均分子量4000)32.46部、トルエン20部、炭酸カリウム8.63部を、窒素導入口と排出口を持った3つ口フラスコに入れ、これをディーン・スタークス・トラップに誘導し窒素置換を行い、110℃で6時間加熱環流を行った。反応に伴う水の流出が終了したのを確認後、トルエンを留去し、新たにN,N−ジメチルアセトアミド20部を加え、フラスコ内を窒素置換後、160℃で15時間加熱撹拌し、反応せしめた。得られたポリマーをクロロホルムで抽出、メタノールより再沈殿後、水で煮沸洗浄し、乾燥した。120mgのポリマー(ポリアルキルエーテル系共重合体)をフェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4)10mlに溶解させ、還元粘度を測定したところ2.35であった。また、このポリマーの数平均分子量は約45000(ポリスチレン換算)であった。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
Figure 0004249286
【0055】
1)略号はそれぞれ下記構造式に対応する。
【0056】
【化5】
Figure 0004249286
【0057】
[参考例2〜3(ポリアルキルエーテル系共重合体の製造)]
参考例1と同様の操作により、種々のポリアルキルエーテル系共重合体を製造した。重合した一連のポリマーに関して、結果を表1に併記する。
【0058】
[実施例1および3、比較例1〜
(アルコール系溶媒を用いたポリアルキルエーテル系共重合体溶液組成物の調製及び医療用材料の成形)
上記参考例で製造したポリアルキルエーテル系共重合体の1.0重量%アルコール系溶媒溶液を調製した。アルコール系溶媒としては、メタノールが95重量%、補助溶媒としての1,3−ジオキソランが2.5重量%、水が2.5重量%の混合組成からなるものを用いた。溶液の調整方法としては、まず良溶媒である1,3−ジオキソランにポリアルキルエーテル系共重合体を溶解し、これにメタノールを所定量添加後、水を加えて十分攪拌することで均一透明なポリアルキルエーテル系共重合体溶液を得ることができた。これに別途調製したポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルの各平膜(直径15mm、厚さ0.1mm)を浸漬した。その後速やかに平膜を取り出し、溶媒雰囲気下で一晩放置することにより溶媒を揮散させ、ポリマーを被覆した。被覆層の電子顕微鏡観察より、被膜は全体に均質な厚み300〜400nmの層を形成していた。
【0059】
(蛋白質吸着量の評価)
抗血栓性医療用ポリマー平膜へのタンパク質吸着の定量をMicroBCA法により行った。これは銅イオンおよび下記構造で示される BCA蛋白検出試薬を用いたキットによる蛋白定量法である。
【0060】
【化6】
Figure 0004249286
【0061】
試料中に存在する蛋白により一価に還元された銅イオンのみが、この試薬とキレート反応を行い発色(570nm)するため、サンプルの吸光度測定より蛋白濃度(アルブミン換算)を定量することができる。
【0062】
評価にあたっては、コントロールポリマーとして抗血栓性のない未被覆ポリマー平膜を比較実験として用いた。
【0063】
ヒト貧血小板血漿(PPP)を用い、コントロールポリマーである未被覆ポリマー平膜、および上記共重合体で被覆した本発明の医療用材料であるポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルの各平膜(直径15mm、厚さ0.1mm)をこの血漿溶液に接触したときの蛋白吸着量を分光定量した。評価に際しては、PPPをリン酸緩衝液で所定濃度(5重量%リン酸緩衝液溶液)に調製したものを37℃、一時間ポリマー膜へ接触させ、吸着蛋白を1wt%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液で抽出、MicroBCA キットを用い、常法により発色させ、吸光度から吸着量を見積った。結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
Figure 0004249286
【0065】
本発明の医療用材料は、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなど従来の汎用医療用ポリマーに比べ、有意な蛋白吸着抑制を示した。
【0066】
(ヒトPRPを用いたポリマー表面への血小板粘着のSEM観察)
一般に、重篤な血栓形成の前段階である血小板の粘着、凝集には,材料表面へ吸着するタンパク質の種類及びその表面における配向が大きく関与することが知られている.そして粘着した血小板の活性化(変形、顆粒放出)がその後の凝集、血小板血栓形成、凝固因子系の反応促進に影響する.従って血液(全血又は成分血)と接触した後の材料表面における血小板の粘着状態を観察することで、そのポリマーの血液適合性の程度を大まかに見積もることができる.ここではヒト多血小板血漿(PRP)を用い、PRP接触後のポリマー表面の血小板粘着挙動をSEMにより観察した.PRPはヒト上腕部静脈より採取した新鮮血に3.5wt%クエン酸三ナトリウム水溶液を1/9容加え、1000r.p.m.で10分遠心分離した上澄みを調製した.サンプルは先述のポリアルキルエーテル系共重合体で被覆した抗血栓性ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルの各平膜(直径15mm、厚さ0.1mm) 、及びコントロールの未被覆ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルの各平膜(直径15mm、厚さ0.1mm)を用いた。これらを培養シャーレ(Falcon,24well))中、0.7mlのPRPと37℃、3時間接触した.接触後のポリマーサンプルは蒸留水でよく洗浄し、2.5wt%グルタルアルデヒド水溶液で室温下二時間かけて固定し、凍結乾燥後、金蒸着して観察試料とした.
表3にPRP接触後の各種ポリマー表面の血小板粘着量を併記した.先の検討により、タンパク吸着抑制が低い疎水性ポリマーであるポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルの各平膜(直径15mm、厚さ0.1mm)では、多くの血小板が表面に粘着が認められた.一方、タンパク吸着抑制能の高い上記共重合体を表面被覆したこれらの各平膜は、未被覆のこれらポリマー平膜と比較して明らかな血小板粘着抑制が見られた。
【0067】
以上の結果より、タンパク吸着抑制能に優れた本発明の医療用材料(アルコール系溶剤に可溶なポリアルキルエーテル系共重合体で被覆された種々の医療用ポリマー)では、既存の未被覆ポリマーに比べ、血小板の粘着を有意に抑制することが明らかとなった。
【0068】
すなわち本発明によれば、抗血栓性に優れ、かつアルコール系溶剤に可溶なポリアルキルエーテル系共重合体で従来の各種医療用ポリマー表面を被覆することができるので、医療用高分子として有用なこれらポリマー成形体を抗血栓化し、血液適合性に優れた医療用素材を提供できることが明らかになった。

Claims (8)

  1. ポリアルキルエーテル系共重合体(A)0.1〜10重量部、及び炭素数1〜6の脂肪族アルコールを80重量%以上含有するアルコール系溶媒(C)100重量部からなり、かつ血液と接触して使用されるための医療用材料の血液と接触する表面を被覆するために使用する溶液組成物であって、ポリアルキルエーテル系共重合体(A)が
    (i)下記式(1)〜(3)
    【化1】
    −(−Ar1−X−Ar2−O−)− ・・・(1)
    −(−Ar3−O−)− ・・・(2)
    −(−RO−)k− ・・・(3)
    (上記式(1)において、Xは−SO2−であり、Ar1およびAr2はそれぞれ独立に、核置換されていてもよい2価の芳香族基である。上記式(2)において、Ar3は核置換されていてもよい2価の芳香族基である。上記式(3)において、Rは炭素数2〜3のアルキレン基であり、kは(RO)で示されるポリオキシアルキレン構造の分子量が2000〜20000となるような単位繰り返し数である。)
    で表される繰り返し単位から主としてなり、上記式(1)、(2)及び(3)で表される繰り返し単位の合計量に基づく(3)の含有量が重量比で50〜90重量%の範囲内であり、上記式(1)、(2)及び(3)で表わされる繰り返し単位に基づく、(1)の割合がモル比で20〜60%の範囲内であり、かつフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比6/4)混合溶媒中、ポリマー濃度1.2g/dl、温度35℃で測定した還元粘度が0.5以上であって、かつ
    (ii)炭素数1〜6の脂肪族アルコールを80重量%以上含有するアルコール系溶媒(C)に溶解可能である、
    溶液組成物
  2. 炭素数1〜6の脂肪族アルコールを80重量%以上含有するアルコール系溶媒(C)が、10重量%以下の水と、1,3−ジオキソランとを含むものである、請求項1記載の溶液組成物。
  3. 請求項1記載の溶液組成物を準備し、該溶液組成物から医療用高分子(B)上に厚さ1mm以下の薄膜を形成し、少なくとも血液と接触して使用される表面がポリアルキルエーテル系共重合体(A)で被覆された医療用材料を生成せしめることを特徴とする、医療用材料の製造方法
  4. 請求項2記載の溶液組成物を、1,3−ジオキソランにポリアルキルエーテル系共重合体(A)を溶解し、これに炭素数1〜6の脂肪族アルコールを添加後、水を加えることにより準備し、該溶液組成物から医療用高分子(B)上に厚さ1mm以下の薄膜を形成し、少なくとも血液と接触して使用される表面がポリアルキルエーテル系共重合体(A)で被覆された医療用材料を生成せしめることを特徴とする、医療用材料の製造方法
  5. 請求項3または4に記載の製造方法によって得られた医療用材料
  6. 上記式(1)におけるAr 1 およびAr 2 がともにp−フェニレンであり、かつ上記式(2)におけるAr 3 がp−フェニレンである、請求項5記載の医療用材料
  7. (B)がポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオレフィン、及びポリエーテルエステルからなる群から選ばれる少なくとも一種の医療用高分子である請求項5または6記載の医療用材料
  8. (B)が厚さ10nm〜10μmの(A)によって被覆されている請求項5〜7のいずれかに記載の医療用材料
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