JP3782607B2 - エステル化物の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エステル化物の製造方法に関するものである。詳しくは、アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応により、高品質の(メタ)アクリル酸エステル類(本明細書中では、単にエステル化物ともいう)を効率よく製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
セメント分散剤や炭酸カルシウム、カーボンブラック、インクなどの顔料分散剤、スケール防止剤、石膏・水スラリー用分散剤、CWM用分散剤、増粘剤等に使用される重合体の原料となる各種アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体成分は、アルコキシポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とをエステル化反応することにより得られる。こうしたエステル化反応では、同時に反応生成水が副生するため、この反応生成水を反応槽から除去しないと(すなわち、反応生成水がたまると)、平衡反応ゆえにエステル化物を生成する方向に反応が進まなくなる。そのため、例えば、特開平9−328346号公報の比較例1に見られるように、セメント分散剤に使用される重合体成分の原料となる各種アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体成分を合成するのに、水分離器を設け、反応生成水を分離できるようにする手法がとられている。より詳しくは、エステル化反応によるアルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体の合成として、反応器(セパラブルフラスコ)に温度計、攪拌機および水分離器を設け、反応生成水を分離できるようにした反応装置に、メタクリル酸、メトキシポリエチレングリコール(オキシエチレン基の平均付加モル数:10モル)、酸触媒として硫酸、重合禁止剤としてフェノチアジン、溶剤としてシクロヘキサンを仕込み攪拌しながら加熱し、常圧下にシクロヘキサン−水共沸物を留出させ、反応生成水を水分離器で除去しながらシクロヘキサンを還流させる、というものである。
【0003】
しかしながら、上記公報に開示されているように、エステル化反応の際に、反応生成水を分離除去するために水分離器を設けること以外は、該反応生成水を分離除去する上での技術的課題等に関して現在までに報告されたものはないのが現状である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明者らは、高品質のエステル化物を効率よく製造するべく鋭意研究を進める過程で、脱水溶剤−反応生成水の共沸物を留出しコンデンサ等で凝縮液化を行うときにゲル状物が形成され、その一部は脱水溶剤とともに還流されることにより、反応槽内に不純物として留まり、最終的な製品中に混入され、該製品(例えば、セメント分散剤、顔料分散剤、スケール防止剤、石膏・水スラリー用分散剤、CWM用分散剤、増粘剤など)の性能及び品質を低下させることになるほか、工業化してエステル化物を大量生産する場合には、該ゲル状物が反応生成水の凝縮液化−分離除去手段に用いられる配管や装置(例えば、コンデンサなど)の内壁などに付着していき、凝縮時の熱交換効率の低下を招くことにもなり、さらに、繰り返し(いわば、連続的に)運転する場合には、コンデンサや配管内の流体の流れを悪くし、ひいては閉塞を招くおそれがあるため、定期的に運転を止めてコンデンサや配管内部を洗浄し該ゲル状物を取り除く必要があるなど、ゲル状物に起因する多くの技術的課題が生じることを見出すとともに、かかる技術的課題の解決方法を特願平10−268121号に提案している。特願平10−268121号に提案の発明は、留出物が凝縮液化する際に生ずるゲル状物の多くはポリ(メタ)アクリル酸であって、かかるゲル状物は、低沸点の原料の一部((メタ)アクリル酸等)が、脱水溶剤−反応生成水の共沸物とともに留出され凝縮されるときに(液相反応により)形成されるものであるとする、発生メカニズム(発生原因)を突き止め、これに基づき極めて効果的に該ゲル状物の発生を防止することのできる解決策を見出すことにより成されたものである。すなわち、特願平10−268121号に提案の方法では、一般式R1 O(R2 O)nHで示されるアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応によるエステル化物の製造方法において、前記エステル化反応時に生成する反応生成水を留出させ、該反応生成水を含む留出物に対して重合禁止剤を作用させる、好ましくは重合禁止剤溶液をコンデンサの塔頂に降らせるものである。これにより、反応生成水を含む留出物を凝縮液化し反応生成水を分離除去する間に生ずるゲル状物の発生そのものを防止し、高品質のエステル化物を効率よく製造することができるものである。
【0005】
しかしながら、反応槽からコンデンサ(凝縮化装置)間の経路(本明細書では、かかる経路を単にオーバーヘッドラインともいう)を通過する過程で留出物が、経路を構成する配管の内壁面との温度差により該内壁面に接触若しくはその近傍を流れるうちに冷やされ凝縮液化することで、配管内にゲル状物が発生してしまう(特に、室内の実験装置から工業化に際し屋外に設置される装置では、冬場の外気温度が低い時期に温度差が拡大するため、ゲル状物の発生量が増大する)。
【0006】
そこで、本発明の目的は、オーバーヘッドラインにおけるゲル状物の発生を抑え、かつオーバーヘッドラインに重合禁止剤を作用させることによる上記技術的課題を解決し、高品質のエステル化物を効率よく低コストで製造することのできるゲル化防止手段を用いてなるエステル化物の製造方法を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記技術的課題を解決すべく鋭意検討した結果、オーバーヘッドライン領域におけるゲル状物の発生防止手段として、重合禁止剤を作用させる手段に代わる新たな手段を見出すことで、上記技術課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明の目的は、以下の(1)〜(3)に示すエステル化物の製造方法により達成されるものである。
【0009】
(1) 一般式R1 O(R2 O)nH(ただし、式中、R1 は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表わし、R2 Oは炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表わし、この際、各R2 Oの繰り返し単位は同一であってもあるいは異なっていてもよく、およびR2 Oが2種以上の混合物の形態である場合には各R2 Oの繰り返し単位はブロック状に付加していてもあるいはランダム状に付加していてもよく、ならびにnはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表わし、0〜300の数である)で示されるアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応によりエステル化物を製造する方法において、
反応槽から凝縮化装置間の経路の少なくとも1部を、加熱および/または保温することを特徴とするエステル化物の製造方法。
【0010】
(2) 前記反応槽から凝縮化装置間の経路の壁を25〜400℃で加熱および/または保温することを特徴とする上記(1)に記載のエステル化物の製造方法。
【0011】
(3) 二重管を用いて加熱および/または保温することを特徴とする上記(1)または(2)に記載のエステル化物の製造方法。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明のエステル化物の製造方法は、一般式R1 O(R2 O)nH(ただし、式中、R1 は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表わし、R2 Oは炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表わし、この際、各R2 Oの繰り返し単位は同一であってもあるいは異なっていてもよく、およびR2 Oが2種以上の混合物の形態である場合には各R2 Oの繰り返し単位はブロック状に付加していてもあるいはランダム状に付加していてもよく、ならびにnはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表わし、0〜300の数である)で示されるアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応によりエステル化物を製造する方法において、
反応槽から凝縮化装置間の経路(オーバーヘッドライン)の少なくとも1部、好ましくは25%以上、より好ましくは50%、さらに好ましくは75%以上を、加熱および/または保温することを特徴とするものである。なお、加熱および/または保温する部分は、オーバーヘッドラインの少なくとも1部であればよく、連続している必要はなく、不連続であってもよい。
【0013】
これにより、オーバーヘッドラインでのゲル状物の発生を効果的に常に防止することができ、高品質のエステル化物を効率よく低コストで製造することができるものである。オーバーヘッドラインの25%未満であっても、少なくともその1部を加熱および/または保温することにより、本発明の作用効果が得られるが、外部環境の変化などにより周辺温度が低くなった場合などでは、オーバーヘッドラインすべてで十分なゲル状物の発生を効果的に常に防止するのが困難となるおそれがある。
【0014】
なお、本明細書にいう反応槽とは、反応器、反応容器および反応釜などと同じ意味内容に用いてなるものであって、その名称に拘泥されるものではなく、最も広く解されるべきものであるといえる。以下、説明の都合上、これらの表現を適当に用いる事もあるが、個々の持つ狭い意味内容に本発明が限定されるべきものではない。また、本明細書にいう凝縮化装置とは、ガス流体を冷却し、凝縮液化させる機能を有するものであればいなかるものでもよく、コンデンサ、凝縮器などと同じ意味内容に用いてなるものであって、その名称に拘泥されるものではなく、最も広く解されるべきものであるといえる。以下、説明の都合上、これらの表現を適当に用いる事もあるが、個々の持つ狭い意味内容に本発明が限定されるべきものではない。同様に、水分離器も後述するように反応生成水と溶剤成分とを有効に分離し得るものであればいなかるものでもよく、その名称に拘泥されるものではなく、最も広く解されるべきものである。
【0015】
なお、オーバーヘッドライン内の留出物の温度の変化を経時的に測定し、制御管理しても良いが、該オーバーヘッドラインの壁の温度または熱媒の温度の方が比較的測定しやすく、制御管理も行い易いという利点がある。本発明の目的を達成するには、留出物の温度が共沸温度以下に下がらないようにオーバーヘッドラインの壁を加熱および/または保温すればよいが、壁の温度は、壁の構成材料や厚さなどによる熱導伝特性の違いにより変化するだけでなく、加熱および/または保温手段(伝熱線や熱媒等)の違いなどにもより変化する。そのため、壁の温度を具体的に数字では示しにくいが、好ましくは50〜400℃、さらに好ましくは50〜300℃、特に好ましくは60〜200℃の範囲になるように加熱および/または保温すればよい。該オーバーヘッドラインの壁の温度または熱媒の温度が50℃未満の場合には、後述する比較例に見られるように、1年間でゲル状物が多量に発生するようになるため好ましくない。また、オーバーヘッドラインの壁の温度または熱媒の温度も、該オーバーヘッドラインでの留出物の凝縮液化防止の観点からは400℃あれば十分であり、これを超える温度までオーバーヘッドラインの壁または熱媒の温度を加熱および/または保温するのに見合うだけの更なる効果が期待できず、かかる温度を超えて加熱および/または保温する場合には、エネルギー量が増加し不経済であると同時に、コンデンサでの熱交換により留出物を凝縮液化するのに大量の冷媒若しくはより低温の冷媒が必要となるため不経済であり、また留出物の一部が重合することが起こり得るなど好ましくない。
【0016】
なお、オーバーヘッドライン内の留出物の温度の変化を経時的に測定し、制御管理しても良いが、該オーバーヘッドラインの壁の温度または熱媒の温度の方が比較的測定しやすく、制御管理も行い易いという利点がある。本発明の目的を達成するには、留出物の温度が共沸温度以下に下がらないようにオーバーヘッドラインの壁を加熱および/または保温すればよいが、壁の温度は、壁の構成材料や厚さなどによる熱導伝特性の違いにより変化するだけでなく、加熱および/または保温手段(伝熱線や熱媒等)の違いなどにもより変化する。そのため、壁の温度を具体的に数字では示しにくいが、好ましくは25〜400℃、さらに好ましくは50〜300℃、特に好ましくは60〜200℃の範囲になるように加熱および/または保温すればよい。該オーバーヘッドラインの壁の温度または熱媒の温度が25℃未満の場合には、コンデンサでの熱交換により留出物を凝縮液化するために低温の冷媒が必要となり不経済であり、また後述する比較例に見られるように、1年間でゲル状物が多量に発生するようになるため好ましくない。また、オーバーヘッドラインの壁の温度または熱媒の温度も、該オーバーヘッドラインでの留出物の凝縮液化防止の観点からは400℃あれば十分であり、これを超える温度までオーバーヘッドラインの壁または熱媒の温度を加熱および/または保温するのに見合うだけの更なる効果が期待できず、かかる温度を超えて加熱および/または保温する場合には、エネルギー量が増加し不経済であると同時に、コンデンサでの熱交換により留出物を凝縮液化するのに大量の冷媒若しくはより低温の冷媒が必要となるため不経済であり、また留出物の一部が重合することが起こり得るなど好ましくない。
【0017】
なお、上記オーバーヘッドライン内の留出物の温度は、上記に規定する温度範囲内であれば変動してもよい。同様に、オーバーヘッドラインの壁の温度も、オーバーヘッドラインの部位によって温度が異なっていてもよい。すなわち、加熱および/または保温部分は、少なくとも1部分あればよく、また連続している必要はなく、不連続であってもよい。よって、オーバーヘッドラインの全ての壁が、常に一定温度に保持されている必要はなく、あまり加熱および/または保温されていない部分があっても良い。これは、オーバーヘッドラインすべてを常に一定温度に保持することもできるが、コスト高になる反面、こうした温度制御に見合う更なる効果が得られないからである。
【0018】
また、ここでいう加熱および/または保温するとは、▲1▼適当な加熱手段を用いて加熱する場合、▲2▼適当な加熱手段と保温手段とを用いて加熱と保温を行う場合、▲3▼適当な保温手段を用いて保温する場合をいう。そして、上記に規定する留出物の温度やオーバーヘッドラインの壁の温度は、温度センサなどで経時的な温度変化を検出しながら、上記に規定する温度範囲を外れないように、加熱および/または保温手段を用いて調整すればよい。具体的には、オーバーヘッドラインの少なくとも1部、好ましくは25%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは75%以上の領域を、外管に通じる媒体を通じて留出物の温度や内管の壁の温度を制御し得る二重管(ダブルチューブ)により構成し、該外管に通じる媒体(蒸気、加圧蒸気、オイル、アンモニアガス、フロンガス、燃焼排ガスなどの加熱ガスなど)の温度および流量を適当に調節しながら外管に当該媒体を通じて、オーバーヘッドライン内を通過する留出物を凝縮液化しないように共沸温度以上になるように加熱および/または保温する方法、オーバーヘッドラインの少なくとも1部、好ましくは25%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは75%以上の領域(連続でも不連続でもよい)に外設した電熱線(銅線など)コイルなどの加熱ヒータへの電流量を変動させることで所定の設定温度に保持できるように加熱および/または保温する方法、前記加熱ヒータの電源をオン−オフすることで、上記に規定する温度範囲になるように加熱調整する方法、オーバーヘッドラインの少なくとも1部、好ましくは25%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは75%以上の領域(連続でも不連続でもよい)の外周部をグラスウールや発泡ウレタン等の保温(断熱)性の高い部材で被覆することで、上記に規定する温度範囲に保持できるように保温する方法などが挙げられる。さらには、上記手段を適用に組み合わせても良い。
【0019】
次に、上記に説明した要件以外のエステル化物の製造方法に関しては、何ら制限されるものではなく、従来公知の方法、さらには、本発明者らが先に提案した特願平10−268121号〜特願平10−268124号、特願平10−328683号〜特願平10−328687号に記載の製造技術を適宜利用することができるものである。以下に、上記に説明した以外の本発明のエステル化物の製造方法の好適な実施の形態につき、工程を追って説明する。
【0020】
本発明の好適な実施の形態であるエステル化物の製造方法としては、脱水溶剤、酸触媒および重合禁止剤の存在下、上記一般式R1 O(R2 O)nHで示されるアルコール(以下、単に「アルコール」ともいう)と(メタ)アクリル酸とのエステル化反応によりエステル化物を製造する方法において、エステル化反応時に生成する反応生成水を脱水溶剤と共に反応槽から留出させ、該反応生成水および脱水溶剤を含む留出物を凝縮化装置にて凝縮液化し、該凝縮液化した凝縮液から反応生成水を水分離器にて分離除去し、該反応生成水を分離除去した後の凝縮残液を還流させて反応槽に戻しながら該エステル化反応を行い(エステル化工程)、エステル化反応終了後、酸触媒または酸触媒の全部と(メタ)アクリル酸の一部を中和し(部分中和工程)、その後、反応液から脱水溶剤を水と共沸して留去し(溶剤留去工程)、目的とするエステル化物を得るとするものである。
【0021】
(I)エステル化工程の説明
上記エステル化工程の好適な実施の形態につき、以下に説明する。
【0022】
まず、反応槽に、原料としての一般式R1 O(R2 O)nHのアルコール及び(メタ)アクリル酸、好ましくは、さらに脱水溶剤、酸触媒及び重合禁止剤を仕込み、これら混合物を所定温度で所定のエステル化率になるまで、エステル化反応を行う。このエステル化反応時に生成する反応生成水は、脱水溶剤と共に反応槽から留出させ、該反応生成水および脱水溶剤を含む留出物を凝縮化装置にて凝縮液化し、該凝縮液化した凝縮液から反応生成水を水分離器にて分離除去し、該反応生成水を分離除去した後の凝縮残液を還流させて反応槽に戻す。
【0023】
本発明のエステル反応に使用することのできるアルコール原料は、一般式R1 O(R2 O)nHで示される化合物である。
【0024】
上記一般式R1 O(R2 O)nHにおいて、R1 は、炭素原子数1〜30の炭化水素基を表わす。R1 が炭素原子数30を超える炭化水素基である場合には、一般式R1 O(R2 O)nHの化合物と(メタ)アクリル酸とのエステル化物を、例えば、(メタ)アクリル酸と共重合して得られる共重合体の水溶性が低下し、用途性能、例えば、セメント分散性能などが低下する。好適なR1 の範囲はその使用用途により異なるものであり、例えば、セメント分散剤の原料として用いる場合には、R1 は、炭素原子数1〜18の直鎖若しくは枝分かれ鎖のアルキル基およびアリール基が好ましい。R1 としては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、ウンデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ヘンエイコシル基、ドコシル基などのアルキル基;フェニル基などのアリール基;ベンジル基、ノニルフェニル基などのアルキルフェニル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;アルケニル基;アルキニル基などが挙げられる。これらのうち、セメント分散剤の原料として用いる場合には、上述したものであり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基などが挙げられる。
【0025】
また、R2 Oは、炭素原子数2〜18、好ましくは炭素原子数2〜8のオキシアルキレン基である。R2 Oが炭素原子数18を超えるオキシアルキレン基である場合には、一般式R1 O(R2 O)nHの化合物と(メタ)アクリル酸とのエステル化物を、例えば、(メタ)アクリル酸と共重合して得られる共重合体の水溶性が低下し、用途性能、例えば、セメント分散性能等が低下する。R2 Oとしては、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシスチレン基などが挙げられ、これらのうち、オキシエチレン基、オキシプロピレン基及びオキシブチレン基であることが好ましい。また、R2 Oの繰り返し単位は、同一であってもあるいは異なっていてもよい。このうち、R2 Oの繰り返し単位が異なる場合、すなわち、2種以上の異なる繰り返し単位を有する場合には、各R2 Oの繰り返し単位はブロック状に付加していてもあるいはランダム状に付加していてもよい。
【0026】
さらに、nは0〜300の数であり、R2 O(オキシアルキレン基)の繰り返し単位の平均付加モル数を表わす。nが300を超える場合には、一般式R1 O(R2 O)nHの化合物と(メタ)アクリル酸とのエステル化物の重合性が低下する。この平均付加モル数nも、エステル化反応により得られるエステル化物の使用目的に応じて、その最適範囲は異なるものであり、例えば、セメント分散剤の原料として使用する場合には、平均付加モル数nは、5〜200の数が好ましく、より好ましくは8〜150である。また、増粘剤などとして用いる場合には、平均付加モル数nは、10〜250の数が好ましく、より好ましくは50〜200である。また、n=0の場合には、水との溶解性および沸点の観点から、上記R1 は炭素原子数4以上の炭化水素基が好ましい。すなわち、一般式R1 O(R2 O)nHのn=0の場合、特にメタノールやエタノールなどのアルコールでは低沸点のため反応生成水とともに蒸発し、さらに反応生成水に溶解することから当該アルコール原料の一部が系外に留去され、目的とするエステル化物の収率が低下するためである。
【0027】
上記一般式R1 O(R2 O)nHで示されるアルコール原料は、1種のものを単独で使用してもあるいは2種以上の混合物の形態で使用してもよい。一般式R1 O(R2 O)nHで示されるアルコール原料が2種以上の混合物での使用形態は、特に制限されるものではなく、R1 、R2 Oまたはnの少なくともいずれか1つが異なる2種以上の混合物での使用形態であればよいが、好ましくは▲1▼R1 がメチル基とブチル基の2種で構成されている場合、▲2▼R2 Oがオキシエチレン基とオキシプロピレン基の2種で構成されている場合、▲3▼nが1〜10のものと11〜100のものの2種で構成されている場合、および▲1▼〜▲3▼を適宜組み合わせたもの等が挙げられる。
【0028】
上記エステル化反応に使用することのできる(メタ)アクリル酸に関しても、アクリル酸およびメタクリル酸を、それぞれ単独で使用しても、あるいは混合して使用してもよく、その混合比率に関しても任意の範囲を採用する事ができる。
【0029】
エステル化反応で使用される上記原料のアルコールと(メタ)アクリル酸との混合比率は、化学量論的には1:1(モル比)であるが、実際には、アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応が効率良く進行する範囲であれば特に制限されるものではなく、通常、一方の原料を過剰に使用してエステル化反応を速めたり、目的のエステル化物の精製面からは、蒸留留去し易いより低沸点の原料を過剰に使用するなどしてもよい。また、本発明では、エステル化反応時に反応生成水を留出する際に、低沸点の(メタ)アクリル酸の一部も留出され、反応槽外に持ち出されるため、アルコールの使用量(仕込み量)に対して(メタ)アクリル酸の使用量(仕込み量)を化学量論的に算出される量よりも過剰に加えることが好ましい。具体的には、(メタ)アクリル酸の使用量は、通常、アルコール1モルに対して、1.0〜30モル、好ましくは1.2〜10モルである。(メタ)アクリル酸の使用量がアルコール1モルに対して1.0モル未満であると、エステル化反応が円滑に進行せず、目的とするエステル化物の収率が不十分であり、逆に30モルを超えると、添加に見合う収率の向上が認められず、不経済であり、やはり好ましくない。
【0030】
本発明のエステル化反応においては、酸触媒の存在下でエステル化反応を行う事が望ましい。酸触媒の存在下で反応を行うことにより、反応を速やかに進行させることができる。本発明のエステル化反応において使用することのできる酸触媒としては、例えば、硫酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、「Nafion」レジン、「Amberlyst 15」レジン、リンタングステン酸、塩酸などを水和物および/または水溶液のかたちで用いるものが挙げられ、これらのうち、硫酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などを水和物および/または水溶液のかたちで用いるものが好ましく使用される。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用しても良い。さらに、アルコール原料を切断しにくい酸触媒がより望ましく、具体的には、パラトルエンスルホン酸を水和物および/または水溶液のかたちで用いるものである。
【0031】
上記酸触媒の使用量としては、所望の触媒作用を有効に発現する事ができる範囲であれば特に制限されるものではないが、好ましくは0.4ミリ当量/g以下であり、より好ましくは0.01〜0.36ミリ当量/g、特に好ましくは0.05〜0.32ミリ当量/gの範囲内である。酸触媒の使用量が0.4ミリ当量/gを超えると、エステル化反応時に反応槽内で形成されるジエステルの量が増加し、エステル化反応により得られるエステル化物を用いて合成されるセメント分散剤のセメント分散能が低下する。ここで、酸触媒の使用量(ミリ当量/g)は、反応に使用した酸触媒のH+ の当量数(ミリ当量)を、原料であるアルコール及び(メタ)アクリル酸の合計仕込み量(g)で割った値で表される。より具体的には下記式によって算出される値である。
【0032】
【数1】
【0033】
また、上記酸触媒を水和物および/または水溶液のかたちで用いる場合には、該酸触媒の使用量は、原料のアルコールと(メタ)アクリル酸の合計重量に対する該酸触媒中の酸の重量の比をX(重量%)とし、該酸触媒中の水和物および/または水溶液として存在する水分の重量の比をY(重量%)とした場合に、0<Y<1.81X−1.62の関係を満足することがより望ましい。これにより、当該酸触媒の触媒機能を十分に保持したままで、アルコール原料を切断する副作用を低減させることができ、極めて高品質で、セメント分散剤等の各種分散剤、スケール防止剤、増粘剤等の原料として極めて有用なエステル化物を得ることができる。なお、誤解がないように具体例を挙げて説明すれば、例えば、パラトルエンスルホン酸一水和物を例にとれば、原料の合計重量に対するパラトルエンスルホン酸の重量の比がX(重量%)であり、原料の合計重量に対する一水和物として存在する水分の重量の比がY(重量%)であるのであって、決して、酸触媒以外の酸成分(例えば、原料の(メタ)アクリル酸など)や水分(例えば、エステル化反応により生ずる生成水など)は、ここでいうXおよびYの対象物となりえない。
【0034】
上記酸触媒の反応槽への添加の仕方は、一括、連続、または順次行ってもよいが、作業性の面からは、反応槽に、原料と共に一括で仕込むのが好ましい。
【0035】
また、上記エステル化反応は、重合禁止剤の存在下で行うことが望ましいものである。重合禁止剤を用いることにより、原料のアルコール及び(メタ)アクリル酸、生成物のエステル化物またはこれらの混合物の重合を防止することができる。上記エステル化反応において使用できる重合禁止剤としては、公知の重合禁止剤が使用できるものであり、特に制限されるものではなく、例えば、フェノチアジン、トリ−p−ニトロフェニルメチル、ジ−p−フルオロフェニルアミン、ジフェニルピクリルヒドラジル、N−(3−N−オキシアニリノ−1,3−ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ベンゾキノン、ハイドロキノン、メトキノン、ブチルカテコール、ニトロソベンゼン、ピクリン酸、ジチオベンゾイルジスルフィド、クペロン、塩化銅(II)などが挙げられる。これらのうち、反応生成水、さらには脱水溶剤の溶解性の理由から、フェノチアジン、ハイドロキノン、メトキノンが好ましく使用される。これらの重合禁止剤は、単独で使用してもよいほか、2種以上を混合して使用することもできる。とりわけ、フェノチアジン、メトキノン、ハイドロキノンが、上記のように酸触媒を水和物および/または水溶液の形態で用いる場合、反応槽内に存在する水溶液中のゲル形成物質に対しても有効に機能する事ができるほか、後述するように、エステル化反応終了後に、脱水溶剤を水との共沸により留去する際にも、弱いながらも重合活性のある水溶性重合禁止剤を用いなくても極めて有効に重合禁止能を発揮することができ、高分子量体の形成を効果的におさえる事ができる点から極めて有用である。
【0036】
上記重合禁止剤の使用量は、原料としてのアルコール及び(メタ)アクリル酸の合計仕込量に対して、0.001〜1重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%の範囲内である。重合禁止剤の使用量が0.001重量%未満であると、重合禁止能の発現が十分でなく、原料としてのアルコール、(メタ)アクリル酸、生成物としてのエステル化物またはこれらの混合物の重合を有効に防止しにくくなるため好ましくなく、重合禁止剤の使用量が1重量%を超えると、生成物であるエステル化物中に残留する重合禁止剤量が増えるため、品質及び性能面から好ましくなく、また、過剰に添加することに見合うさらなる効果も得られず、経済的な観点からも好ましくない。
【0037】
さらに、本発明においては、取り扱いの面からより低い温度で反応生成水を反応槽から留出できるのが望ましいとの観点から、脱水溶剤の存在下でエステル化反応を行う事が望ましい。本明細書中、脱水溶剤とは、水と共沸する溶剤として規定されるものである。すなわち、脱水溶剤を用いることにより、エステル化反応により生成する反応生成水を効率よく共沸させることができるものである。脱水溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ジオキサン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、クロロベンゼン、イソプロピルエーテルなどが挙げられ、これらを単独で、あるいは2種以上のものを混合溶剤として使用することができる。これらのうち水との共沸温度が200℃以下、より好ましくは50〜150℃、さらに好ましくは60〜100℃の範囲であるものが好ましく、具体的には、シクロヘキサン、トルエン、ジオキサン、ベンゼン、イソプロピルエーテル、ヘキサン、ヘプタンなどが挙げられる。水との共沸温度が200℃を超える場合には、取り扱いの面(反応時の反応槽内の温度管理および共沸物の凝縮液化処理などの制御等を含む)から好ましくない。
【0038】
上記脱水溶剤は、反応槽から反応生成水と共に共沸させ、凝縮化装置にて凝縮液化し、さらに反応生成水を水分離器にて分離除去しながら還流されるものである。脱水溶剤の使用量は、原料としてのアルコール及び(メタ)アクリル酸の合計仕込量に対して、1〜100重量%、好ましくは2〜50重量%の範囲内である。脱水溶剤の使用量が1重量%未満であると、エステル化反応中に生成する反応生成水を共沸により反応槽から十分除去できず、エステル化の平衡反応が進行しにくくなるため好ましくなく、脱水溶剤の使用量が100重量%を超えると、過剰に添加することに見合う効果が得られず、また、反応温度を一定に維持するために多くの熱量が必要となり、経済的な観点から好ましくない。
【0039】
なお、本発明のエステル化反応においては、脱水溶剤を用いずに無溶媒下でエステル化反応を行うこともできる。この場合には、生成する反応生成水を除去するために反応液に空気、不活性ガス(窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、二酸化炭素)等の気体(好ましくは水蒸気を含まない気体)を用いたバブリング処理などを行う必要がある。かかるバブリング処理としては、例えば、反応槽内の下部に設けたエアノズル等から連続して気体(バブル)を反応液内に吹き出させ、反応液内を通過する過程で反応液内の水分を気泡(バブル)内に取り込ませ、反応液中を通過してきた水蒸気含有気体を反応槽から留出する(好ましくは留出したガス状の留出物(水蒸気含有気体)に含まれる水蒸気を液化除去し、再び乾燥された気体を循環する)方法などが例示できるが、特にこれに限定されるものではなく、従来既知のバブリング処理方法を適宜選択し必要に応じて組み合わせる等して利用することができる。したがって、バブリング処理で使用するエア流量は、逐次生成される反応生成水を反応槽内に長持間滞留することがないように、生成される反応生成水の生成(速度)量に応じて、必要なエア流量を連続的に供給すればよい。また、該気体は、反応槽内の温度が変動しないように、反応液温と同じ温度に加温した気体を供給するのが好ましい。本実施形態では、反応槽外の留出経路のうち、オーバーヘッドラインを加熱および/または保温すればよい。
【0040】
本発明において、エステル化反応は、回分式または連続式のいずれによっても行ないうるが、回分式で行うことが好ましい。
【0041】
また、エステル化反応における反応条件は、エステル化反応が円滑に進行する条件であればよく、反応温度は30〜140℃、好ましくは60〜130℃、さらに好ましくは90〜125℃、特に好ましくは100〜120℃である。反応温度が30℃未満では、エステル化反応が進行しづらく、反応生成水の脱水(留出)にも時間がかかり、エステル化反応に要する時間が長くなり好ましくない。逆に、反応温度が140℃を超えると、アルコール原料の切断によって過大量のジエステルが生成してセメント分散性能のほか、各種用途における分散性能や増粘特性が低下する。また、原料の重合が生じたり、留出物への原料の混入量が増すなど、生成物であるエステル化物の性能及び品質の劣化が生じるなど、やはり好ましくない。また、反応時間は、後述するようにエステル化率が少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%に達するまでであるが、通常、1〜50時間、好ましくは3〜40時間である。さらに、本発明によるエステル化反応は、常圧下または減圧下いずれで行ってもよいが、設備面から、常圧下で行うことが望ましい。
【0042】
本発明によるエステル化反応におけるエステル化率は、70%以上、より好ましくは70〜99%、最も好ましくは80〜98%であることが好ましい。エステル化率が70%未満であると、製造されるエステル化物の収率が不十分であり、これを原料として得られるセメント分散剤等の用途性能、例えば、セメント分散能等が低下する。なお、本明細書において使用される「エステル化率」は、下記に示すエステル化測定条件で、エステル化の出発物質であるアルコールの減少量を測定することにより、下記式によって算出される値として定義されるものである。
【0043】
【数2】
【0044】
なお、上記の式によりエステル化率を決定しているため、エステル化率が100%を越えることはない。従って、本発明においては、エステル化率が規定以上に達した時点(最大100%)でエステル化反応が終了したものとする。
【0045】
さらに、脱水溶剤を使用する好適な実施形態におけるエステル化反応工程においては、エステル化反応中の反応温度を130℃以下とし、エステル化反応中の溶剤循環速度を0.5サイクル以上/時間とすることが望ましい。これにより、反応温度を不純物形成温度領域(130℃超の領域)まで高くして反応させる必要もなく、反応槽内で不純物が形成するのを抑えることができる。また、溶剤循環速度を速めることで、反応槽内に反応生成水を長期間滞留させることなく効率よく反応槽外に共沸により留出でき、平衡反応がエステル化の方向に進むため、反応時間も短くできるものである。
【0046】
ここで、本明細書における、エステル化反応中の溶剤循環速度とは、次のように定義されるものをいう。すなわち、反応槽に仕込んだ脱水溶剤の全量(体積量)に対して、エステル化反応中に、反応槽内の脱水溶剤を反応槽から循環経路を通して再び反応槽に戻し還流させることにより、反応槽に仕込んだ脱水溶剤の全量に相当する量(体積量)が循環されたときを1サイクルと規定し、エステル化反応中の溶剤循環速度は、単位時間(1時間)あたりの当該サイクル数で表されるものとし、その単位は「サイクル/時間」とする。したがって、例えば、5時間で、反応槽に仕込んだ脱水溶剤の全量に対して、これに相当する量の15倍の量が循環されたときには、溶剤循環速度は3サイクル/時間となる。
【0047】
また、上記反応温度および溶剤循環速度は、反応槽の加熱方法(手段)およびびその装置を用いて反応槽により加えられる温度(熱量)及び反応槽に仕込む原料に対する脱水溶剤の使用量などによって所望の範囲に調整することができる。なお、反応温度は、反応槽内での最大(MAX)温度である。すなわち、加熱手段として用いられる装置(例えば、外部ジャケット、内部ヒータなど)の態様により、反応槽内の温度(反応温度)は、その位置によりバラツクほか、エステル化反応が進むにつれても上がり、時間の経過によっても変動するが、反応温度が高くなることで、不純物の形成を招くため、位置的及び時間的な条件に関わらず、如何なる位置及び時間であれ、上記に規定する上限温度を超えないことが必要であることから、ここでは、最大温度をもって規定することにしたものである。
【0048】
また、当該エステル化工程では、反応槽から留出されてくる留出物に対して、該留出物を凝縮液化させる領域、すなわちコンデンサの壁面、とりわけ塔頂近傍の壁面に重合禁止剤を作用させることが望ましい。これにより、コンデンサの壁面、とりわけ塔頂近傍の壁面を常に十分に濡らすことができ、オーバーヘッドライン以降の留出経路上へのゲル状物の発生を常に効果的に防止することができ、高品質のエステル化物を効率よく低コストで製造することができる。詳しくは、特願平10−268121号に開示してある通り、ここでは簡単な説明にとどめる。
【0049】
ここで、作用させる重合禁止剤は、上述した反応槽に使用し得る重合禁止剤を同様にして利用できる。重合禁止剤の使用量は、留出物の留出開始時からエステル化反応終了まで逐次留出されてくる低沸点原料に対して常にゲル状物の形成を効果的に防止することができる量(留出物の留出開始時からエステル化反応終了までの積算量)が必要である一方、エステル化反応に脱水溶剤を使用し、該脱水溶剤を留出し還流させる場合には、さらに重合禁止剤の使用量は極力抑える必要があるとの観点から、原料である上記アルコールおよび(メタ)アクリル酸の仕込み量に対して0.1〜1000重量ppm、好ましくは1〜500重量ppmの範囲である。
【0050】
上記重合禁止剤は、重合禁止剤を脱水溶剤と同種の溶剤に溶解した溶液の形態で作用させるのが望ましい。この場合、常に重合禁止剤が存在し、有効に機能するように供給されればよいことから、溶剤100重量部に対して重合禁止剤は0.001〜10重量部、好ましくは0.01〜5重量部の範囲である。
【0051】
(II)部分中和工程
次に、本発明では、上記(I)のエステル化工程において、酸触媒の存在下でエステル反応を行う場合には、以下に説明する部分中和工程を行うのが望ましい。すなわち、本発明者らは、エステル化反応後に脱水溶剤を留去する工程で水を加えて共沸する場合、あるいはエステル化物を用いてさらに重合を行うために、エステル反応後に調整水を加えて生成されたエステル化物の水溶液を作製する場合に、酸触媒による加水分解が生じ、エステル化物の品質及び性能の低下を招くほか、加水分解により生じたもの(以下、単に加水分解生成物ともいう)がエステル化物中に残留し、当該エステル化物を用いてセメント分散剤等の各種分散剤や増粘剤等に使用される重合体を合成する場合には、該加水分解生成物は、重合には関与しない不純物となり、重合率(ひいては生産性)が低下し、また重合体の品質や性能の劣化にもつながることから、かかる課題を解決するには、上記(I)のエステル化工程によるエステル化反応終了後、90℃以下で酸触媒をアルカリで中和することが望ましいことを見出したものである。これにより、エステル化反応後の処理過程で、加水分解生成物を生じることもなく、高純度で高品質のエステル化物を得ることができる。
【0052】
(III)溶剤留去工程
本発明では、上記エステル化反応を脱水溶媒中で行うため、上記(I)のエステル化工程によりエステル化反応を行った後に、反応液から脱水溶剤を留去するものである。さらに上記エステル化反応を酸触媒の存在下で行う場合には、上記(I)のエステル化工程によりエステル化反応を行った後に、上記(II)の部分中和工程により酸触媒、さらには(メタ)アクリル酸の一部を中和し、次いで、反応液から脱水溶剤を留去するものである。
【0053】
溶剤留去工程の好適な実施の形態につき、以下に説明する。
【0054】
本発明者らは、エステル化反応終了後(必要に応じて、部分中和処理を行い)、当該溶剤留去工程において、反応液から脱水溶剤を留去する際に、原料のアルコールと(メタ)アクリル酸の全使用量に対して1000ppm以下、好ましくは500ppm以下、より好ましくは300ppm以下の水溶性重合禁止剤を反応液に添加して、特に好ましくは添加せずに行うことにより、本来的には重合を禁止する目的で添加されていた水溶性重合禁止剤を加えることで、この重合禁止剤が弱いながらも重合活性を有するために、意外にも、未反応の原料、生成物であるエステル化物またはこれらの混合物の重合を招き、高分子量体を形成していたことを見出すとともに、エステル化反応時に添加されていた重合禁止剤が、当該脱水溶剤の留去時にも有効に機能することを見出し、これら水溶性重合禁止剤を全く使用しなくとも高分子量体の発生を防止し得る事を見出したものである。したがって、水溶性重合禁止剤の使用量が、原料のアルコールと(メタ)アクリル酸の全使用量に対して1000ppmを超える場合には、該水溶性重合禁止剤のもつ重合活性により、2.0面積%以上の高分子量体の発生を招き、これらを含むエステル化物を単量体成分として利用する場合には、得られる重合体を用いたセメント分散剤等に影響を及ぼすため好ましくない。
【0055】
本溶剤留去工程では、重合禁止剤の存在下に、エステル化反応を行っているが、当該重合禁止剤が上述したようにエステル化反応後(さらには部分中和処理後)においても有効に機能するものである場合には、本溶剤留去工程において、系内の溶液中に、新たに重合禁止剤を補充する必要はないが、濃度の薄いアルカリ水溶液を用いて部分中和処理を行っている場合には、反応液中に比較的多くの水が存在している。そのため、例えば、エステル化反応を行う際に使用した重合禁止剤が水に難溶ないし不溶であり、エステル化反応後(さらには部分中和処理後)においてさほど有効に機能しえない場合に限り、未反応の原料やエステル化物が水に溶けて重合することがあるため、これを防止する観点から、水溶性重合禁止剤のもつ重合活性による重合作用と本来的に有する重合禁止能との関係から、重合活性以上に有効に重合禁止能を発現し得る範囲(上記に規定する範囲)において、反応液に水溶性重合禁止剤を加えてから下記に規定する温度まで昇温し、脱水溶剤を水との共沸により留去することが望ましいものである。
【0056】
ここで、使用することのできる水溶性重合禁止剤としては、特に制限されるものではなく、例えば、ハイドロキノン、メトキノン、カテコール及びこれらの誘導体(例えば、p−t−ブチルカテコール等)、ハイドロキノンモノメチルエーテル等が挙げられる。なかでも、比較的重合活性が低いとの理由から、ハイドロキノン、メトキノンが好ましい。また、これらの水溶性重合禁止剤は、1種若しくは2種以上を混合して使用してもよい。
【0057】
本発明の製造方法によって得られるエステル化物のうち、アルコール原料にアルコキシポリアルキレングリコール(一般式R1 O(R2 O)nHにおけるnが1以上の場合)を用いる場合には、例えば、特公昭59−18338号公報、特開平9−86990号公報や特開平9−286645号公報に記載の方法などの公知の方法と同様にして、(メタ)アクリル酸(塩)、および必要によりこれらの単量体と共重合可能な単量体と共に重合反応に供されることによって、セメント分散能に優れたセメント分散剤とすることができるほか、炭酸カルシウム、カーボンブラック、インクなどの顔料分散剤、スケール防止剤、石膏・水スラリー用分散剤、CWM用分散剤、増粘剤等への利用が可能である。
【0058】
次に、上述した本発明のエステル化物の製造方法に用いることのできるエステル化反応装置としては、特に制限されるものではなく、従来公知の製造装置を適宜組み合わせて利用する事ができるものであるが、好ましくは、上述した本発明のエステル化物の製造方法に用いられてなる装置において、反応槽から凝縮化装置間の経路(オーバーヘッドライン)の少なくとも1部、好ましくは25%以上、より好ましくは50%、さらに好ましくは75%以上を加熱および/または保温するための手段が設けられてなるものである。
【0059】
本発明の製造方法に好適に利用できる装置において、オーバーヘッドラインの少なくとも1部、好ましくは25%以上、より好ましくは50%、さらに好ましくは75%以上を加熱および/または保温するための手段としては、特に制限されるものではなく、▲1▼適当な加熱手段、例えば、オーバーヘッドラインを構成する配管の少なくとも1部、好ましくは25%以上、より好ましくは50%、さらに好ましくは75%以上の外周部分(連続でも不連続でもよい)に巻き付けてなる電熱線(銅線など)コイルなどの加熱ヒータ等を用いて加熱する場合、▲2▼適当な加熱および保温手段、例えば、内管に留出物を通し、外管に媒体(加圧蒸気、オイル、アンモニアガス、フロンガス、燃焼排ガスなどの加熱ガスなど)の温度および流量を適当に調節しながら当該媒体を(連続的に又は断続的に)通じることにより内管の温度を制御し得る二重管をオバーヘッドラインの少なくとも1部、好ましくは25%以上、より好ましくは50%、さらに好ましくは75%以上の領域に使用して構成されてなるオバーヘッドラインにおいて、当該媒体を利用してオバーヘッドライン内の留出物を加熱および保温する場合、▲3▼保温手段、例えば、オーバーヘッドラインを構成する配管の少なくとも1部、好ましくは25%以上、より好ましくは50%、さらに好ましくは75%以上の外周部分(連続でも不連続でもよい)に巻き付けてなるグラスウール等の保温性の高い材料を用いて保温する場合がある。また、必要に応じて、これら▲1▼〜▲3▼の手段を適当に組み合わせても良い。また、オーバーヘッドラインの部分ごとに最適な手段で加熱および/または保温するようにしてもよい。
【0060】
さらに、本発明に係る方法に好適に利用できる装置としては、他のゲル化防止手段として、重合禁止剤を留出物に作用させる重合禁止剤供給機構が併設されていることが好ましい。
【0061】
上記重合禁止剤供給機構の一実施形態としては、重合禁止剤溶液の貯蔵部からコンデンサの塔頂近傍、すなわち、塔頂内部もしくはコンデンサ直前の留出経路内に設けられた供給部(例えば、ノズル部など)に該重合禁止剤溶液を供給するための供給経路(適当な配管及び圧送ポンプが利用できる)が設けられているものが例示できる。
【0062】
重合禁止剤供給機構は、その装置構成が簡単で、該重合禁止剤溶液の流量調整が極めて容易であり、重合禁止剤溶液の調製も、組成成分が重合禁止剤と溶剤だけであり、その混合も適当な撹拌手段により簡単に行えるとする利点がある。
【0063】
上記重合禁止剤供給機構において、重合禁止剤、特に重合禁止剤溶液をコンデンサの塔頂へ供給する(例えば、噴霧したり、吹き出したり、吹き付けたり、吐出させたり、吹き上げたり、降らせたりする)ための供給部(ノズル部)は、該コンデンサの塔頂近傍に設けられていることが望ましい。より望ましくは重合禁止剤溶液を上向きに供給し得るように設置されているものである。すなわち、ゲル状物が発生するコンデンサの塔頂部(=留出物入口部分)の内壁を常に濡らすことができるように、ノズル部は、コンデンサの塔頂部もしくはコンデンサ直前のオーバーヘッドライン内の中央部にノズル部を上向きにして設置することが望ましいものである。これにより、直接的にまたはオーバーヘッドラインの内壁を伝わって間接的にコンデンサの内壁を常に十分に濡らすことができ、ゲル状物が発生するコンデンサの塔頂部を含むコンデンサの内壁に重合禁止剤溶液を極めて有効かつ効果的に作用させることができる。
【0064】
本発明の方法に好適に利用できる装置としては、オーバーヘッドラインの少なくとも1部を加熱および/または保温するための手段が設けられてなる以外は、特に制限されるものではなく、上記重合禁止剤供給機構が設けられていてもよいし、さらに従来公知のエステル化反応装置や機構・手段(例えば、脱水溶剤、重合禁止剤および酸触媒の存在または非存在下、一般式R1 O(R2 O)nHで示されるアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応を行う反応槽(さらに該反応槽に関連する原料貯蔵槽、触媒貯蔵槽、溶剤貯蔵槽等の各種貯蔵槽や配管、供給ポンプ、流量調整弁や切替弁等)、から留出される留出物を凝縮液化させるコンデンサと、該凝縮液化した凝縮液から反応生成水を分離除去する水分離器とを有する留出経路、さらに反応生成水を分離除去した後の凝縮残液を反応槽に還流させる圧送手段を加えた循環経路などの反応装置や機構・手段など)のほか、本発明者らが先に提案した特願平10−268121号〜特願平10−268124号、特願平10−328683号〜特願平10−328687号、特願平11−99335号に記載の製造技術を適宜利用することができるものである。
【0065】
以下に、本発明に係るエステル化物の製造方法を図面を用いて詳しく説明する。図1は、本発明に係るエステル化物の製造方法に用いられる代表的な装置構成の概略図であって、特にその特徴部分であるオーバーヘッドラインの少なくとも1部を加熱および/または保温するための手段(さらには、重合禁止剤供給機構)を含めた装置構成を示すものである。なお、他の装置構成(例えば、反応槽の構造、反応槽の加熱手段、反応槽の撹拌機構、反応槽への原料、酸触媒及び溶剤等の貯蔵や供給機構など)に関しては、従来公知の反応装置(機構・手段)や製造技術を適宜利用することができるため(さらに本発明者らが先に提案した特願平10−268121号で説明した図面(図1)の装置構成と同様であるため)ここでは省略した。
【0066】
図1より、オーバーヘッドラインの少なくとも1部を加熱および/または保温するための手段(さらには、重合禁止剤供給機構)を含めた本実施形態の装置構成では、まず、エステル化反応を行う反応槽501の上部と向流(または並流)接触形式の縦型の多管式円管形コンデンサ(=凝縮化装置)505の塔頂部とが配管503により連結されている。反応槽501には、加熱手段(例えば、内部ヒータ、外部ジャケット等)としてジャケット502が外設されているほか、適当な撹拌装置が付設されている。ここで、反応槽501からコンデンサ505間の経路(オーバーヘッドライン)の少なくとも1部を加熱および/または保温するための手段として、配管503が、内管503aに留出物を通し、外管504に媒体(加圧蒸気、オイル、アンモニアガス、フロンガス、燃焼排ガスなどの加熱ガスなど)の温度および流量を適当に調節しながら当該媒体を(連続的に又は断続的に)通じることにより内管503aの温度を制御し得る二重管を用いて構成されている(ただし、反応槽501との接続部と、コンデンサ505との接続部分は除く)。またコンデンサ505の下底部と水分離器507の上部とが配管520により連結されている。該水分離器507の内部には仕切板513が設けられており、該仕切板513で区切られた2つの室が形成されている。このうち、コンデンサ505で凝縮液化された留出物が貯められる側の室の下部と反応生成水の処理タンク(図示せず)とが配管526により連結されており、該処理タンクにはさらに廃水用の配管(図示せず)が連結されている。また、水分離器507のもう一方の室の下部と反応槽501の上部とが配管525で連結されている。配管525の経路上には循環ポンプ512が設置されている。さらに、これらに重合禁止剤供給機構として、まず、コンデンサ505の塔頂部の中央部には重合禁止剤溶液をコンデンサの塔頂部に噴霧させるためのノズル部506が上向きに設けられており、このノズル部506と留出物のゲル化防止用に利用される重合禁止剤溶液を貯蔵する重合禁止剤溶液貯蔵タンク509とは配管524により連結されている。次に、配管524の経路上には、圧送ポンプ510が設置されている。
【0067】
本発明に係るエステル化物の製造方法では、以上の装置構成を有するエステル化物の製造装置を用いて次のように行われる。
【0068】
反応槽501内部に、原料のアルコールおよび(メタ)アクリル酸、好ましくは、さらに酸触媒、重合禁止剤および脱水溶剤をそれぞれ上記に規定する所定の量を送り込み(仕込み)、上記に規定するエステル化条件(反応温度、ジャケット温度、圧力)でエステル化反応を行う。エステル化反応により逐次生成する反応生成水は、反応槽501内に仕込まれた脱水溶剤と共沸され配管(二重管)503の内管503aを通じて留出されてくる。留出されてきたガス流体である留出物に対して、外管504に通じる媒体(加圧蒸気、オイル、アンモニアガス、フロンガス、燃焼排ガスなどの加熱ガスなど)の温度および流量を適当に調節しながら外管504に当該媒体を通じて、内管503aの壁の温度およびオーバーヘッドライン内の留出物の温度を上記に規定した温度範囲内に制御する。これによりオーバーヘッドラインでのゲル状物の発生を防止することができるものである。次に、留出物はガス状のまま配管(二重管)503の内管503aを通じて運ばれ、コンデンサ505に通され凝縮液化される。この凝縮液化時に該留出物に含まれる低沸点原料がゲル化するのを防止する目的で、重合禁止剤溶液を貯蔵タンク509より配管524を通じてコンデンサ505の塔頂部に設けられたノズル部506に供給し、該供給ノズル部506から上記に規定する量の重合禁止剤溶液を上向きに連続的に噴霧して、該コンデンサ505の塔頂部のガス入口部分を含む内壁全体を濡らすことで留出物(ガス流体物および凝縮液化物の双方をいう)と並流接触させる。凝縮液化された留出物(噴霧された重合禁止剤溶液を含む)は、該コンデンサ505の下部より配管520を通じて水分離器507の一方の室に貯められ、水相と溶剤相の2層に分離される。このうち、下層部の水相の分離水(反応生成水のほか、低沸点原料を含む)は、この室の下部より配管526を通じて逐次抜かれ、反応生成水の処理タンクに貯められ、該処理タンク内で、必要に応じて、環境基準(廃水基準)値を満足するように化学的ないし生物学的に処理された後、廃水用の配管を通じて、本装置系外に廃水される。一方、上層部の溶剤相の凝縮残液(脱水溶剤のほか、重合禁止剤溶液および低沸点原料を含む)は、仕切板513をオーバーフローして隣のもう一方の室に貯められる。そして、該凝縮残液はもう一方の室の下部よりポンプ512により配管525を通じて反応槽501に戻されながら、エステル化反応が進められる。
【0069】
エステル化反応終了(エステル化率が規定以上に達した時点で終了とする)後、反応槽501内に中和剤水溶液を添加して、酸触媒を中和し、常圧下に脱水溶剤(および過剰の(メタ)アクリル酸)を水との共沸で留出し、所望のエステル化物を単離する。尚、脱水溶剤および過剰の(メタ)アクリル酸を留出する場合には、上述した反応槽501内でエステル化反応時に生成される反応生成水を含む留出物を留出し、ゲル状物を発生を防止しながら凝縮液化した後に、該反応生成水を分離除去し、残りの留出物を還流させるための循環機構の装置構成の一部を使って行うことができる。なお、この場合には、脱水溶剤および過剰の(メタ)アクリル酸を還流することなく装置系外に除去する必要上、水分離器507に取り付けられた真空ポンプ(エゼクタ)を用いて装置系外に取り出される。なお、これらは廃棄処理されるか、あるいは系外の装置を用いて化学処理し再利用してもよい。一方、得られたエステル化物は反応槽501より配管を通じてエステル化物貯蔵タンクに回収される。なお、セメント分散剤等の合成に用いる場合には、得られたエステル化物を単量体成分の1つとして該反応槽501でさらに重合を行い、セメント分散剤の主要組成成分となり得る重合体を合成するようにしてもよい。
【0070】
以上が、本発明のエステル化物の製造方法の一実施態様を図1を用いて説明したものであるが、本発明に係るエステル化物の製造方法は、当該実施態様に限定されるものではなく、オーバーヘッドラインの少なくとも1部を加熱および/または保温することができるものであれば何ら制限されるものではなく、従来既知の製法、装置構成などを適宜組み合わせて利用することができる。
【0071】
【実施例】
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明する。なお、例中、特にことわりのない限り、%は重量%を、また、部は重量部を表わすものとする。
【0072】
実施例1
温度計、攪拌機、水分離器および還流冷却管(コンデンサ)を備えた反応槽にメトキシポリ(n=25)エチレングリコール16500部、メタクリル酸4740部、パラトルエンスルホン酸1水和物235部、フェノチアジン5部およびシクロヘキサン1060部を仕込み、反応温度115℃でエステル化反応を行った。このとき、反応槽からコンデンサ間の経路(オーバーヘッドライン)の反応槽との接続部と、コンデンサとの接続部分は除く、約90%を二重管で構成し、該二重管の外管に9kg/cm2の加圧蒸気を通じて加熱し、該二重管の内管の壁の温度を175℃に保持した。
【0073】
約20時間でエステル化率が99%に達したのを確認した後、49%水酸化ナトリウム水溶液135部と水4890部を加えてパラトルエンスホン酸を中和し、ハイドロキノン8部を加えて昇温し、シクロヘキサンを水との共沸で留去した。シクロヘキサンの留去中、コンデンサの塔頂へハイドロキノン1部を含む水301部を滴下した。シクロヘキサン留去後、調整水を添加して80%のエステル化水溶液を得た。以上の操作を1年間繰り返した後でオーバーヘッドラインの内管内部を点検(目視)したところ、ゲル状物はほとんど認められなかった(目視で比較例1の1/100以下)。
【0074】
本実施例の反応組成、反応条件、オーバーヘッドラインの加熱および/または保温条件、部分中和条件を下記表1〜3に示す。
【0075】
比較例1
温度計、攪拌機、水分離器および還流冷却管(コンデンサ)を備えた反応槽にメトキシポリ(n=25)エチレングリコール16500部、メタクリル酸4740部、パラトルエンスルホン酸1水和物235部、フェノチアジン5部およびシクロヘキサン1060部を仕込み、反応温度115℃でエステル化反応を行った。このとき、反応槽からコンデンサ間の経路(オーバーヘッドライン)は加熱しなかった。
【0076】
約20時間でエステル化率が99%に達したのを確認した後、49%水酸化ナトリウム水溶液135部と水4890部を加えてパラトルエンスホン酸を中和し、ハイドロキノン8部を加えて昇温し、シクロヘキサンを水との共沸で留去した。シクロヘキサンの留去中、コンデンサの塔頂へハイドロキノン1部を含む水301部を滴下した。シクロヘキサン留去後、調整水を添加して80%のエステル化水溶液を得た。以上の操作を1年間繰り返した後でオーバーヘッドラインの配管内部を点検(目視)したところ、多量のゲル状物が認められた。
【0077】
本比較例の反応組成、反応条件、オーバーヘッドラインの加熱および/または保温条件、部分中和条件を下記表1〜3に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【発明の効果】
(1) 本発明に係るエステル化物の製造方法では、反応槽から凝縮化装置間の経路(オーバーヘッドライン)の少なくとも1部を加熱および/または保温することにより、オーバーヘッドラインでのゲル状物の発生を効果的に常に防止することができると共に、該オーバーヘッドライン領域では重合禁止剤(溶液)を作用させなくともよいので、重合禁止剤の高温ガス化に起因する問題もなく、該オーバーヘッドラインから反応槽に戻される重合禁止剤溶液に起因する問題もなく、高品質のエステル化物を効率よく低コストで製造することができ、得られるエステル化物の品質の低下を招くこともなく、該エステル化物を用いて製造されるセメント分散剤等の製品の性能及び品質の低下もない。特にエステル化反応により得られるエステル化物を用いてなるセメント分散剤では、その分散性能はもとより、スランプ保持性能や減水性能にも優れており、セメント分散剤の主成分である重合体の原料として有用な単量体成分とすることができる点で一層有利である。また、本発明に係るエステル化物の製造方法では、オーバーヘッドラインにゲル状物が蓄積される事もないので、長期間連続的に安定して運転(操業)することができ、わざわざ定期的に運転を止めてオーバーヘッドライン内部に生じたゲル状物を洗浄するなどの保守点検作業(メンテナンス)も大幅に省け、生産性の向上も図れ、経済的にも有利である。
【0082】
(2) また、本発明に係るエステル化物の製造方法では、特に、オーバーヘッドラインの壁を25〜400℃で加熱および/または保温することで、上記(1)に示す作用効果がより顕著に得られる。
【0083】
(3) さらに、本発明に係るエステル化物の製造方法では、二重管を用いて加熱および/または保温することで、上記(1)に示す作用効果がより顕著に得られる。特に、二重管の構造が保温断熱構造ゆえ、外部環境(季節による周辺温度の変化や日中と夜間の温度差など)による影響を内管内部を通る留出物が受けにくいため、内管の壁あるいは留出物の温度を所望の温度域(極めて小さい変動幅で制御可能である)に常に安定して保持することが容易に達成できるとする利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係るエステル化物の製造方法に用いられる製造装置であって、オーバーヘッドラインの少なくとも1部を加熱および/または保温するための手段、さらには、重合禁止剤供給機構を含めた装置構成を表す概略説明図である。
【符号の説明】
501…反応槽、 502…ジャケット、
503…配管(二重管)、 503a…二重管の内管、
504…二重管の外管、 505…コンデンサ、
506…ノズル部、 507…水分離器、
509…重合禁止剤溶液貯蔵タンク、 510、512…ポンプ、
513…水分離器の仕切板、 520、524〜526…配管。
Claims (6)
- 一般式R1 O(R2 O)nH(ただし、式中、R1 は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表わし、R2 Oは炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表わし、この際、各R2 Oの繰り返し単位は同一であってもあるいは異なっていてもよく、およびR2 Oが2種以上の混合物の形態である場合には各R2 Oの繰り返し単位はブロック状に付加していてもあるいはランダム状に付加していてもよく、ならびにnはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表わし、5〜300の数である)で示されるアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応によりエステル化物を製造する方法において、
反応槽から凝縮化装置間の経路の50%以上を加熱および/または保温することを特徴とするエステル化物の製造方法。 - 前記反応槽から凝縮化装置間の経路の壁を60〜400℃で加熱および/または保温することを特徴とする請求項1に記載のエステル化物の製造方法。
- 二重管を用いて加熱および/または保温することを特徴とする請求項1または2に記載のエステル化物の製造方法。
- 凝縮化装置内の凝縮部の内壁面に重合禁止剤を溶剤に溶解した溶液の形態で作用させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエステル化物の製造方法。
- 前記内壁面が、凝縮化装置の塔頂近傍の壁面である、請求項4に記載のエステル化物の製造方法。
- 前記凝縮化装置が多管式である、請求項1〜5のいずれか 1 項に記載のエステル化物の製造方法。
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