JP3777986B2 - Cvtベルト用エレメントとその製造方法 - Google Patents

Cvtベルト用エレメントとその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、CVTベルト用エレメントとその製造方法に関し、特にベルト式CVT(Continuously Variable Transmission=連続無断変速機)におけるCVTベルトの金属製ベルト本体(スチールバンド)と組み合わせて多数個同時に用いられるいわゆる駒状のエレメントとその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
周知のように、ベルト式CVTの巻き掛け伝達要素として用いられる金属製のCVTベルトは、略駒状をなす数百個の金属製のエレメントを無端状の金属製ベルト本体(スチールベルト、なお、ベルト本体はリングやフープとも称する)にて連結したものが主流を占めている。そして、本発明の実施の形態を示している図1をかりて上記エレメントの基本構造を説明すると、エレメント1は、左右一対の傾斜したトルク伝達面2aが形成されたサドル部2とその上方のイヤー部3およびそのサドル部2とイヤー部3とを幅方向中央部にて相互に接続するネック部4とを備え、そのネック部4の両側に上記三者によって取り囲まれるようにしてベルト本体受容溝5が形成された板状のものであって、各ベルト本体受容溝5に薄板を幾重にも積層してなる図示外の無端状のベルト本体をはめ合わせることにより、数百個のエレメント1,1…がつながれて金属ベルトとして機能することになる。したがって、各エレメント1のうちサドル部2がCVTベルトの内周側となり、イヤー部3がCVTベルトの外周側となる。なお、各ベルト本体受容溝5の部位をサドルと称するが、便宜上、図示するその下側の部位全体を含めて、サドル部と称することとする。
【0003】
そして、上記エレメントのより具体的な構造として、例えば特開昭63−199943号公報に記載されているように、エレメントの表裏両面のうちいずれか一方の面に、相互に分離しつつ基準統一化された少なくとも三つの面が同一平面上に位置するように突出形成し、それら各面がCVTベルトとして駆動されて走行する時の直進方向に対し直角となるように形成したものが知られている。
【0004】
すなわち、各エレメントとスチールベルトとの間には機械的な固定手段はなく、例えば特定のエレメントがプーリとの摩擦力で押されると、そのエレメントが隣のエレメントを押すことの繰り返しで一方のプーリから他方のプーリへとトルクが伝達されることから、上記のように基準統一化された三つの面が形成されていると、CVTベルトが巻き掛けられているプーリの曲率の影響を受けない直線走行領域(ベルト直線部)ではその三つの面が隣のエレメントに密着するようになり、もって直線走行領域でのベルト直進性が安定化してベルト振動を大幅に低減することができるとされている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような従来のエレメントでは、基準統一化された少なくとも三つの面の境界が相互に接近していると、その面同士が互いに拘束し合うかたちとなるために個々の面の変形自由度が小さく、かえって三つの面の全てを隣のエレメントに密着させることが困難となる。
【0006】
また、上記三つの面はプレス印圧加工によって形成されるのが一般的であるから、加工誤差等のためにいずれかの面が例えば数μm程度傾斜して形成されたり、あるいは数μm程度の板厚差をもって形成されることがあり、いずれにしてもエレメントの量産過程において、基準統一化された少なくとも三つの面を常に同一平面上に位置するように加工することはきわめて困難である。このような場合には、上記と同様に三つの面の全てを隣のエレメントに密着させることが困難となり、結果としてエレメント同士が相互に接触する部位が二箇所以下となって、ベルト直線部の走行安定性が図れないという問題があった。
【0007】
本発明は以上のような課題に着目してなされたもので、エレメント同士が少なくとも三箇所以上で確実に密着するようにして、ベルト直線部での走行安定性の向上を図ったエレメントの構造とその製造方法を提供しようとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、無端状のベルト本体にこれを包み込むようにして多数の板状のエレメントを相互接触状態となるように整列して組み付けることによりCVTベルトを構成することになる上記エレメントの構造であって、両側端面にテーパ状のトルク伝達面が形成されてCVTベルトの内周側となるサドル部と、同じくCVTベルトの外周側となるイヤー部、上記サドル部とイヤー部とを幅方向中央部にて相互に連結するネック部、およびそのネック部の両側に該ネック部とサドル部およびイヤー部とによって囲繞されるようにして左右対称に形成されて上記ベルト本体を受容することになるベルト本体受容溝とを備えている。
【0009】
その上で、表裏両面のいずれか一方についてネック部のうちサドル部に近い部分に形成されたネック部側の相互接触基準面と、同じく表裏両面のいずれか一方についてイヤー部の左右対称位置に同じ厚み寸法をもって互いに独立して形成されたイヤー部側の相互接触基準面と、上記相互接触基準面以外の一般面について少なくともネック部のうちイヤー部に近い部分に形成され、そのネック部側の相互接触基準面よりも薄肉化されたネック部逃げ面と、イヤー部側の相互接触基準面同士の間にネック部逃げ面とは独立して形成され、そのネック部逃げ面と同等に薄肉化されたイヤー部逃げ面とを備えていることを特徴としている。つまり、ネック部のうちサドル部に近い部分に比べてイヤー部に近い部分の方が局部的に薄肉化されていて、しかもイヤー部の中央部分でも局部的に薄肉化されていることを特徴としている。
【0010】
ここで、請求項6に記載の発明として、上記ネック部逃げ面としては、ネック部における相互接触基準面よりも2〜10μm程度薄肉化されていることが望ましい。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、上記請求項1に記載の発明を前提とした上で、上記ネック部逃げ面の高さ寸法(n)が1〜3mm、イヤー部逃げ面の幅寸法(e)が5〜8mm、ネック部のうちサドル部に近い部分に形成された相互接触基準面の高さ寸法(h)が少なくとも0.5mmに設定されていることを特徴としている。
【0012】
したがって、この請求項1に記載の発明では、エレメントの加工時に少なくとも三つの相互接触基準面間に加工誤差等による板厚差もしくは傾斜が生じた場合には、局部的に薄肉化されたネック部逃げ面相当部が弾性変形することでスプリングの如き機能を発揮し、上記加工誤差による板厚差等を許容しつつも少なくとも三つの相互接触基準面が確実に相手側のエレメントに密着するようになる。特に、イヤー部に形成された相互接触基準面と、ネック部のうちサドル部に近い部分に形成された相互接触基準面との間に板厚差等が生じた場合には、上記ネック部逃げ面相当部が撓み変形することでイヤー部側の相互接触基準面とネック部側の相互接触基準面との板厚差を吸収するようなはたらきをする。これにより、ベルト直線部では必ずしも完全なる直線状のものとはならず比較的曲率の大きな円弧状のものとなるものの、CVTベルトを形成しているエレメント同士は少なくとも三つの相互接触基準面が確実に密着するかたちとなるため、そのCVTベルトの走行安定性が良好なものとなる。
【0013】
また、イヤー部に左右対称に形成された相互接触基準面同士の間にイヤー部逃げ面が形成されていることにより、そのイヤー部の相互接触基準面間に板厚差等が生じた場合に、上記イヤー部逃げ面相当部が撓み変形することでイヤー部の相互接触基準面間の板厚差を吸収するようなはたらきをする。これにより、上記と同様にCVTベルトを形成しているエレメント同士は少なくとも三つの相互接触基準面が確実に密着するかたちとなるため、そのCVTベルトの走行安定性が良好なものとなる。特に請求項2に記載の発明のように、各部の寸法を特定の値に限定すると少なくとも三つの相互接触基準面によるエレメント同士の密着度合いが最適化される。
【0014】
請求項3に記載の発明は、上記請求項1または2に記載の発明を前提とした上で、上記ネック部およびイヤー部の合計三箇所の相互接触基準面に加えて、サドル部にも厚み寸法が共に等しく且つ互いに独立した相互接触基準面が左右対称に形成されていることを特徴としている。
【0015】
したがって、この請求項3に記載の発明では、サドル部にも相互接触基準面が形成されていることにより、エレメント同士の有効接触面積の拡大化が図れるようになる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、上記請求項3に記載の発明を前提とした上で、上記ネック部のうちサドル部に近い部分に形成された相互接触基準面とサドル部に形成された各相互接触基準面との間には局部的に薄肉化されたサドル部逃げ面が形成されていることを特徴としている。
【0017】
したがって、この請求項4に記載の発明では、サドル部での相互接触基準面の設定によって上記のように単にエレメント同士の有効接触面積が増加するばかりでなく、サドル部逃げ面の存在によって、ネック部のうちサドル部に近い部分に形成された相互接触基準面とサドル部側の相互接触基準面との間でも変形しやすくなることから、相互接触基準面間の板厚差等を効果的に吸収しつつそのCVTベルトの走行安定性が一段と良好なものとなる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、上記請求項1〜4のいずれかに記載のCVTベルト用エレメントを順送りプレス型により打ち抜き形成する方法であることを前提とした上で、母材となるコイル材のうちエレメントとなる部位の一部にコイニング加工を施し、このコイニング加工に続くファインブランキング工程にてサドル部とイヤー部およびネック部を含む輪郭形状をもってコイル材からエレメント形状に打ち抜き、前記コイニング加工またはそれに続くファインブランキング工程にて逃げ面を形成することを特徴としている。
【0019】
したがって、この請求項6に記載の発明では、逃げ面の加工までもが順送りプレス型内での加工として連続的に行われ、上記逃げ面の加工のみのための後加工を一切必要としないことになる。
【0020】
【発明の効果】
請求項1に記載の発明によれば、少なくとも三つの相互接触基準面間に加工誤差等による板厚差もしくは傾斜が生じたとしても、局部的に薄肉化されたネック部逃げ面相当部が弾性変形することで少なくとも三つの相互接触基準面が確実に相手側のエレメントに密着することから、CVTベルトを形成しているエレメント同士は少なくとも三つの相互接触基準面が確実に密着するかたちとなるため、そのCVTベルトの走行安定性がきわめて良好なものとなる効果がある。
【0021】
また、イヤー部に形成された相互接触基準面同士の間にネック部逃げ面とは別にイヤー部逃げ面が形成されていることから、そのイヤー部の相互接触基準面間に板厚差等が生じた場合にも上記イヤー部逃げ面が撓み変形することでイヤー部の相互接触基準面間の板厚差を吸収することができ、そのCVTベルトの走行安定性がより一層良好なものとなるほか、特に請求項2に記載の発明のように、各部の寸法を特定の値に限定すると少なくとも三つの相互接触基準面によるエレメント同士の密着度合いが最適化される効果がある。
【0022】
請求項3に記載の発明によれば、ネック部およびイヤー部の合計三箇所の相互接触基準面に加えて、サドル部にも相互接触基準面が左右対称に形成されていることから、エレメント同士の有効接触面積の拡大化が図れるようになり、請求項1または2に記載の発明と同様の効果に加えて、CVTベルトの走行安定性がなお一層良好なものとなる効果がある。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、ネック部側の相互接触基準面とサドル部に形成された各相互接触基準面との間には局部的に薄肉化されたサドル部逃げ面が形成されていることから、エレメント同士の有効接触面積が増加するばかりでなく、サドル部逃げ面の存在によってネック部側の相互接触基準面とサドル部側の相互接触基準面との間でもエレメントが変形しやすくなることから、CVTベルトの走行安定性が一段と良好なものとなる効果がある。
【0024】
請求項5に記載の発明によれば、エレメントに加工誤差による板厚差が生じたとしてもこれを十分許容し、またエレメントの強度を確保でき、成形性も良好である。
【0025】
請求項6に記載の発明によれば、請求項1〜4のいずれかに記載のエレメントを製造するにあたって、逃げ面の加工までもが順送りプレス型内での加工として連続的に行われ、上記逃げ面の加工のみのための後加工を一切必要としないことから、生産性に優れるとともに加工工程数を少なくしてエレメントの製造コストを低減できる効果がある。
【0026】
【発明の実施の形態】
図1は本発明に係るCVTベルト用エレメント(以下、単にエレメントという)の好ましい実施の形態を示す図であって、同図(A)はエレメントの正面説明図を、(B)は同図(A)の右側面図をそれぞれ示している。
【0027】
図1に示すエレメント1は、先に説明したように左右一対の傾斜したトルク伝達面2aが形成されたサドル部2とその上方のイヤー部3、およびそのサドル部2とイヤー部3とを幅方向中央部にて相互に接続するネック部4とを備え、そのネック部4の両側に上記三者によって取り囲まれるようにしてベルト本体受容溝5が形成された板状のものとして形成されている。そして、上記ネック部4の直近位置においてサドル部2とイヤー部3とのなすベルト本体受容溝5の溝幅寸法をそれぞれサドル部2側およびイヤー部3側に広げるべく略円弧状の逃げ溝5aが形成されていて、これらの逃げ溝5aはネック部4の両側端面を含むかたちで略長円形をなしている。
【0028】
ここで、サドル部2の上半部2bと下半部2cとを比較した場合に両者はその裏面側では面一状のものとなっているものの、下半部2cは表面側からの有段成形により上半部2bよりもわずかに薄肉に形成されているとともに、上半部2bの表面側は下半部2c側に向かって漸次その板厚が小さくなる傾斜面状のものとして形成されている。また、イヤー部3の表面側中央部にはエンボス部6が、また裏面には隣接するエレメント1のエンボス部6を受容するための凹部7がそれぞれ形成されている。
【0029】
上記エレメント1の表面側において、イヤー部3の左右対称位置には略三角形状をなす相互接触基準面8が形成されているほか、ネック部4のうちサドル部2寄りの位置には矩形状の相互接触基準面9が、またサドル部2の上縁部の左右対称位置には同じく略矩形状の相互接触基準面10がそれぞれに形成されている。なお、図1では各相互接触基準面8,9,10の領域をわかりやすくするために該当部分にハッチングを施してある。
【0030】
これらの各相互接触基準面8,9,10は、エレメント1自体が多数整列した状態でCVTベルトとして機能する際に、その五つの相互接触基準面8,9,10をもって隣接するエレメント1の裏面に確実に密着させるために全て同じ高さ(厚み寸法)となるように形成されているもので、エレメント1自体の一般面に対して数μm程度厚くなるように形成されている。
【0031】
また、上記エレメント1の表面側において、イヤー部3のうちエンボス部6の周囲にはこれを取り囲むようにしてイヤー部逃げ面としてのイヤー凹状部11が形成されているほか、ネック部4のうちイヤー部3寄りの位置にはネック部逃げ面として矩形状のネック凹状部12が、またサドル部2のうち相互接触基準面9を挟んでその両側にはサドル部逃げ面として同じく矩形状のサドル凹状部13が左右対称にそれぞれ形成されている。これらのイヤー凹状部11やネック凹状部12およびサドル凹状部13は、五つの相互接触基準面8,9,10のうち隣接する相互接触基準面同士の間に介在して各相互接触基準面8,9,10を積極的に独立化させるために設けられているもので、エレメント1の一般面に対して少なくとも2μm以上薄くなるようにして加工誤差による板厚差等を許容し、また大きな段差とならないようにして強度を確保し成形性も良好にすることを考慮し、望ましくは2μm〜10μm程度薄くなるように形成されている。
【0032】
そして、上記イヤー凹状部11の幅寸法eは5〜8mm程度に、ネック凹状部12の高さ寸法nは1〜3mm程度に、サドル凹状部13の幅寸法sは最大でも3mm程度にそれぞれ設定されているとともに、ネック部4の下部の相互接触基準面9の高さ寸法hは最低でも0.5mm程度確保するように設定してある。なお、上記サドル凹状部13の幅寸法sを最大でも3mm程度に設定してあるのは、エレメント1が後述する入力側もしくは出力側のプーリに巻き付いた時のサドル部2での接触面積を可及的に大きく確保してトルク伝達性能を高めるためである。
【0033】
したがって、このように構成されたエレメント1によれば、図2,3に示すよう多数のエレメント1,1…を整列させつつ無端状のスチールバンドを幾重にも積層してなる一対のベルト本体14と組み合わせてCVTベルトとして機能させた場合、CVTベルトそのもののトルク容量と、図4に示す入出力プーリ15,16間のベルト直線部Pでの伝達状態におけるエレメント1の変形量とは、反比例の関係にある。また、エレメント1の変形量は、エレメント1における各相互接触基準面8,9,10の面一性(板厚均一性)に比例し、かつエレメント1,1同士の相互接触面積に反比例して少なくなる。したがって、各相互接触基準面8,9,10における板厚の均一性すなわち各相互接触基準面8,9,10間の面一性がCVTベルト性能に直接影響してくることになる。
【0034】
特に、図4に示すベルト直線部Pでの各エレメント1,1…の姿勢は上記五つの相互接触基準面8,9,10が均一に当たることで安定化するため、各相互接触基準面8,9,10の面一性が重要な要素となる一方、各相互接触基準面8,9,10の面一性精度を高めるにも自ずと限界があることは先に述べた通りである。
【0035】
そこで、本実施の形態では、各相互接触基準面8,9,10の面一性に関する精度誤差を容認しつつも、エレメント1の五つの相互接触基準面8,9,10を隣接するエレメント1に確実に密着させようとするものであり、例えば合計五つの相互接触基準面8,9,10のうちいずれか一つもしくは複数の相互接触基準面が隣のエレメント1に接触しなかった場合に、一つ以上の相互接触基準面が伝達力を受けたことにより生ずるモーメントMをもってエレメント1のうち相対的に薄肉に形成されているイヤー凹状部11、ネック凹状部12もしくはサドル凹状部13を積極的に弾性変形させ、それにより相互接触基準面8,9,10の全てを隣のエレメント1に圧接させることができる。
【0036】
例えば図2に示すように、イヤー部3の相互接触基準面8とネック部4の相互接触基準面9との関係について着目し、両者の板厚tがともに等しいのが理想であるにもかかわらずその両者の間にΔt(例えば3μm程度)なる面段差(板厚差)が生じた場合に、イヤー部3側の相互接触基準面8が伝達力を受けるとモーメントMが生じ、隣接するエレメント1,1同士が次々と隣りのエレメント1を押すかたちとなる。そして、図3に示すようにモーメントMを受けるとエレメント1のうち相対的に薄肉のネック凹状部12が弾性変形領域Bとして撓み変形して、イヤー部3側の相互接触基準面8のみならずネック部4側の相互接触基準面9も相手側のエレメント1に圧接するようになる。
【0037】
これらのことは、イヤー部3に形成された一対の相互接触基準面8,8同士の間およびサドル部2に形成された一対の相互接触基準面10,10同士の間についても全く同様であり、左右の相互接触基準面8,8同士もしくは10,10同士の間に面段差が生じた場合には、相対的に薄肉のイヤー凹状部11もしくはサドル凹状部13が撓み変形することで、互いに対となった相互接触基準面8,8同士もしくは相互接触基準面10,10同士を確実に隣のエレメント1に密着させることができるようになる。なお、上記五つの相互接触基準面8,9,10の全てが隣のエレメント1に圧接することが理想ではあるが、少なくともイヤー部3側の二つの相互接触基準面8,8とネック部4下部の相互接触基準面9との三つの相互接触基準面が隣のエレメント1に圧接すれば所期の目的を達成することが可能である。
【0038】
ここで、上記のようにエレメント1の局部的な撓み変形により少なくとも上記三つの相互接触基準面8,8,9、望ましくは五つの相互接触基準面8,9,10の全てをもって隣接するエレメント1,1同士が接触するようになると、各エレメント1が図3に示すようなΔθの曲率をもつようになり、結果として図4のベルト直線部Pにおいても直線状ではなく所定の曲率Rをもつようになるものの、これは隣接するエレメント1,1同士の接触状態がきわめて良好であることの結果にほかならず、ベルト直線部Pでの走行性がきわめて安定したものとなる。なお、上記の曲率Rは、図3に示すようにΔθ=Δt/Lで、かつR・Δθ=tとすると、R=(t・L)/Δtで表され、例えば上記Δtを3μm程度とするとベルト直線部Pでの曲率Rはおよそ6m程度となる。
【0039】
また、上記のようにネック部4の上部に撓み変形可能なネック凹状部12を形成してあると、図5に示すように、ベルト直線部Pにおける動力伝達の中心P1がネック凹状部12を形成しない場合の中心P11に比べてmだけエレメント1の重心Gに近付くかたちとなり、結果としてエレメント1に作用するモーメントMを可及的に軽減できるようになる。
【0040】
ここで、上記各相互接触基準面8,9,10は、必ずしもエレメント1の一般面よりもわずかに厚肉化させることにより形成されている必要はなく、例えば一般面と面一状態のものであってもよい。この場合には、イヤー凹状部(イヤー部逃げ面)11やネック凹状部(ネック部逃げ面)12およびサドル凹状部(サドル部逃げ面)13は一般面よりも窪んでいることが条件とされる。逆に、上記各相互接触基準面8,9,10を一般面よりもわずかに厚肉化させることにより形成している場合には、イヤー凹状部(イヤー部逃げ面)11やネック凹状部(ネック部逃げ面)12およびサドル凹状部(サドル部逃げ面)13は一般面と面一状態のものであってもよい。
【0041】
また、上記サドル部2に形成された左右一対の相互接触基準面10,10がともにネック部4下部の相互接触基準面9と同じ厚み寸法をもって形成されている場合には、サドル部逃げ面であるサドル凹状部13は必ずしも必要としない。ただし、サドル部2における一対の相互接触基準面10,10での板厚寸法をイヤー部3側の相互接触基準面8,8での板厚寸法よりも小さくした場合には、上記サドル凹状部13は必須となる。これは、エレメント1が図4の入力側プーリ15もしくは出力側プーリ16に巻き付いた時に、サドル部2側の相互接触基準面10よりも厚肉のネック部4下部側の相互接触基準面9を逃がして、そのサドル部2での接触面積を可及的に大きく確保してトルク伝達性能を高めるためである。
【0042】
図6は本発明に係るエレメント1の好ましい第2の実施の形態を示す図で、図1と比較すると明らかなようにサドル部2側の一対の相互接触基準面10,10間に単一のサドル部逃げ面としてサドル凹状部23を形成した点で第1の実施の形態のものと異なっている。本実施の形態においても第1の実施の形態と同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0043】
図7,8は図1に示したエレメント1を製造するための順送りプレス型の説明図で、この順送りプレス型30は、母材である特殊鋼板等のコイル材31に2個のパイロット穴32を打ち抜き形成すると共にサドル部2周囲の逃がし穴33を形成する工程と、前記両パイロット穴32を基準としてコイル材31を順送りして位置決めしながら、イヤー凹状部11やネック凹状部12およびサドル凹状部13を先行して形成するために該当する部分をコイニング方式にて印圧して相対的に薄肉化すると共に、相互接触基準面10を除くサドル部2を印圧して薄肉化する工程と、上記エレメント1の輪郭形状をもってコイル材31からそのエレメント1をファインブランキング方式にて打ち抜く工程とを含んでいる。
【0044】
なお、この順送りプレス型30は下型側が可動側となるいわゆるアンダードライブタイプのものである。
【0045】
上記両パイロット穴32の加工は、上型側のピアスポンチ36と下型側のボタンダイ37との噛み合いに基づく剪断作用によってなされ、同時に逃がし穴33の加工は同様に上型側のピアスポンチ34と下型側のボタンダイ35との噛み合いに基づく剪断作用によってなされる。なお、図7に示す説明図では、図8に示すコイル材31の幅方向中心部を基準とした断面を示すが、上型側のピアスポンチ36と下型側のボタンダイ37は、便宜上図8に示す一方のパイロット穴32の中心を基準にした断面を示す。
【0046】
一方、上記イヤー凹状部11やネック凹状部12、サドル凹状部13および相互接触基準面10を除くサドル部2のコイニング加工は、上型側のコイニングダイ38と下型側のコイニングポンチ39とでコイル材31のうちの該当部分を印圧し、その部分を相対的に薄肉化させることにより形成される。ここで、相互接触基準面10を除くサドル部2を印圧して薄肉化させた際に、余肉がその周囲に流れるが、その余肉は逃がし穴33に流れて吸収することから、コイル材31の特にエレメント1となる部位を歪ませることがない。なお、上記ピアスポンチ34,36やコイニングダイ38等は上型リテーナ40に支持されているとともに、ボタンダイ35,37やコイニングポンチ39等は下型リテーナ41に支持されている。
【0047】
こうしてコイニング加工が終了すると、コイル材31は上型側のストリッパ42と下型リテーナ41とで加圧拘束されている状態で、エレメント1となるべき部分が同じく上型側の打ち抜きポンチ43と下型側のセクショナルパッド44とで加圧拘束されながら、ボタンダイ45との間の剪断作用により、イヤー部3とサドル部2およびネック部4とを含む輪郭形状をもって、表面側を下側としていわゆるファインブランキング方式にてエレメント1が打ち抜かれる。同時に、エレメント1の表面の各相互接触基準面8,9,10のほかエンボス部6が印圧成形される。なお、46はバックプレートである。
【0048】
そして、エレメント1の打ち抜きが終了すると、下型の下降動作とともにセクショナルパッド44がそのエレメント1をコイル材31側に押し戻すように突き上げ、最終的にコイル材31から分離されたエレメント1はエアブロー等の手段により吹き飛ばされて回収される。
【0049】
なお、この実施の形態では、エレメント1となる部位の一部として、イヤー凹状部11とネック凹状部12およびサドル凹状部13、更には相互接触基準面10を除くサドル部2をコイニング加工した例を示したが、これに限らず、逃げ面としてのイヤー凹状部11とネック凹状部12およびサドル凹状部13をコイニング加工せずに相互接触基準面10を除くサドル部2のみの加工とし、このコイニング加工に続くファインブランキング工程で前記逃げ面としてのイヤー凹状部11とネック凹状部12およびサドル凹状部13を形成するようにしてもよい。その際には、図8において鎖線で示すイヤー凹状部11とネック凹状部12およびサドル凹状部13を上型側の打ち抜きポンチ43と下型側のセクショナルパッド44との加圧により薄肉化させながら、ボタンダイ45との剪断作用によりエレメント1を打ち抜くようにする。このとき同時にエレメント1の表面の各相互接触基準面8,9,10のほかエンボス6を同時に印圧成形するのは前記したのと同様である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るCVTベルト用エレメントの好ましい実施の形態を示す図で、(A)はその正面説明図、(B)は同図(A)の右側面図。
【図2】図1に示すエレメントが多数整列されてCVTベルトとして機能する際の説明図。
【図3】図1に示すエレメントが多数整列されてCVTベルトとして機能する際の説明図。
【図4】CVTベルトがプーリ間に巻き掛けられて状態を示す説明図。
【図5】図1に示すエレメントが多数整列されてCVTベルトとして機能する際の伝達中心の変化を示す説明図。
【図6】本発明に係るCVTベルト用エレメントの第2の実施の形態を示す図で、(A)はその正面説明図、(B)は同図(A)の右側面図。
【図7】図1に示すエレメントをプレス加工するための順送りプレス型の要部断面説明図。
【図8】図7の要部平面説明図。
【符号の説明】
1…CVTベルト用エレメント
2…サドル部
3…イヤー部
4…ネック部
5…ベルト本体受容溝
8…相互接触基準面
9…相互接触基準面
10…相互接触基準面
11…イヤー凹状部(イヤー部逃げ面)
12…ネック凹状部(ネック部逃げ面)
13…サドル凹状部(サドル部逃げ面)
14…ベルト本体
23…サドル凹状部(サドル部逃げ面)
30…順送りプレス型
31…コイル材

Claims (6)

  1. 無端状のベルト本体にこれを包み込むようにして多数の板状のエレメントを相互接触状態となるように整列して組み付けることによりCVTベルトを構成することになる上記エレメントの構造であって、
    両側端面にテーパ状のトルク伝達面が形成されてCVTベルトの内周側となるサドル部と、同じくCVTベルトの外周側となるイヤー部、上記サドル部とイヤー部とを幅方向中央部にて相互に連結するネック部、およびそのネック部の両側に該ネック部とサドル部およびイヤー部とによって囲繞されるようにして左右対称に形成されて上記ベルト本体を受容することになるベルト本体受容溝と、
    表裏両面のいずれか一方についてネック部のうちサドル部に近い部分に形成されたネック部側の相互接触基準面と、
    同じく表裏両面のいずれか一方についてイヤー部の左右対称位置に同じ厚み寸法をもって互いに独立して形成されたイヤー部側の相互接触基準面と、
    上記相互接触基準面以外の一般面について少なくともネック部のうちイヤー部に近い部分に形成され、そのネック部側の相互接触基準面よりも薄肉化されたネック部逃げ面と、
    イヤー部側の相互接触基準面同士の間にネック部逃げ面とは独立して形成され、そのネック部逃げ面と同等に薄肉化されたイヤー部逃げ面と、
    を備えていることを特徴とするCVTベルト用エレメント。
  2. 上記ネック部逃げ面の高さ寸法(n)が1〜3mm、イヤー部逃げ面の幅寸法(e)が5〜8mm、ネック部のうちサドル部に近い部分に形成された相互接触基準面の高さ寸法(h)が少なくとも0.5mmに設定されていることを特徴とする請求項1に記載のCVTベルト用エレメント。
  3. 上記ネック部およびイヤー部の合計三箇所の相互接触基準面に加えて、サドル部にも厚み寸法が共に等しく且つ互いに独立した相互接触基準面が左右対称に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のCVTベルト用エレメント。
  4. 上記ネック部のうちサドル部に近い部分に形成された相互接触基準面とサドル部に形成された各相互接触基準面との間には局部的に薄肉化されたサドル部逃げ面が形成されていることを特徴とする請求項3に記載のCVTベルト用エレメント。
  5. 上記ネック部逃げ面は、ネック部における相互接触基準面よりも2μm〜10μm薄肉化されていることを特徴とする請求項1に記載のCVTベルト用エレメント。
  6. 請求項1〜4のいずれかに記載のCVTベルト用エレメントを順送りプレス型により打ち抜き形成する方法であって、
    母材となるコイル材のうちエレメントとなる部位の一部にコイニング加工を施し、
    このコイニング加工に続くファインブランキング工程にてサドル部とイヤー部およびネック部を含む輪郭形状をもってコイル材からエレメント形状に打ち抜き、前記コイニング加工またはそれに続くファインブランキング工程にて逃げ面を形成することを特徴とするCVTベルト用エレメントの製造方法。
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