JP4160195B2 - 抗血栓性に優れた高分子組成物およびそれからなる医療用材料 - Google Patents

抗血栓性に優れた高分子組成物およびそれからなる医療用材料 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は抗血栓性に優れた高分子組成物およびそれを用いた医療用材料に関する。さらに詳しくは特定のポリアルキルエーテル/ポリアルキルエーテルスルホン共重合体とポリアミドとからなる抗血栓性に優れた高分子組成物、およびそれを用いた、血液と接触して使用するための医療用材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、合成高分子材料は、人工臓器、カテーテルをはじめとする医療用材料に広く用いられている。その代表的なものは、医療用高分子材料としてはポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、シリコーン樹脂、ポリメタクリル酸エステル及び含フッ素樹脂などの疎水性高分子や、ポリビニルアルコール、ポリエーテルウレタン(セグメント化ポリウレタン、SPU)、ポリ(メタクリル酸2ーヒドロキシエチル)およびポリアクリルアミドなどの親水性高分子である。これら従来の材料の大部分が、主にその物理的、機械的特性に着目して使用されてきた中において、SPUに関しては、比較的抗血栓性に優れることが知られている。中でもBiomerR、CardiothaneRなどは人工心臓への応用が試みられているが、なお十分な効果を得るには至らなかった(E.Nylas,R.C.Reinbach, J.B.Caulfield,N.H.Buckley, W.G.Austen; J.Biomed.Mater.Res.Symp.,3,129(1972)、L.P.Joyce,M.C.Devries,W.S.Hastings,D.B.Olsen,R.K.Jarvik,W.J.Kolff; Trans.ASAIO, 29,81(1983))。
【0003】
一方、医療技術の進歩に伴って、生体組織や血液と材料が接触する機会はますます増加しており、材料の生体親和性が大きな問題になってきている。中でも蛋白質や血球などの生体成分が材料表面に吸着し、変性することは、血栓形成、炎症反応などの、通常では認められない悪影響を生体側に引き起こすばかりでなく、材料の劣化にもつながり、医療用材料の根本的かつ緊急に解決せねばならない重要な課題である。材料表面での血液凝固の防止に関しては、従来ヘパリンに代表される血液抗凝固剤の連続投与が行われてきたが、最近長期にわたるヘパリン投与の影響が問題となってきており、特に血液透析、血液濾過などの血液浄化をうける慢性腎不全患者の血液透析療法に関して、抗凝固剤を必要としない血液接触材料の開発が強く望まれるようになってきた。現在、日本における血液浄化法適用患者は10万人を超える。
【0004】
一方、これら医用材料の特性を損なわずに補体活性化の抑制または抗血栓性を改善する方法も幾つか提案されている。例えばセルロースの補体活性化抑制に関しては、第三級アミノ基を有する高分子の表面固定、ポリエチレンオキシド鎖のような親水性高分子を表面に共有結合によりグラフトしたりする方法等も報告され、ある程度の補体活性化抑制の効果は確認されているが、血液凝固の抑制(抗血栓性)までは不十分であった。またセルロース膜の抗血栓性の改善に関しては、膜表面のヘパリン化(特開昭51−194号公報)、あるいはプロスタグランジンE1ーセルロース誘導体吸着層による表面修飾(特開昭54−77497号公報)による抗血栓性付与が、また抗血栓性に優れたポリマーである2−メタクリロイルオキシエチルホスホコリン(MPC)をセルロース表面にグラフト重合、固定化する方法(BIO INDUSTRY,8(6),412- 420(1991))あるいは化学修飾したMPCグラフトセルロース誘導体の中空糸への固定(特開平5−220218号公報および5−345802号公報)等が報告されている。しかし、生理活性物質の低安定性の問題等、効果が十分でなかったり、または固定化方法の煩雑さによる高コスト化、均質な固定化表層の獲得の困難さといった面で問題も多く、実用化されていない。更に、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等の合成高分子からなる素材では、再生セルロースに比べ補体活性化抑制等の血液適合性に優れるといった報告が近年なされているが、抗血栓性は不十分であり、抗凝固剤の使用を低減するには至っていない。
【0005】
一方、最近になり、再生セルロースに変わる透析用膜素材としてセルロースのエステル誘導体であるアセチル化されたセルロース・アセテートが主流に用いられるようになり、実際その透析用中空糸膜が再生セルロース膜をはるかに凌ぐ透析性能を示すことが報告されている。しかしながら抗血栓性はなく、血液適合性は不十分である。
【0006】
その他前記のポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸エステルといった疎水性高分子材料や、ポリビニルアルコール、ポリ(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル)などの親水性高分子材料は、いずれも機械的強度、生体親和性等において満足できるものではない。更にBiomerR、CardiothaneRなどセグメント化ポリウレタンは、剛直な芳香族ウレタン結合部位と柔軟なポリエーテル結合部位の間のミクロ相分離構造により血小板粘着が抑制されるが、その効果は必ずしも十分ではない。特にウレタン結合やウレア結合のように水素結合性の部分構造は、分子鎖の剛直性向上に寄与するものの、主鎖の極性基間の相互作用が強いため、疎水性相互作用を軽減しうる水分子の水和が阻害される。従って血中タンパクが吸着した際にタンパクの変性を誘起、血小板粘着を促進することが報告されている。そもそも一般に水酸基、アミノ基といった極性部位は、血液接触時に補体活性化(第二経路)を誘発し、フィブリン形成促進による血栓形成の要因ともなる。
【0007】
その他ポリエステル系ポリマーでは、PEO(ポリエチレンオキシド)/PBT(ポリブチレンテレフタレート)共重合体が、血液適合性に優れた生体適合ポリマーとして知られているが(特開昭60−238315号公報)、これも高い加水分解性、およびそれに伴う低分子溶出物の体内への漏洩など、化学的な安定性にかける欠点があり、実用上問題が大きい。
【0008】
一方、ポリマー表面を親水/疎水ミクロドメイン構造とすることで血小板粘着を抑制して抗血栓性を発現するという材料設計が、HEMA(2-hydroxyethylmethacrylate)-Styrene-HEMAブロック共重合体等で知られている(C.Nojiri,T.Okano,D.Grainger,K.D.Park,S.Nakahama,K.Suzuki,S.W.Kim,Trans. ASAIO,33,596(1987))が、これも高価格であり、また脆く、溶融成型、湿式成型も困難であるなど実用上の問題が大きい。最近では表面エネルギーの小さな(疎水性の大きい)フルオロアルキル基等をミクロドメイン構造の疎水性ドメインに適応することで、表面エネルギーの大きな親水性ドメインとの相分離状態を安定化し、より血液適合性を向上させる試みがなされているが、なお加工性の問題は解決されてない。先述の生体膜類似表面構造を有するMPC(2-methacryloyloxyethylphosphoryl choline)-BMA(buthylmethacrylate)共重合体が抗血栓性に優れることも示されたが(K.Ishihara, R.Aragaki,T.Ueda,A.Watanabe,N.Nakabayashi,J.Biomed.Mater.Res.,24,1069(1990))、これも成型加工性、価格等に問題がある。
【0009】
ところで、ポリウレタン同様、分子骨格中にアミノ基を有するポリアミドは、加工性、平滑性や機械特性に優れ、上述した血液透析用の中空糸や血漿分離用粘着カラムの基質、血管カニューレ、血液回路用コネクターなど、血液接触型の医用素材として幾つかのものが好適に用いられている。しかしながら骨格中のアミノ基等の影響により血液適合性は低く、やはり血栓形成や細胞粘着を抑制するには、アルブミン、ゼラチン等で表面を被覆し更に血液をヘパリン処理する必要がある。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、コスト、成型性等の面で実用的であり、かつ抗血栓性を改善させ、更に素材性能に優れたポリアミド組成物、及びこれからなる医療用抗血栓性高分子材料、ならびにそれを用いた医療用素材を提供することにある。
【0011】
ところで、ポリエーテル/ポリスルホン系共重合体が優れた抗血栓性を有し、これを抗血栓性材料として用いることは本発明者らによって提案されている。従って、既存のポリアミドにかかるポリエーテル/ポリスルホン系共重合体を何らかの方法で複合化することで、機械特性に優れ、かつその抗血栓性を向上できるのではないかと考える。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、血液適合性(特に抗血栓性)、生体安全性、経済性、溶剤溶解性等を考慮し、ポリアミドの抗血栓性を改善することを検討した。その結果、特定のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン系共重合体を少量混合したポリアミド組成物は、これを溶融成型することにより得られた膜表面に該共重合体が有効に偏析され、ポリアミドに抗血栓性を付与できることを見出した。即ち、抗血栓性に優れる、ソフトセグメントであるポリオキシアルキレングリコールとハード成分であるポリアリールエーテルスルホンとの共重合体において、ポリオキシアルキレングリコール単位数、疎水性であるハード成分の種類、およびこれらの共重合組成の制御等を詳細に検討した結果、適当な鎖長から成るポリオキシアルキレングリコールとアリールエーテルスルホンモノマーから得られる、ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン系共重合体をポリアミドに少量配合することにより、得られるポリアミド組成物は溶融成型することで素材の機械的特性を維持したまま、良好な抗血栓性を有するポリアミド組成物が得られることを見出し本発明を達成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、下記式(1)〜(3)
【0014】
【化2】
−(−Ar1−X−Ar2−O−)− ・・・(1)
−(−Ar3−Y−Ar4−O−)− ・・・(2)
−(−RO−)k− ・・・(3)
【0015】
(ここで、Xは−SO2−であり、Ar1およびAr2はそれぞれ独立に、核置換されていても良い炭素数6〜30の2価の芳香族炭化水素基であり、Ar3及びAr4はそれぞれ独立に、核置換されていても良い炭素数6〜30の2価の芳香族炭化水素基であり、Yはフッ化炭素基であり、Rは炭素数2〜3のアルキレン基であり、kは(RO)kで示されるポリオキシアルキレン構造の分子量が2000〜20000となる単位繰り返し数である。)で示される繰り返し単位が共重合体中80重量%以上であり、かつ上記式(1)、(2)及び(3)で表される繰り返し単位の合計量に基づく、上記式(3)で表わされる繰り返し単位の含有量が重量比で10〜90重量%の範囲内であり、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン6/4(重量比)混合溶媒で濃度1.2g/dl、35℃で測定した還元粘度が0.5以上であるポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)1〜50重量部、及びポリアミド(B)99〜50重量部とから構成されていることを特徴とする抗血栓性に優れた高分子組成物である。
【0016】
また本発明は、上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)1〜50重量部、及びポリアミド(B)99〜50重量部とから構成されている高分子組成物、血液と接触して使用するための医療用材料を製造するための素材として使用である。
【0017】
また本発明は、血液と接触して使用されるための医療用材料であって、少なくとも血液と接触して使用される表面を持つ部分は、上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)1〜50重量部、及びポリアミド(B)99〜50重量部とから構成されている高分子組成物を素材として形成されている医療用材料である。
【0018】
本発明に用いるポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)は、主に上記式(1)〜(3)で示される部分構造より構成される。
【0019】
上記式(1)、(2)においてAr1、Ar2、Ar3およびAr4はそれぞれ独立に、核置換されていても良い炭素数6〜30の2価の芳香族炭化水素基を示し、具体的にはp−フェニレン、m−フェニレン、2,6−ナフチレン、2,7−ナフチレン、1,4−ナフチレン、1,5−ナフチレン、4,4’−ビフェニレン、2,2’−ビフェニレン、4,4’−オキシジフェニレン、4,4’−イソプロピリデンジフェニレン、4,4’−イソプロピリデン−2,2’,6,6’−テトラメチルジフェニレン、4,4’−スルホニルジフェニレン等、およびそれらのモノ、ジ、トリ、テトラ核置換体を例示することができる。核置換基としてはメチル、エチル、フェニル等の炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、フッ素、塩素等のハロゲン基、ニトロ基、炭素数1〜8のアルコキシ基等があげられる。 Ar、Ar1としてはこれらのうちp−フェニレンが、 Ar2、Ar3としては4,4’−オキシジフェニレン、4,4’−イソプロピリデンジフェニレン、4,4’−イソプロピリデン−2,2’,6,6’−テトラメチルジフェニレン、4,4’−スルホニルジフェニレン等が好ましい。
【0020】
また、上記式(1)において、Xは−SO2−であり、上記式(2)においてYは置換されていてもよい炭素数1〜13の2価の炭化水素基、フッ化炭素基、ヘテロ原子またはヘテロ原子団である。具体的なYの構造としては、メチレン、エチレン、メチルメチン、イソプロピリデン等のアルキル基、1,3,−ジフルオロイソプロピリデン、1,1,3,3−テトラフルオロイソプロピリデン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピリデン、トリフルオロメチルメチレンなどのハロゲン化アルキル基、更に酸素によるエーテル結合、硫黄によるチオエーテル結合、アミノ基、アミド基、スルホン基、スルホキシド基のようなヘテロ原子やヘテロ原子団による結合構造があげられる。このうちYとしては、メチレン、イソプロピリデン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピリデン、エーテル型酸素、アミノ基、スルホン基等が好ましい。
【0021】
上記式(3)において、Rは炭素数2〜3のアルキレン基を示し、具体的には、エチレン、プロピレン等を例示することができる。Rとしてはこれらのうち、エチレンが好ましい。Rは単独の構造でもよいし、二種以上の構造から構成されていてもよい。また、kは(RO)kで示されるポリオキシアルキレン構造の分子量が、400〜20000となるような繰り返し単位数を示す。ポリオキシアルキレン構造の分子量は、好ましくは600〜15000、より好ましくは800〜10000、特に好ましくは1000〜6000である。
【0022】
上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)は、上記式(3)で表わされるポリオキシアルキレン構造の含有量がポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体に対し、10〜90重量%の範囲である。該ポリオキシアルキレン構造の含有量が重量比10%以下ではポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体の疎水性が高すぎ、乾燥膜状態での水への濡れが充分ではない。また90%以上では親水性が高すぎるため、水中への溶出、著しい膨潤が起こり機械的強度も十分ではない。該ポリオキシアルキレン構造の含有量は、好ましくは30〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%である。
【0023】
本発明のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)は、例えば上記式(1)で示されるアリール骨格の末端がハロゲン化されたビス(ハロアリール)スルホン、上記式(2)で示されるアリール骨格の末端がヒドロキシル化されたジヒドロキシアリール化合物および上記式(3)で示されるアルキルエーテル骨格の末端がハロゲン化されたα,ω−ビス(2−ハロアルコキシ)ポリオキシアルキレン化合物を、アルカリの存在下、加熱反応させることによって効率よく製造することができる。
【0024】
また本発明のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)は、上記式(1)で示されるアリール骨格の末端がハロゲン化されたビス(ハロアリール)スルホン 、上記式(2)で示されるアリール骨格の末端がヒドロキシル化されたジヒドロキシアリール化合物および上記式(3)で示されるアルキルエーテル骨格の末端がヒドロキシル化されたα,ω−ビスヒドロキシポリオキシアルキレン化合物を、アルカリの存在下、加熱反応させることによっても同様に効率よく製造することができる。
【0025】
反応は、これらの原料を望む組成の上記共重合体を重合するに適切なモル比で仕込み混合し、適当な溶媒の存在下、アルカリと共に反応せしめる。この際、上記各原料の仕込みにおけるモル比を変えることで、種々の組成のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体を得ることができる。加熱反応温度は120〜400℃が好ましく、より好ましくは160〜350℃である。反応温度が400℃より高いと副反応が起こったり、原料の分解が起こりやすく、また120℃より低いと反応が遅くなる。
【0026】
反応に用いるアルカリとしては、アルカリ金属炭酸塩または水酸化物が好ましく、例えば炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどをあげることができる。なかでも炭酸塩、特に炭酸カリウムが好ましい。アルカリの量は、反応中に発生するハロゲン化水素を実質的に中和する量であることが必要であるが、実際は理論量よりも5%程度多くても、少なくても、反応させることができる。反応には適当な可塑剤、溶媒を用いることもできる。適当な溶媒を例示すれば、ジフェニルスルフォン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド等を用いることができるが、中でもN,N−ジメチルアセトアミド、ジフェニルスルフォンが好ましい。
【0027】
反応に際してその促進のために添加剤を加えることができる。かかる添加剤の例として金属またはその塩、包接化合物、キレート剤、有機金属化合物などをあげることができる。
【0028】
かくして得られる本発明のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体は、上記式(1)〜(3)で表される繰り返し単位を有するが、これを言い換えると、ポリオキシアルキレン構造が共重合した芳香族ポリアリールエーテルスルホンであり、下記式(4)および(5)、または下記式(4)および(6)
【0029】
【化3】
- ( - Ar - S O2- Ar1- O - Ar2- Y-Ar3- O - ) - (4)
(ここでYは、先述の式(2)のYと同義である。)
【0030】
【化4】
- ( - R O - ) k - Ar2-Y-Ar3- O - (5)
(ここでYは、先述の式(2)のYと同義である。)
【0031】
【化5】
- ( - R O - ) k - Ar - SO2 - Ar1- O - (6)
(ここでYは、先述の式(2)のYと同義である。)
【0032】
で表される繰り返し単位から主としてなる共重合体であり、かつ上記式(4)と(5)で表される繰り返し単位、または上記式(4)と(6)で表される繰り返し単位の合計重量のうち、ポリオキシアルキレン構造(- ( - R O - ) k -)の重量割合が10〜90重量%、即ちポリオキシアルキレン構造(- ( - R O - ) k -)がポリマー全体の10〜90重量%)である。
【0033】
上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)は、還元粘度が0.5以上、好ましくは1.0〜3.0である。還元粘度が0.5未満の場合には、ポリマーの機械的強度が不充分となり好ましくない。なお、ここでいう還元粘度は、フェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4)中、ポリマー濃度1.2g/dl、温度35℃で測定される値をいう。
【0034】
上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体は、その目的に応じてポリオキシアルキレン構造の分子量、共重合組成を任意に変化させることができる。
【0035】
なお本発明において、上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体は、その性質が本質的に変化しない範囲(例えばポリマーの20重量%以下、好ましくは10重量%以下)で他の成分を共重合成分として含有していてもよい。共重合させる他の成分としては、例えば、エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位として含有するポリエステル、ブチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位として含有するポリエステル、ジフェニルスルホンを主たる繰り返し単位として含有するポリエーテルスルホン、ジフェニルスルホンとビスフェノールAの縮合物を主たる繰り返し単位として含有するポリスルホン、ビスフェノールAの炭酸エステルを主たるくり返し単位として含有するポリカーボネート等を挙げることができる。
【0036】
上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)は、ヒト血漿に37℃で一時間接触した時のMicroBCA法により測定した蛋白吸着量が非常に少なく、0.7μg/cm2以下であり、血漿溶液に接したときの血液中の蛋白および血小板の粘着等に対して優れた吸着抑制効果を有する。この理由については、以下のように考えられる。上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体は、剛直部位で疎水性の大きなポリアリールスルホン(ハード成分)及びポリマー主鎖中に固定された親水性ポリオキシアルキレンユニット(ソフト成分)を有しており、これら親水性セグメントと疎水性のポリアリールスルホンセグメント双方は熱力学的にのみならず、巨視的に相分離した表面構造を特徴とする。かかるポリマーには主鎖中に水素結合供与基が存在しないため、主鎖間の相互作用が小さく、該親水性ポリオキシアルキレンユニットのドメインには、疎水性相互作用を逓減しうる水分子の接触が容易に起こる。従ってドメインのパターンに基づく生体蛋白の表面への選択的吸着が起こり、吸着蛋白は表面で変性することがない。この結果、ポリマー表面は正常蛋白が単分子層で表面吸着した状態となり、それ以上の生体成分(赤血球、白血球および血小板)の粘着が抑制される。また補体活性化、血栓形成、細胞膜損傷等の有害な生体反応を回避できる。かかる蛋白吸着量は少ないほど望ましいが、0.3〜0.7μg/cm2の範囲にあれば実際的に十分効果がある。
【0037】
このようなポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体において剛直で疎水性の高いポリアリールエーテルスルホンセグメントは安定なドメイン構造を形成し易く、血液適合性発現に優利である。更にこのような微細ドメイン構造により、ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体は濡れ性や溶剤溶解性、他のポリマーへの混和性も変化する結果、成型加工の面からも種々の特徴を付与できる可能性がある。
【0038】
こうして調製したポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)は、種々の方法によりポリアミド(B)と混合されて本発明の抗血栓性に優れた高分子組成物が提供される。
【0039】
上記共重合体(A)を混合するポリアミド(B)としては、医療用途に用いられるオリゴマーの少ない数平均分子量10,000〜300,000の素材であれば良い。これらのポリアミドとしては、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸を加熱重縮合することにより得られるナイロン−6,6、ε−カプロラクタムを加熱開環重合することにより得られるナイロン−6,6、ポリアミノ酸誘導体、芳香族/脂肪族ブロックコポリアミドおよびそれらの共重合体やポリエーテル、ポリエステルとのブロックコポリマーを挙げることができる。もちろんこれらのポリアミド(B)は上記共重合体(A)と分子レベルでは均一混合せず、ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)が表面偏析したブレンド体を形成する。
【0040】
ポリアミド(B)への上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)のブレンド比率に関しては、上記共重合体(A)が少なくとも重量比1%以上であるべきであり、1〜50重量%とすることが好ましく、10〜30重量%とすることがより好ましい。上記共重合体(A)のブレンド率が1重量%以下であると、該共重合体(A)の表面偏析絶対量が少なすぎるため、十分な抗血栓化の効果が得られず、また50重量%以上であると、素材の形状によっては本来の物理的特性、使用条件が大きく変化する恐れがある。
【0041】
ブレンド方法に際しては、ポリマーの物性により様々の方法が考えられるが、この高分子組成物は、例えば共重合体(A)とポリアミド(B)とを上記所定の割合で混合し、しかる後溶融混合することにより調製することができる。
【0042】
上記高分子組成物において、共重合体(A)とポリアミド(B)とは、分子レベルで均一に混合することはなく、別個の相を形成し、相分離して存在する。
【0043】
ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)は、親水性のポリオキシエチレン鎖を有しており、基本的に従来の疎水性高分子材料と分子レベルで均一混合することはない。従って得られる高分子組成物(以降ブレンド体を呼ぶことがある)は両ブレンド成分、すなわちポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)とポリアミド(B)とが相分離した構造を有する。この相分離状態において、上記共重合体(A)はブレンド体の表面(厳密にはキャストフィルム成膜時の空気界面のようなポリマー近傍のバルク界面)に優先して偏析する。偏析の駆動力としては、ポリアリールエーテルスルホンユニット自体のポリアミドとの低い相溶性が寄与するほかに、界面が水との接触面であれば、該共重合体の親水性ユニットであるポリオキシエチレン鎖の親水性が、また空気との界面であれば表面自由エネルギーの小さなポリアリールエーテルスルホンユニットの疎水性、疎油性が主として働く。得られたブレンド体は共重合体(A)が表面に偏析しているので、先述の機構により、血液接触時に血液適合性を示すものと推定される。抗血栓性発現にはブレンド体の表面組成について上記共重合体が50重量%以上となるよう高濃度に偏析して存在することが好ましいが、60重量%以上となることがより好ましく、70重量%となるよう偏析することがさらに好ましい。ここで言う表面組成とは、あくまでポリマーの表面近傍、具体的には表面から深さ100Å程度までの領域でのポリマーの分率を指しており、両者のポリマー全体でのバルクのブレンド組成のことではない。
【0044】
本発明によれば、高分子組成物のこのような性質を利用して、血液と接触して使用されるための医療用材料であって、少なくとも血液と接触して使用される表面を持つ部分はポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)とポリアミド(B)とからなる高分子組成物を素材として形成され、そして該部分の表面近傍における上記共重合体(A)の濃度が該部分を形成する該ポリマー組成物全体中の上記共重合体(A)の濃度よりも高いことを特徴とする医療用材料が提供される。
【0045】
表面近傍における共重合体(A)の割合は、ポリマー組成物の溶融成型において融解状態の組成物を成形加工、冷却して医療用材料を製造する際に、ポリマー組成物全体中の共重合体(A)の割合(濃度)よりも高くなる。即ち、前者の加工法では溶液から有機溶媒が飛散するにつれて、また後者では冷却時に、それぞれ表面近傍で相分離が起り、最終的に表面近傍において共重合体(A)の濃度の高い医療用材料が得られる。表面近傍とは厳密ではないが表面から深さ100Å程度までの領域である。
【0046】
こうして得られる高分子組成物は、濃度5重量%であるヒト貧血小板血漿(PPP)のリン酸緩衝液に37℃、一時間接触させた時の上記共重合体表面への蛋白吸着量が0.8μg/cm2以下(MicroBCA法によるアルブミン換算)であることが好ましく、0.6μg/cm2以下であることがより好ましい。血液接触時の蛋白吸着量が0.8μg/cm2以上であると、それに続く血小板粘着、活性化を十分に抑制できないため、血栓形成が進行する。
【0047】
(作用)
本発明の抗血栓性に優れる高分子組成物は、該材料の血液と接触する部分に、上記のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)がポリアミド(B)にブレンド混在していることを特徴とする。ここで血液と接触する部分とは、血液が接触する材料の表面およびその近傍をさす。先述のように、該材料中において上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)は、もう一つのブレンド体の成分であるポリアミド(B)と巨視的に相分離した状態にある。上記ポリエーテル/ポリスルホン共重合体のポリオキシエチレンユニットは、溶媒除去の際に、ブレンド体における界面自由エネルギーを安定化させるべく、ブレンド体内部より、むしろブレンド体とバルクとの界面(血液/ブレンド体界面)に配向する。従って水(これは血液の主成分である)の存在下、血液との接触界面の大部分にわたって上記共重合体(A)が配向し、血漿蛋白の吸着および血小板粘着を抑制できるものと考える。例えば、実際に人工透析用中空糸として使用する場合には、少なくとも血液が流れるその多孔膜表面に上記共重合体(A)が混在されていればよい。従って材料全体を本発明のブレンド体自体によって成形してもよいし、他の素材と複合する方法も好ましく実施できる。
【0048】
【発明の効果】
本発明の抗血栓性に優れる高分子組成物は、蛋白質や血球などの生体成分の吸着が少なく、また吸着した蛋白質の変性や接触した血小板の粘着、活性化を抑制することができる。更にブレンド体中のオキシエチレン自由末端鎖、遊離水酸基末端数等が少ないため、補体活性化、細胞膜損傷を回避できる。それ故、本発明の高分子組成物の利用分野としては、直接血液成分と接触して用いることが主たる目的となる医療用材料として有用であり、例えば、人工腎臓、人工血管、人工心肺、血液透析膜、血液バッグ、カテーテル、血漿分離膜等に用いることができる。そして、このような材料として本発明の高分子組成物を用いる場合、ブレンド体自体を材料として用い中空糸、シート、フィルム、チューブとして成形するのみならず、ブレンド体を溶媒に溶解し、この溶液をこれら各種材料表面に塗布し、血液接触表面のみを改質することも可能である。
【0049】
【実施例】
以下、参考例および実施例によって本発明を更に詳しく説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
1.例中の「部」は特にことわらない限り「重量部」を表す。
【0050】
2.高分子組成物の作成とESCAによる表面組成解析
ポリアミドを、上記ポリエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)と溶融ブレンドすることにより、高分子組成物を作成し、その表面組成をESCAにより解析した。高分子組成物の作成は、次のように行った。参考例で製造した該共重合体(A)をコントロールであるポリアミド(ナイロン−6、数平均分子量50000、帝人製)と共に加熱溶融ブレンド後、テフロン支持基板上、熱プレス(210℃、40kg/cm2)することで、乾式法による厚さ約0.5mmの高分子組成物からなる膜を得た。また比較例として、ナイロン−6のみからなる膜を調整した。
【0051】
ESCAの測定には、膜を直径1cmの円盤上に切り出し、リン酸緩衝液中で37℃で一夜平衡化した後、凍結乾燥することで測定試料とした。装置はVG社ESCALAB−200を用い、MgKα線を光電子取り出し角45゜となるよう照射、スキャンした。測定は、キャスト時空気界面と接触していた表面について行った。
【0052】
3.蛋白質吸着量の評価
膜に吸着したタンパク質の定量評価は、MicroBCA法により行った。これは銅イオンおよび下記構造で示される BCA蛋白検出試薬を用いたキットによる蛋白定量法である。試料中に存在する蛋白により一価に還元された銅イオンのみが、この試薬とキレート反応を行い発色(570nm)するため、サンプルの吸光度測定より蛋白濃度(アルブミン換算)を定量することができる。
【0053】
【化6】
Figure 0004160195
【0054】
評価にあたっては、コントロールポリマーとして抗血栓性のないポリアミド(ナイロン−6)を比較実験として用いた。
【0055】
サンプルの作成については、実施例1と同様に調整した共重合体(A)とナイロン−6(B)とのブレンド膜を直径15mmに切り出して評価試料とした。測定ではこれらの膜をヒト貧血小板血漿(PPP)を用い、この血漿溶液に接触させたときの蛋白吸着量を分光定量した。評価に際しては、PPPをリン酸緩衝液で所定濃度(5重量%リン酸緩衝液溶液)に調製したものを37℃、一時間ポリマー膜へ接触させ、吸着蛋白を1wt%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液で抽出、MicroBCA キットを用い、常法により発色させ、吸光度から吸着量を見積った。
【0056】
4.SEM観察による膜表面に吸着した血小板粘着の評価
一般に、重篤な血栓形成の前段階である血小板の粘着、凝集には,材料表面へ吸着するタンパク質の種類及びその表面における配向が大きく関与することが知られている。そして粘着した血小板の活性化(変形、顆粒放出)がその後の凝集、血小板血栓形成、凝固因子系の反応促進に影響する。従って血液(全血又は成分血)と接触した後の材料表面における血小板の粘着状態を観察することで、そのポリマーの血液適合性の程度を大まかに見積もることができる。
【0057】
ここではヒト多血小板血漿(PRP)を用い、PRP接触後の膜表面の血小板粘着挙動をSEMにより観察した。PRPはヒト上腕部静脈より採取した新鮮血に3.5wt%クエン酸三ナトリウム水溶液を1/9容加え、1000r.p.m.で10分遠心分離した上澄みを調製した。サンプルは先述のポリエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)とナイロン−6(B)とのブレンド膜、及び比較例としてコントロールのナイロン−6平膜を用いた。これらを培養シャーレ(Falcon,24well))中、0.7mlのPRPと37℃、3時間接触した。接触後のポリマーサンプルは蒸留水でよく洗浄し、2.5wt%グルタルアルデヒド水溶液で室温下二時間かけて固定し、凍結乾燥後、金蒸着して観察試料とした。
【0058】
[参考例1]
(α,ω−ビス(2−クロロエトキシ)ポリオキシエチレン(数平均分子量3000)の合成)
ポリエチレングリコール(#3000)30部、ピリジン2.4部、脱水クロロホルム150部をスリ付き三角フラスコ中に仕込み、撹拌して均一溶液とした。これに塩化チオニル1.8部、脱水クロロホルム15部の混合溶液を氷冷下30分かけて滴下、その後氷冷をはずして液温が室温に上昇した後、更にもう8時間撹拌を続けた。クロロホルムを減圧留去後、更にもう15部の新鮮な塩化チオニルを加え、24時間加熱乾留した。その後減圧下で余剰の塩化チオニルを留去し、残査を新鮮なクロロホルム300部に溶解し、飽和食塩水200部で三回洗浄、ついで純水200部で一回洗浄しクロロホルム層を分取、無水硫酸ナトリウムで一晩乾燥した。クロロホルムを留去し得られた油状物は室温で直ちに固化した。これをアセトン40部に加熱溶解し、ジエチルエーテル200部より再沈殿を行うことで白色粉状晶28.8部を得た。生成物の融点は50.5℃〜53.5℃であった。IR(赤外分光)測定よりこの化合物はα,ω−ビス(2−クロロエトキシ)ポリオキシエチレン(数平均分子量3000)であることが確認された。
【0059】
[実施例1〜2、比較例3、および実施例4(A.ポリマーの製造)]
(実施例1)
4,4-ヘキサフルオロイソプロピリデンジフェノール16.80部、ビス(4−クロロフェニル)スルホン11.90部、及び予めトルエンとの共沸により共存する水分を除去したα,ω−ビス(2−クロロエトキシ)ポリオキシエチレン(数平均分子量3035)25.95部、トルエン200ml、N,N-ジメチルアセトアミド100ml、炭酸カリウム8.625部を、窒素導入口と排出口を持った3つ口フラスコに入れ、これをディーン・スタークス・トラップに誘導し窒素置換を行い、115〜125℃で16時間加熱環流を行った。反応に伴う水の流出が終了したのを確認後、トルエンを8時間かけて留去しながら、新たにN,N−ジメチルアセトアミドをトルエンの減少分を補う形で計200ml加え、フラスコ内を窒素置換後、165〜180℃で20時間加熱撹拌し、反応せしめた。反応後、全体をイオン交換水3000mlに撹袢しながら開け洗浄後、更に新たなイオン交換水3000mlで2時間撹袢洗浄するという操作を3回繰り返した。ついでポリマーを0.1wt%塩酸水溶液3000mlで8時間撹袢洗浄、残存するアルカリ触媒を完全に失活させ水中に溶出した。これを更に新たなイオン交換水3000mlで2時間撹袢洗浄、脱塩酸するという操作を3回繰り返した。得られたポリマーを80℃、24時間かけて減圧乾燥後クロロホルムで抽出し濾過、乾燥した。最終的に理論収率の92%程度(約48g)の乾燥ポリマーを得た。このポリマーはポリオキシエチレン成分50重量%とポリスルホン成分50重量%とからなる共重合体であり、これをPEO3000(50)−co−PFS(50)と略す。
【0060】
このポリマー120mgをフェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4)10mlに溶解させ、還元粘度を測定したところ0.85であった。また、このポリマーの数平均分子量は約25000(ポリスチレン換算)であった。結果を表1に示す。
【0061】
同様な方法で、共重合体組成比の異なるPEO3000(60)−co−PFS(40)(実施例2)、PEO3000(60)−co−PES(40)(比較例3)を合成した。
【0062】
(実施例4)
4,4-ヘキサフルオロイソプロピリデンジフェノール12.848部、ビス(4ークロロフェニル)スルホン部、及び予めトルエンとの共沸により共存する水分を除去したα,ω−ビス(2ーヒドロキシ)ポリオキシエチレン#300035.37部、トルエン15ml、N,N-ジメチルアセトアミド20ml、炭酸カリウム8.28部を、窒素導入口と排出口を持った3つ口フラスコに入れ、これをディーン・スタークス・トラップに誘導し窒素置換を行い、115〜125℃で20時間加熱環流を行った。反応に伴う水の流出が終了したのを確認後、トルエンを8時間かけて留去しながら、フラスコ内を窒素置換後、135〜145℃で80時間加熱撹拌し、反応せしめた。反応後、全体をイオン交換水3000mlに撹袢しながら開け洗浄後、更に新たなイオン交換水3000mlで2時間撹袢洗浄するという操作を3回繰り返した。ついでポリマーを0.1wt%塩酸水溶液3000mlで8時間撹袢洗浄、残存するアルカリ触媒を完全に失活させ水中に溶出した。これを更に新たなイオン交換水3000mlで2時間撹袢洗浄、脱塩酸するという操作を3回繰り返した。得られたポリマーを80℃、24時間かけて減圧乾燥後クロロホルムで抽出し濾過、乾燥した。最終的に理論収率の95%程度(約56g)の乾燥ポリマーを得た。このポリマーはポリオキシエチレン成分60重量%とポリスルホン成分40重量%とからなる共重合体であり、これをPEO3000(60)−co−PSFS(40)と略す。
【0063】
このポリマー120mgをフェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4)10mlに溶解させ、還元粘度を測定したところ1.55であった。また、このポリマーの数平均分子量は約32000(ポリスチレン換算)であった。結果を表1に示す。
【0064】
実施例1〜2、比較例3、実施例4で重合したこれらのポリマーの分子量、粘度をまとめて表1に併記した。また、併せてポリマーの構造も示す。
【0065】
【表1】
Figure 0004160195
【0066】
1)略号はそれぞれ下記構造式に対応する。
2)フェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4)10mlに120mgを溶解させて35℃で測定した還元粘度。
【0067】
【化7】
Figure 0004160195
【0068】
[実施例5、比較例6、実施例7(B.高分子組成物、それからなる膜の製造及びESCAによる表面組成解析)]
各種ポリアリールエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)とポリアミド(B)のブレンド体より成る高分子組成物の膜のESCAによる表面組成解析結果を表2に示す。何れのブレンド体も、表面より深さ100Å内の表面組成において、該ポリエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)の分率は均一混合を仮定した値を上回り、該共重合体が有効に膜の表面偏析していることを確認した。
【0069】
【表2】
Figure 0004160195
【0070】
[実施例8、比較例9、実施例10、比較例1]
C.蛋白質吸着量の評価
上記の方法にしたがって膜表面の蛋白質吸着量を測定した。膜を構成する共重合体(A)のブレンド率は10重量%である。表3に示すように、本発明のポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体とポリアミドとの高分子組成物は、従来のポリアミドに比べ、有意な蛋白吸着抑制を示した。
【0071】
【表3】
Figure 0004160195
【0072】
1)アルブミン換算した値
2)粘着血小板の活性化に伴う変形の度合を定量化した値。血小板の変形状態を、未変形を第1段階として4段階に分類し各状態の血小板の個数にその段階の数を乗じ、総和を粘着血小板総数で割り、形態指数とする。従って粘着血小板全てが未変形であれば形態指数は1となり、全てが第4段階の変形を起こしていれば指数は4となる。
【0073】
D.ヒトPRPを用いたポリマー表面への血小板粘着のSEM観察
表2にPRP接触後の各種ポリマーの膜表面の血小板粘着数を併記した。先の検討により、タンパク吸着抑制が低い疎水性ポリマーであるポリアミドでは、多くの血小板が表面に粘着が認められた。一方、タンパク吸着抑制能の高いポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)とポリアミドとのブレンドマー膜は、オリジナルのポリアミドと比較して明らかな血小板粘着抑制が見られた。
【0074】
以上の結果より、タンパク吸着抑制能に優れた本発明の高分子組成物は、既存のポリアミドに比べ、血小板の粘着を有意に抑制することが明らかとなった。
これにより、本発明の高分子組成物を溶融また乾/湿式紡糸することで、ポリアミドが本来有する優れた膜特性を維持し、なおかつ血液適合性に優れた医療用膜を提供できることが明らかになった。

Claims (4)

  1. 下記式(1)〜(3)
    Figure 0004160195
    (ここで、Xは−SO2−であり、Ar1およびAr2はそれぞれ独立に、核置換されていても良い炭素数6〜30の2価の芳香族炭化水素基であり、Ar3及びAr4はそれぞれ独立に、核置換されていても良い炭素数6〜30の2価の芳香族炭化水素基であり、Yはフッ化炭素基であり、Rは炭素数2〜3のアルキレン基であり、kは(RO)kで示されるポリオキシアルキレン構造の分子量が2000〜20000となる単位繰り返し数である。)で示される繰り返し単位が共重合体中80重量%以上であり、かつ上記式(1)、(2)及び(3)で表される繰り返し単位の合計量に基づく、上記式(3)で表わされる繰り返し単位の含有量が重量比で10〜90重量%の範囲内であり、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン6/4(重量比)混合溶媒で濃度1.2g/dl、35℃で測定した還元粘度が0.5以上であるポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)1〜50重量部、及びポリアミド(B)99〜50重量部とから構成されていることを特徴とする抗血栓性に優れた高分子組成物。
  2. 上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)1〜50重量部、及びポリアミド(B)99〜50重量部とから構成されている高分子組成物、血液と接触して使用するための医療用材料を製造するための素材として使用。
  3. 血液と接触して使用されるための医療用材料であって、少なくとも血液と接触して使用される表面を持つ部分は、上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)1〜50重量部、及びポリアミド(B)99〜50重量部とから構成されている高分子組成物を素材として形成されている医療用材料。
  4. 血液と接触して使用される表面を持つ部分の表面近傍における上記ポリアルキルエーテル/ポリアリールエーテルスルホン共重合体(A)の濃度が、該部分を形成する該高分子組成物全体中の上記共重合体(A)の濃度よりも高い請求項3記載の医療用材料。
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