JP3766465B2 - 光学活性な2級アルコールの製造法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、医薬(例えば抗生物質など)、農薬、液晶、香料等の製造に有用な光学活性2級アルコールの製造法に関する。より詳細には、微生物菌体の乾燥パウダーを用いる光学活性2級アルコールの効率良い製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
光学活性な2級アルコールの製造方法として、化学的に合成された第二アルコールのラセミ体を光学分割剤を用いて光学分割する方法、ケトン化合物をキラルな水素化物や不斉遷移金属錯体を用いて還元する方法などが知られている。
【0003】
しかし、これらの方法は、いずれも高価な光学分割剤や触媒等を使用する必要があることや、生成物の光学純度が低いことなどの問題点がある。
【0004】
微生物を利用してケトン体から光学活性なアルコールを得ることも、広く行われており、パン酵母を代表とする微生物が最もよく用いられる。他の微生物としてはカルボニル基のα位の炭素原子に特定の置換基が結合したケトン化合物に、キャンディダ属微生物を作用させる方法(特開平6-225777)等が検討されている。
【0005】
しかしながら、微生物には、複数の還元酵素を有するものが多くあることから、満足すべき光学純度を得ることができない場合が多く見られる。
【0006】
これを解決するために、これまでには、有機溶媒を使用したり、添加剤を加えたり、不要な酵素の阻害剤を入れたりすることにより行われていた。[Tetrahedron Lett., 36巻, 265頁(1995)]、[J. Org. Chem., 56巻, 4778頁(1991)]等
【0007】
一方、微生物から特定の酵素を取り出した場合は、反応の選択性は、非常に高い結果が得られるものの、酵素の安定性の点から長期間にわたり使用、保管が出来ず、工業的に用いることが出来ないものとなっていた。
【0008】
更に酵素による還元反応においては、補酵素であるNAD+あるいはNADP+の再生がもう一つの大きな課題であった。
【0009】
また、もう一つのアルコール再生系を用いて酵素反応を進める方法として、[Tetrahedron Lett., 29巻, 2453頁(1988)]に見られる方法があるが、収率は55%程度と満足すべきものとなっていない。
【0010】
そのため、これらの方法では、経済的かつ簡便な方法で光学純度の高い光学活性2級アルコールを効率よく得ることが困難であった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、前記目的を達成するため、鋭意検討の結果、微生物菌体を乾燥処理した菌体パウダーを用いることにより収率よく、不斉還元が速やかに進行し、光学純度の高い対応する光学活性2級アルコールが収率よく得られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、実用的な方法を検討した結果、微生物菌体を乾燥処理することにより得られる菌体パウダーを用い、アルコール再生系として2−アルカノールと補酵素として触媒量のNAD(P)+を加え、一般式(I)
【0013】
【化1】
Figure 0003766465
【0014】
(式中、R1はメチル基、エチル基などの炭素数16迄のアルキル基で、途中、酸素又はハロゲンで置換されていてもよい。R2は、ハロゲンや炭素数3迄で置換されたアリール基あるいは、炭素数12迄のアルコキシカルボニルメチル基で途中に不飽和結合を有していてもよく、又、分岐していてもよい、或いは炭素数6迄の直鎖或いは枝分かれした途中、二重結合を有してもよいアルキル基を表す。)で表されるケトン体を、対応する光学活性アルコールへ高収率、高純度で変換することができることが出来ることを見いだした。
【0015】
更に本方法が、収率、光学純度の面からも従来と比べ十分に工業的にも有用な方法であることを見い出して完成された発明である。
即ち、本発明は、一般式(I)
【0016】
【化2】
Figure 0003766465
【0017】
(式中、R1はメチル基、エチル基などの炭素数16迄のアルキル基で、途中、酸素又はハロゲンで置換されていてもよい。R2は、ハロゲンや炭素数3迄で置換されたアリール基あるいは、炭素数12迄のアルコキシカルボニルメチル基で途中に不飽和結合を有していてもよく、又、分岐していてもよい、或いは炭素数6迄の直鎖或いは枝分かれした途中、二重結合を有してもよいアルキル基を表す。)で表されるケトン化合物に、2級アルコール(炭素数8迄の直鎖あるいは分岐あるいは環状)の存在下で微生物菌体乾燥パウダーを作用させ、一般式(II)
【0018】
【化3】
Figure 0003766465
【0019】
(式中、R1はメチル基、エチル基などの炭素数16迄のアルキル基で、途中、酸素又はハロゲンで置換されていてもよい。R2は、ハロゲンや炭素数3迄で置換されたアリール基あるいは、炭素数12迄のアルコキシカルボニルメチル基で途中に不飽和結合を有していてもよく、又、分岐していてもよい、或いは炭素数6迄の直鎖或いは枝分かれした途中、二重結合を有してもよいアルキル基を表し、*は光学活性点を表す。)で表される光学活性2級アルコールの製造法を提供する。
【0020】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いる微生物の乾燥処理した菌体パウダーとは、例えば、適当な栄養培地を用いて培養された菌体を集菌し、適当な乾燥手段を講じて得ることが出来る。
【0021】
乾燥手段としては、当該菌体成分である各種の活性成分が変成しない条件が選ばれる。即ち、有機溶媒処理による乾燥処理や凍結乾燥処理などが使用できる。
【0022】
また、本発明においては微生物菌体表面を脱脂処理することと乾燥処理を同時に行うことが出来る点で、好ましくは、有機溶媒処理(アセトンが好ましい)が用いられる。その処理方法についてより具体的に説明する。
【0023】
適当な栄養培地を用いて培養された菌体を集菌し、これら微生物菌体を低温(例えば、−20℃)に冷やしたアセトンに懸濁し攪拌後、ろ過し、この操作を数回繰り返した後、適当な手段(例えば、減圧乾燥)により乾燥後、菌体のアセトンパウダーを得ることが出来る。
【0024】
本発明に用いる微生物菌体としては、一般式(I)
【0025】
【化4】
Figure 0003766465
【0026】
(式中、R1はメチル基、エチル基などの炭素数16迄のアルキル基で、途中、酸素又はハロゲンで置換されていてもよい。R2は、ハロゲンや炭素数3迄で置換されたアリール基あるいは、炭素数12迄のアルコキシカルボニルメチル基で途中に不飽和結合を有していてもよく、又、分岐していてもよい、或いは炭素数6迄の直鎖或いは枝分かれした途中、二重結合を有してもよいアルキル基を表す。)で表されるケトン体を一般式(II)
【0027】
【化5】
Figure 0003766465
【0028】
(式中、R1はメチル基、エチル基などの炭素数16迄のアルキル基で、途中、酸素又はハロゲンで置換されていてもよい。R2は、ハロゲンや炭素数3迄で置換されたアリール基あるいは、炭素数12迄のアルコキシカルボニルメチル基で途中に不飽和結合を有していてもよく、又、分岐していてもよい、或いは炭素数6迄の直鎖或いは枝分かれした途中、二重結合を有してもよいアルキル基を表し、*は光学活性点を表す。)
で表される光学活性なアルコールへ変換させる活性を有する微生物であれば、いかなる微生物でもよい。
【0029】
例えば、ゲオトリカム(Geotrichum)属に属する微生物やエンドマイセス(Endomyces)属に属する微生物が利用できる。より好ましくはゲオトリカム属に属する微生物が利用できる。より具体的には、例えばGeotrichum candidum IFO 4597やGeotrichum candidum IFO 5767、Endomyces・geotrichum IFO 9541、Endomyces magnesie IFO 4660などが挙げられる。
【0030】
これらの微生物菌体は、還元反応を有する酵素を産生している状態であれば、いかなるステージのものでも利用できる。
【0031】
本発明に用いる2級アルコールとしては炭素数8迄の直鎖あるいは分岐あるいは環状ものであれば用いることができ、具体的には、イソプロパノール、2−ペンタノール、シクロペンタノールなどが利用できる。
【0032】
本発明に用いる補酵素は、NAD+でもよく、NADP+でもよく、その量は1%以下で十分である。
【0033】
本発明の反応における特徴は、一般式(I)
【0034】
【化6】
Figure 0003766465
【0035】
(式中、R1はメチル基、エチル基などの炭素数16迄のアルキル基で、途中、酸素又はハロゲンで置換されていてもよい。R2は、ハロゲンや炭素数3迄で置換されたアリール基あるいは、炭素数12迄のアルコキシカルボニルメチル基で途中に不飽和結合を有していてもよく、又、分岐していてもよい、或いは炭素数6迄の直鎖或いは枝分かれした途中、二重結合を有してもよいアルキル基を表す。)に示す様に多くのケトン体に利用でき、高収率、高光学純度で反応が進行することは言うに及ばず、休止菌体(湿菌体)をそのまま利用する場合に比べ、乾燥したアセトンパウダーは1年以上にわたって長期に保存が可能である。
【0036】
実際、休止菌体の場合は2〜3日しか用いることができない欠点があった。
【0037】
更に、基質に対する乾燥したアセトンパウダーの重量は、休止菌体を用いる場合の50分の1に軽減された。
【0038】
以下、実施例により、本発明をより具体的に詳述するが、本発明は、これに限定されたものではない。
【0039】
【実施例】
実施例1
アセトンパウダーの調整
常法により培養したGeotrichum candidum IFO 4597の菌体を-20℃に冷やしたアセトン10倍量に加え、しばらく攪拌後、ろ過した。
【0040】
この操作を3度行い、得られた菌体粉末を、減圧下、24時間乾燥した。このものは、冷凍庫(5℃)保管により1年以上使用可能であった。
【0041】
実施例2
3−オキソブタン酸メチルエステル0.08mMとNAD+1.5μMと2−ペンタノール 100μlを実施例1で調整したアセトンパウダー10mgを入れた緩衝液(pH7.1, 0.01M-MES)3mlに加え、30℃で1日攪拌した。
【0042】
混合物をケイソウ土に吸着させた後、目的物をエーテルで溶出し、光学活性ガスクロマトグラフィーにより、測定した結果、収率99%,99%eeでS体の3−ヒドロキシブタン酸メチルエステルが得られた。
【0043】
実施例3
m−クロロアセトフェノン1mMとNAD+ 50mgと2−プロパノール 800mgを実施例1で調整したアセトンパウダー200mgを入れた緩衝液(pH7.1, 0.01M-MES)30mlに加え、30℃で1日攪拌した。
【0044】
混合物をケイソウ土に吸着させた後、目的物をエーテルで溶出し、光学活性ガスクロマトグラフィーにより、測定した結果、収率95%,99%eeでS体のm−クロロフェニル−1−エタノールが得られた。
【0045】
実施例4
各種ケトン体について実施例2と同様に操作した。その結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
Figure 0003766465
【0047】
表より明らかなように、本発明により、各種ケトン体から高収率、高純度で対応する光学活性な2級アルコールが製造できることがわかる。
【0048】
【発明の効果】
本発明により、工業的に利用可能な方法としてケトン体から光学活性アルコールの製法が見い出された。

Claims (3)

  1. ケトン体から光学活性2級アルコールを製造する方法において、触媒量のNAD+及び/又はNADP+、2級アルコール並びに微生物の乾燥処理した菌体パウダーを用いることを特徴とする光学活性2級アルコールの製造法。
  2. 乾燥処理した菌体パウダーが有機溶媒処理した菌体パウダーである請求項1記載の光学活性2級アルコールの製造法。
  3. 使用する微生物がゲオトリカム(Geotrichum)属に属する微生物である請求項1又は請求項2記載の光学活性2級アルコールの製造法。
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