JP3775877B2 - 芳香族ポリアミド着色フィルムおよびその製造法 - Google Patents

芳香族ポリアミド着色フィルムおよびその製造法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、パラ配向型芳香族ポリアミドよりなるフィルムに関するものであり、更に詳しくは、フィルムの長尺方向(以下MD方向と略す)および幅方向(TD方向)ともに優れた機械的性能を示し、さらに耐熱性、寸法安定性及び電気絶縁性に優れた着色フィルムに関するものである。
【従来の技術】
パラ配向型の芳香族ポリアミドは、優れた結晶性や高い融点を有し、また剛直な分子構造の故に高い機械的強度を有しており、高性能の繊維及びフィルムとしてすでに工業的に利用されている。
代表的なパラ配向型の芳香族ポリアミドである、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下、PPTAという)のフィルムとしての利用については、例えば特公昭57ー17886号公報に記載された、PPTAを濃硫酸等の強酸に溶解した光学異方性ドープを凝固直前に光学等方性になるまで加熱した後、凝固させることによって透明で機械的物性が等方的に優れたフィルムを得る方法により、実用化されている。PPTAを製膜する際に、光学異方性ドープを光学等方性に変化させることなくそのまま凝固させたフィルムは、一般に不透明であり、フィルムの幅方向の機械的物性、寸法安定性が悪く、工業的な応用は困難である。
【0002】
パラ配向型芳香族ポリアミドの芳香核にハロゲンを導入した単位を共重合することにより有機溶剤に可溶化し、その有機溶剤溶液から製膜した、透明で等方的な性質を有するフィルムが提案されている(例えば特公昭56ー45421号公報)。
このような、パラ配向型芳香族ポリアミドフィルムは、優れた機械的性質、耐熱性、耐薬品性等を有するため、例えばフレキシブルプリント配線板(FPC),テープオートメーティドボンディング(TAB)用キャリアテープなどの絶縁基板、スピーカー振動板、ボイスコイル等の音響部材、太陽電池用基板等としての応用が期待されている。
機械的特性に優れ、工業的に利用可能なパラ配向型芳香族ポリアミドフィルムは、通常、淡黄色透明であり、400nm以上の波長の光線の透過性を有している。しかしながら、例えば、再外装にフィルムを用いる場合に、内部への光線透過の影響を避けるとか、フィルム表面に形成した部材を光学的に加工する場合に、加工に用いる光線の裏面への透過を避ける等の要求に応えるため、光線透過率の低いフィルムが必要となる場合がある。
【0003】
パラ配向型芳香族ポリアミドフィルムの着色方法としては、水分を含んだフィルムとカチオン染料、アニオン染料、分散染料、直接染料等の染料または有機顔料、無機顔料等の顔料を含有する液を接触させた後に乾燥させる方法が提案されている(例えば特開昭63−145004号公報、特開昭63−243145号公報、特開平3−217429号公報)。このフィルムは、着色無しのフィルムに比較して、湿度に対する寸法安定性や電気絶縁性が低下するという問題があった。これは、着色に用いる染料等が酸性又は塩基性の官能基や金属元素を多く含むことが一つの原因と考えられ、寸法安定性及び電気絶縁性が強く要求される用途において使用されるには問題があった。
【0004】
一方、PPTAフィルムの製造において、溶媒として用いた硫酸等の強酸が少量残存した状態で乾燥、熱処理を行うことによりある程度着色したフィルムが得られるが、機械的物性がきわめて低く工業的に使用できるレベルではない。
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、パラ配向型芳香族ポリアミドを用いた機械的性能及び耐熱性の優れた着色フィルムであって、特に寸法安定性及び電気絶縁性に優れた着色フィルムを提供するにある。
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的に沿った着色フィルムを得るべく鋭意研究を重ねた結果、パラ配向型芳香族ポリアミドを主成分とするフィルムにおいて、特定の機械的物性、吸湿膨張率及び光線透過率を有する着色フィルムがこれらの目的のために有用であり、特定の化合物をフィルム中に含有させた状態で熱処理することにより、上記の特性を有する着色フィルムが得られることを見いだし、更に研究を重ねて本発明として完成させたものである。
【0005】
すなわち本発明は、
(1)対数粘度が3.5以上のポリ−p−フェニレンテレフタルアミドを主たる成分としてなるフィルムであり、該フィルムの長手及び幅方向のヤング率がともに500kg/
mm2 以上、伸度が8%以上、吸湿膨張係数が40×10-6/%RH以下であり、該フィルムの着色成分はフィルム自体及び炭水化物の微量の分解生成物を主とするものであり、530nmにおける光線透過率が40%以下であり、かつフィルム中のアルカリまたはアルカリ土類金属の含有量が1000ppm以下であることを特徴とする芳香族ポリアミド着色フィルム、
(2)対数粘度が3.5以上のポリ−p−フェニレンテレフタルアミドを湿式法、乾式法、または乾湿式法で製膜するに際し、熱処理前のフィルムに炭水化物を含有させた後300℃以上500℃以下で熱処理することを特徴とする芳香族ポリアミド着色フィルムの製造方法、
(3)対数粘度が3.5以上のポリ−p−フェニレンテレフタルアミドを湿式法にて製膜するに際し、緊張下、定長下または僅かに延伸しつつ乾燥し、ついで熱処理前のフィルムに炭水化物を含有させた後300℃以上500℃以下で熱処理することを特徴とする芳香族ポリアミド着色フィルムの製造方法、
(4)対数粘度が3.5以上のポリ−p−フェニレンテレフタルアミドを濃硫酸に溶解して光学異方性ドープとし、湿式法にて製膜するに際し、一旦液晶状態で押し出し、光学等方化した後に凝固させること、凝固されたフィルムを中和した後、二酸化炭素水溶液処理し、緊張下、定長下または僅かに延伸しつつ乾燥し、ついで熱処理前のフィルムに炭水化物を含有させた後300℃以上500℃以下で熱処理することを特徴とする芳香族ポリアミド着色フィルムの製造方法、
である。
本発明の着色フィルムを形成する主成分であるパラ配向型芳香族ポリアミドは、
【0008】
ーp−フェニレンテレフタルアミド(PPTA)である。
【0009】
本発明に用いる芳香族ポリアミドの重合度は、あまりに低いと本発明の目的とする機械的性質の良好なフィルムが得られなくなるため、通常3.5以上の対数粘度ηinh(硫酸100mlにポリマー0.2gを溶解して30℃で測定した値)を与える重合度のものが選ばれる。
本発明のフィルムは、加工時、及び使用時の良好な機械的特性を確保するため、長手及び幅方向のヤング率が500kg/mm2以上である必要があり、800kg/mm2以上であることが好ましい。
本発明のフィルムは、加工及び使用する際のハンドリング性を確保するために、8%以上の伸度を有することが必要であり、15%以上であることが好ましい。
本発明のフィルムの吸湿膨張係数は、40×10-6/%RH以下であることが必要であり、35×10-6/%RH以下であることが好ましく、30×10-6/%RH以下であることが更に好ましい。吸湿膨張係数が40×10-6/%RHを越えるフィルムは、例えば絶縁基板用途において、配線パターンの位置の湿度による変化が大きい等の問題があり、高い寸法精度が要求される用途に使用できない。
【0010】
本発明のフィルムの熱収縮率は、0.2%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがさらに好ましい。熱収縮率が大きいフィルムは、高温での加工時に寸法の永久変化が起こり、設計寸法とのずれが生ずる等の問題がある。
本発明のフィルムの絶縁破壊電圧は厚さ40〜50μmのフィルムにおいて100kv/mm以上が好ましく、150kv/mm以上がさらに好ましい。絶縁破壊電圧は、フィルムを電気回路基板として用いる場合に重要であり、この値が低いと配線間の短絡が起こりやすく、性能が悪くなる。
【0011】
本発明のフィルムの光線透過率は、波長530nmにおいて40%以下である必要があり、40%を越えると充分な遮光能力は得られない。光線透過率はより好ましくは25%以下である。波長530nmでの光線透過率が低いと、半導体、液晶等の加工用として用いられているYAGの第二高長波レーザーの透過性が低く、フィルム上に形成した素子をレーザー加工する際に裏面への影響を避けられるという特徴を有する。また、再外装にフィルムを用いる場合に、内部への光線透過の影響を避けることができる特徴も有する。
本発明のフィルム中のアルカリまたはアルカリ土類金属の含有量は1000ppm以下が好ましく、100ppm以下が更に好ましい。アルカリまたはアルカリ土類金属がフィルム中に多く存在していると、吸湿寸法安定性、電気絶縁性が悪化することが多く、本発明においては、これらの金属含有量の少ない着色フィルムを用いることが好ましい実施態様である。
【0012】
本発明のフィルムの厚さは通常3μm以上100μm以下であり、10μm以上70μm以下がさらに好ましい
本発明の着色フィルムの密度は、1.38以上が好ましく、1.40以上が更に好ましい。本発明のフィルムの着色成分は、フィルム自体及び炭水化物の微量の分解生成物を主とするものであって、一般的な染料、顔料等の着色成分を実質的に含まないものであり、このために密度が比較的高く、構造の緻密な着色フィルムであることが特徴である。
次に本発明の芳香族ポリアミド着色フィルムの製造方法について説明する。
パラ配向型芳香族ポリアミドは融点が高く溶融成形できないため、溶媒に溶解した成形体溶液(以下ドープと称する)を用いて、湿式法、乾式法、または乾湿式法で製膜する。有機溶剤に難溶性のPPTAでは、ポリマーを濃硫酸等の無機の強酸に溶解してドープとし、湿式法にて製膜することが行われ、例えば特開昭62−174118号公報に示されるように一旦液晶状態で押し出し、光学等方化した後に凝固させる方法が好ましく用いられる。一方、例えば、クロル置換PPTAなどの有機溶剤可溶な芳香族ポリアミドでは、重合時に副生する塩酸を中和して重合反応混合物をそのまま成形溶液(以下ドープと称する)とし、湿式法または乾式法、または乾湿式法にて製膜する方法が好ましく用いられる。
【0013】
ドープをフィルム状に成形する方法は、本発明を実施する上で特に限定されるものではなく、ダイから直接凝固浴に押し出す方法、ダイから一旦エンドレスベルト上にキャストするか、エンドレスベルト上にドクターナイフやその他の方法でドープをコーティングした後、ベルト上で溶剤を蒸発させるか、ベルトと共に凝固浴に導いて湿式凝固させる方法がある。
この様に製膜された後、フィルムは水洗され、次いで重合時に副生する酸や溶解に用いた酸が残っていれば中和処理を行う。
製膜されたフィルムに酸が含まれていると、乾燥、熱処理に際して加熱による機械的物性の低下を生じるために中和を行うことが好ましい。
中和に用いるアルカリとしては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0014】
中和後のフィルムは、余剰のアルカリ及び中和で生成した無機塩を洗浄により除去した後、好ましくは二酸化炭素水溶液で処理する。二酸化炭素水溶液の処理により、芳香族ポリアミド分子の末端基等に結合するアルカリまたはアルカリ土類金属イオンンを除去することができ、フィルム中の金属イオン含有量を少なくすることができる。
本発明においては、熱処理前のフィルムに炭水化物を含有させておき、300℃以上500℃以下の温度で熱処理する必要がある。ここで炭水化物とは、分子中の元素比率が、一般式Cm(H2 O)nで表される化合物のことであり、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、タガトース、キシロース、アラビノース、リブロース、キシルロース、リキソース、リボース、デオキシリボース等の単糖類、サッカロース、マルトース、セロビオース、ゲンチオビオース、メリビオース、ラクトース、ツラノース、ソホロース、トレハロース、イソトレハロース、サッカロース、イソサッカロース等の二糖類、セルロース、デンプン、グリコーゲン、カロニン、ラミナラン、デキストラン、イヌリン、レバン、マンナン、キシラン、アラビアゴムの多糖類等が挙げられる。炭水化物添加による着色の原因は、フィルム自体の熱分解による着色の促進と、炭水化物の分解物による着色物の生成と考えられ、従来の染料または顔料による着色と異なるものである。フィルム中への含浸を容易とするため、炭水化物としては水溶性のものが好ましく用いられる。
【0015】
炭水化物をフィルム中に含有させる方法としては、炭水化物を製膜用ドープに添加する方法、凝固浴に添加する方法、乾燥前または乾燥後のフィルムにこれら炭水化物を含んだ溶液に接触させて含浸する方法等が挙げられ、凝固後のフィルムを水洗、中和、炭酸処理した後、水を含んだ未乾燥フィルムを炭水化物水溶液に接触させて含浸し、その後に乾燥、熱処理する方法が好ましく用いられる。
フィルムの溶液への接触は、フィルムを溶液中に浸漬するか、またはフィルムに溶液を噴霧、シャワリングすることによって行うことができる。溶液濃度、温度、接触時間は必要な含有量に応じて決められるが、通常溶液濃度は1〜10%、温度は10℃〜100℃、接触時間は10秒〜20分の範囲にとられる。
このようにして得られたフィルムは、必要に応じて表面に付着した溶液を洗浄した後、乾燥されるが、望むならば乾燥に先立って延伸することもできる。即ち、乾燥前の湿潤フィルムを1方向または2方向に1.01〜1.4倍程度延伸することによりフィルムの吸湿膨張率を低下させ機械的性質を向上させることができる。
【0016】
フィルムの乾燥は、通常緊張下、定長下または僅かに延伸しつつ、行うのが好ましい。このような乾燥を行う方法として、例えばテンター乾燥器や金属枠に固定して乾燥することができる。乾燥温度は、通常、100℃〜300℃の範囲にとられる。
本発明においては、このようにして得た乾燥フィルムを300℃以上、500℃以下で熱処理する必要があり、この熱処理により機械的性能、寸法安定性を向上させると共に、光線透過率を低下させる。熱処理は、緊張下、定長下または弛緩状態で行うことが出来、これらの組み合わせで2段階以上で行うこともできる。
【0017】
熱処理温度が300℃未満では、添加した炭水化物の熱分解が不十分で遮光性不足、使用時の熱分解による寸法変化等の問題がある。一方、500℃を越えると、芳香族ポリアミドの熱分解が進み、機械的性能の低下が大きい。
本発明においては、良好な機械的性能、寸法安定性、及び光線透過性を有する着色フィルムを得るためには、熱処理温度、熱処理時間として適正な条件を選ぶ必要があり、熱処理温度としては350℃以上450℃以下、熱処理時間としては10秒以上100秒以下が好ましく用いられる。
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施態様、本発明の効果について理解を助けるため、パラアラミドとして典型的なPPTAを選び、以下に実施例を示すが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。また、他のパラ配向型芳香族パラアラミドにおいても同様に本発明の効果が得られるであろうことが容易に理解できるであろう。
なお、実施例中、特に規定しない場合は重量部または重量%を示す。
【0018】
対数粘度ηinhは98%硫酸100mlにポリマー0.2gを溶解し、30℃で常法で測定した。
ドープの粘度は、B型粘度計を用い0.5rpmの回転速度で測定したものである。
フィルムの厚さは、直径2mmの測定面を持ったダイヤルゲージで測定した。
強伸度及びヤング率は、200mm×10mmの大きさのサンプルを定速伸張型強伸度試験機を用い、測定長100mm、引張速度50mm/分で測定したものである。
吸湿膨張係数は、50mm×10mm(測定長40mm)の大きさのサンプルを用いエアーオーブンで200℃、2時間フィルムを乾燥させて測定した長さ(L0 )と、23℃、55%RH雰囲気で充分吸湿させて測定したフィルムの長さ(L1 )から、吸湿膨張係数=(L1 −L0 )/L0 ÷55(%RH)の式より求めた。なおフィルムの寸法測定は、測定顕微鏡(OLYMPUS製)を用いて測定したものである。
【0019】
熱収縮率は、フィルムから2cm×5cmの試料片を切り出し、4cmの間隔に刃物で傷をつけて標識とし、予め23℃、55%RHの雰囲気下に72時間放置した後、標識間の距離を読み取り顕微鏡にて測定し、次いで200℃の熱風式オーブンに2時間拘束することなく放置した後、再度23℃、55%RHの雰囲気下に72時間放置した後、標識間の距離を読み取り顕微鏡にて測定して求めた。
密度は、四塩化炭素−トルエンを使用した密度勾配管法により30℃で測定したものである。絶縁破壊電圧は、60Hzの交流を6mm直径の電極から100mm×100mmのフィルムサンプルに印加して測定した。
フィルム中の金属イオン含有量は、誘導結合型プラズマ発光分析装置(日本ジャーレルアッシュ社製 ICAP−575−II)により測定したものである。光線透過率は、分光光度計(平沼産業製 モデル6B)を用い、波長530nmでの透過率を測定した。
【0020】
(参考例−PPTAの製造)
低温溶液重合法により、次のごとくPPTAを得た。特公昭53−43986号公報に示された重合装置中でN−メチルピロリドン1000部に無水塩化リチウム70部を溶解し、ついでパラフェニレンジアミン48.6部を溶解した。8℃に冷却した後、テレフタル酸ジクロライド91.4部を粉末状で一度に加えた。数分後に重合反応物はチーズ状に固化したので、特公昭53−43986号公報記載の方法に従って重合装置より重合反応物を排出し、直ちに2軸の密閉型ニーダーに移し、同ニーダー中で重合反応物を微粉砕した。次に微粉砕物をヘンシェルミキサー中に移し、ほぼ等量の水を加えさらに粉砕した後、濾過し、数回温水中で洗浄して、110℃の熱風中で乾燥した。ηinhが6.1の淡黄色のポリマー95部を得た。
【0021】
【実施例】
実施例1
濃度99.5%の濃硫酸に前記参考例のηinhが6.1であるPPTAを60℃で溶解し、ポリマー濃度12%の原液を調製した。この原液の粘度を60℃で測定したところ、4800ポイズだった。この原液は光学異方性を有していた。この原液を、60℃に保ったまま真空下に脱気した。タンクからフィルタを通し、ギアポンプにより送液し、0.4mm×700mmのスリットを有するTダイから、鏡面に磨いたタンタル製のベルト上にドープをキャストし、相対湿度約25%、温度約120℃の空気を吹き付けて、流延ドープを光学等方化し、ベルトと共に15℃の57%硫酸水溶液中に導いて凝固させた。ついで凝固フィルムをベルトから引き剥がし、室温水中を6分間、次に2.0重量%水酸化ナトリウム水溶液中を6分間、更に室温の水の中を6分間走行させて洗浄した後、二酸化炭素約0.01%水溶液(pH=4.5)中を12分間走行させた。更に、60℃の1%溶性デンプン水溶液中を10分間走行させ室温の水で5分間洗浄した。洗浄後、フィルムを1.02倍長尺方向(以下、MD方向と略す)にロール延伸し、次いで幅方向(TD方向)に1.08倍テンターで延伸した後、テンターに挟んだまま定長で200℃で(熱風)乾燥し、更にテンターに挟んだまま定長で400℃のホットプレートで30秒間熱処理した後、弛緩状態で280℃で熱処理した後、厚さ50μm、幅508mmのフィルムを巻取った。
【0022】
得られたフィルムの密度は1.41であり、長手及び幅方向のヤング率はそれぞれ1110kg/mm2,1100kg/mm2、伸度はそれぞれ16.8%,16.7%、吸湿膨張率はそれぞれ28×10-6/%RH,29×10-6/%RH、熱収縮率はそれぞれ0.08%,0.08%、絶縁破壊電圧は189kv/mmであり、金属イオンとしてナトリウムイオンを45ppm含んでいた。フィルムの530nmにおける光線透過率は9.8%であった。
【0023】
比較例1
実施例1において1%溶性デンプン水溶液中のかわりに、三井東圧製の酸性染料ナイロンブラックGL(商品名)の4%水溶液中を走行させた以外は、実施例1と全く同様にしてPPTAフィルムを製造した。得られたフィルムの密度は1.39であり、長手及び幅方向のヤング率はそれぞれ1090kg/mm2,1150kg/mm2、伸度はそれぞれ49.2%,49.5%、吸湿膨張率はそれぞれ46×10−6/%RH,44×10−6/%RH、熱収縮率はそれぞれ0.14%,0.13%、絶縁破壊電圧は97kv/mmであり、金属イオンとしてナトリウムイオンを4800ppm含んでいた。フィルムの530nmにおける光線透過率は1%以下であった。
このフィルムは、光線透過率が低く、十分な遮光性を有する物であるが、吸湿膨張率が高く、寸法安定性が不十分である。
【0024】
比較例2
実施例1において1%溶性デンプン水溶液中を走行させなかった以外は、実施例1と全く同様にしてPPTAフィルムを製造した。得られたフィルムの密度は1.41であり、長手及び幅方向のヤング率はそれぞれ1120kg/mm2,1130kg/mm2、伸度はそれぞれ32.3%,28.9%、吸湿膨張率はそれぞれ31×10−6/%RH,33×10−6/%RH、熱収縮率はそれぞれ0.06%,0.05%、絶縁破壊電圧は171kv/mmであり、金属イオンとしてナトリウムイオンを45ppm含んでいた。フィルムの530nmにおける光線透過率は63%であった。 このフィルムは、光線透過率が高く、遮光を必要とする用途には不適当な物である。
【0025】
実施例2〜6及び比較例3、4
実施例1で二酸化炭素水溶液を走行させた後のフィルムを湿潤状態で巻き取ったものを切り取って、以下の実験に供した。
フィルムは約14cm×28cmの大きさに切り出し、表1に記載した化合物中に60℃で5分間浸した後、表面を水で洗浄し、ステンレス鋼製の型枠の間に挟んでフィルムの収縮が起こらないようにし、200℃の熱風オーブン中にて乾燥し、次いで400℃の熱風オーブン中に1分間熱処理し、さらに、型枠から外した後、320℃の熱風オーブン中で1分間熱処理した。
得られたフィルムの特性を次の表1に示す。
【0026】
【表1】
Figure 0003775877
実施例2〜6は本発明のフィルムであり、機械的物性、吸湿寸法安定性、電気絶縁性の優れた着色フィルムである。
【0027】
一方、比較例3は、酸性染料で染色したフィルムであり、吸湿膨張率が大きく、絶縁破壊電圧が低い。
比較例4は、炭水化物を添加しないで製造したフィルムであり、光線透過率が高く、遮光性が不十分である。
比較例5
実施例1で、ベルトから引き剥がした凝固フィルムを切り取り、10分間水洗した後、約14cm×28cmの大きさに切り出し、ステンレス鋼製の型枠の間に挟んでフィルムの収縮が起こらないようにし、200℃の熱風オーブン中にて乾燥し、次いで400℃の熱風オーブン中に1分間熱処理し、さらに、型枠から外した後、320℃の熱風オーブン中で1分間熱処理した。得られたフィルムの密度は1.42であり、長手方向のヤング率は1160kg/mm2,伸度は1.2%、吸湿膨張率は33×10-6/%RH、熱収縮率はそれぞれ0.05%,絶縁破壊電圧は146kv/mmであり、金属イオンの含有量は5ppm以下であった。フィルムの530nmにおける光線透過率は35%であった。
このフィルムは、製膜時の残留硫酸により着色したフィルムであるが、伸度がきわめて低く、ハンドリングが困難で実用性は無い。
【0028】
【発明の効果】
本発明のフィルムは、パラ配向型芳香族ポリアミドフィルムの良好な機械的性能、耐熱性、寸法安定性が損なわれることない着色フィルムであり、且つ、従来の方法で製造した着色フィルムに比べ吸湿膨張率が小さく、絶縁破壊電圧が高い。
従って、製品使用上の特徴として、例えば、再外装にフィルムを用いる場合に、内部の部品への光線による影響を避けることができる、内部構造の外への露出をさける等の特徴を有する。一方、フィルム加工上の特徴として、フィルム表面に形成した素子等をを光学的に加工する場合に、加工に用いる光線の裏面への透過を避けることができる。
これらの特長を生かして、フレキシブルプリント配線板(FPC),テープオートメーティドボンディング(TAB)用キャリアテープなどの絶縁基板、スピーカー振動板、ボイスコイル等の音響部材、太陽電池用基板等として利用することができる。

Claims (4)

  1. 対数粘度が3.5以上のポリ−p−フェニレンテレフタルアミドを主たる成分としてなるフィルムであり、該フィルムの長手及び幅方向のヤング率がともに500kg/mm2 以上、伸度が8%以上、吸湿膨張係数が40×10-6/%RH以下であり、該フィルムの着色成分はフィルム自体及び炭水化物の微量の分解生成物を主とするものであり、530nmにおける光線透過率が40%以下であり、かつフィルム中のアルカリまたはアルカリ土類金属の含有量が1000ppm以下であることを特徴とする芳香族ポリアミド着色フィルム。
  2. 対数粘度が3.5以上のポリ−p−フェニレンテレフタルアミドを湿式法、乾式法、または乾湿式法で製膜するに際し、熱処理前のフィルムに炭水化物を含有させた後300℃以上500℃以下で熱処理することを特徴とする芳香族ポリアミド着色フィルムの製造方法。
  3. 対数粘度が3.5以上のポリ−p−フェニレンテレフタルアミドを湿式法にて製膜するに際し、緊張下、定長下または僅かに延伸しつつ乾燥し、ついで熱処理前のフィルムに炭水化物を含有させた後300℃以上500℃以下で熱処理することを特徴とする芳香族ポリアミド着色フィルムの製造方法。
  4. 対数粘度が3.5以上のポリ−p−フェニレンテレフタルアミドを濃硫酸に溶解して光学異方性ドープとし、湿式法にて製膜するに際し、一旦液晶状態で押し出し、光学等方化した後に凝固させること、凝固されたフィルムを中和した後、二酸化炭素水溶液処理し、緊張下、定長下または僅かに延伸しつつ乾燥し、ついで熱処理前のフィルムに炭水化物を含有させた後300℃以上500℃以下で熱処理することを特徴とする芳香族ポリアミド着色フィルムの製造方法。
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