JP3763640B2 - 空気入りタイヤ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、帯電防止用ゴム組成物を用いて通電経路を形成せしめた空気入りタイヤに関し、詳しくは、低燃費性能を向上させるべくシリカの如き充填剤が多量に配合された、低導電性のトレッドに帯電を防止するためのゴム組成物を用いて通電経路を形成せしめた空気入りタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
低燃費性能に優れたトレッド、特にはシリカ含有トレッドを備えたタイヤは電気抵抗値が高く、導電性が低いため、車体やタイヤで発生した静電気がトレッドを通して地表に逸散しにくく、そのため、ラジオノイズの問題や、電気ショック、スパーク等による問題があった。
【0003】
かかる問題を解決する方法として、これまで主に下記の方法が知られている。
その一つは、厚い導電性ゴムシートをトレッド幅方向中央部にトレッド表面からトレッド下層ゴムまで、或いは薄い導電性ゴムシートをトレッドショルダーからサイド内側へ挟み込むものである(例えば、欧州特許第658 452号明細書、米国特許第5518055号明細書および特開平8−34204号公報参照)。
【0004】
また、他の方法は、通常タイヤで用いられるカーボンブラックとは異なった、導電性に優れたカーボンブラックを配合したトレッドゴムを用いるというものである。
【0005】
さらに、他の方法は、タイヤ製造時のトレッド押出し時にトレッド表面に導電性物質、例えば、水をベースとしたゴム組成物に導電性のカーボンブラックを配合したセメント等をコーティングする方法である(例えば、特開平8−120120号公報参照)。この方法によると、タイヤ加硫後の製品タイヤが乗用車に装着され踏面部が摩耗しても、踏面部のパターンとして刻まれている多くの溝の側壁に導電性のコーティング物質が残存し、これによりタイヤ全体に帯電した静電気を路面に逸散させることができるとするものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところが上記いずれの方法も各々以下に述べる如き製造上及び品質上の問題があり、必ずしも十分に満足の得られるものではなかった。
例えば、前記欧州特許第658 452号明細書等に開示されている如きゴムシートや接触ゴム層では、走行初期にはその効果は維持されるが、充填剤として汎用カーボンブラックが使われた場合には走行末期に導電層の摩耗促進により通電経路が遮断され、帯電防止効果が消失してしまうという問題があった。特に、シリカ配合ゴム組成物によるトレッドキャップの耐摩耗性の向上に伴い、かかる効果を走行末期まで維持するには、導電性ゴムシートや接触ゴム層の耐摩耗性もトレッドキャップゴムと同様に向上させなければ、走行末期にキャップゴムだけが接地して、結果として帯電防止効果が得られなくなってしまう。
【0007】
また、タイヤトレッドゴムに、ゴム成分100重量部に対して導電性カーボンブラックを数重量部加えた場合、該トレッドゴムの固有抵抗値は低下するものの、そのタイヤ本来の目的である低燃費性が著しく悪化し、またそのカーボンブラック自身、ポリマーとの補強性が著しく低いため、結果としてタイヤトレッドの耐摩耗性が低下するという問題がある。
【0008】
さらに、キャップ層のゴム表面に導電性のカーボンブラックを配合した水ベースセメントをコーティングする方法は、そのセメント自身の放置安定性に問題があり、相分離を生ずるおそれがあり、また塗布時の発泡性を防止するために、種々の安定化剤が必要となり、それらが加硫後フィルム上となったゴム組成物の耐久性を低下させ、また加硫時のモールド汚染の原因となる。さらに、キャップ層のゴム組成物は疎水性であり、上述の水ベースセメント塗布の際、乾燥までに時間がかかり、また塗りむらが生じ、結果として塗布被膜の耐久性が悪化する。さらにまた、加硫時、キャップ層のゴムと水ベースセメントの被覆ゴムとの界面接着力が低下し、走行中に界面剥離が生じ、走行末期には通電経路が断たれ、帯電防止効果が得られなくなってしまうという問題がある。
【0009】
そこで本発明の目的は、シリカの如き充填剤が多量に配合された、低導電性のトレッドを有する低燃費性空気入りタイヤにおいて、帯電防止効果を高めるとともに、放置安定性をも高めることにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の固有抵抗値を有するゴム層を、低導電性トレッドを有する低燃費性空気入りタイヤの所定の箇所に適用して通電経路を形成せしめることにより、前記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の通りである。
(1)固有抵抗値が106Ω・cm以下である厚さ100μm〜1mmのゴム層が、固有抵抗値が108Ω・cm以上であるタイヤトレッドゴムの外表面から該トレッドに隣接する少なくとも1の部材の一部へ接触して周方向に連続する層を形成してなり、かつ、前記ゴム層が、ジエン系ゴム100重量部に対し、窒素吸着比表面積(N 2 SA)が130m 2 /g以上でかつジブチルフタレート吸油量(DBP)が110ml/100g以上のカーボンブラックが40〜100重量部含まれているゴム組成物からなることを特徴とする空気入りタイヤである。
【0012】
(2)前記(1)の空気入りタイヤにおいて、トレッド幅方向に少なくとも1の前記連続層がタイヤトレッドの外表面とトレッド下層ゴムとの間に、周方向に連続的に連なって存在する空気入りタイヤである。
【0013】
(3)前記(2)の空気入りタイヤにおいて、前記連続層がトレッド中央部に1箇所存在する空気入りタイヤである。
【0014】
(4)前記(2)の空気入りタイヤにおいて、連続層がトレッド中央部に対し左右一対存在する空気入りタイヤである。
【0015】
(5)前記(1)の空気入りタイヤにおいて、連続層がタイヤトレッドの外表面とウィングまたはサイドウォールゴムとの間に、周方向に連続的に連なって存在する空気入りタイヤである。
【0017】
(6)前記いずれかの空気入りタイヤにおいて、タイヤの電気抵抗値、すなわちリムと地表との間の電気抵抗値が107Ω以下となる空気入りタイヤである。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明における、固有抵抗値が106Ω・cm以下のゴム層用のゴム組成物に使用するジエン系ゴムは、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)または天然ゴム(NR)の少なくとも1種を含むことが耐久性の観点より好ましい。
【0019】
また、前記ゴム層用ゴム組成物には、窒素吸着比表面積(N2SA)が130m2/g以上でかつジブチルフタレート吸油量(DBP)が110ml/100g以上のカーボンブラックを使用することが好ましい。このゴム組成物では、かかる小粒径でかつ高ストラクチャーのカーボンブラックを使用することで、通電経路を形成するゴム層の耐久性を向上させ、タイヤの走行末期まで帯電防止効果を発揮し得るようにする。ここでN2SAはASTM D3037−89に、またDBPはASTM D2414−90に夫々準拠して求められる値である。
【0020】
かかるカーボンブラックの配合量がジエン系ゴム100重量部に対して40重量部未満では補強性が十分ではなく、一方100重量部を超えると軟化剤が少ない場合には加硫後に硬くなり過ぎ、割れ等が発生し、また軟化剤が多い場合には耐摩耗性が低下する。なお、カーボンブラック以外の配合剤としては、ゴム製品において通常用いられる配合剤、例えば加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、軟化剤、老化防止剤等が通常用いられる配合量にて適宜配合されている。
【0021】
次に、本発明の空気入りタイヤの構造について具体的に説明する。
本発明の空気入りタイヤは、前記ゴム層が、固有抵抗値が108Ω・cm以上であるタイヤトレッドゴムの外表面から該トレッドに隣接する少なくとも1の部材の一部へ接触して周方向に連続する層を形成する。ここでいう「一部」とは、図1〜3に見られるようにタイヤ幅方向にみて一部のことであり、周方向には連続層を形成する。
【0022】
本発明の空気入りタイヤの好適例では、トレッド幅方向に少なくとも1の前記連続層がタイヤトレッドの外表面とトレッド下層ゴムとの間に、周方向に連続的に連なって存在する。この場合、図1の(イ)に模式的に示すように、前記連続層aがトレッド1の中央部に1箇所だけ存在しても、あるいは図1の(ロ)または(ハ)に模式的に示すように連続層aがトレッド1の中央部に対し左右一対存在しても、良好な帯電防止効果を得ることができる。なお、トレッド下層ゴムは、トレッドがキャップ/ベース2層構造を有する場合には当該ベースゴム、または単層トレッドの場合には当該単層トレッドに隣接する下層ゴムである。
【0023】
また、本発明の空気入りタイヤの他の好適例では、連続層aがウィング(ミニサイド)ゴム(図2)との間に、周方向に連続的に連なって存在する。
【0024】
通常、シリカ配合ゴムは低転がり抵抗と高いウェット性能の両立を目的として用いられるが、連続層aの導電層ゴムには高カーボンブラック充填のゴムが用いられるため、シリカ配合ゴムに比較して著しくヒステリシスロスが高くなる。その結果、その導電層の厚みが厚くなるとタイヤの低転がり抵抗性が低下する。また、高カーボンブラック充填の導電ゴム層は、耐摩耗性においてシリカ配合ゴムに比較して劣るため、厚い導電層ではその部分の摩耗がシリカ配合ゴムに比して促進され、結果として走行末期では導電層が接地しない部分が発生し、体積抵抗値が高くなってしまう。
【0025】
連続層aの導電層の加硫後の厚さは、走行末期までの耐久性を考えた場合、100μm〜1mm、好ましくは200〜800μmである。この厚さが1mmを超えると上述の通りタイヤの転がり抵抗が悪化し、また偏摩耗の発生を促進させる他、トレッドキャップゴムとの弾性率差に起因する剥離現象が起こりやすくなり、走行末期まではタイヤとして低電気抵抗値を安定して維持することが困難となる。さらに、厚みが大きすぎることで、トレッドゴムと前記連続層ゴムとの物性差により発生しやすくなっている偏摩耗の発生を防止するためには、市販タイヤに準備される多種のトレッドゴム組成に対応して前記連続層ゴムを準備することになり、生産性が低下する。一方、100μm未満であると薄シート出し時の作業性の困難さと、加硫時のゴム流れにより通電層が遮断される可能性がある。
【0026】
本発明の空気入りタイヤにおいて、タイヤの電気抵抗値、すなわちリムから地表まで間の電気抵抗値の一例を図2に基づき具体的に説明する。図2に示す空気入りタイヤのトレッドキャップ1からウィング(ミニサイド)2の内側に本発明に係るゴム層5を挟み込んだ場合、キャップゴムの固有抵抗値が1011Ω・cmと高くとも、該ゴム層の固有抵抗値が105Ω・cm、ミニサイドの固有抵抗値が106Ω・cm、サイドウォールの固有抵抗値が106Ω・cm、またゴムチェーファーの固有抵抗値が105Ω・cmであると、ゴム層5を介して地表−キャップ上ゴム層5−ミニサイド2−サイドウォール3−ゴムチェファー4−リム−車体と通電経路が形成され、キャップゴムの固有抵抗値に関係なくタイヤとして低い電気抵抗値を維持することができる。尚、ミニサイドを有しない空気入りタイヤにおいてもキャップ−サイドウォール間で同様の通電経路が形成され、同様の効果が得られる。本発明の空気入りタイヤでは、このようにして形成された通電経路に基づくリムと地表との間の電気抵抗値が107Ω以下となることが、帯電を良好に防止する上で好ましい。
【0027】
【実施例】
以下に、本発明を実施例および比較例に基づき具体的に説明する。
下記の表1および表2に示す配合処方に従い、空気入りタイヤのトレッドキャップゴム、および各種帯電防止用ゴム組成物A、Bを夫々調製した。
【0028】
【0029】
【0030】
得られたゴム組成物A、Bを図3に示す如く導電層6として、サイズ185/70R14の空気入りタイヤのトレッド中央部でベルト7に達するまでタイヤ周方向に連続的に配置した。加硫後の新品タイヤにおける導電層6のゲージは下記の表3に示す通りである。尚、シリカ配合トレッドゴムの60℃のtanδは0.18、導電層Aの60℃のtanδは0.29であった。
【0031】
また、これらのタイヤの抵抗値(電気抵抗値)は、次のようにして求めた。
即ち、GERMAN ASSOCIATION OF RUBBER INDUSTRYのWdK 110 シート3に準拠してヒューレットパッカード(HEWLETT PACKARD)社製モデルHP4339Aのハイレジスタンスメーターを使用し、図4のようにして測定した。図中、11はタイヤ、12は鋼板、13は絶縁板、14は前記ハイレジスタンスメーターであり、絶縁板13上の鋼板12とタイヤ11のリムとの間に1000Vの電流を流して測定した。
【0032】
さらに、導電層6の固有抵抗値は、次のようにして求めた。
即ち、円盤形状のサンプルを作製し、半径:r=2.5cm、厚さ:t=0.2cmの部分の電気抵抗値Rを、図5に示すアドバンス社製絶縁抵抗試験箱を用いて測定し、次式により固有抵抗値ρを計算した。
ρ=(a/t)R
(式中、aは断面積(=π×r2)、tは厚さを用いて求めた。なお、図5中、Aは主電極、Bは対電極、Cはガード電極、tは試料の厚さを示す。
新品時、10,000km走行後および40,000km走行後の電気抵抗値および新品時タイヤの転がり抵抗を下記の表3に示す。
【0033】
(表3)
*1 外径1708mmのドラム上に内圧1.70kg/cm2に調整した供試タイヤを接地し、JIS 100%荷重を負荷させた後、80km/hrで30分間予備走行させ、空気圧を再調整し200km/hrの速度までドラム回転速度を上昇させた後ドラムを惰行させ、185km/hrから20km/hrまでドラム回転速度が低下するまでの慣性モーメントから下記式に従い転がり抵抗を算出し、比較例1を100として指数表示した。数値が大きい程結果が良好である。
式中ID:ドラムの慣性モーメント
It:タイヤの慣性モーメント
RD:ドラム半径
Rt:タイヤ半径
*2 参考例および比較例2は10,000km走行後はタイヤ周上、測定点により非常に値のバラツキが大きく、周上4点測定の抵抗値幅を表示した。
【0034】
上記表3から、比較例2のように導電層の厚みが厚くなるとタイヤの低転がり抵抗性が低下することが分かった。
【0035】
これに対し、実施例1および参考例ではいずれもタイヤの低転がり抵抗性を損なうことなく、電気抵抗値を下げる効果が観られた。
【0036】
特に、実施例1では、ミニサイドの有無に関係なしに、40,000km走行後も106Ωの電気抵抗値が維持された。このことは、走行末期においても、本発明に係るゴム層による通電経路が良好に保持されていることを示している。
【0037】
一方、参考例においては、タイヤのミニサイドの有無に関係なく、10,000km走行後では若干のばらつきはあるものの、低い電気抵抗値が維持されたが、40,000km走行後ではタイヤ周上で電気抵抗値のばらつき幅が大きくなり、ある部分では1010Ωにまで上昇していた。これは、走行初期にタイヤ全周に亘り存在した通電経路が、走行末期には、ある接地部では遮断され、帯電防止用ゴム組成物の適用効果が消失していることを示している。すなわち、かかるタイヤにおいては、走行末期まで一定の低い電気抵抗値を維持することが必ずしも容易ではないことを示している。
【0038】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明の空気入りタイヤにおいては、低導電性のシリカ含有トレッドを有する低燃費性空気入りタイヤの所定の箇所に特定のゴム層適用したことにより、走行末期に至るまで帯電防止に優れた効果を奏するとともに、高い放置安定性を有する。よって、本発明の空気入りタイヤは、帯電防止タイヤとして優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】(イ)〜(ハ)は本発明の空気入りタイヤのトレッド部を模式的に示す断面図である
【図2】本発明の一例空気入りタイヤの断面図である。
【図3】帯電防止用ゴム組成物の適用箇所を示す空気入りタイヤの部分断面図である。
【図4】実施例で使用したタイヤの電気抵抗値測定装置の概略図である。
【図5】サンプルゴムの電気抵抗値Rの測定法を示す説明図である。
【符号の説明】
1 トレッドキャップ
2 ウィング(ミニサイド)
3 サイドウォール
4 ゴムチェファー
5 ゴム層
6 導電層
7 ベルト
11 タイヤ
12 鋼板
13 絶縁板
14 ハイレジスタンスメーター
Claims (6)
- 固有抵抗値が106Ω・cm以下である厚さ100μm〜1mmのゴム層が、固有抵抗値が108Ω・cm以上であるタイヤトレッドゴムの外表面から該トレッドに隣接する少なくとも1の部材の一部へ接触して周方向に連続する層を形成してなり、かつ、前記ゴム層が、ジエン系ゴム100重量部に対し、窒素吸着比表面積(N 2 SA)が130m 2 /g以上でかつジブチルフタレート吸油量(DBP)が110ml/100g以上のカーボンブラックが40〜100重量部含まれているゴム組成物からなることを特徴とする空気入りタイヤ。
- トレッド幅方向に少なくとも1の前記連続層がタイヤトレッドの外表面とトレッド下層ゴムとの間に、周方向に連続的に連なって存在する請求項1記載の空気入りタイヤ。
- 前記連続層がトレッド中央部に1箇所存在する請求項2記載の空気入りタイヤ。
- 前記連続層がトレッド中央部に対し左右一対存在する請求項2記載の空気入りタイヤ。
- 前記連続層がタイヤトレッドの外表面とウィングまたはサイドウォールゴムとの間に、周方向に連続的に連なって存在する請求項1記載の空気入りタイヤ。
- タイヤの電気抵抗値が107Ω以下となる請求項1〜5のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
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