JP4001518B2 - セメント分散剤用ポリカルボン酸系共重合体の製造方法 - Google Patents

セメント分散剤用ポリカルボン酸系共重合体の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エステル化物の製造方法に関するものである。詳しくは、脱水溶剤中で、アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応を行い、エステル化反応終了後に該脱水溶剤を留去させることにより、高品質の(メタ)アクリル酸エステル類(本明細書中では、単にエステル化物ともいう)を効率よく製造する方法であって、特に製造装置を連続的に運転してエステル化物を工業的に大量生産する場合に、特に生産効率に優れるエステル化物の製造方法に関するものである。
【0002】
本発明はまた、上記方法によって製造されたエステル化物を用いたセメント分散剤用ポリカルボン酸系共重合体の製造方法に関するものである。
【0003】
【従来の技術】
セメント分散剤や炭酸カルシウム、カーボンブラック、インクなどの顔料分散剤、スケール防止剤、石膏・水スラリー用分散剤、CWM用分散剤、増粘剤等に使用される重合体成分の原料となる各種(メタ)アクリル酸エステル系単量体成分は、アルコールと(メタ)アクリル酸とをエステル化反応することにより得られる。こうしたエステル化反応では、同時に反応生成水が副生するため、この反応生成水を反応系から除去しないと(すなわち、反応生成水がたまると)、平衡反応ゆえにエステル化物を生成する方向に反応が進まなくなる。そのため、エステル化物を合成するのに、脱水溶剤を用い、これと反応生成水とを留出(共沸)させ、このうち反応生成水を分離除去し、脱水溶剤を還流させて反応を行い、反応終了後に該脱水溶剤を留去して目的のエステル化物を含有する反応槽から取り除く手法がとられている。
【0004】
こうした製造方法しては、例えば、特開平9−328346号公報の比較例1及び2に、反応器(セパラブルフラスコ)に温度計、攪拌機および水分離器を設け、反応生成水を分離できるようにした反応装置に、原料としてメタクリル酸及びメトキシポリエチレングリコール(オキシエチレン基の平均付加モル数:10モル)、酸触媒として硫酸(比較例1)またはパラトルエンスルホン酸(比較例2)、重合禁止剤としてフェノチアジン、脱水溶剤としてシクロヘキサンを仕込み攪拌しながら加熱し、常圧下にシクロヘキサン−水共沸物を留出させ、反応生成水を水分離器で除去しながらシクロヘキサンを還流させてエステル化反応を行い、エステル反応終了後、使用したシクロヘキサンを留去し、目的とするエステル化物を合成する方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、上記公報に開示されているように、脱水溶剤を用いるエステル化反応において、反応終了後に脱水溶剤を留去すること以外は、脱水溶剤を留去する上での技術的課題等に関して現在までに報告されたものはないのが現状である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、脱水溶剤を利用して高品質のエステル化物を効率よく製造するべく鋭意研究を進める過程で、反応後に脱水溶剤を留出し凝縮液化するときに、ゲル状物が形成され、(1)工業化してエステル化物を大量生産する場合には、該ゲル状物が、凝縮液化手段以降の配管や装置(例えば、コンデンサなど)の内壁などに付着していき、凝縮液化時の熱交換効率の低下を招くことにもなり、さらに、繰り返し(いわば、連続的に)運転する場合には、コンデンサや配管内の流体(主に凝縮後の液体)の流れを悪くし、ひいては閉塞を招くおそれがあるため、定期的に運転を止めてコンデンサや配管内部を洗浄し該ゲル状物を取り除く必要があるほか、(2)反応後に水を加えて脱水溶剤を共沸して留去する場合に、反応時の反応生成水の分離除去に用いる脱水溶剤還流システムを、反応後の脱水溶剤の留去にも利用する場合において、これを繰り返して(連続的に)運転するようになる(いわば工業的に大量生産するようになる)と、形成されたゲル状物の一部が、次のバッチでのエステル化反応中に脱水溶剤を循環する際に脱水溶剤中に取り込まれ、脱水溶剤とともに還流されることにより、反応槽内に不純物として留まり、最終的な製品中に混入され、該製品(例えば、セメント分散剤、顔料分散剤、スケール防止剤、石膏・水スラリー用分散剤、CWM用分散剤、増粘剤など)の性能及び品質を低下させることにもなるなど、ゲル状物に起因する多くの技術的課題が生じることがわかってきた。
【0007】
したがって、本発明の目的は、エステル化反応後に脱水溶剤を留去する際に生ずる技術的課題を解決してなるエステル化物の製造方法を提供するものである。
【0008】
本発明の他の目的は、上記したような技術的課題を生じさせる元凶ともいえるゲル状物の発生そのものを防止し、高品質のエステル化物を効率よく製造することのできるエステル化物の製造方法を提供するものである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、本発明の方法によって製造された不純物(ゲル状物)含量の少ないエステル化物を用いた優れたセメント分散能を有するセメント分散剤用のポリカルボン酸系共重合体の製造方法に関するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために、高品質のエステル化物を効率よく製造することのできる方法につき、鋭意検討した結果、脱水溶剤を留去する際に生ずるゲル状物の多くはポリ(メタ)アクリル酸であって、かかるゲル状物は、アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応が効率良く進行するように、通常、一方の原料を過剰に使用してエステル化反応を速めたり、目的のエステル化物の精製面から蒸留留去し易いより低沸点の原料を過剰に使用するため、エステル化反応終了後にもこうした低沸点の原料が未反応のまま残っており、その一部が、脱水溶剤(ないし脱水溶剤と水との共沸物)とともに留出され凝縮液化されるときに(液相反応によりゲル化して)形成されるものであるとする、発生メカニズム(発生原因)を突き止め、これに基づき極めて効果的に該ゲル状物の発生を防止することのできる解決策を見出し、当該知見に基づき本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明の目的は、下記(1)〜(8)に記載の方法により達成することができるものである。
【0012】
(1) 脱水溶剤の存在下、下記式(1):
【0013】
【化3】
Figure 0004001518
【0014】
(ただし、R1は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表わし、R2Oは炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表わし、この際、各R2Oの繰り返し単位は同一であってもあるいは異なっていてもよく、およびR2Oが2種以上の混合物の形態である場合には各R2Oの繰り返し単位はブロック状に付加していてもあるいはランダム状に付加していてもよく、ならびにnはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表わし、0〜300の数である)で示されるアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応によるエステル化物の製造方法において、
該エステル化反応終了後の脱水溶剤留去工程中に、該脱水溶剤を含む留出物に対してゲル化防止剤を作用させる工程を含むことを特徴とするエステル化物の製造方法。
【0015】
(2) 前記ゲル化防止剤は脱水溶剤を含む留出物を凝縮させる領域で作用させる、上記(1)に記載の方法。
【0016】
(3) 前記ゲル化防止剤は留出物を凝縮させるコンデンサ内で作用させる、上記(1)または(2)に記載の方法。
【0017】
(4) ゲル化防止剤は留出物を凝縮させるコンデンサの塔頂近傍に作用させる、上記(3)に記載の方法。
【0018】
(5) エステル化反応終了後の脱水溶剤を水と共沸して留出させることによる脱水溶剤留去工程中に、該脱水溶剤を含む留出物に対してゲル化防止剤を水と混合して作用させる工程を含む、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の方法。
【0019】
(6) 前記ゲル化防止剤は水溶性である、上記(5)に記載の方法。
【0020】
(7) 前記式(1)において、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表わし、2〜300の数である、上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の方法。
【0021】
(8) 脱水溶剤の存在下、下記式:
【0022】
【化4】
Figure 0004001518
【0023】
(ただし、R1は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表わし、R2Oは炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表わし、この際、各R2Oの繰り返し単位は同一であってもあるいは異なっていてもよく、およびR2Oが2種以上の混合物の形態である場合には各R2Oの繰り返し単位はブロック状に付加していてもあるいはランダム状に付加していてもよく、ならびにnはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表わし、1〜300の数である)で示されるアルコキシポリアルキレングリコールを(メタ)アクリル酸とエステル化反応し、該エステル化反応が終了した後の脱水溶剤留去工程中に、該脱水溶剤を含む留出物に対してゲル化防止剤を作用させることにより、アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸系単量体(a)を得、該アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸系単量体(a)5〜98質量%、下記式(2):
【0024】
【化5】
Figure 0004001518
【0025】
(ただし、R3は水素もしくはメチル基を表わし、M1は水素、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表わす)で示される(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2質量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50質量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100質量%)を共重合することを特徴とする、セメント分散剤用ポリカルボン酸系共重合体の製造方法。
【0026】
【発明の実施の形態】
第一の概念によると、本発明は、脱水溶剤の存在下、下記式(1):
【0027】
【化6】
Figure 0004001518
【0028】
(ただし、R1は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表わし、R2Oは炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表わし、この際、各R2Oの繰り返し単位は同一であってもあるいは異なっていてもよく、およびR2Oが2種以上の混合物の形態である場合には各R2Oの繰り返し単位はブロック状に付加していてもあるいはランダム状に付加していてもよく、ならびにnはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表わし、0〜300の数である)で示されるアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応によるエステル化物の製造方法において、該エステル化反応終了後の脱水溶剤留去工程中に、該脱水溶剤を含む留出物に対してゲル化防止剤を作用させる工程を含むことを特徴とするエステル化物の製造方法を提供するものである。
【0029】
本明細書において、「留出物」とは、反応槽から留出されてなるもの(混合物)を意味し、以下に詳細に説明するが、エステル化反応工程中あるいはエステル化反応工程終了後の脱水溶剤留去工程などの工程の種類にかかわらず、反応槽から留出されるものすべてを包含する。よつて、本発明による留出物は、存在する状態は特に制限されずに、ガス状または液状のいずれの状態で存在していてもよい。すなわち、本明細書における「留出物」は、特記しないかぎり、エステル化反応工程時に生成し、反応槽から留去される反応生成水、該反応生成水を反応槽から留出する際に一緒に留出される原料、特に(メタ)アクリル酸、さらに必要に応じて反応生成水と共沸させる目的で反応槽に加えられる脱水溶剤を含む留出物;ならびにエステル化反応工程終了後の脱水溶剤留去工程中に反応槽から留去される脱水溶剤、及び該脱水溶剤を反応槽から留出する際に一緒に留出される原料、特に(メタ)アクリル酸を含む留出物などを包含する。なお、ここでいう反応槽は、その名称に拘泥されるものではなく、反応器、反応容器および反応釜などと同じ意味内容で用いられるものであって、最も広く解されるべきものである。以下、説明の都合上、これら中の表現を適当に用いることもあるが、個々の持つ狭い意味内容に本発明が限定されるべきものではない。同様に、後述するコンデンサ(凝縮器)も水分離器もその名称に拘泥されるものではなく、最も広く解されるべきものである。
【0030】
なお、上記第一の概念においては、エステル化反応終了後の脱水溶剤留去工程中に脱水溶剤を反応槽から留去する必要があることから、上記概念における「留出物」は、通常、この脱水溶剤を含むほか、脱水溶剤を反応槽から留出する際に一緒に留出される原料、特に(メタ)アクリル酸を含むものである。
【0031】
以下に、本発明のエステル化物の製造方法の好適な実施の形態につき、工程を追って説明する。
【0032】
本発明のエステル化物の製造方法は、上記の通りであるが、特に本発明では、酸触媒と重合禁止剤の存在下、脱水溶剤中で、式(1)で表されるアルコール(以下、単に「アルコール」ともいう)と(メタ)アクリル酸とのエステル化反応を行い(エステル化工程)、エステル化反応終了後、酸触媒または酸触媒の全部と(メタ)アクリル酸の一部を中和し(部分中和工程)、その後、脱水溶剤を留去する(溶剤除去工程)際に、該脱水溶剤を含む留出物に対してゲル化防止剤を作用させるのが望ましい。
【0033】
なお、本発明は、脱水溶剤中でエステル化反応を行った後に、該脱水溶剤を留去する工程、すなわち、溶剤留去工程を必須とするものであり、それ以外の工程、たとえば、以下に詳述するエステル化反応(エステル化工程)や部分中和工程は特に制限されず、従来と同様の方法が使用できるが、各工程の好ましい態様を以下に説明する。
【0034】
以下、本発明のエステル化物の製造方法におけるエステル化反応(エステル化工程)の一実施態様を以下に簡単に記載する。まず、反応系(反応槽)に、原料としてのアルコール及び(メタ)アクリル酸、脱水溶剤、酸触媒及び重合禁止剤を仕込み、これら混合物を一定温度で所定のエステル化率になるまで、エステル化反応を行う。
【0035】
本発明によるエステル反応に原料として使用されるアルコールは、下記式(1)で示される化合物である。
【0036】
【化7】
Figure 0004001518
【0037】
上記式(1)において、R1は、炭素原子数1〜30の炭化水素基を表わす。R1が炭素原子数30を超える炭化水素基である場合には、式(1)のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物を、例えば、(メタ)アクリル酸と共重合して得られる共重合体の水溶性が低下し、用途性能、例えば、セメント分散性能などが低下する。好適なR1の範囲はその使用用途により異なるものであり、例えば、セメント分散剤の原料として用いる場合には、R1は、炭素原子数1〜18の直鎖若しくは枝分かれ鎖のアルキル基およびアリール基が好ましい。R1としては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、ウンデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ヘンエイコシル基、ドコシル基などのアルキル基;フェニル基などのアリール基;ベンジル基、ノニルフェニル基などのアルキルフェニル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;アルケニル基;アルキニル基などが挙げられる。これらのうち、セメント分散剤の原料として用いる場合には、上述したように、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基が好ましいものである。
【0038】
また、R2Oは、炭素原子数2〜18、好ましくは炭素原子数2〜8のオキシアルキレン基である。R2Oが炭素原子数18を超えるオキシアルキレン基である場合には、式(1)のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物を、例えば、(メタ)アクリル酸と共重合して得られる共重合体の水溶性が低下し、用途性能、例えば、セメント分散性能等が低下する。R2Oとしては、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシスチレン基などが挙げられ、これらのうち、オキシエチレン基、オキシプロピレン基及びオキシブチレン基であることが好ましい。また、R2Oの繰り返し単位は、同一であってもあるいは異なっていてもよい。このうち、R2Oの繰り返し単位が異なる場合、すなわち、2種以上の異なる繰り返し単位を有する場合には、各R2Oの繰り返し単位はブロック状に付加していてもあるいはランダム状に付加していてもよい。
【0039】
さらに、nは0〜300、好ましくは2〜300の数であり、R2O(オキシアルキレン基)の繰り返し単位の平均付加モル数を表わす。nが300を超える場合には、式(1)の化合物と(メタ)アクリル酸とのエステル化物の重合性が低下する。この平均付加モル数nも、エステル化反応により得られるエステル化物の使用目的に応じて、その最適範囲は異なるものであり、例えば、セメント分散剤の原料として使用する場合には、平均付加モル数nは、好ましくは2〜300、より好ましくは5〜200、最も好ましくは8〜150の数である。また、増粘剤などとして用いる場合には、平均付加モル数nは、好ましくは10〜250、より好ましくは50〜200の数である。また、n=0の場合には、水との溶解性および沸点の観点から、上記R1は炭素原子数4以上の炭化水素基であることが好ましい。すなわち、式(1)のn=0の場合、特にメタノールやエタノールなどのアルコールでは低沸点のため生成水とともに蒸発し、さらに生成水に溶解することから当該アルコール原料の一部が系外に留去され、目的とするエステル化物の収率が低下するためである。
【0040】
本発明の製造方法において、上記式(1)で示されるアルコール原料は、1種のものを単独で使用してもあるいは2種以上の混合物の形態で使用してもよい。式(1)で示されるアルコール原料が2種以上の混合物での使用形態は、特に制限されるものではなく、R1、R2Oまたはnの少なくともいずれか1つが異なる2種以上の混合物での使用形態であればよいが、好ましくは▲1▼R1がメチル基とブチル基の2種で構成されている場合;▲2▼R2Oがオキシエチレン基とオキシプロピレン基の2種で構成されている場合;▲3▼nが1〜10のものと11〜100のものの2種で構成されている場合;および▲1▼〜▲3▼を適宜組み合わせたもの等が挙げられる。
【0041】
本発明によるエステル反応に使用することのできる(メタ)アクリル酸に関しても、アクリル酸およびメタクリル酸を、それぞれ単独で使用しても、あるいは混合して使用してもよく、その混合比率に関しても任意の範囲を採用することができる。
【0042】
本発明によるエステル化反応で使用される上記原料の混合比率は、化学量論的には1:1(モル比)であるが、実際には、アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応が効率良く進行する範囲であれば特に制限されるものではないが、通常、一方の原料を過剰に使用してエステル化反応を速めたり、目的のエステル化物の精製面からは、蒸留留去し易いより低沸点の原料を過剰に使用する。また、本発明では、エステル化反応時に反応生成水と脱水溶剤を共沸する際に、低沸点の(メタ)アクリル酸の一部も留出され、反応系外に持ち出されるため、アルコールの使用量(仕込み量)に対して(メタ)アクリル酸の使用量(仕込み量)を化学量論的に算出される量よりも過剰に加えることが好ましい。具体的には、(メタ)アクリル酸の使用量は、通常、アルコール1モルに対して、1.0〜30モル、好ましくは1.2〜10モル、より好ましくは1.5〜10モル、最も好ましくは2〜10モルである。(メタ)アクリル酸の使用量がアルコール1モルに対して1.0モル未満であると、エステル化反応が円滑に進行せず、目的とするエステル化物の収率が不十分であり、逆に30モルを超えると、添加に見合う収率の向上が認められず、不経済であり、やはり好ましくない。
【0043】
また、本発明のエステル化反応においては、必要に応じて、反応系に酸触媒を加えて行ってもよいが、反応を速やかに進行させることができるため、酸触媒の存在下で反応を行うことが望ましい。この際使用することのできる酸触媒としては、例えば、硫酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸水和物、キシレンスルホン酸、キシレンスルホン酸水和物、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸水和物、トリフルオロメタンスルホン酸、「Nafion」レジン、「Amberlyst 15」レジン、リンタングステン酸、リンタングステン酸水和物、塩酸などが挙げられる。この際、酸触媒は単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0044】
これらのうち、以下に詳述する脱水溶剤と水との共沸温度、エステル化反応温度などを考慮すると、酸触媒は、常圧における沸点が高いものであることが好ましい。具体的には、本発明に好ましく使用される酸触媒の常圧における沸点は、150℃以上、より好ましくは200℃以上である。ゆえに、硫酸(常圧における沸点:317℃)、パラトルエンスルホン酸(沸点:185〜187℃/13.3Pa(0.1mmHg))、パラトルエンスルホン酸水和物及びメタンスルホン酸(沸点:167℃/1333.2Pa(10mmHg))などが好ましく使用される。さらに、本発明者らは、エステル化物の品質および性能の低下の原因となる不純物のジエステルの生成原因の1つが、アルコキシポリアルキレングリコールの切断によるものであり、さらに当該切断が酸触媒によっても起こり得ることを知得した。かかる知見に基づき、当該切断のしにくい酸触媒がより望ましいこと見出したものである。上記点を考慮すると、本発明において特に好ましく使用される酸触媒としては、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸水和物が例示できる。
【0045】
上記態様において、酸触媒の使用量は、所望の触媒作用を有効に発現することができる範囲であれば特に制限されるものではないが、好ましくは0.4ミリ当量/g以下であり、より好ましくは0.36〜0.01ミリ当量/g、特に好ましくは0.32〜0.05ミリ当量/gの範囲内である。酸触媒の使用量が0.4ミリ当量/gを超えると、エステル化反応時に反応系内で形成されるジエステルの量が増加し、エステル化反応により得られるエステル化物[アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸]を用いて合成されるセメント分散剤のセメント分散能が低下する。ここで、酸触媒の使用量(ミリ当量/g)は、反応に使用した酸触媒のH+の当量数(ミリ当量)を、原料であるアルコール及び(メタ)アクリル酸の合計仕込み量(g)で割った値で表される。より具体的には下記式によって算出される値である。
【0046】
【数1】
Figure 0004001518
【0047】
本発明において、酸触媒の反応系への添加のし方は、一括、連続、または順次行ってもよいが、作業性の面からは、反応槽に、原料と共に一括で仕込むのが好ましい。
【0048】
または、本発明において、酸触媒の存在下でエステル化反応を行う際に、酸触媒を水和物および/または水溶液の形態で用いてもよい。
【0049】
上記態様において使用することのできる酸触媒としては、例えば、硫酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、「Nafion」レジン、「Amberlyst 15」レジン、リンタングステン酸、塩酸などを水和物および/または水溶液の形態で用いるものが挙げられ、これらのうち、硫酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などを水和物および/または水溶液のかたちで用いるものが好ましく使用される。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用しても良い。さらに、本発明者らは、上述したように、エステル化物の品質および性能の低下の原因となる不純物のジエステルの生成原因の1つが、アルコール原料の切断によるものであり、さらに当該切断が酸触媒によっても起こり得ることを知得し、かかる知見に基づき、当該切断のしにくい酸触媒がより望ましいこと見出したものである。当該酸触媒としては、具体的には、パラトルエンスルホン酸を水和物および/または水溶液のかたちで用いるものである。
【0050】
上記態様による酸触媒の使用量は、所望の触媒作用を有効に発現することができる範囲であれば特に制限されるものではないが、アルコール原料の切断作用の抑制、各種用途、例えば、セメント分散剤、炭酸カルシウム、カーボンブラック、インクなどの顔料分散剤、スケール防止剤、石膏・水スラリー用分散剤、CWM用分散剤、増粘剤等に使用される重合体成分の原料となるエステル化物としての有用性、このような使用用途に要求される基本性能である分散性能などに悪影響を及ぼす原因となる分散性能の乏しい高分子量架橋ポリマーを発生させる原因となるゲル発生の防止・抑制を考慮すると、該酸触媒の使用量が、原料のアルコールと(メタ)アクリル酸の合計質量に対する該酸触媒中の酸の質量の比をX(質量%)とし、該酸触媒中の水和物および/または水溶液として存在する水分の質量の比をY(質量%)とした場合に、
0<Y<1.81X−1.62
の関係を満足することが好ましい。なお、誤解がないように具体例を挙げて説明すれば、例えば、パラトルエンスルホン酸一水和物を例にとれば、原料の合計質量に対するパラトルエンスルホン酸の質量の比がX(質量%)であり、原料の合計質量に対する一水和物として存在する水分の質量の比がY(質量%)であるのであって、決して、酸触媒以外の酸成分(例えば、原料の(メタ)アクリル酸など)や水分(例えば、エステル化反応により生ずる生成水など)は、ここでいうXおよびYの対象物となりえない。
【0051】
この際、酸触媒の使用量が上記式の関係を満足しない場合には、以下のような問題が生じる。すなわち、Y=0の場合には、酸触媒中に水和物および/または水溶液として存在する水分が存在しないこととなり、エステル化反応時に反応系内で形成されるゲルの量が増加し、エステル化反応により得られるエステル化物を用いて合成されるセメント分散剤等の用途性能、例えば、セメント分散能等が低下する。また、Y≧1.81X−1.62となる場合には、エステル化反応時に反応系内で形成されるゲルの量が増加し、エステル化反応により得られるエステル化物を用いて合成されるセメント分散剤等の用途性能、例えば、セメント分散能等が低下する。
【0052】
上記態様において、酸触媒の反応系への添加のし方は、一括、連続、または順次行ってもよいが、作業性の面からは、反応槽に、原料と共に一括で仕込むのが好ましい。
【0053】
また、本発明によるエステル化反応は、必要に応じて、重合禁止剤の存在下で行われてもよい。この際、重合禁止剤を用いることにより、原料としてのアルコール、(メタ)アクリル酸またはこれらの混合物の重合を防止することできるため、本発明によるエステル化反応を重合禁止剤の存在下で反応を行うことが望ましい。本発明において使用できる重合禁止剤としては、公知の重合禁止剤が使用できるものであり、特に制限されるものではなく、例えば、フェノチアジン、トリ−p−ニトロフェニルメチル、ジ−p−フルオロフェニルアミン、ジフェニルピクリルヒドラジル、N−(3−N−オキシアニリノ−1,3−ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ベンゾキノン、ハイドロキノン、メトキノン、ブチルカテコール、ニトロソベンゼン、ピクリン酸、ジチオベンゾイルジスルフィド、クペロン、塩化銅(II)などが挙げられる。これらのうち、脱水溶剤や生成水の溶解性の理由から、フェノチアジン、ハイドロキノン及びメトキノンが好ましく使用される。これらの重合禁止剤は、単独で使用してもよいほか、2種以上を混合して使用することもできる。
【0054】
また、上記のように酸触媒を水和物および/または水溶液の形で用いる場合には、フェノチアジンが、反応系内に存在する水溶液中のゲル形成物質に対しても有効に機能することができるほか、後述するように、エステル化反応終了後に、脱水溶剤を水との共沸により留去する際にも、弱いながらも重合活性のあるハイドロキノンやメトキノン等の水溶性重合禁止剤を用いなくても極めて有効に重合禁止能を発揮することができ、高分子量体の形成を効果的におさえることができる点から極めて有用である。
【0055】
本発明の方法によると、重合禁止剤を使用する際の重合禁止剤の使用量は、原料としてのアルコール及び(メタ)アクリル酸の合計仕込量に対して、0.001〜1質量%、好ましくは0.001〜0.1質量%の範囲内である。重合禁止剤の使用量が0.001質量%未満であると、重合禁止能の発現が十分でなく、原料としてのアルコール、(メタ)アクリル酸、生成物としてのエステル化物またはこれらの混合物の重合を有効に防止しにくくなるため好ましくなく、重合禁止剤の使用量が1質量%を超えると、生成物であるエステル化物中に残留する重合禁止剤量が増えるため、品質及び性能面から好ましくなく、また、過剰に添加することに見合うさらなる効果も得られず、経済的な観点からも好ましくない。
【0056】
さらに、本発明によるエステル化反応においては、脱水溶剤中で、エステル化反応を行うことを必須とする。本明細書中、脱水溶剤とは、反応生成水と共沸する溶剤として規定されるものである。すなわち、脱水溶剤を用いることにより、エステル化反応により生成する反応生成水を効率よく共沸させることができるものである。脱水溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ジオキサン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、クロロベンゼン、イソプロピルエーテルなどが挙げられ、これらを単独で、あるいは2種以上のものを混合溶剤として使用することができる。これらのうち水との共沸温度が150℃以下、より好ましくは60〜90℃の範囲であるものが好ましく、具体的には、シクロヘキサン、トルエン、ジオキサン、ベンゼン、イソプロピルエーテル、ヘキサン、ヘプタンなどが挙げられる。水との共沸温度が150℃を超える場合には、取り扱いの面(反応時の反応槽内の温度管理および共沸物の凝縮液化処理などの制御等を含む)から好ましくない。
【0057】
上記脱水溶剤は、反応系外に反応生成水と共沸させ、反応生成水を凝縮液化して分離除去しながら還流させることが望ましく、この際、脱水溶剤の使用量は、原料としてのアルコール及び(メタ)アクリル酸の合計仕込量に対して、1〜100質量%、好ましくは2〜50質量%の範囲内である。脱水溶剤の使用量が1質量%未満であると、エステル化反応中に生成する反応生成水を共沸により反応系外に十分除去できず、エステル化の平衡反応が進行しにくくなるため、好ましくなく、脱水溶剤の使用量が100質量%を超えると、過剰に添加することに見合う効果が得られず、また、反応温度を一定に維持するために多くの熱量が必要となり、経済的な観点から好ましくない。
【0058】
また、本発明によるエステル化反応において、脱水溶剤を使用する際には、エステル化反応中の反応温度を30〜130℃、より望ましくは60〜130℃とし、かつエステル化反応中の溶剤循環速度を0.5サイクル以上/時間、より好ましくは1〜100サイクル以上/時間とすることが望ましい。これにより、反応温度を不純物形成温度領域(130℃超の領域)まで高くして反応させる必要もなく、反応槽内で不純物が形成するのを抑えることができる。また、溶剤循環速度を速めることで、反応槽内に反応生成水を長期間滞留させることなく効率よく反応槽から共沸により留出でき、平衡反応がエステル化の方向に進むため、反応時間も短くできるものである。
【0059】
本明細書において、エステル化反応中の溶剤循環速度とは、次のように定義されるものをいう。すなわち、反応槽に仕込んだ脱水溶剤の全量(体積量)に対して、エステル化反応中に、反応槽内の脱水溶剤を反応槽から循環経路を通して再び反応槽に戻し循環させることにより、反応槽に仕込んだ脱水溶剤の全量に相当する量(体積量)が循環されたときを1サイクルと規定し、エステル化反応中の溶剤循環速度は、単位時間(1時間)あたりの当該サイクル数で表されるものとし、その単位は「サイクル/時間」とする。したがって、例えば、5時間で、反応槽に仕込んだ脱水溶剤の全量に対して、これに相当する量の15倍の量が循環されたときには、溶剤循環速度は3サイクル/時間となる。同様に、2時間で、反応系に仕込んだ脱水溶剤の全量に対して、これに相当する量の半分(0.5倍)の量が循環されたときには、溶剤循環速度は0.25サイクル/時間となる。なお、ここで、反応系内の脱水溶剤を反応系から留出し凝縮液化して反応系に戻し循環させる際に循環されるもの(被循環対象物)には、脱水溶剤のほか、その実施態様によっては、少量ではあるが、留出される低沸点原料(主に、(メタ)アクリル酸原料)、およびこの留出原料がゲルを形成して有害な不純物となるのを防止するために添加されるゲル化防止剤(重合禁止剤または該重合禁止剤を含む溶剤等)などの各種添加剤が含まれることもあり得る。そのため、ゲル化防止剤等の添加剤を使用する場合には、これにより溶剤循環速度がエステル化反応が進むにつれて変動することを考慮して設定条件を適当に調整するのが望ましい。
【0060】
また、上記反応温度および溶剤循環速度は、反応槽の加熱方法(手段)およびその装置を用いて反応槽に加えられる温度(熱量)及び反応槽に仕込む原料に対する脱水溶剤の使用量などによって所望の範囲に調整することができる。なお、反応温度は、反応槽内での最大(MAX)温度である。すなわち、加熱手段として用いられる装置(例えば、外部ジャケット、内部ヒータなど)の態様により、反応槽内の温度(反応温度)は、その位置によりバラツクほか、エステル化反応が進むにつれても上がり、時間の経過によっても変動するが、反応温度が高くなることで、不純物の形成を招くため、位置的及び時間的な条件に関わらず、如何なる位置及び時間であれ、上記に規定する上限温度を超えないことが必要であることから、ここでは、最大温度をもって規定することにしたものである。
【0061】
本発明において、エステル化反応は、回分または連続いずれによっても行ないうるが、回分式で行うことが好ましい。
【0062】
また、エステル化反応における反応条件は、エステル化反応が円滑に進行する条件であればよく、反応温度は30〜140℃、好ましくは60〜130℃、さらに好ましくは90〜125℃、特に好ましくは100〜120℃である。なお、上記反応温度は、本発明の一般的なエステル化反応の条件であり、脱水溶剤を反応系外に反応生成水と共沸させ、反応生成水を凝縮液化して分離除去しながら還流させる場合は、その1例であり、これらの範囲内に含まれるが、完全に一致するものではない。反応温度が30℃未満では、エステル化反応が進行しづらく、反応生成水の脱水(留出)にも時間がかかり、また、脱水溶剤の還流が遅くて脱水に時間がかかり、ゆえに、エステル化反応に要する時間が長くなり好ましくない。逆に、反応温度が140℃を超えると、アルコール原料の切断によって過大量のジエステルが生成してセメント分散性能のほか、各種用途における分散性能や増粘特性が低下する。また、原料の重合が生じたり、留出物への原料の混入量が増すなど、生成物であるエステル化物の性能及び品質の劣化が生じるなど、やはり好ましくない。また、反応時間は、後述するようにエステル化率が少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%に達するまでであるが、通常、1〜50時間、好ましくは3〜40時間である。さらに、本発明によるエステル化反応は、常圧下または減圧下いずれで行ってもよいが、設備面から、常圧下で行うことが望ましい。
【0063】
本発明によるエステル化反応におけるエステル化率は、70%以上、より好ましくは70〜99%、最も好ましくは80〜98%であることが好ましい。エステル化率が70%未満であると、製造されるエステル化物の収率が不十分であり、これを原料として得られるセメント分散剤等の用途性能、例えば、セメント分散能等が低下する。なお、本明細書において使用される「エステル化率」は、下記に示すエステル化測定条件で、エステル化の出発物質であるアルコールの減少量を測定することにより、下記式によって算出される値として定義されるものである。
【0064】
【数2】
Figure 0004001518
【0065】
Figure 0004001518
なお、上記の式によりエステル化率を決定しているため、エステル化率が100%を越えることはない。従って、本発明においては、エステル化率が規定以上に達した時点でエステル化反応が終了したものとする。
【0066】
以上、本発明によるエステル化工程について説明してきたが、本発明者らは、エステル化反応時に生成する反応生成水を留出させ、この反応生成水を含む留出物に対してゲル化防止剤を作用させる(本明細書では、第一の実施態様とも称する)ことが望ましいことを見出した。これにより、反応系内の反応生成水を反応系外に留出してから凝縮液化し分離除去する間に、反応生成水とともに反応系外に留出されてくる低沸点の原料である(メタ)アクリル酸等により生ずるゲル状物(ポリ(メタ)アクリル酸等)の発生そのものを効果的に防止する、すなわち、製品の品質劣化や装置類の閉塞等の原因になるゲル状物を形成するのを防止することができる。
【0067】
第一の実施態様において、エステル化反応時に生成する反応生成水などの留出物に対して作用させるために用いられるゲル化防止剤としては、反応生成水と共に留出されてくる低沸点の原料の留出段階、特に凝縮段階での重合反応を抑えられ、反応槽からコンデンサへの立ち上がり管のフランジ部などで発生するゲルの形成、即ち、コンデンサのチューブや反応槽とコンデンサとの間の連結管のつまりを抑制できるものであれば特に制限されるものではなく、反応系内で同様の目的を持って使用される重合禁止剤と何ら変わるものではなく、上記に説明したと同様に使用でき、また、従来既知の各種ゲル化防止剤の中から適宜選択して使用することができる。該ゲル化防止剤としては、具体的には、例えば、フェノチアジン、トリ−p−ニトロフェニルメチル、ジ−p−フルオロフェニルアミン、ジフェニルピクリルヒドラジル、N−(3−N−オキシアニリノ−1,3−ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ベンゾキノン、ハイドロキノン、メトキノン、ブチルカテコール、ニトロソベンゼン、ピクリン酸、ジチオベンゾイルジスルフィド、クペロン、塩化銅(II)などが挙げられる。これらのうち、脱水溶剤や生成水の溶解性の理由から、フェノチアジン、ハイドロキノン、メトキノンが好ましく使用される。これらのゲル化防止剤は、単独で使用してもよいほか、2種以上を混合して使用することもできる。
【0068】
上記ゲル化防止剤の添加量としては、エステル化反応条件、特に反応系に加える熱量や反応系内に仕込む脱水溶剤量等に応じて、低沸点原料の留出量に見合う量、すなわち、共沸物の留出開始時からエステル化反応終了まで逐次留出されてくる低沸点原料に対して常にゲルの形成を効果的に防止することができる量を適宜添加すればよく、原料であるアルコールおよび(メタ)アクリル酸の仕込み量に対して0.1〜1000質量ppm、好ましくは1〜500質量ppmの範囲で添加することで上記目的を達成することができる。原料の仕込み量に対して0.1質量ppm未満の場合には、ゲル状物が生成する場合があり、共沸物の留出開始時からエステル化反応終了まで逐次留出されてくる低沸点原料に対して、常に重合禁止能を有効に発現させる上で不十分な量と言える。一方、原料仕込み量に対して1000質量ppmを超える場合には、ゲル形成防止(重合禁止)能を有効に発現させるには十分過ぎる量であり、過剰な添加に見合う更なる効果の発現が見込めず不経済となる。なお、添加量の全量を一時に加えたのでは、共沸物の留出開始時からエステル化反応終了まで逐次留出されてくる低沸点原料に対してゲルの形成を有効に阻止することができにくいため、共沸物の留出に呼応するたかちで、共沸物の留出開始時からエステル化反応終了まで逐次(連続的に)一定量づつを添加し、最終的な添加量の総計が上記範囲となるように調整することが望ましい。
【0069】
上記ゲル化防止剤の作用のさせかた(作用形態や作用させる領域など)としては、反応系外に留出された低沸点原料(流体物)に対して有効に作用(接触)させることができるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、(a)凝縮液化させる前のガス状の留出物に対して作用させてもよいし、(b)凝集液化により液化した液状の留出物に対して作用させてもよい。また、上記(a)及び(b)の双方を活用してもよい。
【0070】
以下に、上記ゲル化防止剤の好適な作用方法を、作用形態ごとに例を挙げて説明するが、本発明では、これらを適当に組み合わせることができるほか、従来既知の他の作用方法を適宜利用することができる。なお、下記に例示する作用方法は、当業者が本発明を容易に理解することができるように代表的なものを例示的に示したものであり、本発明がこれらに限定されるものではないことはいうまでもない。
【0071】
▲1▼ゲル化防止剤を液化(溶解)した状態で作用させる方法;適当な溶剤、好ましくは反応系に仕込む脱水溶剤と同種の溶剤にゲル化防止剤を溶かして液状にしたものを、反応生成水を含む留出物(好ましくは溶剤−水共沸物)を凝縮させる領域、具体的には、反応生成水を含む留出物の凝縮液化が行われるコンデンサ内部の凝縮部に、好ましくはコンデンサの上部(とりわけ塔頂部近傍)からその内部に該留出物と並流接触するように滴下ないし噴霧するものである。また、コンデンサのタイプ等によっては、ゲル化防止剤を含む溶液をコンデンサ内部に仕込んでおいて、これにガス状の留出物を吹き込むあるいは液化した留出物を流し込むようにして接触(相溶ないし分散)させるようにしてもよい。さらに上記態様では、ゲル化防止剤の作用部位をコンデンサ内部の凝縮部としたが、上記部位に加えて、反応槽とベーパーの立ち上がりラインとの間の接合部(フランジ部)やベーパーラインとコンデンサ塔頂部との間のフランジ部等のフランジ部、反応槽等に設置された温度計やのぞき窓に設けられた突起部など、ゲルが形成されやすい部位であってもよい。これらのうち、コンデンサ内部の凝縮部(とりわけ塔頂部近傍)、反応槽とベーパーの立ち上がりラインとの間のフランジ部やベーパーラインとコンデンサ塔頂部との間のフランジ部が好ましいゲル化防止剤の作用部位である。また、上記作用部位は、一箇所でなくてもよく、必要に応じて、複数箇所を同時に設けてもよい。
【0072】
▲2▼ゲル化防止剤を固化した状態で作用させる方法;粉末状のゲル化防止剤を、反応生成水を含む留出物を凝縮させる領域、具体的には、反応生成水を含む留出物の凝縮液化が行われるコンデンサ内部の凝縮部に、好ましくはコンデンサの上部(とりわけ塔頂部近傍)からコンデンサ内部に該留出物と並流接触するように投下ないし散布して降らせるものである。また、コンデンサのタイプなどによっては、一定粒度のゲル化防止剤を予めコンデンサ内部に積載ないし充填などして仕込んでおいて接触させるようにしてもよい。さらに上記態様では、ゲル化防止剤の作用部位をコンデンサ内部の凝縮部としたが、上記部位に加えて、反応槽とベーパーの立ち上がりラインとの間の接合部(フランジ部)やベーパーラインとコンデンサ塔頂部との間のフランジ部等のフランジ部、反応槽等に設置された温度計やのぞき窓に設けられた突起部など、ゲルが形成されやすい部位であってもよい。これらのうち、コンデンサ内部の凝縮部(とりわけ塔頂部近傍)、反応槽とベーパーの立ち上がりラインとの間のフランジ部やベーパーラインとコンデンサ塔頂部との間のフランジ部が好ましいゲル化防止剤の作用部位である。また、上記作用部位は、一箇所でなくてもよく、必要に応じて、複数箇所を同時に設けてもよい。
【0073】
▲3▼ゲル化防止剤を気化した状態で作用させる方法;ゲル化防止剤を気化(昇華したものを含む)させて、ガス状の反応生成水を含む留出物(低沸点原料を含む)を凝縮液化させる前に、反応系(反応器)とコンデンサとを連通する配管経路内に、例えば、コンデンサ内部の凝縮部(とりわけ塔頂部近傍)、反応槽とベーパーの立ち上がりラインとの間の接合部(フランジ部)やベーパーラインとコンデンサ塔頂部との間のフランジ部等のフランジ部、反応槽等に設置された温度計やのぞき窓に設けられた突起部などのゲルが形成されやすい部位に、好ましくはコンデンサ内部の凝縮部(とりわけ塔頂部近傍)、反応槽とベーパーの立ち上がりラインとの間のフランジ部やベーパーラインとコンデンサ塔頂部との間のフランジ部に、供給して混合させるものである。
【0074】
なお、本発明において、反応槽とベーパーの立ち上がりラインとの間のフランジ部におけるゲルの形成を抑制することを目的とする場合には、ゲル化防止剤を含ませずに脱水溶剤のみを上記フランジ部に供給することにより上記目的を達成してもよい。なお、上記場合において、脱水溶剤の具体例は、前記脱水溶剤と同様である。上記態様において、エステル化反応中に使用する場合には、同種の脱水溶剤を使用しても若しくは異なる種類の脱水溶剤をフランジ部に供給しても、または以下に詳述するが、凝縮液(またはその一部)を循環させて使用してもよい。また、脱水溶剤の不存在下でエステル化反応を行う際には、別途、脱水溶剤供給機構を好ましくはフランジ部付近に設けて、脱水溶剤をフランジ部供給すればよい。
【0075】
また、上記▲1▼〜▲3▼の中でも以下に説明する理由から、上記▲1▼を採用するのがよく、なかでも溶剤に溶解した状態で作用させるのがよいと言える。すなわち、反応生成水を反応系外に留出する場合に、取り扱いの面からはより低い温度で留出できるのが望ましい。そのため、反応生成水と共沸する脱水溶剤を反応系に仕込んでおき、反応時に脱水溶剤−反応生成水の共沸物(以下、単に溶剤−水共沸物ともいう)のかたちで留出させる方法が一般的である。このことから、低沸点の原料を含有する溶剤−水共沸物に素早く作用する(すなわち、低沸点の原料を含有する溶剤−水共沸物が凝縮液化した際に、この液化物と速やかに接触し、ゲル化する低沸点の原料が含有されている脱水溶剤に対して相溶ないし分散する)ことができるように、重合禁止剤を適当な溶剤、特に脱水溶剤と同種の溶剤に溶解したものを添加するのが望ましい。
【0076】
また、上記▲1▼の液化、ここでは溶解した状態でゲル化防止剤を作用させる場合に、上記ゲル化防止剤を溶解することのできる溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、n−ヘキサン、ヘプタン等が挙げられるが、好ましくは上述したように、反応系に仕込まれる脱水溶剤と同種のものを用いるのがよい。溶剤を還流して戻す際に、異なる溶剤を用いた場合には、これらを別途回収するか、あるいは還流して戻す場合には、混合溶剤の持つ熱伝達係数が、仕込み溶剤の熱伝達係数となる場合、反応系に加える熱量等の調整を行い、反応生成水の留出量(留出速度)が大きく変動しないようにする必要があるなど、反応系の制御管理が複雑化することがあるため、仕込み溶剤と同種のものを用いるのがよいと言える。
【0077】
さらに、上記ゲル化防止剤を溶剤(好ましくは脱水溶剤)に溶解して作用させる場合、ゲル化防止剤は、ゲル状物の発生を抑制することができるように、コンデンサ内を通過する低沸点原料(ガスないし液化物)に対して、常にゲル化防止剤が存在し、有効に機能するように供給されればよく、ゲル化防止剤と溶剤との混合比率としては、特に制限されるものではないが、ゲル化防止剤を、溶剤100質量部に対して、通常、0.001〜10質量部、好ましくは0.01〜5質量部の範囲で添加するような比率である。混合比率が、溶剤100質量部に対してゲル化防止剤が0.001質量部未満の場合には、使用するゲル化防止剤の添加量が上記に規定するように仕込みの原料に対して一定量であるため、結果的に使用する溶剤の量(添加される全量)が大きくなり、最初に仕込んだ脱水溶剤に対して逐次環流されることで溶剤量が増大していくため、反応系に加える熱量等の調整を行い、反応生成水の留出量(留出速度)が大きく変動しないようにする必要があるなど、反応系の制御管理が複雑化する必要が生じ、また、脱水溶剤と異なる溶剤を用い、これを分離回収する場合には、その回収コストが増大製造コストがかさむことになる。一方、混合比率が、溶剤100質量部に対してゲル化防止剤が10質量部を超える場合には、逆に使用する溶剤の量(添加される全量)が少なくなるため、単位時間当たりの添加量が制限され、低沸点原料との接触頻度が相対的に低下し、未接触のまま液状化しゲル状物を形成するのを効果的に抑制するのが困難になる。そのため、単位時間当たりに必要な添加量を確保するには、仕込みの原料に対して上記に規定する以上の大量のゲル化防止剤が必要になり、製造コストが上昇する。
【0078】
また、本発明において、エステル化反応は脱水溶剤中で行われるため、上記ゲル化防止剤の作用のさせかたとして、エステル化反応時に生成する反応生成水を脱水溶剤と共に留出させ、該反応生成水を含む留出物を凝縮液化し、該凝縮液化した凝縮液から反応生成水を分離除去し、該反応生成水を分離除去した後の脱水溶剤を含有する凝縮残液を反応槽に戻しながらエステル化反応を行う際に、該凝縮残液の一部とゲル化防止剤とを含有してなるゲル化防止剤溶液を留出物に作用させることができる(この態様を、以下、「第二の実施態様」とも称する)。これにより反応槽内に増える凝縮残液の量を極力抑え、かつ留出物に対して(特に、留出物に対して該留出物が凝縮液化するコンデンサの壁面、とりわけ塔頂部の壁面を十分に濡らすことができるだけの)十分な量のゲル化防止剤溶液を常に供給する(コンデンサの塔頂部から降らせる)ことができる。そのため、反応槽内の反応生成水を反応槽から留出してから凝縮液化し分離除去する間に、反応生成水と共に留出されてくる低沸点の原料によるゲル状物の発生を、常に効果的に防止することができ、高品質のエスル化物を効率よく低コストで製造することができるものである。
【0079】
なお、上記第二の実施態様においては、留出物は、通常、エステル化反応により生成した反応生成水を含むほか、該反応生成水を反応槽から留出する際に一緒に留出される原料、特に(メタ)アクリル酸、さらに必要に応じて反応生成水と共沸させる目的で反応槽に加えられる脱水溶剤を含むものである。
【0080】
また、いうまでもないことであるが、本発明において、本発明の必須の構成要件である、エステル化反応終了後の脱水溶剤留去工程中に、該脱水溶剤を含む留出物に対してゲル化防止剤を作用させる要件は、上記第二の実施態様、即ち、エステル化反応時に生成する反応生成水を脱水溶剤と共に留出させ、この反応生成水を含む留出物を凝縮液化し、この凝縮液から反応生成水を分離除去し、反応生成水を分離除去した後の脱水溶剤を含有する凝縮残液を反応槽に戻しながらエステル化反応を行う際に、この凝縮残液の一部とゲル化防止剤とを含有してなるゲル化防止剤溶液を留出物に作用させる態様および/または前記第一の実施態様、即ち、エステル化反応時に生成する反応生成水を脱水溶剤と共に留出させた留出物にゲル化防止剤を作用させる態様を含むものであってもよい。
【0081】
以下、第二の実施態様について説明する。
【0082】
第二の実施態様に用いられるゲル化防止剤溶液は、留出物に作用させる溶液、より詳しくは留出物中の低沸点の原料に対してゲル化防止を目的で作用させる溶液であって、凝縮液の一部とゲル化防止剤とを含むものであるが、この際、ゲル化防止剤はそのままの形態で用いてもあるいは溶液の形態で用いてもよいが、より好ましくは凝縮残液の一部と溶液形態のゲル化防止剤とを含むものである。
【0083】
本明細書において、「凝縮液」ということばは、コンデンサの出口から出てきたものを意味する。また、第二の実施態様によると、ゲル化防止剤溶液をエステル化反応時に生成する反応生成水などの留出物に対して作用させてもよいため、このような場合には、ゲル化防止剤溶液が凝縮液に含まれる。さらにその後に水分離器で凝縮残液と分離水に分離されるため、凝縮残液及び分離水双方とも、凝縮液の定義に含まれ、これらは相互独立的に単独で使用することもできる。また、本明細書において、「凝縮液の一部」とは、凝縮液をただ単に部分的に分けたもの以外に、該凝縮液を分離して得られる凝縮残液および凝縮残液の一部も含まれる。
【0084】
また、「凝縮残液」とは、水分離器で分けた溶剤側の成分をいい、「分離水」とは、水分離手段である水分離器で分けた水側の成分をいう。溶剤側の成分としては、ゲル化防止剤溶液のほか、必要に応じて使用される脱水溶剤等が含まれている。水側の成分としては、反応生成水や原料等がある。なお、上記コンデンサおよび水分離器は本発明のエステル化物の製造方法において、次のように使用されるものである。すなわち、本発明のエステル化物の製造方法では、エステル化反応時に生成する反応生成水を反応槽から留去する必要があるが、留出物中には上記したように反応生成水以外の成分も含まれるため、直接大気中に放出することは環境汚染等の問題からできないため、かかる反応生成水を反応槽から留出した後に、適当に処理したり再利用したりできるようにする必要がある。そこで、反応槽から留出されてなるものをコンデンサ(凝縮器)に送り、凝縮液化するのに使われる。さらにコンデンサの出口から出てきたものを、水分離器に送り、その性質の違いを利用して2層に分離し、一方の層の水側の成分からなる分離水と、もう一方の層の溶剤側の成分からなる凝縮残液とに分けるのに使われる。
【0085】
また、ゲル化防止剤溶液には、上記凝縮液の一部のほか、以下に説明するゲル化防止剤(溶液の形態を含む;以下、同様)、さらに他の添加剤、例えば、反応槽内への補充目的で適宜追加する酸触媒などが含有されていてもよい。
【0086】
上述したように、ゲル化防止剤は、適当な溶剤、好ましくは脱水溶剤と同種の溶剤に溶解(ないし混合、例えば、過飽和状態で一部のゲル化防止剤が溶解せずに含まれている場合、2種以上のゲル化防止剤を用いた場合に、その一部のゲル化防止剤が溶剤に溶解せずに含まれている場合、さらにはゲル化防止剤が混合されている場合なども含む)されていることが好ましい。
【0087】
本発明において使用されるゲル化防止剤としては、反応生成水等と共に留出されてくる低沸点の原料が、凝縮される段階で起こる重合反応を抑えることができるものであれば特に制限されるものではなく、従来既知の各種ゲル化防止剤の中から適宜選択して利用することができ、その具体例や好ましい例については、上記ゲル化防止剤に関するものと同様である。
【0088】
上記ゲル化防止剤の使用量は、留出物の留出開始時からエステル化反応終了まで逐次留出されてくる低沸点原料に対して常にゲルの形成を効果的に防止することができる量(留出物の留出開始時からエステル化反応終了までの積算量)であることが必要である。さらに、エステル化反応に脱水溶剤を使用し、該脱水溶剤を留出し還流させる場合には、該ゲル化防止剤は、留出物に対して重合防止目的を達成した後、反応生成水を分離除去後の凝縮残液側に溶解した状態で反応槽に戻され、反応槽内に漸次蓄積される。その結果、反応により得られたエステル化物を原料として重合を行いセメント分散剤などの各種製品を製造する際に重合し難くする。よって、ゲル化防止剤の使用量は極力抑えることが望ましい。以上の観点から、該ゲル化防止剤の使用量は、原料であるアルコールおよび(メタ)アクリル酸の全使用量に対して、0.1〜1000質量ppm、好ましくは1〜500質量ppmの範囲である。ゲル化防止剤の使用量が、原料の全使用量に対して0.1質量ppm未満の場合には、反応生成水等を含む留出物の留出開始時からエステル化反応終了まで逐次留出されてくる低沸点原料に対して、常に重合禁止能を有効に発現させる上で不十分な量であるため、ゲル状物が生成する場合がある。一方、原料の全使用量に対して1000質量ppmを超える場合には、重合禁止能を有効に発現させるには十分過ぎる量であり、過剰な添加に見合う更なる効果の発現が見込めず不経済となるほか、得られたエステル化物を原料として重合を行いセメント分散剤などの各種製品を製造する際に重合が難しくなる。なお、ゲル化防止剤の使用量の全量を一時に加えたのでは、反応生成水を含む留出物の留出開始時からエステル化反応終了まで逐次留出されてくる低沸点原料に対してゲル状物の形成を有効に阻止することができにくいため、ゲル化防止剤の使用量が上記に規定する範囲内で連続的に加えるのが望ましい。この際、逐次留出される低沸点原料に対して、ゲル化防止剤溶液中のゲル化防止剤濃度が常に下記に規定する範囲となるように調整し連続的に加えるのがより望ましい。
【0089】
ゲル化防止剤を溶液の形態で使用する際に用いることのできる溶剤としては、特に制限されるものではなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、n−ヘキサン、ヘプタン等が挙げられる。また、エステル化反応に脱水溶剤を使用し、該脱水溶剤を留出し還流させる場合には、ゲル化防止剤溶液に用いた溶剤成分も凝縮残液側に含有されて反応槽に戻されるため、エステル化反応槽内で脱水溶剤として有効に作用し得るものであることが望ましい。特に、反応槽内に仕込んである脱水溶剤と異なる溶剤を用いた場合には、反応槽内の該溶剤量(濃度)の漸増により、該溶剤を含む脱水溶剤と反応生成水との共沸点(およびこれに伴う留出速度)が経時的に変動するため反応槽内部に加える熱量等の制御管理、さらには原材料の点数の増加に伴い、設備が増加し、安全・品質管理や在庫管理などが複雑化ないし煩雑化する等の点から、反応槽内に仕込んである脱水溶剤と同種の溶剤がより好ましい。
【0090】
ここでの溶剤の主な使用目的は、ゲル化防止剤の溶液化にあり、凝縮液の一部との混合が容易になされるようにし、凝縮液の一部との混合に際し撹拌装置等(例えば、撹拌槽など)を設けなくともよいようにすることにある。そして、エステル化反応に脱水溶剤を使用し、該脱水溶剤を留出し還流させる場合に、反応槽内に戻される凝縮残液量の増加を極力抑えるには、ゲル化防止剤溶液に使用する凝縮液(好ましくは凝縮残液)の一部の混合比率が高い方がよいことから、ここでの溶剤使用量は極力抑える事が望ましい。かかる観点から、上記溶液中のゲル化防止剤濃度としては、該溶液全体に対して10質量ppm〜飽和濃度、好ましくは100質量ppm〜飽和濃度、より好ましくは200質量ppm〜飽和濃度、特に好ましくは200質量ppm〜飽和濃度の95%に相当する濃度(ただし、飽和濃度は、ゲル化防止剤および溶剤の種類、温度、圧力等により変動し一義的に決まるものではないため、具体的な数値は規定していない)である。飽和溶液を用いることにより、溶剤の使用量を極力少なくすることができる。さらに、コンデンサから降らせるゲル化防止剤濃度を一定にするためには温度により変化する飽和濃度より、該飽和濃度よりも少し低濃度の方が良いため、飽和濃度の95%に相当する濃度以下で用いるのが好ましい。上記ゲル化防止剤濃度が、該溶液全体に対して10質量ppm未満の場合には、ゲル化防止剤溶液に使用する凝縮液の一部の混合比率が低下し、エステル化反応に脱水溶剤を使用し、該脱水溶剤を留出し還流させる場合には、反応槽に戻される凝縮残液の量が増える。あるいは漸増する凝縮残液をエステル化反応終了時まで貯えておける大きな保存部や時間とともに凝縮残液の一部を系外に出すための装置・手段等が必要となる。さらに溶剤の使用量も増えコストアップになる。
【0091】
また、ゲル化防止剤溶液に用いられるゲル化防止剤および凝縮液の一部の流量(流速)に関しても、ゲル化防止剤溶液中のゲル化防止剤の濃度および反応装置(反応槽や配管、コンデンサ等)の大きさや留出物の量等により異なるため、一義的に規定することはできないが、ゲル化防止剤の量を減らして、これに代えて十分な量の凝縮液を用いることで、十分な量のゲル化防止剤溶液を留出物に作用させることができ、さらにエステル化反応に脱水溶剤を使用し、該脱水溶剤を留出し還流させる場合には、反応槽内の溶剤量の増加を極力抑えることができるように使用態様に応じて適宜決定(規定)すれば良い。コンデンサの直径(内径)1mに対するゲル化防止剤1分間あたりの流量は、0.01〜40リットル/分m、好ましくは0.1〜15リットル/分m、より好ましくは0.1〜5リットル/分mであり、また、コンデンサの直径(内径)1mに対する凝縮液の一部の1分間あたりの流量は、1〜1000リットル/分m、好ましくは5〜500リットル/分m、より好ましくは10〜200リットル/分mである。ゲル化防止剤の流量が0.01リットル/分m未満の場合には、溶液中のゲル化防止剤濃度が低下し、常に十分な重合禁止能力を発現させることが困難となる。一方、ゲル化防止剤の流量が30リットル/分mを超える場合には、新たに加えられる溶剤量が増加するため、ゲル化防止剤の量を減らして、これに代えて十分な量の凝縮液を用いるとする本発明の主旨の達成が困難となる。また、凝縮液の一部の流量が1リットル/分m未満の場合には、留出物に対して常に十分な量の凝縮液を供給することができず、ゲル状物の発生を招くおそれがあるため好ましくない。一方、凝縮液の一部の流量が1000リットル/分mを超える場合には、これ以上の高流量で供給する事に見合う更なる効果が得られず、こうした多量の凝縮液を高流量で供給するための装置(大型のポンプや大口径ないし耐圧配管など)を設ける必要があり、不経済である。
【0092】
このように使用態様に応じて、ゲル化防止剤の流量を決定(規定)し、凝縮液の一部、好ましくは凝縮残液の一部の流量を決定(規定)した上で、流量の組み合わせは規定した流量の範囲内の組み合わせであれば全て可能であるが、本発明の主旨を十分に発揮するには、ゲル化防止剤に用いられるゲル化防止剤溶液と凝縮液の一部との混合比率は、以下の組み合わせがよい。
【0093】
ゲル化防止剤1質量部に対して凝縮液の一部を0.5〜10000質量部、好ましくは1〜1000質量部、より好ましくは10〜1000質量部、特に好ましくは10〜100質量部の範囲である。ゲル化防止剤1質量部に対して凝縮液の一部が0.5質量部未満の場合には、本発明の上記主旨を十分に満足させることができず好ましくない。一方、ゲル化防止剤1質量部に対して凝縮液の一部が10000質量部を超える場合には、両者を安定して混合することが困難となるためである。なお、これらの混合比率は、一定としてもあるいは可変させてもよく、本発明の上記主旨を満足するように適宜混合比率を決定すればよい。
【0094】
本発明において、ゲル化防止剤溶液を作用させる方法としては、留出物、特に留出された低沸点原料に対して有効に作用させることができるものであれば、特に制限されるものではなく、従来既知の方法(手段)を適宜用いて行うことができる。好ましくはガス状の留出物を凝縮液化させる領域、具体的には、ガス状の留出物を凝縮液化する領域である熱交換器、冷却器あるいは凝縮器等(本明細書中では、これらを総称して単にコンデンサともいう)、特にガス状の留出物が凝縮液化し始めるコンデンサの塔頂部のガス入口部分において、有効にゲル化防止剤溶液が作用できるようにすることが望ましい。そのためには、ゲル化防止剤溶液が存在する領域はコンデンサ内には限られず、コンデンサの塔頂近傍、すなわち、コンデンサの塔頂ないしコンデンサ直前の留出経路内などにゲル化防止剤溶液を作用させればよく、そうすることでコンデンサの内壁を常に濡れた状態に保てることが望ましいと言える。具体例としては、▲1▼コンデンサの塔頂部の中央部に上向きに設置したノズル部よりコンデンサの塔頂部のガス入口部分の内壁(ここで、最初の凝縮液化が生じ、同時に低沸点原料のゲル化も生ずるためである)にゲル化防止剤溶液を噴霧したり、吹き出したり、吹き付けたり、吐出させたり、吹き上げたり、降らせたりすることでコンデンサの内壁を常に濡れた状態に保たせる方法、あるいは▲2▼コンデンサ直前の留出経路(後述する図2の配管503で形成された経路;オーバーヘッドライン)内にノズル部を設置し(図3参照)、ここでゲル化防止剤溶液を噴霧し(または吹き出し)オーバーヘッドラインの壁を伝わせてコンデンサ内に到達させることでコンデンサの内壁を常に濡れた状態に保たせる方法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに、エステル化反応に脱水溶剤を使用し、該脱水溶剤を留出し還流させる場合には、留出物が凝縮液化する際に、この液化物と速やかに接触し、ゲル化する低沸点の原料が含有されている脱水溶剤に対して相溶ないし分散することができるように、ゲル化防止剤は、ゲル化防止剤を脱水溶剤と同種の溶剤に溶解した形態で使用されるのが望ましい。
【0095】
また、凝縮液の一部をゲル化防止剤溶液に用いるべく還流させる方法としても、特に制限されるものではなく、従来既知の方法(手段)を適宜用いて行うことができる。具体例を以下に示す。
【0096】
(1)エステル化反応に脱水溶剤を使用し、該脱水溶剤を留出し還流させる場合には、凝縮残液を反応槽に戻す際に凝縮残液の一部を抜き取って、上記ノズル部に直接的に供給し、該ノズル部でゲル化防止剤溶液とするか、あるいは上記ノズル部に供給する途中で、ゲル化防止剤と混合させてゲル化防止剤溶液とすることなどができる。具体例としては、後述する図2に示すように、凝縮残液を反応槽(好ましくは、反応槽とベーパーの立ち上がりラインとの間のフランジ部)に戻す経路上に必要に応じて凝縮残液を一時的に貯めておく保存部(タンクなど)を設け、該保存部から該凝縮残液の一部を抜き取り、ゲル化防止剤の供給経路に抜き取った凝縮残液の一部を合流させるだけで簡単に混合されたゲル化防止剤溶液とすることができる。そのため、わざわざ両者を混合撹拌するための装置は不要である。ここで、保存部を設けるメリットとしては、ゲル化防止剤溶液用の凝縮残液の抜き取り量を一定量ないし徐々に増やす際にもその調整が便利であり、かつ反応槽に戻す凝縮残液の量を反応開始から終了までの間、常に一定量ないしは極力増加量を抑えながら還流させる事が容易に調整できる点にある。なお、保存タンクのような保存部を新たに設けなくともは、例えば、水分離器では、コンデンサで凝縮液化された凝縮液が一方の室に貯められ、水相と溶剤相の2層に分離され、下層部の水相はこの室の下部より配管を通じて逐次抜かれ、上層部の溶剤相は仕切板をオーバーフローして隣のもう一方の室に貯められるが、この溶剤相のみが貯められる室を大きくすれば、水分離器自体が保存部を兼ね備えることもできる(図4参照)。
【0097】
ただし、保存部は必ずしも必要ではない。従来のゲル化防止剤単独使用の時と比較した場合、例えば、▲1▼凝縮残液を含むゲル化防止剤溶液を使用しているため、ゲル化防止剤の量は従来と同程度あるいは少ない量で大きなゲル化防止効果を発揮できるようになった。そのため、反応槽内での溶剤量の増加も従来と同程度あるいは少ない量に抑えられている。特にエステル化時間が短い場合、反応温度の低下は少なく反応終了時間への影響も少なくてすむため、保存部を設けない方が経済的にも有利となるからである。また、▲2▼反応槽内に戻される溶剤量が増加し多くなってきた場合、一部反応槽へ溶剤を戻さずに系外に抜き取ってもよい。この場合にも、系外に抜き取られる溶剤量は、大きくなくその処理コストも少ないため、わざわざ保存部を設けるよりも、経済的に有利となり、製品の性能を左右することもないからである。このように、性能面への影響、さらに費用対効果を勘案して、保存部を設けるか否か適宜判断する事が肝要であると言える。
【0098】
(2)脱水溶剤を用いずにエステル化反応を行う場合には、本来的に留出物は反応生成水(僅かに低沸点原料を含む)だけであり、反応槽に留出物の一部を還流させることはない。従って、留出物にゲル化防止剤溶液を作用させた後の凝縮液から反応生成水(低沸点原料を含む)を分離除去した凝縮残液の全量若しくはその一部を抜き取って、上記ノズル部に直接的に供給して、該ノズル部でゲル化防止剤溶液とするか、あるいは上記ノズル部に供給する途中でゲル化防止剤と混合させてゲル化防止剤溶液とすることなどができる。なお、凝縮残液の一部を利用する場合、あとの凝縮残液は系外に抜き取れるなどすればよい。
【0099】
なお、上記に説明した作用させる方法および還流させる方法は、代表的なものを例示したに過ぎず、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0100】
以上において、本発明によるエステル化工程について詳述したが、本発明によるエステル化反応を酸触媒の存在下でかつ脱水溶剤中で行う際には、上記エステル化反応が終了した後、以下に説明する酸触媒または酸触媒の全部と(メタ)アクリル酸の一部を中和する部分中和工程を行うのが望ましい。すなわち、本発明者らは、エステル化反応後に脱水溶剤を留去する工程で水を加えて共沸する場合、あるいはエステル化物を用いてさらに重合を行うために、エステル反応後に調整水を加えて生成されたエステル化物水溶液を作製する場合に、酸触媒による加水分解が生じ、エステル化物の品質及び性能の低下を招くほか、加水分解により生じたもの(以下、単に加水分解生成物ともいう)がエステル化物中に残留し、当該エステル化物を用いてセメント分散剤等の各種分散剤や増粘剤等に使用される重合体を合成する場合には、該加水分解生成物は、重合には関与しない不純物となり、重合率(ひいては生産性)が低下し、また重合体の品質や性能の劣化にもつながることから、かかる課題を解決するには、上記エステル化工程によるエステル化反応終了後、90℃以下で酸触媒をアルカリで中和することが望ましいことを見出したものである。これにより、エステル化反応後の処理過程で、加水分解生成物を生じることもなく、高純度で高品質のエステル化物を得ることができる。
【0101】
ここで、部分中和工程の好適な実施の形態につき、以下に説明する。
【0102】
本発明の部分中和工程では、エステル化反応終了後、90℃以下、好ましくは50〜0℃の範囲で酸触媒をアルカリで中和するものである。
【0103】
上記部分中和工程での中和温度(反応系の液温)が、90℃を超える場合には、添加されるアルカリが加水分解の触媒として作用し、加水分解生成物を多量に生成するようになるため好ましくない。さらに、50℃以下では、アルカリが加水分解の触媒として作用することはなく、加水分解生成物の発生を完全に抑えることができる。一方、0℃未満の場合には、エステル化反応液が粘稠になり、中和時の撹拌がしずらくなるほか、エステル化反応後に所定の温度まで降温するのに長時間を要するほか、室温よりも低い温度まで降温するには、新たに冷却手段(装置)を設ける必要があり、コストアップになるためあまり望ましくない。
【0104】
また、上記部分中和工程で使用することのできるアルカリ(中和剤)としては、特に制限されるものではなく、水酸化物M(OH)nの形式をとり、水に溶解し、塩基性を示す物質であればよく、この場合のMは、アルカリ金属、アルカリ土類金属やアンモニウム基をさす。さらに、アルカリ金属の炭酸塩や燐酸塩、アンモニア、アミン等もここでいうアルカリに含まれる。よって、アルカリとしては、具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、アミン等が挙げられるが、セメントに配合した場合に異臭が発生しないとの理由から、好ましくはアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、燐酸塩等である。また、本発明では、これらアルカリを1種若しくは2種以上を適当な比率で混合して使用してもよい。
【0105】
上記アルカリを用いて中和する酸は、酸触媒、好ましくは酸触媒の全部と(メタ)アクリル酸の一部である。ここで、中和される(メタ)アクリル酸は、エステル化反応に使用した(メタ)アクリル酸の10質量%以下、好ましくは0.01〜5質量%の範囲である。従って、アルカリ(中和剤)の添加量は、酸触媒1当量に対して1.0〜100当量、好ましくは1.0〜10当量、さらに好ましくは1.01〜2当量である。中和すべき酸が、酸触媒である理由は上述したように酸触媒が、エステル化反応後に添加される水と強く反応し、加水分解生成物を生じさせるため、酸触媒を不活性にする必要があるためである。なお、酸成分としては、酸触媒以外にも(メタ)アクリル酸が存在し得るが、酸触媒の方が酸強度が大きいので、酸触媒から中和されるため問題ない。従って、酸触媒を中和できれば所期の目的は達成できるが、実際に使用する酸触媒の種類の違い(=酸強度の違い)や工業的に大量に処理するような場合には、酸触媒の全量を中和するまでに、(メタ)アクリル酸の一部が中和されるおそれがあるため、こうした危険性(リスク)をなくす観点から、酸触媒の全量と(メタ)アクリル酸の一部を中和してもよい。ただし、中和される(メタ)アクリル酸が、エステル化反応に使用した(メタ)アクリル酸の10質量%を超える場合には、おそらく(メタ)アクリル酸塩の重合速度が(メタ)アクリル酸に比べて遅いために、得られたエステル化物を用いて重合する際の重合率が低下するため好ましくない。また、アルカリ(中和剤)の添加量は、酸触媒1当量に対して1.0当量未満の場合には、酸触媒を完全に中和できず、加水分解生成物を多量に生じるようになるため好ましくない。逆にアルカリ(中和剤)の添加量は、酸触媒1当量に対して100当量を超える場合にも、大量の(メタ)アクリル酸を中和され、やはり、(メタ)アクリル酸塩の重合速度が(メタ)アクリル酸に比べて遅いために、得られたエステル化物を用いて重合する際の重合率が低下するため好ましくない。
【0106】
なお、添加されるアルカリの形態としては、特に制限されるものではないが、アルカリ水溶液の形態とすることが、エステル化物の加水分解を防止する観点から好ましいといえる。
【0107】
特に、脱水溶剤中でエステル化反応を行うため、アルカリと共に多量の水を反応系に添加するのが、エステル化物の加水分解を防止するためには好適である。すなわち、多量の水が無い反応系では、アルカリが脱水溶剤に難溶であるために濃い状態で系内に浮遊し、この高濃度アルカリの浮遊は中和に消費されるまでの長持間にわたって消失せず、エステル化物の加水分解を引き起こす。該水の添加量は、アルカリの使用形態にもよるが、例えば、40〜60%のアルカリ水溶液を中和剤として添加する場合には、該アルカリ水溶液とは別に、該アルカリ水溶液の1質量部に対して通常5〜1000質量部、好ましくは10〜100質量部である。この場合に、水の添加量が、5質量部未満の場合には、上記理由でアルカリが反応系内で不均一になり、高濃度のアルカリがエステル化物の加水分解を引き起こし、1000質量部を超える場合には、生産性を確保するために中和槽が別途必要になるなどコスト高につながり好ましくない。
【0108】
次に、本発明の特徴部分である溶剤留去工程について以下に説明する。すなわち、本発明では、上記エステル化反応を脱水溶剤中で行うため、上記エステル化工程を行った後に、反応液から脱水溶剤を留去するものである。さらに上記エステル化反応を酸触媒の存在下で行う場合には、上記エステル化工程によりエステル化反応を行った後に、上記部分中和工程により酸触媒、さらには(メタ)アクリル酸の一部を中和し、次いで、反応液から脱水溶剤を留去するものである。
【0109】
溶剤留去工程の好適な実施の形態につき、以下に説明する。
【0110】
本発明の溶剤留去工程では、エステル化反応終了後(必要に応じて、部分中和処理を行い)、脱水溶剤を留去する際に、該脱水溶剤を含む留出物に対して重合禁止剤を作用させることを特徴とするものである。これにより、エステル化反応終了後、脱水溶剤を留去する際に、脱水溶剤を含む留出物中に混入された低沸点の原料である(メタ)アクリル酸等により生ずるゲル状物(ポリ(メタ)アクリル酸など)の発生そのものを効果的に防止することができ、高純度で高品質のエステル化物を得ることができるものである。なお、この際、留出物は、通常、脱水溶剤を含むほか、脱水溶剤を反応槽から留出する際に一緒に留出される原料、特に(メタ)アクリル酸を含むものである。
【0111】
本発明において、エステル化反応終了後、脱水溶剤を留出させ、該脱水溶剤を含む留出物に対して作用させるために用いられるゲル化防止剤としては、留出物に含まれる未反応の低沸点原料が、凝縮液化される段階で起こる重合反応を抑えることができるものであれば特に制限されるものではなく、従来既知の各種ゲル化防止剤の中から適宜選択して利用することができる。本発明において使用できるゲル化防止剤としては、具体的には、例えば、フェノチアジン、トリ−p−ニトロフェニルメチル、ジ−p−フルオロフェニルアミン、ジフェニルピクリルヒドラジル、N−(3−N−オキシアニリノ−1,3−ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ベンゾキノン、ハイドロキノン、メトキノン、ブチルカテコール、ニトロソベンゼン、ピクリン酸、ジチオベンゾイルジスルフィド、クペロン、塩化銅(II)などが挙げられる。脱水溶剤や水への溶解性の理由から、フェノチアジン、ハイドロキノン、メトキノンが好ましく使用される。これらの重合禁止剤は、単独で使用してもよいほか、2種以上を混合して使用することもできる。
【0112】
また、この際のゲル化防止剤の使用量(添加量)としては、留出温度(熱量)やエステル化反応に使用された脱水溶剤量(さらにはエステル化終了後に加えられた水分量)等に応じて、未反応の低沸点原料の留出量に見合う量、すなわち、脱水溶剤を含む留出物の留出開始時から脱水溶剤が十分に留去されるまで、逐次留出されてくる未反応の低沸点原料に対して常にゲル状物の形成を効果的に防止することができる量を作用させればよく、原料である式(1)のアルコールおよび(メタ)アクリル酸の使用量(仕込み量)に対して通常0.1〜1000質量ppm、好ましくは1〜500質量ppmの範囲である。原料の使用量に対して0.1質量ppm未満の場合には、ゲル状物が生成する場合があり、脱水溶剤を含む留出物の留出開始時から脱水溶剤が十分に留去されるまで逐次留出されてくる未反応の低沸点原料に対して、常に重合禁止能を有効に発現させる上で不十分な量と言える。一方、原料の使用量に対して1000質量ppmを超える場合には、重合禁止能を有効に発現させるには十分過ぎる量であり、過剰な添加に見合う更なる効果の発現が見込めず不経済となる。なお、使用するゲル化防止剤の全量を一時に加えたのでは、脱水溶剤を含む留出物の留出開始時から脱水溶剤が十分に留去されるまで逐次留出されてくる未反応の低沸点原料に対してゲルの形成を有効に阻止することができにくいため、留出物に含有される脱水溶剤量の経時的な変化に呼応するたかちで、脱水溶剤を含む留出物の留出開始時から脱水溶剤が十分に留去されるまで逐次(連続的に)必要な量を添加し、最終的な添加量の総計が上記範囲となるように調整することが望ましい。
【0113】
上記ゲル化防止剤の留出物への作用のさせかた(作用形態や作用させる領域など)としては、逐次留出されてくる未反応の低沸点原料(流体物)に対して有効に作用(接触)させる事ができるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、(a′)凝縮液化させる前のガス状の留出物に対して作用させてもよいし、(b′)凝集液化により液化した液状の留出物に対して作用させてもよい。また、上記(a′)及び(b′)の双方を活用しても良い。
【0114】
以下に、上記ゲル化防止剤の好適な作用のさせかたを、作用形態ごとに例を挙げて説明するが、本発明では、これらを適当に組み合わせる事ができるほか、従来既知の他の作用方法を適宜利用することができる。なお、下記に例示する作用のさせかたは、当業者が本発明を容易に理解することができるように代表的なものを例示的に示したものであり、本発明がこれらに限定されるものではないことはいうまでもない。
【0115】
(1′)ゲル化防止剤を液体に混合(溶解)した状態で作用させる方法;適当な液体(例えば、溶剤、好ましくは反応で使用した脱水溶剤と同種の溶剤ないし水)にゲル化防止剤を混合して液状にしたもの(単に分散されていても良いが、好ましくは溶解されているものが望ましい)を、脱水溶剤を含む留出物(好ましくは脱水溶剤と水との共沸による留出物)を凝縮させる領域、具体的には、脱水溶剤を含む留出物の凝縮液化が行われる凝縮液化用装置、例えば、コンデンサの内部に、好ましくはコンデンサ等の装置の上部(とりわけ塔頂部近傍)からその内部に該留出物と並流接触するように滴下ないし噴霧するものである。また、凝縮液化用装置の種類やタイプ等によっては、ゲル化防止剤を含む溶液をコンデンサ等の装置の内部に仕込んでおいて、これにガス状の留出物を吹き込むあるいは液化した留出物を流し込むようにして接触(相溶ないし分散)させるようにしてもよい。さらに上記態様では、ゲル化防止剤の作用部位をコンデンサ内部としたが、上記部位に加えて、反応槽とベーパーの立ち上がりラインとの間の接合部(フランジ部)やベーパーラインとコンデンサ塔頂部との間のフランジ部等のフランジ部、反応槽等に設置された温度計やのぞき窓に設けられた突起部など、ゲルが形成されやすい部位であってもよい。これらのうち、コンデンサ上部(とりわけ塔頂部近傍)、反応槽とベーパーの立ち上がりラインとの間のフランジ部やベーパーラインとコンデンサ塔頂部との間のフランジ部が好ましいゲル化防止剤の作用部位である。また、上記作用部位は、一箇所でなくてもよく、必要に応じて、複数箇所を同時に設けてもよい。
【0116】
(2′)ゲル化防止剤を固化した状態で作用させる方法;粉末状のゲル化防止剤を、脱水溶剤を含む留出物を凝縮液化させる領域、具体的には、脱水溶剤を含む留出物の凝縮液化が行われる凝縮液化用装置、例えば、コンデンサの内部に、好ましくはコンデンサ等の装置の上部(とりわけ塔頂部)からその内部に該留出物と並流接触するように投下ないし散布して降らせるものである。また、コンデンサ等の装置の種類やタイプ等によっては、所定の粒度のゲル化防止剤を予めコンデンサ等の装置の内部に積載ないし充填などして仕込んでおいて接触させるようにしてもよい。さらに上記態様においても、ゲル化防止剤の作用部位をコンデンサ内部としたが、上記部位に加えて、反応槽とベーパーの立ち上がりラインとの間の接合部(フランジ部)やベーパーラインとコンデンサ塔頂部との間のフランジ部等のフランジ部、反応槽等に設置された温度計やのぞき窓に設けられた突起部など、ゲルが形成されやすい部位であってもよい。これらのうち、コンデンサ上部(とりわけ塔頂部近傍)、反応槽とベーパーの立ち上がりラインとの間のフランジ部やベーパーラインとコンデンサ塔頂部との間のフランジ部が好ましいゲル化防止剤の作用部位である。また、上記作用部位は、一箇所でなくてもよく、必要に応じて、複数箇所を同時に設けてもよい。
【0117】
(3′)ゲル化防止剤を気化した状態で作用させる方法;ゲル化防止剤を気化(昇華したものを含む)させて、ガズ状の凝縮液化を含む留出物(未反応の低沸点原料を含む)を凝縮液化させる前に、脱水溶剤を留出させるのに用いる装置(例えば、エステル化反応に用いた反応装置をそのまま利用するのが望ましい)とコンデンサ等の凝縮液化用装置とを連通する配管経路内に供給して混合させるものである。
【0118】
なお、上記(1′)〜(3′)の中でも以下に説明する理由から、上記(1′)を採用するのがよいと言える。すなわち、経済的な観点および取り扱いの面からはより低い温度で脱水溶剤を留出し除去するのが望ましく、そのための手法としては、例えば、適量の水を用いて(特に、上記部分中和工程で薄い濃度のアルカリ水溶液で処理した場合には、大量の水が系内に既に存在しており、この水を用いてもよい)留出させる方法等が有効な手段として挙げられる。適量の水を用いて脱水溶剤と留出(共沸)させる場合には、水相側にも低沸点原料が移行し、水と共に留出されるほか、脱水溶剤の留去が漸次進につれて徐々に共沸されてくる留出物中の脱水溶剤の割合が低下し、最終的にはほとんど水(低沸点原料を含む)が留出されるようになることから、ゲル化防止剤を溶剤に溶かしても十分な効果が得られなくなることから、上記(1′)の方法により、ゲル化防止剤を水と混合して作用させることが望ましく、特に、水溶性のゲル化防止剤を使用し、該水溶性ゲル化防止剤を水に溶解して作用させることがより望ましいものである。さらには、未反応の低沸点の原料を含有する留出物に有効に作用する(すなわち、低沸点の原料を含有する留出物が凝縮(液化)した際に、この液化物と速やかに接触し、ゲル化する低沸点の原料が含有されている液化物(水及び有機溶剤)に対して相溶ないし分散する)ことができるように、上記(1′)の方法により、留出物の成分組成に応じてゲル化防止剤を水および/または溶剤に溶解したものを作用させることが望ましい。例えば、経時的な留出物の組成変化をセンサ等によりモニタしながら、作用させるゲル化防止剤組成(例えば、数種のゲル化防止剤を用い、溶剤、好ましくは脱水溶剤に溶解するゲル化防止剤組成と水に溶解するゲル化防止剤組成の混合比率)を変化させても良く、脱水溶剤に溶解するゲル化防止剤は脱水溶剤に溶解させたものと、水に溶解するゲル化防止剤は水に溶解させたものを別々の経路より、コンデンサ等の装置内に設けられたそれぞれの噴霧ノズルより滴下ないし噴霧するなどして作用させることが望ましいものである。また、上記(1′)を採用する理由としては、単位質量あたりのゲル化防止剤に対して使用される液体の量が多くなるほど、かかるゲル化防止剤を混合した液体を液化凝縮手段の1つ(=熱交換媒体)として作用し得るとする利点も挙げられる。
【0119】
ここで、水に溶解した状態でゲル化防止剤を作用させる場合に用いることのできる水溶性のゲル化防止剤としては、例えば、ハイドロキノン、メトキノン等が好ましく使用される。
【0120】
一方、溶剤に溶解した状態でゲル化防止剤を作用させる場合に、上記ゲル化防止剤を溶解することのできる溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、n−ヘキサン、ヘプタン等が挙げられるが、好ましくはエステル化反応で使用される脱水溶剤と同種のものを用いるのがよい。すなわち、異なる溶剤を用いた場合には、これら混合溶剤を別途回収し再利用するには、多段階で分離精製処理を行う必要があり、再利用に要するコストが高くなり、使い捨てにした方が低コストである。しかし、こうした使い捨てによる混合溶剤の廃棄処理(焼却処理あるいは環境基準値以下に希釈化して廃水処理するなど)にも、一定のコストを要し、かつ少なからず大気汚染ないし水質汚染等を招くことから、今日の良く言われる地球に優しい環境づくりにいわば逆行することになる。一方、脱水溶剤と同種のものを用いる場合には、簡単な処理により低コストでの再利用が可能となり、コストおよび環境面で優れていると言える。
【0121】
本発明において、ゲル化防止剤を液体(水および/または溶剤)に溶解して作用させる場合にも、ゲル状物の発生を抑制することができるように、コンデンサ等の装置内を通過する低沸点原料(ガスないし液化物)に対して、常にゲル化防止剤が存在し、有効に機能するように供給されればよく、ゲル化防止剤と液体との混合比率としては、特に制限されるものではないが、(ア)水に溶解して作用させる場合には、水100質量部に対して水溶性のゲル化防止剤を0.001〜10質量部、好ましくは0.01〜5質量部の範囲で、(イ)溶剤に溶解して作用させる場合には、溶剤100質量部に対してゲル化防止剤を0.001〜10質量部、好ましくは0.01〜5質量部の範囲で溶解する。水100質量部に対して水溶性のゲル化防止剤が0.001質量部未満、若しくは溶剤100質量部に対してゲル化防止剤が0.001質量部未満の場合には、留出物中の低沸点原料に対して適当な濃度のゲル化防止剤を効率よく効果的に接触させることが困難となり虞れがある。また、単位質量のゲル化防止剤に対する液体の量が多くなり、脱水溶剤と共に系外に留去した後の廃棄等の処理コストが増大するため、経済的に不利となる。一方、水100質量部に対して水溶性のゲル化防止剤が10質量部を超える、若しくは溶剤100質量部に対してゲル化防止剤が10質量部を超える場合には、使用する液体の量(脱水溶剤の留去中に添加される全量)が少なくなるため、単位時間、単位容積当たりの添加量が制限され、低沸点原料との接触頻度が相対的に低下し、未接触のまま液状化しゲル状物を形成するのを効果的に抑制するのが困難になる。そのため、単位時間、単位体積当たりに必要な添加量を確保するには、上記に規定する以上の大量のゲル化防止剤が必要になり、製造コストが上昇する。なお、水および溶剤にそれぞれ溶解したものを併用する場合には、その使用比率に応じて上記(ア)及び(イ)に規定する範囲にとらわれることなく、これらの総計が大体上記(ア)ないし(イ)に規定する範囲あたりになるように、適宜調整すればよい。
【0122】
また、溶剤留去工程で、系内のエステル化物および脱水溶剤を含有する溶液から脱水溶剤を留出してから、凝縮液化して系外に除去するまでの装置機構に関しては、この間にゲル化防止剤を作用させるための手段(装置機構)が設けられていれば何ら制限されるものではなく、従来既知の装置機構を適当に組み合わせることができる。例えば、上述したエステル化工程において、エステル化反応中に、反応系内の脱水溶剤を反応系から留出し凝縮液化して反応系に戻し循環させるのに使用した装置機構(単に溶剤循環装置という)の一部を利用してもよく、装置設備の簡素化・小型化も図れることから望ましい実施態様の1つと言える。具体的には、ガス状の留出物を凝縮液化するための装置であるコンデンサ等に関しては先の溶剤循環装置をそのまま利用でき、凝縮液化された留出物の分離除去装置である液−液分離装置である水分離器等に関しては先の溶剤循環装置を適宜使用形態を変更して利用できる。すなわち、留出物の成分組成に応じて、当該水分離器に輸送されてくる液状の留出物を、水を系外に除去する輸送経路及び輸送装置であるポンプ等を利用して、水相部分あるいは液状の留出物の全てを系外に除去することができるほか、新たに当該水分離器等に真空ポンプ(エゼクタ)を取り付けて吸引することで、相対的に揮発性の高い成分等を選択的に、あるいは液状の留出物の全てを系外に除去するようにしてもよい。あるいは凝縮液化した留出物をコンデンサ等から別途輸送経路を設けてそのまま系外(例えば、廃棄物処理装置やリサイクル処理装置など)に取り出し、適当に処理(廃棄ないし再利用)することもできる。また、これらの装置にも、適当な制御機構が適宜設けられているのが望ましい。なお、上記に例示した装置機構に変えて、系内の脱水溶剤を留出し凝縮液化して系外に除去させるとする本来的な目的を逸脱しない限り、従来既知の他の手段及びその装置との組み合わせ、あるいは他の手段及びその装置による代替えなどによる方法を適宜採用することができることもいうまでもない。
【0123】
また、当該溶剤留去工程では、エステル化反応終了後(必要に応じて、上記部分中和工程を行い)、系内のエステル化物および脱水溶剤を含有する溶液から脱水溶剤を留去する方法に関しては、特に制限されるものではなく、上述したように水を用いて脱水溶剤と共沸させて留出し除去てもよいし、他の適当な添加剤を加えて脱水溶剤を効果的に除去するようにしてもよいほか、何等の添加剤(水を含む)を用いることなく、留出させて除去する事もできるが、エステル化反応において、酸触媒を用いることが極めて有用(すなわち、その後に部分中和しなければならないことを勘案してもその有用性は極めて高いといえる)であることから、水を用いて脱水溶剤と共沸させて留出し除去する方法が好ましい実施態様の1つと言える。なお、当該溶剤留去工程までに、酸触媒の部分中和処理が行われている際には、系内のエステル化物および脱水溶剤を含有する溶液中には、活性な酸触媒及びアルカリはなく(中和により塩になっている)、水を加えて昇温しても加水分解反応が起こらないため、脱水溶剤を留去する上で、水と共沸させる事ができる。なお、水と共沸させるほうが、より低い温度で効率よく脱水溶剤を除去することができるものである。
【0124】
本発明による溶剤留去工程において、系内の溶液中から脱水溶剤を留出させるための条件としては、系内の脱水溶剤を好適に留出(蒸発)させることができるものであれば、特に制限されるものではなく、溶剤留去中の系内温度(系内の液温(常圧下))としては、例えば、(1″)水を用いる場合には、通常80〜120℃、好ましくは90〜110℃であり、(2″)水を用いない場合には、通常80〜160℃、好ましくは90〜150℃である。上記(1″)ないし(2″)のいずれも場合にも、上記に規定する温度よりも低い温度の場合には、脱水溶剤を蒸発するのに十分な温度(熱量)でなく、脱水溶剤の留去に長時間を要するなど好ましくなく、一方、上記に規定する温度よりも高い温度の場合には、重合の危険性があるほか、多くの熱量が大量の低沸点原料の蒸発に消費されるため好ましくない。また、系内(装置内)圧力は、常圧下または減圧下いずれで行ってもよいが、設備面から、常圧下で行うことが望ましい。また、脱水溶剤を含む溶液から溶剤の留出を行うための装置系としては、エステル化反応で使用した装置系(反応槽)をそのまま使用するのがよい。すなわち、エステルカ反応後、別途他の装置に内容物を移し変える場合には、設備及び管理費が増加するほか、輸送時にエステル化物等が外的要因(熱、光、輸送温度、輸送圧力、活性な雰囲気ガスの介在)などにより劣化したり、輸送経路内に固着したり、逆に輸送時に装置などから不純物が溶出ないし混入するのを防止する必要があり、余分なコストが発生するなど好ましくない。
【0125】
なお、エステル化工程において、(メタ)アクリル酸の重合を防止すべく重合禁止剤の存在下に、エステル化反応を行っている場合には、当該重合禁止剤がエステル化反応後(さらには部分中和処理後)においても有効に機能するため、本溶剤留去工程において、系内の溶液中に、新たに重合禁止剤を補充する必要はないが、濃度の薄いアルカリ水溶液を用いて部分中和処理を行っている場合には、系内の溶液中に比較的多くの水が存在している。そのため、例えば、エステル化反応を行う際に使用した重合禁止剤が水に難溶ないし不溶であるような場合に限り、(メタ)アクリル酸が水に溶けて系内の溶液内で重合することがあるため、これを防止する観点から、系内の溶液に水溶性重合禁止剤を加えてから上記に規定する温度まで昇温することが望ましいものである。
【0126】
また、上記水溶性重合禁止剤としては、特に制限されるものではなく、例えば、ハイドロキノン、メトキノン、カテコール及びこれらの誘導体(例えば、p−t−ブチルカテコール等)、ハイドロキノンモノメチルエーテル等が挙げられる。なかでもハイドロキノン、メトキノンが好ましい。また、これらの水溶性重合禁止剤は、1種若しくは2種以上を混合して使用してもよい。
【0127】
上記水溶性重合禁止剤の添加量としては、原料としてのアルコール及び(メタ)アクリル酸の合計使用量に対して0.001〜1質量%、好ましくは0.001〜0.1質量%である。水溶性重合禁止剤の添加量が、0.001質量%未満の場合には、重合禁止能の発現が不十分な場合があり、水溶性重合禁止剤の添加量が、1質量%を超える場合には、過剰に添加することに見合う重合禁止能が得られず、不経済であり、好ましくない。
【0128】
さらに、本発明に係るエステル化物の製造方法を、図1を参照しながら説明する。
【0129】
図1は、本発明に係るエステル化物の製造方法に用いられる代表的な装置構成の概略図である。
【0130】
図1より、本実施形態の装置構成では、まず、所定温度まで昇温してエステル化反応し、エステル化反応後に所定温度まで降温して中和し、中和後に所定温度まで昇温し脱水溶剤の留去を行うための熱交換手段(例えば、内部ヒータ等の直接加熱方式、外部ジャケット等の間接の熱交換方式)として加圧スチーム等を熱媒体に使用し得る外部ジャケット102を有する反応槽101が設けられいる。この際、反応槽の内部の材料は、特に制限されるものではなく公知の材料が使用できるが、例えば、SUS製、好ましくは耐蝕性の面からSUS304、SUS316及びSUS316L、より好ましくはSUS316及びSUS316Lが挙げられる。または、反応槽の内部にグラスライニング加工等が施され原料及び生成物に対して不活性なものとしてもよい。該反応槽101には、アルコール原料用のステンレススチール(例えば、SUS316)製の原料貯蔵タンク103および(メタ)アクリル酸原料用の原料貯蔵タンク105、酸触媒用の触媒貯蔵タンク107、エステル化反応時の反応系(反応槽101)内の重合を防止するための重合禁止剤を貯蔵した重合禁止剤貯蔵タンク109、エステル化反応終了後の脱水溶剤の留去時の系内(反応槽101)の溶液内での重合を防止するための水溶性重合禁止剤を貯蔵した水溶性重合禁止剤貯蔵タンク110およびエステル化反応後に前記触媒を中和処理するための中和剤(中和剤水溶液)を貯蔵したカーボンスチール(例えば、高炭素鋼)製の中和剤貯蔵タンク111がそれぞれ配管113、115、117、119、120および121により連結されている。また、(メタ)アクリル酸は、重合しやすく、例えば、メタクリル酸では、長期の保存や熱等によっても重合するため微量の重合防止剤(0.1%ハイドロキノンなど)が加えられるほか、結晶化しても重合しやすくなるので、原料貯蔵タンク105内で保存する場合、ベンゼンを加え結晶化を防ぐようにしてもよいほか、図1に示すように常時30〜40℃に保温するべく、ポンプ116を用いた外部ジャケット150(保温手段)を有する循環経路151が形成されており、(メタ)アクリル酸原料を常に30〜40℃に保持し重合しないように循環させている。(メタ)アクリル酸用の原料貯蔵タンク105、配管115およびポンプ116および循環経路151内部には、腐食性を有する(メタ)アクリル酸による腐食防止目的で、合成樹脂等の耐食性材料によるライニング加工が施されているものが使用される。同様に、触媒貯蔵タンク107およびその配管117内部にも、酸触媒による腐食防止のため、合成樹脂などの耐酸性材料によるライニング加工が施されているものが使用される。また、上記反応槽101の下部には、エステル化反応により反応槽101内部に合成されたエステル化物(あるいは、セメント分散剤等では、該エステル化物を単量体成分として該反応槽101でさらに重合を行い得られた重合体)を回収するための配管153が連結されている。さらに、上記反応槽101内には、反応温度を計測するための温度センサ(図示せず)が適当な部位(数カ所)に取り付けられている。該温度センサは、反応温度を規定の温度に保つのに必要な装置機構(例えば、反応槽101に取り付けられたジャケット102の温度)などを制御するための制御部本体(図示せず)に電気的に接続されている。
【0131】
さらに、本実施形態の装置構成では、反応系内(反応槽101内)でエステル化反応時に生成される反応生成水を含む留出物を留出し、ゲル状物の発生を防止しながら凝縮液化した後に、該反応生成水を分離除去し、残りの留出物を所定の溶剤循環速度で戻すための機構(の装置構成)として、該反応生成水を脱水溶剤とともに共沸させた留出物にゲル化防止剤を作用させて凝縮液化し、該凝縮液化した留出物から反応生成水(水相)を分離除去し、残りの凝縮物(主に脱水溶剤を含む溶剤相)を上記溶剤循環速度で還流させて反応槽101に戻す循環系が形成されている。詳しくは、反応槽101上部と向流(または並流)接触形式の縦型の多管式円管形コンデンサ125の頭頂部とが配管123により連結されている。またコンデンサ125の下底部とSUS製の水分離器127の上部とが配管129により連結されている。該水分離器127の内部には仕切板131が設けられており、該仕切板131で区切られた2つの室133、134が形成されている。このうち、コンデンサ125で凝縮液化された留出物が貯められる側の室133の下部と反応生成水の処理タンク135とが配管137により連結されている。また、該処理タンク135には廃水用の配管139が連結されている。また、水分離器127のもう一方の室134の下部と反応槽101とが配管141で連結されている。また、この配管141には、反応槽101内の反応生成水と共沸する脱水溶剤を貯蔵する脱水溶剤貯蔵タンク143と連結された配管145が合流(連結)されている。かかる合流点の手前(水分離器127側)の配管141の経路上には循環ポンプ142が設置されている。また、上記合流点の後方(反応槽101側)の配管141の経路上には流量計144が設けられている。そして、該流量計144には、計測される流量を積算し、溶剤循環速度を算出するための流量計測システム本体(図示せず)と電気的に接続されている。さらに、コンデンサ125の頭頂部には噴霧ノズル126が設けられており、この噴霧ノズル126は、留出物のゲル化防止用のゲル化防止剤を貯蔵するゲル化防止剤貯蔵タンク147と配管149により連結されている。
【0132】
本発明において、コンデンサとしては、SUS304、SUS316及びSUS316L等のSUS製や炭素鋼(CS)等、公知のものが使用できるが、好ましくは、ゲルの発生をより軽減するために、内面を鏡面仕上げやグラスライニング加工されたコンデンサを使用できるが、加工やメンテナンスにかかるコストを考慮すると、SUS304、SUS316及びSUS316L、好ましくはSUS316及びSUS316L等のSUS製のコンデンサが好ましく使用でき、このようなコンデンサを用いた場合でも、ゲルの形成を有効に防止できる。また、本発明において好ましく使用されるコンデンサの伝熱面積は、反応槽の容積などによって異なるが、例えば、反応槽30m3では、50〜500m2、好ましくは100〜200m2である。本発明において、コンデンサに使用される冷却媒体としては、水やオイルなどが挙げられる。
【0133】
また、上述したこれらの循環機構(の装置構成)、すなわち、反応系内(反応槽101内)でエステル化反応時に生成される反応生成水を含む留出物を留出し、ゲル状物を発生を防止しなから凝縮液化した後に、該反応生成水を分離除去し、残りの留出物を還流させるための機構(の装置構成)の一部は、エステル化反応後に、系内(反応槽101内)の生成物であるエステル化物を含有する溶液から脱水溶剤を含む留出物を留出し、ゲル状物の発生を防止しながら凝縮液化した後に、該脱水溶剤を含む留出物を系外に除去するための機構(の装置構成)としても利用されており、該脱水溶剤を水とともに共沸させた留出物に水溶性重合禁止剤を作用させて凝縮液化し、該凝縮液化した留出物を水相と溶剤相に分離し、それぞれを適当な方法により別々に除去する経路(取り出し経路)が形成されている。詳しくは、上述した循環機構(の装置構成)に、新たに、コンデンサ125の頭頂部に設けられた噴霧ノズル126には、脱水溶剤を含む留出物のゲル化防止用に利用される水溶性重合禁止剤を溶かした水溶液(以下、単に水溶性ゲル化防止剤ともいう)を貯蔵する水溶性ゲル化防止剤貯蔵タンク159が配管161により連結されている。さらに、水分離器127には配管157を介して、脱水溶媒を減圧吸引により除去するために真空ポンプ(エゼクタ)155が取り付けられている。
【0134】
本発明に係るエステル化物の製造方法では、以上の装置構成を有するエステル化物の製造装置を用いて次のように行われる。
【0135】
まず、反応槽101内部に、各原料貯蔵タンク103、105、触媒貯蔵タンク107、重合禁止剤貯蔵タンク109、脱水溶剤貯蔵タンク143より配管113、115、117、119および配管145を介した配管141を通じて原料のアルコールおよび(メタ)アクリル酸、酸触媒、重合禁止剤および脱水溶剤をそれぞれ上記に規定する所定の量を送り込み(仕込み)、上記に規定するエステル化条件(反応温度、ジャケット温度、圧力)でエステル化反応を行う。エステル化反応により逐次生成する反応生成水は、反応槽101内に仕込まれた脱水溶剤と共沸され配管123を通じて留出されてくる。留出されてきたガス流体である溶剤−水共沸物は、コンデンサ125に通され凝縮液化される。この凝縮液化時に該共沸物に含まれる低沸点原料がゲル化するのを防止する目的で、ゲル化防止剤貯蔵タンク147より配管149を通じて該コンデンサ125の頭頂部に設けられた噴霧ノズル126から上記に規定する量のゲル化防止剤を連続的に滴下して、共沸物(ガス流体物および凝縮液化物の双方をいう)と並流接触させる。凝縮液化された共沸物(滴下されたゲル化防止剤を含む)は、該コンデンサ125の下部より配管129を通じて水分離器127の室133に貯められ、水相と溶剤相の2層に分離される。このうち、下層部の反応生成水は、室133の下部より配管137を通じて逐次抜かれ、反応生成水の処理タンク135に貯められる。そして該処理タンク135内で、必要に応じて、環境基準(廃水基準)値を満足するように化学的ないし生物学的に処理された後、配管139を通じて、本装置系外に廃水される。一方、上層部の溶剤相(滴下されたゲル化防止剤および低沸点原料を含む)は、仕切板131をオーバーフローして隣の室134に貯められる。そして、該溶剤相は該室134の下部よりポンプ142により配管141を通じて上記に規定する溶媒循環速度で還流され反応槽101に戻される。
【0136】
なお、本発明において、ゲル化防止剤を供給するゲル化防止剤貯蔵タンク設置部位は、ゲルが形成されやすい部位が好ましいものの特に制限されないが、例えば、図1における態様、即ち、ゲル化防止剤を噴霧する噴霧ノズル126をコンデンサ125の塔頂部に設ける態様に加えて、反応槽101とコンデンサ125との間の配管123上の少なくとも1箇所にゲル化防止剤を噴霧する噴霧ノズルを設ける態様などが挙げられる。後者の態様において、配管123上にゲル化防止剤を噴霧する噴霧ノズルを設ける部位としては、例えば、コンデンサ内部の凝縮部(とりわけ塔頂部近傍)、反応槽とベーパーの立ち上がりラインとの間の接合部(フランジ部)やベーパーラインとコンデンサ塔頂部との間のフランジ部等のフランジ部、反応槽等に設置された温度計やのぞき窓に設けられた突起部など、ゲルが形成されやすい部位が挙げられ、これらのうち、コンデンサ内部の凝縮部(とりわけ塔頂部近傍)、反応槽とベーパーの立ち上がりラインとの間のフランジ部やベーパーラインとコンデンサ塔頂部との間のフランジ部が好ましい。
【0137】
エステル化反応終了(エステル化率が規定以上に達した時点で終了とする)後、降温し反応槽101の内温(液温)が上記に規定する温度(90℃)以下に下がるまで、反応槽101の外部ジャケット102に冷媒を通じて降温し、その後は所定温度以下を維持するように適宜調整しながら、中和剤貯蔵タンク111より配管121を通じて反応槽101内に、多量の水により上記に規定する濃度まで薄められたアルカリ水溶液(中和剤)を添加して酸触媒(及び(メタ)アクリル酸の一部)を部分中和する。
【0138】
部分中和後、水溶性重合禁止剤を水溶性重合禁止剤タンク110より配管120を通じて反応槽101内の溶液に添加混合する。常圧下に、反応槽101の外部ジャケット102に熱媒(加圧スチーム)を通じて上記に規定する温度まで昇温することにより、反応槽101内の脱水溶剤及び部分中和処理の際に加えられている多量の水のほか未反応の低沸点原料(例えば、(メタ)アクリル酸)も共沸され配管123を通じて留出されてくる。留出されてきたガス流体である溶剤−水共沸物は、コンデンサ125に通され凝縮液化される。この場合にも未反応の低沸点原料(例えば、(メタ)アクリル酸)によりゲル状物が発生するが、ここでは、脱水溶剤が除かれていくので次第に水及び低沸点原料だけが蒸発してくるようになるため、水溶性重合禁止剤を作用させることが望ましい。この凝縮液化時に該留出物に含まれる未反応の低沸点原料がゲル化するのを防止する目的で、水溶性ゲル化防止剤貯蔵タンク159より配管161を通じて該コンデンサ125の頭頂部に設けられた噴霧ノズル126から上記に規定する量の水溶性ゲル化防止剤を連続的に滴下して、留出物(ガス流体物および凝縮液化物の双方をいう)と並流接触させる。凝縮液化された留出物(滴下された水溶性重合禁止剤を含む)は、該コンデンサ125の下部より配管129を通じて水分離器127の室133に貯められ、水相(滴下された水溶性重合禁止剤および低沸点原料を含む)と溶剤相の2層に分離される。このうち、下層部の水は、循環させずに除去する場合には、室133の下部より配管137を通じて逐次抜かれ、水の処理タンク135に貯められる。そして該処理タンク135内で、必要に応じて、環境基準(廃水基準)値を満足するように化学的ないし生物学的に処理された後、配管139を通じて、本装置系外に廃水される(また、下層部の水を循環させる場合には、室133の下部より反応槽101に連結される配管(図示せず)を設け、この配管を通じて還流すればよい。)。一方、上層部の溶剤相は、還流することなく装置系外に除去する必要上、水分離器127に取り付けられた真空ポンプ(エゼクタ)155を用いて装置系外に取り出される。なお、これらは廃棄処理されるか、あるいは系外の装置を用いて化学処理し再利用してもよい。
【0139】
最後に、系内の溶液から脱水溶剤を留去した後、反応槽101内に、配管(図示せず)により連結されている水貯蔵タンク(図示せず)または上水管(図示せず)より調整水を添加して所望のエステル化物の水溶液を得る。得られたエステル化物の水溶液は、配管153より回収(貯蔵)される。なお、得られたエステル化物をセメント分散剤等の合成に用いる場合には、該エステル化物を単量体成分の1つとして該反応槽101でさらに重合を行い、セメント分散剤の主要組成成分となり得る重合体を合成するようにしてもよい。この場合には、過剰に加えられ残っている未反応の(メタ)アクリル酸をもう一方の単量体成分として分離・除去せずにそのまま使用することが好ましい。
【0140】
以上が、本発明のエステル化物の製造方法の一実施態様を図1を用いて説明したものであるが、本発明に係るエステル化物の製造方法は、当該実施態様に限定されるものではなく、エステル化反応終了後、脱水溶剤を留去する際に、該脱水溶剤を含む留出物に対して重合禁止剤を作用させることができるものであれば、その製法(手段)、装置構成などに関しては何ら制限されるものではなく、従来既知の製法、装置構成などを適宜組み合わせて利用することができる。
【0141】
第二の概念によると、本発明は、脱水溶剤の存在下、下記式:
【0142】
【化8】
Figure 0004001518
【0143】
(ただし、R1は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表わし、R2Oは炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表わし、この際、各R2Oの繰り返し単位は同一であってもあるいは異なっていてもよく、およびR2Oが2種以上の混合物の形態である場合には各R2Oの繰り返し単位はブロック状に付加していてもあるいはランダム状に付加していてもよく、ならびにnはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表わし、1〜300の数である)で示されるアルコキシポリアルキレングリコール(本明細書では、単に「アルコキシポリアルキレングリコール」と称する)を(メタ)アクリル酸とエステル化反応し、該エステル化反応が終了した後の脱水溶剤留去工程中に、該脱水溶剤を含む留出物に対してゲル化防止剤を作用させることにより、アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸系単量体(a)を得、該アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸系単量体(a)5〜98質量%、下記式(2):
【0144】
【化9】
Figure 0004001518
【0145】
(ただし、R3は水素もしくはメチル基を表わし、M1は水素、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表わす)で示される(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2質量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50質量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100質量%)を共重合することを特徴とする、セメント分散剤用ポリカルボン酸系共重合体(本明細書では、単に「共重合体」または「重合体」と称する)の製造方法を提供するものである。
【0146】
上記概念において、アルコキシポリアルキレングリコールは、nが0を含まない以外は上記第一の概念におけるアルコールと同様に定義される。また、(メタ)アクリル酸やエステル化反応など、上記第一の概念において同様に使われている用語に関しては同様の意味を有する。
【0147】
なお、上記第二の概念によるエステル化反応において、アルコキシポリアルキレングリコール及び(メタ)アクリル酸の使用量は、アルコキシポリアルキレングリコールの使用量をp質量部と及び(メタ)アクリル酸の使用量をq質量部とした際に、下記式:
40≦[(p/n1/2)/q]×100≦200
の関係を満足する量であることが好ましい。これにより、(メタ)アクリル酸をアルコキシポリアルキレングリコールに比べて過剰に存在させてエステル化反応を行なうと、得られたアルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸系単量体は(メタ)アクリル酸を含む混合物の形態で存在するので、この混合物を単離せずにそのままあるいは必要により(メタ)アクリル酸(塩)単量体やこれらの単量体と共重合可能な単量体を加えて、好ましくは混合物を単離せずにそのまま共重合反応に供することにより、ポリカルボン酸系共重合体が製造でき、好ましい。すなわち、アルコキシポリアルキレングリコール及び(メタ)アクリル酸の使用量を上記したような範囲内に調節することにより、アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸を単離するという工程を省略することができるため、量産に適しており、産業上の観点から好ましい。
【0148】
上記好ましい態様において、アルコキシポリアルキレングリコールの使用量であるp質量部と(メタ)アクリル酸の使用量であるq質量部は、下記式:
40≦[(p/n1/2)/q]×100≦200
(ただし、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表わし、1〜300の数である)の関係を満足することを必須とする。本明細書においては、式:[(p/n1/2)/q]×100の値を「K値」とも称し、K値は、カルボン酸の質量当たりのポリアルキレングリコール鎖の平均数を表わす尺度である。本発明において、K値は、好ましくは42〜190(42≦K値≦190)、より好ましくは45〜160(45≦K値≦160)である、この際、K値が40未満であると、得られるセメント分散剤のセメント分散性能が十分でない。逆に、K値が200を超えると、得られるセメント分散剤のセメント分散性能がやはり低下する上、エステル化反応時間が著しく増大し、生産性が大幅に低下するので好ましくない。
【0149】
上記第二の概念におけるポリカルボン酸系共重合体(その塩を含む;以下、同様)の製造方法は、アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸系単量体を単量体成分として、重合反応を行うことにより、所期の用途に応じた、本発明の重合体を得ることができるものであれば、特に制限されるものではなく、所期の用途に応じて重合されてなるものが含まれると解されるべきである。例えば、特公昭59−18338号公報、特開平9−86990号公報や特開平9−286645号公報に記載の方法などの公知の方法と同様にして、(メタ)アクリル酸(塩)、および必要によりこれらの単量体と共重合可能な単量体と共に重合反応に供されることによって、セメント分散能に優れたセメント分散剤とすることができるが、これらに限定されるものではなく、本発明の重合体の詳細な説明において例示したそれぞれの公報に記載の重合方法が適用できることはもちろんのこと、これら以外にも従来既知の各種重合方法を適用できることはいうまでもない。また、上記方法のほか、炭酸カルシウム、カーボンブラック、インクなどの顔料分散剤、スケール防止剤、石膏・水スラリー用分散剤、CWM用分散剤、増粘剤等への利用が可能である。
【0150】
より具体的には、例えば、本発明のポリカルボン酸系共重合体の製造方法では、アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸系単量体を、(メタ)アクリル酸(塩)単量体および必要によりこれらの単量体と共重合可能な単量体とともに重合反応する。
【0151】
ここで、所望のポリカルボン酸系共重合体を得るには、重合開始剤を用いてアルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸系単量体成分等を共重合させれば良い。共重合は、溶媒中での重合や塊状重合等の方法により行なうことができる。
【0152】
溶媒中での重合は、回分式でも連続式でも行なうことができ、その際使用される溶媒としては、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の芳香族あるいは脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;等が挙げられる。原料のエステル化物の単量体成分および得られる共重合体の溶解性ならびに該共重合体の使用時の便からは、水および炭素原子数1〜4の低級アルコールよりなる群から選ばれた少なくとも1種を用いることが好ましい。その場合、炭素原子数1〜4の低級アルコールの中でもメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等が特に有効である。
【0153】
水媒体中で重合を行なう時は、重合開始剤としてアンモニウムまたはアルカリ金属の過硫酸塩あるいは過酸化水素等の水溶性の重合開始剤が使用される。この際、亜硫酸水素ナトリウム、モール塩等の促進剤を併用することもできる。また、低級アルコール、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、エステル化合物あるいはケトン化合物を溶媒とする重合には、ベンゾイルパーオキシドやラウロイルパーオキシド等のパーオキシド;クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリル等の芳香族アゾ化合物等が重合開始剤として用いられる。この際アミン化合物等の促進剤を併用することもできる。さらに、水−低級アルコール混合溶剤を用いる場合には、上記の種々の重合開始剤あるいは重合開始剤と促進剤との組み合わせの中から適宜選択して用いることができる。重合温度は、用いる溶媒や重合開始剤により適宜定められるが、通常0〜120℃の範囲内で行なわれる。
【0154】
塊状重合は、重合開始剤としてベンゾイルパーオキシドやラウロイルパーオキシド等のパーオキシド;クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリル等の脂肪族アゾ化合物等を用い、50〜200℃の温度範囲内で行なわれる。
【0155】
また、得られる重合体の分子量調節のために、チオール系連鎖移動剤を併用することもできる。この際に用いられるチオール系連鎖移動剤は、一般式HS−R5−Eg(ただし、式中R5は炭素原子数1〜2のアルキル基を表わし、Eは−OH、−COOM2、−COOR6または−SO32基を表わし、M2は水素、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表わし、R6は炭素原子数1〜10のアルキル基を表わし、gは1〜2の整数を表わす。)で表わされ、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0156】
このようにして得られた重合体は、そのままでもセメント分散剤等の各種用途の主成分として用いられるが、必要に応じて、さらにアルカリ性物質で中和して得られる重合体塩をセメント分散剤等の各種用途の主成分として用いても良い。このようなアルカリ性物質としては、一価金属および二価金属の水酸化物、塩化物および炭素塩等の無機物;アンモニア;有機アミン等が好ましいものとして挙げられる。
【0157】
本発明の重合体の製造方法において、使用することのできるアルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸系単量体成分は、1種単独で用いても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。特に、2種以上を混合して使用する場合には、使用用途に応じた特性(機能・性能等)を発現させることができるように、発現特性の異なる種類を適当に組み合わせて用いることが望ましく、以下の2種の組み合わせが有利である。
【0158】
すなわち、アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸系単量体において、式(1)における平均付加モル数nが1〜97、好ましくは1〜10の整数である第1のエステル化物(a1)と、式(1)における平均付加モル数nが4〜100、好ましくは11〜100の整数である第2のエステル化物(a2)との混合物(ただし、第2のエステル化物(a2)の平均付加モル数の方が第1のエステル化物(a1)の平均付加モル数よりも3以上大きいものとする)の組み合わせが有利である。
【0159】
このような第1のエステル化物(a1)と第2のエステル化物(a2)との混合物を製造する方法は、当該エステル化物の製造方法で説明した通りであり、これらの第1および第2のエステル化物(a1)および(a2)を別々にエステル化反応により製造してもよいし、それぞれ相当するアルコールの混合物と、(メタ)アクリル酸とのエステル化反応により製造してもよく、特に後者の方法は工業的に安価の製造方法を提供できる。
【0160】
この場合、第1のエステル化物(a1)と第2のエステル化物(a2)との質量比は5:95〜95:5、好ましくは10:90〜90:10である。
【0161】
第1のエステル化物(a1)としては、例えば、メトキシ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)エチレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が例示される。第1のエステル化物(a1)は、その側鎖の短鎖アルコールに疎水性を有することが重要である。
【0162】
また、共重合のし易さの面からは、側鎖はエチレングリコール単位が多く含まれているのが好ましい。したがって、(a1)としては、平均付加モル数が1〜97、好ましくは1〜10の(アルコキシ)(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0163】
第2のエステル化物(a2)としては、例えば、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどが例示される。
【0164】
高い減水性を得るためには、第2のエステル化物(a2)の平均付加モル数が4〜100のアルコール鎖による立体反発と親水性でセメント粒子を分散させることが重要である。そのためには、ポリアルキレングリコール鎖にはオキシエチレン基が多く導入されることが好ましく、ポリエチレングリコール鎖が最も好ましい。よって、第2のエステル化物(a2)のアルキレングリコール鎖の平均付加モル数nは、4〜100、好ましくは11〜100である。
【0165】
本発明の重合体の製造方法において、使用することのできる、上記(メタ)アクリル酸(塩)単量体の例としては、アクリル酸、メタクリル酸ならびにこれらの酸の一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩および有機アミン塩を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0166】
本発明の重合体の製造方法において、使用することのできるエステル化物単量体および(メタ)アクリル酸(塩)単量体の単量体成分と共重合可能な単量体の例としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸等のジカルボン酸類;これらのジカルボン酸類とHO(R11O)r12(ただし、R11Oは炭素原子数2〜4のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表わし、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよく、rはオキシアルキレン基の平均付加モル数であり1から100の整数を表わし、R12は水素または炭素原子数1〜22、好ましくは1〜15のアルキル基を表わす。)で表わされるアルコールとのモノエステルあるいはジエステル類;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類およびそれらの一価金属塩、二価金属塩、アルモニウム塩、有機アミン塩類;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル類;炭素原子数1〜18、好ましくは1〜15の脂肪族アルコールあるいはベンジルアルコール等のフェニル基含有アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0167】
このようにして得られた共重合体を主成分とする本発明のセメント分散剤では、良好なセメント分散性能及びスランプ保持性能を発揮することができる。
【0168】
また、本発明のセメント分散剤には、上記に規定する重合体成分の他に、従来公知のナフタレン系セメント分散剤、アミノスルホン酸系セメント分散剤、ポリカルボン酸系セメント分散剤およびリグニン系セメント分散剤よりなる群から選ばれた少なくとも1種のセメント分散剤を配合してもよい。すなわち、本発明のセメント分散剤では、上記重合体単独で使用しても良いし、必要に応じて、さらに付加価値を持たせるべく、上記および下記に示す各種成分を配合することができるものであり、これらの配合組成については、目的とする付加的機能の有無により大きく異なるものであり、上記重合体成分を100質量%(全量)ないし主成分とするものから、上記重合体成分を高付加価値成分として、従来のセメント分散剤に適量加える態様まで様々であり、一義的に規定することはできない。しかしながら、本発明のセメント分散剤におけるポリカルボン酸系共重合体の配合量は、全成分に対して、通常、5〜100質量%、好ましくは50〜100質量%である。
【0169】
また、本発明のセメント分散剤には、従来公知のセメント分散剤の他に、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張剤、防水剤、遅延剤、急結剤、水溶性高分子物質、増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、硬化促進剤、消泡剤等を配合することができる。
【0170】
このようにして得られる重合体を主成分とするセメント分散剤は、少なくともセメントおよび水よりなるセメント組成物に配合することによりセメントの分散を促進する。
【0171】
本発明のセメント分散剤は、ポルトランドセメント、ビーライト高含有セメント、アルミナセメント、各種混合セメント等の水硬セメント、あるいは、石膏などのセメント以外の水硬材料などに用いることができる。
【0172】
本発明のセメント分散剤は、上記に記載の作用効果を奏するため、従来のセメント分散剤に比較して少量の添加でも優れた効果を発揮する。たとえば水硬セメントを用いるモルタルやコンクリート等に使用する場合には、セメント質量の0.001〜5%、好ましくは0.01〜1%となる比率の量を練り混ぜの際に添加すればよい。この添加により高減水率の達成、スランプロス防止性能の向上、単位水量の低減、強度の増大、耐久性の向上などの各種の好ましい諸効果がもたらされる。添加量が0.001%未満では性能的に不十分であり、逆に5%を越える多量を使用しても、その効果は実質上頭打ちとなり経済性の面からも不利となる。
【0173】
本発明のセメント分散剤は、特定の重量平均分子量を有し、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が特定の値を有する重合体を主成分とするセメント分散剤であることが望ましい。この際、本発明によるポリカルボン酸系共重合体の重量平均分子量は、所期の用途に応じて適宜最適な範囲に決定されるものであり、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で500〜500000、特に5000〜300000の範囲とすることが好ましい。また、重合体の重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値は、0〜8000であることが必要であり、好ましくは0〜7000である。重量平均分子量が500未満では、セメント分散剤の減水性能が低下するために好ましくない。一方、500000を越える分子量では、セメント分散剤の減水性能、スランプロス防止能が低下するために好ましくない。また、重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が8000を越える場合には、得られたセメント分散剤のスランプ保持性能が低下するために好ましくない。
【0174】
【実施例】
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明する。なお、例中、特にことわりのない限り、「%」は「質量%」を、また、「部」は「質量部」を表わすものとする
実施例1
温度計、攪拌機、生成水分離器および還流冷却管(コンデンサ)を備えた外部ジャケット付ガラス製反応槽(内容量:30リットル)にメトキシポリ(n=25)エチレングリコール16500部、メタクリル酸4740部(K値=70)、パラトルエンスルホン酸水和物235部、フェノチアジン5部およびシクロヘキサン1060部を仕込み、反応温度115℃でエステル化反応を行った。別途、シクロヘキサンの還流開始からエステル化反応終了まで、コンデンサの塔頂へフェノチアジン0.5部を含むシクロヘキサン溶液500.5部を滴下した。約20時間でエステル化率が100%に達したのを確認した。得られたエステル化反応液22255部に49%水酸化ナトリウム水溶液135部と水4890部を加えてパラトルエンスルホン酸を中和し、ハイドロキノン8部を加えて105℃までに昇温し、シクロヘキサンを水との共沸で留去した。シクロヘキサンの留去中、コンデンサの塔頂部へハイドロキノン1部を含む水301部を滴下した。そして、シクロヘキサン留去後、調整水を添加して80%のエステル化物の水溶液(1)を得た。以上の操作を数バッチ繰り返したあとでコンデンサである還流冷却管内部を点検したところ、ゲルは認められなかった。
【0175】
本実施例のエステル化工程での反応組成、反応条件およびエステル化率、中和工程での中和条件、およびシクロヘキサン留去工程でのコンデンサである還流冷却管への滴下組成、並びに本実施例の操作を数バッチ繰り返した後のコンデンサの状態につき下記表1に示す。
【0176】
実施例2
実施例1において、温度計、攪拌機、生成水分離器および多管式コンデンサ[胴部(シェル):内径750mm×長さ4000mm、伝熱管(チューブ):内径24mm×485本、伝熱面積:150m2]を備えた外部ジャケット付SUS316製反応槽(内容量:30m3)を反応槽として使用する以外は実施例1と同様にして80%のエステル化物水溶液を得、得られたエステル化物水溶液について、反応終了後、コンデンサの内部を点検したところ、ゲル状物は認められなかった。
【0177】
実施例3
実施例1において、温度計、攪拌機、生成水分離器および多管式コンデンサ[胴部(シェル):内径750mm×長さ4000mm、伝熱管(チューブ):内径24mm×485本、伝熱面積:150m2]を備えた外部ジャケット付グラスライニング反応槽(内容量:30m3)を反応槽として使用する以外は実施例1と同様にして80%のエステル化物水溶液を得、得られたエステル化物水溶液について、反応終了後、コンデンサの内部を点検したところ、ゲル状物は認められなかった。
【0178】
比較例1
温度計、攪拌機、生成水分離器および還流冷却管(コンデンサ)を備えた外部ジャケット付ガラス製反応槽(内容量:30リットル)にメトキシポリ(n=25)エチレングリコール16500部、メタクリル酸4740部、パラトルエンスルホン酸水和物235部、フェノチアジン5部およびシクロヘキサン1060部を仕込み、反応温度115℃でエステル化反応を行った。別途、シクロヘキサンの還流開始からエステル化反応終了まで、コンデンサの塔頂へフェノチアジン0.5部を含むシクロヘキサン溶液500.5部を滴下した。約20時間でエステル化率が100%に達したのを確認した。 次に、得られたエステル化反応液22255部に49%水酸化ナトリウム水溶液135部と水4890部を加えてパラトルエンスルホン酸を中和し、ハイドロキノン8部を加えて105℃までに昇温し、シクロヘキサンを水との共沸で留去した。シクロヘキサンの留去中、コンデンサの塔頂へのハイドロキノン水溶液の滴下は行わなかった。シクロヘキサン留去後、調整水を添加して比較用80%のエステル化物の水溶液を得た。以上の操作を数バッチ繰り返したあとでコンデンサである還流冷却管内部を点検したところ、多量のゲルが認められた。
【0179】
本比較例のエステル化工程での反応組成、反応条件およびエステル化率、中和工程での中和条件、およびシクロヘキサン留去工程でのコンデンサである還流冷却管への滴下組成、並びに本実施例の操作を数バッチ繰り返した後のコンデンサの状態につき下記表1に示す。
【0180】
【表1】
Figure 0004001518
【0181】
実施例4
温度計、攪拌機、生成水分離器および多管式コンデンサ[胴部(シェル):内径750mm×長さ4000mm、伝熱管(チューブ):内径24mm×485本、伝熱面積:150m2]を備えた外部ジャケット付グラスライニング反応槽(内容量:30m3)に、メトキシポリ(n=25)エチレングリコール16500部、メタクリル酸4740部、パラトルエンスルホン酸1水和物235部、フェノチアジン5部およびシクロヘキサン1060部を仕込み、反応温度115℃でエステル化反応を行った。別途、シクロヘキサンの還流開始からエステル化反応終了まで、フェノチアジンを含むシクロヘキサン溶液(A)(シクロヘキサン中のフェノチアジンの濃度を1000質量ppmにした。)を0.35部/minの速度で、水分離器から反応槽へ循環させる凝縮残液(主にシクロヘキサン)の一部(B)を20部/minの速度で、(A)と(B)を混合後、コンデンサ内に設けられた上向きノズルを通してコンデンサの塔頂へ降らした。
【0182】
約20時間でエステル化率が100%に達したのを確認した。そして49%水酸化ナトリウム水溶液135部と水4890部を加えてパラトルエンスルホン酸を中和し、ハイドロキノン8部を加えて昇温し、シクロヘキサンを水との共沸で留去した。シクロヘキサンの留去中、コンデンサの塔頂へハイドロキノン1部を含む水301部を滴下した。シクロヘキサン留去後、調整水を添加して80%のエステル化水溶液を得た。以上の操作を3バッチ繰り返した後コンデンサ内部を目視で点検したところ、ゲル状物の発生はなかった。さらに1年間、上記バッチ操作を継続した後にコンデンサ内部を目視で点検したところ、極々微量のゲル状物の発生しか確認されなかった。これは、下記実施例7のものと1年間で比較した場合、非常に少ないものであり、実施例7のものよりも目視で1/10以下まで減少していた。
【0183】
本実施例の反応組成、反応条件、コンデンサの塔頂へ降らせるゲル化防止剤溶液組成、部分中和条件、溶剤留去条件および実験結果を下記表2〜4に示す。
【0184】
実施例5
実施例4において、温度計、攪拌機、生成水分離器および多管式コンデンサ[胴部(シェル):内径750mm×長さ4000mm、伝熱管(チューブ):内径24mm×485本、伝熱面積:150m2]を備えた外部ジャケット付SUS316製反応槽(内容量:30m3)を反応槽として使用する以外は実施例4と同様にしてコンデンサ内部を目視で点検したところ、ゲル状物の発生はなかった。さらに1年間、上記バッチ操作を継続した後にコンデンサ内部を目視で点検したところ、極々微量のゲル状物の発生しか確認されなかった。
【0185】
実施例6
実施例4において、温度計、攪拌機、生成水分離器および還流冷却管(コンデンサ)を備えた外部ジャケット付ガラス製反応槽(内容量:30リットル)を反応槽として使用する以外は実施例4と同様にしてコンデンサ内部を目視で点検したところ、ゲル状物の発生はなかった。さらに1年間、上記バッチ操作を継続した後にコンデンサである還流冷却管内部を目視で点検したところ、極々微量のゲル状物の発生しか確認されなかった。
【0186】
実施例7
温度計、攪拌機、生成水分離器および多管式コンデンサ[胴部(シェル):内径750mm×長さ4000mm、伝熱管(チューブ):内径24mm×485本、伝熱面積:150m2]を備えた外部ジャケット付グラスライニング反応槽(内容量:30m3)に、メトキシポリ(n=25)エチレングリコール16500部、メタクリル酸4740部、パラトルエンスルホン酸1水和物235部、フェノチアジン5部およびシクロヘキサン1060部を仕込み、反応温度115℃でエステル化反応を行った。別途、シクロヘキサンの還流開始からエステル化反応終了まで、フェノチアジンを含むシクロヘキサン溶液(A)(シクロヘキサン中のフェノチアジンの濃度を1000質量ppmにした。)を0.35部/minの速度で、水分離器から反応槽へ循環させる凝縮残液(主にシクロヘキサン)の一部(B)を20部/minの速度で、(A)と(B)を混合後、コンデンサ内に設けられた下向きノズルを通してコンデンサの塔頂へ降らした。
【0187】
約20時間でエステル化率が100%に達したのを確認した。そして49%水酸化ナトリウム水溶液135部と水4890部を加えてパラトルエンスルホン酸を中和し、ハイドロキノン8部を加えて昇温し、シクロヘキサンを水との共沸で留去した。シクロヘキサンの留去中、コンデンサの塔頂へハイドロキノン1部を含む水301部を滴下した。シクロヘキサン留去後、調整水を添加して80%のエステル化水溶液を得た。以上の操作を3バッチ繰り返した後コンデンサ内部を点検したところ、ゲル状物の発生はなかった。さらに1年間、上記バッチ操作を継続した後にコンデンサ内部を目視で点検したところ、極少量のゲル状物が発生しているのが確認された。これは、上記実施例4のものと1年間で比較した場合、目視で10倍以上の差が認められた。
【0188】
本実施例の反応組成、反応条件、コンデンサの塔頂へ降らせるゲル化防止剤溶液組成、部分中和条件、溶剤留去条件および実験結果を下記表2〜4に示す。
【0189】
実施例8
実施例7において、温度計、攪拌機、生成水分離器および多管式コンデンサ[胴部(シェル):内径750mm×長さ4000mm、伝熱管(チューブ):内径24mm×485本、伝熱面積:150m2]を備えた外部ジャケット付SUS316製反応槽(内容量:30m3)を反応槽として使用する以外は実施例7と同様にしてコンデンサ内部を目視で点検したところ、ゲル状物の発生はなかった。さらに1年間、上記バッチ操作を継続した後にコンデンサ内部を目視で点検したところ、極少量のゲル状物が発生しているのが確認された。
【0190】
実施例9
実施例7において、温度計、攪拌機、生成水分離器および還流冷却管(コンデンサ)を備えた外部ジャケット付ガラス製反応槽(内容量:30リットル)を反応槽として使用する以外は実施例7と同様にしてコンデンサ内部を目視で点検したところ、ゲル状物の発生はなかった。さらに1年間、上記バッチ操作を継続した後にコンデンサである還流冷却管内部を目視で点検したところ、極少量のゲル状物が発生しているのが確認された。
【0191】
実施例10
温度計、攪拌機、水分離器および多管式コンデンサ[胴部(シェル):内径750mm×長さ4000mm、伝熱管(チューブ):内径24mm×485本、伝熱面積:150m2]を備えた外部ジャケット付グラスライニング反応槽(内容量:30m3)に、メトキシポリ(n=25)エチレングリコール16500部、メタクリル酸4740部、パラトルエンスルホン酸1水和物235部、フェノチアジン5部およびシクロヘキサン1060部を仕込み、反応温度115℃でエステル化反応を行った。別途、シクロヘキサンの還流開始からエステル化反応終了まで、フェノチアジンを含むシクロヘキサン溶液(A)(シクロヘキサン中のフェノチアジンの濃度を1000質量ppmにした。)だけを0.35部/minの速度でコンデンサ内に設けられた下向きノズルを通してコンデンサの塔頂へ降らした。
【0192】
約20時間でエステル化率が100%に達したのを確認した。そして49%水酸化ナトリウム水溶液135部と水4890部を加えてパラトルエンスルホン酸を中和し、ハイドロキノン8部を加えて昇温し、シクロヘキサンを水との共沸で留去した。シクロヘキサンの留去中、コンデンサの塔頂へハイドロキノン1部を含む水301部を滴下した。シクロヘキサン留去後、調整水を添加して80%のエステル化水溶液を得た。以上の操作を3バッチ繰り返した後コンデンサ内部を点検したところ、ゲル状物の発生はなかった。さらに1年間、上記バッチ操作を継続した後にコンデンサ内部を目視で点検したところ、ゲル状物が発生しているのが確認された。これは、上記実施例4のものと1年間で比較した場合、目視で1000倍以上の差が認められた。
【0193】
本実施例の反応組成、反応条件、コンデンサの塔頂へ降らせる重合禁止剤溶液組成、部分中和条件、溶剤留去条件および実験結果を下記表2〜4に示す。
【0194】
実施例11
温度計、攪拌機、生成水分離器および還流冷却管(コンデンサ)を備えた外部ジャケット付ガラス製反応槽(内容量:30リットル)に、メトキシポリ(n=25)エチレングリコール16500部、メタクリル酸4740部、パラトルエンスルホン酸1水和物235部、フェノチアジン5部およびシクロヘキサン1060部を仕込み、反応温度115℃でエステル化反応を行った。なお、シクロヘキサンの還流開始からエステル化反応終了まで、ゲル化防止対策は行わず、したがって、凝縮残液はおろか、ゲル化防止剤溶液も作用させなかった。
【0195】
約20時間でエステル化率が100%に達したのを確認した。そして49%水酸化ナトリウム水溶液135部と水4890部を加えてパラトルエンスルホン酸を中和し、ハイドロキノン8部を加えて昇温し、シクロヘキサンを水との共沸で留去した。シクロヘキサンの留去中、コンデンサの塔頂へハイドロキノン1部を含む水301部を滴下した。シクロヘキサン留去後、調整水を添加して80%のエステル化水溶液を得た。以上の操作を3バッチ繰り返した後コンデンサ内部を点検したところ、多量のゲル状物の発生が認められた。
【0196】
本比較例の反応組成、反応条件、部分中和条件、溶剤留去条件および実験結果を下記表2〜4に示す。
【0197】
なお、ゲル状物の観察が容易な本実施例において、定期的にコンデンサである冷却還流管内部を観察したところ、ゲル状物の生成は、コンデンサの塔頂部に多く認められが、さらに、ここで生成したゲル状物が一部流れ落ちるため、ゲル状物はコンデンサ全体で確認できた。
【0198】
【表2】
Figure 0004001518
【0199】
【表3】
Figure 0004001518
【0200】
【表4】
Figure 0004001518
【0201】
実施例12
温度計、攪拌機、滴下ロート、窒素導入管、温度計、攪拌機、生成水分離器および還流冷却管(コンデンサ)を備えた外部ジャケット付ガラス製反応槽(内容量:30リットル)に、水8200部を仕込み、攪拌下で上記反応器を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃まで昇温した。次に、上記反応器内に、実施例1で得られた80%のエステル化物水溶液(1)13100部に3−メルカプトプロピオン酸94部を溶解させた溶液を4時間かけて滴下すると同時に、過硫酸アンモニウム125部を水1000部に溶解させた水溶液を5時間かけて滴下した。滴下終了後、反応混合液を80℃に1時間維持した。さらに、この反応混合液のpHを水酸化ナトリウムで8になるように調節することにより、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で重量平均分子量21000の本発明のポリカルボン酸(1)を得た。
【0202】
このようにして得られたポリカルボン酸(1)をそのままセメント分散剤として用い、以下の、モルタル試験方法に従ってセメント組成物(1)を調製し、フロー値を測定した。結果を下記表5に示す。
【0203】
<モルタル試験方法>
上記で得られたセメント分散剤[ポリカルボン酸(1)]を含む水240部、セメントとして普通ポルトランドセメント(太平洋セメント製)400部及び豊浦産標準砂800部を、モルタルミキサーで混練して、セメント組成物(1)を調製した。なお、セメント分散剤の添加量は下記表5に示す。
【0204】
次に、このセメント組成物(1)を直径55mm、高さ55mmの中空円筒に充填した後、円筒を垂直に静かに持ち上げ、広がったセメント組成物(1)の長径と短径を測定し、その平均値をフロー値とした。
【0205】
実施例13
実施例1において、メトキシポリ(n=25)エチレングリコールの使用量を19430部に、及びメタクリル酸の使用量を1810部(K値=215)に変更した以外は、実施例1と同様のエステル化反応を行なったところ、約90時間でエステル化率約99%を確認した。次に、シクロヘキサンを水との共沸で留去した後、調整水を添加して80%のエステル化物水溶液(2)を得た。
【0206】
次に、温度計、攪拌機、生成水分離器および還流冷却管(コンデンサ)を備えた外部ジャケット付ガラス製反応槽(内容量:30リットル)に、水8200部を仕込み、攪拌下で上記反応器を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃まで昇温した。続いて、上記反応器内に、上記で得られた80%のエステル化物水溶液(2)13700部に3−メルカプトプロピオン酸58部を溶解させた溶液を4時間かけて滴下すると同時に、過硫酸アンモニウム122部を水2300部に溶解させた水溶液を5時間かけて滴下した。滴下終了後、反応混合液を80℃に1時間維持した。さらに、この反応混合液のpHを水酸化ナトリウムで8になるように調節することにより、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で重量平均分子量19700のポリカルボン酸(2)を得た。
【0207】
このようにして得られたポリカルボン酸(2)をそのままセメント分散剤として用い、実施例12と同様にして、モルタル試験方法に従ってセメント組成物(2)を調製し、フロー値を測定した。結果を下記表5に示す。
【0208】
【表5】
Figure 0004001518
【0209】
表5に示される結果から、K値が好ましい範囲(40〜200)の上限を超えると、フロー値が顕著に下がり、ゆえにセメント分散能が減少することが確認された。
【0210】
【発明の効果】
(1) 本発明のエステル化物の製造方法は、脱水溶剤中で、上記式(1)で示されるアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応を行い、エステル化反応終了後、脱水溶剤を留去する際に、該脱水溶剤を含む留出物に対して重合禁止剤を作用させることにより、ゲル状物の形成を有効防止することができ、コンデンサ等の装置や配管経路の閉塞を防止することができるほか、エステル化反応で脱水溶剤を循環させる際に用いる装置を脱水溶剤を留去する際にも利用する場合には、脱水溶剤を留去する際に形成されたゲル状物が、エステル化物の製造装置を繰り返して(いわば連続的に)運転するような場合に、次のバッチでのエステル化反応において、反応生成水を分離除去した留出物を反応系に還流する際に、該ゲル状物が反応系内に持ち込まれる危険性もなく、よってエステル化物の品質・性能の低下を招くこともない。従って、該エステル化物を用いて製造されるセメント分散剤等の製品の性能及び品質がゲル状物が原因で低下することもない。
【0211】
(2) また、本発明では、上記(1)に記載のエステル化物の製造方法において、ゲル化防止剤を、脱水溶剤を含む留出物を凝縮させる領域で作用させることにより、ゲル化防止剤を留出物中に含まれる未反応の低沸点原料などのゲル状物の形成原料に対して極めて有効かつ効果的に作用させることができるため、上記(1)に示す作用効果が非常に顕著に得られるものである。
【0212】
(3) さらに、本発明では、上記(1)に記載のエステル化物の製造方法において、ゲル化防止剤を、コンデンサ内で作用させることによって、ゲル化防止剤を留出物中に含まれる未反応の低沸点原料などのゲル状物の形成原料に対して極めて有効かつ効果的に作用させることができるため、上記(2)に示す作用効果と同等の作用効果を奏することができる。
【0213】
(4) さらにまた、本発明では、上記(1)〜(3)に記載のエステル化物の製造方法において、前記脱水溶剤を水と共沸して留出させる場合において、ゲル化防止剤を水と混合して作用させることにより、上記(1)〜(3)に記載の作用効果を奏することができるほか、脱水溶剤の留出・除去処理が進につれて、系内の溶液より水と共沸して留出(蒸発)されてくる留出物組成は、そのほとんどが水となるため、かかる留出物の大半を占める水に溶けている未反応の低沸点原料に素早く作用させる上で極めて有利である。
【0214】
(5) さらにまた、本発明では、上記(4)に記載のエステル化物の製造方法において、特に、ゲル化防止剤が水溶性のものである際には、ゲル化防止剤を水に溶解させて作用させることができるため、上記(1)〜(4)に記載の作用効果を奏することができるほか、その取り扱いが容易である;留出物が凝縮液化されたものに対して並流接触等の接触方法により素早く作用させることができる;および例えば、ゲル化防止剤を溶剤に溶解させた水溶液にガス状の留出物を吹込んでやれば、液状化と同時にゲル化防止剤を接触させることもできるなど極めて効率の良く作用させる各種の手法を採用することができるなどの利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係るエステル化物の製造方法に用いられる代表的な装置構成の概略図である。
【図2】 本発明の第二の実施態様に係る代表的なゲル化防止剤供給機構の装置構成を含めた本発明の製造装置の一実施形態を表す概略説明図である。
【図3】 コンデンサ直前のオーバーヘッドライン内にノズルを設置した様子を表す概略説明図である。
【図4】 保存部を兼ね備えるた水分離器の概略説明図である。
【符号の説明】
101…反応槽、
102、150…ジャケット、
103…アルコール用の原料貯蔵タンク、
105…(メタ)アクリル酸用の原料貯蔵タンク、
107…触媒貯蔵タンク、
109…重合禁止剤貯蔵タンク、
111…中和剤貯蔵タンク、
113、115、117、119、121、123、129、137、139、141、145、149、153、157…配管、
116…ポンプ、
125…コンデンサ、
126…噴霧ノズル、
127…水分離器、
131…仕切板、
133、134…水分離器内部の室、
135…反応生成水の処理タンク、
142…循環ポンプ、
143…脱水溶剤貯蔵タンク、
147…ゲル化防止剤貯蔵タンク、
151…循環経路、
155…真空ポンプ、
159…水溶性ゲル化防止剤貯蔵タンク、
501…反応槽、
502…ジャケット、
503、520〜525…配管、
505…コンデンサ、
506…ノズル部、
507…水分離器、
508…保存タンク、
509…重合禁止剤溶液貯蔵タンク、
510〜513…ポンプ。

Claims (2)

  1. 脱水溶剤の存在下、下記式:
    Figure 0004001518
    (ただし、Rは炭素原子数1〜30の炭化水素基を表わし、ROは炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表わし、この際、各ROの繰り返し単位は同一であってもあるいは異なっていてもよく、およびROが2種以上の混合物の形態である場合には各ROの繰り返し単位はブロック状に付加していてもあるいはランダム状に付加していてもよく、ならびにnはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表わし、1〜300の数である)で示されるアルコキシポリアルキレングリコールを(メタ)アクリル酸とエステル化反応し、該エステル化反応が終了した後の脱水溶剤留去工程中に、該脱水溶剤を含む留出物に対してゲル化防止剤を作用させることにより、アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸系単量体(a)を得、該アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸系単量体(a)5〜98質量%、下記式(2):
    Figure 0004001518
    (ただし、Rは水素もしくはメチル基を表わし、Mは水素、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表わす)で示される(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2質量%、ならびにマレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸およびイタコン酸から選ばれる少なくとも1種のジカルボン酸類;前記ジカルボン酸類とHO(R 11 O) 12 (ただし、R 11 Oは炭素原子数2〜4のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表わし、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよく、rはオキシアルキレン基の平均付加モル数であり1から100の整数を表わし、R 12 は水素または炭素原子数1〜22のアルキル基を表わす。)で表わされるアルコールとのモノエステルあるいはジエステル類;(メタ)アクリルアミドおよび(メタ)アクリルアルキルアミドから選ばれる少なくとも1種の不飽和アミド類;酢酸ビニルおよびプロピオン酸ビニルから選ばれる少なくとも1種のビニルエステル類;ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミドおよびスチレンスルホン酸から選ばれる少なくとも1種の不飽和スルホン酸類およびそれらの一価金属塩、二価金属塩、アルモニウム塩、有機アミン塩類;スチレンおよびα−メチルスチレンから選ばれる少なくとも1種の芳香族ビニル類;炭素原子数1〜18の脂肪族アルコールあるいはベンジルアルコールのフェニル基含有アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;およびポリアルキレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル;からなる群から選ばれる少なくとも1種の、(a)および(b)と共重合可能な他の単量体(c)0〜50質量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100質量%)を共重合することを特徴とする、セメント分散剤用ポリカルボン酸系共重合体の製造方法。
  2. 前記他の単量体(c)が、0質量%である、請求項1に記載のセメント分散剤用ポリカルボン酸系共重合体の製造方法。
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